特許第6095399号(P6095399)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6095399ホルムアルデヒド分解微生物及び当該微生物を用いたホルムアルデヒド分解方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6095399
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】ホルムアルデヒド分解微生物及び当該微生物を用いたホルムアルデヒド分解方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20170306BHJP
   C02F 3/34 20060101ALN20170306BHJP
【FI】
   C12N1/20 AZNA
   C12N1/20 F
   !C02F3/34 Z
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-28389(P2013-28389)
(22)【出願日】2013年2月15日
(65)【公開番号】特開2014-155467(P2014-155467A)
(43)【公開日】2014年8月28日
【審査請求日】2016年2月12日
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-1491
(73)【特許権者】
【識別番号】000177014
【氏名又は名称】三木理研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100117503
【弁理士】
【氏名又は名称】間瀬 ▲けい▼一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100121784
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 稔
(72)【発明者】
【氏名】中川 和城
(72)【発明者】
【氏名】堀 公二
(72)【発明者】
【氏名】米光 裕
【審査官】 福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】 Methylobacterium fujisawaense gene for 16S rRNA, partial sequence,NCBI, GenBank: AB558142, 20-APR-2012,[検索日:2016年12月1日],URL,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/295147952?sat=18&satkey=27776308
【文献】 Methylobacterium fujisawaense gene for 16S ribosomal RNA, partial sequence, strain: z100a,NCBI, GenBank: AB698695, 27-JUL-2012,[online],[検索日:2016年12月1日],URL,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/397787466?sat=18&satkey=27775983
【文献】 Methylobacterium fujisawaense strain STY1 16S ribosomal RNA gene, partial sequence,NCBI, GenBank: HQ220123, 26-OCT-2011,[online],[検索日:2016年12月1日],URL,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/HQ220123
【文献】 International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology, 2005, vol.55, p.281-287,DOI 10.1099/ijs.0.63319-0
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
SwissProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチロバクテリウム フジサワエンス FD−1(Methylobacterium fujisawaense FD−1;NITE P−1491)と命名された微生物。
【請求項2】
ホルムアルデヒド分解能を有することを特徴とする請求項1に記載の微生物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の微生物を用いることを特徴とするホルムアルデヒド分解方法。
【請求項4】
ホルムアルデヒド分解における至適温度が35℃〜45℃であり、且つ、至適pHが5〜7であることを特徴とする請求項3に記載のホルムアルデヒド分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホルムアルデヒド分解能を有する新規微生物に関するものである。また、この微生物を用いてホルムアルデヒドを分解するホルムアルデヒド分解方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホルムアルデヒド(その水溶液を「ホルマリン」ともいう。)は、反応性の高い物質であり樹脂の架橋剤などとして多くの工業分野に使用されている。例えば、フェノールホルマリン樹脂やメラミンホルマリン樹脂は接着剤として広く使用されている。また、メラミンホルマリン樹脂や尿素ホルマリン樹脂は繊維や紙の改質剤として広く使用されている。また、ホルムアルデヒドの殺菌力を利用してホルマリンが医療分野においても消毒剤として広く使用されている。
【0003】
このように多くの分野で広く使用されているホルムアルデヒドは、その一方で、刺激性が強く、細胞毒性を有することから環境汚染物質にも指定されている。また、シックハウス症候群の原因物質の1つにも挙げられ、水中或いは大気中での分解が求められている。特に、高濃度のホルムアルデヒドを使用する業界、例えば、繊維業界、紙業界或いは医療分野においても、廃水中のホルムアルデヒドを分解除去することが求められている。
【0004】
ホルムアルデヒドを分解するには、吸着などの物理的方法、酸化分解などの化学的方法に加え、微生物を利用した生物学的方法も広く検討されている。特に、廃水処理施設で活性汚泥処理に併用できる生物学的方法が着目されている。例えば、下記特許文献1及び特許文献2においては、ペニシリウム属やフサリウム属に属する微生物でホルムアルデヒドを分解することが提案されている。
【0005】
これらの微生物によるホルムアルデヒドの分解濃度は、0.1%(1,000ppm)程度であった。これに対して、下記特許文献3においては、0.3%〜0.5%濃度のホルムアルデヒドを分解できるペシロマイセス属に属する微生物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−19685号公報
【特許文献2】特開平11−19686号公報
【特許文献3】特開2003−52355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、上記特許文献1〜特許文献3の各微生物においては、0.1%〜0.5%濃度のホルムアルデヒドを分解するのが限界であった。実際にホルムアルデヒドを使用する工場の廃水処理においては、ホルムアルデヒド濃度は常に一定ではなく変動する。従って、高濃度のホルムアルデヒドが排出された際にも対応できるよう、高分解能を有する微生物が求められている。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に対処して、従来よりも高濃度のホルムアルデヒドを効率よく分解することのできる新規微生物を提供することを目的とする。また、本発明は、当該微生物を用いてホルムアルデヒドを効率よく分解することのできるホルムアルデヒド分解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題の解決にあたり、本発明者らは、鋭意研究の結果、ホルムアルデヒドを使用している工場の敷地内で採取した土壌の中から分離した微生物が高濃度のホルムアルデヒドを効率よく分解することを発見し、本発明の完成に至った。
【0011】
即ち、本発明に係る微生物は、請求項1の記載によると、メチロバクテリウム フジサワエンス FD−1(Methylobacterium fujisawaense FD−1;NITE P−1491)と命名された。
【0012】
また、本発明は、請求項の記載によると、請求項1に記載の微生物であって、ホルムアルデヒド分解能を有することを特徴とする。
【0013】
一方、本発明に係るホルムアルデヒド分解方法は、請求項の記載によると、請求項1又は2に記載の微生物を用いることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、請求項の記載によると、請求項に記載のホルムアルデヒド分解方法であって、ホルムアルデヒド分解における至適温度が35℃〜45℃であり、且つ、至適pHが5〜7であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
上記構成の微生物によれば、従来よりも高濃度のホルムアルデヒドを効率よく分解することができる。また、上記構成の本発明は、当該微生物を用いてホルムアルデヒドを効率よく分解することのできるホルムアルデヒド分解方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る微生物を分離した際のFD−1株の写真である。
図2】本発明に係る微生物の形態を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図3】本発明に係る微生物の16S−rRNA遺伝子の一部の塩基配列データである。
図4】本発明に係る微生物による培地中の0.1%(1,000mg/L)ホルムアルデヒドに対する分解試験の結果を示すグラフである。
図5】本発明に係る微生物による培地中の0.4%(4,000mg/L)ホルムアルデヒドに対する分解試験の結果を示すグラフである。
図6】本発明に係る微生物による培地中の1.0%(10,000mg/L)ホルムアルデヒドに対する分解試験の結果を示すグラフである。
図7】本発明に係る微生物による培地中の2.0%(20,000mg/L)ホルムアルデヒドに対する分解試験の結果を示すグラフである。
図8】本発明に係る微生物による培地中の3.0%(30,000mg/L)ホルムアルデヒドに対する分解試験の結果を示すグラフである。
図9】本発明に係る微生物による工場廃水中の0.2%(2,000mg/L)ホルムアルデヒドに対する分解試験の結果を示すグラフである。
図10】本発明に係る微生物によるホルムアルデヒド含有樹脂中の0.08%(800mg/L)ホルムアルデヒドに対する分解試験の結果を示すグラフである。
図11】本発明に係る微生物によるホルムアルデヒド分解の際の至適温度を示すグラフである。
図12】本発明に係る微生物によるホルムアルデヒド分解の際の至適pHを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る微生物は、メチロバクテリウム属フジサワエンス種(Methylobacterium fujisawaense)に属するものであり、従来よりも高濃度のホルムアルデヒドを効率よく分解する能力を有するものである。
【0018】
本発明に係る微生物は、以下のようにして分離された。和歌山県内のホルムアルデヒド含有樹脂を製造する工場の敷地内で採取した土壌を生理食塩水に懸濁し、静置後の上澄み液を0.1%(1,000mg/L)のホルムアルデヒドを含む寒天培地(K2HPO4 :1.0g/L、MgSO4・7H2O:0.5g/L、KCl:0.5g/L、酵母エキス:0.1g/L、FeSO4・7H2O:0.01g/L)に播種し、30℃にて1〜2週間振盪培養した。
【0019】
培養の結果、数種のコロニーが生じた。これらの菌株のホルムアルデヒド分解能を調べるために、ホルムアルデヒド分解実験を行った。具体的には、初発菌体濃度を光学密度:OD660≒0.003として1週間培養を行った。その結果、ピンク色のコロニーを形成した1種が、0.1%(1,000mg/L)濃度のホルムアルデヒドを99%以上分解した。このコロニーの写真を図1(コロニーの色は表現していない)に示す。
【0020】
その他のコロニーの菌株は、25〜85%の分解率に留まった。そこで、最も分解率の高かった菌株(ピンク色のコロニー:図1参照)を「FD−1株」と命名した。
【0021】
このようにして分離した本発明に係る新規微生物、FD−1株の菌学的性質の一部を以下に示す。
(1)生理学的性質
グラム染色性により判断した。FD−1株をLB寒天培地で30℃にて一晩培養後、生じたコロニーから菌体を取り上げ、スライドグラス上の水滴に懸濁した。この菌体を風乾後、火炎固定した。次いで、クリスタルバイオレットで染色しヨウ素液で媒染した後、95%エタノール液で洗浄した。グラム染色の結果、FD−1株は、グラム陽性菌と示唆された。
(2)形態的性質
走査型電子顕微鏡観察(SEM観察)により判断した。FD−1株をSoy Broth寒天培地で30℃にて振盪培養し、遠心分離により菌体を回収した。この菌体を生理食塩水で2回洗浄した後、1%グルタルアルデヒド含有50mMカコジル酸緩衝液に懸濁し、4℃で60分間固定した。次いで、この菌体を50%、70%、90%、95%及び100%アセトン水溶液に順に浸して脱水した。その後、アセトンを除去して乾燥し、白金蒸着を行った。この試料を走査型電子顕微鏡JSM−6380V(日本電子株式会社製)にて観察した。
【0022】
観察した走査型電子顕微鏡写真(SEM写真)を図2に示す。SEM観察の結果、大きさが0.8〜1.2μm×1.5〜4.0μmの桿菌であった(図2参照)。
【0023】
次に、FD−1株に対して、16S−rRNA遺伝子の解析による菌株の同定を行った。まず、菌体より抽出したゲノムDNAから16S−rRNA断片の一部をPCR増幅した。次に、得られた16S−rRNA断片から形質転換大腸菌を得て培養し、遠心分離にて回収した菌体から組換えプラスミドの抽出、精製を行った。得られた16S−rRNA遺伝子断片の塩基配列をジデオキシ法により決定した。FD−1株の16S−rRNA遺伝子の一部(約890bp)の塩基配列データを図3に示す。
【0024】
次に、上記方法で得られた16S−rRNA遺伝子の一部の塩基配列データは、相同性検索ソフト:BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)により、既知バクテリア遺伝子の塩基配列と相同性検索を行った。その結果、FD−1株は、メチロバクテリウム フジサワエンス(Methylobacterium fujisawaense)の16S−rRNA遺伝子と99.8%(888bp/890bp)の相同性を示した。
【0025】
以上の結果から、本発明者らは、本発明に係るFD−1株は、メチロバクテリウム フジサワエンス(Methylobacterium fujisawaense)と同定した。なお、FD−1株については、「Methylobacterium fujisawaense FD−1株」の識別表示により、平成24年(2012年)12月19日に独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD)において日本国に寄託された(受託番号:NITE P−1491)。
【0026】
以下、「Methylobacterium fujisawaense FD−1株(NITE P−1491)」を略して、「M.f.FD−1株(NITE P−1491)」という。
【0027】
次に、M.f.FD−1株(NITE P−1491)を用いてホルムアルデヒドを分解するホルムアルデヒド分解方法について説明する。
【0028】
A.ホルムアルデヒド分解試験
まず、M.f.FD−1株(NITE P−1491)をSoy Broth寒天培地に接種し、30℃にて1〜3日間培養した。生じたコロニーの菌体を白金耳で少量取り上げ、5mLのSoy Broth液体培地に接種し、30℃にて2〜4日間振盪培養した。この培養液5 mLから菌体を遠心分離により全量回収した。
【0029】
次に、回収した菌体のホルムアルデヒド分解能を調べるために、各濃度のホルムアルデヒド含有培地を用いてホルムアルデヒド分解試験を行った。具体的には、回収した菌体を各5mLの0.1%(1,000mg/L)〜3.0%(30,000mg/L)ホルムアルデヒド含有培地に懸濁し、30℃にて、振盪培養(120rpm)した。このとき、0.2%(2,000mg/L)を越えるホルムアルデヒド含有培地に関しては、pHを6〜7に調整するため、広域緩衝液、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、あるいはトリス緩衝液を適宜使用した。
【0030】
更に、実際の工場廃水(ホルムアルデヒド含有量0.2%(2,000mg/L))、及び、ホルムアルデヒド含有樹脂水溶液(リケレジンRG−1H、三木理研工業株式会社製、ホルムアルデヒド含有量0.08%(800mg/L))を用いて、同様のホルムアルデヒド分解試験を行った。
【0031】
B.ホルムアルデヒドの定量
培養液中のホルムアルデヒド濃度は、Nash法(1953年)により定量した。具体的には、ホルムアルデヒド分解試験の培養液を遠心分離後、上澄み液を蒸留水で適宜希釈した。培養液希釈液2mLに同量のアセチルアセトン溶液(酢酸アンモニウム150g/L、酢酸3ml/L及びアセチルアセトン2ml/Lを含有)を加え、室温にて90分間放置した。反応液中に生じた3、5−ジアセチル−1、4−ジヒドロルチジン濃度を分光光度計にて吸光度A415を測定することにより求め、この値からホルムアルデヒド濃度を算出した。
【0032】
C.菌体濃度の測定
培養液中の菌体濃度の測定は、分光光度計を用いて光学密度OD660を測定することで判断した。
【0033】
以下、上記方法により行ったホルムアルデヒド分解方法を各実施例により説明する。
【実施例1】
【0034】
0.1%(1,000mg/L)ホルムアルデヒド培地にM.f.FD−1株(NITE P−1491)を接種し、30℃にて振盪培養(120rpm)を行った。本実施例1の結果を図4に示す。図4において、初期の菌体濃度は、OD660=0.85であった。また、30℃での振盪培養の結果、菌体濃度はほぼ一定に推移した。一方、培養液中のホルムアルデヒドは、培養8時間で95%が分解された(図4参照)。
【実施例2】
【0035】
0.4%(4,000mg/L)ホルムアルデヒド培地にM.f.FD−1株(NITE P−1491)を接種し、30℃にて振盪培養(120rpm)を行った。本実施例2においては、リン酸緩衝液を用いてpHを6〜7に調整した。本実施例2の結果を図5に示す。図5において、初期の菌体濃度は、OD660=1.0であった。また、30℃での振盪培養の結果、菌体濃度はやや減少した。一方、培養液中のホルムアルデヒドは、培養9時間で95%が分解された(図5参照)。
【実施例3】
【0036】
1.0%(1,0000mg/L)ホルムアルデヒド培地にM.f.FD−1株(NITE P−1491)を接種し、30℃にて振盪培養(120rpm)を行った。本実施例3においては、リン酸緩衝液を用いてpHを6〜7に調整した。本実施例3の結果を図6に示す。図6において、初期の菌体濃度は、OD660=1.1であった。また、30℃での振盪培養の結果、菌体濃度はやや減少した。一方、培養液中のホルムアルデヒドは、培養51時間で90%が分解された(図6参照)。
【実施例4】
【0037】
2.0%(20,000mg/L)ホルムアルデヒド培地にM.f.FD−1株(NITE P−1491)を接種し、30℃にて振盪培養(120rpm)を行った。本実施例4においては、リン酸緩衝液を用いてpHを6〜7に調整した。本実施例4の結果を図7に示す。図7において、初期の菌体濃度は、OD660=0.84であった。また、30℃での振盪培養の結果、菌体濃度は減少した。一方、培養液中のホルムアルデヒドは、培養47時間で99%が分解された(図7参照)。
【実施例5】
【0038】
3.0%(30,000mg/L)ホルムアルデヒド培地にM.f.FD−1株(NITE P−1491)を接種し、30℃にて振盪培養(120rpm)を行った。本実施例5においては、リン酸緩衝液を用いてpHを6〜7に調整した。本実施例5の結果を図8に示す。図8において、初期の菌体濃度は、OD660=0.87であった。また、30℃での振盪培養の結果、菌体濃度は減少した。一方、培養液中のホルムアルデヒドは、培養71時間で81%が分解された(図8参照)。
【実施例6】
【0039】
本実施例6においては、実際の工場廃水を用いてホルムアルデヒド分解試験を行った。具体的には、ホルムアルデヒド含有樹脂の製造工場における実際の工場廃水を用い、一般の活性汚泥処理と同様の処理濃度として使用した。従って、この工場廃水にはホルムアルデヒド以外に微生物の分解対象となる他の成分も含まれている。この工場廃水のホルムアルデヒド濃度は、0.2%(2,000mg/L)であった。
【0040】
この工場廃水にM.f.FD−1株(NITE P−1491)を接種し、30℃にて振盪培養(120rpm)を行った。本実施例6の結果を図9に示す。図9において、初期の菌体濃度は、OD660=0.87であった。また、30℃での振盪培養の結果、菌体濃度は初期に若干減少し、その後は徐々に増加してほぼ初期濃度に回復した。一方、培養液中のホルムアルデヒドは、培養24時間で90%が分解された(図9参照)。
【実施例7】
【0041】
本実施例7においては、ホルムアルデヒド含有樹脂水溶液(リケレジンRG−1H、三木理研工業株式会社製)を用いてホルムアルデヒド分解試験を行った。この樹脂水溶液中に残留するホルムアルデヒド濃度は、0.08%(800mg/L)であった。
【0042】
この希釈液にM.f.FD−1株(NITE P−1491)を接種し、30℃にて振盪培養(120rpm)を行った。本実施例7の結果を図10に示す。図10において、初期の菌体濃度は、OD660=0.43であった。また、30℃での振盪培養の結果、菌体濃度は初期に減少し、その後はほぼ一定に推移した。一方、培養液中のホルムアルデヒドは、培養11時間で65%が分解された(図10参照)。
【実施例8】
【0043】
本実施例8においては、M.f.FD−1株(NITE P−1491)の至適温度を確認した。具体的には、0.1%(1,000mg/L)ホルムアルデヒド含有培地のpHを6とし、この培地にM.f.FD−1株(NITE P−1491)を菌体濃度がOD660=0.8〜0.9になるように接種し、10℃、20℃、30℃、40℃及び50℃にて、それぞれ、3時間振盪培養(120rpm)した。
【0044】
培養後の各培地のホルムアルデヒド分解率を調べ、その結果を図11に示す。図11から分かるように、40℃における分解率が60%と最も高かった。従って、M.f.FD−1株(NITE P−1491)のホルムアルデヒド分解における至適温度は35℃〜45℃、特に40℃付近であると分かった。また、20℃及び50℃においても約30%の分解率があり、比較的幅広い温度範囲で分解することが分かった(図11参照)。
【実施例9】
【0045】
本実施例9においては、M.f.FD−1株(NITE P−1491)の至適pHを確認した。具体的には、0.1%(1,000mg/L)ホルムアルデヒド含有培地を各緩衝液(酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、トリス緩衝液)にて、pHを4、5、6、7、8及び9に調整した。pH調整後の各培地に、それぞれ、M.f.FD−1株(NITE P−1491)を菌体濃度がOD660=0.8〜0.9になるよう接種し、3時間振盪培養(120rpm)した。
【0046】
培養後の各培地のホルムアルデヒド分解率を調べ、その結果を図12に示す。図12から分かるように、酢酸緩衝液(pH4、5)においては、pH5の方がpH4よりもホルムアルデヒド分解率が高かった。また、リン酸緩衝液(pH5、6、7)においては、pH6で最も高いホルムアルデヒド分解率を示した。更に、トリス緩衝液(pH7、8、9)においては、pH7でのホルムアルデヒド分解率が高く、pH8、pH9とpHが高くなるに従ってホルムアルデヒド分解率が低下した。
【0047】
従って、M.f.FD−1株(NITE P−1491)のホルムアルデヒド分解における至適pHは5〜7の範囲、特に6付近であると分かった。また、pHが4〜8の比較的幅広いpH範囲においてもホルムアルデヒドが分解することが分かった(図12参照)。
【0048】
以上説明したように、本発明に係るM.f.FD−1株(NITE P−1491)は、ホルムアルデヒドを効率よく分解することができる。また、従来のホルムアルデヒド分解微生物のように低い濃度のホルムアルデヒドに限定されず、3.0%(30,000mg/L)という高濃度のホルムアルデヒドを分解することができ、更に高濃度でも分解が可能である。
【0049】
また、M.f.FD−1株(NITE P−1491)を用いたホルムアルデヒド分解方法においては、実際の工場廃水中のホルムアルデヒドを効率よく分解することができる。また、合成時にホルムアルデヒドを使用するホルムアルデヒド含有樹脂中に残留するフリーホルムアルデヒドを効率よく分解することができる。
【0050】
本発明に係るホルムアルデヒド分解方法を実施するに際しては、ホルムアルデヒドを含有する被処理水(工場廃水等)にM.f.FD−1株(NITE P−1491)を直接接種してもよく、或いは、ホルムアルデヒドを含有する被処理水(工場廃水等)にM.f.FD−1株(NITE P−1491)を予め培養した培養液を添加するようにしてもよい。
【0051】
また、M.f.FD−1株(NITE P−1491)を用いて被処理水(工場廃水等)中のホルムアルデヒドを分解する際の条件についても、特に限定するものではなく、通常行われている活性汚泥処理に準じて行えばよく、或いは、通常の活性汚泥処理槽中で行われる従来の微生物処理にM.f.FD−1株(NITE P−1491)を併用するようにしてもよい。
【0052】
このように、本発明においては、従来よりも高濃度のホルムアルデヒドを効率よく分解することのできる新規微生物を提供することができる。また、本発明においては、当該微生物を用いてホルムアルデヒドを効率よく分解することのできるホルムアルデヒド分解方法を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
これまで、メチロバクテリウム フジサワエンス(Methylobacterium fujisawaense)によるホルムアルデヒド分解の報告はない。更に、これまでの微生物によるホルムアルデヒド分解において、一部の文献に2.0%(20,000mg/L)のホルムアルデヒドを分解したとの報告は見られる。しかし、本発明のように3.0%(30,000mg/L)を超える高濃度のホルムアルデヒドを実用的なレベルで分解するという提案は見当たらない。
【0054】
従って、M.f.FD−1株(NITE P−1491)による高濃度ホルムアルデヒド分解能は、産業上非常に興味深いものであり、微生物によるホルムアルデヒドを含有する廃水処理の実用化のみならず、他の広い分野においても利用可能性を有するものである。
【受託番号】
【0055】
NITE P−1491
図1
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]