(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内燃機関のレーザ点火装置に用いられ、一又は複数の光学素子(10、10a、20、20a、20b、20c)を光学素子収容筐体(11、11a、21、21a、21b、21c)の内側に収容して封止した光学素子封止構造体であって、
前記光学素子収容筐体(11、11a、21、22a、22b、22c)が、
前記光学素子(10、10a、20、20a、20b、20c)の一方の端面が当接する光学素子係止部(110、210)と、
前記光学素子(10、10a、20、20a、20b、20c)の外周に対して所定の間隙(GP)を設けて穿設せしめた光学素子位置決め溝部(111、111a、211、211a、211b、211c)と、
前記光学素子(10、10a、20、20a、20b、20c)の外周の一部又は全周を覆うように封止ガラス(12、12a、22、22a、22b、22c)を配設すべく、穿設せしめた封止ガラス収容溝部(112、112a、212、212a、212b、212c)と、を具備し、
前記封止ガラス(12、12a、22、22a、22b、22c)が600℃以下のガラス転移温度を有する低融点ガラスからなり、
前記封止ガラス(12、12a、22、22a、22b、22c)の融着により前記光学素子(10、10、20、20a、20b、20c)と前記光学素子収容筐体(11、11a、21、22a、22b、22c)とを気密に封止せしめており、かつ、
前記光学素子として、励起光を内燃機関の燃焼室(CMB)内に集光する集光レンズ(20、20a、20b、20c)と、燃焼室(CMB)内の圧力、熱、化学成分から前記集光レンズ(20、20a、20b、20c)を保護する保護ガラス(10、10a)とを有し、
前記光学素子封止構造体として、前記保護ガラス(10、10a)を、前記光学素子収容筐体としての保護ガラスホルダ(11、11a)に収容した保護ガラス封止構造体(1、1a)を具備し、
前記保護ガラス封止構造体(1、1a)は、前記保護ガラスホルダ(11、11a)が、燃焼室側に延設した巻き締め部(113)を有すると共に、前記巻き締め部(113)と前記封止ガラス(12)との間に、弾性金属材料からなり、環状に形成したバックアップリング(13)を設け、前記巻き締め部(113)を、該バックアップリング(13)に巻き付けるように締めつけて、前記保護ガラス(10)の脱落を防止せしめたことを特徴とするレーザ点火装置用の光学素子封止構造体(1、1a、2、2a、2b、2c)
前記光学素子(10、10a、20、20a、20b、20c)の外周を円柱状に形成した請求項1又は2に記載のレーザ点火装置用の光学素子封止構造体(1、1a、2、2a、2b、2c)
前記バックアップリング(13)は、前記封止ガラス(12)を構成する低融点ガラスと熱膨張係数の近い、ステンレス鋼(NS−5)、鉄コバルトニッケル合金(コバール)、鉄ニッケル合金(42アロイ)のいずれかから選択した弾性金属材料からなる請求項1ないし6のいずれかに記載のレーザ点火装置用の光学素子封止構造体(1、1a、2、2a、2b、2c)
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1Aを参照して、本発明の第1の実施形態における光学素子封止構造体1、2について説明する。本実施形態における光学素子封止構造体1、2は、燃焼室内CMBの1つの集光点FPにパルス光LSR
PLSを集光して、燃焼室CMB内の混合気の点火を行うレーザ点火装置9に用いられるものである。
本実施形態においては、1つの光学素子10、20を、それぞれ1つの光学素子ホルダ11、21内に収容して光学素子封止構造体1、2を形成している。
【0016】
まず、光学素子として、保護ガラス10を封止固定した保護ガラス封止構造体1について説明する。
保護ガラス封止構造体1は、保護ガラスホルダ11内に保護ガラス10を収容し、保護ガラスホルダ11と保護ガラス10との間隙を封止ガラス12によって気密に封止した構造となっている。
【0017】
保護ガラス10には、石英、サファイア、ルビー、CaF
2、BaF
2、MgF
2、LiF、YAG、ZnSe等の公知の耐熱性光学材料が用いられ、外周が円柱状に形成されている。
さらに保護ガラス10の入光面側表面、パルス光LSR
PLSの反射を抑制する反射防止膜101が形成されている。
【0018】
保護ガラスホルダ11は、鉄コバルトニッケル合金(コバール)、鉄ニッケル合金(42アロイ)等の保護ガラス10と熱膨張係数の近い金属が用いられ、両端が開口した筒状に形成されている。
保護ガラスホルダ11には、光学素子係止部として、保護ガラス10の一方の端面が当接する保護ガラス係止部110と、光学素子位置決め溝部として、保護ガラス10の外径と所定の間隙GP(0.01mm≦GP≦0.05mm)を設けた保護ガラス位置決め溝部111と、保護ガラス10の外周の一部又は全周を覆うように封止ガラス12を配設するための封止ガラス収容溝部111とが段溝状に穿設されている。
【0019】
保護ガラスホルダ11の燃焼室側先端に延設して、巻き締め部113が形成されている。
巻き締め部113は、バックアップリング13を介して、保護ガラス10を弾性的に押圧している。
【0020】
封止ガラス12の厚さは、後述する加熱熔融工程において、ガラスの流れ方により変化し、一定とならないおそれがある。
そのため、バックアップリング13を巻締めしたときの封止ガラス12に作用する圧力にバラツキが生じ、巻き締め部113の形成時に封止ガラス12の破損を招くおそれがある。
【0021】
一方、保護ガラス10は、封止ガラス12によって、保護ガラスホルダ11に融着されているので、巻締め部113による押圧力を強く作用させる必要はない。
バックアップリング13は、封止ガラス12の接着強度が低下した場合に、保護ガラス10が燃焼室に落下するのを防止できれば良いので、保護ガラス10の抜け止めができる程度に保護ガラス10よりもわずかに内径を小さく形成し、封止ガラス12には、接しないか、接したとしても強い圧力が作用しないような形状とすることで、封止ガラス12の破損を防止している。
バックアップリング13は、保護ガラス10及び封止ガラス12と熱膨張係数の近い弾性金属材料(例えば、ステンレス鋼(NS−5)、鉄コバルトニッケル合金(コバール)、鉄ニッケル合金(42アロイ)等)が用いられ、環状に形成されている。
【0022】
封止ガラス12には、600℃以上の温度で熔融状態となる(即ち、600℃以下のガラス転移温度を有する)、ホウケイ酸塩ガラス(例えば、PBO−SiO
2−B
2O
3、PBO−P
2O
5−SnF
2等)、アルミノケイ酸塩ガラス(例えば、Li
2O−Al
2O
3−SiO
2、B
2O
3−Al
2O
3−SiO
2等)から選択した低融点ガラスが用いられている。
封止ガラス12は、保護ガラス10の外周面と保護ガラスホルダ11の封止部材収容溝部112との間のみならず、保護ガラス位置決め溝部111内にも浸透し、保護ガラス10と保護ガラスホルダ11とを気密に接合している。
具体的な、封止ガラス12を介した保護ガラス10と保護ガラスホルダ11との接合方法については、
図2A〜
図2Dを参照して後述する。
【0023】
次いで、光学素子として集光レンズ20を封止固定した集光レンズ封止構造体2について説明する。
集光レンズ封止構造体2は、集光レンズホルダ21内に集光レンズ20を収容し、集光レンズホルダ21と集光レンズ20との間隙を封止ガラス22によって気密に封止した構造となっている。
【0024】
集光レンズ20には、ホウケイ酸塩ガラス等の耐熱ガラス、石英、サファイア、ルビー、CaF
2、BaF
2、MgF
2、LiF、YAG、ZnSe等の公知の耐熱性光学材料が用いられ、外周が円柱状に形成されている。
集光レンズ20は、燃焼室内の所定の集光位置FPにパルス光LSR
PLSが集光するよう、入射面と出射面の曲率が調整加工されている。
集光レンズ20の表面に、パルス光LSR
PLSの反射を抑制する反射防止膜(ARコーティング)を施しても良い。
【0025】
集光レンズホルダ21は、ステンレス鋼(NS−5)、鉄コバルトニッケル合金(コバール)、鉄ニッケル合金(42アロイ)等の集光レンズ20と熱膨張係数の近い金属が用いられ、両端が開口した筒状に形成されている。
集光レンズホルダ21には、集光レンズ20の一方の端面が当接する集光レンズ係止部210と、集光レンズ20の外径と所定の間隙GP(0.01mm≦GP≦0.05mm)を設けて環溝状に穿設された集光レンズ位置決め溝部211と、集光レンズ20の外周の一部又は全周を覆うように封止ガラス22を配設するための封止ガラス収容溝部211が穿設されている。
さらに、集光レンズ位置決め溝部211の中心が、集光レンズ20の光軸と一致するように形成されている。
【0026】
封止ガラス22には、600℃以上の温度で熔融状態となる(即ち、600℃以下のガラス転移温度を有する。)、ホウケイ酸塩ガラス(例えば、PBO−SiO
2−B
2O
3、PBO−P
2O
5−SnF
2等)、アルミノケイ酸塩ガラス(例えば、Li
2O−Al
2O
3−SiO
2、B
2O
3−Al
2O
3−SiO
2)等から選択した低融点ガラスが用いられている。 封止ガラス22は、集光レンズ20の外周面と集光レンズホルダ21の封止部材収容溝部212との間のみならず、集光レンズ位置決め溝部211と集光レンズ20の外周面との間の僅かな間隙内にも浸透し、集光レンズ20と集光レンズホルダ21とを気密に接合している。
具体的な、封止ガラス22を介した集光レンズ20と集光レンズホルダ21との接合方法については、
図3A〜
図3Dを参照して後述する。
【0027】
保護ガラス封止構造体1と集光レンズ封止構造体2とは、レーザ点火装置9の筒状に形成したハウジング7の先端に配設され、保護ガラス封止構造体1とハウジング7の先端とが溶接部14によって溶接固定されている。
ハウジング7の先端側は、内筒70と外筒71との二重筒構造となっている。
【0028】
集光レンズ封止構造体2の基端面が内筒70の先端に当接し、集光レンズ封止構造体2の燃焼室側の先端面と保護ガラス封止構造体1の基端面とが当接して、集光レンズ20の軸方向の位置を固定している。
ハウジング外筒71には、内燃機関のシリンダヘッドE/H等に固定するためのネジ部が形成され、ネジ締め固定される。
【0029】
本発明では、保護ガラスホルダ11、集光レンズホルダ21、ハウジング内筒70、ハウジング外筒71のいずれからも、保護ガラス10と集光レンズ20に対して軸方向の圧縮力が作用せず、光軸の歪みや、亀裂等を生じるおそれがない。
しかも、保護ガラス10、集光レンズ20とそれぞれを収容する保護ガラスホルダ11、集光レンズホルダ21との間に封止部材として、低融点ガラスからなる非晶質の封止ガラス12、22を介装しているため、封止ガラス12、22が、冷熱ストレスに晒されたときに、金属製のハウジング7や保護ガラスホルダ11、集光レンズホルダ21との熱膨張、収縮の差を吸収する緩衝部材としての作用を発揮することができる。
また、封止ガラス12、22が、保護ガラス10と保護ガラスホルダ11との隙間や集光レンズ20と集光レンズホルダ21との間隙に完全に浸透することによって、保護ガラス10から保護ガラスホルダ11、集光レンズ20から集光レンズホルダ21への放熱性が向上するため、保護ガラス11、集光レンズ20の温度を効果的に下げることができ、反射防止膜の劣化を防止できる。
【0030】
さらに、光学素子が均一に冷却されるようになるため、冷熱ストレスも小さくなり、光学素子の耐久性の向上を図ることもできる。
加えて、集光レンズ20等の光学素子を収容する集光レンズホルダ21等の光学素子収容筐体は、金属製であるため、高い寸法精度での加工が容易で、集光レンズ20の集光点FPの調整の自由度が高い。
【0031】
次いで、
図1Bを参照して、本発明の第1の実施形態における保護ガラス封止構造体1と集光レンズ封止構造体2とを用いたレーザ点火装置9の概要について説明する。
レーザ点火装置9は、励起光レンズ50、レーザ共振器4、パルス光拡張レンズ30、集光レンズ20、保護ガラス10が所定の位置に配設され、筒状のハウジング7内に一体的に収容固定され、外部に設けた励起光源80から光ファイバ60を介して励起光LSR
PMPが導入されるようになっている。
【0032】
ハウジング7の先端は、内燃機関のエンジンヘッドE/H又はシリンダ壁面等に固定され、保護ガラス10を介して燃焼室CMBに望んだ状態となっている。
レーザ点火装置9は、外部に設けた励起光源80から光ファイバ60を介して導入した励起光LSR
PMPを励起光レンズ50によってコリメートし、レーザ共振器4に照射し、Qスイッチ式のレーザ共振器4によって共振増幅して、エネルギ密度の高いパルス光LSR
PLSとして発振し、パルス光拡張レンズ30によって、一旦ビーム径を拡張した後、再び集光レンズ20によって、燃焼室CMB内の集光点FPに集光することで、パルス光LSR
PLSのエネルギ密度を、さらに高めて、燃焼室CMB内の混合気の点火を行うものである。
エンジン制御装置ECU81は機関の運転状況に応じた点火時期に合わせて点火信号IGtを発信する。
【0033】
励起光源80は、図略のドライバ及びレーザダイオード等からなる公知の励起光源が用いられ、ECU81から発信された点火信号IGtにしたがって、所定のタイミングで励起光LSR
PMPを発生する。
光ファイバ60を介して伝送された励起光LSR
PMPは、励起レンズ50によってコリメートされ、レーザ共振器4に照射される。
【0034】
励起光レンズ50には、光学ガラス、耐熱ガラス、石英ガラス、サファイアガラス等から選択した公知の光学素子材料が用いられ、入射面と出射面とには、励起光LSR
PMPの反射を抑制するARコーティングが施されている。
また、励起光レンズ50は、筒状の励起光レンズホルダ51内に収容され、封止ガラス52によって封止固着されている。
【0035】
上記実施形態における光学素子封止構造体1、2と同様に、励起光レンズ50、レンズホルダ51、封止ガラス52によって励起光レンズ封止構造体5を構成している。
励起光レンズ封止構造体5は、その光軸が、集光レンズ封止構造体2の光軸と一致するように筒状の後筒72内の基端側に収容されている。
なお、励起光レンズ50は、レーザ点火装置9の基端側の比較的低温に保持された位置に設けられ、冷熱ストレスに晒されないため、レンズの上下に環状の弾性部材を介して筒状のホルダによって上下方向から挟み込むようにして保持する一般的な光学素子に用いられているような封止構造としても良い。
【0036】
レーザ共振器4は、いわゆるQスイッチ式の共振器であり、Nd:YAG等の公知のレーザ媒質の一方の端面に励起光LR
PMPの反射を抑制するARコーティングと、波長の短い励起光LSR
PMPは透過し、波長の長い反射光は全反射する全反射鏡が施されている。
レーザ媒質の他方の端面には、Cr:YAG等からなる公知の部分反射鏡が配設され、レーザ媒質内の光が所定のQ値以下の場合には全反射し、Q値を超えた場合には透過する受動Qスイッチを構成している。
共振器4は、筒状のハウジング72の先端側に収容されている。
【0037】
共振器4から発振されたパルス光LSR
PLSは、パルス光拡張レンズ30によって拡張される。
パルス光拡張レンズ30は、光学ガラス、耐熱ガラス、石英ガラス、サファイアガラス等から選択した公知の光学素子材料が用いられ、入射面と出射面とには、励起光LSR
PMPの反射を抑制するARコーティングが施されている。
さらに、パルス光拡張レンズには、光学ガラス、耐熱ガラス、石英ガラス、サファイアガラス等から選択した公知の光学素子材料が用いられ、入射面と出射面とには、励起光LSR
PMPの反射を抑制するARコーティングが施されている。
また、パルス光拡張レンズ30は、筒状のパルス光拡張レンズホルダ31内に収容され、封止ガラス32によって封止固着されている。
【0038】
上記実施形態における光学素子封止構造体1、2と同様に、パルス光拡張レンズ30、レンズホルダ31、封止ガラス32によってパルス光拡張レンズ封止構造体3を構成している。
パルス光拡張レンズ封止構造体3は、その光軸が、共振器4から出射されたパルス光の光軸と一致し、かつ、共振器4の先端側の出光面からの距離が一定となるように筒状のハウジング内筒70の基端側に収容されている。
【0039】
共振器4から出射したパルス光LSR
PLSは、直進性に富んだ平行光となっており、パルス光拡張レンズ30によってビーム径が拡張される。
パルス光拡張レンズ封止構造体3と一定の距離を設けて、ハウジング内筒70の先端側に集光レンズ封止構造体2が収容されている。
パルス光拡張レンズ30によって一旦拡張されたビーム径を集光レンズ20によって再び集光することで、燃焼室CMB内の所定位置における集光点FPのエネルギ密度を高くして、燃焼室内に導入した混合気の点火を行う。
【0040】
保護ガラス10は、燃焼室CMBとの境界に配設され、集光レンズ20を通過したパルス光LSR
PLSを燃焼室CMB内に導入するとともに、燃焼室CMB内の高温、高圧から、集光レンズ20を保護する。
本発明の保護ガラス封止構造体1によって、燃焼室CMB内の混合気等の化学成分がレーザ点火装置9の内部に侵入するのを確実に阻止することができる。
【0041】
さらに、本発明の光学素子封止構造体1、2を用いたレーザ点火装置9は、
図1Cに示すように、ハウジング外筒71の先端に溶接固定された保護ガラス封止構造体1以外を、容易に分解可能としても良い。
保護ガラス10の表面にデポジットが堆積した場合には、簡単に分解掃除をすることができる上に、長期の使用により、共振器4の劣化や、集光レンズ20、励起光拡張レンズ30等が破損した場合にも、極めて容易に交換可能となっている。
【0042】
また、ハウジング7の内筒70、外筒71、後筒72を組み付けて、後各光学素子封止構造体2、3、5をハウジング7内に収容した場合、ネジ締めによる軸方向の圧縮力は、それぞれ、各光学素子収容筐体21、31、51が受けることになる。
このため、内筒70、外筒71、後筒72を締め付けても、直接的に各光学素子20、30、50に締め付け圧力が作用することはない。
【0043】
図2A、
図2B、
図2C、
図2Dを参照して、本発明の要部である保護ガラス封止構造体1の具体的な製造方法について説明する。
封止ガラス成形体形成工程では、予め、封止ガラス12を構成する低融点ガラス粉末を所定のキャビティを形成した金型内に充填し、圧縮することにより、筒状の封止ガラス成形体12MLDを成形しておく。
【0044】
図2Aに示す、光学素子配設工程では、所定の外径形状に精度良く加工した保護ガラス10と、保護ガラス係止部110、保護ガラス位置決め溝部111、封止部材収容溝部112を形成した筒状の保護ガラスホルダ11と、封止ガラス成形体12MLDを配設する。
保護ガラス係止部110の係止部形成幅W
110は、封止工程中に保護ガラス10が保護ガラスホルダ11から抜けない程度であれば良く、具体的には、焦点部分における集光強度を燃焼室内部でブレークダウン可能な値である3×10
12W/cm
2を維持出来るように例えば、0.2mm以下とするのが望ましい。
なお、レーザの特性(出力、レーザ品質、波長、パルス幅)および集光レンズ20の特性(収差、焦点距離)によって、適宜変更可能である。
【0045】
保護ガラス位置決め溝部111の溝部形成深さT
111は、保護ガラス10を保護ガラスホルダ11の中心に保持できれば、特に深さを限定するものではなく、例えば、0.5mm以上あれば良い。 保護ガラス位置決め溝部111と保護ガラス10の外径との間には0.01mm以上0.05mm以下のクリアランスGPが設けてある。
【0046】
図2Bに示す、光学素子封止工程では、保護ガラス10と封止ガラス成形体12MLDを配設した保護ガラスホルダ11を600℃以上に加熱し、封止ガラス成形体12MLDを熔融する。
熔融状態となった封止ガラス12は、毛管現象により、保護ガラス10の外周表面と保護ガラス位置決め溝部111との間隙GPにも浸透する。
【0047】
一旦熔融状態となった封止ガラス12が冷却固化することにより、保護ガラス10と保護ガラスホルダ11とが完全に接合された状態となる。
なお、保護ガラスホルダ11に用いるコバール等の金属材料は、650℃以上に加熱すると、酸化被膜を形成し、この被膜が封止ガラス12と溶け合うことで、一相、封着性を高くできる。
【0048】
次いで、
図2Cに示す、巻き締め工程では、保護ガラス10が封止固定された保護ガラスホルダ11内に、コバール等の保護ガラスの熱膨張係数に近い熱膨張係数を有する金属製のバックアップリング13を配設し、巻き締め部113を巻き締め加工して、バックアップリング13を弾性的に押圧固定する。
このとき、巻き締め部113をバックアップリング13の内側から外側に向かう方向のの押圧力を巻き締め部113を屈曲させる起点に作用させ、その位置を支点として、巻き締め部113を内径方向に巻き込むように屈曲させることにより、保護ガラス10に対して軸方向の圧縮力ができるだけ作用させないようにすることができる。
巻き締め部113の押圧力は、バックアップリング13を介して、保護ガラス10の先願側表面の一部に作用するが、気密性は封止ガラス12によって確保されており、保護ガラス10の脱落防止ができればよいので、強い押圧力は必要としておらず、保護ガラスの10が圧縮により破損することはない。
しかも、封止ガラス12の内径よりも内側でバックアップリング13と保護ガラス10とが当接するので、バックアップリング13の弾性的な押圧力が封止ガラス12に作用せず、封止ガラス12の割れを招くこともない。
以上の工程を経て、
図2Dに示すような、保護ガラス封止構造体1が完成する。
【0049】
図3A、
図3B、
図3C、
図3Dを参照して、集光レンズ封止構造体2の製造方法について説明する。
基本的には、保護ガラス封止構造体1の製造方法と同様である。
【0050】
本実施形態においては、予め、封止ガラスの粉末を筒状に形成した封止ガラス成形体22MLDを用意し、
図3Aに示す光学素子配設工程では、集光レンズ20と封止ガラス成形体22MLDとを所定の集光レンズ位置決め溝部211、封止ガラス収容溝部212を形成した集光レンズホルダ21内に配設する。
図3Bに示す封止ガラス加熱融着工程では、封止ガラス成形体22MLDを加熱熔融して、封止ガラス22を介して、集光レンズ20と集光レンズホルダ21との接合を図る。
【0051】
以上により、
図3C、
図3Dに示すように、集光レンズ20の外周を全周に亘って覆うように封止ガラス22が充填されて集光レンズホルダ21に封止固定された集光レンズ封止構造体2が完成する。
集光レンズ係止部210の係止部形成幅W
210、集光レンズ位置決め溝部211の溝部形成深さT
211及び、クリアランスGPの大きさは、保護ガラスホルダ11の場合と同様である。
【0052】
保護ガラス封止構造体1によって、燃焼室CMBとの分離がなされているので、ハウジング7の内側に、燃焼室CMB内の気体が侵入することがなく、また、燃焼室CMB内の熱も保護ガラス封止構造体1によってある程度遮断されているため、集光レンズ封止構造体2には、保護ガラス封止構造体1ほどの気密性、及び耐熱性が必要とされない。
このため、集光レンズ封止構造体2にバックアップリングを巻き締めする必要はない。
【0053】
また、必ずしも封止ガラス22を集光レンズ20の外周の全周に亘って配設する必要はなく、
図3Eに示す集光レンズ封止構造体2aのように、集光レンズ20の外周の複数箇所に封止ガラス22aを配設して封止固定するようにしても良い。
この場合には、封止ガラス成形体22aMLDをペレット状に形成し、集光レンズホルダ21aに複数設けた封止ガラス収容溝部に載置することになる。
封止ガラス22aが、集光レンズ20の外周の全周に亘って設けられていなくても、封止ガラス成形体22aMLDを加熱溶融したときに、集光レンズ20の外周と集光レンズホルダ21aとの間隙に毛管作用によって十分浸透させることができる。
なお、封止ガラス成形体22MLD、22aMLDの形状は、特に限定するものではなく、封止ガラス収容溝部212の形状に合わせて、角柱状、多角柱状、円柱状、円筒状、扇柱状、半円柱状等適宜変更可能である。
【0054】
次いで、
図4Aに示すように、ハウジング7の先端側から、集光レンズ封止構造体2、保護ガラス封止構造体1を収容する。
このとき、内筒70の先端面702と、外筒71に設けた保護ガラス封止構造体収容溝部712との距離を集光レンズ封止構造体2が丁度収まる高さとする。
このような状態で集光レンズ封止構造体2を収容し、保護ガラス封止構造体1を固定することで、集光レンズ封止構造体2に軸方向の圧縮力が作用せず、位置ズレも生じることなく固定することができる。
【0055】
さらに、
図4Bに示すように、ハウジング外筒70の先端部713と保護ガラス封止構造体1の外周とをレーザ溶接等の溶接手段を用いて、溶接部14を先端部713の全周に亘って形成し、ハウジング外筒71と保護ガラス封止構造体1とを一体化する。
なお、拡張レンズ封止構造体3、レーザ共振器4、励起光レンズ封止構造体5は、
図1Cに示した分解図の順に適宜ハウジング7内に収容する。
以上により、本発明の光学素子封止構造体1、2を用いたレーザ点火装置9が完成する。
【0056】
ここで、本発明の効果を確認するために本発明者等が行った試験結果について説明する。
評価試料として、上述の製造方法に従って用意した本発明の保護ガラス封止構造体1と集光レンズ封止構造体2とをハウジング7内に収容固定した実施例1と、従来の保護ガラスをハウジングの先端に加締め固定した比較例1とを用意し、耐圧性の評価と耐熱性の評価を行った。
耐圧性の評価方法は、燃焼室を模した圧力容器を用意し、各試料の保護ガラスを設けたハウジングの先端が圧力室内に露出するように取り付け、圧力室内の圧力を0から30MPaに変化させる試験を10
6回繰り返して行った。
【0057】
耐熱衝撃性の評価方法は、500度に加熱した錫浴槽に試料を浸漬し、その後の変化の有無を観察して評価した。
その結果、本発明の実施例1では、耐圧性評価試験後も、耐熱衝撃性評価試験後も全く変化が見られなかった。
【0058】
一方、比較例1では、耐圧評価試験後、保護ガラスに緩みが生じ、ハウジング内への圧力気体の漏れが発生した。
また、比較例1では、耐熱衝撃性試験の結果、保護ガラスにクラックを生じるものがあった。
比較例1では、試料数5個中1個に欠陥が生じたが、実施例1では、全く欠陥が生じなかった。
【0059】
図5を参照して、第1の実施形態における保護ガラス封止構造体の変形例1a、集光レンズ封止構造体の変形例2a、ハウジング外筒の変形例71a、並びに、これらを採用したレーザ点火装置の変形例9aについて説明する。
上記実施形態においては、光学素子位置決め溝部111、211の溝部高さT
111、T
211を、0.5mm程度とした例を示したが、特に上限を限定するものではなく、本図に示すように、溝部高さT
111、T
211を、光学素子10、20の厚みの半分以上とし、封止ガラス12a、22aの厚みを薄くしても良い。
【0060】
このような構成であっても、封止ガラス12a、22aを加熱熔融したときに、光学素子10a、20と各ホルダ11a、21aとの間隙にも十分に浸透させれば上記実施形態と同様の効果を発揮できる。 また、上記実施形態では、
図1Aに示したように、保護ガラス10の表面と、封止ガラス12の表面とが、ほぼ面一となるような構成としたが、本変形例のように、保護ガラス10aの表面が、巻き締め部113aと面一、又は、巻き締め部113aよりも燃焼室CMB側へ突出するように肉厚に形成しても良い。
本実施形態では、巻締め部113aがバックアップリング13aを、外径方向に押圧するように巻締めすることによって、製造工程中において保護ガラス10aに対して加圧力が作用したり、保護ガラスホルダ11aの熱膨張による圧力が作用したりし難くなっている。
【0061】
このような構成とすることにより、上記の効果に加え、保護ガラス10a表面と巻き締め部113との間に燃焼室内で発生した気流の淀み部が形成されることがないので、デポジットの形成も抑制できる。 さらに、ハウジング外筒71aでは、エンジンヘッドE/Hに固定するためのネジ部711aが、集光レンズ封止構造体2aの基端位置よりもさらに基端側までしか形成されていない。
このため、ハウジング外筒71aをエンジンヘッドE/Hにネジ締め固定したときの軸方向に作用するネジ締め圧力が集光レンズ封止構造体2a及び保護ガラス封止構造体1aには全く作用しない。
このため、上記実施形態と同様の効果に加え、残留応力の影響による光軸のズレなども抑制することができる。
【0062】
図6A、
図6B、
図7A、
図7B、
図7C参照して、本発明の第2の実施形態における光学封止構造体2b、及び、レーザ点火装置9bについて説明する。
上記実施形態においては、パルス光LSR
PLSを燃焼室CMB内の1箇所に集光するための、光学封止構造体1、2、及び、レーザ点火装置9とその変形例1a、2a、9aについて説明したが、本実施形態においては、燃焼室CMB内の複数箇所に集光点FPを形成するように構成した点が相違する。
【0063】
なお、本実施形態においては、レーザ点火相違9bとして、燃焼室CMB内の3箇所に集光点FPを形成する例を示したが、本発明においては、集光点FPの数は任意に設定可能である。
本発明に用いられる各光学素子は、外周形状が単純な円柱状に形成されているため、各光学素子の数に合わせて、ホルダに係止部、位置決め溝部、封止ガラス収容溝部を穿設し、光学素子、封止ガラス成形体を収容し、加熱熔融して封止固定すれば良いので、光学素子の増減が簡単である。
【0064】
図6A、
図6Bに示すように、本実施形態においては、複数の集光レンズ20bを、集光レンズホルダ21bに収容し、それぞれの集光レンズ20bを封止ガラス22bで封止固定するようにしている。
本実施形態においては、複数の集光レンズ20bの外周形状を単純な円柱状に形成しているので、複数の集光点を具備する一体の集光レンズを形成する場合に比べ遙かに加工が容易である。
【0065】
本実施形態においても、上記実施形態と同様、集光レンズ20bの一方の端面の一定範囲が、集光レンズホルダ21bに設けた集光レンズ係止部210b、集光レンズ位置決め溝部21bに係止、保持されるので、精度良く集光レンズ20bを集光レンズホルダ21b内の所定の位置に固定できる。
さらに、集光レンズホルダ21bには、ノックピン24を挿入するための位置決め孔213が穿設されている。
【0066】
図7Aに示すように、集光レンズ封止構造体2bをハウジング外筒71内に収容する際に、ノックピン24を集光レンズホルダ21bの位置決め孔213とハウジング内筒70bに設けた位置決め孔703とに挿入することによって、集光レンズホルダ21bに保持された複数の集光レンズ20bのそれぞれの光軸中心C/Lをレーザ共振器4から出射されるパルス光LS
RPLのそれぞれの光軸中心C/Lに簡単に一致させることができる。
なお、複数のパルス光拡張レンズ30b、収容した拡張レンズ封止構造体3b、複数の励起光レンズ50bを収容固定した励起光レンズ封止構造体5bも、
図7Cに示すように、それぞれ、ノックピン34、54を用いて、集光レンズ封止構造体2bと同様の位置決め方法によって、それぞれの光軸中心C/Lが一致するように設けられている。
【0067】
また、上記実施形態においては、一つのレーザ共振器4に複数の励起光LSR
PMPが入射され、それぞれの中心軸上の位置において、パルス光LSR
PLSが出光される例を示したが、
図7Cに示すように、それぞれの励起光LSRP
PLSに対して複数のレーザ共振器40bをそれぞれ独立して設けても良い。
この際、レーザ共振器40bを他の光学素子と同様に外形を円柱状に形成し、レーザ共振器係止部とレーザ共振器位置決め溝部と封止ガラス収容溝部とを複数箇所に設けたレーザ共振器ホルダ41b内に収容し、低融点ガラスからなる封止ガラス42bを介して封止固定したレーザ共振器封止構造体4bを形成した上で、ハウジング72内に収容し、ノックピン44を用いて、他の光学素子封止構造体と同様に、各レーザ共振器40bの光軸中心C/Lを一致させるようにしても良い。
【0068】
本実施形態によれば、
図7Bに示すように、同時に複数箇所の集光点FPにエネルギ密度の高いパルス光LSR
PLSを集光させ、さらに安定した着火を実現できる。
なお、
図7Cに示すように、本実施形態においては、励起光源80bから複数の励起光LSR
PMPを出光して、複数の光ファイバ60bを介してレーザ点火装置9b内に導入している。
【0069】
図8A、
図8Bを参照して、本発明の第2の実施形態における光学素子封止構造体の変形例2cについて説明する。
上記実施形態2cにおいては、集光レンズ20cの外周を覆うように、環状に形成した封止ガラス成形体22MLDを配設し、これを加熱熔融して、封止ガラス22c、210cを形成した例を示したが、本実施形態においては、複数の光学素子20cの間に、ペレット状に形成した封止ガラス成形体22MLDを配置し、これを加熱熔融するようにした点が相違する。
【0070】
本実施形態のように、封止ガラス成形体22MLDを集光レンズ20cの全周に亘って覆うように配置しなくても、封止ガラス22が熔融されたときに、毛管現象により、集光レンズ20cと集光レンズホルダ21cとの間隙GPに流れ込んで、集光レンズ20cと集光レンズホルダ21cとを気密に封止することができる。
【0071】
図9A、
図9B、
図9Cを参照して、集光レンズ封止構造体の他の変形例2dについて説明する。
本実施形態においては、
図9Aに示すように、封止ガラス配設溝部212dを複数箇所に穿設してある。
【0072】
さらに、
図9Aの左半部及び
図9Bに示すように、異なる大きさの三角柱状に形成した封止ガラス成形体22MLDdを配置し、
図9Aの右半部及び
図9Cに示すように、封止ガラス成形体22MLDdを加熱熔融する。
封止ガラス成形体22MLDdが熔融されると、集光レンズ20dの周囲を覆うように、封止ガラス配設溝部212d内に濡れ広がって、一体的に集光レンズ20dを集光レンズホルダ21d内に固定することができる。
【0073】
本実施形態に示すように、封止ガラス成形体MLDdを三角柱状のペレットに成形することで、成形が容易となる上に、複数の集光レンズ20dの間に配設する作業の自動化も容易となる。
なお、本実施形態においては、配置の容易さ、加熱熔融したときの濡れ広がり安さ等を考慮して、封止ガラス成形体22MLDdを、封止ガラス配設溝部212dの深さと同程度の高さの三角柱状に形成した例を示したが、封止ガラス成形体22MLDdの大きさや形状は、適宜変更可能である。