特許第6095776号(P6095776)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6095776C4炭化水素混合物中のメルカプタンのチオエーテル化
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6095776
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】C4炭化水素混合物中のメルカプタンのチオエーテル化
(51)【国際特許分類】
   C07C 5/05 20060101AFI20170306BHJP
   C07C 11/08 20060101ALI20170306BHJP
   C07C 319/18 20060101ALI20170306BHJP
   C07C 321/14 20060101ALI20170306BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20170306BHJP
【FI】
   C07C5/05
   C07C11/08
   C07C319/18
   C07C321/14
   !C07B61/00 300
【請求項の数】13
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-520884(P2015-520884)
(86)(22)【出願日】2013年6月25日
(65)【公表番号】特表2015-525750(P2015-525750A)
(43)【公表日】2015年9月7日
(86)【国際出願番号】EP2013063300
(87)【国際公開番号】WO2014009148
(87)【国際公開日】20140116
【審査請求日】2016年1月5日
(31)【優先権主張番号】102012212317.2
(32)【優先日】2012年7月13日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501073862
【氏名又は名称】エボニック デグサ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン パイツ
(72)【発明者】
【氏名】マークス ヴィンターベアク
(72)【発明者】
【氏名】ディートリヒ マシュマイアー
(72)【発明者】
【氏名】フランク ガイレン
(72)【発明者】
【氏名】ライナー ブコール
(72)【発明者】
【氏名】イェアク シャレンベアク
(72)【発明者】
【氏名】アーミン リクス
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ヴォルフ
(72)【発明者】
【氏名】マティアス ライポルト
【審査官】 井上 千弥子
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第1511925(CN,A)
【文献】 米国特許第05759386(US,A)
【文献】 米国特許第06231752(US,B1)
【文献】 特開昭58−085824(JP,A)
【文献】 特表2012−502171(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C10G
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,3−ブタジエンによるメルカプタンのチオエーテル化方法であって、該チオエーテル化が、反応器内で水素を添加して、不均一触媒の使用下に、および1−ブテンの存在下に実施される前記方法において、1,3−ブタジエンに対する水素のモル比が0.01〜0.5であることを特徴とする前記方法。
【請求項2】
1,3−ブタジエンに対する水素のモル比が、0.1〜0.5であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
エタンチオールおよび/またはメタンチオールが、1,3−ブタジエンによりチオエーテル化されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
一酸化炭素の存在下に実施され、ここで、前記反応器の供給流中の一酸化炭素の含有量が、供給流の質量に対して20ppm未満であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記不均一触媒が、元素周期表第VIII族の金属を含むことを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記触媒が、酸化アルミニウムを担体として、およびパラジウムを触媒作用金属として含むシェル触媒であることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記供給流の前記反応器への流入温度が、0℃〜180℃であることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
水素が液相中で完全に溶解しているように、液相法として操作されることを特徴とする、請求項1から7までのいずれ1項に記載の方法。
【請求項9】
前記反応器のための供給流として、C4炭化水素の混合物が使用されることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記供給流として使用される混合物が、あらかじめイソブタンの蒸留分離に供されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
1,3−ブタジエンによるメルカプタンのチオエーテル化方法であって、該チオエーテル化が、反応器のための供給流としてメルカプタンと、1,3−ブタジエン、2−ブテン、n−ブタンおよび/またはイソブタンと、イソブテンを含む混合物を使用し、反応器内で水素を添加して、不均一触媒の使用下に、および1−ブテンの存在下に実施される前記方法において、1,3−ブタジエンに対する水素のモル比が0.01〜0.5であり、
前記チオエーテル化の後に、
・チオエーテルを蒸留分離する工程;
メルカプタンを吸着除去する工程;
・1,3−ブタジエンを選択的に水素化して1−ブテンおよび/または2−ブテンにする工程;
・1−ブテンを蒸留分離する工程;
・2−ブテンをオリゴマー化して4個より多い炭素原子を有するオレフィンにする工程;
・n−ブタンおよび/またはイソブタンを蒸留分離する工程;及び
・イソブテンをメタノールでエーテル化してメチル−tert−ブチルエーテル(MTBE)にして、該生じたMTBEを分離する工程
を含む群から選択される少なくとも1つの方法工程が続くことを特徴とする、方法。
【請求項12】
前記チオエーテル化の後に、チオエーテルの蒸留分離と1−ブテンの蒸留分離が組み合わされて行われることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記チオエーテル化の後に、イソブテンをメタノールによりエーテル化してメチル−tert−ブチルエーテル(MTBE)にする工程が続き、その後、MTBEおよびチオエーテルを含むエーテル混合物の蒸留分離が行われることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多価不飽和炭化水素によるメルカプタンのチオエーテル化方法であって、反応器において、水素を添加し、不均一触媒を使用して、1−ブテンの存在下に実施される前記方法に関する。このような方法は、US5851383から公知である。
【0002】
4炭化水素は、炭素および水素のみからなる化合物であり、炭素原子の数は、1分子当たり4個である。このC4炭化水素の重要な典型例は、4個の炭素原子を有するアルケンおよびアルカンである。
【0003】
4炭化水素の混合物は、石油精製化学(Petro−Folgechemie)の原料である。これらは、スチームクラッカー(いわゆる「分解C4」)か、または流動接触クラッカー(いわゆる「FCC C4」)から生じるものである。種々の起源のC4混合物、いわゆる「C4カット」の混合物も扱われる。個々の成分を利用するために、C4混合物は、可能な限り同一の種類でその構成成分に分解されなければならない。
【0004】
メルカプタンは、R−SHのクラスの化合物であり、ここで、Rはアルキル基を表し、Sは硫黄を表し、Hは水素を表す。メルカプタンは、チオールとも呼ばれる。メルカプタンの重要な典型例は、メチルメルカプタンおよびエチルメルカプタンであり、メタンチオールもしくはエタンチオールとも呼ばれる。メルカプタンは、C4炭化水素混合物において不所望な随伴物質として1000ppmまで生じる。
【0005】
接触クラッカー(FCC C4)またはスチームクラッカー(分解C4)からの工業的C4炭化水素混合物は、通常、飽和化合物および一価不飽和化合物の他に、多価不飽和化合物も含んでいる。前記混合物の個々の化合物を単離できるようにする前に、別の化合物を可能な限り完全に除去することが多くの場合必要である。これは、物理的な方法、例えば、蒸留、抽出蒸留または抽出により、しかしまた除去される成分を選択的に化学反応させることにより行うことができる。ここで、C4炭化水素混合物中に含まれる不純物、例えば、酸素含有成分、窒素含有成分および硫黄含有成分を可能な限り完全に除去することに特に注目しなければならない、それというのは、これらは、触媒毒として個々のプロセス段階に不利な影響を及ぼすことがあるからである。これらの不純物は、一般的に、分解C4中に微量に存在しているにすぎない一方、FCC C4流中には、比較的高い濃度で存在していることもある。
【0006】
スチームクラッカーまたは流動接触クラッカーからのC4炭化水素混合物は、一般的に、第1表に記載の主成分を有している(不純物は示されていない)。
【0007】
【表1】
【0008】
前記原料の組成は、前記材料の起源に応じて大きく変化してよい。前記C4成分には、さらに、炭素原子がより少ない、またはより多い炭化水素、ならびに不純物、例えば、メルカプタン、スルフィド、ジスルフィド、窒素含有化合物および酸素含有化合物が少量で含まれている。
【0009】
FCC C4の後処理は、1つの別形では、まずイソブタンの濃度を、蒸留における蒸留段階によって5質量%未満、特に好ましくは3質量%未満の値に下げて行われてよい。同時に、前記混合物中に存在している低沸点物(例えば、C3炭化水素、軽酸素、窒素含有化合物および硫黄含有成分)が除去される、もしくは最小限に抑えられる。それに続く工程では、反応塔ですべての高沸点物(例えば、C5炭化水素、重酸素含有化合物、窒素含有化合物および硫黄含有化合物)が塔底から除去される。次の工程では、イソブテンをメタノールと反応させてメチル−tert−ブチルエーテル(MTBE)にして、これを蒸留により除去することでイソブテンが除去される。純粋なイソブテンを得る場合、メチル−tert−ブチルエーテルは、次に、イソブテンとメタノールとに再び分解されてよい。
【0010】
前記C4混合物をさらに後処理するためには、まだ残留している多価不飽和化合物を、選択的水素化プロセスを用いて、相応の一価不飽和化合物および飽和化合物に転化させる必要がある。ここで、充分な純度の1−ブテンおよび残留しているイソブタンは蒸留分離されてよく、残留している2−ブテンおよびn−ブタンはさらに後処理されてよい。多くの場合、2−ブテンは、二量化によりオクテンに転化し、このオクテンは、次に、ヒドロホルミル化によってPVC可塑剤アルコールに転化される。前記飽和C4炭化水素は、例えば、発泡剤として使用されてよい。
【0011】
選択的水素化プロセスにおいて、1−ブテンの分離前に、多価不飽和化合物の濃度が10ppm未満の値に下がらない場合、重合で使用される1−ブテンの純度要求は達成されない。さらに、多価不飽和化合物は、2−ブテンの二量化のための触媒の触媒活性を抑制する。
【0012】
スチームクラッカーまたは触媒クラッカーのC4流の後処理は、根本的に、K.−D.Wiese,F.Nierlich,DGMK−Tagungsbericht 2004−3,ISBN3−936418−23−3に記載されている。
【0013】
多価不飽和炭化水素を選択的に水素化するためのプロセスにおける選択性の要求は、特に高い、それというのは、過水素化(Ueberhydrierung)、つまり、一価不飽和化合物の水素化、ならびに末端二重結合の内部二重結合への異性体化の場合に有価生成物が消滅するからである。同時に、すでに多価不飽和化合物の含有量が少ない流を精密精製する場合、多価不飽和化合物の濃度は、引き続き10ppmw未満の値に下げられねばならない。
【0014】
4流中で濃度が高い(約30〜50%)1,3−ブタジエンの選択的水素化のためのプロセスもしくは触媒は、EP0523482、DE3119850、EP0992284およびEP0780155に記載されている。
【0015】
触媒C4流の場合、すでに低沸点物の分離において蒸留により除去される軽質硫黄含有成分、例えば、H2S、COSまたはMeSH、およびすでにC5反応塔で分離された高沸点の硫黄化合物、例えば、ジメチルジスルフィドの他に、さらにメルカプタンを含む中沸点物(例えば、エタンチオール)が含まれていることがある。これらは、前記C4流から蒸留により容易に除去することができる。メルカプタンの存在は、以下の複数の理由から、C4流を後処理する場合に不所望である、もしくはこの後処理を妨げる:
a)メルカプタン(例えば、エタンチオール)が、選択的水素化への供給流中に存在している場合、メルカプタンは、1,3−ブタジエンの触媒反応を抑制する。したがって、分岐鎖の多価不飽和化合物が、後続の生成物(例えば、1−ブテン)中に存在し、その純度を損なわせることがある。
b)前記多価不飽和化合物が、メルカプタン含有量により引き起こされる、選択的水素化における不充分な転化のために、n−ブテンのオリゴマー化への供給流に達する場合、前記多価不飽和化合物は、オリゴマー化触媒を非活性化する。
c)メルカプタンが、n−ブテンのオリゴマー化への供給流に達する場合、メルカプタンはオリゴマー化触媒を非活性化する。
d)硫黄含有成分を有する選択的水素化触媒を送り込むことにより、水素化異性化活性触媒が形成されうることが公知である。選択的水素化への供給流中に存在するメルカプタンにより、1−ブテンの2−ブテンへの不所望な異性化をもたらすこのような水素化異性化触媒が形成されうる。
【0016】
本願記載の発明の課題は、C4流の後処理における前記問題を回避することである。
【0017】
先行技術として、メルカプタンが存在する場合、メルカプタンの濃度を約5〜15ppmの値に下げるために、メルカプタンをアルカリ水溶液で抽出して、次にメルカプタンを酸化的転化させてジスルフィドにするプロセスが実施されてよい。このような方法は、工業的な使用のために、UOP LLC社よりMEROX(登録商標)の名称で提供されている(G.A.Dziabis,”UOP MEROX PROCESS”,Robert Meyers,Handbook of Petroleum Refining Processes,3rd Edition,2004 McGraw−Hill)。
【0018】
前記MEROX(登録商標)プロセスの欠点は、装置にかかる費用が高いことの他、大量の水流およびアルカリ流が生じ、その処理に費用がかかることである。さらに、高級メルカプタン(例えば、エタンチオール)を完全に分離することは示されていない。したがって、メルカプタンの残留含分を除去するためのさらなる措置は、化学的にさらに使用する場合、どうしても行われなければならない。これは、例えば、吸着除去により行われる。C4流を脱硫するための吸着方法は、DE3914817C2およびDE19845857A1に記載されている。
【0019】
代替的に、多価不飽和炭化水素を水素化するのと同時に、および1−ブテンを2−ブテンに異性化するのと同時に、多価不飽和炭化水素によりメルカプタンをチオエーテル化するプロセスが公知であり、このプロセスは、メルカプタンの濃度を1ppm未満の値に下げ、前記多価不飽和C4炭化水素を10ppm未満の値に下げ、ならびに1−ブテンの濃度を2−ブテンと平衡にする。
【0020】
US5851383は、メルカプタンをチオエーテル化して比較的高い沸点のチオエーテルにすること、FCC−C3〜C5流中の多価不飽和オレフィンの選択的水素化、および軽質モノオレフィンの異性化を同時に行うための方法を記載している。このプロセスは、固定床反応器において、純粋な液相で実施されて、触媒として酸化アルミニウム上のニッケルが用いられる。水素は、ジオレフィンに対して2倍のモル過剰量で添加される。
【0021】
US5463134は、メルカプタンをブテンにより酸触媒を用いてチオエーテル化し、比較的高い沸点のチオエーテルにすること、およびパラフィンが豊富なC4流において、水素の非存在下に、オリゴマー化によりオレフィンを除去することを同時に行う方法を記載している。このプロセスは、固定床反応器において、純粋な液相で実施されて、触媒として酸性のイオン交換体が用いられる。
【0022】
WO2003062178は、イソブタンのブテンによるアルキル化のためのC4流の準備方法を記載している。ここで、特に、メルカプタンをチオエーテル化して比較的高い沸点のチオエーテルにすること、多価不飽和オレフィンの選択的水素化、および軽質モノオレフィンの異性化が同時に行われる。前記プロセスは、固定床反応器において、純粋な液相で実施され、触媒として酸化アルミニウム上のニッケルが用いられる。水素は、ジオレフィンに対して10倍のモル過剰量で添加される。
【0023】
前記チオエーテル化方法の欠点は、メルカプタンおよびジオレフィンの反応の他に、1−オレフィン、特に、1−ブテンの異性化も行われることにある。これによって、1−オレフィンの含有量が大幅に減少するため、後続の1−オレフィンの適切な異性化はもはや不可能である。もっとも、1−オレフィンは、有利に単離して利用することができる需要のある有価生成物である。
【0024】
これに関する不所望な異性化と同時並行して、WO2003062178およびUS5851383では、モル過剰で使用される水素により、モノオレフィンの水素化も行われる。これによって、生成物流中のモノオレフィン総含有量が著しく低下するため、この生成物流は、後続反応(例えば、オリゴマー化)に使用することはもはやできない。
【0025】
先行技術に照らして、本発明の基礎をなす課題は、使用されるC4原料流からの有価物生成が増大するように、冒頭に記載された技術分野に属する方法をさらに発展させることである。
【0026】
前記課題は、多価不飽和炭化水素に対する水素のモル比が最大1であるように、水素を前記反応に計量供給することにより解決される。
【0027】
したがって、本発明の対象は、反応器において、水素を添加し、不均一触媒の使用下に、および1−ブテンの存在下に、多価不飽和炭化水素によりメルカプタンをチオエーテル化する方法であり、ここで、多価不飽和炭化水素に対する水素のモル比は最大1である。
【0028】
本発明によるプロセスは、メルカプタンを完全に反応させて高沸点のチオエーテルに転化するのと同時に、1−ブテンの内部ブテンへの著しい異性化をほぼ完全に抑制し、ならびに前記ブテンの水素化を完全に防ぐことができる。
【0029】
当業者の予想に反して、本発明の範囲では、メルカプタンを、1,3−ブタジエンおよび水素の存在下に、検出限界まで転化させて比較的沸点の高いチオエーテルにすることができることが示されており、ここで、1−ブテンの異性化は大幅に抑制され、かつブテンの水素化は完全に阻止される。メルカプタンの検出限界は、約50ppbwである、つまり、質量割合では、50×10-9である。
【0030】
本発明の範囲では、守られるべき水素の量は、前記炭化水素混合物中に含まれる多価不飽和炭化水素に対して最大で等モルである。水素対前記多価不飽和炭化水素のモル比は、0.01:0.8であるのが好ましい。前記比は、0.1:0.5であるのが特に好ましい。
【0031】
前記方法の大きな利点は、水素の割合が少ないため、C4流中に含まれる1−ブテンがほとんど異性化されず、引き続き有価生成物として使用できることである。さらに、前記方法は、費用のかかるMEROX(登録商標)洗浄法をしないで済ますことができる。水素の供給量の範囲を正確に守ることによってのみ、同じく供給流中に含まれる一価不飽和ブテンの水素化、ならびに1−ブテンの著しい異性化が行われることなく、メルカプタンを、1つの方法において、50ppbw未満の濃度値まで、多価不飽和C4炭化水素によりエーテル化して高沸点のチオエーテルにできることが達成される。前記方法の重要な特徴は、水素なしにメルカプタンの転化が行われないことである。
【0032】
メルカプタンによりチオエーテル化される多価不飽和炭化水素は、1,3−ブタジエン、および/またはブト−1−エン−3−インおよび/または1,2−ブタジエンであるのが好ましい。これらのジエンおよびアセチレンは、特に、FCC−C4中に少量でのみ存在しており、下流に向かっていずれにしても完全に水素化される必要があり、したがって、有価生成物としてもはや使用することはできない。1,3−ブタジエンを過度に含む分解C4流から、1,3−ブタジエンがまず別個に除去されて利用される。ここでC4流中に残留している残留ブタジエンは、その後、チオエーテル化に利用されてよい。
【0033】
前記方法の特別な利点は、高反応性のメルカプタンのメタンチオールの他に、高級メルカプタン(例えば、エタンチオール)に関して反応性であることである。つまり、前記流中に含まれるメルカプタン、メタンチオールおよび/またはエタンチオールが、多価不飽和炭化水素によりチオエーテル化されるのが好ましい。
【0034】
水素化される炭化水素混合物に、任意にさらに一酸化炭素が添加されてよい。前記供給流中の一酸化炭素の含有量は、この場合、前記炭化水素混合物の質量に対して一酸化炭素0.05〜20ppmである。一酸化炭素0.5〜5ppmが添加されるのが好ましい。20ppmを上回る計量供給は、結果をそれ以上改善しない。一酸化炭素は、別個に前記反応器に計量供給されるか、または流れ込むC4流に一緒に添加される。
【0035】
一酸化炭素は、1−ブテンの2−ブテンへの異性化を減少させる追加的な調整剤(Moderator)として作用する。
【0036】
チオエーテル化のための触媒として、元素周期表の第VIII族の金属を含む不均一触媒が好適である。
【0037】
基本的に、本発明によるチオエーテル化は、特定の第VIII族金属触媒に結合していない。前記金属は、不活性の担体材料に担持された形態で存在しているのが好ましい。前記担体材料は、例えば、酸化アルミニウム、シリカゲルまたは活性炭である。酸化アルミニウムが担持材料として使用されるのが好ましい。
【0038】
使用される触媒が、パラジウム系触媒である場合、この触媒は、前記担体の質量に対して0.01〜3%のパラジウム濃度を有する。この濃度は、好ましくは0.1〜1%、殊に好ましくは0.3〜0.5%である。前記触媒は、内部表面積(DIN ISO 9277に準拠する気体吸着法により測定される)を50〜400m2/g、好ましくは100〜300m2/g、特に好ましくは200〜300m2/g有する。
【0039】
酸化アルミニウムを担体として、パラジウムを触媒作用金属として含むシェル触媒(Schalenkatalysatoren)がチオエーテル化に特に有利であることが分かった。
【0040】
前記反応器供給流の流入温度は、好ましくは0〜180℃の範囲、有利には60〜150℃の範囲、特に好ましくは80〜130℃の範囲である。圧力は、好ましくは0.2〜5MPaの範囲、有利には0.6〜4MPaの範囲、特に好ましくは1〜3MPaの範囲にある。いずれの場合も、圧力は、水素が完全に溶解された状態であり、前記反応器内に気相が生じないように選択されなければならない。
【0041】
チオエーテル化は、好ましくは液相法として操作される。これは、触媒の成分すべてが、液相中に存在しているか、または液体で前記反応器に導入されることを意味する。特に、水素および場合により一酸化炭素も、液相中に完全に溶解していることを意味する。
【0042】
したがって、水素は、水素化される炭化水素混合物に、微細に分散された形態で、および水素化反応器への流入前に、常に、均一な液相が存在している量で添加される。
【0043】
前記エーテル化される炭化水素混合物は、メルカプタンを1000ppmwまで含んでいてよい、つまり、質量割合は、10-3である。チオエーテル化は、1つまたは複数の反応段階で実施されてよい。メルカプタンが大量に供給流中に含まれているため、水素の必要量が、供給流中でもはや不溶である場合、供給流は、循環運転方式により希釈されてよい。代替的に、水素は、複数の部分量で、反応器の長さ、もしくは個々の反応段階に分配されて添加されてよい。
【0044】
メルカプタンが高沸点のチオエーテルに完全に転化した後、このチオエーテルを蒸留分離することが可能である。それにより、残留しているC4炭化水素混合物のチオエーテル含有量は、50ppbw未満に減少する。したがって、チオエーテル化反応器に前接続されている、考えられうる低沸点物の分離、およびチオエーテル化反応器に後接続されている難沸点物の蒸留と一緒に、C4炭化水素混合物の硫黄含有成分すべてを完全に除去することが可能である。
【0045】
多価不飽和オレフィンの濃度は、ガスクロマトグラフィーを用いてオンラインで測定し、その後、水素量を正確に調整することができる。これは、硫黄化合物の場合も同じである。
【0046】
前記方法は、触媒クラッカー(FCC C4)またはスチームクラッカー(分解C4)から生じるC4炭化水素からのメルカプタンを含む混合物に適用されるのが好ましい。当然、C4カットが加工されてもよい。
【0047】
供給流として使用されるC4炭化水素混合物は、あらかじめ低沸点物、特にイソブタンの蒸留分離に供されるのが好ましい。
【0048】
代替的に、前記方法は、イソブタンの分離前に適用される。
【0049】
本発明によるチオエーテル化により、前記C4流のさらなる後処理および利用の過程で、以下の方法工程の少なくとも1つの工程が行われる:
・チオエーテルを蒸留分離する工程;
・硫黄成分を吸着除去する工程;
・1,3−ブタジエンを選択的に水素化して1−ブテンおよび/または2−ブテンにする工程;
・1−ブテンを蒸留分離する工程;
・2−ブテンをオリゴマー化して、4個より多い炭素原子を有するオレフィンにする工程;
・n−ブタンおよび/またはイソブタンを蒸留分離する工程;
・イソブテンをメタノールでエーテル化してメチル−tert−ブチルエーテル(MTBE)にして、生じたMTBEを分離する工程。
【0050】
前記加工工程のうちの複数の工程は、チオエーテル化よりあとに配置されてもよい。順序は、(加工する流の組成に応じて)多様に選択されてよい。
【0051】
FCC C4の加工では、以下の順番が特に好ましい:
1.チオエーテルを蒸留分離する工程;
2.硫黄成分を吸着除去する工程;
3.イソブテンをメタノールでエーテル化してMTBEにして、生じたMTBEを分離する工程;
4.1,3−ブタジエンを選択的に水素化して1−ブテンおよび/または2−ブテンにする工程;
5.1−ブテンを蒸留分離する工程;
6.2−ブテンをオリゴマー化して、4個より多い炭素原子を有するオレフィンにする工程。
【0052】
前記チオエーテルの蒸留分離は、通常の方法では、蒸留塔で行われる。それに加えてさらに、前記C4流に随伴する難沸点物、例えば、C5炭化水素は、チオエーテルと一緒に分離されるのが好ましい。脱硫されたC4流は、蒸留塔の塔頂から抽出される。
【0053】
前記方法工程で使用されるのが好ましい蒸留塔は、理論分離段を40〜150、好ましくは40〜100、特に好ましくは50〜80有しているのが好ましい。還流比は、実現された段数、前記塔供給流の組成ならびに留出物および塔底生成物の必要な純度に応じて、好ましくは0.5〜5、特に好ましくは1〜2.5である。ここで、還流比は、留出物の質量流量で割った貫流の質量流量であると定義される。前記塔は、0.1〜2.0MPa(絶対圧)、好ましくは0.5〜1.2MPa(絶対圧)の運転圧力で運転されるのが好ましい。前記塔を加熱するために、例えば、蒸気が使用されてよい。凝縮は、選択された運転圧力に応じて、冷塩水、冷却水または空気に対して行われてよい。しかし、前記塔の塔頂蒸気は、前記方法の別の塔により、例えば、イソブタンを分離するための塔により熱統合されてもよい。この場合、前記塔の凝縮器は、同時に、低沸点物の塔の蒸発器として用いられる。前記塔底生成物は、熱利用されてよいか、または別のプロセスの出発原料として、例えば、合成ガスプラントにおいて利用されてよい。
【0054】
基本的に、本発明によるチオエーテル化、およびそれに続く、生じたチオエーテルの蒸留分離によって、触媒に有害なメルカプタンをすべて除去することができる。しかし、硫黄化合物の最少残留量の影響が、後続のプロセスで深刻な害を引き起こすことがあるため、硫黄分離をさらに付け加えて設計するのが望ましい。そのために、吸着床が企図されるのが好ましく、チオエーテルの蒸留分離の塔頂流はこの吸着体床を通り、ここで、硫黄含有化合物の最少残留量が吸着される。一般に、前記吸着体はほとんど被覆されない。チオエーテルまたは後続の蒸留における運転障害の場合、前記吸着体は、後続の触媒作用による加工過程に硫黄化合物の大きな負荷が掛からないようにする。C4流を脱硫するのに好適な吸着体は、DE3914817C2またはDE3825169A1およびDE19845857A1に記載されている。
【0055】
吸着脱硫は、0.1〜5MPaの圧力および20〜160℃の温度で、液相にて実施されるのが好ましい。洗浄により吸着器で除去される一般的な微量成分は、例えば、硫黄化合物、窒素化合物、酸素化合物および/またはハロゲン化合物である。
【0056】
本発明による方法では、このようにして得られたC4混合物から、前記含まれているイソブテンおよびメタノールを酸性のイオン交換体を用いて反応させてMTBE反応混合物を得て、このMTBEを分離するのが好ましい。原則的に、そのためには、MTBE合成のあらゆる公知の方法が使用されてよく、例えば、MTBE合成は、DE10102082A1の記載と類似に行われてよい。
【0057】
メルカプタンと反応してチオエーテルにならなかった残留しているブタジエンは、水素化工程で選択的に反応してブテンになるのが好ましい。C4流中では、1,3−ブタジエンが、最も多いブタジエンであり、(残りのオレフィンを水素化しない方策によれば)水素化されて1−ブテンおよび/または2−ブテンになる。1,3−ブタジエンの選択的水素化は、約40℃で液相において、1,3−ブタジエン対水素のモル比1:1で、および一酸化炭素1ppmを添加してパラジウム触媒を用いて行われるのが特に好ましい。これらの反応条件は、チオエーテル化の反応条件と明らかに異なるため、両方の工程は、同じ反応器内で行うことはできない。1,3−ブタジエンを選択的に水素化して1−ブテンおよび/または2−ブテンにする好適な方法は、DE102010030990A1に開示されている。DE3143647A1も好適な方法を示している。
【0058】
前記水素化は、液相中で、パラジウム含有固定床触媒を用いて、水素により、一酸化炭素を調整剤として添加して行われる。ここで、水素および一酸化炭素は、炭化水素混合物中に完全に溶解している。水素量として、多価不飽和化合物を水素化してモノエンにするのに化学量論的に最低限必要な水素量が添加される。この水素量は、水素化されるC4流の組成から算出することができる。
【0059】
前記水素化されるC4流の質量に対するCO量は、少なくとも0.05ppmである。20ppmを超える量は、標準的に、水素化の結果のさらなる主要な改善をもたらさないため、0.05〜10ppmの量であるのが好ましい。それぞれのプロセスにおいて最適に計量供給されるCO量は、DE3143647A1に記載の通り、実験に基づいて容易に求めることができる。
【0060】
前記選択的水素化のための触媒は、担体上のパラジウムを0.1〜2質量%有している。このような担体には、例えば、酸化アルミニウム、シリカゲル、アルミノシリケートおよび活性炭が含まれる。使用される触媒1リットルにつき、5〜300リットルの範囲の炭化水素量が用いられるのが好ましい。
【0061】
前記水素化が実施される温度は、0〜75℃である。温度が約40℃であるのが殊に好ましい。
【0062】
方法圧力は、液相を選択された温度で維持するために、かつ充分な量の水素および一酸化炭素を溶解するために、充分に大きくなければならない。反応圧力は、20MPa未満、好ましくは6MPa未満、有利には2MPa未満である。一般的な反応圧力は、1.5MPaである。
【0063】
前記水素化が、多段階で、特に好ましくは2段階で実施されるのが好ましい。ここで、水素の供給は、複数の反応器それぞれの前で行われ、一酸化炭素の供給は、複数の反応器の第一の反応器で行われるのが好ましい。前記反応器は、生成物の返送下に運転されてよい。
【0064】
前記選択的水素化に続いて、有価生成物の1−ブテンを分離することが考えられうる。これは、1つまたは複数の蒸留塔において蒸留により行われてよい。好ましい実施態様では、1−ブテンの分離は、2つの蒸留塔で行われる。第一の蒸留塔では、まず、イソブテンが豊富な留分および1−ブテンが豊富な留分が、C4混合物から塔頂生成物として分離され、その後、さらなる蒸留塔で、イソブタンが豊富な流および1−ブテンが豊富な流が分離される。これらの塔では、きわめて純粋な1−ブテンが塔底生成物として得られる。塔頂生成物として、さらに場合により低沸点物(例えば、C3炭化水素)を含むイソブタンが豊富な留分が得られる。
【0065】
前記後処理工程で製造される純粋な1−ブテンは、好ましくは5000質量ppm未満、有利には2000質量ppm未満、特に好ましくは1500質量ppm未満のイソブテンを含んでおり、需要のある中間生成物である。1−ブテンは、例えば、コモノマーとして、ポリエチレン(LLDPEまたはHDPE)ならびにエチレンプロピレン混合ポリマーの製造で使用することができる。1−ブテンは、さらにアルキル化剤として使用されて、ブタン−2−オール、ブテンオキシド、バレルアルデヒドの製造のための出発物質である。
【0066】
1−ブテンの他に、C4炭化水素の出発組成に応じて、前記流の蒸留による後処理でイソブタンが豊富な留分が生じる。これは、さらに精製して、好ましくは純粋なイソブタンにすることができる。前記後処理で得られるイソブタンは、好ましくは少なくとも90質量%、特に好ましくは95質量%の純度を有しており、好ましくは1000ppmw未満、特に好ましくは200ppmw未満のオレフィンを含んでいる。純粋なイソブタンにする後処理は、例えば、まだ含まれているアルケンを完全に水素化してアルカンにして、その後、蒸留することにより行われてよい。
【0067】
1−ブテンの分離を実施するためのさらなる指示は、DE102005062700A1およびDE102005062699A1に見られる。
【0068】
本発明による方法で除去される触媒毒の影響を特に受けやすいのは、オリゴマー化である。したがって、本発明によれば、メルカプタンが除去されたC4流を、次に、オリゴマー化することが考えられ、その過程では、2−ブテン、および場合により残留している1−ブテンも、オリゴマー化して4個より多い炭素原子を有するオレフィンにされる。
【0069】
前記方法工程では、ブテンを、ニッケル、ケイ素およびアルミニウムを有する不均一触媒を用いてオリゴマー化して、オリゴマーが得られる。前記方法工程の基礎をなす方法は、文献においてOCTOL(登録商標)プロセスとして記載されており、これは、Hydrocarbon Process.,Int.Ed.(1986)65(2.Sect.1),31〜33ページ、ならびにDE3914817、EP1029839およびDE102004018753の文献に記載されている。
【0070】
オリゴマー化は、ニッケルを含む不均一担持触媒の存在下に行われる。担持材料として、前記触媒は、例えば、二酸化ケイ素および酸化アルミニウム、アルミノシリケートまたはゼオライトを有していてよい。このような触媒は、専門文献において公知であり、例えば、DE4339713A1またはWO0137989に記載されている。
【0071】
前記オリゴマー化は、0〜200℃、好ましくは50〜130℃の(反応)温度、および0.1〜70MPa、好ましくは0.1〜10MPa、特に好ましくは0.5〜3MPaの圧力で実施される。
【0072】
ブテンのオリゴマー化により、オリゴマーとして特に、8個、12個、16個、20個またはそれ以上の炭素原子を有するオレフィンが得られる。これらのオレフィンは、例えば、可塑剤アルコール(C9アルコールまたはC13アルコール)、または洗剤原料を製造するためのアルコール(C13アルコール、C17アルコールまたはC21アルコール)の製造に使用することができる。前記オレフィンは、さらに加工する前に蒸留により後処理して1つまたは複数の留分にするのが好ましく、ここで、ジブテン(主にC8オレフィン)を有する留分、トリブテン(C12オレフィン)を有する留分、および高級オリゴマー(C16+オレフィン)を有する留分への分離が行われるのが好ましい。前記ジブテンからは、ヒドロホルミル化、水素化および蒸留により、大体において可塑剤アルコールとして使用されるイソノニルアルコールが得られる。前記トリブテンからは、類似の反応によりイソトリデシルアルコールを得ることができる。前記C16+留分からは、水素化してパラフィンにすることにより、高純度パラフィンの混合物が入手可能である。
【0073】
本発明の特に好ましい実施態様では、チオエーテル化後に直接的または間接的に、チオエーテルの蒸留分離と1−ブテンの蒸留分離とが組み合わされて行われる。特に、この組み合わされたチオエーテルの分離および1−ブテンの分離は、ブタジエンの選択的水素化よりも後に行われる。ここで、前記組み合わされたチオエーテルの蒸留分離および1−ブテンの蒸留分離は、側方排出塔で行われるのが好ましく、この塔頂から1−ブテンおよび場合によりイソブタンが分離される一方、前記側方排出塔の塔底には、チオエーテルが生じる。この側方排出部から、ラフィネートIII、つまり、ブタジエン、イソブテンおよび1−ブテンがほぼ除去されたC4炭化水素混合物が抽出されて、例えば、オリゴマー化に供給される。側方排出塔におけるチオエーテルおよび1−ブテンの組合された分離の利点は、1つの側方排出塔が、2つの個々の塔よりも投資費用が少ないことにある。
【0074】
チオエーテル化よりも後にMTBE合成が企図されている場合、ここで、イソブテンおよびメタノールから形成されるメチル−tert−ブチルエーテル(MTBE)を、チオエーテルと一緒にエーテル混合物として蒸留分離することが考えられる。この好ましい実施態様は、1つの工程において、MTBEの蒸留分離とチオエーテルの分離とを組み合わせるものである。
【0075】
しかし、前記両方のエーテルの分離は、側方排出塔で別個に行われるのではなく、実質的にMTBEとチオエーテルとからなるエーテル混合物が塔底に生じる慣用の蒸留塔で行われる。少量のチオエーテルがMTBEとして生じるため、前記エーテル混合物は、より詳しく言うと、チオエーテルが混じっているMTBEである。
【0076】
ここで予期されるチオエーテルによるMTBEの汚染はわずかであるため、前記エーテル混合物、例えば、工業用MTBEは、燃料プール(Kraftstoffpool)を強化することができる。したがって、前記エーテル混合物をチオエーテルと純粋なMTBEとに別個に分離する必要はない。この理由から、チオエーテルの別個の分離は省略される、それというのは、この分離は、いずれにしても必要なMTBE分離と一緒に行うことができるからである:これによって、設備の投資費用および運転費用は軽減される。
【0077】
ここで、本発明のいくつかの好ましい実施態様を図面に基づいてより詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0078】
図1】第一の実施態様のブロック図
図2】第二の実施態様のブロック図
図3】第三の実施態様のブロック図
図4】第四の実施態様のブロック図
図5】第五の実施態様のブロック図
【0079】
本発明による方法を実施することができる第一の好ましい実施態様のブロック図を図1に示す。メルカプタンを含むC4炭化水素流(10)は、チオエーテル化工程(S10)に供給される。任意に、この工程にCOも供給される。前記チオエーテル化工程に、水素(15)も供給される。前記チオエーテル化工程では、前記含まれているメルカプタンが完全にチオエーテルに転化し、含まれている1,3−ブタジエンは部分的に転化するのみである。
【0080】
メルカプタンを含まない流(20)を蒸留工程(S20)に供給し、ここで、生じたチオエーテルは、さらなる比較的高い沸点の成分、例えば、C5炭化水素により、塔底流(21)として完全に分離される。さらなる難沸性物質が存在しない場合、チオエーテルは、続いて生じる別の難沸性物質、例えば、MTBEと一緒に後々に分離されてもよい。直接的な難沸性物質の分離(S20)の場合、ここで硫黄を含まない塔頂流(30)は、水素化工程(S40)に供給される。この水素化工程では、なおも含まれている1,3−ブタジエンが、水素(45)により選択的に水素化されて1−ブテンおよび2−ブテンになる。任意に、この工程にCOも供給される。ここで、硫黄および1,3−ブタジエンを含まないC4炭化水素流(40)は、原料としてさらなる化学的生成方法で使用されてよい。
【0081】
前記方法の第二の好ましい実施態様を図2に示す。この方法の別形では、C4炭化水素流(10)から、第一の蒸留工程(S1)において、低沸点物(12)、主としてイソブタンが分離される。低沸点物をほとんど含まない流(11)のさらなる後処理は、先の図1に記載の通り行われる。
【0082】
前記方法の第三の好ましい実施態様を図3に示す。この方法の別形では、流(30)は、高沸点物の分離(S20)後にエーテル化段階(S30)に供給される。この段階で、アルコール(31)、好ましくはメタノールが供給されて、前記含まれているイソブテンが反応してエーテル、好ましくはメチル−tert−ブチルエーテル(MTBE)になる。前記エーテルは、高沸点物(32)として分離されて、イソブテンを含まない流(35)が、前記水素化工程(S40)に供給される。
【0083】
前記方法の第四の好ましい実施態様を図4に示す。図3に示された実施態様の通り、このプロセスには、チオエーテル化(S10)よりも後に配置されたMTBE合成(S30)が含まれる。しかし、チオエーテルは、別個の分離段階で、第三の実施態様の蒸留工程(S20)に相応して排出されるのではなく、MTBEと一緒に、エーテル化段階(S30)から高沸点のエーテル混合物(32)として排出される。
【0084】
前記方法の第五の好ましい実施態様を図5に示す。メルカプタンを含むC4炭化水素流(10)は、チオエーテル化工程(S10)に供給される。任意に、この工程にCOも供給される。前記チオエーテル化工程には、水素(15)も供給される。前記チオエーテル化工程において、前記含まれているメルカプタンは完全にチオエーテルに転化して、含まれている1,3−ブタジエンは、部分的に転化するのみである。
【0085】
メルカプタンを含まない流(20)は、次に、水素化工程(S40)に供給される。この水素化工程では、まだ含まれている1,3−ブタジエンが水素(45)により選択的に水素化されて、1−ブテンおよび2−ブテンになる。任意に、この工程にはCOも供給される。ここでメルカプタンおよび1,3−ブタジエンを含まないC4炭化水素流(40)は、次に側方排出塔(S50)に供給されて、ここで、組み合わされた1−ブテンの分離およびイソブタン(41)の分離が塔頂を介して行われる。側方排出部から、ラフィネートIII(50)が抽出される。チオエーテル(21)は、側方排出塔(S50)の塔底から抽出される。側方排出塔(50)では、さらに、チオエーテルの蒸留分離と1−ブテンの蒸留分離とが組み合わされて行われる。
【0086】
以下において、本発明を、例を元により詳しく説明する。
【0087】
本発明の代替的な実施態様は、類似の方法で得られる。
【0088】
チオエーテル化を、熱媒油(Sasol Olefins&Surfactants GmbH社製Marlotherm SH)が貫流する加熱ジャケットを有する固定床反応器において実施する。触媒として、γ−酸化アルミニウム上のパラジウム0.5%を有するシェル触媒0.54リットルをストランド形態で使用する。前記触媒は、Evonik Industries AGにて入手可能なNOBLYST(登録商標)H1427−1である。
【0089】
前記触媒の内部比表面積は、約250m2/gであり、細孔容積は、約0.8cm3/gである。パラジウム層の厚さは、約0.05mmである。チオエーテル化されるC4炭化水素の混合物をC4炭化水素から製造するために、ラフィネートIII、1,3−ブタジエンおよびエタンチオールを混合する。出発材料混合物および生成物混合物をガスクロマトグラフィーにより分析する。
【0090】
【表2】
【0091】
【表3】
【0092】
【表4】
【0093】
【表5】
【0094】
【表6】
【0095】
【表7】
【0096】
例の表は、それぞれ、異なる反応条件下の固定床反応器の供給流および排出流の主要な組成を示している(不純物は含まない)。
【0097】
例1では、本発明による水素量の場合の、1,3−ブタジエン約5000ppm、およびエタンチオール約21ppmのチオエーテル化の結果が示されている。有価生成物である1−ブテンが大量に失われることなく、エタンチオールを質量割合が0ppmになるまでエーテル化することができることが分かる。1−ブテンは、0.59%のみ転化される(転化率=(m出発−m排出)/m出発)。
【0098】
例2では、1,3−ブタジエンに対してUS5851383に相応する水素過剰2(mol/mol)を調整した。ここでも、1,3−ブタジエン約5000ppmおよびエタンチオール約20ppmが供給流中に存在している。しかし、このように水素量が多い場合、エタンチオールの質量割合は、約1.0ppmの値までしか下がらず、これは、C4カットの精密精製では許容されない。さらに、1−ブテンの含有量が44%超低下している一方、完全水素化のあらわれであるn−ブタンの割合は5000ppm上昇している。
【0099】
例3では、温度を122℃に上げている。ここでも、1,3−ブタジエン約5000ppmの場合、有価生成物が大量に失われることなく、エタンチオール約21ppmを質量割合が0ppmになるまでチオエーテル化することができている。1−ブテンは、0.75%のみが2−ブテンに転化している一方で、完全水素化のあらわれであるブタンの割合は上昇していない。
【0100】
例4では、1,3−ブタジエンの供給濃度を約1000ppmに下げて、同時に水素のジエンに対する比を0.30から0.54に上げている。ここでも、有価生成物が大量に失われることなく、エタンチオール約20ppmを質量割合が0ppmになるまでチオエーテル化することができている。水素/ジエンの比を高めることにより、ここで、1−ブテン1.04%が転化しているが、これは、依然としてきわめて小さい値である。しかし、ブタンへの完全水素化は行われていない。
【0101】
例5には、本発明による水素量の場合、1,3−ブタジエン約5000ppmおよびメタンチオール約21ppmのチオエーテル化の結果が示されている。有価生成物の1−ブテンが大量に失われることなく、メタンチオールも質量割合が0ppmになるまでエーテル化することができていることが分かる。1−ブテンは、0.70%しか転化していない。
【0102】
例6では、C4炭化水素流中で水素を含めずに実施した。ここでも、1,3−ブタジエン約5000ppmおよびエタンチオール約20ppmが供給流中に存在している。水素がないと、エタンチオールの質量割合は影響されない、これは、チオエーテル化が、水素供給なしには行われないことを意味する。
【0103】
最後に、本発明の主旨およびその主な利用を再び要約する。
【0104】
大部分が触媒クラッカーから生じるメルカプタンが混じっているC4炭化水素流は、オリゴマー化に供されるのは好適ではない、それというのは、メルカプタンがオリゴマー化触媒を強く害するからである。従来、このような流は、メルカプタンの費用のかかるMEROX(登録商標)プロセスにおいて洗浄されたが、ここで、メルカプタンの除去は完全に成功しなかった。このためには、オリゴマー化する前に、残留しているメルカプタンを吸着除去する必要があった。本発明の基礎をなす着想は、生じるチオエーテルの蒸留分離を可能にするため、C4流中に存在するメルカプタンすべてをエーテル化して分子量をより高くすることである。驚くべきことに、チオエーテル化は、水素がきわめてわずかに添加される場合、不均一触媒を用いて行うことができることが判明した。前記方法の大きな利点は、水素の割合が低いため、C4流中に含まれている1−ブテンがほとんど異性化されず、かつさらに有価生成物として使用可能であり、ならびにブタンへの完全水素化が行われないことである。さらに、前記方法は、費用のかかるMEROX(登録商標)洗浄法をせずに済ますことができる。
図1
図2
図3
図4
図5