【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ビスマス及びアンチモンから選択される少なくとも1種の金属を、チタンを補足合金化する金属として用いることにより、上層の塩化マグネシウムへの金属の混入が抑制され、塩化マグネシウムの溶融塩電解によるマグネシウムの再生への影響が抑制されることを見出した。更に、上記金属を用いると、得られる液体合金の精製にも適しており、金属チタンを低コストで連続的に製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、下記のチタンの製造方法に関する。
1.(1)ビスマス及びアンチモンから選択される少なくとも1種の金属と、マグネシウムとを含む混合物に、四塩化チタンを添加して、前記金属とチタンとの液体合金を得る工程1、及び
(2)前記液体合金から、前記チタン以外の成分を除去する精製処理を施す工程2
を含むことを特徴とするチタンの製造方法。
2.前記金属はビスマスであり、前記液体合金は、チタン濃度が47at%以下である、上記項1に記載の製造方法。
3.前記金属はアンチモンであり、前記液体合金は、チタン濃度が33at%以下である、上記項1に記載の製造方法。
4.前記工程1の後で、前記工程2の前に、前記液体合金を偏析させて、液体部分と、固体及び液体が共存する固液共存部分とに分離する工程を更に含む、上記項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
5.前記精製処理は、電解精製及び蒸留精製から選択される少なくとも1種である、上記項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
6.前記金属はビスマスであり、前記精製処理は電解精製であり、前記固液共存部分を425〜930℃の温度でアノードに用いる、上記項4又は5に記載の製造方法。
7.前記金属はアンチモンであり、前記精製処理は電解精製であり、前記固液共存部分を631〜1010℃の温度でアノードに用いる、上記項4又は5に記載の製造方法。
8.前記精製処理は真空蒸留精製であり、前記固液共存部分を前記真空蒸留精製に用いる、上記項4又は5に記載の製造方法。
【0014】
本発明のチタンの製造方法は、チタンを捕捉合金化する金属として、ビスマス及びアンチモンから選択される少なくとも1種を用い、マグネシウムとの混合物として、これに四塩化チタンを添加して、上記金属とチタンとの液体合金を得る工程1を含む。本発明の製造方法においては、反応液の下層を形成する液体合金に含まれる上記金属は、特許文献1のようにチタンを捕捉する金属として用いられている亜鉛よりも蒸気圧が低い(沸点が高い)。具体的には、亜鉛の沸点が907℃であるのに対して、ビスマスの沸点は1564℃、アンチモンの沸点は1584℃である。このため、当該金属が気化して下層から上層へ浮上して反応液を撹拌することが抑制される。また、気化した金属が反応器の上部で蓋や壁に接触することにより冷却されて液化して滴下することも抑制されるので、反応液の上層を形成する塩化マグネシウムとの混合が抑制される。このため、工程1において、上記金属とチタンとの液体合金を生成する際の塩化マグネシウムとの分離性に優れる。
【0015】
また、上記金属は、特許文献1で用いられている鉛や銅と比較してチタンの溶解度が遥かに大きいため、上記金属とチタンとの液体合金の生産効率の向上が可能となる。特に、銅は融点が1084℃と高いため液体合金を生成し難く、銅と比較すると、上記金属は融点が低いため、チタンを運搬する媒体として有利である。
【0016】
更に、上記金属とチタンとの液体合金は、工程2において精製処理に供される。ここで、本発明の製造方法では、チタンと液体合金を形成する金属として、ビスマス及びアンチモンから選択される少なくとも1種が用いられる。上記金属は、電解精製等の精製処理に供するために適度な沸点を示すので、精製処理により容易にチタンを製造することが可能となる。
【0017】
以下、本発明の製造方法について詳細に説明する。
【0018】
1.工程1
本発明の製造方法は、(1)ビスマス及びアンチモンから選択される少なくとも1種の金属と、マグネシウムとを含む混合物に、四塩化チタンを添加して、前記金属とチタンとの液体合金を得る工程1を含む。
【0019】
上記金属は、ビスマス及びアンチモンから選択される少なくとも1種が用いられる。すなわち、ビスマス又はアンチモンを用いてもよく、ビスマスとアンチモンとを混合して用いてもよい。
【0020】
上記金属は、ビスマス及びアンチモンの他に、他の金属を含んでいてもよい。他の金属としては、効率よくチタン合金を得ることができれば特に限定されないが、例えば、Zn、Pb、Cu、Ni、Sn等が挙げられる。
【0021】
上記工程1で用いられる混合物は、ビスマス及びアンチモンから選択される少なくとも1種の金属と、マグネシウムとを、溶融された液体の状態で含むことが好ましい。
【0022】
上記混合物は、マグネシウムを含むことによって、四塩化チタンを還元して上記金属とチタンとの液体合金を得ることが可能となる。本発明の製造方法においては、マグネシウムとしては、例えば、工程1により生成する副生成物である塩化マグネシウムを約670℃で電気分解して得られる液体の状態のマグネシウムを、再度工程1に供することができる。
【0023】
また、上記金属は、例えばビスマスの場合、工程2により副生成物として得られるビスマスと、これに含まれる微量のマグネシウムとを約300℃の液体の状態で、再度工程1に供することができる。工程1では、四塩化チタンによるマグネシウムの還元反応が行われ、当該反応は発熱反応であるため、反応熱によりマグネシウム及び上記金属の温度を上昇させて工程1に適した所望の温度とすることができる。この場合、工程1においては、ビスマスと、これに含まれる微量のマグネシウムとが約300℃で工程1に供給されることにより、上記反応熱による、マグネシウム及び上記金属の過剰な温度上昇が抑制されている。
【0024】
上記工程1では、上記混合物に四塩化チタンが添加される。これにより、四塩化チタンがマグネシウムにより還元され、ビスマス及びアンチモンから選択される少なくとも1種の金属と、チタンとの液体合金を得ることができる。この反応は、例えば、下記式(1)で表される。下記式(1)において、上記金属としてビスマスを用いた場合の反応を示す式を例示する。
TiCl
4+Bi+2Mg→Bi−Ti+2MgCl
2 (1)
上記式(1)において、Bi−Tiはビスマスとチタンとの液体合金を表す。
【0025】
四塩化チタンを添加する方法としては特に限定されないが、四塩化チタンは常温で液体であるので、例えば、反応器中に溶融した状態で存在する上記混合物に、反応器の上部から四塩化チタンを滴下することにより添加する方法が挙げられる。
【0026】
上記金属がビスマスである場合、混合物中のビスマス100モルに対する四塩化チタンの添加量は、88.7モル以下が好ましい。四塩化チタンの添加量を上述の範囲とすることにより、得られる液体合金中のチタン濃度を47at%以下とすることができ、
図1について後述するように、425〜930℃の温度範囲で固液共存状態とすることが可能となり、液体合金を工程2へ容易に連続的供給できる。
【0027】
また、上記金属がアンチモンである場合、混合物中のアンチモン100モルに対する四塩化チタンの添加量は、50モル以下が好ましい。四塩化チタンの添加量を上述の範囲とすることにより、得られる液体合金中のチタン濃度を33at%以下とすることができ、
図2について後述するように、631〜1010℃の温度範囲で固液共存状態とすることが可能となり、液体合金を工程2へ容易に連続的供給できる。
【0028】
また、工程1において、上記マグネシウムの添加量は、四塩化チタン100モルに対して200モル以上が好ましい。上記式(1)において示したように、四塩化チタン100モルに対してマグネシウムは200モル必要であるが、マグネシウムを過剰に添加することにより、添加した四塩化チタンを完全に反応させることができる。
【0029】
以上説明した工程1によれば、ビスマス及びアンチモンから選択される少なくとも1種の金属とチタンとの液体合金が、反応器の下層に生成する。また、反応器の上層には、副生成物である塩化マグネシウム(MgCl
2)が液体の状態で存在し、これらは、比重の相違により2相分離した状態となる。次いで、下層の液体合金を抜き取るか、上層の塩化マグネシウムを除去して、液体合金を工程2に供すればよい。
【0030】
2.工程2
工程2は、液体合金から、前記チタン以外の成分を除去する精製処理を施す工程である。工程1で得られる液体金属には、マグネシウムその他の不純物が含まれ、また、最終生成物であるチタン以外の、ビスマス又はアンチモンも含まれる。工程2において、これらのチタン以外の成分を除去することにより、最終生成物であるチタンが製造される。
【0031】
上記精製処理としては、液体合金からチタン以外の成分を除去することができれば特に限定されないが、電解精製及び蒸留精製から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0032】
(電解精製)
上記電解精製としては、液体合金を電極に用いた電解によって、液体合金を精製処理することができれば特に限定されないが、例えば、工程1で得られた液体合金をアノード、ニッケル板などの基板をカソードとして、NaCl−KClなどの溶融塩中に浸漬し、上記アノードとカソードとの間に電圧を印加して電解精製を行なう方法が挙げられる。
【0033】
上記電解精製において、カソードでは、下記式(2)で示される還元反応によって金属チタンが生成する。
Ti
n++ne
− → Ti (2)
なお、上記式(2)中のTi
n+は、下記式(3)で示すビスマス−チタン液体合金であるアノードの酸化溶解によって得られるチタンイオンである。
【0034】
また、アノードでは、液体合金中のチタンが下記式(3)で示される酸化反応によってチタンイオンが生成する。
Ti → Ti
n++ne
− (3)
上記電解精製の際の液体金属の温度は、上記金属としてビスマスを用いる場合、425〜930℃であることが好ましい。金属としてビスマスを用いる場合は、上記温度範囲で液体金属をアノードに用いると、液体金属中に、固体及び液体が共存する固液共存部分を調製することが可能であるので、電解精製により容易にカソードにチタンを生成させることができる。
【0035】
上記電解精製の際の上記金属とチタンとの割合は、上記金属としてビスマスを用いる場合、ビスマスとチタンとの合計に対して、チタンが47at%以下であることが好ましい。チタンの割合を上述の範囲とすることにより、425℃程度の低温度領域でもビスマス−チタンの液体金属を固液共存状態とすることができ、容易に電解精製を行うことが可能となる。
【0036】
図1は、ビスマス−チタン合金の状態図である。
図1から、ビスマス−チタン合金は、上述のように47at%以下の範囲では、425〜930℃の温度範囲で固液共存状態とすることが可能であることが分かる。これに対し、チタン濃度が47at%を超えると、930℃以下ではTi
3Bi
2等の固体となり、液体合金の工程2への連続的供給が困難となるおそれがある。
【0037】
上記電解精製の際の液体金属の温度は、上記金属としてアンチモンを用いる場合、631〜1010℃であることが好ましい。金属としてアンチモンを用いた場合は、上記温度範囲で液体金属をアノードに用いると、液体金属中に、固体及び液体が共存する固液共存部分を調製することが可能であるので、電解精製により容易にカソードにチタンを生成させることができる。
【0038】
上記電解精製の際の上記金属とチタンとの割合は、上記金属としてアンチモンを用いる場合、アンチモンとチタンの合計に対して、チタンが33at%以下であることが好ましい。チタンの割合を上述の範囲とすることにより、631℃程度の低温度領域でもアンチモン−チタンの液体金属を固液共存状態とすることができ、容易に電解精製を行うことが可能となる。
【0039】
図2は、アンチモン−チタン合金の状態図である。
図2から、アンチモン−チタン合金は、上述のように631〜1010℃の温度範囲で固液共存状態となることが分かる。これに対し、チタンが33at%を超えると、1010℃以下ではTiSb等の固体となり、液体合金の工程2への連続的供給が困難となるおそれがある。
【0040】
電解精製の際の電圧は、析出するチタンへの、ビスマス及びアンチモンの混入を抑制し、かつエネルギー効率を高めることができる点で、2.0V以下が好ましい。また、上記電圧が小さ過ぎると、電流密度が低下してしまい、チタンの生産速度が低下してしまうことから、電流密度は0.5〜1.0Acm
−2が好ましい。
【0041】
上記電解精製は、アルゴン、ヘリウム、窒素等の不活性雰囲気下で行うことが好ましい。不活性雰囲気下で電解精製を行なうことにより、精製されたチタンの酸化を抑制することができる。
【0042】
上記電解精製においては、偏析により得られた固液共存部分を電解精製に用いることが好ましい。偏析により得られた固液共存部分は、後述するようにチタン濃度が高いため、このような精製処理により、より効率よくチタンを得ることができる。
【0043】
上記電解精製は、溶融塩中で行なわれることが好ましい。上記溶融塩としては、電解精製により液体合金からチタンが得られれば特に限定されないが、例えば、NaCl−KClの等モル混合塩に二塩化チタンを1.0mol%加えて電解槽中に入れ、アルゴン雰囲気下で、700℃に加熱保持して得られる溶融塩が挙げられる。
【0044】
また、上記溶融塩としては、LiCl−KCl共融組成塩を用いてもよい。
【0045】
上記電解精製により、液体合金から、チタン以外の成分を除去して、チタンを得ることができる。
【0046】
(蒸留精製)
上記精製処理は、また、蒸留精製であってもよい。チタンは、ビスマス及びアンチモンから選択される少なくとも1種の金属よりも沸点が遥かに高い。このため、加熱温度を適宜調整して液体合金を加熱し、蒸留装置内を吸引することにより、蒸留装置にチタンが残留し、チタン以外の成分が除去される。
【0047】
上記蒸留精製は、ビスマス及びアンチモンから選択される少なくとも1種の金属とチタンとの液体合金から、チタンを分離できれば特に限定されないが、真空蒸留精製であることが好ましい。上記真空蒸留精製としては、密閉された蒸留装置に上記液体合金を入れ、蒸留装置内を吸引して真空状態として、適切な温度で加熱することによりチタン以外の成分を気化させて除去する方法が挙げられる。
【0048】
上記加熱温度は、上記金属としてビスマスを用いる場合、900〜1200℃が好ましく、950〜1100℃がより好ましい。加熱温度が低すぎると、ビスマス等のチタン以外の成分が十分に除去できないおそれがある。加熱温度が高過ぎると、加熱のためのエネルギーが必要となり、経済性に劣るおそれがある。
【0049】
上記加熱温度は、上記金属としてアンチモンを用いる場合、700〜1100℃が好ましく、800〜1000℃がより好ましい。加熱温度が低すぎると、アンチモン等のチタン以外の成分が十分に除去できないおそれがある。加熱温度が高過ぎると、加熱のためのエネルギーが必要となり、経済性に劣るおそれがある。
【0050】
上記加熱時間は、チタン10tあたり10〜50時間が好ましい。加熱時間が短すぎると、チタン以外の成分が十分に除去できないおそれがある。加熱時間が長過ぎると、経済性及びチタンの製造速度に劣るおそれがある。
【0051】
上記精製処理は真空蒸留精製であり、偏析により得られた固液共存部分を真空蒸留精製に用いることが好ましい。偏析により得られた固液共存部分は、後述するようにチタン濃度が高いため、このような精製処理により、より効率よくチタンを得ることができる。
【0052】
以上説明した工程2により、上記液体合金からチタン以外の成分を除去することができ、チタンを得ることができる。
【0053】
3.他の工程
本発明のチタンの製造方法は、上記工程1の後で、上記工程2の前に、上記液体合金を偏析させて、液体部分と、固体及び液体が共存する固液共存部分とに分離する工程を更に含んでいてもよい。
【0054】
図1に示すように、ビスマス−チタン合金は、例えば425〜930℃の温度で液体合金中のチタン濃度が47at%以下である場合、液体合金中にはTi
8Bi
9の固体が析出して固液共存状態となる。Ti
8Bi
9の固体は、液体合金よりも密度が小さいため、液体合金中で浮上して液体合金の上層に移動する。当該Ti
8Bi
9はチタン濃度が高いので、液体合金の上層部はチタン濃度が高くなる。このため、工程1の後で、工程2の前に液体合金を偏析させ、液体合金の上層を工程2に供することにより、工程2に用いられる液体合金のチタン濃度を予め高めることができ、より効率よくチタンを製造することができる。
【0055】
同様に、
図2に示すように、アンチモン−チタン合金は、例えば631〜1010℃の温度で液体合金中のチタン濃度が33at%以下である場合、液体合金中にはTiSb
2の固体が析出して固液共存状態となる。TiSb
2の固体は、液体合金よりも密度が小さいため、液体合金中で浮上して液体合金の上層に移動する。当該TiSb
2はチタン濃度が高いので、液体合金の上層部はチタン濃度が高くなる。このため、工程1の後で、工程2の前に液体合金を偏析させ、液体合金の上層を工程2に供することにより、工程2に用いられる液体合金のチタン濃度を予め高めることができ、より効率よくチタンを製造することができる。
【0056】
上記偏析は、具体的には、液体合金の温度を用いる金属に合わせて上述の温度範囲に保ち、液体金属中のチタン濃度を用いる金属に合わせて上述の濃度の範囲に調整して、一定時間静置することにより行なえばよい。上記静置時間は0.1〜10時間であることが好ましい。