特許第6095937号(P6095937)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6095937
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】車輌用前照灯
(51)【国際特許分類】
   F21S 8/12 20060101AFI20170306BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20170306BHJP
【FI】
   F21S8/12 140
   F21Y115:10
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-226737(P2012-226737)
(22)【出願日】2012年10月12日
(65)【公開番号】特開2014-78463(P2014-78463A)
(43)【公開日】2014年5月1日
【審査請求日】2015年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100116942
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 雅信
(74)【代理人】
【識別番号】100167704
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 裕人
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀忠
【審査官】 石井 孝明
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭64−017301(JP,A)
【文献】 特開2012−190755(JP,A)
【文献】 特開2006−049189(JP,A)
【文献】 特開2011−249056(JP,A)
【文献】 特開2007−294202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源としての半導体発光素子と、
前記半導体発光素子から出射された光を照射面から外部へ投射する投射レンズとを備え、
前記投射レンズの前記照射面の上方部、下方部の双方が、焦点から出た光を前記投射レンズの光軸より上向きに出射する制御面とされ
前記照射面の上方部と下方部に挟まれた中央部は、前記焦点から出た光を前記投射レンズの光軸に対して平行に出射する
ことを特徴とする車輌用前照灯。
【請求項2】
前記照射面の上方部、下方部は、その曲率の設定により前記焦点から出た光を前記投射レンズの光軸より上向きに出射する
ことを特徴とする請求項1に記載の車輌用前照灯。
【請求項3】
前記下方部を介して出射される光の方が前記上方部を介して出射される光よりも前記投射レンズの光軸に対する角度が大となるように前記上方部、前記下方部の面形状が設定されている
ことを特徴とする請求項2に記載の車輌用前照灯。
【請求項4】
前記上方部における前記照射面の曲率が外周となるに連れて小となるようにされている
ことを特徴とする請求項2又は請求項3何れかに記載の車輌用前照灯。
【請求項5】
前記下方部における前記照射面の曲率が外周となるに連れて大となるようにされている
ことを特徴とする請求項2乃至請求項4何れかに記載の車輌用前照灯。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車輌用前照灯に関する。詳しくは、いわゆるハイビーム(上向き・遠目)としての投射光を生成する車輌用前照灯に関するものであって、投射レンズの面形状によって良好な配光パターンを実現する技術分野に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0002】
【特許文献1】特開2007−213877号公報
【背景技術】
【0003】
車輌用前照灯には、カバーとランプボデイによって形成された灯具外筐の内部に、光源として例えばLED(Light Emitting Diode)等の半導体発光素子が配置されたものがある(例えば上記特許文献1参照)。
そして、該車輌用前照灯としては、複数の半導体発光素子を水平方向(左右方向)に配列したアレイ構造を採用したものがある。
【0004】
図8及び図9は、アレイ構造による半導体発光素子を光源として備えた車輌用前照灯の概略構成の説明図である。図8は該車輌用前照灯の概略断面図、図9は複数の半導体発光素子をアレイ状に配列した発光体の正面図である。なお、図中に示す矢印Vは垂直方向(上下方向)、矢印Hは水平方向(左右方向)を表す。
【0005】
図8に示すように当該車輌用前照灯では、半導体発光素子100より発せられた光が投射レンズ101を介して車輌前方に投射されることになる。図8では垂直方向の断面図を表しているが、水平方向においては、図9に示すように複数の半導体発光素子100がアレイ状に配列されている。
【0006】
ここで、従来、投射レンズ101としては、光源より出射された光に基づき平行光を出力するように構成されたものが用いられている。
図10は、参考として、従来の(通常の)投射レンズ101によって実現される配光パターンを例示している。図中の矢印V,Hは、それぞれ図8及び図9の場合と同様に垂直方向、水平方向を表す。
【0007】
ここで、車輌用前照灯としていわゆるハイビーム(上向き・遠目)を実現するためには、図10に示した所定の水平基準線Hrよりも上側に対してより多くの配光がされるようにすることが要請される。
図10を参照して分かるように、従来の平行光を出力する(通常の)投射レンズ101を用いた場合には、水平基準線Hrを境に上下に略均等に配光が割り振られるものとなるので、該投射レンズ101を用いた場合には、ハイビームを実現するための何らかの手段を要するものとなる。
【0008】
従来、アレイ状に配列された半導体発光素子を光源として用いる車輌用前照灯においては、ハイビームを実現するにあたり、図11及び図12に示されるようなリフレクタ102を用いるようにされていた。図11は車輌用前照灯の概略構成を表す断面図、図12はアレイ状に配列された半導体発光素子100ごとにリフレクタ102が設けられた発光体の正面図である。
図11に示されるように、リフレクタ102は、半導体発光素子100の発光面よりも前方側において、上下の各方向に半導体発光素子100より発せられた光を反射する反射面がそれぞれ設けられるようにして形成される。
【0009】
このようなリフレクタ102を設けることで、投射レンズ101には、半導体発光素子100からの直接光のみでなく、半導体発光素子100より出射され当該リフレクタ102の反射面にて反射された光も入射されるものとなる。すなわち、該リフレクタ102からの反射光によって、配光パターンに変化を与えることができるものである。
【0010】
このリフレクタ102の上下の反射面の傾斜角度や長さの設定によって、投射レンズ101の出射光の上下方向おける配向パターンの調整が可能となる。つまりこれにより、ハイビームの実現が可能となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、リフレクタ102を設けた場合には、水平方向Hにおいて、光が拡散することによる問題が生じる場合がある。
具体的に、該水平方向Hにおける光の拡散は、半導体発光素子100より図12中の矢印で示したように斜め方向に発せられた光が、リフレクタ102によって反射されて生じるものである。
【0012】
このような水平方向Hにおける光の拡散が生じることにより、前照灯システムが、特に半導体発光素子100のオン/オフ制御により水平方向Hの一部を遮光するという機能を有するように構成されている場合において、所望の領域を適正に遮光できなくなるという問題が生じる。なお確認のため述べておくと、このような遮光機能は、例えば車輌前方に人などの対象物が検知された場合に、該対象物が存在する位置に応じた領域を選択的に遮光するなどといった用途で用いられるものである。
【0013】
図13は、従来の前照灯による配光パターンと遮光領域との関係の具体例を示している。
なおこの図においても矢印V,Hはそれぞれ垂直方向,水平方向を表す。またこの図においても水平基準線Hrを示している。
上述の遮光機能によっては、例えば図中の領域Acと示すような水平方向Hにおける一部の所望領域のみが選択的に遮光されるべきものとなる。換言すれば、アレイ状に配列された複数の半導体発光素子100のうち、該領域Acに対応する位置に配置された半導体発光素子100のみがオフとされることで、該領域Acのみが選択的に遮光されることが理想とされるものである。
【0014】
しかしながら、ハイビームの実現のためリフレクタ102を設けた場合には、図13に示した水平方向Hの拡散に伴い、図中のXと示すように、遮光されるべき領域Acへの映り込みが生じてしまう。すなわち、領域Acの一部に対しても配光が為されてしまうものである。
【0015】
このように、リフレクタ102を用いてハイビームを実現する従来の車輌用前照灯では、遮光機能を前提とした場合において、所望の領域を適正に遮光できなくなるという問題が生じることとなる。
【0016】
本発明はかかる問題点に鑑み為されたもので、その課題は、いわゆるハイビームとしての投射光の生成を可能としつつ、遮光領域への映り込みの防止を図った良好な車輌用前照灯を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題の解決のため、本発明では車輌用前照灯を以下のように構成することとした。
すなわち、本発明の車輌用前照灯は、光源としての半導体発光素子と、前記半導体発光素子から出射された光を照射面から外部へ投射する投射レンズとを備える。そして、前記投射レンズの前記照射面の上方部、下方部の双方が、焦点から出た光を前記投射レンズの光軸より上向きに出射する制御面とされ、前記照射面の上方部と下方部に挟まれた中央部は、前記焦点から出た光を前記投射レンズの光軸に対して平行に出射するものである。
【0018】
上記本発明によれば、投射レンズの面形状によって、ハイビームとしての投射光の生成ができる。従って、ハイビームの実現のために従来のようにリフレクタを設ける必要性は無いものとでき、結果、遮光領域への映り込みの防止を図ることができる。
【発明の効果】
【0019】
上記のように本発明の車輌用前照灯によれば、光源としての半導体発光素子と、前記半導体発光素子から出射された光を照射面から外部へ投射する投射レンズとを備え、前記投射レンズの前記照射面の上方部、下方部の双方が、焦点から出た光を前記投射レンズの光軸より上向きに出射する制御面とされ、前記照射面の上方部と下方部に挟まれた中央部は、前記焦点から出た光を前記投射レンズの光軸に対して平行に出射するようにしたことで、ハイビームとしての投射光の生成を可能としつつ、遮光領域への映り込みの防止を図った良好な車輌用前照灯を実現できる。
【0020】
また、請求項2に記載した発明にあっては、前記照射面の上方部、下方部は、その曲率の設定により前記焦点から出た光を前記投射レンズの光軸より上向きに出射する。該構成によれば、ハイビームとしての投射光の生成を可能としつつ遮光領域への映り込みの防止を図った良好な車輌用前照灯を、投射レンズの照射面の曲率の調整という比較的簡易な手法で実現できる。
【0021】
また、請求項3に記載した発明にあっては、前記下方部を介して出射される光の方が前記上方部を介して出射される光よりも前記投射レンズの光軸に対する角度が大となるように前記上方部、前記下方部の面形状が設定されている。下方部の光の方がより上向きとされるので、ハイビームとしてより好適となる。
【0022】
また、請求項4に記載した発明にあっては、前記上方部における前記照射面の曲率が外周となるに連れて小となるようにされている。これにより、特に青色等の短波長光が路面側に落ちてハイビームとしての配光パターン特性が悪化してしまう事態の防止を図ることができる。
【0023】
また、請求項5に記載した発明にあっては、前記下方部における前記照射面の曲率が外周となるに連れて大となるようにされている。下側の光ほどより屈曲を大とできるので、ハイビームとしてより好適となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図2乃至図9と共に本発明車輌用前照灯の最良の形態を示すものであり、本図は、車輌用前照灯の概略垂直断面図である。
図2】車輌用前照灯の概略正面図である。
図3】ハイビームとしての配光パターンの例を示す模式図である。
図4】本例の投射レンズのレンズ曲面を垂直断面図により表した模式図である。
図5】本例の投射レンズによる作用を説明するための模式図である。
図6】本例の投射レンズによる配光パターンを示した図である。
図7】本例の投射レンズの具体的なレンズ設計について説明するための図である。
図8】アレイ構造による半導体発光素子を光源として備えた車輌用前照灯の概略断面図である。
図9】複数の半導体発光素子をアレイ状に配列した発光体の正面図である。
図10】従来の(通常の)投射レンズによって実現される配光パターンを例示した図である。
図11】アレイ状に配列された半導体発光素子を光源として用いる車輌用前照灯について、ハイビームを実現するための構成を示した概略断面図である。
図12】アレイ状に配列された半導体発光素子ごとにリフレクタが設けられた発光体の正面図である。
図13】従来の前照灯による配光パターンと遮光領域との関係の具体例を示した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明車輌用前照灯を実施するための最良の形態について添付図面を参照して説明する。
図1及び図2は、実施の形態としての車輌用前照灯1の構成についての説明図であり、図1は車輌用前照灯1の概略垂直断面図、図2は車輌用前照灯1の概略正面図である。
【0026】
車輌用前照灯1は、ランプボデイ2とランプボデイ2の前端部に取り付けられたカバー3とによって構成された灯具外筐4の内部が灯室5として形成され、灯室5内に発光体6や投射レンズ12を備えた発光部が形成されている(図1及び図2参照)。
本実施の形態の車輌用前照灯1は、遠距離を照射するハイビーム(上向き・遠目)用の前照灯となる。
【0027】
前記発光部は、灯室5に配置されたブラケット7に所要の各部が取り付けられて構成される。
ブラケット7は熱伝導性の高い金属材料によって形成され、上下両端部に被支持部7a、7a、7aが設けられている。ブラケット7の後面には放熱部材(放熱フィン)8が取り付けられている。放熱部材8の後面には放熱用ファン9が取り付けられている。
【0028】
ブラケット7の前面における中央部には発光体6が取り付けられている。発光体6は、ブラケット7の前面に取り付けられたベース板16とベース板16の前面に左右に離隔して搭載された半導体発光素子15、15、・・・とを有している(図1を参照)。半導体発光素子15、15、・・・は光源として機能する。
図示は省略したが、半導体発光素子15は後側に位置する半導体層と半導体層の前面に積層された蛍光体層とを有している。
半導体発光素子15、15、・・・としては、例えば、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)が用いられる。この場合、発光体6による発光色は白色であるとする。
【0029】
ここで、本実施の形態の場合、ベース板16に対しリフレクタは設けられていない。つまり、半導体発光素子15より発せられた光はリフレクタの反射を介さずに後述する投影レンズ12に対して入射するものである。
【0030】
ブラケット7の前面にはレンズホルダー11が取り付けられている(図1参照)。レンズホルダー11は前後方向に貫通された略円筒状に形成され、発光体6を覆うようにしてブラケット7に取り付けられている。
レンズホルダー11の前端部には投射レンズ12が取り付けられている。投射レンズ12は前方に凸の略半球状に形成され、半導体発光素子15、15、・・・から出射された光を前方へ投射する。
【0031】
また、ブラケット7は、該ブラケット7の被支持部7a、7a、7aにエイミングスクリュー10、10、10がそれぞれ螺合されて連結されている。ブラケット7は、これらエイミングスクリュー10、10、10を介してランプボデイ2に傾動自在に支持されている。エイミングスクリュー10が回転されると、このエイミングスクリュー10が螺合された以外の被支持部7a、7aを支点としてブラケット7が左右方向又は上下方向へ傾動され、光軸の調整(エイミング調整)が行われる。
【0032】
また図1に示されるように、灯室5内には、エクステンション(目隠し材)13、14が設けられている。これらエクステンション13、14はそれぞれ上述のエイミング調整に係る機構部等の、カバー3外部から視認されてしまうことの望ましくない部分を目隠しするために設けられたものである。
【0033】
なお、車輌用前照灯1にあっては、図示しないレベリングアクチュエーターを設け、該レベリングアクチュエーターの駆動によりブラケット7が上下方向へ傾動されて車載物の重量に応じて光軸の向きを調整するレベリング調整が行われるようにしてもよい。
【0034】
また、図示は省略したが、半導体発光素子15、15、・・・には点灯回路から各別に駆動電流が供給され、駆動電流が供給された半導体発光素子15、15、・・・は点灯され、駆動電流が供給されなかった半導体発光素子15、15、・・・は消灯された状態が維持される。
これにより、前述の遮光機能を実現可能とされる。
【0035】
また、半導体発光素子15、15、・・・に対しては、点灯回路から供給される駆動電流の電流値を変更する制御を各別に行うことも可能とされている。
【0036】
ここで、前述のように本実施の形態の車輌用前照灯1は、ハイビームとしての前照灯とされる。
図3に、ハイビームの配光パターンTHの例を模式的に示す。
この場合の配光パターンTHは各半導体発光素子15、15、・・・から出射された光の分布T1、T2、・・・が合成されて形成され、光の分布T1、T2、・・・は水平方向(左右方向)Hにおいて重なり合っている。光の分布T1、T2、・・・にあっては、水平方向Hにおける中央部において左右の幅が最も小さく、水平方向Hにおける外側へ行くに従って左右の幅が順次大きくされている。また、光の分布T1、T2、・・・にあっては、水平方向Hにおける中央部において上下の幅が最も大きく、水平方向Hにおける外側へ行くに従って上下の幅が順次小さくされている。
そしてハイビームの配向パターンTHは、図中の一点鎖線で示す所定の水平基準線Hrよりも上側に対してより多く配光がされるものとなる。
【0037】
前述の遮光機能として、水平方向Hにおける所定の一部領域を遮光するとしたときは、図中の光の分布T1、T2、・・・のうち所定複数の光の分布Tに対応した複数の半導体発光素子15を消灯することになる。例えば、図中の光の分布T5とT2との間の領域を遮光するとしたときは、分布T4とT3にそれぞれ対応する半導体発光素子15を消灯するといったものである。
【0038】
ここで、先に述べたように、従来の車輌用前照灯では、光源の前方側に設けたリフレクタ(リフレクタ102)の作用によってハイビームを実現するものとされていたが、その場合には、上記のような遮光機能において、遮光領域への映り込みが生じてしまい、適切な遮光を実現できないという問題があった。
【0039】
そこで本実施の形態では、投射レンズ12の照射面形状を適切に設定することで、該投射レンズ12の作用によりハイビームの実現を図るものとする。
具体的には、投射レンズ12の照射面の上方部、下方部の双方が、焦点から出た光を投射レンズ12の光軸Pより上向きに出射する制御面とされ、照射面の上方部と下方部に挟まれた中央部は、焦点から出た光を投射レンズ12の光軸Pに対して平行に出射するようにして、ハイビームを実現するものである。
【0040】
図4は、本実施の形態の投射レンズ12のレンズ曲面を垂直断面図により表した模式図である。なお、この図4を始めとして図5乃至図7においては、垂直方向Vにおける上方向、下方向がそれぞれ紙面の上方向、下方向に一致するものとする。
【0041】
図4においては、本実施の形態の投射レンズ12の照射面の垂直断面形状を実線で表し、対比として、通常の投射レンズの照射面の垂直断面形状を破線により表している。ここで、通常の投射レンズとは、焦点から出た光を投射レンズ12の光軸Pに対して平行に出射するように設計された投射レンズを表すものとする。
また図中では、半導体発光素子15より出射し投射レンズ12に入射する光の光軸Pも併せて示している。
【0042】
図示するように本例の投射レンズ12の照射面は、その上方部の曲率が、通常のレンズ曲面に対して小とされ、またその下方部の曲率が、通常のレンズ曲面に対して大となるようにされている。
【0043】
図5は、上記のように照射面の形状が設定された本例の投射レンズ12による作用を説明するための模式図である。
この図5に示されるように、図4にて説明した照射面形状の設定によっては、発光部6より出射されて投射レンズ12の照射面上方部を介する光、及び照射面下方部を介する光のそれぞれを、共に上向きで出射させることができる。つまりこれにより、ハイビームの実現が可能となる。
【0044】
図6は、本例の投射レンズ12による配光パターンを示した図である。なお図6では、前述の遮光機能によって水平方向Hにおける所定の一部領域を遮光した際の配光パターンを示している。
照射面の上方部、下方部を上記のような制御面としたことで、ハイビームとしての配光パターンが実現されていることが分かる。つまり、ハイビームの実現にあたり、従来のリフレクタ102は不要なものである。このことから、本例の投射レンズ12によれば、リフレクタ102による水平方向Hへの光の拡散を効果的に抑制でき、結果、図中の矢印Xで表すように、遮光領域への映り込みの発生を効果的に抑制できる。
【0045】
ここで、ハイビームの実現にあたっては、照射面の下方側を介する光がより上向きに出射できることが望ましいものとなる。そこで本例の投射レンズ12では、照射面の下方部を介して出射される光の方が、上方部を介して出射される光よりも投射レンズ12の光軸Pに対する角度が大となるように面形状を設定するものとしている。
これにより、ハイビームにより好適な車輌用前照灯1を実現できる。
【0046】
ところで、本例の投射レンズ12のような凸レンズにおいては、特にその外周部において、色収差の影響によって各色の光の出射角度差が大となる傾向となる。具体的な現象としては、特に青色光など波長の短い光が、レンズ外周部において波長の長い光との比較でより大きく折曲されて出射されることとなる。
ハイビームとしての車輌用前照灯1を考えたとき、投射レンズ12の下方部を介する光については、屈曲が大となることは望ましい。投射レンズ12の下方部にて屈曲が大となれば、下側の光はより上向きに出射されるためである。
これに対し投射レンズ12の上方部を介する光については、屈曲が大となると、出射光は投射レンズ12の光軸Pよりも下向きとなってしまう虞がある。つまり具体的な現象として、投射レンズ12の上方部においては、前述のようにその曲率を通常のレンズ曲面よりも小としたのみでは、波長の短い青色光が投射レンズ12の光軸Pよりも下向きに出射されてしまう虞があるものである。この結果、上方部を介した青色光が路面側に落ちてしまい、ハイビームとしての配光パターン特性を悪化させてしまうという問題が生じ得る。
【0047】
この点を考慮し、本例の投射レンズ12では、照射面の上方部における曲率を、外周となるに連れて小となるようにしている。これにより、特に照射面の最上部近傍を介する青色等の短波長光が路面側に落ちてハイビームとしての配光パターン特性が悪化してしまう事態の防止を図ることができる。
【0048】
また、本例の投射レンズ12では、照射面の下方部における曲率を、外周となるに連れて大となるようにしている。
これによれば、下側の光ほどより屈曲を大とできるので、ハイビームとしてより好適となる。
【0049】
図7は、上記により説明した本例の投射レンズ12の具体的なレンズ設計について説明するための図である。
図のようにこの設計例では、焦点Fより出射されて投射レンズ12に入射する光束のうち、光軸Pに対し14°上向きとなる光から光軸Pに対し15°下向きとなる光までの範囲としての中央部の光が、照射面より光軸Pに対して平行に出射されるものとしている。つまりこれは、この場合の投射レンズ12の照射面は、上記中央部の光(上方14°〜下方15°)が出射される部分の面形状が通常の投射レンズの場合と同形状とされていることと同義であり、換言すれば、上記中央部の光が出射される部分よりも上部の面形状が通常のレンズ曲面より曲率が小とされ、また上記中央部の光が出射される部分よりも下部の面形状が通常のレンズ曲面より曲率が大とされていることになる。さらに言えば、この場合の投射レンズ12では、その照射面上における上記中央部の光が出射される部分よりも上方の部分が本発明で言う「上方部」に該当するものであり、同様に上記中央部の光が出射される部分よりも下方の部分が本発明で言う「下方部」に該当するものである。
【0050】
図示するように、この場合の投射レンズ12は、その照射面の「上方部」を介した光が、投射レンズ12の光軸Pに対し5.16°上向きに出射され、またその照射面の「下方部」を介した光が投射レンズ12の光軸Pに対し3.06°上向きに出射されるように設計されたものとなる。換言すれば、この場合の投射レンズ12は、このような出射角度が得られるように、その照射面の「上方部」「下方部」のそれぞれの曲率が設定されているものである。
【0051】
例えばこのようなレンズ設計によって、先の図6に示したような良好なハイビーム配光パターンを実現することができる。
【0052】
以上に記載した通り、本実施の形態では、光源としての半導体発光素子15と、該半導体発光素子15から出射された光を照射面から外部へ投射する投射レンズ12とを備えた車輌用前照灯1について、投射レンズ12の照射面の上方部、下方部の双方が、焦点から出た光を投射レンズ12の光軸Pより上向きに出射する制御面となるようにしている。
投射レンズ12の面形状によってハイビームとしての投射光の生成ができるので、ハイビームの実現のために従来のようなリフレクタ102を設ける必要性は無いものとでき、結果、遮光領域への映り込みの防止を図ることができる。これにより、ハイビームとしての投射光の生成を可能としつつ、遮光領域への映り込みの防止を図った良好な車輌用前照灯1を実現できる。
【0053】
このとき、本実施の形態では、投射レンズ12の前期上方部、前期下方部の曲率の設定により焦点から出た光を投射レンズ12の光軸Pより上向きに出射するようにしている。これにより、ハイビームとしての投射光の生成を可能としつつ遮光領域への映り込みの防止を図った良好な車輌用前照灯1を、投射レンズ12の照射面の曲率の調整という比較的簡易な手法で実現できることになる。
【0054】
また本実施の形態では、照射面の下方部を介して出射される光の方が上方部を介して出射される光よりも投射レンズ12の光軸Pに対する角度が大となるように前期上方部、前記下方部の面形状を設定するものとしている。これにより、下方部の光の方がより上向きとされるので、ハイビームとしてより好適となる。
【0055】
また本実施の形態では、照射面の上方部における曲率を外周となるに連れて小となるようにしているが、これにより、特に青色等の短波長光が路面側に落ちてハイビームとしての配光パターン特性が悪化してしまう事態の防止を図ることができる。
【0056】
また本実施の形態では、照射面の下方部における曲率が外周となるに連れて大となるようにしているが、これにより、下側の光ほどより屈曲を大とできるので、ハイビームとしてより好適となる。
【0057】
なお、上記には、光源として複数の半導体発光素子15、15、・・・が並んで配置されたアレイを用いた例を示したが、光源として複数の半導体発光素子15、15、・・・を必要とすることはなく、一つの半導体発光素子15が光源として用いられていてもよい。
【0058】
上記した最良の形態において示した各部の形状及び構造は、何れも本発明を実施するに際して行う具体化のほんの一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されることがあってはならないものである。
【符号の説明】
【0059】
1 車輌用前照灯、2 ランプボデイ、3 カバー、4 灯具外筐、5 灯室、6 、7 ブラケット、7a 被支持部、8 放熱部材、9 放熱用ファン、10 エイミングスクリュー、11 レンズホルダー、12 投射レンズ、13,14 エクステンション、15 半導体発光素子、16 ベース板
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