(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
気筒に設けられた点火プラグによる火花点火に先んじた点火コイルの一次側コイルへの通電の際、その通電を開始してから、一次側コイルを流れる一次電流の大きさが点火プラグにおける火花放電を惹起するのに十分な値に到達するまでの所要時間を学習し、
以後の点火の機会において、先に学習した所要時間に、現在の電源バッテリの状態を表す指標値、内燃機関の負荷を表す指標値及びEGR率を表す指標値に基づいて定められる予備時間を加味した上、一次電流を遮断し火花点火を惹起するべき時点から逆算して、一次側コイルへの通電開始時点を決定するものであり、
バッテリが十分に充電されている場合に前記予備時間を0とし、さもなくば現在の電源バッテリの状態を表す指標値、内燃機関の負荷を表す指標値及びEGR率を表す指標値に基づいて前記予備時間を定める火花点火式内燃機関の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1に、本実施形態における車両用内燃機関の概要を示す。本実施形態における内燃機関は、火花点火式ガソリンエンジンであり、複数の気筒1(
図1には、そのうち一つを図示している)を具備している。各気筒1の吸気ポート近傍には、燃料を噴射するインジェクタ11を設けている。また、各気筒1の燃焼室の天井部に、点火プラグ12を取り付けてある。
【0014】
図2に、火花点火用の電気回路を示している。点火プラグ12は、点火コイル14にて発生した誘導電圧の印加を受けて、中心電極と接地電極との間で火花放電を惹起するものである。点火コイル14は、半導体スイッチング素子131を包有するイグナイタ13とともに、コイルケースに一体的に内蔵される。
【0015】
内燃機関の制御装置たるECU(Electronic Control Unit)0からの点火信号iをイグナイタ13が受けると、まずイグナイタ13の半導体スイッチ131が点弧して点火コイル14の一次側に電流が流れ、その直後の火花点火のタイミングで半導体スイッチ131が消弧してこの電流が遮断される。すると、自己誘導作用が起こり、一次側に高電圧が発生する。そして、一次側と二次側とは磁気回路及び磁束を共有するので、二次側にさらに高い誘導電圧が発生する。二次側の誘導電圧は、10kVないし30kVに達する。この高い誘導電圧が点火プラグ12の中心電極に印加され、中心電極と接地電極との間で火花放電する。
【0016】
点火コイル14の一次側コイルは、半導体スイッチ131を介して車載の電源バッテリ17に接続する。半導体スイッチ131を点弧し、バッテリ17から供給される直流電圧を一次側コイルに印加して通電を開始すると、一次側コイルを流れる一次電流は逓増する。
【0017】
図3に、一次側コイルへの通電開始後の一次電流の推移を例示する。
図3中、電流制限機能が働かない場合を破線で描画し、電流制限機能が働く場合を鎖線で描画している(実線については、後述する)。バッテリ17及び一次側コイルを含む電気回路をRL直列回路と仮定すると、t=0時点にて直流電圧Eを印加した場合の一次電流I(t)は、
I(t)={1−e
-(R/L)t}E/R
となる。即ち、過渡現象として一次電流は逓増するが、その増加の速さは徐々に衰える。十分に長い時間が経過すると、
図3中の破線のように一次電流はE/Rに飽和する。
【0018】
イグナイタ13は、一次電流の過大化を抑制する電流制限機能を有している。この電流制限機能は、今日普及している既製のイグナイタと同様である。具体的には、制御回路132が、検出抵抗133を介して、一次電流を当該抵抗133の両端間電圧の形で恒常的に計測する。そして、その一次電流(抵抗133の両端間電圧)の大きさが既定値以下である間は半導体スイッチ131を点弧する一方、既定値を超えたときには半導体スイッチ131を消弧する。これにより、一次電流を
図3中の鎖線のように既定値にクリップする。
【0019】
さらに、イグナイタ13は、点火コイル14またはイグナイタ13自身の温度が閾値を超えるような異常発熱を感知した場合に、一次側コイルへの通電を強制的に遮断する機能をも有している。
【0020】
ECU0は、燃料の爆発燃焼の際に気筒1の燃焼室内に発生するイオン電流を検出し、このイオン電流を参照して、燃焼状態の判定を行う。
【0021】
図2に示すように、本実施形態では、火花点火用の電気回路に、イオン電流を検出するための回路を付加している。この検出回路は、イオン電流を効果的に検出するためのバイアス電源部15と、イオン電流の多寡に応じた検出電圧を増幅して出力する増幅部16とを備える。バイアス電源部15は、バイアス電圧を蓄えるキャパシタ151と、キャパシタ151の電圧を所定電圧まで高めるためのツェナーダイオード152と、電流阻止用のダイオード153、154と、イオン電流に応じた電圧を出力する負荷抵抗155とを含む。増幅部16は、オペアンプに代表される電圧増幅器161を含む。
【0022】
点火プラグ12の中心電極と接地電極との間のアーク放電時にはキャパシタ151が充電され、その後キャパシタ151に充電されたバイアス電圧により負荷抵抗155にイオン電流が流れる。イオン電流が流れることで生じる抵抗155の両端間の電圧は、増幅部16により増幅されてイオン電流信号hとしてECU0に受信される。
【0023】
図4に、正常燃焼における、イオン電流及び気筒1内の燃焼圧力(筒内圧)のそれぞれの推移を例示する。
図4中、イオン電流を実線で示し、燃焼圧を破線で示している。イオン電流は、点火のための放電中は検出することができない。正常燃焼の場合のイオン電流は、火花点火の終了後、化学反応により、圧縮上死点の手前で減少した後、熱解離によって再び増加する。また、燃焼圧がピークを迎えるのとほぼ同時にイオン電流も極大となる。
【0024】
吸気を供給するための吸気通路3は、外部から空気を取り入れて各気筒1の吸気ポートへと導く。吸気通路3上には、エアクリーナ31、電子スロットルバルブ32、サージタンク33、吸気マニホルド34を、上流からこの順序に配置している。
【0025】
排気を排出するための排気通路4は、気筒1内で燃料を燃焼させた結果発生した排気を各気筒1の排気ポートから外部へと導く。この排気通路4上には、排気マニホルド42及び排気浄化用の三元触媒41を配置している。
【0026】
内燃機関には、外部EGR装置2が付帯していることが多い。
図1に示す外部EGR装置2は、いわゆる高圧ループEGRを実現するものであり、排気通路4における触媒41の上流側と吸気通路3におけるスロットルバルブ32の下流側とを連通するEGR通路21と、EGR通路21上に設けたEGRクーラ22と、EGR通路21を開閉し当該EGR通路21を流れるEGRガスの流量を制御するEGRバルブ23とを要素とする。EGR通路21の入口は、排気通路4における排気マニホルド42またはその下流の所定箇所に接続している。EGR通路21の出口は、吸気通路3におけるスロットルバルブ32の下流の所定箇所、特にサージタンク33に接続している。
【0027】
内燃機関の運転制御を司るECU0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。
【0028】
入力インタフェースには、車両の実車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、クランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するエンジン回転センサから出力されるクランク角信号(N信号)b、アクセルペダルの踏込量またはスロットルバルブ32の開度をアクセル開度(要求負荷)として検出するセンサから出力されるアクセル開度信号c、車載バッテリ17の状態を表す指標値(バッテリ電圧、バッテリ電流、バッテリ温度のうち少なくとも一つまたは全て)を検出するバッテリセンサから出力されるバッテリ状態信号d、吸気通路3(特に、サージタンク33)内の吸気温及び吸気圧を検出する温度・圧力センサから出力される吸気温・吸気圧信号e、機関の冷却水温を検出する水温センサから出力される冷却水温信号f、吸気カムシャフトまたは排気カムシャフトの複数のカム角にてカム角センサから出力されるカム角信号(G信号)g、燃焼室内での混合気の燃焼に伴って生じるイオン電流を検出する回路から出力される電流信号h等が入力される。
【0029】
出力インタフェースからは、点火プラグ12のイグナイタ13に対して点火信号i、インジェクタ11に対して燃料噴射信号j、スロットルバルブ32に対して開度操作信号k、EGRバルブ23に対して開度操作信号l等を出力する。
【0030】
ECU0のプロセッサは、予めメモリに格納されているプログラムを解釈、実行し、運転パラメータを演算して内燃機関の運転を制御する。ECU0は、内燃機関の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、g、hを入力インタフェースを介して取得し、エンジン回転数を知得するとともに気筒1に充填される吸気量を推算する。そして、それらエンジン回転数及び吸気量等に基づき、要求される燃料噴射量、燃料噴射時期(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、点火時期、要求EGR率(または、EGR量)といった各種運転パラメータを決定する。運転パラメータの決定手法自体は、既知のものを採用することが可能である。ECU0は、運転パラメータに対応した各種制御信号i、j、k、lを出力インタフェースを介して印加する。
【0031】
その上で、本実施形態のECU0は、燃焼の際に点火プラグ12の電極を流れるイオン電流を検出する回路を利用して、点火コイル14の一次側コイルへの通電時間、つまりはイグナイタ13における半導体スイッチ131の点弧のタイミングを学習する学習制御を実施する。
【0032】
図5ないし
図7に、ECU0からイグナイタ13に与える点火信号i、及びECU0がイオン電流検出用の回路を介して取得する電流信号hの値の時系列の推移を示す。電流信号hは、点火プラグ12の電極を流れる電流を表すものであり、点火プラグ12の両電極間の抵抗の大きさを表すものでもある。
【0033】
図5は、半導体スイッチ131の点弧のタイミングの学習を完了する前の段階における信号i、hの推移を示すものである。ECU0は、火花点火に先んじて半導体スイッチ131を点弧し、点火コイル14の一次側コイルに通電する。そして、点弧の時点t
0から十分な通電時間が経過した時点t
1にて半導体スイッチ131を消弧し、点火コイル14の一次側コイルへの通電を遮断する。
【0034】
正常燃焼の場合の電流信号hは、半導体スイッチ131の消弧に伴い点火プラグ12の両電極間に惹起される火花放電の期間を経過した時点t
2の後に顕著に現れる、気筒1の燃焼室内に発生したイオン電流の信号を含むものとなる。より詳しくは、時点t
2にてLC共振による信号が現れ、その後に燃焼に起因したイオン電流信号が現れる。
【0035】
半導体スイッチ131の点弧時には、スパイク状のノイズが発生して電流信号hに重畳される。また、半導体スイッチ131の消弧前のある時点t
3から消弧の時点t
1までの期間において、電流信号hが振動している。この振動は、イグナイタ13の電流制限機能の働きによるものである。即ち、逓増する一次電流が時点t
3にて規定値に到達し、その一次電流が規定値を超えるときに制御回路132が半導体スイッチ131を瞬断する(そして、一次電流が規定値以下になると半導体スイッチ131を再点弧する)動作を反復して行うことから、イオン電流検出用の回路に振動的なノイズが乗り、このノイズが電流信号hに重畳されるのである。
【0036】
一次側コイルに通電している時間のうち、イグナイタの電流制限機能が働く時点t
3から時点t
1までの電流制限期間は、火花放電そのものに寄与せず、本来不要である。一次電流が規定値に達している以上、既に一次電流は点火プラグ12による火花点火を行うために十分な誘導電圧を二次側コイルに誘起できる程度に大きくなっている。電流制限期間に一次側コイルへの通電を続けることにより消費される電気エネルギは、全くの無駄である。
【0037】
そこで、本実施形態のECU0は、一次側コイルに通電を開始した後、一次側コイルを流れる一次電流の大きさが点火プラグ12における火花放電を惹起するのに十分な値に到達する時点t
3を学習する。そして、以後の点火の機会において、先に学習した時点t
3を用いて、一次側コイルへの通電を開始する時点t
0’を決定する。その狙いは、上記の電流制限期間をできる限り短くすることにある。
【0038】
ECU0は、一次側コイルへの通電中にイオン電流検出用の回路を介して取得される電流信号hを参照し、半導体スイッチ131の点弧時点t
0から電流信号hが振動し始める時点t
3までの経過時間を計測する。時点t
0から時点t
3までの経過時間は、一次電流の大きさが十分な値に達するまでに要する時間であると言える。
【0039】
あるいは、電流信号hが振動する時点t
3から時点t
1までの電流制限期間の長さを計測してもよい。一次側コイルへの通電時間、即ち半導体スイッチ131の点弧の時点t
0及び消弧の時点t
1は、ECU0にとって所与のものである。一次側コイルへの通電時間から電流制限期間の長さを減算すれば、一次電流の大きさが十分な値に達するまでに要する時間を得ることができる。
【0040】
ECU0は、計測した時点t
3(時点t
0から時点t
3までの経過時間、または、時点t
3から時点t
1までの経過時間)を、学習値としてメモリに記憶保持する。言うまでもなく、時点t
3は、一次電流の大きさが点火プラグ12における火花放電を惹起するのに十分な値に到達するまでの所要時間を示唆している。
【0041】
時点t
3の学習は、広汎な運転領域[エンジン回転数,要求負荷]において実施することができる。加速の過渡期、減速の過渡期に限らず、運転領域が比較的変動せず安定している定常期においても、時点t
3の学習を行う。
【0042】
尤も、エンジン回転数が所定閾値を上回る高回転域では、時点t
3を学習しないことが望ましい。高回転域では、各気筒1における膨張行程の頻度が高く、点火コイル14の一次側コイルに通電している時間の(吸気、圧縮、膨張、排気の一サイクルに対する)割合が大きくなって、点火コイル14が発熱する。点火コイル14の温度が顕著に高くなると、イグナイタ13が通電を強制的に遮断することになるが、このときに時点t
3の学習を行うと、誤学習となってしまう。よって、高回転域では学習を行わない。
【0043】
また、時点t
3の学習は、内燃機関の暖機が完了している、即ち冷却水温が所定値以上であるという条件を満足している場合に限り実施する。一次側コイルを含む電気回路の抵抗は温度によって変動するため、暖機完了前に学習を行うと誤学習となるおそれがある。上掲の一次電流I(t)の式に則して述べれば、抵抗Rが変化するとI(t)も変化するということである。よって、内燃機関の暖機が完了していない段階では行わない。
【0044】
時点t
3の学習値を用いれば、電流制限期間を極小化する通電開始時点t
0’を決定することが可能である。
図6に、半導体スイッチ131の点弧のタイミングの学習を完了した後の段階において、後述する予備時間を加味しない理想的な通電開始時点t
0’から半導体スイッチ131を点弧した場合の信号i、hの推移を示す。ECU0は、運転領域やノッキングの有無等に応じて設定する点火時期にタイミングを合わせて半導体スイッチ131を消弧することを前提として、その消弧時点t
1の直前に一次側コイルを流れる一次電流が規定値近傍まで増大しているように、半導体スイッチの点弧時点t
0’を決定する。
【0045】
具体的には、ECU0が、新たな点弧時点t
0’から消弧時点t
1までの経過時間が、過去の学習において計測した点弧時点t
0から電流制限期間の開始時点t
3までの経過時間にほぼ等しくなるように時点t
0’を決定する。あるいは、過去の学習における点弧時点t
0から新たな点弧時点t
0’までの遷移の時間差が、過去の学習において計測した電流制限期間の長さ、即ち電流制限期間の開始時点t
3から消弧時点t
1までの経過時間にほぼ等しくなるように時点t
0’を決定する。
【0046】
さすれば、電流制限期間が最小となる。
図3では、学習値t
3によらない通電開始時点t
0から半導体スイッチ131を点弧した場合の一次電流の推移を鎖線で描画し、学習値t
3に基づく理想的な通電開始時点t
0’から半導体スイッチ131を点弧した場合の一次電流の推移を実線で描画している。
【0047】
但し、理想的な通電開始時点t
0’から一次側コイルへの通電を開始することが、常に適切であるとは限らない。
【0048】
まず、一次側コイルを流れる一次電流の逓増の速さが、そのときのバッテリ17の充電量その他の状態如何によって変わる。上掲の一次電流I(t)の式に則して述べれば、バッテリ電圧Eが変化するとI(t)も変化するということである。バッテリ電圧が低い状況下で、理想的な通電開始時点t
0’から半導体スイッチ131を点弧した場合、これを消弧する時点t
1で一次電流が必要十分な大きさに到達せず、二次側コイルに十分な高電圧を誘起できない。
【0049】
さらに、火花放電による混合気への着火のし易さや、混合気の燃焼の安定性は、そのときの内燃機関の負荷(出力)、吸気のEGR率等による影響を受ける。高負荷運転時は、気筒1に充填される吸気量及び燃料噴射量が多く、点火時期における気筒1内の混合気の圧力及び密度が高いことから、点火プラグ12の電極間で火花放電を惹起するためにより大きな印加電圧が要求される。
【0050】
低負荷運転時は、気筒1に充填される吸気量及び燃料噴射量が少なく、点火時期における気筒1内の混合気の圧力及び密度が低い。確実に着火燃焼させるには、火花放電の時間を長く延ばすことが望ましく、そのためには点火コイル14にできるだけ大きな電気エネルギを蓄えておく必要がある。
【0051】
加えて、混合気のEGR率が高い場合には、そもそも燃焼が不安定となりやすい。
【0052】
何れにせよ、理想的な通電開始時点t
0’から半導体スイッチ131を点弧すると、消弧時点t
1での一次電流の大きさが不足するおそれがある。
【0053】
故に、本実施形態では、過去に学習した所要時間に、現在の電源バッテリ17の状態を表す指標値、現在の内燃機関の負荷を表す指標値、現在のEGR率を表す指標値に基づいて定められる予備時間を加味した上、点火時期即ち一次電流を遮断する時点t
1から逆算して、一次側コイルへの通電開始時点t
0’’を決定することとしている。
【0054】
図7に、予備時間を加味した通電開始時点t
0’’から半導体スイッチ131を点弧した場合の信号i、hの推移を示す。通電開始時点t
0’’から理想の時点t
0’までの経過時間が、ECU0が定める予備時間である。この予備時間の分だけ、通電開始時点t
0’’が早まり、一次側コイルに通電する時間が長くなり、半導体スイッチ131の消弧時点t
1にて一次電流が不足するおそれが小さくなる。
【0055】
バッテリ17の状態を表す指標値の例としては、バッテリ17の端子電圧が挙げられる。
図8に示すように、本実施形態のECU0は、現在のバッテリ電圧が低いほど、長い予備時間を設定する。バッテリ電圧に対する予備時間の変化率(特性曲線の勾配)は、バッテリ電圧が比較的高い領域では小さく、バッテリ電圧が比較的低い領域では大きい。これは、バッテリ電圧が低いほど、火花放電による着火に失敗する可能性が高いことによる。
【0056】
内燃機関の負荷を表す指標値の例としては、サージタンク33内圧力、アクセル開度、気筒1に充填される吸気量等が挙げられる。低負荷運転時の着火性を重視する(中高負荷では着火に失敗する可能性が低いと想定される)ならば、
図9に示すように、現在のサージタンク内33が低い(または、アクセル開度が小さい、吸気量が少ない)ほど、長い予備時間を設定する。翻って、高負荷運転時の着火性を重視する(低中負荷では着火に失敗する可能性が低いと想定される)ならば、
図10に示すように、現在のサージタンク内33が高い(または、アクセル開度が大きい、吸気量が多い)ほど、長い予備時間を設定する。
【0057】
低負荷運転時、高負荷運転時の双方を重視するならば、
図11に示すように、比較的低負荷の運転領域にてサージタンク内33が低いほど長い予備時間を設定し、比較的高負荷の運転領域にてサージタンク内33が高いほど長い予備時間を設定する。中負荷領域では、予備時間が最も短くなる。
【0058】
EGR率を表す指標値の例としては、ECU0が演算している要求EGR率や、EGRバルブ23の開度等が挙げられる。
図12に示すように、ECU0は、現在の要求EGR率が高いほど(または、EGRバルブ23の開度が大きいほど)、長い予備時間を設定する。
【0059】
ECU0が、上記の予備時間を加味して決定した点弧時点t
0’’にて半導体スイッチ131を点弧することで、点火時期のタイミングに合わせた消弧時点t
1にて、一次側コイルを流れる一次電流が規定値近傍まで増大している状態を実現できる。いわば、過去に学習した学習値t
3に依拠する通電開始時点t
0’を、刻々と変化し得るバッテリ17や内燃機関の現況に応じて補正するフィードフォワード制御により、一次側コイルへの通電時間を最適化して、点火プラグ12における火花放電及び混合気への着火を確実ならしめることができる。
【0060】
しかも、
図7に示しているように、無駄な通電時間である、一次電流が規定値にクリップされる電流制限期間(時点t
3から時点t
1まで)の長さを可及的に短縮することができ、エネルギの消費量を削減できる。
【0061】
時点t
3の学習、及び学習した時点t
3を用いた半導体スイッチ131の点弧のタイミングt
0’’の制御は、気筒1毎に個別に行う。時点t
3の学習値は気筒1毎に異なり、半導体スイッチ131の点弧のタイミングt
0’’もまた気筒1毎に異なり得る。
【0062】
バッテリが十分に充電されている場合、内燃機関の状況によっては、予備時間が0となり、通電開始時点t
0’’が理想の時点t
0’に等しくなることもあり得る。
【0063】
バッテリ17の状態に基づく予備時間、内燃機関の負荷に基づく予備時間、EGR率に基づく予備時間は、全てを加味して通電開始時点t
0’’を決定してもよいし、これらのうちの一部のみを加味して通電開始時点t
0’’を決定してもよい。
【0064】
本実施形態では、燃焼の際に点火プラグ12の電極を流れるイオン電流を検出する回路を利用し、点火プラグ12による火花点火に先んじた点火コイル14の一次側コイルへの通電の際、その通電を開始してから、一次側コイルを流れる一次電流の大きさが点火プラグ12における火花放電を惹起するのに十分な値に到達するまでの所要時間(学習値t
3)を学習し、以後の点火の機会において、先に学習した所要時間に、現在の電源バッテリ17の状態を表す指標値、内燃機関の負荷を表す指標値またはEGR率を表す指標値の何れか少なくとも一つに基づいて定められる予備時間を加味した上、一次電流を遮断し火花点火を惹起するべき時点t
1から逆算して、一次側コイルへの通電開始時点t
0’’を決定することを特徴とする火花点火式内燃機関の制御装置0を構成した。
【0065】
本実施形態によれば、既に一次電流が火花放電を惹起するのに十分な大きさになっているにもかかわらず、一次側コイルに通電し続けることによる電気エネルギの浪費を低減することができる。ひいては、燃費の一層の向上に資する。
【0066】
加えて、一次側コイルに通電を開始してから一次電流の大きさが十分な値に到達するまでに要する通電時間は、一次側コイルと接続しているバッテリ17の充電状態如何によって変動し得る。また、火花放電による着火のし易さや燃焼の安定性は、そのときの内燃機関の負荷、EGR率等による影響を受ける。一次側コイルへの通電開始時点t
0’’を決定するにあたり、過去に学習した所要時間に、現在のバッテリの充電状態、機関負荷、EGR率等に応じた予備時間を加味することで、着火及び燃焼の確実性が高まる。
【0067】
さらには、上記の所要時間の学習を通じて、点火コイル14の個体差または点火系の電気回路の個体差を吸収することができる。
【0068】
点火コイル14に通電している時間が短縮(電流制限期間が減少)することで、点火コイル14の過加熱を抑制することにつながり、点火コイル14を含む点火系の寿命の延長にも奏効する。
【0069】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態では、ECU0が、イオン電流検出用の回路を介して点火コイル14の二次側コイルを流れる振動的な電流信号hを取得し、これを基に学習を行っていた。しかしながら、二次側コイルを流れる電流hを検出可能な回路であれば、燃焼の際に発生するイオン電流の検出を目的とした回路である必要はない。
【0070】
これ以外に、一次側コイルを流れる一次電流の大きさを直接計測可能な回路を併設しておき、ECU0がこの回路を介して一次電流を恒常的にサンプリング計測し、一次電流が火花放電を惹起するのに十分な規定値に到達するために要する所要時間(到達時点t
3)を学習値として知得するものとしてもよい。
【0071】
予備時間を定めるために参酌されるEGR率(または、EGR量)は、内部EGR率であることがあり、あるいは、外部EGR率と内部EGR率とを総合したEGR率であることがある。内燃機関が、吸気バルブ及び/または排気バルブの開閉タイミングを変化させることのできるVVT(Variable Valve Timing)機構を備えたものである場合には、そのVVT機構により実現されるバルブタイミング、または吸気バルブと排気バルブとがともに開弁するバルブオーバラップ期間を、内部EGR率を表す指標値とし、これが大きいほど長い予備時間を設定することが考えられる。
【0072】
その他各部の具体的構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。