(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記炭化水素基は、炭素数が1である炭化水素基であるか、又は炭素数が2以上30以下である飽和若しくは不飽和の直鎖状若しくは分岐状炭化水素基である請求項1に記載の樹脂組成物。
前記アクリル樹脂又はメタクリル樹脂が非吸水性の樹脂であって、吸水率が0.01質量%以上20質量%以下である請求項1ないし3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の樹脂組成物は、アクリル樹脂又はメタクリル樹脂と、セルロースナノファイバー複合体とを含有する。セルロースナノファイバー複合体は、セルロースナノファイバーに炭化水素基がアミド結合を介して結合してなるものである。本明細書において、「炭化水素基がアミド結合を介して結合」とは、アミド基の炭素原子がセルロース表面に結合し、窒素原子に炭化水素基が共有結合で結合した状態を意味する。
【0010】
一般的に、天然セルロースの生合成においては、ミクロフイプリルと呼ばれるナノファイバーがまず形成され、これらが多束化することで高次な固体構造が構築される。本発明で用いられるセルロースナノファイバーは、これを原理的に利用して得られるものであり、天然由来のセルロース固体原料におけるミクロフィブリル間の強い凝集をもたらす表面間の強固な水素結合を弱めるために、その一部を酸化してカルボキシ基に変換することによって得られる。よって、セルロース表面に存在するカルボキシ基量(カルポキシ基含有量)が多い方が、より徴小な繊維径として安定に存在することができ、また水中では、電気的な反発力によりミクロフィブリルの凝集が抑制されて、ナノファイバーの分散安定性がより増大する。しかしながら、前記セルロースナノファイバーは、親水性のカルポキシ基が表面に存在するために、疎水性の有機溶媒や樹脂中での分散安定性が十分ではない。そこで、前記セルロースナノファイバーが微小な繊維径を有したまま、有機溶媒や樹脂中で安定に分散するように本発明者は鋭意検討した結果、驚くべきことに、表面のカルボキシ基を、炭化水素基を有するアミド基に置換することにより、得られた表面処理後のセルロースナノファイバー、すなわちセルロースナノファイバー複合体は有機溶媒や樹脂中で良好に分散し、該複合体を樹脂に配合した場合には、線膨張係数が低く、透明性が良好で、耐熱性に優れ、更には低吸水性である樹脂組成物が得られることが判明した。
【0011】
〔本発明の樹脂組成物〕
[アクリル樹脂及びメタクリル樹脂]
アクリル樹脂としては、アクリル酸又はその誘導体を単量体の一種として用いた重合体が用いられる。アクリル酸の誘導体としては、例えばCH
2-=CHCOORで表されるアクリル酸のアルカリ金属塩やアクリル酸のエステルが挙げられる。一方、メタクリル樹脂としては、メタクリル酸又はその誘導体を単量体の一種として用いた重合体が用いられる。メタクリル酸の誘導体としては、例えばCH
2-=C(CH
3)COORで表されるメタクリル酸のアルカリ金属塩やメタクリル酸のエステルが挙げられる。これらの式中、Rは、アルカリ金属又はアルコール残基を示す。またアクリル酸系モノマー及びメタクリル酸系モノマーとしては、1分子中に1個のC=C二重結合を有する単官能性モノマーや、1分子中に2個以上のC=C二重結合を有する多官能性モノマーが用いられる。
【0012】
前記の各式中、Rがアルカリ金属である場合、該アルカリ金属としては、例えばナトリウムが挙げられる。Rがアルコール残基である場合、アルコールとしては、炭素数1以上50以下の脂肪族アルコールや、炭素数6以上50以下の芳香族アルコールが挙げられる。また、R
1−(OR
2)
n−OHで表されるポリアルキレングリコールが挙げられる。
【0013】
脂肪族アルコールとしては、飽和脂肪族アルコール及び不飽和脂肪族アルコールが挙げられる。これら飽和脂肪族アルコール及び不飽和脂肪族アルコールは、水酸基、エーテル基、エステル基、アミノ基、カルボキシル基等の官能基が修飾されていても良い。
【0014】
ポリアルキレングリコールにおけるR
1としては、例えば炭素数1以上50以下のアルキル基が挙げられる。R
2としては、例えば炭素数1以上18以下のアルキレン基が挙げられる。nは、例えば1以上30以下の整数が好ましい。
【0015】
アクリル樹脂及びメタクリル樹脂の分子量は、本発明の樹脂組成物の具体的な用途に応じて適切に選択することができる。一般的に言って、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂の分子量は、数平均分子量で表して10万以上500万下であることが好ましく、100万以上200万以下であることが更に好ましい。数平均分子量は、例えばゲル浸透クロマトグラフ(GPC)法などを用いて測定することができる。
【0016】
[セルロースナノファイバー複合体]
セルロースナノファイバー複合体は、平均繊維径が好ましくは200nm以下のものである。セルロースナノファイバー複合体の平均繊維径は、好ましくは1nm以上、そして、好ましくは200nm以下、更に好ましくは100nm以下、特に好ましくは50nm以下である。より具体的には、好ましくは1nm以上200nm以下、更に好ましくは1nm以上100nm以下、特に好ましくは1nm以上50nm以下である。なお、セルロースナノファイバー複合体の繊維径は、その原料となるセルロースナノファイバーの繊維径と実質的に同一である。したがって、セルロースナノファイバー複合体の繊維径の測定が容易でない場合には、その測定に代えて、セルロースナノファイバーの繊維径を測定してもよい。セルロースナノファイバー複合体及びセルロースナノファイバーの平均繊維径は下記測定方法により測定される。
【0017】
<平均繊維径の測定方法>
固形分濃度0.0001質量%のセルロースナノファイバー複合体又はセルロースナノファイバーの水分散液を調製し、該分散液を、マイカ(雲母)上に滴下して乾燥したものを観察試料とし、原子間力顕微鏡(NanoNaViII,SPA400,エスアイアイナノテクノロジー(株)製、プローブは同社製のSI−DF40Alを使用)を用いて、該観察試料中のセルロースナノファイバー複合体又はセルロースナノファイバーの繊維高さを測定する。そして、セルロースナノファイバー複合体又はセルロースナノファイバーが確認できる顕微鏡画像において、セルロースナノファイバー複合体又はセルロースナノファイバーを5本以上抽出し、それらの繊維高さから平均繊維径を算出する。一般に高等植物から調製されるセルロースナノファイバーの最小単位は6本×6本の分子鎖がほぼ正方形の形でパッキングされていることから、AFMによる画像で分析できる高さを繊維の幅と見なすことができる。
【0018】
セルロースナノファイバー複合体の製造に用いられるセルロースナノファイバーは、微細であること(平均繊維径が好ましくは200nm以下であること)に加え、セルロースのカルボキシル基含有量が所定の範囲にあることが好ましい。具体的には、セルロースナノファイバーを構成するセルロースのカルボキシル基含有量は、好ましくは0.1mmol/g以上、更に好ましくは0.4mmol/g以上、特に好ましくは0.6mmol/g以上であり、そして、好ましくは3mmol/g以下、更に好ましくは2mmol/g以下、特に好ましくは1.8mmol/g以下である。より具体的には、好ましくは0.1mmol/g以上3mmol/g以下、更に好ましくは0.4mmol/g以上2mmol/g以下、特に好ましくは0.6mmol/g以上1.8mmol/g以下である。
【0019】
セルロースナノファイバーを構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1mmol/g以上3mmol/g以下であることは、好ましくは平均繊維径200nm以下の微小な平均繊維径をもつセルロースナノファイバーを安定的に得る上で重要な要素である。すなわち、天然セルロースの生合成の過程においては、通常、ミクロフィブリルと呼ばれるセルロースナノファイバーがまず形成され、これらが多束化して高次な固体構造を構築しているところ、(A)の工程で用いるセルロースナノファイバーは、後述するように、これを原理的に利用して得られるものであり、天然由来のセルロース固体原料においてミクロフィブリル間の強い凝集力の原動となっている表面間の水素結合を弱めるために、その一部を酸化し、カルボキシル基に変換することによって得られる。したがって、セルロースに存在するカルボキシル基の量の総和(カルボキシル基含有量)が多い方が、より微小な繊維径として安定に存在することができ、また水中においては、電気的な反発力が生じることにより、ミクロフィブリルが凝集を維持せずにばらばらになろうとする傾向が高まり、セルロースナノファイバーの分散安定性がより増大する。セルロースナノファイバーのカルボキシル基含有量は下記測定方法により測定される。
【0020】
<カルボキシル基含有量の測定方法>
乾燥質量0.5gのセルロースナノファイバーを100mlビーカーにとり、イオン交換水を加えて全体で55mlとし、そこに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mlを加えて分散液を調製し、セルロースナノファイバーが十分に分散するまで該分散液を攪拌する。この分散液に0.1M塩酸を加えてpHを2.5〜3に調整し、自動滴定装置(AUT−50、東亜ディーケーケー(株)製)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を待ち時間60秒の条件で該分散液に滴下し、1分ごとの電導度及びpHの値を測定する。pH11になるまで測定を続け、電導度曲線を得る。この電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、次式により、セルロースナノファイバーのカルボキシル基含有量を算出する。
カルボキシル基含有量(mmol/g)=水酸化ナトリウム滴定量×水酸化ナトリウム水溶液濃度(0.05M)/セルロースナノファイバーの質量(0.5g)
【0021】
セルロースナノファイバー複合体の平均アスペクト比(繊維長/繊維径)は、好ましくは10以上、より好ましくは20以上、更に好ましくは50以上、より更に好ましくは100以上である。また、好ましくは1000以下、より好ましくは500以下、更に好ましくは400以下、より更に好ましくは350以下である。平均アスペクト比は例えば、好ましくは10以上1000以下、より好ましくは20以上500以下、更に好ましくは50以上400以下、より更に好ましくは100以上350以下である。平均アスペクト比がこの範囲にあるセルロースナノファイバー複合体は、これを樹脂に配合すると該樹脂中での分散性に優れ、機械的強度が高く、脆性破壊し難い樹脂組成物が得られる。平均アスペクト比は、分散液中のセルロースナノファイバー複合体の濃度と分散液の水に対する比粘度との関係から、下記式(1)を用いてセルロースナノファイバー複合体のアスペクト比を逆算して求める。下記式(1)は、The Theory of Polymer Dynamics, M. DOI and D. F. EDWARDS, CLARENDONPRESS, OXFORD, 1986, P312に記載の剛直棒状分子の粘度式(8.138)と、Lb2×ρ=M/NAの関係(式中、Lは繊維長、bは繊維幅(セルロースナノファイバー複合体の断面は正方形とする)、ρはセルロースナノファイバー複合体の濃度(kg/m
3)、Mは分子量、NAはアポガドロ数を表す。)から導き出されるものである。また、前記の粘度式(8.138)において、剛直棒状分子をセルロースナノファイバー複合体とする。下記式(1)中、ηspは比粘度、πは円周率、lnは自然対数、Pはアスペクト比(L/b)、γ=0.8、ρsは分散媒の密度(kg/m
3)、ρ0はセルロース結晶の密度(kg/m
3)、Cはセルロースの質量濃度(C=ρ/ρs)を表す。なお、セルロースナノファイバー複合体のアスペクト比は、その原料となるセルロースナノファイバーのアスペクト比と実質的に同一である。したがって、セルロースナノファイバー複合体のアスペクト比の測定が容易でない場合には、その測定に代えて、セルロースナノファイバーのアスペクト比を測定してもよい。
【0023】
<炭化水素基>
本発明におけるセルロースナノファイバー複合体は、セルロースナノファイバーにおけるセルロース主鎖に、炭化水素基がアミド結合を介して連結されている。セルロースナノファイバーを炭化水素基により表面修飾、すなわち、セルロースナノファイバー表面に既に存在するカルボキシ基を選択して、炭化水素基を有するアミド基に置換することで、該複合体を樹脂と配合すると、該樹脂中での分散性に優れるものとなり、得られる樹脂組成物が本来有する透明性を維持しながら、低い線熱膨張係数を達成することができる。また、該炭化水素基を導入するときにアミド結合を介することで、セルロースナノファイバーの耐熱性が向上し、高温での混練に十分耐えることが可能になり、樹脂中での分散性が向上する。
【0024】
アミド結合を介して結合している炭化水素基としては、例えば、炭素数1の炭化水素基、又は炭素数2〜30の飽和若しくは不飽和の直鎖状若しくは分岐状の炭化水素基が挙げられる。具体例として以下の炭化水素基が挙げられる。
・炭素数1の炭化水素基:メチル基。
・炭素数2〜30の飽和の、直鎖状の炭化水素基:エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、ドコシル基、オクタコサニル基。
・炭素数2〜30の不飽和の、直鎖状の炭化水素基:オレイル基、ミリストレイル基、パルミトレイル基、リノレイル基、リノレニル基、エイコサニル基。
・炭素数2〜30の飽和の、分岐状の炭化水素基:イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、t−ペンチル基、イソへキシル基、2−ヘキシル基、ジメチルブチル基、エチルブチル基。
【0025】
炭化水素基の炭素数は、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂との組合せに応じて任意に選択されるが、1以上、特に3以上、とりわけ10以上であることが好ましく、また30以下、特に20以下、とりわけ18以下であることが好ましい。例えば1以上30以下であることが好ましく、3以上20以下であることが好ましく、10以上18以下であることが一層好ましい。炭素数が上述の範囲にあることで、セルロースナノファイバー複合体とアクリル樹脂及びメタクリル樹脂が均一な混合状態となり、低線熱膨張係数など樹脂組成物として良好な物性が得られる。
【0026】
また前記炭化水素基の他にも、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの脂環式炭化水素基や、ベンジル基、フェニル基などの芳香族炭化水素基も、本発明で用いるセルロースナノファイバー複合体においてアミド結合を介して結合する炭化水素基として、好適に用いられる。
【0027】
また前記炭化水素基の他にも、ヒドロキシエチル基及びヒドロキシプロピル基など親水基を有する炭化水素基や、エチレングリコール及びプロピレングリコールなどのポリエーテル鎖や、ラクチド及びカプロラクトンなどのポリエステル鎖を有する炭化水素基も、本発明で用いるセルロースナノファイバー複合体においてアミド結合を介して結合する炭化水素基として好適に用いられる。
【0028】
セルロースナノファイバー複合体中の炭化水素基の平均結合量(セルロースナノファイバー複合体の単位質量当たりの平均結合量)は、好ましくは0.1mmol/g以上、更に好ましくは0.5mmol/g以上、そして、好ましくは3mmol/g以下、更に好ましくは2mmol/g以下、特に好ましくは1mmol/g以下である。より具体的には、好ましくは0.1mmol/g以上3mmol/g以下、更に好ましくは0.1mmol/g以上2mmol/g以下、特に好ましくは0.5mmol/g以上1mmol/g以下である。炭化水素基の平均結合量は、次式により算出される。次式において、「炭化水素基導入前のセルロースナノファイバーのカルボキシル基含有量」は、前記<セルロースナノファイバーのカルボキシル基含有量の測定方法>により測定され、「炭化水素基導入後のセルロースナノファイバー複合体のカルボキシル基含有量」は、後述する<セルロースナノファイバー複合体のカルボキシル基含有量の測定方法>により測定される。
炭化水素基の結合量(mmol/g)=炭化水素基導入前のセルロースナノファイバーのカルボキシル基含有量(mmol/g)−炭化水素基導入後のセルロースナノファイバー複合体のカルボキシル基含有量(mmol/g)
【0029】
セルロースナノファイバー複合体は、好ましくは、カルボキシル基を有するセルロースナノファイバーの該カルボキシル基をアミド化することで得られる。この場合、セルロースナノファイバー複合体中のカルボキシル基のすべてがアミド化されていても良く、あるいはカルボキシル基がアミド化されずに残存していても良い。更にカルボキシル基が第1〜3級アミン塩化又は第4級アンモニウム塩化された状態で残存していても良い。本発明で用いるセルロースナノファイバー複合体のカルボキシル基含有量は、好ましくは0mmol/g以上、更に好ましくは0.2mmol/g以上、そして、好ましくは2.9mmol/g以下、更に好ましくは1mmol/g以下、特に好ましくは0.8mmol/g以下である。より具体的には、好ましくは0mmol/g以上2.9mmol/g以下、更に好ましくは0mmol/g以上1mmol/g以下、特に好ましくは0.2mmol/g以上0.8mmol/g以下である。セルロースナノファイバー複合体のカルボキシル基含有量は、次のようにして測定される。
【0030】
<セルロースナノファイバー複合体のカルボキシル基含有量の測定方法>
乾燥質量0.5gのセルロースナノファイバー複合体を100mLビーカーにとり、イオン交換水又はメタノール/水=2/1の混合溶媒を加えて全体で55mLとし、そこに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mLを加えて分散液を調製し、セルロースナノファイバー複合体が十分に分散するまで該分散液を攪拌する。この分散液に0.1M塩酸を加えてpHを2.5〜3に調整し、自動滴定装置(東亜ディーケーケー社製、商品名「AUT−50」)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を待ち時間60秒の条件で該分散液に滴下し、1分ごとの電導度及びpHの値を測定し、pH11になるまで測定を続け、電導度曲線を得る。この電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、次式により、セルロースナノファイバー複合体のカルボキシル基含有量を算出する。
セルロースナノファイバー複合体のカルボキシル基含有量(mmol/g)=水酸化ナトリウム滴定量×水酸化ナトリウム水溶液濃度(0.05M)/微細セルロース繊維複合体の質量(0.5g)
【0031】
本発明で用いるセルロースナノファイバー複合体は、好ましくは、セルロースナノファイバーに、炭化水素基を有する第1級や、第2級アミン化合物(以下、これらを総称して「アミン化合物」とも言う。)を、アミド結合を介して結合させることで得ることができる。セルロースナノファイバーは、例えば天然セルロース繊維を酸化して反応物繊維を得る酸化反応工程、及び該反応物繊維を微細化処理する微細化工程を含む製造方法によって得ることができる。具体的には、天然セルロース繊維をN−オキシル化合物存在下で酸化することで、セルロースナノファイバーを得ることができる。
【0032】
前記酸化反応工程では、まず、水中に天然セルロース繊維を分散させたスラリーを調製する。スラリーは、原料となる天然セルロース繊維(絶対乾燥基準)に対して約10倍量以上約1000倍量以下(質量基準)の水を加え、ミキサー等で処理することにより得られる。天然セルロース繊維としては、例えば、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ等の木材パルプ;コットンリンター、コットンリントのような綿系パルプ;麦わらパルプ、バガスパルプ等の非木材系パルプ;バクテリアセルロース等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。天然セルロース繊維は、叩解等の表面積を高める処理が施されていても良い。
【0033】
次に、水中においてN−オキシル化合物を酸化触媒として天然セルロース繊維を酸化処理して反応物繊維を得る。セルロースの酸化触媒として使用可能なN−オキシル化合物としては、例えば、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(以下、TEMPOとも表記する)、4−アセトアミド−TEMPO、4−カルボキシ−TEMPO、4−フォスフォノオキシ−TEMPO等を用いることができる。これらN−オキシル化合物の添加は触媒量で十分であり、通常、原料として用いた天然セルロース繊維(絶対乾燥基準)に対して0.1質量%以上10質量%以下となる範囲である。
【0034】
前記天然セルロース繊維の酸化処理においては、酸化剤(例えば、次亜ハロゲン酸又はその塩、亜ハロゲン酸又はその塩、過ハロゲン酸又はその塩、過酸化水素、過有機酸等)と、共酸化剤(例えば、臭化ナトリウム等の臭化アルカリ金属)とを併用する。酸化剤としては、特に、次亜塩素酸ナトリウムや次亜臭素酸ナトリウム等のアルカリ金属次亜ハロゲン酸塩が好ましい。酸化剤の使用量は、通常、原料として用いた天然セルロース繊維(絶対乾燥基準)に対して約1質量%以上約100質量%以下となる範囲である。また、共酸化剤の使用量は、通常、原料として用いた天然セルロース繊維(絶対乾燥基準)に対して約1質量%以上約30質量%以下となる範囲である。
【0035】
また、前記天然セルロース繊維の酸化処理においては、酸化反応を効率良く進行させる観点から、反応液(前記スラリー)のpHは9以上12以下の範囲で維持されることが望ましい。また、酸化処理の温度(前記スラリーの温度)は、1℃以上50℃以下において任意であるが、室温で反応可能であり、特に温度制御は必要としない。また、反応時間は1分間以上240分間以下が望ましい。
【0036】
前記酸化反応工程後、前記微細化工程前に精製工程を実施し、未反応の酸化剤や各種副生成物等の、前記スラリー中に含まれる反応物繊維及び水以外の不純物を除去することが好ましい。反応物繊維は通常、この段階ではセルロースナノファイバー単位までばらばらに分散していないため、精製工程では、例えば水洗とろ過を繰り返す精製法を行うことができ、その際に用いる精製装置は特に制限されない。こうして得られる精製処理された酸化セルロース繊維(若しくはカルボキシル基含有セルロース繊維と呼ぶ)は、通常、適量の水を含浸させた状態で次工程(微細化工程)に送られるが、必要に応じ、乾燥処理した繊維状や粉末状としても良い。
【0037】
前記微細化工程では、前記精製工程を経た反応物繊維を水等の溶媒中に分散させ微細化処理を施す。この微細化工程を経ることにより、平均繊維径及びカルボキシル基含有量がそれぞれ前記範囲にあるセルロースナノファイバーが得られる。
【0038】
前記微細化処理において、分散媒としての溶媒は通常は水が好ましいが、水以外にも目的に応じて水に可溶な有機溶媒(アルコール類、エーテル類、ケトン類等)を使用しても良く、これらの混合物も好適に使用できる。また、微細化処理で使用する分散機としては、例えば、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、二軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いることができる。また、微細化処理における酸化セルロース繊維の固形分濃度は50質量%以下が好ましい。固形分濃度を50質量%以下にすることで、分散に要するエネルギーが過度に高くならないので好ましい。
【0039】
このような天然セルロース繊維の酸化処理及び微細化処理により、セルロース構成単位のC6位の水酸基がアルデヒド基を経由してカルボキシル基へと選択的に酸化され、平均繊維径が好ましくは200nm以下にまで微細化された高結晶性セルロース繊維を得ることができる。この高結晶性セルロース繊維は、セルロースI型結晶構造を有している。これは、(A)の工程において用いるセルロースナノファイバーが、I型結晶構造を有する天然由来のセルロース固体原料が表面酸化され微細化された繊維であることを意味する。すなわち、天然セルロース繊維は、その生合成の過程において生産されるミクロフィブリルと呼ばれる微細な繊維が多束化して高次な固体構造を構築しており、そのミクロフィブリル間の強い凝集力(表面間の水素結合)を、前記酸化処理によるアルデヒド基あるいはカルボキシル基の導入によって弱め、更に前記微細化処理を経ることで、セルロースナノファイバーが得られる。そして、前記酸化処理の条件を調整することにより、前記カルボキシル基含有量を所定範囲内にて増減させ、極性を変化させたり、該カルボキシル基の静電反発や前記微細化処理により、セルロースナノファイバーの平均繊維径、平均繊維長、平均アスペクト比等を制御したりすることができる。
【0040】
このようにして得られたセルロースナノファイバーの形態は、セルロースナノファイバーが分散液中に分散した状態である。必要に応じ、固形分濃度を調整した懸濁液状(目視的に無色透明又は不透明な液)、あるいは乾燥処理した粉末状(ただし、セルロースナノファイバーが凝集した粉末状であり、セルロース粒子を意味するものではない)とすることもできる。懸濁液状にする場合、分散媒として水のみを使用しても良く、水と他の有機溶媒(例えば、エタノール等のアルコール類)や界面活性剤、酸、塩基等との混合溶媒を使用しても良い。
【0041】
このようにして得られたセルロースナノファイバーの主鎖に、上述したアミン化合物を、アミド結合を介して結合させる。
【0042】
使用されるアミン化合物は、製造目的物であるセルロースナノファイバー複合体において、アミド結合を介して結合する炭化水素基を構成するものである。第1級アミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン等のモノアルキルアミンが挙げられる。第2級アミンとしては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジオクタデシルアミン等のジアルキルアミンが挙げられる。
【0043】
アミン化合物を用いて炭化水素基をセルロースナノファイバーに導入する場合、該アミン化合物とセルロースナノファイバーとのアミド化反応を効率良く進行させる観点から、反応系に縮合剤を添加しても良い。縮合剤の添加は、セルロースナノファイバーの分散液中にアミン化合物を添加した後が好ましい。縮合剤としては、カルボジイミド系縮合剤、トリアジン系縮合剤、ホスホニウム型縮合剤、ベンゾトリアゾール型縮合剤、イミダゾール系縮合剤、極性基含有ハロゲン化カルボン酸等が使用できる。具体的には、例えば、DMT−MM(4−(4,4−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルフォリニウムクロライド)、EDC(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロライド)、BOP(ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェイト)、PYBOP(ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスフェイト)、HBTU(o−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N',N'−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェイト)、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン等が挙げられる。
【0044】
アミン化合物とセルロースナノファイバーとのアミド化反応において、反応系の温度(アミド化反応の反応温度)は、好ましくは20℃以上80℃以下であり、反応時間は好ましくは1時間以上24時間以下である。アミド化反応の終了後、常法に従って反応系を洗浄・ろ過して、未反応物や各種副生成物等の不純物を除去する。こうして、セルロースナノファイバーに炭化水素基がアミド結合を介して結合してなるセルロースナノファイバー複合体が得られる。セルロースナノファイバー複合体は、洗浄時に使用した溶媒(例えばアセトン)を含浸させた膨潤ゲルであっても良く、あるいは乾燥した繊維状や粉末状等であっても良い。
【0045】
このようにして得られたナノファイバー複合体を用いて、アクリル樹脂又はメタクリル樹脂との組成物を得るには、以下の(A)ないし(C)の工程を採用することが好ましい。
(A)ナノファイバー複合体と、分散媒と、アクリル酸系モノマー又はメタクリル酸系モノマーとの混合物を得る工程。
(B)前記混合物から分散媒を除去してゲル状体を得る工程。
(C)前記ゲル状体中のアクリル酸系モノマー又はメタクリル酸系モノマーを重合反応に付す工程。
【0046】
(A)工程においては、先に述べたとおり、セルロースナノファイバー複合体と、分散媒と、アクリル酸系モノマー又はメタクリル酸系モノマーとを混合して混合物を得る。分散媒としては、セルロースナノファイバー複合体を分散させることが可能であり、かつアクリル酸系モノマー又はメタクリル酸系モノマーの溶解が可能な液体が用いられる。そのような分散媒としては、例えば水や、水溶性有機溶媒、非水溶性有機溶媒などが挙げられる。水溶性有機溶媒としては、例えばイソプロパノール、エタノール、t―ブチルアルコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、アセトン、アセトニトリル、テトラフドロフラン、ジオキサン等が挙げられる。非水溶性有機溶媒としては、例えばクロロホルム、トルエン、キシレン、ヘキサン、ベンゼン、酢酸エチル、ベンゼン等が挙げられる。
【0047】
例えば分散媒にイソプロパノールを用いた場合、イソプロパノールに均一に分散することができるセルロースナノファイバー複合体を用いればよく、特に炭素数が10〜18の飽和、直鎖状の炭化水素基がアミド結合を介して結合したセルロースナノファイバー複合体を用いることが好ましい。
【0048】
(A)の工程においては、アクリル酸系モノマー又はメタクリル酸系モノマーとして、疎水性のものを用いることが、該モノマー中でのセルロースナノファイバー複合体の分散性が良好になる点から好ましい。そのような疎水性のモノマーとしては、例えばアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸n―へキシル、メタクリル酸n―へキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタアクリル酸2−エチルヘキシル、ノナンジオールジアクリレート、フェノキシエチルアクリレート等が挙げられる。
【0049】
セルロースナノファイバー複合体と、分散媒と、アクリル酸系モノマー又はメタクリル酸系モノマーとの混合物においては、セルロースナノファイバー複合体の占める割合を、0.1質量%以上50質量%以下、特に0.5質量%以上10質量%以下にすることが、セルロースナノファイバー複合体の分散性や、後述する分散媒を除去する際の乾燥効率の点から好ましい。また、アクリル酸系モノマー又はメタクリル酸系モノマーの占める割合を、0.1質量%以上80質量%以下、特に1質量%以上50質量%以下にすることが、本発明の樹脂組成物において透明性や柔軟性など好適な諸物性が得られる点から好ましい。なお、前記混合物においては、アクリル酸系モノマー及びメタクリル酸系モノマーを併用しても良い。
【0050】
また、前記アクリル酸系モノマー又はメタクリル酸系モノマーの20℃における蒸気圧は、前記分散媒の20℃における蒸気圧よりも小さいことが好ましい。すなわち、後述する工程(B)において分散媒の除去する方法として揮発を採用した場合、分散媒がモノマーよりも揮発しやすいことが必要だからである。モノマーの20℃における蒸気圧(mmHg、20℃)をP1、分散媒の20℃における蒸気圧(mmHg、20℃)をP2とした場合、P1/P2は、好ましくは0.001以上0.9以下、更に好ましくは0.001以上0.5以下である。
【0051】
前記混合物には、上述した成分以外に、重合性モノマー、連鎖移動剤、着色剤、重合禁止剤、香料、粘土鉱物、架橋剤、発泡剤、界面活性剤などを、必要に応じて添加してもよい。
【0052】
セルロースナノファイバー複合体と、分散媒と、アクリル酸系モノマー又はメタクリル酸系モノマーとの混合物は、これを攪拌して十分に混合させた後に、(B)の工程に付される。(B)の工程においては、前記混合物から分散媒を除去してゲル状体を得る。分散媒の除去は、前記混合物中に該分散媒が実質的に存在しなくなるように行うことが好ましい。例えば前記混合物中に占める分散媒の割合が10質量%以下になるように、分散媒を除去することが好ましい。
【0053】
分散媒の除去手段としては、分散媒の種類に応じて適切なものが選択される。例えば、前記混合物を室温下で放置するだけの自然乾燥でも良く、あるいは加熱乾燥、真空乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥等の公知の乾燥方法でも良い。噴霧乾燥は、前記混合物をノズルから噴出させて微細な液滴となし、次いで対流空気中で該液滴を加熱乾燥することによりなされる。特に、自然乾燥や加熱乾燥を用いる場合には、前記混合物をキャスト(流延)する等して膜状あるいはシート状に成形してからその成形体を乾燥させることが、乾燥効率の点から好ましい。
【0054】
(B)の工程において得られるゲル状体の形態は特に制限されず、例えば、立体状、膜状、シート状、粉末状又は粒状等とすることができる。ゲル状体の形態は、前述した製造方法において、前記混合物からの分散媒の除去方法を適宜選択することによって調整することができる。例えば、前記混合物をキャスト(流延)して乾燥させることで膜状やシート状のゲル状体を得ることができ、また、前記混合物を噴霧乾燥することで粉末状や粒状のゲル状体を得ることができる。また、前記混合物を任意の形状の型に流し込んで乾燥することで、立体形状のゲル状体を製造することもできる。
【0055】
このようにしてゲル状体が得られたら、該ゲル状体を(C)の重合反応に付す。重合反応としては、ゲル状体中のアクリル酸系モノマー又はメタクリル酸系モノマーの重合が生起する反応であれば良い。そのような重合反応として、例えばラジカル重合反応を用いることができる。
【0056】
ラジカル重合反応によってアクリル酸系モノマー又はメタクリル酸系モノマーの重合を行う場合には、これまでに説明した(A)ないし(C)の工程のうちの少なくとも1つの工程において、重合開始剤を添加することが好ましい。重合開始剤としては、ラジカル重合の重合開始剤として知られている各種の化合物を用いることが好ましい。例えば熱の付与や紫外線等の活性エネルギー線の照射によってラジカルを発生し得る化合物を用いることができる。具体的には、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサノン−1−カルボニトリル、アゾジベンゾイル、2,2−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)等のアゾ化合物、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−α−クミルパーオキサイド、t−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、ジ−t−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、1,1−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5,−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド等の有機過酸化物、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性触媒及び過酸化物あるいは過硫酸塩と還元剤の組み合わせによるレドックス触媒等の熱重合開始剤や、ベンゾフェノン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,6−ジメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホシフィンオキシド、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、4−フェノキシジクロロアセトフェノン、4−t−ブチル−ジクロロアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピレンフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノプロパン−1−オン、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、α−アシロキシムエステル、アシルホスフィンオキサイド、メチルフェニルグリオキシレート、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、4−ベンゾイル−4′−メチルジフェニルサルファイド、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、3,3′−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、4−メチルベンゾフェノン、チオキサンソン、2−クロルチオキサンソン、2−メチルチオキサンソン、2,4−ジメチルチオキサンソン、イソプロピルチオキサンソン、カンファーキノン、ジベンゾスベロン、2−エチルアンスラキノン、3,3′,4,4′−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、ベンジル、9,10−フェナンスレンキノン等の活性エネルギー線重合開始剤を用いることができる。
【0057】
前記重合開始剤を添加する方法や順序は特に限定されないが、セルロースナノファイバー複合体を均一な分散状態にする観点から、工程(C)の重合反応の直前に重合開始剤溶液を浸透させる方法が好ましい。具体的には、工程(B)でセルロースナノファイバー複合体とモノマーから成るゲル状体を作製後、溶媒に溶解した重合開始剤を該ゲル状体に滴下し、そして該溶媒を揮発させた後に重合反応に付することができる。
【0058】
前記ゲル状体を重合反応に付すことによって、アクリル酸系モノマー又はメタクリル系モノマーの重合が生起し、アクリル樹脂又はメタクリル樹脂が生成する。このとき、前記ゲル状体中にはセルロースナノファイバー複合体が均一に分散した状態になっているので、得られるアクリル樹脂又はメタクリル樹脂中においても、セルロースナノファイバー複合体の均一な分散が維持される。このようにして、目的とする樹脂組成物が得られる。
【0059】
アクリル樹脂又はメタクリル樹脂との組成物を得る方法は前述の方法に限定されない。例えば分散媒に分散したセルロースナノファイバー複合体と、その分散剤に溶解可能なアクリル樹脂又はメタクリル樹脂を溶解させた混合溶液をキャスト(流延)する等して膜状やシート状の組成物を得ることができる。又は、セルロースナノファイバー複合体を、溶融したアクリル樹脂又はメタクリル樹脂と混練、射出することで任意の成形体を得ることもできる。
【0060】
得られた樹脂組成物においては、該樹脂組成物中にセルロースナノファイバー複合体が均一に分散した状態になっているので、該樹脂組成物に占めるセルロースナノファイバー複合体の割合を過度に高くしなくても、該樹脂組成物の特性の向上を図ることができる。例えば樹脂組成物に占めるセルロースナノファイバー複合体の割合は、0.1質量%、特に1質量%以上、とりわけ5質量%以上とすることが好ましく、50質量%以下、特に20質量%以下、とりわけ15質量%以下とすることが好ましい。具体的には、0.1質量%以上50質量%以下、特に1質量%以上20質量%以下、とりわけ5質量%以上15質量%以下とすることが好ましい。一方、樹脂組成物に占めるアクリル樹脂及び/又はメタクリル樹脂の割合は、50質量%、特に80質量%以上、とりわけ85質量%以上とすることが好ましく、99.9質量%以下、特に99質量%以下、とりわけ95質量%以下とすることが好ましい。具体的には、50質量%以上99.9質量%以下、特に80質量%以上99質量%以下、とりわけ85質量%以上95質量%以下とすることが好ましい。
【0061】
このようにして得られた樹脂組成物は、セルロースナノファイバー複合体が均一に分散した状態になっているので、アクリル樹脂又はメタクリル樹脂が本来有している特性と相まって、低線熱膨張係数、高光透過率及び高耐熱性を有するものとなる。しかも、この樹脂組成物に含まれる樹脂は汎用のものなので、経済的に有利である。したがって、この樹脂組成物は、ガラス代替の材料として、例えば光学レンズ、太陽電池の表面材、表示素子の基板などの原料として好適に用いられる。
【0062】
またガラス代替の材料として使用される、該樹脂組成物は吸水性が低いことが好ましい。したがって、該樹脂組成物に用いられるアクリル樹脂又はメタクリル樹脂は非吸水性の樹脂であることが好ましい。非吸水性の樹脂の吸水率は10質量%以下、好ましくは5%以下、更に好ましくは2%以下である。非吸水性の樹脂としては、例えばポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリアクリル酸n―へキシル、ポリメタクリル酸n―へキシル、ポリアクリル酸2−エチルヘキシル、ポリメタアクリル酸2−エチルヘキシル、ポリノナンジオールジアクリレート、ポリフェノキシエチルアクリレート等が挙げられる。
【0063】
該樹脂組成物に用いられるアクリル樹脂又はメタクリル樹脂は吸水性の樹脂であっても構わない。吸水性の樹脂の吸水率は500質量%以上、好ましくは700質量%以上である。吸水性の樹脂としては、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルアクリレートの重合体などが挙げられる。
【0064】
本発明における透明性は全光線透過率であらわされる。例えば本発明の製造方法で得られた樹脂組成物は、後述する実施例で説明する方法で測定された全光線透過率が好ましくは80%以上という高い値を示す。また、20℃から200℃までの昇温過程での線熱膨張係数が50ppm/K以下という低い値を示し、20℃から200℃までの昇温過程での耐熱性が0.1以上という低い値を示す。また、アクリル樹脂又はメタクリル樹脂が非吸水性の樹脂であった場合、吸水率が0.01質量%以上、特に0.1質量%以上であることが好ましく、また20質量%以下、特に10質量%以下、とりわけ5質量%以下であることが好ましい。例えば前記アクリル樹脂又はメタクリル樹脂が非吸水性の樹脂であって、吸水率が0.01質量%以上20質量%以下、好ましくは0.1質量%以上10質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以上5質量%以下という低吸水性を示す。また、アクリル樹脂又はメタクリル樹脂が吸水性の樹脂であった場合、吸水率が50質量%以上、特に100質量%以上であることが好ましく、また500質量%以下、特に400質量%以下であることが好ましい。例えば前記アクリル樹脂又はメタクリル樹脂が吸水性樹脂であって、吸水率が50質量%以上500質量%以下、好ましくは100質量%以上400質量%以下を示す。
【0065】
上述の各種の用途に使用するために、本発明の樹脂組成物は、押出成形、射出成形、又はプレス成形などの公知の成形法に付されて、所望の形状に成形される。押出成形では、加熟した押出機に充填された本発明の樹脂組成物を溶融させた後にTダイから押出し、シート状成形物を得る。このシート状成形物を直ぐに冷却ロールに接触させ、シートを樹脂組成物のガラス転移点以下に冷却することでシートの結晶性を調整し、その後、冷却ロールから引き離し、それらを巻き取りロールにて巻き取ることでシート状成形体を得ることができる。射出成形では、例えば、本発明の樹脂組成物を、シリンダー温度を適切に設定した射出成形機を用いて、所望の形状の金型内に充墺し、成形することができる。プレス成形では、例えばシート状成形体を成形する場合には、シート形状を有する枠で本発明の樹脂組成物を囲みプレス成形することができる。
【0066】
前述した本発明の実施態様に関し、更に以下の付記を開示する。
<1>
アクリル樹脂又はメタクリル樹脂と、セルロースナノファイバーに炭化水素基がアミド結合を介して結合してなるセルロースナノファイバー複合体とを含有する樹脂組成物。
【0067】
<2>
前記炭化水素基は、炭素数が1である炭化水素基であるか、又は炭素数が2以上30以下である飽和若しくは不飽和の直鎖状若しくは分岐状炭化水素基である<1>に記載の樹脂組成物。
<3>
前記炭化水素基の炭素数は、1以上、特に3以上、とりわけ10以上であることが好ましく、また30以下、特に20以下、とりわけ18以下であることが好ましい。例えば1以上30以下であることが好ましく、3以上20以下であることが好ましく、10以上18以下であることが一層好ましい<2>に記載の樹脂組成物。
<4>
前記セルロースナノファイバー複合体の含有量が0.1質量%以上50質量%以下である<1>ないし<3>のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
<5>
前記セルロースナノファイバー複合体の含有量は0.1質量%以上、特に1質量%以上、とりわけ5質量%以上であることが好ましく、また50質量%以下、特に20質量%以下、とりわけ15質量%以下であることが好ましい。例えばセルロースナノファイバー複合体の含有量は0.1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、1質量%以上20質量%以下であることが更に好ましく、5質量%以上15質量%以下であることが一層好ましい<1>ないし<4>のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
<6>
前記アクリル樹脂又はメタクリル樹脂が非吸水性の樹脂であって、非吸水性の樹脂の吸水率は10質量%以下、好ましくは5%以下、更に好ましくは2%以下である<1>ないし<5>のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0068】
<7>
前記アクリル樹脂又はメタクリル樹脂が非吸水性の樹脂であって、吸水率が0.01質量%以上20質量%以下である<1>ないし<6>のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
<8>
前記アクリル樹脂又はメタクリル樹脂が非吸水性の樹脂であって、吸水率が0.01質量%以上、特に0.1質量%以上であることが好ましく、また20質量%以下、特に10質量%以下、とりわけ5質量%以下であることが好ましい。例えば前記アクリル樹脂又はメタクリル樹脂が非吸水性の樹脂であって、吸水率が0.01質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上10質量%以下であることが更に好ましく、0.1質量%以上5質量%以下であることが一層好ましい<1>ないし<7>のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
<9>
前記アクリル樹脂又はメタクリル樹脂が吸水性の樹脂であって、吸水性の樹脂の吸水率は500質量%以上、好ましくは700質量%以上である<1>ないし<5>のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
<10>
前記アクリル樹脂又はメタクリル樹脂が吸水性樹脂であって、吸水率が50質量%以上500質量%以下である<1>ないし<5>及び<9>のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
<11>
前記アクリル樹脂又はメタクリル樹脂が吸水性樹脂であって、吸水率が50質量%以上、特に100質量%以上であることが好ましく、また500質量%以下、特に400質量%以下であることが好ましい。例えば前記アクリル樹脂又はメタクリル樹脂が吸水性樹脂であって、吸水率が50質量%以上500質量%以下であることが好ましく、100質量%以上400質量%以下であることが更に好ましい<1>ないし<5>、<9>又は<10>のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【実施例】
【0069】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」及び「部」はそれぞれ「質量%」及び「質量部」を意味する。
〔実施例1〕
(1)セルロースナノファイバーの製造
針葉樹の漂白クラフトパルプ(製造会社:フレッチャーチャレンジカナダ、商品名「Machenzie」、CSF650ml)を天然セルロース繊維として用いた。TEMPOとしては、市販品(製造会社:ALDRICH、Free radical、98%)を用いた。次亜塩素酸ナトリウムとしては、市販品(製造会社:和光純薬工業(株))を用いた。臭化ナトリウムとしては、市販品(製造会社:和光純薬工業(株))を用いた。まず、針葉樹の漂白クラフトパルプ繊維100gを9900gのイオン交換水で十分に攪拌した後、パルプ質量100gに対し、TEMPO1.25%、臭化ナトリウム12.5%、次亜塩素酸ナトリウム28.4%をこの順で添加した。pHスタットを用い、0.5M水酸化ナトリウムを滴下してpHを10.5に保持し、酸化反応を行った。酸化を120分行った後に滴下を停止し、カルボキシル基含有セルロース繊維を得た。イオン交換水を用いてカルボキシル基含有セルロース繊維を十分に洗浄し、次いで脱水処理を行った。その後、得られたカルボキシル基含有セルロース繊維100gをイオン交換水9900gに分散させ、高圧ホモジナイザー(HJP−25005、(株)スギノマシン製)を用いて、吐出圧力245MPaの条件で2回処理を行った。その操作によって繊維の微細化処理を行い、セルロースナノファイバーの分散液を得た。分散液の固形分濃度は1.0%であった。このセルロースナノファイバーの平均繊維径は3.3nmであり、カルボキシル基含有量は1.2mmol/gであった。
【0070】
(2)セルロースナノファイバー複合体の製造
前記(1)で得られたセルロースナノファイバー分散液1000gにイオン交換水1000gを加え0.5%の分散液とし、メカニカルスターラーにて室温下、3時間攪拌した。続いて1M塩酸水溶液を加えてpH2に調整し、2時間攪拌した。その後、アセトンで再沈し、ろ過、その後、アセトン/イオン交換水にて洗浄を行い、塩酸及び塩を除去した。最後にアセトンを加えろ過し、アセトンにセルロースナノファイバーが膨潤した状態のアセトン含有酸型セルロースナノファイバーを得た。
【0071】
次いでメカニカルスターラー、還流管を備えた4口丸底フラスコに、前記アセトン含有酸型セルロースナノファイバーを仕込み、IPA2000gを加えて0.5%分散液とし、マグネティックスターラーにて室温下、1時間攪拌した。続いて、プロピルアミン5.45g(セルロースナノファイバーのカルボキシル基1molに対してアミン基3molに相当)、4−(4,4−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルフォリニウムクロライド(DMT−MM)26.38gを仕込んで溶解させた後、室温下で12時間反応を行った。反応終了後、ろ過し、その後、メタノール/イオン交換水にて洗浄を行い、未反応のプロピルアミン及びDMT−MMを除去した。最後にアセトンを加えろ過し、炭素数3の炭化水素基がアミド結合を介して結合したセルロースナノファイバー複合体を調製した。
【0072】
(3)混合物の調製
(2)で得られたセルロースナノファイバー複合体10gと分散媒としてのジメチルホルムアミド(DMF)1990gを混合し、高圧ホモジナイザー(NM2−2000AR−D10−S、吉田機械工業(株)製)を用いて、吐出圧力200MPaの条件で2回処理を行った。このようにしてセルロースナノファイバー複合体分散液を得た。分散液の固形分濃度は0.5%であった。
【0073】
前記セルロースナノファイバー複合体分散液100部(セルロースナノファイバーとして0.5部、分散媒としてのDMF99.5部)と、モノマーとして1,9―Bis(acryloyloxy)nonane(東京化成工業(株))を混合して混合物を得た。混合の割合は、表1に示すとおりとした。
【0074】
(4)ゲル状体の調製
(3)で得られた混合物30gをPFA(フッ素樹脂)製のシャーレ(直径75mm)に注ぎ、その後DMFを除去してゲル状体を調製した。DMFの除去は、シャーレを23℃50%RH環境下に7日間静置して、DMFを揮発させることで行った。得られたゲル状体に含まれるDMFの割合は5%以下になっていた。
【0075】
(5)樹脂組成物の調製
活性エネルギー線重合開始剤としての2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン(東京化成工業(株)製)のメタノール溶液(3.6%)を調製し、シャーレに入った状態の(4)で得られたゲル状体に満遍なく注ぎ、次いで2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノンの浸透とメタノールを乾燥するために23℃50%RH環境下に2時間静置した。2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノンの配合量はシャーレ中の1,9―Bis(acryloyloxy)nonaneの重量に対して1%となるようにした。その後、該ゲル状体をシャーレから取り出し、剥離フィルム(三井化学東セロ製、TPXフィルム X−44B#50)で挟み、更にガラス板で挟んだ状態で、紫外線の照射を行い、ラジカル重合を行った。ラジカル重合はゲル状体に対して約50mmの距離に波長365nmの光源を配置し、放射照度が約500mW/cmとなる状態で、3分間紫外線を照射することで行った。このようにして、セルロースナノファイバー複合体を含む樹脂組成物を得た。
【0076】
〔実施例2〕
実施例1の(2)で用いたプロピルアミンに代えてn−ドデシルアミンを、分散媒としてDMFに代えてイソプロパノール(IPA)を用いた以外は実施例1と同様にして、炭素数12の炭化水素基がアミド結合を介して結合したセルロースナノファイバー複合体分散液を調製した。その後は実施例1と同様にして、セルロースナノファイバー複合体を含む樹脂組成物を得た。
【0077】
〔実施例3〕
実施例1の(2)で用いたプロピルアミンに代えて、n−オクタデシルアミンを、分散媒としてDMFに代えてIPAを用いた以外は実施例1と同様にして、炭素数18の炭化水素基がアミド結合を介して結合したセルロースナノファイバー複合体分散液を調製した。その後は実施例1と同様にして、セルロースナノファイバー複合体を含む樹脂組成物を得た。
【0078】
〔実施例4〕
実施例1の(3)で用いたモノマーである1,9―Bis(acryloyloxy)nonaneに代えてポリ(エチレングリコール)メチルエーテルアクリレート(分子量480、シグマアルドリッチ社)、分散媒としてDMFに代えて水を用いた以外は、実施例1と同様にして、セルロースナノファイバー複合体を含む樹脂組成物を得た。
【0079】
〔比較例1〕
本比較例は、実施例1において、セルロースナノファイバー複合体及び分散媒を用いなかった例である。それ以外は実施例1と同様にしてアクリル樹脂を得た。
【0080】
〔比較例2〕
本比較例は、実施例4において、セルロースナノファイバー複合体及び分散媒を用いなかった例である。それ以外は実施例4と同様にしてアクリル樹脂を得た。
【0081】
〔比較例3〕
本比較例は、実施例1において、セルロースナノファイバー複合体を用いる代わりに、該セルロースナノファイバー複合体の原料であるセルロースナノファイバーを用いた例である。それ以外は実施例1と同様にしてアクリル樹脂組成物を得た。
【0082】
〔評価〕
各実施例及び各比較例で得られた樹脂組成物及び樹脂について、以下に述べる方法で全光線透過率、線熱膨張係数、耐熱性及び吸水率を測定した。その結果を以下の表1及び表2に示す。また樹脂組成物について、各材料の配合量から、それに含まれるセルロースナノファイバー複合体又はセルロースナノファイバーの割合を導き、以下の表1及び2に示す。
【0083】
〔全光線透過率の測定〕
全光線透過率は、JIS K7361−1に準拠して測定する。これらの測定にはヘイズメーター(NDH5000、日本電色工業(株)製)を用いた。また表1,2に記載の全光線透過率は厚みが0.1mmの値として補正している。補正については、以下の式で導入される。補正後の透過率をT(%)、補正前の実測の透過率をT
1(%)、実測の厚みa(mm)とする。
T=100×10
[log(T1/100)/ 10a]
【0084】
〔線熱膨張係数の測定〕
線熱膨張係数は熱機械的分析装置TMA/SS6100(セイコーインスツルメンツ(株))の引張モードを用いて測定した。0℃から300℃まで昇温速度5℃/分、荷重7mN、窒素雰囲気下で昇温し、20℃から200℃までのサンプル伸びから線熱膨張係数を算出した。
【0085】
〔耐熱性の測定〕
粘弾性測定装置EXSTAR TMA6100(エスアイアイナノテクノロジー(株))の引張モードを用いて、樹脂組成物の粘弾性を測定した。測定条件は以下のとおりである。
・温度範囲:−20〜300℃
・昇温速度:2℃/分
・周波数:1Hz
・窒素雰囲気下
この測定により、各温度における貯蔵弾性率の値が測定される。20℃での貯蔵弾性率をA、200℃での貯蔵弾性率をBとしたとき、耐熱性は以下の式で定義した。
耐熱性=B/A
一般に貯蔵弾性率は温度と共に低下していくため、A>Bとなり、耐熱性は1以下の値を示す。AからBの低下が少ないほど、耐熱性は1に近い値を示す。この値が1に近いほど熱に対する強度安定性が高いことを意味する。
【0086】
〔吸水率の測定〕
吸水率はJIS K7209(B法)に準じて評価した。各実施例、比較例を一片50mmの正方形の試験片を切り出し、50℃に保った恒温槽で24時間乾燥し、試験片の重量M1(g)を測定した。その後、300gのイオン交換水中に浸漬し、24時間後取り出し、試験片の重量M2(g)を測定した。再度、試験片を50℃に保った恒温槽で24時間乾燥し、試験片の重量M3(g)を測定した。樹脂組成物の吸水率は以下の式であらわした。
吸水率(%)=(M2−M3)/M1×100
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
表1に示す結果から明らかなとおり、実施例1〜3で得られた樹脂組成物は、比較例1及び3で得られた樹脂組成物又は樹脂に比べて、低線熱膨張係数、高耐熱性である。また高全光線透過率を維持しており、炭化水素基がアミド結合したセルロースナノファイバー複合体を含む実施例1〜3は、アミド結合していないセルロースナノファイバーを用いた比較例3に比べて高い透明性を示した。このことは炭化水素基によって、樹脂中への分散性が向上したことによるものと考えられる。また非吸水性のアクリル樹脂を用いた実施例1〜3は、セルロースナノファイバー複合体を含まない比較例1に比べると吸水性が高いものの、比較例3に比べると低吸水性であった。その吸水率は炭化水素基の炭素数が大きいほど低く、炭素数10以上である実施例2、3において特に低吸水性であることが判る。同様に表2に示すように、吸水性のアクリル樹脂を用いた実施例4も、セルロースナノファイバー複合体を含まない比較例2にくらべて高耐熱性、低線熱膨張係数であり、また吸水率も低い値であることが判る。