【0020】
多孔質シリカ粒子は、できるだけ微細であることが好ましい。微細な多孔質シリカ粒子であることでタッピング嵩密度及びパッキング密度を低減できるため、炭素粒子添加による断熱性の改善効果が向上して真空断熱材の熱伝導率を相乗的に低く抑えられるからである。そこで、多孔質シリカ粒子のタッピング嵩密度が、少なくとも0.1g/cm
3以下、好ましくは0.08g/cm
3以下となる程度の微細な多孔質シリカ粒子を使用する。また、多孔質シリカ粒子のみを芯材とした場合のパッキング密度が、少なくとも0.125g/cm
3以下、好ましくは0.110g/cm
3以下となる程度の微細な多孔質シリカ粒子を使用する。多孔質シリカ粒子のタッピング嵩密度が0.1g/cm
3より大きかったり、若しくはパッキング密度が0.125g/cm
3より大きいと、真空断熱材において優れた断熱性を得られ難い。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、これに限られず本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【0028】
<試験1>
先ず、多孔質シリカ粒子のタッピング嵩密度及びパッキング密度の影響について評価した。多孔質シリカ粒子としては、90%以上の気孔率をもち、タッピング嵩密度が約0.08〜0.11g/cm
3の範囲でそれぞれ異なる(表1参照)4種類の多孔質シリカ粒子(試料1〜4)を使用した。この試料1〜4の各多孔質シリカ粒子50gを芯材として、アルミニウムラミネート層を有する昭和電工製の封止フィルムによって真空圧力10Paにまで減圧した状態で真空封止して、縦200mm×横200mm×高さ10mmの真空断熱材を作製し、そのパッキング密度を測定した。その結果を表1に示す。
【0029】
次いで、上記試料1〜4の各多孔質シリカ粒子に、炭素粒子を5重量%の割合で均一に分散するまで十分に撹拌混合した混合粒子50gを芯材として、上記と同様にして真空断熱材を作製し、そのパッキング密度も測定した。その結果も表1に示す。なお、炭素粒子としては、平均粒子径5μmのグラファイト(SECカーボン社製のSGP−5)を使用した。
【0030】
【表1】
【0031】
続いて、炭素粒子の混合量を種々変更した(
図1の横軸参照)混合粒子50gを芯材として、上記と同様にして作製した真空断熱材の熱伝導率(Thermal conductivity)を測定した。その結果を
図1に示す。なお、熱伝導率の測定には、保護熱板法(GHP:GuardedHot Plate法)を用いた。具体的には、ホットプレート高温部30℃の上下に真空断熱材2枚をセットして、その外側に低温部20℃を設けて定常状態とする。その定常熱流を保つためにホットプレートに供給される熱量(電力)をもとに、熱伝導率の絶対値を求めることができる。
【0032】
図1及び表1の結果から明らかなように、多孔質シリカ粒子のタッピング嵩密度及びパッキング密度が小さいほど熱伝導率が低くなる傾向が確認された。
【0033】
<試験2>
次に、多孔質シリカ粒子の表面炭化水素基の存在量に基づく断熱性の影響について評価した。多孔質シリカ粒子としては、上記試験1で使用した試料4を使用した。そして、多孔質シリカ粒子を、酸化性雰囲気(酸素ガス雰囲気)で350℃、450℃、550℃、750℃、及び不活性雰囲気(窒素ガス雰囲気)で750℃の各条件でそれぞれ熱処理した。なお、熱処理は、真空ガス置換が可能な電気炉により行い、昇温速度200℃/時間として、各熱処理温度において10時間保持した。また、多孔質シリカ粒子の表面炭化水素基の存在量を低減できていることを確認するために、代表的なサンプルとして熱処理前および450℃にて熱処理した多孔質シリカ粒子について炭化水素基由来の炭素量を測定したところ、前者は6.9重量%、後者は2.1重量%であった。表面炭化水素基由来の炭素量は、酸素気流中燃焼−赤外線吸収法によって測定した。
【0034】
当該各熱処理多孔質シリカ粒子及び未処理多孔質シリカ粒子に、それぞれ上記試験1と同じ炭素粒子を2.5〜12.5重量%の範囲で混合量を種々変更した(
図2参照)混合粒子50gを芯材とし、試験1と同様にして作製した真空断熱材の熱伝導率を、試験1と同様に測定した。その結果を
図2に示す。また、炭素粒子の混合量を7.5重量%とした場合の、真空断熱材のパッキング密度も測定した。その結果を
図3に示す。
【0035】
図2の結果から明らかなように、酸素存在雰囲気において350〜550℃で熱処理することで表面炭化水素基が的確に低減され、真空断熱材の熱伝導率が向上することが確認された。中でも、熱処理温度450℃、炭素粒子含有量7.5重量%の真空断熱材は、熱伝導率が2.87mW/mKと最も低かった。一方、酸素存在雰囲気でも750℃にて熱処理した場合や、不活性雰囲気において熱処理した場合は、熱伝導率の低減効果は殆ど得られなかった。これは、多孔質シリカ粒子の焼結収縮による高密度化や表面炭化水素基の炭素化が原因と考えられる。
【0036】
この表面炭化水素基の低減によって熱伝導率を低減できるという結果は、2つの効果によるものである。一つは、表面炭化水素基が固体伝導の経路となっており、それを低減した効果である。もう一つは、
図3の結果から明らかなように、表面炭化水素基の低減によりパッキング密度を低減できた効果によるものである。これは、炭化水素基が多孔質シリカ粒子表面に存在することで、粒子間の摩擦係数が低減され流動性が向上してパッキング密度が増大する傾向があるが、表面炭化水素基を減らすことで多孔質シリカ粒子の流動性も低下し、パッキング密度を有意に下げることができたと考えられる。しかし、パッキング密度を下げると、固体伝熱が低下する反面、輻射伝熱が増加する傾向があるが、この問題は輻射伝熱抑制効果のある炭素粒子を混合することにより解決できる。
【0037】
<試験3>
そこで、炭素粒子の種類の違いによる断熱性への影響を評価した。上記試験2において最も熱伝導率の低かった真空断熱材(熱処理温度450℃、炭素粒子7.5重量%)に対して、炭素粒子をカーボンブラック(東海カーボン製、#8500)に代えた以外は同様にして真空断熱材を作製した。その熱伝導率を測定したところ、熱伝導率は3.79mW/mKであり、炭素粒子としてグラファイトを使用した場合(熱伝導率2.87mW/mK)よりも熱伝導率低減効果は低かった。この熱伝導率の低減効果の違いは、炭素粒子の種類により輻射伝熱抑制の効果が異なるためと推察される。したがって、輻射伝熱抑制効果を定量的に反映するパラメータを決定することで、真空断熱材における性能保証・品質管理に有効な指標として活用できる。
【0038】
そこで、輻射伝熱の抑制効果を示すパラメータとして、赤外吸収係数を評価した。まず、赤外分光光度計により、上記試験3で使用した芯材粒子(多孔質シリカ粒子+グラファイト:試料5、及び多孔質シリカ粒子+カーボンブラック:試料6)の赤外吸収率を測定した。また、参考として、上記試験2で使用した不活性雰囲気熱処理の多孔質シリカ粒子(試料7)と、未処理多孔質シリカ粒子(試料8)の赤外吸収率も測定した。このときの周波数範囲は370〜7800cm
-1であり、波長範囲は1.28〜27μmである。赤外域での透過率の高いKBr板の間に試料5〜8の粒子を挟み、赤外透過率を測定して吸収率に換算した。この赤外吸収率をそれぞれの粒子の密度で割った吸収係数(Specific Extinction)の波長依存性を
図4に示す。
【0039】
図4の結果において、波長の短い近赤外領域ではカーボンブラック(試料6)の吸収係数が高いものの、抑えるべき30℃付近の温度に対する輻射スペクトルのピーク付近よりも長波長領域ではグラファイト(試料5)の吸収係数が高くなるという結果を得た。さらに、試料5〜8の赤外吸収率スペクトルに対して、ロッセランド(Rosseland)平均の演算処理を加えることで、輻射伝熱λ
rの下記計算式(1)におけるロッセランド吸収係数Ksを密度で割った値を求め、当該値を本発明における「赤外線吸収係数」とした。その結果を表2に示す。なお、下記計算式(1)において、nは屈折率、σはステファンボルツマン定数、Tは温度、ρ’は相対密度、ρ
sは固体密度である。また、参考試料7,8を芯材として上記試験2と同様にして作製した真空断熱材の熱伝導率も測定した。その結果も表2に示す。
【0040】
【数1】
【0041】
【表2】
【0042】
表2の結果からも明らかなように、炭素粒子としてグラファイトを使用した方が、カーボンブラックを使用した場合よりも赤外線吸収係数が高く、熱伝導率は低かった。これにより、グラファイトの方がカーボンブラックよりも輻射伝熱抑制効果が高いことが確認された。また、優れた断熱性を備える真空断熱材とするには、赤外線吸収係数が110m
2/kg以上であることが好ましいことも確認された。