特許第6095468号(P6095468)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6095468プラスチック偏光レンズ及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6095468
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】プラスチック偏光レンズ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20170306BHJP
   G02C 7/12 20060101ALI20170306BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
   G02B5/30
   G02C7/12
   G02B1/04
【請求項の数】26
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2013-97347(P2013-97347)
(22)【出願日】2013年5月7日
(65)【公開番号】特開2014-219491(P2014-219491A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2015年8月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】龍 昭憲
(72)【発明者】
【氏名】神尾 浩行
(72)【発明者】
【氏名】相磯 良充
【審査官】 小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/098886(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/020570(WO,A1)
【文献】 特開2013−023665(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
G02C 1/00 − 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリエステルからなる偏光フィルムと、
前記偏光フィルムの少なくとも一方の面に形成されたコート層と、
前記コート層付き偏光フィルムの少なくとも前記コート層上に形成された、チオウレタン系樹脂からなる基材層と、が積層してなり、
前記コート層は、ヒドロキシル基を有する化合物由来の構造単位と芳香族ジカルボン酸由来の構造単位とからなる芳香族ポリエステルポリオールと、ウレタン変性イソシアヌレートとを含んでなる、プラスチック偏光レンズ。
【請求項2】
前記芳香族ポリエステルポリオールにおいて、ヒドロキシル基を有する前記化合物がエチレングリコールを含み、前記芳香族ジカルボン酸がテレフタル酸および/またはイソフタル酸を含む、請求項1に記載のプラスチック偏光レンズ。
【請求項3】
前記ウレタン変性イソシアヌレートは、ウレタン変性ヘキサメチレンジイソシアヌレートである、請求項1または2に記載のプラスチック偏光レンズ。
【請求項4】
前記コート層は、さらに硬化触媒を含んでなる、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のプラスチック偏光レンズ。
【請求項5】
前記偏光フィルムの両面に、前記コート層および前記基材層が順に積層している、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のプラスチック偏光レンズ。
【請求項6】
前記チオウレタン系樹脂は、
(A)ポリイソシアネート化合物、イソチオシアネート基を有するイソシアネート化合物、およびポリイソチオシアネート化合物よりなる群から選ばれる1種または2種以上のイソシアネート化合物と、
(B)ヒドロキシル基を有するチオール化合物、およびポリチオール化合物よりなる群から選ばれる1種または2種以上の活性水素化合物と、を反応させて得られる、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のプラスチック偏光レンズ。
【請求項7】
前記偏光フィルムが附形された偏光フィルムであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のプラスチック偏光レンズ。
【請求項8】
前記偏光フィルムが、ポリエチレンテレフタレートフィルムである請求項1乃至7のいずれか一項に記載のプラスチック偏光レンズ。
【請求項9】
前記イソシアネート化合物(A)が、m−キシリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4'− ジフェニルメタンジイソシアネート、2,5−ビス(イソシアナトメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6−ビス(イソシアナトメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、ビス(4−イソシアナトシクロへキシル)メタン、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ヘキサメチレンジイソシアネートよりなる群から選ばれる1種以上のジイソシアネート化合物であり、
前記活性水素化合物(B)が、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、5,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、4,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、4,8−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、4−メルカプトメチル−1,8−ジメルカプト−3,6−ジチアオクタン、2,5−ジメルカプトメチル−1,4−ジチアン、1,1,3,3−テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、4,6−ビス(メルカプトメチルチオ)−1,3−ジチアン、2−(2,2−ビス(メルカプトメチルチオ)エチル)−1,3−ジチエタンよりなる群から選ばれる1種以上のポリチオール化合物である請求項6乃至8のいずれか一項に記載のプラスチック偏光レンズ。
【請求項10】
前記チオウレタン系樹脂のe線の屈折率が1.50〜1.70の範囲である請求項1乃至9のいずれか一項に記載のプラスチック偏光レンズ。
【請求項11】
熱可塑性ポリエステルからなる偏光フィルムの少なくとも一方の面に、ヒドロキシル基を有する化合物由来の構造単位と芳香族ジカルボン酸由来の構造単位とからなる芳香族ポリエステルポリオールと、ウレタン変性イソシアヌレートとを含む組成物を塗布、乾燥して、コート層を形成する工程と、
前記コート層付き偏光フィルムを、モールドから離隔した状態でレンズ注型用鋳型内に固定する工程と、
前記コート層付き偏光フィルムの少なくとも前記コート層と、前記モールドとの間の空隙にモノマー混合物を注入する工程と、
前記モノマー混合物を重合硬化して、前記コート層付き偏光フィルムの少なくとも前記コート層上にチオウレタン系樹脂からなる基材層を積層する工程と、
を含むプラスチック偏光レンズの製造方法。
【請求項12】
前記芳香族ポリエステルポリオールにおいて、ヒドロキシル基を有する前記化合物がエチレングリコールを含み、前記芳香族ジカルボン酸がテレフタル酸および/またはイソフタル酸を含む、請求項11に記載のプラスチック偏光レンズの製造方法。
【請求項13】
前記ウレタン変性イソシアヌレートは、ウレタン変性ヘキサメチレンジイソシアヌレートである、請求項11または12に記載のプラスチック偏光レンズの製造方法。
【請求項14】
前記組成物は、さらに硬化触媒を含む、請求項11乃至13のいずれか一項に記載のプラスチック偏光レンズの製造方法。
【請求項15】
前記コート層を形成する前記工程は、
前記偏光フィルムの両面に前記コート層を形成する工程を含む、請求項11乃至14のいずれか一項に記載のプラスチック偏光レンズの製造方法。
【請求項16】
前記コート層を形成する前記工程の前に、
前記偏光フィルムを、熱可塑性ポリエステルのガラス転移温度+5℃以上、熱可塑性ポリエステルの融点以下の温度条件下で附形する工程を、含む、請求項11乃至15のいずれか一項に記載のプラスチック偏光レンズの製造方法。
【請求項17】
前記コート層を形成する前記工程の後に、
前記偏光フィルムを、熱可塑性ポリエステルのガラス転移温度+5℃以上、熱可塑性ポリエステルの融点以下の温度条件下で附形する工程を、含む、請求項11乃至15のいずれか一項に記載のプラスチック偏光レンズの製造方法。
【請求項18】
前記モノマー混合物を注入する前記工程における、前記モノマー混合物の20℃における粘度が、200mPa・s以下である、請求項11乃至17のいずれか一項に記載のプラスチック偏光レンズの製造方法。
【請求項19】
熱可塑性ポリエステルからなる偏光フィルムと、
前記偏光フィルムの少なくとも一方の面に形成された、ヒドロキシル基を有する化合物由来の構造単位と芳香族ジカルボン酸由来の構造単位とからなる芳香族ポリエステルポリオールと、ウレタン変性イソシアヌレートとを含んでなるコート層と、からなる、コート層付き偏光フィルム。
【請求項20】
前記芳香族ポリエステルポリオールにおいて、ヒドロキシル基を有する前記化合物がエチレングリコールを含み、前記芳香族ジカルボン酸がテレフタル酸および/またはイソフタル酸を含む、請求項19に記載のコート層付き偏光フィルム。
【請求項21】
前記ウレタン変性イソシアヌレートは、ウレタン変性ヘキサメチレンジイソシアヌレートである、請求項19または20に記載のコート層付き偏光フィルム。
【請求項22】
前記コート層は、さらに硬化触媒を含んでなる、請求項19乃至21のいずれか一項に記載のコート層付き偏光フィルム。
【請求項23】
熱可塑性ポリエステルからなる偏光フィルムの少なくとも一方の面に、ヒドロキシル基を有する化合物由来の構造単位と芳香族ジカルボン酸由来の構造単位とからなる芳香族ポリエステルポリオールと、ウレタン変性イソシアヌレートとを含む組成物を塗布、乾燥して、コート層を形成する工程を含む、コート層付き偏光フィルムの製造方法。
【請求項24】
前記芳香族ポリエステルポリオールにおいて、ヒドロキシル基を有する前記化合物がエチレングリコールを含み、前記芳香族ジカルボン酸がテレフタル酸および/またはイソフタル酸を含む、請求項23に記載のコート層付き偏光フィルムの製造方法。
【請求項25】
前記ウレタン変性イソシアヌレートは、ウレタン変性ヘキサメチレンジイソシアヌレートである、請求項23または24に記載のコート層付き偏光フィルムの製造方法。
【請求項26】
前記組成物は、さらに硬化触媒を含む、請求項23乃至25のいずれか一項に記載のコート層付き偏光フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラスチック偏光レンズ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光レンズは、反射光の透過を防ぐことができる。そのため、スキー場やフィッシングなど戸外における強い反射光を遮断することによる眼の保護等や、自動車運転時における対向車からの反射光を遮断することによる安全性の確保などに使用されている。
【0003】
プラスチック偏光レンズとして、プラスチックレンズ材料の表面に偏光フィルムを配置した偏光レンズと、プラスチックレンズ材料の内部に偏光フィルムを配置したサンドイッチ構造の偏光レンズの2種類が提案されている。プラスチックレンズ材料の表面に偏光フィルムを配置した偏光レンズ(例えば、特開平9−258009号公報(特許文献1))は、レンズの厚みを薄くすることができるものの、外周研磨工程(所定の形状に合わせるためのレンズの縁を削る工程)において、偏光フィルムがレンズ材料から剥離し易いという深刻な欠点がある。
【0004】
偏光レンズを構成する偏光フィルムに適用される樹脂としては、これまでは実質的にポリビニルアルコールに限定されている。偏光フィルムを製造するには、ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素あるいは二色性染料を包含させて一軸延伸し、一軸方向に分子配向されたフィルムにすることにより行われる。ポリビニルアルコール偏光フィルムからなる偏光レンズの製造法は、例えば、国際公開第04/099859号パンフレット(特許文献2)に開示されている。
【0005】
しかしながら、ポリビニルアルコール偏光フィルムを用いて製造された偏光レンズは、レンズの端の部分から徐々に水分の浸入が生じ、レンズ外周部から中心部に向けて経時的に、あるいは環境によって劣化が進行する欠点がある。
【0006】
前述の欠点を改良するため、国際公開第02/073291号パンフレット(特許文献3)では、ジアミンおよびイソシアネートプレポリマーから得られる耐衝撃性ポリウレタン樹脂からなるレンズ材料と、ポリエチレンテレフタレート偏光フィルムとを用いた偏光レンズが提案されている。
【0007】
しかしながら、この偏光レンズは、偏光フィルムが入っているのがはっきりと判り、装着時に不快に感じる使用者が多いという欠点を有している。更に、ジアミンとイソシアネートプレポリマーを混合した組成物は、粘度が高いうえポットライフが短いため、偏光フィルムが固定されたレンズ注型用鋳型への注入に難があり、特に薄いレンズの製造は極めて困難であった。
【0008】
国際公開第08/018168号パンフレット(特許文献4)では、熱可塑性ポリエステルからなる偏光フィルムの両面に、イソシアネート化合物と、活性水素化合物とを反応させて得られるチオウレタン系樹脂からなる層が積層しているプラスチック偏光レンズが提案されている。
【0009】
しかしながら、この偏光レンズは、外周研磨工程における偏光フィルムの剥離の発生に改良の余地があった。
【0010】
このように、プラスチック偏光レンズに対して、後工程である外周研磨工程における偏光フィルムの剥離の発生が抑制され、耐水性に優れ、装着時の不快感が抑制され、または薄型化等が可能なプラスチック偏光レンズが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平9−258009号公報
【特許文献2】国際公開第04/099859号パンフレット
【特許文献3】国際公開第02/073291号パンフレット
【特許文献4】国際公開第08/018168号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
さらに工業的に大量の偏光レンズを製作するにあたって、重合後のレンズの周辺部をエッジャー等で研磨する際に発生する偏光フィルムの剥離を抑制し、歩留まり良く工業的に偏光レンズを作製できる偏光フィルムとプラスチックレンズとの密着性に優れた偏光レンズが求められるようになってきている。
【0013】
本発明は上記背景技術に鑑みなされたものであり、加工特性等に優れるとともに偏光フィルムとプラスチックレンズとの密着性に優れたプラスチック偏光レンズ及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、以下に記載されるものである。
[1] 熱可塑性ポリエステルからなる偏光フィルムと、
前記偏光フィルムの少なくとも一方の面に形成されたコート層と、
前記コート層付き偏光フィルムの少なくとも前記コート層上に形成された、チオウレタン系樹脂からなる基材層と、が積層してなり、
前記コート層は、ヒドロキシル基を有する化合物由来の構造単位と芳香族ジカルボン酸由来の構造単位とからなる芳香族ポリエステルポリオールと、ウレタン変性イソシアヌレートとを含んでなる、プラスチック偏光レンズ。
[2] 前記芳香族ポリエステルポリオールにおいて、ヒドロキシル基を有する前記化合物がエチレングリコールを含み、前記芳香族ジカルボン酸がテレフタル酸および/またはイソフタル酸を含む、[1]に記載のプラスチック偏光レンズ。
[3] 前記ウレタン変性イソシアヌレートは、ウレタン変性ヘキサメチレンジイソシアヌレートである、[1]または[2]に記載のプラスチック偏光レンズ。
[4] 前記コート層は、さらに硬化触媒を含んでなる、[1]乃至[3]のいずれかに記載のプラスチック偏光レンズ。
[5] 前記偏光フィルムの両面に、前記コート層および前記基材層が順に積層している、[1]乃至[4]のいずれか一項に記載のプラスチック偏光レンズ。
[6] 前記チオウレタン系樹脂は、
(A)ポリイソシアネート化合物、イソチオシアネート基を有するイソシアネート化合物、およびポリイソチオシアネート化合物よりなる群から選ばれる1種または2種以上のイソシアネート化合物と、
(B)ヒドロキシル基を有するチオール化合物、およびポリチオール化合物よりなる群から選ばれる1種または2種以上の活性水素化合物と、を反応させて得られる、[1]乃至[5]のいずれかに記載のプラスチック偏光レンズ。
[7] 前記偏光フィルムが附形された偏光フィルムであることを特徴とする[1]乃至[6]のいずれかに記載のプラスチック偏光レンズ。
[8] 前記偏光フィルムが、ポリエチレンテレフタレートフィルムである[1]乃至[7]のいずれかに記載のプラスチック偏光レンズ。
[9] 前記イソシアネート化合物(A)が、m−キシリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4'− ジフェニルメタンジイソシアネート、2,5−ビス(イソシアナトメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6−ビス(イソシアナトメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、ビス(4−イソシアナトシクロへキシル)メタン、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ヘキサメチレンジイソシアネートよりなる群から選ばれる1種以上のジイソシアネート化合物であり、
前記活性水素化合物(B)が、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、5,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、4,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、4,8−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、4−メルカプトメチル−1,8−ジメルカプト−3,6−ジチアオクタン、2,5−ジメルカプトメチル−1,4−ジチアン、1,1,3,3−テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、4,6−ビス(メルカプトメチルチオ)−1,3−ジチアン、2−(2,2−ビス(メルカプトメチルチオ)エチル)−1,3−ジチエタンよりなる群から選ばれる1種以上のポリチオール化合物である[6]乃至[8]のいずれかに記載のプラスチック偏光レンズ。
[10] 前記チオウレタン系樹脂のe線の屈折率が1.50〜1.70の範囲である[1]乃至[9]のいずれかに記載のプラスチック偏光レンズ。
[11] 熱可塑性ポリエステルからなる偏光フィルムの少なくとも一方の面に、ヒドロキシル基を有する化合物由来の構造単位と芳香族ジカルボン酸由来の構造単位とからなる芳香族ポリエステルポリオールと、ウレタン変性イソシアヌレートとを含む組成物を塗布、乾燥して、コート層を形成する工程と、
前記コート層付き偏光フィルムを、モールドから離隔した状態でレンズ注型用鋳型内に固定する工程と、
前記コート層付き偏光フィルムの少なくとも前記コート層と、前記モールドとの間の空隙にモノマー混合物を注入する工程と、
前記モノマー混合物を重合硬化して、前記コート層付き偏光フィルムの少なくとも前記コート層上にチオウレタン系樹脂からなる基材層を積層する工程と、
を含むプラスチック偏光レンズの製造方法。
[12] 前記芳香族ポリエステルポリオールにおいて、ヒドロキシル基を有する前記化合物がエチレングリコールを含み、前記芳香族ジカルボン酸がテレフタル酸および/またはイソフタル酸を含む、[11]に記載のプラスチック偏光レンズの製造方法。
[13] 前記ウレタン変性イソシアヌレートは、ウレタン変性ヘキサメチレンジイソシアヌレートである、[11]または[12]に記載のプラスチック偏光レンズの製造方法。
[14] 前記組成物は、さらに硬化触媒を含む、[11]乃至[13]のいずれかに記載のプラスチック偏光レンズの製造方法。
[15] 前記コート層を形成する前記工程は、
前記偏光フィルムの両面に前記コート層を形成する工程を含む、[11]乃至[14]のいずれかに記載のプラスチック偏光レンズの製造方法。
[16] 前記コート層を形成する前記工程の前に、
前記偏光フィルムを、熱可塑性ポリエステルのガラス転移温度+5℃以上、熱可塑性ポリエステルの融点以下の温度条件下で附形する工程を、含む、[11]乃至[15]のいずれかに記載のプラスチック偏光レンズの製造方法。
[17] 前記コート層を形成する前記工程の後に、
前記偏光フィルムを、熱可塑性ポリエステルのガラス転移温度+5℃以上、熱可塑性ポリエステルの融点以下の温度条件下で附形する工程を、含む、[11]乃至[15]のいずれかに記載のプラスチック偏光レンズの製造方法。
[18] 前記モノマー混合物を注入する前記工程における、前記モノマー混合物の20℃における粘度が、200mPa・s以下である、[11]乃至[17]のいずれかに記載のプラスチック偏光レンズの製造方法。
[19] 熱可塑性ポリエステルからなる偏光フィルムと、
前記偏光フィルムの少なくとも一方の面に形成された、ヒドロキシル基を有する化合物由来の構造単位と芳香族ジカルボン酸由来の構造単位とからなる芳香族ポリエステルポリオールと、ウレタン変性イソシアヌレートとを含んでなるコート層と、からなる、コート層付き偏光フィルム。
[20] 前記芳香族ポリエステルポリオールにおいて、ヒドロキシル基を有する前記化合物がエチレングリコールを含み、前記芳香族ジカルボン酸がテレフタル酸および/またはイソフタル酸を含む、[19]に記載のコート層付き偏光フィルム。
[21] 前記ウレタン変性イソシアヌレートは、ウレタン変性ヘキサメチレンジイソシアヌレートである、[19]または[20]に記載のプラスチック偏光フィルム。
[22] 前記コート層は、さらに硬化触媒を含んでなる、[19]乃至[21]のいずれかに記載のコート層付き偏光フィルム。
[23] 熱可塑性ポリエステルからなる偏光フィルムの少なくとも一方の面に、ヒドロキシル基を有する化合物由来の構造単位と芳香族ジカルボン酸由来の構造単位とからなる芳香族ポリエステルポリオールと、ウレタン変性イソシアヌレートとを含む組成物を塗布、乾燥して、コート層を形成する工程を含む、コート層付き偏光フィルムの製造方法。
[24] 前記芳香族ポリエステルポリオールにおいて、ヒドロキシル基を有する前記化合物がエチレングリコールを含み、前記芳香族ジカルボン酸がテレフタル酸および/またはイソフタル酸を含む、[23]に記載のコート層付き偏光フィルムの製造方法。
[25] 前記ウレタン変性イソシアヌレートは、ウレタン変性ヘキサメチレンジイソシアヌレートである、[23]または[24]に記載のコート層付き偏光フィルムの製造方法。
[26] 前記組成物は、さらに硬化触媒を含む、[23]乃至[25]のいずれかに記載のコート層付き偏光フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明のプラスチック偏光レンズは、加工特性等に優れるとともに偏光フィルムとプラスチックレンズとの密着性に優れる。そのため、本発明のプラスチック偏光レンズは生産性に優れ、大量生産に適している。このような特性を備えるプラスチック偏光レンズは、メガネ用の偏光レンズとして特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施の形態に係るプラスチック偏光レンズを模式的に示した断面図である。
図2】実施の形態に係るレンズ注型用鋳型を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のプラスチック偏光レンズは、熱可塑性ポリエステルからなる偏光フィルムと、前記偏光フィルムの少なくとも一方の面に形成されたコート層と、前記コート層付き偏光フィルムの少なくとも前記コート層上に形成された、チオウレタン系樹脂からなる基材層と、が積層してなる。
前記コート層は、ヒドロキシル基を有する化合物由来の構造単位と芳香族ジカルボン酸由来の構造単位とからなる芳香族ポリエステルポリオールと、ウレタン変性イソシアヌレートとを含んでなる。
本発明のプラスチック偏光レンズは、熱可塑性ポリエステルからなる偏光フィルムの少なくとも一方の面に、上記コート層およびチオウレタン系樹脂からなる基材層が順に積層されているので、耐水性に優れ、装着時の不快感が抑制され、薄型化が可能となり、さらに後工程の外周研磨工程において偏光フィルムの剥離が抑制される。つまり、これらの特性のバランスに優れる。
【0018】
以下、本発明のプラスチック偏光レンズを、図面を用いて、実施の形態により説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0019】
[プラスチック偏光レンズ]
図1に示すように、本実施形態のプラスチック偏光レンズ10は、熱可塑性ポリエステルからなる偏光フィルム12と、偏光フィルム12の両面に形成された、コート層13a,13bと、コート層付き偏光フィルムの両面に形成された、チオウレタン系樹脂からなる基材層14a、14bと、が積層して形成されている。
【0020】
本願発明者らは、芳香族ポリエステルポリオールとウレタン変性イソシアヌレートを含むコート層が、チオウレタン系樹脂からなる基材層と偏光フィルムとの両方に優れた密着性を発現することを見出し、本実施形態に係るプラスチック偏光レンズを完成した。
【0021】
また、偏光フィルム12としては、下記式で表される温度Tの条件下で附形された熱可塑性ポリエステルからなるフィルムを用いることができる。
(式)熱可塑性ポリエステルのガラス転移温度+5℃≦T≦熱可塑性ポリエステルの融点
【0022】
偏光フィルム12が、この温度条件下において所望の曲率の形状に附形されている(湾曲させられている)場合、基材層との密着性がより向上する。そのため、本実施形態のプラスチック偏光レンズは、さらに生産性に優れ、大量生産に適する。
【0023】
[プラスチック偏光レンズの製造方法]
以下に、図面を参照しながら、本実施形態のプラスチック偏光レンズの製造方法について説明する。
本実施形態のプラスチック偏光レンズの製造方法は以下の工程を備える。
【0024】
(a)熱可塑性ポリエステルからなる偏光フィルム12の両面に、ヒドロキシル基を有する化合物由来の構造単位と芳香族ジカルボン酸由来の構造単位とからなる芳香族ポリエステルポリオールと、ウレタン変性イソシアヌレートとを含む組成物を塗布、乾燥して、コート層13a,13bを形成する工程
(b)コート層付き偏光フィルム12を、モールドから離隔した状態でレンズ注型用鋳型内に固定する工程
(c)コート層付き偏光フィルム12の両面と前記モールドとの間の空隙にモノマー混合物を注入する工程
(d)前記モノマー混合物を重合硬化して、コート層付き偏光フィルム12の両面上にチオウレタン系樹脂からなる基材層14a,14bを積層する工程
以下、各工程に沿って順に説明する。
【0025】
(工程(a))
本実施形態において用いられる偏光フィルム12は熱可塑性ポリエステルフィルムであり、例えば、特開2002−267841号公報に開示されている。具体的には、熱可塑性ポリエステルをマトリックスとするフィルムであり、熱可塑性ポリエステルに二色性色素をブレンドしてフィルム状に成形し、次いで得られたフィルムを一軸方向に延伸させた後、所定の温度で加熱処理することにより得ることができる。厚さは通常10〜500μmの範囲である。
【0026】
偏光フィルム12を構成する熱可塑性ポリエステルとして具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、及びポリブチレンテレフタレート等を用いることができ、耐水性、耐熱性および成形加工性の観点からポリエチレンテレフタレートが好ましい。共重合成分を添加する等の手法で変性されたものも含まれる。
【0027】
本実施形態で用いる二色性色素としては二色性染料を用いることが好ましい。二色性染料としては、公知の染料が使用される。例えば、特開昭61−087757号公報、特開昭61−285259号公報、特開昭62−270664号公報、特開昭62−275163号公報、特開平1−103667号公報等に開示されている。具体的には、アントラキノン系、キノフタロン系、アゾ系等の色素が挙げられる。熱可塑性ポリエステルの成形に耐える耐熱性を有するものが好ましい。
【0028】
なお、コート層13a,13bを形成する工程(a)の前に、偏光フィルム12を、熱可塑性ポリエステルのガラス転移温度+5℃以上、熱可塑性ポリエステルの融点以下の温度条件下で附形する工程を、有していてもよい。あるいは、当該附形工程を、コート層を形成した後(工程(a)の後)に行ってもよい。
【0029】
熱可塑性ポリエステルフィルムの附形は、好ましくは、熱可塑性ポリエステルのガラス転移温度+5℃以上、熱可塑性ポリエステルのガラス転移温度+100℃以下の温度条件下、さらに好ましくは熱可塑性ポリエステルのガラス転移温度+5℃以上、熱可塑性ポリエステルのガラス転移温度+80℃以下の温度条件下、特に好ましくは熱可塑性ポリエステルのガラス転移温度+5℃以上、熱可塑性ポリエステルのガラス転移温度+70℃以下の温度条件下で行うことができる。熱可塑性ポリエステルフィルムの附形方法は、上記温度にフィルムを加熱しつつ所望の曲率の形状に附形することができれば通常の方法を用いることができる。
上記の附形温度であれば、熱可塑性ポリエステルからなる偏光フィルム12とチオウレタン系樹脂からなる基材層14a,14bとの密着性がさらに向上する。
【0030】
熱可塑性ポリエステルが、例えばポリエチレンテレフタレートの場合には、ガラス転移温度が74℃、融点が259℃であるため、附形は、79℃以上、259℃以下、好ましくは79℃以上、174℃以下、さらに好ましくは79℃以上154℃以下の温度条件下、特に好ましくは79℃以上144℃以下の温度条件下で行うことができる。
熱可塑性ポリエステルのガラス転移温度は、一般的にDSC(示差走査型熱量計)などを用いて測定することができる。
【0031】
附形方法としては、真空成形、圧空成形、真空圧空成形、プレス成形等を挙げることができる。これらの成形方法において、熱可塑性ポリエステルフィルムの温度を上記温度範囲となるように調整するとともに所望の曲率の形状に附形することにより、熱可塑性ポリエステルフィルムからなる偏光フィルムとプラスチックレンズとの密着性を向上させることができる。
【0032】
熱可塑性ポリエステルフィルムの附形方法において、成形圧力および成形時間等の条件は、附形方法、附形の際の温度、製造機器等に合わせて適宜調整される。なお、熱可塑性ポリエステルフィルムは、金型等で附形する前に、前記温度範囲となるように加熱されていてもよい。
工程(a)においては、偏光フィルム12表面にコーティング処理を行って、コート層を形成する。
【0033】
コーティング処理には、ヒドロキシル基を有する化合物由来の構造単位と芳香族ジカルボン酸由来の構造単位とからなる芳香族ポリエステルポリオールと、ウレタン変性イソシアヌレートとを含む組成物を用いることができる。
【0034】
芳香族ポリエステルポリオールにおける、ヒドロキシル基を有する化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等を挙げることができ、一種または二種以上組み合わせて用いることができる。本実施形態において、ヒドロキシル基を有する化合物として、好ましくはエチレングリコールを用いることができる。
【0035】
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸等を挙げることができ、一種または二種以上組み合わせて用いることができる。本実施形態において、芳香族ジカルボン酸として、好ましくはテレフタル酸とイソフタル酸との組み合わせである。テレフタル酸とイソフタル酸との重量比は特に限定されないが、好ましくは7:3である。
芳香族ポリエステルポリオールとしては、市販されているものを用いることができ、例えば荒川化学社製のAPシリーズ等が挙げられる。
【0036】
ウレタン変性イソシアヌレートは、イソシアヌレートがウレタン変性されている化合物であり、イソシアヌレートのイソシアネート基と、ヒドロキシル基を有する化合物のヒドロキシル基とがウレタン反応することで得られる。ウレタン変性イソシアヌレートにおける、ヒドロキシル基を有する化合物としては、通常、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等であり、一種または二種以上組み合わせて用いることができる。
【0037】
芳香族ポリエステルポリオールと、ウレタン変性イソシアヌレートとの重量比は、通常20:1〜5:1であり、好ましくは15:1〜10:1、より好ましくは、13:1である。上記により得られた組成物を含むコート層を用いることで、偏光フィルムとプラスチックレンズ基材との密着性をより改善することができる。
本実施形態において、コーティング処理に用いられる組成物はさらに硬化触媒を含むことができる。硬化触媒しては、ジブチルチンジラウレート、ジブチルチンジクロライド、ジメチルチンジクロライド等の有機スズ化合物、を挙げることができる。
【0038】
本実施形態において、偏光フィルム12にコーティング処理を行うにあたっては、コート剤(前記組成物)を無溶剤でそのまま塗布してもよいが、通常は適切な溶媒系を選択してコート剤を溶解又は分散させた塗布液として塗布するのが好ましい。本実施形態において、コーティングに用いられる塗布液は、コート剤を溶媒で希釈していない液体、および溶媒で希釈されている液体のいずれをも含む。
【0039】
溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール化合物類、トルエン、キシレンなどの芳香族化合物類、酢酸エチルなどのエステル化合物類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン化合物類、ジクロロメタンなどのハロゲン化合物類などから選択することができ、単独もしくは2種以上併せて使用することができる。
【0040】
コート剤を溶媒で希釈してなる塗布液において、コート剤換算での濃度は、0.1〜50wt%、好ましくは1〜50wt%、更に好ましくは3〜30wt%である。50wt%を超えると塗布液の経時安定性が乏しくなったり、塗布されるコート剤成分が多くなりコート層が厚くなりすぎてコート層の存在が目立ったり、コート層内での剥離による密着性の低下が生じたりする場合がある。逆に0.1wt%より小さいとフィルムと基材ウレタン樹脂の密着性向上の効果が十分に得られない場合がある。
コート層の厚さとしては、0.001〜30μm、好ましくは0.01〜10μm、さらに好ましくは0.05〜5μmである。
【0041】
本実施形態における偏光フィルム12の両面に上記塗布液を必要に応じて塗布後、必要に応じてフィルム上で流動性のある塗布液を除去し、乾燥する。乾燥温度は特に制限はないが、通常5〜100℃、好ましくは、20〜100℃、更に好ましくは、20〜80℃、特に好ましくは20〜60℃の範囲が適当であり、これらの温度を組み合わせて段階的に熱をかけることもできる。
【0042】
乾燥時間は、使用する溶剤や乾燥温度あるいは送風状態など環境に応じて適宜設定され、特に制限はないが、通常1分以上である。
【0043】
本実施形態における偏光フィルム12の両面に上記塗布液を塗布する方法に特に限定はないが、該偏光フィルムを塗布液で処理後に湾曲加工する方法と、湾曲加工後に塗布液処理する方法、さらには両者を併用する方法に大別されるがいずれの方法でも採用することができ、それぞれの状況に応じてロールコート法、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ディッピング法などの従来から知られている方法を採用することができる。乾燥後1回以上重ねて塗布することもでき、その際はそれぞれの塗布液の種類が同一であっても異なっていてもよい。通常は、重ねて塗布することなく1回のみの塗布と乾燥で本実施形態の目的は達成できることが多い。
【0044】
前記プライマーコーティング処理に使用する塗布液を偏光フィルムに塗布後、必要に応じて乾燥及び/又は熱処理が施される。乾燥及び/又は熱処理時の適用温度は偏光フィルムの性能が実質的に劣化しない範囲内であれば特に制限はない。該樹脂を偏光フィルムに塗布後、活性エネルギー線を照射させてもよい。活性エネルギー線としては、紫外線あるいは電子線などが挙げられる。
【0045】
塗布液は、さらにシランカップリング剤を含んでいてもよい。
【0046】
シランカップリング剤としては、例えば、エポキシ基、アミノ基、(メタ)アクロイル基、ビニル基、メルカプト基、ハロゲン基、イミノ基、イソシアネート基あるいはウレイド基いずれか1つ以上の置換基を有するシランカップリング剤が挙げられる。シランカップリング剤のケイ素原子に結合する加水分解性基としては、2個以上の酸素原子を有してもよいアルコキシ基、アルキルカルボキシル基、ハロゲン基などが挙げられる。中でも2個以上の酸素原子を有してもよいアルコキシ基を有するアルコキシシラン化合物がより好ましい。
【0047】
具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランなどのエポキシ基を有するシランカップリング剤;
γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アミン、ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミンなどのアミノ基を有するシランカップリング剤又はその塩酸塩からなるシランカップリング剤;
γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリス(メトキシエトキシ)シラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどの(メタ)アクリロキシ基を有するシランカップリング剤;
ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、スチリルエチルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレートなどのビニル基を有するシランカップリング剤;
γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプト基を有するシランカップリング剤;
γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリエトキシシランなどのハロゲンを有するシランカップリング剤;
γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどのイソシアネート基を有するシランカップリング剤;
γ−(ウレイドプロピル)トリメトキシシラン、γ−(ウレイドプロピル)トリエトキシシランなどのウレイド基を有するシランカップリング剤等
を挙げることができる。
【0048】
中でも好ましいシランカップリング剤としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリス(メトキシエトキシ)シラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。とりわけ、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリス(メトキシエトキシ)シラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシランなどの(メタ)アクリロキシアルキルアルコキシシランが特に好ましい。
これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられ、異種のシランカップリング剤間で化学反応が介在する場合も含まれる。
【0049】
また、上記のようなコーティング処理に先立って、予め偏光フィルム12に、ガス又は薬液処理などの薬品処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、紫外線照射処理、電子線照射処理、粗面化処理、火炎処理、などから選ばれる1種又は2種以上の前処理が施されていてもよい。
【0050】
前記薬品処理の具体例としては、オゾン、ハロゲンガス、二酸化塩素などのガスを用いたガス処理、あるいは次亜塩素酸ナトリウム、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、金属ナトリウム、硫酸、硝酸などの酸化剤又は還元剤、あるいは酸・塩基などを用いた薬液処理が挙げられる。薬液処理においては、酸化剤又は還元剤あるいは酸・塩基などを、通常は水、アルコール、液体アンモニアなどに溶解させた溶液状として使用される。
【0051】
前記処理薬品がアルカリ金属水酸化物及び/又はアルカリ土類金属水酸化物である場合、アルカリ金属水酸化物としては水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられ、アルカリ土類金属水酸化物としては水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、1種又は2種以上選択して使用することができる。中でも水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましく、とりわけ水酸化ナトリウムが好ましい。
【0052】
アルカリ金属水酸化物及び/又はアルカリ土類金属水酸化物はその溶液として使用することが好ましく、該溶液の溶媒としては水及び/又は有機溶媒が挙げられ、有機溶媒としてはメタノール、エタノール、イソプロパノールなどを例示することができる。
前記溶液の濃度は5〜55重量%、好ましくは10〜45重量%の範囲が好適であり、前記溶液の温度は0〜95℃、好ましくは20〜90℃、より好ましくは30〜80℃の範囲が好適である。
【0053】
本実施形態におけるアルカリ金属水酸化物及び/又はアルカリ土類金属水酸化物溶液による前処理は、前記の溶液濃度と溶液温度範囲にある溶液と、該偏光フィルムの片面又は両面を所定の時間接触させることで行うことができる。該接触の方法として特に制限はないが、例えば該偏光フィルムの溶液中への浸漬、あるいはシャワー、表面流下などによる該偏光フィルムとの接触などの方法を例示することができる。中でも該偏光フィルムを溶液中に浸漬させる方法が好ましい。その際、溶液の濃度と温度を均一化させるために、攪拌、対流、噴流などの方法を採用することができる。該接触させる時間に特に制限はないが、1分〜24時間、好ましくは5分〜10時間、特に好ましくは5分〜5時間の範囲が好ましい。
【0054】
前記アルカリ金属水酸化物及び/又はアルカリ土類金属水酸化物溶液と該偏光フィルムとを接触させる際には、超音波照射や振動など物理的刺激を併用することもできる。
【0055】
アルカリ金属水酸化物及び/又はアルカリ土類金属水酸化物溶液は、該溶液と該偏光フィルムとの濡れ性の向上を目的としてアニオン性、ノニオン性などの界面活性剤などを含んでいてもよい。
【0056】
前記アルカリ金属水酸化物及び/又はアルカリ土類金属水酸化物溶液と該偏光フィルムとの接触時における溶液濃度、溶液温度及び接触時間は、該偏光フィルムの光学的特性を実質的に損なわない範囲で適宜選択して行うことができる。
【0057】
前記アルカリ金属水酸化物及び/又はアルカリ土類金属水酸化物溶液に該偏光フィルムを接触させた後、該偏光フィルムを溶液中から引き上げ、必要に応じて水及び/又はメタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトンなどの有機溶剤で該偏光フィルムの洗浄、乾燥を行ってもよい。
【0058】
前記コロナ放電処理は、気体放電の一種で、気体分子がイオン化し導電性を示し、そのイオン流でフィルム表面が活性化される現象を利用するものであり、広範に使用されている表面処理技術である。放電処理をする気体としては、空気が挙げられるが、窒素、二酸化炭素、アンモニアガスなどのガスであってもよい。コロナ放電処理は例えば公知の高周波発生装置において電圧を電極に印加して発生させるコロナを用いて偏光フィルム表面を処理する方法で達成できる。コロナ放電処理強度は1〜500W・min/mが好ましく、より好ましくは5〜400W・min/mである。
前記プラズマ処理としては、常圧プラズマ処理及び真空プラズマ処理(低温プラズマ処理)を例示することができる。
常圧プラズマ処理では空気、水蒸気、アルゴン、窒素、ヘリウム、二酸化炭素、一酸化炭素などのガスを単独又は混合させたガス雰囲気中で放電処理される。
【0059】
真空プラズマ処理は、減圧下で行うことができ、例えばドラム状電極と複数の棒状電極からなる対極電極を有する内部電極型の放電処理装置内に偏光フィルムを置き、0.001〜50Torr、好ましくは0.01〜10Torr、より好ましくは0.02〜1Torrの処理ガス雰囲気下で、電極間に直流又は交流の高電圧を印加して放電させて該処理ガスのプラズマを発生させこれに該偏光フィルムの表面を暴露させることで表面処理をすることができる。真空プラズマ処理の処理条件としては、処理装置、処理ガスの種類、圧力、電源の周波数などに依存するが、適宜好ましい条件を選定すればよい。上記処理ガスとしては例えば、アルゴン、窒素、ヘリウム、二酸化炭素、一酸化炭素、空気、水蒸気などを単独又は混合して使用することができる。
以上の工程(a)により、コート層付き偏光フィルムを得ることができる。
【0060】
(工程(b))
本実施形態のプラスチック偏光レンズは、図2に示すように、コート層13a,13bが施された熱可塑性ポリエステルからなる偏光フィルム12が固定されたレンズ注型用鋳型20に、特定のイソシアネート化合物と特定の活性水素化合物との重合性組成物を注入したのち重合硬化させて得られる。
レンズ注型用鋳型20は、ガスケット22cで保持された2個のモールド22a、22bから構成されるものが一般的である。
【0061】
ガスケット22cの材質としては、ポリ塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニルコポリマー、エチレン−エチルアクリレートコポリマー、エチレン−プロピレンコポリマー、エチレン−プロピレン−ジエンコポリマー、ポリウレタンエラストマー、フッ素ゴム、あるいはそれらにポリプロピレンをブレンドした軟質弾性樹脂類が用いられる。本実施形態において使用される特定のイソシアネート化合物と特定の活性水素化合物との重合性組成物に対して膨潤も溶出もしない材料が好ましい。
【0062】
モールド22a、22bの材質としては、ガラス、金属などが挙げられ、通常はガラスが用いられる。モールド22a、22bには、得られたレンズの離型性を向上させるために予め離型剤を塗付してもよい。また、レンズ材料にハードコート性能を付与するためのコート液を予めモールドに塗付してもよい。
【0063】
このレンズ注型用鋳型20の空間内に、熱可塑性ポリエステルからなる偏光フィルム12を、フィルム面が対向するフロント側のモールド22a内面と並行となるように設置する。偏光フィルム12とモールド22a、22bとの間には、各々空隙部24a、24bが形成される。空隙部24a、24bの最も間隙の狭い離間距離aは、0.2〜2.0mm程度である。
【0064】
(工程(c))
次いで、レンズ注型用鋳型20の空間内において、モールド22a、22bと偏光フィルム12との間の2つの空隙部24a、24bに、所定の注入手段によりモノマー混合物(重合性組成物)を注入する。本実施形態においては、(A)イソシアネート化合物と、(B)チオール基を有する活性水素化合物との重合性組成物を使用することができる。そのため、注入時における粘度が低く、上記のような間隙の空隙部であっても、容易に注入することができる。
【0065】
本実施形態において使用される(A)イソシアネート化合物は、イソチオシアネート基を有する化合物を含むものであり、具体的には、ポリイソシアネート化合物、イソチオシアネート基を有するイソシアネート化合物、ポリイソチオシアネート化合物から選ばれる1種または2種以上の化合物である。
【0066】
ポリイソシアネート化合物としては、例えば、
ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアナトメチルエステル、リジントリイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、α,α,α′,α′−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)ナフタリン、メシチリレントリイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)スルフィド、ビス(イソシアナトエチル)スルフィド、ビス(イソシアナトメチル)ジスルフィド、ビス(イソシアナトエチル)ジスルフィド、ビス(イソシアナトメチルチオ)メタン、ビス(イソシアナトエチルチオ)メタン、ビス(イソシアナトエチルチオ)エタン、ビス(イソシアナトメチルチオ)エタン等の脂肪族ポリイソシアネート化合物;
イソホロンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ジシクロヘキシルジメチルメタンイソシアネート、2,5−ビス(イソシアナトメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6−ビス(イソシアナトメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、3,8−ビス(イソシアナトメチル)トリシクロデカン、3,9−ビス(イソシアナトメチル)トリシクロデカン、4,8−ビス(イソシアナトメチル)トリシクロデカン、4,9−ビス(イソシアナトメチル)トリシクロデカン、ビス(4−イソシアナトシクロへキシル)メタン、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等の脂環族ポリイソシアネート化合物;
2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4'− ジフェニルメタンジイソシアネート、ジフェニルスルフィド−4,4−ジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート化合物;
2,5−ジイソシアナトチオフェン、2,5−ビス(イソシアナトメチル)チオフェン、2,5−ジイソシアナトテトラヒドロチオフェン、2,5−ビス(イソシアナトメチル)テトラヒドロチオフェン、3,4−ビス(イソシアナトメチル)テトラヒドロチオフェン、2,5−ジイソシアナト−1,4−ジチアン、2,5−ビス(イソシアナトメチル)−1,4−ジチアン、4,5−ジイソシアナト−1,3−ジチオラン、4,5−ビス(イソシアナトメチル)−1,3−ジチオラン等の複素環ポリイソシアネート化合物等
を挙げることができるが、これら例示化合物のみに限定されるものではない。
【0067】
イソチオシアネート基を有するイソシアネート化合物としては、例えば、上記に例示したポリイソシアネート化合物のイソシアナート基の一部をイソチオシアナート基に変えたものを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0068】
ポリイソチオシアネート化合物としては、例えば、
ヘキサメチレンジイソチオシアネート、リジンジイソチオシアナトメチルエステル、リジントリイソチオシアネート、m−キシリレンジイソチオシアネート、ビス(イソチオシアナトメチル)スルフィド、ビス(イソチオシアナトエチル)スルフィド、ビス(イソチオシアナトエチル)ジスルフィド等の脂肪族ポリイソチオシアネート化合物;
イソホロンジイソチオシアネート、ビス(イソチオシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジイソチオシアネート、シクロヘキサンジイソチオシアネート、メチルシクロヘキサンジイソチオシアネート、2,5−ビス(イソチオシアナトメチル)ビシクロ−[2.2.1]−ヘプタン、2,6−ビス(イソチオシアナトメチル)ビシクロ−[2.2.1]−ヘプタン、3,8−ビス(イソチオシアナトメチル)トリシクロデカン、3,9−ビス(イソチオシアナトメチル)トリシクロデカン、4,8−ビス(イソチオシアナトメチル)トリシクロデカン、4,9−ビス(イソチオシアナトメチル)トリシクロデカン等の脂環族ポリイソチオシアネート化合物;
ジフェニルジスルフィド−4,4−ジイソチオシアネート等の芳香族ポリイソチオシアネート化合物;
2,5−ジイソチオシアナトチオフェン、2,5−ビス(イソチオシアナトメチル)チオフェン、2,5−ジイソチオシアナトテトラヒドロチオフェン、2,5−ビス(イソチオシアナトメチル)テトラヒドロチオフェン、3,4−ビス(イソチオシアナトメチル)テトラヒドロチオフェン、2,5−ジイソチオシアナト−1,4−ジチアン、2,5−ビス(イソチオシアナトメチル)−1,4−ジチアン、4,5−ジイソチオシアナト−1,3−ジチオラン、4,5−ビス(イソチオシアナトメチル)−1,3−ジチオラン等の含硫複素環ポリイソチオシアネート化合物等
を挙げることができるが、これら例示化合物のみに限定されるものではない。
【0069】
さらに、これらイソシアネート化合物の塩素置換体、臭素置換体等のハロゲン置換体、アルキル置換体、アルコキシ置換体、ニトロ置換体や、多価アルコールとのプレポリマー型変性体、カルボジイミド変性体、ウレア変性体、ビウレット変性体、ダイマー化あるいはトリマー化反応生成物等も使用することができる。これらイソシアネート化合物は単独でも、2種類以上を混合しても使用することができる。
【0070】
イソシアネート化合物(A)としては、入手の容易さ、価格、得られる樹脂の性能等から、ジイソシアネート化合物が好ましく使用される。例えば、m−キシリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4'− ジフェニルメタンジイソシアネート、2,5−ビス(イソシアナトメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6−ビス(イソシアナトメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、ビス(4−イソシアナトシクロへキシル)メタン、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ヘキサメチレンジイソシアネートが好ましく使用され、2,5−ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ−[2.2.1]−ヘプタン、2,6−ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ−[2.2.1]−ヘプタン、m−キシリレンジイソシアネートが特に好ましく使用される。これらは、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0071】
本実施形態において使用される(B)活性水素化合物とは、ヒドロキシル基を有するチオール化合物、ポリチオール化合物から選ばれる1種または2種以上の活性水素化合物である。
【0072】
ヒドロキシル基を有するチオール化合物としては、例えば、
2−メルカプトエタノール、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール、グルセリンビス(メルカプトアセテート)、4−メルカプトフェノール、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール、ペンタエリスリトールトリス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールトリス(チオグリコレート)等
を挙げることができるが、これら例示化合物のみに限定されるものではない。
【0073】
ポリチオール化合物としては、例えば、
メタンジチオール、1,2-エタンジチオール、1,2,3-プロパントリチオール、1,2-シクロヘキサンジチオール、ビス(2-メルカプトエチル)エーテル、テトラキス(メルカプトメチル)メタン、ジエチレングリコールビス(2-メルカプトアセテート)、ジエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、エチレングリコールビス(2-メルカプトアセテート)、エチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(2-メルカプトアセテート)、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、トリメチロールエタントリス(2-メルカプトアセテート)、トリメチロールエタントリス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ビス(メルカプトメチル)スルフィド、ビス(メルカプトメチル)ジスルフィド、ビス(メルカプトエチル)スルフィド、ビス(メルカプトエチル)ジスルフィド、ビス(メルカプトプロピル)スルフィド、ビス(メルカプトメチルチオ)メタン、ビス(2-メルカプトエチルチオ)メタン、ビス(3-メルカプトプロピルチオ)メタン、1,2-ビス(メルカプトメチルチオ)エタン、1,2-ビス(2-メルカプトエチルチオ)エタン、1,2-ビス(3-メルカプトプロピルチオ)エタン、1,2,3-トリス(メルカプトメチルチオ)プロパン、1,2,3-トリス(2-メルカプトエチルチオ)プロパン、1,2,3-トリス(3-メルカプトプロピルチオ)プロパン、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、テトラキス(メルカプトメチルチオメチル)メタン、テトラキス(2-メルカプトエチルチオメチル)メタン、テトラキス(3-メルカプトプロピルチオメチル)メタン、ビス(2,3-ジメルカプトプロピル)スルフィド、2,5-ジメルカプトメチル−1,4−ジチアン、2、5-ジメルカプト-1,4-ジチアン、2,5-ジメルカプトメチル-2,5-ジメチル-1,4-ジチアン、及びこれらのチオグリコール酸およびメルカプトプロピオン酸のエステル、ヒドロキシメチルスルフィドビス(2-メルカプトアセテート)、ヒドロキシメチルスルフィドビス(3-メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシエチルスルフィドビス(2-メルカプトアセテート)、ヒドロキシエチルスルフィドビス(3-メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシメチルジスルフィドビス(2-メルカプトアセテート)、ヒドロキシメチルジスルフィドビス(3-メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシエチルジスルフィドビス(2―メルカプトアセテート)、ヒドロキシエチルジスルフィドビス(3―メルカプトプロピネート)、2-メルカプトエチルエーテルビス(2-メルカプトアセテート)、2-メルカプトエチルエーテルビス(3-メルカプトプロピオネート)、チオジグリコール酸ビス(2-メルカプトエチルエステル)、チオジプロピオン酸ビス(2-メルカプトエチルエステル)、ジチオジグリコール酸ビス(2-メルカプトエチルエステル)、ジチオジプロピオン酸ビス(2-メルカプトエチルエステル)、1,1,3,3-テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、1,1,2,2-テトラキス(メルカプトメチルチオ)エタン、4,6-ビス(メルカプトメチルチオ)-1,3-ジチアン、トリス(メルカプトメチルチオ)メタン、トリス(メルカプトエチルチオ)メタン等の脂肪族ポリチオール化合物;
1,2-ジメルカプトベンゼン、1,3-ジメルカプトベンゼン、1,4-ジメルカプトベンゼン、1,2-ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3-ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,4-ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,2-ビス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,3-ビス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,4-ビス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,3,5-トリメルカプトベンゼン、1,3,5-トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3,5-トリス(メルカプトメチレンオキシ)ベンゼン、1,3,5-トリス(メルカプトエチレンオキシ)ベンゼン、2,5-トルエンジチオール、3,4-トルエンジチオール、1,5-ナフタレンジチオール、2,6-ナフタレンジチオール等の芳香族ポリチオール化合物;
2-メチルアミノ-4,6-ジチオール-sym-トリアジン、3,4-チオフェンジチオール、ビスムチオール、4,6−ビス(メルカプトメチルチオ)−1,3−ジチアン、2−(2,2−ビス(メルカプトメチルチオ)エチル)−1,3−ジチエタン等の複素環ポリチオール化合物等
を挙げることができるが、これら例示化合物のみに限定されるものではない。
【0074】
さらにこれら活性水素化合物のオリゴマーや塩素置換体、臭素置換体等のハロゲン置換体を使用しても良い。これら活性水素化合物は単独でも、2種類以上を混合しても使用することができる。
【0075】
これら活性水素化合物のうち、入手の容易さ、価格、得られる樹脂の性能等から、ポリチオール化合物が好ましく使用される。例えば、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、5,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、4,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、4,8−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、4−メルカプトメチル−1,8−ジメルカプト−3,6−ジチアオクタン、2,5−ジメルカプトメチル−1,4−ジチアン、1,1,3,3−テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、4,6−ビス(メルカプトメチルチオ)−1,3−ジチアン、2−(2,2−ビス(メルカプトメチルチオ)エチル)−1,3−ジチエタンが好ましく使用され、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンが特に好ましく使用される。これらは、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0076】
また、本実施形態において使用される(A)イソシアネート化合物は、予め(B)活性水素化合物の一部を予備的に反応させたものでもよい。また、本実施形態において使用される(B)活性水素化合物は、予め(A)イソシアネート化合物の一部を予備的に反応させたものでもよい。
【0077】
更に、(A)イソシアネート化合物、(B)活性水素化合物に加えて、樹脂の改質を目的として、ヒドロキシ化合物、エポキシ化合物、エピスルフィド化合物、有機酸及びその無水物、(メタ)アクリレート化合物等を含むオレフィン化合物等の樹脂改質剤を加えてもよい。ここで、樹脂改質剤とは、チオウレタン系樹脂の屈折率、アッベ数、耐熱性、比重等の物性や耐衝撃性等の機械強度等を調整あるいは向上させる化合物である。
【0078】
樹脂改質剤として用いるヒドロキシ化合物としては、例えば、
ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、チオジエタノール、ジチオジエタノール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、さらにこれらのオリゴマーを挙げることができるが、これら例示化合物のみに限定されるものではない。
樹脂改質剤として添加することができるエポキシ化合物としては、例えば、
ビスフェノールAグリシジルエーテル等の多価フェノール化合物とエピハロヒドリン化合物との縮合反応により得られるフェノール系エポキシ化合物;
水添ビスフェノールAグリシジルエーテル等の多価アルコール化合物とエピハロヒドリン化合物との縮合により得られるアルコール系エポキシ化合物;
3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3',4'−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート等の多価有機酸化合物とエピハロヒドリン化合物との縮合により得られるグリシジルエステル系エポキシ化合物;
一級及び二級ジアミン化合物とエピハロヒドリン化合物との縮合により得られるアミン系エポキシ化合物;
ビニルシクロヘキセンジエポキシド等の脂肪族多価エポキシ化合物等
を挙げることができるが、これら例示化合物のみに限定されるものではない。
【0079】
樹脂改質剤として添加することができるエピスルフィド化合物としては、例えば、
ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)スルフィド、ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)ジスルフィド、ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)メタン、1,2−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)エタン、1,5−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−3−チアペンタン等の鎖状脂肪族の2,3−エピチオプロピルチオ化合物;
1,3−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)シクロヘキサン、2,5−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−1,4−ジチアン等の環状脂肪族、複素環を有する2,3−エピチオプロピルチオ化合物;
1,3−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)ベンゼン、1,4−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)ベンゼン等の芳香族2,3−エピチオプロピルチオ化合物等
を挙げることができるが、これら例示化合物のみに限定されるものではない。
【0080】
樹脂改質剤として添加することができる有機酸及びその無水物としては、例えば、
チオジグリコール酸、チオジプロピオン酸、ジチオジプロピオン酸、無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等を挙げることができるが、これら例示化合物のみに限定されるものではない。
【0081】
樹脂改質剤として添加することができるオレフィン化合物としては、例えば、
ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシメチルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、フェニルメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、エチレングリコールビスグリシジルアクリレート、エチレングリコールビスグリシジルメタクリレート、ビスフェノールAジアクリレート、ビスフェノールAジメタクリレート、ビスフェノールFジアクリレート、ビスフェノールFジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、グリセロールジアクリレート、グリセロールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、キシリレンジチオールジアクリレート、キシリレンジチオールジメタクリレート、メルカプトエチルスルフィドジアクリレート、メルカプトエチルスルフィドジメタクリレート等の(メタ)アクリレート化合物;
アリルグリシジルエーテル、ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルイソフタレート、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート等のアリル化合物;
スチレン、クロロスチレン、メチルスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、ジビニルベンゼン、3,9−ジビニルスピロビ(m−ジオキサン)等のビニル化合物等
を挙げることができるが、これら例示化合物のみに限定されるものではない。
これら樹脂改質剤は、単独でも、2種類以上を混合しても使用することができる。
【0082】
本実施形態において使用される(A)イソシアネート化合物と(B)活性水素化合物(改質剤であるヒドロキシ化合物も含む)の使用割合は、通常(NCO+NCS)/(SH+OH)の官能基モル比が、通常、0.8〜1.5の範囲、好ましくは、0.9〜1.2の範囲である。
【0083】
本実施形態において使用される(A)イソシアネート化合物と(B)活性水素化合物は、入手の容易さ、価格、取扱いの容易さ、得られる樹脂の性能等を考慮して選択される。
取扱いの容易さとして特に重要な因子は、重合性組成物の注入時の粘度である。注入時の粘度は、(A)イソシアネート化合物と(B)活性水素化合物の組合せ(樹脂改質剤を使用する場合は樹脂改質剤の種別及び量を含む。また、触媒を使用する場合は、触媒の種別及び量を含む。)にて決定されるが、粘度が高過ぎると、レンズ注型用鋳型20の空間内のガラスモールド22a、22bと偏光フィルム12との間の狭い空隙部24a、24bに注入することが困難となり偏光レンズの製造が困難となる。通常、注入時の粘度が、20℃での測定値として、200mPa・s以下が好ましく、中心厚が非常に薄いレンズの製造のためには、更なる低粘度、例えば100mPa・s以下がより好ましい。重合性組成物の粘度は、液温20℃においてB型粘度計を用いて測定される。
【0084】
考慮する樹脂の性能としては、屈折率が重要であり、高屈折率であるものを好適に用いることができる。例えば、e線で測定した屈折率で、通常1.50〜1.70、好ましくは1.57〜1.70の範囲、より好ましくは1.59〜1.70の範囲、更に好ましくは1.65〜1.68の範囲の屈折率を有する樹脂が得られる(A)イソシアネート化合物と(B)活性水素化合物(樹脂改質剤を使用する場合は、樹脂改質剤種別及び量を含む)の組み合わせが好ましい。屈折率が低すぎると、偏光レンズの中にフィルムが入っているのがはっきりと判り、見栄えが悪くなる。
【0085】
本実施形態において使用される(A)イソシアネート化合物と(B)活性水素化合物の重合性組成物は、通常は、偏光フィルム面の両側で同一のものが使用されるが、異なるものを用いても差し支えない。
【0086】
(A)イソシアネート化合物と(B)活性水素化合物の重合性組成物を硬化成形する際には、必要に応じ、公知の成形法における手法と同様に、ジブチル錫ジクロライドなどの触媒、ベンゾトリアゾール系などの紫外線吸収剤、酸性リン酸エステルなどの内部離型剤、光安定剤、酸化防止剤、ラジカル反応開始剤などの反応開始剤、鎖延長剤、架橋剤、着色防止剤、油溶染料、充填剤などの物質を添加してもよい。
【0087】
(A)イソシアネート化合物と(B)活性水素化合物に反応触媒や離型剤、その他添加剤を混合して注入液を調製する場合、触媒や離型剤その他の添加剤の添加は、(A)イソシアネート化合物や(B)活性水素化合物への溶解性にも左右されるが、あらかじめ(A)イソシアネート化合物に添加溶解させるか、また、(B)活性水素化合物に添加溶解させるかあるいは(A)イソシアネート化合物と(B)活性水素化合物の重合性組成物に添加溶解させてもよい。あるいは、使用する(A)イソシアネート化合物や(B)活性水素化合物の一部に溶解させてマスター液を調製した後、これを添加しても構わない。添加順序については、これら例示の方法に限定されず、操作性、安全性、便宜性等を踏まえ、適宜選ばれる。
【0088】
混合は、通常、30℃以下の温度で行われる。重合性組成物のポットライフの観点から、さらに低温にすると好ましい場合がある。また、触媒や離型剤などの添加剤が、(A)イソシアネート化合物や(B)活性水素化合物に対して良好な溶解性を示さない場合は、あらかじめ加温して、(A)イソシアネート化合物、(B)活性水素化合物やその混合物に溶解させる場合もある。
【0089】
更に、得られるプラスチックレンズに要求される物性によっては、必要に応じて、減圧下での脱泡処理や加圧、減圧等での濾過処理等を行うことが好ましい場合が多い。
【0090】
(工程(d))
次いで、(A)イソシアネート化合物と(B)活性水素化合物との重合性組成物が注入された偏光フィルムが固定されたレンズ注型用鋳型をオーブン中または水中等の加熱可能装置内で所定の温度プログラムにて数時間から数十時間かけて加熱して硬化成型する。
【0091】
重合硬化の温度は、重合性組成物の組成、触媒の種類、モールドの形状等によって条件が異なるため限定できないが、およそ、−50〜200℃の温度で1〜100時間かけて行われる。
【0092】
通常、5℃から40℃の範囲の温度で開始し、その後徐々に80℃から130℃の範囲にまで昇温させ、その温度で1時間から4時間加熱するのが一般的である。
【0093】
硬化成形終了後、レンズ注型用鋳型から取り出すことで、図1に示すような本実施形態のプラスチック偏光レンズ10を得ることができる。このようなプラスチック偏光レンズ10は、偏光フィルム12の一方の面にコート層13aおよび基材層14aが順に積層され、他方の面にコート層13bおよび基材層14bが順に積層されている。このような構成であることにより、外周研磨加工の際に、偏光フィルム12がレンズ材料から剥離することを抑制することができ、工業的に大量の偏光レンズを製造することができる。
【0094】
本実施形態のプラスチック偏光レンズ10は、重合による歪みを緩和することを目的として、離型したレンズを加熱してアニール処理を施すことが望ましい。アニール温度は通常80〜150℃の範囲、好ましくは100〜130℃の範囲、更に好ましくは110〜130℃の範囲である。アニール時間は、通常0.5〜5時間の範囲、好ましくは1〜4時間の範囲である。
【0095】
本実施形態のプラスチック偏光レンズ10は、必要に応じ、片面又は両面にコーティング層を施して用いられる。コーティング層としては、プライマー層、ハードコート層、反射防止膜層、防曇コート層、防汚染層、撥水層等が挙げられる。これらのコーティング層は、それぞれ単独で使用しても複数のコーティング層を多層化して使用してもよい。両面にコーティング層を施す場合、それぞれの面に同様なコーティング層を施しても異なるコーティング層を施してもよい。
【0096】
これらのコーティング層には、それぞれ、紫外線からレンズや目を守る目的で紫外線吸収剤、赤外線から目を守る目的で赤外線吸収剤、レンズの耐候性を向上させる目的で光安定剤や酸化防止剤、レンズのファッション性を高める目的で染料や顔料、さらにフォトクロミック染料やフォトクロミック顔料、帯電防止剤、その他、レンズの性能を高める目的で公知の添加剤を併用してもよい。塗布性の改善を目的として各種レベリング剤を使用してもよい。
【0097】
プライマー層は、一般的には、ハードコート層の密着性や偏光レンズの耐衝撃性の向上を目的に、偏光レンズ基材(チオウレタン系樹脂)とハードコート層との間に形成され、その膜厚は、通常、0.1〜10μm程度である。
【0098】
プライマー層は、例えば、塗布法や乾式法にて形成される。塗布法では、プライマー組成物をスピンコート、ディップコートなど公知の塗布方法で塗布した後、固化させることによりプライマー層が形成される。乾式法では、CVD法や真空蒸着法などの公知の乾式法で形成される。プライマー層を形成するに際し、密着性の向上を目的として、必要に応じて、レンズの表面をアルカリ処理、プラズマ処理、紫外線処理などの前処理を行ってもよい。
【0099】
プライマー組成物としては、固化したプライマー層がレンズ基材(チオウレタン系樹脂)との密着性の高い素材が好ましく、通常、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、メラニン系樹脂、ポリビニルアセタールを主成分とするプライマー組成物などが使用される。プライマー組成物は、無溶剤での使用も可能であるが、組成物の粘度を調整する等の目的でレンズに影響を及ぼさない適当な溶剤を用いてもよい。
【0100】
ハードコート層は、レンズ表面に耐擦傷性、耐摩耗性、耐湿性、耐温水性、耐熱性、耐候性等の機能を与えることを目的としたコーティング層であり、その膜厚は、通常、0.3〜30μm程度である。
【0101】
ハードコート層は、通常、ハードコート組成物をスピンコート、ディップコートなど公知の塗布方法で塗布した後、硬化して形成される。硬化方法としては、熱硬化、紫外線や可視光線などのエネルギー線照射による硬化方法等が挙げられる。ハードコート層を形成するに際し、密着性の向上を目的として、必要に応じて、被覆表面(レンズ基材あるいはプライマー層)に、アルカリ処理、プラズマ処理、紫外線処理などの前処理を行ってもよい。
【0102】
ハードコート組成物としては、一般的には、硬化性を有する有機ケイ素化合物とSi、Al、Sn、Sb、Ta、Ce、La、Fe、Zn、W、Zr、InおよびTi等の酸化物微粒子(複合酸化物微粒子を含む)の混合物が使用されることが多い。更にこれらの他に、アミン類、アミノ酸類、金属アセチルアセトネート錯体、有機酸金属塩、過塩素酸類、過塩素酸類の塩、酸類、金属塩化物および多官能性エポキシ化合物等を使用してもよい。ハードコート組成物は、無溶剤での使用も可能であるが、レンズに影響を及ぼさない適当な溶剤を用いてもよい。
【0103】
反射防止層は、必要に応じて、通常、ハードコート層の上に形成される。反射防止層には無機系と有機系があり、無機系の場合は、一般的には、SiO、TiO等の無機酸化物を用いて真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームアシスト法、CVD法等の乾式法により形成されることが多い。有機系の場合は、一般的には、有機ケイ素化合物と、内部空洞を有するシリカ系微粒子とを含む組成物を用いて湿式により形成されることが多い。
【0104】
反射防止層は単層であっても多層であってもよいが、単層で用いる場合はハードコート層の屈折率よりも屈折率が少なくとも0.1以上低くなることが好ましい。効果的に反射防止機能を発現するには多層膜反射防止膜とすることが好ましく、その場合、通常は、低屈折率膜と高屈折率膜とを交互に積層する。この場合も低屈折率膜と高屈折率膜との屈折率差は0.1以上であることが好ましい。高屈折率膜としては、例えば、ZnO、TiO、CeO、Sb、SnO、ZrO、Ta等の膜が、低屈折率膜としては、SiO膜等が挙げられる。膜厚は、通常、50〜150nm程度である。
さらに、本実施形態のプラスチック偏光レンズは、必要に応じ、裏面研磨、帯電防止処理、染色処理、調光処理等を施してもよい。
このようなプラスチック偏光レンズは、薄型化が可能であることから、メガネ用の偏光レンズ、特に視力補正用レンズとして有用である。
【0105】
以上、本実施形態のプラスチック偏光レンズおよびその製造方法を上述の通り説明したが、以下の態様も取り得る。
【0106】
本実施形態のプラスチック偏光レンズには、偏光フィルム12の一方の面にのみコート層13a(または13b)と基材層14a(または14b)が積層された態様も含む。この場合、偏光フィルム12の他方の面(コート層なし)には、基材層が形成されていてもよい。
【0107】
本実施形態のプラスチック偏光レンズの製造方法は、以下の工程からなる態様も取り得る。
(a)熱可塑性ポリエステルからなる偏光フィルムの片面に、ヒドロキシル基を有する化合物由来の構造単位と芳香族ジカルボン酸由来の構造単位とからなる芳香族ポリエステルポリオールと、ウレタン変性イソシアヌレートとを含む組成物を塗布、乾燥して、コート層を形成する工程
(b)前記コート層付き偏光フィルムを、モールドから離隔した状態でレンズ注型用鋳型内に固定する工程
(c)前記コート層付き偏光フィルムのコート層と前記モールドとの間の空隙にモノマー混合物を注入する工程
(d)前記モノマー混合物を重合硬化して、前記コート層付き偏光フィルムのコート層上にチオウレタン系樹脂からなる基材層を積層する工程
【0108】
(a)熱可塑性ポリエステルからなる偏光フィルムの片面に、ヒドロキシル基を有する化合物由来の構造単位と芳香族ジカルボン酸由来の構造単位とからなる芳香族ポリエステルポリオールと、ウレタン変性イソシアヌレートとを含む組成物を塗布、乾燥して、コート層を形成する工程
(b)前記コート層付き偏光フィルムを、モールドから離隔した状態でレンズ注型用鋳型内に固定する工程
(c)前記コート層付き偏光フィルムのコート層と前記モールドとの間の空隙、さらに偏光フィルムと前記モールドとの間の空隙にモノマー混合物を注入する工程
(d)前記モノマー混合物を重合硬化して、前記コート層付き偏光フィルムの両面にチオウレタン系樹脂からなる基材層を積層する工程
【0109】
また、本実施形態においては、コート層付き偏光フィルムを形成した後、予め作成しておいたチオウレタン系樹脂からなる基材フィルムをコート層表面に貼り合わせることにより、プラスチック偏光レンズを製造することも可能である。
【実施例】
【0110】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0111】
[実施例1]
ポリエチレンテレフタレート製偏光フィルム[ガラス転移温度70.7℃](厚み140ミクロン)をあらかじめオーブン中140℃で15分間熱処理し、次いで、熱プレス法にて附形温度160℃で6C(カーブ)の湾曲形状に附形した。偏光フィルムをモールドの大きさに合わせて切断した後、プラズマ照射表面改質装置(PS−601SW型:ウエッジ株式会社製)を用いて偏光膜の表面と裏面を各20秒間プラズマ照射し、メタノールで洗浄後風乾して偏光フィルムを作製した。また、アラコート(荒川化学工業株式会社製)の主剤AP2503D2を91.3重量部、硬化剤CL2503を7.1重量部、触媒のRA1000を1.6重量部量り取り、500重量部のMEK(メチルエチルケトン)溶媒にて希釈調整して塗布液を得た。ポリエチレンテレフタレート製偏光フィルムの両面に、先ほど調整した塗布液をコートし、およそ50〜60℃で乾燥させた。これを、偏光レンズ成形用の鋳型(前面6C/後面6Cガラスモールドセット 中心厚12mm)内に挟み込んで設置した。次に、m−キシリレンジイソシアネート44.3重量部、1,1,3,3-テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、および4,6-ビス(メルカプトメチルチオ)-1,3-ジチアシクロヘキサンとの混合物55.7重量部、硬化促進剤としてジブチル錫ジクロライド0.02重量部、離型剤としてZelecUN(登録商標、Stepan社製)0.12重量部、および紫外線吸収剤としてSeesorb709(シプロ化成社製)0.05重量部を攪拌して溶解させた後、減圧下で脱泡処理して、調製直後に注入用モノマー混合物として供した。この注入用モノマー混合物を先ほど調製した偏光レンズ成形用の鋳型に注入し、オーブン中16時間かけて25℃から100℃まで昇温し、その後100℃で10時間維持し、徐冷の後、オーブンからレンズ注型用鋳型を取り出した。レンズ注型用鋳型からレンズを離型し、115℃で2時間アニールしてセミフィニッシュレンズ形状の偏光レンズを得た。その後、バック面を切削研磨して6C形状のレンズとした。得られた6C形状のレンズ5枚をトプコン社製の玉形加工機(ALE-100DX)にて幅49mm、高さ28mmの玉形加工を行い、ポリエチレンテレフタレート製偏光フィルムと基材のチオウレタン樹脂との密着性について評価した。その結果、5枚全てにおいて、剥離することなく、良好な密着性が確認された。実施例において、5枚全てにおいて剥離しなかった場合を○、一枚でも剥離した場合を×として評価した。評価結果を[表−1]に示す。
【0112】
アラコートの組成を分析したところ以下のとおりであった。
主剤AP2503D2:テレフタル酸およびイソフタル酸、エチレングリコールからなる芳香族ポリエステルポリオール (不揮発成分:40%、粘度(25℃)は、170mPa・s)
硬化剤CL2503:ウレタン変性ヘキサメチレンジイソシアヌレート (不揮発成分:40%、粘度(25℃)は、4mPa・s)
触媒RA1000:ジブチルスズジラウレート (不揮発成分:25%)
【0113】
[比較例1]
ポリエチレンテレフタレート製偏光フィルムの両面に何もコートしなかった以外は、実施例1と同じにし、6C形状のフィニッシュレンズを得た。得られたレンズの玉形加工を行い、ポリエチレンテレフタレート製偏光フィルムと基材のチオウレタン樹脂との密着性について評価した。その結果、5枚全てにおいてポリエチレンテレフタレート製偏光フィルムの剥離が発生した。評価結果を[表−1]に示す。
【0114】
[比較例2]
ポリエチレンテレフタレート製偏光フィルムの両面にサンプレンIB−422(三洋化成工業社製ポリエステル系ポリウレタンコート剤)を使用した以外は、実施例1と同じにし、6C形状のフィニッシュレンズを得た。得られたレンズの玉形加工を行い、ポリエチレンテレフタレート製偏光フィルムと基材のチオウレタン樹脂との密着性について評価した。その結果、レンズ5枚中3枚においてポリエチレンテレフタレート製偏光フィルムの剥離が発生した。評価結果を[表−1]に示す。
なお、サンプレンIB−422の組成を分析したところ以下のとおりであった。
イソシアネート成分:イソホロンジイソシアネート
ポリエステル成分:アジピン酸、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオールを成分とするポリエステルポリオール
構成比(モル比):イソホロンジイソシアネート // ポリエステルポリオール= 1.0 // 4.3
溶剤 メチルエチルケトン(MEK)、イソプロピルアルコール(IPA)、MEK/IPA=60/40
固形分 30%
【0115】
[比較例3]
ポリエチレンテレフタレート製偏光フィルムの両面にSKダイン2094(綜研化学社製アクリル系コート剤)を使用した以外は、実施例1と同じにし、6C形状のフィニッシュレンズを得た。得られたレンズの玉形加工を行い、ポリエチレンテレフタレート製偏光フィルムと基材のチオウレタン樹脂との密着性について評価した。その結果、レンズ5枚中4枚においてポリエチレンテレフタレート製偏光フィルムの剥離が発生した。評価結果を[表−1]にまとめた。
【0116】
[比較例4]
ポリエチレンテレフタレート製偏光フィルムの両面にSHC900(モーメンティブ社製シリコン系コート剤)を使用した以外は、実施例1と同じにし、6C形状のフィニッシュレンズを得た。得られたレンズの玉形加工を行い、ポリエチレンテレフタレート製偏光フィルムと基材のチオウレタン樹脂との密着性について評価した。その結果、5枚全てにおいてポリエチレンテレフタレート製偏光フィルムの剥離が発生した。評価結果を[表−1]にまとめた。
【0117】
[比較例5]
ポリエチレンテレフタレート製偏光フィルムの両面にSTYCAST1266J(ヘンケル社製エポキシ系コート剤)を使用した以外は、実施例1と同じにし、6C形状のフィニッシュレンズを得た。得られたレンズの玉形加工を行い、ポリエチレンテレフタレート製偏光フィルムと基材のチオウレタン樹脂との密着性について評価した。その結果、5枚全てにおいてポリエチレンテレフタレート製偏光フィルムの剥離が発生した。評価結果を[表−1]にまとめた。
【0118】
【表1】
【符号の説明】
【0119】
10 プラスチック偏光レンズ
12 偏光フィルム
13a、13b コート層
14a、14b 基材層
20 レンズ注型用鋳型
22a、22b モールド
22c ガスケット
24a,24b 空隙部
a 離間距離
図1
図2