【課題を解決するための手段】
【0014】
被処理物を保持する保持部と、
内部空間を有し、一端が前記保持部と対向して設けられる筒状部材と、
前記筒状部材の内部空間内に進退自在に嵌入された押付部材とを備え、
前記保持部に保持される被処理物又は前記保持部と、前記筒状部材及び前記押付部材とによって気密状の処理室が形成される金属充填装置を用いて、
被処理物被処理面の、該被処理面に開口するように形成された微小空間内に、該被処理物上に供給した溶融金属を充填する金属充填方法であって、
前記処理室内を減圧する減圧工程
を行った後、
前記保持部に保持された被処理物の被処理面側に押付部材を移動させて、該押付部材を被処理物の被処理面に当接させる当接工程
を行い、
次に、前記保持部、筒状部材及び押付部材を加熱する加熱工程
を行い、
しかる後、前記押付部材を被処理面に当接させた状態で、前記処理室内に溶融金属を供給する溶融金属供給工程と、
前記押付部材を被処理物の被処理面から離反させる離反工程と
を行い、
その後、前記処理室内に供給された溶融金属を、前記微小空間内に充填する充填工
程を行う金属充填方法に係る。
【0015】
この金属充填方法によれば、まず、処理室内から気体を排気して、当該処理室内を略真空状態にまで減圧する。ついで、押付部材を被処理物の被処理面側に向けて移動させて、当該押付部材を被処理物の被処理面に当接させる。しかる後、保持部、筒状部材及び押付部材を加熱して、処理室内を昇温する。尚、この際、処理室内の温度が溶融金属の融点以上となるように昇温することが好ましい。
【0016】
このように、押付部材を被処理物の被処理面に当接させた状態で、保持部、筒状部材及び押付部材を加熱することで、処理室内の残留金属が融解又は軟化したとしても、当該残留金属が被処理面上に載る、或いは被処理面に広がるのを防止することができる。
【0017】
次に、押付部材を被処理物に当接させた状態のままで、処理室内に溶融金属を供給する。これにより、金属成分が酸化することによって溶融金属よりも密度の小さくなっている残留金属は、供給された溶融金属の液面に浮かび上がる。したがって、被処理物の被処理面近傍にある溶融金属への残留金属の混入が防止される。尚、処理室内に溶融金属を供給する際には、溶融金属の液面が処理室内に溶融金属を供給する位置を超えるまで、処理室内に溶融金属を供給することが好ましい。
【0018】
ついで、押付部材を被処理面から離反させる。これにより、押付部材と被処理物との間に溶融金属が供給される。尚、押付部材は、処理室内に溶融金属の供給を開始した後、徐々に被処理面から離反させるようにしても良いし、処理室内に溶融金属を十分に供給した後、被処理面から離反させるようにしても良い。しかる後、溶融金属を被処理物に形成された微小空間内に充填する。この際、本発明に係る金属充填方法においては、上述したように、被処理物の被処理面近傍にある溶融金属に残留金属が混入するのを防止するようにしているため、被処理面上の溶融金属に残留金属が混入することによって生じる充填不良の発生を抑えた上で、微小空間内に溶融金属を充填することができる。
【0019】
尚、溶融金属を微小空間内に充填する方法としては、処理室内に加圧気体を供給し、処理室内に供給された溶融金属を加圧して、微小空間内に溶融金属を充填するようにしても良いし、また、離反工程において、処理室内への溶融金属の供給を続けた状態で、押付部材を被処理面から離反させるとともに、処理室内を溶融金属で完全に満たし、その上で、被処理物の被処理面側に押付部材を移動させて、処理室内に供給された溶融金属を加圧し、微小空間内に溶融金属を充填するようにしても良い。
【0020】
尚、この金属充填方法においては、充填処理を行った後、被処理物の被処理面側に押付部材を移動させて、被処理物上から余剰溶融金属を排除する排除工程を更に実施することが好ましい。これにより、処理後の被処理物上に形成される余剰溶融金属からなる層の厚さを薄くすることができる。
【0021】
また、上記金属充填方法においては、溶融金属供給工程と離反工程とを同時に実施し、前記押付部材を徐々に被処理物の被処理面から離反させながら、前記処理室内に溶融金属を供給するようにしても良い。このようにしても、供給された溶融金属の液面に残留金属が浮かび上がるため、被処理物の被処理面近傍にある溶融金属への残留金属の混入が防止される。
【0022】
更に、前記押付部材の、前記被処理面と対向する面に溶融金属封止部を設けて、前記押付工程では、前記保持部に保持された被処理物の被処理面側に押付部材を移動させて、前記溶融金属封止部を、被処理物の被処理面又は保持部に当接させるようにしても良い。このようにすれば、融解又は軟化した残留金属が被処理面に広がるのをより効果的に防止することができる。
【0023】
尚、上記金属充填方法において排除工程を行う場合には、前記排除工程を行った後、前記処理室内の余剰溶融金属を処理室外に除去する除去工程を更に行うようにすることが好ましい。このようにすれば、処理室内に残留する金属の量を極力減らすことができるため、再度処理室内に溶融金属を供給した際の溶融金属への残留金属の混入を抑えることができる。
【0024】
尚、除去工程は、処理室内に加圧気体を供給し、処理室内の余剰溶融金属を処理室外に除去するようにしても良いし、被処理物の処理面側に押付部材を移動させることで、充填工程及び排除工程と同時に行うようにしても良い。
【0025】
また、上記金属充填方法に用いる金属充填装置は、
前記被処理物を保持する保持部と、
内部空間を有し、一端が前記保持部と対向して設けられる筒状部材と、
前記筒状部材の内部空間内に進退自在に嵌入された押付部材と、
前記保持部に保持される被処理物に対して前記押付部材を進退させる押付機構と、
前記保持部及び筒状部材のうちの少なくとも一方を、他方に対し接近、離反する方向に移動させる移動機構とを備え、
前記保持部に保持される被処理物又は前記保持部と、前記筒状部材及び前記押付部材とによって気密状の処理室が形成され、
更に、前記処理室内を減圧する減圧機構と、
前記保持部、筒状部材及び押付部材を加熱する加熱機構と、
前記処理室内に溶融金属を供給する溶融金属供給機構と、
前記処理室内に加圧気体を供給する気体供給機構と、
前記押付機構、移動機構、減圧機構、溶融金属供給機構及び気体供給機構の作動を制御する制御装置とを備えており、
前記制御装置は、
前記保持部に被処理物が載置された状態で、前記移動機構を作動させ、前記保持部と筒状部材とを接近させて処理室を形成する処理と、
前記減圧機構を作動させて、前記処理室内を減圧する処理と
を実行した後、
前記押付機構により、前記押付部材を被処理物の被処理面側に移動させて、該押付部材を被処理物の被処理面に当接させる処理
を実行し、
次に、前記加熱機構を作動させて、前記保持部、筒状部材及び押付部材を加熱する処理
を実行し、
しかる後
、前記押付部材を被処理面に当接させた状態で、前記溶融金属供給機構を作動させて、前記処理室内に溶融金属を供給する処理と、
前記押付機構によって、前記押付部材を被処理物の被処理面から離反させる処理と
を実行し、
その後、前記気体供給機構を作動させて、前記処理室内に加圧気体を供給し、前記処理室内に供給された溶融金属を加圧して、前記微小空間内に溶融金属を充填する処
理を実行する。
【0026】
この金属充填装置によれば、まず、移動機構によって保持部及び筒状部材のうち少なくとも一方を移動させて、両者が離反した状態にした上で、被処理物を、被処理面が押付部材と対向するように保持部に保持する。ついで、移動機構によって保持部と筒状部材とを接近させて、筒状部材の一端を保持部に保持された被処理物又は保持部に押し当てて密着させることで、被処理物又は保持部と、筒状部材及び押付部材とによって囲まれた気密状の処理室を形成する。
【0027】
次に、減圧機構を作動させて、処理室内の気体を排気し、処理室内を減圧した後、押付機構によって、押付部材を被処理物の被処理面側に移動させ、当該押付部材を被処理面に当接させる。そして、この状態で、加熱機構を作動させて、保持部、筒状部材及び押付部材を加熱し、処理室内の残留金属が融解又は軟化したとしても、当該残留金属が被処理物上に載ってしまう、或いは被処理面上に広がってしまうのを防止した上で、処理室内を所定の温度まで昇温する。尚、昇温後の処理室内の温度は、溶融金属の融点以上であることが好ましい。
【0028】
ついで、押付部材を被処理物の被処理面に当接させた状態で、溶融金属供給機構を作動させて、処理室内に溶融金属を供給する。これにより、残留金属が溶融金属中に浮いた状態で、処理室内に溶融金属が供給される。
【0029】
次に、押付機構を作動させて、押付部材を被処理物の被処理面から離反させる。これにより、被処理物と押付部材との間に隙間が形成され、当該隙間に溶融金属が流れ込むことで、被処理面上に溶融金属が供給される。しかる後、気体供給機構によって処理室内に加圧気体を供給することで、微小空間内に溶融金属が充填される。尚、処理室内を減圧した後に、当該処理室内に溶融金属を供給するようにしていることで、ボイドの発生が低減される。
【0030】
以上のように、この金属充填装置においては、被処理面上に残留金属が載る、或いは残留金属が被処理面上に広がるのを防止するとともに、残留金属を溶融金属の液面に浮かび上がらせた状態で、被処理面上に溶融金属を供給するようにしているため、被処理面近傍の溶融金属への残留金属の混入が防止され、残留金属に起因する充填不良の発生が抑えられる。
【0031】
尚、上記金属充填装置においては、溶融金属を充填する処理を行った後、押付機構を作動させ、押付部材を被処理物の被処理面側に移動させて、当該押付部材を被処理物に押し付け、被処理物上から余剰溶融金属を排除する処理を実行するようにしても良い。このようにすることで、被処理物と押付部材との間の隙間が狭められ、被処理物上の余剰溶融金属が前記隙間から押し出される。したがって、処理後の被処理面上に形成される余剰な金属からなる層を最小限の厚さにすることができる。
【0032】
尚、この金属充填装置においては、前記処理室内に溶融金属を供給する処理と前記押付部材を被処理物の被処理面から離反させる処理とを同時に実施し、前記押付機構によって前記押付部材を被処理物の被処理面から徐々に離反させながら、前記溶融金属供給機構を作動させて、前記処理室内に溶融金属を供給するようにしても良い。この場合も、供給された溶融金属中に残留金属が浮かぶため、被処理物の被処理面近傍にある溶融金属への残留金属の混入が防止される。
【0033】
また、この金属充填装置において、被処理物上から余剰溶融金属を排除する処理を実行する場合には、前記制御装置は、前記被処理物上から余剰溶融金属を排除する処理を実行した後、前記気体供給機構を作動させて、前記処理室内に加圧気体を供給し、この処理室内の余剰溶融金属を処理室外に除去する処理を更に実行することが好ましい。このようにすれば、処理室内に残留する溶融金属の量を極力少なくすることができる。
【0034】
また、上記金属充填方法に用いる金属充填装置は、
前記被処理物を保持する保持部と、
内部空間を有し、一端が前記保持部と対向して設けられる筒状部材と、
前記筒状部材の内部空間内に進退自在に嵌入された押付部材と、
前記保持部に保持される被処理物に対して前記押付部材を進退させる押付機構と、
前記保持部及び筒状部材のうちの少なくとも一方を、他方に対し接近、離反する方向に移動させる移動機構とを備え、
前記保持部に保持される被処理物又は前記保持部と、前記筒状部材及び前記押付部材とによって気密状の処理室が形成され、
更に、前記処理室内を減圧する減圧機構と、
前記保持部、筒状部材及び押付部材を加熱する加熱機構と、
前記処理室内に溶融金属を供給する溶融金属供給機構と、
前記押付機構、移動機構、減圧機構及び溶融金属供給機構の作動を制御する制御装置とを備えており、
前記制御装置は、
前記保持部に被処理物が載置された状態で、前記移動機構を作動させ、前記保持部と筒状部材とを接近させて処理室を形成する処理と、
前記減圧機構を作動させて、前記処理室内を減圧する処理と
を実行した後、
前記押付機構により、前記押付部材を被処理物の被処理面側に移動させて、該押付部材を被処理物の被処理面に当接させる処理
を実行し、
次に、前記加熱機構を作動させて、前記保持部、筒状部材及び押付部材を加熱する処理
を実行し、
しかる後、前記押付部材を被処理面に当接させた状態で、前記溶融金属供給機構を作動させて、前記処理室内に溶融金属を供給する処理と、
前記処理室内への溶融金属の供給を続けた状態で、前記押付機構によって、前記押付部材を被処理物の被処理面から離反させ、前記処理室内を溶融金属で完全に満たす処理と
を実行し、
その後、前記押付機構によって、前記押付部材を被処理物の被処理面に接近させ、前記処理室内に供給された溶融金属を加圧し、前記微小空間内に溶融金属を充填するとともに、被処理物上から溶融金属を排除する処
理を実行するようにしても良い。
【0035】
このようにした場合、上記と同様に、まず、保持台に被処理物を保持してから処理室を形成し、当該処理室内を減圧する。ついで、押付部材を被処理物に当接させた後、保持部、筒状部材及び押付部材を加熱して処理室内を所定の温度にまで昇温し、しかる後、押付部材を被処理物の被処理面に当接させた状態で、処理室内に溶融金属を供給する。
【0036】
次に、この金属充填装置においては、処理室内への溶融金属の供給を続けた状態で、押付機構によって押付部材を被処理物から離反させ、処理室内を溶融金属で完全に満たすように、当該処理室内に溶融金属を供給する。これにより、被処理物上で溶融金属が弾かれることがなく、被処理物上に溶融金属を均一に広げることができる。
【0037】
しかる後、押付機構によって押付部材を被処理物に接近させる。この際、この金属充填装置においては、処理室内が溶融金属で完全に満たされた状態となっているため、押付部材を被処理物に接近させることによって、処理室内の溶融金属が加圧され、当該溶融金属が微小空間内に充填されるとともに、押付部材と被処理物との間から余剰溶融金属が排除される。
【0038】
このように、上記金属充填装置によれば、押付部材を被処理面に当接させた後、処理室内を昇温するようにしているので、処理室内の残留金属が融解又は軟化したとしても、この融解又は軟化した残留金属が被処理物上に載る、或いは被処理面上に広がるのを防止することができる。また、押付部材を被処理面に当接させた状態で、処理室内への溶融金属の供給を開始し、当該処理室内への溶融金属の供給を続けた状態で、押付部材を被処理物から離反させるようにしているため、残留金属を溶融金属中に浮かせながら被処理物上に溶融金属を供給することができ、被処理面近傍の溶融金属への残留金属の混入を防止でき、残留金属に起因する充填不良の発生を抑えることができる。
【0039】
尚、上記金属充填装置においては、前記処理室内に溶融金属を供給する処理と前記処理室内を溶融金属で完全に満たす処理とを同時に実施し、前記押付機構によって前記押付部材を被処理物の被処理面から徐々に離反させながら、前記溶融金属供給機構を作動させて、前記処理室内を溶融金属で完全に満たすように、当該処理室内に溶融金属を供給するようにしても良い。このようにしても、被処理物上に溶融金属を均一に広げることができ、また、残留金属を溶融金属中に浮かせながら被処理物上に溶融金属を供給することができ、相応の効果を奏する。
【0040】
尚、この金属充填装置においては、押付機構によって押付部材を被処理物に接近させることで、溶融金属が微小空間内に充填されるとともに、余剰溶融金属を押付部材と被処理物との間から排除する処理を行うようにしているが、この処理と同時に、処理室内から処理室外へと余剰溶融金属を除去する処理が行われるようにすることが好ましく、このようにすれば、処理室内に残留する溶融金属の量を少なくすることができる。
【0041】
また、これらの金属充填装置は、押付部材の、被処理面と対向する面に溶融金属封止部を設け、押付部材を被処理物の被処理面に押し付ける処理において、この溶融金属封止部を被処理面に当接させるようにしても良い。このようにすれば、融解又は軟化した残留金属が被処理面に広がるのをより効果的に防止することができる。