(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の複合体が第1の電荷状態を有し、前記第2の複合体が第2の電荷状態を有し、該第2の複合体の存在を検出することが、該第1の電荷状態と該第2の電荷状態との間の差を決定することを含む、請求項1に記載の方法。
前記第2の複合体の存在を検出することが、前記第2の複合体の形成によって引き起こされる電流振幅の変化を測定することを含む、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】
図1Aは、センサー表面の電気的陰性プローブを用いる静電検出のための先行技術の方法を図示する。
【0015】
【
図1B】
図1Bは、検出表面に固定された荷電したプローブから分析物が疑似リガンドを置換除去するときに、検出表面の近くの電荷の大きな変化が生成される実施形態を図示する。
【0016】
【
図2】
図2は、ある特定の実施形態に従って分析物を検出するための例示的なプロセスを示す。
【0017】
【
図3A】
図3Aは、中和剤の放出および標的の結合の際に、荷電したリポーターイオンがプローブの方へ引き寄せられる実施形態を図示する。
【0018】
【
図3B】
図3Bは、複数のナノ構造の検出電極を内蔵する例示的なセンサーチップを示す。
【0019】
【0020】
【
図4】
図4は、ある特定の実施形態に従って分析物を検出する例示的なシステムを示す。
【0021】
【
図5】
図5は、例示的なプローブおよび中和剤の配列のリストを示す。
【0022】
【
図6A】
図6Aは、ATPがプローブアプタマーと複合体を形成するときに、検出電極上のDNAプローブアプタマーからの中和剤の置換除去が起こる例示的なATPバイオセンサーを示す。
【0023】
【
図6B】
図6Bは、中和剤が存在しない場合(アプタマーだけ)、中和剤がプローブアプタマーと複合体を形成した後(+中和剤)、およびATPによるプローブアプタマーからの中和剤の置換除去後(+ATP)の、ATPバイオセンサーの例示的な示差パルスボルタモグラムを示す。
【0024】
【
図6C】
図6Cは、例示的なATPバイオセンサーのシグナル強度とATP濃度との間の関係を示す。
【0025】
【
図6D】
図6Dは、ATP添加により例示的なATPバイオセンサーから観察されたシグナル変化の時間依存性を示す。
【0026】
【
図7A】
図7Aは、コカインがプローブアプタマーと複合体を形成するときに、検出電極上のプローブアプタマーからの中和剤の置換除去が起こる例示的なコカインバイオセンサーを示す。
【0027】
【
図7B】
図7Bは、コカインの存在下(+コカイン)およびコカインの不在下(−コカイン)での、コカインバイオセンサーの例示的な示差パルスボルタモグラムを示す。
【0028】
【
図7C】
図7Cは、例示的なコカインバイオセンサーのシグナル強度とコカイン濃度との間の関係を示す。
【0029】
【
図8A】
図8Aは、標的核酸がプローブ配列と複合体を形成するときに、検出電極上に固定されたプローブ配列からの中和剤の置換除去が起こる、例示的な核酸バイオセンサーを示す。
【0030】
【
図8B】
図8Bは、中和剤が存在しない場合(プローブだけ)、中和剤がプローブ配列と複合体を形成した後(+中和剤)、および1pMの相補的20マーDNA標的によるプローブ配列からの中和剤の置換除去後(+DNA標的)の、DNAバイオセンサーの示差パルスボルタモグラムを示す。
【0031】
【
図8C】
図8Cは、DNAバイオセンサーのシグナル強度と相補的20マーDNA標的濃度との間の関係を示す。
【0032】
【
図8D】
図8Dは、rpoBに相補的なプローブを利用するバイオセンサーの、シグナル強度と総E.coli RNA濃度との間の関係を示す。
【0033】
【
図8E】
図8Eは、rpoBに相補的なプローブを利用する例示的バイオセンサーの、種々の濃度のE.coliから得られたシグナル強度と溶解産物との間の関係を示す。
【0034】
【
図9A】
図9Aは、タンパク質(この場合、トロンビン)がプローブアプタマーと複合体を形成するときに、検出電極上に固定されたプローブアプタマーからの中和剤の置換除去が起こる、例示的なタンパク質バイオセンサーを示す。
【0035】
【
図9B】
図9Bは、中和剤が存在しない場合(アプタマーだけ)、中和剤がプローブアプタマーと複合体を形成した後(+中和剤)、および100pMのトロンビンによるプローブアプタマーからの中和剤の置換除去後(+トロンビン)の、例示的なトロンビンバイオセンサーの示差パルスボルタモグラムを示す。
【0036】
【
図9C】
図9Cは、非特異的ブロックタンパク質ウシ血清アルブミンの存在下(+BSA)およびウシ血清アルブミンの不在下(−BSA)での、トロンビンバイオセンサーの示差パルスボルタモグラムを示す。
【0037】
【
図9D】
図9Dは、トロンビンバイオセンサーのシグナル強度とトロンビン濃度との間の関係を示す。水平破線は、100nMの非特異的タンパク質であるウシ血清アルブミンによって生成されたシグナルを示す。
【0038】
【
図10】
図10は、標的核酸が中和剤と複合体を形成するときに、検出電極上に固定されたプローブ配列からの中和剤の置換除去が起こる、例示的な核酸バイオセンサーを示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
詳細な説明
先行技術アッセイの根底にある原理は、
図1Aに図示される。先行技術アッセイでは、
図1Aに図示される通り、複合体を形成していないプローブ分子が検出電極の表面に固定される。その結果、分析物の導入の前にはセンサーの電荷はプローブ分子だけによって決定されるが、分析物は、プローブ分子に結合して安定複合体を形成するリガンドである。分析物との結合の後、電極表面の電荷状態は分析物の電荷によって変化する。このアプローチは、先行技術の電荷をベースとした検知法でのかなりの制限につながる。1番目に、しばしば電気的陰性核酸であるプローブ分子の固有の電荷に起因して、バックグラウンドシグナルが大きくなることがある。その結果、プローブの電荷が分析物の電荷に対して非常に大きい場合は、プローブと複合体を形成する分析物から生じるシグナルの、バックグラウンドシグナルに対する比は小さいかもしれず、限定されたアッセイ感度をもたらす。その結果、そのようなアッセイは、分析の前に分析物(PCRなどの方法による)の手間がかかり、高価で、誤りがちな増幅をしばしば必要とする。プローブと複合体を形成するときに電極表面で電荷の有意な変化を生成しない無電荷分析物、特に低分子量分析物は、検出できないかもしれない。最後に、しばしば、検出シグナルは、固定されたプローブと分析物との間での複合体形成の結果としての、電極表面における電荷の大きさの低減である。これは、分析物の存在がシグナルの欠如によって示される「シグナルオフ」アッセイ構造につながり、これは、高率の偽陽性判定をしばしばもたらす構成である。先行技術の検知方法は、それらのシグナル振幅、それらのSB比(signal-to-background ratio)およびそれらのシグナル変化の徴候に関して、本質的に、分析物の性質に依存する。残念なことに、分析物の選択は、アッセイデザイナーが変更することができる変数でなく、むしろ試験の必要条件である。
【0040】
図1Bで例示される実施形態は、センサー表面の静電特性の設計に新しい自由を導入する。プローブ分子は電極表面に固定され、中和剤と複合体を形成するが、中和剤は、プローブに親和性を有し、複合体形成によりプローブの電荷を中和する、疑似リガンドである。ある特定の実施形態では、中和剤が既にプローブと複合体を形成しているデバイスを使用者に供給してもよい。ある特定の実施形態では、使用者は、分析物の添加の前に、検出電極などのプローブ含有エレメントに中和剤を適用してもよい。さらに別の実施形態では、使用者は、分析物の添加と本質的に同時に、プローブ含有エレメントに中和剤を加えてもよい。中和剤は、プローブと可逆的な複合体を形成する疑似リガンドとして作用し、プローブと複合体を形成するリガンドまたは分析物によって置換除去されてもよい。この目的のために、対象の分析物がプローブにより強く、速やかにおよび/または頑強に結合して、中和剤の置換除去をもたらすように、中和剤はプローブとの塩基対ミスマッチを組み込むことができる。プローブへの中和剤の親和性は、温度変化または緩衝剤組成の変更を用いて改変することもできる。緩衝剤組成のそのような変化には、イオン強度の変化、多価カチオンの存在または不在、有機溶媒の存在または不在、カオトロープ(chaotrope)の存在または不在、および親水性ポリマーの存在または不在が含まれるが、これらに限定されない。
【0041】
中和剤は、プローブ分子と複合体を形成する任意の分子であってよい。ある特定の実施形態では、そのような複合体は、標的分析物の添加の際に中和剤がそのような複合体から置換除去されるように、固定されたプローブと比較して低い電荷の大きさを有する。中和剤は、中性または正に荷電した骨格構造を組み込む核酸類似体であってよい。中和剤は、負に荷電した骨格構造を組み込むが、正味では正の電荷を有する核酸類似体であってもよい。ある特定の実施形態では、中和剤−プローブ複合体の電荷がプローブ単独のそれよりも電気的に陰性が低いように、中和剤は、ペプチド核酸と、電気的陰性プローブに特異的に結合するカチオン性アミノ酸とのコンジュゲートである。他の実施形態では、中和剤は、モルホリノ核酸類似体またはメチルホスホネート核酸類似体を組み込むことができる。
【0042】
置換除去可能な疑似リガンドの使用は、様々な実施形態が伝統的な電荷検知アッセイの制限を克服することを可能にする。ある特定の実施形態では、アッセイでのバックグラウンドシグナルは、アッセイデザイナーによって操作される電荷補償を通して抑制され、それによってシグナル検出を強化する。そのような実施形態では、分析物の存在に対応するシグナル変化は、分析物リガンドの分子電荷によってだけでなく、中和剤の放出の結果曝露されるプローブ分子の固有の電荷によっても決定される。これは、複合体の形成によるプローブ電荷の有意な変化を生成しない分析物の検出を可能にし、電気化学検出によってこれまでは対処することができなかったある範囲の低分子量分析物でのアッセイの使用を可能にする。そのような低分子量分子は、約500ダルトン未満の分子量を一般的に有し、限定されずに、ヌクレオチドおよびヌクレオチド類似体、乱用薬物、治療薬および環境汚染物質を含むことができる。
【0043】
ある特定の実施形態では、バックグラウンドシグナルの抑制は、分析物特異的シグナルのバックグラウンドシグナルに対する比も大いに向上させる。驚くべきことに、分析物特異的シグナルのバックグラウンドシグナルに対するこの低減は、核酸分析物の直接検出を可能にし、特徴づけまたは検出の前の試料の高価で時間のかかるPCR増幅を不要にする。
【0044】
ある特定の実施形態では、シグナルの徴候および振幅は、分析物の電荷によってだけでなく、プローブの電荷によっても決定される。これは、測定されるシグナルの大きさの増加によって分析物の存在が示される、「シグナルオン」アッセイの設計を可能にする。そのようなシグナルオンアッセイは、シグナルオフ構造のアッセイと比較して低い割合の偽陽性結果を一般に示す。
【0045】
図2は、ある特定の実施形態に従って分析物を検出するための例示的なプロセス200を示す。このプロセスは、ステップ202から始まる。ステップ204では、センサー表面に固定されるプローブと疑似リガンドとの間で、可逆的な第1の複合体が形成される。疑似リガンドはプローブに部分的に相補的であってよく、プローブの電荷と反対の電荷を有する。ステップ206では、分析物を含有するかもしれない試料を、センサー表面の第1の複合体と接触させる。分析物が試料中に存在する場合は、ステップ208で、疑似リガンドが分析物によって置換除去されて第2の複合体が形成される。ある特定の実施形態では、疑似リガンドが分析物によって置換除去され、第2の複合体が分析物とプローブとの間で形成される。ある特定の実施形態では、疑似リガンドが分析物によって置換除去され、第2の複合体が分析物と疑似リガンドとの間で形成される。ステップ210では、第2の複合体の存在が検出され、それは分析物が試料中に存在することを示す。このプロセスは、ステップ212で終わる。プロセス200のステップは単に例示的であること、ならびに本発明の範囲を逸脱しないで、ある特定のステップを同時に実施してもよいこと、および/または別の適する順序で実施してもよいことが理解される。ある特定の実施形態では、プロセス200は、プロセスの使用者に、例えば指標を提示する(例えば、テキスト、記号または色分けされた指標を提示する)ことによって検出結果を伝えるステップ(図示せず)も含む。ある特定の実施形態では、結果を伝えるステップは、プロセス200と関連するローカルまたはリモートメモリに結果を保存するか、またはプロセス200の使用者にメッセージを送ることによって結果を保存することを含む。
【0046】
図3Aは、電極表面における電荷変化の大きさに比例するシグナルを提供する電子触媒リポーターシステムを使用して試験された、例示的実施形態を示す。センサー表面における電荷変化を測定するために、例えば低分子量分子310、例えばヌクレオチドおよびヌクレオチド類似体、乱用薬物、治療薬ならびに環境汚染物質の存在下で、示差パルスボルタンメトリー(DPV)によって監視することができるシグナルを生成するために、[Ru(NH
3)
6]
3+/[Fe(CN)
6]
3−触媒リポーターシステム300を用いた。この例示的なシステムでは、[Ru(NH
3)
6]
3+などの任意の適する電子受容体であってよい一次電子受容体308は、リン酸基含有核酸304の量に比例して電極表面302に静電的に誘引される。[Fe(CN)
6]
3−が電気化学的読み出しの間用いられる場合は、[Fe(CN)
6]
3−によってRu(III)は化学的に再生され、酸化還元サイクルを形成し、それはシグナルをかなり増幅する。この例示的実施形態は共有結合性標識を含まず、試料の前処理を必要としない。DNA骨格のリン酸基へのRu(III)の静電親和性のためにDNAアプタマープローブ304だけがセンサー302に固定されるときには、高い接触電流が予想されるが、試験したアッセイでは、これらの電流は、中和剤306の存在下で強く減弱する。このリポーターシステムは、チップ表面に製作することができるナノ構造の微小電極とともに用いることができる。
【0047】
図3Bおよび3Cは、実施形態の例で用いられる例示的なセンサーを示す。センサーを製作するために、センサー322の列を有するマイクロエレクトロニクスチップ320を生成するために、写真平板パターニングを用いた。この研究で用いられたチップは、20個のセンサーを有した。金(Au)層326およびSiO
2層328でコーティングしたシリコンウエハー324を基盤として用いて、導体パッドおよびリードを個々のチップの上にパターン化した。チップの表面を不動態化するために、次にSi
3N
4のオーバーレイヤーを用いた。電着されたセンサーの成長のための鋳型を提供するために、次に写真平版を用いてSi
3N
4に5μmの孔330をあけた。フラクタル微細構造332を成長させるために、次に金の電着を使用した。フラクタル微細構造332のサイズおよび形態は、当技術分野で公知の方法により、析出時間、電位、Au濃度、支持電解質およびオーバーコーティングプロトコルによってモジュレートすることができる。ナノ構造はアッセイの感度をかなり増加させるので、Au構造にPdの薄層をコーティングして微細なナノ構造のセンサーを形成した(
図3C)。センサーを生成するために用いられる材料、寸法およびプロセスは単に例示的なだけであり、本開示の範囲を逸脱せずに、他の適する材料、プロセスまたは寸法を用いることができるものと理解される。
【0048】
ある特定の実施形態では、熱成長させた二酸化ケイ素の厚い層を用いて不動態化させた、数インチのシリコンウエハーを用いてチップを製作した。25nm Tiを次に析出させた。電子ビーム支援金蒸着を用いて350nmの金の層をその後チップの上に析出させ、標準の写真平版およびリフトオフプロセスを用いてパターン化した。5nm Ti層を次に析出させた。化学蒸着を用いて、絶縁性のSi
3N
4の500nm層を析出させた。標準の写真平版を用いて次に5mm孔を電極にインプリントし、標準の写真平版を用いて0.4mm×2mmの結合パッドを曝露させた。
【0049】
ある特定の実施形態でアッセイ試験部位を製作するために、アセトン中で5分間の超音波処理によってチップを洗浄し、イソプロピルアルコールおよび脱イオン(DI)水で洗い落とし、窒素流で乾燥させた。電着は、室温で実施した。製作された電極上の5μm孔を作用電極として用い、露出した結合パッドを用いて接触させた。HAuCl
4の50mM溶液および0.5MのHClを含有する析出溶液を用いて、Au(金)センサーを作製した。それぞれ0mVで100秒間および0mVで20秒間のDC電位電流測定を用いて、100μmおよび20μmのAu構造を形成した。DI水による洗浄および乾燥の後、−250mVで10秒間(100ミクロン構造)および5秒間(20ミクロン構造)、5mMのH
2PdCl
4および0.5MのHClO
4の溶液で再びめっきすることによって、AuセンサーにPdをコーティングしてナノ構造を形成した。
【0050】
ある特定の実施形態では、アッセイを準備するための例示的なプロトコルが用いられた。このプロトコルでは、チオール化アプタマーおよびチオール化DNAプローブがジチオスレイトール(DTT)を用いて脱保護され、HPLCによる精製が続いた。HPLCで精製したプローブはその後凍結乾燥し、−20℃で保存した。試験表面にプローブを固定するために、5μMチオール化プローブ、25mMのNaClおよび50mMのMgCl
2を含有するリン酸緩衝溶液(25mM、pH7)を、暗い高湿度チャンバー内において室温で1時間、センサーと一緒にインキュベートした。次に、25mMのNaClを含有するリン酸緩衝溶液(25mM)で5分間、チップを2回洗浄した。次に、10μMの中和剤および25mMのNaClを含有するリン酸緩衝溶液(25mM)と一緒にセンサーを室温で30分間インキュベートし、同じ緩衝液による5分間の3回の洗浄が続いた。検出を実証するために、チップを異なる分析物で次に処理し、続いて洗浄した。
【0051】
ある特定の実施形態では、Ag/AgCl参照電極および白金ワイヤー補助電極を特徴とする三電極システムを備えた、Bioanalytical Systems(West Lafayette、Indiana)イプシロンポテンシオスタットを用いて、電気化学実験を実施した。電気化学的シグナルは、25mMのNaCl、10μM[Ru(NH
3)
6]Cl
3および4mMのK
3[Fe(CN)
6]を含有する25mMリン酸緩衝溶液(pH7)で測定した。示差パルスボルタンメトリー(DPV)シグナルは、5mVの電位段階、50mVのパルス振幅、50msecのパルス幅および100msecのパルス時間で得た。特異的標的による中和剤の置換に対応するシグナル変化は、バックグラウンドを差し引いた電流で計算した:ΔI%=(I
after−I
before)/I
before×100(I
after=中和剤の置換後の電流、I
before=中和剤の置換前の電流)。これらの例示的実施形態では、Aspex(Delmont、Pennsylvania)3025SEMを用いて、走査型電子顕微鏡像を得た。
【0052】
図4は、ある特定の実施形態に従って分析物を検出するための例示的なシステムを示す。検出システム400は、1つまたはそれより多くの電極を含む検出チャンバー402を有する。
図4で、検出チャンバーは、作用電極404、逆電極406および参照電極408を含む。しかし、任意の適する数または型の電極を用いてもよい。検出チャンバー402は、作用電極404と接触させるために試料を流入させるための入口410、および試料を流出させるための出口412も有する。試料が対象の分析物を含有する場合は、分析物は作用電極404の表面でプローブ−分析物複合体414を形成することができる。ある特定の実施形態では、試料が入口410を通って検出チャンバー402に入ると、プローブ−分析物複合体414の形成を促進するために一定時間が割り当てられてもよい。特定の実施形態では、プローブ−分析物複合体414の形成のために十分な時間が割り当てられた後、分析物を含有する試料は出口を通って流出することができる。試料中に存在するかもしれない望ましくない物質を除去するために、洗浄溶液をその後試料チャンバー402中に流入させることができる。
【0053】
図4に示す検出システム400は、例示的な三電極ポテンシオスタット構成を組み込むが、構成成分の任意の適する構成が用いられてもよいことを理解すべきであろう。逆電極406は抵抗器418に接続され、それは次に制御増幅器416の出力に接続される。検出モジュール420は抵抗器418を横断して接続され、電流測定を提供する。検出モジュール420は、任意の入力波形に応じてリアルタイム電流測定を提供するように構成することができる。参照電極408は、制御増幅器416の逆相端子に接続される。シグナル発生器422は、制御増幅器416の非逆相端子に接続される。この構成は、電流の正確な測定を可能にしつつ、作用電極での一定の電位を維持する。ある特定の実施形態では、検出チャンバー402は、複数の(multiple)分析物を検出するための複数の(a plurality of)電極を内蔵することができる。例えば、検出チャンバー402は、試料中に存在する異なる標的と複合体を形成するために固定される異なる型のプローブを各々有する、複数の(multiple)作用電極を含むことができる。ある特定の実施形態では、検出システム400は、共通の逆電極および参照電極を利用しつつ、作用電極を一度に1つ、個々に対処するように構成することができる。
【0054】
制御および通信ユニット424は、検出モジュール420およびシグナル発生器422へ作動可能に連結される。制御および通信ユニット424は、入力波形および出力測定を同期させることができ、メモリで入力および出力を受け取り、保存することができる。ある特定の実施形態では、制御および通信ユニット424は、検出システム400とインターフェイスで接続する別々のユニットであってよい。例えば、検出システム400は、外部制御および通信ユニット424に接続することができる、複数の入力および出力端子付きの使い捨て式カートリッジであってよい。ある特定の実施形態では、制御および通信ユニットは、入力の関数として出力を表示する表示ユニットに作動可能に連結することができる。ある特定の実施形態では、制御および通信ユニット424は、保存および表示のために離れた目的地へ入力および出力情報を送ることができる。例えば、制御および通信ユニット424は、モバイルデバイスであってもよく、またはモバイルデバイスとインターフェイスで接続することが可能であってもよい。ある特定の実施形態では、制御および通信ユニット424は、検出システム400に電力を供給することができる。システム400は、バッテリーまたはプラグインAC電源を含む任意の適する電源を用いて電力を供給してもよい。
【0055】
ある特定の実施形態では、検出システムは、薬物スクリーニングで用いるためのアッセイ組成物として提供されてもよい。アッセイ組成物は、相補的または部分的に相補的な疑似リガンドと複合体を形成するセンサー表面に固定されるプローブ分子を含む、可逆的な第1の複合体を有することができる。プローブは、疑似リガンドの薬物親和性よりも大きい薬物親和性を有することができる。したがって、疑似リガンドは薬物によって置換除去されて、第2の複合体を形成することができる。第1および第2の複合体は、それぞれ、第1および第2の電荷状態を有することができる。ある特定の実施形態では、検出システムはキットとして提供することができ、それは、センサー表面、およびセンサー表面に固定されるプローブを有するデバイスを含む。キットは、疑似リガンドとの可逆的な複合体を形成することが可能な疑似リガンドを有することもできる。キット中の疑似リガンドは、プローブと既に複合体になっているか、または後の複合体生成のためにキットに別々に含まれてもよい。
【0056】
様々な実施形態では、中和剤は、Prelude自動ペプチド合成機(Protein Technologies,Inc.;Tucson、Arizona)での固相合成アプローチを用いて合成された。これらの実施形態では、合成生成物は、質量分析によって確認した。
【0057】
ある特定の実施形態では、低分子を検出するアッセイの能力を検討するために、モデル分析物または結合リガンドとしてATPを選択した。例示的なATPプローブおよびアプタマー配列を、
図5に示す。ATP検出のための中和剤アッセイ600の例示的な構成を、
図6Aに示す。これらの実施形態では、チオール化ATP結合アプタマー602を、それらの表面にPdを有するセンサー604に先ず固定し、部分的に相補的な中和剤606を次に導入する。中和剤606のPNA部分608は、アプタマー602に主に相補的である。しかし、ATP 612添加の後の中和剤606の容易な放出を可能にするために、2つのミスマッチ610を導入した。中和剤606の存在がセンサー604の表面の電荷を強く低減し、それは、標的分子による中和剤610の置換除去によって回復する。
【0058】
図6Bで、DPVグラフ620は、中和の前622、中和の後624、およびATP導入後626にセンサーで得られたシグナルを示す。ATP検出のために、25mMのNaClおよび種々の濃度のATPを含有するリン酸緩衝溶液(25mM)と一緒に、センサーを室温で10分間インキュベートした。複合体を形成していない固定化アプタマーのスキャンは、高い接触電流を明らかにし、アプタマーのDNA骨格へのRu(III)の強力な静電吸引と一貫していた。中和剤分子がアプタマーとハイブリダイズするとき、観察される電流は80%を超えて低減される。驚くべきことに、低減ピークも、より陰性の電位へ移行する。これは、中和剤が存在するときの、電子伝達の動態の減速によるのかもしれない。分析物ATPがアプタマープローブに結合するとき、アプタマーの構造変化は中和剤の放出を引き起こし、接触電流の増加につながる。
図6Cの濃度グラフ630に示すように、ATP結合の前およびATP結合の後に観察された電流変化は、溶液中のATP濃度に直接に関連していた。水平破線632は、ATPの不在下で生成されるシグナルを示す。
【0059】
ある特定の実施形態でセンサー応答の時間依存性を評価するために、ATPを[Ru(NH
3)
6]
3+/[Fe(CN)
6]
3−触媒溶液に導入し、シグナル変化をリアルタイムで測定した。
図6Dは例示的な時間グラフ640を示し、それは、ATPの存在下642でのシグナル変化が1分以内に起こり、ATPの不在下644でのシグナル変化は20分後でさえ有意でないことを示すデータを含む。これらの結果は、センサー応答が迅速であること、およびプローブ−中和剤複合体が安定していることを明らかに示す。
【0060】
図7Aは、ATPについて上で記載されるのと類似したアプローチを用いて、センサー704に固定され、コカイン分子712に特異的なアプタマー702で実行されたコカインアッセイ700の例示的実施形態を示す。
図7BのDPVグラフ720は、コカイン結合アプタマーの初期高電流が、中和剤とのハイブリダイゼーションの後722に減少したことを示す。コカインアッセイ700で用いられたアプタマー702および中和剤706の例示的な配列を、
図5に示す。この実施形態では、中和剤706は、アプタマー702に相補的である部分708、およびコカイン712の添加の後の中和剤706の容易な放出を可能にする2つのミスマッチ710を有する。アプタマー−中和剤複合体にコカイン712を負荷(challenge)したとき、アプタマー702に生じた構造変化は中和剤706を放出して、高い接触電流724をもたらした。この例示的実施形態でのコカイン検出のために、25mMのNaClおよび種々の濃度のコカインを含有するリン酸緩衝溶液(25mM)と一緒に、センサー704を室温で2分間インキュベートした。
図7Cの濃度グラフ730は、x軸のコカイン濃度(μg/mL)に対して、y軸に観察された電流変化(百分率ポイント)を示す。水平破線732は、コカインの不在下で生成されたシグナルを示す。コカイン結合の前およびコカイン結合の後に観察された電流変化は、溶液中のコカイン濃度に直接に関連していた。1μg/mLコカインのシグナル変化は、コカイン不在下、または標的でない分析物の存在下でのシグナル変化より60%を超えて高かった。このレベルの感度は、市販の試験と同等で、薬物スクリーニングのために十分である。
【0061】
低分子分析物で高レベルの性能が立証されたので、汎用検出システムを開発する他の試みが核酸分析物クラスで優れた感度を達成することに成功していないので、アッセイが核酸分析物に対して臨床上意味がある(フェムトモル濃度以上)感度を提供するかどうか判定するために、アッセイ性能を評価した。
【0062】
図8Aは、核酸標的812に適用される例示的なアッセイの概略
図800を図示する。チオール化DNAプローブ802を、センサー804に固定した。
図8BのDPVグラフ820に示すように、複合体を形成していないDNAプローブ802の接触電流822は最初に高く、中和剤806の添加によりかなり抑制された824。1pMの相補的オリゴヌクレオチド20マー標的への曝露の後、電流826は300%を超えて増加した。DNAプローブ802、DNAプローブ中和剤806およびDNA標的812の配列は、
図5に示す。中和剤806は、DNAプローブ802に相補的である部分808、およびDNA標的812の添加の後の中和剤806の容易な放出を可能にする2つのミスマッチ810を有する。
【0063】
ある特定の実施形態では、20マー合成標的DNA、およびバックグラウンドレベルを評価して、特異性を評価するために用いた非相補的標的を用いて、核酸アッセイの濃度依存性を調査した。非相補的標的の例示的な配列を、
図5に示す。この合成標的DNAのために、25mMのNaCl、10mMのMgCl
2および種々の濃度の標的を含有するリン酸緩衝溶液(25mM)と一緒に、センサーを室温で30分間インキュベートした。
図8Cの濃度グラフ830に示すように、例示的アッセイの検出限界を確認するために、標的DNAの濃度は、10pMから10aMの間で変化させた。シグナルは、5桁にわたる範囲内で標的濃度の増加に従って増加した。水平破線832は、100nMの非相補的標的の平均電流を示す。100nMの非相補的標的のそれより上にあるが、10aMのDNA標的のシグナル変化は統計的に有意となるのに十分高くなく、20マー標的のためのこのアッセイの検出限界が100から10aMの間にあることを示した。
【0064】
E.coliの総RNAの形の複雑な不均一試料によるアッセイのある特定の実施形態の性能も、評価した。細菌で高度に発現され、かつ種間で保存されない転写産物である、RNAポリメラーゼβ mRNA(rpoB)のために、DNAプローブを設計した。DNAプローブおよび中和剤の例示的な配列を、
図5に示す。
図8Dの濃度グラフ840に示すように、この例示的なアッセイによって生成されたシグナルは、不均一な混合物E.coli総RNAの濃度に依存性であって、水平破線842はE.coli RNAの不在下で観察されたシグナルを示す。E.coli総RNAの場合、異なる濃度の標的を含有する無菌のRNアーゼ非含有PBSと一緒に室温で30分間、センサーをインキュベートした。10pg/μLのE.coli総RNAの検出は成功し、例示的なアッセイが、過剰の非相補的物質で高レベルの感度を達成することができることを示した。
【0065】
未処理の細菌溶解産物を用いるアッセイのある特定の実施形態も提供され、試験される。これらの実施形態の試験では、強力な電界が細菌を溶解する溶解チャンバーに既知量のE.coliを含有する懸濁液を入れることによって、未処理の細菌溶解産物を生成した。さらなる精製も増幅もなしで、この溶解産物を次に用いた。細菌溶解産物プローブおよび細菌溶解産物中和剤のために用いた例示的な配列を、
図5に示す。
図8Eの濃度グラフ850は、未処理の溶解産物を生成するために用いたE.coliの量へのアッセイシグナルの依存性を図示し、初期懸濁液中のE.coli細菌の濃度の増加に従ってシグナルが増加したことを示す。これらの研究では、無菌のRNアーゼ非含有PBS中のE.coli溶解産物と一緒に室温で30分間、センサーをインキュベートした。
図8Eの水平破線852は150cfu/μLのStaphylococcus saprophyticusからの溶解産物の平均シグナルを表し、その構成成分はプローブに非相補的であった。E.coli細菌の検出限界は、驚くべきことに0.15cfu/μLであった。この感度検出限界は未処理試料での直接分析において前例がなく、臨床試料で見出される細菌の検出のために、臨床上意味がある。これらの例示的実施形態でのアッセイの動態は、高い感度および特異性による細菌の存在の迅速検出を可能にし、試料獲得から結果まで30分未満しか必要としない。
【0066】
様々な実施形態に関連して本明細書に記載されるアッセイ形式がタンパク質バイオマーカーを検出することができることを立証するために、モデルシステムとしてトロンビンを用いてある特定の実施形態を特徴づけた。トロンビン結合アプタマーは、G−カルテット構造に畳まれ、エキソサイトIでトロンビンに結合することが知られている、よく特徴づけられた配列である。トロンビン結合アプタマーおよびトロンビンアプタマー中和剤の例示的な配列を、
図5に示す。
図9Aは、ある特定の実施形態による例示的なタンパク質検出方法900を示す。チオール化トロンビン結合アプタマー902をセンサー表面904に析出させ、その後、センサー表面904の近くの電荷を少なくとも部分的に中和するトロンビンアプタマー中和剤906と複合体を形成させた。中和剤906は、アプタマー902に相補的である部分908、およびトロンビン912の添加の後の中和剤906の容易な放出を可能にする2つのミスマッチ910を有する。アプタマー−トロンビン複合体914を形成するトロンビン結合アプタマー902へのトロンビン912の結合は、トロンビンアプタマー中和剤906を置換除去し、電荷を回復させ、センサー応答の検出可能な変化をもたらす。
【0067】
図9Bでは、DPVグラフ920は、アプタマー単独922、アプタマー−中和剤複合体924およびアプタマー−トロンビン複合体926の電極触媒電流を示す。電極触媒電流は、トロンビンアプタマーへの中和剤の結合により、明らかに抑制された。100pMトロンビンで処理したとき、接触電流の大きな増加が観察された。反対に、
図9CのDPVグラフ930は、100nMのBSA(非特異タンパク質)で処理したときのシグナル変化は無視できるものであったことを示し、このアッセイがトロンビンに特異的であったことを示す。
図9Dの濃度グラフ940に示すように、観察されたシグナルはトロンビン濃度に直線で比例し、10fMという低さのトロンビンが明らかに検出可能であることを示した。水平破線942は、トロンビンの不在下で生成されたシグナルを示す。
【0068】
図10は、プローブではなく疑似リガンドと複合体を形成することによって、分析物が疑似リガンドを置換除去する核酸アッセイ1000の例示的実施形態を示す。この実施形態では、中和剤1006は分析物1012に対してプローブ1002に対してよりも大きな親和性を有し、それは分析物1012と中和剤1006との間で複合体1014の形成をもたらす。アッセイ1000では、中和剤1006は分析物1012に特異的であり、プローブ1002との1つまたはより多くの塩基対ミスマッチ1010、およびプローブ1002に相補的である部分1008を組み込む。この実施形態では、溶液中にある完全にマッチした標的1012とのハイブリダイゼーションのために、中和剤1006がプローブ1002とハイブリダイズした後に観察されるシグナルは、プローブ1002からのミスマッチ中和剤1006の除去によって増加する。中和剤1006の除去、および電極検出表面1004に固定されるプローブ1002の電荷の修復に基づき、これは、分析物−プローブ複合体の不在下で電極検出表面1004における電荷修復につながる。この実施形態は核酸検出との関連で記載されるが、この実施形態はそのように限定されるものではなく、多種多様の分析物を検出するために用いることができることを理解すべきである。
【0069】
したがって、広範囲の生体分子に適用できる高感度バイオセンサーの具体的な実施形態および用途が開示されている。しかし、本明細書の発明の概念を逸脱せずに範囲で、既に記載されているもの以外に、より多くの改変が可能であることは当業者に明白なはずである。発明の主題は、したがって、添付の特許請求の範囲の趣旨によるものを除いて限定されるべきでない。さらに、明細書と特許請求の範囲の両方の解釈において、全ての用語は、文脈と一貫した可能な最も広い意味で解釈されるべきである。詳細には、本明細書で用いられる場合、用語「含む」、「含むこと」、「含有する」、「含有すること」、「有する」、「有する」、「有すること」、「含む」および「含むこと」は、要素、構成成分またはステップを非排他的に指すと解釈されるべきであり、参照される要素、構成成分またはステップが存在してもよいこと、または利用されてもよいこと、または明示的に参照されない他の要素、構成成分またはステップと組み合わされてもよいことを示している。本明細書で用いる用語「複数」は、1よりも多いことを意味し、2つ以上のステップ、要素または構成成分の任意の規定または未規定のサブセットを含むことができる。さらに、本明細書に参照により組み込まれる参考文献での用語の定義または使用が、本明細書で提供されるその用語の定義と矛盾するかまたは相反する場合、本明細書で提供されるその用語の定義が適用され、参考文献でのその用語の定義は適用されない。
【0070】
この明細書および特許請求の範囲がその一部を形成する本出願は、任意の今後の出願に関して優先権の根拠として用いることができる。そのような今後の出願の特許請求の範囲は、本明細書で記載される任意の特徴または特徴の組合せを対象とすることができる。それらは物、方法または用途の請求項の形をとることができ、例として、および限定されずに、以下の請求項のうちの1つまたはそれより多くを含むことができる。