(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本願の開示するアンテナ装置およびレーダ装置の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0014】
また、以下では、本実施形態に係る電波干渉防止手法の概要について
図1Aおよび
図1Bを用いて説明した後に、この電波干渉防止手法を適用したアンテナ装置およびレーダ装置について、
図2〜
図10Bを用いて説明することとする。なお、
図2〜8では、第1の実施形態について、
図9A〜
図9Cでは、第2の実施形態について、
図10Aおよび
図10Bでは、第3の実施形態について、それぞれ説明する。
【0015】
また、以下では、アンテナが、マイクロストリップアンテナであるものとして説明を行う。
【0016】
まず、本実施形態に係る電波干渉防止手法の概要について、
図1Aおよび
図1Bを用いて説明する。
図1Aは、従来技術に係るアンテナ装置10’の略断面模式図である。
図1Bは、本実施形態に係る電波干渉防止手法の概要を示す図である。
【0017】
図1Aに示すように、従来技術に係るアンテナ装置10’は、誘電体基板11を備える。誘電体基板11は、絶縁性のある樹脂材料などを用いて形成される。
【0018】
また、誘電体基板11の上面側には、アンテナ12が設けられる。なお、ここでは、第1のアンテナ12−1および第2のアンテナ12−2の2つが、アンテナ12として並列に設けられているものとする。また、誘電体基板11の下面側には、グランド13が設けられる。
【0019】
なお、アンテナ12およびグランド13は、導電性金属の薄膜パターンとして形成されている。これらの薄膜パターンは、スパッタリング法や蒸着法といった手法を用いて、銅などの薄膜を誘電体基板11の全面に形成した後、かかる薄膜をフォトエッチング法などでパターニングすることによって形成される。
【0020】
また、アンテナ装置10’は、導波管として作用する筐体15を備える。筐体15は、導電性素材からなるブロック体、たとえば、アルミダイキャスト法により成形された直方体ブロックであり、中空部16を有する。
【0021】
かかる筐体15の上面は、
図1Aに示すように、誘電体基板11の下面と、接着シート14などの接合材を介して接合される。そして、電波は、中空部16およびアンテナ12を介して放射あるいは入射される。
【0022】
なお、本願の説明で用いる各図面では、
図1Aに示すような略断面模式図をたびたび示すが、そのいずれにおいても鉛直方向沿いにやや誇張して描いたものを示す。したがって、
図1Aを含む各図に示す略断面模式図は、誘電体基板11、アンテナ12、グランド13および接着シート14などの相対的な厚みを限定するものではない。
【0023】
ここで、電波が、たとえば
図1Aに示すように、第1のアンテナ12−1から放射されるものとする。かかる場合、従来技術に係るアンテナ装置10’では、電波は、空間、誘電体基板11および接着シート14を介して、隣接する第2のアンテナ12−2の方へ伝播していた(それぞれ図中の矢印101〜103参照)。
【0024】
このため、隣接するアンテナ12の間で電波干渉が起こりやすく、電波の振幅や位相に歪みを生じさせる要因となっていた。言い換えれば、隣接するアンテナ12の間のアイソレーションが悪化していた。
【0025】
そこで、本実施形態に係る電波干渉防止手法では、隣接するアンテナ12の間に、電波干渉を防止するための機構となる干渉防止部を設けることとした。
【0026】
具体的には、
図1Bに示すように、本実施形態に係る電波干渉防止手法では、隣接するアンテナ12の間に干渉防止部として、たとえば、中空構造の溝(中空溝17)を設けることとした。
【0027】
すなわち、本実施形態に係る電波干渉防止手法を適用したアンテナ装置10は、グランド13および接着シート14にそれぞれ設けられたスリットと、筐体15に形成された溝とを連通させて形成された中空溝17を備える。
【0028】
かかる中空溝17が設けられることにより、アンテナ装置10は、かかる中空溝17の側端で、空間、誘電体基板11および接着シート14を介して伝播する電波を遮断することができる(図中の矢印104参照)。なお、中空溝17の構造およびその効果の詳細については、
図2以降を用いて具体的に説明する。
【0029】
このように、本実施形態に係る電波干渉防止手法によれば、隣接するアンテナ12の間に生じる電波干渉を防ぐことが可能となる。したがって、電波の振幅や位相に歪みを生じさせることなく、アンテナ12のアイソレーションを良好に保つことができる。
【0030】
次に、この
図1Bに示した中空溝17を備える場合を第1の実施形態として、その構成例をより詳細に説明する。
【0031】
(第1の実施形態)
図2は、第1の実施形態に係るアンテナ装置10の構成を示す平面模式図である。なお、
図2には、説明を分かりやすくするために、鉛直上向きを正方向とするZ軸を含む3次元の直交座標系を図示している。かかる直交座標系は、以下の説明に用いる他の図面においても示す場合がある。
【0032】
また、以下では、複数個で構成される構成要素については、複数個のうちの一部にのみ符号を付し、その他については符号を省略する場合がある。かかる場合、符号を付した一部とその他とは、同様の構成であるものとする。
【0033】
また、以下では、
図1Aに示したアンテナ装置10’と説明が重複する構成要素については、その説明を省略するか簡略化する場合がある。
【0034】
図2に示すように、アンテナ装置10は、誘電体基板11を備える。なお、誘電体基板11の基材としては、たとえば、PTFE(Poly-Tetra-Fluoro-Ethylene)などのフッ素樹脂やLCP(Liquid Crystal Polymer)などを用いるのが好ましい。また、誘電体基板11の上面側には、第1のアンテナ12−1と第2のアンテナ12−2とが上述の薄膜パターンとして設けられる。
【0035】
これらアンテナ12は、
図2に示すように、アンテナ装置10の長軸方向(図中のX軸方向参照)に沿って略平行となるように並列に配設される。
【0036】
なお、アンテナ12は、直線状に延びる給電線路12aと、かかる給電線路12aから分岐して同位相で励振される複数の放射素子12bとによって、直線アレーを形成している。
【0037】
給電線路12aは、その一端が給電端子12eを介して変換器12dに接続されたマイクロストリップラインであり、他端には反射抑制用の終端素子12cが形成される。また、放射素子12bは、給電線路12aに対し、所定角度をもって交差する方向に延びる略方形状からなる。
【0038】
変換器12dは、上述の中空部16に対応する部位に設けられ、後述する励振素子18を介して筐体15および給電端子12eの伝送電力を相互に変換する。
【0039】
また、アンテナ装置10は、干渉防止部として、さらに中空溝17を備える。中空溝17は、アンテナ12の間の略中間位置に、直線状にアンテナ12と略平行となるように設けられる。なお、以下では、中空溝17は、
図2に示すように幅Wを有して形成されているものとする。
【0040】
そして、かかるアンテナ装置10は、たとえば、レーダ装置100に搭載される。ここで、アンテナ装置10がレーダ装置100に搭載されたものとして、その内部構造について説明する。
【0041】
図3Aは、
図2のA−A’線略断面図である。上述したように、また、
図3Aに示すように、誘電体基板11は、グランド13を含むその下面側において、接着シート14を介して筐体15の上面側と接合される。
【0042】
また、誘電体基板11の下面の中空部16に対応する部位には、励振素子18が設けられる。励振素子18は、中空部16からの電波を受けてアンテナ12(ここでは、第1のアンテナ12−1)へ伝える。
【0043】
また、筐体15の下面側は、集積回路基板21と接合される。集積回路基板21は、マイクロ波信号の発振、増幅、変調、周波数変換といった信号処理を行うモノリシックマイクロ波集積回路、いわゆるMMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit)22を備える。
【0044】
すなわち、これにより、アンテナ12とMMIC22とが筐体15を介して導波管接続されることとなる。そして、集積回路基板21は、ケーシング30に収容され、ケーシング30は、上部を蓋体であるレドーム40で覆われることによって、レーダ装置100が構成される。
【0045】
また、
図3Aに示すように、本実施形態では、隣接するアンテナ12の間に中空溝17が設けられる。次に、かかる中空溝17について詳しく述べる。
【0046】
図3Bは、
図3Aに示すM1部の拡大図である。
図3Bに示すように、中空溝17は、グランド13を貫いて設けられるスリット17aと、接着シート14を貫いて設けられるスリット17bと、筐体15の上面側に形成される溝17cとを連通させることで形成される。
【0047】
なお、筐体15は、たとえばアルミダイキャスト成形されるため、
図3Bに示すように、溝17cの底部の角にはRが付くことも多い。そこで、中空溝17の幅W(
図2も参照)、すなわち、グランド13に設けられるスリット17aの横幅は、少なくとも溝17cの最深部の幅に応じたものであればよい。
【0048】
また、かかる溝17cの深さDは、アンテナ装置10で使用される周波数の電波の管内波長の4分の1波長程度に対応する寸法であることが好ましい。したがって、中空溝17の全体の深さは、この4分の1波長程度の深さDに、グランド13、接着シート14の厚みおよび幾何公差などを含む許容差nを加味したD±nとなる。
【0049】
次に、このように中空溝17を形成した場合の効果について、
図4〜
図6を用いて説明する。まず、
図4は、アンテナ12からの電気力線を示す模式図である。なお、
図4では、第2のアンテナ12−2からの電気力線を省略しているが、第1のアンテナ12−1からの電気力線と略左右が異なるのみであるものとする。
【0050】
図4に示すように、第1のアンテナ12−1を始点として元来第2のアンテナ12−2の方へ向かう電気力線(図中の矢印401参照)は、中空溝17が設けられることにより、かかる中空溝17の端部、より具体的にはグランド13の端部へその向きを変えられる(図中の矢印402参照)。
【0051】
すなわち、第1のアンテナ12−1から第2のアンテナ12−2の方へ空間を伝播する電波を中空溝17の端部で遮断することができる。これにより、隣接するアンテナ12の間の電波干渉を抑え、アンテナ12間のアイソレーションを向上させることができる。
【0052】
つづいて、
図5A〜
図5Cは、接着シート14における電波の伝播の説明図(その1)〜(その3)である。なお、図を分かりやすくするため、
図5Aでは、接着シート14のハッチングをあえて省略している。
【0053】
また、
図5Aでは、説明の便宜上、中空溝17を挟んで第1のアンテナ12−1寄りの区間を「区間a」と、第2のアンテナ12−2寄りの区間を「区間b」と、それぞれ規定している。
【0054】
図5Aに示すように、筐体15の中空部16を介して第1のアンテナ12−1から電波が放射されるものとする。このとき、接着シート14を伝播する電波は、まず区間aを、入射波として図中のY軸の正方向へ伝播してゆく。
【0055】
そして、かかる入射波は、中空溝17へ伝播される。ここで、入射波で中空溝17の底部へ向けて伝播されるものは、その底部において反射されるが、溝17cの深さD(
図3B参照)が4分の1波長であれば、中空溝17の内部空間の誘電率とも相まって、中空溝17の底部で入射波と位相がπずれた反射波となる。
【0056】
かかる位相がπずれた反射波は、同じ深さDを復路として反射すればさらに位相がπずれる。したがって、
図5Bに示すように、区間aを図中のY軸の負方向へ戻る反射波は、入射波と位相が2πずれるので、結局入射波と同位相となる。なお、
図5Bの矢印501は、区間aでは反射波が2πずれて入射波と同位相となることを模式的に示したものである。
【0057】
これに対し、区間aから区間bへ入射する入射波と、中空溝17の底部で反射し、区間bへ伝播してゆく反射波とは、
図5Cに示すように、位相がπずれる。これは、中空溝17の内部空間の誘電率の影響を受けつつ、中空溝17を通過して直接区間aから区間bへ入射する入射波と、前述の深さDを往復した反射波との差異による。
【0058】
すなわち、接着シート14に設けられるスリット17b(
図3B参照)の横幅は、深さDあるいは深さD±nに応じて、区間bにおける入射波および反射波の位相がπずれるように設けられている。
【0059】
したがって、区間bでは、入射波と反射波とが逆位相となり、打ち消しあうこととなるので、第1のアンテナ12−1からの電波は、第2のアンテナ12−2の方へ伝播されなくなる。
【0060】
これにより、第1のアンテナ12−1から第2のアンテナ12−2の方へ接着シート14を伝播する電波を中空溝17で遮断することができる。すなわち、隣接するアンテナ12の間の電波干渉を抑え、アンテナ12間のアイソレーションを向上させることができる。
【0061】
なお、説明は省略するが、誘電体基板11を伝播する電波についても同様の原理で遮断することができる。したがって、中空溝17を設けることにより、誘電体基板11についても伝播する電波を遮断して電波干渉を抑え、アンテナ12間のアイソレーションを向上させることができる。
【0062】
ここで、第1の実施形態において実際にシミュレーションすることで得た、深さDとアンテナ12間のアイソレーションとの関係を
図6に示しておく。
図6は、溝17cの深さDとアンテナ12間のアイソレーションとの関係を示す図である。なお、λは波長を示している。
【0063】
図6に示すように、まず、深さD=0の場合に比べて、その他の場合では、アイソレーションが向上していることが分かる。すなわち、中空溝17を設けない場合と比べて、中空溝17を設けることで確実にアイソレーションを向上させることができる。
【0064】
また、
図6に示すように、中空溝17を設ける場合の中でも、深さDを2λ/8とした場合に、最もアイソレーションを向上させられることが分かる。したがって、上述したように、深さDは4分の1波長程度とすることが好適である。
【0065】
次に、中空溝17の変形例について
図7および
図8を用いて説明する。
図7は、中空溝17の第1の変形例を示す略断面模式図である。なお、
図7は、既に
図3Bで示したM1部の拡大図に対応している。
【0066】
図8は、中空溝17の第2の変形例を示す平面模式図である。なお、
図8は、既に示した
図2に対応している。また、
図8では、アンテナ装置に「10a」の符号を付している。
【0067】
(中空溝の第1の変形例)
図7に示すように、中空溝17は、接着シート14で2区画に分離されていてもよい。すなわち、接着シート14を加工することなく、グランド13に設けられるスリット17aと、筐体15に設けられる溝17cとで中空溝17を構成してもよい。
【0068】
すなわち、
図7ではZ軸方向に誇張して示されているが、実際の接着シート14は厚みが100μm程度ときわめて薄いので、かかる接着シート14でこのように中空溝17を2段に分離しても、上述してきたような電波干渉の防止に一定の効果をあげることができる。
【0069】
また、接着シート14を加工する必要がないので、製造工程の効率化にも資することができる。
【0070】
(中空溝の第2の変形例)
また、
図8に示すように、中空溝17は、グランド13に設けられるスリット17a(
図3Bまたは
図7参照)を、アンテナ装置10aの長軸方向で所定の長さLに分割されたスリット17Sとして設けることとしてもよい。
【0071】
このとき、スリット17Sの幅Wと長さLは、少なくとも「W<L」の関係にある必要がある。また、
図8に示すように、長さLは、上述のように波長を「λ」、許容差を「n」とした場合に、L=λ/2±nであることが好ましい。
【0072】
このように、グランド13に、分割されたスリット17Sを設けることによって、かかるスリット17Sから放射される電波の放射量を大きくすることができる。すなわち、アンテナ12の間の電波干渉を抑え、アンテナ12間のアイソレーションの向上に資することができる。
【0073】
上述してきたように、第1の実施形態では、誘電体基板と、筐体と、干渉防止部とを備えるアンテナ装置を構成した。上記誘電体基板は、上面側には複数個のアンテナが、下面側にはグランドが、それぞれ導電性の薄膜パターンとして形成される。
【0074】
上記筐体は、導電性素材から導波管として作用する形状を有して形成されるとともに、上面側が上記誘電体基板の下面側と接合される。上記干渉防止部は、隣接する上記アンテナの間に設けられる。
【0075】
また、上記干渉防止部は、少なくとも上記筐体の上面側に設けられる溝およびこの溝に対応する上記グランドの部位に設けられるスリットを含んで形成される。
【0076】
したがって、第1の実施形態に係るアンテナ装置およびそれを備えるレーダ装置によれば、隣接するアンテナ間に生じる電波干渉を防ぐことができる。
【0077】
ところで、上述した第1の実施形態では、隣接するアンテナ間に、干渉防止部として中空溝が設けられる場合について説明したが、あわせてアンテナ間の誘電体基板を開口することとしてもよい。かかる場合を第2の実施形態として、
図9A〜
図9Cを用いて説明する。
【0078】
(第2の実施形態)
図9Aは、第2の実施形態に係るアンテナ装置10bの構成を示す略断面模式図である。また、
図9Bおよび
図9Cは、第2の実施形態の変形例を示す略断面模式図(その1)および(その2)である。
【0079】
なお、
図9Bおよび
図9Cでは、アンテナ装置にそれぞれ「10c」および「10d」の符号を付している。また、第2の実施形態では、第1の実施形態と説明が重複する構成要素については、その説明を省略するか簡略化する場合がある。
【0080】
図9Aに示すように、アンテナ装置10bは、隣接するアンテナ12の間に、干渉防止部として溝17’を備える。かかる溝17’は、誘電体基板11の中空溝17(第1の実施形態参照)と対応する部位を開口して、誘電体基板11と中空溝17とを連通させることによって設けられる。
【0081】
このように、筐体15から誘電体基板11まで連通し、誘電体基板11上で開口された溝17’を設けることによって、誘電体基板11および接着シート14を伝播する電波を開口部から効果的に放射することができるので、電波干渉の防止に資することができる。
【0082】
(第2の実施形態の第1の変形例)
また、
図9Bに示すように、誘電体基板11にグランド13と導通したスルーホールHを設けることとしてもよい。また、このとき、スルーホールHは、中空溝17と連通していてもよい。
【0083】
これにより、アンテナ12からの電気力線の向きを誘電体基板11上のグランド13へ確実に導くことができるので、やはり電波干渉の防止に資することができる。なお、このようなスルーホールHは、中空溝17の延伸方向(すなわち、図中のX軸方向)に沿って複数個設けられるとより好ましい。ここで、スルーホールHの孔径が小さい場合は、アンテナ12からの電気力線の向きを誘電体基板11上のグランド13に導く働きをし、スルーホールHの孔径が大きい場合は、アンテナ12からの電気力線の向きを誘電体基板11上のグランド13に導く働きと、誘電体基板11および接着シート14を伝播する不要な電波をスルーホールHから外部に輻射させる働きをする。また、スルーホールHがX軸方向に複数個設けられる場合には、各スルーホールH同士の間隔は、アンテナ装置10で使用される周波数の電波の管内波長の4分の1波長以下に対応する間隔であることが好ましい。
【0084】
(第2の実施形態の第2の変形例)
また、
図9Cに示すように、スルーホールHは、中空溝17と連通させることなく設けられてもよい。また、このとき、
図9Cに示すように、スルーホールHは、図中のY軸方向に沿って並列に複数個設けられてもよく、さらに
図9Bと同様にX軸方向にも複数個設けてもよい。なお、スルーホールHの孔径による働きは、
図9Bの構成と同様である。また、スルーホールHがX軸方向に複数個設けられる場合に、各スルーホールH同士の好ましい間隔も
図9Bの構成と同様である。
【0085】
これにより、スルーホールHの孔径が小さい場合、第1のアンテナ12−1と第2のアンテナ12−2からの電気力線の向きを誘電体基板11上のグランド13にそれぞれ導くことができ、またスルーホールHの孔径が大きい場合、第1のアンテナ12−1から伝播してゆく電波と、第2のアンテナ12−2から伝播してゆく電波を、スルーホールHから個別に放射することができるので、やはり電波干渉を抑え、アンテナ12間のアイソレーションを向上させることができる。
【0086】
すなわち、第2の実施形態に係るアンテナ装置およびそれを備えるレーダ装置によっても、隣接するアンテナ間に生じる電波干渉を防ぐことができる。
【0087】
ところで、上述した第1の実施形態では、グランドに設けられるスリットを、アンテナ装置の長軸方向で所定の長さに分割して設ける場合について説明したが(
図8参照)、これをさらに長軸方向に対して傾けて設けることとしてもよい。かかる場合を第3の実施形態として、
図10Aおよび
図10Bを用いて説明する。なお、以下では、分割されたスリットを「スロット」と記載するものとする。
【0088】
(第3の実施形態)
図10Aは、第3の実施形態に係るアンテナ装置10eの構成を示す平面模式図である。また、
図10Bは、
図10Aの補足説明図である。
【0089】
図10Aに示すように、アンテナ装置10eは、複数個のスロット17S’を備える。スロット17S’は、たとえば、アンテナ装置10eの長軸方向(図中のX軸方向参照)に対して45°の傾きをもって設けられる。すなわち、既に
図8に示した分割されたスリット17Sを、それぞれ長軸方向に対して平面視で右回りに45°回転させた配置となっている。
【0090】
これにより、スロット17S’から放射される電波の偏波方向をずらすことができる。なお、
図10Aおよび
図10Bに示す矢印1001は、スロット17S’からの電波の偏波方向である。また、同じく矢印1002は、アンテナ12からの電波の偏波方向である。この矢印1001および1002を用いて具体的に説明する。
【0091】
図10Aに示したように、スロット17S’が45°の傾きをもって設けられることによって、
図10Bに示すように、スロット17S’からの偏波方向に長軸方向(図中のX軸方向参照)に対する+45°の傾きをつけることができる(図中の矢印1001参照)。
【0092】
ここで、アンテナ12の放射素子12bは、給電線路12aに対して45°の傾きをもって交差する方向に延びるように設けられ、45°偏波を実現しているものとする。この場合、
図10Bに示すように、アンテナ12からの偏波方向には、長軸方向に対して−45°の傾きがつくこととなる(図中の矢印1002参照)。
【0093】
すなわち、
図10Bに示すように、アンテナ12からの偏波方向と、スロット17S’からの偏波方向とを、相対的に90°ずらすことができる。このように、アンテナ12からの偏波方向と、スロット17S’からの偏波方向とを直角に交差させることによって、アンテナ12からの電波とスロット17S’からの電波の干渉を低減させることができる。したがって、アンテナ12の間の電波干渉を抑え、アンテナ12間のアイソレーションの向上に資することができる。
【0094】
なお、ここでは、スロット17S’に45°の傾きをつける場合を例に挙げたが、これに限られるものではなく、アンテナ12の偏波方向、すなわち、放射素子12bにつけられた傾きなどに応じて、相対的に90°ずらすことができる傾きがつけられればよい。
【0095】
このように、第3の実施形態に係るアンテナ装置およびそれを備えるレーダ装置によっても、隣接するアンテナ間に生じる電波干渉を防ぐことができる。
【0096】
なお、ここまで上述してきた各実施形態では、アンテナが、マイクロストリップアンテナである場合を例に挙げて説明してきたが、マイクロストリップアンテナに限られるものではない。
【0097】
たとえば、銅箔パターンがエッチングされたフィルム基板を発泡材などの誘電体シートで上下から挟み、さらに上下から平行平板で挟んだいわゆるトリプレート型の平面アンテナなどに適用されてもよい。
【0098】
また、上述した各実施形態では、アンテナが、略平行となるように並列に配設された直線アレー状である場合を例に挙げて説明したが、これに限られるものではない。すなわち、隣接される複数個のアンテナであれば、そのそれぞれのパターン形状を問うものではない。
【0099】
また、上述した各実施形態では、接合材が接着シートである場合を例に挙げたが、これに限られるものではなく、たとえば、絶縁性に優れたエポキシ樹脂系の接着剤などを用いることとしてもよい。
【0100】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。