(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前鍛造工程の第1段階で実行される鍛造加工で、前記第Nの途中製品の一端面となる端面に前記痕部となる部位が設けられた第1の途中製品を得、その後、前記第Nの途中製品を得るまでに実行される少なくとも一つの鍛造加工で、被加工材のうち、前記第Nの途中製品の一端面となる端面と、該端面に設けられた前記痕部となる部位とを拡径させることにより、前記第Nの途中製品を得る請求項1又は2に記載の等速自在継手用外側継手部材の製造方法。
第1〜第Nの途中製品を得るための鍛造加工のうち、何れか一つの鍛造加工で、被加工材のうち、前記第Nの途中製品の一端面となる端面に、すり鉢状をなし、内壁面に前記痕部となる部位が設けられた凹部を成形する請求項3に記載の等速自在継手用外側継手部材の製造方法。
被加工材の前記端面を拡径させるのに伴って、前記凹部の断面形状を変化させることにより、前記第Nの途中製品を得る請求項4又は5に記載の等速自在継手用外側継手部材の製造方法。
さらに、最終鍛造品を完成品形状に仕上げる仕上げ工程を含み、該仕上げ工程で前記痕部を除去する請求項1〜6の何れか一項に記載の等速自在継手用外側継手部材の製造方法。
一端が開口した有底筒状のカップ部を有し、カップ部の内径面に軸方向に延びる複数のトラック溝が設けられた等速自在継手用外側継手部材に加工される中間鍛造品であって、棒状素材に鍛造加工を施すことで有底筒状に成形されたカップ状部を有し、該カップ状部にしごき加工が施されることにより、前記カップ状部の内径面に粗成形されてなるトラック溝が仕上がり形状に成形されるものにおいて、
前記カップ状部の開口端面に、棒状素材の一端外周縁部が変形してなる無端状の痕部が設けられていることを特徴とする中間鍛造品。
一端が開口した有底筒状のカップ部を有し、カップ部の内径面に軸方向に延びる複数のトラック溝が設けられた等速自在継手用外側継手部材に加工される最終鍛造品であって、棒状素材に鍛造加工を施すことで有底筒状に成形されたカップ状部を有する中間鍛造品にしごき加工を施すことにより、中間鍛造品のカップ状部の内径面に粗成形されたトラック溝が仕上がり形状に成形されたものにおいて、
前記しごき加工に伴って成形されるカップ状部の開口端面に、棒状素材の一端外周縁部が変形してなる無端状の痕部が設けられていることを特徴とする最終鍛造品。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の棒状素材は、長尺の棒材を、鋸歯で所定寸法に切断することにより、あるいはプレス金型で所定寸法にせん断することにより得るのが一般的であるが、この場合には、
図12に示すように、棒状素材100の外周縁部(一端及び他端外周縁部)101に、断続的又は連続的に突起(バリやエッジ)102が発生していることがある。また、外側継手部材の製造工程とは別の場所で棒状素材100を作製し、これを外側継手部材の製造工程まで輸送するような場合には、輸送時における棒状素材100同士の衝突等に伴って棒状素材100の外周縁部101に突起102が発生する場合もある。
【0006】
上記の棒状素材100をそのまま前鍛造工程に投入し、特許文献1に記載されている態様で順次鍛造加工を実行するとカップ状部の内径面に突起102が入り込んだ(カップ状部の内径面に望まない凹凸が形成された)中間鍛造品が作製される可能性が高くなる。カップ状部の内径面に入り込んだ上記の突起102(凹凸)は、例えば旋削・研削・研磨等の機械加工で除去し得るが、この場合、外側継手部材のカップ部各所に必要とされる形状や肉厚を確保できなくなるおそれがある。そのため、カップ状部の内径面に突起102が入り込んだ中間鍛造品は、廃棄処分せざるを得ず、その結果、製品歩留が低下し、外側継手部材を塑性加工で作製することにより得られるコストメリットを十分に享受することができなくなる。
【0007】
上記のような問題は、例えば、棒状素材を前鍛造工程に投入する前に、棒状素材の外周縁部を機械加工等で平滑化することによって可及的に解消し得る。しかしながら、このようにすると、(1)工程数が増加するため製造コストが増大する、(2)棒状素材の体積が減少する分、所定形状の中間鍛造品、ひいては外側継手部材を得ることができなくなる、などといった新たな問題を招来する。
【0008】
このような実情に鑑み、本発明の課題は、高品質の外側継手部材を低コストに製造可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために創案された本発明は、一端が開口した有底筒状のカップ部を有し、カップ部の内径面に軸方向に延びる複数のトラック溝が設けられた等速自在継手用外側継手部材の製造方法であって、複数の鍛造加工を段階的に実行することにより、棒状素材を、第1〜第N(Nは2以上の正の整数)の途中製品に順次成形してから、内径面にトラック溝が粗成形された有底筒状のカップ状部を有する中間鍛造品に成形する前鍛造工程と、中間鍛造品を仕上がり形状のトラック溝を有する最終鍛造品に成形するしごき工程とを含み、前鍛造工程の途中段階で作製する第Nの途中製品を、その一端面に、棒状素材の一端外周縁部が変形してなる無端状の痕部を有し、かつこの痕部の全体が、前鍛造工程で使用される鍛造金型のうち、カップ状部の成形用パンチによる上記一端面の被加圧領域よりも径方向外側に配置されたものとすることを特徴とする。
【0010】
このようにすれば、棒状素材として、その一端外周縁部に沿ってバリ等の突起が発生したものを使用した場合でも、カップ状部の内径面に上記突起が入り込んだ中間鍛造品、ひいてはカップ部の内径面(特にトラック溝の形成領域)に上記突起が入り込んだ最終鍛造品が作製されるのを可及的に防止することができる。さらに言えば、上記のようにすれば、上記突起が、カップ状部の開口端面内に存する中間鍛造品、ひいてはカップ部の開口端面内に存する最終鍛造品、さらには外側継手部材を得ることができる。そして、外側継手部材のカップ部の開口端面は、他部材が取り付けられたり、他部材が接触したりする面とはされないので、上記突起がカップ部の開口端面内に存する場合であっても、継手性能に悪影響は及ばない。そのため、棒状素材の一端外周縁部に発生した突起を除去するための仕上げ加工を実行する必要はなく、棒状素材として、長尺の棒材を所定寸法に切断もしくはせん断したものをそのまま使用することができる。従って、所望の継手性能を発揮し得る高品質の外側継手部材を低コストに製造することができる。
【0011】
上記の製造方法によれば、上述のとおり、長尺の棒材を所定寸法に切断もしくはせん断した棒状素材をそのまま使用することができる。
【0012】
第Nの途中製品は、例えば、前鍛造工程の第1段階で実行される鍛造加工で、第Nの途中製品の一端面となる端面に上記痕部となる部位が設けられた第1の途中製品を得、その後、第Nの途中製品を得るまでに実行される少なくとも一つの鍛造加工で、被加工材のうち、第Nの途中製品の一端面となる端面と、この端面に設けられた上記痕部となる部位とを拡径させることによって得ることができる。なお、ここでいう「被加工材」とは、第1〜第(N−1)の途中製品である。
【0013】
第1〜第Nの途中製品を得るための鍛造加工のうち、何れか一つの鍛造加工で、被加工材のうち、第Nの途中製品の一端面となる端面に、すり鉢状をなし、内壁面に上記痕部となる部位が設けられた凹部を成形するようにしても良い。ここでいう「すり鉢状の凹部」とは、開口寸法が凹部の開口側に向かって徐々に拡大した断面形状を呈する凹部を意味し、例えば、内壁面が直線状のテーパ面で構成されたものや、内壁面が円弧面で構成されたものなどを含む概念である。このようにすれば、被加工材の上記端面を拡径させるのに伴って、最終的に上記痕部となる部位を拡径させ易くなる。上記の凹部は、特に、第1の途中製品を得るための鍛造加工で成形するのが、すなわち、棒状素材を第1の途中製品に成形するのと同時に型成形するのが望ましい。
【0014】
被加工材の上記端面にすり鉢状の凹部を成形した場合、被加工材の上記端面を拡径させるのに伴って、上記凹部の断面形状を変化させることによって上記第Nの途中製品を得ることができる。
【0015】
以上の構成において、本発明に係る外側継手部材の製造方法は、さらに、最終鍛造品を完成品形状に仕上げる仕上げ工程を含むものとしても良く、この場合、この仕上げ工程で上記痕部を除去することができる。
【0016】
以上の構成において、しごき工程は、冷間で実行するのが望ましい。最終鍛造品の成形精度を高めつつ、しごき金型の長寿命化を図ることができるので、高精度の外側継手部材を低コストに作製する上で有利であるからである。
【0017】
本発明は、各トラック溝が直線状部分のみで構成された外側継手部材、例えばトリポード型等速自在継手(TJ)やダブルオフセット型等速自在継手(DOJ)などに代表される摺動式等速自在継手の外側継手部材を製造する際に適用することができる。また、本発明は、各トラック溝が、直線状部分と円弧状部分とで構成された外側継手部材、例えばアンダーカットフリー型等速自在継手(UJ)やバーフィールド型等速自在継手(BJ)に代表される固定式等速自在継手の外側継手部材を製造する際に適用することもできる。
【0018】
また、本発明は、カップ部の底部から軸方向に延びる軸部を一体に有する外側継手部材を製造する際にも好ましく適用することができる。
【0019】
また、上記の課題を解決するため、一端が開口した有底筒状のカップ状部を有し、カップ部の内径面に軸方向に延びる複数のトラック溝が設けられた等速自在継手用外側継手部材に加工される中間鍛造品であって、棒状素材の鍛造加工を施すことで有底筒状に成形されたカップ状部を有し、このカップ状部にしごき加工が施されることにより、カップ状部の内径面に粗成形されてなる上記トラック溝が仕上がり形状に成形されるものにおいて、上記カップ状部の開口端面に、棒状素材の一端外周縁部が変形してなる無端状の痕部が設けられていることを特徴とする中間鍛造品を提供する。
【0020】
このような中間鍛造品であれば、これを構成するカップ状部に対してしごき加工が実行されても、しごき加工後のカップ状部、ひいては外側継手部材を構成するカップ部の内径面に上記痕部(バリ等の突起)が入り込むような事態が可及的に防止される(不良品の発生率が可及的に低減される)ので、製品歩留を高めることができる。またこの場合、棒状素材の一端外周縁部に発生した突起を除去するための仕上げ加工を実行する必要はなく、長尺の棒材を所定寸法に切断もしくはせん断した棒状素材をそのまま使用することができる。従って、所望の継手性能を発揮し得る高品質の外側継手部材を低コストに製造することができる。
【0021】
また、上記の課題を解決するため、一端が開口した有底筒状のカップ部を有し、カップ部の内径面に軸方向に延びる複数のトラック溝が設けられた等速自在継手用外側継手部材に加工される最終鍛造品であって、棒状素材に鍛造加工を施すことで有底筒状に成形されたカップ状部にしごき加工を施すことにより、中間鍛造品のカップ状部の内径面に粗成形されたトラック溝が仕上がり形状に成形されたものにおいて、しごき加工に伴って成形されるカップ状部の開口端面に、棒状素材の一端外周縁部が変形してなる無端状の痕部が設けられていることを特徴とする最終鍛造品を提供する。
【0022】
このような最終鍛造品であれば、上述した本発明に係る中間鍛造品と同様の作用効果を享受することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上に示すように、本発明によれば、高品質の外側継手部材を低コストに製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、以下では、便宜上、まず本発明に係る製造方法を用いて製造される外側継手部材の一例を説明し、続いて、本発明に係る外側継手部材の製造方法の実施形態を説明する。
【0026】
図1(a)に、等速自在継手用外側継手部材1(以下、単に「外側継手部材1」という)の概略平面図を示し、
図1(b)に同外側継手部材1の概略断面図(
図1(a)のX1−X1線矢視断面図)を示す。この外側継手部材1は、角度変位および軸方向変位の双方を許容する摺動式等速自在継手の一種であるトリポード型等速自在継手用の外側継手部材であって、筒部2aおよび底部2bを一体に有し、底部2bの軸方向反対側が開口した有底筒状のカップ部2と、カップ部2の底部2bから軸方向外方に延びた軸部3とを一体に備える。図示は省略するが、トリポード型等速自在継手は、この外側継手部材1のカップ部2の内周に、内側継手部材としてのトリポード部材やトルク伝達部材としてのローラなどを組み込むことで構成される。
【0027】
カップ部2の内径面4には、軸方向に延びる3本のトラック溝5が周方向等間隔で形成されている。各トラック溝5は、円周方向で対向する一対のローラ案内面6,6を有し、ローラ案内面6,6も含めて軸線と平行に延びた直線状に形成されている。
図1(a)に示すように、カップ部2は、大径部と小径部とを周方向で交互に三つずつ配して構成される断面花冠状とされ、各大径部の内周にトラック溝5が形成されている。カップ部2の開口部内周縁のトラック溝5,5間領域には、継手の角度変位を許容するために入口チャンファ7が設けられる。また、カップ部2の外径面には、継手内部を密封するブーツの一端部が嵌着される周方向溝8が設けられる。
【0028】
以下、上述した外側継手部材1の製造方法の一例であって、本発明に係る製造方法の第1実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。大まかに言うと、上述した外側継手部材1は、
図2(a)に示す棒状素材Mを
図4(a)(b)に示す中間鍛造品21に成形する前鍛造工程、中間鍛造品21を最終鍛造品に成形するしごき工程、最終鍛造品の各部を完成品形状に仕上げる仕上げ工程、および完成品形状に仕上げられた最終鍛造品に熱処理を施す熱処理工程等を順に経て完成する。
【0029】
本実施形態における前鍛造工程では、
図2(a)〜(d)に示すように、棒状素材Mを、第1の途中製品M1、第2の途中製品M2及び第3の途中製品M3に順次成形してから、
図4(a)(b)に示すカップ状部22を有する中間鍛造品21に成形する。つまり、本実施形態の前鍛造工程では、4つの鍛造加工を段階的に実行することにより、棒状素材Mが中間鍛造品21に成形される。なお、詳細な図示は省略するが、前鍛造工程は、4台の鍛造金型が連設され、かつ隣接する鍛造金型間で被加工材(ワーク)を自動的に移送するための移送手段を備えた鍛造装置(トランスファープレス)を用いて実行される。また、前鍛造工程における各鍛造加工は、鍛造金型のうち、少なくとも成形面を潤滑油等の潤滑剤で潤滑した状態で実行される。
【0030】
前鍛造工程で段階的に実行される各鍛造加工の詳細を説明する前に、棒状素材Mについて述べておく。
図2(a)に示す棒状素材Mとしては、図示しない長尺の棒材を、所定寸法に切断もしくはせん断したものがそのまま(仕上げ加工等が施されることなく)、もしくは切断・せん断後に少し面取り加工して使用される。そのため、棒状素材Mの一端外周縁部Mbには、長尺の棒材を切断もしくはせん断するのに伴って発生したバリやエッジ等の突起102(
図12参照)が断続的又は連続的に残っている場合がある。この棒状素材Mは、前鍛造工程の周辺で作製したものを用いる場合もあるし、前鍛造工程とは別の場所で作製された後、前鍛造工程に輸送・搬送されてきたものを用いる場合もある。
【0031】
前鍛造工程の第1段階では、図示しない第1の鍛造金型により棒状素材Mに据え込み加工が施され、棒状素材Mが
図2(b)に示す第1の途中製品M1に成形される。棒状素材Mに対する据え込み加工は、第1の途中製品M1の一端面M1aの直径寸法が棒状素材Mの一端面Maの直径寸法よりも大きく、かつ、第1の途中製品M1の一端面M1aの外径端近傍位置に、棒状素材Mの一端外周縁部Mbが変形(拡径変形)してなる無端状(ここでは略真円状)の第1痕部M1bが配置されるように実行される。第1痕部M1bは、その一部又は全部が軸方向外側に突出したまくれ込み状(突起状)をなすものであるが、
図2(b)においては点線で示している。以下で説明する第2痕部M2b、第3痕部M3b及び第4痕部M4bも同様である。
【0032】
前鍛造工程の第2段階では、図示しない第2の鍛造金型により第1の途中製品M1に前方押し出し加工が施され、第1の途中製品M1が、
図2(c)に示すように、他端側(同図中下側)に軸状部13(最終的に軸部3に仕上げられる部位)を有する第2の途中製品M2に成形される。より詳細に述べると、第1の途中製品M1に対する前方押し出し加工は、第1の途中製品M1の他端側が軸状部13に成形されると共に、第1の途中製品M1の一端面M1a及び該一端面M1a内に存する第1痕部M1bの双方が拡径するように実行される。従って、第2の途中製品M2は、その一端面M2aの直径寸法が第1の途中製品M1の一端面M1aの直径寸法よりも大きく、かつその一端面M2aに、第1痕部M1bが変形(拡径変形)してなる略真円状の第2痕部M2bを有する。なお、第2の途中製品M2の一端面M2aの直径寸法は、前鍛造工程の第4段階で使用される成形用パンチ32(
図3参照)の直径寸法に対して85%以上とするのが望ましい。
【0033】
前鍛造工程の第3段階では、図示しない第3の鍛造金型により第2の途中製品M2に据え込み加工が施され、第2の途中製品M2が、
図2(d)に示すように、断面略花冠状を呈する据え込み部12と、軸状部13とを一体に有する第3の途中製品M3に成形される。より詳細に述べると、第2の途中製品M2に対する据え込み加工は、図示しないダイの内周に配置した第2の途中製品M2の一端面M2aを図示しないパンチで加圧し、一端面M2aを含む部分を径方向に膨張変形させる(第2の途中製品M2の一端面M2a、及び一端面M2a内に存する第2痕部M2bの双方を拡径変形させる)ことにより行われる。従って、第3の途中製品M3は、その一端面M3aの直径寸法(最小直径寸法)が第2の途中製品M2の一端面M2aの直径寸法よりも大きく、かつ、据え込み部12の一端面M3a内に、第2痕部M2bが拡径変形してなる無端状の第3痕部M3bを有する。
【0034】
前鍛造工程の第4段階では、
図3に示すように、同軸配置されたダイ31及びカップ状部の成形用パンチ32を有する第4の鍛造金型30により第3の途中製品M3に後方押し出し加工(カップ成形加工)が施され、第3の途中製品M3が、
図4(a)(b)に示すカップ状部22および軸状部13を一体に有する中間鍛造品21に成形される。従って、本実施形態では、第3の途中製品M3が本発明でいう「第Nの途中製品」に相当する。このため、第3の途中製品M3において、その一端面M3aに存在する第3痕部M3は、その全体が、カップ状部22の成形用パンチ32による第3の途中製品M3の一端面M3aの被加圧領域よりも径方向外側に配置されている(
図3参照)。
【0035】
第3の途中製品M3に対する後方押し出し加工は、
図3に示すように、ダイ31の内周に第3の途中製品M3を配置してから、ダイ31とパンチ32とを軸方向に相対移動させ、第3の途中製品M3の据え込み部12の略中央領域にパンチ32を徐々に押し込むことにより行われる。そして、パンチ32が徐々に押し込まれるのに伴って、据え込み部12の肉がパンチ32の外周成形面及びダイ31の内周成形面に倣うようにして徐々に塑性変形する。これにより、
図4(a)(b)に示すように、内径面の周方向三等分位置に粗成形されたトラック溝5’を有するカップ状部22と、軸状部13とを一体に有する中間鍛造品21が得られる。中間鍛造品21のカップ状部22の開口端面には、第3痕部M3bが変形してなる無端状の第4痕部M4bが設けられる。なお、この後方押し出し加工は、据え込み部12の径方向の膨張変形がダイ31によって規制された状態で進行する。そのため、カップ状部22の開口端面の直径寸法(最小直径寸法)は第3の途中製品M3の一端面M3aの直径寸法と概ね等しく、また、第4痕部M4bは第3痕部M3bとほぼ同一形状を呈する。
【0036】
以上で説明した各鍛造加工は、被加工材(棒状素材Mや途中製品M1〜M3)を所定形状に成形し得る限りにおいて、冷間、温間、亜熱間又は熱間の何れの温度領域で実行しても良い。なお、冷間鍛造とは、概ね200℃以下とされた被加工材に対して鍛造加工を施す手法であり、温間鍛造とは、概ね600〜700℃程度に加熱された被加工材に対して鍛造加工を施す手法である。また、亜熱間鍛造とは、概ね750〜1000℃程度に加熱された被加工材に対して鍛造加工を施す手法であり、熱間鍛造とは、概ね1000〜1200℃程度に加熱された被加工材に対して鍛造加工を施す手法である。
【0037】
以上のようにして作製された中間鍛造品21はしごき工程に移送される。しごき工程についての詳細な図示は省略するが、当該工程では、同軸配置されたしごきダイス及びしごきパンチを用いて中間鍛造品21にしごき加工が施される。このしごき加工により、中間鍛造品21のカップ状部22の内径面に粗成形されてなるトラック溝5’が仕上がり形状に成形される。すなわち、中間鍛造品21が、内径面に仕上がり形状のトラック溝が設けられたカップ状部を有する最終鍛造品に成形される。なお、最終鍛造品のカップ深さは、外側継手部材1、ひいてはこれを構成部品とする等速自在継手の用途によって都度異なるが、概ね30mm〜150mmの範囲内とされる。
【0038】
最終鍛造品は仕上げ工程で完成品形状に仕上げられる。すなわち、仕上げ工程では、例えば、機械加工により、カップ部2の外径面に設けるべき周方向溝8や、軸部3の自由端外径に設けるべきスプライン等が形成され、最終鍛造品の全体が完成品形状に仕上げられる。この仕上げ工程では、最終鍛造品を構成するカップ状部の開口端面が平坦面に仕上げられる(開口端面に存する無端状の痕部M4bが除去される)場合もあるし、平坦面に仕上げられない(開口端面に存する無端状の痕部M4bが除去されない)場合もある。つまり、外側継手部材1は、カップ部2の開口端部がしごき加工後の状態(形状)を維持したままで使用される場合もある。そして、全体が完成品形状に仕上げられた最終鍛造品に焼入れ等の熱処理を施すことにより、
図1に示す外側継手部材1が完成する。
【0039】
上述したように、本発明では、前鍛造工程で作製する第Nの途中製品としての第3の途中製品M3を、その一端面M3aに、棒状素材Mの一端外周縁部Mbが変形してなる無端状の痕部(第3痕部M3b)を有し、かつこの第3痕部M3bの全体が、前鍛造工程で使用される鍛造金型のうち、カップ状部22の成形用パンチ32による上記一端面M3aの被加圧領域よりも径方向外側に配置されたものとした。このようにすれば、棒状素材Mとして、その一端外周縁部Mbに沿ってバリ等の突起102(
図12参照)が発生したものを使用した場合でも、カップ状部22の内径面に上記突起102が入り込んだ中間鍛造品21、ひいては最終鍛造品、さらには外側継手部材1が作製されるのを可及的に防止することができる。すなわち、上記突起102が、カップ状部22の開口端面内に設けられた中間鍛造品21、ひいてはカップ部2の開口端面内に設けられた外側継手部材1を得ることができる。そして、外側継手部材1のカップ部2の開口端面は、他部材が取り付けられたり、他部材が接触したりする面とはされないので、上記突起102がカップ部2の開口端面内に存する場合であっても、継手性能に悪影響は及ばない。そのため、棒状素材Mの一端外周縁部Mbに発生した突起102を除去するための仕上げ加工は必ずしも実行する必要はない。以上のことから、所望の継手性能を発揮し得る高品質の外側継手部材1を低コストに製造することができる。
【0040】
以上、本発明の一実施形態に係る外側継手部材1の製造方法について説明を行ったが、本発明は、上記の実施形態に限定適用されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。
【0041】
例えば、前鍛造工程で第1〜第3の途中製品M1〜M3を得るために実行される鍛造加工のうち、何れか一つの鍛造加工で、被加工材のうち、第3の途中製品M3の一端面M3aとなる端面に、全体としてすり鉢状をなし、内壁面に第3痕部M3bとなる部位が存する凹部を成形することができる。
図5は、このような方法を採用した場合の一例であり、上記凹部を、第1の途中製品M1を得るための鍛造加工段階、すなわち前鍛造工程の第1段階で成形している。
【0042】
具体的に述べると、この第2実施形態における前鍛造工程の第1段階では、
図5(a)に示す棒状素材Mに据え込み加工を施すことにより、一端面M1aの直径寸法が棒状素材Mの一端面Maの直径寸法よりも大きい第1の途中製品M1を得る際、第1の途中製品M1の一端面M1aに開口した凹部Cを型成形する[
図5(b)参照]。この凹部Cは、凹部Cの開口寸法を凹部Cの開口側(一端面M1a側)に向けて徐々に拡大させる方向に傾斜したテーパ状の内壁面Caと、軸線と直交する方向に延びる内底面Cbとで画成され、全体としてすり鉢状を呈する。凹部Cの内壁面Caの開口端(外径端)近傍位置に、棒状素材Mの一端外周縁部Mbが変形してなる無端状の第1痕部M1bが配置される。本実施形態において、凹部Cは、第1の途中製品M1の一端面M1a全域に開口している。
【0043】
なお、凹部Cの断面形状は任意に選択・変更することができ、例えば、
図10(a)(b)に示すような形態としても良い。
図10(a)は、互いに接続された複数の円弧面及び/又はテーパ面で内壁面Caを構成した凹部Cを示し、
図10(b)は、単一の円弧面(球状面)で構成した凹部Cを示している。後述する他の実施形態においても同様である。
【0044】
次に、前鍛造工程の第2段階で第1の途中製品M1に前方押し出し加工を施し、第1の途中製品M1を第2の途中製品M2に成形する際には、
図5(c)に示すように、第2の途中製品M2の一端面M2aの直径寸法が第1の途中製品M1の一端面M1aの直径寸法よりも大きく、かつ第2の途中製品M2の一端面M2aに開口した凹部Cの内壁面Caの傾斜角(詳細には軸直交平面に対する傾斜角。以下で「傾斜角」という場合も同様。)θ2が、第1の途中製品M1の一端面M1aに開口した凹部Cの内壁面Caの傾斜角θ1よりも大きくなるように、第1の途中製品M1に前方押し出し加工を施す。すなわち、図示は省略するが、第1の途中製品M1の一端面M1aを加圧する先端加圧面の傾斜角が、第1の途中製品M1の一端面M1aに開口した凹部Cの内壁面Caの傾斜角θ1よりも大きなパンチを使用して、第1の途中製品M1に前方押し出し加工を施す。なお、第2の途中製品M2の一端面M2aに開口した凹部Cの内底面Cbの直径寸法d2は、第1の途中製品M1の一端面M1aに開口した凹部Cの内底面Cbの直径寸法d1よりも小さくなっている。
【0045】
次に、前鍛造工程の第3段階で第2の途中製品に据え込み加工を施し、第2の途中製品M2を第3の途中製品M3に成形する際には、
図5(d)に示すように、第3の途中製品M3の一端面M3aの直径寸法(最小直径寸法)が第2の途中製品M2の一端面M2aの直径寸法よりも大きく、かつ第3の途中製品M3の一端面M3aに開口した凹部Cの内壁面Caの傾斜角θ3が、第2の途中製品M2の一端面M2aに開口した凹部Cの内壁面Caの傾斜角θ2よりも大きくなるように、第2の途中製品M2に据え込み加工を施す。すなわち、図示は省略するが、第2の途中製品M2の一端面M2aを加圧する加圧面の傾斜角が、第2の途中製品M2の一端面M2aに開口した凹部Cの内壁面Caの傾斜角θ2よりも大きなパンチを使用して、第2の途中製品M2に据え込み加工を施す。なお、第3の途中製品M3の一端面M3aに開口した凹部Cの内底面Cbの直径寸法d3は、第2の途中製品M2の一端面M2aに開口した凹部Cの内底面Cbの直径寸法d2よりも小さくなっている。
【0046】
そして、前鍛造工程の第4段階では、上述した第1実施形態と同様にして第3の途中製品M3に後方押し出し加工を施すことにより、
図5(d)に示す第3の途中製品M3が、
図4(a)(b)に示す中間鍛造品21に成形される。これ以降の工程は、上述した第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0047】
前鍛造工程における第1〜第3段階を上記の態様で実行すれば、第1の途中製品M1の一端面M1a及び第2の途中製品M2の一端面M2aをそれぞれ拡径させ易くなる。そのため、第1の途中製品M1の一端面M1aに存する第1痕部M1b及び第2の途中製品M2の一端面M2aに存する第2痕部M2bも併せて拡径させ易く、従って、第3の途中製品M3の一端面M3a内に設けられる第3痕部M3bの全体を、カップ状部22の成形用パンチ32による第3の途中製品M3の一端面M3aの被加圧領域よりも径方向外側に配置させ易くなる。これにより、棒状素材Mを作製等するのに伴って棒状素材Mの一端外周縁部Mbにバリ等の突起102(
図12参照)が発生した場合でも、この突起102がカップ状部22の内径面に入り込んだ中間鍛造品21、すなわち中間鍛造品21の不良品が製造される可能性を効果的に低減することができる。
【0048】
前鍛造工程の第1〜第3段階における各鍛造加工を以下に示す態様で実行することにより、上記同様の作用効果を奏することも可能である。具体的に述べると、前鍛造工程の第1段階では、
図6(b)に示すように、内壁面Caの傾斜角θ1が、
図5(b)に示した凹部Cのそれよりも大きな凹部Cが一端面M1aに開口した第1の途中製品M1が得られるように、棒状素材Mに据え込み加工を施す。次に、前鍛造工程の第2段階では、
図6(c)に示すように、凹部Cの内壁面Caの傾斜角θ2(凹部Cの深さ寸法)が第1の途中製品M1におけるそれよりも大きくなった第2の途中製品M2が得られるように、第1の途中製品M1に前方押し出し加工を施す。そして、前鍛造工程の第3段階では、
図6(d)に示すように、凹部Cの内壁面Caの傾斜角θ3(凹部Cの深さ寸法)が第2の途中製品M2におけるそれよりも十分に小さくなった第3の途中製品M3が得られるように、第2の途中製品M2に据え込み加工を施す。因みに、第1〜第3の途中製品M1〜M3のそれぞれに設けられた凹部Cの内底面Cbの直径寸法の大小関係は、d2<d1<d3である。
【0049】
なお、
図6(c)に示す第2の途中製品M2を、
図6(d)に示す据え込み部12を有する第3の途中製品M3に成形する際には、
図7に示す鍛造金型(密閉鍛造金型)40が使用される。同図に示す鍛造金型40は、同軸配置されたダイ41及びパンチ42を備え、内部潤滑された状態(少なくともダイ41の内径面41a及びパンチ42の先端加圧面42aに潤滑油等の潤滑剤が塗布された状態)で使用される。なお、ダイ41の内径面41a形状は、成形すべき第3の途中製品M3(据え込み部12)の外周形状に対応し、パンチ42の先端加圧面42a形状は、成形すべき第3の途中製品M3の一端面M3a(凹部C)形状に対応している。
【0050】
上記構成の鍛造金型40において、ダイ41の内周に第2の途中製品M2を配置し、パンチ42を下降移動させると、
図7に示すように、パンチ42の先端加圧面42aによって第2の途中製品M2の一端面M2a全域が覆われた状態、すなわち凹部Cの開口が閉塞された状態となる。このとき、パンチ42の先端加圧面42aと第2の途中製品M2の凹部Cとの間には空間が画成され、この空間内にパンチ42の先端加圧面42a等に塗布された潤滑剤Fが封じ込められる。そして、パンチ42の下降移動が進行するのに伴って上記空間の容積が縮小すると、これに伴って上記空間内に封じ込められた潤滑剤Fの圧力が過度に高まり、第2の途中製品M2にキズや欠け等が生じるおそれがある。そのため、
図6(c)に示す第2の途中製品M2を、
図6(d)に示す第3の途中製品M3に成形する際には、
図7に示すように、先端加圧面42aで画成される上記空間と大気を連通させる連通孔43が設けられたパンチ42を使用する。これにより、潤滑剤Fの過度の圧力上昇に起因した上記不具合の発生を可及的に防止することができ、高品質の外側継手部材1を製造することができる。
【0051】
図6(a)〜(d)を参照しながら説明した実施形態では、前鍛造工程の第3段階において、凹部Cの内壁面Caの傾斜角θ3(凹部Cの深さ寸法)が第2の途中製品M2におけるそれよりも十分に小さくなった第3の途中製品M3を得るようにしたが、前鍛造工程の第3段階では、
図8(d)に示すように、凹部Cの内壁面Caの傾斜角θ3(凹部Cの深さ寸法)が第2の途中製品M2のそれよりもさらに大きくなった第3の途中製品M3が得られるように、第2の途中製品M2に据え込み加工を施すこともできる。
【0052】
図8(d)に示す第3の途中製品M3は、前鍛造工程の第4段階において、上述した第1実施形態と同様の態様で後方押し出し加工が施されることにより、
図4(a)(b)に示す中間鍛造品21に成形される。この際、第3の途中製品M3の一端面M3aに、内壁面Caの傾斜角θ3が大きい凹部Cが開口している関係上、
図6(c)に示す第2の途中製品M2を
図6(d)に示す第3の途中製品M3に成形する場合と同様の不具合が発生するおそれがある。
【0053】
すなわち、
図4(a)(b)に示すような中間鍛造品21を得るためには、
図3に示す鍛造金型30を用いて第3の途中製品M3に後方押し出し加工を施す必要があるが、パンチ32の先端加圧面32aの傾斜角が、第3の途中製品M3の被加圧面(凹部Cの内壁面Ca)の傾斜角θ3よりも小さい関係上、パンチ32の先端加圧面32aと第3の途中製品M3の凹部Cとの間には空間が画成され、この空間内にパンチ32の先端加圧面42a等に塗布された潤滑剤Fが封じ込められる[
図9(a)参照]。そして、パンチ32の下降移動が進行するのに伴って上記空間の容積が縮小すると、これに伴って上記空間内に封じ込められた潤滑剤Fの圧力が過度に高まり、第3の途中製品M3にキズや欠け等が生じるおそれがある。そのため、
図8(d)に示す第3の途中製品M2を、
図4(a)(b)に示す中間鍛造品21に成形する際には、
図9(a)に示すように、先端加圧面32aで画成される上記空間と大気を連通させる連通孔33が設けられたパンチ32を使用する。これにより、潤滑剤Fの過度の圧力上昇に起因した上記不具合の発生を可及的に防止することができ、高品質の外側継手部材1を得ることができる。
【0054】
なお、パンチ32に設けるべき上記の連通孔33は、
図9(a)に示すように機械加工等で穿設した孔で構成することができる他、
図9(b)に示すように、パンチ32を、筒状の外側部材34と、該外側部材34の内周に隙間嵌めで配置した内側部材35とで構成することによって両部材34,35間に形成した隙間で構成することもできる。図示は省略するが、これと同様の構成を、
図7に示したパンチ42に適用することもできる。
【0055】
以上では、前鍛造工程において鍛造加工を4段階実行する場合(中間鍛造品21を4つの鍛造加工を経て得る場合)に本発明を適用したが、前鍛造工程において、鍛造加工を3又は5段階以上実行する場合にも本発明は好ましく適用し得る。
【0056】
また、本発明は、
図11に示すように、カップ部2の内底面の継手軸線位置に開口した凹部9を有する外側継手部材1を製造する際にも好ましく適用することができる。なお、この凹部9は、外側継手部材1に加工されるワーク(途中製品、中間鍛造品21及び最終鍛造品の少なくとも一つ)と、当該ワークを加圧するパンチとを芯出しするために設けられた部位である。
【0057】
また、以上では、摺動式等速自在継手の一種であるトリポード型等速自在継手(TJ)用の外側継手部材1を製造する際に本発明を適用したが、本発明は、ダブルオフセット型等速自在継手(DOJ)等、その他の摺動式等速自在継手の外側継手部材を製造する際にも好ましく適用することができる。
【0058】
さらに、本発明に係る製造方法は、角度変位及び軸方向変位の双方を許容する摺動式等速自在継手の外側継手部材を製造する場合のみならず、角度変位のみを許容する固定式等速自在継手、例えばバーフィールド型等速自在継手(BJ)やアンダーカットフリー型等速自在継手(UJ)の外側継手部材を製造する場合にも適用し得る。なお、固定式等速自在継手の外側継手部材では、カップ部の内径面に複数設けられるトラック溝が、直線状部分と円弧状部分とで構成される。