特許第6095918号(P6095918)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6095918
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】光音響振動に基づく物性測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/24 20060101AFI20170306BHJP
   G01N 29/02 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
   G01N29/24
   G01N29/02
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-195008(P2012-195008)
(22)【出願日】2012年9月5日
(65)【公開番号】特開2014-52206(P2014-52206A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2015年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】506310865
【氏名又は名称】CYBERDYNE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾股 定夫
【審査官】 横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−026852(JP,A)
【文献】 再公表特許第2001/084135(JP,A1)
【文献】 実開昭57−146054(JP,U)
【文献】 特開2010−261873(JP,A)
【文献】 特開平09−145691(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00−29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物性測定の対象物に光を入射する光入力素子と、
前記光入力素子の点灯と消灯を制御する駆動回路と、
前記対象物からの光音響振動を検出し電気信号に変換した出力信号を信号出力端子に出力する音響検出センサと、
前記出力信号を帰還させるために前記駆動回路に設けられる信号入力端子と、前記信号出力端子との間に、増幅器、及び、位相差と周波数変化量の間の変換ゲインについて回路設定で決定できる所定変換ゲインを有する位相補償回路を含む帰還ループを形成する位相周波数変換部であって、前記帰還ループにおいて、前記信号入力端子に入力される入力波形の位相と、前記信号出力端子から出力される出力波形の位相との間には、前記対象物の特性値に応じた位相差が生じており、該位相差をゼロに補償して、前記帰還ループの信号について自励発振振動を生じさせ、前記所定変換ゲインによって前記位相差を前記自励発振振動の周波数変化量であって前記光音響振動の周波数変化量とは別の周波数変化量に変換する位相周波数変換部と、
前記自励発振振動の周波数変化量を検出する周波数変化検出部と、
前記自励発振振動の周波数変化量と前記対象物の特性値との間の特性相関関係を予め求めて記憶し、前記検出された周波数変化量に対応する前記対象物の特性値を出力する出力部と、
を備えることを特徴とする光音響振動に基づく物性測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光音響振動に基づく物性測定装置において、
前記対象物に音響振動を入力する振動子を備え、
前記位相補償回路を前記増幅器と前記駆動回路の前記信号入力端子との間に設けることに代えて、前記増幅器と前記振動子の信号入力端子との間に設けることを特徴とする光音響振動に基づく物性測定装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光音響振動に基づく物性測定装置において、
前記特性相関関係は、前記自励発振振動の周波数変化量と前記対象物の粘度との間の相関関係を規定することを特徴とする光音響振動に基づく物性測定装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の光音響振動に基づく物性測定装置において、
前記特性相関関係は、前記自励発振振動の周波数変化量と前記対象物に含まれる特定物質の濃度との間の相関関係を規定することを特徴とする光音響振動に基づく物性測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光音響振動に基づく物性測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体等の媒体に光エネルギを入射すると媒体の温度が上昇し、これによって媒体が振動して音響振動を発生することが光音響現象として知られている。
【0003】
特許文献1には、軟骨組織のコラーゲン、水分等の成分についての物性測定用の光励起蛍光検出装置が開示されている。ここでは、体内に挿入可能な円筒状の支持具の中に光ファイバが設けられ、支持具の先端には光ファイバとの間の位置関係が固定されてリング状の音響波検出装置としての圧電トランスデューサが設けられている。
【0004】
特許文献2には、光音響による血液中グルコースの非侵襲性測定のための方法と装置として、測定セルと基準セルを身体表面に接触させ、測定セルには周波数fで変調したレーザ光を導き、基準セルにはレーザ光を導かない構成が開示されている。ここでは、測定セルと基準セルと身体表面との間の空気の振動を作動マイクロフォンに入れてノイズを相殺している。周波数fを調整することで、熱拡散長を皮膚の熱拡散長に設定できると述べている。
【0005】
特許文献3には、ガスサンプルについての光音響分析装置及び分析方法として、光パルスビームの発生源と、遮音状態とした円筒状の参照室と測定室とを直線状に配置したセルを用いる構成が開示されている。ここでは、セルに連結される音検出器は、公知のタイプのマイクロフォン等で構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−264578号公報
【特許文献2】特開平11−235331号公報
【特許文献3】特開平7−333139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
光音響現象は物質の振動特性に関するものであるので、物質の質量、バネ定数、減衰定数等を評価できることが期待される。例えば、対象物の粘度は振動の減衰定数に密接に関連するので、光音響振動から物質の粘度が分かれば、粘度に関連して薬剤の有効成分濃度、果汁や血液におけるグルコース濃度等が評価できる。
【0008】
光音響現象は、光入射による物質の温度上昇に基づいて発生する振動であるので、きわめて微弱でノイズに弱い。本発明の目的は、光音響振動を高感度かつ高精度で測定できる光音響振動に基づく物性測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る光音響振動に基づく物性測定装置は、物性測定の対象物に光を入射する光入力素子と、光入力素子の点灯と消灯を制御する駆動回路と、対象物からの光音響振動を検出し電気信号に変換した出力信号を信号出力端子に出力する音響検出センサと、出力信号を帰還させるために駆動回路に設けられる信号入力端子と、信号出力端子との間に、増幅器、及び、位相差と周波数変化量の間の変換ゲインについて回路設定で決定できる所定変換ゲインを有する位相補償回路を含む帰還ループを形成する位相周波数変換部であって、帰還ループにおいて、信号入力端子に入力される入力波形の位相と、信号出力端子から出力される出力波形の位相との間には、対象物の特性値に応じた位相差が生じており、位相差をゼロに補償して、帰還ループの信号について自励発振振動を生じさせ、所定変換ゲインによって位相差を自励発振振動の周波数変化量であって光音響振動の周波数変化量とは別の周波数変化量に変換する位相周波数変換部と、自励発振振動の周波数変化量を検出する周波数変化検出部と、自励発振振動の周波数変化量と対象物の特性値との間の特性相関関係を予め求めて記憶し、検出された周波数変化量に対応する対象物の特性値を出力する出力部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る光音響振動に基づく物性測定装置において、対象物に音響振動を入力する振動子を備え、位相補償回路を増幅器と駆動回路の信号入力端子との間に設けることに代えて、増幅器と振動子の信号入力端子との間に設けることが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る光音響に基づく物性測定装置において、特性相関関係は、自励発振振動の周波数変化量と対象物の粘度との間の相関関係を規定することが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る光音響に基づく物性測定装置において、特性相関関係は、自励発振振動の周波数変化量と対象物に含まれる特定物質の濃度との間の相関関係を規定することが好ましい。

【発明の効果】
【0013】
上記構成により、光入力素子からの光入力で対象物が発生する光音響振動を音響検出センサで検出する。そのままでは音響検出センサの出力は微弱であるので、単純に増幅してもノイズに弱い。そこで、音響検出センサの信号出力端子と光入力素子への信号入力端子の間に増幅器と位相補償回路を含む帰還ループを形成する。帰還ループには光入力素子と音響検出センサとの間の対象物の振動特性に依存する質量、バネ定数、減衰定数等が含まれる。位相補償回路は、信号の周波数を変化させて光入力素子への入力波形と音響検出センサからの出力波形との間に生ずる位相差をゼロにする機能を有するので、帰還ループの信号について自励発振振動が生じる。
【0014】
この自励発振振動の周波数は、光入力素子における駆動信号の位相と音響検出センサにおける検出信号の位相差に依存し、位相差がゼロのときの周波数に対し、位相差が大きいほど周波数の変化が大きくなる。対象物の濃度等が異なることで光音響振動の周波数も変化するがその変化は極めて小さい。一方で、光入力素子における駆動信号の位相と音響検出センサにおける検出信号の位相の変化はかなり大きいが位相変化量を直接的に精度よく測定する手段がない。位相補償回路を用いることで、位相変化量を周波数変化量に変換できる。変換された周波数変化量は、光音響振動の周波数変化量そのものではなく、位相変化量を周波数変化量に変換したものである。位相変化量と周波数変化量の間の変換ゲインは位相補償回路の設定で決定できる。したがって、位相補償回路によって変換された周波数変化量を用いることで、光音響振動の周波数または振幅の微弱変化を高感度でかつ高精度で検出できる。
【0015】
また、対象物に音響振動を入力する振動子を備え、位相補償回路を増幅器の出力端子と光入力素子への信号入力端子との間に設けることに代えて、増幅器の出力端子と振動子の信号入力端子との間に設けることができる。この構成は、音響検出センサの信号出力端子と振動子の信号入力端子との間に増幅器と位相補償回路を含む帰還ループを形成するものである。帰還ループには光入力素子と音響検出センサとの間の対象物の振動特性に依存する質量、バネ定数、減衰定数等が含まれるので、光入力素子による光入射によって対象物の物性が変化することを光音響振動の変化に基づいて検出することができる。例えば、光入射を行うことで、対象物の濃度や粘度が変化することを検出できる。
【0016】
位相補償回路によって検出される周波数変化量と対象物の特性値との間の特性相関関係を予め求めておくことで、光音響振動に基づいて対象物の特性値を得ることができる。特性値としては、振動特性に関連するものが好ましい。例えば、対象物の粘度、対象物に含まれる特定物質の濃度等が好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態における光音響振動に基づく物性測定装置の構成図である。
図2】本発明の実施の形態における光音響振動に基づく物性測定装置に用いられる音響検出センサを示す図で、(a)は斜視図、(b)は底面図である。
図3】光音響振動を説明する図である。
図4】本発明の実施の形態における光音響振動に基づく物性測定装置の測定結果の例で、絵具濃度と周波数変化量の間の対応関係を示す図である。
図5】絵具濃度と粘度の関係図である。
図6】本発明の実施の形態における光音響振動に基づく物性測定装置の測定結果の例で、粘度と周波数変化量の間の特性相関関係を示す図である。
図7】本発明の実施の形態における光音響振動に基づく物性測定装置に用いられる音響検出センサの別の例を示す図である。
図8図4の結果と比較しながら、図7の音響検出センサを用いたときの絵具濃度と周波数変化量の間の特性相関関係を示す図である。
図9】本発明の実施の形態における光音響振動に基づく物性測定装置の別の構成を示す図である。
図10図9の構成の光音響振動に基づく物性測定装置に用いられる音響検出センサを示す図で、(a)は斜視図、(b)は底面図である。
図11図4の結果と比較しながら、図9の構成を用いたときの絵具濃度と周波数変化量の間の特性相関関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。以下では、光入力素子として発光素子(Light Emission Device:LED)を述べるが、これは説明の例示であって、光エネルギの制御を行ことができる素子であればよく、レーザ素子、ランプ等であってもよい。また、音響検出素子としてPZTの圧電素子を述べるが、これは説明の例示であって、音響を拾えるマイクロフォンとしての機能を有するものであればよい。例えば、ムービング・コイル型、リボン型、コンデンサ型、カーボンマイクロフォン等であってもよい。
【0019】
以下では対象物として、絵具を溶かした純水について述べるが、これは光音響振動に基づく物性測定として、対象物の粘度、対象物に含まれる特定物質の濃度を示すモデルを示すものである。絵具以外の特定物質、例えば、グルコース、ヘモグロビン等について、周波数変化量とこれらの粘度、濃度の特性相関関係を予め求めておくことで、同様に適用が可能である。
【0020】
以下で述べる形状、寸法、材質等は例示であって、光音響振動に基づく物性測定装置の仕様に応じ、適宜変更が可能である。
【0021】
以下では、全ての図面において、一または対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0022】
図1は、光音響振動に基づく物性測定装置10の構成を示す図である。以下では、特に断らない限り、光音響振動に基づく物性測定装置10を、単に物性測定装置10として説明を続ける。図1には、物性測定装置10の構成要素ではないが、物性測定の対象物として、容器に入った媒体6が示されている。物性測定装置10は、媒体6の中に配置されたLED12から光を媒体6の中に入射し、媒体6が温度上昇して発生する光音響振動8を音響検出センサ14で検出し、その検出結果に基づいて媒体の物性を測定するものである。
【0023】
LED12は、媒体6に光エネルギを放射する光入力素子である。LED12としては、市販の発光ダイオードの中から適当な特性を有するものを選んで用いることができる。適当な特性としては、媒体6の光吸収特性である分光特性に基づいて選択できる。ここでは、媒体6として絵具を溶かした純水を用いるので、絵具の分光特性に基づいてLED12の特性を決定できる。ここでは、血液の色に近い赤色絵具のピーク波長が約650nm程度であるので、中心波長が735nm、動作入力電圧が9Vの発光素子をLED12とした。
【0024】
LED12は、絵具を溶かした媒体6の中に配置されるので、透光性を確保しながら適当な防水処理が施される。具体的には、LED12のカソード側端子を基板に接続し、アノード端子はそのまま引き出すようにして、媒体6が収容される容器の底部に基板を設置する。基板からの信号線とアノード端子からの信号線は容器の外側に引き出される。
【0025】
音響検出センサ14は、媒体6の中を伝播してくる光音響振動を検出し、電気信号に変換する素子である。ここでは、圧電素子であるPZTを音響検出センサ14として用いる。図2に、音響検出センサ14としてのPZTを示した。図2(a)は斜視図、(b)は底面図である。音響検出センサ14は、直径が約6mm、厚さが約1mmの円板状のPZTの一方側の面に基準電極42を設け、他方側の面に検出電極44を設けたものである。検出電極44から引き出される端子は、音響検出センサ14の信号出力端子15に相当する。
【0026】
LED12の発光面と音響検出センサ14の検出面とは、互いに対向するように配置される。その対向距離は、物性測定装置10の仕様によって設定されるが、ここでは、2mmに設定した。これは例示であって、もっと近接して小型の容器としてもよい。
【0027】
LED駆動回路16は、基板からの信号線とアノード端子からの信号線に接続され、LED12の点灯と消灯を制御する回路である。LED駆動回路16は、電源VCCとの間のオンオフを行うオンオフスイッチ18と、LED駆動回路16を駆動するドライバトランジスタ20と、ドライバトランジスタのベース電圧を設定するいくつかの抵抗素子で構成される。
【0028】
このLED12と音響検出センサ14とLED駆動回路16の3つで、従来技術の光音響特性測定を行うことができる。図3は参考のために従来技術による光音響特性を測定した結果を示す図である。図3の横軸は時間で、縦軸は電圧であるが、LED入力電圧が10Vのフルスケールで示され、PZT出力電圧が0.25mVのフルスケールで示されている。ここで、時間が0から約40msまでの間は、LED駆動回路16のオンオフスイッチ18がオフのままで、音響検出センサ14であるPZT出力電圧の振幅は、0.05mVのノイズレベルである。時間が約40msのときに、オンオフスイッチ18がオンされ、LED入力電圧が約8Vとなる。これによってLED12から光エネルギが媒体6に入射され、光音響振動8が発生して、PZT出力電圧の振幅が、約0.08mV程度に上昇する。これが光音響現象である。
【0029】
図3から分かるように、光音響振動8は、S/N=(0.08mV/0.05mV)=1.6程度であり、極めて微弱でノイズに弱い信号である。
【0030】
そこで、図1において、音響検出センサ14の検出信号を高感度化、高精度化する構成について以下に説明する。
【0031】
LED駆動回路16における信号入力端子21は、音響検出センサ14の微弱な検出信号を帰還するために設けられる端子である。すなわち、LED12を光入力素子として動作させるには、上記のように、オンオフスイッチ18、ドライバトランジスタ20、いくつかの抵抗素子の構成で十分であるが、音響検出センサ14の微弱な検出信号を高感度化、高精度化するために、位相補償回路32を含む帰還ループを音響検出センサ14とLED12との間に設ける。信号入力端子21はそのためのもので、適当なDCカットコンデンサを介してLED駆動回路16のドライバトランジスタ20のベース端子に接続される。
【0032】
位相周波数変換部26は、音響検出センサ14の信号出力端子15と、LED駆動回路16の信号入力端子21との間に配置される回路で、LED12における駆動信号の位相と音響検出センサ14における検出信号の位相の間の変化量を、周波数の変化量に変換する回路である。
【0033】
媒体6に含まれる特定物質の濃度が異なる等、媒体6の状態が変化することで光音響振動8の電圧振幅も周波数も変化するが、図3で説明したように、もともと光音響振動8の信号レベルは微弱であるので、媒体6の状態の変化による電圧振幅、周波数の変化は極めて小さい。一方で、LED12における駆動信号の位相と音響検出センサ14における検出信号の位相の変化はかなり大きいが位相変化量を直接的に精度よく測定する手段がない。そこで、位相周波数変換部26は、位相の大きな変化量を周波数の大きな変化量に変換し、周波数カウンタを用いて周波数の変化量を検出し、媒体6の状態の変化による光音響振動8の変化を高感度化、高精度化するものである。
【0034】
位相周波数変換部26は、音響検出センサ14の信号出力端子15とLED駆動回路16の信号入力端子21の間に、増幅器30と位相補償回路32を含む帰還ループを形成する。帰還ループにはLED12と音響検出センサ14との間の媒体6の振動特性に依存する質量、バネ定数、減衰定数等が含まれる。
【0035】
位相周波数変換部26は、音響検出センサ14の信号出力端子15に接続される端子22と、LED駆動回路16の信号入力端子21に接続される端子24を有する。端子22と端子24の間には、DCカットコンデンサ28と増幅器30と位相補償回路32がこの順に直列に接続されて配置される。
【0036】
DCカットコンデンサ28は、音響検出センサ14の出力信号の直流成分をカットして交流信号成分のみを増幅器30に伝送する。増幅器30は音響検出センサ14の交流信号成分を適当な増幅率で増幅して位相補償回路32に伝送する。
【0037】
位相補償回路32は、信号の周波数を変化させてLED駆動回路16への入力波形と音響検出センサ14からの出力波形との間に生ずる位相差をゼロにする機能を有する。したがって、増幅器30と位相補償回路32を含む帰還ループの信号については、入力信号と出力信号の位相差がゼロとなるので、自励発振振動が生じる。
【0038】
この自励発振振動の周波数は、LED12における駆動信号の位相と音響検出センサ14における検出信号の位相差に依存し、位相差がゼロのときの周波数に対し、位相差が大きいほど周波数の変化が大きくなる。変換された周波数変化量は、光音響振動8の周波数変化量そのものではなく、位相変化量を周波数変化量に変換したものである。位相変化量と周波数変化量の間の変換ゲインは位相補償回路の設定で決定できる。したがって、位相補償回路によって変換された周波数変化量を用いることで、光音響振動8の周波数または振幅の微弱変化を高感度でかつ高精度で検出できる。かかる位相補償回路32の構成、作用等は、特開2004−283547号公報に詳細に述べられている。
【0039】
周波数変化検出部34は、自励発振振動の周波数について媒体6の状態によって変化する周波数の変化量を検出する回路である。
【0040】
記憶部36は、周波数変化量と媒体6の特性値との間の特性相関関係38を予め求めて記憶するメモリである。特性相関関係38としては、周波数変化量と媒体6の粘度との間の特性相関関係、周波数変化量と媒体6に含まれる特定物質の濃度との間の特性相関関係がある。
【0041】
出力部40は、記憶部36を検索して、周波数変化検出部34によって検出された周波数変化量に対応する媒体6の特性値を読み出し、出力する。出力部40は、表示画面を有するモニタ、プリンタ等を用いることができる。
【0042】
上記構成の作用効果について、媒体6として純水に絵具を溶かしたモデル実験の結果を例として、以下に詳細に説明する。ここでは、媒体6として、純水に赤色絵具、白色絵具、黒色絵具を質量比で0%から1.0%までの濃度で溶かしたものを用いた。そして、それぞれについて位相補償回路32を含む帰還ループの自励発振振動の周波数を検出し、質量比0%の濃度のときの自励発振振動の周波数を基準として、各濃度についての周波数変化量Δfを求めた。例えば、質量比0%の濃度の自励発振振動の周波数をf0とし、質量比0.8%の濃度の自励発振周波数をf0.8とすると、質量比0.8%の濃度の周波数変化量Δfは、Δf=(f0.8−f0)である。
【0043】
図4に示されるように、絵具濃度と周波数変化量Δfとは1対1の対応関係を有する。濃度1%の変化量に対応する周波数変化量Δfは約0.7kHzであり、一般的な周波数カウンタで精度よく測定できる値に高感度化、高精度化が実現している。また、赤色、白色、黒色の間の差はあまりない。
【0044】
図5は、純水に絵具を溶かしたときの常温下における粘度を市販の粘度計で測定し、絵具濃度と粘度の関係を求めたものである。図5に示されるように、絵具濃度が高くなるほど線形的に粘度が大きくなる。また、赤色、白色、黒色の間の差はあまりない。図4図5に示されるように、絵具濃度と周波数変化量Δfの関係、絵具濃度と粘度の関係のいずれにおいても、赤色、白色、黒色の間の差はあまりないので、以下では特に断らない限り、赤色絵具に絞って説明を続ける。
【0045】
図6は、図4図5の結果に基づいて、赤色絵具について、粘度と周波数変化量Δfの特性相関関係を求めたものである。図6に示されるように、粘度と周波数変化量Δfとは1対1の対応関係を有する。また、粘度の小さい変化に対し、周波数変化量Δfは一般的な周波数カウンタで精度よく測定できる値となっている。
【0046】
上記では、測定対象物である媒体6として、絵具を溶かした純水を述べたが、これは光音響振動8に基づく物性測定として、対象物の粘度、対象物に含まれる特定物質の濃度を示すモデルを示すものである。絵具以外の特定物質、例えば、グルコース、ヘモグロビン等について、周波数変化量とこれらの粘度、濃度の特性相関関係を予め求めておくことで、同様に適用が可能である。純水に赤色絵具を溶かしたモデル実験は、血液を想定しているが、図6のような周波数変化量と粘度との間の特性相関関係を、血液中の特定物質の濃度について求めておけば、従来技術における血液の特性評価では得られない血液の粘度評価が行える。
【0047】
例えば、血糖値の評価は、血液中のグルコース濃度を光学的な吸光度または透過度で行っている。血糖値が高くなると血液の粘度が高くなり、血流が遅くなるが、血糖値の光学的評価では、このような粘度の評価を行うことができない。光音響現象は、光音響振動8に基づき、振動は、対象物の質量、バネ定数の他に減衰定数が反映される。このように、光音響振動に基づく物性測定装置10によれば、対象物の粘度を高感度、高精度で評価できる。
【0048】
上記では、音響検出センサ14の形状を平板状とし、平板の検出面で光音響振動8を検出するものとした。これに代えて、図7に示すような円筒形の音響検出センサ50を用いることができる。音響検出センサ50は、外周側の電極が基準電極52で、内周側の電極が検出電極54である。LED12の基板の表面に対し、円筒形の軸方向を垂直方向となるように媒体6の内部に音響検出センサ50が配置される。これによって、光音響振動8の直進成分を効率よく検出できる。
【0049】
図8は、赤色絵具について、音響検出センサ14と音響検出センサ50との比較を行ったものである。図8図4に対応する図で、横軸が絵具濃度、縦軸が周波数変化量Δfである。図8に示されるように、音響検出センサ50を用いて得られる周波数変化量Δfは、十分な精度で濃度変化を測定することができる。
【0050】
図1では、位相周波数変換部26を、音響検出センサ14の信号出力端子15とLED駆動回路16の信号入力端子21の間に設けた。これに代えて、測定対象物である媒体6に音響振動を入力する振動子を備えるようにし、位相周波数変換部26を音響検出センサの信号出力端子と振動子の信号入力端子の間に設けてもよい。
【0051】
図9の光音響振動に基づく物性測定装置60は、振動子と音響検出センサとを一体化した探触子62を用い、位相周波数変換部26を音響検出センサの信号出力端子67と振動
子の信号入力端子69の間に設ける。LED駆動回路16は位相周波数変換部26と分離される。
【0052】
図10は、探触子62を示す図で、図10(a)は斜視図、(b)は底面図である。探触子62は、2つの円板状の圧電素子を積層したものである。紙面で上側の圧電素子が音響検出センサ、下側の圧電素子が振動子である。この上下配置関係を逆にしてもよい。2つの圧電素子の間が共通電極64で、上側の圧電素子において共通電極64とは反対側の面に設けられる電極が検出電極66で、下側の圧電素子において共通電極64とは反対側の面に設けられる電極が振動電極68である。
【0053】
検出電極66から引き出される端子が音響検出素子の信号出力端子67、振動電極68から引き出される端子が振動子の信号入力端子69に相当する。位相周波数変換部26の端子22は音響検出素子の信号出力端子67に接続され、端子24は、振動子の信号入力端子69に接続される。
【0054】
この構成において、探触子62は、LED12の点灯、消灯に関わらず、媒体6の特性を常に監視できる。すなわち、振動子への入力波形と音響検出センサからの出力波形との間に生ずる位相差をゼロにするように位相補償回路32が働き、これによって生じる自励発振振動の周波数を常に監視している。媒体6の状態が変化しなければ、自励発振振動の周波数に変化は生じない。ここで、LED駆動回路16のオンオフスイッチ18がオンされると、図3で説明したように、LED12から光エネルギが媒体6に入射され、光音響振動8が発生する。このことで、媒体6の状態が変化すると、自励発振振動の周波数が変化する。その周波数変化量Δfは、周波数変化検出部34によって検出される。その周波数変化量Δfは、光音響振動8によって変化した媒体6の状態変化量を示すことになる。
【0055】
図11は、赤色の絵具濃度と周波数変化量Δfの特性相関関係について、図9の構成と図1の構成との比較を示す図である。図11からは、同じ周波数変化量Δfで比較すると、図1の構成によって評価される絵具濃度よりも、図9の構成によって評価される絵具濃度が低濃度になる。このことから、光音響振動8によって、絵具濃度がより低濃度化したことが予想される。
【符号の説明】
【0056】
6 (測定対象物である)媒体、8 光音響振動、10,60 (光音響振動に基づく)物性測定装置、12 (光入力素子である)LED、14,50 音響検出センサ、15,67 信号出力端子、16 LED駆動回路、18 オンオフスイッチ、20 ドライバトランジスタ、21,69 信号入力端子、22,24 端子、26 位相周波数変換部、28 DCカットコンデンサ、30 増幅器、32 位相補償回路、34 周波数変化検出部、36 記憶部、38 特性相関関係、40 出力部、42,52 基準電極、44,54,66 検出電極、62 探触子、64 共通電極、68 振動電極。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11