特許第6095706号(P6095706)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6095706ポインティング・デバイス、キーボード・アセンブリおよび携帯式コンピュータ。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6095706
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】ポインティング・デバイス、キーボード・アセンブリおよび携帯式コンピュータ。
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/0338 20130101AFI20170306BHJP
   G06F 3/02 20060101ALI20170306BHJP
   G06F 3/038 20130101ALI20170306BHJP
【FI】
   G06F3/0338 411
   G06F3/02 310K
   G06F3/038 330
   G06F3/038 350D
【請求項の数】14
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-19947(P2015-19947)
(22)【出願日】2015年2月4日
(65)【公開番号】特開2016-143306(P2016-143306A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2015年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】505205731
【氏名又は名称】レノボ・シンガポール・プライベート・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100106699
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 弘道
(74)【代理人】
【識別番号】100132595
【弁理士】
【氏名又は名称】袴田 眞志
(72)【発明者】
【氏名】中村 聡伸
(72)【発明者】
【氏名】山▲ざき▼ 充弘
(72)【発明者】
【氏名】水谷 晶彦
【審査官】 塩屋 雅弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−242417(JP,A)
【文献】 特開平11−102621(JP,A)
【文献】 米国特許第05889507(US,A)
【文献】 特開平02−141816(JP,A)
【文献】 特開平08−022376(JP,A)
【文献】 特開2011−232947(JP,A)
【文献】 特開2005−190353(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/02
3/03−3/047
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータのマウス・カーソルを操作するためのポインティング・デバイスであって、
キーボード・プレートの上側に配置した操作キャップと、
前記キーボード・プレートの下側に配置した複数の圧力センサーと、
前記操作キャップを支持し、前記操作キャップに対する押圧操作に応じて押圧方向にスライドして前記複数の圧力センサーに加わる圧力を初期圧力から低下させるスタッドと
を有するポインティング・デバイス。
【請求項2】
前記操作キャップが押圧されたときに前記スタッドの中心軸が傾斜して一方の前記圧力センサーの検出圧力を初期圧力から減少させ他方の前記圧力センサーの検出圧力を前記初期圧力から増加させる請求項1に記載のポインティング・デバイス。
【請求項3】
前記キーボード・プレートの下部に配置し前記スタッドに固定したセンサー・プレートを有し、
前記センサー・プレートと前記複数の圧力センサーの間に緩衝材を配置した請求項1に記載のポインティング・デバイス。
【請求項4】
前記スタッドを前記キーボード・プレートの下側から固定するためのネジを有する請求項1に記載のポインティング・デバイス。
【請求項5】
コンピュータのマウス・カーソルを操作するためのポインティング・デバイスであって、
キーボード・プレートの上側に配置した操作キャップと、
前記キーボード・プレートの下側に配置し、前記操作キャップに対する押圧力の変化による初期圧力からの減量分を検出することが可能な複数の圧力センサーと、
前記複数の圧力センサーの前記減量分から前記マウス・カーソルの移動信号を生成することが可能なコントローラと
を有するポインティング・デバイス。
【請求項6】
前記複数の圧力センサーが、直交軸上に配置した4個の圧力センサーである請求項5に記載のポインティング・デバイス。
【請求項7】
前記コントローラは、前記4個の圧力センサーの検出圧力の中で減量分の大きな2個の圧力センサーを抽出して前記移動信号を生成する請求項6に記載のポインティング・デバイス。
【請求項8】
前記コントローラは、前記減量分の相互間の差が所定の範囲のときに前記マウス・カーソルの位置における選択信号を生成する請求項5に記載のポインティング・デバイス。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれかに記載のポインティング・デバイスを備えるキーボード・アセンブリ。
【請求項10】
請求項1から請求項8のいずれかに記載のポインティング・デバイスを備える携帯式コンピュータ。
【請求項11】
電子機器に入力するためのポインティング・デバイスであって、
固定用プレートの上側に配置した操作部と、
前記固定用プレートの下側に配置した複数の圧力センサーと、
前記操作部に対する押圧操作に応じて前記複数の圧力センサーの検出圧力を初期圧力から低下させるスタッドと
を有するポインティング・デバイス。
【請求項12】
複数の圧力センサーを備えるポインティング・デバイスがコンピュータのマウス・カーソルを操作する信号を生成する方法であって、
前記複数の圧力センサーに初期圧力を付与するステップと、
操作キャップを押圧するステップと、
前記操作キャップの押圧に応じて前記複数の圧力センサーの検出圧力の前記初期圧力からの減量分を検出するステップと、
前記減量分を利用して前記マウス・カーソルの移動信号を生成するステップと
を有する方法。
【請求項13】
前記移動信号を生成するステップが、前記減量分が大きいほうから2個の圧力センサーを選択し、前記2個の圧力センサーの位置と減量分から前記移動信号を生成する請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記複数の圧力センサーの検出圧力の減量分を比較するステップと、
前記減量分の相互間の差が所定値以内のときに前記マウス・カーソルの位置に対する選択信号を生成するステップと
を有する請求項12または請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器に入力するポインティング・デバイスに関し、さらにはコンピュータの画面に表示するマウス・カーソルの移動をすることが可能なポインティング・デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータのポインティング・デバイスは、ユーザの操作に応じて画面に表示するマウス・ポインタ(マウス・カーソル)を移動させる移動信号を生成し、選択操作に応じてマウス・ポインタの位置に対する選択信号を生成する。ポインティング・デバイスには、マウスまたはタッチ・パッドなどの他にポインティング・スティックがある。ポインティング・スティックは、トラック・ポイント(登録商標)とも呼ばれキーボードのキーの間に設けられる。ポインティング・スティックは、指をホーム・ポジションに置いたまま操作できること、マウスのように操作スペースを必要としないこと、電車や自動車などで膝の上でコンピュータを保持しながら片手でも操作し易いことなどの理由で主としてノートブック型パーソナル・コンピュータ(ノートPC)に採用されている。
【0003】
ポインティング・スティックの検出原理として圧力センサー式と歪みゲージ式が知られている。特許文献1は、十字状に配置した4個の圧力センサーに支持棒を中心にして傾斜が可能な板を経由して圧力を加えることで、カーソルを移動させる方向と移動の大きさに対応する信号を生成するポインティング・デバイスを開示する。特許文献2は、操作レバーに水平方向の力を加えることで操作レバーの周辺に十字状に配置された4個の感圧ゴムの抵抗を変化させ、力の方向と大きさを検出するポインティング・デバイスを開示する。特許文献3は、球軸受で支持されたステムの頂部に結合された指操作部に上から軸線からずれた位置に力を加えることで、4方向に配置された圧電素子によりカーソルの移動方向と移動速度に対応する信号を得るポインティング・デバイスを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−222019号公報
【特許文献2】特開平6−309095号公報
【特許文献3】特開平9−244801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の発明者達がすでに開発している、ノートPCに搭載する圧力センサー式のポインティング・デバイス10を図8図9に示す。図8(A)は、ノートPCを構成するディスプレイ50と、キーボード・アセンブリ30だけを模式的に示した図である。図8(B)はポインティング・デバイス10の断面図である。図9(A)は、ポインティング・デバイス10を構成する圧力センサー17a〜17dを示す平面図で、図9(B)は、操作キャップ11を取り外したセンサー・プレート13を、ネジ15で上からキーボード・プレート21に固定する様子を示している。
【0006】
ディスプレイ50には、マウス・カーソル51を表示している。ポインティング・デバイス10は、キーボードのホーム・ポジションに指を置いて1本の人指し指で操作できるようにキーボード・アセンブリ30のほぼ中央のG、H、Bキーの間に配置している。キーボード・アセンブリ30は、金属のキーボード・プレート21の上面に各キーに対応するキー・スイッチを組み込んだメンブレン・シート(図示せず)を積層している。
【0007】
各キーはキーボード・プレート21に固定され、押下されたときにメンブレン・シートのキー・スイッチを動作させる。ポインティング・デバイス10は操作キャップ11、センサー・プレート13、圧力センサー17a〜17dを実装したフレキシブル印刷回路基板(FPC基板)19を含む。
【0008】
センサー・プレート13は、スタッド23とネジ15を利用してキーボード・プレート21に固定している。操作キャップ11は、キーボード・プレート21に取り外し可能なように嵌め込んでいる。ポインティング・デバイス10は、操作キャップ11の上面に対して押圧操作が行われたときの圧力を圧力センサー17a〜17bが検出してマウス・カーソル51の移動速度と移動方向を決める信号を生成する。
【0009】
このような、ポインティング・デバイス10はキーボード・アセンブリ30の薄型化に適しているが、以下のようにさらに改善の余地があることがわかってきた。まず、操作キャップ11またはセンサー・プレート13とFPC基板19との間に隙間があるため、キーボード・アセンブリ30に水がこぼれたときにFPC基板19が短絡する可能性があった。つぎに、操作キャップ11に衝撃や過大な押圧力が加わったときに、その力が圧力センサー17a〜17dに直接伝わって圧力センサー17a〜17dを破損させてしまう可能性があった。
【0010】
さらに、操作キャップ11は容易に取り外しができるため、ネジ15を緩めて分解される可能性があった、さらに、圧力センサー17a〜17dをキーボード・プレート13の上側に配置しているため、操作キャップ11の平面的なサイズおよび高さを縮めることには限界があった。本発明の目的は、このようなさまざまな課題を解決したポインティング・デバイス、キーボード・アセンブリおよび携帯式コンピュータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様は、電子機器に入力するためのポインティング・デバイスを提供する。ポインティング・デバイスは、固定用プレートの上側に配置した操作部と、固定用プレートの下側に配置した複数の圧力センサーと、操作部に対する押圧操作に応じて複数の圧力センサーの検出圧力を初期圧力から低下させるスタッドとを有する。このような構成により、押圧操作に対して圧力センサーは初期圧力からの減量分を検出するため操作部に衝撃が加わったときの耐衝撃性が向上する。
【0012】
本発明の第2の態様と第3の態様は、コンピュータのマウス・カーソルを操作するためのポインティング・デバイスを提供する。第2の態様にかかるポインティング・デバイスは、キーボード・プレートの上側に配置した操作キャップと、キーボード・プレートの下側に配置した複数の圧力センサーと、操作キャップを支持し操作キャップに対する押圧力の変化を複数の圧力センサーに伝えるスタッドを有する。
【0013】
圧力センサーは、キーボード・プレートの下側に配置しているため、操作キャップの平面方向のサイズを小さくし、かつキーボード・プレートより上側の高さを低くすることができる。スタッドとキーボード・プレートの間の隙間を経由した液体の進入を封止する防水材を備えていてもよい。この防水材は、弾性体で形成することで、操作キャップに対する押圧が解放されたときに操作キャップの位置を初期状態に戻すことができる。また、操作キャップに対する衝撃により圧力センサーに加わる力を緩和することができる。
【0014】
操作キャップが押圧されたときにスタッドが押圧方向にスライドして複数の圧力センサーに加わる圧力を初期圧力から低下させることができる。したがって、操作キャップに衝撃が加えられても圧力センサーの圧力は低下するため、圧力センサーが破損することがなくなる。操作キャップが押圧されたときにスタッドの中心軸が傾斜して一方の圧力センサーの検出圧力を初期圧力から増加させ他方の圧力センサーの検出圧力を初期圧力から増加させることができる。また、キーボード・プレートの下部にスタッドに固定したセンサー・プレートを配置し、センサー・プレートと複数の圧力センサーの間に緩衝材を配置することができる。緩衝材は、操作キャップを通じて加わる圧力センサーに対する衝撃を緩和することができる。
【0015】
スタッドをキーボード・プレートの下側から固定するためのネジを備えることができる。下から固定することで、操作キャップを取り外しても容易に分解できないようにすることができる。本発明の第3の態様にかかるポインティング・デバイスは、キーボード・プレートの上側に配置した操作キャップと、キーボード・プレートの下側に配置し操作キャップに対する押圧力の変化による初期圧力からの減量分を検出することが可能な複数の圧力センサーと、複数の圧力センサーの減量分からマウス・カーソルの移動信号を生成するコントローラとを有する。
【0016】
複数の圧力センサーは、直交軸上に配置した4個の圧力センサーとすることができる。コントローラは、4個の圧力センサーの検出圧力の中で減量分の大きな2個の圧力センサーを抽出して移動信号を生成することができる。コントローラは、複数の圧力センサーの検出圧力の初期圧力に対する減量分が所定の範囲のときにマウス・カーソルの位置における選択信号を生成することができる。
【発明の効果】
【0017】
耐衝撃性に優れているポインティング・デバイスを提供することができた。防水性に優れたポインティング・デバイスを提供することができた。一般ユーザによる容易な分解が困難なポインティング・デバイスを提供することができた。操作キャップの平面形状の小型化を実現したポインティング・デバイスを提供することができた。固定プレートより上側の高さを低くするポインティング・デバイスを提供することができた。本発明にかかるポインティング・デバイスは、これらの少なくともいずれかの効果を備える。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ポインティング・デバイス100の構造を説明するための断面図である。
図2】ポインティング・デバイス100の分解斜視図である。
図3】ポインティング・デバイス100の挙動を説明するための図である。
図4】ポインティング・デバイス100で構成した入力システム200の構成を示す機能ブロック図である。
図5】初期状態と移動操作に対する検出圧力を説明するための図である。
図6】移動操作に対する検出圧力を説明するための図である。
図7】選択操作に対する検出圧力を説明するための図である。
図8】本発明と対比するポインティング・デバイス10の構造を説明するための断面図である。
図9】本発明と対比するポインティング・デバイス10の構造を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は圧力センサー式のポインティング・デバイス100の概要を説明するための断面図で、図2はポインティング・デバイス100の分解斜視図である。ポインティング・デバイス100は、図8に示したキーボード・アセンブリ30に対して、ポインティング・デバイス10に代えて実装することができる。ポインティング・デバイス100は、上から操作キャップ101、スタッド103、防水材105、圧力センサー111a〜111dを実装したFPC基板109、コンタクト・プレート113、緩衝材115、およびセンサー・プレート117が積層体を形成している。
【0020】
この積層体は、防水材105とFPC基板109の間にキーボード・プレート107を挟み込むようにして、スタッド103がセンサー・プレート117とともに下からネジ119で、キーボード・プレート107に固定される。操作キャッ101は一例として全体をプラスチックで製作している。操作キャップ101の頂部は平面的に円形の操作面101aを構成する。操作面101aは、キーの頂部とほぼ同じかキーより低くすることができる。操作キャップ101は、周囲が3個のキーで囲まれており側部には指が入らないため、操作面101aに対しては押圧方向(下方向)への押圧操作だけができるようになっている。
【0021】
スタッド103は金属で形成しており、操作キャップ101の内側が嵌め込めるように平面形状が円形である。スタッド103は、ネジ119でキーボード・プレート107に結合できるように中央の凸部103aに形成した貫通口にタッピング加工をしている。凸部103aは、キーボード・プレート107の貫通口107aを貫通する。操作キャップ101、スタッド103、センサー・プレート117およびネジ119で構成した結合体は、操作面101aに対する押圧操作に応じて、貫通口107aに対して下方向へのスライド動作をしたり回転動作をしたりする。結合体が回転動作をすると、結合体の中心軸121が傾斜する。
【0022】
円環状の防水材105は、ゴムや発泡ウレタンなどの弾性体で形成しており、液体がスタッド103とキーボード・プレート107の隙間から内部に進入するのを阻止する。防水材105は弾性体で形成することで、スタッド103が傾斜したときも封止効果を維持する。防水材105は操作面101aに衝撃が加わったときに、圧力センサー101a〜101dに加わる力を緩和して保護する。防水材105はまた、操作面101aに対する押圧力が解放されたときに、スタッド103の姿勢を初期状態に復帰させる。ここに、初期状態は、操作面101aに対する押圧操作がない状態をいう。
【0023】
FPC基板109は、一例として4個の圧力センサー111a〜111dとロジック回路251(図4)を実装する。圧力センサー111a〜111dは、ポインティング・デバイス100の中心軸121の周りに放射状に配置している。圧力センサーの数は3個以上であれば特に限定する必要はないが、スペースおよびコストなどの点では3個〜5個の範囲で選択することが望ましい。圧力センサー111a〜111dは一例において、立方体の筐体の内部に圧電素子を備えロッドに加えられた圧力に対応する電圧信号を出力する。圧力センサー111a〜111dはすべて同一の圧力−電圧特性を有することが望ましい。
【0024】
円環状のコンタクト・プレート113はプラスチックで形成しており、緩衝材115を通じて付与される圧力の変化を圧力センサー111a〜111のロッドに伝達する。操作キャップ101に対しては、操作のための押圧力以外に想定外の衝撃が加わることがある。操作面101aの中心軸121の位置が衝撃力の作用点の場合は、スタッド103はスライド動作だけをするため、圧力センサー111a〜111には衝撃力が伝わらない。
【0025】
衝撃力の作用点が、中心軸121よりも周辺部に近い場合は、スタッド103が回転動作をしていずれかの圧力センサーに衝撃力が伝わる。この場合でも、回転動作と同時にスライド動作を伴う場合は、その分だけ衝撃力は緩和される。円環状の緩衝材115はゴムや発泡ウレタンのような弾性体で形成しており、回転動作でいずれかの圧力センサー111a〜111dに対して衝撃力が加わるときに力を緩和して保護する。スタッド119の組立時に圧力センサー111a〜111dに対して、一例において、それぞれ圧力センサーの許容圧力の半分程度の与圧(初期圧力)が均等に加わるようにネジ119の締め込み圧力を調整している。初期状態ではスタッド103の中心軸121はほぼキーボード・プレート107の面に対して垂直になっている。
【0026】
円環状のセンサー・プレート117は金属で形成しており、ネジ119でスタッド103の凸部103aに固定する。センサー・プレート117は、スタッド103キーボード・プレート107にネジ119で結合できるように、スタッド103とは別部材で形成している。センサー・プレート117は、押圧操作によりスタッド103がスライド動作と回転動作をしながら発生する力の変化を、緩衝材115を通じて圧力センサー111a〜111に伝達する。以上説明した、ポインティング・デバイス100の構造および材質は一例であり、本発明の範囲を限定するものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲に記載するとおりである。
【0027】
ポインティング・デバイス100は、ネジ119が下側からスタッド103とセンサー・プレート117を一体に結合してキーボード・プレート107に固定するため、操作キャップ101を取り外してもネジ頭がみえない。したがって、キーボード・アセンブリ30を筐体から取り外さない限りキーボード・プレート107から取り外すことができないため、一般のユーザにとっては内部構造にアクセすることが困難である。圧力センサー111a〜111dは、すべて、キーボード・プレート107の下側に配置している。したがって、キーボード・プレート107より上側におけるポインティング・デバイス100の高さを従来に比べて低くすることができる。
【0028】
図3は、ディスプレイ50に表示するマウス・カーソル51を左方向に移動させる意図で操作面101aに対して押圧操作をしたときのポインティング・デバイス100の挙動を説明するための図である。ユーザは、マウス・カーソル51の移動方向と操作面101aにおける中心軸121を中心とした押圧操作の位置を関連付けることができる。ポインティング・デバイス100に対しては、操作面101aに対する押圧操作で、マウス・カーソル51を移動させる移動操作と、ディスプレイ50が表示するオブジェクトの選択をする選択操作を行うことができる。
【0029】
移動操作は、マウス・カーソル51の移動方向と移動速度に対応する情報を生成する必要があるため、操作面101aの外周部の周辺を押圧することが望ましい。移動操作では、押圧操作による操作面101aに対する作用点に応じて圧力センサー111a〜111dの検出圧力が初期圧力から増加または低下する。選択操作は、移動操作と異なる検出圧力を得るために、操作面101aの中心軸121の近辺を押圧する。選択操作では、すべての圧力センサー111a〜111dの検出圧力がほぼ等しくなり、かつ初期圧力より低下する。
【0030】
マウス・カーソル51の移動方向を操作面101a上で、矢印131の方向に関連付けたユーザは、中心軸121から周辺部に向かって矢印131の方向のいずれかの位置が作用点となるように意図して押圧操作をする。このとき指の腹は操作面101aの面積より大きいため、作用点が周辺部に近い位置141aまたは中心軸に近い位置141bになることがある。スタッド103を含む結合体は、位置141bのように作用点が中心軸121に近いほど矢印123の方向のスライド動作の成分が大きくなり、位置141aのように作用点が周辺部に近いほど矢印125の方向の回転動作の成分が大きくなる。
【0031】
ポインティング・デバイス100は、作用点が中心軸121に一致すればスライド動作だけになる。またポインティング・デバイス100は、作用点が操作面101aの最も周辺部に近い位置のときは、回転動作だけになるように構成することもできる。通常の操作では、作用点の位置に応じてスライド動作と回転動作が同時に発生する。中心軸121より外側に向かって矢印131の方向のいずれかの位置を作用点にする押圧操作は、ユーザがマウス・カーソル51を左方向に移動させる意図に合致する。
【0032】
図3はスタッド103の中心軸121が初期状態からわずかに圧力センサー111bの方向(左方向)に傾斜する様子を示している。それに応じてセンサー・プレート117も傾斜し、緩衝材115を通じて圧力センサー111a〜111dに力の変化分が伝達される。押圧位置の真下に位置する圧力センサー111bの検出圧力の減量分が最も大きい。また、圧力センサー111bに対して対向する位置に配置した圧力センサー111dの検出圧力は、最も小さい減量分かまたは増量分が発生する。他の圧力センサー111b、111cの検出圧力も押圧位置に応じて初期圧力に対して増減する。このとき、防水材105は、スタッド103がいずれの方向に傾斜しても弾力的に変形して、スタッド103とキーボード・プレート107の間に隙間を空けないため、キーボード・プレート107の貫通口107aを通じた液体の進入を防止することができる。
【0033】
後に説明するように、本実施の形態では、4個の圧力センサー111a〜111dの検出圧力からマウス・カーソル51の移動方向の情報も生成する。マウス・カーソル51の移動方向は、操作面101aにおける中心軸121に対する作用点の方向に一致する必要がある。操作性を良好にするためには、圧力センサー同士が所定の距離だけ離れている必要がある。その場合、圧力センサー111a〜111dをキーボード・プレート107の上側に配置すると、その配置および圧力センサーのサイズが操作キャップ101の平面的な大きさを制限する。
【0034】
本実施の形態では、圧力センサー111a〜111dを、キーボード・プレート107の下側に配置しているため、操作キャップ101が圧力センサー111a〜111dの配置の影響を受けず平面的に小型化を図ることができる。選択操作のときは、スタッド103の中心軸121が初期状態と同じようにキーボード・プレート107に対してほぼ垂直を保って下側にスライド動作をするためすべての圧力センサー111a〜111dの検出圧力はほぼ同等に低下する。
【0035】
図4は、圧力センサー111a〜111dとFPC基板109が実装するロジック回路251で構成した入力システム200の一例を説明するための機能ブロック図である。圧力計算部201は、圧力センサー111a〜111dが出力するアナログの検出圧力からディジタルの圧力データを生成する。初期状態では圧力センサー111a〜111dが初期圧力を出力する。圧力計算部201は、初期圧力を中心にして、図5(A)に示す初期状態の圧力範囲(初期圧力範囲135)を設定する。
【0036】
操作判定部203は、4個の圧力センサー111a〜111dの圧力データから検出圧力の変動分が初期圧力範囲135を越えたときに圧力データを出力する。操作判定部203は、検出圧力の変動分の相互間での差が所定値よりも大きいときにユーザが移動操作をしていると判断して圧力データを移動信号生成部205に送る。操作判定部203は、検出圧力の変動分の相互間での差が所定値よりも小さいときにユーザが選択操作をしていると判断して圧力データを選択信号生成部207に送る。
【0037】
操作判定部303は、すべての圧力センサー111a〜111dの検出圧力が初期圧力範囲135に入ると判断したときに、移動信号生成部205への圧力データの出力を停止し、必要に応じて選択信号生成部207に解除信号を送る。移動信号生成部205は、操作判定部203から受け取った圧力データからマウス・カーソル51を移動させるための移動信号を生成してシステム260に出力する。
【0038】
選択信号生成部207は操作判定部203から受け取った圧力データから選択信号を生成してシステム260に出力する。選択信号生成部207は操作判定部203から受け取った解除信号で選択信号の出力を停止する。システム260は、CPU、システム・メモリ、および周辺デバイスなどのハードウェア資源と、デバイス・ドライバ、オペレーティング・システム、およびアプリケーション・プログラムなどのノートPCのソフトウェア資源で構成する。
【0039】
図5図6図7は、移動操作が行われたときに移動信号生成部205がカーソルの移動信号を生成する様子を説明するための図である。操作判定部203および移動信号生成部205は、放射状に配置した圧力センサー111a〜111dの中心軸121を原点とする二次元のX−Y座標を定義する。操作判定部203および移動信号生成部205は、圧力センサー111a〜111dの検出圧力とその座標を、P1(1,0)、P2(−1,0)、P3(0,1)、P4(0,−1)として、初期圧力P1〜P4を原点に設定する。
【0040】
移動信号生成部205は、定期的にまたは入力システム200がリセットされるたびに初期状態における圧力センサー111a〜111dの検出圧力を原点に設定する。図5(A)、図5(B)、図6(A)、図6(B)は、検出圧力の初期圧力からの変動分をベクトルで示している。初期状態に対応する図5(A)は、各圧力センサー111a〜111dの検出圧力P1〜P4の変動分が初期圧力範囲135に入るため移動信号および選択信号を生成しないことを示している。図5(B)、図6(A)、図6(B)は、ユーザが矢印133の方向にマウス・カーソル51を移動させる意図で押圧操作をしたときの検出圧力P1〜P4の初期圧力からの減量分ΔP1〜ΔP4を示している。
【0041】
減量分ΔP1〜ΔP4は、原点121から各圧力センサー111a〜111dが配置されている方向を当該圧力センサーについてのプラス方向に設定している。先に説明したように、矢印133の方向を示す移動信号を生成するための押圧操作の作用点は操作面101aの周辺部に近い位置151aのときもあるし、中心軸121に近い位置151bのときもある。移動信号生成部205は、いずれの場合も矢印133の方向を示す移動信号を生成する必要がある。
【0042】
図5(B)には、圧力センサー111cの減量分ΔP3と、圧力センサー111bの減量分ΔP2だけをベクトルで示している。このときの圧力センサー111a、111dの検出圧力の変化分は、作用点によって初期圧力から低下したり増加したりする。図6(A)には、圧力センサー111aの検出圧力が、減量分+ΔP11と増量分−ΔP12の間に存在し、圧力センサー111dの検出圧力が減量分+ΔP41と増量分−ΔP42の間に存在することをベクトルで示している。


【0043】
4個の圧力センサー111a〜111dの検出圧力のなかで、減量分が大きい方から2個の圧力センサー111b、111cの減量分ΔP2、ΔP3は、ユーザの操作意図を反映している。しかし、それに対応する2個の圧力センサー111d、111aの減量分ΔP4、ΔP1は、図6(A)を参照して説明したように、その大きさからはユーザが意図するマウス・カーソル51の移動方向を判断することができない。そのため移動信号生成部205は、検出圧力の減量分が大きい方から2個の圧力センサーを抽出する。この例では、圧力センサー111b、111cを選択する。
【0044】
図6(B)に示すように移動信号生成部205は、選択した2個の圧力センサー111c、111bの減量分ΔP3、ΔP2について、X軸方向の力FxをFx=ΔP3として設定し、Y軸方向の力FyをFy=ΔP2として設定する。移動信号生成部205は、Fx、Fyをベクトル計算した合力Psの絶対値を移動速度として特定し、合力PsとFxまたはFyから計算した角度θを移動方向として特定する。移動信号生成部205は、合力Psのベクトル方向に合力Psの大きさに応じた速度でマウス・カーソル51が移動するような移動信号を生成する。
【0045】
ポインティング・デバイス100は、マウス・カーソル51の単位時間当たりの移動量Sと合力Psの絶対値をS=M(Ps)の関数を使って操作感が良好になるように関連付けている。移動量Sをたとえば所定時間内のパルス数とすれば、システムは1パルスに一定の移動距離を対応させることで移動速度を反映させることができる。ポインティング・デバイス100は、X軸方向の移動量Sx=S×(Fx/Ps)とY軸方向の移動量Sy=S×(Fy/Ps)をシステム260に送る。移動量Sx、Syを受け取ったシステム260はたとえばマウス・カーソル51を現在の位置から角度θの方向に単位時間にS=M(Ps)だけ移動させることができる。
【0046】
図7は、中心軸121を作用点153とする選択操作が行われたときの検出圧力P1〜P4の減量分ΔP1〜ΔP4を示している。選択操作に対しては、各圧力センサー111a〜111dの検出圧力の減量分がほぼ等しくなっている。圧力センサー111a〜111dがX軸およびY軸上に存在しない場合、および圧力センサーの数が3個または5個のときは、3個の圧力センサーの検出圧力をX軸方向の成分とY軸方向の成分に分解および合成して同様に計算することができる。ポインティング・デバイス100は、システム260に有線または無線で接続するキーボード・アセンブリに実装してもよいし、キーボード・アセンブリとともにノートPCに搭載してもよい。
【0047】
本発明にかかるポインティング・デバイスはさまざまな利点を備えているため、ノートPCやキーボード・アセンブリに限らず、ゲーム機や機械の操縦装置のようなさまざまな分野の電子機器に適用することができる。これまで本発明について図面に示した特定の実施の形態をもって説明してきたが、本発明は図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限り、これまで知られたいかなる構成であっても採用することができることはいうまでもないことである。
【符号の説明】
【0048】
30 キーボード・アセンブリ
50 ディスプレイ
51 マウス・カーソル
100 ポインティング・デバイス
101 操作キャップ
101a 操作面
103 スタッド
105 防水材
107 キーボード・プレート
109 FPC基板
111a〜111d 圧力センサー
113 コンタクト・プレート
115 緩衝材
117 センサー・プレート
119 ネジ
121 中心軸
135 初期圧力範囲
141a、141b、151a、151b、153 押圧操作の作用点
200 入力システム
ΔP1〜ΔP4 検出圧力の減量分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9