(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
(発明者等が得た知見)
まず、本発明の実施形態の説明に先立ち、発明者等が得た知見について説明する。
【0017】
上述したように、例えばTi膜やMo膜等の下地層が形成された絶縁基板の下地層上に、電極配線となる金属薄膜として例えば純Cu膜がスパッタリングにより形成される。すなわち、純Cu膜は、以下の手順で絶縁基板上に形成される。まず、例えばプロセスガスとしてアルゴン(Ar)ガスを用い、絶縁基板と、金属薄膜を形成する材料である銅ターゲット材との間でプラズマ放電を発生させて、プロセスガスであるアルゴン(Ar)をイオン化させる。そして、イオン化したアルゴン(すなわちArイオン)が銅ターゲット材に衝突する際のエネルギで、銅ターゲット材を構成する原子間の結合が切断されて、原子(スパッタリング粒子)が放出される。この放出されたスパッタリング粒子が絶縁基板が備える下地層上に堆積されることで、純Cu膜が下地層上に形成される。このとき、銅ターゲット材のスパッタリングされる面(スパッタリング面)が原子の充填率が高い結晶面であるほど、銅ターゲット材はスパッタリング粒子を放出し易いことが知られている。すなわち、同じエネルギを有するイオンが銅ターゲット材のスパッタリング面に衝突した場合、スパッタリング面が原子の充填率が高い結晶面である銅ターゲット材の方がスパッタリング粒子を放出し易いことが知られている。銅の最密充填面は(111)面である。従って、銅ターゲット材のスパッタリング面が(111)面の割合が多い結晶面であるほど、銅ターゲット材は、スパッタリング粒子を放出しやすくなる。また、銅ターゲット材は、結晶粒界が少なくなるように、結晶粒径が大きい結晶により形成されているとよい。結晶粒界は原子が移動できる欠陥を含むため、例えばイオン化したアルゴンが銅ターゲット材に衝突した際に緩衝サイトとなる。従って、このような結晶粒界が少ない銅ターゲット材は、よりスパッタリング粒子を放出し易くなると考えられる。
【0018】
また、スパッタリングにより、絶縁基板が備える下地層上に、低抵抗である純Cu膜、すなわち膜質(結晶性)が良好な純Cu膜を形成するためには、銅ターゲット材から放出されたスパッタリング粒子が、絶縁基板が備える下地層上に到達した後、下地層上を移動(マイグレーション)することで、なるべく適切な結晶格子位置に配置されることが必要である。マイグレーションは、スパッタリング粒子が有する運動エネルギが高いほど起こりやすくなる。また、スパッタリング時に絶縁基板と銅ターゲット材との間に発生させるプラズマ放電は、広がりがある形状となる。このため、スパッタリング粒子は、様々な方向に放出される。従って、マイグレーションの起こりやすさは、スパッタリング粒子が絶縁基板が備える下地層表面に入射する際の入射角度にも影響されると考えられる。このとき、銅ターゲット材のスパッタリング面の結晶面方位の配向性を制御することで、スパッタリング粒子が放出される方向の指向性を高めることができる。これにより、マイグレーションがより起こりやすくなるように、スパッタリング粒子が下地層表面に入射する際の入射角度を制御できる。その結果、絶縁基板が備える下地層上に形成した純Cu膜(スパッタ膜)の膜質を向上させることができると考える。
【0019】
このとき、上述したように、銅ターゲット材のスパッタリング面の結晶面方位の配向性がX線回折法により測定されると、測定されない結晶面(スパッタリング面に対して傾いている面)が発生するため、測定精度が低くなる。また、例えば、X線回折法による結晶面方位の配向比率を算出する際、例えば銅の主要ピークである(111)面、(200)面、(220)面及び(311)面の割合の合計を100%として、それぞれの面の配向比率を算出するしかない。しかしながら、上述したようにX線回折法では、測定されない結晶面が発生するため、X線回折法を用いて算出した結晶面方位の配向比率の値は、実際の結晶面方位の配向比率の値から乖離する可能性があった。そこで、本発明者等は、電子線後方散乱回折(EBSD)法を用いて、銅ターゲット材のスパッタリング面の結晶面方位を測定することで、測定されない結晶面の発生を低減することができ、銅ターゲット材のスパッタリング面を、よりスパッタリング粒子が放出されやすく、スパッタリング粒子が放出される方向の指向性がより高い面にできることに着目した。本発明は、発明者が見出した上記知見に基づくものである。
【0020】
(1)スパッタリング用銅ターゲット材の構成
まず、本発明の一実施形態にかかるスパッタリング用銅ターゲット材の構成について説明する。
【0021】
スパッタリング用銅ターゲット材(以下では「銅ターゲット材」とも言う。)は、純度が質量比で99.9%(3N)以上の無酸素銅の鋳造材により形成されている。すなわち、銅ターゲット材は、純度が3N以上の鋳造材に所定の圧延処理や所定の焼鈍処理等を行うことで形成されている。
【0022】
銅ターゲット材のスパッタリングされる面(以下では、単に「スパッタリング面」とも言う。)の平均結晶粒径は0.07mm以上0.20mm以下、好ましくは0.1mm以上0.15mm以下である。また、銅ターゲット材のスパッタリング面は、電子線後方散乱回折(EBSD;Electron Back Scattering Diffraction)法にて、所定の測定領域(例えば1mm×3mm)内の結晶面方位を測定した際、(111)面、(200)面、(220)面及び(311)面以外の面(以下では「その他の面」とも言う)の面積率が15%以下である。なお、面積率とは、EBSD法による測定領域の面積を100%としたとき、測定領域に占める所定の面(例えばその他の面)の割合である。このように、銅ターゲット材の平均結晶粒径と結晶面配向とを制御することで、スパッタリング特性を向上させることができる。
【0023】
すなわち、銅ターゲット材のスパッタリング面の平均結晶粒径を0.07mm以上0.20mm以下とすることで、スパッタリング面に存在する結晶粒界を少なくできる。従って、銅ターゲット材を用いてスパッタリングが行われる際、原子(スパッタリング粒子)をより放出させやすくなる。その結果、この銅ターゲット材を用いてスパッタリングが行われることで、絶縁基板上にスパッタ膜である金属薄膜(純Cu膜)が形成された場合、スパッタ膜の抵抗率を低くできる。特に、絶縁基板が備える下地層としての銅との整合性が悪い例えばチタン(Ti)膜上にスパッタリングが行われて、スパッタ膜として純Cu膜が形成された場合、従来と比べて、スパッタ膜である純Cu膜の抵抗率を低くできる。また、この銅ターゲット材を用いてスパッタリングが行われると、スパッタリング面に発生する異常放電(アーク)を抑制できる。
【0024】
なお、銅ターゲット材の平均結晶粒径が0.07mm未満であると、異常放電の発生はより抑制できるが、結晶粒の大きさが小さくなり、スパッタリング面に存在する結晶粒界が多くなるため、原子が放出されにくくなる。その結果、スパッタリングされにくくなり、スパッタ膜の抵抗率が高くなる。また、スパッタリング面の平均結晶粒径が0.20mmを超えると、スパッタリング面に存在する結晶粒界が少なくなるため、原子が放出されやすくなり、スパッタ膜の抵抗率をより低くできるが、スパッタリングにより、スパッタリング面に大きな凹凸が現れ、異常放電が発生しやすくなる。
【0025】
また、銅ターゲット材のスパッタリング面は、EBSD法にて、所定の測定領域(例えば1mm×3mm)内の結晶面方位を測定した際、(111)面、(200)面、(220)面及び(311)面以外の面であるその他の面の面積率が15%以下である。このように、銅ターゲット材のスパッタリング面は、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面のいずれの結晶面にも含まれない結晶面(その他の面)の面積率が少ない面である。すなわち、スパッタリング面は、(111)面、(200)面、(220)面又は(311)面から大きく傾いた結晶面が少ない面である。つまり、スパッタリング面は、銅の主要ピークである(111)面、(200)面、(220)面及び(311)面が多く配向されている面である。
【0026】
これにより、銅ターゲット材を用いてスパッタリングが行われる場合、銅ターゲット材は、スパッタリング粒子をより放出させやすくなる。従って、この銅ターゲット材を用いてスパッタリングが行われることで、絶縁基板又は絶縁基板が備える下地層上にスパッタ膜(純Cu膜)が形成された場合、スパッタ膜の抵抗率をより低くできる。また、銅ターゲット材からスパッタリング粒子が放出される方向の指向性を高めることができる。これにより、スパッタリング粒子が下地層表面に入射する際の入射角度を所定の角度にできる。従って、絶縁基板又は絶縁基板が備える下地層上に到達したスパッタリング粒子が、絶縁基板又は下地層上を移動しやすくなる。すなわち、マイグレーションが起こりやすくなる。その結果、適切な結晶格子位置に配置されるスパッタリング粒子が増加するため、スパッタ膜の膜質をより向上させることができる。すなわち、スパッタ膜の抵抗率をより低くできる。また、この銅ターゲット材を用いてスパッタリングが行われると、スパッタリング面に発生する異常放電を抑制できる。
【0027】
なお、上述したように、銅ターゲット材は、純度が3N以上の鋳造材に所定の圧延処理等を行うことで形成されている。このため、スパッタリング面となる圧延面を、(111)面、(200)面、(220)面及び(311)面の4つの結晶面方位のみを有する結晶粒から構成することは不可能と考える。すなわち、その他の面の面積率が0%になることはあり得ないと考える。銅ターゲット材のスパッタリング面のその他の面の実際の最小値は5%程度である。従って、銅ターゲット材のスパッタリング面のその他の面の面積率は5%以上15%以下であるとよい。
【0028】
また、銅ターゲット材のスパッタリング面の結晶面方位をEBSD法により測定することで、測定精度を高めることができる。ここで、EBSD法により、スパッタリング面の結晶面方位を測定する方法を簡単に説明する。まず、例えばEBSD装置を用い、銅ターゲット材のスパッタリング面上の複数の測定点(照射点)に電子線を照射して、各測定点で回折パターン(電子後方散乱回折像)を得る。次に、得られた各測定点での回折パターンに基づいて、各測定点における結晶面方位を決定する。そして、得られた結晶面方位によって測定領域を色分けをし、逆極点図(IPF(Inverse Pole Figure)マップ)を得る。このとき、同一の結晶面方位には、同一の色が付される。従って、EBSD法では、銅ターゲット材のスパッタリング面の結晶面方位の分布をカラーグラデーションで示したカラーキーの色と対応させて測定できる。
【0029】
また、EBSD法では、測定点での結晶面が(111)面、(200)面、(220)面及び(311)面から傾いている場合、その傾き角度を解析することもできる。そして、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面からの傾き角度が所定の角度以内である結晶面はそれぞれ、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面とみなして、結晶面方位の分布評価を行うことができる。
【0030】
実際に、EBSD法により銅ターゲット材のスパッタリング面の結晶面方位を測定すると、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面と一致する結晶面の割合は少ない。
【0031】
また、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面から±10°以内の傾き角を有する結晶面はそれぞれ、(111)面、(200)面、(220)面又は(311)面とみなすこととし、EBSD法による測定領域の面積を100%としたとき、その他の面の面積率が50%以上となった。しかしながら、このような銅ターゲット材であっても、スパッタ膜の抵抗率を低くでき、スパッタリング面に発生する異常放電(アーク)を抑制できることがあった。
【0032】
そこで、本実施形態では、(111)面の法線方向との方位差が15°以内である結晶方位の結晶面は(111)面とみなし、(200)面の法線方向との方位差が15°以内である結晶方位の結晶面は(200)面とみなし、(220)面の法線方向との方位差が15°以内である結晶方位の結晶面は(220)面とみなし、(311)面の法線方向との方位差が15°以内である結晶方位の結晶面は(311)面とみなした。すなわち、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面からの傾き角が±15°以内である結晶面はそれぞれ、(111)面、(200)面、(220)面又は(311)面に含めることとした。
【0033】
なお、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面からの傾き角が±15°未満である結晶面をそれぞれ、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面とみなした場合、スパッタリング面は、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面から大きく傾いた結晶面、すなわちその他の面の面積率が多くなってしまう。このような銅ターゲット材を用いてスパッタリングが行われた場合、スパッタ膜の抵抗率が高くなったり、異常放電の発生を抑制できない場合がある。すなわち、スパッタリング特性が低下する場合がある。
【0034】
また、銅ターゲット材のスパッタリング面は、EBSD法により測定した(111)面の面積率が10%以上20%以下であるとよい。(111)面は、原子の充填率が高い結晶面である。従って、このようにスパッタリング面を、(111)面の面積率(配向比率)が高い面とすることにより、銅ターゲット材を用いてスパッタリングが行われる際、銅ターゲット材は、スパッタリング粒子をより放出させやすくなる。また、銅ターゲット材のスパッタリング面は(200)面の面積率が5%以上15%以下であるとよい。
【0035】
また、銅ターゲット材のスパッタリング面は、(220)面の面積率が25%以上35%以下であるとよい。また、銅ターゲット材のスパッタリング面は、(311)面の面積率が31%以上38%以下であるとよい。
【0036】
(2)スパッタリング用銅ターゲット材の製造方法
次に、本実施形態にかかるスパッタリング用銅ターゲット材の製造方法の一実施形態について、主に
図1を用いて説明する。
図1は、本実施形態にかかる銅ターゲット材の製造工程を示すフロー図である。
【0037】
(鋳造工程(S10))
本実施形態にかかる銅ターゲット材の製造方法では、例えば連続鋳造圧延方式を用いた。
図1に示すように、まず、例えば坩堝式溶解炉、チャネル式溶解炉等の電気炉を用い、母材である銅(Cu)を溶解して銅の溶湯を製造する。そして、この銅の溶湯を鋳型に供給して、純度が3N(99.9%)以上の無酸素銅の鋳造材(インゴット)を鋳造する。なお、鋳造材は、所定形状(例えば矩形状)に形成されている。
【0038】
(熱間圧延工程(S20))
鋳造工程(S10)が終了した後、鋳造した鋳造材(インゴット)を800℃以上900℃以下に加熱して熱間圧延を行い、所定厚さの熱間圧延材(熱圧材)を形成する。すなわち、例えばアルゴン(Ar)雰囲気下にて、800℃以上900℃以下に加熱した加熱炉中にインゴットを搬入する。そして、加熱炉中で所定時間(例えば2時間)インゴットを保持してインゴットを加熱する。このとき、加熱温度が900℃を超えると、インゴットの軟化によって、取扱い性が悪くなるとともに、安全性が低下するため好ましくない。所定時間(例えば2時間)が経過したら、インゴットを加熱炉から搬出する。その後直ちに、圧延ロールを用いて、複数パスに分けて、厚み減少率が85%以上95%以下となるように熱間圧延する。厚み減少率とは、下記の(式1)により算出される値である。
(式1)
厚み減少率(%)=
((インゴットの厚さ−熱圧材の厚さ)/インゴットの厚さ)×100
【0039】
熱間圧延時、時間の経過や、例えばインゴットや熱圧材等の熱間圧延を行う材料が圧延ロールと接触することで、熱圧材の温度が低下する。従って、熱間圧延後の熱圧材の温度が600℃以上650℃以下となるように、熱間圧延の最終パス前に熱圧材を所定時間置くことで、最終パス時の熱圧材の温度を調整する。
【0040】
このような熱間圧延工程(S20)を行うことで、銅ターゲット材のスパッタリング面を、(111)面の面積率が高い、すなわち(111)面の配向比率が比較的高い面とすることができる。なお、このような熱間圧延によりスパッタリング面の(111)面の面積率を高くできるのは、熱間圧延中に再結晶が発生しているためと考えられる。
【0041】
(面削工程(S30))
熱間圧延工程(S20)が終了した後、面削を行うことで、熱間圧延により熱圧材の表面に形成された表面酸化層(黒皮)を削って除去する。
【0042】
(冷間圧延工程・焼鈍工程(S40・S50))
面削工程(S30)が終了した後、熱圧材に、所定の加工度の冷間圧延(冷間圧延工程(S40))と、所定温度で所定時間加熱する焼鈍処理(焼鈍工程(S50))とを所定回数繰り返して行い、所定厚さの冷間圧延材(冷圧材)を形成する。このように、冷間圧延を行うことで、銅ターゲット材のスパッタリング面となる圧延面に(220)面を配向させることができる。そして、冷間圧延後に焼鈍処理を行うことで、再結晶が起こる。これにより、銅ターゲット材のスパッタリング面の(111)面の面積率を高くできる。
【0043】
(仕上圧延工程(S60))
冷間圧延工程(S40)と焼鈍工程(S50)とを所定回数繰り返した後、冷圧材に、5%以上7%以下の加工度で仕上圧延を行い、所定厚さの銅ターゲット材を形成する。
【0044】
これにより、本実施形態にかかる銅ターゲット材が製造される。すなわち、平均結晶粒径が0.07mm以上0.20mm以下であり、(111)面、(200)面、(220)面及び(311)面以外の面であるその他の面の面積率が15%以下、好ましくは5%以上15%以下であるスパッタリング面を有する銅ターゲット材が製造される。そして、銅ターゲット材の製造工程を終了する。
【0045】
(3)本実施形態にかかる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果を奏する。
【0046】
本実施形態によれば、銅ターゲット材は、純度が99.9%以上の無酸素銅の鋳造材により形成され、スパッタリング面の平均結晶粒径が0.07mm以上0.20mm以下である。また、銅ターゲット材のスパッタリング面は、EBSD法により、スパッタリング面の結晶面方位を測定し、(111)面の法線方向との方位差が15°以内である結晶方位の結晶面は(111)面とみなし、(200)面の法線方向との方位差が15°以内である結晶方位の結晶面は(200)面とみなし、(220)面の法線方向との方位差が15°以内である結晶方位の結晶面は(220)面とみなし、(311)面の法線方向との方位差が15°以内である結晶方位の結晶面は(311)面とみなし、EBSD法による測定領域の面積を100%としたとき、(111)面、(200)面、(220)面及び(311)面以外の面であるその他の面の面積率が15%以下である。このように、銅ターゲット材のスパッタリング面の平均結晶粒径と結晶面配向とを制御することで、スパッタリング特性を向上させることができる。すなわち、銅ターゲット材を用いてスパッタリングが行われる場合、銅ターゲット材は、スパッタリング粒子をより放出させやすくなる。これにより、銅ターゲット材を用いてスパッタリングが行われることで、絶縁基板上に形成されたスパッタ膜(純Cu膜)の抵抗率を低くできる。特に、絶縁基板が備える下地層としての例えばチタン(Ti)膜上に形成されたスパッタ膜の膜抵抗率を、従来よりも低くできる。すなわち、スパッタ膜である純Cu膜が、特に純Cu膜との整合性が悪いTi膜上に形成された場合であっても、スパッタ膜である純Cu膜の結晶性を向上させることで純Cu膜の膜質を向上させることができ、純Cu膜の抵抗率を低くできる。また、この銅ターゲット材を用いてスパッタリングが行われると、スパッタリング面に発生する異常放電(アーク)を抑制できる。
【0047】
すなわち、スパッタリング面の平均結晶粒径を0.07mm以上0.20mm以下とすることで、スパッタリング面に存在する結晶粒界を少なくできる。このため、銅ターゲット材を用いてスパッタリングが行われる際、原子(スパッタリング粒子)をより放出させやすくなる。従って、スパッタ膜の抵抗率を低くできる。また、この銅ターゲット材を用いてスパッタリングが行われると、スパッタリング面に発生する異常放電を抑制できる。
【0048】
また、(111)面、(200)面、(220)面及び(311)面以外の面であるその他の面の面積率を15%以下とすることで、スパッタリング特性をより向上させることができる。すなわち、銅ターゲット材を用いてスパッタリングが行われる場合、銅ターゲット材は、スパッタリング粒子をより放出させやすくなる。また、銅ターゲット材からスパッタリング粒子が放出される方向の指向性を高めることができる。これにより、マイグレーションが起こりやすくなる。従って、銅ターゲット材を用いてスパッタリングが行われることで、絶縁基板又は絶縁基板が備える下地層上に形成されたスパッタ膜の抵抗率をより低くできる。また、この銅ターゲット材を用いてスパッタリングが行われると、スパッタリング面に発生する異常放電をより抑制できる。
【0049】
(本発明の他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態を具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0050】
上述の実施形態では、ガラス基板等の絶縁基板上にスパッタ膜である純Cu膜を形成する場合、及び、下地層として例えばTi膜が形成された絶縁基板を用い、絶縁基板が備える下地層上にスパッタ膜である純Cu膜を形成する場合について説明したが、これに限定されるものではない。この他、例えば、下地層として、インジウム(In)、ガリウム(Ga)および亜鉛(Zn)の酸化物(IGZO)や酸化インジウムスズ(ITO)といった酸化物半導体上に、スパッタリングにより、スパッタ膜として銅マンガン(CuMn)膜等を形成してもよい。
【実施例】
【0051】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
実施例1では、例えば、所定の無酸素銅を用い、坩堝式溶解炉で窒素雰囲気下にて無酸素銅を溶解して溶湯を作製した。その後、溶湯を鋳型に供給し、鋳造体として、純度が99.95%であり、断面寸法が厚さ160mm×幅300mmである矩形インゴットを鋳造した。次に、インゴットを所定温度に加熱して熱間圧延を行った。すなわち、アルゴン(Ar)雰囲気下にて、802℃に加熱した加熱炉中にインゴットを搬入する。そして、Ar雰囲気下の加熱炉中で2時間インゴットを保持してインゴットを加熱した後、加熱炉からインゴットを搬出した。そして、搬出後直ちに、圧延ロールを用いて、複数パスに分けて、厚み減少率が90%となるように熱間圧延を行い、所定厚さの熱圧材を作製した。このとき、熱間圧延終了後の熱圧材の温度が603℃となるように、熱間圧延の最終パス前に熱圧材を所定時間置くことで、最終パス時の熱圧材の温度を調整した。そして、熱間圧延によって熱圧材の表面に形成された表面酸化層の黒皮を面削にて除去した。面削を行った熱圧材に、所定の加工度の冷間圧延処理と、焼鈍処理とを所定回数繰り返して行い、所定厚さの冷圧材を作製した。そして、冷圧材に加工度が5%の仕上圧延を行い、所定厚さの銅ターゲット材を作製した。これを実施例1の試料とした。
【0053】
(実施例2〜12及び比較例1〜9)
実施例2〜12及び比較例1〜9では、熱間圧延時のインゴットの加熱温度、熱間圧延の厚み減少率、熱間圧延後の熱圧材の温度及び仕上圧延の加工度をそれぞれ、表1に示す通りとした。この他は、上述の実施例1と同様にして銅ターゲット材を作製した。これらをそれぞれ、実施例2〜12及び比較例1〜9の試料とした。
【0054】
【表1】
【0055】
(評価)
実施例1〜12及び比較例1〜9の各試料について、圧延面(すなわちスパッタリング面)の結晶組織及びスパッタリング特性について評価した。
【0056】
[スパッタリング面の結晶組織の評価]
まず、実施例1〜12及び比較例1〜9の各試料のスパッタリング面となる圧延面の結晶組織について評価を行った。すなわち、実施例1〜12及び比較例1〜9の各試料の結晶粒の平均結晶粒径を測定するとともに、各試料の圧延面の結晶面配向についての評価を行った。
【0057】
平均結晶粒径の測定は、JIS H 0501に規定する「伸銅品結晶粒度試験法」の「比較法」に準じて行った。すなわち、実施例1〜12及び比較例1〜9の各試料の圧延面の写真とJIS H 0501に示される標準写真の結晶粒度とを比較して、平均結晶粒径を測定した。
【0058】
また、結晶面方位の評価は、EBSD法により、測定領域を1mm×3mmとして、各試料の結晶面方位の逆極点図を作成することで行った。すなわち、実施例1〜12及び比較例1〜9の各試料の結晶面方位の逆極点図から、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、及びこれら4つの結晶面のいずれにも属さないその他の結晶面についてそれぞれ、面積率を測定した。このとき、(111)面、(200)面、(220)面及び(311)面の各結晶面の法線方向からの傾きが±15°以内である結晶面はそれぞれ、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面とみなした。そして、(111)面、(200)面、(220)面及び(311)面の各結晶面の面積率を算出する際、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面に含めた。なお、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面及びその他の面の面積率はそれぞれ、測定領域の面積を100%としたときの割合である。
【0059】
実施例1〜12及び比較例1〜9の各試料について平均結晶粒径と、(111)面の面積率、(200)面の面積率、(220)面の面積率、(311)面の面積率及びその他の面の面積率との測定結果をそれぞれ、表1に示す。
【0060】
[スパッタリング特性の評価]
次に、実施例1〜12及び比較例1〜9の各試料のスパッタリング特性についての評価を行った。すなわち、各試料を用いてスパッタリングを行い、スパッタ膜の抵抗率及び異常放電回数の測定を行った。
【0061】
まず、実施例1〜12及び比較例1〜9の各試料からそれぞれ、φ100mm×5mmtのサンプルを切り出した。そして、各サンプルを用いて、スパッタリングを行い、絶縁基板上に電極配線である金属薄膜(スパッタ膜)として、所定厚さ(約200nm)の純Cu膜を形成した。このとき、各サンプルの圧延面をスパッタリング面とした。また、絶縁基板として、低抵抗なスパッタ膜を形成しにくいとされるガラス基板と、下地層として所定厚さ(約50nm)のチタン(Ti)膜が形成されたガラス基板とを用いた。なお、下地層としてのTi膜は、スパッタリングによりガラス基板上に形成した。表2に、下地層としてのTi膜及びスパッタ膜としての純Cu膜のスパッタリングによる成膜条件を示す。
【0062】
【表2】
【0063】
下地層としてのTi膜及びスパッタ膜としての純Cu膜はそれぞれ、
図2及び
図3に示すように形成した。
図2に、スパッタリングを行い、絶縁基板1であるガラス基板上に下地層としてのTi膜2が形成され、Ti膜2上に電極配線である金属薄膜として純Cu膜3が形成された絶縁基板1の断面図を示す。また、
図3に、
図2に示すTi膜2と純Cu膜3とを備える絶縁基板1の上面図を示す。
図2及び
図3に示すように、Ti膜2は、絶縁基板1であるガラス基板の少なくとも一の主面の全面に形成した。また、電極配線である純Cu膜3は、Ti膜2上に、メタルマスクを用いて3mm角のものを2mm間隔で形成した。すなわち、Ti膜2上に10マス×10マス=100マスの純Cu膜3を成膜した。なお、絶縁基板(ガラス基板)1上に電極配線である純Cu膜3を直接形成する場合も同様に、メタルマスクを用い、3mm角の純Cu膜を2mm間隔で形成した。
【0064】
<スパッタ膜の抵抗率の評価>
実施例1〜12及び比較例1〜9の各試料から切り出したサンプルを用いて、絶縁基板1上に形成したスパッタ膜である純Cu膜3、及び絶縁基板1が備えるTi膜2(下地層)上に形成したスパッタ膜である純Cu膜3の抵抗率をそれぞれ測定した。絶縁基板1上に形成した純Cu膜3の抵抗率の測定は、van der Pauw法により行った。すなわち、3mm角の純Cu膜3の四隅付近にそれぞれ電極としての針を立てて、抵抗率を測定した。また、純Cu膜3の抵抗率の測定は、絶縁基板1上の中心部に形成された4つの純Cu膜3のマスについて行った。すなわち、
図3に示す3a〜3dの4つの純Cu膜のマスについて行った。そして、4つの抵抗率の平均値を算出し、この平均値を純Cu膜3の抵抗率とした。このとき、レーザ顕微鏡を用いて純Cu膜3の各マスの周囲の縁の段差の高さを測定した。これを純Cu膜3の膜厚とした。また、絶縁基板1が備えるTi膜2上に形成した純Cu膜3の抵抗率は、van der Pauw法により測定した純Cu膜3の抵抗率に純Cu膜3の膜厚を乗じた値とした。絶縁基板1が備えるTi膜2上に形成された純Cu膜3に抵抗率を測定する際、Ti膜2にも導通される。しかしながら、Ti膜2の抵抗率は純Cu膜3に比べて1桁以上高く、またTi膜2の厚さは純Cu膜3の厚さよりも薄い。このため、純Cu膜3の抵抗率へのTi膜2の影響は小さい。また、Ti膜2上での相対比較により、純Cu膜3の抵抗率の優劣を判定できる。従って、上述のように、絶縁基板1が備えるTi膜2上に形成した純Cu膜3の抵抗率を定義した。
【0065】
実施例1〜12及び比較例1〜9の各サンプルを用いて、スパッタリングを行い、絶縁基板1上に形成した純Cu膜3の抵抗率、及び絶縁基板1が備えるTi膜2上に形成した純Cu膜3の抵抗率の測定結果をそれぞれ、表1に示す。
【0066】
<異常放電の発生回数の評価>
実施例1〜12及び比較例1〜9の各試料から切り出したサンプルを用いて、スパッタリングにより絶縁基板1上又は絶縁基板1が備えるTi膜2上に純Cu膜3を形成する際、各サンプルに発生した異常放電(アーク)の回数(頻度)を測定した。異常放電の発生回数の測定は、
図4に示すような検出装置システム(アークモニタ)により行った。すなわち、異常放電の発生回数の測定は、スパッタリング時の絶縁基板1に接続される基板電極と、銅ターゲット材4である各サンプルに接続されるカソード電極との間に印加される電流と電圧とをモニタして異常放電の発生を判定してカウントすることで行った。表3に、異常放電の発生回数を測定した際のスパッタリング条件を示す。
【0067】
【表3】
【0068】
表3に示すように、異常放電の発生回数の測定は、スパッタリングを行うチャンバ内の圧力を0.5Paとし、投入パワーを2kW(DC)とし、プロセスガスとしてアルゴン(Ar)ガスを用い、スパッタリング時間を連続1時間として行った。スパッタリング時間を1時間とすることで、サンプルである銅ターゲット材のエロージョン深さが約2mmとなる。また、投入パワーを2kWと強めのパワーとしたのは、異常放電を発生させやすくしつつ、長時間(1時間)のスパッタリングにより、絶縁基板1又は絶縁基板1が備えるTi膜2上に形成された純Cu膜3の温度が上昇して、純Cu膜3が絶縁基板1又は絶縁基板1が備えるTi膜2から剥がれることがない極限のパワーであるからである。また、スパッタリング開始後30秒間のプリスパッタリングで発生した異常放電は、大気に触れた影響で発生した可能性があるため、異常放電の発生回数にはカウントしなかった。
【0069】
実施例1〜12及び比較例1〜9の各サンプルを用いてスパッタリングを行った際に発生した異常放電の発生回数を、表1に示す。
【0070】
[総合評価]
表1から、平均結晶粒径が0.07mm以上0.20mm以下であり、(111)面、(200)面、(220)面及び(311)面以外の結晶面であるその他の面の面積率が15%以下である実施例1〜12の各試料を用いてスパッタリングを行うと、絶縁基板1が備える下地層としてのTi膜2上に結晶性が良好で低抵抗な純Cu膜3を形成できることを確認した。すなわち、実施例1〜12の各試料を銅ターゲット材4として用いてスパッタリングを行い、絶縁基板1が備えるTi膜2上に形成した純Cu膜3の抵抗率は2.1μΩcm以下と低くなることを確認した。また、実施例1〜12の各試料は、スパッタリングを行った際に発生した異常放電回数も1回以下と少ないことを確認した。
【0071】
また、実施例1〜5、実施例7及び実施例11から、平均結晶粒径が0.07mm以上0.15mm以下であると、異常放電の発生回数が0回となることを確認した。さらに、実施例3〜5、実施例7及び実施例11から、平均結晶粒径が0.1mm以上0.15mm以下であると、平均結晶粒子径が0.1mm未満である実施例1及び実施例2と比べて、Ti膜2上に形成した純Cu膜3の抵抗率が低くなることを確認した。すなわち、実施例3〜5、実施例7及び実施例11から、平均結晶粒径が0.1mm以上0.15mm以下であると、異常放電の発生回数を低減できるとともに、Ti膜2上に形成した純Cu膜3の抵抗率をより低くできることを確認した。これらの結果から、銅ターゲット材4の平均結晶粒径が大きくなるほど、銅ターゲット材4がスパッタされることで原子を放出しやすく、絶縁基板1が備えるTi膜2上の純Cu膜3の抵抗率を低くできるが、銅ターゲット材4に異常放電が発生しやすくなることを確認した。これに対し、銅ターゲット材4の平均結晶粒径が小さくなるほど、銅ターゲット材4に異常放電が発生しにくくなるが、銅ターゲット材4がスパッタされにくくなるため、原子を放出しにくくなり、絶縁基板1が備えるTi膜2上に形成する純Cu膜3の抵抗率が高くなることを確認した。
【0072】
比較例1〜9から、平均結晶粒径が0.07mm未満である又は0.20mmを超え、さらに(111)面、(200)面、(220)面及び(311)面以外の結晶面であるその他の面の面積率が15%を超えると、比較例1〜9の各試料を用いてスパッタリングを行い、Ti膜2上に形成した純Cu膜3を形成した際、純Cu膜3の抵抗率が高くなることを確認した。すなわち、純Cu膜3の抵抗率が2.2μΩcmを超えることを確認した。
【0073】
また、平均結晶粒径及び(111)面の面積率が同程度であるが、その他の面の面積率が大きく異なる実施例5と比較例6とを比較すると、Ti膜2上に形成した純Cu膜3の抵抗率が大きく異なることを確認した。すなわち、実施例5ではTi膜2上に形成した純Cu膜3の抵抗率が2.02μΩcmであったのに対し、比較例6では2.28μΩcmであった。また、実施例11と比較例9とを比較した場合も、同様の結果が得られていることを確認した。これらの結果から、銅ターゲット材4のスパッタリング面には、銅(Cu)の主要面である(111)面、(200)面、(220)面及び(311)面が多く配向されているほど、すなわち、「その他の面」の面積率が小さくなるほど、絶縁基板1が備える下地層としてのTi膜2上に、結晶性が良く低抵抗である金属薄膜(純Cu膜3)を形成できることを確認した。