【文献】
BIOLOGY OF REPRODUCTION,1996年,Vol. 54,pp. 1059-1069
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記生物試料は、哺乳動物細胞、植物細胞、血液細胞、卵母細胞もしくは精細胞などの生殖細胞、胚細胞、幹細胞、臍帯由来の細胞、卵巣皮質の細胞、造血系幹細胞または膵島などの細胞である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
定義
本明細書で使用される場合、「凍結保護」、「凍結保存」または「凍結保持」という用語は、生物試料が劣化から保存されることによる凍結工程に関与するプロセスを指す。この用語は従来の凍結保存技術およびガラス化技術を包含する。
【0014】
本明細書で使用される場合、「ガラス化」とは、細胞があらゆる結晶構造を含まないガラス状無定形固体に変換される凍結保存戦略を指す。前記プロセスは一般に、高濃度の抗凍結剤と非常に高い冷却速度の組合せにより達成される。
【0015】
本明細書で使用される場合、「凍結防止剤」または「抗凍結剤」という用語は、凍結により誘導される損傷から生物試料を保護するために使用される剤を指す。より特に、前記剤は凍結工程に供される細胞内の氷形成に関連する損傷から生物試料を保存するのに有用である。現在の古典的な抗凍結剤の非限定的な例は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG)、グリセロール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール(MPD)、プロパンジオール、スクロース、トレハロースである。抗凍結剤のさらなる例は、グルコース、ラクトース、フルクトース、ラフィノース、プロピレングリコール、1,2/2,3ブタンジオール、アセトアミド、デキストラン、ポリマーポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルデンプン、プロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、ブタンジオール、ホルムアミド、フィコール、マンニトール、およびグルコネート、カルボキシメチルセルロース、およびデキストランである。
【0016】
本明細書で使用される場合、「多糖」という用語は、2つ以上の単糖単位を含む分子を指す。
【0017】
本明細書で使用される場合、「アルカリ性溶液」という用語は、厳密に7より高いpHを有する水溶液を指す。
【0018】
本明細書で使用される場合、「水溶液」という用語は、主な溶媒が水である溶液を指す。
【0019】
本明細書で使用される場合、「架橋」という用語は、共有結合による1つの多糖鎖の別の多糖鎖への連結を指す。
【0020】
本明細書で使用される場合、「ヒドロゲル」または「凍結生物ゲル(cryobiogel)」という用語は、本発明者らによって開発された方法によって得られる非常に特有の組成物を指す。前記ヒドロゲルは、50℃の温度にてアルカリ性条件下でトリメタリン酸三ナトリウム(STMP)などの網状化剤(reticulating agent)を用いた、プルランなどの多糖の化学的架橋によって得られる。前記表現は、
網状化剤を用いて多糖を架橋することによって直接得られるヒドロゲル、および
乾燥したヒドロゲル粒子の膨張後に得られるヒドロゲル
を独立して指してもよい。
【0021】
本明細書で使用される場合、「ヒドロゲル粒子」という用語は、球形、円筒形または立方体のような異なる形態を有する粒子を指す。したがって、前記ヒドロゲル粒子は研磨工程の後に得られるヒドロゲルの粒子である。他に特定されない限り、「ヒドロゲル粒子」という表現は乾燥していない。
【0022】
本明細書で使用される場合、「乾燥したヒドロゲル粒子」、「乾燥した粒子」および「乾燥した凍結生物ゲル」という表現は、5mm未満、好ましくは1nm未満、好ましくは50μm未満、好ましくは25μm未満のサイズ範囲を有する乾燥したヒドロゲル粒子を指す。前記乾燥したヒドロゲル粒子はヒドロゲル粒子を乾燥させることによって得られる。前記乾燥したヒドロゲル粒子はヒドロゲルを得るために適切な膨張溶液中で膨張される。
【0023】
本明細書で使用される場合、「膨張したヒドロゲル」という表現は、乾燥したヒドロゲル粒子の膨張から得られるヒドロゲルを指す。網状化剤を用いて多糖を架橋することによって直接得られるヒドロゲル、および乾燥したヒドロゲル粒子を膨張させた後に得られるヒドロゲルは、同じ技術的および機能的特徴を共有している。
【0024】
本明細書で使用される場合、「乾燥したヒドロゲルビーズ」および「乾燥したヒドロゲル球形」という表現は交換可能に使用され、実質的に球形または卵形を有するヒドロゲル粒子を指す。
【0025】
本発明は、ヒドロゲルの存在下で生物試料を凍結する工程を含む、前記生物試料を凍結保存する方法であって、前記ヒドロゲルは、
a)30〜70℃、好ましくは40〜50℃、最も好ましくは50℃の温度にてアルカリ性条件下で、トリメタリン酸三ナトリウム(STMP)、オキシ塩化リン(POCl3)、エピクロルヒドリン、ホルムアルデヒド、水溶性カルボジイミドおよびグルタルアルデヒド(glurataldehyde)からなる群から選択される網状化剤を用いて、プルラン、デキストラン、硫酸デキストラン、スクレログルカン、カルボキシメチルデキストラン、カルボキシメチルプルラン、寒天、アルギン酸塩、フコイダン(fucoidan)、キトサン、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、ヘパリン、ヘパリン硫酸模倣剤またはヘパラン硫酸模倣剤およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの多糖を化学的に架橋することによって得られる、方法に関する。
【0026】
好ましくは前記網状化剤はトリメタリン酸三ナトリウム(STMP)である。
【0027】
上記のヒドロゲルの粒子、特にヒドロゲルを復元するためにさらに膨張し得る乾燥ヒドロゲル粒子を使用することは非常に有益である。したがって、粒子は、凍結保存される細胞、組織または器官の種類およびサイズに適合できる粒子のサイズのために、より容易な使用を提供する。
【0028】
したがって、本発明は、ヒドロゲルの存在下で生物試料を凍結する工程を含む、生物試料を凍結保存する方法であって、
前記ヒドロゲルは、
a)30〜70℃、好ましくは40〜50℃、最も好ましくは50℃の温度にてアルカリ性条件下で、トリメタリン酸三ナトリウム(STMP)、オキシ塩化リン(POCl3)、エピクロルヒドリン、ホルムアルデヒド、水溶性カルボジイミドおよびグルタルアルデヒドからなる群から選択される網状化剤を用いて、プルラン、デキストラン、硫酸デキストラン、スクレログルカン、カルボキシメチルデキストラン、カルボキシメチルプルラン、寒天、アルギン酸塩、フコイダン、キトサン、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、ヘパリン、ヘパリン硫酸模倣剤またはヘパラン硫酸模倣剤およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの多糖を化学的に架橋する工程、
b)ヒドロゲル粒子を得るためにa)において得られたヒドロゲルを研磨する工程、
c)任意に、工程b)において得られた前記ヒドロゲル粒子を洗浄する工程、
d)任意に、工程b)または工程c)において得られた前記ヒドロゲル粒子を篩にかける工程、
e)任意に、好ましくは生理食塩水、好ましくは蒸留水中で完全にリンスしたリン酸緩衝食塩水を用いて、工程b)または工程d)において得られた前記ヒドロゲル粒子を洗浄する工程、
f)工程b)または工程e)において得られた前記ヒドロゲル粒子を、好ましくはエタノール/水浴中で脱水する工程、
g)乾燥ヒドロゲル粒子を得るために、工程f)において得られた前記ヒドロゲル粒子を、好ましくは50℃にて乾燥する工程、
h)任意に、工程g)において得られた乾燥粒子を篩にかける工程、
i)ヒドロゲルを得るために、工程h)において得られた乾燥ヒドロゲル粒子を、膨張溶液中で膨張させる工程
によって得られる、方法に関する。
【0029】
本明細書で使用される場合、「ヒドロゲル粒子」または「粒子」という用語は、本発明に係るヒドロゲルを研磨する工程によって得られる生成物を指す。典型的に、前記研磨する工程は、2000〜10000回転/分の可変速度でGrindoxmix GM200ナイフミルを使用して操作される。好ましくは、工程g)において得られた乾燥ヒドロゲル粒子は乾燥ヒドロゲルビーズである。
【0030】
好ましくは、前記凍結する工程は、ジメチルスルホキシド(DMSO)を実質的に含まずまたはジメチルスルホキシド(DMSO)を用いずに実施される。
【0031】
本明細書で使用される場合、「実質的に含まない」とは、約1%未満、好ましくは約0.5%未満、より好ましくは約0.1%未満の濃度で存在すること、最も好ましくは完全に存在しないことを意味する。典型的に、「抗凍結剤を実質的に含まない」は、従来の方法に使用される抗凍結剤の量より3倍少ない量に対応し得る。
【0032】
特定の実施形態において、前記凍結する工程は、1,2−プロパンジオールを実質的に含まずに、好ましくは従来の方法に使用される1,2−プロパンジオールの量より3倍少ない量で実施される。あるいは、前記凍結する工程は1,2−プロパンジールを用いずに実施される。
【0033】
本明細書で使用される場合、所与の抗凍結剤を「用いない」とは、本発明を実施している間に前記抗凍結剤が完全に存在しないこと(0%)を指す。
【0034】
好ましくは、前記凍結する工程は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレングリコール、プロパンジオールおよびポリエチレングリコール(PEG)から選択される抗凍結剤を実質的に含まずまたは用いずに実施される。
【0035】
好ましくは、前記凍結する工程は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG)、グリセロール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール(MPD)、スクロース、およびトレハロースから選択される抗凍結剤を実質的に含まずまたは該抗凍結剤を用いずに実施される。
【0036】
より好ましくは、前記凍結する工程は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG)、グリセロール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール(MPD)、プロパンジオール、スクロース、およびトレハロースから選択される抗凍結剤を実質的に含まずまたは該抗凍結剤用いずに実施される。
【0037】
より好ましくは、前記凍結する工程は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG)、グリセロール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール(MPD)、プロパンジオール、スクロース、トレハロース、グルコース、ラクトース、フルクトース、ラフィノース、プロピレングリコール、1,2/2,3ブタンジオール、アセトアミド、デキストラン、ポリマーポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルデンプン、プロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、ブタンジオール、ホルムアミド、フィコール、マンニトール、グルコネート、カルボキシメチルセルロース、およびデキストランから選択される抗凍結剤を実質的に含まずまたは抗凍結剤を用いずに実施される。
【0038】
より好ましくは、前記凍結する工程は、抗凍結剤を実質的に含まずに実施される。
【0039】
典型的に、前記凍結する工程は、従来の技術に従って実施される。
【0040】
好ましくは、前記凍結する工程は、標準圧力条件にて0℃以下の温度で実施される。
【0041】
好ましくは、前記凍結する工程は、−10℃、−20℃、−30℃、−40℃、−50℃、−60℃以下、好ましくは−70℃以下の温度にて実施される。より好ましくは、前記凍結する工程は、−70℃〜−156℃の温度にて実施される。より好ましくは、前記凍結する工程は、−196℃の温度にて実施される。
【0042】
好ましくは、前記工程は、−70℃以下の温度、好ましくは適切な制御冷却速度にて−70℃から−156℃の温度での機械的冷却工程である。あるいは、前記凍結する工程は−196℃の温度にて液体窒素で行われる。別の実施形態において、前記凍結する工程はガラス化技術を使用することによって行われる。このような技術の詳細は当業者の一般知識の範囲内である。
【0043】
好ましくは、生物試料を凍結する工程は、前記生物試料を凍結保存するのに十分な量のヒドロゲルの存在下で行われる。したがって、当業者は本発明のプロセスを効果的に実施するために十分な量の前記ヒドロゲルを与えることに注意するであろう。当業者はまた、生物試料に対する損傷を引き起こさない量の前記ヒドロゲルを与えることに注意するであろう。
【0044】
当業者は、正確な凍結保存溶液にヒドロゲルの量を容易に適合し、特定および規定された量の生物試料を凍結保存するのに容易に適合するであろう。典型的に、本発明の方法が乾燥ヒドロゲル粒子の使用を含む場合、前記量はヒドロゲル粒子のサイズ、すなわちこのようなヒドロゲル粒子の粒度分布に依存する。
【0045】
典型的に、10
4〜10
6個の細胞を含有する溶液を凍結保存するために、20〜60mg、好ましくは15〜25mgのヒドロゲルまたはヒドロゲル粒子を使用できる。
【0046】
典型的に、洗浄する工程e)は、生理食塩水、好ましくはpH7.4にてリン酸緩衝食塩水(PBS)で実施されてもよい。PBSを用いていくつかの洗浄工程を開始できる。例えば以下のようにヒドロゲルを洗浄できる:
1.5Mの濃度にてPBSで3回、
0.15Mの濃度にてPBSで2回、
0.015Mの濃度にてPBSで3回。
【0047】
各回、ヒドロゲルは約20分の間、完全に洗浄される。次いでヒドロゲルは、6〜8のpH、好ましくは約7、より好ましくは7.4のpHを用いて、ヒドロゲルを得るのに十分な時間、蒸留水中で完全にリンスされる。あるいは、ヒドロゲルは、徐々に減少させた濃度で蒸留水、続いて緩衝生理食塩水(PBS)の連続流でリンスされ、次いで種々の濃度のエタノール浴を使用して脱水されてもよい。
【0048】
典型的に、脱水する工程f)はエタノール/水浴中で実施される。当業者は前記浴の性質および適切な数を知っている。この脱水する工程に関して、いくつかの異なるエタノール/水浴が存在し得る。例えば以下を使用できる:
70%のエタノールの濃度にてエタノール/PBS 0.015Mを有する2つの浴、
50%のエタノールの濃度にてエタノール/PBS 0.015Mを有する2つの浴、
無水エタノールを有する1つの浴。
【0049】
典型的に、乾燥する工程g)は50℃にて実施され得る。典型的に、前記工程は真空手段により実施される。本発明の方法は、工程g)の後で工程h)の前に、粉末を得るようにヒドロゲル粒子を研磨するさらなる工程g’)を含んでもよい。
【0050】
篩にかける工程h)は所望の直径を有する基準粒子の形成を導く。この工程は幅広い範囲の粒径分布を与える。典型的に、前記粒子の直径は、5μm〜2mm、好ましくは20μm〜1.5mmである。典型的に、前記篩にかける工程は振動性篩振とう器を用いて実施されてもよい。2つのパラメータはこの機器で調節され得る:1.0〜4m/s
2に設定され得る篩底部加速度、0.20〜3mmである可変振動振幅。
【0051】
膨張させる工程i)は異なる膨張溶液を用いて実施されてもよい。前記膨張溶液は当業者に公知である任意の適切な媒質であってもよい。しかしながら、本発明者らは、乾燥ヒドロゲル粒子を膨張するために使用する場合、一部の非常に特定の媒質がより良い結果を与えることを証明している。
【0052】
好ましくは、前記膨張溶液は生理食塩水である。
【0053】
あるいは、前記膨張溶液は、SCOT30、SCOT15、Perfadex、Stem、アルファ溶液、ビアスパン(Viapsan)、セルシオ(celsior)溶液、UW溶液、VS4溶液、バイオキセル(Bioxell)溶液、イーグル(Eagle)培地、ハンクス(Hanks)溶液、またはダルベッコ改変イーグル培地などの市販の溶液であってもよい。
【0054】
本明細書で使用される場合、「生理食塩水」または「生理溶液」という表現は、塩化ナトリウム水溶液を指す。典型的に、前記溶液は0.9%の塩化ナトリウムを含む。典型的に、前記溶液は無菌であり、等張性である。すなわち、前記溶液は血液と同じ浸透圧を有する。したがって、前記生理食塩水は生理的である。
【0055】
好ましくは、前記膨張溶液は以下からなる群から選択される:
i)溶液SGly、該溶液は好ましくは、1〜10%、最も好ましくは約5%のグリセロールの濃度にて生理食塩水およびグリセロールを含む;
ii)溶液SGLU、該溶液は好ましくは、5〜20%、最も好ましくは約10%のグルコースの濃度にて生理的血清およびグルコースを含む;および
iii)溶液SPEG15、該溶液は好ましくは、生理食塩水1リットル当たり15gのポリエチレングリコールの濃度にて生理食塩水およびポリエチレングリコールを含む。
【0056】
本明細書で使用される場合、「SGly」という表現は、好ましくは1〜10%、最も好ましくは約5%のグリセロールの濃度にて生理食塩水およびグリセロールを含む膨張溶液を指す。
【0057】
本明細書で使用される場合、「SGLU」という表現は、好ましくは5〜20%、最も好ましくは約10%のグルコースの濃度にて生理食塩水およびグルコースを含む膨張溶液を指す。
【0058】
本明細書で使用される場合、「SPEG15」という表現は、好ましくは生理食塩水1リットル当たり15gのポリエチレングリコールの濃度にて生理食塩水およびポリエチレングリコールを含む膨張溶液を指す。
【0059】
膨張溶液の量はヒドロゲル粒子の量および冷凍保存に対する生物試料の性質に依存する。したがって、当業者は、乾燥ヒドロゲル粒子が膨張する膨張溶液の特定の量を容易に決定する。
【0060】
本発明の方法は生物試料を凍結した後により高い生存率を提供する。
【0061】
一実施形態において、前記生物試料は、哺乳動物細胞、植物細胞、血液細胞、卵母細胞または精細胞などの生殖細胞、胚細胞、幹細胞、臍帯由来の細胞、卵巣皮質の細胞、造血系幹細胞または膵島などの細胞である。前記生物試料はまた、動物胚、ヒトまたは非ヒトなどの胚であってもよい。
【0062】
本発明者らは、本発明の非常に特異的なヒドロゲルに起因して、凍結保存した卵母細胞の生存率が、3倍少ない1,2−プロパンジオール(PROH)を使用した状態で、PROHの使用を含む従来の方法で得た生存率より高い様式を示した。
【0063】
細胞または胚を凍結保存した場合の浸透圧衝撃のあらゆる危険性を防ぐために、ヒドロゲル内に細胞を注入することが好ましい。前記ヒドロゲル内への前記細胞の注入は任意の従来の技術に従って実施され得る。典型的に、ヒドロゲルは標的細胞を凍結保存するのに十分な量でクライオチューブ(cryotube)内、または高安全ストロー内に配置される。装置の選択は凍結保存される細胞の性質に依存する。次いで細胞はヒドロゲル内に注入される。次いで凍結する工程が行われてもよい。
【0064】
別の実施形態において、前記生物試料は、心臓、肺、皮膚、血管、角膜、卵巣、肝臓、腎臓、膵臓、腸、眼または脾臓などの器官である。この特定の実施形態において、ヒドロゲルの一部内にのみ器官を最初に配置し、その後、ヒドロゲルの残りの量を提供することが好ましい。典型的に、プロセスを実施する前に、当業者は標的器官を凍結乾燥するのに十分な量のヒドロゲルを決定する。次いで、10〜60%、好ましくは20〜40%のこのヒドロゲルが適合されるクライオチューブ、ストローまたはパウチ内に配置される。器官がヒドロゲル内に配置されると、40〜90%、好ましくは60〜80%の残りのヒドロゲルが前記クライオチューブ、ストロー、またはパウチ内に配置される。次いで凍結する工程が行われてもよい。
【0065】
さらに別の実施形態において、前記生物試料はDNAまたはRNAなどの核酸である。典型的に、前記核酸はDNAまたはRNAを抽出するための慣例の手順により得られる。
【0066】
典型的に、本発明を実施するのに有用な乾燥ヒドロゲル粉末は1から3000%を含む膨張比を有する。乾燥ヒドロゲル粒子の膨張比は生理食塩水中で決定される。典型的に、乾燥凍結生物ゲルの重量は、生理食塩水、好ましくはリン酸緩衝食塩水(PBS)中への浸漬前に記録される(W
d)。インキュベーションの1時間後、過剰な水が除去され、膨張した凍結生物ゲルが秤量される(W
s)。膨張比は以下の式に従って計算される。
SR=[(W
s−W
d)/W
d]×100
【0067】
本発明の乾燥ヒドロゲルは、Agar(登録商標)またはAgargel(登録商標)などの市販のヒドロゲルより高い膨張特性を提供する。本発明を実施するのに有用な乾燥ヒドロゲルは任意の他の市販のヒドロゲルと比べて予期せぬ結果を示す。この結果は本発明のヒドロゲルの非常に特定の性質により証明される。したがって、本発明者らによって開発された方法は、前記ヒドロゲルに対して非常に特定の特徴を提供するように明らかに見える。所望の場合、生物試料は解凍される。典型的に、解凍する工程は、凍結またはガラス化生物試料を解凍溶液中に配置することによって実施される。
【0068】
本明細書で使用される場合、「解凍」溶液という用語は、その生存能力を保存しながら、生物試料を解凍できる溶液を指す。このような媒体は、特定の生物試料についての基本媒体として適切であることが当該技術分野において知られている任意の媒体であってもよい。
【0069】
本発明は生殖細胞および/または動物胚を凍結する方法に関する。インビトロ受精処理が多胎妊娠を回避するために少数の胚を用いて実施される場合、卵母細胞、精細胞および胚を凍結保存するための効果的な方法についての必要性が存在する。したがって、本発明は動物(ヒトおよび非ヒト)の生殖細胞および胚を凍結保存するのに非常に有用である。
【0070】
典型的に、胚は、発生の種々の段階、好ましくは桑実胚および胞胚期などの早期に凍結保存に供されてもよい。
【0071】
本発明はさらに、抗凍結剤としてのヒドロゲルの使用に関し、前記ヒドロゲルは、
a)30〜70℃、好ましくは40〜50℃、最も好ましくは50℃の温度にてアルカリ性条件下で、トリメタリン酸三ナトリウム(STMP)、オキシ塩化リン(POCl3)、エピクロルヒドリン、ホルムアルデヒド、水溶性カルボジイミドおよびグルタルアルデヒドからなる群から選択される網状化剤を用いて、プルラン、デキストラン、硫酸デキストラン、スクレログルカン、カルボキシメチルデキストラン、カルボキシメチルプルラン、寒天、アルギン酸塩、フコイダン、キトサン、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、ヘパリン、ヘパリン硫酸模倣剤またはヘパラン硫酸模倣剤およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの多糖を化学的に架橋する工程
によって得られる。
【0072】
本発明はさらに、抗凍結剤としてのヒドロゲルの使用に関し、前記ヒドロゲルは、
a)30〜70℃、好ましくは40〜50℃、最も好ましくは50℃の温度にてアルカリ性条件下で、トリメタリン酸三ナトリウム(STMP)、オキシ塩化リン(POCl3)、エピクロルヒドリン、ホルムアルデヒド、水溶性カルボジイミドおよびグルタルアルデヒドからなる群から選択される網状化剤を用いて、プルラン、デキストラン、硫酸デキストラン、スクレログルカン、カルボキシメチルデキストラン、カルボキシメチルプルラン、寒天、アルギン酸塩、フコイダン、キトサン、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、ヘパリン、ヘパリン硫酸模倣剤またはヘパラン硫酸模倣剤およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの多糖を化学的に架橋する工程、
b)ヒドロゲル粒子を得るために、a)において得られたヒドロゲルを研磨する工程、
c)任意に、工程b)において得られた前記ヒドロゲル粒子を洗浄する工程、
d)任意に、工程b)または工程c)において得られたヒドロゲル粒子を篩にかける工程、
e)任意に、好ましくは生理食塩水、好ましくは蒸留水中で完全にリンスしたリン酸緩衝食塩水を用いて、工程b)または工程d)において得られたヒドロゲル粒子を洗浄する工程、
f)好ましくはエタノール/水浴中で、工程b)または工程e)において得られたヒドロゲル粒子を脱水する工程、
g)乾燥ヒドロゲル粒子を得るために、好ましくは50℃にて、工程f)において得られたヒドロゲル粒子を乾燥する工程、
h)任意に、工程g)において得られた乾燥粒子を篩にかける工程、
i)ヒドロゲルを得るために、膨張溶液中で、工程h)において得られた乾燥ヒドロゲル粒子を膨張させる工程
によって得られる。
【0073】
上記の技術的特徴の全てが利用可能である。
【0074】
以下において、本発明を以下の実施例および図面によって例示する。
【実施例】
【0075】
実施例1:細胞および組織保存
多糖系ヒドロゲル粒子バンク(凍結生物ゲル)は、50℃にてアルカリ性条件下でトリメタリン酸三ナトリウム網状化剤(STMP、10%(w/w、Sigma))を用いて、プルラン(MW200,000 Hayashibara、岡山、日本)を化学的に架橋することによって得た。
【0076】
得られたヒドロゲルをストレーナ(5mm直径)上で篩にかけ、リン酸緩衝食塩水(PBS、pH7.4)で洗浄し、蒸留水中で完全にリンスした。次いで、ヒドロゲルをエタノール/水浴中で脱水した(連続して70%エタノール中で1回、50%エタノール中で1回、および無水エタノール中で3回)。50℃にて真空中で乾燥後、大きな粒子を破砕し、粗調製したヒドロゲル粒子(0.1〜1.5mm直径)を得るために篩にかけた。
【0077】
A)凍結生物ゲルの特性付け
a)プロトコル
膨張分析
生理環境中のヒドロゲル粒子の挙動を定義するために、これらのヒドロゲルの膨張比を生理的血清中で求めた。乾燥した凍結生物ゲルの重量をPBS中への浸漬前に記録した(W
d)。インキュベーションの1時間後、過剰な水を取り除き、膨張した凍結生物ゲルを秤量した(W
s)。膨張比を以下の式に従って計算した:
SR=[(W
s−W
d)/W
d]×100
【0078】
リン酸塩含有量
生物バイオゲル中の結合したリン酸塩含有量を、リン酸塩アッセイを使用して定量した。手短に述べると、50mgのヒドロゲル粒子を、ヒドロゲルが完全に分解するまで105℃にて10%のHNO
3中でインキュベートした。次いでメタバナジン酸アンモニウム溶液(NH
4VO
3、11mmol/L)およびヘプタモリブデン酸アンモニウム溶液((NH4)6Mo7O24、43mol/L)を分解したヒドロゲル溶液に加えた。校正範囲は0.4mmol/LのH
3PO
4溶液を使用して行った。試料のスペクトルはスペクトロメータを使用して405nmにて記録した。
【0079】
熱機械分析
ヒドロゲルを効果的に使用する方法を定義するために、まず、それらの組成に応じてそれらの熱特性を研究することが必要とされる。実際に、合成されたヒドロゲルのこの系統的な熱特性評価は凍結生物学におけるそれらの使用のための決定要因である。
【0080】
示差走査熱量計
凍結細胞学において広範に使用されているこの技術(Boutronら、1979;Devireddy、1998;Bischof、2000)により、数ミリグラムの試料において動的条件下での相転移の観察が可能である。非晶質状態の対応するガラス形成傾向および安定性はこのように示差走査熱量測定から評価される。測定は、Setaram DSC131熱分析計で実施した。−10℃/分にて試料を20℃〜−150℃に冷やした。熱分析ソフトウェアSETSOFT2000を使用してサーモグラムを分析した。
【0081】
b)結果
実施に有用なヒドロゲル粒子を
図1に表す。前記粒子の特定の性質を本明細書以下に記載する。
【0082】
膨張比
図2の左に示すように、膨張比は粒子が膨張する膨張溶液の性質に依存する。
熱機械分析
図2の右は、本発明の方法を実施するのに有用な凍結生物ゲルの特徴を示す。
【0083】
B)凍結生物ゲルの調製
凍結生物ゲルを1mlの膨張溶液で膨張させた。4種類の膨張溶液を使用した。
1)生理食塩水および5%グリセロールからなるSGLY;
2)生理食塩水および10%の濃縮したグルコール溶液からなるSGLU;
3)生理食塩水およびポリエチレングリコール(15g/L)からなるSPEG15。
DMEM、10%DMSOおよび10%FCSの溶液は対照として使用した。
【0084】
C)細胞凍結および解凍
細胞凍結
20mgの凍結生物ゲル(粒径<5mm)を、900μlの凍結保存溶液を含有する2mlのクライオバイアル(cryovial)中で膨張させた。105/mlのHuvec細胞(ヒト臍帯静脈内皮細胞)またはCD34+細胞を含有する100μLの凍結保存溶液を、膨張した凍結生物ゲルまたは対照培地を含有するクライオチューブに加えた。クライオチューブを自動フリーザ(Freezal、Air Liquide、フランス)に移した。冷却速度は−1℃/分で室温から−80℃または−196℃であった。クライオバイアルは−80℃のフリーザに即座に移したか、または液体窒素容器に入れた。
【0085】
細胞解凍
クライオバイアルを37℃にて2分間水浴中に浸漬した。細胞および凍結生物ゲルは、過剰な培地の存在下で40μmの細胞ストレーナ(Dutscher、フランス)で分離した。遠心分離工程はこの段階で必要とされなかった。対照のために、細胞を1000rpmにて5分間遠心分離した。次いで凍結培地を取り出した。細胞溶液を培養フラスコに移し、加湿5%CO
2雰囲気下で37℃にてインキュベートした。培地は2日毎に変化させた。
【0086】
細胞生存
解凍後にトリパンブルー染色を使用して細胞生存を評価した。この方法は壊死細胞とアポトーシス細胞とを見分けることができないので、レサズリンを蛍光分子、レゾルフィンに変換する生細胞の自然減少力を使用するレサズリン(almarBlue)指示染料を使用することによっても細胞生存を評価した。生存細胞はレサズリンをレゾルフィンに連続して変換するので、生存および細胞毒性の定量的尺度が生じる(Al−Nasiry、S.ら(2007)、The use of alamarBlue assay for quantitative analysis of viability,migration and invasion of choriocarcinoma cells.Hum Reprod 22:1304−1309)。
【0087】
細胞培養
細胞増殖実験のために、HUVEC細胞(5×10
3個の細胞)を、37℃、95%湿度、5%CO
2にて10%ウシ胎仔血清(FCS)および2mMのL−グルタミン(Sigma)を追加したダルベッコ最小必須培地(DMEM)中で24ウェルプレート中に播種した。培地は2日毎に変化させた。1、3および7日目に、トリプシン−EDTAにより細胞を収集し、Malassez血球計算器(hematocymeter)でカウントした。全ての実験は少なくとも2回および4連の試料で実施した。
【0088】
D)組織の採取、凍結および解凍
組織採取
胸部大動脈を250gの体重のオスのラット(wistar、ws/ws)から採取した。全ての手順および動物処置は、National Society for Medical Research(フランス農林省からの承認番号006235)により発行されている実験動物ケアの指針に従った。一般的な麻酔の後、胸部壁を切開し、胸部大動脈を大動脈弓の下で採取し、実験前に0.9%NaCl溶液(CDM Lavoisier Laboratories)中に浸した。1cmのこれらの切片を各血管から得た。
【0089】
組織凍結
60mgのヒドロゲル(粒径<0.1mm)を、1mlの凍結保存溶液または抗凍結剤としてジメチルスルホキシド(Me2SO)を有する対照培地(DMEM、10%FCS)を含有する2mlのクライオバイアル中で膨張させた。次いで1cmの大動脈をクライオバイアル中に入れた。クライオチューブを自動フリーザ(Freezal、Air Liquide、フランス)に移し、−1℃/分の冷却速度を適用して−80℃または−196℃に到達させた。クライオバイアルを即座に−80℃のフリーザまたは液体窒素容器に移した。
【0090】
組織解凍
保存後、クライオバイアルを37℃にて水浴中に浸漬することによって迅速に解凍した。クライオバイアルを濾過により除去した。凍結した試料を含有するクライオバイアルを37℃にて2分間水浴中に浸漬した。組織を鉗子により除去して、生理食塩水中に浸漬し、ヒドロゲルを除去した。あるいは、過剰な培地を加え、大動脈を容易に採取した。
【0091】
E)細胞および組織生存の評価
細胞生存
解凍後にトリパンブルー染色により細胞生存を評価した。この方法は壊死細胞とアポトーシス細胞とを見分けることができないので、レサズリンを蛍光分子、レゾルフィンに変換する生細胞の自然減少力を使用するレサズリン(almarBlue)指示染料を使用することによっても細胞生存を評価した。生存細胞はレサズリンをレゾルフィンに連続して変換するので、生存および細胞毒性の定量的尺度が生じる(Al−Nasiry、S.ら(2007)、The use of alamar Blue assay for quantitative analysis of viability,migration and invasion of choriocarcinoma cells.Hum Reprod 22:1304−1309)。
【0092】
500μlの細胞溶液(2×10
4個の細胞/ml)を、50μlのブルーレサズリン溶液を含む24ウェルプレートのウェルに移し、加湿した5%CO
2雰囲気中で37℃にてインキュベートした。4時間後、FluoStar Optima蛍光光度計を使用してレサズリン減少を測定し、同じ濃度にて凍結保存前の細胞の減少と比較した。以下の式を使用して細胞生存のパーセンテージを計算した:
細胞生存のパーセンテージ(%)=[(解凍後の細胞の吸光度)/(解凍前の細胞の吸光度)]×100
対照培地は、HUVEC細胞についてDMEM、10%DMSO、10%FCSまたはCD34+細胞についてDMEM、10%DMSO、5%アルブミンであった。
【0093】
細胞増殖
細胞増殖実験のために、HUVEC細胞(5×10
3個の細胞)を、37℃、95%湿度、5%CO
2にて10%ウシ胎仔血清(FCS)および2mMのL−グルタミン(Sigma)を追加した24ウェルプレート中のダルベッコ最小必須培地(DMEM)中で播種した。培地は2日毎に変化させた。1、3および7日目に、トリプシン−EDTAによって細胞を収集し、Malassez血球計算器でカウントした。全ての実験は少なくとも2回および4連の試料で実施した。
【0094】
組織生存
MTTアッセイを使用して組織細胞生存を測定した。MTT(3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド、テトラゾール)を生細胞のミトコンドリア中で紫色のホルマザンに還元し、この還元はミトコンドリア還元酵素が活性化される場合にのみ行われる。手短に述べると、大動脈切片(1cm)を1mlのMTT溶液(5mg/ml、Sigma、フランス)中に入れ、RTにて3時間インキュベートした。得られたホルマザン結晶を、300μlのイソプロパノールを19時間添加することによって可溶化した。570nmにおける光学密度を測定し、細胞生存のパーセンテージを以下の式を使用して計算した:
細胞生存のパーセンテージ(%)=[(実験大動脈切片の吸光度)/(新鮮な大動脈切片の吸光度)]×100
【0095】
結果
以前に開示されたプロトコルを使用して、本発明者らは種々の培地中のHUVEC細胞の生存を比較した(
図4)。凍結生物ゲルSGlyおよびRGlyは、従来の培地(DMSOおよびSVFからなる)と比較してDMSOおよびFCSの非存在下でさえ、より良い結果を与えた。
【0096】
図5はまた、解凍後の細胞増殖が、従来のSGly培地と比較して凍結生物ゲル培地中で向上することを示す。本発明者らはまた、SGly凍結生物ゲルが参照培地と同様の結果を与えることを実証した。
【0097】
図6は、SGlu凍結生物ゲルが、HUVEC細胞を凍結保存するのに優れた結果を与えることを示す。ゆっくりとした機械的凍結の後、解凍後の結果は、対照および参照培地と比較してヒドロゲルの存在下で同一の細胞生存率を表した。
【0098】
実施例2:大動脈血管凍結保存
動脈試料を凍結保存のために、抗凍結剤として凍結生物ゲルおよび凍結保存培地を含有するまたは抗凍結剤としてジメチルスルホキシド(Me2SO)を含む対照培地(DMEM、10%FCS)を含有する2mlの液体窒素保存バイアル(Nuclon−Intermed、Nunc A/S、Roskildo、Denmark)に入れた。次に、動脈切片を、−80℃に到達する1℃/分の段階的な温度減少速度にて自動化制御凍結に供し、切片をこの温度で1日間、フリーザに保存した。この保存期間の後、切片を37℃にて水浴に浸漬することによって迅速に解凍した。過剰な培地を加え、大動脈を容易に回収した。凍結生物ゲルを濾過により除去した。
図7は以下の細胞生存率を示す
a)新鮮な大動脈血管;
b)DMSOの存在下での大動脈血管;
c)凍結生物ゲルおよび生理食塩水の存在下での大動脈血管。
【0099】
本発明者らは、本発明によって開発されたプロセスがDMSOを使用した従来の技術と同じほど効果的であることを示した。MTT試験は細胞生存および適切なミトコンドリア機能の証明を与え、この機能がヒドロゲルで保存されることを実証しており、さらにこの見解はDMSOを用いた観察のものに匹敵する。得られた結果は新鮮な大動脈を用いた結果と同様であった。
【0100】
実施例3:本発明に係るヒドロゲルと、Agar(登録商標)またはAgargel(登録商標)などの市販のヒドロゲルとの膨張特性の比較
本発明者らは、本発明に関して使用したヒドロゲル粒子が、凍結保存プロセスに使用できる非常に特定の特性を与える唯一のものであることを示した。
【0101】
図8に示されるように、本発明者らは、市販のAgar(登録商標)、Agargel(登録商標)およびPhytogel(登録商標)と、本発明に関して使用されるヒドロゲル粒子との特性を比較した。
図9に示されるように、膨張後、本発明のヒドロゲルの粘度は高いように見える。
【0102】
実施例4:ウサギ胚凍結
材料および方法
性的に成熟したニュージーランドホワイト雌ウサギを使用した(n=14)。動物を平坦なデッキケージ内に収容し、標準的なペレット食餌を自由に与え、自由に水を取らせた。16時間の明および8時間の暗の交互周期を使用した。単独または組換えヒトLH(rhLH;Luveris75;Serono Europe Ltd.、London、United Kingdom)と共にrhFSH(Gonal−F75;Serono Europe Ltd.、London、United Kingdom)を使用して排卵を誘導し、雌を受精させた。胚を以前に記載したぎっしり詰まった桑実胚期にて人工授精の72時間後に採取した。手短に述べると、動物を、0.4mLのキシラジン2%(Rompun;Bayer AG、Leverkusen、ドイツ)の筋肉内注射および1.2mL/kg体重のケタミン(Imalgene;Merial S.A.、Lyon、フランス)の静脈注射により麻酔した。次いで、腹部を剃り、消毒し、動物を安楽死させる前に卵巣および子宮角を注意深く取り除いた。卵巣の肉眼検査を排卵率を決定するために実施した。各々の子宮角を、0.2%のウシ血清アルブミン(BSA;Sigma−Aldrich Quimica S.A.、Madrid、スペイン)を含有する50mLのダルベッコリン酸緩衝食塩水(DPBS;Sigma、St Louis、MO、USA)でフラッシュした。回収したフラッシュ培地を立体顕微鏡下での実験のために滅菌ペトリ皿に移した。胚を、International Embryo Transfer Society分類に従う形態学的基準によってスコア付けした。均質の割球ならびに通常のムチンコートおよび透明帯の両方を有する桑実胚期における胚のみを正常な胚とみなした。全部で534個の胚を凍結した。
【0103】
連続して胚を5分間、Embryo Holding培地ART019449(Imv Technology)、4g/LのBSAおよび10%のDMSO(参照)または5%のDMSO(対照として)または5%のDMSOおよびヒドロゲル粒子(粒度分布<0.5mm;80mgから<20mgの濃度範囲)からなる異なる凍結保存培地に入れた。次いで凍結保存培地中に懸濁した胚を、気泡により分離されるDPBSの2滴の間の0.25mLの滅菌プラスチックストロー(IMV、L’Aigle、フランス)内に充填し、滅菌プラグで密封した。次いでストローを、プログラム可能なフリーザ(Cryologic Pty Ltd、Mulgrave、オーストラリア)に直接入れ、Menezoの2工程スロー凍結プロトコルに従って凍結した。手短に述べると、胚を−7℃にて10分間、平衡にし、5分の平衡時間の後、手動の播種を行った。次いで、ストローを液体窒素に直接入れる前に0.5℃/分の凍結速度で胚を−35℃まで冷やした。3日後、室温にて10〜15秒間、ストローを静置させることによって解凍を行い、その後、それらを20℃にて1分間、水浴に入れた。解凍後、凍結保存培地を取り除いた。全部で534個の凍結−解凍胚を培養した。38.5℃、5%CO
2、および飽和湿度にて、培地TCM−199+20%ウシ胎仔血清(Sigma−Aldrich Quimica S.A.、Madrid、スペイン)中で胚を48時間培養した。解凍した胚の胚生存率および発生段階を評価した。
【0104】
結果
胚のインビトロでの生存率に関する結果を以下の表1に示す:
【0105】
【表1】
【0106】
GP1粒子群から得た凍結−解凍胚の発生能は参照群(培地+10%DMSO)と同様であり、対照群(培地+5%DMSO)と比較して顕著に高かった。培地へのGP粒子の添加により、臨床的利用に興味深いDMSO濃度の顕著な低下が可能となる。
【0107】
GP5群と対照群との間で相違は観察されなかった。結果は粒径とヒドロゲル濃度との間に相関関係があった。
【0108】
実施例5:ヒト卵母細胞の凍結
種々の濃度で使用したヒドロゲルを、最初にUVにより30分間浄化し、次いで4ウェルプレート中で700μLの完全DMEM培地(10%SVFおよび1%PSA)の存在下で膨張させた。ヒドロゲルの膨張後、卵母細胞を各ウェルに加えた。
【0109】
これらのヒト卵母細胞は、Bichat Hospital’s Medically Assisted Procreation(MAP)Laboratoryにより提供された。卵母細胞は凍結するための滅菌した高い安全性のプラスチックストロー内に充填されなければならない。プラスチックストローが適合する特別なチップを有する1mlの注射器による吸引を使用してストローを充填した。装置全体は滅菌され、使い捨て可能である(1回使い切り)。次に、Nicool Freezal(登録商標)(AIR LIQUIDE)を使用して凍結を実施した。これは、全ての種類の感受性生物試料:ストロー、チューブ、バッグなどのために設計されているプログラム可能な低温フリーザである。以下の凍結プログラムを選択した:2℃/分で−7℃に到達させ(手動の播種)、次いで−0.3℃/分で−7℃から−25℃にし、次いで−25℃/分で−150℃に到達させた。播種の結果、結晶が生じた。−7℃で安定化した後、凍結を開始するために卵母細胞から反対側のストローにおいて「播種棒」(液体窒素に浸漬されている)を用いて播種を実施する必要がある。凍結サイクルの終わりに、すなわち、温度が−150℃に到達した場合、ピンセットを使用してストローをFreezalから除去した。それらをボックス内に置き、液体窒素に入れた。
【0110】
凍結後に卵母細胞の形態学的外観を評価するために、光学顕微鏡を使用してそれらを観察し、異なる段階:凍結前、卵母細胞単独、次いでヒドロゲルを含有する培地と接触した卵母細胞(C1、C2およびC3濃度において)、および凍結後において撮影した。
【0111】
卵母細胞の形態は、それらを処理するたびに規則的に評価した。最初の工程は、卵母細胞が浸透圧衝撃を受けないこと、およびそれらが損傷を受けないままであることを確実にするために卵母細胞を20分間ヒドロゲルに入れる工程からなった。4ウェルプレートをこの目的のために使用し、その中でヒドロゲルを種々の濃度(C1、C2およびC3)にてDMEM中で膨張させた。20分後、卵母細胞を回収し、ペトリ皿内に単離した。
【0112】
実施例6:皮膚の凍結
材料および方法
種々の濃度で使用したヒドロゲル粒子を、最初にUVにより30分間浄化し、次いで4ウェルプレート中で700μLの完全DMEM培地(10%SVFおよび1%PSA)の存在下で膨張させた。ゲルの膨張後、ラットの皮膚(6mm直径)を各ウェルに加え、吸引を使用してストローを充填した。DMEM、10%のジメチルスルホキシドを参照(対照)として使用した。次に、凍結(ゆっくりとした凍結またはガラス化)を、Nicool Freezal(登録商標)(AIR LIQUIDE)を使用して実施した。次いで試料を液体窒素タンクに入れた。液体窒素保存の1ヶ月後、皮膚を解凍し、以前に記載されているMTT法によって組織生存を研究した。
【0113】
結果
結果を以下の表2にまとめる:
【0114】
【表2】
【0115】
凍結保存培地(DMEM、10%FCS)への凍結生物ゲルの添加は、DMSOを添加せずに、10%DMSOにいて凍結した皮膚と同じ割合で細胞組織生存を保存する。
【0116】
実施例7:凍結生物ゲルを用いたHUVEC細胞凍結保存の後のCD31免疫染色
この実験において、本発明者らは、細胞分解に対する、凍結生物ゲルを用いたHUVEC凍結保存の効果を調べた。これは、マトリゲル上でのインビトロ管形成(特異的マーカーCD31を識別するための免疫蛍光染色に起因する)により、ならびに至適基準法として本明細書において指定した、DMEM、10%DMSOおよび10%FCSの溶液に関する方法との比較により試験した。
【0117】
マトリゲルを4℃にて一晩解凍し、24ウェルプレートの各ウェル(240μl、10mgタンパク質/ml)に均一に広げ、37℃にて30分超の間重合した。細胞を解凍し、次いでDMEM10%FBS中で6時間インキュベートし、5×10
4個の細胞/ウェルの密度にてマトリゲルの層上に播種した。
【0118】
インキュベーションの24時間後、管形成を観察した(
図10)。同様の管形成を、凍結生物ゲルまたは至適基準技術(10%DMSO、10%FCS)で凍結乾燥したHUVEC細胞中で観察した。
【0119】
このように本発明者らは、本発明の凍結生物ゲルが、分化する組織の能力に関して従来技術の至適基準法と同じ結果を提供することを示した。
【0120】
実施例8:液体窒素中の大動脈ラット血管の凍結保存
1.組織構成に対する効果
大動脈ラット血管構造および内皮細胞層保存を、凍結生物ゲルを含む液体窒素中の1ヶ月の凍結保存後に評価した。結果を至適基準法(10%DMSO、10%FCS)と比較した。
【0121】
図11に示したように、至適基準技術と凍結生物ゲルとの間の組織構成において相違は発見されなかった。
【0122】
弾性板は平行であり、内皮細胞の層を保存した(RECA1免疫染色)。対照的に、対照条件(すなわち凍結生物ゲルを加えていない)において、2つの弾性板の間の弾性板の分解および大きな空間が観察された(オルセイン染色、黄色の矢印)。さらに、内皮細胞の層は対照条件において存在しなかった。したがって、本発明の凍結生物ゲルは、凍結保存細胞の組織構成に対してネガティブな影響を有さない。
【0123】
2.機械的性質に対する効果
本発明者らはさらに、液体窒素中で1ヶ月後、凍結生物ゲルの存在下で凍結保存した大動脈の機械的性質を調べた。大動脈の機械的性質に対する凍結生物ゲルの存在下での凍結保存の影響を長手方向において引張試験によって評価し、新鮮な大動脈および至適基準法(10%DMSO、10%FCS)で保存した大動脈と比較した。
【0124】
3つの凍結保存溶液を使用した:
実験溶液(SGly、0%DMSO)、および
2つの臨床的市販溶液(SCOT 15(登録商標)およびSCOT 30(登録商標)、0%DMSO、MacoPharma、フランス)。
【0125】
図12に示したように、計算したヤング係数は、対照条件と比較して凍結生物ゲルの存在下の凍結保存で良好であり、SCOT溶液についての至適基準法と同様であった。SGly溶液は新鮮な大動脈と同様の結果を示した。
【0126】
したがって、本発明の凍結生物ゲルは凍結保存細胞の機械的特性に対してネガティブな影響を有さない。対照的に、本発明の方法は、高いヤング係数を示す、すなわち良好な機械的特性を示す、凍結保存した大動脈を提供する。
【0127】
実施例9:マウス卵母細胞凍結保存の生存率
本発明者らは、以下のように1,2−プロパンジオール(PROH)を使用して3つの異なる実験においてラットの卵母細胞の生存率を比較した:
I群:PROH1.5mol/L、スクロース0.3%(臨床的至適基準);
II群(対照):PROH0.5mol/L、アルブミン10%;および
III群:PROH0.5mol/L、凍結生物ゲル、アルブミン10%。
結果は以下の通りである。
【0128】
【表3】
【0129】
本発明者らは、本発明の非常に特異的な凍結生物ゲルのおかげで、それらが、従来の方法におけるよりも3倍少ないPROHを使用しながら、凍結保存した卵母細胞の高い生存率を得たことを証明した。
【0130】
参考文献
本出願全体を通して、種々の参考文献が本発明に関する技術状況を記載している。これらの参考文献の開示は参照により本開示内に組み込まれる。