特許第6095922号(P6095922)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6095922
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】真空断熱材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16L 59/06 20060101AFI20170306BHJP
【FI】
   F16L59/06
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-199530(P2012-199530)
(22)【出願日】2012年9月11日
(65)【公開番号】特開2014-55606(P2014-55606A)
(43)【公開日】2014年3月27日
【審査請求日】2015年8月31日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19〜23年度、経済産業省,独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、省エネルギー技術開発プログラム・革新的部材産業創出プログラム「マルチセラミックス膜新断熱材料の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000173522
【氏名又は名称】一般財団法人ファインセラミックスセンター
(73)【特許権者】
【識別番号】302045705
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥原 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】水田 安俊
(72)【発明者】
【氏名】黒山 友宏
(72)【発明者】
【氏名】小川 光恵
(72)【発明者】
【氏名】松原 秀彰
(72)【発明者】
【氏名】井須 紀文
(72)【発明者】
【氏名】三浦 正嗣
(72)【発明者】
【氏名】竹田 直行
(72)【発明者】
【氏名】毛利 馨
【審査官】 渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−036975(JP,A)
【文献】 特開2009−041649(JP,A)
【文献】 特開2009−114010(JP,A)
【文献】 特開2001−021094(JP,A)
【文献】 特許第3558980(JP,B2)
【文献】 特開2002−310383(JP,A)
【文献】 特開平06−345418(JP,A)
【文献】 特表2013−530325(JP,A)
【文献】 特開2004−347091(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 59/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質シリカ粒子と、炭素粒子とを芯材として混合し、非通気性の封止フィルムによって真空封止してなる真空断熱材の製造方法であって、
前記多孔質シリカ粒子は、表面に炭化水素基を有する疎水性の多孔質シリカ粒子であって、前記炭素粒子と混合する前に、酸素存在雰囲気下の350〜550℃の範囲で予め熱処理して前記炭化水素基の存在量を低減する工程を有することを特徴とする、真空断熱材の製造方法
【請求項2】
前記多孔質シリカ粒子は、タッピング嵩密度が0.1g/cm3以下であり、且つパッキング密度が0.125g/cm3以下である、請求項1に記載の真空断熱材の製造方法
【請求項3】
前記炭素粒子がグラファイト粒子である、請求項1ないし請求項2のいずれかに記載の真空断熱材の製造方法
【請求項4】
前記炭素粒子の混合量が2.5〜12.5重量%である、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の真空断熱材の製造方法
【請求項5】
前記炭素粒子の平均粒子径が20μm以下である、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の真空断熱材の製造方法
【請求項6】
前記芯材の赤外線吸収係数が110m2/kg以上である、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の真空断熱材の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空断熱材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種温冷機器や住宅などにおいて、内外の熱伝達を遮断する断熱材が使用されている。ここで、伝熱機構には、大きく分けて固体伝熱、気体伝熱、及び輻射伝熱とがあり、望ましくはこれら全てに対応することで、断熱性を向上できることが一般的に知られている。そこで、固体伝熱に対する断熱性に優れる粒子と輻射伝熱を抑制する粒子とを混合分散し、非通気性の封止フィルムで真空封止することで気体伝熱にも対応した、真空断熱材の開発が進められている。当該真空断熱材では、断熱性の高い粒子として一般的にシリカ粒子が使用され、輻射伝熱を抑制する粒子として炭素粒子が使用されることが多い。
【0003】
このような真空断熱材としては、例えば特許文献1がある。特許文献1では、シリカ粒子の粒径や炭素粒子の種類又は比表面積を改良することで、真空断熱材の向上を図っている。具体的には、平均一次粒子径が50nm以下のヒュームドシリカ粒子に、黒鉛化炭素(グラファイト)粒子又は比表面積100〜300mm2/gのカーボンブラック粒子を1〜10重量%混合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3558980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、シリカ粒子に関してはその平均一次粒子径を調整することで断熱性の向上を図っている。しかしながら、シリカ粒子の性状(特に表面性状)も断熱性に大きく影響する。したがって、特許文献1のようにシリカ粒子の平均一次粒子径を調整(改良)するだけでは、断熱性の向上には限界がある。
【0006】
そこで、本発明は上記課題を解決するものであって、シリカ粒子の表面性状を改良することで断熱性が向上された、真空断熱材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのための手段として、本発明は次の手段を採る。
(1)多孔質シリカ粒子と、炭素粒子とを芯材として混合し、非通気性の封止フィルムによって真空封止してなる真空断熱材の製造方法であって、
前記多孔質シリカ粒子は、表面に炭化水素基を有する疎水性の多孔質シリカ粒子であって、前記炭素粒子と混合する前に、酸素存在雰囲気下の350〜550℃の範囲で予め熱処理して前記炭化水素基の存在量を低減する工程を有することを特徴とする、真空断熱材の製造方法
)前記多孔質シリカ粒子は、タッピング嵩密度が0.1g/cm3以下であり、且つパッキング密度が0.125g/cm3以下である、(1)に記載の真空断熱材の製造方法
)前記炭素粒子がグラファイト粒子である、(1)または(2)に記載の真空断熱材の製造方法
)前記炭素粒子の混合量が2.5〜12.5重量%である、(1)ないし(3)のいずれかに記載の真空断熱材の製造方法
)前記炭素粒子の平均粒子径が20μm以下である、(1)ないし(4)のいずれかに記載の真空断熱材の製造方法
前記芯材の赤外線吸収係数が110m2/kg以上である、(1)ないし(5)のいずれかに記載の真空断熱材の製造方法
【0008】
なお、本発明において多孔質シリカ粒子のタッピング嵩密度とは、JISR 1628に従って測定される嵩密度である。具体的には、一定容積の容器に多孔質シリカ粒子を充填し、十分に緻密化するまで数百回タッピングを繰り返す。そして、重量変化が0.3%以下に収まったところで、そのときの多孔質シリカ粒子の重量と体積から求められる密度である。
【0009】
また、パッキング密度とは、封止フィルム内に一定重量の芯材粒子を充填し、内部を真空とした際の大気圧で加圧された状態における重量と体積から求められる密度である。
【0010】
また、本発明において数値範囲を示す「○○〜××」とは、特に明記しない限り「○○以上××以下」を意味する。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、シリカ粒子として内部に多数の空隙を有する多孔質シリカ粒子を使用しているので、非多孔質なシリカ粒子を使用した場合よりもシリカ粒子そのものによる断熱性を向上することができる。ところで、表面に炭化水素基(例えばCH基)を有する多孔質シリカ粒子は基本的に疎水性であって、当該炭化水素基の存在により空気中の水分が吸着し難い。これにより、真空断熱材を真空封止する際の真空引きに要する時間が短縮され、生産性を向上できる。また、同じ真空引き時間であれば、真空度を向上することができる。しかしながら、この表面炭化水素基の存在は熱伝導に影響を及ぼし、当該表面炭化水素基が単純に固体伝熱のパスを増やす要因となる。また、表面炭化水素基の存在により多孔質シリカ粒子間の摩擦が低減されるため、粒子の流動性が高くなる。この場合、真空封止時の充填状態が過度によくなってパッキング密度が高くなることで、熱伝導率が増大してしまう。そこで、本発明では、多孔質シリカ粒子の表面炭化水素基を低減していることで、上記のような問題を解決でき、熱伝導率の低減すなわち断熱性の向上に有効となる。
【0012】
多孔質シリカ粒子を350〜550℃の範囲で熱処理すれば、的確に断熱性を向上することができる。また、多孔質シリカ粒子のタッピング嵩密度が0.1g/cm以下と小さく、且つパッキング密度も0.125g/cm以下と小さければ、真空断熱材中の固体成分が少なく空隙率が大きくなる。これにより、固体伝熱に対する断熱性が向上する。
【0013】
炭素粒子としてグラファイトを配合していれば、カーボンブラックを配合した場合よりも輻射伝熱の抑制効果が大きく、真空断熱材の断熱性をより向上できる。ここで、輻射伝熱は固体振動による熱放射であり、その主体は波長が赤外線領域の熱放射である。したがって、赤外線吸収係数が110m/kg以上と大きければ、輻射伝熱の主体をなす赤外線領域の放射の吸収能も大きくなることで輻射伝熱が的確に抑制され、断熱性がより向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】多孔質シリカ粒子のタッピンング嵩密度及びパッキング密度と真空断熱材の熱伝導率との関係を示すグラフである。
図2】多孔質シリカ粒子の熱処理温度と真空断熱材の熱伝導率との関係を示すグラフである。
図3】多孔質シリカ粒子の熱処理温度と真空断熱材のパッキング密度との関係を示すグラフである。
図4】赤外吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳しく説明する。本発明の真空断熱材は、多孔質シリカ粒子と炭素粒子との混合粒子を芯材とし、当該芯材を非通気性の封止フィルムによって真空封止してなる。
【0016】
シリカ粒子としては、多孔質シリカ粒子を使用する。真空封止した際はシリカ粒子同士ないしシリカ粒子と炭素粒子との接触は避けられず、この粒子接触により固体伝熱(熱伝導)の経路が形成され得るが、多孔質シリカ粒子であれば、非多孔質シリカ粒子を使用した場合よりも固体伝熱に対する断熱性が向上する。多孔質シリカ粒子の気孔率は90%以上が好ましい。気孔率が低いと、ポーラス構造による断熱性の向上効果が得られ難くなるためである。
【0017】
また、表面に炭化水素基(CH基)を有する多孔質シリカ粒子が好ましい。多孔質シリカ粒子の中には本来的に炭化水素基を有しないものもあるが、このような多孔質シリカ粒子は親水性なので、空気中の水分を吸着し易い傾向がある。そのため、断熱材を真空封止する際の所要時間が長くなったり、真空度が向上し難い傾向がある。一方、表面に炭化水素基を有する多孔質シリカ粒子であれば、断熱材を真空封止する際に空気中の水分が吸着され難いので真空効率が向上し、真空断熱材の断熱性を向上することができる。
【0018】
但し、表面炭化水素基の存在量はできるだけ少ないことが好ましい。表面炭化水素基の存在量が少ないほど固体伝熱を減らすことができ、真空断熱材の断熱性が向上する。また、表面炭化水素基の存在量を適切に減らすことで多孔質シリカ粒子間の流動性を下げて真空封止後のパッキング密度を下げ、断熱性を向上できる。表面炭化水素基の低減量の目安としては、表面炭化水素基の存在量の指針となる炭化水素基由来の炭素量が、5重量%以下となる程度まで低減することが好ましく、3重量%以下となる程度まで低減することがより好ましい。但し、表面炭化水素を完全に除去することは現実的に困難であり、また表面炭化水素基が存在する上記効果が得られなくなるので、表面炭化水素基由来の炭素量の下限は0重量%を超えていることが好ましい。より好ましくは0.1重量%以上であり、さらに好ましくは0.5重量%以上である。
【0019】
表面炭化水素基の存在量は、多孔質シリカ粒子を熱処理することで低減できる。熱処理温度は350〜550℃、好ましくは370〜530℃、より好ましくは400〜500℃とする。多孔質シリカ粒子の熱処理温度が350℃未満では、有効に表面炭化水素基の存在量を低減できない。一方、熱処理温度が550℃を超えると、多孔質シリカ粒子の焼結収縮により密度が増加する。これにより、パッキング密度も増大することで、真空断熱材の断熱性が低下してしまう。熱処理は、電気炉等によって行えばよい。また、熱処理は酸素存在下で行う。酸素存在下で熱処理することで、表面炭化水素基が酸素と反応して低減するからである。不活性雰囲気下で熱処理すると、表面炭化水素基の炭素化が進行するだけなので、断熱性向上効果が損なわれる。
【0020】
多孔質シリカ粒子は、できるだけ微細であることが好ましい。微細な多孔質シリカ粒子であることでタッピング嵩密度及びパッキング密度を低減できるため、炭素粒子添加による断熱性の改善効果が向上して真空断熱材の熱伝導率を相乗的に低く抑えられるからである。そこで、多孔質シリカ粒子のタッピング嵩密度が、少なくとも0.1g/cm以下、好ましくは0.08g/cm以下となる程度の微細な多孔質シリカ粒子を使用する。また、多孔質シリカ粒子のみを芯材とした場合のパッキング密度が、少なくとも0.125g/cm以下、好ましくは0.110g/cm以下となる程度の微細な多孔質シリカ粒子を使用する。多孔質シリカ粒子のタッピング嵩密度が0.1g/cmより大きかったり、若しくはパッキング密度が0.125g/cmより大きいと、真空断熱材において優れた断熱性を得られ難い。
【0021】
炭素粒子は、真空断熱材において輻射伝熱を抑制するために混合される。その混合量は、多孔質シリカ粒子と炭素粒子との合計重量基準で、2.5〜12.5重量%、好ましくは4〜10重量%、より好ましくは5〜7.5重量%とする。炭素粒子の混合量が2.5重量%未満では、輻射伝熱の抑制効果を的確に得られない。一方、12.5重量%を超えると、本来炭素粒子は比較的熱伝導率の高い材料なので、輻射伝熱の抑制効果よりも、炭素粒子を混合したことによる固体伝熱性が大きくなってしまい、結果として真空断熱材の断熱性が低下してしまう。
【0022】
また、炭素粒子もできるだけ微細であることが好ましいため、平均粒子径は20μm以下、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは6μm以下とする。炭素粒子の粒子径が大きいと、芯材となる混合粒子中において固体伝熱性の高い連続領域(1個の炭素粒子)が長くなり固体伝熱の経路が形成されやすくなるため、真空断熱材の熱伝導率が大きくなってしまう。
【0023】
炭素粒子であれば、例えばカーボンブラック等でもある程度の輻射伝熱抑制効果を期待できるが、中でもグラファイト粒子が好ましい。グラファイトは、非晶質の炭素やカーボンブラックなど他の炭素粒子よりも層状構造が規則的に構成されており、自由電子が多く光の吸収係数が高いため、他の炭素粒子よりも輻射伝熱の抑制効果が高いからである。
【0024】
封止フィルムは、非通気性である限りその材料は特に限定されない。例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデンなどからなる包装フィルムを使用できる。なお、封止フィルムは、断熱性やガスバリヤ性等を向上させるために、アルミニウム等からなる金属ラミネート層を有することが好ましい。
【0025】
真空断熱材は、多孔質シリカ粒子と炭素粒子とを所定の割合で混合分散させたものを芯材として封止フィルムに充填し、十分に真空引きできたところで封止フィルムの開口を熱溶着等によって封止することで得られる。このとき、多孔質シリカ粒子は、炭素粒子と混合する前に、上述のごとく予め熱処理することで表面炭化水素基の存在量を低減しておく。真空圧力は、5〜20Pa程度とすればよい。
【0026】
真空封止後の真空断熱材全体のパッキング密度(芯材に炭素粒子も含む場合の密度)は、0.138g/cm以下が好ましく、0.120g/cm以下がより好ましい。真空断熱材のパッキング密度が低いことで、内部の空隙量が多く固体伝熱の経路が少ないこととなり、断熱性が向上する。また、真空断熱材の赤外線吸収係数は110m/kg以上であることが好ましい。赤外線吸収係数が大きいほど、輻射伝熱の抑制効果が大きいからである。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、これに限られず本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【0028】
<試験1>
先ず、多孔質シリカ粒子のタッピング嵩密度及びパッキング密度の影響について評価した。多孔質シリカ粒子としては、90%以上の気孔率をもち、タッピング嵩密度が約0.08〜0.11g/cmの範囲でそれぞれ異なる(表1参照)4種類の多孔質シリカ粒子(試料1〜4)を使用した。この試料1〜4の各多孔質シリカ粒子50gを芯材として、アルミニウムラミネート層を有する昭和電工製の封止フィルムによって真空圧力10Paにまで減圧した状態で真空封止して、縦200mm×横200mm×高さ10mmの真空断熱材を作製し、そのパッキング密度を測定した。その結果を表1に示す。
【0029】
次いで、上記試料1〜4の各多孔質シリカ粒子に、炭素粒子を5重量%の割合で均一に分散するまで十分に撹拌混合した混合粒子50gを芯材として、上記と同様にして真空断熱材を作製し、そのパッキング密度も測定した。その結果も表1に示す。なお、炭素粒子としては、平均粒子径5μmのグラファイト(SECカーボン社製のSGP−5)を使用した。
【0030】
【表1】
【0031】
続いて、炭素粒子の混合量を種々変更した(図1の横軸参照)混合粒子50gを芯材として、上記と同様にして作製した真空断熱材の熱伝導率(Thermal conductivity)を測定した。その結果を図1に示す。なお、熱伝導率の測定には、保護熱板法(GHP:GuardedHot Plate法)を用いた。具体的には、ホットプレート高温部30℃の上下に真空断熱材2枚をセットして、その外側に低温部20℃を設けて定常状態とする。その定常熱流を保つためにホットプレートに供給される熱量(電力)をもとに、熱伝導率の絶対値を求めることができる。
【0032】
図1及び表1の結果から明らかなように、多孔質シリカ粒子のタッピング嵩密度及びパッキング密度が小さいほど熱伝導率が低くなる傾向が確認された。
【0033】
<試験2>
次に、多孔質シリカ粒子の表面炭化水素基の存在量に基づく断熱性の影響について評価した。多孔質シリカ粒子としては、上記試験1で使用した試料4を使用した。そして、多孔質シリカ粒子を、酸化性雰囲気(酸素ガス雰囲気)で350℃、450℃、550℃、750℃、及び不活性雰囲気(窒素ガス雰囲気)で750℃の各条件でそれぞれ熱処理した。なお、熱処理は、真空ガス置換が可能な電気炉により行い、昇温速度200℃/時間として、各熱処理温度において10時間保持した。また、多孔質シリカ粒子の表面炭化水素基の存在量を低減できていることを確認するために、代表的なサンプルとして熱処理前および450℃にて熱処理した多孔質シリカ粒子について炭化水素基由来の炭素量を測定したところ、前者は6.9重量%、後者は2.1重量%であった。表面炭化水素基由来の炭素量は、酸素気流中燃焼−赤外線吸収法によって測定した。
【0034】
当該各熱処理多孔質シリカ粒子及び未処理多孔質シリカ粒子に、それぞれ上記試験1と同じ炭素粒子を2.5〜12.5重量%の範囲で混合量を種々変更した(図2参照)混合粒子50gを芯材とし、試験1と同様にして作製した真空断熱材の熱伝導率を、試験1と同様に測定した。その結果を図2に示す。また、炭素粒子の混合量を7.5重量%とした場合の、真空断熱材のパッキング密度も測定した。その結果を図3に示す。
【0035】
図2の結果から明らかなように、酸素存在雰囲気において350〜550℃で熱処理することで表面炭化水素基が的確に低減され、真空断熱材の熱伝導率が向上することが確認された。中でも、熱処理温度450℃、炭素粒子含有量7.5重量%の真空断熱材は、熱伝導率が2.87mW/mKと最も低かった。一方、酸素存在雰囲気でも750℃にて熱処理した場合や、不活性雰囲気において熱処理した場合は、熱伝導率の低減効果は殆ど得られなかった。これは、多孔質シリカ粒子の焼結収縮による高密度化や表面炭化水素基の炭素化が原因と考えられる。
【0036】
この表面炭化水素基の低減によって熱伝導率を低減できるという結果は、2つの効果によるものである。一つは、表面炭化水素基が固体伝導の経路となっており、それを低減した効果である。もう一つは、図3の結果から明らかなように、表面炭化水素基の低減によりパッキング密度を低減できた効果によるものである。これは、炭化水素基が多孔質シリカ粒子表面に存在することで、粒子間の摩擦係数が低減され流動性が向上してパッキング密度が増大する傾向があるが、表面炭化水素基を減らすことで多孔質シリカ粒子の流動性も低下し、パッキング密度を有意に下げることができたと考えられる。しかし、パッキング密度を下げると、固体伝熱が低下する反面、輻射伝熱が増加する傾向があるが、この問題は輻射伝熱抑制効果のある炭素粒子を混合することにより解決できる。
【0037】
<試験3>
そこで、炭素粒子の種類の違いによる断熱性への影響を評価した。上記試験2において最も熱伝導率の低かった真空断熱材(熱処理温度450℃、炭素粒子7.5重量%)に対して、炭素粒子をカーボンブラック(東海カーボン製、#8500)に代えた以外は同様にして真空断熱材を作製した。その熱伝導率を測定したところ、熱伝導率は3.79mW/mKであり、炭素粒子としてグラファイトを使用した場合(熱伝導率2.87mW/mK)よりも熱伝導率低減効果は低かった。この熱伝導率の低減効果の違いは、炭素粒子の種類により輻射伝熱抑制の効果が異なるためと推察される。したがって、輻射伝熱抑制効果を定量的に反映するパラメータを決定することで、真空断熱材における性能保証・品質管理に有効な指標として活用できる。
【0038】
そこで、輻射伝熱の抑制効果を示すパラメータとして、赤外吸収係数を評価した。まず、赤外分光光度計により、上記試験3で使用した芯材粒子(多孔質シリカ粒子+グラファイト:試料5、及び多孔質シリカ粒子+カーボンブラック:試料6)の赤外吸収率を測定した。また、参考として、上記試験2で使用した不活性雰囲気熱処理の多孔質シリカ粒子(試料7)と、未処理多孔質シリカ粒子(試料8)の赤外吸収率も測定した。このときの周波数範囲は370〜7800cm-1であり、波長範囲は1.28〜27μmである。赤外域での透過率の高いKBr板の間に試料5〜8の粒子を挟み、赤外透過率を測定して吸収率に換算した。この赤外吸収率をそれぞれの粒子の密度で割った吸収係数(Specific Extinction)の波長依存性を図4に示す。
【0039】
図4の結果において、波長の短い近赤外領域ではカーボンブラック(試料6)の吸収係数が高いものの、抑えるべき30℃付近の温度に対する輻射スペクトルのピーク付近よりも長波長領域ではグラファイト(試料5)の吸収係数が高くなるという結果を得た。さらに、試料5〜8の赤外吸収率スペクトルに対して、ロッセランド(Rosseland)平均の演算処理を加えることで、輻射伝熱λの下記計算式(1)におけるロッセランド吸収係数Ksを密度で割った値を求め、当該値を本発明における「赤外線吸収係数」とした。その結果を表2に示す。なお、下記計算式(1)において、nは屈折率、σはステファンボルツマン定数、Tは温度、ρ’は相対密度、ρは固体密度である。また、参考試料7,8を芯材として上記試験2と同様にして作製した真空断熱材の熱伝導率も測定した。その結果も表2に示す。
【0040】
【数1】
【0041】
【表2】
【0042】
表2の結果からも明らかなように、炭素粒子としてグラファイトを使用した方が、カーボンブラックを使用した場合よりも赤外線吸収係数が高く、熱伝導率は低かった。これにより、グラファイトの方がカーボンブラックよりも輻射伝熱抑制効果が高いことが確認された。また、優れた断熱性を備える真空断熱材とするには、赤外線吸収係数が110m/kg以上であることが好ましいことも確認された。
図1
図2
図3
図4