【実施例】
【0020】
本発明の実施例は、特定負荷点と変化負荷点が含まれる主計算領域と特定負荷点も変化負荷点も含まれない副計算領域とに分割し、分割態様が変化した際に副計算領域を境界節点に縮退させる計算を1回のみ行い、特定負荷点を固定して変位負荷点に3通りの検査荷重を与えて、縮退マトリクスを含めた主計算領域の変形を計算して変位量と荷重値を求め、多元連立一次方程式を解いて部分剛性行列K
ACを求め、剛性指標U
*の値を計算し、変化負荷点を変更して各点のU
*の値を計算する構造解析装置である。
【0021】
図1に、構造解析装置の機能ブロック図を示す。
図2に、構造解析装置の処理手順を示す。
図3に、解析対象モデルを示す。
図4に、静的縮小法に基づく分割例を示す。斜線部が主計算領域である。
【0022】
図1において、剛性行列保持手段1は、主計算領域および副計算領域の縮退マトリクスを合わせた解析対象部分の全体剛性行列を保持する手段である。有限要素法計算手段2は、有限要素法により全体剛性行列に基づく変形を計算する手段である。検査荷重設定手段4は、解析対象構造物の変化負荷点Cに検査荷重をかけるように計算パラメータを設定する手段である。
【0023】
位置変更手段5は、解析対象構造物の必要なすべての点を順次たどるように、変化負荷点Cを変更する手段である。特定負荷点Aは、解析対象構造物の荷重伝達経路を調べるために負荷をかける点である。支持点Bは、そのとき解析対象構造物を支持する基準点である。変化負荷点Cは、解析対象構造物の必要なすべての点を順次たどるように選択される点である。必要なすべての点とは、有限要素法の節点のうち、解析の目的に必要であるとして選択したすべての点のことである。
【0024】
荷重変位保持手段6は、検査荷重をかけた状態についての変位量を保持する手段である。連立方程式計算手段7は、検査荷重値と変位量に基づいて未知数が9個以下の多元連立一次方程式を解いて、部分剛性行列K
ACを求める手段である。剛性指標計算手段8は、部分剛性行列K
ACと変位量から剛性指標U
*の値を計算する手段である。剛性指標保持手段9は、計算結果のU
*の値を保持する手段である。有限要素モデル分割手段10は、解析対象領域全体を、特定負荷点と変化負荷点が含まれる主計算領域と特定負荷点も変化負荷点も含まれない副計算領域とに分割する手段である。副計算領域縮退手段11は、分割態様が変化した際に1回のみ、主計算領域と副計算領域の境界部分の縮退マトリクスを作成する手段である。
【0025】
上記のように構成された本発明の実施例における構造解析装置の機能と動作を説明する。最初に、構造解析装置の概要を説明する。一般的には、有限要素法による構造解析の計算所要時間は、構造モデル規模の約1.5乗程度に比例する。U
*解析では、各節点のU
*値算出の計算はそれぞれ別個に必要となるため、計算時間は構造モデル規模の約2.5乗程度に比例する。計算時間の短縮のため、有限要素法で確立されている静的縮小法(static condensation:非特許文献1参照)を利用する。
【0026】
通常の静的縮小法では、解析対象領域全体を、先に解いておく副計算領域と、最終過程で解く主計算領域とに分割する。しかし、「荷重伝達経路法」特有の特徴のため、「荷重伝達経路法に基づく数値構造解析装置」に静的縮小法をそのまま適用しても、正しく演算を高速化できない場合が生じる。そこで、解析対象構造物の分割方法と計算方法を一部変更する。「荷重伝達経路法に基づく数値構造解析装置」に静的縮小法を適用して演算を正しく実行するために、特定負荷点と変化負荷点を主計算領域に含めるように分割する。分割態様が変化した際に副計算領域を境界節点に縮退させる計算を1回のみ行う。こうすることにより、大幅に計算時間を短縮できる。
【0027】
解析対象構造物は弾性体である。荷重値と変形量は線形関係にあるという弾性体の物理的性質(フックの法則)に基づいて、弾性体の変形量と荷重値と変形エネルギーを有限要素法で計算する。その計算の際、特定負荷点も変化負荷点も含まない領域については、外力の変化は無いので、変化負荷点ごとに毎回計算する必要はない。これは、フックの法則に基づく静的縮小法から明らかである。すなわち、特定負荷点と変化負荷点を含む領域については、変化負荷点ごとに毎回計算し、特定負荷点も変化負荷点も含まない領域については、分割態様の変化ごとに1回のみ計算するように制御することは、フックの法則に基づく制御方法である。
【0028】
次に、静的縮小法について説明する。固定されて荷重が掛けられた解析対象構造物を有限要素法で解析することを考える。解析対象構造物の全自由度は節点数の6倍である。全自由度を添え字fで示すと、平衡方程式は、行列形式で次のようになる。
[K
ff]{δ
f}={F
f}
可動節点を、m(主)とs(副)の2つに分ける。主計算領域は、変形量などを求めたい領域である。副計算領域は、直接には変形量などを求めない領域である。平衡方程式は次のようになる。
【0029】
【数2】
これは次の2つの式になる。
[K
mm]{δ
m}+[K
ms]{δ
s}={F
m}
[K
sm]{δ
m}+[K
ss]{δ
s}={F
s}
2番目の式から{δ
s}を解くと、次の式になる。
{δ
s}=[K
ss]
-1({F
s}-[K
sm]{δ
m})
この式は、{δ
m}が既知のときの{δ
s}の計算に用いることができる。
【0030】
この式を上の式に代入すると次の式になる。
([K
mm]-[K
ms][K
ss]
-1[K
sm]){δ
m}={F
m}-[K
ms][K
ss]
-1{F
s}
これを簡単な形にすると次の式になる。
[K
mm*]{δ
m}={F
m*}
[K
mm*]=[K
mm]+[K
s*]
{F
m*}={F
m}+{F
s*}
[K
s*]=-[K
ms][K
ss]
-1[K
sm]
{F
s*}=-[K
ms][K
ss]
-1{F
s}
[K
mm*]は、縮小剛性行列である。{F
mm*}は、縮小荷重ベクトルである。この式は、次元数が削減された縮小方程式である。この縮小方程式で表現される構造物の変形を解くことにより、目的の変形{δ
m}が得られる。静的縮小法では、全体をまとめて解いた場合の解と同じ精度の解が得られる。
【0031】
静的縮小法により主計算領域の局所的静的解析を実行するためには、次のことを考慮する必要がある。
(1)主計算領域の有限要素モデル
(2)副計算領域が境界節点を介して主計算領域に与える影響
(3)境界節点に対応する副計算領域の縮退剛性行列
[K
s*]=-[K
ms][K
ss]
-1[K
sm]
(4)境界節点に対応する副計算領域の縮退荷重ベクトル
{F
s*}=-[K
ms][K
ss]
-1{F
s}
【0032】
静的縮小法または分割解析法による分割モデル解析の最も重要な特性は、副計算領域の縮退モデル境界における境界条件が、副計算領域の剛性のみに依存することである。それは全く主計算領域の剛性に対して独立である。そのため、主計算領域のいかなる変形も正しく取り扱うことができる。その結果は完全モデルで得られた結果と同じである。
【0033】
静的縮小法では、荷重条件および拘束条件が変更される場合は、その領域は主計算領域内でなければならないという性質を持つ。また当然ながら、荷重や変位を求める必要のある節点は、主計算領域内になければならない。そうでない場合は、変更された荷重条件または拘束条件に対する縮退マトリクス[K
s*]と縮退荷重ベクトル{F
s*}を再度作成する必要がある。U
*の計算では、特定負荷点を拘束し、対象とする節点を変化負荷点として、変化負荷点に検査荷重を与えて、特定負荷点の荷重と変化負荷点の変位を求めるという方法を用いる。そのため、特定負荷点および変化負荷点は主計算領域内とする必要がある。
【0034】
次に、
図1を参照しながら、数値構造解析装置の機能の詳細を説明する。位置変更手段5で、解析対象構造物の必要なすべての点を順次たどるように、変化負荷点Cを変更する。変化負荷点Cの位置に応じて、対象とする有限要素モデルに対して、有限要素モデル分割手段10で、特定負荷点および変化負荷点が含まれる主計算領域と、特定負荷点も変化負荷点も含まれない副計算領域とに分割する。副計算領域縮退手段11で、分割態様が変化した際に1回のみ、主計算領域と副計算領域の境界部分の縮退マトリクスを作成する。剛性行列保持手段1で、主計算領域および副計算領域の縮退マトリクスを合わせた解析対象部分の全体剛性行列を保持する。有限要素法計算手段2で、有限要素法により全体剛性行列に基づく変形を次のように計算する。図示は省略してあるが、有限要素法計算手段2は、変化負荷点Cの位置情報など必要な情報を、位置変更手段5などから得る。
【0035】
主計算領域に対して、特定負荷点Aと支持点Bを固定し、変化負荷点Cに3つの独立検査荷重P
Cを順次かけるように、検査荷重設定手段4で計算パラメータを設定する。この検査荷重をかけた状態について、有限要素法計算手段2で主計算領域の変位量を求め、荷重変位保持手段6に保持する。特定負荷点の荷重値と変化負荷点の変位量に基づいて、連立方程式計算手段7で未知数が9個以下の多元連立一次方程式を解いて、部分剛性行列K
ACを求める。
【0036】
部分剛性行列K
ACと、基本データの変位量と荷重値から、剛性指標計算手段8で剛性指標U
*の値
U
*={1−(p
A・d
A)/{(K
ACd
C)・d
A}}
-1
を計算し、剛性指標保持手段9に保持する。1つの剛性指標U
*の値が求まったら、位置変更手段5で、主計算領域の必要な全ての点を順次たどるように変化負荷点Cを変更して、主計算領域の必要な全ての点のU
*の値を計算する。解析対象構造物の必要な全ての点のU
*の値を計算できるように、有限要素モデル分割手段10を用いて、主計算領域と副計算領域の領域定義を変更して再度分割を行い、同様の計算を繰り返す。ただし、変化負荷点Cが同一の主計算領域内にある限り、分割処理と縮退計算は実行されない。
【0037】
次に、
図2を参照しながら、構造解析装置の処理手順について説明する。ステップ1において、有限要素モデルを、主計算領域と副計算領域に分割する。変化負荷点Cが同じ主計算領域内にある間は、改めて分割はしない。ステップ2において、副計算領域を縮退し、主計算領域と合わせた解析モデルを作成する。変化負荷点Cが同じ主計算領域内にある間は、分割パターンは変わらないので、変化負荷点Cの変更に関する部分のみ変更する。ステップ3において、点Bを固定し、点Aに荷重p
Aをかけて、各点の変位等を有限要素法により計算する。この計算は分割パターン毎に1回実行して、主計算領域のみについて変位を求める。
【0038】
ステップ4において、特定負荷点Aと支持点Bを固定して、変化負荷点Cに検査荷重を与えて、有限要素法により主計算領域について、特定負荷点Aの荷重値と変化負荷点Cの変位を計算する。独立な3つの検査荷重をそれぞれ与えて3回計算し、3つの変位を求める。ステップ5において、特定負荷点Aの荷重と変位量を用いて、未知数が9個以下の多元連立一次方程式を解き、部分剛性行列K
ACを求める。
【0039】
ステップ6において、部分剛性行列K
ACと、基本データの検査荷重と変位量から、変化負荷点Cに関する剛性指標U
*(C)を求める。ステップ7において、必要なすべての点Cについて計算したかどうか調べる。計算すべき点Cが残っていれば、ステップ8において、まず変化負荷点Cの位置を同一主計算領域内で変更する。同一主計算領域内をたどり終えたら、副計算領域内の未処理の点に移る。ステップ4〜8の処理は、変化負荷点Cごとに実行する。ステップ9において、同一主計算領域内のすべての点(特定負荷点Aと支持点Bを除く)について計算し尽くして副計算領域内の点に移ったかどうか調べる。副計算領域内の点に移ったならば、ステップ1に戻り、分割処理から処理を再開する。そうでなければ、ステップ4に戻り、主計算領域の有限要素法の計算から処理を再開する。このようにして、解析対象構造物の必要なすべての点について剛性指標U
*を計算するまで処理を繰り返す。
【0040】
次に、
図3と
図4を参照しながら、解析対象構造物を分割して計算する方法について説明する。全体領域を4つに分割する場合を例にとって説明する。基本的な計算方法は、従来の静的縮小法と同じであるが、変化負荷点Cおよび特定負荷点Aの取扱方法が異なる。特定負荷点Aを含む要素は分割方法によらず、常に主計算領域とする。特定負荷点Aと変化負荷点Cが含まれる領域を計算対象部分である主計算領域とする。変化負荷点Cが決まるごとに、変化負荷点Cが現在の主計算領域内にあるか否かを調べて、主計算領域内にあれば有限要素法の計算を行う。主計算領域内に無ければ、新たな分割を行って有限要素法の計算を行う。
【0041】
図4(a)に示すように、特定負荷点Aが左上端の節点とすると、計算対象部分が左上領域の場合は、特定負荷点Aが含まれるので、そのままその領域を主計算領域とする。変化負荷点Cが左上領域にある間は、分割の型は変更せず、この主計算領域についてのみ、有限要素法の計算を行う。副計算領域の縮退計算は予め1回のみ行う。つまり、分割処理と縮退計算は、1つの分割の型について1回だけでよい。主計算領域以外の副計算領域については、予め計算して境界部分での縮退マトリクスを求めておき、主計算領域でのU
*値算出時に使用する。
【0042】
図4(b)に示すように、変化負荷点Cがある計算対象部分が右上領域の場合は、特定負荷点Aが含まれる左上の要素および右上領域を主計算領域とする。
図4(c)に示すように、変化負荷点Cがある計算対象部分が左下領域の場合は、特定負荷点Aが含まれる左上の要素と左下領域を合わせた領域を主計算領域とする。
図4(d)に示すように、変化負荷点Cがある計算対象部分が右下領域の場合は、特定負荷点Aが含まれる左上の要素と右下領域を合わせた領域を主計算領域とする。
【0043】
解析対象構造物をどのように分割するのが適当であるかは、解析対象構造物の特徴によるので、一概には決められない。しかし、一般論としては、細かすぎず、大まかすぎない程度が適当である。例えば、解析対象構造物をほぼ2等分した場合、主計算領域が大きいので、計算時間はあまり減らない。逆に、主計算領域を2要素とした場合、副計算領域の計算回数が多くなるので、やはり計算時間はあまり減らない。1<<(主計算領域のサイズ)<<(副計算領域のサイズ)となるようにするのが適当である。例えば、主計算領域のサイズを、副計算領域のサイズの1/5〜1/20とする。この分割様式のデータは、有限要素モデル分割手段10などに予め設定しておく。
【0044】
上記のように、本発明の実施例では、構造解析装置を、特定負荷点と変化負荷点が含まれる主計算領域と特定負荷点も変化負荷点も含まれない副計算領域とに分割し、分割態様が変化した際に副計算領域を境界節点に縮退させる計算を1回のみ行い、特定負荷点を固定して変位負荷点に3通りの検査荷重を与えて、縮退マトリクスを含めた主計算領域の変形を計算して変位量と荷重値を求め、多元連立一次方程式を解いて部分剛性行列K
ACを求め、剛性指標U
*の値を計算し、変化負荷点を変更して各点のU
*の値を計算する構成としたので、荷重伝達経路法の計算条件を満たすように、解析対象領域全体を複数に分割して、演算を高速化できる。