(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
変性樹脂とゴムからなるゴム成分を主成分としたトルクリミッター用摩擦材であって、前記トルクリミッター用摩擦材の40℃乃至60℃の温度のロックウェル硬度が、20℃乃至30℃の温度のロックウェル硬度に対し70%以下の硬度低下率であり、
前記トルクリミッター用摩擦材中の体積含有率において、ゴム25〜40vol%と、
変性樹脂10〜20vol%とし、かつ、前記ゴム成分中の前記変性樹脂と前記ゴムの含有割合が、前記トルクリミッター用摩擦材中の前記変性樹脂の体積と前記トルクリミッター用摩擦材中の前記ゴムの体積との割合において、
前記トルクリミッター用摩擦材中の前記ゴムの体積を、前記トルクリミッター用摩擦材中の前記変性樹脂の体積で除した値が1.25〜4.0の範囲内であることを特徴とするトルクリミッター用摩擦材。
【背景技術】
【0002】
一般に、トルクリミッター用摩擦材の要求として、過剰なトルクの遮断とトルク伝達を安定して行う必要がある。しかし、高温環境下では動摩擦係数μdや静摩擦係数μsの摩擦係数が低下することで、遮断するトルクが低下し、その結果、車両の燃費が悪くなるという現象が生ずる。
近年の燃費向上の要求から、摩擦材としては高温環境下でも摩擦係数が低下しない特性が要求されている。また、トルクの遮断とトルク伝達を安定して行っても、それが複雑な制御に頼るものでは、低コスト化に繋がらないことから、それは採用されない可能性がある。
【0003】
この種のトルクリミッター用摩擦材としては、特許文献1に関する技術がある。特許文献1に掲載の摩擦材は、ガラス繊維とガラス繊維含浸用合成樹脂と配合ゴムとを含有し、摩擦相手材が金属製である摩擦材において、摩擦相手材との摩擦面におけるガラス繊維の占める面積の割合が40%以下としたものである。
即ち、特許文献1に掲載の摩擦材は、鉄鋼等を有する摩擦材において、高湿度の条件下における錆付きの発生について実験を繰り返した結果、摩擦相手材との摩擦面におけるガラス繊維の占める面積割合が40%以下である場合に、錆付きが発生しないことを見出し、この知見に基づいて発明を完成したものである。
【0004】
このように、特許文献1の摩擦材は、その摩擦面に占めるガラス繊維の面積の割合を所定値以下に低減し、摩擦材の強度を維持することによって、従来の工程で製造でき、かつ、金属製の摩擦相手材との間の錆付きを防止し、強度及び摩擦特性を維持することができる摩擦材を開示している。
【0005】
また、特許文献2は、熱硬化性樹脂の補強材として使用される平均粒径が0.1〜0.5μmのチタン酸カリウム粒子と、未架橋ゴムと、熱硬化性樹脂とを含む熱硬化性樹脂組成物が開示されている。この熱硬化性樹脂と未架橋ゴムのポリマーブレンドにより、摩擦材の摩擦調整材間の密着性を向上させ、また、熱硬化性樹脂中のチタン酸カリウム粒子のアンカー効果により、熱硬化後の熱硬化性樹脂組成物の機械的強度を向上させ、これらの複合効果により高温においても機械的強度の高い摩擦材の技術を開示している。
【0006】
そして、特許文献3は、フェノール類とアルデヒド類とを酸触媒或いはアルカリ触媒下で反応して得られるフェノール系樹脂100重量部に対して、部分硬化率が5〜90%である熱硬化性樹脂を2〜1000重量部配合することによって、成形性の良い摩擦材とし、機械的特性、制動安定性、耐摩耗性、耐熱性に優れると共に、鳴きが低減され自動車、鉄道車両、航空機、産業機械等の制動部品に好適な技術を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、特許文献1は、摩擦材の摩擦面に占めるガラス繊維の面積の割合を所定値以下に低減し、前記摩擦材の強度を維持することによって、従来の製造工程で製造でき、かつ、金属製の摩擦相手材との間の錆付きを防止し、強度及び摩擦特性を維持することができる。
しかし、この種のトルクリミッター用摩擦材は、環境温度、摩擦材温度の上昇の程度によっては摩擦係数の低下が起こり、温度が下がると摩擦係数が復活するという現象が生じる。静摩擦係数μsの低下が起こると、それによって滑りが生ずるトルクの値が低下し、遮断するトルク値が下がるため、燃費を低下させることになる。
【0009】
また、特許文献2は摩擦材の摩擦調整材間の密着性を向上させ、また、熱硬化性樹脂中のアンカー効果により熱硬化後の熱硬化性樹脂組成物の機械的強度を向上させ、しかも、これらの複合効果により高温においても機械的強度の高い摩擦材を提供している。また、特許文献3は、耐摩耗性、耐熱性に優れている旨の記載がある。しかし、特許文献2及び特許文献3は、高温時の摩擦表面性状変化が少なく、安定した摩擦係数を維持できるか否かを明確にするものはない。
殊に、摩擦材に対する社会的ニーズは、トルクリミッターのシステム要求として、過剰なトルク遮断、即ち、トルクカットを安定して行うこと、摩擦材としては高温環境下でも摩擦係数が低下しない材料であること、及び複雑な制御に頼らないシステムであり、低コストであることにある。
【0010】
そこで、本発明はかかる従来の問題点を解消し、複雑な制御に頼らなくても、高温時の摩擦材表面の性状変化が少なく、安定した動摩擦係数や静摩擦係数の摩擦係数を維持できるトルクリミッター用摩擦材の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明は、変性樹脂とゴムからなるゴム成分を主成分としたトルクリミッター用摩擦材であって、前記トルクリミッター用摩擦材の40℃乃至60℃の温度のロックウェル硬度が、20℃乃至30℃の温度のロックウェル硬度に対し70%以下の硬度低下率としたものである。
ここで、ロックウェル硬度とは押し込み硬さの一種で、試験面に基本荷重をかけ、このときの面を基準面とし、次に試験荷重を足した力を加え、試験面に塑性変形させ、そのときの負荷を基準荷重に戻して、このときの基準面からの永久窪みの深さを読み取ったものである。また、本発明の変性樹脂とは、ゴムに配することでゴムの特性を変化させる樹脂を指す。
【0012】
請求項1にかかる発明は、前記トルクリミッター用摩擦材中の体積含有率においてゴム25〜40vol%と、変性樹脂10〜20vol%としてなるものであり、かつ、前記ゴム成分中の前記変性樹脂と前記ゴムの含有割合が、前記トルクリミッター用摩擦材中の前記変性樹脂の体積と前記トルクリミッター用摩擦材中の前記ゴムの体積との割合において、前記トルクリミッター用摩擦材中の前記ゴムの体積を、前記トルクリミッター用摩擦材中の前記変性樹脂の体積で除した値が1.25〜4.0の範囲内としたものである。
【0013】
請求項2の発明にかかるトルクリミッター用摩擦材の前記ゴムは、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、天然ゴム(NR)の1以上の組み合わせからなるゴム25〜40vol%としたものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明は、トルクリミッター用摩擦材の温度に依存する硬度低下率が所定の値以下となるように設定するものである。即ち、本発明者らは、所望のトルク遮断を行うためには適正なトルクで滑りが発生するように所定内の静摩擦係数及び動摩擦係数が必要であるが、この静摩擦係数及び動摩擦係数の温度依存性は同じ傾向を示し、更に、動摩擦係数の温度による変化がトルクリミッター用摩擦材のロックウェル硬度の温度変化に依存することを見出した。このことから、ロックウェル硬度の温度変化を規定することで所定のトルクリミット作用が得られ、所望のトルク伝達が可能となる。つまり、トルクリミッター用摩擦材の40℃乃至60℃の温度のロックウェル硬度が、20℃乃至30℃の温度のロックウェル硬度に対し70%以下の硬度低下率とすることで所定内の静摩擦係数及び動摩擦係数が得られ、所望のトルク伝達を行うために適正なトルクで滑りを発生させることができる。
【0015】
請求項1にかかる発明は、トルクリミッター用摩擦材のロックウェル硬度の温度低下率と動摩擦係数の温度低下率の関係が、ロックウェル硬度の温度による低下率の増加により動摩擦係数の温度による低下率の増加が生じることに基づき、前記トルクリミッター用摩擦材の温度に依存するロックウェル硬度低下率を求め、当該硬度低下率から動摩擦係数低下率が所定の値以下となるように、前記トルクリミッター用摩擦材中の体積含有率においてゴム25〜40vol%と、変性樹脂10〜20vol%とし、かつ、前記ゴム成分中の前記ゴムの体積を、前記ゴム成分中の前記変性樹脂の体積で除した値が1.25〜4.0の範囲内としたものである。
【0016】
前記ゴムの量は、不足するとフィラー(添加材)を十分に抱え込めずモールド材としての機能が発揮できない。また、上記変性樹脂は、変性樹脂量が増えることで熱可塑性が高くなり、ゴム成分等を成形する材料が硬くなり、成形性及び作業性が悪化するのでその限界を、トルクリミッター用摩擦材中の体積含有率と、前記ゴム成分中の配合割合で定めたものである。トルクリミッター用摩擦材中の体積含有率とゴム成分中のゴム量と変性樹脂量の含有割合を規定した範囲内にすることでロックウェル硬度の低下率70%以下を達成することができ、これによって広範囲の温度範囲の動摩擦係数を確認することなく前記トルクリミッター用摩擦材の温度に依存する動摩擦係数の変動及び静摩擦係数の変動を規定の範囲内に抑えることができ所望のトルク遮断とトルク伝達が行える。
【0017】
請求項2の前記トルクリミッター用摩擦材は、ロックウェル硬度の温度による低下率を70%以下となるように、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、天然ゴム(NR)の1以上の組み合わせからなるゴム25〜40vol%と、変性樹脂10〜20vol%と、残余をフィラーとしたものである。
上記ゴムを1以上の組み合わせることで容易にロックウェル硬度の温度による低下率を70%以下とするトルクリミッター用摩擦材の作製が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。なお、実施の形態において、同一記号及び同一符号は、同一または相当する機能部分であるから、ここではその重複する説明を省略する。
【0020】
本発明の実施の形態におけるトルクリミッター用摩擦材は、リング状の成形体からなる摩擦材であり、リング状の芯金の片面または両面に取り付けて用いられる。ハイブリット車用トルクリミッターとしては、この芯金の片面または両面に取り付けられたトルクリミッター用摩擦材が、エンジンからの駆動力トルクが直結した摩擦相手材と摺動可能に取り付けられ、またはエンジンからの駆動力トルクが伝達される相手部材と摺動可能に取り付けられて使用される。
【0021】
リング状の成形体は、変性樹脂とゴムからなるゴム成分を主成分とした成形材料をリング状に成形して得られる成型体であり、リング状に成形する方法には、(1)成形材料を平板に加工した後リング状に打ち抜く方法、(2)成形材料をリング状に押出した後所定の厚みに切断する方法、(3)成形材料を金型内でリング状に形成する方法等が使用できる。
【0022】
図1のリング成形工程(ステップS21)はリング成形体を得る方法であり、前記(1)乃至(3)の何れの方法によって形成してもよいし、他の製造方法を使用して形成してもよい。本発明のトルクリミッター用摩擦材は、摩擦材の設定に特徴を有するものであるから、この製造方法を限定するものではなく、形状もリング状に限定するものではない。
【0023】
例えば、
図1に示す事例では、何れも後述する
図4の比較例1〜3及び実施例1〜3に示す材料配合からなるリング成形体を得るもので、芯金3にはステップS22で接着剤が乗り易いように脱脂処理が施され、ステップS23で接着剤塗布が行われ、次いで、芯金3の接着剤の塗布面に対して、ステップS24でリング成型体を芯金3の接着剤の塗布面に貼着する予備接着を行う。その後、ステップS25で加熱成形を行い、熱成形と同時に本接着を行い、ステップS26でアニール処理等の熱処理を行う。その後常温まで放冷して、ステップS27でトルクリミッター用摩擦材1を完成させた。
【0024】
次に、本発明のトルクリミッター用摩擦材について説明する。
本実施の形態のゴムとしては通常入手可能な各種ゴムが使用でき、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、天然ゴム(NR)の1以上を混合した組み合わせが好適である。当然ながら、硫黄、加硫促進剤のゴムを加硫させるための充填剤、及びフィラー(添加材)として、必要に応じてカーボンブラック等の摩擦調整剤や、ガラス繊維等の補強材等が添加される。
【0025】
また、変性樹脂としては、ゴムに混練させることができ、これによってゴムの特性、例えば、耐熱性等を変性させるものであれば使用可能である。即ち、変性樹脂はゴムと混合でき、ゴム成分中に均一に分散されて、ゴムと変性樹脂が一体に配されたゴム成分となることができるものである。そして、このゴム成分がゴムに比べて優れた特性を発揮することとなる。このように、本発明のトルクリミッター用摩擦材は、このゴム成分を主成分とし、充填剤や添加材をその他の構成成分としている。ここで、ゴム成分中のゴムは熱が加わると硬度が低下する。本発明ではゴム自体の硬度ではなくトルクリミッター用摩擦材としての製品の硬度を測定していることからロックウェル硬度を指標とし、このロックウェル硬度が熱によって低下する。そして、発明者はこのロックウェル硬度の温度依存性と、過剰なトルクを遮断し、所望の伝達トルクを与える静摩擦係数及び動摩擦係数の温度依存性とが相関することを見出した。
【0026】
このことから、遮断トルクや伝達トルクの温度変化を一定の範囲内に収めるためには静摩擦係数及び動摩擦係数の温度変化を一定範囲内にする必要が有るが、直接静摩擦係数及び動摩擦係数の温度変化を制御するのはデータ収集面などから困難が伴う。しかし、ロックウェル硬度の温度変化を制御することは、静摩擦係数及び動摩擦係数の温度変化を直接制御することに比べて容易となる。具体的には、室温付近の温度20℃〜30℃におけるロックウェル硬度に対し、室温より温度が高い40℃〜60℃におけるロックウェル硬度の低下率が70%以下とすることで、静摩擦係数及び動摩擦係数の温度変化を従来に比べて小さくすることができる。したがって、過剰なトルクを遮断する遮断トルク及びこの遮断トルクによって影響を受ける伝達トルクは、温度に対し変化が小さくなり本発明が目的とするトルクリミッター用摩擦材が得られる。
【0027】
また、ロックウェル硬度の温度に対する低下率を70%以下とするためには、ゴムを変性樹脂によって変性したゴム成分を主成分とすることが好適である。変性樹脂によってゴムを改質したゴム成分は、ゴムを主成分としたときに比べてロックウェル硬度の温度変化を小さくすることが可能である。このとき、ゴムの配合量はトルクリミッター用摩擦材中の体積含有率を25〜40vol%とし、変性樹脂の配合量はトルクリミッター用摩擦材中の体積含有率を10〜20vol%とする。そして、ゴム成分中のゴムと変性樹脂の配合割合について、トルクリミッター用摩擦材中の変性樹脂の体積をトルクリミッター用摩擦材中のゴムの体積で除した値を1.25〜4.0の間の値にする。このように、トルクリミッター用摩擦材中の体積含有率と、ゴム成分中のゴムと変性樹脂の配合割合を所定の範囲内に規定することで上述したロックウェル硬度の温度に対する低下率を70%以下とすることができるため静摩擦係数及び動摩擦係数の温度変化を小さくでき遮断トルク及び伝達トルクの温度変化が小さい本発明のトルクリミッター用摩擦材が得られる。
【0028】
ここで、本実施の形態のトルクリミッター用摩擦材に用いるゴムは、前述したように各種のゴムが使用できるが、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、天然ゴム(NR)の1以上の組み合わせが好ましい。また、変性樹脂としてはゴム中に均一に配することが可能な材料で有れば各種熱硬化性樹脂が使用できるが、形状としては粉体形状が好ましく、熱硬化性樹脂としてはフェノール樹脂が好ましい。更に言えば、ゴムの特性を改質したゴム成分とするのに変性したフェノール樹脂が適している。
本実施の形態ではゴムとしてスチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、天然ゴム(NR)の3種類を混合したものを使用し、変性樹脂としてはアルキルベンゼン変性フェノールの粉体を使用した。このように、変性樹脂に粉体状の熱硬化性樹脂を使用することでゴムとの混練が容易に行え、均一な分散状態を得ることができる。また、変性樹脂をゴム中に均一に配することでゴムの特性は変性樹脂によって改質される。つまり、変性樹脂によってゴムと変性樹脂からなるゴム成分の特性はゴム本来の特性を改質した特性を持つようになる。
【0029】
そして、本実施の形態のトルクリミッター用摩擦材には、トルクリミッター用摩擦材の主成分となるゴム成分以外に、ゴムを加硫させるための硫黄や加硫促進剤、その他、摩擦特性や強度等の要求性能を確保するために添加される添加材成分が合わせて含有される。
本実施の形態のトルクリミッター用摩擦材では、ゴムを25〜40vol%と変性樹脂を10〜20vol%配したゴム成分に、添加材を40〜60vol%の範囲で配合する。
更に、ゴムと変性樹脂のゴム成分中の配合割合は、前述したようにしたトルクリミッター用摩擦材中の変性樹脂の体積をトルクリミッター用摩擦材中のゴムの体積で除した値を1.25〜4.0の間の値にする。このようにゴム及び変性樹脂のトルクリミッター用摩擦材中の体積割合とゴム成分中のゴムと変性樹脂の割合を規定したのは、以下の理由による。
【0030】
まず、トルクリミッター用摩擦材中のゴムの体積が40vol%を越えると、または、40vol%を越えなくてもゴム成分中のゴムの体積割合が4.0を越えると、ゴムの特性が大きく起因することとなり、ゴム部分の軟化が大きくなり、ロックウェル硬度の温度に対する変化が70%を越えることとなる。
そして、トルクリミッター用摩擦材中のゴムの体積が25vol%未満のときは、ゴム量が少なすぎて添加材等を主成分のゴム成分に十分取り込むことが困難となり、または25vol%未満とならなくても、ゴム成分中のゴムの体積割合が1.25未満となると、ゴム成分中の変性樹脂量が相対的に多くなって、トルクリミッター用摩擦材に成形する際の材料として硬くなり作業性が悪くなる。
したがって、トルクリミッター用摩擦材中のゴムの体積と変性樹脂の体積は、ゴムが25〜40vol%、変性樹脂が10〜20vol%の範囲内で配合し、更に、ゴム成分中のゴムと変性樹脂の体積割合が1.25〜4.0にする必要がある。ここで、ゴム成分中の体積割合を1.25〜3.5にすると、ロックウェル硬度の低下率を更に低く抑えることができ、望ましい特性となる。
【0031】
次に、本発明の実施例について詳細に説明する。
実施例1〜実施例3のトルクリミッター用摩擦材1は、
図4に記載した規定の体積割合で各種材料をゴムの混練機であるニーダーを用いて均一に混練し、この混練した材料をシート状に成形した後、リング形状に加工することで作製した。ロックウェル硬度を測定するためには、このトルクリミッター用摩擦材1を芯金3に接着したものを測定品としている。また、比較例1〜比較例3も同様にして作製した。
【0032】
このロックウェル硬度の測定は、JIS Z2245に基づき株式会社ミツトヨ製のHR−511を使用し所定の温度、即ち、トルクリミッター用摩擦材1の表面温度が室温と加温状態で測定した。
加温状態での測定は
図2に示すように、2枚の鉄製プレート2(3mm厚)の上に芯金3に接合したトルクリミッター用摩擦材1を載せて、100℃に設定した恒温槽内に入れてトルクリミッター用摩擦材1の表面温度が100℃になるまで加熱する。このように加熱したトルクリミッター用摩擦材1を、2枚の鉄製プレート2と共に測定器にセットして測定を行い、測定後のトルクリミッター用摩擦材1の表面温度を測定する。このように、2枚の鉄製プレート2を用いているのは、測定中に温度が低下し難いように熱容量を大きくするためのものである。
【0033】
また、室温での測定は加温せずに室温中でロックウェル硬度を測定し、測定後の表面温度を測定した。
このようにトルクリミッター用摩擦材1を室温と加温状態につき、繰り返し数5以上で測定し、その算術平均(相加平均)をもって当該温度のロックウェル硬度としたものである。ここで、加温による測定後のトルクリミッター用摩擦材1の表面温度は40〜60℃の範囲内であり、室温での測定後の表面温度は20℃〜30℃の範囲内であった。そして、このように加温状態と室温で測定されたロックウェル硬度の算術平均値を基に硬度低下率を算出した。
【0034】
図4に示したように、実施例1〜実施例3、比較例1〜比較例3が全て室温での20℃〜30℃のときは、ロックウェル硬さHRCが100付近にある。しかし、40℃〜60℃の温度の場合には、実施例1〜実施例3のロックウェル硬さは全て30以上保持しているのに対し、比較例1〜比較例3は30未満となっている。これを硬度低下率で表すと実施例1〜実施例3は70%以下であるのに対し比較例1〜比較例3は70%を越えている。このように実施例1〜実施例3は、比較例1〜比較例3に比べ軟化し難くなっていることが分かる。
【0035】
次に、ロックウェル硬度の温度依存性とは別に動摩擦係数の温度依存性について測定したので、これについて説明する。
動摩擦係数の温度依存性を測定する試験では、鈴木式摩擦試験機を使用した。この鈴木式摩擦試験機を使用するため、測定品はロックウェル硬度のときのようなリング形状ではなく、シート状に形成された混練材料から四角形の形状に加工したものを用いている。
【0036】
この鈴木式摩擦試験機は、
図3に示すように、一定の回転数1mm/secで供試体であるトルクリミッター用摩擦材1を回転させながら、一定の面圧、本実施の形態では、0.5MPa、1.0MPa、1.5MPa、2.0MPaとなるように相手材13を押し付けて、その際のトルクをロードセル14で測定して算出したものである。
金属製の回転体としての回転基台10の上部に穿設した四角の凹部孔11と、その底に滑り止めとしてのゴムシート12を配置し、その上に被試験体である30mm角のトルクリミッター用摩擦材1を載置している。そして、相手材13として鉄材からなる外径25.6×内径20.0mmの円筒を載置して、試験を開始する。この際相手材13及びトルクリミッター用摩擦材1を載置した回転部分は室温及び加温状態で試験を行う。
【0037】
ここで得られる室温及び加温状態でのトルクから動摩擦係数が算出されるが、このように動摩擦係数の温度依存性を測定するのは、遮断トルクや伝達トルクが静摩擦係数及び動摩擦係数の摩擦特性に起因するが、静摩擦係数及び動摩擦係数の温度依存性は同様の傾向を示すため測定のし易さから動摩擦係数を選択した。
測定条件としては、測定温度が室温と実機使用相当温度130℃、面圧が0.5MPa、1.0MPa、1.5MPa、2.0MPa、滑り時間が12secで測定した。
【0038】
図6は実施例2と比較例2について室温時の面圧の変化に対する動摩擦係数の変化を表したグラフである。横軸に4点の面圧、即ち、0.5MPa、1.0MPa、1.5MPa、2.0MPaと変化させ、縦軸にその結果の動摩擦係数μdをとった。
実施例2及び比較例2の室温の動摩擦係数μdは、実施例2が0.42〜0.51の範囲内であるのに対し、比較例2は0.39〜0.41の範囲内の変化であり、実施例2の動摩擦係数μdは比較例2のそれよりも幾分高い値を示す。
【0039】
また、
図7には実施例2と比較例2について130℃での動摩擦係数の面圧の変化に対する変化を表したグラフである。グラフから分かるように実施例2は面圧が0.5MPaから2.0MPaへと高く変化しても動摩擦係数μdの低下はみられないが、比較例2は0.5MPaから1.0MPaへと面圧が高くなると動摩擦係数μdの低下がみられ、その後、1.0MPaから2.0MPaはほぼ同じ値を示している。このことは、加温によって比較例2はゴム成分部分に軟化が起こり、その結果、摩擦特性に影響を与える添加材との接触が変化することによって動摩擦係数μdの低下が起こったものと思われる。このことは、温度変化によるゴム成分の軟化から硬化へ、硬化から軟化への変化に伴うことによって動摩擦係数μdが変化するものと考えている。つまり、温度が高いとゴム成分は軟化状態となり、この状態では摩擦特性に直接関係する添加材が関与する接触度合いが高くなることで動摩擦係数μdが低くなり、冷却状態に戻ると動摩擦係数μdが復帰することからも分かる。
【0040】
これに対し実施例2では軟化が起こり難く、添加材との接触部分が変化し難いために動摩擦係数μdの低下が観られなかたものといえる。
室温で得られた動摩擦係数μdのデータと、130℃で得られた動摩擦係数μdのデータから、温度の変化によってどれだけ動摩擦係数μdが変化するかを
図8に示した。この
図8は、動摩擦係数μdの温度依存性を表し、実施例2と比較例2が軟化によってどの程度動摩擦係数が変化、即ち、低下するかの度合いを面圧変化に対し、比較したものである。
図8から明らかなように軟化の少ない実施例2は比較例2に比べて全ての面圧に対して動摩擦係数μdの低下が少なく安定した摩擦特性を有している。また、実施例2及び比較例2とも面圧を0.5MPaから1.0MPaへ高めると動摩擦係数μdの低下率は高まり変化が大きくなり、更に面圧を1.5MPa、2.0MPaと加圧するとやや減少はするものの高止まりする傾向にある。しかし、実施例2は比較例2に比べて変化の度合いが小さく安定した摩擦特性の維持ができる。
【0041】
ここで、ロックウェル硬度の温度による低下率と、動摩擦係数μdの温度による低下率の相関をグラフに表したのが
図5である。
図5から分かるように、トルクリミッター用摩擦材1の硬度低下率と、動摩擦係数μdの低下率とは相関関係にあり、図中の直線は最小2乗法を用いて求めた近似直線である。ここで動摩擦係数μdの低下率を35%以下に目標を設定した場合、この関係からロックゥエル硬度の低下率を75%以下とすれば目標を達成することができるが、本発明では安全を見込んで低下率を70%以下としている。
【0042】
このように、トルクリミッター用摩擦材1の温度変化による特性は、前述したようにゴム成分の軟化によって添加材との接触状態の変化が摩擦係数に変化をもたらすものと推定している。このことは、ゴム成分の軟化により、添加材への面圧が高くなり低摩擦係数状態となるものとも推定できる。ゴム成分の軟化が摩擦係数に影響を及ぼしていることは、冷却後に摩擦係数が復帰することからも確認される。
【0043】
これらのことから、トルクリミッター用摩擦材1の物性に着目すると、温度とロックウェル硬度低下率の相関関係は、使用時の温度の増加によりゴム成分の軟化によってトルクリミッター用摩擦材1の硬度の低下が生じ、これが静摩擦係数と動摩擦係数の摩擦特性に影響を及ぼしていることになる。
したがって、ロックウェル硬度の温度による低下率を一定の範囲内に制御することで摩擦係数を所望の範囲内に制御することが可能となる。
【0044】
更に、変性樹脂の配合量vol%と動摩擦係数μdの低下率との関係を求めると、
図9のように、変性樹脂の配合量vol%が多くなると動摩擦係数μdの低下率が小さくなり、負に比例した関係となっている。即ち、樹脂配合量vol%が多くなると動摩擦係数μdの低下率が小さくなる。
【0045】
このことから、変性樹脂量は多いほど動摩擦係数μdの低下は少なくなり有利となるが、前述したように変性樹脂が多くなると材料が硬くなり作業性が悪化してくる。このため変性樹脂量は、
図9の最小二乗法によって求めた近似直線から、動摩擦係数μdの低下率を目標として設定した35%以下とすべき最小樹脂量を10vol%とし、最大樹脂量を作業性の悪化がすぎない量の20vol%に設定している。なお、比較例3の変性樹脂量は最小樹脂量10vol%と最大樹脂量20vol%内にあるが、動摩擦係数μdの低下率が大きくなっている。これは、ゴム成分中のゴム量が40vol%を越えて42vol%となっているため、前述したようにゴム成分の軟化に起因して低下率が上昇したものと思われる。
【0046】
以上のことをまとめると、本発明者らは、トルクリミッター用摩擦材1の物性の硬度に着目し、動摩擦係数μdの温度増加に伴う低下率とロックウェル硬度の温度増加に伴う低下率の相関関係を追及し、それに沿って材料配合を検討した結果、トルクリミッター用摩擦材1の温度増加に伴うロックウェル硬度低下率と動摩擦係数低下率との関係は、ロックウェル硬度低下率の増加により動摩擦係数の低下率の増加が生じ、ほぼ比例関係に近似する直線にあることを見出した。そして、トルクリミッター用摩擦材1の温度増加に伴うロックウェル硬度低下率の測定温度を、測定可能な室温の20℃〜30℃と加温した50℃〜60℃と規定し、50℃〜60℃の加温状態でのロックウェル硬度の値が、20℃〜30℃の室温での値の70%以下の低下率にすることによって、動摩擦係数μdは、室温での値に対し実際に使用され得る温度相当の130℃での値の低下率を35%以下に抑えることができる。このため、静摩擦係数及び動摩擦係数の変動が小さくなり安定したトルク伝達が可能となる。
【0047】
また、上記実施の形態のトルクリミッター用摩擦材は、トルクリミッター用摩擦材1の変性樹脂の配合割合を10vol%〜20vol%に規定している。この範囲内にすることで作業性の悪化を招くことなく動摩擦係数の低下率を目標とした35%以下とすることが可能となる。
ここでゴム成分中の変性樹脂とゴムの含有割合は、トルクリミッター用摩擦材1中の変性樹脂の体積(%)とトルクリミッター用摩擦材中の前記ゴムの体積(%)との割合において、トルクリミッター用摩擦材1中の前記ゴム成分の体積%を、前記トルクリミッター用摩擦材1中の変性樹脂の体積で除した値が1.25〜4.0の範囲内としたものである。
【0048】
このようにゴム成分中のゴムと変性樹脂の体積割合を規定したのは、変性樹脂の樹脂量がゴム成分中に増えることでゴム等をモールドする材料が硬くなり、成形性及び作業性が悪化し、変性樹脂の樹脂量がゴムの配合量に比べて少ないと、ゴムの改質による軟化抑制効果が得難くなることから、その限界をトルクリミッター用摩擦材1中のゴムの体積と変性樹脂の体積の比で規定し、1.25〜4.0の範囲内と定めたものである。特に1.25〜3.5の範囲が好適となる。
このような関係にあるため、ゴムの量に関しては、不足すると添加剤の無機フェラー等のフィラーを十分に抱え込めずモールド機能が困難不十分となり、多くても上述したようにゴム成分中のゴムと変性樹脂の割合は一定の範囲内にする必要が在るため限界がある。したがって、ゴムの量としては25〜40vol%としている。
【0049】
よって、本発明のトルクリミッター用摩擦材1は、その使用状態におけるトルク変動について、トルクに関与する摩擦係数として動摩擦係数の温度による低下率を所定の値以下の数値となるように設定するものである。そして、この動摩擦係数の温度による低下率はロックウェル硬度の低下率と相関があることから、動摩擦係数を所定値以下の低下率である所望の動摩擦係数とするために直接動摩擦係数を計測する手間を省き、計測が簡便にできるロックウェル硬度を代用特性として計測し、このロックウェル硬度の温度による低下率を所定の値以下にすることで使用状態における動摩擦係数を所望の値にすることができる。
ここでトルクリミッター用摩擦材1は、その材料組成に関し、主成分となるゴム成分中のゴムと変性樹脂の量を所定の範囲内に規定することでロックウェル硬度の低下率を所定の範囲内に制御することができる。
【0050】
つまり、このトルクリミッター用摩擦材1は、ゴム成分としてのゴム25〜40vol%と、変性樹脂10〜20vol%とし、更にゴムと変性樹脂の割合を体積比1.25〜4.0に規定したものである。このような材料組成とすることでトルクリミッター用摩擦材1は、使用によって温度が上昇することによる主成分であるゴム成分の軟化が抑制され、安定した所望の摩擦特性が維持できる。
【0051】
そして、上記実施の形態のトルクリミッター用摩擦材1において、ゴムとしてはスチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、天然ゴム(NR)の1以上の組み合わせが、所望の摩擦特性の得やすさから好ましい。そして、変性樹脂としてはゴムと容易に混合してゴム成分中に均一に分散され、ゴム成分の耐熱性を向上させて軟化が起こり難くすることができやすいことから、粉末状のフェノール樹脂が好ましく、更には、アルキルベンゼン変性のような変性フェノール樹脂が好ましい。このような変性フェノール樹脂の粉末を使用することでゴムの特性を改質し、耐熱性等を有し軟化し難いゴム成分とすることができる。
【0052】
以上、本発明の実施の形態におけるトルクリミッター用摩擦材1として主成分のゴム成分としてのゴムと変性樹脂について説明してきたが、トルクリミッター用摩擦材1には摩擦特性を決定する摩擦調整剤や補強材等の添加材やゴムを架橋するための硫黄や加硫促進剤等の充填剤が主成分としてのゴム成分以外に配される。
【0053】
なお、上記数値は、本発明の実施物として好ましい条件を特定したものであるが、その値は厳格なものでなく概ねであり、当然、原材料の種類等による誤差を含む概略値であり、数割の誤差を否定するものではない。