(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6096093
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】ラミネート古紙を含む古紙の再生処理方法
(51)【国際特許分類】
D21B 1/32 20060101AFI20170306BHJP
D21C 5/02 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
D21B1/32
D21C5/02
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-217404(P2013-217404)
(22)【出願日】2013年10月18日
(65)【公開番号】特開2015-78469(P2015-78469A)
(43)【公開日】2015年4月23日
【審査請求日】2015年10月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241810
【氏名又は名称】北越紀州製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098899
【弁理士】
【氏名又は名称】飯塚 信市
(72)【発明者】
【氏名】峯島 克史
(72)【発明者】
【氏名】谷本 浩規
(72)【発明者】
【氏名】岡村 有心
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 泰伸
(72)【発明者】
【氏名】澤崎 寛暢
【審査官】
平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−159865(JP,A)
【文献】
特開平10−096182(JP,A)
【文献】
特開平05−209383(JP,A)
【文献】
特開平04−163383(JP,A)
【文献】
特開平04−222284(JP,A)
【文献】
特開2004−068175(JP,A)
【文献】
特開2002−138380(JP,A)
【文献】
特開平04−163385(JP,A)
【文献】
特開平06−228894(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00〜D21J7/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラミネート古紙を含む古紙と、水と、アルカリ剤とをパルパーに入れ、離解処理を行う離解ステップと、
該パルパーに希釈水を注入して離解により得られたパルプスラリーを希釈し、希釈されたパルプスラリーをストレーナを通して濾過する濾過ステップと、
前記濾過されたパルプスラリーを濃縮機で濃縮してスラリー濃度が3.5〜6質量%の濃縮パルプスラリーとする濃縮ステップと、
前記濃縮パルプスラリーをスクリーンにより除塵して除塵パルプスラリーを得る除塵ステップと、
前記除塵パルプスラリーを脱水後、ニーディングによって分散処理を行うニーディングステップと、
を有し、
前記ラミネート古紙を含む古紙は、ラミネート古紙を含む古紙と水とアルカリ剤との全量に対して10〜15質量%の範囲で投入する、ことを特徴とするラミネート古紙を含む古紙の再生処理方法。
【請求項2】
前記濾過ステップの後に、パルパー内に残存したパルプスラリーを希釈水で洗浄し、ストレーナを通して排出する1回若しくは2回以上の洗浄ステップを設け、
前記濃縮ステップの前には、前記濾過ステップにより得られたパルプスラリーと、前記洗浄ステップにより得られたパルプスラリーとを合わせてパルプスラリーの濃度を平均化させる平均化ステップが含まれる、ことを特徴とする請求項1に記載のラミネート古紙を含む古紙の再生処理方法。
【請求項3】
前記平均化ステップは、前記濾過ステップ及び前記洗浄ステップにて得られたパルプスラリーを貯留タンクに貯留することで行われることを特徴とする請求項2に記載のラミネート古紙を含む古紙の再生処理方法。
【請求項4】
前記離解ステップにおいて、アルカリ剤はラミネート古紙100質量部に対して固形分で0.3〜1質量部の範囲で用いられ、離解ステップに要する離解時間は25〜45分であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のラミネート古紙を含む古紙の再生処理方法。
【請求項5】
前記離解ステップにて用いられるパルパーの内部には、スクリューを有するローターが設けられており、前記ローターの回転速度は100〜180rpmの範囲であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のラミネート古紙を含む古紙の再生処理方法。
【請求項6】
前記除塵ステップと、前記ニーディングステップの間に更に脱水ステップが設けられ、前記パルプスラリーは、該脱水ステップにてスラリー濃度を20〜40質量%の範囲に調整された後にニーディングステップへと移行する、ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のラミネート古紙を含む古紙の再生処理方法。
【請求項7】
前記ニーディングステップの後に更にフローテーションによる脱墨ステップが設けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のラミネート古紙を含む古紙の再生処理方法。
【請求項8】
前記ラミネート古紙は、古紙全量に対して30質量%以上含まれていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のラミネート古紙を含む古紙の再生処理方法。
【請求項9】
前記パルパーに入れられる水は、50〜70℃の温水であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のラミネート古紙を含む古紙の再生処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラミネート古紙を含む古紙の再生処理方法及び再生処理装置に係り、更に詳しくは、比較的簡便な方法でパルプの収率を高く保ち、除塵を好適に行うことが可能なラミネート古紙を含む古紙の再生処理方法及び再生処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、資源の有効利用の観点から古紙の再生利用が行われており、紙及び板紙の生産原料としても古紙が用いられている。古紙の中でも新聞紙、中質紙、上質紙、及び塗工紙などの再生処理は広く実施されており、例えば、原料となる古紙を離解装置で離解し、スクリーン等で異物を除去し(粗選、精選)、必要に応じて脱墨や漂白を行うという方法がある。また、これら一連の古紙再生工程の途中でニーディングによる分散処理を施すことも従来技術として実施されている。
【0003】
ところで、古紙として利用できる紙の中には、紙にポリエチレンやポリプロピレンなどのプラスチックフィルムを貼り合わせたいわゆるラミネート紙も含まれている。ここでラミネート古紙とは、紙にプラスチックフィルムがラミネートされたものであり、プラスチックの種類としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、エチレン酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリウレタンなどが例示でき、ラミネートの方法もドライラミネーション、ウェットラミネーション、押し出しラミネーションの何れの方法で行われたものであっても良い。ラミネート古紙の一例としては、ミルクカートン等の飲料容器用ラミネート紙、ポリエチレンコート防湿紙、プリントラミネート紙などが挙げられる。通常、このようなラミネート紙は、全体の10〜20質量%をラミネートフィルムが占めている。ラミネート紙の基材となる紙の原料は白色度の高い針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)が主体であり、有効な処理方法があれば利用価値の高いパルプとすることができる。
【0004】
しかしながら、ラミネート紙の処理を新聞紙や上質紙等の一般的な古紙原料と同様の方法で行うと、離解工程において他の古紙には好適な機械的作用がラミネート紙には強すぎるため、過度の機械的作用によりプラスチックフィルムが小さく砕かれることで回収されるパルプ中に多量のプラスチック片が残存することとなり、抄紙機のワイヤーの目詰まりの原因となるなど抄紙機の操業性を悪化させる。また、このようなプラスチック片を含む古紙パルプで抄紙を行い紙中にプラスチック片が抄き込まれると、透明な異物となって紙の製品品質低下の原因にもなる。このようにラミネート古紙は、基材として白色度の高いNBKPが多く使用されているにも拘わらず上質紙等の上級紙には用いることが困難であるとして古紙としては主に下級用紙の原料として用いられており、ラミネート古紙の有効な再生処理方法が望まれていた。
【0005】
このようなラミネート古紙の再生処理方法として、特許文献1には、離解装置にラミネート紙とアルカリを添加し、スラリー濃度30%以上の高濃度でラミネート古紙を大きなフレーク状に離解して粗大異物を除去した後、更に熟成棟で30分以上の熟成を行い、次いで希釈水によってスラリー濃度を10%以下に希釈し、異物分離器でプラスチック異物を除去する方法が開示されている。また、特許文献2には、ラミネート古紙にアルカリを添加し、加温下でスラリー濃度10〜15%で離解し、粗選及び精選工程を経たのち、スラリー濃度0.5〜0.85%に希釈してパルプスラリー量に対する送入空気量の比を一定範囲とすることで浮選処理を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−163385号公報
【特許文献2】特開平6−228894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された技術は、スラリー濃度30%以上の高濃度でラミネート古紙を離解して粗大異物を除去する工程と、熟成棟で30分以上の熟成を行う工程と、希釈水により低濃度化したスラリーから異物分離器にて異物を除去する工程とがあり、比較的工程が多く、設備的にも負担の大きい方法であった。また、異物分離器にて異物を除去する工程では、希釈水によりパルプスラリーを低濃度化した上で異物分離器にて異物の除去を行っており、異物を除去したパルプスラリーはそのままのスラリー濃度で精選スクリーンに送られて精選されている。異物分離器にて異物を除去する場合に、異物の除去率とパルプの収率を高めるにはパルプスラリーはなるべく低濃度の方が好ましく、それ故、好ましくは3%以下のスラリー濃度に低下させることと記載されているが、その反面、精選スクリーンによる精選処理においては3%以下の低濃度のパルプスラリーをそのまま用いたのでは精選を効率的に行えないという問題がある。
【0008】
また、特許文献2に開示された技術では、ラミネート古紙を離解して得たパルプスラリーを粗選及び精選をした後に浮選処理によってプラスチック片を除去しているが、この方法ではプラスチック片の除去が十分ではなかった。即ち、ラミネート古紙から分離されたプラスチック片は一般的に薄いフィルム状のものであり、比較的面積の大きなものでもその薄さから精選工程でのスクリーンを通過することがある。精選工程でのスクリーンを通過したプラスチック片は浮選処理で一部は取り除くことができるが、比較的面積の大きなものはこのような方法では取り除くことが難しく、結果的に得られた製紙用原料にはプラスチック片が混入し、品質的に満足できるものではなかった。
【0009】
本発明はこのような問題を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、設備的な負担の少ない簡便な方法でありながらもラミネート古紙の単位時間あたりの処理量及びパルプの収率が高く、パルプスラリーの除塵やニーディングによる分散処理を好適に行うことが可能なラミネート古紙を含む古紙の再生処理方法、及び再生処理装置を提供することにある。
【0010】
また、本発明の他の目的とするところは、ラミネートフィルム異物の混入の少ない製紙原料を得ることが可能なラミネート古紙を含む古紙の再生処理方法、及び再生処理装置を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的並びに作用効果については、以下の記述を参照することにより、当業者であれば容易に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明に係るラミネート古紙を含む古紙の再生処理方法は、ラミネート古紙を含む古紙と、水と、アルカリ剤とをパルパーに入れ、離解処理を行う離解ステップと、該パルパーに希釈水を注入して離解により得られたパルプスラリーを希釈し、希釈されたパルプスラリーをストレーナを通して濾過する濾過ステップと、前記濾過されたパルプスラリーを濃縮機で濃縮してスラリー濃度が3.5〜6質量%の濃縮パルプスラリーとする濃縮ステップと、前記濃縮パルプスラリーをスクリーンにより除塵して除塵パルプスラリーを得る除塵ステップと、前記除塵パルプスラリーを脱水後、ニーディングによって分散処理を行うニーディングステップと有し、前記ラミネート古紙を含む古紙は、ラミネート古紙を含む古紙と水とアルカリ剤との全量に対して10〜15質量%の範囲で投入する、ことを特徴とする。
【0013】
このような構成によれば、離解時にラミネート古紙と水等の割合が適切であるためにパルプとラミネートフィルムが効率的に分離され、しかもラミネートフィルムが微細になりにくい。また、パルパーからパルプスラリーを取り出す前に希釈水でパルプスラリーを希釈することで、ストレーナ通過時に目詰まりが起こりにくく効率的に濾過を行うことが出来る。更に、希釈されたパルプスラリーを除塵ステップの前に濃縮することで除塵に適したスラリー濃度とすることができ、除塵ステップにおける除塵効率が向上する。また、ニーディングステップの前に脱水処理を行うことで、パルプスラリーを分散処理に適したスラリー濃度とすることができ、分散処理時の効率が向上する。これらの理由により、設備的な負担が少ないにも拘わらず、ラミネート古紙の単位時間あたりの処理量及びパルプの収率が高く、ラミネートフィルム異物の混入の少ない製紙原料を得ることができる。
【0014】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記濾過ステップの後に、パルパー内に残存したパルプスラリーを希釈水で洗浄し、ストレーナを通して排出する1回若しくは2回以上の洗浄ステップを設け、前記濃縮ステップの前には、前記濾過ステップにより得られたパルプスラリーと、前記洗浄ステップにより得られたパルプスラリーとを合わせてパルプスラリーの濃度を平均化させる平均化ステップが含まれてもよい。
【0015】
このような構成によれば、濾過後にパルパー内を洗浄することでパルパー内に残存したパルプスラリーを無駄なく回収することができ、パルプの収率が向上する。また、これと併せて平均化ステップを設けたことで濃縮機に供されるパルプスラリーの濃度がばらつきにくくなるために、スラリー濃度が細々と変わる場合と比べて濃縮機の設定の手間が省け効率的に再生処理が行える。
【0016】
また、本発明の好ましい実施の形態においては、前記平均化ステップは、前記濾過ステップ及び前記洗浄ステップにて得られたパルプスラリーを貯留タンクに貯留することで行われてもよい。このような構成によれば、希釈水の投入により濃度の異なるパルプスラリーについて、貯留タンクに一時的に貯えるという設備的にも負担の少ない手段で濃度の平均化を実行できる。
【0017】
また、本発明の好ましい実施の形態においては、記離解ステップにおいて、アルカリ剤はラミネート古紙100質量部に対して固形分で0.3〜1質量部の範囲で用いられ、離解ステップに要する離解時間は25〜45分であるようにしてもよい。
【0018】
このような構成によれば、古紙としての離解は十分に行われながらも、ラミネートフィルムは過度に微細化されないために取り除きやすく、よりラミネートフィルム異物の混入の少ない製紙原料を得ることができる。
【0019】
また、本発明の好ましい実施の形態においては、前記離解ステップにて用いられるパルパーの内部には、スクリューを有するローターが設けられており、前記ローターの回転速度は100〜180rpmの範囲であってもよい。
【0020】
このような構成によれば、スクリューの剪断力によりラミネート古紙の離解処理を効率的に行うことができ、ラミネート古紙を含む古紙から製紙原料を効率的に得ることができる。
【0021】
また、本発明の好ましい実施の形態においては、前記除塵ステップと、前記ニーディングステップの間に更に脱水ステップが設けられ、前記パルプスラリーは、該脱水ステップにてスラリー濃度を20〜40質量%の範囲に調整された後にニーディングステップへと移行するものであってもよい。
【0022】
このような構成によれば、ニーディング処理を行う前にスラリー濃度を上述の範囲に調整することで、ニーディング処理をより効率的に行うことができる。
【0023】
また、本発明の好ましい実施の形態においては、前記ニーディングステップの後に更にフローテーションによる脱墨ステップが設けられていてもよい。
【0024】
このような構成によれば、脱墨を行うと共にニーディング処理で微細化されたラミネートフィルムの除去を行うことができ、更にラミネートフィルム異物の混入の少ない製紙原料を得ることができる。
【0025】
また、本発明の好ましい実施の形態においては、前記ラミネート古紙は、古紙全量に対して30質量%以上含まれていてもよい。このような構成によれば、古紙全量に対するラミネート古紙の割合が比較的多いため、本発明による再生処理方法の効果がより顕著に表れる。
【0026】
また、本発明の好ましい実施の形態においては、前記パルパーに入れられる水は、50〜70℃の温水であってもよい。このような構成によれば、パルプの離解が促進され、短時間の離解処理が可能となることから、ラミネートフィルムの微細化を抑制することができる。
【0027】
また、本願発明は別の側面から見ると、ラミネート古紙を含む古紙の再生処理装置としても捉えることができる。
【0028】
本発明に係るラミネート古紙を含む古紙の再生処理装置は、離解処理を行うためのパルパーと、前記パルパーにて離解処理されたパルプスラリーを濾過するためのストレーナと、前記ストレーナで濾過されたパルプスラリーをスクリーンに通過させて除塵する除塵機とを有するものであって、前記ストレーナから前記除塵機へ向うパルプスラリーの経路には、前記ストレーナで濾過されたパルプスラリーを濃縮するための濃縮機が介在されている、ことを特徴とするものである。
【0029】
このような構成によれば、上記本発明に係る再生処理方法を容易に行うことができ、ラミネート古紙の単位時間あたりの処理量及びパルプの収率が高く、加えてラミネートフィルム異物の混入の少ない製紙原料が得られる。
【0030】
また、本発明の好ましい実施の形態に於いては、前記パルパーと除塵機の間には、パルプスラリーを一時的に貯め置くための貯留タンクが設けられていてもよい。このような構成によれば、希釈水によるパルパーの洗浄等によりパルプスラリーの濃度が時々刻々と変わる場合であっても、貯留タンクに一時的に貯えるという設備的にも負担の少ない手段でパルプスラリーの濃度を平均化することができる。
【0031】
また、本発明の好ましい実施の形態においては、前記除塵機で除塵されたパルプスラリーの流出経路には、脱水機と分散処理機とが順に設けられているものであってもよい。
【0032】
このような構成によれば、更に効率的にラミネートフィルム異物を取り除くことができ、よりラミネートフィルム異物の混入の少ない製紙原料を得ることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、設備的な負担の少ない簡便な方法でありながらもラミネート古紙の単位時間あたりの処理量及びパルプの収率が高く、パルプスラリーの除塵やニーディングによる分散処理を好適に行うことが可能である。
【0034】
また、本発明に係る再生処理方法、又は再生処理装置によれば、ラミネートフィルム異物の混入の少ない製紙用パルプを得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図2】本発明に係るラミネート古紙を含む古紙の再生処理方法のフローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下において本発明に係るラミネート古紙を含む古紙の再生処理方法の実施形態の一例を、図面を参照して説明する。
図1にはパルパーの構成の一例が、
図2には本発明に係るラミネート古紙を含む古紙の再生処理方法のフローが示されている。
【0037】
図1において、パルパー1はタブ2内の底部付近にスラリーに回流を与えるスクリューを有するローター3を回転可能に備え、このローター3に近接して直径4〜20mm程度の円孔又は楕円孔をもつストレーナ4が設けられ、ストレーナ4の下部を処理原料室5とし、処理原料室5に排出管6を連結し、またタブ2内の下方部に開閉バルブを備えたラミネートフィルム排出口7が設けられている。
【0038】
このようなパルパー1を用いたラミネート古紙を含む古紙の再生処理方法は、例えば次のように行われる。まずパルパー1にラミネート古紙を投入し、次いでアルカリ剤と温水とを注入してパルパー1内に原料を仕込む。ここでパルパー1へ投入する古紙としては、ラミネート古紙と、一般的なチラシ古紙や新聞古紙との混合物であってもよいが、ラミネート古紙の割合がおおよそ3割程度もあれば本発明の効果を享受でき、ラミネート古紙の割合が高いほど本発明の効果をより享受しやすくなる。
【0039】
パルパー1へ添加するアルカリ剤はラミネート古紙に対して、固形分で0.3〜1質量%となるように投入することが好ましく、アルカリ剤はパルプをふやけさせることができるものであればよく、その中でも苛性ソーダを用いることが好ましく、場合によっては市販の離解促進剤等を用いてもよい。また、パルパー1に注入する温水の温度は50〜70℃の範囲とすることが好ましく、その注入量は、パルパー1内のスラリー濃度が10〜15質量%となるようにし、11〜14質量%となるようにすればより好ましい。
【0040】
こうしてパルパー1内に原料を仕込んだ後、スクリューを有するローター3を回転させてラミネート古紙の離解を行う。離解濃度が10質量%未満の場合には、スクリューを有するローター3を回転させることにより生じたスラリー中の回流による剪断力がラミネート古紙に伝わりにくくなるためか、長時間の離解処理を行わないとラミネート古紙が十分に離解されないが、離解処理に長時間をかけるとラミネートフィルムの微細化が促進され、結果的に得られたパルプは微細なラミネートフィルムの異物が多く混入するものとなる。また、離解濃度が低く長時間の離解処理が必要であるということは、単位時間あたりのラミネート古紙の処理量が少なくなるということであり、生産効率を悪化させるおそれもある。その一方で、離解濃度が15質量%を超えると、濃度の高さからラミネート古紙の均一な離解が困難となり、この場合にも結果的に離解時間が長時間となり、また、得られたパルプには微細なラミネートフィルムの異物が多く混入するものとなる。
【0041】
離解時間は25〜45分程度が好ましく、離解時間が短すぎるとラミネート古紙の離解が不十分となり、逆に離解時間が長すぎるとラミネートフィルムが過度に微細化され好ましくない。また、スラリーに回流を与えるスクリューを有するローター3は、高濃度パルパー用のものが好ましく、離解時の回転速度は100〜180rpm程度とすればよい。なお、ここで「離解時間」とは、攪拌を開始してから攪拌を終了するまでの時間を意味する。
【0042】
また、この例において、スクリューを有するローター3はパルプスラリーの攪拌を行うことを目的としたものであるため、攪拌を行えるのであればスクリュー型に限定するものではなく、棒状、プロペラ型、円盤状等の構成のものを使用してもよい。
【0043】
こうしてラミネート古紙にアルカリ剤乃至離解促進剤を加えて攪拌することで、ラミネートフィルムがパルプから剥がれてラミネートフィルムとパルプとに分離される。離解によって分離されたもののうち粗大なラミネートフィルムは、ラミネートフィルム排出口7より排出され、パルプと微少なラミネートフィルムは、排出管6を開放することによってストレーナ4を通過して処理原料室5に至り、排出管6より排出される。
【0044】
ここで、離解処理を終えたパルパー1内のスラリー濃度は10〜15質量%と比較的高いことから、そのままの濃度で排出管6を開放すると、ストレーナ4に目詰まりが生じてしまうおそれがある。そのため、本発明においては排出管6を開放してパルプスラリーを排出する際には、パルパー1に希釈水を注水し、スラリー濃度を低下させてから排出を行う。ここでパルパー1への希釈水の注水量や注水方法は特に限定されるものではなく、パルパー1内のパルプをなるべく多く排出できるように行えばよい。例えば、スラリー濃度が5〜7質量%となるようにパルパー1内に希釈水を注水した後、一旦注水を止めてから排出管6を開放してパルプスラリーを排出し、ある程度パルパー1からパルプスラリーが排出された時点で再度希釈水を注水するといったような方法を用いてもよい。このように希釈水の注水とパルプスラリーの排出を何度か繰り返すことでパルパー1内のパルプをより多く排出することができる。即ち、離解後のパルパー1に希釈水を注水することにより、ストレーナ4の目詰まりの防止とパルプの収率向上とが同時に行える。
【0045】
なお、ストレーナ4の設置箇所はパルパー1内に限定されず、貯留タンク8を設ける場合であれば貯留タンク8の手前のいずれかの箇所、貯留タンク8を設けない場合であれば濃縮機9の手前のいずれかの箇所に設置すればよいが、ストレーナ4をパルパー1の外に設けると設備が無駄に大きくなってしまうため、ストレーナ4はパルパー1内に設けるのが望ましい。
【0046】
排出管6より排出したパルプスラリーは、一旦貯留タンク8に貯留される。貯留タンク8に貯留されたパルプスラリーは、パルパー1に注入した希釈水により低濃度となっているが、本発明においては、離解処理を終えたパルパー1内のスラリー濃度が10〜15質量%と比較的高いことから、パルパー1内のパルプがほぼすべて排出される程度に十分に希釈を行っても、貯留タンク8に貯留されたパルプスラリーの濃度は極端に低くはならない。貯留タンク8に貯留されたパルプスラリーの濃度は、通常であれば2〜3質量%、低い場合でも1質量%程度であるため、貯留タンク8の容量を比較的コンパクトにすることが可能となる。
【0047】
ここで貯留タンク8は必須の構成ではないものの、本発明ではパルパー1内からパルプを排出する際には希釈水で数回にわたって洗浄を行うためにパルパー1から排出されるパルプスラリーの濃度はその時々でバラバラであり、パルプスラリーをパルパー1から濃縮機9に直接送り込む構成にすると濃縮機9の設定を細々と変更しなければならず煩雑になる。そこで、パルパー1と濃縮機9の間に貯留タンク8を設けてここにパルパー1から排出されたパルプスラリーを一時的に留めるように構成することで貯留されたパルプスラリーの濃度が平均化されるため、濃縮機9の設定は貯留タンク8内で平均化されたパルプスラリー濃度に合わせればよく、操作の手間が省力化されるため好ましい。また、より効率的にパルプスラリーの均一化が行えるように、必要に応じて貯留タンク8内のパルプスラリーをミキサーや攪拌棒などで攪拌したり、貯留タンク8内にファンなどを設けてもよい。
【0048】
貯留タンク8に貯留されたパルプスラリーは、次いで濃縮機9で濃縮されてスラリー濃度が3.5〜6質量%の濃縮スラリーとされる。貯留タンク8に貯留したパルプスラリーは、ストレーナ4を通過した比較的小さなラミネートフィルムを含んでいるため、製紙の原料として用いるまでには除塵を行って比較的小さなラミネートフィルムを除去する必要があるが、除塵の際のパルプスラリーの濃度が適切でない場合にはその除去効率が低下するおそれがある。
【0049】
除塵を行う際にはスクリーンを用いるが、パルプスラリーの濃度が低いほどラミネートフィルムの除去効率は向上するものの、単位時間あたりのスクリーンでのパルプ処理量は少なくなる。即ち、パルプ処理量を増やすためにはスクリーンへ通すパルプの単位時間当たりの流量を増やす必要があるが、そうするとスクリーンの負荷が大きくなり、かえってラミネートフィルムの除去効率が悪くなるおそれがある。
【0050】
従って、スクリーンを用いて除塵を行う際に単位時間あたりのパルプの処理量とラミネートフィルムの除去効率を両立させるためには、パルプスラリーの濃度を適切な範囲にする必要があり、通常はスラリー濃度を3.5〜6質量%とする。しかしながら、貯留タンク8で貯留されたパルプスラリーの濃度は3質量%以下の低濃度であるため、このままスクリーンで除塵を行うと除塵効率が悪くなるおそれがある。従って、本発明においては、貯留タンク8に貯留したパルプスラリーを濃縮機9で濃縮し、スラリー濃度が3.5〜6質量%の濃縮パルプスラリーとした上でスクリーンでの除塵を行う。
【0051】
本発明においては、このようにして濃縮機9を用いて濃縮パルプスラリーを得ることにより、スクリーンでの除塵を効率よく行うことが可能となるが、同時に、離解後のパルパー1から排出するパルプの量を多くすることも可能となる。前述したように、本発明では、離解後のパルパー1に希釈水を注水することにより、ストレーナ4の目詰まりを防ぎ、パルパー1から排出されるパルプの量を多くすることができる。
【0052】
ラミネート古紙を離解すると、一般的なチラシ古紙や新聞古紙を離解した場合とは異なりその離解後のスラリーには多量のラミネートフィルムが含まれるが、このラミネートフィルムはストレーナ4の目詰まりを生じさせやすいことから、一般的なチラシ古紙や新聞古紙を離解した場合よりも多量の希釈水でスラリーの希釈を行わないとストレーナ4の目詰まりを防ぎ、パルパー1から排出するパルプの量を多くすることができない。換言すれば、ラミネート古紙の再生処理において、離解後のスラリーからパルプを多く得るためには、離解後のスラリーを十分に希釈する必要があるということになる。
【0053】
しかしながら、前述したように過度の希釈により低濃度化したパルプスラリーは、スクリーンでの除塵効率を低下させる問題がある。即ち、ラミネート古紙の再生処理において、スクリーンでの除塵を効率よく行うことと、離解後のパルプの収率を高くすることは、相反する関係にあった。
【0054】
そこで本発明においては、除塵処理に先んじて濃縮機9でパルプを濃縮して濃縮パルプスラリーとする工程を設けたことで、離解後のスラリーを十分に希釈しても後工程の除塵効率を低下させることがなく、パルパー1から排出するパルプの量の増加と除塵効率の両立を可能とした。
【0055】
本発明において用いる濃縮機9は特に限定するものではなく、1〜3質量%の濃度のパルプスラリーを3.5〜6質量%に濃縮可能な各種公知の濃縮機を用いることができる。その中でも比較的簡易な設備でありながらも濃度コントロールが容易な傾斜シックナーが好ましく、特に、スクリューコンベアを備えた傾斜シックナーが好ましい。
【0056】
次いで、濃縮機9で濃縮された濃縮パルプスラリーは、クッションタンク10を経て除塵装置11で除塵される。除塵装置11は粗選スクリーンが組み込まれたものが好ましく、また、粗選スクリーンと精選スクリーンを組み合わせた除塵装置であってもよい。
【0057】
除塵装置11で処理された除塵パルプスラリーからはある程度の大きさのラミネートフィルムは除去されているものの、除塵装置11で除去しきれなかった微小なラミネートフィルムが含まれる。除塵装置11が例え精選スクリーンを備えたものであっても、ラミネートフィルムは厚みが比較的薄いこともあり、精選スクリーンを通過する微小なラミネートフィルムが僅かながらも存在する。本発明においては、この除塵パルプスラリー中に僅かに残存した微小なラミネートフィルムを微細化させるために、除塵装置11で処理された除塵パルプスラリーを、ニーディングによって分散処理する。ニーディングによる分散処理は、ニーダーやディスパーザーでパルプを混練し、パルプスラリー中に含まれる異物を磨り潰すようにして細かくしたり、パルプから剥離したりするものである。ニーディングにより分散処理を行うことにより、除塵パルプスラリー中に含まれる微小なラミネートフィルムは更に細かく砕かれて微細なラミネートフィルムとなる。
【0058】
先にも述べたように、本発明において、パルパー1での離解時や、除塵装置11での処理時にパルプスラリー中に含まれるラミネートフィルムを微細化することは、ストレーナ4や除塵装置11でのラミネートフィルムの除去効率を悪化させ、結果的に回収した製紙用パルプスラリーにラミネートフィルムが多く残存することとなるため好ましいことではない。しかしながら、除塵装置11で処理された除塵パルプスラリー中に含まれるラミネートフィルムは僅かであることから、これらを微細化することで回収した製紙用パルプスラリーに残存したとしても目立たなくすることができる。本発明では、このような理由から、除塵装置11で処理された除塵パルプスラリーを分散処理機13でニーディングによる分散処理を行う。分散処理機13としてはニーダーやディスパーザーなどの古紙パルプ処理における公知の混練機を用いることができ、ニーディングによる分散処理と同時に洗浄水を用いてパルプを洗浄してもよい。パルプを洗浄することにより微細化したラミネートフィルムを除去することができる。
【0059】
ニーディングによる分散処理は、一般的なチラシ古紙や新聞古紙を処理する場合にもパルプからインキを剥離させる等の目的で用いられ、その際には、パルプの混練効率を高めるため、パルプスラリーの濃度を20〜40質量%とする。そのため、通常は、ニーディングによる分散処理を行う前のパルプスラリーを、シリンダープレスやパワーシックナー等の脱水機12で脱水する。本発明においても一般的なチラシ古紙や新聞古紙を処理する場合と同様に、ニーディングによる分散処理を行う前のパルプスラリーの濃度を20〜40質量%とする。即ち、除塵装置11で処理された除塵パルプスラリーを、脱水機12にかけて脱水し、濃度を20〜40質量%、好ましくは25〜35質量%とした後のパルプスラリーを分散処理機13でニーディングによる分散処理を行う。脱水機12としては前述したとおりシリンダープレスやパワーシックナー等の公知の脱水機を用いることができる。
【0060】
本発明においては、この脱水機12による脱水時にも、濃縮機9で濃縮パルプスラリーを得たことによる効果を享受できることとなる。脱水機12では、所定の濃度のパルプスラリーを得るために脱水の度合いをコントロールすることとなるが、脱水処理前の除塵パルプスラリーの濃度が低い場合には、所望する濃度のパルプスラリーを得るために脱水に係る負荷を高めたり、処理速度を遅くして脱水時間を長くするなどの必要がある。また、脱水機によっては、低濃度のパルプスラリーであると20質量%以上の濃度にまで脱水できない場合もある。しかしながら、本発明においては、濃縮機9により濃縮パルプスラリーの濃度を3.5〜6質量%としているため、除塵装置11で処理された除塵パルプスラリーの濃度も比較的高く、脱水機12でのパルプスラリーの脱水もより効率的に行うことができる。
【0061】
ニーディングによる分散処理を経たパルプは、そのまま製紙用パルプとして用いても良いが、更に精選スクリーンを用いて除塵し、最終的な製紙用パルプとすることもできる。また、必要に応じてニーディングによる分散処理と精選スクリーンを用いた除塵との間に、フローテーションによる脱墨処理を挟んでもよい。フローテーションによる脱墨処理を行うことにより、脱墨と同時に分散処理機13で微細化したラミネートフィルムの除去も行うことができる。
【0062】
一般的なラミネート古紙の再生処理方法を用いた場合のラミネート古紙からの古紙パルプの収率は高くても78%程度だが、本発明に係る再生処理方法を用いると約83%という高い収率が得られる。なお、ここで古紙パルプの収率は、投入したラミネート古紙の重量を100%とし、これから排出されたラミネートフィルムの重量を引いたものを回収した古紙パルプの重量として計算したものである。例えば、1000kgのラミネート古紙を投入して200kgのラミネートフィルムが排出されたのであれば、回収されるパルプの重量は800kgであり収率は80%となる。
【0063】
本発明においては、濃縮機による濃縮工程を設けたことで、パルパーからパルプを取り出す際に大量の希釈水を用いてパルパー内を流すことができるため、一般的な再生処理方法と比べて収率が5%程度高くなるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上述べたように、本発明によればミルクカートン等からラミネートフィルムを効率的に取り除き質の高いラミネート古紙を回収できるため、白色度の高いNBKPが多く使用されているラミネート古紙を有効に活用できる。
【符号の説明】
【0065】
1 パルパー
2 タブ
3 ローター
4 ストレーナ
5 処理原料室
6 排出管
7 ラミネートフィルム排出口
8 貯留タンク
9 濃縮機
10 クッションタンク
11 除塵装置
12 脱水機
13 分散処理機