特許第6096063号(P6096063)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6096063
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】サイクロトロン
(51)【国際特許分類】
   H05H 13/00 20060101AFI20170306BHJP
【FI】
   H05H13/00
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-122926(P2013-122926)
(22)【出願日】2013年6月11日
(65)【公開番号】特開2014-241217(P2014-241217A)
(43)【公開日】2014年12月25日
【審査請求日】2015年12月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】橋本 篤
【審査官】 藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭64−033198(JP,U)
【文献】 特開2002−043117(JP,A)
【文献】 特開平10−270199(JP,A)
【文献】 特開2005−116328(JP,A)
【文献】 特開平07−029728(JP,A)
【文献】 実開昭59−178900(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のコイルと、
前記コイルを収容する真空容器と、
少なくとも前記コイルの径方向において、前記真空容器と対向するヨークと、
前記真空容器と前記ヨークとの間の前記径方向における隙間に設けられる弾性体と、を備え、
前記弾性体は、前記コイルの周方向における全周にわたって形成されているサイクロトロン。
【請求項2】
環状のコイルと、
前記コイルを収容する真空容器と、
少なくとも前記コイルの径方向において、前記真空容器と対向するヨークと、
前記真空容器と前記ヨークとの間の前記径方向における隙間に設けられる弾性体と、を備え、
前記弾性体は、前記コイルの軸方向に沿って複数設けられているサイクロトロン。
【請求項3】
前記弾性体は、前記軸方向における前記真空容器の端部側に設けられている請求項2に記載のサイクロトロン。
【請求項4】
前記ヨークは、前記コイルの周方向に延びる溝部を有し、
前記弾性体は、前記溝部にはめ込まれている、請求項1〜3の何れか一項に記載のサイクロトロン。
【請求項5】
前記コイルは、超伝導コイルである、請求項1〜4の何れか一項に記載のサイクロトロン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイクロトロンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポールを取り囲むように配置される環状のコイルと、コイルを収容する真空容器と、真空容器の周りに設けられるヨークと、を備えるサイクロトロンが知られている(例えば特許文献1)。このようなサイクロトロンにあっては、コイルを収容する真空容器の位置調整を行う必要があり、位置調整の方法として、真空容器の外面にボルトを当接させる方法が採用される場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−431117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ボルトを用いて真空容器の位置調整を行う場合、調整に手間がかかるという問題があった。更に、当該方法では、ボルトの当接位置において真空容器に対して局所的な荷重が作用する。このような局所的な荷重によって真空容器が変形し、サイクロトロンの性能に影響が及ぼされる場合があった。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、コイルを収容する真空容器の位置調整を容易に行うと共に性能を向上させることができるサイクロトロンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るサイクロトロンは、環状のコイルと、コイルを収容する真空容器と、少なくともコイルの径方向において、真空容器と対向するヨークと、真空容器とヨークとの間の径方向における隙間に設けられる弾性体と、を備える。
【0007】
本発明に係るサイクロトロンは、真空容器とヨークとの間の径方向における隙間に設けられる弾性体を有している。これによって、真空容器が弾性体によって径方向に支持されることが可能な構成となる。従って、真空容器をヨークに組み付けるだけで弾性体の弾性力によって位置調整を行うことができるため、真空容器の位置合わせを容易に行うことができる。また、ボルトを用いて位置調整をする場合とは異なり、弾性体を用いることにより真空容器に局所的に荷重が作用することを抑制し、真空容器の変形等を抑制することができる。以上により、コイルを収容する真空容器の位置調整を容易に行うと共にサイクロトロンの性能を向上することができる。
【0008】
また、本発明に係るサイクロトロンにおいて、弾性体は、コイルの周方向における全周にわたって形成されていてよい。これによって、弾性体は、真空容器を周方向における全周に亘って確実に支持することができる。
【0009】
また、本発明に係るサイクロトロンにおいて、ヨークは、コイルの周方向に延びる溝部を有し、弾性体は、溝部にはめ込まれていてよい。これにより、弾性体は、溝部によってコイルの軸方向に支持される。従って、弾性体が軸方向にずれることを防止することができる。
【0010】
また、本発明に係るサイクロトロンにおいて、弾性体は、コイルの軸方向に沿って複数設けられていてよい。これにより、真空容器は軸方向における複数カ所で弾性体に支持される。従って、真空容器を弾性体で確実に支持することができる。
【0011】
また、本発明に係るサイクロトロンにおいて、弾性体は、軸方向における真空容器の端部側に設けられていてよい。これにより、弾性体は、安定して真空容器を支持することができる。
【0012】
また、本発明に係るサイクロトロンにおいて、コイルは、超伝導コイルであってよい。超伝導コイルを用いて従来のようにボルトで真空容器の位置調整を行った場合、真空容器に局所的に荷重が作用してコイルが変形すると、真空容器内の部材が接触することで、熱が伝達されやすくなる。これによってコイルの超伝導が破壊されるという問題が生じる。しかしながら、本発明に係るサイクロトロンでは、局所的に荷重が作用して真空容器が変形することを抑制することができるため、超伝導が破壊されることを抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、コイルを収容する真空容器の位置調整を容易に行うと共にサイクロトロンの性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係るサイクロトロンの概略構成を示す断面図である。
図2図1に示すサイクロトロンの拡大断面図である。
図3】弾性体をコイルの軸方向から見た概略図である。
図4】弾性体としてスプリングを用いた場合の構成を示す概略図である。
図5】弾性体としてコンタクトバンドを用いた場合の構成を示す概略図である。
図6】弾性体としてOリングを用いた場合の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明に係るサイクロトロンの実施形態について詳細に説明する。
【0016】
図1に示す本実施形態に係るサイクロトロン1は、イオン源(図示せず)から供給される荷電粒子を加速して荷電粒子線(荷電粒子ビーム)を出力する円形加速器である。荷電粒子としては、例えば陽子、重粒子(重イオン)、電子などが挙げられる。
【0017】
サイクロトロン1は、その中心軸Cを中心として配置された円環状のコイル2,3と、コイル2,3を収容する円環状の真空容器4と、第1のコイル2の空芯部位に配置された上ポール(上磁極)5と、第2のコイル3の空芯部位に配置された下ポール(下磁極)6と、コイル2,3を冷却するための冷凍機(冷却手段)7と、ヨーク8と、を備えている。ヨーク8は、中空の円盤型ブロックであり、その内部に真空容器4、上ポール5、及び下ポール6が配置されている。真空容器4及び冷却機によって、収納されたコイル2,3を超伝導状態となるまで冷却可能なクライオスタット9が構成される。
【0018】
このサイクロトロン1では、真空容器4の内部を真空状態にした上で、冷凍機7により超伝導状態とされたコイル2,3に電流を流すことで強力な磁場を形成する。イオン源から供給された荷電粒子は、上ポール5及び下ポール6の間の空間Gにおいて磁場の影響により加速され、荷電粒子線として出力される。
【0019】
第1のコイル2及び第2のコイル3は、図示しないコイル保持部材によって一体的に真空容器4内で保持されている。このコイル保持部材に接触するように、又はコイル2,3に接触するように、冷凍機7が設けられており、真空状況下で冷凍機7によるコイル2,3の直接冷却が行われる。冷凍機7としては、例えば小型GM冷凍機を採用することができる。
【0020】
次に、図2を参照して、本実施形態に係るサイクロトロン1の真空容器4周辺の詳細な構成について説明する。なお、図2においては、第2のコイル3の周辺構造のみが示されているが、第1のコイル2の周辺構造も同趣旨の構造を有する。
【0021】
図2に示すように、円環状のコイル3は、周方向から見た断面が矩形状をなしており、外周面3a及び内周面3bを有すると共に、軸方向に対向する端面3c,3dを有している。本実施形態では、コイル3は保持部材10によって保持されると共に補強されている。保持部材10は、コイル3の端面3c,3dに対して設けられるフランジ部11,12と、コイル3の外周面3aの外周側に設けられてフランジ部11,12同士を接続する外周部13と、を有する。なお、上側のフランジ部12には、図示されない第1のコイル2に対して設けられるフランジ部と接続するための接続部14が設けられている。
【0022】
コイル3の周囲には、当該コイル3を覆うように円環状の熱シールド16が設けられる。熱シールド16は、周方向から見た断面が矩形枠状をなしている。熱シールド16は、その中心軸がコイル3の中心軸Cと略一致するように配置される。熱シールド16は、外周部13に対して外周側で径方向に対向する外周壁部17と、コイル3の内周面3bに対して内周側で径方向に対向する内周壁部18と、フランジ部11に対して下方で対向する下壁部19と、を備えている。なお、外周壁部17及び内周壁部18は、上側の第1のコイル2よりも上方まで延びており、上端が上壁部にて封止されている。各壁部は、コイル3及び保持部材10から離間して配置されている。熱シールド16の各壁部は板状部材によって構成されている。
【0023】
熱シールド16の周囲(すなわちコイル3の周囲)には、当該熱シールド16を覆うように円環状の真空容器4が設けられる。真空容器4は、周方向から見た断面が矩形枠状をなしている。真空容器4は、その中心軸がコイル3の中心軸Cと略一致するように配置される。真空容器4は、熱シールド16の外周壁部17に対して外周側で径方向に対向する外周壁部21と、熱シールド16の内周壁部18に対して内周側で径方向に対向する内周壁部22と、熱シールド16の下壁部19に対して下方で対向する下壁部23と、を備えている。なお、外周壁部21及び内周壁部22は、上側の第1のコイル2及び熱シールド16の上壁部よりも上方まで延びており、上端が上壁部にて封止されている。真空容器4の各壁部は、熱シールド16の各壁部から離間して配置されている。真空容器4の各壁部は板状部材によって構成されている。
【0024】
真空容器4の周囲(すなわちコイル3の周囲)には、当該真空容器4を覆うようにヨーク8が設けられる。ヨーク8は、真空容器4の外周壁部21に対して外周側で径方向に対向する外周壁部26と、真空容器4の内周壁部22に対して内周側で径方向に対向する内周壁部27と、真空容器4の下壁部23に対して下方で対向する下壁部28と、を備えている。ヨーク8にクライオスタット9を組み立てる際の組み立て容易性のために、ヨーク8とクライオスタット9の真空容器4との間には、少なくとも径方向において隙間が形成されている。ヨーク8の外周壁部26の内周面26aと、真空容器4の外周壁部21の外周面21aとの間には、隙間SP1が形成される。ヨーク8の内周壁部27の外周面27aと、真空容器4の内周壁部22の内周面22aとの間には、隙間SP2が形成される。これらの隙間SP1,SP2は、組み立て用に確保されるものであり、組み立て容易性の観点から最低3mm程度は確保されることが好ましい。なお、ヨーク8の内周側の端部には、上方に立ち上がった段差部31が形成されている。一方、真空容器4の下壁部19は、内周壁部22よりも内周側へ延びる固定部25が形成されている。固定部25の下面は段差部31の上面に接しており、当該部分にはOリングなどの封止部材32が配置され、気密性が確保されている。
【0025】
真空容器4とヨーク8との間の径方向における隙間SP1には、弾性体40が設けられる。弾性体40は、真空容器4と接触し、弾性力を付与しながら支持することによって、クライオスタット9の径方向における位置合わせを行うことができる部材である。弾性体40は、軸方向に沿って複数設けられている。また、弾性体40は、中心軸Cの軸方向における真空容器4の端部側に設けられている。本実施形態では、図1に示すように、軸方向に二組の弾性体40が設けられており、真空容器4の上端部4a側に一組の弾性体40が設けられ、下端部4b側に一組の弾性体40が設けられている。
【0026】
「軸方向における真空容器4の端部側」とは、少なくとも軸方向における真空容器4の中央位置よりも端部側の領域であり、当該領域であれば弾性体40をどこに配置するかは特に限定されない。ただし、真空容器4の安定性を向上させるために、可能な限り、端部に近い位置に弾性体40を配置することが好ましい。例えば、弾性体40は、少なくともフランジ部11よりも軸方向における端部側に配置されることが好ましい。本実施形態では、図2に示すように、弾性体40は、コイル3の下側の端面3d、保持部材10の下側のフランジ部11、及び熱シールド16の下壁部19よりも、真空容器4の下端部4b側に配置されている。
【0027】
ヨーク8は周方向に延びる溝部50を有し、弾性体40は、溝部50にはめ込まれている。具体的には、ヨーク8の外周壁部26の内周面26aには、弾性体40が設けられる位置に溝部50が周方向に沿って形成される。溝部50の形状は、図2の例においては周方向から見て矩形状をなしているが、形状は特に限定されず、三角形状や円弧状であってもよい。溝部50の深さ(径方向の大きさ)は、溝部50に弾性体40をはめ込み、真空容器4をヨーク8に組み付けたときに、弾性体40が真空容器4の外周面21aと当接して弾性力を付与できる程度の大きさに設定される。また、溝部50の幅(軸方向の大きさ)は、溝部50にはめ込んだ弾性体40が抜け落ちず、弾性体40が真空容器4を支持しているときに弾性体40の位置ずれやがたつきが生じないように、弾性体40を軸方向に支持できる程度の大きさに設定される。
【0028】
また、図3(a)に示すように、弾性体40は、周方向における全周にわたって形成されていてよい。なお、図3では、色を付した部分が弾性体40に該当する。このように、全周にわたって弾性体40を設けた場合、真空容器4に対して全周にわたって弾性力を付与することができるため、確実に真空容器4を支持することが可能となり、精度良く真空容器4の位置合わせを行うことができる。あるいは、図3(b)に示すように、弾性体40は、周方向において複数に分割され、周方向の一部に形成されていてよい。図3(b)に示す例では、三つに分割された弾性体40が、周方向に等ピッチの間隔をあけて配置されている。ただし、弾性体40の分割数は2以上であればよく、ピッチの大きさも特に限定されない。弾性体40が全周にわたって設けられている場合及び周方向に分割されている場合のいずれにおいても、従来のボルトによる位置調整機構のように周方向において局所的に荷重が付与されるのではなく、弾性体40は、真空容器4に対して周方向における所定の範囲に対して弾性力を付与することができる。
【0029】
弾性体40は、真空容器4に径方向の弾性力を付与できるものであればどのような構成のものを採用してもよい。例えば、図4に示すように、弾性体40として、スプリング60を用いてもよい。長尺のスプリング60の一端と他端を接続することで円環状とし、真空容器4とヨーク8の間に配置することによって、弾性体40が構成される。なお、図3(b)にように部分的に弾性体40を配置する場合、長尺のスプリング60を、ヨーク8の溝部50に沿って円弧を描くように配置する。これにより、スプリング60は、真空容器4(コイル3)の径方向に延びる軸周りに螺旋を描くような配置となる。真空容器4をヨーク8に組み付けた際、スプリング60の一方の側部が真空容器4の外周面21aと接触し、他方の側部がヨーク8の溝部50の底面50aと接触することで、真空容器4に径方向の弾性力を付与する。なお、図4は構造を理解し易くするためにスプリング60を軸方向から見た様子を模式的に示したものであり、真空容器4の曲率とスプリング60のピッチ等の関係は模式的なものである。
【0030】
また、弾性体40として、図5に示すようなコンタクトバンド70を用いてもよい。図5(a)は径方向からコンタクトバンド70を見た図であり、図5(b)は軸方向からコンタクトバンド70を見た図であり、図5(c)は周方向からコンタクトバンド70を見た図である。なお、図5は構造を理解し易くするためにコンタクトバンド70を模式的に示したものであり、真空容器4の曲率とコンタクトバンド70の各寸法との関係は模式的なものである。図5に示すように、コンタクトバンド70は、周方向に所定のピッチで形成される複数の弾性部71と、周方向に沿って帯状に延びるベース部72と、を備えている。弾性部71の態様は特に限定されないが、図5に示す例では、ベース部72から内周側へ湾曲するように突出する部材によって弾性部71が形成される。ベース部72がヨーク8の溝部50の底面50aで支持されるように溝部50にコンタクトバンド70をはめ込む。これによって、真空容器4をヨーク8に組み付けた際、弾性部71真空容器4の外周面21aと接触することで、真空容器4に径方向の弾性力を付与する。なお、コンタクトバンド70の構成は、図5に示すものに限定されず、径方向へ弾性力を付与することができる弾性部71を有しているものであれば、あらゆるものを採用してよい。例えば、弾性部71が中空の半球状のようなタイプのコンタクトバンド70を採用してよい。
【0031】
弾性体40としてスプリング60、コンタクトバンド70を採用する場合、サイクロトロン1の各構成要素に電気的・磁気的に干渉しないように、伝導性が無く、非磁性の材質を用いることが好ましい。例えば、スプリング60及びコンタクトバンド70の材質として、ステンレスを採用してよい。スプリング60やコンタクトバンド70のように剛性の高い材料を弾性力発生可能な形状に加工した弾性体40を用いる場合、設置後のクライオスタット9の位置ずれが生じにくいというメリットがある。
【0032】
また、弾性体40として、図6に示すように、ゴム、シリコンなどの弾性材料からなるOリング(または、図3(b)のような構成とする場合は、紐体)80を用いてもよい。図6(a)に示すように、Oリング80として、周方向から見た断面が円形のものを用いてよく、図6(b)に示すように、周方向から見た断面がX字状のものを用いてもよく、その他、弾性力を付与することができる限り、あらゆる形状を採用してよい。
【0033】
次に、本実施形態に係るサイクロトロン1の作用・効果について説明する。
【0034】
サイクロトロンにおいては、コイルを収容する真空容器の位置調整を行う必要があり、この際、組み立て用の隙間(例えば図2に示す隙間SP1,SP2など)を確保しつつ、径方向の位置ずれを極力抑えることが求められる。従来、このような位置調整の方法として、真空容器の外面にボルトを直接的又は間接的に当接させる方法が採用される場合があった。すなわち、真空容器に対して周方向に複数カ所にボルトを配置し、各箇所におけるボルトの締め付けを調整することで真空容器の径方向における位置を調整する方法が採用されていた。しかしながら、ボルトを用いて真空容器の位置調整を行う場合、全体のバランスを見ながら各箇所におけるボルトの締め付けを繰り返し調整する必要があるため、調整に手間がかかるという問題があった。更に、当該方法では、ボルトの当接位置において真空容器に対して局所的な荷重が作用する。このような局所的な荷重によって真空容器が変形し、サイクロトロンの性能に影響が及ぼされる場合があった。特に、サイクロトロンのコイルとして超伝導コイルを用いてボルトで真空容器の位置調整を行った場合、真空容器に局所的に荷重が作用してコイルが変形すると、真空容器内の部材が接触することで、熱が伝達されやすくなる。これによってコイルの超伝導が破壊されるという問題が生じる。また、ボルトを用いる方法の他、真空容器の内周側にガイド構造などを設けて位置調整を可能とする方法も考えられるが、真空容器の内部のみならず、ヨークの内周側の領域(例えば、図2に示す領域E)も真空状態とすることが求められるため、ガイド構造等を設けることができないという問題があり、あるいは、設けたとしても真空確保のための構造が複雑になるという問題がある。
【0035】
一方、本実施形態に係るサイクロトロン1は、真空容器4とヨーク8との間の径方向における隙間SP1に設けられる弾性体40を有している。これによって、真空容器4が弾性体40によって径方向に支持されることが可能な構成となる。従って、真空容器4をヨーク8に組み付けるだけで弾性体40の弾性力によって位置調整を行うことができるため、真空容器4の位置合わせを容易に行うことができる。また、真空容器4(クライオスタット9)の横滑りを防止することができると共に、ヨーク8と真空容器4との間の組み立て用の隙間SP1,SP2も確保することができる。また、ボルトを用いて位置調整をする場合とは異なり、弾性体40を用いることにより真空容器4に局所的に荷重が作用することを抑制し、真空容器4の変形等を抑制することができる。これによって、コイル3の超伝導が破壊されることを抑制することができる。以上により、コイル3を収容する真空容器4の位置調整を容易に行うと共にサイクロトロン1の性能を向上することができる。
【0036】
また、本実施形態に係るサイクロトロン1において、ヨーク8は、コイル3の周方向に延びる溝部50を有し、弾性体40は、溝部50にはめ込まれていている。これにより、弾性体40は、溝部50によってコイル3の軸方向に支持される。従って、弾性体40が軸方向にずれることを防止することができる。
【0037】
また、本実施形態に係るサイクロトロン1において、弾性体40は、コイル3の軸方向に沿って複数設けられている。これにより、真空容器4は軸方向における複数カ所で弾性体40に支持される。従って、真空容器4を弾性体40で確実に支持することができる。
【0038】
また、本実施形態に係るサイクロトロン1において、弾性体40は、軸方向における真空容器4の端部側に設けられていている。これにより、弾性体40は、安定して真空容器4を支持することができる。
【0039】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0040】
例えば、上述の実施形態では、軸方向に配置される弾性体40の個数は二個であったが、一個であってもよく、三個以上であってもよい。なお、弾性体40が図3(b)に示すように周方向に分割されている場合、軸方向の一の箇所における弾性体40の周方向における位置は、軸方向の他の箇所における弾性体40の周方向における位置と一致していなくともよく、軸方向から見て互いにずれていてもよい。また、上述の実施形態では、弾性体40は真空容器4の外周側(真空容器4の外周面21aとヨーク8の外周壁部26との間の隙間SP1)に設けられていたが、真空容器4の内周側(真空容器4の内周面22aとヨーク8の内周壁部27との間の隙間SP2)に設けられてもよく、真空容器4の内周側と外周側の両方に設けられてもよい。
【0041】
また、上述のような弾性体40のみを用いた位置調整機構としてもよいが、それに加えて、従来のボルトによる位置調整機構を設けてもよい。この際、弾性体40によって真空容器4は概ね位置合わせが行われ、微調整としてボルトを調整すればよいため、真空容器4に対する局所的な荷重は低減される。
【0042】
また、本発明に係る構造は、上述のタイプのサイクロトロンに限らず、コイル、真空容器、ヨークを有するあらゆるタイプのサイクロトロンに適用可能である。例えば、上述のような超伝導コイルを用いたタイプのサイクロトロンに限らず、常伝導コイルを用いたタイプのサイクロトロンに適用してもよい。
【符号の説明】
【0043】
1…サイクロトロン、2,3…コイル、4…真空容器、8…ヨーク、40…弾性体、50…溝部、60…スプリング(弾性体)、70…コンタクトバンド(弾性体)、80…Oリング(弾性体)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6