特許第6096068号(P6096068)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6096068
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】成膜装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/32 20060101AFI20170306BHJP
   C23C 14/52 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
   C23C14/32 H
   C23C14/52
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-128504(P2013-128504)
(22)【出願日】2013年6月19日
(65)【公開番号】特開2015-4082(P2015-4082A)
(43)【公開日】2015年1月8日
【審査請求日】2016年2月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】宮下 大
【審査官】 國方 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−116615(JP,A)
【文献】 特開2011−060852(JP,A)
【文献】 特表2003−506890(JP,A)
【文献】 特開2010−061860(JP,A)
【文献】 特開平01−241798(JP,A)
【文献】 プローブ計測の基礎から応用まで,プラズマ・核融合学会誌,日本,2005年 7月,第81巻第7号,P.482-P.523
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
H05H 1/00−1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバ内においてプラズマにより成膜材料を蒸発させ、成膜材料の粒子を成膜対象物に付着させる成膜装置であって、
前記成膜材料を保持する材料保持部と、
前記材料保持部に向けて前記プラズマを照射するプラズマ発生部と、
前記チャンバ内における前記プラズマ中の磁場の向きを測定する測定部と、を備え、
前記測定部は、
導電性材料からなる検出部と、
絶縁性材料からなり、前記検出部を覆うと共に前記検出部の先端を露出させる絶縁部と、
前記検出部の露出面の向きを変更する駆動部と、を備え
前記絶縁部は軸線に沿って延びており、前記露出面の法線方向は前記軸線に対して角度を有しており、
前記駆動部は、前記軸線を中心として前記検出部および前記絶縁部を回転させる、成膜装置。
【請求項2】
チャンバ内においてプラズマにより成膜材料を蒸発させ、成膜材料の粒子を成膜対象物に付着させる成膜装置であって、
前記成膜材料を保持する材料保持部と、
前記材料保持部に向けて前記プラズマを照射するプラズマ発生部と、
前記チャンバ内における前記プラズマ中の磁場の向きを測定する測定部と、を備え、
前記測定部は、
導電性材料からなる検出部と、
絶縁性材料からなり、前記検出部を覆うと共に前記検出部の先端を露出させる絶縁部と、
前記検出部の露出面の向きを変更する駆動部と、を備え
前記検出部の先端を露出させる第1のアーム部と、
前記第1のアーム部の基端側に配置された第2のアーム部と、
前記第1および第2のアーム部間に配置された関節部と、を更に備え、
前記駆動部は、前記関節部を中心として前記第2のアーム部に対する前記第1のアーム部の角度を変更する、成膜装置。
【請求項3】
前記検出部は複数設けられており、
前記駆動部は、それぞれの前記露出面の向きを独立して変更可能である、請求項1に記載の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置に関し、特に、チャンバ内においてプラズマにより成膜材料を蒸発させ、成膜材料の粒子を成膜対象物に付着させる成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このような分野の技術として、特許文献1に記載されるように、イオンプレーティング法による成膜装置が知られている。この装置では、真空チャンバの側壁に2個のプラズマガンが設けられ、プラズマガンの周囲に設けられた収束コイルにより、プラズマビームを真空チャンバ内に導く。真空チャンバの内部には、蒸発物質を収納する2個のハースが設置されている。プラズマガンとハースとの間で放電を発生させることにより、隣り合った2本のプラズマビームが形成される。
【0003】
この装置では、大面積の基板に形成される膜の比抵抗のばらつきを抑えるため、隣り合ったプラズマビームにおいて、磁場の向きが逆になるようにしている。磁場の向きを逆にすることにより、それぞれのプラズマビームにおける磁場のねじれが低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−012725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プラズマガンを用いた成膜装置では、真空チャンバ内で発生するプラズマが大電流となり、プラズマ自身がつくる磁場によって、プラズマが捩れて曲がる現象が生じ得る。プラズマ中の磁場の向きを把握するには、レーザやコイルを用いることが考えられるが、磁場の向きを検出するための機構が大掛かりになってしまう。このように、プラズマ中の磁場の向きを測定することは困難であった。
【0006】
本発明は、プラズマ中の磁場の向きを容易に測定することができる成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の成膜装置は、チャンバ内においてプラズマにより成膜材料を蒸発させ、成膜材料の粒子を成膜対象物に付着させる成膜装置であって、成膜材料を保持する材料保持部と、材料保持部に向けてプラズマを照射するプラズマ発生部と、チャンバ内におけるプラズマ中の磁場の向きを測定する測定部と、を備え、測定部は、導電性材料からなる検出部と、絶縁性材料からなり、検出部を覆うと共に検出部の先端を露出させる絶縁部と、検出部の露出面の向きを変更する駆動部と、を備え、絶縁部は軸線に沿って延びており、露出面の法線方向は軸線に対して角度を有しており、駆動部は、軸線を中心として検出部および絶縁部を回転させる
【0008】
この成膜装置によれば、測定部の駆動部によって、露出面の向きが変更される。露出面の向きが変更されると、露出面と磁場とのなす角度が変化し、検出部を流れる電流の大きさが変化する。よって、駆動部によって露出面の向きを変更しながら電流の大きさを検出することにより、磁場の向きを容易に測定することができる。駆動部によって、軸線を中心として検出部を回転させることにより、露出面の向きが変更される。よって、軸線を中心に回転駆動するといった簡易な構成により磁場の向きを測定することができる。
【0011】
本発明の成膜装置は、チャンバ内においてプラズマにより成膜材料を蒸発させ、成膜材料の粒子を成膜対象物に付着させる成膜装置であって、成膜材料を保持する材料保持部と、材料保持部に向けてプラズマを照射するプラズマ発生部と、チャンバ内におけるプラズマ中の磁場の向きを測定する測定部と、を備え、測定部は、導電性材料からなる検出部と、絶縁性材料からなり、検出部を覆うと共に検出部の先端を露出させる絶縁部と、検出部の露出面の向きを変更する駆動部と、を備え、成膜装置は、検出部の先端を露出させる第1のアーム部と、第1のアーム部の基端側に配置された第2のアーム部と、第1および第2のアーム部間に配置された関節部と、を更に備え、駆動部は、関節部を中心として第2のアーム部に対する第1のアーム部の角度を変更する。この場合、駆動部によって、第2のアーム部に対する第1のアーム部の角度を変更することにより、露出面の向きが変更される。よって、関節部を中心にアーム部の角度を変更するといった簡易な構成により磁場の向きを測定することができる。
【0012】
検出部は複数設けられており、駆動部は、それぞれの露出面の向きを独立して変更可能であってもよい。この場合、駆動部によって、複数ある検出部のそれぞれの露出面の向きが変更される。よって、磁場に対する複数種類の角度に応じた電流値が得られるため、磁場の向きをより高精度に検出することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、プラズマ中の磁場の向きを容易に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態に係る成膜装置の構成を示す断面図である。
図2図1のII−II線に沿う断面図である。
図3図2中の検出部の先端を示す斜視図である。
図4】磁場に対して露出面がなす角度θを示す図である。
図5】(a)は角度θに応じた電圧Vと電流Iの関係を示す図であり、(b)は角度θと電流Iの関係を示す図である。
図6】第2実施形態に係る成膜装置に用いられる検出部の基部および先端部を示す斜視図である。
図7】第3実施形態に係る成膜装置に用いられる検出部を示す斜視図である。
図8】第4実施形態に係る成膜装置に用いられる検出部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0019】
図1に示される第1実施形態の成膜装置1は、いわゆるイオンプレーティング法に用いられるイオンプレーティング装置である。なお、説明の便宜上、図1には、XYZ座標系を示す。Y軸方向は、後述する成膜対象物が搬送される方向である。X軸方向は、成膜対象物と後述するハース機構とが対向する方向である。Z軸方向は、X軸方向とZ軸方向とに直交する方向である。
【0020】
成膜装置1は、成膜対象物11の板厚方向が水平方向(図1ではX軸方向)となるように、成膜対象物11を直立又は直立させた状態から傾斜した状態で、成膜対象物11が真空チャンバ10内に配置されて搬送される、いわゆる縦型の成膜装置である。この場合には、X軸方向は水平方向且つ成膜対象物11の板厚方向であり、Y軸方向は水平方向であり、Z軸方向は鉛直方向となる。なお、成膜装置は、成膜対象物の板厚方向が略鉛直方向となるように成膜対象物が真空チャンバ内に配置されて搬送されるいわゆる横型の成膜装置であってもよい。この場合には、Z軸及びY軸方向は水平方向であり、X軸方向は鉛直方向且つ板厚方向となる。以下の実施形態では、縦型の成膜装置について説明する。
【0021】
成膜装置1は、ハース機構(材料保持部)2、搬送機構3、輪ハース6、プラズマ源(プラズマ発生部)7、圧力調整装置8、ステアリングコイル50及び真空チャンバ(チャンバ)10を備えている。
【0022】
真空チャンバ10は、成膜材料の膜が形成される成膜対象物11を搬送するための搬送室10aと、成膜材料Maを拡散させる成膜室10bと、プラズマ源7から照射されるプラズマビーム(プラズマ)Pを真空チャンバ10に受け入れるプラズマ口10cとを有している。搬送室10a、成膜室10b、及びプラズマ口10cは互いに連通している。搬送室10aは、所定の搬送方向(図中の矢印AすなわちY軸)に沿って設定されている。また、真空チャンバ10は、導電性の材料からなり接地電位に接続されている。
【0023】
搬送機構3は、成膜材料Maと対向した状態で成膜対象物11を保持する成膜対象物保持部材16を搬送方向Aに搬送する。例えば保持部材16は、成膜対象物の外周縁を保持する枠体である。搬送機構3は、搬送室10a内に設置された複数の搬送ローラ15によって構成されている。搬送ローラ15は、搬送方向Aに沿って等間隔に配置され、成膜対象物保持部材16を支持しつつ搬送方向Aに搬送する。成膜対象物11としては、例えばガラス基板やプラスチック基板などの板状部材が用いられる。
【0024】
プラズマ源7は、ハース機構2に向けてプラズマビームPを照射する。プラズマ源7は圧力勾配型であり、その本体部分が、成膜室10bの側壁に設けられたプラズマ口10cを介して成膜室10bに接続されている。プラズマ源7は、真空チャンバ10内でプラズマビームPを生成する。プラズマ源7において生成されたプラズマビームPは、プラズマ口10cから成膜室10b内へ出射される。プラズマビームPは、プラズマ口10cに設けられたステアリングコイル50が生成するY方向に沿った磁場によって出射方向が制御される。成膜装置1では、たとえば150Aの大電流がプラズマビームP内を流れる。
【0025】
圧力調整装置8は、真空チャンバ10に接続され、真空チャンバ10内の圧力を調整する。圧力調整装置8は、例えば、ターボ分子ポンプやクライオポンプ等の減圧部と、真空チャンバ10内の圧力を測定する圧力測定部とを有している。
【0026】
ハース機構2は、成膜材料Maを保持するための機構である。ハース機構2は、真空チャンバ10の成膜室10b内に設けられ、搬送機構3から見てX軸方向の負方向に配置されている。ハース機構2は、プラズマ源7から出射されたプラズマビームPを成膜材料Maに導く主陽極又はプラズマ源7から出射されたプラズマビームPが導かれる主陽極である主ハース17を有している。
【0027】
主ハース17は、成膜材料Maが充填されたX軸方向の正方向に延びた筒状の充填部17aと、充填部17aから突出したフランジ部17bとを有している。主ハース17は、真空チャンバ10が有する接地電位に対して正電位に保たれているため、プラズマビームPを吸引する。このプラズマビームPが入射する主ハース17の充填部17aには、成膜材料Maを充填するための貫通孔17cが形成されている。そして、成膜材料Maの先端部分が、この貫通孔17cの一端において成膜室10bに露出している。
【0028】
輪ハース6は、プラズマビームPを誘導するための電磁石を有する補助陽極である。輪ハース6は、成膜材料Maを保持する主ハース17の充填部17aの周囲に配置されている。輪ハース6は、環状のコイル9と環状の永久磁石20と環状の容器12とを有し、コイル9及び永久磁石20は容器12に収容されている。輪ハース6は、コイル9に流れる電流の大きさに応じて、成膜材料Maに入射するプラズマビームPの幅、または、主ハース17に入射するプラズマビームPの幅を制御する。また、永久磁石20は、所望の膜厚分布を得ることができるように、磁力の調整を行うことができる。
【0029】
成膜材料Maとしては、ITOもしくはZnOなどの透明導電材料、または、SiONなどの絶縁封止材料が例示される。成膜材料Maが絶縁性物質からなる場合、主ハース17にプラズマビームPが照射されると、プラズマビームPからの電流によって主ハース17が加熱され、成膜材料Maの先端部分が蒸発し、プラズマビームPによりイオン化された成膜材料粒子Mbが成膜室10b内に拡散する。また、成膜材料Maが導電性物質からなる場合、主ハース17にプラズマビームPが照射されると、プラズマビームPが成膜材料Maに直接入射し、成膜材料Maの先端部分が加熱されて蒸発し、プラズマビームPによりイオン化された成膜材料粒子Mbが成膜室10b内に拡散する。
【0030】
成膜室10b内に拡散した成膜材料粒子Mbは、成膜室10bのX軸正方向へ移動し、搬送室10a内において成膜対象物11の表面に付着する。なお、成膜材料Maは、所定長さの円柱形状に成形された固体物であり、一度に複数の成膜材料Maがハース機構2に充填される。そして、最先端側の成膜材料Maの先端部分が主ハース17の上端との所定の位置関係を保つように、成膜材料Maの消費に応じて、成膜材料Maがハース機構2のX負方向側から順次押し出される。
【0031】
なお、成膜装置1は、ハース機構2、輪ハース6、プラズマ源7及びステアリングコイル50の組み合わせを複数組備え、複数の蒸発源を有してもよい。複数のハース機構2は、Z軸方向に等間隔で配置され、ハース機構2に対応して輪ハース6、プラズマ源7及びステアリングコイル50がそれぞれ配置されてもよい。成膜装置1は、Z軸方向の複数個所から成膜材料Maを蒸発させて成膜材料粒子Mbを拡散させてもよい。
【0032】
図2に示すように、成膜装置1は、プラズマビームP中の磁場を測定するための測定部30を備えている。測定部30は、真空チャンバ10の壁部に形成された貫通孔37を貫通する円筒状のプローブ部31と、プローブ部31に機械的に接続されてプローブ部31を回転駆動するモータ(駆動部)34とを備える。プローブ部31と真空チャンバ10の壁部との間には、真空チャンバ10内の真空状態を保つためのシール部材等が配置される。
【0033】
モータ34は、検出部32の軸線L(図3参照)を中心として、プローブ部31を回転させる。モータ34の出力軸がプローブ部31に直接接続されていてもよいし、モータ34の出力軸に設けられたギアによりプローブ部31を回転させてもよい。モータ34は、所定の回転速度でプローブ部31を連続的に回転させる。モータ34は、所定のピッチの回転角度をもって、プローブ部31を間欠的に回転させてもよい。モータ34によるプローブ部31の回転速度は、たとえばプローブ部31の動きに伴ってプラズマが影響を受けた場合に、プラズマが定常状態に達するまでの時間(すなわち応答時間)よりも遅くなっている。
【0034】
プローブ部31は、導電性材料からなる検出部32と、絶縁性材料からなり、検出部32を被覆する絶縁部33とを有する。検出部32は、たとえばタングステン等の金属材料からなる。検出部32は、磁場中に配置されることでその磁場に対応する電流を検出し、その電流を後述の導線36へ出力する。絶縁部33は、たとえばアルミナ等からなる。図2および図3に示されるように、検出部32は、軸線Lに沿って延びる円柱状をなしている。絶縁部33は、軸線Lに沿って延びる円筒状をなしており、検出部32の先端を露出させている。検出部32の先端が露出されることにより、露出面Aが形成されている。露出面Aは、検出部32の軸線Lに対して斜めにカットされた形状をなしている。すなわち、露出面Aの法線N方向は、軸線Lに対して所定の角度を有している。このように、プローブ部31は、切り込み型のシングルプローブである。なお、検出部32は、軸線L方向に延在する場合に限られない。検出部32の延在長さは、特に限定されない。検出部32は、軸線L方向に延在せずに薄板形状であってもよい。
【0035】
モータ34は、プローブ部31の絶縁部33に直接的に又は間接的に取り付けられて、絶縁部33を回転させる。なお、ケースにより絶縁部33を覆い、モータ34がケースを回転させるようにしてもよい。モータ34がプローブ部31を回転させることにより、露出面Aが回転しさえすれば、どのような構成であってもよい。後述する他の形態においても同様のことが言える。
【0036】
測定部30は、検出部32に電気的に接続された導線36と、導線36を通じて検出部32からの電流を入力し、入力した電流の電流値に応じてプラズマビームP中の磁場の向きおよび大きさを算出する算出部35とを備える。算出部35は、モータ34に接続されて、モータ34を駆動制御する制御部としての機能を有してもよい。
【0037】
なお、プローブ部31が真空チャンバ10の壁部を貫通する場合に限られず、プローブ部31およびモータ34がチャンバ内に配置されて、算出部35によってモータ34が遠隔操作されてもよい。その場合、検出部32からの電流値を算出部35に発信する発信器をプローブ部31内に設けてもよい。また、プローブ部31を回転させるためのモータ34とは別に、プローブ部31を軸線L方向に進退させるための駆動部を設けてもよい。
【0038】
プローブ部31は、先端に形成された露出面AがプラズマビームP内に配置されるように設置される。言い換えれば、プローブ部31の露出面Aは、ハース機構2を通るX−Z平面と、プラズマ源7を通るY−Z平面との交線付近に配置される。なお、モータ34によってプローブ部31が回転される際、露出面Aが常にプラズマビームP内に位置していてもよく、露出面Aの一部がプラズマビームP外に配置されてもよい。
【0039】
図4は、磁場Fに対して露出面Aの法線N方向がなす角度θを示す図である。図4に示されるように、プローブ部31が軸線Lを中心にして回転することにより、露出面Aの法線N方向の磁場Fに対する角度θは変化する。図5(a)および(b)に示されるように、プローブ部31の回転によって角度θが変化すると、電流値Iが変化するため、電流値Iが最大値となるような回転位置を算出することができる。露出面Aが磁場Fに垂直に近づくほど、言い換えれば、磁場Fに対する露出面Aの法線N方向のなす角度θが小さくなるほど、高い電流値が得られるため、電流値Iが最大値となるような回転位置は、露出面Aが磁場Fに対してもっとも垂直に近づいたときの位置である。
【0040】
上記した理論に基づき、算出部35は、入力した電流の電流値に応じてプラズマビームP中の磁場の向きを算出する。また、算出部35は、予め記憶した電流値と磁場の大きさとの関係式に基づいて、磁場Fの大きさを算出する。算出部35は、磁場Fの大きさの算出にあたり、たとえば下記式(1)を用いることができる。
【0041】
【数1】
【0042】
上記式(1)において、Ies(B)は、無衝突系において磁場Bに面が平行な平板電極に磁場Bに沿って飛来する種々の案内中心、ラーモア半径の電子による電子飽和電流である。上記式(1)は、電子飽和電流Ies(B)がB=0の場合に比べて減少する度合いを示している。
【0043】
また、算出部35は、電子温度を仮定し、イオン飽和電流から密度を求め、電子側から磁場の影響を計算する等して、モデルを改良してもよい。このように改良されたモデルを用いることにより、より高精度な測定が可能になる。
【0044】
成膜装置1によれば、測定部30のモータ34によって、露出面Aの向きが変更される。露出面Aの向きが変更されると、露出面Aと磁場Fとのなす角度θが変化し、検出部32を流れる電流の大きさが変化する。よって、モータ34によって露出面Aの向きを変更しながら電流の大きさを検出することにより、磁場Fの向きを容易に測定することができる。成膜装置1のようにプラズマビームP内を大電流(例えば約150A)が流れる場合にはプラズマビームPを流れる電流によって磁場(自己誘導磁場)が発生し、プラズマビームPが曲げられてしまう可能性がある。プラズマビームPが曲げられると、正しい位置にプラズマビームPが照射されなくなり、成膜材料Maの蒸発に偏りが生じてしまうおそれがある。このような場合でも、プラズマビームP中の磁場Fの向きを測定することで自己誘導磁場の発生を検知できる。そして、自己誘導磁場を打ち消すような磁場を発生させることでプラズマビームPの捩れを解消したり、自己誘導磁場の強さから予測されるプラズマビームPの照射位置のずれに応じて主ハース17の設置位置をずらすことで、成膜材料Maに対して正しい位置にプラズマビームPを照射することができる。
【0045】
また、検出部32は、軸線Lに対して斜めにカットされた形状の露出面Aを有するため、モータ34によって、軸線Lを中心として検出部32を回転させることにより、露出面Aの向きが変更される。よって、軸線Lを中心に回転駆動するといった簡易な構成により磁場Fの向きを測定することができる。
【0046】
図6を参照して、第2実施形態に係る成膜装置に用いられる検出部について説明する。第2実施形態の成膜装置が第1実施形態の成膜装置1と違う点は、プローブ部31に代えて、先端が湾曲されたプローブ部31Aを備えた点である。プローブ部31Aの絶縁部33は、軸線Lに沿って延びる基端部33Aと、基端部33Aに連結されて湾曲し、その先端において検出部32の露出面Aを露出させる先端部33Bと、を有する。検出部32は、絶縁部33内に設けられており、少なくとも絶縁部33の先端部33B内に設けられている。すなわち、絶縁部33は、検出部32を被覆しているとも言える。湾曲された先端部33Bを有するプローブ部31Aは、方向性のシングルプローブである。なお、検出部32は、先端部33Bおよび基端部33Aの内部に延在していてもよく、先端部33B内に延在していてもよい。検出部32の延在長さは、特に限定されない。検出部32は、延在せずに薄板形状であってもよい。
【0047】
モータ34は、軸線Lを中心として検出部32および絶縁部33を回転させる。この場合、モータ34によって、軸線Lを中心として絶縁部33を回転させることにより、露出面Aの向きが変更される。よって、軸線Lを中心に回転駆動するといった簡易な構成により磁場Fの向きを測定することができる。
【0048】
図7を参照して、第3実施形態に係る成膜装置に用いられる検出部について説明する。第3実施形態のプローブ部31Bは、ロボットアーム型のシングルプローブである。プローブ部31Bは、4つのアーム部51〜54と、アーム部51〜54間に配置された関節部56〜58とを有する。アーム部51〜54および関節部56〜58は、絶縁部33から構成されている。先端側に位置するアーム部54は、その先端において検出部32の露出面Aを露出させる。この場合、アーム部54が第1のアーム部に相当し、関節部58を介してアーム部54の基端側に連結されるアーム部53が、第2のアーム部に相当する。なお、アーム部51〜54および関節部56〜58は、絶縁部33を覆うケースを有してもよい。検出部32は、複数のアーム部51〜54の内部に延在していてもよく、アーム部54内に延在していてもよい。検出部32の延在長さは、特に限定されない。検出部32は、延在せずに薄板形状であってもよい。
【0049】
モータ34は、関節部56〜58を中心としてアーム部51〜54間の角度を変更可能になっている。この場合、モータ34によって、アーム部51〜54間の角度を変更することにより、露出面Aの向きが変更される。よって、関節部56〜58を中心にアーム部51〜54の角度を変更するといった簡易な構成により磁場の向きを測定することができる。また、プローブ部31Bのように関節部を複数設けた場合には、より多くの向きに露出面の向きを変更することができ、磁場の向きを高精度に検出することができる。
【0050】
図8を参照して、第4実施形態に係る成膜装置に用いられる検出部について説明する。第4実施形態のプローブ部31Cがプローブ部31と違う点は、独立して回転可能な複数のプローブ部60A,60Bを有する点である。プローブ部60Aは、先端が斜めにカットされた検出部61と、検出部61を被覆する絶縁部63とを有しており、プローブ部31と同様の構成を有する。プローブ部60Bは、先端が90度に折り曲げられた検出部62と、検出部62を被覆する絶縁部64とを有している。このように、プローブ部31Cは、先端の斜め切り込みおよび先端の折り曲げを採用したマルチプローブである。
【0051】
プローブ部60Aの先端に形成された露出面A1と、プローブ部60Bの先端に形成された露出面A2は、異なる方向に向けられている。
【0052】
モータ34は、たとえば2台設けられており、それぞれの露出面A1,A2の向きを独立して変更可能である。すなわち、モータ34は、検出部61の軸線L1を中心にプローブ部60Aを回転させ、これとは独立して、検出部62の軸線L2を中心にプローブ部60Bを回転させる。この場合、モータ34によって、複数ある検出部61,63のそれぞれの露出面A1,A2の向きが変更される。よって、磁場Fに対する複数種類の角度に応じた電流値が得られるため、磁場Fの向きをより高精度に検出することができる。さらには、磁場Fの向きを正確に特定することもできる。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではない。例えば、露出面Aは平面である場合に限られず、球面等の曲面状であってもよい。この場合、曲面状の露出面は、駆動部によって、非平行に移動させてもよい。露出面が非平行に移動させられることにより、検出部を流れる電流の大きさが変化する。ここで、露出面が曲面状であると、あらゆる方向の磁場を露出面で受けやすくなり、磁場の向きに関わらず、磁場の向きを正確に測定することができる。
【符号の説明】
【0054】
1…成膜装置、2…ハース機構(材料保持部)、7…プラズマ源(プラズマ発生部)、10…真空チャンバ(チャンバ)、11…成膜対象物、30…測定部、32…検出部、33…絶縁部、34…モータ(駆動部)、51…アーム部(第1のアーム部)、52…アーム部(第2のアーム部)、56〜58…関節部、61,62…検出部、62,64…絶縁部、A,A1,A2…露出面、L,L1,L2…軸線、Ma…成膜材料、P…プラズマビーム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8