特許第6095421号(P6095421)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6095421
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】金属充填方法及び金属充填装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3205 20060101AFI20170306BHJP
   H01L 21/768 20060101ALI20170306BHJP
   H01L 23/522 20060101ALI20170306BHJP
   B22D 23/00 20060101ALI20170306BHJP
   H01L 21/288 20060101ALI20170306BHJP
   B22D 18/02 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
   H01L21/88 J
   B22D23/00 Z
   H01L21/288 Z
   B22D18/02 Q
   B22D18/02 S
   B22D18/02 L
【請求項の数】20
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2013-48070(P2013-48070)
(22)【出願日】2013年3月11日
(65)【公開番号】特開2014-175529(P2014-175529A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2016年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183369
【氏名又は名称】住友精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104662
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智司
(72)【発明者】
【氏名】山口 征隆
【審査官】 柴山 将隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−075330(JP,A)
【文献】 特開2010−283034(JP,A)
【文献】 特開2002−368083(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3205
B22D 18/02
B22D 23/00
H01L 21/288
H01L 21/768
H01L 23/522
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物を保持する保持部と、
内部空間を有し、一端が前記保持部と対向して設けられる筒状部材と、
前記筒状部材の内部空間内に進退自在に嵌入された押付部材とを備え、
前記保持部に保持される被処理物又は前記保持部と、前記筒状部材及び前記押付部材とによって気密状の処理室が形成される金属充填装置を用いて、
被処理物被処理面の、該被処理面に開口するように形成された微小空間内に、該被処理物上に供給した溶融金属を充填する金属充填方法であって、
前記処理室内を減圧する減圧工程を行った後
前記保持部に保持された被処理物の被処理面側に押付部材を移動させて、該押付部材を被処理物の被処理面に当接させる当接工程を行い
次に、前記保持部、筒状部材及び押付部材を加熱する加熱工程を行い
しかる後、前記押付部材を被処理面に当接させた状態で、前記処理室内に溶融金属を供給する溶融金属供給工程と、
前記押付部材を被処理物の被処理面から離反させる離反工程とを行い、
その後、前記処理室内に供給された溶融金属を、前記微小空間内に充填する充填工程を行うことを特徴とする金属充填方法。
【請求項2】
前記溶融金属供給工程と離反工程とを同時に実施し、前記押付部材を徐々に被処理物の被処理面から離反させながら、前記処理室内に溶融金属を供給するようにしたことを特徴とする請求項1記載の金属充填方法。
【請求項3】
前記押付部材の、前記被処理面と対向する面に溶融金属封止部が設けられており、
前記当接工程では、前記保持部に保持された被処理物の被処理面側に押付部材を移動させて、前記溶融金属封止部を、被処理物の被処理面又は保持部に当接させるようにしたことを特徴とする請求項1又は2記載の金属充填方法。
【請求項4】
前記充填工程を行った後、前記被処理物の被処理面側に押付部材を移動させて、該被処理物上から余剰溶融金属を排除する排除工程を更に行うことを特徴とする請求項1乃至3記載のいずれかの金属充填方法。
【請求項5】
前記充填工程では、前記処理室内に加圧気体を供給し、該処理室内に供給された溶融金属を加圧するようしたことを特徴とする請求項1乃至3記載のいずれかの金属充填方法。
【請求項6】
前記溶融金属供給工程では、溶融金属の液面が処理室内に溶融金属を供給する位置を超えるまで、処理室内に溶融金属を供給することを特徴とする請求項5記載の金属充填方法。
【請求項7】
前記充填工程を行った後、前記被処理物の被処理面側に押付部材を移動させて、該被処理物上から余剰溶融金属を排除する排除工程を更に行うことを特徴とする請求項5又は6記載の金属充填方法。
【請求項8】
前記離反工程では、前記処理室内への溶融金属の供給を続けた状態で、前記押付部材を被処理物の被処理面から離反させるとともに、処理室内を溶融金属で完全に満たすようにし、
前記充填工程では、前記被処理物の被処理面側に押付部材を移動させて、処理室内に供給された溶融金属を加圧するようにし、
前記被処理物の被処理面側に押付部材を移動させて、該被処理物上から余剰溶融金属を排除する排除工程と前記充填工程と同時に実施するようにしたことを特徴とする請求項1乃至3記載のいずれかの金属充填方法。
【請求項9】
前記排除工程を行った後、前記処理室内の余剰溶融金属を除去する除去工程を更に行うことを特徴とする請求項4、7又は8記載の金属充填方法。
【請求項10】
前記排除工程を行った後、前記処理室内の余剰溶融金属を除去する除去工程を更に行い、
該除去工程では、前記処理室内に加圧気体を供給し、該処理室内の余剰溶融金属を処理室外に除去するようにしたことを特徴とする請求項7記載の金属充填方法。
【請求項11】
前記被処理物の被処理面側に押付部材を移動させ、前記処理室内の余剰溶融金属を処理室外に除去する除去工程を、前記充填工程及び排除工程と同時に実施することを特徴とする請求項8記載の金属充填方法。
【請求項12】
被処理物被処理面の、該被処理面に開口するように形成された微小空間内に、該被処理物上に供給した溶融金属を充填する金属充填装置であって、
前記被処理物を保持する保持部と、
内部空間を有し、一端が前記保持部と対向して設けられる筒状部材と、
前記筒状部材の内部空間内に進退自在に嵌入された押付部材と、
前記保持部に保持される被処理物に対して前記押付部材を進退させる押付機構と、
前記保持部及び筒状部材のうちの少なくとも一方を、他方に対し接近、離反する方向に移動させる移動機構とを備え、
前記保持部に保持される被処理物又は前記保持部と、前記筒状部材及び前記押付部材とによって気密状の処理室が形成され、
更に、前記処理室内を減圧する減圧機構と、
前記保持部、筒状部材及び押付部材を加熱する加熱機構と、
前記処理室内に溶融金属を供給する溶融金属供給機構と、
前記処理室内に加圧気体を供給する気体供給機構と、
前記押付機構、移動機構、減圧機構、溶融金属供給機構及び気体供給機構の作動を制御する制御装置とを備えており、
前記制御装置は、
前記保持部に被処理物が載置された状態で、前記移動機構を作動させ、前記保持部と筒状部材とを接近させて処理室を形成する処理と、
前記減圧機構を作動させて、前記処理室内を減圧する処理とを実行した後
前記押付機構により、前記押付部材を被処理物の被処理面側に移動させて、該押付部材を被処理物の被処理面に当接させる処理を実行し
次に、前記加熱機構を作動させて、前記保持部、筒状部材及び押付部材を加熱する処理を実行し
しかる後、前記押付部材を被処理面に当接させた状態で、前記溶融金属供給機構を作動させて、前記処理室内に溶融金属を供給する処理と、
前記押付機構によって、前記押付部材を被処理物の被処理面から離反させる処理とを実行し
その後、前記気体供給機構を作動させて、前記処理室内に加圧気体を供給し、前記処理室内に供給された溶融金属を加圧して、前記微小空間内に溶融金属を充填する処理を実行することを特徴とする金属充填装置。
【請求項13】
前記処理室内に溶融金属を供給する処理と前記押付部材を被処理物の被処理面から離反させる処理とを同時に実施し、前記押付機構によって前記押付部材を被処理物の被処理面から徐々に離反させながら、前記溶融金属供給機構を作動させて、前記処理室内に溶融金属を供給するようにしたことを特徴とする請求項12記載の金属充填装置。
【請求項14】
前記処理室内に溶融金属を供給する処理では、溶融金属の液面が処理室内に溶融金属を供給する位置を超えるまで、処理室内に溶融金属を供給するようにしたことを特徴とする請求項12又は13記載の金属充填装置。
【請求項15】
前記制御装置は、前記溶融金属を充填する処理を行った後、前記押付機構によって、前記押付部材を被処理物の被処理面側に移動させ、被処理物上から余剰溶融金属を排除する処理を更に実行することを特徴とする請求項12乃至14記載のいずれかの金属充填装置。
【請求項16】
前記制御装置は、前記被処理物上から余剰溶融金属を排除する処理を実行した後、前記気体供給機構を作動させて、前記処理室内に加圧気体を供給し、該処理室内の余剰溶融金属を処理室外に除去する処理を更に実行することを特徴とする請求項15記載の金属充填装置。
【請求項17】
被処理物被処理面の、該被処理面に開口するように形成された微小空間内に、該被処理物上に供給した溶融金属を充填する金属充填装置であって、
前記被処理物を保持する保持部と、
内部空間を有し、一端が前記保持部と対向して設けられる筒状部材と、
前記筒状部材の内部空間内に進退自在に嵌入された押付部材と、
前記保持部に保持される被処理物に対して前記押付部材を進退させる押付機構と、
前記保持部及び筒状部材のうちの少なくとも一方を、他方に対し接近、離反する方向に移動させる移動機構とを備え、
前記保持部に保持される被処理物又は前記保持部と、前記筒状部材及び前記押付部材とによって気密状の処理室が形成され、
更に、前記処理室内を減圧する減圧機構と、
前記保持部、筒状部材及び押付部材を加熱する加熱機構と、
前記処理室内に溶融金属を供給する溶融金属供給機構と、
前記押付機構、移動機構、減圧機構及び溶融金属供給機構の作動を制御する制御装置とを備えており、
前記制御装置は、
前記保持部に被処理物が載置された状態で、前記移動機構を作動させ、前記保持部と筒状部材とを接近させて処理室を形成する処理と、
前記減圧機構を作動させて、前記処理室内を減圧する処理とを実行した後
前記押付機構により、前記押付部材を被処理物の被処理面側に移動させて、該押付部材を被処理物の被処理面に当接させる処理を実行し
次に、前記加熱機構を作動させて、前記保持部、筒状部材及び押付部材を加熱する処理を実行し
しかる後、前記押付部材を被処理面に当接させた状態で、前記溶融金属供給機構を作動させて、前記処理室内に溶融金属を供給する処理と、
前記処理室内への溶融金属の供給を続けた状態で、前記押付機構によって、前記押付部材を被処理物の被処理面から離反させ、前記処理室内を溶融金属で完全に満たす処理とを実行し
その後、前記押付機構によって、前記押付部材を被処理物の被処理面に接近させ、前記処理室内に供給された溶融金属を加圧し、前記微小空間内に溶融金属を充填するとともに、被処理物上から溶融金属を排除する処理を実行することを特徴とする金属充填装置。
【請求項18】
前記処理室内に溶融金属を供給する処理と前記処理室内を溶融金属で完全に満たす処理とを同時に実施し、前記押付機構によって前記押付部材を徐々に被処理物の被処理面から離反させながら、前記溶融金属供給機構を作動させて、前記処理室内を溶融金属で完全に満たすように、該処理室内に溶融金属を供給するようにしたことを特徴とする請求項17記載の金属充填装置。
【請求項19】
前記微小空間内に溶融金属を充填するとともに、被処理物上から溶融金属を排除する処理と同時に、前記処理室内から該処理室外に余剰溶融金属を除去する処理が行われることを特徴とする請求項17又は18記載の金属充填装置。
【請求項20】
前記押付部材の、前記被処理面と対向する面に溶融金属封止部が設けられており、
前記押付部材を被処理物の被処理面に当接させる処理では、前記押付機構により、前記押付部材を被処理物の被処理面側に移動させて、前記溶融金属封止部を、被処理物の被処理面又は保持部に当接させるようにしたことを特徴とする請求項12乃至19記載のいずれかの金属充填装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物被処理面上に形成された微小空間内に溶融金属を充填する金属充填方法及びこれに用いる金属充填装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近時、シリコン貫通電極(Through Silicon via)技術において、半導体ウェハ(被処理物)上に設けたビアや貫通孔(微小空間)に金属を充填する技術が求められている。シリコン貫通電極技術によれば、貫通電極を用いたチップ積層技術の開発が可能となることから、三次元実装による高機能・高速動作の半導体システムの実現が期待されている。
【0003】
そして、上記のように、被処理物上の微小空間内に金属を充填する方法として、例えば、減圧したチャンバ内で、金属を充填すべき微小空間が形成された試料の一面に、その微小空間を覆うように溶融金属を供給した後、真空チャンバ内を不活性ガスで大気圧以上に加圧することにより、溶融金属を微小空間内に真空吸引させる方法が提案されている(特開2002−368083号公報)。この方法によれば、被処理物上の微小空間内と真空チャンバ内との間に生じた圧力差によって、溶融金属を微小空間内に真空吸引させることができる。
【0004】
しかしながら、上記特開2002−368083号公報に開示された方法には、次のような問題があった。即ち、被処理物と溶融金属との濡れ性が悪いと、被処理物上に供給した溶融金属が表面張力によって弾かれるため、上記方法においては、被処理物の一面を大量の溶融金属で覆うことで、溶融金属が表面張力によって弾かれるのを防止する必要がある。したがって、処理後の被処理物上に余剰金属からなる厚い層が形成され、これを後工程で除去しなければならなかった。また、大量の溶融金属を必要とするため、大容量の加熱手段や溶融金属の性質維持手段などの構築に伴う装置コストが増加するとともに、材料の消費量増加に伴うランニングコストも増加していた。
【0005】
そこで、本出願人は、上記問題を解決するものとして、処理後の被処理物上に形成される余剰金属からなる層の厚さを最小限の厚さにすることができる金属充填装置を提案している(特願2012−167761号)。
【0006】
この金属充填装置は、被処理物が保持される保持台、当該保持台と対向して配設される筒状のハウジング、当該ハウジングの内部空間に嵌入され、保持台に保持される被処理物の被処理面に対して進退するピストンなどからなり、保持台に保持された被処理物、ハウジング及びピストンによって気密状の処理室が形成される。また、当該金属充填装置は、処理室内を減圧する減圧機構や、処理室内に不活性ガスを供給するガス加圧機構などを備えている。
【0007】
そして、この金属充填装置によれば、まず、保持台上に被処理物を載置した状態で、当該被処理物にハウジングの下端面を押し当てて密着させ処理室を形成し、減圧機構によって処理室内の気体を排気して処理室内及び被処理物に形成された微小空間内を略真空状態にまで減圧する。ついで、被処理物の被処理面で弾かれることなく当該被処理面全面を覆うことができる量に達するまで、処理室に溶融金属を供給する。
【0008】
次に、処理室内に加圧用の不活性ガスを供給し、このガス圧により溶融金属を加圧して、所謂差圧充填によって溶融金属を微小空間内に充填する。しかる後、ピストンを被処理物に向けて移動させて、当該ピストンを被処理物の被処理面に押し付ける。これにより、ピストンと被処理物との間の余剰溶融金属が、被処理物上からハウジングの内周面とピストンの外周面との間の隙間に押し出され、処理後の被処理物上に形成される余剰金属からなる層の厚さを極力薄くすることができる。
【0009】
そして、被処理物にピストンを押し当てた状態でしばらく静止させた後、処理室内に不活性ガスを供給し、処理室内の余剰溶融金属を処理室外に設けた適宜回収部に回収する。これにより、後工程で溶融金属を冷却した際に、ハウジングとピストンとの間で溶融金属が硬化してピストンの昇降動作が妨げられるといった問題の発生を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−368083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記金属充填装置においては、処理室内に不活性ガスを供給し、処理室内の余剰溶融金属を処理室外に設けた適宜回収部に回収するようにしているものの、例えば、ハウジングとピストンとの間の隙間や、回収部へと通じるポートなどに余剰の溶融金属が少なからず残留してしまい、金属充填処理を繰り返すことで、処理室内に残留した溶融金属(以下、「残留金属」という)が徐々に処理室内に溜まっていく。
【0012】
そして、この残留金属は、金属成分の酸化や結晶粒の粗大化が起こっており、通常の溶融金属よりも融点が高くなっているため、当該残留金属が処理室内に溜まった状態で、金属充填処理を行うために処理室内を所定の温度(溶融金属の融点以上の温度)まで昇温させると、この残留金属が融解又は軟化し、流動性の低い残留金属が被処理物の被処理面上に載ってしまう。したがって、この状態で、後工程において処理室内に溶融金属を供給すると、被処理面上の残留金属が溶融金属に混入し、混入した残留金属が充填の妨げとなって充填不良が引き起こされる。
【0013】
本発明は、以上の実情に鑑みなされたものであって、処理室内の残留金属が被処理物上に載るのを防止して、被処理面近傍の溶融金属への残留金属の混入を抑えた状態で、被処理物に形成された微小空間内に溶融金属を充填することができ、充填不良の発生を抑えることができる金属充填方法及びこれに用いる金属充填装置の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
被処理物を保持する保持部と、
内部空間を有し、一端が前記保持部と対向して設けられる筒状部材と、
前記筒状部材の内部空間内に進退自在に嵌入された押付部材とを備え、
前記保持部に保持される被処理物又は前記保持部と、前記筒状部材及び前記押付部材とによって気密状の処理室が形成される金属充填装置を用いて、
被処理物被処理面の、該被処理面に開口するように形成された微小空間内に、該被処理物上に供給した溶融金属を充填する金属充填方法であって、
前記処理室内を減圧する減圧工程を行った後
前記保持部に保持された被処理物の被処理面側に押付部材を移動させて、該押付部材を被処理物の被処理面に当接させる当接工程を行い
次に、前記保持部、筒状部材及び押付部材を加熱する加熱工程を行い
しかる後、前記押付部材を被処理面に当接させた状態で、前記処理室内に溶融金属を供給する溶融金属供給工程と、
前記押付部材を被処理物の被処理面から離反させる離反工程とを行い
その後、前記処理室内に供給された溶融金属を、前記微小空間内に充填する充填工程を行う金属充填方法に係る。
【0015】
この金属充填方法によれば、まず、処理室内から気体を排気して、当該処理室内を略真空状態にまで減圧する。ついで、押付部材を被処理物の被処理面側に向けて移動させて、当該押付部材を被処理物の被処理面に当接させる。しかる後、保持部、筒状部材及び押付部材を加熱して、処理室内を昇温する。尚、この際、処理室内の温度が溶融金属の融点以上となるように昇温することが好ましい。
【0016】
このように、押付部材を被処理物の被処理面に当接させた状態で、保持部、筒状部材及び押付部材を加熱することで、処理室内の残留金属が融解又は軟化したとしても、当該残留金属が被処理面上に載る、或いは被処理面に広がるのを防止することができる。
【0017】
次に、押付部材を被処理物に当接させた状態のままで、処理室内に溶融金属を供給する。これにより、金属成分が酸化することによって溶融金属よりも密度の小さくなっている残留金属は、供給された溶融金属の液面に浮かび上がる。したがって、被処理物の被処理面近傍にある溶融金属への残留金属の混入が防止される。尚、処理室内に溶融金属を供給する際には、溶融金属の液面が処理室内に溶融金属を供給する位置を超えるまで、処理室内に溶融金属を供給することが好ましい。
【0018】
ついで、押付部材を被処理面から離反させる。これにより、押付部材と被処理物との間に溶融金属が供給される。尚、押付部材は、処理室内に溶融金属の供給を開始した後、徐々に被処理面から離反させるようにしても良いし、処理室内に溶融金属を十分に供給した後、被処理面から離反させるようにしても良い。しかる後、溶融金属を被処理物に形成された微小空間内に充填する。この際、本発明に係る金属充填方法においては、上述したように、被処理物の被処理面近傍にある溶融金属に残留金属が混入するのを防止するようにしているため、被処理面上の溶融金属に残留金属が混入することによって生じる充填不良の発生を抑えた上で、微小空間内に溶融金属を充填することができる。
【0019】
尚、溶融金属を微小空間内に充填する方法としては、処理室内に加圧気体を供給し、処理室内に供給された溶融金属を加圧して、微小空間内に溶融金属を充填するようにしても良いし、また、離反工程において、処理室内への溶融金属の供給を続けた状態で、押付部材を被処理面から離反させるとともに、処理室内を溶融金属で完全に満たし、その上で、被処理物の被処理面側に押付部材を移動させて、処理室内に供給された溶融金属を加圧し、微小空間内に溶融金属を充填するようにしても良い。
【0020】
尚、この金属充填方法においては、充填処理を行った後、被処理物の被処理面側に押付部材を移動させて、被処理物上から余剰溶融金属を排除する排除工程を更に実施することが好ましい。これにより、処理後の被処理物上に形成される余剰溶融金属からなる層の厚さを薄くすることができる。
【0021】
また、上記金属充填方法においては、溶融金属供給工程と離反工程とを同時に実施し、前記押付部材を徐々に被処理物の被処理面から離反させながら、前記処理室内に溶融金属を供給するようにしても良い。このようにしても、供給された溶融金属の液面に残留金属が浮かび上がるため、被処理物の被処理面近傍にある溶融金属への残留金属の混入が防止される。
【0022】
更に、前記押付部材の、前記被処理面と対向する面に溶融金属封止部を設けて、前記押付工程では、前記保持部に保持された被処理物の被処理面側に押付部材を移動させて、前記溶融金属封止部を、被処理物の被処理面又は保持部に当接させるようにしても良い。このようにすれば、融解又は軟化した残留金属が被処理面に広がるのをより効果的に防止することができる。
【0023】
尚、上記金属充填方法において排除工程を行う場合には、前記排除工程を行った後、前記処理室内の余剰溶融金属を処理室外に除去する除去工程を更に行うようにすることが好ましい。このようにすれば、処理室内に残留する金属の量を極力減らすことができるため、再度処理室内に溶融金属を供給した際の溶融金属への残留金属の混入を抑えることができる。
【0024】
尚、除去工程は、処理室内に加圧気体を供給し、処理室内の余剰溶融金属を処理室外に除去するようにしても良いし、被処理物の処理面側に押付部材を移動させることで、充填工程及び排除工程と同時に行うようにしても良い。
【0025】
また、上記金属充填方法に用いる金属充填装置は、
前記被処理物を保持する保持部と、
内部空間を有し、一端が前記保持部と対向して設けられる筒状部材と、
前記筒状部材の内部空間内に進退自在に嵌入された押付部材と、
前記保持部に保持される被処理物に対して前記押付部材を進退させる押付機構と、
前記保持部及び筒状部材のうちの少なくとも一方を、他方に対し接近、離反する方向に移動させる移動機構とを備え、
前記保持部に保持される被処理物又は前記保持部と、前記筒状部材及び前記押付部材とによって気密状の処理室が形成され、
更に、前記処理室内を減圧する減圧機構と、
前記保持部、筒状部材及び押付部材を加熱する加熱機構と、
前記処理室内に溶融金属を供給する溶融金属供給機構と、
前記処理室内に加圧気体を供給する気体供給機構と、
前記押付機構、移動機構、減圧機構、溶融金属供給機構及び気体供給機構の作動を制御する制御装置とを備えており、
前記制御装置は、
前記保持部に被処理物が載置された状態で、前記移動機構を作動させ、前記保持部と筒状部材とを接近させて処理室を形成する処理と、
前記減圧機構を作動させて、前記処理室内を減圧する処理とを実行した後
前記押付機構により、前記押付部材を被処理物の被処理面側に移動させて、該押付部材を被処理物の被処理面に当接させる処理を実行し
次に、前記加熱機構を作動させて、前記保持部、筒状部材及び押付部材を加熱する処理を実行し
しかる後前記押付部材を被処理面に当接させた状態で、前記溶融金属供給機構を作動させて、前記処理室内に溶融金属を供給する処理と、
前記押付機構によって、前記押付部材を被処理物の被処理面から離反させる処理とを実行し
その後、前記気体供給機構を作動させて、前記処理室内に加圧気体を供給し、前記処理室内に供給された溶融金属を加圧して、前記微小空間内に溶融金属を充填する処理を実行する。
【0026】
この金属充填装置によれば、まず、移動機構によって保持部及び筒状部材のうち少なくとも一方を移動させて、両者が離反した状態にした上で、被処理物を、被処理面が押付部材と対向するように保持部に保持する。ついで、移動機構によって保持部と筒状部材とを接近させて、筒状部材の一端を保持部に保持された被処理物又は保持部に押し当てて密着させることで、被処理物又は保持部と、筒状部材及び押付部材とによって囲まれた気密状の処理室を形成する。
【0027】
次に、減圧機構を作動させて、処理室内の気体を排気し、処理室内を減圧した後、押付機構によって、押付部材を被処理物の被処理面側に移動させ、当該押付部材を被処理面に当接させる。そして、この状態で、加熱機構を作動させて、保持部、筒状部材及び押付部材を加熱し、処理室内の残留金属が融解又は軟化したとしても、当該残留金属が被処理物上に載ってしまう、或いは被処理面上に広がってしまうのを防止した上で、処理室内を所定の温度まで昇温する。尚、昇温後の処理室内の温度は、溶融金属の融点以上であることが好ましい。
【0028】
ついで、押付部材を被処理物の被処理面に当接させた状態で、溶融金属供給機構を作動させて、処理室内に溶融金属を供給する。これにより、残留金属が溶融金属中に浮いた状態で、処理室内に溶融金属が供給される。
【0029】
次に、押付機構を作動させて、押付部材を被処理物の被処理面から離反させる。これにより、被処理物と押付部材との間に隙間が形成され、当該隙間に溶融金属が流れ込むことで、被処理面上に溶融金属が供給される。しかる後、気体供給機構によって処理室内に加圧気体を供給することで、微小空間内に溶融金属が充填される。尚、処理室内を減圧した後に、当該処理室内に溶融金属を供給するようにしていることで、ボイドの発生が低減される。
【0030】
以上のように、この金属充填装置においては、被処理面上に残留金属が載る、或いは残留金属が被処理面上に広がるのを防止するとともに、残留金属を溶融金属の液面に浮かび上がらせた状態で、被処理面上に溶融金属を供給するようにしているため、被処理面近傍の溶融金属への残留金属の混入が防止され、残留金属に起因する充填不良の発生が抑えられる。
【0031】
尚、上記金属充填装置においては、溶融金属を充填する処理を行った後、押付機構を作動させ、押付部材を被処理物の被処理面側に移動させて、当該押付部材を被処理物に押し付け、被処理物上から余剰溶融金属を排除する処理を実行するようにしても良い。このようにすることで、被処理物と押付部材との間の隙間が狭められ、被処理物上の余剰溶融金属が前記隙間から押し出される。したがって、処理後の被処理面上に形成される余剰な金属からなる層を最小限の厚さにすることができる。
【0032】
尚、この金属充填装置においては、前記処理室内に溶融金属を供給する処理と前記押付部材を被処理物の被処理面から離反させる処理とを同時に実施し、前記押付機構によって前記押付部材を被処理物の被処理面から徐々に離反させながら、前記溶融金属供給機構を作動させて、前記処理室内に溶融金属を供給するようにしても良い。この場合も、供給された溶融金属中に残留金属が浮かぶため、被処理物の被処理面近傍にある溶融金属への残留金属の混入が防止される。
【0033】
また、この金属充填装置において、被処理物上から余剰溶融金属を排除する処理を実行する場合には、前記制御装置は、前記被処理物上から余剰溶融金属を排除する処理を実行した後、前記気体供給機構を作動させて、前記処理室内に加圧気体を供給し、この処理室内の余剰溶融金属を処理室外に除去する処理を更に実行することが好ましい。このようにすれば、処理室内に残留する溶融金属の量を極力少なくすることができる。
【0034】
また、上記金属充填方法に用いる金属充填装置は、
前記被処理物を保持する保持部と、
内部空間を有し、一端が前記保持部と対向して設けられる筒状部材と、
前記筒状部材の内部空間内に進退自在に嵌入された押付部材と、
前記保持部に保持される被処理物に対して前記押付部材を進退させる押付機構と、
前記保持部及び筒状部材のうちの少なくとも一方を、他方に対し接近、離反する方向に移動させる移動機構とを備え、
前記保持部に保持される被処理物又は前記保持部と、前記筒状部材及び前記押付部材とによって気密状の処理室が形成され、
更に、前記処理室内を減圧する減圧機構と、
前記保持部、筒状部材及び押付部材を加熱する加熱機構と、
前記処理室内に溶融金属を供給する溶融金属供給機構と、
前記押付機構、移動機構、減圧機構及び溶融金属供給機構の作動を制御する制御装置とを備えており、
前記制御装置は、
前記保持部に被処理物が載置された状態で、前記移動機構を作動させ、前記保持部と筒状部材とを接近させて処理室を形成する処理と、
前記減圧機構を作動させて、前記処理室内を減圧する処理とを実行した後
前記押付機構により、前記押付部材を被処理物の被処理面側に移動させて、該押付部材を被処理物の被処理面に当接させる処理を実行し
次に、前記加熱機構を作動させて、前記保持部、筒状部材及び押付部材を加熱する処理を実行し
しかる後、前記押付部材を被処理面に当接させた状態で、前記溶融金属供給機構を作動させて、前記処理室内に溶融金属を供給する処理と、
前記処理室内への溶融金属の供給を続けた状態で、前記押付機構によって、前記押付部材を被処理物の被処理面から離反させ、前記処理室内を溶融金属で完全に満たす処理とを実行し
その後、前記押付機構によって、前記押付部材を被処理物の被処理面に接近させ、前記処理室内に供給された溶融金属を加圧し、前記微小空間内に溶融金属を充填するとともに、被処理物上から溶融金属を排除する処理を実行するようにしても良い。
【0035】
このようにした場合、上記と同様に、まず、保持台に被処理物を保持してから処理室を形成し、当該処理室内を減圧する。ついで、押付部材を被処理物に当接させた後、保持部、筒状部材及び押付部材を加熱して処理室内を所定の温度にまで昇温し、しかる後、押付部材を被処理物の被処理面に当接させた状態で、処理室内に溶融金属を供給する。
【0036】
次に、この金属充填装置においては、処理室内への溶融金属の供給を続けた状態で、押付機構によって押付部材を被処理物から離反させ、処理室内を溶融金属で完全に満たすように、当該処理室内に溶融金属を供給する。これにより、被処理物上で溶融金属が弾かれることがなく、被処理物上に溶融金属を均一に広げることができる。
【0037】
しかる後、押付機構によって押付部材を被処理物に接近させる。この際、この金属充填装置においては、処理室内が溶融金属で完全に満たされた状態となっているため、押付部材を被処理物に接近させることによって、処理室内の溶融金属が加圧され、当該溶融金属が微小空間内に充填されるとともに、押付部材と被処理物との間から余剰溶融金属が排除される。
【0038】
このように、上記金属充填装置によれば、押付部材を被処理面に当接させた後、処理室内を昇温するようにしているので、処理室内の残留金属が融解又は軟化したとしても、この融解又は軟化した残留金属が被処理物上に載る、或いは被処理面上に広がるのを防止することができる。また、押付部材を被処理面に当接させた状態で、処理室内への溶融金属の供給を開始し、当該処理室内への溶融金属の供給を続けた状態で、押付部材を被処理物から離反させるようにしているため、残留金属を溶融金属中に浮かせながら被処理物上に溶融金属を供給することができ、被処理面近傍の溶融金属への残留金属の混入を防止でき、残留金属に起因する充填不良の発生を抑えることができる。
【0039】
尚、上記金属充填装置においては、前記処理室内に溶融金属を供給する処理と前記処理室内を溶融金属で完全に満たす処理とを同時に実施し、前記押付機構によって前記押付部材を被処理物の被処理面から徐々に離反させながら、前記溶融金属供給機構を作動させて、前記処理室内を溶融金属で完全に満たすように、当該処理室内に溶融金属を供給するようにしても良い。このようにしても、被処理物上に溶融金属を均一に広げることができ、また、残留金属を溶融金属中に浮かせながら被処理物上に溶融金属を供給することができ、相応の効果を奏する。
【0040】
尚、この金属充填装置においては、押付機構によって押付部材を被処理物に接近させることで、溶融金属が微小空間内に充填されるとともに、余剰溶融金属を押付部材と被処理物との間から排除する処理を行うようにしているが、この処理と同時に、処理室内から処理室外へと余剰溶融金属を除去する処理が行われるようにすることが好ましく、このようにすれば、処理室内に残留する溶融金属の量を少なくすることができる。
【0041】
また、これらの金属充填装置は、押付部材の、被処理面と対向する面に溶融金属封止部を設け、押付部材を被処理物の被処理面に押し付ける処理において、この溶融金属封止部を被処理面に当接させるようにしても良い。このようにすれば、融解又は軟化した残留金属が被処理面に広がるのをより効果的に防止することができる。
【発明の効果】
【0042】
以上のように、本発明に係る金属充填方法及び金属充填装置によれば、被処理物に形成された微小空間内に溶融金属を充填する処理を行う際に、処理室内に残留した金属が被処理物上に載る、或いは被処理面に広がるのを効果的に防止した状態で、微小空間内に溶融金属を充填することができ、充填不良の発生を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】本発明の一実施形態に係る金属充填装置の概略構成を示した断面図である。
図2】上記実施形態の金属充填装置の動作フローを示す説明図である。
図3】上記実施形態の金属充填装置の動作フローを示す説明図である。
図4】上記実施形態の金属充填装置の動作フローを示す説明図である。
図5】上記実施形態の金属充填装置の動作フローを示す説明図である。
図6】上記実施形態の金属充填装置の動作フローを示す説明図である。
図7】上記実施形態の金属充填装置の動作フローを示す説明図である。
図8】上記実施形態の金属充填装置の動作フローを示す説明図である。
図9】上記実施形態の金属充填装置の動作フローを示す説明図である。
図10】実施形態の金属充填装置によって金属充填処理を行う際のタイミングチャートを示した図である。
図11】(a)は、ピストンに、溶融金属封止部を設ける構成例を示す断面図であり、(b)は、(a)のピストンを半導体ウェハに向けて下降させたときの様子を示す断面図である。
図12】(a)は、ピストンに、溶融金属封止部を設ける更なる構成例を示す断面図であり、(b)は、(a)のピストンを半導体ウェハに向けて下降させたときの様子を示す断面図である。
図13】(a)は、ピストンに設ける溶融金属封止部の更なる構成例を示す断面図であり、(b)は、(a)のピストンを半導体ウェハに向けて下降させたときの様子を示す断面図である。
図14】(a)は、ピストンに設ける溶融金属封止部の更なる構成例を示す断面図であり、(b)は、(a)のピストンを半導体ウェハに向けて下降させたときの様子を示す断面図である。
図15】(a)は、ピストンに設ける溶融金属封止部の更なる構成例を示す断面図であり、(b)は、(a)のピストンを半導体ウェハに向けて下降させたときの様子を示す断面図である。
図16】本発明の他の実施形態に係る金属充填装置の概略構成を示した拡大図である。
図17図16における矢示A−Aの断面図である。
図18】本発明の他の実施形態に係る金属充填装置の概略構成を示した断面図である。
図19】他の実施形態に係る金属充填装置によって金属充填処理を行う際のタイミングチャートを示した図である。
図20】本発明の他の実施形態に係る金属充填装置の概略構成を示した断面図である。
図21】他の実施形態に係る金属充填装置の動作フローを示す説明図である。
図22】他の実施形態に係る金属充填装置の動作フローを示す説明図である。
図23】他の実施形態に係る金属充填装置の動作フローを示す説明図である。
図24】他の実施形態に係る金属充填装置の動作フローを示す説明図である。
図25】他の実施形態に係る金属充填装置の動作フローを示す説明図である。
図26】他の実施形態に係る金属充填装置の動作フローを示す説明図である。
図27】他の実施形態に係る金属充填装置の動作フローを示す説明図である。
図28】他の実施形態に係る金属充填装置によって金属充填処理を行う際のタイミングチャートを示した図である。
図29】本発明の他の実施形態に係る金属充填装置の概略構成を示した断面図である。
図30】他の実施形態に係る金属充填装置によって金属充填処理を行う際のタイミングチャートを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の具体的な実施形態について、添付図面に基づき説明する。
【0045】
[金属充填装置の構成]
図1に示すように、本例の金属充填装置1は、半導体ウェハ(被処理物)Kの被処理面に開口するように形成された微小空間内に溶融金属Mを充填する金属充填装置であって、半導体ウェハKがその前記被処理面を上にした状態で保持される保持台Hと、内部に空間が形成され、下端面が前記保持台Hと対向して配設された筒状のハウジングCと、前記保持台Hに保持される半導体ウェハKの被処理面に対して進退自在に設けられた押付部材たるピストンPと、前記保持台Hを前記ハウジングCに接近、離反させる昇降機構10と、前記ピストンPを進退させる押付機構3とを備えており、前記保持台Hに保持された半導体ウェハK、ハウジングC及びピストンPによって気密状の処理室2が形成される。
【0046】
また、この金属充填装置1は、前記処理室2内の気体を排気して、この処理室2内を減圧する減圧機構5と、前記保持台H、ハウジングC及びピストンPを加熱する加熱機構6と、前記処理室2内に溶融金属Mを供給する溶融金属供給機構7と、処理室2内に不活性ガスを供給するガス供給機構8と、処理室2内に供給された溶融金属Mを回収する溶融金属回収機構9と、前記昇降機構10、押付機構3、減圧機構5、加熱機構6、溶融金属供給機構7、ガス供給機構8及び溶融金属回収機構9の作動を制御する制御装置11とを備えている。
【0047】
前記保持台Hは、前記昇降機構10によって昇降するようになっており、この保持台HをハウジングCに向けて上昇させ、保持台Hの上面に保持された半導体ウェハKの被処理面をハウジングCの下端面に押し当てて密着させることにより、気密状の処理室2が形成される。尚、昇降機構10は、トルクモータなどから構成されており、前記制御装置11によってその作動が制御される。
【0048】
前記ピストンPは、前記ハウジングCの上側開口部から嵌挿され、前記押付機構3によって軸線方向に進退するようになっており、ピストンPの外周面とハウジングCの内周面との間には、Oリング12が介装され、両者の間がこのOリング12によってシールされている。また、ピストンPのフランジ部とハウジングCの上端面との間には、ベローズシール13が設けられており、当該ベローズシール13によって、ピストンPとハウジングCとの間の気密性が更に高められている。
【0049】
また、前記ピストンPは、その保持台Hと対向する側に、耐熱性を有するステンレス440C(又はステンレス304)で構成された押付部4が設けられている。尚、ステンレスは、高温環境下で使用しても表面状態が安定しており、十分な硬さを有している点で押付部4の素材として優れている。また、当該ピストンPには、適宜溶融金属封止部を設けることが好ましい。
【0050】
そして、前記押付部4の表面の内、少なくとも溶融金属Mと接する領域には、電解研磨による鏡面加工が施されており、このような鏡面加工処理の結果、試作した金属充填装置1における押付部4の表面粗さは、十点平均粗さ(Rz)で0.3μm以下、最大高さ(Ry)で0.5μm以下、凹凸平均距離(Sm)で10μm以上となっている。このように、押付部4の表面粗さ(十点平均粗さ)を、0.3μm以下として、押付部4の金属表面を滑らかなものとしておけば、溶融金属Mが押付部4側に固着することを防ぐことができるので、押付部4を半導体ウェハKから引き離すときにも、冷却硬化した溶融金属Mは押付部4の金属表面から容易に剥離され、充填不良や半導体ウェハKの割れなどを効果的に回避することが可能となり、また、処理後の押付部4に残留金属M2が付着するのを防止することができる。尚、本願で表面粗さというときは、JIS規格の十点平均粗さのことを指す。
【0051】
更に、前記押付部4の表面には、DLC皮膜処理(離型処理)が施されており、強い力で押付部4を溶融金属Mに押し付けたとしても、当該溶融金属Mが硬化しても容易に押付部4から剥離されるようになっている。
【0052】
尚、離型処理としては、DLC処理の他、CrNコーティング処理、TiNコーティング処理、サーフ処理などを好適に用いることができる。また、押付部4は、上述したように、ステンレスの金属製なので十分な硬度を有しており、試作した金属充填装置1においては、上記鏡面加工処理や離型処理を施した状態で、そのマイクロビッカース硬さ(Hv)は1200より大きかった。
【0053】
また、金属製の押付部4は、加熱加圧による変形も比較的少なく、上記のように、十分な硬度を有しているので、その表面に施したコーティング処理が落ち難く、コーティング処理の効果を長寿命化することができる。
【0054】
前記押付機構3は、所謂油圧シリンダ機構であって、ピストンPを進退させる駆動力を与える機構であり、ピストンPの押付部4を所定の押圧力で半導体ウェハKに押し付けることができる。尚、図示していないが、この押付機構3は、図中上側の油圧室及び図中下側の油圧室に圧油を供給するための配管がそれぞれ接続され、当該各配管には、その作動が前記制御装置11によって制御される切換弁が設けられており、前記上側の油圧室に圧油が供給されると、ピストンPが下側に移動し、下側の油圧室に圧油が供給されると、ピストンPが上側に移動するようになっている。
【0055】
前記減圧機構5は、ハウジングCの上端側の側壁を貫通して設けられた配管15によって処理室2と接続された真空ポンプ5aと、配管15の、真空ポンプ5aと処理室2との間に設けられた制御弁5bとからなり、真空ポンプ5aによって処理室2内の空気を排気して、処理室2内を減圧する機構である。尚、前記真空ポンプ5aの作動及び前記制御弁5bの開閉は、前記制御装置11によって制御されている。
【0056】
また、前記加熱機構6は、前記保持台H、ハウジングC及びピストンPをそれぞれ個別に加熱することができる装置であり、例えば、保持台H、ハウジングC及びピストンPにそれぞれ内蔵されたヒータなどを例示することができる。
【0057】
前記溶融金属供給機構7は、ハウジングCの下端側の側壁を貫通して設けられた配管16によって処理室2と接続された溶融金属供給部7aと、配管16の、溶融金属供給部7aと処理室2との間に設けられた制御弁7bとからなり、所定の供給圧でもって、溶融金属供給部7aから処理室2内に溶融金属Mを供給する機構であり、前記制御弁7bはその開閉が前記制御装置11によって制御されている。
【0058】
前記溶融金属供給部7aには、金属充填に用いられる溶融金属Mがその融点よりも高い温度で熱せられ、液体状態で貯留されている。尚、本例において金属充填に用いられる溶融金属Mは、融点約200℃の鉛フリー半田であり、半田のように比較的融点の低い金属は取り扱いが容易である点において優れているが、溶融金属Mの種類は、半田に限定されるものはなく、微小空間を埋める目的やその機能に応じて、Au,Ag,Cu,Pt,Pd,Ir,Al,Ni,Sn,In,Bi,Znやこれらの合金など任意のものを採用することができる。
【0059】
また、前記ガス供給機構8は、配管17によって配管15及び配管16と接続されたガス供給部8aと、配管17の、配管15とガス供給部8aとの間に設けられた制御弁8bと、配管16とガス供給部8aとの間に設けられた制御弁8cとからなり、配管15、配管16及び配管17を介して、ガス供給部8aから処理室2内に不活性ガスを供給する機構である。尚、ガス供給部8aの作動及び2つの制御弁8b,8cの開閉は、制御装置11によって制御される。
【0060】
また、前記溶融金属回収機構9は、ハウジングCの下端側の側壁を貫通して設けられた配管18によって処理室2に接続された溶融金属回収部9aと、配管18の、溶融金属回収部9aと処理室2との間に設けられた制御弁9bとからなり、処理室2内の溶融金属Mを回収する機構であって、制御弁9bは、その開閉が制御装置11により制御される。尚、溶融金属回収部9aとしては、回収タンクと、この回収タンクに接続された排気装置とからなる構成を例示することができる。
【0061】
[金属充填の手順]
次に図2図9を参照して、本例の金属充填装置1における金属充填の手順について詳細に説明する。
【0062】
本例の金属充填装置1によれば、まず、制御装置11によって昇降機構10の作動を制御し、保持台Hを下降させて、保持台Hの上面をハウジングCの下端面から離反させた後、半導体ウェハKを、その被処理面を上にした状態で保持台H上に保持する。ついで、制御装置11によって昇降機構10の作動を制御して、保持台HをハウジングCに向けて上昇させ、保持台Hの上面に保持された半導体ウェハの表面をハウジングCの下端面に押し当てて密着させることにより、当該ハウジングCによって半導体ウェハKが保持台H上に押さえつけられた状態で処理室2が形成される。
【0063】
しかる後、図2に示すように、制御装置11による制御の下、真空ポンプ5aを作動させるとともに、配管15の制御弁5bを開いて、処理室2内の気体を排気し、当該処理室2内及び半導体ウェハKに形成された微小空間内を略真空状態にまで減圧する。
【0064】
次に、図3に示すように、真空ポンプ5aによる減圧を続け、処理室2内を略真空状態に保ったままの状態で、制御装置11による制御の下、押付機構3を作動させて、ピストンPを半導体ウェハKに対して近づけていき、押付部4の表面を半導体ウェハKの被処理面に当接させる。尚、押付部4の表面は、半導体ウェハKの被処理面に軽く当たる程度に当接させることが好ましいが、所定の押圧力でもって被処理面に押し付けるようにしても良い。しかる後、前記制御装置11によって加熱機構6を作動させて、保持台H、ハウジングC及びピストンPを加熱して、処理室2内を溶融金属Mの融点以上の温度(本例においては約220℃)に昇温する。このように、押付部4の表面を半導体ウェハKの被処理面に当接させた後、処理室2内を昇温するようにしているため、処理室2内の残留金属M2が融解又は軟化したとしても、当該残留金属M2が半導体ウェハK上に載る、或いは残留金属M2が被処理面に広がるのが防止される。尚、残留金属M2とは、金属充填処理を繰り返し行うことによって、ピストンPの外周面とハウジングCの内周面との間などに残留した溶融金属であって、金属成分の酸化や結晶粒の粗大化が起こっており、通常の溶融金属よりも融点が高く、密度は小さくなっている。
【0065】
ついで、図4に示すように、溶融金属Mの融点以上の温度に昇温された処理室2内を略真空状態に保ち、且つ半導体ウェハKの被処理面に押付部4の表面を当接させた状態のまま、制御装置11によって配管16の制御弁7bを開き、溶融金属供給部7aから融点以上(本例においては約250℃)に熱した液体状の溶融金属Mを処理室2の内部に供給する。これにより、溶融金属Mよりも密度の小さな残留金属M2は、供給された溶融金属Mの液面に浮上する、或いは、供給された溶融金属Mによって配管18に押し流される。尚、処理室2内の溶融金属Mの液面の位置が配管16の開口部を超えるまで供給するようにすることが好ましい。
【0066】
尚、この金属充填装置1においては、配管15をハウジングCの上端側に貫通して設けた、即ち、配管15を、供給される溶融金属Mの液面より十分上方に設けたことにより、真空ポンプ5aによる減圧を続けた状態で、処理室2内に溶融金属Mを供給することが可能となっているが、真空ポンプ5a内に溶融金属Mが吸引されてしまうことがないように、適切なタイミングで溶融金属Mの供給を停止するのが好ましい。また、上述したように、半導体ウェハKを保持台Hに押さえ付けているため、例えば、シリコン(比重:2.5)からなる半導体ウェハK上に半田(比重:約9.0)が供給されたとしても、半導体ウェハKが保持台Hから浮き上がらないようになっている。
【0067】
そして、処理室2内に所定量の溶融金属Mを供給した段階で、処理室2内に溶融金属Mを供給したまま、制御装置11による制御の下、押付機構3を作動させてピストンPを上昇させ、押付部4の表面を半導体ウェハKの被処理面から離反させて、半導体ウェハKの被処理面で弾かれることなく当該半導体ウェハKの被処理面全体を覆える量に達するまで、押付部4と半導体ウェハKとの間に溶融金属Mを供給する(図5参照)。尚、この際、押付部4の表面が溶融金属Mの液面に浸かった状態を維持することが好ましい。
【0068】
しかる後、制御装置11によって配管16の制御弁7bを閉じた後、配管15の制御弁5bを閉じるとともに、真空ポンプ5aの作動を停止して減圧を中止する。
【0069】
そして、制御装置11による制御の下、配管17の制御弁8bを開くとともに、ガス供給部8aを作動させて、このガス供給部8aから加圧用の窒素ガスなどを処理室2内が所定の圧力(本例においては約0.5MPa)になるように供給する(図6参照)。これにより、処理室2内に供給された窒素ガスなどのガス圧によって溶融金属Mが加圧され、所謂差圧充填により溶融金属Mが微小空間内に充填される。
【0070】
しかる後、制御装置11によって押付機構3を作動させて、ピストンPを半導体ウェハKに向け移動させて、押付部4を半導体ウェハKの被処理面に押し付ける(図7参照)。これにより、押付部4と半導体ウェハKとの間の余剰溶融金属が、半導体ウェハK上からハウジングCの内周面とピストンPの外周面との間の隙間に押し出される。したがって、処理後の半導体ウェハK被処理面に形成される残渣の量が減少する。尚、残渣とは、半導体ウェハK上で微小空間に入りきらなかった余剰溶融金属が半導体ウェハK上で硬化してできる層状の不要金属部分のことをいうが、当該金属部分は、全ての場合において不要という訳ではなく、配線層やコンタクト層として用いることができる場合もある。
【0071】
そして、押付部4を半導体ウェハKの被処理面に押し付けた状態で、ピストンPをしばらく静止させる。本例の金属充填装置1においては、上述したように、押付部4が溶融金属Mの液中に押し付けられた分、その分の溶融金属Mは、ピストンPの外周面とハウジングCの内周面との間の隙間へ移動するため、溶融金属Mの液面が上昇し、その結果、溶融金属Mの液面から深い位置で、半導体ウェハKが溶融金属Mに浸漬される状態となる。したがって、押付部4と半導体ウェハKとが接触し、溶融金属Mと半導体ウェハK及び押付部4との濡れ性の悪さによって、半導体ウェハK被処理面で溶融金属Mが弾かれる力が強くなったとしても、半導体ウェハKの被処理面で溶融金属Mが膜切れする状態になり難い。
【0072】
尚、半導体ウェハKの被処理面に押付部4を押し付けている間も、ガス供給機構8によるガス加圧は継続しておくことが好ましい。このようにすることで、充填する力が維持されるとともに、上述した膜切れをより効果的に防止することができる。
【0073】
ついで、図8に示すように、押付部4を半導体ウェハKの被処理面に押し付けた状態で、制御装置11によって配管17の制御弁8cを開くとともに、配管18の制御弁9bを開いて、半導体ウェハKの微小空間内に充填しきれない余剰溶融金属M1を溶融金属回収部8aへと回収する。余剰溶融金属M1を回収しなければ、後述の冷却後、余剰溶融金属M1がピストンPとハウジングCとの間で硬化してピストンPの進退動作が妨げられる、或いは、半導体ウェハKと処理室2の内壁面とが固着するなどの問題が生じ、また、処理室2内に大量の金属が残留してしまう。ただし、押付部4と半導体ウェハKとの間にガスが入ると充填不良が発生するため、余剰溶融金属M1を処理室2内から全て除去することはせず、押付部4の外周面とハウジングCの内周面との間の隙間には溶融金属Mを残した状態としておくことが好ましい。尚、この隙間に残す溶融金属Mの分量は、半導体ウェハK及び押付部4と溶融金属Mとの濡れ性や、隙間の大きさにもよるが、高さにして数mm程度となるような分量であることが好ましい。
【0074】
そして、余剰溶融金属M1を回収した後、制御装置11による制御の下、配管17の制御弁8c及び配管18の制御弁9bを閉じるとともに、加熱機構6による加熱を止め、溶融金属Mの温度が融点以下となるまで冷却し、半導体ウェハKの微小空間内に充填された溶融金属Mが冷却硬化するまで待機する。しかる後、制御装置11による制御の下、配管17の制御弁8bを閉じてガスの供給を停止する。
【0075】
その後、図9に示すように、制御装置11による制御の下、押付機構3を作動させてピストンPを上昇させ、更に、昇降機構10を作動させて、保持台Hを下降させることにより、処理室2を開放する。そして、金属充填処理を終えた半導体ウェハKを取り出して、これから金属充填処理を行う新たな半導体ウェハKと入れ替え、図2図9に示した手順を繰り返し、半導体ウェハKに金属充填処理を施していく。
【0076】
尚、金属充填装置1によって、上記一連の金属充填処理を施す際の、加熱機構6の動作、制御弁5b,7b,8b,8c,9bの開閉、押付機構3の動作及び昇降機構10の動作に関するタイミングチャートの一例を図10に示した。
【0077】
[溶融金属封止部の態様]
次に、上記金属充填装置1において、処理室2内に供給された溶融金属Mを、押付部4と半導体ウェハKとの間に閉じ込めるための溶融金属封止部を設ける態様について、図11図15を参照して説明する。尚、図11図15において、斜線を付した肉厚部の詳細な構成については、その図示を省略した。
【0078】
まず、第1の態様として、図11(a)に示すように、押付部4の下面に、円形の半導体ウェハKの外周に沿うように、弾性体からなるリング形状をした溶融金属封止部20を設ける態様がある。
【0079】
この構成によれば、押付部4を半導体ウェハKに接近させ、溶融金属封止部20を半導体ウェハKの被処理面に当接させる(図3参照)ことで、溶融金属封止部20の内側の領域と外側の領域とが当該溶融金属封止部20によって隔てられるため、処理室2内を昇温した際に、残留金属M2が半導体ウェハK上に載る、或いは被処理面に広がるのをより効果的に防止することができる。また、押付部4を半導体ウェハKに接近させていった際(図7参照)、押付部4と半導体ウェハKとの間から余剰溶融金属M1を逃がして半導体ウェハK上で残渣となる余剰溶融金属M1の量を十分に減らしながらも、被処理面上に充填に必要な溶融金属Mを閉じ込めることができる。即ち、溶融金属封止部20が半導体ウェハKと接触するまでは、溶融金属封止部20の内側領域の溶融金属Mは、当該領域の外部へと逃げられるのに対し、溶融金属封止部20が半導体ウェハKの被処理面に押し付けられると、溶融金属Mは、溶融金属封止部20の内側領域に閉じ込められる(図11(b)参照)。
【0080】
尚、溶融金属封止部20は、弾性体からなることが好ましい。このようにすることで、押付部4を半導体ウェハKに押し付けた際に、溶融金属封止部20が変形し、封止領域が狭められるので、当該封止領域内の溶融金属Mに押付機構3の推力を用いて効率良く高い圧力をかけることができ、溶融金属Mを微小空間内に隙間なく充填することができる。
【0081】
そして、この溶融金属封止部20を設けた場合、上記金属充填装置1においては、ガスによる加圧と押付部4による加圧とを二段階で行い、溶融金属Mを半導体ウェハKに形成された微小空間内に充填することができる。具体的には、まず、上述したように、ガスによる加圧を行う。尚、この際、ガス圧は、溶融金属Mが半導体ウェハKと押付部4との間の隙間で膜切れすることがない程度の軽い圧力(例えば0.2MPa以下)としておく。ついで、押付部4を半導体ウェハKに押し付けることによって、溶融金属封止部20より内側にある半導体ウェハKの被処理面上全体の溶融金属Mに高い圧力をかけて金属充填処理を行うことができる。このように、二段階加圧によって金属充填処理を行うようにすることで、処理室2内の圧力を低く抑えることができ、耐圧性能を極端に高いものとする必要もなくなる。
【0082】
更に、押付部4に溶融金属封止部20を設けることにより、溶融金属を処理室2外へと除去する工程において、封止領域外の余剰溶融金属M1をガスブローや液体リンスなどを用いて除去したとしても、封止領域内にある微小空間の充填性には影響が及ばないため、より効果的に余剰溶融金属M1を処理室2外へと除去し、回収することができる。即ち、押付部4に溶融金属封止部20を設けた場合には、余剰溶融金属M1を全て排出したとしても、押付部4と半導体ウェハKとの間にガスが入ることがなく、充填不良が発生しないため、余剰溶融金属M1を意図的に残すことなく、処理室2外に除去し、回収することができる。
【0083】
第2の態様として、図12(a)に示すように、押付部4の下面において、半導体ウェハKの外側の保持台Hと対向する位置に、半導体ウェハKと同心円状の弾性体からなる溶融金属封止部21を設ける態様がある。尚、この場合、前記金属充填装置1における処理室2は、保持台H、ハウジングC及びピストンPによって形成されるようにする。
【0084】
このように構成すれば、溶融金属封止部21は、半導体ウェハKに接触することなく、半導体ウェハKの全面において溶融金属Mの充填処理を行うことができる(図12(b)参照)。また、第1の態様と同様に、処理室2内を昇温した際に、残留金属M2が半導体ウェハK上に載る、或いは被処理面上に広がるのをより確実に防止することができる。
【0085】
以上の溶融金属封止部20,21を形成する材料は、ある程度の弾力性や耐熱性などを備え、溶融金属Mを封止するのに適した材料であれば、特に限定されるものではないが、封止前の溶融金属Mが、封止領域外へと逃げやすい材料や構造を採用することによって、封止される溶融金属Mの分量を必要最低限のものとして、半導体ウェハK上の残渣をより効果的に薄くすることができる。
【0086】
図13(a)に示すように、第3の態様として、押付部4の、半導体ウェハKと対向する面の逆側に溶融金属封止部としての弾性体層22を積層する態様がある。この場合、押付部4の表面と半導体ウェハKの被処理面との平行度が悪くとも、弾性体層22が変形することによって押付部4の表面と半導体ウェハKの被処理面との密着性を高めることができるため、処理室2内を昇温した際に、残留金属M2が半導体ウェハKの被処理面上に載る、或いは広がるのをより効果的に防止することができる。
【0087】
また、このようにすれば、押付機構3によって、ピストンPを半導体ウェハKに向けて移動させ、押付部4を半導体ウェハKに接近させると、図13(b)に示すように、弾性体層22が押付方向と垂直な方向に広がり、この広がった弾性体層22がハウジングCに押し付けられる。これにより、溶融金属Mが弾性体層22で封止された空間の内部に閉じ込められるため、ガスによって加圧されていた溶融金属Mの圧力を保つことができる。
【0088】
第4の態様としては、図14(a)に示すように、押付部4の、半導体ウェハKと対向する面の逆側に溶融金属封止部としての弾性体層23を積層し、更に、押付部4の下面に、半導体ウェハKの外周に沿うように、弾性体からなるリング形状をした溶融金属封止部24を設けた態様がある。このようにすれば、第1の態様と同様に、溶融金属封止部24によって、この溶融金属封止部24の内側の領域と外側の領域とが隔てられ、更に、第3の態様と同様に、弾性体層23が変形することによって押付部4の表面と半導体ウェハKの被処理面との密着性を高めることができるため、残留金属M2が半導体ウェハK上に載る、或いは被処理面上に広がるのをより効果的に防止することができる。
【0089】
また、このようにしても、溶融金属封止部24が半導体ウェハKと接触するまでは、溶融金属封止部24の内側領域の溶融金属Mは、当該領域の外部へと逃げられるのに対し、溶融金属封止部24が半導体ウェハKの被処理面に押し付けられると、溶融金属Mは、溶融金属封止部24の内側領域に閉じ込められる(図14(b)参照)ため、半導体ウェハK上で残渣となる余剰溶融金属M1の量を十分に減らしながらも、被処理面上に充填に必要な溶融金属Mを閉じ込めることができ、更に、余剰溶融金属M1を意図的に残すことなく、処理室2外に除去し、回収することができる。
【0090】
第5の態様としては、図15(a)に示すように、押付部4の、半導体ウェハKと対向する面以外を取り囲むように、溶融金属封止部としての弾性体層25を設ける態様がある。このようにしても、押付機構3によって、ピストンPを半導体ウェハKに向けて移動させて、弾性体層25を半導体ウェハKの表面に当接させることで、弾性体層25の内側の領域と外側の領域とが当該弾性体層25によって隔てられるため、融解又は軟化した残留金属M2が半導体ウェハK上に載る、或いは被処理面上に広がるのを効果的に防止することができる。また、この場合も、上記と同様に、押付部4と半導体ウェハKとの間から余剰溶融金属M1を逃がして半導体ウェハK上で残渣となる余剰溶融金属M1の量を十分に減らしながらも、被処理面上に充填に必要な溶融金属Mを閉じ込めることができる。
【0091】
このように、押付部4と半導体ウェハKとの間に閉じ込めるための溶融金属封止部を設けることによって、残留金属M2が半導体ウェハK上に載る、或いは被処理面上に広がるのを防止することができるとともに、溶融金属Mに適切な圧力をかけて、当該溶融金属Mを微小空間内に充填することができる。また、半導体ウェハK上で残渣となる余剰溶融金属M1を低減することができる。
【0092】
以上のように、本例の金属充填装置1及び金属充填方法によれば、押付部4の表面を半導体ウェハKの被処理面に当接させた後、処理室2内を昇温するようにしているため、処理室2内を昇温することによって、当該処理室2内の残留金属M2が融解又は軟化しても、この残留金属M2が被処理面上に載る又は広がるのを防止することができる。更に、押付部4の表面を半導体ウェハKの被処理面に当接させた状態で溶融金属Mを処理室2内に供給し、処理室2内の残留金属M2を供給した溶融金属Mの液面に浮上させた後、押付部4の表面を半導体ウェハKの被処理面から離反させて、被処理面上に溶融金属Mを供給するようにしたことで、被処理面近傍の溶融金属Mへの残留金属M2の混入を防止することができ、残留金属M2に起因する充填不良の発生を抑えた上で、微小空間内に溶融金属Mを充填することができる。
【0093】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明が採り得る態様は何らこれらに限定されるものではない。
【0094】
上例の金属充填装置1においては、処理室2内に溶融金属Mを供給することで、残留金属M2を溶融金属Mの液面に浮上させる、或いは、供給した溶融金属Mによって配管18に押し流すようにしているが、これに限られるものではない。例えば、半導体ウェハKの被処理面近傍へ残留金属M2が近づくのを防止するためにハウジングCの内周面に一時的に残留金属M2を受けるための溜まり部を設けるようにしても良い。尚、溜まり部を設けることにより、溶融金属Mを供給しなければならない量が増えるため、溶融金属Mの使用量を重視するのであれば、溜まり部は特に設けなくとも良い。
【0095】
また、上例においては、押付部4を半導体ウェハKに近づける構成としたが、半導体ウェハK(保持台H)を押付部4に近づける構成としても良い。
【0096】
また、上例においては、ハウジングCを通して処理室2内に溶融金属Mを供給するようにしたが、保持台Hを通して処理室2内に溶融金属Mを供給するようにしても良い。これについて、図16及び図17を参照して説明する。尚、図16は、金属充填装置の一部を拡大した図であり、図17は、図16におけるハウジングCを抜粋した矢示A−A間の断面図である。
【0097】
図16及び図17に示すように、保持台Hに、その側面から上面に貫通するように配管16を設けるとともに、その上面から下面に貫通するように半導体ウェハKを吸着するための吸着孔H1が設けられている。また、ハウジングCは、その下端面に環状の溝C1が形成されるとともに、この溝C1の側面から内周面に貫通するように複数の切欠き部C2が形成されている。尚、溝C1は、必ずしも環状である必要はなく、配管16の、保持台H上面における開口部と対向する位置に窪みとして設けても良い。この場合、窪みの側面から内周面に貫通するように切欠き部を設ける。
【0098】
このように構成された金属充填装置においては、ハウジングCの外周側の下端面を保持台Hに押し当てて密着させることで処理室2が形成される。尚、この場合、保持台Hに代えてハウジングCを保持台Hに対して昇降させる構成とすることが好ましい。また、ハウジングCの外周側の下端面と保持台Hの上面との間及び半導体ウェハKの下面と保持台Hの上面との間は、Oリングによってシールされている。
【0099】
そして、この金属充填装置では、溶融金属Mが配管16を介してハウジングCに形成された溝C1に供給された後、切欠き部C2を通して半導体ウェハK上に供給される。このようにすれば、半導体ウェハKのエッジ直近から溶融金属Mが供給されるため、残留金属M2を効果的に押し退けることができる。
【0100】
更に、上例の金属充填装置1では、半導体ウェハKの被処理面で弾かれることなく当該半導体ウェハKの被処理面全体を覆うことができる量に達するまで、押付部4と半導体ウェハKとの間に溶融金属Mを供給するようにしているが、このような態様に限られるものではない。例えば、処理室2内を完全に満たすように当該処理室2内に溶融金属Mを供給し、被処理面全体を溶融金属Mによって均一に覆うようにしても良い。このように構成された金属充填装置30について、図18を参照して以下説明する。尚、金属充填装置1の構成と同一の構成要素については、同じ符号を付し、その詳しい説明は省略する。
【0101】
図18に示すように、この金属充填装置30は、保持台H、ハウジングC、ピストンP、昇降機構10、押付機構3、減圧機構5、加熱機構6、溶融金属供給機構7、ガス供給機構8、溶融金属回収機構9及び制御装置11を備えており、押付部4には、保持台Hと対向する面の外周縁部に沿って環状の溶融金属封止部4aが設けられている。また、前記ガス供給機構8は、ガス供給部8aと配管15とが配管17’によって接続されており、前記溶融金属回収機構9は、溶融金属回収部9aと配管16とが配管18’によって接続されている。更に、前記溶融金属回収機構9の制御弁9bは、閉鎖、絞りを介した開放、全開放の3つの状態に切り換えることができるようになっている。尚、ピストンPとハウジングCとの間には、2つのOリング12a,12bが介装されており、これら2つのOリング12a,12bは、ハウジングCに固定されている。また、この金属充填装置30においては、処理室2を形成した際に、半導体ウェハK表面とハウジングCの下端面との間が、Oリング14によって気密性が保たれるようになっている。
【0102】
この金属充填装置30によれば、まず、保持台HとハウジングCとを離反させた状態で、保持台H上に半導体ウェハKを載置し、制御装置11による制御の下、昇降機構10によって保持台Hを上昇させて、保持台H上に載置した半導体ウェハKの表面にハウジングCの下端面を押し当てて密着させ処理室2を形成する。
【0103】
ついで、真空ポンプ5aを作動させるとともに制御弁5bを開き、処理室2内の気体を排気して、処理室2内及び微小空間内を略真空状態にまで減圧する。次に、押付機構3によって、ピストンPを半導体ウェハKに向けて移動させて、溶融金属封止部4aを半導体ウェハKの表面に当接させ、しかる後、加熱機構6によって、保持台H、ハウジングC及びピストンPを加熱して、処理室2内を溶融金属Mの融点以上の温度にまで昇温する。このように、溶融金属封止部4aを半導体ウェハKの表面に当接させた状態で処理室2内を昇温することで、融解又は軟化した残留金属M2が半導体ウェハKの被処理面上に載る又は広がるのを確実に防止することができる。
【0104】
次に、制御弁5bと閉じ、真空ポンプ5aの作動を停止させる一方、押付機構3によってピストンPを徐々に上昇させながら、制御弁7bを開いて、処理室2内を溶融金属Mで完全に満たした状態を維持しつつ、処理室2内に溶融金属Mを加圧供給する。そして、処理室2の容積が所定の容積となった後、制御弁7bを閉じて、処理室2内への溶融金属Mの供給を停止する。このように、金属充填装置30においては、処理室2内が溶融金属Mで完全に満たされるため、溶融金属Mが半導体ウェハKの被処理面で弾かれることがなく、半導体ウェハKの被処理面全体が溶融金属Mによって均一に覆われた状態となる。また、上述したように、供給される溶融金属Mの密度よりも残留金属M2の密度が小さいため、残留金属M2が溶融金属Mに中に浮いて被処理面から遠ざけられる。
【0105】
ついで、制御装置11によって制御弁9bを、絞りを介した開放状態にするとともに、押付機構3を作動させて、ピストンPを半導体ウェハKに向けて移動させる。これにより、溶融金属Mが適切に加圧された状態のまま、余剰溶融金属M1が溶融金属回収部9aへ押し出される。そして、ピストンPを更に移動させて、溶融金属封止部4aを半導体ウェハKの被処理面に押し付けることにより、当該溶融金属封止部4aの内側の領域に溶融金属Mが閉じ込められて半導体ウェハKの内側領域内により高い圧力がかかり、溶融金属Mが微小空間内に押し込められる。
【0106】
しかる後、制御弁9bを全開放の状態にするとともに、制御弁8bを開き、ガス供給部8aを作動させて、処理室2内に不活性ガスを供給し、溶融金属封止部4aの内側領域以外の部分に残留する余剰溶融金属M1を溶融金属回収部9aに向けて除去する。そして、余剰溶融金属M1を溶融金属回収部9aに除去した後、ガス供給部8aの作動を停止するとともに、加熱機構6の作動を停止して、微小空間内に充填された溶融金属Mが冷却硬化するまで待機する。その後、昇降機構10によって保持台Hを下降させて処理室2を開放し、保持台Hから半導体ウェハKを取り外す。
【0107】
尚、金属充填装置30によって、上記一連の金属充填処理を施す際の、加熱機構6の動作、制御弁5b,7b,8b,9bの開閉、押付機構3の動作及び昇降機構10の動作に関するタイミングチャートの一例を図19に示した。
【0108】
このように、この金属充填装置30においては、溶融金属封止部4aを半導体ウェハKの被処理面に当接させた後、処理室2内を昇温することで、融解又は軟化した残留金属M2が被処理面上に載る又は広がるのを確実に防止することができる。また、ピストンPを徐々に上昇させながら、処理室2内を溶融金属Mで完全に満たした状態を維持しつつ、処理室2内に溶融金属Mを供給するようにしたことで、供給された溶融金属M中に残留金属M2を浮かせ、当該残留金属M2を被処理面から遠ざけることができる。したがって、被処理面近傍の溶融金属Mへの残留金属M2の混入を防止することができ、残留金属M2に起因する充填不良の発生を抑えた上で、微小空間内に溶融金属Mを充填することができる。
【0109】
尚、上記金属充填装置30においては、制御弁9bの絞りを介すことで、溶融金属Mの加圧状態を維持したまま、処理室2内から余剰溶融金属M1を押し出す構成を説明したが、例えば、処理室2内の溶融金属Mの加圧状態を維持するように溶融金属回収部9aを不活性ガスなどで平衡加圧した状態で、ピストンPを移動させて余剰溶融金属M1を押し出す構成としても良い。
【0110】
また、上記2つの金属充填装置1,30においては、ハウジングCの側壁を貫通して設けられた各配管を介し、処理室2内への溶融金属Mの供給及び処理室2内の排気を行う構成としたが、これに限られるものではなく、図20に示す金属充填装置40のような構成としても良い。尚、図20において、金属充填装置1,30の構成と同一の構成要素には、同じ符号を付し、その詳しい説明を省略する。
【0111】
図20に示すように、金属充填装置40は、保持台H、ハウジングC、ピストンP、昇降機構10、押付機構3、減圧機構5、加熱機構6、溶融金属供給機構7及び制御装置11から構成されている。
【0112】
この金属充填装置40においては、前記真空ポンプ5aと処理室2とは、ピストンPの、半導体ウェハKの被処理面と対向する面の中心近傍に一端が開口した配管15’によって接続されており、処理室2内の気体は、当該配管15’を介して排気される。また、溶融金属供給部7aと処理室2とは、同様に、一端がピストンPの前記対向する面の中心近傍に開口した配管16’によって接続されており、溶融金属Mは、当該配管16’を介して処理室2内に供給される。また、配管15’のピストンP側の開口部には、制御装置11によりその開閉が制御されるゲートバルブ5cが設けられ、配管16’のピストンP側の開口部には、同様に、制御装置11によりその開閉が制御されるゲートバルブ7cが設けられている。尚、この金属充填装置40では、ピストンPとハウジングCとの間に介装された2つのOリング12b,12cのうち、一方のOリング12bはハウジングCの上端側に固定され、他方のOリング12cはピストンPの下端側に固定されている。
【0113】
尚、金属充填装置40におけるピストンPは、その保持台Hに対向する側に押付部を設けていない構成としたが、押付部を設けた場合、前記2つの配管15’,16’の一端は、押付部の、半導体ウェハKの被処理面と対向する面の中心近傍に開口するようにすれば良い。
【0114】
次に、この金属充填装置40によって、半導体ウェハKの微小空間内に溶融金属Mを充填する過程について、図21図27を参照して説明する。
【0115】
まず、制御装置11による制御の下、昇降機構10によって保持台Hを下降させた後、半導体ウェハKを保持台H上に載置し、ついで、保持台Hを上昇させて、気密状の処理室2を形成する。しかる後、真空ポンプ5aを作動させるとともに、制御弁5b及びゲートバルブ5cを開き、処理室2内の気体を排気して当該処理室2内を略真空状態にまで減圧する(図21参照)。
【0116】
次に、押付機構3によってピストンPを半導体ウェハKの被処理面に向けて移動させ、ピストンPを被処理面に当接させた後、加熱機構6によって保持台H、ハウジングC及びピストンPを加熱し、処理室2内を溶融金属Mの融点以上の温度にまで昇温する(図22参照)。このようにすることで、融解又は軟化した残留金属M2の半導体ウェハK被処理面への広がりが防止される。
【0117】
ついで、図23に示すように、制御弁5b及びゲートバルブ5cを閉じるとともに、真空ポンプ5aの作動を停止した後、配管16’の制御弁7b及びゲートバルブ7cを開いて、溶融金属Mを処理室2内に供給できる状態にした後、押付機構3によってピストンPを徐々に上昇させて、当該ピストンPを被処理面から徐々に離反させることで、処理室2内を溶融金属Mで完全に満たした状態を維持しつつ、処理室2内に溶融金属Mを加圧供給していく。そして、処理室2の容積が所定の容積となった後、ピストンPの移動を停止する(図24参照)。尚、このように、処理室2内を溶融金属Mで完全に満たすことによって、上記金属充填装置30と同様に、溶融金属Mが半導体ウェハKの被処理面で弾かれるのが防止され、当該被処理面が溶融金属Mによって均一に覆われ、また、溶融金属Mよりも密度が小さい残留金属M2が溶融金属M中に浮遊し、当該残留金属M2が被処理面から遠ざけられた状態となる。
【0118】
次に、図25に示すように、制御弁7b及びゲートバルブ7cを開いた状態のまま、押付機構によってピストンPを半導体ウェハKに向けて移動させる。その際、溶融金属供給部7aにおける溶融金属Mの供給圧よりも大きい力でもってピストンPを移動させて処理室2を狭める構成とすることで、溶融金属Mが供給圧と同じ力で加圧された状態が維持されつつ、余剰溶融金属M1が配管16’を介して溶融金属供給部7aに押し戻される。
【0119】
そして、ピストンPを更に移動させて、当該ピストンPを半導体ウェハKの被処理面に押し付けた状態で放置し(図26参照)、しかる後、制御弁7b及びゲートバルブ7cを閉じるとともに、加熱機構6による保持台H、ハウジングC及びピストンPの加熱を停止し、溶融金属Mの温度が融点以下となるまで冷却して、微小空間内に充填された溶融金属Mが冷却硬化するまで待機する。
【0120】
尚、溶融金属供給部7aの供給圧が、ボイドを生じることなく微小空間内に溶融金属Mを充填するのに必要な圧力として不十分である場合には、ピストンPを被処理面に押し付ける前の段階でゲートバルブ7cを閉じ、処理室2内に閉じ込められた溶融金属MをピストンPで更に加圧することが好ましい。この場合、被処理面上の余剰溶融金属M1の量が極力少なくなるように、ゲートバルブ7cを閉じるタイミングを制御装置11によって制御する。
【0121】
その後、図27に示すように、押付機構3によってピストンPを上昇させるとともに、昇降機構10によって保持台Hを下降させ、処理室2を開放し、保持台Hから半導体ウェハKを取り出す。
【0122】
尚、金属充填装置40によって、上記一連の金属充填処理を施す際の、加熱機構6の動作、制御弁5b,7bの開閉、ゲートバルブ5c,7cの開閉、押付機構3の動作及び昇降機構10の動作に関するタイミングチャートの一例を図28に示した。
【0123】
このように、この金属充填装置40においても、ピストンPを半導体ウェハKの被処理面に当接させた後、処理室2内を昇温するようにしているため、融解又は軟化した残留金属M2が被処理面上に広がるのを防止することができる。また、溶融金属Mを供給できる状態にしてから、ピストンPを徐々に上昇させることで、被処理面上は供給された溶融金属Mで瞬間的に覆われ、供給された溶融金属M中に残留金属M2が浮遊して、当該残留金属M2が被処理面の近傍から離れ、被処理面近傍の溶融金属Mへの残留金属M2の混入が防止される。したがって、残留金属M2が混入することで生じる充填不良を抑えた上で、微小空間内に溶融金属Mを充填することができる。
【0124】
尚、上記金属充填装置40においては、処理室2内に供給された溶融金属Mを、溶融金属供給部7aに押し戻すようにしているが、溶融金属回収機構9を設けるようにしても良い。これについて、図29を参照して説明する。尚、図29においては、上記金属充填装置40と同一の構成要素については同一の符号を付し、その詳しい説明を省略する。
【0125】
図29に示すように、この金属充填装置45は、保持台H、ハウジングC、ピストンP、昇降機構10、押付機構3、減圧機構5、加熱機構6、溶融金属供給機構7、ガス供給機構8、溶融金属回収機構9及び制御装置11から構成されている。そして、この金属充填装置45においては、ガス供給機構8のガス供給部8aは、配管17’によって配管15’の制御弁5bとゲートバルブ5cとの間に接続されており、制御弁8bは、ガス供給部8aと配管15’との間に設けられている。また、溶融金属回収機構9の溶融金属回収部9aは、配管18’によって配管16’の制御弁7bとゲートバルブ7cとの間に接続されており、制御弁9bは、溶融金属回収部9aと配管16’との間に設けられている。また、前記配管15’の、制御弁5bとゲートバルブ5cとの間と、配管16’の、制御弁7bとゲートバルブ7cとの間とは、配管41によって接続されており、当該配管41には、制御装置11によって開閉が制御される制御弁42が設けられている。尚、前記溶融金属回収機構9の制御弁9bは、閉鎖、絞りを介した開放、全開放の3つの状態に切り換えることができるようになっている。
【0126】
この金属充填装置45では、上記金属充填装置40と同様の手順で処理室2内に溶融金属Mを供給する。
【0127】
ついで、制御弁7bを閉じるとともに、制御弁9bを絞りを介した開放状態にした後、押付機構3によってピストンPを半導体ウェハKに向けて移動させる。これにより、溶融金属Mが適切に加圧された状態のまま、余剰溶融金属M1が溶融金属回収部9aへ押し出され、処理室2内から排除されるとともに、微小空間内に溶融金属Mが充填される。そして、ピストンPを更に移動させ、当該ピストンPを被処理面に押し当てることにより、半導体ウェハKの被処理面上から余剰溶融金属M1が除去される。
【0128】
しかる後、ゲートバルブ7cを閉じるとともに、制御弁9bを全開放の状態にする。そして、制御弁42及び制御弁8bを開き、ガス供給部8aを作動させて、配管15’及び配管41を介して配管16’に不活性ガスを供給し、当該配管16’内に残った余剰溶融金属M1を溶融金属回収部9aに押し出す。
【0129】
そして、配管16’内の余剰溶融金属M1を除去した後、制御弁8b,9b,42を閉じるとともに、ガス供給部8aの作動を停止した後、加熱機構6の作動を停止して、微小空間内に充填された溶融金属Mを冷却硬化させる。その後、処理室2を開放して半導体ウェハKを取り出す。
【0130】
尚、金属充填装置45によって、上記一連の金属充填処理を施す際の、加熱機構6の動作、制御弁5b,7b,8b,9b,42の開閉、ゲートバルブ5c,7cの開閉、押付機構3の動作及び昇降機構10の動作に関するタイミングチャートの一例を図30に示した。
【0131】
このように、上記金属充填装置45においても、融解又は軟化した残留金属M2が被処理面上に広がるのを防止できるとともに、被処理面近傍の溶融金属Mへの残留金属M2の混入を防止することができる。また、配管16’内に残った余剰溶融金属M1を除去するようにしているので、連続した半導体ウェハKに対して金属充填処理を施す際にも、新鮮な溶融金属Mを処理室2内に供給することができる。
【符号の説明】
【0132】
1 金属充填装置
2 処理室
3 押付機構
4 押付部
5 減圧機構
6 加熱機構
7 溶融金属供給機構
8 ガス供給機構
9 溶融金属回収機構
10 昇降機構
11 制御装置
C ハウジング
H 保持台
K 半導体ウェハ
P ピストン
図1
図2
図3
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図30