(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記スペクトル導出部は、前記任意の物質のプラズマの熱平衡が成り立った後、物質スペクトルを導出することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の物質特定装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した特許文献1〜3の技術は、パルスレーザを照射した際のプラズマの温度および物質のいずれか一方が特定されている状態で、他方を特定するものであり、両方が未知または変動している場合には適用できなかった。
【0007】
ここで、プラズマの温度さえ特定できれば、その温度に基づいて物質を特定することが可能だが、プラズマの温度は、レーザ光の当て方、レーザ装置と試料との距離、レーザ装置と試料との空間における透過率等の様々なパラメータの影響を受けるため、試料が置かれている雰囲気から客観的に求めるのは困難である。
【0008】
そこで本発明は、このような課題に鑑み、レーザや試料が置かれている雰囲気に拘わらず、レーザ誘起ブレークダウン分光によって適切に物質を特定することが可能な物質特定装置および物質特定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の物質特定装置は、プラズマの相異なる複数の温度における、プラズマ化した特定の分解物のレーザ誘起ブレークダウン分光による指標スペクトルと、複数の温度における、プラズマ化した
2つの分解物
の発光強度のピーク比または
2つの分解物の組成比
、および、物質
の種類を対応付けた物質特定情報と、を予め保持する保持部と、レーザ誘起ブレークダウン分光によって任意の物質をプラズマ化して物質スペクトルを導出するスペクトル導出部と、導出された物質スペクトルと指標スペクトルとを比較して任意の物質のプラズマの温度を特定する温度特定部と、物質スペクトルにおける
2つの分解物
の発光強度のピーク比または組成比を導出し、物質特定情報を参照し、
2つの分解物の発光強度のピーク比または組成比と特定されたプラズマの温度とに基づいて
、任意の物質
の種類を特定する物質特定部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
物質の構造式および想定されるプラズマの温度に基づき、プラズマ化された物質の
2つの分解物の組成比をシミュレーションにより導出して物質特定情報を生成する物質特定情報生成部をさらに備えてもよい。
【0011】
指標スペクトルは、C
2スワンバンドのスペクトルであってもよい。
【0012】
スペクトル導出部は、任意の物質のプラズマの熱平衡が成り立った後、物質スペクトルを導出してもよい。
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の物質特定方法は、プラズマの相異なる複数の温度における、プラズマ化した特定の分解物のレーザ誘起ブレークダウン分光による指標スペクトルと、複数の温度における、プラズマ化した
2つの分解物
の発光強度のピーク比または
2つの分解物の組成比
、および、物質
の種類を対応付けた物質特定情報と、を予め保持しておき、レーザ誘起ブレークダウン分光によって任意の物質をプラズマ化して物質スペクトルを導出し、導出された物質スペクトルと指標スペクトルとを比較して任意の物質のプラズマの温度を特定し、物質スペクトルの発光強度における
2つの分解物
のピーク比または組成比を導出し、物質特定情報を参照し、
2つの分解物の発光強度のピーク比または組成比と特定されたプラズマの温度とに基づいて
、任意の物質
の種類を特定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、レーザや試料が置かれている雰囲気に拘わらず、レーザ誘起ブレークダウン分光によって適切に物質を特定することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0017】
(物質特定システム100)
図1は、物質特定システム100の概略的な構成を示した構成図である。物質特定システム100は、ターゲットホルダ110と、レーザ装置112と、レンズ114と、フィルタ116と、プローブ118と、光ファイバ120と、物質特定装置122とを含んで構成され、レーザ誘起ブレークダウン分光を通じて物質(化合物)を特定する。特定対象となる物質は、例えば、プラスチック、穀物、生物剤、化学剤、爆薬等の有機化合物であり、元素としてC、H、O、Nのいずれかを含むものを想定する。また、物質の形状や状態は特に問わず、固体、バルク状態(固体の塊)、粉体、エアロゾル状態、液体、気体等であってもよい。
【0018】
物質特定システム100におけるターゲットホルダ110は、特定対象となる任意の物質(以下、単に試料という。)102を固定的に保持する。レーザ装置112は、例えば、フェムト秒レーザによるパルスレーザ光を、レンズ114を通じて試料102に照射する。ここではフェムト秒レーザを用いる例を挙げて説明するが、これに限らず、ピコ秒レーザ、ナノ秒レーザであってもよく、また、レーザ光の波長も問わない。
【0019】
ただし、試料102のスペクトルのピーク値に近い波長は、レーザ光自体がノイズとなるため回避するのが望ましい。ここでは、波長780nm、出力1mJ、パルス幅120fs、周期1kHzのレーザ光を用いている。試料102は、レーザ光を受けてプラズマ化し、物質固有の波長の光を放射する。ここで、レーザ光が試料102に満遍なく照射されるように、ターゲットホルダ110とレーザ装置112との相対位置を変更できるようにターゲットホルダ110に回転機構等を備えるのが望ましい。
【0020】
フィルタ116は、発光強度が高いレーザ光や背景光を遮断する。プローブ118は、試料102から放射された光を受光する。このとき、レンズ等を用いて集光してもよい。光ファイバ120は、プローブ118で受光された光を物質特定装置122に伝達する。
【0021】
物質特定装置122は、光ファイバ120を通じて受けた試料102の放射光を、例えばICCD(Intensified Charge Coupled Device)等を検知部とした分光器122aにより、複数の波長毎に分光し、それぞれの波長のピーク値を求めてスペクトルを導出し、試料102がいずれの物質であるか特定する。このとき、物質特定装置122は、レーザ装置112からレーザ光が照射されてから所定時間(例えばナノ秒レーザの場合1μsec)以上経過した後に放射光を受け付けるのが望ましい。所定時間経過するのを待つのは、試料102のプラズマが安定的に熱平衡に達している状態となるからである。こうすることで試料102の特定精度を高めることができる。以下、物質特定装置122の構成を詳述する。
【0022】
(物質特定装置122)
図2は、物質特定装置122の概略的な構成を述べた機能ブロック図である。物質特定装置122は、保持部130と、操作部132と、表示部134と、中央制御部136とを含んで構成される。保持部130は、ROM、不揮発性RAM、フラッシュメモリ、HDD等で構成され、プラズマの相異なる複数の温度における、プラズマ化した特定の分解物のレーザ誘起ブレークダウン分光による指標スペクトルと、複数の温度における、プラズマ化した特定の複数の分解物の発光強度のピーク比と物質とを対応付けた物質特定情報とを予め保持する。以下に、指標スペクトルおよび物質特定情報を例示する。ここで、分解物は、物質(化合物)から遊離した断片である。
【0023】
(指標スペクトル)
図3は、C
2スワンバンドにおける指標スペクトルを説明するための説明図である。ここでは、特定対象となる試料102に含まれることが想定される1または複数の分解物、例えば、C
2スワンバンドについて、想定されるプラズマの温度範囲から選択された複数の温度、例えば、3000K、4000K、5000K、6000Kに関し、レーザ誘起ブレークダウン分光を通じてスペクトルを導出し、それを指標スペクトルとして保持部130に保持する。
【0024】
図3を参照すると、同一の分解物(ここではC
2スワンバンド)においては、温度に拘わらず複数の特定の波長で放射光を確認することができる。ただし、
図3(a)〜
図3(d)を比較して把握できるように、放射光の発光強度が温度に応じて異なる。したがって、試料102に分解物としてC
2が含まれる場合(または試料102に元素としてCが含まれる場合)、試料102のスペクトルが、どの温度の指標スペクトルと近似しているかを判断することで、試料102におけるプラズマの温度を推定することができる。
【0025】
このような指標スペクトルは、プラズマの温度が低い範囲、すなわち、レーザ光のエネルギーが小さい範囲では、
図3(a)〜
図3(c)を比較して理解できるように発光強度のピーク比の変化率が大きく、プラズマの温度が高い範囲、すなわち、レーザ光のエネルギーが大きい範囲では、
図3(c)と
図3(d)とを比較して理解できるように発光強度のピーク比の変化率が鈍化するのが分かる。かかる指標スペクトルの数、すなわち、プラズマの温度の分解能を、ここでは4としたが、数に制限はなく、多ければ多いほどよい。ただし、以下に示す物質特定情報におけるプラズマの温度の分解能と合わせるのが望ましい。
【0026】
(物質特定情報)
図4は、物質特定情報を説明するための説明図である。ここでは、想定されるプラズマの温度範囲から選択された複数の温度、例えば、4000K、5000K、6000K、7000Kについて、特定対象となり得る複数の物質、例えば、ナイロン、ポリエチレン、ポリスチレン、ウレタンの発光強度のCのピークとHのピークの比であるC/Hピーク比をテーブル化して保持部130に保持する。
【0027】
図4を参照すると、同一のプラズマの温度であっても複数の物質の発光強度のC/Hピーク比は異なるので、C/Hピーク比が特定されれば、特定されたC/Hピーク比から物質を特定することができる。ただし、発光強度はプラズマの温度によって異なるためC/Hピーク比も異なることとなる。そこで、本実施形態では、各物質にC/Hピーク比を対応付けるのみならず、プラズマの温度も対応付ける。したがって、本実施形態では、温度とC/Hピーク比の2つのパラメータによって物質を特定する。
【0028】
このように、同一の物質であってもC/Hピーク比がプラズマの温度によって異なるのは、以下の理由による。プラズマ化されていない状態(エネルギーが低い状態)にあるとき分解物は生じていない。これらの物質はレーザ光を受けてプラズマ化し、エネルギーが高い状態に励起・分解するが、物質が全て分解物となる訳ではない。そのときのレーザ光の強度、照射後の時間に応じてプラズマの温度が変わると、物質が励起・分解する比率が変わり、存在するプラズマ成分(分解物)の比(組成比)が異なることとなる。このように分解物の組成比が異なると、所定の波長の発光強度も単純に分解物数に応じて異なることとなり、上記したようにC/Hピーク比も異なることとなる。なお、プラズマの温度が高いとHやC等、物質が原子状態にまで分解されるが、プラズマの温度が低いと、分解物としてCH、C
2等、分子状態のものが多くなる。
【0029】
本実施形態では、物質を迅速に特定すべく、物質特定情報として、試料102のスペクトル(物質スペクトル)から容易に把握可能な分解物の発光強度のピーク比を用いるが、ピーク比が生じる元となる分解物の組成比を用いてもよい。
【0030】
図5は、物質特定情報を説明するための他の説明図である。
図5は、
図4における発光強度のピーク比の代わりに、プラズマ化された分解物の組成比(C/H:分解物としてのCと分解物としてのHの比)がテーブル化されて示されている。したがって、プラズマ化された分解物の組成比が直接把握できる場合、かかるテーブルを参照し、温度と組成比の2つのパラメータによって物質を特定することができる。
【0031】
図2に戻って、操作部132は、操作キー、十字キー、ジョイスティック、表示部134の表示面に重畳されたタッチパネル、リモートコントローラ等で構成され、ユーザによる当該物質特定装置122への操作入力を受け付ける。表示部134は、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等で構成され、操作部132を通じて入力された操作結果、特定処理の途中結果(例えば導出された物質スペクトル)、特定された物質等を表示する。
【0032】
中央制御部136は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含む半導体集積回路で構成され、物質特定装置122全体を管理および制御する。また、中央制御部136は、指標スペクトル生成部140、物質特定情報生成部142、スペクトル導出部144、温度特定部146、物質特定部148として機能する。
【0033】
指標スペクトル生成部140は、事前準備において、プラズマの温度に基づいて、プラズマ化した特定の分解物のレーザ誘起ブレークダウン分光による指標スペクトルを生成する。物質特定情報生成部142は、事前準備において、プラズマ化した特定の複数の分解物に対する発光強度のピーク比または組成比と物質とを対応付けた物質特定情報を生成する。スペクトル導出部144は、物質特定時において、レーザ誘起ブレークダウン分光を用い、試料102をプラズマ化して物質スペクトルを導出する。温度特定部146は、物質特定時において、導出された物質スペクトルと指標スペクトルとを比較し、試料102のプラズマの温度を特定する。物質特定部148は、物質特定時において、スペクトル導出部144が導出した物質スペクトルの分解物の発光強度のピーク比または分解物の組成比を導出し、保持部130に保持された物質特定情報を参照し、導出した分解物の発光強度のピーク比または分解物の組成比と、温度特定部146が特定したプラズマの温度とに基づいて物質を特定する。以下、このような各機能部の詳細な動作を具体的に説明する。
【0034】
(物質特定方法)
図6は、物質特定方法の処理の流れを示したフローチャートである。ここでは、事前準備において、指標スペクトルおよび物質特定情報を準備し、物質特定時に、プラズマの温度、発光強度のピーク比、物質といった順に特定していく。
【0035】
(事前準備)
指標スペクトル生成部140は、事前準備において、
図3を用いて説明したように、想定されるプラズマの温度範囲から選択された複数の温度、例えば、3000K、4000K、5000K、6000KにおけるC
2スワンバンドの指標スペクトルを生成する(S1)。かかる指標スペクトルは、レーザ誘起ブレークダウン分光を通じて実際に測定されたスペクトルを用いてもよいし、理論計算により導出されたスペクトルを用いてもよい。また、本実施形態では、C
2スワンバンドの指標スペクトルを用いているが、C
2スワンバンドに限られず、指標となる様々な分解物の指標スペクトルを用いることができる。
【0036】
物質特定情報生成部142は、事前準備において、
図4を用いて説明したように、想定されるプラズマの温度範囲から選択された複数の温度、例えば、3000K、4000K、5000K、6000Kについて、特定対象となり得る複数の物質、例えば、ナイロン、ポリエチレン、ポリスチレン、ウレタンの発光強度のC/Hピーク比を導出し、それをテーブル化して物質特定情報を生成する(S2)。
【0037】
かかる物質特定情報は、レーザ誘起ブレークダウン分光を通じて実際に測定されたスペクトルを用いてもよいし、理論計算により導出されたスペクトルを用いてもよい。例えば、想定される物質が、危険物等、予め物質スペクトルを測定するのが困難な物質である場合、理論計算により導出されたスペクトルを用いる。
【0038】
理論計算により物質特定情報を求める場合、物質特定情報生成部142は、物質の構造式と想定される温度とを入力値として受け付け、物質の構造式と温度とに基づき、物質がプラズマ化され熱平衡に達したときの分解物の組成比をシミュレーションにより導出する。そして、導出された分解物の組成比に各分解物の発光強度を加味して、
図7に示すようなスペクトルを導出する。
図7(a)〜(d)は、それぞれ、プラズマの温度が4000Kの場合のナイロン、ポリエチレン、ポリスチレン、ウレタンのスペクトルを示す。かかるスペクトルは、既存の様々な技術を用いて導出することができるので、その詳細な手順を省略する。
【0039】
そして物質特定情報生成部142は、スペクトルを分析してC/Hピーク比を導出する。このようなC/Hピーク比を、想定される物質および想定されるプラズマの温度範囲から選択された複数の温度の全てについて導出しテーブル化することで物質特定情報を生成する。
【0040】
このように理論計算によって物質特定情報を生成することで、想定される物質が、危険物等、予め物質スペクトルを測定するのが困難な物質であったとしても物質特定情報を生成することができ、後の物質特定において、そのような物質を高精度に特定することができる。
【0041】
(物質特定)
スペクトル導出部144は、物質特定時において、レーザ装置112にレーザ光の照射を指示し、ターゲットホルダ110に保持された試料102にレーザ光を照射させる。そして、スペクトル導出部144は、試料102の特定精度を高めるべく、プラズマの熱平衡が成り立つ条件下、すなわちレーザ装置112からレーザ光が照射されてから所定時間後に放射光を受け付けて物質スペクトルを導出する(S3)。このようにして、例えば、
図8に示すような物質スペクトルを導出したと仮定する。この時点では、プラズマの温度および物質のいずれも不明である。
【0042】
温度特定部146は、物質特定時において、導出された物質スペクトルと指標スペクトルとを比較して任意の物質のプラズマの温度を特定する(S4)。上述したように、同一の分解物(ここではC
2スワンバンド)では、複数の特定の波長において、温度に応じて発光強度が異なる放射光を確認することができる。したがって、物質スペクトルにおいて発光強度がどのように分布しているかによって、試料102におけるプラズマの温度を推定することができる。
【0043】
図9は、温度特定部146の動作を説明するための説明図である。ここでは、スペクトル導出部144が導出した、
図8に示す物質スペクトル(
図9中実線で示す)と、3000K、4000K、5000KのC
2スワンバンドの各指標スペクトル(
図9(a)〜(c)中破線で示す)とを比較し、その相関度を判定する。かかる判定は、例えば、最小二乗法等を通じて物質スペクトルと指標スペクトルとの差分を導出し、差分が最小となる指標スペクトルの温度を、物質スペクトルの温度とする。
【0044】
図9においては、
図9(b)に示す4000Kの指標スペクトルと物質スペクトルとが発光強度の比率に関し相関が高いので、温度特定部146は、当該物質スペクトルのプラズマの温度を4000Kと特定する。
【0045】
通常、プラズマの温度は、レーザ光の当て方、レーザ装置112と試料102との距離、レーザ装置112と試料102との空間における透過率等の様々なパラメータの影響を受けてしまい、試料102が置かれている雰囲気から客観的に求めるのは困難である。しかし、本実施形態では、プラズマの温度を、スペクトルを通じて特定できるので、その試験雰囲気に拘わらず、様々なパラメータの影響を受けることもない。したがって、レーザと試料102との距離も自由に設定することができ、例えば、レーザ光を遠隔から照射するリモート測定を行うことも可能となる。
【0046】
また、
図3を用いて説明したように、レーザ光のエネルギーが小さい範囲では、
図3(a)〜
図3(c)を比較して理解できるように発光強度の変化率が大きく、プラズマの温度が高い範囲、すなわち、レーザ光のエネルギーが大きい範囲では、
図3(c)と
図3(d)とを比較して理解できるように変化率が鈍化する。したがって、試験状況による物質スペクトルへの影響を考慮すると発光強度の変化率が小さいレーザ光のエネルギーが大きい範囲を用いるべきであるが、本実施形態では、レーザ光のエネルギーの大きさに拘わらず温度を高精度に特定できるので、レーザ光のエネルギーを小さくすることができ、レーザ光の消費電力を低減したり、レーザ光をより遠距離から試料102に照射することも可能となる。
【0047】
物質特定部148は、物質特定時において、物質スペクトルにおける特定の複数の分解物に対する発光強度のピーク比または組成比を導出し、温度特定部146が特定したプラズマの温度における物質特定情報に基づいて物質を特定する(S5)。
【0048】
例えば、物質特定部148は、
図8におけるCのピーク値とHのピーク値との比を判定する。ここでは、例えば、C/H=9940330/784893=12.66という結果を得たとする。続いて、物質特定部148は、
図4の物質特定情報を参照し、温度特定部146が特定した4000Kの欄においてC/Hピーク比が12.66に近似する物質が存在するか否か判定する。ここでは、「ナイロン」のC/Hピーク比が12.66なので、物質特定部148は、
図8のような物質スペクトルを示す物質をナイロンと特定する。こうして、物質特定装置122は、1の物質を特定することができる。
【0049】
以上説明したように、本実施形態によれば、レーザ装置112と試料102との距離等のパラメータの変動に拘わらず、プラズマの温度と物質が両方不明な場合であっても、レーザ誘起ブレークダウン分光によって適切に物質を特定することが可能となる。
【0050】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0051】
例えば、上述した実施形態においては、発光強度のピーク比に基づいて物質を特定したが、プラズマ化された分解物の組成比が直接把握できる場合、プラズマ化された分解物の組成比がテーブル化された物質特定情報を用い、分解物の組成比に基づいて物質を特定することができる。
【0052】
また、本実施形態では、気圧が1気圧であることを前提に、プラズマの温度に基づいて物質を特定しているが、気圧が1気圧でない場合、温度にさらに気圧のパラメータを加えて物質特定情報を生成し、温度と気圧とに基づいて物質を特定することも可能である。