【文献】
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【文献】
KAMIYA A. et al.,Prospero-related homeobox 1 and liver receptor homolog 1 coordinately regulate long-term proliferati,Hepatology,2008年 7月,Vol.48, No.1,pp.252-264
【文献】
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【文献】
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【文献】
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(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
サイクリン依存性キナーゼ4及びサイクリン依存性キナーゼ6からなる群より選択される少なくとも一種のタンパク質を発現させる発現ベクター及び肝細胞増殖因子(HGF)を含む、肝幹細胞を含む細胞群から肝幹細胞を単離するためのキット。
1/100000〜1/10000の割合で肝幹細胞を含む細胞群にサイクリン依存性キナーゼ4及びサイクリン依存性キナーゼ6からなる群より選択される少なくとも一種のタンパク質の遺伝子を導入する工程(A)、及び
工程(A)で得られた細胞を肝細胞増殖因子(HGF)の存在下で培養する工程(B)
を含む、
細胞周期が再活性化されたアルブミン陰性である肝幹細胞の製造方法。
(A)肝幹細胞を含む細胞群に、サイクリン依存性キナーゼ4及びサイクリン依存性キナーゼ6からなる群より選択される少なくとも一種のタンパク質の遺伝子を導入する工程;
(B)工程(A)で得られた細胞を肝細胞増殖因子(HGF)の存在下で培養する工程;
及び
(C)工程(B)で得られた肝幹細胞を分化させる工程;
を含む、分化細胞の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明の具体的な実施の形態を説明する。
【0027】
A.
上皮系体性幹細胞の製造方法
本発明の上皮系体性幹細胞の製造方法は、以下の工程(A)及び(B)を含む、上皮系体性幹細胞の製造方法である:
(A)上皮系体性幹細胞を含む細胞群において、G0期又はG1期を通過させS期へと移行させる活性を有するタンパク質の遺伝子を発現させる工程;及び
(B)工程(A)で得られた細胞を細胞外増殖因子の存在下で培養する工程。
【0028】
1.
工程(A)
工程(A)は、上皮系体性幹細胞を含む細胞群において、G0期又はG1期を通過させS期へと移行させる活性を有するタンパク質の遺伝子を発現させる工程である。
(1)上皮系体性幹細胞
上皮系体性幹細胞とは、上皮細胞を含む組織に由来する体性幹細胞をいう。上皮細胞(epithelial cell)とは、体の内外の遊離面を覆う細胞層(上皮組織(epithel又はepithelium))を構成する細胞をいう。上皮細胞には、外胚葉性上皮を構成する細胞、中胚葉性上皮を構成する細胞、及び内胚葉性上皮を構成する細胞が含まれる。上皮細胞としては、例えば、体表面を覆う表皮を構成する表皮細胞、消化管や気道などの管腔臓器の粘膜を構成する上皮を構成する狭義の上皮細胞、外分泌腺を構成する腺房細胞、及び内分泌腺を構成する腺細胞、並びに肝細胞や尿細管上皮をはじめとする、分泌や吸収機能を担う実質臓器の細胞等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
また、上皮系分化細胞とは、上皮系体性幹細胞が分化した細胞をいう。
【0030】
工程(A)において、G0期又はG1期を通過させS期へと移行させる活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が発現される上皮系体性幹細胞は、単離された上皮系体性幹細胞であってもよく、複数の上皮系体性幹細胞が集合した細胞群又は上皮系体性幹細胞と他の細胞とが集合した細胞群(以下、これらを纏めて「上皮系体性幹細胞を含む細胞群」とする)であってもよい。
【0031】
(2)
上皮系体性幹細胞を含む細胞群
原材料として用いる「上皮系体性幹細胞を含む細胞群」は、上皮系体性幹細胞を含んでおりさえすればよく特に限定されない。当該細胞群中に上皮系体性幹細胞が含まれる割合は特に制限されないが、例えば、1/100000〜1/1000の割合で上皮系体性幹細胞が存在すれば十分である。上皮系体性幹細胞を含む細胞群は、例えば、初代培養細胞、又は生体から採取した後、生体内における細胞本来の機能が維持される範囲内で継代培養を繰り返した継代培養細胞(本明細書において、「初期継代培養細胞」ということがある。)等を用いることができる。初期継代培養細胞の継代培養回数は、10回以内であれば好ましく、5回以内であればより好ましく、2回以内であればさらに好ましい。
【0032】
なお、初代培養細胞の中には、初代培養肝細胞のように継代培養ができないか、極めて困難とされる細胞もある。このような細胞であっても、一定期間内に限り細胞が培養基に接着しその細胞本来の機能を維持していることがある。このような細胞を原材料として用いる場合には、培養基に接着してその細胞本来の機能を維持している状態のものを用いることが好ましい。
【0033】
上皮系体性幹細胞を含む細胞群が由来する器官・組織は、最終的に得られる上皮系体性幹細胞又は上皮系分化細胞の使用目的に応じて決められ、特に限定されない。例えば、膵臓、肝臓、腎臓、皮膚、毛包、角膜、腸管、膀胱粘膜、口腔粘膜等を挙げることができる。肝臓由来、皮膚、腸管由来が好ましい。
【0034】
上皮系体性幹細胞を含む細胞群が由来する生物は、得られる上皮系体性幹細胞又は上皮系分化細胞の使用目的に応じて適宜選択することができ、例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ヤギ、サル、ヒト等の哺乳類が挙げられる。得られる上皮系体性幹細胞又は上皮系分化細胞をヒトの疾患(例えば、肝疾患)の研究又は治療に用いる場合は、ヒト由来であることが好ましい。
【0035】
上皮系体性幹細胞を含む細胞群として膵臓由来の細胞群を使用した場合には、本発明の製造方法により、膵臓幹細胞等を取得することができる。
【0036】
上皮系体性幹細胞を含む細胞群として肝臓由来の細胞群を使用した場合には、本発明の製造方法により、肝臓幹細胞等を取得することができる。
【0037】
上皮系体性幹細胞を含む細胞群として腎臓由来の細胞群を使用した場合には、本発明の製造方法により、腎尿細管上皮幹細胞等を取得することができる。
【0038】
上皮系体性幹細胞を含む細胞群として皮膚由来の細胞群を使用した場合には、本発明の製造方法により、表皮幹細胞等を取得することができる。
【0039】
上皮系体性幹細胞を含む細胞群として毛包由来の細胞群を使用した場合には、本発明の製造方法により、毛包幹細胞等を取得することができる。
【0040】
上皮系体性幹細胞を含む細胞群として角膜由来の細胞群を使用した場合には、本発明の製造方法により、角膜上皮幹細胞等を取得することができる。
【0041】
上皮系体性幹細胞を含む細胞群として腸管由来の細胞群を使用した場合には、本発明の製造方法により、腸上皮幹細胞等を取得することができる。
【0042】
上皮系体性幹細胞を含む細胞群としては、市販のものを使用してもよいし、生体から採取したものを使用してもよい。例えば、ヒト肝細胞を使用する場合は、XenoTech社、In Vitro Technologiesなどから販売されている市販の凍結ヒト肝細胞を細胞分離用キット等で分離し、更に遠心分離等を利用して死滅している細胞を除去したものを使用することができる。その他、生体から切除された肝臓組織を常法に従いコラゲナーゼ消化し肝細胞を分離し、死滅した細胞を除去するように調製した肝細胞群を使用することもできる。肝臓以外の器官・組織に由来する上皮系体性幹細胞についても、公知の方法に従って、同様に取得することができる。
【0043】
上皮系体性幹細胞を含む細胞群は、高いバイアビリティーを有することが好ましく、例えば、バイアビリティーは50%以上であり、より好ましくは60%以上、更に好ましくは70%以上、より更に好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上である。当該細胞のバイアビリティーは、市販される分析器を用いて測定することが可能である。また、上皮系体性幹細胞を含む細胞群は、コラーゲン等でコートしたプレートに対する接着率が高いこと(例えば、70%以上)が好ましい。
【0044】
上皮系体性幹細胞を含む細胞群のバイアビリティーは、公知の方法に従って測定することが可能であり、例えば、トリパンブルー色素を用いて上皮系体性幹細胞を含む細胞群を処理し、青く染色された死細胞の割合を顕微鏡等を用いて測定することによって求めることができる。
【0045】
(2)
G0期又はG1期を通過させS期へと移行させる活性を有するタンパク質
細胞に遺伝子として導入する「G0期又はG1期を通過させS期へと移行させる活性を有するタンパク質」(本明細書において、「細胞周期再活性化タンパク質」ということがある。)は、G0期又はG1期を通過させS期へと移行させる活性を有していればよく、限定されない。
【0046】
「G0期又はG1期を通過させS期へと移行させる」とは、(1)細胞周期から逸脱(脱出)することによりG0期にあり休止状態となっている細胞に対して働きかけ、S期へと移行させることにより再び細胞周期へと進入させること、又は(2)G1期にある細胞に対して働きかけ、その細胞周期をG1期からS期へと移行させることをいう。
【0047】
「G0期又はG1期を通過させS期へと移行させる活性」の有無は、以下の方法によって確認することができる。
【0048】
[
G0期又はG1期を通過させS期へと移行させる活性の確認方法]
S期(DNA合成期)への移行の確認は、thymidineのアナログである5−Bromo−2−deoxyuridine(BrdU)の細胞への取り込み活性を調べることで判断できる。すなわち、細胞培養培地にBrdUを入れ、その後、蛍光標識した抗BrdU抗体で反応させて細胞表面を免疫染色するなどし、フローサイトメーターなどを使って解析する。
【0049】
細胞周期再活性化タンパク質としては、例えば、Rbタンパク質のリン酸化を促進する作用を有するものを用いることができる。例えば、サイクリン依存性キナーゼ及びサイクリン等が挙げられる。サイクリン依存性キナーゼとしては、例えば、CDK1、CDK2、CDK3、CDK4、CDK6及びCDK7が挙げられる。サイクリンとしては、例えば、サイクリンDが挙げられる。これらの中でもCDK4及びCDK6が好ましく、CDK4がより好ましい。
【0050】
細胞周期再活性化タンパク質の遺伝子は、単独又は複数種を組み合わせて発現させることができる。
【0051】
細胞周期再活性化タンパク質の遺伝子の由来は、本発明の効果が奏される限り特に限定されない。工程(A)で用いる上皮系体性幹細胞を含む細胞群が由来する動物種と同一種であってもよいし、異なる動物種であってもよい。同一種であれば好ましい。
【0052】
細胞周期再活性化タンパク質遺伝子を発現させる手段は、細胞周期再活性化タンパク質を発現させることができればよく、限定されない。例えば、一過性発現(transient expression)させてもよいし、安定発現(stable expression)させてもよい。一過性発現とは、遺伝子をDNAトランスフェクション法等により細胞に導入し、一過性に発現させることをいう。一過性とは通常、数時間から数日以内の期間をいう。これに対して安定発現とは、発現させようとする遺伝子が安定に染色体中に組み込まれた状態で発現することをいう。本発明の方法によって製造される上皮系体性幹細胞及び上皮系分化細胞が、生体内の上皮系体性幹細胞又は上皮系分化細胞と同一又は可能な限り類似する構造及び性質を有するという観点からは、当該細胞周期再活性化タンパク質の遺伝子は、一過性に発現されることが好ましい。
【0053】
一過性発現は、特に限定されないが、例えば、発現プロモーターの下流に目的の遺伝子を持つ発現ベクターを細胞に導入し、この発現ベクターから当該遺伝子を発現させること等によって行うことができる。この場合、発現プロモーターとしては、例えば、CMVプロモーター、SV40プロモーター等を用いることができるが、これらに限定されない。また、発現ベクターとしては、例えば、非ウイルスベクターとしてプラスミドベクターやリポソーム等、ウイルスベクターとしてアデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター等を用いることができるが、これらに限定されない。製造する細胞を医薬の目的で使用する場合の安全性や導入する遺伝子をより確実に一過性発現とするという観点から、非ウイルスベクターを用いることが好ましく、中でも宿主細胞中での複製開始点を含まない非ウイルスベクターが好ましい。より確実に一過性発現を実施するために、導入した細胞が染色体に取り込まれていないことを確認する工程を加えることも可能である。このような観点から使用可能なプラスミドベクターとしては、例えばpcDNA、pSVL等を挙げることができる。細胞への発現ベクターの導入方法としては、例えば、リポフェクション法、エレクトロポレーション法、ウイルスベクターに遺伝子を組み込み感染させる方法等を用いることができるが、これらに限定されない。
【0054】
安定発現は、特に限定されないが、例えば、次の方法等によって行うことができる。発現プロモーターの下流に目的の遺伝子と優性選択マーカーを持つ発現ベクターを細胞に導入し、目的の遺伝子が染色体に組み込まれた株を樹立する。この樹立された株では安定発現が行われている。この場合、発現プロモーターとしては、例えば、CMVプロモーター、SV40プロモーター等を用いることができるが、これらに限定されない。優性選択マーカーとしては、例えば、各種の薬剤耐性遺伝子等を用いることができるが、これらに限定されない。優性選択マーカーとして薬剤耐性遺伝子を用いた場合は、耐性を示す薬剤の存在下で細胞培養を継続して行うことにより、当該薬剤耐性遺伝子を安定発現している細胞株のみを選別することができる。通常、そのような細胞株においては同様に目的の遺伝子も安定発現していると考えられる。なお、実際に目的の遺伝子が安定発現しているか否かについては、染色体の塩基配列をDNAシークエンス等によって解析すること等によって明らかにすることができる。また、細胞への発現ベクターの導入方法としては、例えば、リポフェクション法、エレクトロポレーション法等を用いることができるが、これらに限定されない。また、ウイルスベクターを用いる場合は、ウイルスベクターに遺伝子を組み込み感染させる方法も用いることができる。
【0055】
なお、初代培養細胞に対して遺伝子導入を行う場合は、細胞毒性が比較的弱いとされるトランスフェクション試薬を用いることが好ましい。トランスフェクション効率を向上させるため、例えば、良好な状態にある細胞に対してトランスフェクションを行うことが好ましい。ヒト肝細胞の場合は、培養プレート上に播種した後、2〜3日以内であれば細胞の状態が比較的良好である。
【0056】
工程(A)を行う以前に、上皮系体性幹細胞を含む細胞群を、細胞の本来的機能を維持できる培地中であらかじめ培養しておくことができる。例えば、上皮系体性幹細胞を含む細胞群として肝細胞群を使用する場合は、肝細胞の特性に合わせた市販の専用培地(Human Hepatocyte Serum Free Medium、東洋紡)などが好適に使用出来る。凍結ヒト肝細胞を融解後、プレートに播種する際には接着を促すために5−10%程度のウシ胎児血清を添加するのが望ましい。
【0057】
培養温度等その他の培養条件は、各上皮系体性幹細胞の培養に適した条件で行うことができる。
工程(A)は、目的の上皮系体性幹細胞の増殖をサポートする培地で培養しながら行うことが好ましい。例えば、通常の哺乳類細胞培養に用いられるDMEM(Doulbecco’s modified Eagle’s Medium)培地(ギブコ社製)などを基礎培地とし、これにウシ胎児血清、ヒト血清などを添加した培地を好適に用いることができる。
【0058】
工程(A)を行う際に使用する培地には、さらに、細胞外増殖因子を添加してもよい。細胞外増殖因子とは、目的の上皮系体性幹細胞の増殖を外的にサポートする作用を有する物質であり、そのような作用を有しているものであればよく、特に限定されない。細胞外増殖因子としては、例えば、細胞増殖因子、細胞増殖を刺激するホルモン類等を挙げることができる。細胞増殖因子としては、例えば、上皮成長因子(Epidermal Growth Factor;EGF)、肝細胞増殖因子(Hepatocyte Growth Factor;HGF)、血管内皮細胞増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor;VEGF)及び繊維芽細胞増殖因子(Fibroblast Growth Factor;FGF)等を挙げることができる。中でもEGF及びHGFが好適である。ホルモン類としては、例えばインスリン等を好適に用いることができる。これらを単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。例えば、EGF及びHGFからなる群より選択される少なくとも1種の細胞増殖因子に、VEGF及びFGFからなる群より選択される少なくとも1種の細胞増殖因子をさらに組み合わせて用いることにより、相加的あるいは相乗的に増殖を向上させることができる。目的の上皮系体性幹細胞が肝幹細胞である場合には、肝細胞増殖因子(Hepatocyte Growth Factor;HGF)を好ましく使用できる。
【0059】
細胞外増殖因子の培地中における添加濃度は特に限定されないが、例えば0.1〜200ng/mlであれば好ましく、1.0〜100ng/mlであればより好ましく、5〜50ng/mlであればさらに好ましい。
【0060】
上皮系体性幹細胞には、細胞周期再活性化タンパク質をコードするDNA以外にも、上皮系体性幹細胞の増殖能と多分化能とを阻害しない限り、他の遺伝子を導入し発現させることができる。しかしながら、下記の工程(B)によって増殖された上皮系体性幹細胞が、生体内の上皮性体性幹細胞と同一又はそれと限りなく類似する構造上及び性質上の特性を有するという観点からは、細胞周期活性化タンパク質(例えば、サイクリン依存性キナーゼ)のDNA以外に外因性のDNAを実質的に含んでないことが好ましい。同様の観点から、例えば、上皮系体性幹細胞に導入される細胞の周期の調節に係る遺伝子は、細胞周期活性化タンパク質(例えば、サイクリン依存性キナーゼ、特にCDK4又はCDK6)の遺伝子のみであることが好ましい。一実施形態において、本発明によって増殖される上皮系体性幹細胞は、ヒトテロメラーゼ逆転者酵素をコードする遺伝子を含まないことが好ましい。
【0061】
2.
工程(B)
工程(B)は、工程(A)で得られた細胞を細胞外増殖因子の存在下で培養する工程である。
【0062】
工程(B)により、上皮系体性幹細胞を含む細胞群の中から上皮系体性幹細胞が次の通り優勢的に増殖する。上皮系体性幹細胞では、まず、工程(A)で外部から導入された細胞周期再活性化タンパク質の働きによって、細胞周期がG0期又はG1期からS期へと移行し、さらにM期(分裂期)、続いて再びG1期へと進む。同時に、培地中に存在する細胞外増殖因子の働きにより、細胞周期再活性化タンパク質の働きが活性化される。その結果、上皮系体性幹細胞は増殖を続ける。一方、上皮系体性幹細胞とは異なる細胞においては、細胞周期再活性化タンパク質の働きによる上記のような増殖活性化は起こらないか、または増殖が一時的なものに止まり継続しない。この結果、上皮系体性幹細胞を含む細胞群の中から上皮系体性幹細胞が優勢的に増殖する。
【0063】
工程(B)では、工程(A)で細胞周期再活性化タンパク質の遺伝子を発現させた細胞を、細胞外増殖因子の存在下で培養する。工程(A)で使用した培地が当初から適切な細胞外増殖因子を含んでいる場合は、細胞周期再活性化タンパク質の遺伝子を発現させた細胞を、培地を交換せずにそのまま培養してもよい。また、培地を交換せずにさらに当該細胞外増殖因子を培地中に添加してもよい。当該細胞外増殖因子を含む培地に交換してもよいし、当該細胞外増殖因子を含まない培地に交換した後に、当該細胞外増殖因子を当該培地に添加してもよい。
【0064】
細胞外増殖因子としては、工程(A)で説明した細胞外増殖因子(例えば、EGF、HGF、VEGF、FGF等)を用いることができる。目的の上皮系体性幹細胞が肝幹細胞である場合には、肝細胞増殖因子(Hepatocyte Growth Factor;HGF)を好ましく使用できる。
【0065】
細胞外増殖因子の培地中における添加濃度は特に限定されないが、例えば0.1〜200ng/mlであれば好ましく、1.0〜100ng/mlであればより好ましく、5〜50ng/mlであればさらに好ましい。
【0066】
工程(B)において新たな培地を用いる場合は、通常の哺乳類細胞培養に用いられるDMEM(Doulbecco’s modified Eagle’s Medium)培地(ギブコ社製)などを基礎培地とし、目的の上皮系体性幹細胞の増殖をサポートする成分をさらに添加したもの等を用いることができる。
【0067】
工程(B)においては、適当な間隔で培地を交換してもよい。特に制限されないが、2又は3日に一度の頻度で培地交換を行ってもよい。同じ濃度の細胞外増殖因子を含む培地へと交換してもよいし、異なる濃度の細胞外増殖因子を含む培地へと交換してもよい。同じ細胞外増殖因子を含む培地へと交換してもよいし、異なる細胞外増殖因子を含む培地へと交換してもよい。
【0068】
培養温度等その他の培養条件は、培養する上皮系体性幹細胞の種類に応じて公知の方法に従って適宜設定することができる。
【0069】
工程(A)及び工程(B)はそれぞれ一回ずつ行ってもよいし、これらを1セットとしてそれを複数回繰り返し行ってもよい。複数回行う場合、好ましくは2〜10回、より好ましくは3〜8回、さらに好ましくは3〜5回行うことができる。このように工程(A)及び(B)を繰り返すことは、細胞周期再活性化タンパク質をコードする遺伝子を一過性に発現させる場合に好ましい。これは、一過性の発現は、トランスフェクション後約3日が発現のピークであるところ、上皮系体性幹細胞を増殖性の状態にシフトさせるためには、一定期間の継続した当該遺伝子の発現が好ましいと考えられるためである。
【0070】
工程(A)及び工程(B)はこの順に連続して行うこともできるし、工程(A)の後にその他の工程を実施し、その後に工程(B)を実施してもよい。工程(B)又は工程(A)と(B)の繰り返しは、必要な量の上皮系体性幹細胞が得られるまで続けることができる。例えば、後述する実施例2及び実施例8に示されるように、20〜60日程度、工程(A)と(B)とを繰り返しながら継続することが好ましい。
【0071】
工程(B)を一度だけ行う場合は、例えば、上皮系体性幹細胞によるコロニー形成が十分に行われるまで工程(B)を続ければ、上皮系体性幹細胞群を容易に採取することができるため好ましい。工程(B)の終了時点は、好ましくは顕微鏡若しくは肉眼で上皮系体性幹細胞のコロニーが確認できる時点、又は10〜10000個の細胞群からなる上皮系体性幹細胞のコロニーが形成される時点であり、より好ましくは、100〜1000個の細胞群からなる上皮系体性幹細胞のコロニーが形成される時点である。上皮系体性幹細胞を含む細胞群に当初含まれていた、上皮系体性幹細胞とは異なる細胞は、遅くとも工程(B)の終了時点までには細胞分裂寿命のため細胞分裂は停止し、その多くは脱落するか、あるいは残存していても当初とは大きく形態が変化している。このため、コロニーを形成している上皮系体性幹細胞とは容易に区別可能であり、純度の高い上皮系体性幹細胞群を取得することができる。
【0072】
工程(A)及び工程(B)を繰り返し行う場合は、例えば、上皮系体性幹細胞によるコロニー形成が十分に行われるまで工程(A)及び工程(B)を繰り返せば、上皮系体性幹細胞群を容易に採取することができるため好ましい。工程(A)及び工程(B)を繰り返す回数は、好ましくは顕微鏡若しくは肉眼で上皮系体性幹細胞のコロニーが確認できる時点、又は10〜10000個の細胞群からなる上皮系体性幹細胞のコロニーが形成されるまでであり、より好ましくは、100〜1000個個の細胞群からなる上皮系体性幹細胞のコロニーが形成されるまでである。コロニーは、工程(B)の開始から通常数週間〜1ヶ月程度で形成される。上皮系体性幹細胞を含む細胞群に当初含まれていた、上皮系体性幹細胞とは異なる細胞は、遅くとも最後の回の工程(B)の終了時点までには細胞分裂寿命のため細胞分裂は停止し、その多くは脱落するか、あるいは残存していても当初とは大きく形態が変化している。このため、コロニーを形成している上皮系体性幹細胞とは容易に区別可能であり、純度の高い上皮系体性幹細胞群を取得することができる。また、この場合、各回の工程(B)は、細胞が増殖し続けている限り継続することができる。ただし、増殖している途中に終了させることもできる。
【0073】
先述の通り工程(B)により、上皮系体性幹細胞を含む細胞群の中から上皮系体性幹細胞は良好な増殖性を維持するためやがてコロニーを形成する。その他の細胞は工程(B)の終了時点には細胞分裂寿命のため細胞分裂は停止し、その多くは脱落するか、あるいは残存していても当初とは大きく形態が変化している。したがって、コロニーを形成している上皮系体性幹細胞とは容易に区別可能であり、このコロニーを回収することによって、上皮系体性幹細胞集団をクローンとして分離できる。
【0074】
3.
その他
工程(B)の後に、コロニーを回収する工程を行うことによって、上皮系体性幹細胞を取得できる。コロニーの回収は、従来公知の方法によって行うことができる。限定されないが、例えば限界希釈法や顕微鏡観察下においてマイクロピペットを使用する方法等によって行うことができる。
【0075】
例えば、上皮系体性幹細胞を含む細胞群として肝細胞集団を用いる場合、これらはほとんどが肝実質細胞であるが、非実質細胞と呼ばれる類洞内皮細胞、星細胞、クッパー細胞なども存在する。本発明の方法では、このような雑多な細胞集団の中から極少数しか存在しない肝幹細胞を効率よく取得できる。
【0076】
本発明の製造方法により、好ましくは上皮系体性幹細胞を細胞数換算で50%以上含む上皮系体性幹細胞群、より好ましくは上皮系体性幹細胞を80%以上含む上皮系体性幹細胞群を製造することができる。本発明の製造方法により、さらに好ましくは実質的に上皮系体性幹細胞のみから構成されてなる上皮系体性幹細胞群、よりさらに好ましくは単離された上皮系体性幹細胞群を製造することができる。
【0077】
本発明において上皮系体性幹細胞の判定は、特に限定されないが、例えば目的の細胞へと分化するか否かを調べることによって行うことができる。 また、本発明において上皮系体性幹細胞の判定は、細胞表面マーカーの有無を確認すること等によっても行うことができる。限定されないが、ヒト肝細胞の場合、例えば、次のような方法で判定できる。
【0078】
肝臓組織を含む細胞群から得られた細胞が、AFP陽性、アルブミン陰性、C−Met陽性、EpCam陽性、Dlk陽性、Thy1陽性、CK19陽性、かつCD34陰性であれば、これを肝幹細胞であると判定することができる。
【0079】
肝臓組織を含む細胞群から得られた細胞が、AFP陰性、アルブミン陰性、C−Met陽性、EpCam陽性、Dlk陽性、Thy1陽性、CK19陽性、かつCD34陰性であっても、これを肝幹細胞であると判定することができる。
【0080】
肝幹細胞から肝細胞への分化についてはマーカーとなる遺伝子の発現、例えばアルブミンおよび/またはCYP(薬物代謝酵素)などが陽性へ転じることで分化したと判断できる。
【0081】
また、表皮組織を含む細胞群から得られた細胞が、β1インテグリン陽性およびDsg3陰性であれば、これを表皮幹細胞であると判定することができる。
【0082】
腸上皮組織を含む細胞群から得られた細胞が、Lgr5陽性、βカテニン陽性、musashi−1陽性、c−kit陰性、Sca−1陰性であれば、これを腸上皮幹細胞であると判定することができる。
【0083】
本発明の方法により得られる上皮系体性幹細胞は、生体内の上皮系体性幹細胞と同等の性質を持つため、上皮系分化細胞の高純度集団を安定的に供給するために利用することができる。こうして得られる上皮系分化細胞は、最終的に細胞製剤等の臨床応用、又は新薬開発若しくは疾患研究等の様々な研究開発において活用することができる。
【0084】
B.
上皮系分化細胞の製造方法
上皮系分化細胞の製造方法は、上述した本発明の製造方法により製造された上皮系体性幹細胞を分化させる工程を含む方法である。
【0085】
分化させる工程とは、分化に適した培地で上皮系体性幹細胞を培養することであり、分化に適切な培地及びその他の培養条件は、上皮系体性幹細胞の種類及び目的とする分化細胞の種類に応じて公知の条件から適宜選択して設定することができる。例えば、上皮系体性幹細胞として肝幹細胞を使用し、それを肝細胞(肝実質細胞)へ分化させる場合は、無血清(血清濃度0〜2%)且つ細胞外増殖因子を含まない(例えば、EGFの濃度は0〜5ng/ml)培地で、肝幹細胞を培養することができる。より具体的な培養条件は、当業者であれば、上述する実施例に従って、適宜設定することが可能である。
【0086】
目的の分化細胞へ分化させるための培地組成や培養条件は上記に例示したものに限定されないが、血清(例えば、ヒト血清及びウシ血清)が実質的に存在しない条件下で培養することが好ましい。これは、血清の存在によって上皮体性幹細胞の分化が抑制されるためである。また、分化細胞を細胞移植や医薬として用いる場合の安全性の観点からも血清の存在しない条件下で分化を誘導することが好ましい。血清が実質的に存在しないとは、培地中の容量濃度が2%以下、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下、更に好ましくは全く存在しないことを意味する。
【0087】
また、上皮系体性幹細胞を分化させるため場合、特定の細胞増殖因子が実質的に存在しない条件下で実施することが好ましい。これは、特定の細胞増殖因子の存在により、上皮系体性幹細胞の分化が抑制されるためである。より具体的には、上皮系体性幹細胞として肝幹細胞を分化させる場合、上皮成長因子(EGF)及び/又は肝臓細胞増殖因子(LCG)が実質的に存在しない条件下で培養することが好ましく、より好ましくはEGFとLCGの両方が実質的に存在しない条件下で培養することが好ましい。EGFは、例えば、5ng/ml以下であることが好ましく、より好ましくは全く存在しない。
【0088】
上皮系体性幹細胞を分化させるための培養は、2次元培養でも3次元培養でも良いが、より速く分化を誘導するという観点からは、3次元培養が好ましい。3次元培養とは、文字通り立体的に細胞を培養することであり、3次元培養をするための種々の基材が既に知られている。例えば、コラーゲンゲルや透過性メンブレンを利用することが可能である。
中空糸内培養等における培養時間は、例えば3〜60日が挙げられるが、特に限定されない。好ましくは5〜14日である。
【0089】
上皮系体性幹細胞を分化させる場合、分化に適した培地での培養を実施するに先立って、上皮系体性幹細胞を活性化するために、活性化物質の存在下で予め一定期間培養(プライミング培養)することが好ましい。プライミング培養は分化段階を一段階進める作業であり、この操作を行うことにより、その後の分化に必要な培養期間を短縮することが可能である。プライミング培養には、例えばBMPやFGFが有効である。先述の通り、これらの上皮系分化細胞は、最終的に細胞製剤等の臨床応用、又は新薬開発若しくは疾患研究等の様々な研究開発において活用することができる。
【0090】
上皮系分化細胞の活用例としては、例えば、次のような具体例を挙げることができる。肝臓に疾患を持つ患者から正常な肝臓組織を一部採取し、この組織より調製された肝細胞集団を「上皮系体性幹細胞を含む細胞群」として本発明を適用する。その結果、肝幹細胞を取得できる。この肝幹細胞を増殖させた後、再び門脈内注入などにより患者の肝臓に移植することによって、免疫拒絶を回避した移植治療を行うことができる。あるいは、取得した肝幹細胞を増殖させ、さらに正常肝細胞に分化させた後、患者の肝臓に移植することもできる。
【0091】
C.
医薬組成物
上述の上皮系体性幹細胞又はそれらから得られる上皮系分化細胞を有効成分とすることにより、医薬組成物(細胞製剤)を製造することができる。本発明の細胞製剤は、複数種の上皮系体性幹細胞又は複数種の上皮系分化細胞を含んでいてもよい。また、上皮系体性幹細胞及び上皮系分化細胞の両方を含んでいてもよい。
【0092】
本発明の医薬組成物の治療有効量を患者に投与することにより、疾患を治療することができる。治療対象となる疾患は特に制限されないが、例えば、癌、心血管疾患、代謝疾患、肝疾患、糖尿病、肝炎、血友病、変性または外傷性神経疾患、自己免疫疾患、遺伝的欠陥、結合組織疾患、貧血、感染症及び移植拒絶を挙げることができる。
【0093】
本発明の医薬組成物は、カテーテル投与、全身注射、非経口投与、または胚への子宮内注射を含む局所注射を介して投与される。投与は医薬として許容される基材と共に行うことができ、基材は生分解性基材であってもよい。
【0094】
本発明の細胞製剤は、外因性の遺伝子が導入されたものでもよい。本発明の方法で製造される上皮系体性幹細胞又は上皮系分化細胞への外因性遺伝子の導入は、当該技術分野に公知の方法を用いて行うことができる。導入される外因性遺伝子は、細胞製剤の使用目的(例えば、遺伝子治療)に応じて適宜選択することができ、例えば、薬物代謝酵素をコードする遺伝子を挙げることができる。
【0095】
本発明の細胞製剤の投与形態は、適用対象患部等に応じて適宜設定される。例えば、静脈内注射、動脈内注射、門脈内注射、皮内注射、皮下注射、粘膜下注射又は腹腔内注射等が挙げられる。この他にも、例えば培養によりシート状にした細胞を適用対象患部に対して貼付することによって投与する方法も挙げることができる。あるいは生体適合性を持ついわゆる足場(scaffold)を用いて細胞を3次元的に培養し構築した組織様のものを患部組織に貼付、あるいは移植することができる。
【0096】
本発明の細胞製剤の剤型は、投与形態等に応じて適宜設定される。例えば、液体中に細胞を懸濁させてなる液剤、ゲル中に細胞を懸濁させてなるゲル剤、細胞シート、組織様の細胞凝集体等が挙げられる。
【0097】
本発明の細胞製剤の投与量及び投与頻度は、投与形態及び剤型の他、被投与者の状態、細胞の活性の程度等に応じて適宜設定される。一回あたりの投与量は治療有効量であればよい。また、本発明の細胞製剤は、例えば、1日当たり1回の頻度で若しくは2又は3回程度に分割して投与してもよく、また、2日〜1週間分の投与量を一度にまとめて投与してもよい。
【0098】
本発明の細胞製剤における上皮系体性幹細胞又は上皮系分化細胞の含有割合は、投与形態、剤型、投与量、及び投与頻度等に応じて決められる。
【0099】
本発明の細胞製剤は、有効成分(上皮系体性幹細胞又は上皮系分化細胞)に加えて必要に応じてさらに他の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては例えば、剤型に応じて製剤化のために必要となる製剤成分、保存安定のために必要となる保存安定成分、及びその他の薬効成分等が挙げられる。その他の薬効成分としては、例えば、抗炎症剤、抗菌剤、免疫抑制剤、細胞成長因子、ホルモン等が挙げられる。
【0100】
C.
上皮系体性幹細胞を単離するキット
本発明の上皮系体性幹細胞を単離するキットは、細胞周期再活性化タンパク質を発現させる発現ベクター及び細胞外増殖因子を含む、上皮系体性幹細胞を含む細胞群から上皮系体性幹細胞を単離するキットである。
【0101】
上皮系体性幹細胞、細胞外増殖因子、細胞周期再活性化タンパク質、及び発現については、A.で説明したのと同様である。
【0102】
発現ベクターは、A.で説明したものを使用できる。
【0103】
当該キットは、その他に、A.で説明した適当な細胞外増殖因子を含んでいてもよい。
【0104】
D.
細胞周期が再活性化された上皮系体性幹細胞の製造方法
本発明の細胞周期が再活性化された上皮系体性幹細胞の製造方法は、細胞周期再活性化タンパク質の遺伝子を、静止期にある上皮系体性幹細胞において発現させる工程を含む、細胞周期が再活性化された上皮系体性幹細胞の製造方法である。
【0105】
上皮系体性幹細胞、細胞周期再活性化タンパク質、及び発現については、A.で説明したのと同様である。
【0106】
「静止期にある上皮系体性幹細胞」とは、(i)細胞周期から逸脱(脱出)することによりG1期からG0期に移行しており休止状態にある上皮系体性幹細胞、及び(ii)G1期にある上皮系体性幹細胞のことをいう。
【0107】
「細胞周期が再活性化された上皮系体性幹細胞」とは、(i)細胞周期から逸脱(脱出)することによりG1期からG0期に移行した休止状態、又は(ii)G1期にある状態から、S期へと移行することにより再び細胞周期に進入した状態の上皮系体性幹細胞のことをいう。細胞周期が再活性化された状態にあるか否かは、例えば、BrdUや標識チミジンの細胞核内への取り込みやRBタンパク質のリン酸化を測定することによって評価することができる。
【0108】
以下、実施例及び試験例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0109】
実施例1.cdk遺伝子導入による肝細胞集団の増殖
(1)
初代ヒト肝細胞の培養
凍結初代ヒト肝細胞(XenoTech社)を融解後、Hepatocyte Isolation Kit(XenoTech社)を用いてFicoll分離を行い、生細胞と死細胞を分離することにより高いバイアビリティーの肝細胞懸濁液を得た。この細胞を10%の割合でウシ胎児血清を添加したHuman Hepatocyte Serum Free Medium(東洋紡)に浮遊し、コラーゲンコートした24ウェル細胞培養プレート(AGCテクノグラス)に1.1×10
5個/ウェルの細胞密度で播種した。播種した細胞を37℃、5%CO
2の条件下、インキュベーター内で一昼夜培養し肝細胞をプレートに充分接着させた。
【0110】
(2)
トランスフェクション
ヒト肝細胞を播種した翌日に、以下の培地および導入遺伝子の条件でトランスフェクションを実施した。トランスフェクションには、市販のタンパク質発現用プラスミドpcDNA3(Invitrogen)を使用し、そのEcoR IとXba Iの間のクローニングサイトにヒトCDK4をコードするDNAを挿入した。ヒトCDK4をコードするDNAは、NCBI(National Center for Biotechnology Information)に登録された塩基配列(アクセッション番号:CAG47043)を基にプライマーを設計し、HuS−E/2細胞(ヒト肝細胞由来の細胞で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託されている:FERM ABP−10908)から精製したtotal RNAを鋳型としてRT−PCRを行って得た。上記のプライマーには、配列番号1に示される塩基配列から成るフォワードプライマーと配列番号2に示される塩基配列から成るリバースプライマーを用いた。配列番号1の塩基配列にはFlag Tagに相当する配列が含まれる。
【0111】
このようにして取得したヒトCDK4をコードするDNAのOpen Reading FrameのN末端側にFLAG tagが導入されたプラスミド(pcDNA−FLAG−CDK4)を1ウェルあたり0.2μgとなるようEffectene transfection reagent(Qiagen)と共に添加し、肝細胞内に遺伝子を導入した。
【0112】
トランスフェクションは以下の4条件で行い、3〜5日間に一度の頻度で計3回繰り返し実施した。
【0113】
第1群:5%ウシ胎児血清、5%ヒト血清を含むDMEMベースの培地に20ng/mlの肝細胞増殖因子(HGF)(human HGF、東洋紡、Code:HGF−101、CHO細胞組換え体)を添加した培地。導入遺伝子はCDK4(pcDNA−cdk4)。
第2群:第1群と同じ培地。導入遺伝子はプラスミドのみ(pcDNA)。
第3群:5%ウシ胎児血清、5%ヒト血清含むDMEMベースの培地。導入遺伝子はCDK4(pcDNA−cdk4)。
第4群:第3群と同じ培地。導入遺伝子はプラスミドのみ(pcDNA)。
図1において、第1群は「CDK4+HGF」と示し、第2群は「pcDNA3+HGF」と示し、第3群は「CDK4」と示し、第4群は「pcDNA3」と示す。
【0114】
(3)
細胞数測定
トランスフェクション終了後、1、4および10日目に各条件の細胞数を測定した(各条件、各ポイントにつきそれぞれ3ウェルづつ測定)。細胞数の測定は、XTT細胞増殖アッセイキット(コスモバイオ)を用いて実施した。
【0115】
この結果、
図1に示すように、CDK4遺伝子を導入し、かつ培地にHGFを添加した第1群においてのみ細胞の有意な増殖が認められ、3個のコロニーが観察された。第2〜4群で見られた若干の細胞数の増加は、線維芽細胞等が増加したものと思われる。肝細胞は、in vitroではほとんど増殖しないことが知られている。しかし、本発明の方法により、肝細胞の増殖が可能であることが確認された。これは、増殖した細胞集団の細胞周期が変化したことを示唆する。
【0116】
実施例2.ヒト肝幹細胞の取得[1]
(1)
初代ヒト肝細胞の培養
凍結初代ヒト肝細胞(XenoTech社)を融解後、Hepatocyte Isolation Kit(XenoTech社)を用いてFicoll分離を行い、生細胞と死細胞を分離することにより高いバイアビリティーの肝細胞懸濁液を得た。この細胞を10%の割合でウシ胎児血清を添加したHuman Hepatocyte Serum Free Medium(東洋紡)に浮遊し、コラーゲンコートした12ウェル細胞培養プレート(AGCテクノグラス)に5×10
5個/ウェルの細胞密度で播種した。播種した細胞を37℃、5%CO
2の条件下、インキュベーター内で2日間培養し、肝細胞をプレートに充分接着させた。
【0117】
(2)
トランスフェクション
ヒト肝細胞を播種して3日目に、培地を5%ウシ胎児血清、5%ヒト血清および10ng/mlHGFを含むDMEMベースの培地に交換した。トランスフェクションには市販のタンパク質発現用プラスミドpcDNA3(Invitrogen)を使用し、そのEcoR IとXba Iの間のクローニングサイトにヒトCDK4遺伝子を、又はそのHind IIIとBamHIの間のクローニングサイトにCDK6遺伝子を挿入した。ヒトCDK4遺伝子及びCDK6遺伝子は、NCBI(National Center for Biotechnology Information)に登録された塩基配列(CDK6遺伝子のアクセッション番号はNP_001138778)を基にプライマーを設計し、HuS−E/2細胞から精製したtotal RNAを鋳型としてRT−PCRを行って得た。CDK4をコードするDNAを取得するためのプライマーは、実施例1で使用したものと同一である。CDK6をコードするDNAを取得するためのプライマーには、配列番号3に示す塩基配列から成るフォワードプライマーと配列番号4に示す塩基配列から成るリバースプライマーを使用した。このフォワードプライマーには、HindIIIサイトとFlag Tagに相当する配列が含まれる。
【0118】
このようにして取得したCDK4又はCDK6をコードするDNAのOpen Reading FrameのN末端側にFLAG tagが導入されたプラスミド(pcDNA−FLAG−CDK4又はpcDNA−FLAG−CDK6)を1ウェルあたり0.3μgとなるようEffectene transfection reagent(Quiagen)とともに培地に添加し、肝細胞群にCDK4又はCDK6の遺伝子を導入した。その後、5日に1度の頻度でトランスフェクションを計5回繰り返し実施した。ネガティブコントロールとして、別のウェルにおいて、同様の操作によりCDK遺伝子を含まないプラスミドで肝細胞をトランスフェクションした。
【0119】
(3)
細胞クローンの分離
培養35日目には、ネガティブコントロールのトランスフェクションした細胞はすべて脱落して無くなった。この時点でpcDNA−FLAG−CDK4トランスフェクション細胞から数個のコロニー形成が見られた。同様にpcDNA−FLAG−CDK6でトランスフェクションした細胞からも数個のコロニー形成が見られた。これらのコロニーを限界希釈法にてクローニングを実施し、クローン細胞を得た。これら一連の操作により得られたクローンは、HYM細胞と命名した。HYM細胞は樹立後1年以上継続した増殖が認められ、自己複製能力を有していることが確認された。
【0120】
(4)
分化マーカー発現
得られたHYM細胞の各クローンについて肝細胞関連の分化マーカーを中心に調べた。即ち、アルブミン、AFP、CD34、Thy−1(CD90)、c−Met、EpCam、Dlk、c−kit、CK19について細胞を回収し抽出したtotal RNAを用いてRT−PCRを実施しmRNAの発現を調べた。その結果を
図2に示す。
【0121】
これらの細胞は、アルブミン陰性、c−Met陽性、EpCam陽性、Dlk陽性、Thy1陽性、かつCD34陰性という共通の細胞表面マーカー特性を示した。また、ごく弱い陽性(+/−)も合わせるとほとんどのものがCK19陽性であった。このように、全てのHYM細胞株は、肝幹細胞に特有の細胞表面マーカーを提示しているため、それらは全て未分化の肝幹細胞であることが分かった。以上の結果から、本発明の方法により、未分化の状態で自己複製(即ち、増殖)可能な単離された状態の肝幹細胞を取得できることが明らかになった。
【0122】
実施例3.肝細胞への分化誘導−1
HYM細胞(肝幹細胞のクローン)を0.5%ヒト血清および0.5%ウシ胎児血清を含む培地を使ってコラーゲンコートした12ウェルプレートにて培養し、サブコンフルエントにまで増殖した時点で血清を含まない培地(ヒト肝細胞無血清培地、東洋紡、Code:TMHHM−001)に換えて培養を継続することで分化を誘導した。無血清培地に換えてからは、2ないし3日に一度の頻度で培地交換を行い、2ヶ月間培養を継続した。1ヶ月目および2ヶ月目に肝細胞機能のアルブミン産生、薬物代謝酵素のmRNA発現を調べた。この結果、CYP2E1以外の薬剤代謝酵素マーカー及びアルブミンについて、mRNA発現量が増大する傾向が見られた(
図3)。この結果は、肝幹細胞が肝細胞へと分化していることを示しており、樹立されたHYM細胞が分化能を有することを示す。
【0123】
実施例4.肝細胞への分化誘導−2(2次元培養と3次元培養の比較)
本実施例の実験手順を
図4に示す。Hepatocyte basal medium(Lonza社)にFGF4(30ng/ml)およびBMP2(20ng/ml)を加えた培地で、実施例2において取得されたHYM細胞を5日間培養した(プライミング培養)。この後、細胞を一旦回収し一部の細胞をコラーゲンコートした12ウェルプレートに播種し、ヒト肝細胞無血清培地(東洋紡、Code:TMHHM−001)を用いて培養した(2次元培養)。FGF4及びBMP2は、PEPROTECH社から入手した。
同様に、プライミング培養開始から5日後に回収した細胞の別の一部をMebiol Gel((株)池田理化、Code:PMW20−1005)中で、ヒト肝細胞無血清培地(東洋紡、Code:TMHHM−001)を用いて培養した(3次元培養)。
【0124】
2次元培養を行ったHYM細胞は、プライミング培養開始から0日、5日、15日目、25日目および35日目に細胞を回収しRNAを抽出してアルブミン(ALB)、AFP、CK19、Dlk、EpCam、Cxcr4、Sox17の遺伝子発現を調べた。3次元培養を行ったHYM細胞については3次元培養開始から25日目および35日目に細胞を回収しRNAを抽出して上記と同じ遺伝子発現を調べた。
【0125】
この結果、2次元培養では25日目でアルブミン弱陽性、35日目ではアルブミン強陽性となり肝細胞へ分化していた。一方、3次元培養においては25日目にはアルブミン強陽性と変化し、肝細胞への分化速度が2次元培養よりも早いことが示唆された。また、3次元培養では未分化内胚葉マーカーであるAFP発現も消失し、より分化が強まることがわかった(
図5)。更に、肝幹細胞のマーカーであるDlk遺伝子の発現も、2次元培養と3次元培養の両方において経時的に消失しており、これは2次元培養及び3次元培養によって、肝幹細胞から肝細胞への分化が誘導されたことを示す。当該消失の速度が2次元培養よりも3次元培養の方が早いことから、3次元培養を採用することによって、分化をより促進することが可能であることが示された。
【0126】
実施例5.胆管上皮細胞への分化誘導 (2次元培養と3次元培養の比較)
実施例5の実験手順を
図6に示す。まずDMEM培地にNicotinamide(10mM)、HEPES(20mM)、NaHCO
3(17mM)、Pyruvate(550mg/L)、Ascorbic acid−2−phosphate(0.2mM)、Glucose(14mM)、Glutamine(2mM)、Dexamethason(100nM)、Insulin (6.25ug/ml)、Transferrin(6.25ug/ml)、Selenious acid(6.25ng/ml)、Bovine serum albumin(1.25mg/ml)、Linoleic acid(5.35ug/ml)、fetal bovine serum(5%)を添加した胆管上皮細胞(Bile duct cells)分化誘導培地で実施例2で取得されたHYM細胞を7日間培養した(プライミング培養)。この後、細胞を一旦回収し一部細胞をコラーゲンコートした12ウェルプレートに播種し、再び胆管上皮細胞分化誘導培地を用いて培養した(2次元培養)。
【0127】
同様に、プライミング培養開始から7日後に回収した細胞の一部を12ウェルプレートに播種し、コラーゲンおよびMatrigel(Becton, Dickinson and Company)中で培養した。これを胆管上皮細胞分化誘導培地を用いて培養した(3次元培養)。
【0128】
これら培養したHYM細胞は、2次元培養においてはプライミング培養開始から0日、7日、17日目、27日目および37日目に細胞を回収しRNAを抽出してアルブミン(ALB)、AFP、CK19、Dlk、EpCamの遺伝子発現を調べた。3次元培養においては3次元培養開始から20日目および30日目に細胞を回収しRNAを抽出して同じ項目の遺伝子発現を調べた。
【0129】
この結果、2次元培養では大きな変化は見られなかったものの、3次元培養においては細胞に大きな形態変化が見られた。
図7は、培養20日および30日目に複数の細胞が特定の方向性をもって並び球状(左)又は管状(右)の構造(シスト)を形成したことを示す。このような立体的構造を形成する細胞は、その構造体の内側と外側で異なる性状を有するという極性を示す。胆管上皮は胆管形成過程において、このような極性構造を取ることが知られている。
【0130】
また、3次元培養された細胞群では、胆管上皮マーカーであるCK19の遺伝子発現が30日後に強く誘導されると同時にALB遺伝子発現の低下が見られた(
図8)。このことはHYM細胞が胆管上皮細胞へ分化誘導されたことを示すものである。
本実施例の結果と実施例5の結果から、HYM細胞は、肝細胞にも胆管上皮細胞にも分化可能であることが分かる。よって、本発明の製造方法によって得られる細胞は、多分化能を有する肝幹細胞であることが示された。
【0131】
実施例6.肝細胞への分化誘導−3(増殖抑制による分化誘導)
実施例6の実験手順を
図9に示す。本実施例では細胞増殖因子を除いた培地により肝細胞への分化誘導を実施した。
【0132】
まずHYM細胞を、ヒト肝細胞無血清培地(Serum Free Medium: SFM)(東洋紡、Code:TMHHM−001)9容量、5%ウシ胎児血清,5%ヒト血清および20ng/ml HGFを含むDMEMベースの培地1容量の混合培地で7日間培養した(プライミング培養)。この後、本実施例では分化誘導の効果を比較するため次の4種類の分化誘導培地を使用して培養した。
【0133】
第1培地:EGF含有ヒト肝細胞無血清培地
第2培地:LCGF(Liver Cell Growth Factor)不含ヒト肝細胞無血清培地
第3培地:EGF不含ヒト肝細胞無血清培地
第4培地:LCGF不含EGF不含ヒト肝細胞無血清培地
【0134】
分化誘導培地を用いた培養開始から0,14,28日目に細胞を回収しRNAを抽出してアルブミン(ALB)、AFP、Dlkの遺伝子発現を調べた。この結果、特にLCGF不含EGF不含ヒト肝細胞無血清培地で培養したものは増殖因子を取り除いた効果が大きく、一旦現れたAFP発現は28日目には低下するとともにALB発現は14日目から28日目まで継続して強く発現が認められた(
図10)。
【0135】
また、EGF含有ヒト肝細胞無血清培地では細胞形態に顕著な変化が無かったのに対し、EGF不含ヒト肝細胞無血清培地では培養4日後にはHYM細胞は全体的に石畳状の初代培養肝細胞に類似した形態を示した。更に一部では胆管上皮様の構造をとる部分も観察された(
図11)。この結果からHYM細胞は細胞増殖因子を含まない培地を用いることにより、肝細胞への分化を促進出来ることが示された。
【0136】
実施例7.肝細胞への分化誘導−4(蛍光タンパク質遺伝子導入HYM細胞の増殖抑制による分化誘導)
実施例7の実験手順を
図12に示す。本実施例ではまずHYM細胞に蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を導入し、GFP発現HYM細胞(以下G−HYM)を作製した後、実施例6と同様のスキームで細胞増殖因子を除いた培地を用いて肝細胞への分化誘導を実施した。
【0137】
G−HYM細胞は以下のような方法で作製した。HYM細胞にプラスミドに挿入したEnhanced GFP遺伝子を常法に従いトランスフェクションにより細胞内に導入した。トランスフェクションには市販のタンパク質発現用プラスミドpcDNA3(Invitrogen)を使用し、クローニングサイトにEnhanced GFP遺伝子を挿入し構築した。このプラスミド(pcDNA3−EGFP)をEffctene transfection reagent(Quiagen)とともにHYM細胞を含む培地へ添加し、HYM細胞に遺伝子(pcDNA3−EGFP)を導入した。遺伝子導入後、G418を含む培地中で増殖した細胞コロニーから、増殖性が高くGFP発現が強いクローンを選別しG−HYMクローンを得た。
【0138】
前記方法で取得したG−HYM細胞を、5%ウシ胎児血清,5%ヒト血清および20ng/mlHGFを含むDMEMベースの培地で7日間培養(プライミング培養)した後、EGF不含ヒト肝細胞無血清培地にて培養した。
【0139】
この結果、培養10日後に細胞を回収しRNAを抽出してアルブミン(ALB)、AFP、Dlkの遺伝子発現を調べたところ、ALBが陽性に転じていた(
図13)。また、G−HYM細胞は実施例6のHYM細胞分化と同様、全体的に石畳状の初代培養肝細胞に類似した形態を示し一部では胆管上皮様の構造をとる部分が観察された(
図14)。
【0140】
上記、実施例3〜7の結果からHYM細胞は胆管上皮および肝細胞の両方に分化する能力を持っていることが示された。更に、HYM細胞は樹立後長期間にわたり継続した増殖が認められている。これらの事実もまたHYM細胞が肝幹細胞であることを示している。
【0141】
更に、実施例7に記載の通り、HYM細胞は所望する遺伝子を導入後、細胞を分化させ得ることが示された。これは即ち、例えば肝疾患治療に有効なペプチドをコードする遺伝子をHYM細胞に導入することが可能であること(即ち、本発明の方法で製造される肝幹細胞が遺伝子治療に有用であること)を示すものである。
【0142】
実施例8.ヒト肝幹細胞の取得[2]
本発明の技術の普遍性を検証するため、前記実施例2において使用した初代ヒト肝細胞とは別のドナー由来の初代ヒト肝細胞を使用し、実施例2と同様の実験を実施した。
(1)
初代ヒト肝細胞の培養
凍結初代ヒト肝細胞(Gibco社)を融解し、10%の割合でウシ胎児血清を添加したHuman Hepatocyte Serum Free Medium(東洋紡)にその細胞を浮遊した肝細胞懸濁液を調製した。これをコラーゲンコートした12ウェル細胞培養プレート(AGCテクノグラス)に5×10
5個/ウェルの細胞密度で播種した。播種した細胞を37℃、5%CO
2の条件下、インキュベーター内で2日間培養し、肝細胞をプレートに充分接着させた。
【0143】
(2)
トランスフェクション
ヒト肝細胞を播種して2日目に、培地を5%ウシ胎児血清、5%ヒト血清および10ng/mlHGFを含むDMEMベースの培地に交換した。トランスフェクションには市販のタンパク質発現用プラスミドpcDNA3(Invitrogen)を使用し、そのEcoR IとXba Iの間のクローニングサイトにヒトCDK4遺伝子を挿入した。このようにして取得したCDKをコードするDNAのOpen Reading FrameのN末端側にFLAG tagが導入されたプラスミド(pcDNA−FLAG−CDK4)を1ウェルあたり0.3μgとなるようEffectene transfection reagent(Quiagen)とともに培地に添加し、肝細胞群にCDK4の遺伝子を導入した。その後、2日に1度の頻度でトランスフェクションを計5回繰り返し実施した。ネガティブコントロールとして、別のウェルにおいて、同様の操作によりCDK遺伝子を含まないプラスミドで肝細胞をトランスフェクションした。
【0144】
(3)
細胞クローンの分離
培養45日目には、ネガティブコントロールのトランスフェクションした細胞はすべて脱落して無くなった。この時点でpcDNA−FLAG−CDK4トランスフェクション細胞から計6個のコロニー形成が見られた。このコロニーを限界希釈法にてクローニングを実施し、クローン細胞(HYM細胞)を得た。これらの細胞は実施例2で得られたクローンと同様に安定で継続した増殖が認められ、自己複製能力を有していることが確認された。
【0145】
(4)
分化マーカー発現
得られたHYM細胞の各クローンについて肝細胞関連の分化マーカーを調べた。即ち、アルブミン、AFP、CD34、Thy−1(CD90)、c−Met、EpCam、Dlk、c−kit、CK19について細胞を回収し抽出したtotal RNAを用いてRT−PCRを実施しmRNAの発現を調べた。その結果を
図15に示す。
【0146】
これらの細胞は、実施例2で得られたHYM細胞同様に、アルブミン陰性、c−Met陽性、EpCam陽性、Dlk陽性、Thy1陽性、CK19陽性かつCD34陰性という共通の細胞表面マーカー特性を示した。このように、肝細胞のドナーが変わっても、本発明の手法により未分化の肝幹細胞(HYM細胞)を取得することが出来ることが証明された。