特許第6095905号(P6095905)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6095905-密封装置 図000002
  • 特許6095905-密封装置 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6095905
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3204 20160101AFI20170306BHJP
   F16J 15/3244 20160101ALI20170306BHJP
【FI】
   F16J15/3204 201
   F16J15/3244
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-136559(P2012-136559)
(22)【出願日】2012年6月18日
(65)【公開番号】特開2014-1771(P2014-1771A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2015年6月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000143307
【氏名又は名称】株式会社荒井製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100183357
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義美
(74)【代理人】
【識別番号】100089381
【弁理士】
【氏名又は名称】岩木 謙二
(72)【発明者】
【氏名】社本 嘉宏
【審査官】 中尾 麗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−270857(JP,A)
【文献】 特開2007−239987(JP,A)
【文献】 特開平09−317793(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3204
F16J 15/3244
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転中心軸周りに相対回転可能に対向する部材相互間に設けられ、外部環境に対して内部環境を密封するための密封装置であって、
一方の部材に対して固定される固定部と、
他方の部材に対して摺動自在に接触するリップ先端を有するシールリップとを有し、
前記シールリップには、リップ先端を境界にして、その一方側に、前記リップ先端から外部環境に向かって末広がり状に傾斜し、かつ、周方向に沿って連続した円環状の外部側斜面が構成され、
前記外部側斜面には、前記リップ先端から外部環境に向かう中途に亘って、他の部位よりも窪ませた窪み領域が構成されていると共に、
前記外部側斜面には、前記リップ先端から窪み領域を横断して延出することで所定の高さに立ち上げられた輪郭を成していると共に、周方向に沿って所定間隔で互いに平行に配列され、かつ、回転中心軸に対して同一角度で同一方向に傾斜させて構成された複数のスパイラル突起部が設けられ、
所定の高さに立ち上げられた輪郭を成している前記各スパイラル突起部において、その輪郭の最も高い部分の連なりを成す稜線は、前記リップ先端から外部環境に向かって形状変化することなく、前記リップ先端が接触する他方の部材の周面に対して、一定の角度で直線状に傾斜しており、
前記各スパイラル突起部の稜線において、前記リップ先端から外部環境に向かって距離Aだけ離間した点を規定し、この点と他方の部材の周面との間の隙間をBとした場合、
A=0.5mm、かつ、B≧50μm
なる関係を満足し、
前記各スパイラル突起部の稜線と、前記他方の部材の周面との間の隙間が成す角度をθとすると、
37°≧θ≧13°
なる関係を満足し、
前記各スパイラル突起部の稜線と、前記回転中心軸との傾斜が成す角度をαとすると、
80°≧α≧40°
なる関係を満足し、かつ、
前記スパイラル突起部のピッチを0.3mm〜1.5mmとし、
前記窪み領域は、前記リップ先端から外部環境に向かう中途までを、末広がり状に傾斜させた凸球面状の第1の外部側斜面と、前記第1の外部側斜面に連続し、当該中途から外部環境に向かって先細り状に傾斜させた略平坦状の第2の外部側斜面とによって構成されていることを特徴とする密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対回転可能に対向する部材相互間に設けられ、外部環境に対して内部環境を密封するための密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車などに搭載されたエンジンの回転シャフト(例えば、クランクシャフト)が外部環境(大気)に露出する部位において、当該回転シャフトと相対回転可能に対向するハウジングとの間には、外部環境に対して内部環境(エンジン内部)を密封するための密封装置が設けられている。
【0003】
密封装置は、回転シャフトの外周面に向けて周方向に沿って連続して突出し、その突出したリップ先端が回転シャフトの外周面に沿って摺接する円環状のシールリップを備えている。かかるシールリップにおいて、リップ先端は、円環状を成しており、回転シャフトの外周面に対して、所定の締め代を有した状態で摺接している。
【0004】
これにより、内部環境に封入された密封流体(例えば、エンジンオイル)の漏洩を防止すると共に、外部環境に存するダスト(例えば、ちり、ほこり)や、液状物(例えば、水)の浸入を防止することができる。なお、ここでは、リップ先端を境界にして、その一方側(大気側)に外部環境が規定され、その他方側(密封側)に内部環境が規定されている。
【0005】
また、密封装置としては、回転シャフトが回転した際、当該回転シャフト周りに沿って生じる空気の流れを利用して、当該空気流をシールリップのリップ先端に向けて案内(収集)すること(即ち、ポンピング効果)により、さらに密封性を向上(特に、密封流体の漏洩防止効果を向上)させたものが知られている(特許文献1,2参照)。その一例として図2には、空気流をシールリップ2のリップ先端2tに向けて案内(収集)するための複数のスパイラル突起部4が設けられた密封装置が示されている。なお、図面には、1つの突起部4のみが拡大して示されている。
【0006】
なお、ポンピング効果の概念としては、リップ先端2tに案内(収集)された空気流による圧力によって、内部環境に封入された密封流体を当該内部環境に押し留めること、即ち、シールリップ2のリップ先端2tと回転シャフト6の外周面6sとの間から漏洩しようとする密封流体を内部環境に押し戻すこと、換言すると、空気流をリップ先端2tに案内(収集)して、当該リップ先端2tと回転シャフト6の外周面6sとの間の部位に、常時、空気圧を作用させることで、当該空気圧によって、シールリップ2のリップ先端2tと回転シャフト6の外周面6sとの間から密封流体が漏洩しないようにすることも含まれる。
【0007】
図2に示すように、密封装置(具体的には、シールリップ2)において、リップ先端2tを境界にして、その一方側(大気側)には、当該リップ先端2tから外部環境に向かって末広がり状に傾斜し、かつ、周方向に沿って連続した円環状の外部側斜面8が構成されていると共に、その他方側(密封側)には、当該リップ先端2tから内部環境に向かって末広がり状に傾斜し、かつ、周方向に沿って連続した円環状の内部側斜面10が構成されている。
【0008】
また、上記した複数のスパイラル突起部4は、それぞれ、外部側斜面8から立ち上げられていると共に、周方向に沿って所定間隔(例えば、等間隔)で互いに平行に配列され、かつ、回転シャフト6の回転中心軸(図示しない)に対して同一角度で同一方向に傾斜させて構成されている。このため、回転シャフト6の回転によって生じる空気流は、各スパイラル突起部4によって(具体的には、各スパイラル突起部4に沿って)同一角度で同一方向に収集され、リップ先端2tに向けて案内されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3278349号公報
【特許文献2】特開2001−173798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、従来の密封装置(シールリップ2)に適用された複数のスパイラル突起部4において、その輪郭を形成する稜線4rは、リップ先端2t側から外部環境に向かって急峻に形状変化した第1〜第3の稜線R1,R2,R3を有して構成されている。即ち、第1の稜線R1は、リップ先端2t寄りにおいて、外部側斜面8に最も接近した状態で平行に延在し、一方、第3の稜線R3は、外部環境寄りにおいて、外部側斜面8から大きく離間した状態で延在しており、第2の稜線R2は、第1の稜線R1と第3の稜線R3との間において、これら第1及び第3の稜線R1,R3を相互に連結するように延在している。
【0011】
ここで、密封装置の用途として、例えば、外部環境(大気)に対して内部環境(エンジン内部)を密封する場合を想定すると、図2に示すように、シールリップ2のリップ先端2tが、回転シャフト6の外周面6sに対して、所定の締め代を有した状態で摺接した状態において、各突起部4の稜線4rのうち、第1及び第2の稜線R1,R2は、回転シャフト6の外周面6sに沿って近接した位置関係に維持される。
【0012】
このとき、複数のスパイラル突起部4(第1及び第2の稜線R1,R2)と、回転シャフト6の外周面6sとの間には、複数の狭い隙間Gが周方向に沿って構成されることになる。この場合、外部環境に存するダスト(例えば、ちり、ほこり)が、上記したポンピング効果によってリップ先端2tに案内(収集)されると、その案内(収集)されたダストがそこに滞留することとなり、そのダストの粒径によっては、大量のダストが狭い隙間Gにそれぞれ噛み込まれてしまう場合がある。
【0013】
この場合、噛み込み量の程度によっては、大量に噛み込まれたダストによってシールリップ2が押圧され、その結果、リップ先端2tを回転シャフト6の外周面6sから離間させてしまう場合がある。そうなると、内部環境(エンジン内部)に封入されている密封流体(例えば、潤滑油、グリース)が、リップ先端2tと外周面6sと間に生じた隙間を通って漏洩してしまう。そして、このようなことが頻繁に繰り返されると、内部環境(エンジン内部)の状態(例えば、稼働状態、潤滑状態など)を一定に維持することが困難になってしまう。
【0014】
また、シールリップ2(リップ先端2t)は、高速回転する回転シャフト6の外周面6sとの間で摩耗する場合があり、その摩耗の程度によっては、複数のスパイラル突起部4の第1の稜線R1の部位が擦り減って、第2の稜線R2が外周面6sに接近することで、複数の狭い隙間Gが更に小さくなってしまう。そうなると、当該隙間G(各スパイラル突起部4)へのダストの噛み込み量が増大し、その結果、密封流体の漏洩が助長されてしまう。
【0015】
本発明は、このような問題を解決するためになされており、その目的は、シールリップの摩耗の程度を問わず、スパイラル突起部によるポンピング効果によって、外部環境に対する内部環境の密封性を常時一定に維持すると共に、スパイラル突起部へのダストの噛み込みを無くすることで、内部環境に封入された密封流体の漏洩防止効果を向上させることを可能にした密封装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
このような目的を達成するために、本発明は、回転中心軸周りに相対回転可能に対向する部材相互間に設けられ、外部環境に対して内部環境を密封するための密封装置であって、一方の部材に対して固定される固定部と、他方の部材に対して摺動自在に接触するリップ先端を有するシールリップとを有し、前記シールリップには、リップ先端を境界にして、その一方側に、前記リップ先端から外部環境に向かって末広がり状に傾斜し、かつ、周方向に沿って連続した円環状の外部側斜面が構成され、前記外部側斜面には、前記リップ先端から外部環境に向かう中途に亘って、他の部位よりも窪ませた窪み領域が構成されていると共に、前記外部側斜面には、前記リップ先端から窪み領域を横断して延出することで所定の高さに立ち上げられた輪郭を成していると共に、周方向に沿って所定間隔で互いに平行に配列され、かつ、回転中心軸に対して同一角度で同一方向に傾斜させて構成された複数のスパイラル突起部が設けられ、所定の高さに立ち上げられた輪郭を成している前記各スパイラル突起部において、その輪郭の最も高い部分の連なりを成す稜線は、前記リップ先端から外部環境に向かって形状変化することなく、前記リップ先端が接触する他方の部材の周面に対して、一定の角度で直線状に傾斜しており、前記各スパイラル突起部の稜線において、前記リップ先端から外部環境に向かって距離Aだけ離間した点を規定し、この点と他方の部材の周面との間の隙間をBとした場合、A=0.5mm、かつ、B≧50μmなる関係を満足し、前記各スパイラル突起部の稜線と、前記他方の部材の周面との間の隙間が成す角度をθとすると、37°≧θ≧13°なる関係を満足し、前記各スパイラル突起部の稜線と、前記回転中心軸との傾斜が成す角度をαとすると、80°≧α≧40°なる関係を満足し、前記スパイラル突起部のピッチを0.3mm〜1.5mmとし、かつ、前記窪み領域は、前記リップ先端から外部環境に向かう中途までを、末広がり状に傾斜させた凸球面状の第1の外部側斜面と、前記第1の外部側斜面に連続し、当該中途から外部環境に向かって先細り状に傾斜させた略平坦状の第2の外部側斜面とによって構成されている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、シールリップの摩耗の程度を問わず、スパイラル突起部によるポンピング効果によって、外部環境に対する内部環境の密封性を常時一定に維持すると共に、スパイラル突起部へのダストの噛み込みを無くすることで、内部環境に封入された密封流体の漏洩防止効果を向上させることを可能にした密封装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】(a)は、本発明の一実施形態に係る密封装置の構成を一部拡大して示す半断面図、(b)は、同図(a)に示されたリップ先端周りの構成を一部拡大して示す図、(c)は、同図(a)に示されたスパイラル突起部の構成を一部拡大して示す図。
図2】従来の密封装置において、シールリップのリップ先端周りの構成を拡大して示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係る密封装置について、添付図面を参照して説明する。なお、本実施形態は、図2に示された密封装置の改良であるため、以下では、改良部分の説明を中心に展開する。この場合、上記した密封装置(図2)と同一の構成については、その構成に付された参照符号と同一の符号を本実施形態に用いた図面上に付すことで、その詳細な説明を省略する。
【0020】
本実施形態の密封装置は、回転中心軸周りに相対回転可能に対向する部材相互間に設けられ、外部環境に対して内部環境を密封することができるように構成されている。ここでは、自動車のエンジンの回転シャフト(例えば、クランクシャフト)が外部環境(大気)に露出する部位において、相対回転可能に対向する部材として(図1(a)〜(c)参照)、回転中心軸Axを中心に矢印L方向(図面上反時計回り)に回転する回転シャフト6と、これと同中心に対向して非回転状態に維持されたハウジング12を想定する。
【0021】
図1(a)〜(c)に示すように、本実施形態の密封装置は、一方の部材(以下、ハウジング12という)に対して固定される固定部14と、他方の部材(以下、回転シャフト6という)に対して摺動自在に接触するリップ先端2tを有するシールリップ2とを有している。なお、リップ先端2tを境界にして、その一方側(大気側)に外部環境が規定され、その他方側(密封側)に内部環境が規定されている。また、シールリップ2の外周には、無端状のガータースプリング16が巻回されており、これにより、常時一定の緊迫力でリップ先端2tを回転シャフト6の外周面6sに摺接させている。
【0022】
更に、密封装置は、シールリップ2よりも外部環境寄りの部位に、回転シャフト6の外周面6sに向けて周方向に沿って連続して円環状に突出し、その突出端18tが回転シャフト6の外周面6sに沿って非接触状態で近接したダストリップ18を備えている。ダストリップ18は、突出端18tが外部環境側に向けて突出するように傾斜した姿勢を成している。これにより、外部環境に存するダスト(例えば、ちり、ほこり)や、液状物(例えば、水)の浸入防止が図られている。
【0023】
なお、上記した密封装置は、ゴム状弾性体20に芯金22を一体化させて成形されており、これにより、固定部14の剛性が一定に維持され、ハウジング12に対して固定部14を堅牢に固定させることができると共に、これにより、シールリップ2及びダストリップ18に安定した弾性が付与されることで、回転シャフト6が高速回転する環境下における密封性の維持向上が図られている。
【0024】
シールリップ2には、リップ先端2tを境界にして、その一方側に、当該リップ先端2tから外部環境に向かって末広がり状に傾斜し、かつ、周方向に沿って連続した円環状の外部側斜面8が構成されており、かかる外部側斜面8には、リップ先端2tから外部環境に向かう中途Tに亘って、他の部位よりも窪ませた窪み領域8gが構成されている。
【0025】
また、外部側斜面8には、リップ先端2tから窪み領域8gを横断して延出することで所定の高さに立ち上げられた輪郭を成していると共に、周方向に沿って所定間隔で互いに平行に配列され、かつ、回転中心軸Axに対して同一角度で同一方向に傾斜させて構成された複数のスパイラル突起部4が設けられている。
【0026】
なお、各スパイラル突起部4の延出長(窪み領域8gを横断する全長)や、立ち上がり高さ(外部側斜面8から後述する稜線4rまでの高さ)については、例えば、外部側斜面8の広さ、当該スパイラル突起部4と回転シャフト6の外周面6sとの間の隙間G(図1(c))などに応じて設定されるため、ここでは特に数値限定しない。
【0027】
この場合、窪み領域8gは、リップ先端2tから外部環境に向かう中途Tまでを、末広がり状に傾斜させた第1の外部側斜面8aと、第1の外部側斜面8aに連続し、当該中途Tから外部環境に向かって先細り状に傾斜させた第2の外部側斜面8bとによって構成されている。そして、これら第1及び第2の外部側斜面8a,8bによって、上記した外部側斜面8が構成されている。
【0028】
なお、窪み領域8gの形状として、図面には、第1の外部側斜面8aと第2の外部側斜面8bとで囲まれた三角形状のものが示されているが、これに限定されることはなく、例えば、円弧形状、楕円形状、矩形状など、各種の形状の窪み領域8gを適用することができる。また、第1及び第2の外部側斜面8a,8bの輪郭として、図面には、凸球面状の第1の外部側斜面8a、略平坦状の第2の外部側斜面8bが示されているが、これに限定されることはなく、例えば、第1及び第2の外部側斜面8a,8bの双方を平坦面状に構成してもよし、或いは、双方を凸球面状に構成してもよい。
【0029】
要するに、第1及び第2の外部側斜面8a,8bの輪郭としては、例えば、凸球面、凹球面、平坦面などを任意に選択することが可能であって、その選択した輪郭について、個別に、例えば、曲率、傾斜角度、傾斜方向などを規定することが可能であり、かかるプロセスを介して各種の形状の窪み領域8gを構成することで、上記したポンピング効果を得ることが可能なスパイラル突起部4を実現することができる。
【0030】
また、本実施形態では、所定の高さに立ち上げられた輪郭を成している各スパイラル突起部4において、その輪郭の最も高い部分の連なりを成す稜線4rは、当該リップ先端2tから外部環境に向かって形状変化することなく(凹凸(段差)変化することなく)、リップ先端2tが接触する回転シャフト6の外周面6sに対して、一定の角度θで直線状に傾斜している。
【0031】
ここで、各スパイラル突起部4の仕様については、以下の関係を満足するように設定することが好ましい。
まず、各スパイラル突起部4の稜線4rにおいて、リップ先端2tから外部環境に向かって距離Aだけ離間した点Pを規定し、この点Pと回転シャフト6の外周面6sとの間の隙間をBとした場合、A=0.5mm、かつ、B≧50μm なる関係を満足する。
また、各スパイラル突起部4の稜線4rと、回転シャフト6の外周面6sとの成す角度をθとすると、37°≧θ≧13° なる関係を満足する。
【0032】
この場合、リップ先端2tから距離A(=0.5mm)だけ離間した点Pについては、回転シャフト6の回転によって生じる空気流が、上記したポンピング効果により、各スパイラル突起部4に沿ってリップ先端2tに向けて案内(収集)される際、これに伴って、外部環境に存するダスト(例えば、ちり、ほこり)も、リップ先端2tに向けて案内(収集)されることになるが、このとき、当該ダストが最も多く集まる範囲(換言すると、ポンピング効果による空気圧が最も高くなる範囲)について、点Pを終点として距離A(=0.5mm)が規定されている。そして、かかる規定値は、既存のスパイラル突起部付き密封装置(オイルシール)を複数種用意し、これらについて、リップ先端2tへのダストの集積状態(集積量、集積範囲など)を計測・解析し、その結果に基づいて設定されている。
【0033】
また、点Pと回転シャフト6の外周面6sとの隙間B(≧50μm)については、既存のスパイラル突起部付き密封装置(オイルシール)について、そこに構成されている複数の狭い隙間Gに噛み込んだダストの平均粒径を計測し、その計測結果に基づいて設定されている。即ち、既存のスパイラル突起部付き密封装置について、様々な粒径のダストを試料に用いて噛み込み状態の確認テストを繰り返し、隙間Gに噛み込まれたダストの粒径を計測して分析したところ、その平均値は、ほぼ50μmであることが確認された。
【0034】
更に、各スパイラル突起部4の稜線4rと、回転シャフト6の外周面6sとの成す角度をθ(37°≧θ≧13°)については、角度θが13°未満では、上記した関係(A=0.5mm、かつ、B≧50μm)を満足させることが困難であり、これに対して、角度θが37°を越えると、密封装置に要求される密封性を満足させることが困難になってしまう。
【0035】
なお、各スパイラル突起部4と、回転中心軸Axとの成す角度αについては、これを40°〜80°とし、また、スパイラル突起部4のピッチを0.3mm〜1.5mmとすることで、良好なポンピング効果を期待することができる。
【0036】
以上、本実施形態によれば、シールリップ2の外部側斜面8において、リップ先端2tから中途Tに亘って他の部位よりも窪ませた窪み領域8gを構成したことで、当該窪み領域8gを横断して延出することで所定の高さに立ち上げられた輪郭を成すスパイラル突起部4は、そのリップ先端2tから外部環境に向かって所定の長さに亘って、その高さが大きく変化する形状となるため、かかるスパイラル突起部4を、周方向に沿って互いに平行に、かつ、回転中心軸Axに対して傾斜させて配列することで、上記したポンピング効果を効率よく安定して発揮させ、密封性の維持向上を図ることができる。
【0037】
この場合、各スパイラル突起部4は、リップ先端2tから外部環境に向かって、その高さが増すように構成されているため、シールリップ2(リップ先端2t)が、高速回転する回転シャフト6の外周面6sとの間で摩耗した場合でも、常に、上記したポンピング効果を実現するのに必要な高さを確保することができる。これにより、シールリップ2(リップ先端2t)の摩耗の程度を問わず、各スパイラル突起部4によるポンピング効果によって、外部環境に対する内部環境の密封性を常時一定に維持することができる。
【0038】
更に、各スパイラル突起部4の稜線4rについては、これらを、回転シャフト6の外周面6sに対して形状変化させることなく(凹凸(段差)変化させることなく)、一定の角度θで直線状に傾斜させたこと、即ち、リップ先端2tからの距離A(=0.5mm)における回転シャフト6の外周面6sとの隙間B(≧50μm)なる関係を満足させたことで、隙間Gを拡げることが可能となる。これにより、上記したポンピング効果によってリップ先端2tに案内(収集)されたダストは、その殆どが、そこで滞留することなく流動するため、各スパイラル突起部4(稜線4r)と回転シャフト6の外周面6sとの間へのダストの噛み込みを生じ難くさせることができる。この結果、内部環境に対する密封性をさらに向上(特に、密封流体の漏洩防止効果を向上)させることができる。
【0039】
ここで、上記した本実施形態の効果を実証するために、発明品と従来品との比較試験を行った結果について説明する。この比較試験では、発明品として図1に示された構成を有する密封装置と、従来品として図2に示された構成を有する密封装置を、それぞれ10個ずつ用意し、以下の設定条件で試験を行った。
内部環境:エンジンオイルを充填
外部環境:乾燥ダスト(JIS1種粉20%、JIS8種粉80%)を充填
回転シャフト6の回転数:毎分4000回転
エンジンオイル油温:120°
試験時間:24時間
【0040】
かかる比較試験によれば、従来品では10品中、9品にオイル漏れが確認され、残り1品にオイル滲み(僅かなオイル漏れ)が確認され、オイル漏れ無しは皆無であった。
これに対して、発明品では10品中、わずかに1品のみにオイル滲み(僅かなオイル漏れ)が確認されただけで、残りの9品は、オイル漏れ無しであった。これにより、上記した本実施形態の効果が実証された。
【0041】
なお、上記した実施形態における他の効果として、複数のスパイラル突起部4を、シールリップ2(外部側斜面8)の窪み領域8gを横断して延出させたことで(図1参照)、当該各スパイラル突起部4を支持する範囲(即ち、第1の外部側斜面8aと第2の外部側斜面8bに亘る範囲)を、窪み領域の無い外部側斜面8(図2参照)に各スパイラル突起部4を立ち上げた場合と比べて、大幅に延長させることができる。
【0042】
そうなると、各スパイラル突起部4を支持する範囲が延長された分だけ、当該各スパイラル突起部4を堅牢(強固)に支持することができる。特に、第1の外部側斜面8aと第2の外部側斜面8bとで囲まれた三角形状の窪み領域8gを構成した場合(図1参照)、これを横断して延出させた各スパイラル突起部4は、それぞれ、三角形のトラス構造を構築することになる。これによれば、各スパイラル突起部4自体の剛性を向上させることができると同時に、シールリップ2(外部側斜面8)に対する各スパイラル突起部4の姿勢を長期に亘って一定に維持すること(即ち、姿勢安定性を向上させること)ができる。この結果、優れた耐久性と高い密封性とを同時に兼ね備えた密封装置を実現することができる。
【0043】
これに対して、窪み領域の無い外部側斜面8(図2参照)に各スパイラル突起部4を立ち上げた場合には、これを支持する範囲が直線状の部分のみに限定されるため、上記したようなトラス構造を構築することができない。これによれば、各スパイラル突起部4自体の剛性を向上させるのには一定の限界があると共に、シールリップ2(外部側斜面8)に対する各スパイラル突起部4の姿勢を長期に亘って一定に維持すること(即ち、姿勢安定性を向上させること)も困難である。
【符号の説明】
【0044】
2 シールリップ
2t リップ先端
4 スパイラル突起部
4r 稜線
6 回転シャフト
6s 外周面
8 外部側斜面
8g 窪み領域
T 中途
図1
図2