【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の熱交換器用アルミニウム合金クラッド材のうち、第1の本発明は、質量%で、Mn:1.0〜2.0%、Cu:0.1〜1.0%、Si:0.3〜1.0%、Fe:0.1〜0.5%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有する合金芯材の一方の面にAl−Si系合金ろう材がクラッドされ、前記芯材の他方の面に質量%でZr:0.05〜0.3%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有する皮材がクラッドされており、前記皮材の組織が、600℃のろう付相当熱処理後において、隣接する結晶粒間の結晶方位の差が2°以上15°未満であり、かつ結晶粒径が10μm未満の亜結晶粒が全結晶粒の50%以上存在することを特徴とする。
【0008】
第2の本発明の熱交換器用アルミニウム合金クラッド材は、前記第1の本発明において、前記芯材は、さらに、質量%で、Mg:0.05〜0.50%、Ti:0.02〜0.30%のうち1種または2種を含有することを特徴とする。
【0009】
第3の本発明の熱交換器用アルミニウム合金クラッド材は、前記第1または第2の本発明において、前記芯材は、前記不可避不純物として含まれるZrの含有量が質量%で0.03%未満に規制されていることを特徴とする。
【0010】
第4の本発明の熱交換器用アルミニウム合金クラッド材は、前記第1〜第3の本発明のいずれかにおいて、前記ろう材と前記皮材の一方または両方に、さらに、質量%でZn:0.1〜5.0%を含有することを特徴とする。
【0011】
第5の本発明の熱交換器用アルミニウム合金クラッド材の製造方法は、
第1〜第4のいずれかの熱交換器用アルミニウム合金クラッド材を製造する方法であって、第1〜第4の本発明のいずれかに記載の合金芯材組成を有し、550〜600℃の均質化処理が施された芯材素材の一方の面に、Al−Si系合金ろう材素材を重ね合わせ、前記芯材素材の他方の面に、
第1、2または第4の本発明のいずれかに記載の皮材組成を有し、400〜450℃の均質化処理が施された皮材素材を重ね合わせ、これら重ね合わせ素材に熱間圧延とその後の冷間圧延を行い、その後、200〜280℃で加熱する最終焼鈍を行うことを特徴とする。
【0012】
以下に、本発明における規定の限定理由について説明する。なお、成分量についてはいずれも質量%で示される。
【0013】
1.芯材組成
芯材組成は、Al−Mn系合金に限られ、Mn:1.0〜2.0%、Cu:0.1〜1.0%、Si:0.3〜1.0%、Fe:0.1〜0.5%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成が示される。
【0014】
Mn:1.0〜2.0%
Mnは、芯材素地中にAl−Mn系金属間化合物として分散し、耐食性を低下させることなく芯材の強度を向上させる作用を有する。また、Siと同時に含有させることで、微細なAl−Mn−Si系金属間化合物が形成され、芯材の強度を向上させる作用を有する。Mn含有量が1.0%未満であると上記作用が十分に得られず、2.0%を超えると粗大な化合物により鋳造性や圧延性などの製造性が低下する。したがって、Mn含有量を1.0〜2.0%とする。なお、同様の理由により、Mn含有量は、下限を1.2%、上限を1.8%とするのが望ましい。
【0015】
Cu:0.1〜1.0%
Cuは、マトリックスに固溶して芯材の強度を向上させ、また芯材の電気化学的性質を貴にし、皮材およびろう材との電位差を大きくする作用を有する。Cu含有量が0.1%未満では上記作用が十分に得られず、1.0%を超えると、割れ感受性が高くなり、鋳造性などの製造性が低下する。したがって、Cu含有量を0.1〜1.0%とする。なお、同様の理由により、Cu含有量は、下限を0.2%、上限を0.9%とするのが望ましい。
【0016】
Si:0.3〜1.0%
Siは、Mnと共存させることによりAl−Mn−Si化合物となって芯材素地中に分散、あるいはマトリックスに固溶して芯材の強度を向上させる作用を有する。また、Mgと同時に含有させることでろう付後に微細な金属間化合物として析出し、時効硬化により著しく芯材の強度を向上させる作用を有する。Si含有量が0.3%未満では、上記作用が十分に得られず、1.0%を超えると、芯材の融点を低下させてろう付性の低下を招き、さらに顕著な粒界腐食が発生する。したがって、Si含有量を0.3〜1.0%とする。なお、同様の理由により、Si含有量は、下限を0.4%、上限を0.9%とするのが望ましい。
【0017】
Fe:0.1〜0.5%
Feは、Al−Fe、Al−Fe−Mn、Al−Fe−Mn−Si系金属間化合物を生成し、芯材の強度を向上させる作用を有する。また、Feは、ろう付後の再結晶粒を微細にする作用を有し、強度や成形性を向上する。Fe含有量が0.1%未満では上記作用が十分に得られず、0.5%を超えると巨大晶出物が生成し、鋳造性、圧延性などの製造性が低下する。また、Fe系化合物がカソード反応を促進し、耐食性が低下する。したがって、Fe含有量は0.1〜0.5%とする。なお、同様の理由により、Fe含有量は、下限を0.2%、上限を0.4%とするのが望ましい。
【0018】
上記芯材は、さらに、Mg:0.05〜0.50%、Ti:0.02〜0.30%のうち1種または2種を含有することができる。
【0019】
Mg:0.05〜0.50%
Mgは、Siと同時に含有させることでろう付後に微細な金属間化合物として析出し、時効硬化により著しく芯材の強度を向上させる作用を有する。Mg含有量が0.05%未満では上記作用が十分に得られず、0.50%を超えるとろう付時にフラックスと反応し、ろう付け性が低下する。したがって、Mgを含有させる場合、Mg含有量は0.05〜0.50%とする。なお、同様の理由により、Mg含有量は、下限を0.10%、上限を0.45%とするのが望ましく、さらに下限を0.15%、上限を0.40%とするのが一層望ましい。
【0020】
Ti:0.02〜0.30%
Tiは、Al
3Tiを形成して芯材の強度をさらに高める作用を有する。しかし、Ti含有量が、0.02%未満では上記作用が十分に得られず、0.30%を超えると巨大晶出物が生成し、鋳造性、圧延性などの製造性が低下する。したがって、Tiを含有させる場合、Ti含有量は0.02〜0.30%とする。なお、同様の理由により、Ti含有量は、下限を0.05%、上限を0.20%とするのが望ましい。
【0021】
不可避不純物としてのZr:0.03%未満
Zrは、ろう付熱処理時の再結晶を遅延させる作用があるので、0.03%未満に規制するのが望ましい。
なお、上記芯材のクラッド率は、特に限定されるものではないが、例えば65〜90%とすることができる。
【0022】
2.ろう材
Si:5〜12%
Al−Si系合金ろう材のSi量は特に限定されるものではないが、5〜12%を好適例として示すことができる。
通常、ろう付熱処理は約600℃の温度で実施されるが、ろう付でチューブ造管を行なう熱交換器の場合、ろう材中のSi含有量を5〜12%の範囲に制御すると溶融ろうの供給量が最適となり、さらにろう付温度でろう材の一部が固相(初晶)となりろうの流動性が低下し、ろう付の安定性が向上する。ろう材中のSi含有量が5%未満であると、溶融ろうの量が不足するため接合部でろうの充填不良が発生し、一方、Si含有量が12%を超えると、ろう付温度でほとんど全てが液相となり過剰な溶融ろうが供給されてチューブにエロージョンが発生する。したがって、ろう材中のSi含有量を5〜12%とするのが望ましい。同様の理由により、Si含有量は、下限を6%、上限を11%とするのが一層望ましい。
【0023】
Zn:0.1〜5.0%
ろう材は、残部がAlと不可避不純物からなるものであってもよいが、その他の成分としてZnを0.1〜5.0%含有することができる。Znは、ろう材の電位を卑にし、芯材に対する犠牲陽極効果によって芯材に腐食が進行するのを防止する作用を有する。Zn含有量が0.1%未満では上記作用を十分に得ることができず、5.0%を超えると腐食速度が増大し過ぎる。したがって、Znを含有させる場合、Zn含有量は0.1〜5.0%とする。なお、同様の理由により、Zn含有量は、下限を0.5%、上限を3.0%とするのが望ましい。
【0024】
なお、上記ろう材のクラッド率は、特に限定されるものではないが、例えば5〜15%とすることができる。
【0025】
3.皮材
皮材にはアルミニウム合金が用いられ、Zr:0.05〜0.3%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成を有するものが用いられる。
【0026】
上記皮材におけるZrは、皮材の再結晶化を遅延させる作用を有し、600℃のろう付相当熱処理後において亜結晶組織を有する皮材を得ることができる。Zr含有量が0.05%未満では上記作用を十分に得ることができず、0.3%を超えると鋳造性などの製造性が低下する。したがって、Zr含有量を0.05〜0.3%とする。なお、同様の理由により、Zr含有量は、下限を0.10%、上限を0.20%とするのが望ましい。
【0027】
上記亜結晶組織を有する皮材は、結晶粒が非常に微細であるため、材料のひずみ硬化を抑制することができるとともに、延性が大きく特定部位への応力集中を抑制することができる。したがって、芯材の他方の面にこのような皮材がクラッドされていることにより、熱交換器用アルミニウム合金クラッド材のろう付後における耐圧強度が向上して優れた低サイクル疲労特性を得ることができる。
【0028】
皮材の亜結晶組織としては、600℃のろう付相当熱処理後において、隣接する結晶粒間の結晶方位の差が2°以上15°未満であり、かつ結晶粒径が10μm未満の亜結晶粒が全結晶粒の50%以上存在するものであることが好ましい。
上記条件を満たす皮材の亜結晶粒の割合が50%未満となると、ひずみ硬化抑制効果が小さく延性も低下するため皮材に応力集中が生じ、早期に亀裂、破断に至る。より好ましい範囲は亜結晶粒が75%以上である。
【0029】
なお、「600℃のろう付相当熱処理」における時間は特に規定されるものではないが、1〜10分間加熱するものが挙げられる。
【0030】
Zn:0.1〜5.0%
Znは、皮材の電位を卑にし、芯材に対する犠牲陽極効果によって芯材に腐食が進行するのを防止する作用を有する。Zn含有量が0.1%未満では上記作用を十分に得ることができず、5.0%を超えると腐食減量が増加する。したがって、Znを含有させる場合、Zn含有量は0.1〜5.0%とする。なお、同様の理由により、Zn含有量は、下限を0.5%、上限を4.0%とするのが望ましく、さらに下限を1.0%、上限を3.0%とするのが一層望ましい。
【0031】
皮材のクラッド率は、特に限定されるものではないが、例えば5〜20%とすることができる。
【0032】
4.製造方法
芯材素材に対する均質化処理
芯材素材に対しては、クラッド圧延に先立ち、550〜600℃で均質化処理を実施する。均質化処理の保持時間は、特に限定されないが、3〜12時間とすることができる。芯材に対する均質化処理では、金属間化合物の析出粗大化を促進させてろう付時の再結晶を促進させることができる。均質化処理の温度が550℃未満であると、ろう付時の再結晶促進効果が小さい。一方、均質化処理の温度が600℃を超えると、局部溶融を生じる可能性がある。したがって、芯材に対する均質化処理の温度を550〜600℃とする。なお、同様の理由により、芯材に対する均質化処理の温度は、下限を560℃、上限を590℃とするのが望ましい。
【0033】
皮材素材に対する均質化処理
皮材素材に対しては、クラッド圧延に先立ち、400〜450℃で均質化処理を実施する。均質化処理の保持時間は、特に限定されないが、3〜12時間とすることができる。
皮材に対する均質化処理では、金属間化合物の析出(微細化)を促進させてろう付時の再結晶を遅延させる(亜結晶化させる)ことができる。均質化処理の温度が400℃未満であると、微細析出が不十分で、その後の工程で粗大析出が起こる、一方、均質化処理の温度が450℃を超えると、析出物の微細化が得られない。したがって、皮材に対する均質化処理の温度を400〜450℃とする。なお、同様の理由により、皮材に対する均質化処理の温度は、下限を410℃、上限を440℃とするのが望ましい。
【0034】
熱間圧延、冷間圧延は常法により行うことができ、本発明としては特にその条件が限定されるものではない。なお、冷間圧延では、中間焼鈍を介在させてもよく、中間焼鈍としては、260〜360℃で3〜8時間の条件を例示することができる。
【0035】
最終焼鈍
冷間圧延後、クラッド材に対し、200〜280℃の低温で加熱する最終焼鈍を行う。最終焼鈍の保持時間は、特に限定されるものではないが3〜8時間とすることができる。最終焼鈍を実施することにより、芯材を再結晶させ、皮材を亜結晶とすることができる。最終焼鈍の温度が200℃未満であると、芯材まで亜結晶となり、ろう付時に芯材へのろうエロージョンが生じる、一方、最終焼鈍の温度が280℃を超えると皮材が再結晶してしまい所望の効果が得られない。したがって、最終焼鈍の温度を200〜280℃とする。なお、同様の理由により、最終焼鈍の温度は、下限を220℃、上限を260℃とするのが望ましい。