(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記超伝導コイル体の中心軸線に直交する方向から見て、前記第1の支持部材の延在軸線と前記第2の支持部材の延在軸線とが互いに交差している、請求項1に記載のサイクロトロン。
前記第1の支持部材と前記第2の支持部材とは、前記超伝導コイル体の中心軸線に直交する方向から見て、互いに交差するように設けられている、請求項1〜3の何れか一項に記載のサイクロトロン。
前記第1の支持部材の長さを調整する第1の調整手段と、前記第2の支持部材の長さを調整する第2の調整手段と、を更に備える、請求項1〜5の何れか一項に記載のサイクロトロン。
前記第1の支持部材及び前記第2の支持部材は、冷却により膨張する材料からなるストラップ部材をそれぞれ有する、請求項1〜6の何れか一項に記載のサイクロトロン。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、真空容器内に配置された超伝導コイルを備えるサイクロトロンを設置場所に輸送する際、輸送により生じる振動や温度変化によって超伝導コイル体の位置ずれが生じるおそれがある。真空容器内の超伝導コイルに位置ずれが生じると、輸送先でサイクロトロンを設置する際に、超伝導コイル体の位置調整による磁場精度や磁場分布の調節が必須となり、設置作業の手間や時間が増加する。その結果、サイクロトロン設置後の立ち上がりが遅れてしまうという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、超伝導コイル体の位置ずれを効果的に抑制できるサイクロトロン、及びこのサイクロトロンを有する荷電粒子線治療装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、真空容器内に配置された超伝導コイル体を備えたサイクロトロンであって、真空容器に対して固定され、超伝導コイル体に向かって延在すると共に、超伝導コイル体を支持する第1の支持部材及び第2の支持部材を備え、第1の支持部材は、第1の支持部材の延在軸線と超伝導コイル体の表面とが交わる点のうち第1の支持部材側の交点と、超伝導コイル体の中心軸線と、を含む第1の平面に対して、当該延在軸線が交差するように設けられ、第2の支持部材は、第2の支持部材の延在軸線と超伝導コイル体の表面とが交わる点のうち第2の支持部材側の交点と、超伝導コイル体の中心軸線と、を含む第2の平面に対して、当該延在軸線が交差するように設けられ、超伝導コイル体の中心軸線の延在方向から見て、第1の支持部材の延在軸線と第2の支持部材の延在軸線とが互いに交差していることを特徴とする。
【0007】
本発明に係るサイクロトロンでは、第1の平面に対して延在軸線が交差するように第1の支持部材が設けられると共に、第2の平面に対して延在軸線が交差するように第2の支持部材が設けられており、第1の支持部材の延在軸線と第2の支持部材の延在軸線とが超伝導コイル体の中心軸線の延在方向から見て互いに交差している。従って、このサイクロトロンによれば、超伝導コイル体の中心軸線に直交する方向に延在する支持部材のみを備える場合と比べて、第1の支持部材及び第2の支持部材により超伝導コイル体の周方向(回転方向)の回転(動き)に対し、より大きな復元力を得ることができるので、超伝導コイル体の周方向の位置ずれを効果的に抑制することができる。
【0008】
本発明に係るサイクロトロンにおいて、超伝導コイル体の中心軸線に直交する方向から見て、第1の支持部材の延在軸線と第2の支持部材の延在軸線とが互いに交差していてもよい。
このサイクロトロンによれば、第1の支持部材の延在軸と第2の支持部材の延在軸とが超伝導コイル体の中心軸線に直交する方向から見て互いに交差しているので、第1の支持部材及び第2の支持部材により超伝導コイル体の中心軸線の延在方向の応力を適切に受けることができる。従って、このサイクロトロンによれば、超伝導コイル体の中心軸線の延在方向の位置ずれを効果的に抑制できる。
【0009】
本発明に係るサイクロトロンにおいて、第1の支持部材と第2の支持部材とは、中心軸線の延在方向から見て、互いに交差するように設けられていてもよい。
このサイクロトロンによれば、第1の支持部材及び第2の支持部材を交差して設けることで、輸送時の振動やコイルの熱収縮に耐えるのに必要な支持部材の長さを少ないスペースで確保することができ、真空容器内の省スペース化を図ることができる。このことは、サイクロトロンの小型化に有利である。
【0010】
本発明に係るサイクロトロンにおいて、第1の支持部材と第2の支持部材とは、超伝導コイル体の中心軸線に直交する方向から見て、互いに交差するように設けられていてもよい。
このサイクロトロンによれば、超伝導コイル体の中心軸線に直交する方向から見ても、第1の支持部材と第2の支持部材とが互いに交差して設けられるので、輸送時の振動やコイルの熱収縮に耐えるのに必要な支持部材の長さをより少ないスペースで確保することができ、真空容器内の省スペース化及びサイクロトロンの小型化に有利である。
【0011】
本発明に係るサイクロトロンにおいて、第1の支持部材及び第2の支持部材は、超伝導コイル体の外周側面に取り付けられていてもよい。
このサイクロトロンによれば、第1の支持部材及び第2の支持部材によって超伝導コイル体の外周側面に沿った周方向の応力を適切に受けることができるので、超伝導コイル体の周方向の位置ずれを効果的に抑制することができる。また、サイクロトロンの薄厚化に有利である。
【0012】
本発明に係るサイクロトロンにおいて、第1の支持部材の長さを調整する第1の調整手段と、第2の支持部材の長さを調整する第2の調整手段と、を更に備えてもよい。
このサイクロトロンによれば、各支持部材の長さを調整することにより超伝導コイル体の位置調整を容易に行うことができる。
【0013】
本発明に係るサイクロトロンにおいて、第1の支持部材及び第2の支持部材は、冷却により膨張する材料からなるストラップ部材をそれぞれ有してもよい。
このサイクロトロンによれば、昇温時には超伝導コイルが膨張する一方で、冷却により膨張する性質(負膨張性)を有するストラップ部材は収縮するので、超伝導コイルが各支持部材によって適切な張力で支持される。一方、このサイクロトロンによれば、冷却時に超伝導コイルが収縮する一方で、これらのストラップ部材は膨張するので、超伝導コイルが各支持部材によって適切な張力で支持される。従って、このサイクロトロンによれば、超伝導コイルの熱収縮に応じた超伝導コイル体の適切な支持を実現できる。
【0014】
本発明に係る荷電粒子線治療装置は、上述のサイクロトロンを備え、サイクロトロンにより生成された荷電粒子線を被照射体に向けて照射することを特徴とする。
本発明に係る荷電粒子線治療装置では、超伝導コイル体の位置ずれを効果的に抑制できる上述のサイクロトロンを備えているので、サイクロトロンを輸送した後の設置作業などにおいて、超伝導コイル体の位置調整の手間や時間を軽減でき、荷電粒子線治療装置のメンテナンス性を向上させることができる。
【0015】
本発明に係る荷電粒子線治療装置は、被照射体の周囲に設けられた回転又は搖動可能な架台を更に備え、サイクロトロンは、架台に取り付けられていてもよい。
この荷電粒子線治療装置では、運転時において架台が回転又は搖動することにより、架台に取り付けられたサイクロトロンに対する振動が断続的に生じても、超伝導コイル体の位置ずれが抑制できるので、装置の信頼性を高めることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、超伝導コイル体の位置ずれを効果的に抑制できるサイクロトロン、及びこのサイクロトロンを有する荷電粒子線治療装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
[第1の実施形態]
まず、
図1及び
図2を用いて、第1の実施形態に係る荷電粒子線治療装置1について説明する。
図1は、本実施形態に係る荷電粒子線治療装置1を示す概略構成図であり、
図2は、
図1に示すサイクロトロン2を示す斜視図である。
【0020】
図1に示す荷電粒子線装置1は、患者の体内の腫瘍に荷電粒子線を照射して治療を行うものである。
図1に示すように、荷電粒子線治療装置1は、サイクロトロン2と、ガントリー(架台)3と、を備えている。
【0021】
サイクロトロン2は、イオン源(図示せず)から供給される荷電粒子を加速して荷電粒子線を出力する円形加速器である。荷電粒子としては、例えば陽子、重粒子(重イオン)などが挙げられる。サイクロトロン2の詳細については後述する。
【0022】
ガントリー3は、同一軸線(軸線A)上に延在し、被照射体である患者が横たわるための治療台4を挟んで両側に配置された一対の回転軸5と、回転軸5から上方へ張り出す一対の脚部6,6間で軸線A方向に延在しサイクロトロン2を両側から支持する一対の梁部7と、回転軸5から下方へ張り出す一対のカウンターウェイト8と、を備えている。
【0023】
建屋の壁体Wは、治療台4を挟んで軸線A方向に互いに対向して配置されている。回転軸5は、建屋の壁体Wに対して、軸線A回りに回転可能に支持されている。脚部6は、回転軸5の治療台4側の端部から図示上方へ延在している。カウンターウェイト8は、回転軸5の治療台4側の端部から図示下方へ、脚部6とは反対方向へ延在している。ガントリー3は、このような構成によって、回転軸5の回りに回転可能又は揺動可能とされている。
【0024】
梁部7は、回転軸5から外方に離間した位置で、脚部6によって支持されている。梁部7は、軸線A方向に延在し、脚部6とは反対側の端部に、サイクロトロン2が固定されている。
【0025】
図1及び
図2に示すように、サイクロトロン2は、円筒状の筐体を備えている。サイクロトロン2の端面2b及び端面2cは、軸線A方向に互いに対向して配置され、側面2aは軸線A方向に延在する中心軸線方向を取り囲む周方向に延在している。サイクロトロン2の側面において、治療台4側(図示下側)には、遮蔽シールド9が設けられている。
【0026】
例えば、サイクロトロン2の下側半分が、遮蔽シールド9によって覆われている。遮蔽シールド9は、サイクロトロン2の側面2aの下半分、端面2bの下半分、及び端面2cの下半分を覆うように配置されている。梁部7は、サイクロトロン2を直接支持してもよく、遮蔽シールド9を介して間接的にサイクロトロン2を支持してもよい。なお、遮蔽シールド9は、側面2aの下半分を覆う遮蔽体部分9aのみを備え、端面2b及び端面2cの下半分を覆う遮蔽体部分9bを備えていない構成でもよい。
【0027】
このように、サイクロトロン2を備える荷電粒子線治療装置1において、サイクロトロン2の側面2aと治療台4との間に、遮蔽シールド9を配置する構成としてもよい。また、サイクロトロン2の全面を覆うように遮蔽シールドを配置してもよい。
【0028】
サイクロトロン2の側面2aには、サイクロトロン2により生成された荷電粒子線を軸線Aに向かって照射する照射部10が設けられている。すなわち、照射部10によって、サイクロトロン2により生成された荷電粒子線が、治療台4の上に横たわった被照射体である患者(不図示)に向けて照射される。
【0029】
続いて、
図3〜
図7を用いて、サイクロトロン2について詳細に説明する。ここでは、図面上側を上方向、図面下側を下方向として説明を行う。なお、
図3〜
図5において、第1の支持部材25及び第2の支持部材26については断面ではなく全体を表わしている。
【0030】
サイクロトロン2は、円環状の超伝導コイル体21と、超伝導コイル体21を収容する環状の真空容器22と、超伝導コイル体21の空芯部位に配置された上ポール(上磁極)23A及び下ポール(下磁極)23Bと、超伝導コイル体21を冷却するための冷凍機(不図示)と、ヨーク24と、を備えている。ヨーク24は、中空の円盤型ブロックであり、その内部に真空容器22、上ポール23A、及び下ポール23Bが配置されている。また、真空容器22は、中心軸線C回りに90度間隔で、超伝導コイル体21を支持する一対の支持部材(第1の支持部材25及び第2の支持部材26)を収容するための直方体状に張り出した張出し部を有している。
【0031】
このサイクロトロン2では、真空容器22の内部を真空状態にすると共に、冷凍機(不図示)により超伝導コイル体21を超伝導状態とした上で、超伝導コイル体21に電流を流すことにより強力な磁場を形成する。上ポール23A及び下ポール23Bの間の空間Gには、図示しない一対のディー電極(加速電極)が配置されており、イオン源から供給された荷電粒子は、上ポール23A、下ポール23B、及びディー電極の働きにより加速され、荷電粒子線として出力される。
【0032】
超伝導コイル体21は、二個の超伝導コイル27A,27B及びコイル支持部材28を有している。超伝導コイル27A,27Bは、中心軸線Cに沿って並んで配置されており、金属製のコイル支持部材28によって一体的に支持されている。
【0033】
コイル支持部材28は、上側の超伝導コイル27Aの上面を覆う上面支持部28aと、下側の超伝導コイル27Bの下面を覆う下面支持部28bと、超伝導コイル27Aと超伝導コイル27Bとの間に位置するコイル間支持部28cと、これらの部材(超伝導コイル27A,27B、上面支持部28a、及び下面支持部28b)の外周側面を覆う側面支持部28dとを有している。下面支持部28bには冷凍機の一部が接触しており、超伝導コイル体21が直接的に冷却される。冷凍機としては、例えば小型GM冷凍機を採用することができる。
【0034】
超伝導コイル体21は、中心軸線C回りに90度間隔で超伝導コイル体21の周囲にそれぞれ配置された四対の支持部材(第1の支持部材25及び第2の支持部材26)によって支持されている。一対の第1の支持部材25及び第2の支持部材26は、超伝導コイル体21の中心軸線Cの延在方向から見て互いに交差するように設けられている。また、第1の支持部材25及び第2の支持部材26は、中心軸線Cに直交する方向から見ても互いに交差するようにするように設けられている。第1の支持部材25及び第2の支持部材26の一端は、側面支持部28dに固定されている。また、第1の支持部材25及び第2の支持部材26は、超伝導コイル体21の外周側面(側面支持部28d)に向かって延在しており、第1の支持部材25及び第2の支持部材26の他端側は、真空容器22及びヨーク24を貫通すると共に真空容器22及びヨーク24に対して固定されている。
【0035】
第1の支持部材25は、側面支持部28dに固定された第1の掛止部25aと、真空容器22及びヨーク24を貫通して配置された貫通棒部25bと、貫通棒部25bの真空容器22側に設けられた第2の掛止部25cと、第1の掛止部25a及び第2の掛止部25cに掛け止めされた環状のストラップ部材25dと、を有している。
【0036】
第1の掛止部25aは、ストラップ部材25dが掛けられる軸部25eを有する金属製の部材である。第1の掛止部25aは、側面支持部28dに対してネジなどにより固定されている。第2の掛止部25cは、ストラップ部材25dが掛けられる軸部25fを有する金属製の部材であり、貫通棒部25bと一体的に形成されている。
【0037】
第1の支持部材25の真空容器22とヨーク24との間には、真空容器22内の真空を保つために、中空円柱状のシール部29が設けられている。貫通棒部25bは、このシール部29を貫通している。シール部29の内部では、貫通棒部25bとシール部29との接続部分がOリングなどでシールされている。
【0038】
第2の支持部材26は、第1の掛止部26aと、真空容器22及びヨーク24を貫通する貫通棒部26bと、貫通棒部26bの真空容器22側に設けられた第2の掛止部26cと、第1の掛止部26a及び第2の掛止部26cに掛け止めされた環状のストラップ部材26dと、を有している。
【0039】
第1の掛止部26aは、ストラップ部材26dが掛けられる軸部26eを有する金属製の部材である。第1の掛止部26aは、側面支持部28dに対してネジなどにより固定されている。第2の掛止部26cは、ストラップ部材26dが掛けられる軸部26fを有する金属製の部材であり、貫通棒部26bと一体的に形成されている。また、第2の支持部材26の真空容器22とヨーク24との間の部分にも真空容器22内の真空を保つために、中空円柱状のシール部29が設けられている。
【0040】
ここで、ストラップ部材25d,26dは、FRP[Fiber Reinforced Plastics]からなるベルト状の部材である。ストラップ部材25d,26dは、真空容器22と超伝導コイル体21の側面支持部28dとの間に生じる引張荷重を受ける。このストラップ部材25d,26dは、例えばポリエチレン繊維FRP(ダイニーマ[登録商標])など、冷却により膨張する負膨張性を有するFRPを用いることが好ましい。
【0041】
図5に示すように、第1の支持部材25は、平面(第1の平面)D1に対して、第1の支持部材25(ストラップ部材25d)の延在軸線L1が交点P1において交差するように設けられている。ここで、交点P1は、延在軸線L1と超伝導コイル体21の表面(側面支持部28dの表面)とが交わる一以上の交点のうち第1の支持部材25側の交点である。また、平面(第1の平面)D1は、交点P1と、超伝導コイル体21の中心軸線Cと、を含む平面である。具体的には、第1の支持部材25のストラップ部材25dは、
図4及び
図5において超伝導コイル体21が中心軸線Cを中心として左回りの回転方向R1へ回転しようとしたときに生じる力を受けるように設けられている。
【0042】
一方、第2の支持部材26は、平面(第2の平面)D2に対して、第2の支持部材26(ストラップ部材26d)の延在軸線L2が交点P2において交差するように設けられている。ここで、交点P2は、延在軸線L2と超伝導コイル体21の表面(側面支持部28dの表面)とが交わる一以上の交点のうち第2の支持部材26側の交点である。また、平面(第2の平面)D2は、交点P2と、超伝導コイル体21の中心軸線Cと、を含む平面である。また、超伝導コイル体21の中心軸線Cの延在方向から見て、第1の支持部材25の延在軸線L1と第2の支持部材26の延在軸線L2とは、互いに交差している。具体的には、第2の支持部材26のストラップ部材26dは、
図4及び
図5において超伝導コイル体21が中心軸線Cを中心として右回りの回転方向R2へ回転しようとしたときに生じる力を受けるように設けられている。
【0043】
また、
図3に示すように、超伝導コイル体21の中心軸線Cに直交する方向から見て、第1の支持部材25の延在軸線L1と第2の支持部材26の延在軸線L2とは、互いに交差している。具体的には、第1の支持部材25のストラップ部材25dと第2の支持部材26のストラップ部材26dとは、超伝導コイル体21の中心軸線Cの延在方向において、互いに反対方向に超伝導コイル体21を引張り支持するように設けられている。
【0044】
図7は、
図3に示した第1の支持部材25が真空容器22、ヨーク24、及びシール部29に接続される部分の拡大図である。
図7に示すように、第1の支持部材25の貫通棒部25bの先端側には螺旋状のネジ溝が設けられている。貫通棒部25bは、ヨーク24の外側において、このネジ溝に対応する形状の内周面を有するナット25gによって固定されている。このナット25gの回転操作によって第1の支持部材25の長さを調節可能とされている。すなわち、貫通棒部25bの先端側に設けられたネジ溝とナット25gは、第1の支持部材25の長さを調整する調整手段(第1の調整手段)を構成している。
【0045】
具体的には、ナット25gを一の方向に回転させると、貫通棒部25bがヨーク24の外側方向に移動させられるようになっている。これにより、ストラップ部材25dに対する張力を大きくして、超伝導コイル体21を引っ張る力を増加させることができる。また、ナット25gを他の方向に回転させると、貫通棒部25bがヨーク24の内側に移動させられるようになっている。これにより、ストラップ部材25dに対する張力を小さくして、超伝導コイル体21を引っ張る力を減少させることができる。
【0046】
第2の支持部材26についても、第1の支持部材25と同様に、貫通棒部26bの先端側には螺旋状のネジ溝が設けられており、図示しないナットと共に第2の支持部材26の長さを調整する調整手段(第2の調整手段)を構成している。
【0047】
以上説明した第1の実施形態に係るサイクロトロン2では、第1の平面D1に対して延在軸線L1が交差するように第1の支持部材25が設けられると共に、第2の平面D2に対して延在軸線L2が交差するように第2の支持部材26が設けられており、第1の支持部材25の延在軸線L1と第2の支持部材26の延在軸線L2とが超伝導コイル体21の中心軸線Cの延在方向から見て互いに交差している。従って、このサイクロトロン2によれば、超伝導コイル体21の中心軸線Cに直交する方向に延在する支持部材のみを備える場合と比べて、第1の支持部材25及び第2の支持部材26により超伝導コイル体21の周方向(回転方向)の回転(動き)に対し、より大きな復元力を得ることができるので、超伝導コイル体21の周方向の位置ずれを効果的に抑制することができる。
【0048】
また、このサイクロトロン2では、第1の支持部材25の延在軸線L1と第2の支持部材26の延在軸線L2とが超伝導コイル体21の中心軸線Cに直交する方向から見て互いに交差しているので、第1の支持部材25及び第2の支持部材26により超伝導コイル体21の中心軸線Cの延在方向の応力を適切に受けることができる。従って、このサイクロトロン2によれば、超伝導コイル体21の中心軸線Cの延在方向の位置ずれを効果的に抑制できる。
【0049】
また、このサイクロトロン2では、第1の支持部材25及び第2の支持部材26を交差して設けることで、輸送時の振動やコイルの熱収縮に耐えるのに必要な支持部材の長さを少ないスペースで確保することができ、真空容器22内の省スペース化を図ることができる。このことは、サイクロトロン2の小型化に有利である。
【0050】
また、このサイクロトロン2では、超伝導コイル体21の中心軸線Cに直交する方向から見ても、第1の支持部材25と第2の支持部材26とが互いに交差して設けられるので、輸送時の振動やコイルの熱収縮に耐えるのに必要な支持部材の長さをより少ないスペースで確保することができ、真空容器22内の省スペース化及びサイクロトロン2の小型化に有利である。
【0051】
また、このサイクロトロン2によれば、第1の支持部材25及び第2の支持部材26によって超伝導コイル体21の外周側面に沿った周方向の応力を適切に受けることができるので、超伝導コイル体21の周方向の位置ずれを効果的に抑制することができる。また、サイクロトロンの薄厚化に有利である。
【0052】
また、このサイクロトロン2によれば、第1の調整手段及び第2の調整手段によって第1の支持部材25及び第2の支持部材26の長さを調整することにより、超伝導コイル体21の位置調整を容易に行うことができる。
【0053】
また、ストラップ部材25d,26dを上述したポリエチレン繊維FRP(ダイニーマ[登録商標])などの負膨張性を有するFRPを用いた場合には、更に以下の効果を奏することができる。すなわち、このサイクロトロン2によれば、昇温時には、超伝導コイル体21が膨張する一方で、負膨張性を有するストラップ部材25d,26dは収縮するので、超伝導コイル体21が第1の支持部材25及び第2の支持部材26によって適切な張力で支持される。一方、このサイクロトロン2によれば、冷却時に超伝導コイル体21が収縮する一方で、これらのストラップ部材25d,26dは膨張するので、超伝導コイル体21が第1の支持部材25及び第2の支持部材26によって適切な張力で支持される。従って、このサイクロトロン2によれば、超伝導コイル体21の熱収縮に応じた超伝導コイル体21の適切な支持を実現できる。
【0054】
また、荷電粒子線治療装置1は、超伝導コイル体21の位置ずれを効果的に抑制できる上述のサイクロトロン2を備えているので、サイクロトロン2を輸送した後の設置作業などにおいて、超伝導コイル体21の位置調整の手間や時間を軽減でき、荷電粒子線治療装置1のメンテナンス性を向上させることができる。
【0055】
また、荷電粒子線治療装置1では、上述のとおり、運転時においてガントリー3が回転又は搖動することにより、ガントリー3に取り付けられたサイクロトロン2に対する振動が断続的に生じても、超伝導コイル体21の位置ずれが抑制できるので、装置の信頼性を高めることができる。
【0056】
[第2の実施形態]
続いて、
図8〜
図11を用いて、第2の実施形態に係るサイクロトロン30について説明する。サイクロトロン30では、第1の支持部材31及び第2の支持部材32が、超伝導コイル体21の中心軸線Cの延在方向、及び中心軸線Cに直交する方向のいずれの方向から見ても本体が互いに交差していない点で、サイクロトロン2と主に相違している。すなわち、第1の支持部材31及び第2の支持部材32は、超伝導コイル体21の中心軸線Cの延在方向及び中心軸線Cに直交する方向のいずれの方向から見ても互いに重なっていない。
【0057】
サイクロトロン30の第1の支持部材31の各部(第1の掛止部31a、貫通棒部31b、第2の掛止部31c、ストラップ部材31d、軸部31e、及び軸部31f)及び第2の支持部材32の各部(第1の掛止部32a、貫通棒部32b、第2の掛止部32c、ストラップ部材32d、軸部32e、及び軸部32f)の機能については、第1の実施形態における第1の支持部材25及び第2の支持部材26の各部の機能と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0058】
図10に示すように、第1の支持部材31は、平面(第1の平面)D21に対して、第1の支持部材31(ストラップ部材31d)の延在軸線L21が交点P21において交差するように設けられている。ここで、交点P21は、延在軸線L21と超伝導コイル体21の表面(側面支持部28dの表面)とが交わる一以上の交点のうち第1の支持部材31側の交点である。また、平面(第1の平面)D21は、交点P21と、超伝導コイル体21の中心軸線Cと、を含む平面である。具体的には、第1の支持部材31のストラップ部材31dは、
図9及び
図10の図示上において超伝導コイル体21が中心軸線Cを中心として左回りの回転方向R1へ回転しようとしたときに生じる力を受けるように設けられている。
【0059】
一方、第2の支持部材32は、平面(第2の平面)D22に対して、第2の支持部材32(ストラップ部材32d)の延在軸線L22が、交点P22において交差するように設けられている。ここで、交点P22は、延在軸線L22と超伝導コイル体21の表面(側面支持部28dの表面)とが交わる一以上の交点のうち第2の支持部材32側の交点である。また、平面(第2の平面)D22は、交点P22と、超伝導コイル体21の中心軸線Cと、を含む平面である。また、超伝導コイル体21の中心軸線Cの延在方向から見て、第1の支持部材32の延在軸線L21と第2の支持部材32の延在軸線L22とは、互いに交差している。具体的には、第2の支持部材32のストラップ部材32dは、
図9及び
図10の図示上において超伝導コイル体21が中心軸線Cを中心として右回りの回転方向R2へ回転しようとしたときに生じる力を受けるように設けられている。
【0060】
また、
図8に示すように、超伝導コイル体21の中心軸線Cに直交する方向から見て、第1の支持部材31の延在軸線L21と第2の支持部材32の延在軸線L22とは、互いに交差している。具体的には、第1の支持部材31のストラップ部材31dと第2の支持部材32のストラップ部材32dとは、超伝導コイル体21の中心軸線Cの延在方向において、互いに反対方向に超伝導コイル体21を引張り支持するように設けられている。
【0061】
以上説明したように、このサイクロトロン30では、サイクロトロン2と同様に、第1の平面D21に対して延在軸線L21が交差するように第1の支持部材31が設けられると共に、第2の平面D22に対して延在軸線L22が交差するように第2の支持部材32が設けられている。そして、第1の支持部材31の延在軸線L21と第2の支持部材32の延在軸線L22とが超伝導コイル体21の中心軸線Cの延在方向から見て互いに交差している。従って、このサイクロトロン30によっても、超伝導コイル体21の中心軸線Cに直交する方向に延在する支持部材のみを備える場合と比べて、第1の支持部材31及び第2の支持部材32により超伝導コイル体21の周方向(回転方向)の応力を適切に受けることができる。
【0062】
また、このサイクロトロン30では、サイクロトロン2と同様に、第1の支持部材31の延在軸線L21と第2の支持部材32の延在軸線L22とが超伝導コイル体21の中心軸線Cに直交する方向から見て互いに交差しているので、第1の支持部材31及び第2の支持部材32により超伝導コイル体21の中心軸線Cの延在方向の回転(動き)に対し、より大きな復元力を得ることができる。従って、このサイクロトロン2によれば、超伝導コイル体21の中心軸線Cの延在方向の位置ずれを効果的に抑制できる。
【0063】
[第3の実施形態]
続いて、
図12〜
図14を用いて、第3の実施形態に係るサイクロトロン40について説明する。サイクロトロン40では、超伝導コイル体45の中心軸線C回りに90度間隔で、第1の支持部材41及び第2の支持部材42と、第1の支持部材43及び第2の支持部材44とを備える点で、第1の実施形態に係るサイクロトロン2と主に相違している。ここで、第1の支持部材41及び第2の支持部材42は、中心軸線Cの延在方向における超伝導コイル27A側から超伝導コイル体45を支持する部材である。一方、第1の支持部材43及び第2の支持部材44は、中心軸線Cの延在方向における超伝導コイル27B側から超伝導コイル体45を支持する部材である。以下、中心軸線Cの延在方向における超伝導コイル27A側を上側とし、中心軸線Cの延在方向における超伝導コイル27B側を下側として説明する。
【0064】
なお、サイクロトロン40の第1の支持部材41,43の各部(第1の掛止部41a,43a、貫通部41b,43b、第2の掛止部41c,43c、ストラップ部材41d,43d、軸部41e,43e、及び軸部41f,43f)及び第2の支持部材42,44の各部(第1の掛止部42a,44a、貫通部42b,44b、第2の掛止部42c,44c、ストラップ部材42d,44d、軸部42e,44e、及び軸部42f,44f)の機能については、サイクロトロン2の第1の支持部材25及び第2の支持部材26の各部の機能と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0065】
超伝導コイル体45は、超伝導コイル27A,27Bと、コイル間支持部28cと、超伝導コイル27Aの上側に設けられ、第1の支持部材41及び第2の支持部材42を固定する上部フランジ45aと、超伝導コイル27Bの下側に設けられ、第1の支持部材43及び第2の支持部材44を固定する下部フランジ45bと、超伝導コイル27A,27B及びコイル間支持部28cの外周側面を覆う側面支持部45cとを有している。
【0066】
上部フランジ45a及び下部フランジ45bは、側面支持部45cがなす外周面よりも超伝導コイル体45の径方向外側に突き出た形状とされている。
【0067】
図13に示すように、第1の支持部材41は、平面(第1の平面)D31に対して、第1の支持部材41(ストラップ部材41d)の延在軸線L31が交点P31において交差するように設けられている。ここで、交点P31は、延在軸線L31と超伝導コイル体45の表面(上部フランジ45a表面)とが交わる一以上の交点のうち第1の支持部材41側の交点である。また、平面(第1の平面)D31は、交点P31と、超伝導コイル体45の中心軸線Cと、を含む平面である。具体的には、第1の支持部材41のストラップ部材41dは、
図13の図示上において超伝導コイル体45が中心軸線Cを中心として右回りの回転方向R2へ回転しようとしたときに生じる力を受けるように設けられている。
【0068】
一方、第2の支持部材42は、平面(第2の平面)D32に対して、第2の支持部材42(ストラップ部材42d)の延在軸線L32が交点P32において交差するように設けられている。ここで、交点P32は、延在軸線L32と超伝導コイル体45の表面(上部フランジ45a表面)とが交わる一以上の交点のうち第2の支持部材42側の交点である。また、平面(第2の平面)D32は、交点P32と、超伝導コイル体45の中心軸線Cと、を含む平面である。また、超伝導コイル体45の中心軸線Cの延在方向から見て、第1の支持部材41の延在軸線L31と第2の支持部材42の延在軸線L32とは、互いに交差している。具体的には、第2の支持部材42のストラップ部材42dは、
図13の図示上において超伝導コイル体45が中心軸線Cを中心として左回りの回転方向R1へ回転しようとしたときに生じる力を受けるように設けられている。
【0069】
また、下部フランジ45b側の第1の支持部材43及び第2の支持部材44はそれぞれ、第1の支持部材41及び第2の支持部材42と同様に、超伝導コイル体45が回転方向R1及び回転方向R2へ回転しようとする応力を受けるように設けられている。
【0070】
従って、このサイクロトロン40によっても、第1及び第2の実施形態に係るサイクロトロン2,30と同様に、超伝導コイル体45の中心軸線Cに直交する方向に延在する支持部材のみを備える場合と比べて、第1の支持部材41,43及び第2の支持部材42,44により超伝導コイル体45の周方向(回転方向)の回転(動き)に対し、より大きな復元力を得るができる。
【0071】
また、このサイクロトロン40では、上部フランジ45a側の第1の支持部材41及び第2の支持部材42が超伝導コイル体45を上側に引っ張り支持する一方で、下部フランジ45b側の第1の支持部材43及び第2の支持部材44が超伝導コイル体45を下側に引っ張り支持している。従って、このサイクロトロン40によれば、超伝導コイル体45の上下それぞれに配置された一対の支持部材により、超伝導コイル体45の上下方向のずれを抑制することができる。
【0072】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、超伝導コイルは必ずしも二個である必要はなく、一個又は三個以上であってもよい。更に、真空容器及びヨークなどの形状及び構成は一例であり、上述した態様に限定されない。
【0073】
また、第1の支持部材及び第2の支持部材は、必ずしも環状のストラップ部材を有する必要はなく、紐状の部材や剛性のある棒状の部材を有していてもよい。また、第1の支持部材及び第2の支持部材の他に、他の部材と交差せずに、中心軸線Cと平行に延びる支持部材や中心軸線Cに直交する方向に延びる支持部材を設けてもよい。
【0074】
また、上記実施形態では、超伝導コイル体の中心軸線C回りに90度間隔で第1の支持部材及び第2の支持部材を配置する構成を示したが、第1の支持部材及び第2の支持部材を配置する間隔はこれに限定されない。同様に、超伝導コイル体を支持する第1の支持部材及び第2の支持部材の個数も上記実施形態で示した個数に限定されない。また、第1から第3の実施形態で示した構成を組み合わせた構成とすることも可能である。例えば、第1の実施形態に係る支持部材25,26と第3の実施形態に係る支持部材41〜44とを組み合わせて、超伝導コイル体を、中心軸方向及び径方向の両方から支持する構成としてもよい。この場合、ヨーク、真空容器、及び超伝導コイル体は、真空容器内に設けられる支持部材の構成、場所、個数等に応じた形状とされる。