(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態について説明する。なお、「〜」は特に断りがなければ、以上から以下を表す。
【0014】
本発明のフェノール樹脂組成物は粉末状であり、少なくともフェノール樹脂と硬化剤と極性基をもつエチレン系共重合体とを粉体混合してなる。以下、各成分について説明する。
【0015】
(極性基をもつエチレン系共重合体)
本実施形態に係る極性基をもつエチレン系共重合体は、極性基をもち、かつ、エチレンに由来する構成単位を50質量%以上含有する重合体であり、以下の要件(A)を満たすものである。また、上記エチレン系共重合体はさらに以下の要件(B)を満たすのが好ましい。
(A)JIS K7215に準拠して測定されるショアA硬度が40以上90以下の範囲内である。
(B)レーザー回折・散乱式粒度分布測定法による体積基準粒度分布における平均粒子径d
50が50μm以上300μm以下の範囲内である。
【0016】
本実施形態に係る極性基をもつエチレン系共重合体は、JIS K7215に準拠して測定されるショアA硬度が40以上であり、好ましくは45以上であり、より好ましくは60以上である。ショアA硬度が上記下限値以上であると、粉砕性が優れるため好ましい。
また、本実施形態に係る極性基をもつエチレン系共重合体は、上記ショアA硬度が90以下であり、好ましく85以下であり、より好ましくは70以下である。上記ショアA硬度が上記上限値以下であると、得られるフェノール樹脂組成物の柔軟性が向上するため好ましい。さらに、上記ショアA硬度が上記上限値以下であると、得られるフェノール樹脂組成物の耐熱性が向上するため好ましい。
上記ショアA硬度は、例えばエチレン系共重合体中のエチレンに由来する構成単位の含有量を制御することにより、調整することができる。
【0017】
本実施形態に係るエチレン系共重合体のレーザー回折・散乱式粒度分布測定法による体積基準粒度分布における平均粒子径d
50は、パウダー凝集を抑制できる観点から、好ましくは50μm以上であり、より好ましくは70μm以上であり、さらに好ましくは90μm以上である。
また、本実施形態に係る極性基をもつエチレン系共重合体は、上記平均粒子径d
50が300μm以下であり、好ましく250μm以下であり、より好ましくは200μm以下である。上記平均粒子径d
50が上記上限値以下であると、フェノール樹脂組成物中でのエチレン系共重合体の分散性を向上できる。これにより、得られるフェノール樹脂組成物の耐熱性をより一層向上させることができる。
上記平均粒子径d
50は、例えばエチレン系共重合体のペレットを粉砕し、必要に応じて分級することにより、調整することができる。なお、エチレン系共重合体の上記平均粒子径d
50はフェノール樹脂および硬化剤と粉体混合する前の値である。
【0018】
本実施形態に係るフェノール樹脂組成物中の上記エチレン系共重合体の含有量は、得られるフェノール樹脂組成物の柔軟性を向上させる観点から、上記フェノール樹脂および上記エチレン系共重合体の合計量100質量%に対し、5質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは5質量%以上18質量%以下である。
【0019】
本実施形態に係る極性基をもつエチレン系共重合体の極性基としては、例えば、カルボニル基、カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基、アミド基、エステル基、ヒドロキシル基等を挙げることができる。このような極性基をもつエチレン系共重合体としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、変性エチレン−αオレフィンランダム共重合体、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体およびエチレン−不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー等を挙げることができる。
【0020】
これらのエチレン系共重合体の中でも、極性基をもつエチレン系共重合体としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体が好ましい。
本実施形態におけるエチレン−酢酸ビニル共重合体は、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体であり、例えば、ランダム共重合体である。
【0021】
上記エチレン−酢酸ビニル共重合体は、得られるフェノール樹脂組成物の柔軟性を向上させる観点から、酢酸ビニルに由来する構成単位の含有量が好ましくは15質量%以上45質量%以下であり、より好ましくは18質量%以上42質量%以下である。酢酸ビニルに由来する構成単位の含有量は、JIS K6730に準拠して測定できる。
【0022】
上記エチレン−酢酸ビニル共重合体は、エチレンと酢酸ビニルの二元共重合体のみならず、他の単量体が任意に共重合された多元共重合体であってもよい。
【0023】
上記任意に共重合されていてもよい他の共重合成分としては、例えば、ギ酸ビニル、グリコール酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等の不飽和カルボン酸エステル等が挙げられる。なお、これら他の共重合成分は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記エチレン及び酢酸ビニル以外の共重合成分を含む場合、上記エチレン−酢酸ビニル共重合体の全単量体中のエチレン及び酢酸ビニル以外の共重合成分の量は0.5〜5質量%とすることが好ましい。
【0024】
上記エチレン−酢酸ビニル共重合体は、190℃、2.16kgfにおけるメルトフローレート(JIS K7210に準拠)が、得られるフェノール樹脂組成物の耐熱性を向上させる観点から、好ましくは1g/10分以上50g/10分以下であり、より好ましくは1g/10分以上40g/10分以下である。
【0025】
次に、本実施形態に係るエチレン−酢酸ビニル共重合体の製造方法について説明する。
上記エチレン−酢酸ビニル共重合体は一般的に公知の方法により製造することができる。例えば、高温、高圧下で、エチレンと酢酸ビニルをラジカル共重合する高圧ラジカル重合法によって製造することができる。
具体的には、エチレンと酢酸ビニルを高圧ポンプによって、管型反応器または槽型反応器に圧送し、この反応器内で高温、高圧の条件下で、有機過酸化物等を重合開始剤として用い、また必要に応じて連鎖移動剤を用いて、共重合させる。その後、高圧分離器内で、共重合体と未反応モノマーを分離する。
【0026】
重合開始剤としては、通常の触媒でよく、例えば、有機過酸化物、酸素、アゾ化合物等が挙げられる。また必要に応じて用いられる連鎖移動剤としては、例えば、アルコール、ケトン、アルデヒド、α―オレフィン等が挙げられる。
【0027】
また、上記エチレン−酢酸ビニル共重合体は市販品を用いてもよい。
【0028】
(フェノール樹脂)
フェノール樹脂は、フェノール化合物と2価の連結基を有する化合物との重合体である。
フェノール樹脂は、フェノールノボラック樹脂、ノボラック類からビスフェノール体を除いた残渣物、レゾール型フェノール樹脂、フェノール−ジシクロペンタジエン樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ビフェニルアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、アニリンアラルキル樹脂等が挙げられる。これらのフェノール樹脂は1種単独でまたは2種以上を併用して使用することができる。これらの中でも、入手し易く価格が安い点から、フェノールノボラック樹脂が好ましい。
【0029】
本実施形態に係るフェノール樹脂組成物中の上記フェノール樹脂の含有量は、フェノール樹脂組成物の成形性を向上させる観点から、上記フェノール樹脂および上記エチレン系共重合体の合計量100質量%に対し、好ましくは80質量%以上95質量%以下である。
【0030】
次に、本実施形態に係るフェノール樹脂の製造方法について説明する。
本実施形態に係るフェノール樹脂は特に限定されないが、例えば、フェノール化合物とアルデヒド類とを酸触媒存在下で反応させて得ることができる。
【0031】
使用するフェノール化合物は、例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール等が挙げられる。これらの中でもフェノールが好ましい。これらは単独または2種類以上組み合わせて使用してもよい。
【0032】
また、2価の連結基を有する化合物は、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、1,3,5−トリオキサン等のアルデヒド類が挙げられる。これらの中でも、ホルムアルデヒドが好ましい。これらは単独または2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
フェノール化合物とアルデヒド類とを反応する際の触媒としては、酢酸亜鉛等の金属塩類;シュウ酸、塩酸、硫酸、ジエチル硫酸、パラトルエンスルホン酸等の酸類が挙げられる。これらは単独または2種類以上を組み合わせて使用してもよい。触媒の使用量は、フェノール化合物100質量部に対して、通常0.01〜5質量部である。
【0034】
上記フェノール化合物とアルデヒド類とを反応させる方法としてはとくに限定されず、公知の方法を採用することができる。
【0035】
(硬化剤)
本実施形態に係る硬化剤として、例えば、ヘキサメチレンテトラミン等のアミン類;パラホルムアルデヒド、1,3,5−トリオキサン等のアルデヒド類;エポキシ樹脂等が用いられる。好ましくはヘキサメチレンテトラミン、エポキシ樹脂であり、より好ましくはヘキサメチレンテトラミンである。これらは単独または2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
これらの硬化剤の含有量は、上記フェノール樹脂および上記エチレン系共重合体の合計100質量部に対して、3〜20質量部が好ましく、5〜15質量部がより好ましい。
【0036】
(フェノール樹脂組成物)
本実施形態に係るフェノール樹脂組成物は、少なくとも上記フェノール樹脂と上記硬化剤と極性基をもつ上記エチレン系共重合体とを粉体混合することにより得られる。
【0037】
上記フェノール樹脂、上記硬化剤、および上記極性基をもつエチレン系共重合体を粉体混合する方法としては、例えば、ハンマーミル粉砕機、ヘンシェルミキサー、タンブラーミキサーなどの各種ミキサーを用いて粉体混合する方法が挙げられる。
【0038】
また、本実施形態に係るフェノール樹脂組成物は、各種の添加剤を含んでいてもよい。各種の添加剤としては、例えば、繊維、充填材、潤滑材および研削材等が挙げられる。
添加剤の配合量(複数種添加するときは、その合計量)は使用する用途により適宜決定されるが、例えばフェノール樹脂組成物全体を100質量部としたとき、80質量部以上95質量部以下であり、好ましくは85質量部以上92質量部以下である。
【0039】
上記繊維としては、アラミド繊維、チタン酸カリウム、セラミック繊維、銅繊維、ガラス繊維等が挙げられる。上記充填材としては、硫酸バリウム、マイカ、三硫化アンチモン、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、シリカ等の無機充填材;カシューダスト、ゴムダスト、木粉等の有機充填材等が挙げられる。上記潤滑材としては、黒鉛、硫化アンチモン、硫化モリブデン等が挙げられる。上記研削材としては、酸化ジルコニウム、酸化鉄等が挙げられる。
【0040】
また、本実施形態に係るフェノール樹脂組成物は、必要に応じて、上記以外の添加剤、例えば着色剤、難燃剤、カップリング剤等を含んでいてもよい。
【0041】
また、本実施形態に係るフェノール樹脂組成物の粒度は、フェノール樹脂組成物の耐熱性を向上できると共に、柔軟性をより一層向上できる観点から、目開き212μmの篩にかけた際に、上記篩を通過する割合が、上記フェノール樹脂組成物全量の55質量%以上であり、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95質量%以上である。
また、本実施形態に係るフェノール樹脂組成物の粒度は、フェノール樹脂組成物の柔軟性をより一層向上できる観点から、目開き212μmの篩にかけた際に、上記篩を通過する割合が、上記フェノール樹脂組成物全量の100質量%以下であり、好ましくは99質量%以下である。
【0042】
(摩擦材)
本実施形態に係る摩擦材は、上記フェノール樹脂組成物を硬化することにより得られる。
例えば、本実施形態に係るフェノール樹脂組成物を、熱により硬化させることにより得ることができる。なお、上記フェノール樹脂組成物を摩擦材に用いる場合、摩擦材に関する公知の情報に基づき、前述した各種の添加剤をフェノール樹脂組成物に所定量混合することができる。各種の添加剤の種類、各配合量は摩擦材の種類により決定される。
【0043】
本実施形態に係る摩擦材の製造方法は、例えば、上記フェノール樹脂組成物を金型等に充填して、130〜180℃、10〜100MPaの条件下で、5〜20分間、加熱圧縮成形し、その後、必要に応じて160〜250℃でポストキュアー処理を行う方法等が挙げられる。こうすることにより、本実施形態に係る摩擦材を得ることができる。
【0044】
また、本実施形態に係る摩擦材は、とくにブレーキパッドの摩擦材に好適に使用することができる。
【0045】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
以下、参考形態の例を付記する。
1.少なくともフェノール樹脂と硬化剤と極性基をもつエチレン系共重合体とを粉体混合してなる粉末状のフェノール樹脂組成物であって、
前記エチレン系共重合体の含有量が、前記フェノール樹脂および前記エチレン系共重合体の合計量100質量%に対し、5質量%以上20質量%以下であり、
前記エチレン系共重合体のJIS K7215に準拠して測定されるショアA硬度が40以上90以下の範囲内であり、
当該フェノール樹脂組成物の粒度は、目開き212μmの篩にかけた際に、前記篩を通過する割合が、当該フェノール樹脂組成物全量の55質量%以上100質量%以下である、フェノール樹脂組成物。
2.1に記載のフェノール樹脂組成物において、
摩擦材に用いられるものである、フェノール樹脂組成物。
3.1または2に記載のフェノール樹脂組成物において、
前記エチレン系共重合体がエチレン−酢酸ビニル共重合体である、フェノール樹脂組成物。
4.3に記載のフェノール樹脂組成物において、
前記エチレン−酢酸ビニル共重合体中の酢酸ビニルに由来する構成単位の含有量が15質量%以上45質量%以下である、フェノール樹脂組成物。
5.3または4に記載のフェノール樹脂組成物において、
前記エチレン−酢酸ビニル共重合体のJIS K7210に準拠し、190℃、2.16kgfの条件で測定されるメルトフローレートが1g/10分以上50g/10分以下である、フェノール樹脂組成物。
6.1乃至5いずれかに記載のフェノール樹脂組成物において、
前記フェノール樹脂がノボラック型フェノール樹脂である、フェノール樹脂組成物。
7.1乃至6いずれかに記載のフェノール樹脂組成物において、
前記硬化剤がヘキサメチレンテトラミンおよびエポキシ樹脂から選択される少なくとも1種である、フェノール樹脂組成物。
8.1乃至7いずれかに記載のフェノール樹脂組成物を硬化させて得られる、摩擦材。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例ではとくに特定しない限り、「部」は「質量部」を表し、「%」は「質量%」を表す。
【0047】
以下の実施例および比較例で使用したエチレン−酢酸ビニル共重合体(E1〜E7)を表1に示す。E1〜E7は、以下のように調製した。
【0048】
(E1)
三井デュポンポリケミカル社製の「EV150」[酢酸ビニル含有量:33質量%、メルトフローレート(JIS K7210);30g/10分]を、液化窒素中に24時間浸漬後、バッチミルにて、10分間粉砕処理することで、平均粒子径d
50が130μmの粉末状のエチレン−酢酸ビニル共重合体(E1)を得た。
【0049】
平均粒子径d
50は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定法のメタノール溶媒による湿式法により体積基準粒度分布測定し、その粒度分布から算出した。
【0050】
また、ショアA硬度は以下の手順により測定した。はじめに、エチレン−酢酸ビニル共重合体(E1)を温度100℃の熱プレスで加圧することにより6mm厚のシートを得た。
エチレン−酢酸ビニル共重合体(E1)のショアA硬度は、JIS K7215に準拠してデュロメータA(スプリング式ゴム硬度計)を用い、得られたシートの表面に圧子(押針)を押し込み変形させ、測定した。
得られた結果を表1に示す。
【0051】
(E2)
エチレン−酢酸ビニル共重合体として、三井デュポンポリケミカル社製「EV450」[酢酸ビニル含有量;19質量%、メルトフローレート(JIS K7210);15g/10分]を用いた以外はE1と同様に調製し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0052】
(E3)
エチレン−酢酸ビニル共重合体として、三井デュポンポリケミカル社製「EV40LX」[酢酸ビニル含有量;41質量%、メルトフローレート(JIS K7210);2g/10分]を用いた以外はE1と同様に調製し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0053】
(E4)
エチレン−酢酸ビニル共重合体として、三井デュポンポリケミカル社製「EV45LX」[酢酸ビニル含有量;46質量%、メルトフローレート(JIS K7210);2.5g/10分]を用いた以外はE1と同様に調製し、評価した。しかしながら、粉砕機にてペレットが凝集してしまい、パウダー状とならなかったため、表1には「粉砕NG」として表記した。
【0054】
(E5)
エチレン−酢酸ビニル共重合体として、三井デュポンポリケミカル社製「EV550」[酢酸ビニル含有量;14質量%、メルトフローレート(JIS K7210);15g/10分]を用いた以外はE1と同様に作製し、評価した。
【0055】
(E6)
粉砕時間を3.5分間とした以外はE1と同様に調製し、評価した。
【0056】
(E7)
(E1)で使用した三井デュポンポリケミカル社製の「EV150」[酢酸ビニル含有量:33質量%、メルトフローレート(JIS K7210);30g/10分]を、無処理(粉砕処理しない)で、平均粒子径d
50が3mmのペレット状のエチレン−酢酸ビニル共重合体(E7)とし、E1と同様に評価した。
【0057】
以下の実施例および比較例で使用したフェノール樹脂は、以下のように調製した。
【0058】
冷却器、攪拌装置、温度計を備えた反応器にフェノール1000g、シュウ酸10g、37%ホルムアルデヒド水溶液690gを仕込み、攪拌しながら温度80℃から98℃まで45分かけて昇温し、温度98℃にて1時間還流させた。
その後、165℃まで温度を上げながら反応によって生じる水を常圧除去、減圧除去を行い、軟化点95℃を有する塊状のフェノール樹脂1060gを得た。
【0059】
(実施例1)
表2に示され組成比で、(a)塊状のフェノール樹脂、1060g、(b)粉末状のエチレン−酢酸ビニル共重合体(E1)、55.8g、(c)粉末状のヘキサメチレンテトラミン、134gを混合後、ハンマーミル粉砕機を用いて粉砕し、粉末状のフェノール樹脂組成物1249gを得た。
【0060】
得られたフェノール樹脂組成物の粘弾性の測定は以下のとおりである。
はじめに、三角フラスコに上記フェノール樹脂組成物と、溶媒(メチルエチルケトン)を加え、濃度50wt%のフェノール樹脂溶液を作成した。鉄板にフェノール樹脂溶液を数滴取り、バーコーターNo.75で塗工した。室温で1時間程度風乾し、その後以下のプログラムに従ってギヤーオーブン中で硬化させた。室温から100℃まで1時間、100℃で1時間保持後、180℃まで2時間で昇温させ、180℃に達したら5時間保持した。硬化膜を形成した鉄板を室温まで冷却させた後、長さ30mm(測定長20mm)、幅2mm、厚さ50〜80μmの硬化フィルム試験片を切り出した。装置は、オリエンテック社製レオバイブロン DDV−II−EPを用い、以下の条件で測定した。(昇温速度2℃/minで温度−100〜400℃まで。測定間隔は2℃毎、初期張力は7.5g、荷重検出レンジ10デシベル、励振駆動周波数は、110Hz、正弦波の片振幅値0.016cm。)、温度−50℃及び80℃のE'(貯蔵弾性率)を比較した。
得られた結果を表2に示す。
【0061】
また、得られたフェノール樹脂組成物の耐熱性の測定は以下のとおりである。上記フェノール樹脂組成物を150℃で10分間加熱して成形品(直径50mm、高さ3.5mmの円筒)を作成した。
その後240℃で1時間アフターキュアしたものの重量を測定し初期値とした。次にギヤーオーブン中に温度300℃、空気雰囲気下、200時間放置後の重量を測定して、重量保持率を以下の式に基づいて算出した。
重量保持率[質量%]=100×(W1−W2)/W1
W1:温度300℃、空気雰囲気下の放置前のサンプル重量(初期値)
W2:温度300℃、空気雰囲気下、200時間放置した後のサンプル重量
得られた結果を表2に示す。
【0062】
得られたフェノール樹脂組成物の粒度の測定は以下のとおりである。
まず、得られたフェノール樹脂組成物20gを目開き212μmの篩い(70メッシュ)に通過させた。次いで、篩い上に残ったフェノール樹脂組成物の量を測定した。下記式(1)に基づきフェノール樹脂組成物の粒度を算出した。
粒度(%)=(S1−S2)/S1 ×100 (1)
S1:フェノール樹脂組成物の添加量(g)
S2:篩い上に残ったサンプル量(g)
【0063】
(実施例2)
エチレン−酢酸ビニル共重合体(E1)の配合量を10質量%に変更した以外は、実施例1記載の方法と同様の方法で作製し、評価した。得られた結果を表2に示す。
【0064】
(実施例3)
エチレン−酢酸ビニル共重合体(E1)の配合量を15質量%に変更した以外は、実施例1記載の方法と同様の方法で作製し、評価した。得られた結果を表2に示す。
【0065】
(実施例4)
実施例2のエチレン−酢酸ビニル共重合体(E1)を、E2に変更した以外は、実施例2記載の方法と同様の方法で作製し、評価した。得られた結果を表2に示す。
【0066】
(実施例5)
実施例2のエチレン−酢酸ビニル共重合体(E1)を、E3に変更した以外は、実施例2記載の方法と同様の方法で作製し、評価した。得られた結果を表2に示す。
【0067】
(比較例1)
実施例1において、エチレン−酢酸ビニル共重合体を添加しなかった以外は、実施例1記載の方法と同様の方法で作製し、評価した。得られた結果を表2に示す。
【0068】
(比較例2)
実施例2のエチレン−酢酸ビニル共重合体(E1)を、E5に変更した以外は、実施例2記載の方法と同様の方法で作製し、評価した。得られた結果を表2に示す。
【0069】
(比較例3)
実施例2のエチレン−酢酸ビニル共重合体(E1)を、E6に変更した以外は、実施例2記載の方法と同様の方法で作製し、評価した。得られた結果を表2に示す。
【0070】
(比較例4)
実施例1において、エチレン−酢酸ビニル共重合体(E1)の配合量を30質量%とした以外は、実施例1記載の方法と同様の方法で作製し、評価した。得られた結果を表2に示す。
【0071】
(比較例5)
冷却機、攪拌装置、温度計を備えた反応器に酢酸エチル590gを仕込み、撹拌しながら昇温した。酢酸エチルが還流を始めたところで、アクリル酸ブチル1000g、メタクリル酸ブチル255g、酢酸エチルン85gを混合した溶液の滴下を開始し、酢酸エチル還流下に反応を行った。この間、触媒であるアゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル1gを酢酸エチル195gに混合した溶液を複数回に分割して添加した。滴下は還流下に約8時間で終了し、滴下終了後さらに30分間熟成反応させた。反応終了後未反応モノマー、溶媒を除去し、重量平均分子量(Mw)が78000、ガラス転移温度(Tg)が−30℃であるアクリルゴム1190gを得た。
【0072】
上記フェノール樹脂1060gを反応器内で温度150℃から170℃の範囲内に加熱した後、得られたアクリルゴム104.8gを酢酸エチルに溶解した溶液を反応器内に2時間かけて滴下した。次いで溶媒を留去させながらさらに1時間反応を行った。その後減圧下に溶媒等を除去することで、アクリルゴム変性フェノール樹脂1164g(アクリルゴム変性量;9質量%)を得た。得られたアクリルゴム変性フェノール樹脂と粉末状のヘキサメチレンテトラミン140gを混合後、ハンマーミル粉砕機にて粉砕し、粉末状のアクリルゴム変性フェノール樹脂組成物1249gを得た。
【0073】
得られた組成物に関して、実施例と同様にして粘弾性、および耐熱性を評価した。得られた結果を表2に示す。
【0074】
(比較例6)
アクリルゴムの量を、316.6gに変更した以外は比較例5と同様にして粉末状のアクリルゴム変性フェノール樹脂(アクリルゴム変性量;23質量%)を作製した。次いで、比較例5と同様にして、得られたアクリルゴム変性フェノール樹脂と粉末状のヘキサメチレンテトラミンを混合後、ハンマーミル粉砕機にて粉砕し、粉末状のアクリルゴム変性フェノール樹脂組成物を得た。
【0075】
(比較例7)
実施例2のエチレン−酢酸ビニル共重合体(E1)を、E7に変更した以外は、実施例2記載の方法と同様の方法で作製し、評価した。得られた結果を表2に示す。
【0076】
得られた組成物に関して、実施例と同様にして粘弾性、および耐熱性を評価した。得られた結果を表2に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】