特許第6096039号(P6096039)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6096039
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】急結剤
(51)【国際特許分類】
   C04B 22/08 20060101AFI20170306BHJP
   C04B 22/10 20060101ALI20170306BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
   C04B22/08 Z
   C04B22/10
   C04B22/14 A
   C04B22/14 B
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-83684(P2013-83684)
(22)【出願日】2013年4月12日
(65)【公開番号】特開2014-205592(P2014-205592A)
(43)【公開日】2014年10月30日
【審査請求日】2016年2月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中島 裕
(72)【発明者】
【氏名】赤江 信哉
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第102584067(CN,A)
【文献】 特開2001−316149(JP,A)
【文献】 特開2008−201605(JP,A)
【文献】 特開2005−060154(JP,A)
【文献】 特開2001−233660(JP,A)
【文献】 特開昭53−125431(JP,A)
【文献】 特開平11−071145(JP,A)
【文献】 特開2008−150262(JP,A)
【文献】 特開2008−162835(JP,A)
【文献】 特開平02−097443(JP,A)
【文献】 特開平02−167847(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0072294(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B 40/00−40/06
DWPI(Thomson Innovation)
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属炭酸塩とアルカリ金属アルミン酸塩を含有し、カルシウムアルミネートを有効成分とする粉体急結剤であって、平均含水率0.2質量%以上1.0質量%未満である10μm以上の粗粒30〜70質量部と平均含水率0.2質量%以下である10μm未満の細粒70〜30質量部からなる粉体急結剤。
【請求項2】
平均含水率0.2質量%以上1.0質量%未満である10μm以上の粗粒が、平均含水率0.1質量%以上0.3質量%未満の粒径10〜20μmの粒子を30〜70質量%含有し、残部が平均含水率0.3質量%以上1.5質量%未満の粒径20μm以上の粒子からなることを特徴とする請求項1記載の粉体急結剤。
【請求項3】
さらに、アルカリ金属硫酸塩およびアルカリ土類金属硫酸塩から選ばれる1種以上を含有する請求項1又は2記載の粉体急結剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に吹付けコンクリート・モルタルなどに配合される急結剤に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントの凝結を飛躍的に速めるために、例えば掘削地山補強用の吹付コンクリートなどで使用されている急結剤は、液体状と粉体状のものに大別される。粉体状の急結剤は、急結性が高く、含水土砂などを素早く固めることも可能であるため、湧水の可能性がある掘削面や軟弱土壌等に対して好んで使用される。粉体急結剤の殆どは、カルシウムアルミネートを主たる急結成分とし、必要に応じて、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属アルミン酸塩、硫酸塩、水酸化カルシウム等の副成分を併用しれたものである。このような粉体急結剤は、微細化するほど反応活性が高くなり、それ故高い急結性を付与できる。しかしながら、粉体急結剤を微細化し過ぎると、風化が進み易くなり、急結性が経時的に低下していく虞があった。また、吹付けコンクリートやモルタルなどの実際の施工では、急結剤を空気圧送し、別送されたベースコンクリートやモルタルセメントスラリーに合流混合させることが一般的であるが、急結剤粒子を微細にするほど流動性が低下してスムーズに圧送できず、均一な混合状態が得難くなる。風化問題の対策として、急結剤粒子を小量の水分で被覆することで風化抵抗が高まることが知られている。(例えば、特許文献1参照。)また、微細粒に加え、粗粒を併用してその割合を多くしても風化を軽減できるが、このような急結剤を圧送すると材料分離が発生し易くなり、これを混合させたコンクリートやモルタルは均質性が損なわれ易い。粒径の大きい急結剤粒子に微細粒を併用する場合は、両者のサイズギャップが大きくなる程、材料分離が起こり易くなり、安定した均一圧送が行い難くなる。また、粒径の大きい急結剤の使用は高い急結性が得難くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−182568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、風化が進み難く、高い急結性を安定して発現でき、しかも急結剤圧送時の材料分離や流量が頻繁に変動するような不均一圧送も抑制でき、圧送性に何等支障がない粉体急結剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記課題解決のため検討を行った結果、急結剤構成粒子を特定の粒径を基に分け、当該粒径以上の粗粒分と当該粒径未満の細粒分の含水率をそれぞれ特定の値となるようにせしめることで、風化が進み難く、圧送性にも優れ。高い急結性が具備された急結剤が得られたことから本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明は、次の(1)〜(3)で表す粉体急結剤である。
(1)アルカリ金属炭酸塩とアルカリ金属アルミン酸塩を含有し、カルシウムアルミネートを有効成分とする粉体急結剤であって、平均含水率0.2質量%以上1.0質量%未満である10μm以上の粗粒30〜70質量部と平均含水率0.2質量%以下である10μm未満の細粒70〜30質量部からなる粉体急結剤。
(2)平均含水率0.2質量%以上1.0質量%未満である10μm以上の粗粒が、平均含水率0.1質量%以上0.3質量%未満の粒径10〜20μmの粒子を30〜70質量%含有し、残部が平均含水率0.3質量%以上1.5質量%未満の粒径20μm以上の粒子からなることを特徴とする前記(1)の粉体急結剤。
(3)さらに、アルカリ金属硫酸塩およびアルカリ土類金属硫酸塩から選ばれる1種以上を含有する前記(1)又は(2)の粉体急結剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高い急結性を付与できる能力を具備しつつ、風化抵抗性が飛躍的に向上し、経時的に殆ど劣化し難い急結剤を得ることができる。しかも当該急結剤は良好な流動性も具備するため、急結剤圧送時の材料分離や流量が脈動的に変動する不安定な圧送状態が十分抑制でき、均質な性状の吹付けコンクリートやモルタル等を施工することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の粉体急結剤の有効成分であるカルシウムアルミネートは、化学成分としてCaOとAl23からなる結晶質やガラス化が進んだ構造の水和活性物質であれば何れのものでも良く、またCaOとAl23に加えて他の化学成分が加わった化合物、固溶体、ガラス質物質又はこれらの混合物等でも本発明の効果を実質喪失させるものでない限り何れのものでも許容される。前者としては例えば12CaO・7Al23、CaO・Al23、3CaO・Al23、CaO・2Al23、CaO・6Al23等が挙げられ、後者としては例えば、4CaO・3Al23・SO3、11CaO・7Al23・CaF2、Na2O・8CaO・3Al23等を挙げられる。好ましくは、ガラス化がかなり進んだ構造のもの、具体的にはガラス化率が90%以上の構造のカルシウムアルミネートであると、著しく微細化しなくとも高い急結性が得易くなる。また、化学成分としてのCaOとAl23の含有モル比(化学組成比)は制限されないが、より高い急結性を発現させる上では含有モル比(CaO/Al23)が2.0〜2.7のものが好ましい。
【0009】
本発明の粉体急結剤は、カルシウムアルミネートに加えて、アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属アルミン酸塩を必須含有する。アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属アルミン酸塩をカルシウムアルミネートと併用することで、セメント組成物の硬化促進に寄与する。アルカリ金属炭酸塩とアルカリ金属アルミン酸塩は何れのものでも良く、少なくとも両者からそれぞれ1種を含有させる必要があるが、2種以上を選定して含有させても良い。粉体急結剤中のアルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属アルミン酸塩の含有量は特に限定されるものではないが、好ましくはカルシウムアルミネート含有量100質量部に対し、5〜100質量部とする。この含有量にすると、アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属アルミン酸塩の含有効果が顕著に現れ、かつカルシウムアルミネートに由来する高い急結性も遜色なく発現できる。また、アルカリ金属炭酸塩とアルカリ金属アルミン酸塩の含有割合は特に制限されるものではないが、好ましくは、質量比(アルカリ金属炭酸塩/アルカリ金属アルミン酸塩)が、0.1〜10であると、硬化促進効果がより一層強く発現される。
【0010】
本発明の粉体急結剤は、粒径10μm未満の細粒70〜30質量部と、粒径10μm以上の粗粒、好ましくは粒径が10μm以上で最大粒径が700μm以下である粗粒30〜70質量部とからなる。粒径が10μm未満の細粒は、平均含水率0.2質量%以下の細粒とする。好ましくは平均含水率0.05〜0.15質量%の細粒とする。また、粒径が10μm以上の粗粒は、平均含水率0.2〜1.0質量%の粗粒とする。好ましくは平均含水率0.3〜1.0質量%の粗粒とする。粒径10μm未満の細粒が70質量部より多いと耐風化性が低下し、吸湿により急結性が低下する虞があるので好ましくない。また、流動性も著しく低下することがあるので好ましくない。粒径10μm未満の細粒が30質量部より少ないと急結性が低迷し、高い急結性が得られないことがあるので好ましくない。尚、平均含水率とは、該当する粒径範囲の粒子全体の質量に対する総含水量(質量)の割合(%)を示し、従って個々の粒子については平均含水率の範囲から外れる含水率の粒子が含まれていても良い。
【0011】
本発明の粉体急結剤を構成する粒径10μm未満の細粒は水和反応活性が高く、高い急結性はこれに起因するため、粒径10μm未満の細粒の平均含水率が0.2質量%を超えると水和反応活性の低下により高い急結性が得られないので好ましくない。また、粒径が10μm以上の粗粒の平均含水率が0.2質量%未満では、粒子の凝集性が弱くなり、圧送時の材料分離抑制が困難になるので好ましくない。粒径が10μm以上の粗粒の平均含水率が1.0質量%を超えると急結性能そのものの低下に繋がるので好ましくない。含水した細粒及び粗粒における含有水分の存在形態は特に限定されるものではなく、例えば水和反応生成物を形成したり、該生成物に加えて一部が自由水として存在しても良い。好ましくは、少なくとも水和反応生成物がもとの急結剤粒子表面を被覆する状態で存在するものが風化抵抗性を具備する上では有利である。
【0012】
好ましくは、本発明の粉体急結剤を構成する前記粗粒が、粒径10μm以上で20μm未満の粗粒30〜70質量部と粒径20μm以上の粗粒70〜30質量部からなるものでは、圧送時の材料分離防止効果が高まるので好ましい。この場合、粒径10〜20μmの粗粒の平均含水率が0.1〜0.3質量%であって、粒径20μm以上の粗粒の平均含水率を0.3〜1.5質量%にすると、急結性を低下させずに、圧送時の材料分離防止効果がより一層高まり、安定した圧送供給状態を確保し易いのでより好ましい。尚、粗粒の平均含水率は粒径10μm以上の粗粒群としての含水率が0.2〜1.0質量%になるよう確保されていれば、個々の粒子においては当該範囲から外れる含水率のものが含まれていても良い。
【0013】
また、本発明の粉体急結剤は、カルシウムアルミネートとアルカリ金属炭酸塩とアルカリ金属アルミン酸塩以外の成分の含有も、本発明の効果を実質的に喪失させない範囲で許容される。このような成分として、例えば凝結性や硬化性を調整する成分、具体的にはアルカリ金属硫酸塩、アルカリ土類金属硫酸塩、硫酸アルミニウム、炭酸カルシウム、アルミナセメントを除く各種セメント、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等を例示できるが、記載例に限定されるものではない。
【0014】
また、本発明の粉体急結剤の製造方法は特に限定されない。所望の含水率のカルシウムアルミネートを得る方法の一例を示すと、クリンカ状態又は市販粉末などのカルシウムアルミネートを必要に応じて粉砕後、分級装置等を使用して10μmを境に細粒と粗粒に分け、それぞれの粒子群に対して所定量の水を噴霧散水することで含水率を調整する。また、粒子の平均含水率の確認は、例えば乾燥機等で絶乾状態にせしめた前記粒子群の質量を測定し、次いで該粒子群の散水後の質量を測定すれば、質量増加分が含水分に相当するため、平均含水率は計算で容易に求めることができる。
【0015】
また、本発明の粉体急結剤は、任意のセメント、モルタルおよびコンクリート等の水硬性組成物に添加・配合することができる。添加・配合先のセメントは水硬性のセメントであれば何れでも良い。但し、アルミナセメントは実質的にカルシウムアルミネートであるため、他のセメントや水硬性物質と併用される場合を除き、添加対象には適さない。また、他の混和材・剤との併用は特に制限されない。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例によって具体的に詳しく説明する。
【0017】
[カルシウムアルミネートの作製]
原料として石灰石(CaO含有率54質量%、Al23、MgO及びSiO2含有率は何れも1.0質量%未満)と≡焼ボーキサイト(Al23含有率87質量%、Fe23含有率2質量%、SiO2含有率8質量%、CaO及びMgO含有率は何れも1.0質量%未満)を用い、表1に表すCaOとAl23等の化学組成の焼成物が得られるように調合した。調合物は、電気炉で最高温度1500(±50℃)で溶融し、次いで最高温度の炉内から常温環境の炉外に取出し、直ちに約20℃の圧搾空気を焼成物表面が概ね100℃以下になるまで吹付けて冷却を行った。冷却物をロッド型粉砕機で解砕し、二種類のカルシウムアルミネートを作製した。作製したカルシウムアルミネートの化学組成及び非晶質化率を表1に表す。尚、非晶質化率は、先ず、解砕物中の結晶質の全鉱物の含有量を粉末エックス線回折による内部標準法により測定し、次いで解砕物中の残部を非晶質相と見なしてその含有質量の割合を算出することで求めた。
【0018】
【表1】
【0019】
[粉体急結剤の作製と含水率の調整]
何れも市販試薬の炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、無水石膏及びアルミン酸ナトリウムから選定される材料を用い、前記作製したカルシウムアルミネートの解砕物の何れかとを表2で表す配合となるよう秤量し、ボールミルに投入して乾式混合粉砕を行い、粉砕時間を調整することで所望の粒径の粉体混合物を作製した。粉体混合物の粒径の整粒については更に分級装置による処理も施した。
【0020】
【表2】
【0021】
次に、分級した粉体混合物を、粒径範囲別に市販の加湿器に入れ、表3に表す平均含水率(質量%)になるよう水蒸気で加湿することで含水させ、所定の平均含水率の粉体急結剤を作製した。尚、平均含水率は、各粒径範囲別の急結剤集合体の加湿前の絶乾状態の全質量と加湿後の当該急結剤集合体の全質量を計測し、増加質量分が総含水量に相当するものとみなし、算出して求めた。
【0022】
【表3】
【0023】
作製後の粉体急結剤は時間を空けずに次の処理並びに試験を約20℃の温度下で行った。即ち、市販の急結剤供給機(日本プライプリコ社製「Qガン」)を使用し、圧送量2m3/分で空気圧送を行い、30秒毎に10分間急結剤を回収し、それぞれ20ロット分の圧送後の粉末急結剤を得た。
【0024】
次いで、普通ポルトランドセメント(市販品)1000グラムと細骨材(社団法人セメント協会製「セメントの強さ試験用標準砂」)1350グラム及び水405グラムをホバートミキサで混練してなるベースモルタル100質量部に対し、前記20ロット分の圧送後の粉体急結剤をそれぞれのロット毎に10質量部添加し、ホバートミキサで30秒間混合した。混合及び以後の試験は約20℃の温度下で行った。混合後のモルタルの凝結終結時間を、JIS A 1147の「コンクリートの凝結時間試験方法」に準拠して測定した。この凝結終結時間の圧送ロットによる変動係数も併せて算出した。
【0025】
これとは別に、表3で表す配合の粉体急結剤については、これらを作製して直ちにポリビニル製の密封袋中に入れ、6ヶ月間の保存も行った。保存期間経過後の粉体急結剤は、前記と同様の処理並びに試験に供した。以上の試験結果を纏めて表4に表す。
【0026】
【表4】
【0027】
表4の結果から、本発明の粉体急結剤は長期間保存しても風化が殆ど進行せず、長期保存しない状態のものと比較しても殆ど遜色のない高い急結性(凝結終結時間)を呈したことがわかる。また、空気圧送による粉体急結剤の圧送性の変動も殆ど起こらず、安定した急硬性をモルタル等の水硬性組成物に付与できることがわかる。これに対し、従来技術の範疇の粉体急結剤は風化抵抗性を高めると、急結性の低下か圧送性の低下が起こり易いことがわかる。