(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6095842
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】橋梁の床版遊間止水・床版防水構造
(51)【国際特許分類】
E01D 19/06 20060101AFI20170306BHJP
【FI】
E01D19/06
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-226155(P2016-226155)
(22)【出願日】2016年11月21日
【審査請求日】2016年11月22日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514013945
【氏名又は名称】福美建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000100986
【氏名又は名称】アオイ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 祥一
(72)【発明者】
【氏名】塩本 崇公
【審査官】
亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−120303(JP,A)
【文献】
特開平03−166406(JP,A)
【文献】
特開2007−046365(JP,A)
【文献】
特開2010−084355(JP,A)
【文献】
特開2004−124477(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 11/02
E01D 1/00−24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁の床版遊間を止水しおよび床版を防水する構造であって、
床版遊間を充填し且つ床版遊間周囲に形成される、常温硬化型ゴムアスファルト乳剤からなる床版遊間止水層と、床版全面に形成される、前記止水層と同一の又は異なる同系統の常温硬化型ゴムアスファルト乳剤からなる床版防水層と、該床版防水層の上に設けられるアスファルト舗装層とを備えてなることを特徴とする床版遊間止水・床版防水構造。
【請求項2】
橋梁が伸縮量15mm以下の小規模橋梁であることを特徴とする請求項1に記載の床版遊間止水・床版防水構造。
【請求項3】
前記常温硬化型ゴムアスファルト乳剤からなる床版遊間止水層と、前記止水層と同一の又は異なる同系統の常温硬化型ゴムアスファルト乳剤からなる床版防水層とが一体化した伸縮装置として機能することを特徴とする請求項1又は2に記載の床版遊間止水・床版防水構造。
【請求項4】
前記常温硬化型ゴムアスファルト乳剤が、東日本・中日本・西日本高速道路株式会社の構造物施工管理要領に記載の床版防水材のグレードI規格Bに適合する防水材であることを特徴とする請求項1乃至3に記載の床版遊間止水・床版防水構造。
【請求項5】
床版遊間止水層と床版防水層の間にさらに伸縮分散材を配置することを特徴する請求項1乃至4に記載の床版遊間止水・床版防水構造。
【請求項6】
前記伸縮分散材を配置することにより、床版遊間止水層と床版防水層との接着性と伸縮追従性を強化したことを特徴とする請求項5に記載の床版遊間止水・床版防水構造。
【請求項7】
常温硬化型ゴムアスファルト乳剤を橋梁の床版遊間に充填しかつ該充填面上および床版遊間周囲面に塗布して床版遊間止水層を形成させる工程、形成された床版遊間止水層上に前記常温硬化型ゴムアスファルト乳剤と同一の又は異なる同系統の常温硬化型ゴムアスファルト乳剤を塗布して床版防水層を形成させる工程、該床版防水層の上にアスファルト舗装を施す工程からなる床版遊間止水・床版防水構造の施工方法。
【請求項8】
橋梁が伸縮量15mm以下の小規模橋梁であることを特徴とする請求項7に記載の床版遊間止水・床版防水構造の施工方法。
【請求項9】
形成された床版遊間止水層上に伸縮分散材を配置する工程をさらに含み、その上に床版防水層を形成させる工程を含む請求項7又は8に記載の床版遊間止水・床版防水構造の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアスファルト舗装を舗設する道路橋における、塩害、凍害、錆腐食その他損傷劣化を防止する遊間止水・床版防水構造を提供するものである。本発明は、また、前記道路橋の床版遊間の動きに追従する伸縮機能を持ち、遊間からの漏水を防止し、かつ、床版防水層を形成する工法に関する。
【背景技術】
【0002】
土木並びに建築の工事において、防水工事はその工事の生命線とも言える重要な部分となっている。防水の不完全な土木あるいは建築構造物はその構造の耐久性が著しく短くなるばかりではなく、構造物内に設置する諸資産を損失することになりかねないことから、これらを防水構造とすることは重要なことである。
【0003】
コンクリート橋梁ではコンクリート床版の上にアスファルト舗装がなされるが、このアスファルト舗装の損傷部や床版端部などから浸入した雨水はコンクリート床版面のひび割れ箇所などから床版内に浸透し、コンクリート内部の鉄筋部に到達すると鉄筋を腐食させ、コンクリート橋梁自体の寿命をも左右することとなるため、アスファルト舗装を舗設する前にコンクリート床版面に防水層を施工している。また、車両の走行安全性向上や騒音低減のため排水性舗装の施工が増加しており、排水性舗装では雨水を舗装体内に浸透させるため、この防水層の役割が一層増加している。
【0004】
同様に、床版遊間から雨水が侵入し流下すると、その下部構造側の支承部における橋台や橋脚のコンクリート腐食や鉄筋等金属構造材の酸化を促進させ、これら橋梁の下部構造の耐久性を著しく損なう。
【0005】
現在、橋長15m以下の橋梁は全国で約55万橋あり、建設後50年を経過する構造物が増加し、橋梁の劣化が顕在化している。近年の交通量の増大や車両の大型化により床版は以前にも増して厳しい条件下にあるが、橋梁の架け替えや床版の打ち替えは多額の費用を要するとともに、工事に伴う交通規制や通行止めによる交通渋滞が社会に与える影響は大きい。このような状況において、床版遊間の止水と床版面の防水を簡易・短時間施工可能な工法で行い、橋梁の延命化を図ることが望まれる。
【0006】
橋梁、特に小規模橋梁においては、目地板等の設置のみで伸縮装置が設置されていない構造の橋梁が多数あり、床版遊間からの漏水が問題となっている。また、防水層が設置されておらず、早期にコンクリート床版が損傷する構造物も存在する。
【0007】
橋梁の床版遊間補修は、補修対象の既設目地材を取り外してから、接合部端面の目地切りを行い、目地部の目地幅を拡げ、拡げた目地幅に対応させて、伸縮部を有する新たな目地補修材を目地部に接着し、遊間を止水するものがある(特許文献1)。
しかしながら、伸縮部材が特殊形状の成形品である場合、目地の拡幅に精度が必要となるため、施工時間が長くなりやすく、遊間側面との接着性や止水機能に問題が生じる場合がある。
【0008】
床版防水層としては、従来から塗膜系防水層、シート系防水層、並びに舗装系防水層などがあるが、とりわけ、小規模橋梁において、大型の施工機械を導入する施工方法では、作業全体のコスト高となってしまう。塗膜系防水層にはゴム改質したアスファルトを加熱溶融塗布して塗膜を形成させるタイプ、クロロプレン等の合成ゴムを揮発性溶剤に溶かした材料を塗布し、乾燥して塗膜を形成させたタイプ、二液反応型のエポキシ樹脂を硬化さ
せて塗膜を形成させるタイプ、近年にはポリウレタン樹脂を硬化させて塗膜を形成させたタイプ、特定の成分から合成されるウレタン(メタ)アクリレートと重合性ビニル単量体とからなる硬化性樹脂組成物を硬化させて塗膜を形成させたタイプ(特許文献2)など様々なものがある。シート系防水層は合成繊維不織布やガラス繊維等に特殊アスファルトを含浸させて成形したアスファルト系の防水シートから形成されるタイプや、さらにアスファルトコンクリートの舗設時の熱によって軟化または溶融するエチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの熱可塑性合成樹脂防水シートから形成されるタイプ(特許文献3)がある。このようなシートを加熱したアスファルトで床版面に貼り付けたり、または常温接着型の接着材で貼り付けたり、施工機械によってシート面を加熱しながら床版面に貼り付けてゆく方法などがある。舗装系防水層は特殊なアスファルトに骨材と石粉を添加したアスファルト混合物を特殊な施工機械を用いて行う方法である。このアスファルト混合物は不透水性のため防水層の機能を持つが、熟練した技術を要する舗装のため高価であり、ほとんど鋼床版にしか適用されていない。従って上記いずれの床版防水層も大型の施工機械や加熱機械が必要であったり、材料や施工工程も多く、また熟練した技能を有する施工業者による施工が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−133655号公報
【特許文献2】特開2000−26558号公報
【特許文献3】特許第3128721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、床版遊間止水・床版防水構造及び床版遊間の止水と床版防水層の形成を特殊な施工機械を使用せず、連続工程で簡易・短時間に施工することができる該構造の施工方法を提供することを課題とする。
本発明が解決しようとする具体的な課題は次の通りである。
(1)上部舗装の良好な走行性を維持しつつ止水性能を有する床版遊間止水材の防水性能を得ること。
(2)床版防水材の総合的な防水性能を有すること。
(3)大型の機械や加熱装置が不要で簡易で短時間施工可能な施工材料と施工方法を得ること。
【0011】
より詳細には、遊間止水材は遊間の変位に対応する伸縮追従性を有し、供用期間中の温度変化に耐えうる性能が必要である。また、上部に舗装を敷設した状態において、舗装に破損等の影響を与えてはならない。
【0012】
さらに防水材においては、防水層の有無により床版と舗装との接着性に影響を及ぼさないこと、供用後に床版が受ける交通輪荷重によって僅かなひび割れが発生したとしても、そのひび割れの開閉に対する抵抗性能があることが必要である。また、防水層に影響を与える物質として、コンクリート構造物に起因する水酸化カルシウムや凍結防止剤や飛来塩分として与えられる塩化ナトリウムに対する抵抗性が必要である。
【0013】
さらにまた、簡易で短時間施工を可能にする方法として、大型の施工機械や火気等を使用せずに施工可能なこと、長い養生期間を必要とせず、急な雨天等で使用材料が河川等の環境へ流出しない安全性が確保できることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究の結果、次の床版遊間止水・床版防水構
造並びに該構造の施工方法を開発するに至った。本発明は上記課題を全て解決できるものである。
本発明の床版遊間止水・床版防水構造は、遊間止水材として常温硬化型ゴムアスファルト乳剤を用いて床版遊間への伸縮性材料充填を行い、連続して同系統の材料で床版防水層を形成し、この防水材の上にアスファルト舗装を施工することを特徴とするものである。すなわち本発明は、
橋梁の床版遊間を止水しおよび床版を防水する構造であって、
床版遊間を充填し且つ床版遊間周囲に形成される、常温硬化型ゴムアスファルト乳剤からなる床版遊間止水層と、床版全面に形成される、前記止水層と同一の又は異なる同系統の常温硬化型ゴムアスファルト乳剤からなる床版防水層と、該床版防水層の上に設けられるアスファルト舗装層とを備えてなることを特徴とする床版遊間止水・床版防水構造に関する。
本発明では、前記床版遊間止水層と前記床版防水層とが同一の又は異なる同系統の常温硬化型ゴムアスファルト乳剤からなるため、前記止水層と前記床版防水層とが一体化した伸縮装置として機能するものである。
本発明は上記構造に加えて、さらに床版遊間止水層と床版防水層の間に補強メッシュのような伸縮分散材を配置することもできる。この伸縮分散材の配置により、床版遊間止水層と床版防水層との接着性と伸縮追従性をより強化することができる。
さらにまた、本発明は上記橋梁への床版遊間止水・床版防水構造の施工方法に関し、すなわち、常温硬化型ゴムアスファルト乳剤を橋梁の床版遊間に充填しかつ該充填面上および床版遊間周囲面に塗布して床版遊間止水層を形成させる工程、形成された床版遊間止水層上に前記常温硬化型ゴムアスファルト乳剤と同一の又は異なる同系統の常温硬化型ゴムアスファルト乳剤を塗布して床版防水層を形成させる工程、該床版防水層の上にアスファルト舗装を施す工程からなる床版遊間止水・床版防水構造の施工方法であり、さらに上記の伸縮分散材を含む床版遊間止水・床版防水構造の施工方法にも関する。
ここで、本発明の対象となる橋梁とは、主に伸縮量15mm以下の小規模橋梁を対象とするが、厳密に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、橋梁において、簡易で短時間施工可能な遊間止水・床版防水構造を提供することができ、新設時、改修時いずれにおいても適用可能な防水構造として、橋梁の延命、長寿命化に寄与することができる。
即ち、本発明の遊間止水・床版防水構造は、伸縮性の充填材(常温硬化型ゴムアスファルト)を用いることにより遊間下部からの漏水を防ぎ、かつ基本的な防水性能を満足する防水層を形成するので、塩害、凍害、錆腐食その他損傷劣化を防止できる防水構造を提供できる。
従って、本発明は次のような効果をもたらす。
1)本発明の床版遊間止水・床版防水構造では、遊間止水層と床版防水層が伸縮性の充填材(常温硬化型ゴムアスファルト)により一体化した構造を形成し、基本的な防水性能を満足する防水層を形成するので、橋梁内部への雨水等の侵入を抑制し、塩害、凍害、錆腐食その他損傷劣化を防止できる。上記床版遊間止水・床版防水構造は前記止水層と前記床版防水層とは一体化した伸縮装置として機能し、遊間の変位に対応する伸縮追従性を有するので、その上部の舗装への破損等の恐れがなくおよび供用後に床版の僅かなひび割れが発生したとしても、そのひび割れの開閉に対する抵抗性能を有するので、橋梁構造物の延命、長寿命化に寄与することができる。
2)本発明の床版遊間止水・床版防水構造の施工方法では遊間止水材・床版防水材として常温硬化型ゴムアスファルト乳剤を使用するため、上記大型の施工機械や火気等を使用せず、施工の省力化が可能となる。また、施工が容易なため熟練工を必要とせず迅速に終えることができるので経済的である。さらに橋梁において、短時間で遊間止水と床版防水が施工可能となり、施工時間の制限が大きい補修工事にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は本発明の床版遊間止水・床版防水構造の断面図である。
【
図2】
図2は伸縮分散材を含む本発明の床版遊間止水・床版防水構造の断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1および
図2に示すように、本発明のコンクリート橋梁の床版1の材質は、特に限定されないが、床版の材質によっては版面を清掃、表面研磨などを施してもよい。補修工事では、通常、舗装切削後、遊間部分を約20mmでカッター切りし、ハンマードリル等で深さ約20mmまではつりとる。既設の伸縮装置や目地板等の撤去などで遊間部分が損傷している場合は、必要に応じてモルタル等で断面の修復を行う。既存のバックアップ材が無い場合には、遊間止水材の流下を防ぎ、かつ2面接着とするためのバックアップ材を設置する。
ここでは、発砲ポリエチレンを材質とするバックアップ材を使用することができるが、これも特に限定されるものではなく、汎用のバックアップ材を使用することができる。
【0018】
遊間部端面とその周囲の床版面または床版全面に、接着性を確保すために通常はプライマーを塗布することを要する。プライマーは施工性の観点から一液型で養生時間が短いものが好ましいが、性能が確認できれば特に限定されるものではない。
【0019】
このプライマー層3の上に床版遊間および床版遊間周囲の止水材を塗布する。この床版遊間および床版遊間周囲の止水材は、伸縮追従性を有する充填材であり、常温硬化型ゴムアスファルト乳剤を使用する。ここで、本発明で使用する常温硬化型ゴムアスファルト乳剤は、ゴム成分の入ったアスファルト乳剤であり、「常温硬化型」とは硬化に加熱の必要のない種類のものである。該乳剤は、例えば主剤として常温硬化型アスファルト乳剤成分とイソプレン系等のゴム材と、硬化剤とを含むものである。主剤と硬化剤との二液混合型のものを挙げることができる。例えば建築の屋上防水等で利用されている、ハルeコート防水工法に使用するタイプの材料を挙げることができる。
常温硬化型ゴムアスファルト乳剤は、その硬化物に弾性があるため、床版遊間の変位に追従できる。また、施工に熱を必要としないため、施工時の安全性も確保できる。
床版遊間への充填方法に特に制約は無いが、主剤と硬化剤を混合したものをカップやチューブ、あるいはホース等を利用して充填する方法が一般的である。遊間部分に充填した材料で遊間周囲の床版に塗布を行う。塗布方法は、一般的にローラー刷毛塗り、刷毛塗り、ヘラ塗り、エアレススプレーなどによるスプレー塗布などの方法があるが、これらの方法に制約されない。
【0020】
図1に示すように、床版遊間および床版遊間周囲の止水材層4上に、前記止水材と同一又は異なる同系統の常温硬化型ゴムアスファルト乳剤を塗布することによる床版防水層5を形成することもできるが、
図2に示すように床版遊間および床版遊間周囲の止水材層4と、床版防水層5との接着性と伸縮追従性を強化するため止水材層の上に補強用の伸縮分散材7を配置することができる。この伸縮分散材7としては、好ましくはメッシュタイプの伸縮分散材が使用でき、例えばアスファルト処理したビニロン繊維を使用できる。
伸縮分散材7を使用する場合、遊間周囲の床版に常温硬化型ゴムアスファルト乳剤を塗布する際は伸縮分散材の幅に合わせて塗布し、材料が硬化しないうちに、伸縮分散材を設置し、ヘラ等で押さえるなどして、十分に接着させる。
【0021】
次いで床版防水層5を形成するために上記床版遊間および床版遊間周囲の止水材層4上部あるいは上記伸縮分散材7上部ならびに床版全面に防水材を塗布する。この床版防水材
は床版遊間および床版遊間周囲の止水材と同一又は異なる同系統の常温硬化型ゴムアスファルト乳剤を用いる。ここで「同系統の」とは常温硬化型ゴムアスファルト乳剤の成分は同一材料であるが、その成分組成を変更したものを指す。例えば、ゴム成分を増加して弾性を増強したもの、硬化剤を増加して柔軟性を増強したものが挙げられる。床版防水材は同一の常温硬化型ゴムアスファルト乳剤を使用することもできるが異なる同系統の常温硬化型ゴムアスファルト乳剤を用いることにより、要求される伸縮追従性を満たし、また上部舗装の走行性を確保することができる。
この床版防水材は先に充填、塗布した材料の硬化前、硬化後いずれでも塗布可能である。
【0022】
前記床版防水材および遊間止水材に用いられる常温硬化型ゴムアスファルト乳剤は、東日本・中日本・西日本高速道路株式会社の構造物施工管理要領に記載の床版防水材のグレードI規格Bに適合するものが好ましい。
以下に東日本・中日本・西日本高速道路株式会社の構造物施工管理要領に記載の床版防水材のグレードI規格Bを下記表1(防水層の品質基準)に示す。
【表1】
【0023】
最後に上記床版防水材層5上に通常のアスファルト舗装6を施し本発明の防水構造が完成する。アスファルト舗装の種類は例えば、密粒度アスファルト混合物13(ストレートアスファルト)が使用でき、慣用の方法で舗設できる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の詳細を実施例にて説明する。
実施例
本実施例では、プライマーは一液型のシリコーン系化合物、プライマーNo.3(アオイ化学工業(株))を用いた。床版遊間および遊間周囲の遊間止水層のための止水材と床版防水層のための防水材には、同系統の常温硬化型ゴムアスファルト乳剤、ユニコールド(登録商標)(アオイ化学工業(株))を用い、それぞれ適用するため以下のように改良したものを使用した。
床版遊間止水層用常温硬化型ゴムアスファルト乳剤:伸縮追従性能を高めるため、硬化剤のウレタンプレポリマー成分を含有重量で50%以下に調整した。
床版防水層用常温硬化型ゴムアスファルト乳剤:接着強度を高めるため、硬化剤のウレタンプレポリマー成分を含有重量80%以上に調整した。
伸縮分散材としての補強メッシュはアスファルト処理したビニロン繊維、アスファルトメッシュ(アオイ化学工業(株))を用いた。
床版はコンクリート床版を用い、予め表面を研磨し、均一面を出して塵などを除去した。プライマーは0.1kg/m
2で塗布し、補強メッシュは150mm幅のものを使用した。防水材は1.2kg/m
2で塗布した。
【0025】
上記の構成でアスファルト舗装を施すが、舗装の種類は密粒度アスファルト混合物13(ストレートアスファルト)とし、舗設温度を140℃、線圧30kg/cmに調整したコンパクターにより舗設した。本実施例による遊間止水・床版防水構造を
図2に示す。
【0026】
<試験例>
以下、本発明による床版遊間止水・床版防水構造について各種の試験を行った。試料は特に明記しない限り、上記実施例に記載したものと同じものを使用した。
試験例1:床版遊間止水層の試験
上記構成の構造物のうち、遊間止水層について各種の試験を行った。
伸縮試験体、床版試験体はコンクリート床版を用い、予め表面を研磨し、均一面を出して塵などを除去した。プライマーは0.1kg/m
2で塗布し、補強メッシュは150mm幅のものを使用した。
1)伸縮追従性
遊間止水層の伸縮追従性能評価のため、伸縮追従性試験を行った。この試験は、
「構造物施工管理要領(東日本・中日本・西日本高速道路株式会社)」記載の試験法437に準じた方法で行った。この試験法の概略を表2に示す。
【表2】
試験は、被着面をコンクリートとする遊間およびその周囲にプライマーを塗布し、深さ20mm、幅20mm、延長500mm形状の遊間に止水材(遊間止水層用常温硬化型ゴムアスファルト乳剤)を充填させた後、遊間周囲のコンクリート床版に幅150mmで同材料を塗布した後、補強メッシュを貼りつけたものを試験体とした。補強メッシュの貼り付けはその表面に薄く同止水剤が覆う程度である。試験は、表3に示す通り、耐久性評価として±4mm変位で6000回の繰返し伸縮負荷を与えた。その次に、伸縮性評価として±10mm変位で15回の繰返し伸縮負荷を与えた。
【表3】
【0027】
伸縮追従性試験の結果を表4に示す。
【表4】
本試験により、本発明の床版遊間止水層は、伸縮追従性能(耐久性・伸縮性)を有することを確認した。
【0028】
2)伸縮分散性
床版遊間止水層と床版防水層の伸縮分散性評価のため、伸縮分散性試験を行った。
試験は、前項の伸縮追従性試験体と同様に作製したものに対し、床版面に防水材(床版防水層用常温硬化型ゴムアスファルト乳剤)を塗布し、遊間上部およびその周囲に50mm厚みのアスファルト舗装を約300×300mmで敷設したものを試験体とした。防水材は、1.2kg/m
2で塗布した。アスファルト舗装の種類は密粒度アスファルト混合物13(ストレートアスファルト)とし、舗設温度を140℃、線圧30kg/cmに調整したコンパクターにより舗設した。伸縮分散性評価の試験方法については、上記試験法437に準じた方法とし、伸縮量と繰り返し回数は伸縮性評価の条件に合わせて行った。試験条件は表5に示す通りである。
【表5】
伸縮分散性試験終了後、舗装上部および防水層上部に24時間の水張りを行い、遊間下部からの漏水確認を行った。試験法437の概要を表6に示す。
【表6】
【0029】
伸縮分散性試験の結果を表7に示す。
【表7】
本試験により、上部に舗装を敷設した状態において、舗装に破損等の影響を与えないこと、遊間下部からの漏水がないことを確認した。
【0030】
3)温度依存性
供用期間中の温度変化に耐えうる性能を評価するため、温度依存性試験を行った。
この試験は、「舗装調査・試験法便覧(日本道路協会)」記載のA102目地板の引張試験を参考に行った。
試験は、2枚のコンクリートブロックを用いて、幅20mm×深さ20mm×延長200mmの溝を作製し、上記遊間止水材を充填固化させて試験体とした。試験条件は表8に示す通りである。
【表8】
【0031】
温度依存性試験の結果を表9に示す。
【表9】
−5℃〜35℃の温度範囲内で良好な温度依存性を示すことを確認した。
【0032】
試験例2:床版防水層の試験
上記床版防水材を用いた床版防水層について各種の試験を行った。
1)耐薬品性
この試験は、道路橋床版防水便覧(日本道路協会)の試験方法に基づいて行った。概要を表10に示す。
【表10】
試験条件および結果を表11に示す。
【表11】
本試験により、防水層の品質に影響を与えうる物質に対する抵抗性を確認した。
【0033】
2)防水層の品質基準試験
東日本・中日本・西日本高速道路株式会社の構造物施工管理要領に記載の床版防水
材のグレードI規格Bに基づく試験を行った。試験方法の概要を表12に、試験結果を表13に示す。
【表12】
【表13】
表13に示す通り、防水層の品質基準に総合的に適合することが確認された。
【0034】
試験例3:施工に関する試験
簡易・短時間施工可能な施工方法について各種の確認を行った。
1)指触乾燥時間
短時間で施工を行うためには、各工程での養生時間が短いことが求められる。これを評価するため、各材料の指触乾燥時間を確認した。この試験は、JIS K 5600「塗料の一般的試験方法」に従った。試験結果を表14に示す。
【表14】
各材料とも指触乾燥時間が短く、養生時間の制約が短い結果が確認された。
【0035】
2)環境安全性
急な雨天等で使用材料が河川等の環境へ流出しない安全性が確保できることを評価するため、環境安全性試験を行った。この試験は、前項の試験で指触乾燥時間となった試験体を流水の下に10分間晒し、変色や流出の有無等の表面状態を目視で確認する方法で行った。試験結果を表15に示す。
【表15】
指触乾燥時間以降では、流水環境下でも材料の変色や流出はなく、急な雨天時にも橋梁施
工部から河川等への環境へ流出しない安全性が確認された。
【0036】
3)施工時間
施工性の確認のため、実際に試験ヤードでの試験施工を行った。
施工条件と使用した材料をそれぞれ表16、表17に示し、試験施工の結果を表18に示す。
【表16】
【表17】
【表18】
この結果から、バックアップ材設置から床版防水層施工(硬化完了)までを約1時間で行えることが確認された。なお、本件実施にあたっては、床版遊間止水材、床版防水材ともに予め主剤の入ったチューブに定量の硬化剤を添加し、チューブを15回上下に振ることで混合を完了し、そのまま充填あるいは散布する施工方法とし、施工方法の簡略化を達成することができた。本発明の施工方法は簡易・短時間施工可能な施工方法として実施可能である。
【0037】
以上のとおり、上記各試験の結果より、本発明の床版遊間止水・床版防水構造は、上部舗装の良好な走行性を維持するとともに、床版遊間について十分な止水性能を有し且つ高い床版防水性能を有するものであると認められ、並びに、該構造の施工には大型の機械や加
熱装置が不要であり、簡易且つ短時間の施工が可能であるものと認められる。
従って、本発明は、特に伸縮量15mm以下の橋梁において、簡易で短時間施工可能な遊間止水・床版防水構造を提供することにより、新設時、改修時いずれにおいても適用可能な防水構造およびその施工方法として、橋梁の延命、長寿命化に寄与することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 床版
2 バックアップ材
3 プライマー層
4 遊間止水層
5 防水層
6 アスファルト層
7 伸縮分散材
【要約】
【課題】 橋梁における大型の機械や加熱装置が不要な簡易で短時間施工可能な床版防水構造の提供。
【解決手段】
橋梁の床版遊間を止水しおよび床版を防水する構造であって、床版遊間を充填し且つ床版遊間周囲に形成される、常温硬化型ゴムアスファルト乳剤からなる床版遊間止水層と、床版全面に形成される、前記止水層と同一の又は異なる同系統の常温硬化型ゴムアスファルト乳剤からなる床版防水層と、該床版防水層の上に設けられるアスファルト舗装層とを備えてなることを特徴とする床版遊間止水・床版防水構造および、上記構造を形成する施工方法。前記止水層と前記床版防水層とが一体化した伸縮装置として機能することを特徴とする。上記構造は、さらに床版遊間止水層と床版防水層の間に補強メッシュのような伸縮分散材を配置することにより、床版遊間止水層と床版防水層との接着性と伸縮追従性を強化することができる。
【選択図】
図2