特許第6096064号(P6096064)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6096064
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】感知装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 5/02 20060101AFI20170306BHJP
【FI】
   G01N5/02 A
【請求項の数】2
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-123872(P2013-123872)
(22)【出願日】2013年6月12日
(65)【公開番号】特開2014-240809(P2014-240809A)
(43)【公開日】2014年12月25日
【審査請求日】2016年3月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091513
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100162008
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧澤 宣明
(72)【発明者】
【氏名】茎田 啓行
(72)【発明者】
【氏名】若松 俊一
(72)【発明者】
【氏名】忍 和歌子
【審査官】 北川 創
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−227033(JP,A)
【文献】 特開2003−307481(JP,A)
【文献】 特開2006−234686(JP,A)
【文献】 特開2000−346776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 5/02
G01N 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電片の一面側にて一方側から他方側に向かって感知対象物を含む流体を通流させて、この圧電片の一面側に形成された共通電極の表面の吸着層に感知対象物を吸着させて当該感知対象物を感知する感知装置において、
前記共通電極の表面に吸着層が形成された第1の吸着領域と、この第1の吸着領域から見て前記流体の流れ方向に対して交差する方向に設けられ、前記共通電極の表面に前記吸着層を形成せずに当該表面が露出するように構成された第1の参照領域と、これら第1の吸着領域及び第1の参照領域に夫々対向するように前記圧電片の他面側に個別に形成された第1の対向電極と、を備えた第1のセンサ部と、
前記第1の参照領域から見て前記一方側または前記他方側に離間した位置における前記共通電極の表面に吸着層が形成された第2の吸着領域と、この第2の吸着領域から見て前記流体の流れ方向に対して交差する方向に設けられ、前記共通電極の表面に前記吸着層を形成せずに当該表面が露出するように構成された第2の参照領域と、これら第2の吸着領域及び第2の参照領域に夫々対向するように前記圧電片の他面側に個別に形成された第2の対向電極と、を備えた第2のセンサ部と、
前記圧電片の一面側にて前記一方側から前記他方側に向かって感知対象物を含む流体を通流させるための流路形成部材と、
前記圧電片を発振させるための発振回路と、
この発振回路の発振周波数を測定するための周波数測定部と、
前記第1の吸着領域及び前記第1の対向電極の間における前記圧電片の発振周波数と、前記第1の参照領域及び前記第1の対向電極の間における前記圧電片の発振周波数と、の差分を求めると共に、前記第2の吸着領域及び前記第2の対向電極の間における前記圧電片の発振周波数と、前記第2の参照領域及び前記第2の対向電極の間における前記圧電片の発振周波数と、の差分を求めて、これら差分の合算値を算出する制御部と、を備えたことを特徴とする感知装置。
【請求項2】
前記流路形成部材は、前記流体が前記第1の吸着領域及び前記第2の参照領域を通る第1の流路と、前記流体が前記第1の参照領域及び前記第2の吸着領域を通る第2の流路と、これら第1の流路及び第2の流路に共通に形成された流体供給口と、前記第1の流路及び前記第2の流路における前記他方側の端部に夫々個別に形成された流体排出口と、を備え、
前記第1の流路及び前記第2の流路における前記液体排出口よりも下流側には、これら第1の流路と第2の流路とを切り替えるための切り替え部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の感知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電片に設けられた電極上に形成された吸着層に試料流体中の感知対象物を吸着させ、圧電片の固有振動数の変化に基づいて感知対象物を感知する感知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶液あるいは気体などの流体に含まれる微量物質を感知する装置として、例えば水晶片などの圧電片と当該水晶片の上下両面に形成された励振電極とを備えた水晶振動子をQCM(Quarts Crystal Microbalance)として利用した感知装置が知られている。即ち、感知対象物を吸着する吸着層を前記励振電極の一部に形成して、感知対象物が吸着した時に生じる水晶振動子の発振周波数の変化に基づいて、当該感知対象物の有無や濃度を検出している。
【0003】
このようなQCMでは、感知対象物の感知精度の向上を図るため、既述の吸着層が形成されていない参照用の励振電極を前記水晶片上に別途形成して、QCMの周囲における外来ノイズ(例えば温度、流体の粘度、流体の圧力による応力)をキャンセルできる、いわゆるツインセンサーとして構成する技術が知られている。
【0004】
また、感知対象物の感知精度を更に向上させる技術として、例えば吸着層の上方側を通流する流体の流路の高さ寸法(流路高)をなるべく狭くしたり、あるいは水晶振動子の発振周波数の高域化を図ったりする手法が知られている。しかしながら、吸着層に流体を通流させるためには、ある程度の流路高を確保する必要があり、従って流路高を狭めるには限界があり、一方水晶振動子の発振周波数の高域化を行うと溶液内での発振が不安定になりやすい。
特許文献1〜3には、マイクロチャンネル装置、前記ツインセンサー、あるいは反応電極を4つ設ける技術などについて記載されているが、既述の課題については検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−330008
【特許文献2】特開2000−283905
【特許文献3】特開2004−069661
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、圧電片の上下両面に励振電極を形成した水晶振動子を用いて感知対象物を感知するにあたって、良好な感知精度を持つ感知装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の感知装置は、
圧電片の一面側にて一方側から他方側に向かって感知対象物を含む流体を通流させて、この圧電片の一面側に形成された共通電極の表面の吸着層に感知対象物を吸着させて当該感知対象物を感知する感知装置において、
前記共通電極の表面に吸着層が形成された第1の吸着領域と、この第1の吸着領域から見て前記流体の流れ方向に対して交差する方向に設けられ、前記共通電極の表面に前記吸着層を形成せずに当該表面が露出するように構成された第1の参照領域と、これら第1の吸着領域及び第1の参照領域に夫々対向するように前記圧電片の他面側に個別に形成された第1の対向電極と、を備えた第1のセンサ部と、
前記第1の参照領域から見て前記一方側または前記他方側に離間した位置における前記共通電極の表面に吸着層が形成された第2の吸着領域と、この第2の吸着領域から見て前記流体の流れ方向に対して交差する方向に設けられ、前記共通電極の表面に前記吸着層を形成せずに当該表面が露出するように構成された第2の参照領域と、これら第2の吸着領域及び第2の参照領域に夫々対向するように前記圧電片の他面側に個別に形成された第2の対向電極と、を備えた第2のセンサ部と、
前記圧電片の一面側にて前記一方側から前記他方側に向かって感知対象物を含む流体を通流させるための流路形成部材と、
前記圧電片を発振させるための発振回路と、
この発振回路の発振周波数を測定するための周波数測定部と、
前記第1の吸着領域及び前記第1の対向電極の間における前記圧電片の発振周波数と、前記第1の参照領域及び前記第1の対向電極の間における前記圧電片の発振周波数と、の差分を求めると共に、前記第2の吸着領域及び前記第2の対向電極の間における前記圧電片の発振周波数と、前記第2の参照領域及び前記第2の対向電極の間における前記圧電片の発振周波数と、の差分を求めて、これら差分の合算値を算出する制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
前記流路形成部材は、前記流体が前記第1の吸着領域及び前記第2の参照領域を通る第1の流路と、前記流体が前記第1の参照領域及び前記第2の吸着領域を通る第2の流路と、これら第1の流路及び第2の流路に共通に形成された流体供給口と、前記第1の流路及び前記第2の流路における前記他方側の端部に夫々個別に形成された流体排出口と、を備え、
前記第1の流路及び前記第2の流路における前記液体排出口よりも下流側には、これら第1の流路と第2の流路とを切り替えるための切り替え部が設けられていても良い。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、圧電片の共通電極に形成された吸着層に流体中の感知対象物を吸着させるにあたって、流体の流れ方向に対して交差する方向に互いに離間するように2箇所に吸着層を形成して、各々の吸着層にて感知対象物を感知するようにしている。また、吸着層が形成されていない参照領域をこれら吸着層に個別に設けると共に、感知対象物が吸着した時の圧電片の発振周波数と、参照領域における発振周波数との差分を夫々算出している。そして、これら差分を加算することにより、各々の吸着層における感知対象物の測定結果を互いに足し合わせている。そのため、流体の流れ方向に対して交差する方向に亘って感知対象物を吸着できるので、高い精度で当該感知対象物を感知できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の感知センサにおけるセンサー部分を示す分解斜視図である。
図2】前記センサー部分に搭載される水晶振動子を示す平面図である。
図3】前記水晶振動子を示す平面図である。
図4】前記水晶振動子を示す縦断面図である。
図5】前記感知装置の全体構成を示す模式図である。
図6】前記感知装置において液を流す様子を示す模式図である。
図7】前記感知装置において液を流す様子を示す模式図である。
図8】前記感知装置において液を流す様子を示す模式図である。
図9】前記感知装置及び当該感知装置に配置される制御部を簡略化して示す簡略図である。
図10】前記感知装置にて計測される周波数と感知対象物の濃度との相関関係の一例を示す概略図である。
図11】前記感知装置にて発振周波数を切り替える様子を示す概略図である。
図12】前記感知装置にて発振周波数を切り替える様子を示す概略図である。
図13】前記感知装置にて得られる感知結果の一例を示す模式図である。
図14】従来の感知装置にて得られる感知結果の一例を示す模式図である。
図15】前記感知装置の他の例を示す分解斜視図である。
図16】前記他の例における感知装置の一部を示す平面図である。
図17】前記他の例における感知装置の一部を示す模式図である。
図18】前記他の例における感知装置の作用を模式的に示す概略図である。
図19】前記感知装置の別の例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の感知装置に係る実施の形態の一例について、図1図10を参照して説明する。初めにこの感知装置のセンサー部分について説明すると、このセンサー部分であるセンサーユニット1は、水晶振動子2と、この水晶振動子2を裏面側から支持すると共に当該水晶振動子2に電気信号の授受を行うための配線基板3と、水晶振動子2の上面側に液の流路を形成するための流路形成部材4とを備えている。図1中5は配線基板3の下方側に配置された支持部材であり、6は流路形成部材4の上方側に配置されたカバー部材である。
【0012】
配線基板3には、水晶振動子2の裏面側における後述の励振電極12が形成された領域を避けるように開口部3aが形成されており、当該配線基板3の下方側には、開口部3aを介して水晶振動子2の裏面側に連通する領域を気密に塞ぐために、上方側が開口する概略円筒状の封止部材7が配置されている。既述の流路形成部材4は、例えばゴムや樹脂などにより構成されており、水晶振動子2の表面にて一方側(図1中右側)から他方側(図1中左側)に向かって液を通流させるための液供給管4a及び液排出管4bを備えている。即ち、この流路形成部材4は、図4に示すように、下面側中央部が開口する概略箱型形状をなしており、下面側における周縁部にて水晶振動子2に気密に接触するように構成されている。そして、この流路形成部材4の上面側における一方側には既述の液供給管4aが接続され、また流路形成部材4の上面側における他方側には液排出管4bが接続されている。図1中6a及び6bは、これら液供給管4a及び液排出管4bに夫々連通するように既述のカバー部材6に取り付けられた液供給ポート及び液排出ポートである。
【0013】
水晶振動子2は、図2及び図3に示すように、概略円板状に形成された圧電片である水晶片10と、この水晶片10の上面側に形成された共通電極11と、水晶片10の下面側に形成された既述の励振電極12とを備えている。ここで、水晶振動子2の上面側における液の流れ方向(液供給管4aから液排出管4bに向かう方向)を左右方向と呼ぶ。共通電極11は、左右方向に沿って伸びると共に、概略音叉型となるように形成されている。具体的には、共通電極11は、液供給管4aの下方側の基端部では直線状に形成されており、液の排出側(左側)に向かう途中部位にて二本の腕部13、13に分岐している。そして、これら腕部13、13は、互いに平行となるように、液排出管4bの下方側の先端部に向かって伸び出している。共通電極11における基端側の部位は、図3に示すように、水晶片10の側面側を回り込んで、当該水晶片10の裏面側に伸び出している。尚、図2では、水晶振動子2の表面側にて液が通流する流路(流路形成部材4の下面側中央部における開口部)4cを破線で示している。
【0014】
これら腕部13、13のうち、図2中奥側の腕部13及び手前側の腕部13に夫々「13a」及び「13b」の符号を付すと、奥側の腕部13aにおける基端側(右側)には、図4にも示すように、例えば抗原などの感知対象物を吸着するための抗体などからなる吸着層(反応物質)14が形成されている。一方、奥側の腕部13aにおける先端側(左側)の部位には、吸着層14が設けられておらず、共通電極11が露出している。また、手前側の腕部13bでは、先端側に吸着層14が形成されており、一方基端側には吸着層14が形成されておらず、共通電極11が露出している。尚、図4では、流路形成部材4を簡略化して一点鎖線にて描画している。
【0015】
ここで、奥側の腕部13aにて吸着層14が形成された部位を「第1の吸着領域14a」と呼ぶと共に、手前側の腕部13bにて吸着層14が形成された部位を「第2の吸着領域14b」と呼ぶものとする。手前側の腕部13bにおいて吸着層14が形成されていない領域(第1の吸着領域14aに対向する領域)は、当該第1の吸着領域14aに対する第1の参照領域16aをなしている。即ち、後で詳述するように、感知対象物を含む試料液が液供給管4aから水晶振動子2の表面に供給されると、第1の吸着領域14aに感知対象物が吸着して、当該第1の吸着領域14aの下方側における水晶片10では感知対象物の吸着に基づいて発振周波数が低下する。一方、第1の参照領域16aの下方側の水晶片10では発振周波数が低下しないので、これら発振周波数の差分に基づいて感知対象物の有無や濃度が検出されることになる。第1の吸着領域14a及び第1の参照領域16aにより、第1のセンサ部が構成される。
【0016】
また、奥側の腕部13aにおいて吸着層14が形成されていない領域は、同様に第2の吸着領域14bに対する第2の参照領域16bをなしている。従って、第1の吸着領域14aから見た時に、第1の参照領域16a及び第2の吸着領域14bは、いずれも液体の流れ方向に対して交差する方向に設けられている。即ち、第1の参照領域16aは、第1の吸着領域14aから見た時に、前記流れ方向に対して直交する方向に配置されている。また、第2の吸着領域14bは、第1の吸着領域14aから見た時に、前記流れ方向に対して直交すると共に当該液流れ方向における下流側(他方側)に離間した位置に配置されている。これら第2の吸着領域14b及び第2の参照領域16bにより、第2のセンサ部が構成される。
【0017】
ここで、図2に示すように、平面で見た時に、水晶振動子2の表面の液流れの方向に直交する方向における液の流路の幅寸法(流路形成部材4の下面における開口部の幅寸法)を「L」と呼ぶと共に、前記直交する方向における吸着領域14a、14bの幅寸法W1、W2の合計の寸法を「W(W=W1+W2)」とする。幅寸法Lに対して寸法Wが占める割合R(R=W/L)は、後述するように、試料液に含まれる感知対象物をなるべく吸着するように、できるだけ大きい(1に近い)方が好ましく、この例では0.5〜0.7となっている。
【0018】
そして、水晶片10の裏面側における励振電極12は、以上説明した各領域14a、14b、16a、16bに夫々対向するように互いに独立して配置されており、当該水晶片10の裏面側にて水晶片10の周縁部に向かって伸び出す引き出し電極15に夫々個別に接続されている。具体的には、水晶片10の裏面側には、第1の吸着領域14a及び第1の参照領域16aに夫々対向するように、液の流れ方向に対して交差する方向に互いに離間するように2箇所に第1の励振電極12、12が形成されている。また、第2の吸着領域14b及び第2の参照領域16bに夫々対向するように、液の流れ方向に対して交差する方向に互いに離間するように2箇所に第2の励振電極12、12が配置されている。
【0019】
これら引き出し電極15及び水晶片10の裏面側に伸び出した共通電極11の端部は、図1に示すように、配線基板3の表面に形成された導電路3bを介して、後述の発振回路32に接続されている。従って、各領域14a、14b、16a、16bは、水晶片10を介して対向する励振電極12との間にて、夫々独立して発振できるように構成されている。
【0020】
こうして吸着領域14a、14bの吸着層14に感知対象物が吸着すると、既述のように、これら領域14a、14b側における発振周波数が低下し、一方参照領域16a、16b側では感知対象物の吸着に基づく発振周波数の低下は起こらない。そのため、吸着領域14a(14b)側の発振周波数fm1(fm2)と参照領域16a(16b)側の発振周波数fr1(fr2)との差分Δf1(Δf2)を計算することにより、試料液における感知対象物の有無や濃度が検知される。そして、本発明では、後述するように、これら差分Δf1、Δf2を合算することにより、感知対象物を高精度に検知している。尚、図2及び図3では、共通電極11と励振電極12との間における各領域14a、14b、16a、16bの対応関係を表すために、発振周波数を併記している。
【0021】
続いて、感知装置におけるセンサーユニット1以外の構成について、以下に説明する。図5に示すように、液供給管4aの上流側には、六方バルブなどからなる液切り替えバルブ21と、緩衝液引き込み用バルブ22と、がセンサーユニット1側からこの順番で配置されている。緩衝液引き込み用バルブ22には、緩衝液(例えばリン酸バッファ液)が貯留された貯留部23と、シリンジポンプなどの緩衝液保持部24とが接続されている。そして、緩衝液引き込み用バルブ22における液の流路を図5に示すように配置して、当該バルブ22を経由して貯留部23から緩衝液を緩衝液保持部24に引き込み、次いでバルブ22の流路を図6のように切り替えることにより、緩衝液保持部24によってセンサーユニット1側に緩衝液を押し出すように構成されている。図5中24aは、緩衝液保持部24内に貯留された緩衝液をセンサーユニット1側に押し出すために、あるいは貯留部23の緩衝液をこの緩衝液保持部24に引き込むために、当該緩衝液保持部24に設けられたシリンジなどの液押圧部24bを前進及び後退させるための駆動部であり、前記液押圧部24bの進退速度を調整自在に構成されている。尚、図6では緩衝液保持部24の構成について簡略化して描画している。
【0022】
また、液切り替えバルブ21には、緩衝液引き込み用バルブ22から伸びる液供給路25と、例えば血液や血清などの試料液が貯留された試料液貯留部26とが接続されている。この液切り替えバルブ21では、当該液切り替えバルブ21内に設けられた液貯留部をなすカラム27内に試料液を一旦溜め込み(図7参照)、次いで当該バルブ21の流路を図8のように切り替えることにより、緩衝液保持部24の緩衝液によってカラム27内の試料液をセンサーユニット1側に押し出すように構成されている。従って、センサーユニット1側には、カラム27の容積に応じた試料液が供給される。図5中28は、センサーユニット1の液排出管4bの下流側及び液切り替えバルブ21におけるカラム27の下流側に共通に設けられた廃液部である。
【0023】
水晶振動子2には、図5及び図9に示すように、既述の配線基板3の表面に形成された導電路3b及びスイッチ部31を介して発振回路32が接続されている。このスイッチ部31は、既述の各領域14a、14b、16a、16bのいずれか1つの領域(詳しくは各領域と励振電極12との間における水晶片10)を発振させると共に、当該1つの領域における発振出力(周波数信号)を発振回路32側に取り込むように構成されている。具体的には、スイッチ部31は、図9に示すように、3つのスイッチ33a〜33cにより構成されている。領域14a、16aと発振回路32との間には、第1のスイッチ33aと第2のスイッチ33bとが水晶振動子2側からこの順番で配置されており、第1のスイッチ33aは、発振回路32と、領域14a、16aのいずれか一方とを接続するように構成されている。第2のスイッチ33bは、これら領域14a、16b側の接続点と、領域14b、16b側の接続点との間で切り替え自在に配置されている。また、領域14b、16bと第2のスイッチ33bとの間には、発振回路32に対して領域14b、16bのいずれか一方を接続できるように構成された第3のスイッチ33cが配置されている。尚、図5ではスイッチ部31について省略している。
【0024】
発振回路32の後段側には、当該発振回路32における発振周波数を測定するための周波数測定部34が設けられており、この周波数測定部34には、制御部40が接続されている。制御部40は、CPU41、例えば作業者が感知対象物の測定を開始するためのボタンなどからなる入力部42、測定結果を表示する表示部43及び感知対象物の測定を行うためのプログラム44を備えている。
【0025】
プログラム44は、既述のように、各領域14a、16aにおける発振周波数の差分Δf1(Δf1=fm1−fr1)と領域14b、16bにおける発振周波数の差分Δf2(Δf2=fm2−fr2)とを夫々計算し、これら差分Δf1、Δf2の合計値Δfsum(Δfsum=Δf1+Δf2)を算出する周波数差取得プログラム44aを備えている。また、プログラム44は、周波数差取得プログラム44aによって得られた計算結果(合計値Δfsum)と、当該計算結果及び感知対象物の濃度の相関関係を予め求めておいたデータ(例えば図10参照)とに基づいて、感知対象物を求める感知プログラム44bを備えている。即ち、感知プログラム44bは、前記計算結果を検量線(前記データ)に照らし合わせて、例えば当該計算結果としきい値とを比べて感知対象物の有無を判断したり、あるいは前記計算結果に対応する濃度を前記検量線から読み取って感知対象物の濃度を表示したりする機能を持っている。図9中45はメモリであり、スイッチ部31が高速で切り替えられながら各領域14a、14b、16a、16bにおける各周波数の時系列データが順次計測されていくにあたって、既述の周波数差取得プログラム44aによる計算が終了するまで、前記時系列データが記憶されるように構成されている。尚、図9では水晶振動子2を簡略化して描画している。
【0026】
続いて、以上説明した感知装置の作用について、図11図13を参照して説明する。初めに、例えば大気中において、図11に示すように、スイッチ部31を第1の吸着領域14a側に設定して、当該吸着領域14aによる発振周波数fm1を測定する。次いで、図11に破線で示すように、スイッチ部31を第1の参照領域16a側に切り替えて、この参照領域16aにおける発振周波数fr1を測定する。既述のプログラム44aにより、これら発振周波数fm1、fr1の差分Δf1が算出されるが、この時点ではまだ試料液の供給を開始していないので、当該差分Δf1はゼロとなる。
【0027】
続いて、図12に示すように、スイッチ部31を第2の吸着領域14b側に切り替えて、この第2の吸着領域14bにおける発振周波数fm2を測定する。次いで、同様に第2の参照領域16b側にスイッチ部31を切り替えて、第2の参照領域16bの発振周波数fr2を測定する。これら発振周波数fm2、fr2の差分Δf2についても、試料液の開始前は同様にゼロになる。従って、これら差分Δf1、Δf2の合算値Δfsumについてもゼロになる。
【0028】
このようにスイッチ部31を例えば250msec程度の周期で切り替えている間に、緩衝液保持部24に貯留部23の緩衝液を引き込み、液供給管4aを介して水晶振動子2の表面に緩衝液を押し出す。緩衝液が水晶振動子2の表面に接触すると、当該緩衝液の粘度や応力によって水晶振動子2が発振しにくくなり、従って各発振周波数fm1、fr1、fm2、fr2は夫々低下していく。
【0029】
そして、これら発振周波数fm1、fr1、fm2、fr2がある値に落ち着くまで、スイッチ部31を切り替えつつ緩衝液の供給を継続した後、水晶振動子2への試料液の供給を開始する。具体的には、既述の図8にて説明したように、液切り替えバルブ21内の流路をカラム27側に切り替えて、緩衝液保持部24の緩衝液によって当該カラム27内の試料液をセンサーユニット1側に押し出す。
【0030】
試料液は、液供給管4aの下端部に到達すると、両腕部13a、13bが形成された領域に亘って水平方向に拡散して、液排出管4bに向かって通流していく。そして、試料液に含まれる感知対象物が吸着領域14a、14bに接触すると、当該吸着領域14a、14bにおける吸着層14に感知対象物が吸着して、吸着領域14a、14b側の発振周波数fm1、fm2が低下していく。一方、参照領域16a、16bでは感知対象物が吸着しないので、発振周波数fr1、fr2の低下は起こらない。こうして既に詳述したように、差分Δf1、Δf2及びこれら差分Δf1、Δf2の合算値Δfsumが算出されて、検量線に基づいて感知対象物の有無や濃度が検出される。
【0031】
ここで、試料液に含まれる感知対象物の濃度が希薄な場合について検討する。即ち、例えば第1の吸着領域14aの長さ方向に沿って試料液が上流側(液供給管4a側)から下流側(液排出管4b側)に向かって通流する時、上流側において感知対象物の吸着が既に完了して、従って第1の吸着領域14aの下流端では感知対象物が欠乏状態になり、当該下流端の吸着層14には感知対象物が吸着しないものとする。このような場合には、感知対象物の吸着が完了した位置よりも下流側における第1の吸着領域14aの部位は、感知対象物の感知には寄与せず、従っていわば無駄な領域になっていると言える。一方、第1の吸着領域14aから見て液流れ方向に対して直交する方向に離間した位置を通流する感知対象物は、当該第1の吸着領域14aには吸着されない。そのため、試料液に含まれる感知対象物をできるだけ多く捕捉(吸着)したいという要請からすると、即ち感知装置における感知対象物の感知精度をなるべく高めるためには、第1の吸着領域14aから外れた領域を通流する感知対象物についても、吸着層14に吸着させることが好ましい。
【0032】
そこで、本発明では、第1の吸着領域14aから見て、液流れ方向に対して交差する方向に、当該第1の吸着領域14aとは別の第2の吸着領域14bを設けると共に、これら吸着領域14a、14bに個別に参照領域16a、16bを設けている。そして、各領域14a、14bにおける感知対象物の検出結果(Δf1、Δf2)を合算している。言い換えると、吸着層14に吸着されずに排出される感知対象物の量ができるだけ少なくなるように、2つの吸着領域14a、14bを液流れ方向に対して交差するように並べている。そのため、図13に示すように、試料液に含まれる感知対象物の濃度が希薄な場合であっても、高精度に感知対象物を検知できる。
【0033】
即ち、従来例(吸着領域14及び参照領域16の組を一組だけ形成した例)では、図14に示すように、希薄溶液を感知対象として用いる場合には、吸着領域14の長さ方向において感知対象物の吸着が完了した位置よりも下流側では、感知対象物の吸着が当然起こらず、従ってそれ程感知精度は高くない。また、参照領域16が配置された部位では、感知対象物の吸着が起こらないので、当該部位を通流する感知対象物は、いわば無駄に排出されてしまう。一方、本発明では、2箇所に吸着領域14a、14bを設けると共に、これら吸着領域14a、14bにおける検出結果を合算している。そのため、前記従来例と比べて、感知対象物の感知精度は概略2倍になる。
【0034】
具体的には、液流れ方向の上流側から下流側を見た時、吸着層14の形成面積は、本発明(図13)では、従来例(図14)と比べて2倍になっている。そして、本発明では、吸着層14の長さ寸法が従来例の半分程度になっているが、広く知られているサーブレイの公式(電極の面積と吸着前後の周波数変化とから吸着した感知対象物の吸着量を求める数式)からすると、吸着層14における単位面積感度は、本発明と従来例とでは変わらないことが分かる。言い換えると、吸着が飽和しない程度の希薄濃度の測定では、本発明では、吸着層14の数量を2倍に増やして2つの測定結果(Δf1、Δf2)を求めると共に、これら測定結果を足し合わせているので、従来例と比べてほぼ2倍の吸着量が得られる。
【0035】
上述の実施の形態によれば、液体の流れ方向に対して交差するように2箇所に吸着領域14a、14bを配置して、各々の吸着領域14a、14bにて感知対象物を感知するようにすると共に、これら吸着領域14a、14bに個別に参照領域16a、16bを設けている。そして、領域14a、16aにおける発振周波数の差分Δf1と、領域14b、16bにおける発振周波数の差分Δf2とを合算している。そのため、液流れ方向に対して交差する方向に亘って感知対象物を吸着できるので、外乱(温度、試料液の粘度、試料液の応力)の影響を抑えながら、高い精度で当該感知対象物を感知できる。
【0036】
続いて、本発明の他の例について、図15図18を参照して説明する。この例では、流路形成部材4及び水晶振動子2の下流側の部位について、試料液に含まれる感知対象物ができるだけ吸着層14に吸着するように構成した例を示している。具体的には、流路形成部材4は、図15に示すように、液が通流する流路4cについて、共通電極11における腕部13a、13bに対応する(沿う)ように、二叉に分岐するように形成している。尚、図15では、流路形成部材4について、当該流路形成部材4の高さ方向における任意の位置にて水平方向に切断した様子を示している。
【0037】
即ち、既述のように流路4cをこれら腕部13a、13bに共通化して形成すると、液の流速分布は、液流れ方向に対して直交する方向における中央部(腕部13a、13b間の部位)にて最も速くなり、当該中央部から端部に向かう程遅くなる。従って、各腕部13a、13bの上方側の領域では、液の流速はそれ程速くない。そのため、試料液に含まれる感知対象物は、腕部13a、13b間における、吸着層14が形成されていない領域を通流しようとする。
【0038】
そこで、この例では、各腕部13a、13bに専用の流路4cを夫々形成して、図16に示すように、腕部13a、13bの各々の中央部を液ができるだけ通流するように構成している。言い換えると、既述の例において液の流速が最も速く流れる部位に、流路形成部材4の壁面部を形成して、腕部13a、13bの流路4cを2つの流路(第1の流路及び第2の流路)に分岐させている。液排出管4bについては、これら流路4cに個別に形成している。そのため、吸着層14における感知対象物の吸着量は、既述の例よりも増加して、従って更に高感度の感知装置が得られる。尚、図16では、吸着層14を省略している。
【0039】
ここで、各腕部13a、13bに専用の流路4cを形成すると、試料液は、これら2つの流路4c、4cのうち、流れやすい(抵抗の小さい)流路4cに優先的に流れようとする。即ち、これら流路4c、4cにおける表面張力を揃えようとしても、共通電極11の表面の平滑性や吸着層14の親水性など、極僅かであっても流路4c、4c間で差異が生じてしまう。そして、試料液は、このような差異に基づいて、2つの流路4c、4cのうち一方の流路4cを専ら流れようとする。
【0040】
そのため、この例では、2つの流路4c、4cに均等に液を通流させるために、図17に示すように、センサーユニット1の下流側に、2つの液排出管4b、4bの切り替えを行うための排出切り替えバルブ29を設けて、これら流路4c、4cを交互に切り替えている。そして、既述のようにスイッチ部31を高速で切り替えながら、この排出切り替えバルブ29についても切り替えている。
【0041】
このように排出切り替えバルブ29を切り替えるにあたって、各腕部13a、13bに供給される液の吐出圧力のばらつきを抑えることが好ましい。具体的には、既述の緩衝液保持部24では、一定速度で緩衝液を吐出しているが、図18の下側に拡大して示すように、微視的に見ると、液押圧部24b(シリンジ)の前進動作を間欠的に繰り返している。
【0042】
そこで、この例において感知対象物の検知を行う時には、各腕部13a、13b間における液圧のばらつきを抑えるために、液押圧部24bが停止している間に、スイッチ部31を切り替えて発振周波数を測定している。また、水晶振動子2の表面を通流する試料液の流量を各腕部13a、13bにて互いに揃えるために、液押圧部24bが前進するタイミングと、排出切り替えバルブ29の切り替えタイミングとを同期させている。具体的には、液押圧部24bが前進を停止している状態から前進動作を開始しようとする時、排出切り替えバルブ29を切り替えている。従って、各吸着層14に対して感知対象物ができるだけ吸着するようにしながら、試料液の吐出圧力のばらつきを抑制できる。このような例では、排出切り替えバルブ29の切り替え時に生じる応力の変化がノイズとなって悪影響を及ぼす可能性があるため、発振周波数の測定については、当該発振周波数の時系列データの移動平均を用いても良い。
【0043】
この排出切り替えバルブ29については、センサーユニット1の下流側に設けることに代えて、センサーユニット1よりも上流側に設けても良い。
以上説明した例では、吸着領域14a(14b)と参照領域16a(16b)との組を液の流れ方向に2箇所に配置したが、図19に示すように、3箇所に形成しても良い。また、前記組としては、液の流れ方向に沿って4箇所以上に設けても良い。
【0044】
また、発振回路32について、各領域14a、14b、16a、16bに共通化したが、これら領域14a、14b、16a、16b毎に個別に設けても良い。更に、感知対象物を含む流体としては、試料液に代えて、試料気体であっても良い。この場合には、試料気体に含まれる感知対象物例えばダイオキシンなどが検出される。
【符号の説明】
【0045】
1 センサーユニット
2 水晶振動子
4 流路形成部材
10 水晶片
11 共通電極
12 励振電極
13 腕部
14 吸着層
23 貯留部
24 緩衝液保持部
図1
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図5
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