【実施例】
【0038】
本発明を、以下に記載するような、異なった実施例により詳細に説明する。
【0039】
例1:
この例は、導電性が低減するにつれてサイクル安定性が改善されることを示している。改善された安定性および導電性の低減は、Li:金属比を最適化することによって達成される。
【0040】
LCO−1の製造:0.25モル%のチタンおよび0.5モル%のマグネシウムによりドープされたCo(OH)
2の調製物は、パイロットラインで、LiCoO
2の前駆体として製造される。チタンおよびマグネシウムによりドープされたLiCoO
2(LCO−1と表示)は、標準的な高温固相合成を用いて、前駆体とLi
2CO
3とを混合することによって得られ、平均粒径25μmが得られる。
【0041】
島により被覆されたLCO−1の製造:カソード粉末材料は、95質量%のチタンおよびマグネシウムによりドープされたLiCoO
2(LCO−1と表示)と、5質量%の、MOOHの混合された遷移金属オキシ水酸化物(M=Ni
0.55Mn
0.30Co
0.15)および規定量のLi
2CO
3、またはLi
2CO
3は用いずにこれらを混合することにより製造される。例1a、1bおよび1cを、第1表に記載のとおりに製造し、かつ十分に混合して均一な原料混合物を製造する。この混合物を、アルミナるつぼに装入し、かつ1000℃で8時間、一定の空気流の下で加熱する。冷却後、得られる粉末を篩分けし、4プローブDC導電性により特性決定し、かつさらに電気化学的な特性決定のためにコイン電池に装着する。
【0042】
【表1】
【0043】
第2表は、例1a、1bおよび1c、ならびにLCO−1の適用圧力63MPaにおける導電性および電気化学的性能をまとめたものである。LCO−1および例1aのSEM画像が
図1に示されている。これらの2つの生成物の形態は極めて異なっている。LCO−1は、平滑な表面を有し、凝集していない粒子を有している一方で、例1aは、LiCoO
2粒子の表面に粒子状の島による被覆を有している。
【0044】
【表2】
【0045】
導電性および4.5Vでのサイクル安定性との関係は
図2に示されている。被覆された試験体(つまり例1a〜1c)の導電性は、被覆されていないLCO−1のものよりも3〜4桁低い。LCO−1の電気化学的特性、たとえば放電容量、レート性能、容量損失およびエネルギー損失率は、極めて劣っている。例1a〜1cは、LCO−1との比較において、これらの特性の劇的な改善を特徴付けている。例1a〜1cに関して、導電性はリチウムの添加によって増大している。同時に、容量損失およびエネルギー損失の両方が改善される。抵抗性の低減は、被覆した試験体および被覆していない試験体の両方に関して、4.5Vで安定性の改善と十分に相関している。
【0046】
例1a、bおよびcは、絶縁性であり、かつ本発明の実施態様の例である。
【0047】
この例および以下の全ての例において、電気化学的性能は、コイン電池において試験し、その際、Liシートを25℃で六フッ化リチウム(LiPF
6)タイプの電極中での対向電極として用いる。活性材料の負荷量は、10〜12mg/cm
2の範囲である。電池を4.3Vで充電し、かつ3.0Vで放電して、レート性能および容量を測定する。高電圧放電容量および延長されたサイクルにおける容量保持率を、4.5Vまたは4.6V(例3〜4および9)の充電電圧で測定する。
【0048】
比容量160mAh/gを、放電レートの決定のために選択する。たとえば、2Cでの放電に関して、比電流320mA/gを使用する。
【0049】
これは、この記載におけるコイン電池および完全型電池の全てにおいて使用される試験の概要である。
【0050】
【表3】
【0051】
以下の定義をデータ分析のために使用する(Q:容量、D:放電、C:充電)。
【0052】
放電容量QD1は、0.1Cで4.3〜3.0Vの範囲における最初のサイクルの間に測定される。
【0053】
不可逆容量Qirrは、(QC1−QD1)/QC1(%)である。
【0054】
レート性能:それぞれ0.2、0.5、1、2、3CでのQD対0.1CでのQD。
【0055】
100サイクルあたりの損失レート(0.1C)、容量に関する:(1−QD31/QD7)×100/23。
【0056】
100サイクルあたりの損失レート(1.0C)、容量に関する:(1−QD32/QD8)×100/23。
【0057】
エネルギー損失率:放電容量QDに代えて、放電エネルギー(容量×平均放電電圧)を使用する。
【0058】
例2:
この例は、島により被覆されたLiCoO
2のサイクル安定性が、被覆されていないLiCoO
2のものよりもはるかに高いことを示しており、この場合、同時にその導電性は、約5桁低い。この例は、島により被覆されたLiCoO
2のサイクル安定性が、固有導電性の低減と共に増大することの明らかな証拠を提供するものである。
【0059】
LCO−2の製造:LiCoO
2のための前駆体として、1モル%のマグネシウムドープされたCo(OH)
2を、パイロットラインで製造する。マグネシウムドープされたLiCoO
2(LCO−2と表示)は、標準的な高温固相合成により、前駆体とLi
2CO
3とを混合することにより得られ、平均粒径25μmが達成される。
【0060】
LCO−3の製造:1モル%のマグネシウムドープされた四酸化コバルト(Co
3O
4)粉末を、LiCoO
2の前駆体として使用する(Umicore(韓国)の市販品)。マグネシウムドープされたLiCoO
2(LCO−3と表示)は、標準的な高温固相合成により前駆体とLi
2O
3とを混合することにより得られ、平均粒径25μmが達成される。
【0061】
島により被覆されたLCO−2およびLCO−3の製造:カソード粉末材料を、95質量%のLCO−2またはLCO−3と、5質量%のMOOHの混合された遷移金属オキシ水酸化物(M=Ni
0.55Mn
0.30Co
0.15)および規定量のLi
2CO
3とを混合することによって製造する。例2a、2bおよび2cは、LCO−2から得られたものであり、かつ例2d、2eおよび2fは、LCO−3から、第1表に記載の前駆体含有率に従って、かつ均一な原料混合物を製造するために十分に混合して製造されたものである。
【0062】
【表4】
【0063】
混合物をアルミナるつぼに装入し、一定の空気流下に、1000℃で8時間加熱する。冷却後、得られる粉末を篩分けし、かつ4プローブDC導電性を用いて特性決定し、かつさらに電気化学的特性決定のためにコイン電池中に装着する。第4表は、63MPaの適用電圧下での導電性、および例2a〜2fおよびLCO−2およびLCO−3の電気化学的性能(試験プロトコルは例1に記載したとおり)をまとめたものである。LCO−3および例2dのSEM画像は、
図3に示されている(同様の結果が、LCO−2系列に関しても得られている)。2つの生成物の形態は、著しく異なっている:LCO−3は、平滑な表面を有する、凝集していない粒子を有している一方で、例2dは、LiCoO
2粒子の表面に、粒子状の島により被覆を示している。
【0064】
【表5】
【0065】
導電性と、4.5Vでのサイクル安定性との関係は、
図4に記載されている。島により被覆された試験体(つまり例2a〜2f)の導電性は、被覆されていないLCO−2およびLCO−3のものよりも5〜6桁低い。LCO−2およびLCO−3の電気化学的特性、たとえば放電容量、レート性能、容量損失およびエネルギー損失率は、極めて劣っている。例2a〜2fは、LCO−2およびLCO−3と比較したこれらの特性の劇的な改善を特徴付けている。例2a〜2cおよび2d〜2fに関して、導電性はリチウムの添加により増大する。同時に、容量損失およびエネルギー損失率の両方が損なわれる。抵抗性の低減は、被覆された試験体および被覆されていない試験体の両方に関して4.5Vでの安定性の改善と十分に相関している。例2a〜fは絶縁性であり、かつ本発明の実施態様の例である。
【0066】
例3:
この例は、島により被覆された、電気絶縁性特性を有するLiCoO
2が、完全型電池中で、より優れたサイクル安定性を有することを示している。
【0067】
例3(Ex3)の製造:Ex3は、LCO−3およびMOOH(M=Ni
0.55Mn
0.30Co
0.15)の95:5のモル比の混合物を焼結し、かつ適切な炭酸リチウムを添加することによりパイロット製造ラインで製造され、かつ5×10
-8S/cm未満の導電性が達成される。Ex3の平均粒径は、25μmである。この場合、適用される63MPaの圧力の下での導電性は、3.94×10
-8S/cmと測定される。Ex3のコイン電池の、4.5Vおよび4.6Vでの性能は、第5a表に記載されており、かつ優れた電気化学的性能を示している。
【0068】
【表6】
【0069】
圧縮密度は、得られた粉末に1.58トン/cm
2を適用して測定される。Ex3の圧縮密度は、3.82g/cm
3である。
【0070】
Ex3を、10μmのポリエチレンセパレータを使用し、六フッ化リチウム(LiPF
6)タイプの電極中、グラファイトタイプのアノードを対向電極として備えたLiイオンポリマー電池(LiPB)中、25℃で試験する。形成後、LiPB電池を、4.35V(または4.40V)および3.0Vの間で500回サイクルさせ、延長されたサイクルの間での容量保持率を測定する。比容量800mAhは、充電および放電レートの決定に関して推測される。充電は、CC/CVモードで1Cレートにおいて、40mAのカットオフ電流を使用して行い、かつ放電は、1Cで、CCモードにおいて3Vまで行った。
【0071】
高電圧(4.35V)および極めて高い電圧(4.4V)におけるEx3のサイクルにおける放電容量の損失は、それぞれ
図5aおよび5bに記載されている。Ex3の寿命性能は、標準的なLiCoO
2(平均粒径17μmを有するUmicoreの大量生産品)と比較し、そのデータは
図6に示されている。この標準的なLiCoO
2の導電性は、9.0×10
-2S/cmである。
【0072】
完全型電池での試験により、Ex3は、低い導電性と共に、標準的なLiCoO
2と比較してより優れたサイクル安定性を有していることが確認される。500回のサイクルの終了時に、Ex3は、4.35Vおよび4.40Vの両方の当初の性能の85%の可逆容量を特徴付けており、その際、4.35Vでの標準LiCoO
2に関しては200回のサイクル後の早い時点で85%へ低下していた。
【0073】
例4:Al
2O
3被覆されたLiCoO
2
この例は、導電性が低減するにつれてサイクル安定性が改善されることを再度示すものである。安定性の改善は、被覆によって達成することができる。しかし、十分に低い導電性の値は達成されず、低い値に近づくにつれて、可逆容量が損なわれる。
【0074】
LiCoO
2前駆体(LCO−4)は、1モル%のMgドープされたLiCoO
2(Umicoreの大量生産品)である。これは、約17μmの粒径分布のd50を有するポテト型の粒子を有している。LiCoO
2前駆体から、同時に継続している出願であるEP10008563に開示されている、大量生産式の被覆法により3つの試験体を準備する。この被覆法により、微細なAl
2O
3粉末が、表面に付着され、引き続き500℃を上回る緩和な熱処理によりAl
2O
3粉末と、LiCoO
2(LCO−4)の表面とを反応させる。
【0075】
3つの試験体(比較例4a、比較例4b、比較例4c)は、異なったレベルのAl被覆を有している。比較例4aは、0.05質量%のAlを、比較例4bは、0.1質量%、および比較例4cは、0.2質量%を含有している。導電性の結果は、第5b表に記載されている。アルミニウム被覆された試験体は、被覆されていないLCO−4よりも低い導電性を有しており、被覆されている試験体に関して、導電性は、Al被覆の厚さと共に連続的に低下する。
【0076】
【表7】
【0077】
電気化学的性能(容量、レート、4.5Vでのサイクル安定性)は、コイン電池中で試験する。被覆されていない試験体は、極めて劣った安定性を有している。被覆されている試験体は、極めて良好な安定性を有しており、第6表がその結果を示している。放電容量は4.5〜3.0Vであり、これは前に与えられたサイクルスケジュールのサイクル7から得られたものである。サイクル安定性の明らかな改善が、サイクル安定性の測定法とは無関係に、被覆レベルの増大と共に観察される。しかし、同時に電気化学的性能(容量、レート)は、Al
2O
3被覆厚さが増大すると共に損なわれる。
【0078】
【表8】
【0079】
図7は、導電性の関数としての容量と、4.5Vでのサイクル安定性の結果をまとめたものである。上の図面では、容量(三角印)およびエネルギー(黒塗りの丸印)の両方の損失が、導電性に対してプロットされている。下の図面では、放電容量が、導電性に対してプロットされている。導電性の低下に関して、4.5Vでのより良好な高電圧安定性が得られていることが明らかに観察される。しかし、同時に、可逆容量が損なわれる。従って、アルミナ被覆されたLiCoO
2の場合には、導電性の低減によるサイクル安定性のさらなる改善は、電気化学的な性能を失うことなしでは困難である。さらに、4.6Vでの電気化学的な特性は、アルミニウム被覆のレベルとは無関係に、例3と比較して極めて低い。
【0080】
例5:
この例は、島により被覆されたLiCoO
2が、電子絶縁シェルを有しており、より優れたサイクル安定性と電子伝導性コアとをもたらすことを示すものである。
【0081】
例5aの試験体は、95:5のモル比での、平均粒径23μmを有する大量生産品の1モル%のマグネシウムドープされたLiCoO
2(LCO−5と記載)と、MOOH(M=Ni
0.55Mn
0.30Co
0.15)とを焼結し、かつ適切な炭酸リチウムを添加することによりパイロットラインで製造され、1×10
-7S/cm未満の導電性が達成される。Ex5aの圧縮密度は、3.87g/cm
3である。
【0082】
比較例5bの製造:例5a 30g、および1cmの直径のジルコニウムボール400gとを、1Lのビンに入れ、Turbulaミキサーを用いて12時間振とうした。製造された粉末をそのままで回収してその後の試験に使用する。
【0083】
【表9】
【0084】
LCO−5および例5aおよび比較例5bのSEM画像は、
図8に記載されている(それぞれ2つの異なった倍率で示されている)。生成物の形態は極めて異なっている。LCO−5は、平滑な表面を有し、凝集していない粒子を有している一方で、例5aは、LiCoO
2粒子の表面に、粒子状の島により被覆を示している。比較例5bのSEM画像は、ボール転動処理により、島により被覆された粒子は破壊されることを明らかに示している。例5aおよび5bの乾燥媒体中でレーザー回折法を用いて測定した粒径分布は、
図9に記載されている。ボールミルにより処理された試験体の粒径分布は、平均粒径が、23μmから10μmへと劇的に低減することを示しており、かつ微粒子フラクションの増大が明らかに確認される。ボールミル処理は、明らかに粒子を破壊し、その結果、コア材料の実質的な曝露につながる。このコア材料は未処理のLCO−5に匹敵する導電性を有している。従って、例5aのコアは、>1×10
-3S/cmの導電性を有しており、他方、シェルは、1×10
-7S/cm未満の導電性を有していることが示されている。PSDは、比較的粘着性の粉末の緩やかな凝集に起因する大きな粒子が少量存在することも示している。
【0085】
25℃で、適用圧力63MPaでの例5aの導電性は、7.13×10
-8S/cmと測定され、これは被覆されていないLCO−5のものよりも6桁小さい。ボールミル処理された比較例5bは、5aと比較して、導電性が5桁増大していることを特徴付けている。この結果は、シェルと比較してコアの導電性が高いことを裏付ける証明になるものである。
【0086】
例5a、および比較例5b、およびLCO−5の、コイン電池による試験性能および導電性は、第7表に記載されている。前記で例1および2に示したように、例5aの(3.0〜4.5Vの間での)容量およびエネルギーの損失率は、被覆されていないが、同時に導電性が低減されているLCO−5と比較して著しく改善されている。比較例5bの試験体の電気化学的性能は、実質的に損なわれており、これは電子絶縁シェル構造が消失したことに起因するものであると考えられる。
【0087】
比較例6:
この例は、従来技術による遷移金属ベースの酸化物カソード材料は、低い導電性および良好な高電圧安定性を同時に達成することができないことを示すものである。複数の市販の製品(Umicore(韓国)社製)の、導電性および電気化学的性能は、第8表にまとめられている。これらの材料は、一般組成Li
1+xM
1-xO
2(x≒0.05、比較例6aに関しては、M=Ni
0.5Mn
0.3Co
0.2、比較例6bに関しては、M=Ni
1/3Mn
1/3Co
1/3、および比較例6cに関してはM=Ni
0.8Co
0.15Al
0.05)を有する。一般に、LiCoO
2の導電性は、そのリチウムの化学量論に対して極めて敏感であり、かつリチウム過剰によって増大することが受け入れられている。Levasseurの、論文#2457(Bordeaux University、2001年)には、リチウムが化学量論的に過剰のLiCoO
2と、化学量論のものとの間には、室温で導電性において2桁の違いが存在することが報告されている。M.Menetrier、D.Carlier、M.BlangeroおよびC.Delmasの、Electrochemical and Solid−State Letters、11(11)A179〜A182(2008)は、複雑な高化学量論のLiCoO
2を製造する方法が報告されている。この高化学量論LiCoO
2試験体の製造を再現し、比較例6dを製造するために使用する。
【0088】
【表10】
【0089】
さらに、圧縮密度を測定した。というのは、高圧縮密度がハイエンドユース用電池におけるカソードの適用にとって重要だからである。比較例6a〜6dの圧縮密度は、本発明の実施例の実施態様よりも少なくとも0.4g/cm
3低く、これらの材料をハイエンドユース用電池にとって不適切なものとしている。実地で達成可能な体積エネルギー密度(固定された電池設計の固定された体積において達成される容量を意味する)は、依然としてわずかに低いままである。さらに、これらのカソード材料は、10
-5S/cmを上回る導電性を特徴付けている。これは本発明のいくつかの実施態様のカソード材料の例の導電性よりも少なくとも2〜3桁大きい。
【0090】
参照例7:
この例は、公知の遷移金属ベースの酸化物が、10
-5S/cmより低い導電性を有することができ、かつ電気絶縁性遷移金属ベースのシェルの存在を裏付けることができることを示すものである。
【0091】
市販のMnOOH(中央電気工業株式会社、REX7aと表示)、市販のTiO
2(コスモケミカルKA300、REX7bと表示)、市販のFe
2O
3(Yukari Pure Chemicls Co.、REX7cと表示)、および市販のCo
3O
4(Umicore、REX7dと表示)の導電性を測定する。その結果は第9表に記載されている。
【0092】
【表11】
【0093】
これらの材料はすべて、10
-5S/cmより低い導電性を特徴付けている。これらの導電性は、本発明の電子絶縁性カソード材料の導電性と同じ範囲であり、かつ電気絶縁性を有する遷移金属ベースのシェルの例を提供するものである。
【0094】
比較例8:
この例は、良好な性能を有する絶縁性カソード材料を、遷移金属をベースとしていない無機被覆により達成することが極めて困難であるか、または不可能であることを示すものである。LiFは、非遷移金属の無機金属被覆のための適切な例である。緻密で完全に被覆されたLiF表面は、PVDFベースの製造経路によって達成することができる。そのメカニズムの詳細は、同時に係属している出願のPCT/EP2010/006352に記載されている。導電性を顕著に低下させるためには薄すぎる被覆層であっても、Li拡散を妨げる。電気絶縁性シェルは、十分なイオン伝導性を有している必要がある。シェルが遷移金属ベースでない場合(LiF被覆の場合)、イオン伝導性は低すぎ、カソードは十分に作用しない。
【0095】
LiF被覆されたLiCoO
2は、以下の方法で製造する:リチウムコバルト酸化物材料の製造試験体をカソード前駆体として使用する。その組成は、平均粒径17μmを有する、1モル%のMgドープされたLiCoO
2である。この前駆体粉末1000gおよびPVDF粉末10g(1質量%)を、Henschelタイプのミキサーを使用して慎重に混合する。同様にして、3分の1の量のPVDF(0.3質量%)を使用して、別の試験体を製造する。最終的な試験体(150g)は、空気中での熱処理により製造する。300℃および350℃で9時間の熱処理の間に、当初、PDVFが溶融し、かつ表面を完全に濡らすこととなる。次いでPVDFの分解が進行し、かつフッ素がリチウムと反応して緻密なLiF層が形成される。1質量%のPVDFは、約3モル%のLiFに相応する。
【0096】
LiF層は、300℃で完全に発達する(比較例8b)。コイン電池試験は、極めて低い性能を示している。容量は極めて小さく、かつ極端な極性化が観察される。これらの結果は、劣ったコイン電池調製物の結果ではなく(2つの電池が同一の結果を示している)、別の試験体を用いて数回再現されている。はるかに少ないPVDFを使用する場合(0.3質量%)、完全な容量が達成されるが、しかし試験体は依然として極端な極性化を示す(比較例8d)。しかし、被覆層が低い導電性を達成するためには薄すぎるか、または弱すぎる。劣ったサイクルデータは、150℃で製造した試験体(1質量%のPVDFを使用:比較例8a)と比較することができ、この場合、PVDFは溶融するが、反応しないのでLiFの形成は生じず、かつその結果として、はるかに高い容量とレート性能が達成される。第10表は、そのデータをまとめたものであり、かつ
図10は、第一の充電・放電(C/10レート)を比較している。似たような結果が、その他の無機遷移金属不含の被覆においても得られる。明らかに、LiFの無機層は、完全に表面を閉じているので、Liは、電解質の固体界面をわたって浸透することができない。この状況は、本発明の実施態様では全く異なっており、この場合、絶縁性シェルは、高いイオン伝導性を有しており、これは大きなレート性能によって証明されている。
【0097】
【表12】
【0098】
例9
この例は、島により被覆されたマグネシウムおよびアルミニウムドープされ、電子絶縁性特性を有するLiCoO
2が、コイン電池中で、優れたサイクル安定性を有することを示すものである。
【0099】
例9(Ex9)の製造
1モル%のマグネシウムおよび1モル%のアルミニウムドープされた、四酸化コバルト(Co
3O
4)粉末を、LiCoO
2のための前駆体として使用する(Umicore(韓国)からの市販品)。マグネシウムおよびアルミニウムドープされたLiCoO
2(LCO−6と表記)は、標準的な高温固相合成を用いて、前駆体とLi
2CO
3とを混合することによって得られ、20μmの平均粒径が達成される。Ex9は、95:5のモル比でのLCO−6とMOOH(M=Ni
0.55Mn
0.30Co
0.15)とを焼結し、かつ適切な炭酸リチウムを添加することによりパイロットラインで製造され、5×10
-8S/cm未満の導電性が達成される。Ex9の平均粒径は20μmである。この場合、63MPaの適用電圧下での導電性は、4.40×10
-8S/cmと測定される。Ex9のコイン電池の性能は、第11表に記載されており、優れた電気化学的特性を示している。
【0100】
【表13】
【0101】
圧縮密度は、得られた粉末に1.58トン/cm
2を適用して測定される。圧縮密度は高く、3.82g/cm
3であり、この高い値は、良好な電気化学的性能と共に、これらのカソードがハイエンドユース用電池にとって優れた候補であることを示している。
【0102】
例10:高レート性能材料
高レート性能材料は、高い電子伝導性とイオン伝導性とを組み合わせたものであるべきであることが受け入れられている。後者は通常、粒径を低減し、かつ粒子の比表面積(BET)を増大して、粒子内でのリチウムの拡散を容易にすることにより達成される。しかし比表面積の増大は、電解質の酸化を促進し、安全性の問題を生じるために望ましいことではなく、その実地での適用をさらに限定するものである。
【0103】
この例は、同時焼結されるLiCoO
2のレート性能および高電圧安定性を示すものであり、前記の例よりも小さい粒径を特徴とし、導電性が低減する場合に増大し、その際、同時にBET値は、1m
2/gであってよく、かつこの場合、0.4m
2/gであってよい。同時焼結されたLiCoO
2の強化された性能は、リチウムの化学量論を制御することにより達成される。
【0104】
LCO−10の製造:LiCoO
2(LCO−10と表記)は、標準的な高温固相合成を用いて、Co
3O
4とLi
2CO
3とを混合することにより得られ、6.1μmの平均粒径が達成される。
【0105】
例10の製造:最終的なカソード粉末材料は、95.3質量%のLiCoO
2(LCO−10)と、4.70質量%のMOOHの混合された遷移金属オキシ水酸化物(M=Ni
0.55Mn
0.30Co
0.15)およびあらかじめ規定された量のLi
2CO
3とを混合することにより製造される。例10a、10b、10cおよび10dは、第12表の記載に従って製造され、かつ十分に混合して均一な原料混合物を製造する。この混合物をアルミナるつぼに装入し、かつ1000℃で8時間、一定の空気流下で加熱する。冷却後、得られる粉末を分級して最終的な平均粒径6.6μmが達成される。粉末の特性を測定し、第13表に記載する。
【0106】
【表14】
【0107】
【表15】
【0108】
カソード材料をさらに、電気化学的特性決定のためにコイン電池に装着した。カソード電極の活性材料負荷量は、約4mg/cm
2である。この例において、および以下では、放電レート電流を決定するために、10Cおよび20Cレート性能を4.4Vで、160mAh/gの比容量を使用して測定した。これらの試験のパラメータは以下に記載されている:
【表16】
【0109】
データ分析に関して以下の定義を使用する:Q:容量、D:放電、C:充電、その後ろの数字はサイクル回数を示す数字である。
【0110】
−初期の放電容量DQ1は、0.1Cにおいて、4.4V〜3.0Vの範囲での最初のサイクルの間に測定される、
−レート性能は、DQi/DQ1×100であり、その際、レートは、i=2に関しては1C、i=3に関しては5C、i=4に関しては10C、i=5に関しては15C、およびi=6に関しては20Cである、
−不可逆容量Qirr(%)は、(CQ1−DQ1)/CQ1×100である、
−100サイクルあたりの1Cにおける容量損失レートQfad.は、(1−DQ56/DQ7)×2である、および
−エネルギー損失率:放電容量QDに代えて、放電エネルギー(容量×平均放電電圧)を使用する。
【0111】
第14表は、4.4Vでの例10a〜10d、およびLCO−10のレート性能をまとめたものである。導電性との関数としての例10a〜10d、およびLCO−10の20Cのレート性能の評価は、
図11に示されている。
【0112】
【表17】
【0113】
導電性の低減に関して、より良好な10Cおよび20Cレート性能が得られていることが明らかに観察される。例10a〜10dの20Cでの平均放電電圧は、LCO−10と比較して、少なくとも0.1V顕著に増大する。10Cおよび20Cのレート容量の増大、および20Cの平均放電電圧の増大を特徴付ける材料は極めて望ましい。というのは、これらはより高い電気エネルギー(Wh/g)を生じるからであり、かつ高い圧縮密度と組み合わされると、より高い体積エネルギー(Wh/L)を生じるからである。例10a〜10dに例示されているようなこのような材料は、高電力を要求する適用、たとえば電動車両および電動ツールのための好適な候補である。
【0114】
例10a、10c、および10d、ならびにLCO−10の高電圧性能は、第15表に示されている。
【0115】
【表18】
【0116】
導電性と、1Cでの4.5Vにおけるエネルギー損失率との関係は、
図12に記載されている。例10a〜10dの導電性は、初期状態のLCO−10のものよりも3〜4桁小さい。例10a〜10dの高電圧1Cレート性能、容量損失およびエネルギー損失率は、LCO−10と比較して劇的に改善される。例10a〜10dに関して、導電性はリチウムの添加により増大する。同時に、容量損失およびエネルギー損失率の両方が損なわれる。抵抗性の低減は、4.5Vの安定性の改善およびレート性能と十分に相関する。例10a、b、cおよびdは、絶縁性材料であり、かつ本発明の実施態様の例である。
【0117】
例11:高レート性能材料
この例は、同時焼結されたLiCoO
2のレート性能および高電圧安定性は、導電性が低減し、同時にBET値が1m
2/gより低く、かつこの場合には0.4m
2/gより低い場合に増大することを示すものである。例11の強化された性能は、リチウムの化学量論を制御することにより達成される。
【0118】
例11の製造:カソード粉末材料は、95.3質量%のLiCoO
2(LCO−10)と、4.70質量%のMOOHの混合された遷移金属オキシ水酸化物(M=Ni
0.55Mn
0.30Co
0.15)と混合することにより製造される。炭酸リチウムの添加は、10
-7S/cm未満の導電性を達成するために決定される。混合物50kgを、十分に混合して均一な配合物を形成し、アルミナるつぼに装入し、かつ次いで1000℃で8時間、一定した空気流の下で加熱する。冷却後、得られる粉末を分級して、最終的な平均粒径6.6μmが達成される。例11の圧縮密度は、3.4g/cm
3である。粉末の特性を測定し、かつ第16表に記載する。
【0119】
【表19】
【0120】
カソード材料をさらに、コイン電池中に装着し、電気化学的特性決定を行った。第17表は、4.4Vにおける例11およびLCO−10のレート性能をまとめたものである。
【0121】
【表20】
【0122】
導電性の低減に関して、より良好な10Cおよび20Cレート性能が得られることが明らかに観察される。例11の20Cでの平均放電電圧は、LCO−10と比較して、少なくとも0.16V顕著に増大する。
【0123】
例11の4.6Vおよび4.5Vの高電圧性能は、第18表に示されている。例11の導電性は、初期状態のLCO−10よりも3〜4桁低い。例11の高電圧の1Cレート性能、容量損失およびエネルギー損失率は、LCO−10と比較して劇的に改善されている。
【0124】
【表21】
【0125】
例11の抵抗性の低減は、4.6Vおよび4.5Vの安定性改善および10Cおよび20Cレート性能の増大と十分に相関している。例11は、絶縁性カソード材料であり、かつ本発明の実施態様の例を提供するものである。
【0126】
上記では、本発明の特定の実施態様および/または詳細を示し、かつ記載して本発明の原理の適用を説明してきたが、本発明は、特許請求の範囲により詳細に記載されているとおりに、または当業者に公知のその他の方法によっても(任意の、および全ての等価物を含めて)実施することができるものであると理解すべきであり、そのような実施によって本発明の原理から離れるものではない。