(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態によるスケール抑制デバイス(以降、スケール抑制手段)を有する給湯器を示す概略構造図である。
【0022】
本給湯器は、水を加熱する給湯器本体1と、給湯器本体1に送られる水に含まれているスケール成分を析出させるスケール抑制手段2と、加熱された温水を貯蔵するタンク3とを備える。
【0023】
給湯器本体1は、加熱された外気の熱を熱媒体に伝達するための、空気から熱媒体への熱交換器に相当する蒸発器4と、蒸発器4内で蒸発した熱媒体を圧縮する圧縮器5と、熱媒体から水への熱交換器に相当し、熱媒体の熱によって加熱される液体に相当する水を加熱するために熱媒体を液化する凝縮器6と、凝縮器6からの熱媒体を貯留する受液器7と、受液器7からの高温高圧の液化された加熱冷媒を素早く断熱的に膨張させる膨張弁8とを含む。上記の各構成要素は順次接続されて冷却−加熱サイクルまたは熱サイクルをそれぞれ構成する。
【0024】
水は、(熱源として働く)凝縮器6内で液化される熱媒体と平行に、凝縮器6の内部を流れる。凝縮器では、加熱される水(電解用タンク15の水出口配管21から来た水。下記参照)が通過する伝熱流路9内で水と熱媒体との間に熱的接触が発生する。
【0025】
伝熱流路9の上流側は、水が加熱される(管21に接続された)入水管10に接続され、伝熱流路9の下流側は、加熱された水が凝縮器6から出るための出湯管11に接続される。入水管10から伝熱流路9を通って出湯管11に流れる水は、伝熱流路9を通過している間に熱媒体に対して熱交換が行われるために、加熱される。出湯管11は、給湯栓および/またはシャワーなどの出湯手段(図示せず)に接続される。
【0026】
図1において、凝縮器6は、タンク3の内側に配置されている。ただし、凝縮器6がタンク3の外側の所定位置に配置される場合は、タンク3と凝縮器6との間で水を巡回させるように配設されたポンプ(図示せず)によって水を巡回させて加熱することも可能である。さらに、出湯管11の下流の出湯手段において必要とされる湯量が少ない場合は、伝熱流路9を貫流させるだけで水を加熱することも可能である(図示せず)。この場合は、タンク3を設ける必要はない。
【0027】
ここで、凝縮器6内を流れる熱媒体と伝熱流路9内を流れる水とは平行に、すなわち同じ方向に、流れる。ただし、熱媒体と水と反対方向に流す、すなわち向流を形成するように本構成を設計する、ことも可能である。
【0028】
スケール抑制手段2は、電解用タンク15と、電解用タンク15の内部に対向配置された陽極12および陰極13と、陽極12に正電極が接続され、陰極13に負電極が接続された電源14とを備える。さらに、スケール抑制手段2は、陽極12と陰極13との間に配置されて電解用タンク15の天井に取り付けられた仕切り板16と、水を(電解用タンク15の底部を通して電解用タンク15内に導くことによって)電解用タンク15に供給する水供給配管17とを備える。
【0029】
後で説明するように、水の酸化分解により陽極12の表面に発生した酸素ガスは、ガス抜き弁22によって電解用タンク15の外側へ適切に排気可能である。
【0030】
(電解用タンク15の全高の100分の1〜5分の4の長さを有する)仕切り板16は、陽極12の上側にたまった酸素ガスが電解用タンク15の天井に沿って陰極13側に漏れることを防止するために機能する。
【0031】
電解用タンク15は、塩化ビニル樹脂またはアクリルなどの高分子樹脂材料製、またはあるいはステンレス鋼またはアルミニウムなどの金属材料製、であることが好ましい。
【0032】
さらに、(給水検出手段である)流量センサ19が水供給配管17に取り付けられ、電源14に電気的に接続される。水が水供給配管17を通って電解用タンクに流れ込むと、流量センサ19からの電気信号により電源14がオンになるため、所定の電圧が陽極12と陰極13との間に印加される。
【0033】
陽極12は、水の酸化反応を促進する酸化触媒を基材上に設けることによって構成される。メッシュ構造を有するチタンエキスパンドメタルまたは金属繊維の焼結材料が基材のために用いられる。具体的には、繊維径20μmおよび長さ50〜100mmのチタン(Ti)モノフィラメントが複数織編された焼結材料で形成された密度200g/cm
2の(例えば厚さ300μmの)織布を使用可能である。陽極12は、基材のチタン表面を酸化触媒である酸化イリジウム(IrO
2)またはプラチナ(Pt)で密度0.1〜5.0mg/cm
2でめっきすることによって形成される。水の酸化反応は陽極12で進行するため、エキスパンドメタルを基材として使用する場合は、水と基材との間の接触面積が大きいことが好ましい。具体的には、1インチ当たり10以上の開放孔を有するエキスパンドメタルを使用することが好ましい。
【0034】
陰極13は、電解用タンク15の壁(電解用タンク15の外側を電解用タンク15の内側から隔てる壁)の一部を構成する。したがって、陰極13の第1側面は電解用タンク15の内側に面し、第1側面とは反対の側である陰極13の第2側面は電解用タンク15の外側に面する。陰極13の本体は、電解用タンク15の内側に配置される。ただし、陰極の複数部分が電解用タンク15の内側に配置され、陰極の複数部分が電解用タンク15の外側に配置されるように、陰極を電解用タンク15の側壁に組み込むことも可能である(ここでは不図示)。この陰極13は、電解用タンク15の外側の空気と電解用タンク15の内側の水とが陰極13によって隔てられた場合に、水の漏出を防ぎ、かつ酸素の還元反応を促進するように、撥水性を有する多孔質の導電性基材で構成される。一般に、陰極13の導電性基材の有孔率は、30%と80%(両端を含む)の間、好ましくは50%と70%(両端を含む)の間、にすることができる。ただし、他の有孔率値も可能である。
【0035】
基材としては、チタン(Ti)などの金属繊維の焼結材料、メッシュ構造を有するエキスパンドメタル、または炭素系材料を使用可能である。特に、繊維径20μmおよび長さ50〜100mmのモノフィラメントが織編された(例えば厚さ300μmの)チタン織布を金属繊維メッシュ構造の基材として使用可能である。平均孔径が10μmと100μmの間の範囲内であり、有孔率が5%〜40%の間である発泡チタン材料を金属製焼結基材として使用することも可能である。太さ200μm(例えば、繊維径5〜50μm、空隙率20〜80%)の炭素繊維を炭素系基材として使用することも可能である。
【0036】
陰極13は、プラチナ、チタン、モリブデン、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、鉄、またはタングステンを還元触媒として密度0.1〜5.0mg/cm
2で基材の表面をめっきすることによって形成される。
【0037】
外気(すなわち電解用タンク15の外側の空気)の圧力および電解用タンク15の内側の圧力をそれぞれP
1およびP
2とすると、陰極13の基材表面と気相液相界面との間に形成される角度θ(単位:度)と、水の表面張力であるγ(単位:N/m)と、陰極13の基材の孔径であるd(単位:m)との間に次の関係が成り立つ。
P
1−P
2=−(2γ/d)・cos(θ) (1)
【0038】
他方、臨界差圧P
cと空気中の水との接触角θ
c(基材の撥水度を示す物性値)との間には以下の関係が存在する。
P
c=−(2γ/d)・cos(θ
c) (2)
【0039】
したがって、外気と水とが隔てられているときに電解用タンク15内の水の漏出を防止するための条件は、以下のようになる。
P
1−P
2<P
c=−(2γ/d)・cos(θ
c) (3)
【0040】
すなわち、基材は、想定された稼働条件に応じて陰極13の撥水度および孔径が式(3)を満たすように設計される必要がある。特に、接触角θ
cが106°であるポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))基材として使用する場合、圧力差P
1−P
2が20kPaであれば、孔径を2μm以下にする必要がある。
【0041】
孔径を十分に小さくすることが難しいために十分な撥水性を上記基材(または還元触媒でめっきされた基材)で殆ど得ることができない場合は、基材(または還元触媒でめっきされた基材)の多孔質層で電極を形成し、その複数部分(外気側に面する陰極の基材層の複数部分)を式(3)を満たす撥水材料を有する別の多孔質層で覆うことも可能である。例えば、孔径50μmおよび有孔率20%のチタン焼結材料を使用する場合は、式(3)から計算された臨界圧力P
cは約2kPaと極めて小さい。この場合、チタン焼結基材の外気側の一部をテフロン(登録商標)で覆うことによって孔径を2μmに縮小できれば、臨界圧力20kPaを得ることができる。あるいは、外気の圧力と電解用タンク15内の圧力との間の差圧(P
1−P
2)を20kPaにする必要がある場合は、漏水を発生させずにスケール抑制デバイス2の稼働を保証するために、孔径2μm台のテフロン(登録商標)シートを陰極の基材に組み込むことによって、またはこの基材のチタン焼結材料の外気側をこのようなテフロン(登録商標)シートで覆うことによって、この差圧値を実現することができる。
【0042】
水流量(時間単位当たりのリットル)は変動しうるので、スケール抑制手段2のサイズを一義的に決めることができない。特に、電極12、13間の電圧によって印加される電流と、電解用タンク15の容積と、陽極12および陰極13の表面積とは、水流量に比例して増大させることが望ましい。
【0043】
他方、電流特性(印加電圧に対する電流)は、電極間に存在する媒体としての水の品質(すなわち、その導電率)と、陽極12と陰極13の間の電極間距離および電極面積などの形状関連の要因とに応じて変動する。
【0044】
電極間距離が1mm以下であると、陰極13の近くの反応と陽極12の近くの反応との間で相互干渉が発生する。さらに、通常の水道水では導電率が低いため、電極間距離が40mm以上の場合は、必要とされる処理能力を得るには40V以上の電圧が必要とされる。40V以上では陽極12に使用される金属材料が急速に腐食するため、40V以上を使用することは実際には望ましくない。したがって、電極間距離は、1mmと40mmの間(両端を含む)の範囲内に設計されることが好ましい。
【0045】
次に、伝熱流路9へのスケール付着をスケール抑制手段2によって防止するための仕組みと、スケール抑制手段2において進行する水素ガス発生を抑止するための仕組みとを詳細に説明する。
【0046】
上記構造を有する給湯器において、水は水供給配管17を通ってスケール抑制手段2の電解用タンク15に流入する。陽極12の下側から流入した水は、その後、陽極12から陰極13側に流れ、次に陰極13の上側から水出口配管21を通って排出される。
【0047】
電解用タンク15内では、電源14によって電圧が印加されると、陽極12において水の電離が発生するため、以下の式(4)に示されるように酸素が発生する。
【0049】
上記は、通常の電極電位E
1が1.229Vの場合である。
陰極13では、以下の式(5)および(6)に示されているように、水と、酸素と、電子との間の反応によりOH
−イオンが発生する。
【0051】
上記は、通常の電極電位E
2が0.401Vの場合である。
【0053】
上記は、通常の電極電位E
3が−0.065Vの場合である。
陰極13の電位さらに下がると、以下の式(7)に示されるように、OH
−イオンが発生すると同時に、水の還元反応により可燃性水素ガスが発生する。
【0055】
上記は、通常の電極電位E
4が−0.828Vの場合である。
式(5)〜(7)の還元反応によりOH
−イオンが発生した結果として、陰極13の近くのpH値が高くなる。したがって、以下の式(8)に示されるように、水中に溶解しているCaイオンとHCO
3イオンとの間の反応により炭酸カルシウムの核が陰極13において生成される。
Ca
2++HCO
3−+OH
−→CaCO
3↓+H
2O (8)
【0056】
したがって、電源14に印加される電圧を制御して陰極13の電位EをE
2V以下およびE
4V以上に設定することによって、式(5)および(6)の反応を(式(7)による反応と比較して)選択的に進行させることができるため、式(7)の水素ガスの発生を完全に抑止することができる。ただし、実用的な見地からは、OH
−イオンの生成速度を加速するには、上記電位EをE
4以下に設定してより多くの電流を供給する必要がある。このような場合、溶解酸素が不十分になると(すなわち、遊離酸素の不足が発生すると)、式(5)および(6)の反応速度が極端に低下し、所望されるOH
−イオンの生成に比べ、水素ガスの生成量が増す。
【0057】
本実施形態において、スケール抑制手段の陰極は、多孔質導電材料で形成され、外気と水とを隔てるように電解用タンク15に組み込まれる。したがって、酸素の溶解速度が劇的に増せば、式(5)および(6)の反応を選択的に進行させることができる。したがって、式(7)の水電解による可燃性水素ガスの発生を抑止することが可能である。
【0058】
スケール抑制手段によって炭酸カルシウムの核が一旦生成されると、水道水中に過剰に存在するCaイオンとHCO
3イオンとを核の表面に析出させやすくなり、式8の反応が引き続き進行する。すなわち、伝熱流路9に到達する前に、電解用タンク15内の陰極13の表面以外の複数位置および水出口配管21の内側において、水道水中のCaイオンの濃度およびHCO
3イオンの濃度が徐々に低下する。この結果、水道水が経路9内で加熱された場合でも炭酸塩結晶(スケールと呼称)が析出しないレベルにまで、Caイオン濃度とHCO
3イオン濃度とを低下させることができる。したがって、伝熱流路9の表面で炭酸カルシウムが生成されて当該表面に炭酸カルシウムが付着することを確実に防止することが可能である。
【0059】
したがって、スケール抑制手段2は、炭酸カルシウムの核を水道水中に生成する。生成された核が陰極13に付着することは、以下の理由により望ましくない。陰極13の表面に付着した核をベースとしてスケール層が形成されると、スケール自体が導電性でないため、陰極13の表面における電気抵抗が増す。通常の水質の水道水の導電率は低いため、厚さ0.1mm以上のスケール層が形成されると、必要とされる処理能力を得るために40V以上の電圧が必要となる場合がありうる。40V以上では陽極12に使用されている金属材料の腐食が急速に進むため、このような高電圧は実用上望ましくない。さらに、炭酸カルシウムの核が陰極13の表面に付着すると、水道水中の核濃度が低下する。したがって、伝熱流路9に到達する前に、水道水中のCaイオン濃度とHCO
3イオン濃度とを十分に低下させることができない。
【0060】
ここで、陰極13の近くで生成された炭酸カルシウムが陽極12の近くに到達すると、この炭酸カルシウムは生成されたH
+によって再度溶解される(式(4)を比較)。したがって、(
図1に点線矢印で示されているように)陽極12から陰極13へのスムーズな水の流れが実現されるような電解用タンク15の幾何学的構造が実現されるように、スケール抑制手段2の水供給配管17および水出口配管21または電解用タンク15のそれぞれの位置が選択される。
【0061】
スケール抑制手段2の電解用タンク15の水出口配管21の近くにおいて、陽極12の近くで生成された酸性水と陰極13の近くで生成されたCaCO
3の核を含むアルカリ水とが混合されて中和され、中性水になる。
【0062】
スケール抑制手段2とタンク3との間における水の滞留時間が長すぎると、スケール抑制手段2によって生成された核とその主成分であるCaCO
3とが再度溶解するという望ましくない問題がある。
【0063】
これを回避するには、生成されるスケール核の粒子径が1μm以下である場合は、電解用タンク15の上部に接続された水出口配管21の内部での水道水の滞留時間を千秒以下に制限するだけでよく、粒子径が1〜5μmの間の範囲内である場合は5万秒以下に制限するだけでよい。
【0064】
第2実施形態
図2は、本発明の第2実施形態によるスケール抑制デバイスを有する給湯器を示す概略構造図である。
【0065】
第2実施形態は、非通気性の緻密構造を有する導電材料13bを陰極材料として使用する。
【0066】
基材としては、外気の圧力と電解用タンク15の内部圧力との間の圧力差に当該基材が耐えられる厚さを有するチタン(Ti)や炭素などで作られた板を使用する。例えば、厚さが0.1〜10mm台のチタン板を使用可能である。あるいは、厚さが0.1〜10mm台の気密性炭素板を使用可能である。したがって、この実施形態においては、陰極13bは電解用タンク15の外壁の複数部分も形成する。
【0067】
さらに、陰極13bの基材の表面は、電解用タンク15内の水が接触する側がプラチナ、チタン、モリブデン、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、鉄、またはタングステンを還元触媒として密度0.1〜5.0mg/cm
2でめっきされる。
【0068】
第2実施形態のスケール抑制手段2は、酸素ガス供給源(図示せず)と、酸素ガスを陰極13bに直接供給する、すなわち酸素ガスを陰極13bの表面の直近で放出する酸素供給管23とを備える(陰極13bの近位にある管23の端部と陰極13bの表面との間の距離を5mm以下に、または2mm以下にさえ、することができる)。これを実現するために、酸素供給管23は、電解用タンク15の外側(電解用タンク15が酸素供給源に接続される場所)から電解用タンク15の上部天井を通って電解用タンク15の内側に導かれ、陰極の内壁の直近に終端し、運ばれてきた酸素をこの壁部分に向けて放出する。
【0069】
この実施形態においては、外気は多孔質導電性陰極を通って処理水に直接流入することができない。ただし、それにも拘らず、陰極13の内面の直近での酸素ガスの溶解により、(上記の式(5)および(6)により)陰極13bの表面における酸素の還元反応を促進させることが可能である。
【0070】
この構造の残りの部分、その動作、およびその効果は、第1実施形態と同じである。
【0071】
第3実施形態
図3は、本発明の第3実施形態によるスケール抑制デバイス2を有する給湯器を示す概略構造図である。
【0072】
第3実施形態において、スケール抑制手段2は、水および水素イオンを透過させるが、酸素ガスの通過を阻止する隔膜30を備える。膜30は、電解用タンク15の内側を2つの独立した区画、すなわち1つの陽極区画(左)と1つの陰極区画(右)、に分割することによって陽極12を陰極13から完全に隔てる。これを実現するために、膜30は陽極12と陰極13との間に電解用タンク15の内側の全高にわたって設けられる。水を電解用タンク15の陽極12側の区画に供給するように1つの水供給配管17が配設され、水を陰極13側の区画に供給するように1つの水供給配管18が配設される。さらに、水供給検出手段である流量センサ19、20が水供給配管17、18にそれぞれ取り付けられ、電源14に電気的に接続される。水が水供給配管17または水供給配管18のどちらか一方を通って(または両方を通って)流れると、流量センサからの電気信号に基づき電源14がオンになり、所定の電圧が陽極12と陰極13との間に印加される。
【0073】
隔膜30には、プロトン伝導性イオン交換膜、アニオン伝導性イオン交換膜、多孔質有機膜、多孔質無機膜などが用いられる。
【0074】
特に、ペルフルオロスルホン酸膜を隔膜30として使用可能である。この膜の材料は、水分と水素イオンのみを通し、電気絶縁よって気体を阻止することのみが求められる。したがって、代わりに、ポリベンゾイミダゾール系イオン交換膜、ポリベンゾキサゾール系イオン交換膜、ポリアリーレンエーテル系イオン交換膜などを利用することも可能である。
【0075】
第3実施形態の給湯器は、陰極13の近くの反応と陽極12の近くの反応との間で干渉が一切発生しないという利点を有する。したがって、隔膜30がない第1実施形態と比べると、電極間距離の採択可能範囲がより広い点と、両電極の近くでの水流制御が不要である点とが有利である。
【0076】
本実施形態においては、第1実施形態と同様に、スケール抑制手段2の陰極は、多孔質導電材料から成り、外気と水とを隔てるように配置される。したがって、酸素の溶解速度が劇的に増すため、式(5)および(6)の反応を選択的に進行させることができる。したがって、水電解による可燃性水素ガスの発生を抑止することが可能である(式(7)を比較)。
【0077】
陽極12の近くで生成された酸性水は、スケール抑制手段2の電解用タンク15から流出した後、陰極13の近くで生成されたCaCO
3の核を含むアルカリ水と混合される。これは、2つの区画の上部にそれぞれ水出口配管を設けることによって実現される。2つの水出口配管はその後に連結され、入水管10に接続される単一の水出口配管21に接続される。スケール抑制手段2とタンク3との間における水の滞留時間が長すぎると、スケール抑制手段2によって生成された核とその主成分CaCO
3とが再度溶解する。
【0078】
これを回避するには、生成されるスケール核の粒子径が1μm以下の場合は電解用タンク15の上部に接続される水出口配管21の内部における水道水の滞留時間を千秒未満にするだけでよく、粒子径が1〜5μmの間の範囲内である場合は5万秒未満にするだけでよい。
【0079】
この構造の残りの部分、その動作、およびその効果は第1実施形態と同じである。
【0080】
比較例
次に、第1〜第3実施形態の給湯器に関して、給湯器本体1の伝熱流路9において達成されるスケール付着防止効果の実例を説明する。
【0081】
特に、スケール抑制手段2による溶液中のスケール生成量、陰極13における複数の電気化学反応(すなわち式(5)〜(7))間の水素ガス発生(すなわち式(7))の進行率、および通常条件下での10年間の使用に相当する給湯器の稼働を実施した後の伝熱流路9に形成されたスケールの厚さに関して比較を行う。
【0082】
比較I.(
図4)
第1および第2実施形態の給湯器とそのスケール抑制デバイスと使用し、後述の条件下でスケール抑制手段2と電源14とを稼働させて水道水を処理した場合のスケール付着防止効果または抑制効果についてそれぞれ説明する。
【0083】
スケール抑制手段2の条件は、電極面積1dm
2、電圧12V、電極間距離5mm、および電解用タンク15の容積0.5Lとして設定した。仕切り板16の長さは、電解用タンク15の全高の5分の1に設定した。
【0084】
陽極12は、繊維径20μmおよび長さ500mmのモノフィラメントが複数織編された焼結材料である厚さ300μmおよび密度200g/cm
2の織布で形成された。この基材の表面のめっき処理は、酸化触媒である酸化イリジウム(IrO
2)を用いて密度1.0mg/cm
2で行われた。
【0085】
実施例1では、陰極13は、繊維径20μmおよび長さ500mmのチタンモノフィラメントが複数織編された焼結材料である厚さ300μmおよび密度200g/cm
2の織布で形成された。この基材の表面のめっき処理は、プラチナで密度1.0mg/cm
2で行われた。さらに、孔径が5μm台であるテフロン(登録商標)シートを陰極13の外気側の基材に組み込んだ。代わりに、孔径100μmおよび有孔率30%の発泡チタン基材を使用した別の陰極13を基材として使用することもできる。この基材の表面のめっき処理は、プラチナで密度1.0mg/cm
2で行われた。さらに、孔径が5μm台であるテフロン(登録商標)シートを陰極13の外気側の基材に組み込んだ。
【0086】
上記配管17、15、21、10、9、および11は、電解用タンク15の上部に接続された水出口配管21の内部における水道水の滞留時間が500秒台になるように設計された。
【0087】
水道水はCa
2+濃度が120mg/L、アルカリ度が200mg/L、pHが6.8、および溶解酸素の濃度が5mg/Lであり、水供給配管17から電解用タンク15に流量100ml/minで供給された。直流電圧12Vが電源14を介して印加されているとき、電流は1.0Aで一定して流れていた。
【0088】
実施例1の上記条件は、第1実施形態において使用可能なパラメータの単なる一例であり、第1実施形態を稼働させることによって本発明の主利点を得るために稼働条件を制限するものではない。
【0089】
さらに、実施例1に対する比較例(実施例2)として、第2実施形態による非通気性の緻密構造を有する導電性材料で形成された陰極13bに酸素ガスが供給された場合のスケール付着防止効果を調べた。陽極12は、実施例1の陽極と同じ材料および同じ面積で形成された。陰極13bは、厚さ1mmのチタン板上に密度1.0mg/cm
2のプラチナでめっき処理を行うことによって形成された。さらに、酸素ガスを0〜5L/minの流量で酸素供給管23から陰極13の表面に直接供給した。この酸素ガスは、陰極13の近位にある酸素供給管23の端部に配置された分散板(図示せず)によって0.01と5mmの間のサイズの気泡として分散された。実施例1および2の結果が
図4に示されている。
【0090】
第1実施形態で説明したスケール抑制手段2では、直流電圧12Vを印加することによって溶解Ca
2+濃度を120mg/Lから40mg/Lに低下させた。炭酸カルシウム200mg/Lに相当するスケール粒子が溶液中に生成された。これは、溶液から消滅したCa
2+濃度に匹敵する80mg/LのCa
2+に相当する。すなわち、スケール粒子(と主成分CaCO
3)が陰極13の近くで析出されたために、Ca
2+濃度が低下したと考えられる。陰極13の近くから抽出した溶液を測定したところ、pH値10.5のアルカリ性であった。
【0091】
さらに、陰極13の表面近くで僅かな水素ガスの発生が認められた。この水素ガスの生成量により、式(7)の上記反応で消費される電流量は0.05Aであることが実証された。陽極12と陰極13との間に流れる総電流量は1.0Aであったので、水素ガスの生成効率は5%であった。
【0092】
次に、第2実施形態のスケール抑制手段2を用いた実施例2では、直流電圧12Vが印加されたときに炭酸カルシウム180〜190mg/Lに相当するスケール粒子が溶液中に生成された。陰極13の近くの溶液を測定したところ、pH値が10.6と10.7との間であるアルカリ性であった。水素ガスの生成効率は、酸素ガスの流量に応じて変動していた。第2実施形態の構成において酸素ガスの供給を停止したときの効率は99%であり(
図4の実施例3を比較)、第2実施形態の構成において酸素ガス供給量が1L/min以上であったときの効率は90%であった(
図4の実施例2を比較)。
【0093】
酸素ガス供給量が1L/min以上の場合は、供給された酸素の気泡により、陽極と陰極との間での電解液の分散が妨げられた。したがって、一定の直流電圧が印加されていたにも拘らず、電流の印加が不安定になった。
【0094】
したがって、陰極に対する酸素供給手段に関しては第1実施形態は第2実施形態より有効であることと、第2実施形態も単位印加電流当たりの水素ガス生成量を低減させているとしても、第1実施形態は単位印加電流当たりの水素ガス生成をはるかに良好に抑止することとが分かる。
【0095】
本発明によると、スケール抑制手段2の陰極は、第1実施形態においては多孔質導電材料で形成され、外気と電解用タンク内の水とを隔てるように配置される。したがって、酸素の溶解速度が劇的に増し、水電解による可燃性水素ガスの発生を抑止できると同時に、伝熱流路9へのスケール付着を確実に防止できる。
【0096】
比較II.(
図5)
第1実施形態による3つの実施例(上記の実施例1、実施例4、および実施例5。
図5で比較)における、すなわち第1実施形態の給湯器を用いて後述の条件下でスケール抑制手段2と電源14とを稼働させて水道水を処理した場合の、スケール付着防止効果について説明する。
【0097】
実施例4では、陰極13は、繊維径20μmおよび長さ500mmの炭素モノフィラメントが複数織編された焼結材料である厚さ300μmおよび密度200g/cm
2の織布で形成された。この基材の表面のめっき処理は、プラチナで密度1.0mg/cm
2で行われた。さらに、孔径が5μm台のテフロン(登録商標)シートを陰極13の基材の外気側に組み込んだ。
【0098】
水道水はCa
2+濃度が120mg/L、アルカリ度が200mg/L、pHが6.8、溶解酸素の濃度が5mg/Lであり、流量100ml/minで水供給配管17から電解用タンク15に供給された。直流電圧12Vを印加することによって電流は1.0Aで一定して流れた。
【0099】
これらの条件は、第1実施形態のための制御パラメータの単なる一例であり、第1実施形態による構成を稼働させることによって本発明の主利点を得るためにこの実施形態の稼働条件を限定するものではない。
【0100】
したがって、実施例4の陰極13の基材は実施例1のものとは異なるが、その他の条件は同じままである。比較例IIの結果が
図5に示されている。
【0101】
第1実施形態で説明したスケール抑制手段2では、直流電圧12Vの印加によって溶解Ca
2+の濃度が120mg/Lから48mg/Lに低下した。炭酸カルシウム180mg/Lに相当するスケール粒子が溶液中に生成された。これは、溶液から消滅したCa
2+濃度に匹敵する72mg/LのCa
2+に相当する。すなわち、スケール粒子と主成分CaCO
3とが陰極13の近くで析出されたために、Ca
2+濃度が低下したと考えられる。陰極13の近くから抽出した溶液を測定したところ、pH値10.5のアルカリ性であった。
【0102】
さらに、僅かな水素ガスの発生が陰極13の表面において認められた。この水素ガス生成量により、式(7)の上記反応で消費された電流量は0.05Aであることが実証された。陽極12と陰極13との間に流れる総電流量は1.0Aであったため、水素ガスの生成効率は5%であった。
【0103】
次に、実施例1および4において、実施例1および4に対応する給湯器の通常条件下での10年の使用に相当する稼働を実施した後での伝熱流路9内の壁に形成されたスケールの厚さについて比較を行った。この結果が
図5に示されている。スケールの厚さは、実施例1では0.1mmであり、実施例4では2.6mmであった。スケール抑制手段2の電源14をオフにした場合に10年の使用に相当する稼働により形成されるスケール層の厚さは3mmであることが既知である。すなわち、スケール付着防止効果は、実施例4においては14%に過ぎず、実施例1においては96%に達した。
【0104】
さらに、実施例1および4の陰極13の精密検査に基づき、炭素製基材(実施例4)には大量のスケール粒子が付着したが、チタン製基材(実施例1)にはほとんど粒子が認められなかったことが実証された。
【0105】
さらに、(直流電圧12Vが印加されたときの)電流値は、実施例1においては稼働時間中ほぼ同じ値に留まっていた。これとは対照的に、実施例4においては、この値は、10年の使用に相当する期間の稼働後、初期電流値を100%と規定して比較した場合、30%〜40%に徐々に低下した。
【0106】
実施例4の場合は、スケール抑制手段2によって生成されたスケール粒子(すなわち核)が陰極13に付着した事実による酸素ガス供給速度の低下により、および陰極13の電気抵抗の増大による抵抗損の結果としての印加電流の低下により、上記問題が引き起こされると想定される。
【0107】
スケール抑制手段2は、炭酸カルシウムの核を水道水中に生成し、生成された核が陰極13に付着することを回避する。これは、以下が回避されるという利点を有する。すなわち、核が陰極13の表面に付着してスケール層が形成されると、スケール自体が電気的に非導電性であるため、陰極13の表面における電気抵抗が増す。さらに、炭酸カルシウムの核が陰極13の表面に付着すると、水道水中の核濃度が相対的に低下する。したがって、伝熱流路9に到達するまでに、配管内の水道水中のCaイオン濃度とHCO
3イオン濃度とを十分に低下させることができない。
【0108】
上記のように、実施例4の炭素基材は、実施例1の基材に比べ、初期性能は同様であったにも拘らず、長期稼働に伴いスケール粒子の付着を徐々に進行させたことが実証された。
【0109】
本発明によると、実施例1および4によるスケール抑制手段2の陰極13は、多孔質導電材料で形成され、外気と電解用タンク内の水とを隔てるように配置される。したがって、酸素の溶解速度が劇的に増し、水電解による可燃性水素ガスの発生を少なくとも低減(実施例4)、または実質的に抑止(実施例1)することができると同時に、伝熱流路9へのスケール付着を確実に防止できる。
【0110】
また、実施例5に関してスケール付着防止効果(
図5で比較)を次に説明する。実施例5では、第3実施形態の、すなわち追加の隔膜30を有する給湯器において後述の条件下でスケール抑制手段2と電源14とを稼働させることによって水道水を処理する。
【0111】
陰極13は、繊維径20μmおよび長さ500mmのチタンモノフィラメントが複数織編された焼結材料である厚さ300μmおよび密度200g/cm
2の織布で形成された。この基材の表面のめっき処理は、プラチナで密度1.0mg/cm
2で行われた。さらに、孔径が5μm台である通気性テフロン(登録商標)シートを陰極13の基材の外気側に組み込んだ。
【0112】
隔膜30は、水素イオンに対して選択的に伝導性のある、ペルフルオロスルホン酸で構成された厚さ140μmの材料で形成された。
【0113】
水道水は、Ca
2+濃度が120mg/L、アルカリ度が200mg/L、pHが6.8、および溶解酸素濃度が5mg/Lであり、流量100ml/minで水供給配管17から電解用タンク15に供給された。直流電圧12Vを印加することによって電流は1.0Aで一定して流れた。
【0114】
上記条件は、第3実施形態のための制御パラメータの単なる例であり、第3実施形態を稼働させるときに本発明の主利点を得るためにこの実施形態の稼働条件を限定するものではない。制御パラメータの残りは実施例1と同じである。実施例5の結果が
図5に示されている。
【0115】
第3実施形態で説明したスケール抑制手段では、直流電圧12Vの印加によって溶解Ca
2+の濃度が120mg/Lから24mg/Lに低下した。炭酸カルシウム240mg/Lに相当するスケール粒子が溶液中に生成された。これは、溶液から消滅したCa
2+濃度に匹敵する96mg/LのCa
2+に相当する。すなわち、スケール粒子と主成分CaCO
3とが陰極13の近くで析出されたために、Ca
2+濃度が低下したと考えられる。陰極13の近くから抽出した溶液を判定したところ、pH値11.0のアルカリ性であった。
【0116】
さらに、僅かな水素ガスの発生が陰極13の表面において認められた。この水素ガス生成量により、式(7)の上記反応で消費された電流量は0.035Aであることが実証された。陽極12と陰極13との間に流れる総電流量は1.0Aであったので、水素ガスの生成効率は3.5%であった。
【0117】
次に、実施例1および4と同様に、通常条件下での10年の使用に相当する給湯器の稼働を実施した後の伝熱流路9に形成されたスケールの厚さについて、実施例5に関して比較を行った。この結果が
図5に示されている。実施例5では、スケールの厚さは0.05mmであった。
【0118】
本発明によると、スケール抑制手段2の陰極は、多孔質導電材料で形成可能であり、この陰極を電解用タンク内に少なくとも部分的に配置することによって、またはこの陰極を電解用タンクの外部ケーシングまたはシェルの一部として配置することによって、外気と水とが隔てられるように設計可能である。したがって、酸素の溶解速度が劇的に増し、水電解による可燃性水素ガスの発生を抑止できると同時に、伝熱流路へのスケールの付着を確実に防止できる。