【実施例】
【0009】
<1>全体の構成
本発明の地下水浄化壁の反応性の低下を診断する装置は、少なくとも2開所に設置する非分極性電極1と、非分極性電極1間に設置した電位差計2とによって構成する。
【0010】
<2>非分極性電極
非分極性電極1とは、電極反応が定常的に起こって電位を任意に変えることのできない電極のことである。
本発明の装置において、非分極性電極1としては、例えば銅―硫酸銅電極、銀―塩化銀電極、あるいは鉛―塩化鉛電極のいずれかを使用することができる。
非分極性電極1は少なくとも2か所に設置する。
そのうちの一か所は、地下水浄化壁3の上部地表面付近に設置した非分極性電極1である。
他の一か所は、地下水浄化壁3以外の位置に設置した非分極性電極1である。
【0011】
<3>非分極性電極の設置
地中に設置する非分極性電極1は、地盤との電気的接触が良好でなければならない。
そのために
図2に示すように、非分極性電極1の周囲を粘土11で包囲して固定する。
また非分極性電極1の上部を車両が通過することを考慮する場合には、養生蓋12を設置して非分極性電極1の損傷を防止する。
【0012】
<4>非分極性電極の設置深さ
地下水浄化壁3に設置する非分極性電極1は、その地下水浄化壁3の内部に設置してもよい。
しかし本発明の装置による診断は、年単位の長期間の計測であることから機器の交換や修理、検査などの保守のしやすさを考慮すると、地下水浄化壁3の地表部近くに設置することが好ましい。
【0013】
<5>非分極性電極の配置例
非分極性電極1の設置位置と地下水浄化壁3の位置との関係を
図3、4について説明する。
【0014】
<5−1>壁を挟んだ配置(
図3)
非分極性電極1を地下水浄化壁3の上流側と下流側に、地下水浄化壁3を挟んだ状態で配置する構成である。
この配置であると、地下水浄化壁3の上流側と下流側とでの地下水の流れの変化の影響を少なくすることができる。
【0015】
<5−2>壁の上流側に配置(
図4)
非分極性電極1を地下水浄化壁3の上流側にのみ配置する構成である。
この配置であると、場所による地下水流動の相違の影響を受けにくくすることができる。
一般に地下水浄化壁3は、汚染地下水の、汚染サイトの敷地外への流出を阻止するものである。
そのため地下水浄化壁3は敷地の境界に設置する場合が多く、その場合には地下水浄化壁3の下流側は他人の土地であるために利用できないので、
図4の配置のように、地下水浄化壁3の上流側にのみ非分極性電極1を配置する構成を採用することになる。
【0016】
<6>電位差計
上記の二か所の非分極性電極1間に電位差計2を接続する。
電位差計2とは、未知電圧と既知電圧を検出器を用いて比較し,零位法によって未知電圧を求める測定器のことである。
回路に一定電流を流し,可変抵抗部の端子電圧(=電流×抵抗)と未知電圧を比較するもので,一定電流を得るため標準電池を用いる。この場合平衡のための検出器は切り換えて使用する
電位差計2を介在させるために、両非分極性電極1の間には電線21を配線する。
電位差計2は常時接続しておく必要はなく、両非分極性電極1から配線した電線21に定期的に接続して電位差を記録して診断することもできる。
【0017】
<7>診断の原理
上記したように本発明は、少なくとも二か所に設置した両非分極性電極1間に電位差計2を接続した装置であり、この装置によって地下水浄化壁3の還元反応によって生じる電位を継続的に測定して浄化剤の反応性の変化を測定するものである。
【0018】
<8>非分極性電極の問題点
非分極性電極1を用いて地盤の自然電位を測定する方法は、地下水流動の測定や地熱貯留層の評価などに用いられている。
しかし実際に採用するのは簡単ではない。
なぜなら(1)自然電位は微弱である、(2)電源ノイズなどの人為的な電気ノイズの影響がある、(3)降雨の浸透による不飽和帯の比抵抗の変化がある、(4)地下水流動の変化による流動出の影響がある、(5)地下水浄化壁3を設置するような工場地帯では、周辺環境に存在する金属製の人工構造物の影響など低比抵抗材料の影響をうける、といった問題があるからである。
本発明ではそのような問題を前提に、その影響を取り除くために次のような解決策を採用した。
【0019】
<9>参照電極の設置位置
自然電位測定の基準となる基準電極(参照電極)は、一般に自然電位が安定した場所に設置するが、本発明では安定した自然電位との電位差ではなく、地下水浄化壁3と同様の自然環境にある参照電極との電位差で評価する方法を採用する。
そのため参照電極の設置位置は、降雨の影響、地下水流動の影響の程度が地下水浄化壁3の構築部と同程度の場所を選択する。
そして二か所以上の参照電極の電位を平均値をもって地下水浄化壁3の自然電位測定の基準とする。
【0020】
<10>時系列データの統計的処理
地下水浄化壁3の酸化還元反応の速度は、初期には早く、徐々に穏やかな反応となるため、地下水浄化壁3の還元作用により発生する自然電位の時系列データも同様に、穏やかで連続的な変化を示す。
前記したようなノイズを含んでいる時系列データから穏やかな自然電位を変化の傾向をとらえるため、フーリエ変換やベイズ法を用いる。
このような方法により、人為的な高周波の電気ノイズや統計的に異常値と判断されるデータを除去した自然電位の時間的変化のトレンドを把握することが可能となる。
【0021】
<11>統計的に処理できない場合
非分極性電極1を、金属材料などの低比抵抗の材料が自然電位の測定に影響を及ぼす環境に設置した場合には、局所的な電場の乱れにより自然電位の分布が変化し、自然電位の測定値が変化する。
それが一時的な変化であれば異常値として統計的に処理できるが、環境そのものが変化した場合には測定値がシフトし、統計処理では取り除くことができない。
そこで自然電位の変化は緩やかで連続していると仮定し、時系列データの変曲点の前後でトレンドが同一であるとして、自然電位のシフト量を求め、連続したデータに補正することで、測定環境にある人工構造物の影響を取り除く。
このような操作により、長期的な地下水浄化壁3の還元能力の変化の測定が可能となる。
【0022】
<12>処理した測定例(
図5)
相対的な電位差の計測により自然電位のノイズを軽減しても、測定値にはばらつきが生じする。
これらをフーリエ変換やベイズ法により確率的にもっとも確からしいトレンドにフィッティングする。
この変化傾向は連続的であることから、計測値が全体的にシフトするような場合は、周辺環境の変化の影響を受けたことが想定される。
この影響を考慮して変曲点前後の連続性が保たれるように曲線を移動して将来の性能を予測して診断するものである。