特許第6095395号(P6095395)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6095395
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】ソフトカプセルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/48 20060101AFI20170306BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20170306BHJP
【FI】
   A61K9/48
   A61K47/42
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-27270(P2013-27270)
(22)【出願日】2013年2月15日
(65)【公開番号】特開2014-156413(P2014-156413A)
(43)【公開日】2014年8月28日
【審査請求日】2016年2月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】503315676
【氏名又は名称】中日本カプセル 株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098224
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 勘次
(74)【代理人】
【識別番号】100140671
【弁理士】
【氏名又は名称】大矢 正代
(72)【発明者】
【氏名】山中 穰
(72)【発明者】
【氏名】山中 利恭
(72)【発明者】
【氏名】須原 渉
(72)【発明者】
【氏名】梅村 英行
【審査官】 上條 肇
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第04601896(US,A)
【文献】 特開2010−047548(JP,A)
【文献】 特開2005−290308(JP,A)
【文献】 特開2006−008654(JP,A)
【文献】 特開平04−134002(JP,A)
【文献】 特開2007−185490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/48 − 9/64
A61K 47/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸・アルカリ・酵素を作用させていない未変性コラーゲンと、該未変性コラーゲン100重量部に対して188重量部〜319重量部の水とを含有する懸濁液を調製し、
ロータリーダイ式成形装置により、前記懸濁液からカプセル皮膜を成形すると共に、成形されたカプセル皮膜に内容物が充填されたソフトカプセルを製造する
ことを特徴とするソフトカプセルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソフトカプセルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的なソフトカプセルは、皮膜基剤としてゼラチンが使用されている。ゼラチンは、皮膜形成能に優れ、形成された皮膜の機械的強度が高いこと、常温に近い温度変化により可逆的にゾル・ゲル変化すること、形成された皮膜が体内で崩壊又は溶解し易いこと、水に溶解するため皮膜成形用の溶液を作り易いこと等、ソフトカプセルの皮膜基剤としての利点を多く有している。
【0003】
ゼラチンは、牛骨、牛皮、豚皮、魚皮、鱗などを原料とし、これらの原料に含まれるコラーゲンを酸またはアルカリで前処理した後、加熱により変性させて部分的に加水分解し、熱水で抽出したコラーゲンの変性体(変性コラーゲン)である。
【0004】
コラーゲン分子は、アミノ酸残基が約1000のポリペプチド鎖の3本が螺旋状にねじり合わされた三重螺旋構造を有している。このような分子構造を有するコラーゲンに酸・アルカリを作用させ、更に加熱すると、コラーゲン分子の安定化に寄与している非共有結合が切断され、三重螺旋構造がほぐれてバラバラになり、一本鎖のランダムコイル状となる。これが、コラーゲンの「変性」である。また、動物性や植物性のタンパク質分解酵素を作用させて、コラーゲンを変性させる方法もある。
【0005】
未変性コラーゲンは、ゼラチンとは異なり水に不溶であり、温度変化によってゾル・ゲル変化する性質を有しないため、従来ではソフトカプセルの皮膜基剤として使用されることはなかったところ、本発明者らは所定の条件に調整することにより、コラーゲンからゼラチンまで変性させていない未変性コラーゲンを皮膜基剤としてカプセル皮膜を成形し、ソフトカプセルを製造できることを見出し、本発明に至ったものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、未変性コラーゲンをカプセル皮膜の皮膜基剤とする新規なソフトカプセルの製造方法の提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明にかかるソフトカプセルの製造方法(以下、単に「製造方法」と称することがある)は、「酸・アルカリ・酵素を作用させていない未変性コラーゲンと、該未変性コラーゲン100重量部に対して188重量部〜319重量部の水とを含有する懸濁液を調製し、ロータリーダイ式成形装置により、前記懸濁液からカプセル皮膜を成形すると共に、成形されたカプセル皮膜に内容物が充填されたソフトカプセルを製造する」ものである。
【0008】
本構成の製造方法により、未変性コラーゲンを皮膜基剤としてカプセル皮膜を成形性よく成形し、実用的なソフトカプセルを製造することができる。そして、未変性コラーゲンを皮膜基剤とする場合に、カプセル皮膜用の原液である懸濁液における水の割合として適している上記範囲は、後述するように、ゼラチンを皮膜基剤とする場合の皮膜用のカプセル原液における水の割合として適している値より、大きな値であった。
【0009】
なお、カプセル皮膜用の懸濁液には、未変性コラーゲン、水に加えて、可塑剤を添加することができる。可塑剤としては、グリセリン、ソルビトール、マルチトール、ポリエチレングリコール等を、単独又は併用して使用することができる。
【0010】
次に、本発明にかかるソフトカプセルの製造方法により製造されるソフトカプセルは、「ロータリーダイ式成形装置により成形された継ぎ目を有するカプセル皮膜に内容物が充填されたソフトカプセルであって、前記カプセル皮膜には未変性コラーゲンが含有されており、前記カプセル皮膜は不透明である」ものである。
【0011】
本構成のソフトカプセルは、上記の製造方法により製造されるものであり、カプセル皮膜に未変性コラーゲンを含有している。そして、未変性コラーゲンは水に不溶であるため、上記の製造方法においてカプセル皮膜の原液は懸濁液であり、その懸濁液から成形されたカプセル皮膜は、ゼラチン製のカプセル皮膜とは異なり不透明である。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明の効果として、未変性コラーゲンをカプセル皮膜の皮膜基剤とする新規なソフトカプセルの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態であるソフトカプセルの製造方法について説明する。本実施形態のソフトカプセルの製造方法は、酸・アルカリ・酵素を作用させていない未変性コラーゲン、未変性コラーゲン100重量部に対して188重量部〜319重量の水、及び可塑剤を混合した懸濁液を調製し、ロータリーダイ式成形装置により、懸濁液からカプセル皮膜を成形すると共に、成形されたカプセル皮膜に内容物が充填されたソフトカプセルを製造するものである。
【0014】
本製造方法では、「酸・アルカリ・酵素を作用させていない未変性コラーゲン、未変性コラーゲン100重量部に対して188重量部〜319重量の水、及び可塑剤を混合した懸濁液」が、カプセル皮膜を成形するための原液であり、以下「皮膜用懸濁液」と称する。
【0015】
ロータリーダイ式成形装置は、一般的に、カプセル皮膜用の原液をフィルム状に成形するキャスティングドラムと、外表面に成形鋳型が形成された一対のダイロールと、ダイロール間に配された内容物充填用のくさび状セグメントと、セグメント内に内容物を圧入すると共にセグメントの先端から内容物を押し出すポンプとを主に具備している。
【0016】
かかる構成のロータリーダイ式成形装置では、まず、カプセル皮膜用の原液が、キャスティングドラムの表面に流延され、冷却されてゲル化することによりフィルム化される。次に、形成されたフィルムの二枚が、セグメントに沿って一対のダイロール間に送入される。そして、一対のダイロールの相反する方向への回転に伴い、二枚のフィルムがヒートシールされて上方に開放したソフトカプセル皮膜が形成されると、この中にセグメントから押し出された内容物が充填される。これと同時に、二枚のフィルムが上部でヒートシールされ、閉じた内部空間に内容物が充填されたソフトカプセルが形成される。
【0017】
なお、得られたソフトカプセルは、所定の水分含有率となるまで調湿乾燥機内で乾燥させることができる。
【0018】
本実施形態では未変性コラーゲンとして、第一化成社製の「コラーゲン製剤プログレス−CGL」を使用した。これは、豚皮を原料とし、チョッパーで豚皮を切断し油分を洗い流した後、常温の水でコラーゲンを抽出し、抽出液を乾燥、粉砕した粉末である。通常は、ベーコンやハム等の食肉加工品に添加することにより、スライス加工をし易くして歩留まりを高めたり、食味のジューシー感を高めたりする目的で使用される材料である。
【0019】
この未変性コラーゲンの栄養成分値を、同じく豚皮を由来とするゼラチンと対比して表1に示す。未変性コラーゲンは、ゼラチンには残存しない脂質や炭水化物を含有しており、水分含有率もゼラチンより低い。
【0020】
【表1】
【0021】
次に、本実施形態の皮膜用懸濁液を、上記組成とした根拠について説明する。表2に示すように、未変性コラーゲン100重量部に対して、グリセリンを37重量部と一定とし、水の割合の異なる試料S11〜S19の皮膜用懸濁液を調製し、それぞれ80℃で1時間混合した。脱泡後、60℃で24時間静置した皮膜用懸濁液を使用し、ロータリーダイ式成形装置によるカプセル皮膜の成形を行った。成形の際、皮膜用懸濁液の流延温度を60℃、冷却温度を20℃、ヒートシール温度を45℃とした。カプセル皮膜には、内容物として植物油(サフラワー油)を充填し、オーバル型のソフトカプセルを得た。
【0022】
皮膜用懸濁液の流延性、カプセル皮膜の柔軟性、強度、ヒートシール性、及び崩壊性を、次のように評価した。それぞれの評価結果を、表2にあわせて示す。なお、表2の皮膜用懸濁液の組成において、水の割合は、未変性コラーゲンの原料である「コラーゲン製剤プログレス−CGL」に含有される水分を含めた割合である。
【0023】
<皮膜用懸濁液の流延性の評価>
皮膜用懸濁液の粘度を測定し、流延し易さを考慮して粘度が10,000mPa・s〜200,000mPa・sである場合を「○」で、10,000mPa・s未満または200,000mPa・sより高い場合を「×」で評価した。ここで、粘度は、B型粘度計を使用し(No.4ローター,回転速度3rpm)、温度60℃で測定した。
【0024】
<カプセル皮膜の柔軟性の評価>
皮膜用懸濁液を流延し、冷却によりゲル化したフィルムの感触について、適度に柔軟である場合を「○」で、柔らか過ぎたり伸び過ぎたりする場合、あるいは、硬く柔軟性に欠ける(脆い)場合を「×」で評価した。
【0025】
<カプセル皮膜の強度の評価>
皮膜用懸濁液を流延し、冷却によりゲル化したフィルムを切断し、10cm×10cmのサイズの試験片を作成した。この試験片を、温度20℃、相対湿度25%の環境下で保存した。二日経過後に試験片を手で二つ折りにし、割れや亀裂が生じなかった場合を「○」で、割れた場合を「×」で評価した。
【0026】
<カプセル皮膜のヒートシール性の評価>
内容物が充填されたソフトカプセルを、温度40℃、相対湿度75%の環境下で2カ月保存し、内容物の漏れがないかを肉眼で観察した。ここで、温度40℃、相対湿度75%の環境下における2カ月の保存(加速試験)は、常温における1年の保存に相当する。また、冷凍保存したソフトカプセルについても、2カ月経過後に内容物の漏れがないかを肉眼で観察した。何れの保存条件についても、内容物の漏れがなかった場合を「○」で、僅かでも漏れが認められた場合を「×」で評価した。
【0027】
<カプセル皮膜の崩壊性の評価>
日本薬局方の規定に則って崩壊試験を行い、20分以内に崩壊した場合を「○」、それ以外を「×」で評価した。
【0028】
【表2】
【0029】
流延性、柔軟性、強度、ヒートシール性、及び崩壊性の何れにおいても、「○」の評価であった試料S13〜S17の皮膜用懸濁液からは、実用的なカプセル皮膜が得られると判断することができる。従って、未変性コラーゲン100重量部に対する水の割合を188重量部〜319重量部の範囲として皮膜用懸濁液を調製することにより、実用的なカプセル皮膜を成形できることが確認された。
【0030】
対比のために、豚皮由来のゼラチンを皮膜基剤とした場合に、実用的なカプセル皮膜が得られる水の割合を検討した結果を示す。表3に示すように、ゼラチン100重量部に対して、グリセリンを37重量部と一定とし、水の割合の異なる試料R11〜R16のカプセル皮膜用の原液(以下、「皮膜用溶液」と称する)を調製した。調製された皮膜用溶液を使用し、ロータリーダイ式成形装置によるカプセル皮膜の成形を行った。カプセル皮膜には、内容物として植物油(サフラワー油)を充填し、オーバル型のソフトカプセルを得た。皮膜用溶液の流延性、カプセル皮膜の柔軟性、強度、ヒートシール性、及び崩壊性を、上記の方法で評価した。それぞれの評価結果を、表3にあわせて示す。
【0031】
【表3】
【0032】
表3に示すように、ゼラチンを皮膜基剤とする場合は、ゼラチン100重量部に対する水の割合が125重量部以下の皮膜用溶液からは実用的なカプセル皮膜が成形できるが、ゼラチン100重量部に対する水の割合が181重量部以上の皮膜用溶液からは、実用的なカプセル皮膜を成形することはできなかった。すなわち、未変性コラーゲンを皮膜基剤とする場合に、実用的なカプセル皮膜が成形できる皮膜用懸濁液における水の割合(皮膜基剤100重量部に対して188重量部〜319重量部)は、ゼラチンを皮膜基剤とする場合に、実用的なカプセル皮膜が成形できる皮膜用溶液における水の割合に比べて、かなり大きいと言うことができる。
【0033】
以上のように、本実施形態の製造方法によれば、酸・アルカリ・酵素を作用させておらず、抽出時の温度も常温である未変性コラーゲンを皮膜基剤として、カプセル皮膜を成形し実用的なソフトカプセルを製造することができる。
【0034】
そして、未変性コラーゲンを皮膜基剤とする場合、皮膜用懸濁液における水の割合として適している値は、ゼラチンを皮膜基剤とする場合の皮膜用溶液における水の割合として適している値よりも、大きいものであった。
【0035】
なお、未変性コラーゲンを皮膜基剤とする場合の皮膜化の機構は明らかではないが、成形過程において未変性コラーゲンのごく一部がゼラチン化し、ゲル化及びヒートシールに寄与していると考えられる。試みに、試料S16と同様の組成で未変性コラーゲン、グリセリン、水を混合し、それぞれ常温、40℃、45℃、50℃、60℃、70℃、80℃、90℃で、所定時間加熱した。未変性コラーゲンを水及びグリセリンと常温で混合した混合液は、最初、流動性のない膨潤状態であるが、加熱温度が60℃以上の場合はそれぞれ30分の加熱で流動性のある懸濁液となった。この懸濁液は、常温に冷却することによりゲル化すると共に、再加熱によりゲルから流動性のある懸濁液に戻った。また、懸濁液を流延して冷却することにより、シート状の皮膜が得られた。
【0036】
一方、加熱温度が45℃、50℃の場合は、それぞれ15時間の加熱により流動性のある懸濁液となった。この懸濁液は、常温に冷却することにより流動性を失ったが、懸濁液を流延し冷却して得られたゲルは脆く、シート状の皮膜は得られなかった。また、加熱温度が40℃及び常温の場合は、65時間という長時間加熱しても、混合液は流動性を有する状態にならなかった。
【0037】
以上のことから、本実施形態では、未変性コラーゲンを皮膜基剤とする皮膜用懸濁液を、カプセル皮膜の成形に先立ち60℃以上の温度下におくことにより、未変性コラーゲンのごく一部がゼラチン化し、皮膜形成のためのゲル化、及び、皮膜のヒートシールのためのゾル・ゲル変化に寄与していると考えられた。すなわち、本実施形態の製造方法によれば、予めコラーゲンを変性させるという手間をかけたゼラチンを皮膜基剤として使用することなく、未変性コラーゲンを使用して、ロータリーダイ式でソフトカプセルを製造することができる。
【0038】
また、上記実施形態の製造方法で製造されたカプセル皮膜は、ロータリーダイ式成形装置により成形された継ぎ目を有するカプセル皮膜に内容物が充填されたソフトカプセルであって、カプセル皮膜は不透明であった。すなわち、本実施形態のソフトカプセルのカプセル皮膜は、ゼラチン製のカプセル皮膜が透明であるのに対し、不透明であった。このことから、上記のように製造過程において未変性コラーゲンの一部がゼラチン化しているとしても、全部がゼラチンとなっている訳ではなく、カプセル皮膜には未変性コラーゲンが含有されていると考えられた。
【0039】
なお、従来、ソフトカプセルは、透明な外観に高い商品的価値を有すると考えられてきた。しかしながら、見方を変えれば、不透明な外観によって、従来のゼラチン製カプセルとは異なる材料で形成された新規なカプセルであるという強い印象を、需要者に与えることができる。また、ソフトカプセルには、光によって変質しやすい成分を内容物に含むものがあるが、不透明なカプセル皮膜はそのようなソフトカプセルに適している。
【0040】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0041】
例えば、上記では、オーバル型のソフトカプセルを例示したが、ソフトカプセルの形状は特に限定されない。また、カプセル皮膜に充填する内容物は、特に限定されるものではなく、健康食品成分、栄養補助成分、医薬成分、化粧料等を内容物とすることができる。