(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
周囲を断熱材で囲まれた室内の床下に、断熱材であるシンダーコンクリートを配置し、そのシンダーコンクリート中に埋設された管体を流通する水を、0.2m/秒〜0.8m/秒の流速で通流させ、
前記水の前記管体に対する入り口部と戻り口部の温度差が0.5℃以内となるように前記流速を制御し、
所望の床表面温度に対し温度差が暖房時に10℃以内となるように、冷房時にはマイナス7℃以内となるように前記水の温度を制御し、
前記水を前記管体内に常時循環させて室内温度を制御し、
前記戻り口部で前記水の温度を検出し、その検出温度を利用して熱交換器を間欠運転させ、その水の温度と前記床表面温度との差が5℃以内になるように前記水の温度を制御する、
ことを特徴とする室内冷暖房方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態に係る室内冷暖房方法、および室内冷暖房装置について図面を参照しながら説明する。なお、「冷暖房」とは、冷房と暖房の両方を行う場合、冷房のみを行う場合および暖房のみを行う場合の3種類を含むものとする。
【0017】
(室内冷暖房装置1の構成)
図1は、本発明の実施の形態に係る室内冷暖房装置1の全体構成を示す説明図である。室内冷暖房装置1は、床下に熱媒体としての水を通流させて、床材を介して室内の冷房および暖房を可能にした床冷暖房装置である。まず、室内冷暖房装置1を暖房装置として使用する場合の構成について、熱媒体としての水(温水)の通流経路に従って説明する。
図1に示すように、室内冷暖房装置1は、建物外から水を取り入れて貯留する補給水装置2と、暖房系の熱交換器としてのボイラー3を有している。補給水装置2とボイラー3の間には、ポンプ4が備えられており、ポンプ4によって補給水装置2に取り込まれた水がボイラー3に送り込まれる。補給水装置2からの水供給は、循環される水が減少した場合にその減少を検知して行われる。
【0018】
さらに、室内冷暖房装置1は、ボイラー3より下流側に往管ヘッダー5と、ボイラー3によって所定の温度に加温された温水を床下に通流させる管体としての銅管6を備えている。なお、ボイラー3で加温されて、ボイラー3から銅管6、銅管6からボイラー3というように還流される水を温水と呼ぶ。本実施の形態では、銅管6は、銅管7および銅管8の二系列で構成され、往管ヘッダー5によって温水を銅管7、銅管8各々に分岐して通流させている。銅管6を床下に敷設する場合は、暖房しようとする室内の床下全面にわたってほぼ等間隔に蛇行させて配置される。銅管6は、建物(部屋)の広さ、暖房対象の部屋の間仕切り構成、または床下構造によって一系列または三系列以上の分割構成とすることができる。銅管7,8の下流側には、環管ヘッダー9が備えられ、環管ヘッダー9は銅管7,8を通流する温水を1本の通流路にまとめてボイラー3に送流する。これらポンプ4、ボイラー3、往管ヘッダー5、銅管6、および環管ヘッダー9などで、温水を回路内で循環させる暖房系の循環機構を構成している。
図1では、この循環路を太い実線の矢印で示している。
【0019】
ボイラー3から銅管6を経てポンプ4に戻るように循環する回路は閉回路である。往管ヘッダー5によって温水の流れを切り換えることによって部屋ごとに暖房の切り換えをするといった制御が可能である。ただし、銅管7と銅管8の両方に温水を常時通流させておく方が、暖房効果(後述する冷房効果も含む)が高められる。なお、工場等の広い室内を暖房する場合は、面積に応じたボイラー3およびポンプ4の能力によるが1000m
2〜1500m
2の暖房が可能である。その場合はリバースリターン方式の配管を用い、往管ヘッダーおよび還管ヘッダーを増設する。
【0020】
ボイラー3には、密閉膨張タンク10が接続されている。密閉膨張タンク10は、ボイラー3内の膨張水を吸収する機能を備える。密閉膨張タンク10は、ボイラー3の膨張水を空気に触れさせずに吸収し、空気との接触による銅管6内の酸化腐食を抑制する。また、ボイラー3には、不図示の燃料タンクが接続され、ボイラー3に燃料を供給する。ボイラー3の燃料としては、灯油が一般的であるが、プロパンガス(石油ガス)や都市ガス(液化天然ガス)を用いるボイラーも使用可能である。あるいは、熱交換器として電熱を用いることや、温泉熱等を用いることも可能である。
【0021】
本実施の形態において、管体として銅管6を使用した理由は、温水の流動性を高めることと、管体の耐久性を考慮したことによる。もちろん、銅以外の材質の管体を使用することも可能である。
【0022】
なお、熱媒体としての水は、地下水や自然流水なども使用可能であるが、ある程度気泡が除去され、しかも水質が管理された上水道水を用いることが好ましい。水質が管理されている上水道水を用いることで、銅管6の腐食などを抑制して耐久性を向上させることが期待できる。なお、熱媒体として不凍液があるが、水道水よりも熱伝導率が高く(比熱が小さい)、流動性が悪いので、本実施の形態の室内冷暖房装置1には適さない。しかし、別荘など常時居住しない建物の場合は、その限りでない。
【0023】
続いて、室内冷暖房装置1を冷房装置として使用する場合の構成について、
図1を参照しながら熱媒体としての水の通流経路に従って説明する。なお、室内冷暖房装置1は、既述した暖房装置の構成に加えて、補給水装置2と往管ヘッダー5との間に冷房系の熱交換器としてのクーリングタワー11、およびポンプ12が配置されている。補給水装置2に貯留された水は、クーリングタワー11に送り込まれる(
図1では、この循環路を一点鎖線の矢印で示している)。クーリングタワー11で冷却された水は、ポンプ12によって往管ヘッダー5で分岐されて銅管7と銅管8に通流される。これらクーリングタワー11、ポンプ12、往管ヘッダー5、銅管6、および環管ヘッダー9などで、温水を回路内に循環させる冷房系の循環機構を構成している。クーリングタワー11からポンプ12へ、ポンプ12から銅管6へ、銅管6からクーリングタワー11に戻るように循環路が形成されている。この循環路を
図1では点線の矢印で示している。なお、以下の説明では暖房用に加温された水と、冷房用に冷却された水の両者について温水と記載することとする。
【0024】
冷却用の熱交換器としては、自然エネルギーを用いることが可能である。自然エネルギーを用いる方法としては、たとえば、建物の近くに水温が室温より低く(たとえば、25℃以下)、ほぼ一定の流量がある小河川や、井戸水などを用いることが可能である。このような場合、小河川の流水や井戸水の中に冷却用管体を敷設して管体内の水を冷却するので、クーリングタワー11よりも設備投資を抑えることが可能となる。また、冷房用の熱交換器として小型のチラーを用いることができ、クーリングタワー11よりも設備投資を抑えることが可能となる。
【0025】
なお、以上説明したポンプ4およびポンプ12は、温水の所定流量に合わせて選択される。たとえば、回路中に通流させる温水の流量を毎分20リットルとする場合には、送流能力が毎分20リットルのポンプを選択することが好ましい。言い換えれば、そのポンプ能力に見合った流量および流速を所定範囲内の適切な値に制御する。
【0026】
なお、補給水装置2には、ポンプ13が配置されている。温水が循環する暖房系の回路、および冷房系の回路は共に閉回路となっており、通常、これらの回路が完全に密閉されていれば水の補給は必要ない。しかし実際には、循環中にわずかずつ水が減少してしまう。そこで、回路中の温水の減少を検知した場合にはポンプ13を運転して、補給水装置2から暖房系回路または冷房系回路に水を補給する。
【0027】
また、水の通流回路には、三方弁14,15が設置されている。三方弁14は、補給水装置2からボイラー3の間の通流、補給水装置2からクーリングタワー11の間の通流を切り換え制御する。三方弁15は、ボイラー3から銅管6の間の通流、クーリングタワー11から銅管30の間の通流を切り換え制御する。補給水装置2からボイラー3に給水されることで、ボイラー3は運転可能な状態となり、クーリングタワー11に給水されることで、クーリングタワー11は運転可能となる。このように、三方弁14および三方弁15によって、冬季と夏季とで暖房と冷房の切り換えを行えばよい。
【0028】
なお、水の通流回路のうち、銅管6に水を送り込む入り口部の管体を往管部16、銅管6から水が還流する戻り口部の管体を還管部17とする。なお、往管部16は、往管ヘッダー5と、この往管ヘッダー5の前後の流路を含む概念であり、還管部17は、還管ヘッダー9と、この還管ヘッダー9前後の流路を含む概念である。還管部17には、還流してきた温水の温度を検知するセンサ(図示省略)が、内部またはその近傍に設置されている。このセンサは、主として冷房時の温度検知に用いられ、暖房時の温度検知は、ボイラー3に設置されている温度センサによって行われる。
【0029】
図2は、本実施の形態に係る銅管6の形態の一部を示す斜視図である。
図2に示すように、本実施の形態の床下部は、大引材20と根太材21が井桁のように組み合わされた構造体を備え、隣接する根太材21の中間に銅管6が配置される。銅管6のうち、銅管7と銅管8は、同じ構成をしているので、
図2では銅管7を例示している。
【0030】
銅管7は、直管部7aと湾曲部7bとで構成されている。湾曲部7bは、蛇行する銅管7の折り返し部分であり、
図2に示すように半円形に湾曲されている。配管施工の際には温水をスムーズに流すことができるように直管部7aと湾曲部7bの接続部分で管体の内径寸法の変化を小さくする必要がある。温水の流速が大きい場合、直管部7aと湾曲部7bの接続部分で径寸法が変わると、この接続部分で水の流れが妨げられ、うず流や気泡が発生してスムーズな水の流通が妨げられると共に、水が流れる音が発生して不快感を与えることがある。また、気泡の発生は銅管6(銅管7および銅管8)の耐久性を損なう。このため、直管部7aと湾曲部7bを接続する場合は、
図2に示すように受け側の直管部7aの接続端部7cをやや拡径し、直管部7aに湾曲部7bを挿入し、接続した際に内径寸法が変わらないようにする。なお、同径の管体の接続端を突き合わせて外周にソケットを嵌めて接続するようにしてもよい。
【0031】
なお、温水通流回路において、管体にバルブを取り付ける場合も管体の内径寸法が等しいバルブを選ぶのがよい。大量の水を循環させる場合、バルブを閉鎖した際にウォーターハンマー(ショック)が生じ、管体に衝撃を与えて管体を劣化させる原因になることがある。したがって、バルブ閉鎖時にこのようなウォーターハンマーが生じない内径を備えたバルブを使用することが好ましい。銅管7の湾曲部7bの曲率半径は、たとえば100mmまたは150mmのものを用意し、根太材21間のピッチ(根太材21を用いない構造では、大引材20間のピッチ)に合わせて選択する。また、曲率半径100mm
のものと、曲率半径150mmのものを任意に組み合わせることも可能である。このように、湾曲部7aの半径を大きくすることと、温水の流速を0.8m以下に制御することで、温水を層流状態で通流することができる。
【0032】
また、本実施の形態では、銅管6の内径寸法を22mm〜28mmの範囲に設定している。旧来より一般的に用いられる銅管の内径寸法は8mm〜16mmである。本実施の形態において、このように太径の銅管6を使用する理由は、水の流速を抑えながら、管体に通流させる水の流量と管内の総容量をできるだけ大きくするためである。続いて、床下構造部の断熱構造について説明する。
【0033】
図3は、本実施の形態における床下構造部を示す正面断面図であり、
図4は、
図3に対して側面方向から見た断面図である。
図3、
図4に示すように、本実施の形態の床下構造部は、通常用いられるコンクリートが打設された基礎コンクリート22の上面に断熱構造体が構成されていることに特徴を有する。基礎コンクリート22の上面には、大引材20と根太材21を一定の間隔で直交するように組みたてられた構造体に銅管6が配置され、その銅管6を設置した後、銅管6をシンダーコンクリート23によって埋設している。銅管6は、大引材20の上面に架橋されるように配置された状態で、シンダーコンクリート23で埋設される。そして、シンダーコンクリート23の上面に密着するように床仕上げ材24が組み立てられている。床仕上げ材24は、根太材21に架橋するように組み立てられている。なお、シンダーコンクリート23と床仕上げ材24の間に、床下地材を配置す
る構造にしてもよい。
図3、
図4に示す構造は、床仕上げ材24を用いる構造を示しているが、床仕上げ材に畳、絨毯またはカーペットを用いる場合は、大引材20および根太材2
1を省略し、これら床仕上げ材をシンダーコンクリート23の上面に直接敷設する構造とすることが可能である。また、上記床下構造部は、建物(部屋)の使用目的によって変更されることがあるので、その際には狙いの断熱効果を発揮できるように施工者との間で構造を調整する。
【0034】
また、シンダーコンクリート23と基礎コンクリート22の間の床下空間には、押出法ポリスチレンフォーム25(たとえば、スタイロホーム:登録商標)などの断熱材が隙間なく敷設されている。
【0035】
シンダーコンクリート23は特殊な熱伝導体としてセラミック粒状体を混入して練り合わせたものである。本実施の形態ではセラミック粒状体として黒曜石パーライトを用いている。そして、シンダーコンクリート23の好適な混合比として以下の組成のものを使用している。この混合比は、セメント:480g、川砂:165kg(0.1m
3)、黒曜石パーライト1000リットル、添加剤として防水剤18リットル、水セメント比60%とした。このような混合比のシンダーコンクリート23の強度は概ね80kg/cm
2〜100kg/cm
2となる。ただし、施工場所によって、川砂の
使用が制限される場合がある。熱伝導体として使用した黒曜石パーライトは、直径2mm程度の粒状体に形成されたものを用いている。本実施の形態のシンダーコンクリート23と一般に使用されるコンクリート(たとえば基礎コンクリート22)の熱伝導率を比較してみると、基礎コンクリート22の熱伝導率が0.8w/m・k〜1.4w/m・kであるのに対して、本実施の形態のシンダーコンクリートの熱伝導率が0.2w/m・k〜0.4w/m・kである。したがって、本実施の形態のシンダーコンクリート23の熱伝導率は、基礎コンクリート22の約1/3程度であり、高い断熱性を備えている。
【0036】
また、旧来の一般的な床暖房装置では管体に放熱板を取り付けて熱放散させやすくしていることが多いが、本実施の形態では放熱板を設けずに銅管6をシンダーコンクリート23中に埋設している。シンダーコンクリート23は高い断熱作用を備えることから、シンダーコンクリート23によって銅管6内の温水の温度を保持することが可能である。
【0037】
また、基礎コンクリート22の比重は1.8〜2.2程度であり、一般的なシンダーコンクリート(いわゆる軽量コンクリート)の比重は1.2程度である。一方、本実施の形態のシンダーコンクリート23は比重0.8〜1.0である。よって、シンダーコンクリート23の比重は、一般のコンクリートの1/2以下、一般の軽量コンクリートの3/4以下であり、建物の重量負荷を抑えることが可能となっている。このため、家屋の下が駐車場となっている場合や2階に設置するような場合に有利となる。
【0038】
床下構造部の施工は、銅管6の上(周囲)にシンダーコンクリート23を流して固めた後、床仕上げ材24を取り付けて施工を完了する。床仕上げ材24の替りにカーペット、じゅうたん、畳、タイル等を敷設するといった方法も可能である。なお、硬化後のシンダーコンクリート23は乾燥して湿気を吸収しやすく、またひび割れが起きやすいといわれている。しかし、本実施の形態では、建物の強度は他の構造で補完されている。また、シンダーコンクリート23を打設しているときに、セメントの灰汁が流れ出ることを極力防止するためと、乾燥すると湿気を吸収してしまうことを防止するために、押出法ポリスチレンフォーム25とシンダーコンクリート23の間にプラスチックシート26を敷設しておく。このプラスチックシート26の替りに防湿シートなどを敷設したりしてもよい。
【0039】
シンダーコンクリート23中には銅管6のみを埋設し、放熱板といった銅以外の異種金属を埋設しないようにする。シンダーコンクリート23中に異種金属が混在すると、異種金属間で電蝕作用が生じて金属が侵されるからである。銅管6のみをシンダーコンクリート23中に埋設した場合、基材としてのセメントが弱アルカリ性であるため、銅管6を保護することとなり、銅管6が腐蝕されにくく耐久性を高めている。
【0040】
既述したように、シンダーコンクリート23は、断熱性に優れることから銅管6から床面への熱伝導を抑え、銅管6から熱を逃がさないように作用する。シンダーコンクリート23は、このように断熱作用および蓄熱作用を機能として有するものである
。したがって、施工にあたってはシンダーコンクリート23の打設厚と構成材料の混合比を適切に管理しなければならない。
【0041】
本実施の形態では、床下構造のシンダーコンクリート23の全体厚さを90mmとした。そして、シンダーコンクリート23の下面から20mmの高さ位置(つまり、大引材20の上面)に銅管6を敷設して、銅管6の周囲を覆うようにシンダーコックリート23を打設している。たとえば銅管6の外径寸法を30mmとすれば、銅管6の上面からシンダーコンクリート23上面までの厚さは40mmである。なお、この例では、大引材20の厚さを120mm、根太材21の厚さを70mmとした。また、後述する室内の各部の温度を測定した測定記録はこのように設計した場合のものである。なお、銅管6を埋設するコンクリートとして通常のモルタルコンクリートや生コンクリートを使用すると、これらのコンクリートは、熱伝導率が高いため熱放散が大きくなってしまい、暖房効果を損ない、維持費用が増加してしまう。上記のようにシンダーコンクリート23に銅管6を埋設し、床仕上げ下材24をシンダーコンクリート23に密着させることで、温水温度と床表面温度の平衡が保たれる。
【0042】
なお、本実施の形態の室内冷暖房装置1を効果的に作用させるためには、冷暖房対象の建物自体(つまり、冷房および暖房対象の室内)からの放熱を抑えるために、建物自体の断熱性を高めておく必要がある。続いて、建物自体の断熱構造について説明する。
【0043】
(建物の断熱構造)
図5は、本実施の形態に係る一般住宅(平屋)における断熱構造を模式的に示す構造説明図である。
図5に示す構造では、屋根部30の小屋裏側には断熱層31が設けられ、外壁部32には断熱層33が配設されている。さらに、天井部34の小屋裏側には断熱層35が設けられ、間仕切壁36には断熱層37が配設されている。床下構造部は、
図3、
図4で説明した断熱構造を採用している。なお、基礎コンクリート22の側壁22aの内側には押出法ポリスチレンフォーム27が配設され、外壁部32の断熱層33と交差させている。側壁22aに囲まれた領域内において、押出法ポリスチレンフォーム27を介してシンダーコンクリート23が充填打設されている。さらに、側壁22aの外側側面に押出法ポリスチレンフォームを配設し、その外側側面をモルタルなどで保護する構造とすればなおよい。
図3から
図5に示すように本実施の形態の床下構造部は、基礎コンクリート22から床仕上げ材24までの間に空間がないように上記各種の断熱材で充填されている。また、間仕切壁36で仕切られた二つの室内および小屋裏側(屋根部30および天井部34)の断熱層は、それぞれに対応する適切な断熱材が用いられる。このことによって、室内が外部から受ける影響を抑えることで、室内冷暖房装置1の冷房効果および暖房効果を高めることが可能となる。
【0044】
次に、
図5に示した建物の屋根部30、外壁部32、天井部34および間仕切壁36の構造について
図6を参照しながら説明する。なお、
図6に示す構造は1例であって、建物の構造や施工方法によって変更可能である。
【0045】
図6は、本実施の形態に係る建物の断熱構造の一部を模式的に示す構造説明図である。まず、屋根部30の断熱構造について説明する。屋根部30は、棟木40と軒桁41の間を渡すように組み立てられた通気垂木42の上面側に野地板43、その上層に屋根葺材44が取り付けられている。野地板43と屋根葺材44の間には防湿シート45が敷設される。通気垂木42の下面側には地板46が組み立てられていて、野地板43と地板46の間には通気路47が形成される。この通気路47は、屋根頂部の換気棟48の開口部に連通されている。
図6には、この通気路47を通流する空気の流れを矢印で示しているが、夏季と冬季とでは、逆方向に流れることもあり、空気の膨張、収縮に伴う空気の自然通流を促すものである。このような屋根構造は一般的な建物構造に用いられるものであって、寄棟構造または切妻構造などに適用可能である。屋根部30の断熱層31は、地板46に小屋裏側から発泡ウレタン49を100mm程度の厚さで隙間なく吹き付けて形成される。
【0046】
次に、外壁部32の断熱構造について説明する。
図6に示すように、外壁部32は、外気に接触する外壁55と室内側の内壁56の間に、断熱層33が設けられている。断熱層33は、内壁55側に厚さ100mmのグラスウール57を配置し、ガラスウール57と外壁55の間には、吹付施工法によって発泡ウレタン58が充填される。このことによって、外壁55と内壁56の間は、ガラスウール57と発泡ウレタン58によって隙間がないように断熱層33が形成される。
【0047】
次に、天井部34の断熱構造について説明する。
図6に示すように、天井部34は、つり木60に天井地板61が取り付けられており、この天井地板61に室内側から断熱材としての押出法ポリスチレンフォーム62が取り付けられることで断熱層35が構成されている。そして、この押出法ポリスチレンフォーム62の室内側から天井仕上げ材63が取り付けられている。押出法ポリスチレンフォーム62は、少なくとも50mmの厚さを備える。押出法ポリスチレンフォーム62は、小屋裏と室内との間に隙間ができないように施工される。なお、断熱材としては、押出法ポリスチレンフォーム62以外に、グラスウールや発泡ウレタンまたは硬質発泡ウレタン
フォームなどとしてもよい。また、軒桁41の内側には、発泡ウレタン49が吹付施工される。このように天井部34に断熱材を配設することにより、室内と小屋裏との間の温度移動を抑制することと同時に、床表面からの輻射熱を反射する構造体が形成される。
【0048】
続いて、間仕切壁36の断熱構造ついて説明する。
図6に示すように、間仕切壁36には、一方の室内壁65と他方の室内壁66の間に、断熱層37としてグラスウール57が隙間なく配設されている。このように間仕切壁36にも断熱材を配設することで、間仕切りされた室内間の温度移動を抑制することと同時に、床表面からの輻射熱を反射する構造体が形成される。
【0049】
屋根部30と外壁部32との間、外壁部32と天井部34との間、および外壁部32と床下構造との間それぞれの取り合い部には、図示は省略するが、発泡ウレタンの吹付け施工などで隙間を排除する。
【0050】
以上説明した建物の構造は、
図3、
図4に示す床下構造部、
図5、
図6に示した屋根部30、外壁部32、天井部34、および間仕切壁36など、室内を囲むように断熱施工がなされている。所望の室内の冷暖房効果を得るためには、床下構造部の他に、少なくとも屋根部30および外壁部32に断熱構造を用いることが好ましい。天井部34や間仕切壁36に断熱構造を採用すればさらに好ましい。なお、断熱構造は、上記したもの以外を作用してもよいが、上記のものが好ましい。本実施の形態の各部の断熱構造は、S構造(鉄骨構造)、RC構造(鉄筋コンクリート構造)およびSRC構造(鉄骨鉄筋コンクリート構造)の建物にも適応可能である。
【0051】
なお、建物に窓がある構造の場合には、たとえば、窓構造として複層ガラスや二重サッシなどを用いることが好ましい。このような場合、樹脂製や木製の枠などの断熱性の優れた材質のものを用いることが好ましく、これら高い断熱性を有する枠を内壁56に密着させるように施工することが断熱効果を高めることになる。なお、これらサッシは重量が重いため、外付け、反外付け構造は避け、内付け構造とすることが好ましい。
【0052】
また、以上説明した建物は、一般の平屋住宅を例示したが、2階建て、3階建て等の建物にも適用可能である。そのような多層建物構造の場合には、各フロア間(一方が床、他方が天井となる)に、既述した床下断熱構造および天井断熱構造を採用することで、2階以上の室内を所望の温度で制御することが可能となる。その構造について
図7を参照して説明する。
【0053】
図7は、本実施の形態による2階フロアの床下構造を示す断面図である。
図7に示すように、2階床下は、桁70と胴差(不図示)で囲まれた領域に28mm厚みの合板71が張られている。合板71の上面には、押出法ポリスチレンフォーム73が敷設され、この押出法ポリスチレンフォーム73の上部にシンダーコンクリート74が打設されている。銅管6は、シンダーコンクリート74内に埋設されるが、銅管6からシンダーコンクリート74の上面までの厚さが少なくとも20mmとなる位置に配置される。シンダーコンクリート74は、セメント、黒曜石パーライト、添加剤として防水剤および水セメントとから構成されている。この組成は、1階床下構造で用いたシンダーコンクリート23から川砂を除いたものである。川砂を除くことでシンダーコンクリート74の熱伝導率を下げている。本実施の形態では、押出法ポリスチレンフォーム73の厚さを50mmとし、シンダーコンクリート74の厚さを70mmとした。なお、押出法ポリスチレンフォーム73とシンダーコンクリート74の間には、不図示のプラスチックシートを敷設することが好ましい。床仕上げ材75は、シンダーコンクリート74の外周部よりも2mm〜3mm下げた位置に敷設する。
【0054】
図3、
図5に示した1階床下構造部のシンダーコンクリート23の厚さは90mmであったが、2階フロアのシンダーコンクリート74の厚さを70mmにすることで軽量化を実現し、建物の重量負荷を減少させている。一般木造建物の耐荷重は180kg/m
2とされているが、シンダーコンクリート74の重量は70kg/m
2以下であり、耐荷重には十分な余裕がある。合板71は、シンダーコンクリート74の重量に十分耐え得る強度を備えた厚さ28mmのものを使用する。なお、シンダーコンクリート74は、2階フロアの平面全体にわたって充填打設されていることから、水平方向の力を面全体で受ける構造となっているため、水平方向の耐荷重が大きく、高い耐震性を備えることになる。
【0055】
図7に示すような2階構造の建物には、1階室内側の天井部80に断熱構造を設ける。天井部80は、桁70の下面に野縁72を取り付けた後、野縁72から下方に向かって取り付けられたつり木81に天井地板82を取付け、1階室内側から押出法ポリスチレンフォーム83を天井地板82に密着するように下面側全面に取り付けた後、天井仕上げ材84を室内側から取り付けて構成される。天井仕上げ材84は、天井仕上げ材84、押出法ポリスチレンフォーム83、および天井地板82を貫通する不図示の取付け金具を用いて野縁72に取付けられる。天井地板82と押出法ポリスチレンフォーム83、押出法ポリスチレンフォーム83と天井仕上げ材84は、相互に隙間がないように施工される。なお、外壁部32側の桁70の内側には、発泡ウレタン49が吹付施工される。
【0056】
なお、2階構造の建物においても、前述した平屋の場合と同様に、外壁部32には、外壁55と内壁56の間に
図6に示すようなグラスウール57(厚さ100mm)と発泡ウレタン58(厚さ20mm〜30mm)を用いた断熱構造を採用することが好ましい。不図示の2階フロアの天井部も
図6に示す断熱構造を採用することが好ましい。施工するにあたって、取り合部に隙間ができてしまう場合には、発泡ウレタン吹付施工により、これら取り合い部の隙間を塞ぐことが好ましい。
【0057】
2階建て、3階建てのような多層構造の建物の室内暖房用には、ポンプ4の揚程に適合した位置にボイラー3およびポンプ4を配設する。たとえば、2階位置にポンプ4を配置し、各階フロアの銅管6に通流することが可能である。このような場合には、前述したようなリバースリターン方式の配管を用いる。この際、ボイラー3もポンプ4と同じ位置に配置することが可能である。
【0058】
(室内冷暖房装置1を用いた室内冷暖房方法)
はじめに、室内冷暖房装置1を用いた暖房方法について
図1を参照しながら説明する。暖房の場合には、まず、三方弁14によってクーリングタワー11行きの流路を閉鎖し、補給水装置2とボイラー3の間を連通させる。さらに三方弁15によってクーリングタワー11からの流路を閉鎖してボイラー30と銅管6の間を連通させる。このように温水の循環路を形成してポンプ4を運転する。
【0059】
ポンプ運転後、送流されている水をボイラー3で床表面温度に対して温度差を10℃以内、好ましくは7℃以内、さらに好ましくは5℃以内になるように加温し、往管ヘッダー5を介して銅管6内に温水を通流させる。
【0060】
本実施の形態では、銅管6(銅管7および銅管8)の内径寸法を22mm〜28mmとし、1分間に15リットル〜20リットルの流水量とする。さらに、温水の流速を0.4m/秒〜0.6m/秒とする。一般住宅の水道の蛇口を全開したときの出水量は、1分間に13リットル〜20リットル程度であるから、本実施の形態において銅管6内を通流させる水の流量は、水道の出水量にほぼ匹敵する。なお、流量は、10リットル/分〜30リットル/分の範囲内としてもよい。また、流速は0.2m/秒〜0.8m/秒の範囲としたり、1.5分〜3.5分で100m長を還流するようにしたりしてもよい。
【0061】
暖房効果を高めるためには、熱媒体としての水を、大量に、しかもゆっくり通流させること、暖房系の通流回路に温水が大量に存在すること、さらに、この領域の水温がほぼ一定であることが重要である。この温水温度は、温水が回路内を循環する時間に左右される。本実施の形態による床下断熱構造を用いていることを前提に、たとえば、温水の通流回路の配管長が100mの場合に、1.5分〜3.5分程度で循環すれば、銅管6の往管部16と還管部17の温度差を0.2℃〜0.3℃以内(大きくても0.5℃以内)に抑えることが可能である。
【0062】
温水の1サイクルの循環に要する時間は配管長にもよるから、施工にあたっては上記流量と流速を配慮して暖房系の回路の配管径と配管長を設定する。そして、往管部16と還管部17の温度差が0.5℃以内、好ましくは、0.3℃以内になるように、上記流量と流速を制御する。つまり、銅管6の内径寸法を22mm〜28mmにし、1分間に15リットル〜20リットルの流量の温水を、流速0.2m/秒〜0.8m/秒、好ましくは0.4m/秒〜0.6m/秒で通流させ、往管部16と還管部17の温度差を0.5℃以内となるように、暖房系回路の配管径、配管長、およびポンプ4の能力で調整する。
【0063】
銅管6から還流される温水は、環管ヘッダー9を介してポンプ4へ通流される。ポンプ4による送流において所定流量が確保されない場合には、ポンプ13によって補給水装置2から水を補給することで、常に所定の流量が確保される。続いて、室内冷暖房装置1を暖房装置として運転したときの測定記録について説明する。
【0064】
(暖房の測定記録の説明)
図8および
図9は、暖房時の外気温、室内温度、および温水温度を連続的に測定したときの測定記録であり、
図8は、冬季(2月)の早朝3時から8時までの時間、
図9は、翌日の昼前後の9時から15時までの測定記録を表している。測定記録としては、その時間帯の外気温、往管部16の温水温度、還管部17の温水温度(
図8,9における往管部16の温水温度の下側の測定記録)および床表面温度ならびに床上50cm位置、床上120cm位置、および床上240cm(天井付近)の室内温度を表している。このときの条件としては、銅管6の内径寸法が28mmであって、1分間に15リットル〜20リットルの流量範囲、0.4m/秒〜0.6m/秒の流速範囲になるように、暖房系回路の配管径、配管長、およびボイラー3の能力で調整してある。暖房系設備としては、ボイラー能力3200kcal/H、ポンプ4の送流能力を20リットル/分、揚程5mとした。
図8、
図9で示す測定記録は、ボイラー3およびポンプ4を1日24時間、常時運転したときの実測記録である。建物構造としては、
図6に示すような断熱構造を採用している。常時運転とは、ボイラー3は着火温度および消火温度の設定により間欠燃焼とし、ポンプ4は連続運転させることをさす。
【0065】
ボイラー3は、たとえば着火時と消火時の温度差を5℃としたとき、還管部17の温水温度が26℃になる時点で燃焼を開始し、31℃になった時点で消火する、というサイクルを繰り返すように運転条件を設定してある。ボイラー3には温度センサが設置されており、ボイラー3に流入する温水温度を測定し、着火および消火のタイミングを制御する。
図8に示すように、外気温は、3時前から6時45分頃にかけて徐々に低下し、5時でマイナス10℃となり、以降若干低下した後、徐々に外気温は上昇していていく。外気温は、建物北側および建物南側の2か所を測定している。3時から6時までの間では、北側と南側の外気温差はほとんどない。6時45分以降では、日照が始まったことの影響により南側外気温の方が北側外気温より高く、南風の影響により測定値のばらつきが大きくなる。
【0066】
6時前後の午前2時半から8時半までの各部の温度に着目して説明する。この時間帯の測定記録では、往管部16と還管部17の温水温度の差は0.3℃程度(ただし、ボイラー燃焼直後には2℃程度ある)である。還管部17の温水温度が26℃から31℃に達するまでの時間(
図8において、還管部温度の最低温度からその左に位置する最高温度までの時間)は約5分であり、着火から消火までの1サイクルがほぼ60分であることから、ボイラー3の燃焼時間は、1日24時間のうち、120分程度で済んでいることが分かる。暖房系の設備は常時運転をしていることから、午前2時半から日照の影響を受ける8時頃までの間は、床表面温度は、外気温の影響で若干低下するもののほぼ23℃に保たれている。各床上高さ位置の温度は、50cm位置と120cm位置の温度差が1℃程度で、床表面温度にほぼ平行に推移しながらもほぼ16℃に保たれている。床上240cm位置では、床表面温度にほぼ平行に推移しながらもほぼ18℃程度に保たれている。また、床表面温度23℃に対して、温水温度を31℃にした場合、床表面温度と温水温度の差は約8℃となっている。したがって、暖房系の循環機構を常時運転していれば、ボイラー3によって温水温度を26℃〜31℃に変動させても、床表面温度や、室内の各床からの高さ位置の温度の変動がほとんどないといえる。以上のことから、ボイラー3における着火時の温水温度と消火時の温水温度の差は、5℃〜8℃に設定するのが適当である。
【0067】
続いて、
図9を参照して12時前後の各部の温度関係について説明する。ボイラー3の燃焼設定条件は変わらない。なお、
図9の測定記録は、
図8の測定記録に時間経過が連続している。
図9に示すように、外気温は、9時から14時にかけて徐々に上昇し、12時から14時の間に気温のピークが存在する。この時間帯の外気温は、建物北側と建物南側とでは差が大きくなる。南側外気温は日照の影響を強く受けるため+6℃前後まで上昇し、午前8時半から午後3時の間では、北側外気温は日照の影響が少なく+3℃前後までしか上昇しない。床表面温度は、外気温の上昇に伴い上昇するが、暖房系の循環機構を常時運転していることから23℃〜24.5℃の範囲に保たれている。そして、各床上高さ位置の温度は、この時間帯のうちの大部分で、50cm位置と120cm位置、床上240cm位置の温度差は1℃以下程度で、床表面温度の推移に沿って変化しながらも17.5℃から22℃に保たれ、13時頃には21℃〜22℃20℃に保たれている。なお、15時以降、徐々に外気温が低下するのに従い、床表面温度、および各床上高さ位置の温度は徐々に低下し始めるが、
図8に示した早朝時間帯とほぼ同じ傾向を示すことが確認されている。
【0068】
以上説明したボイラー3の燃焼設定条件で運転し、ポンプ4を連続運転した場合、外気温がマイナス10℃から+3℃(南側は+6℃)の範囲で、床表面温度の変化量はほぼ2℃であり、大きな変動はないといえる。
図8、
図9に示した例では、温水温度が26℃のときボイラー3を燃焼し、温水温度が31℃のとき消火するように運転条件を設定している。つまり、所望の室内温度の基準を床表面温度としたとき、温水温度を床表面温度に対して1.5℃〜8℃高くなるようにボイラー3を燃焼するように運転すればよい。また、床表面温度は、温水温度(還管部17の温度)の最低値に対して1.5℃〜3℃の範囲で低くなっていることから、還管部17の温水温度を検出して差分を補正し、床表面温度に置換えて制御する。なお、ボイラー3の着火、消火を制御する温度設定は、所望の室内温度に応じて自在に設定可能である。
【0069】
次に、室内冷暖房装置1を用いた冷房方法について
図1を参照しながら説明する。冷房の場合は、まず、三方弁14によってボイラー3行きの流路を閉鎖し、補給水装置2とクーリングタワー11の間を連通させる。さらに三方弁15によってボイラー3からの流路を閉鎖し、一方、クーリングタワー11からの流路を解放してクーリングタワー11と銅管6の間を連通させる。このような温水の循環路を形成してポンプ12およびクーリングタワー11を運転する。クーリングタワー11に送流された水を床表面温度に対して温度差を7℃以内、好ましくは5℃以内になるように冷却する。そして、往管ヘッダー5を介して銅管6内に冷却された水を通流させる。
【0070】
本実施の形態では、銅管6(銅管7および銅管8)の内径寸法、流水量、および流速は、前述した暖房時の条件と同じである。冷房効果を高めるためには熱媒体としての温水を大量に、しかもゆっくり通流させる。したがって、冷房系の回路の配管長が100mの場合に、1.5分〜3.5分程度で循環すれば、往管部16と還管部17の温度差を0.5℃以内に抑えることが可能である。
【0071】
温水の循環1サイクルに要する時間は、配管長にもよるから施工にあたっては上記流量と流速を配慮して冷却系の回路の配管径と配管長、ポンプ12の能力を設定する。つまり、往管部16と還管部17の温度差が0.5℃以内(好ましくは、0.3℃以内)になるように、上記流量と流速を制御する。本実施の形態では暖房系と同様に、銅管6の内径寸法を22mm〜28mmにし、1分間に15リットル〜20リットルの流量の温水を、流速0.4m/秒〜0.6m/秒で通流させ、銅管6の往管部16と還管部17の温度差を0.5℃以内となるように、冷房系回路の配管径、配管長を調整する。
【0072】
銅管6から還流される温水は、環管ヘッダー9を介してクーリングタワー11へ通流される。ポンプ12による送流において所定流量が確保されない場合には、ポンプ13によって補給水装置2から水を補給し、常に所定の流量が確保される。続いて、室内冷暖房装置1を冷房装置として運転したときの測定記録について説明する。
【0073】
図1に示すように本実施の形態では、冷却用熱交換器としてクーリングタワー11を用いており、冷房系循環機構(クーリングタワー11とポンプ12)を常時運転しつつ、クーリングタワー11の運転制御によって室内温度を制御する。冷房系回路は閉回路であって、温水がポンプ12によって常に一定の流速、一定の流量で回路内に循環されている。本実施の形態では、暖房系と同様に室内温度は、床表面温度を基準にすることで管理される。床表面温度に対して冷却された温水の温度(還管部17の温度)の差を7℃以内とする。ただし、この温度差を10℃以内としてもよいが、床表面温度よりも温水温度が7℃以上低くなると床表面が結露するので、この温度差を7℃以内にする。床表面温度が所望の床表面温度よりも高くなったときに、クーリングタワー11で冷却された温水を銅管6に送流する。そして、床表面温度が所定の床表面温度よりも低くなったときに、クーリングタワー11による冷却を停止する。ただし、温水の通流は継続する。このサイクルを繰り返すことで、床表面温度(室内温度)を所望の温度に制御可能となる。続いて、室内冷暖房装置1を運転したときの冷房の測定記録について説明する。
【0074】
(冷房の測定記録の説明)
図10は、冷房時の外気温、室内温度、および温水温度を連続的に測定した測定記録であり、夏季(7月)の7時から14時までの測定記録を表している。測定記録には、その時間帯の外気温、温水温度、床表面温度、床上120cm位置の室内温度を含む。また、この測定記録は、冷却用の熱交換器としてクーリングタワー11ではなく、平均水温18度〜20℃の小河川の自然流水を用いている。このときの運転条件は、銅管6の内径寸法が28mmであって、1分間に15リットル〜20リットルの流量、流速0.4m/秒〜0.6m/秒になるように、冷房系回路の配管径、配管長を調整し、ポンプ12の送流能力を20リットル/分とした。
図10で示す測定記録は、冷暖房装置1の冷房系を1日24時間、常時運転したときの実測記録である。建物構造としては、
図6に示すような断熱構造を採用している。
【0075】
なお、冷却用熱交換器として自然流水を用いる場合には、熱媒体としての水の流速を0.4m/秒〜0.6m/秒としたときに、環管部17の温度が所望温度まで冷却が可能な長さと内径を備えた配管を流水中に埋設する。
【0076】
図10は、1日のうちの7時から14時までの7時間の測定記録である。外気温は、8時頃から11時過ぎまでの間では27℃前後であって、床上120cm位置の室内温度とほぼ同じになっている。13時頃には、外気温は30℃〜32℃になっている。この時間帯の床表面温度は、7時頃が24℃、8時30分頃に24.5℃、12時頃に23℃、そして14時頃に24℃というように、23℃〜24.5℃の範囲の中で変動している。床上120cm位置の室内温度は、外気温の高低に影響されずに26℃〜27℃の範囲でほぼ一定に保たれている。つまり、床表面温度と床上120cmの室内の温度差は、外気温の高低に関わらず概ね4℃以内に制御可能であることを示している。また、床上120cmの室内の温度と自然流水の温度の差は、外気温の変動に限らず、ほぼ7℃〜8℃に保たれている。また、
図10に示すように、床表面温度の変化のタイミングは、温水温度(環管部17の温度)が変化するタイミングである。
【0077】
つまり、所望の室内温度に対応する床表面温度(環管部17の温度と同じ温度)が24℃の場合、床表面温度が24℃を超えたときに冷却された温水を通流させる。環管部17の温度が21℃のときに冷却された温水の流通を停止し、銅管6から還流された温水をそのまま再循環させているためである。したがって、ポンプ12は、冷房設定期間中も常時運転されている。
【0078】
なお、本実施の形態で冷却用媒体として用いた小河川の自然流水は、ほぼ一定の流量があり、水温は7時から15時の時間帯では18℃〜20℃の範囲にある。図示は省略しているが、この自然流水の温度は1日24時間を通して15℃〜23℃である。また、往管部16と還管部17の温度差は、0.5℃以内であり、還管部17の温度は、銅管6内の温水温度といえる。なお、自然流水の温度が、
図10の実施例よりも高い場合(所望の室内温度に対応する床表面温度に近い場合)には、冷却された温水は配管内のみに常時循環させる。
【0079】
なお、
図8〜
図10は、紙面の都合上、冬季(2月)と夏季(7月)の1日の特定時間のみをあげ説明したが、冬季、春季と秋期、または夏季における平均外気温に対応した室内温度制御の考え方について表1を参照しながら説明する。銅管6に通流する温水温度は、冷房開始のときに適宜設定する。たとえば、表1のような各温度設定で好適な室内冷暖房が可能であり、各シーズン中は表1を参考にして温度設定をすることが可能である。当然、地域によって季節ごとの平均外気温が異なることや、居住者によって快適な室内温度が異なるので、所望の室温に対応して床表面温度を設定して室内冷暖房装置1の温度設定を調整すればよい。
【0081】
たとえば、表1において、暖房時(冬季、春季および秋季)の温水温度として設定する25℃〜33℃は、床表面温度に対して3〜5℃の温度移動ロスを見込むと、暖房しようとする室内温度とほぼ同じ温度である。本実施の形態は、従来の床暖房方法のように設定しようとする室温よりもはるかに高温(50℃〜60℃)の温水を通流させる方法と異なっている。また、夏季の冷房時の温水温度として設定する22℃〜25℃という温度は、床表面温度とほぼ同じであって、床表面温度に対して5℃以内の温度移動ロスを見込んで冷房しようとする室内温度にほぼ同じ温度である。
【0082】
以上説明した室内冷暖房方法は、周囲を断熱材で囲まれた室内の床下に、断熱材であるシンダーコンクリート23を配置し、そのシンダーコンクリート23中に埋設された銅管6を流通する温水を、0.2m/秒〜0.8m/秒の流速で通流させる。そして、温水の銅管6に対する往管部16(入り口部)と還管部17(戻り口部)の温度差が0.5℃以内となるように流速を制御し、所望の床表面温度に対し温度差が暖房時に10℃以内となるように、冷房時にはマイナス7℃以内となるように温水の温度を制御し、温水を銅管6内に常時循環させて室内温度を制御する。
【0083】
暖房の場合には、ボイラー3およびポンプ4を常時運転し、温水を常時循環すれば、ボイラー3によって温水温度を26℃〜31℃に変動させても、床表面温度や、室内の各床面からの高さ位置の温度の変動がほとんどない。外気温がマイナス10℃のときでも、床表面温度は、ほぼ23℃に保たれ、各床上高さ位置の温度は、50cm位置と120cm位置の温度差が1℃程度で、ほぼ16℃に保つことが可能となる。また、冷房の場合には、所望の床表面温度に対し温度差がマイナス7℃以内となるように温水の温度を制御し、温水を銅管6内に常時循環すれば、外気温が27℃〜32℃に変動しても、床表面温度は23℃〜24.5℃の範囲の変動であり、このときの室内温度は、26℃〜27℃の範囲でほぼ一定に保つことが可能となる。
【0084】
以上説明した室内冷暖房方法および室内冷暖房装置1によれば、往管部16と還管部17の温度差が0.5℃以内になるように制御しているため、温水の温度制御(つまり室内の温度制御)が容易となる。また、床表面温度と温水温度の差の変動が小さいことから効率よく室内の冷房および暖房を行うことが可能となる。また、温水温度を26℃〜31℃の場合に、床表面温度は23℃程度に保たれており、直接床表面に座しても低温火傷の心配がなく、足元だけ暖かく、上方は寒いというようなことはない。さらに、観葉植物などの鉢を床表面に直接置くことが可能で、室温も場所(高さ、平面位置)による温度差が小さいので厳冬期でも植生を楽しむことができる。
【0085】
また、水の流速を0.2m/秒〜0.8m/秒とし、かつ銅管6内を流れる水の流量を15リットル/分〜20リットル/分としている。また、暖房時の温水温度は30℃前後である。つまり、暖房用の熱媒体としては低温の温水をゆっくり通流させていることになる。これは、50℃〜60℃の高温で、毎分50リットルという大量の温水を毎秒1.5mの高速で銅管内を循環させる従来技術にくらべ、銅管6の内壁や他の配管内壁の摩耗などにより劣化(たとえば銅管に穴が開きやすいなど)することを抑制し、高い耐久性を実現することが可能となる。なお、一般に用いられてきた暖房機の温源の温度は、FF式の石油温風暖房機の吹出し温度が100℃〜120℃であり、温水温風暖房器の吹出し温度が60℃〜80℃、あるいは従来の床暖房装置の温水温度は50℃〜60℃である。これらが室内空気の対流を利用することに対して、断熱性(蓄熱性)が高いシンダーコンクリート23を用いて、温水温度を30℃前後に低くすることで熱の対流を抑え床表面からの輻射熱を引き出し、温水温度を低くしても十分な暖房効果を得ることができる。
【0086】
また、還管部17で温水温度を検出し、その検出温度を利用してボイラー3またはクーリングタワー11を間欠運転させ、その温水温度と床表面温度との差が5℃以内になるように温水温度を制御する。既述したように床表面温度と室内温度の差が小さいので、温水温度と床表面温度の差を5℃以内に制御する。このことにより、所望の温水温度に加温するボイラー3の間欠燃焼、クーリングタワー11の間欠運転により、ランニングコストの低減が可能となる。
【0087】
また、以上説明したボイラー3の燃焼条件(間欠燃焼)における1月〜3月の厳冬期の平均燃料消費量から算出した消費カロリーは、20kcal/m
2Hであった。これは、日本ガス石油工業会の暖房機器適室基準値の必要消費カロリー数値の寒冷地平均は169kcal/m
2H(高断熱仕様2009年度)に対して約12%の消費カロリーとなっている。従来から存在する床暖房機の消費カロリー100kcal/m
2Hに対しても20%に消費カロリーが抑えられている。このことからも、ランニングコストの低減を実現できている。
【0088】
また、建物構造は、床下に断熱材を設置することに加え、屋根部30および外壁部32に断熱施工が施されている。このように室内を取り囲むように断熱材を設けることで、室内が外部から受ける影響を抑えることで、冷房効果および暖房効果を高めることが可能となる。さらに、床表面からの輻射熱と、高断熱性を備えた外壁部32および天井部34からの輻射熱(再輻射熱)によって、室内温度の平衡が保たれ、室内の場所(高低位置および壁からの位置)による温度差を小さくすることができる。なお、建物構造としては、前述したような断熱構造が必要であるが、高気密性は必ずしも必要としない。
【0089】
また、建物構造は、床下の断熱材と、屋根部30、外壁部32に加え、さらに天井部34に断熱施工を施す構造を採用している。天井部34には、天井地板61の下側に押出法ポリスチレンフォーム断熱材62が設置され、押出法ポリスチレンフォーム断熱材62の下側に天井仕上げ材63が設置されている。このような断熱構造をとれば、室内が小屋裏から受ける影響を抑えることで、冷房効果および暖房効果をさらに高めることが可能となる。
【0090】
また、室内冷暖房装置1は、水の温度を制御する熱交換器と、温水を銅管6に送流するポンプ4,12と、を有し、水を、0.2m/秒〜0.8m/秒の流速で管体を通流し、水の管体に対する入り口部と戻り口部の温度差が0.5℃以内となるように、流速を制御し、所望の床表面温度に対し温度差が暖房時に10℃以内となるように、冷房時にはマイナス7℃以内となるように水の温度を制御し、水を管体内に常時循環させて室内温度を制御する。
【0091】
このようにすることで、温水の温度制御(つまり室内の温度制御)が容易となる。また、床表面温度と温水温度の差の変動が小さいことから効率よく室内の冷房および暖房を行うことが可能となる。
【0092】
なお、本発明は前述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。たとえば、前述した実施の形態では、還管部17の温度に基づいて熱媒体としての水を加温または冷却しているが、往管部16の温度を測定してもよいし、床表面温度を直接測定してもよく、床上高さを規定して室内温度を測定するようにしてもよい。
【0093】
また、本実施の形態の室内冷暖房装置1と他の冷房装置や暖房装置とを併用してもよい。たとえば、サーキュレーターを併用すれば、暖房時に室内空気の循環を促進することが可能となり、エアコンまたはチラーを天井付近に配置すれば、室内の空気対流を促進して、冷房時に床表面が結露することを防止できる。これら、サーキュレーターまたはエアコンは、補助的なものであり、ごく小型の物でよい。また、冷房系の装置を設けずに暖房系のみに用いたり、逆に暖房系の装置を設けずに冷房のみに用いたりしてもよい。
【0094】
また、室内周囲に設けられる断熱構造および断熱材は、
図6に示す構造に限らず、建物の大きさや構造によって適宜選択、または様々な断熱材の組み合わせとすることが可能である。
【0095】
また、本実施の形態では、一般木造住宅の室内冷暖房にについて説明したが、一般住宅に限らず、温泉プールなどの歩行用タイルデッキ、ペットルームおよび畜舎などの床暖房、または岩盤浴などに用いることができる。