(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2中間層は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ゲルマニウムのいずれかの金属または金属の水素化物からなる群より選択される少なくとも1種類を含むことを特徴とする請求項3に記載の積層体。
前記第2中間層は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ゲルマニウム、硼素、珪素、アルミニウム、クロム、インジウムまたは金属の酸化物もしくは水素化物からなる群より選択される少なくとも1種類を含むことを特徴とする請求項6に記載の積層体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、コールドスプレー法を用いてセラミックス基材に金属皮膜を形成させた積層体を作製する場合に、セラミックスと金属皮膜との間の密着強度が高く、かつ熱サイクル下でのセラミックス基材と金属皮膜との熱膨張差によるセラミックス基板の割れを防止しうる積層体、および絶縁性冷却板、パワーモジュールおよび積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる積層体は、絶縁性のセラミックス基材と、前記セラミックス基材の表面に形成された金属または合金を主成分とする中間層と、前記中間層の表面に、金属を含む粉体をガスと共に加速し、前記表面に固相状態のままで吹き付けて堆積させることによって形成された、気孔率が5〜15%の第1金属皮膜と、前記第1金属皮膜の表面に、前記第1金属皮膜を形成する金属と同一の金属を含む粉体をガスと共に加速し、前記表面に固相状態のままで吹き付けて堆積させることによって形成された、気孔率が0〜0.5%の第2金属皮膜と、を備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明にかかる積層体は、上記発明において、前記中間層は、金属または合金を主成分とし、前記第1金属皮膜側で層をなす第1中間層と、活性金属、または活性金属の酸化物もしくは水素化物からなり、前記第1中間層と接触すると共に、前記第1中間層と接触する面と異なる面で前記セラミックス基材と結合して積層される第2中間層と、を有し、前記第1中間層および前記第2中間層は、ろう材を前記セラミックス基材に塗布した後、熱処理することにより形成されることを特徴とする。
【0009】
また、本発明にかかる積層体は、上記発明において、前記中間層は、真空中で熱処理することによって形成されることを特徴とする。
【0010】
また、本発明にかかる積層体は、上記発明において、前記第2中間層は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ゲルマニウムのいずれかの金属または金属の水素化物からなる群より選択される少なくとも1種類を含むことを特徴とする。
【0011】
また、本発明にかかる積層体は、上記発明において、前記第1中間層は、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケルからなる群より選択される少なくとも1種類を含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明にかかる積層体は、上記発明において、前記中間層は、大気中で熱処理することによって形成されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明にかかる積層体は、上記発明において、前記第2中間層は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ゲルマニウム、硼素、珪素、アルミニウム、クロム、インジウムまたは金属の酸化物もしくは水素化物からなる群より選択される少なくとも1種類を含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明にかかる積層体は、上記発明において、前記第1中間層は、金または銀のうち少なくとも1種類を含むことを特徴とする。
【0015】
また、本発明にかかる積層体は、上記発明において、前記第1金属皮膜および前記第2金属皮膜は、銅、アルミニウム、またはこれらの金属の合金からなることを特徴とする。
【0016】
また、本発明にかかる積層体は、上記発明において、前記セラミックス基材はアルミナであることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の絶縁性冷却板は、上記のいずれか1つに記載の積層体からなる絶縁性冷却板であって、前記セラミックス基材は放熱部を有し、前記第1金属皮膜および前記第2金属皮膜は回路層であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明のパワーモジュールは、上記のいずれか1つに記載の積層体を有するパワーモジュールであって、前記セラミックス基材は絶縁基板であり、前記第1金属皮膜および前記第2金属皮膜は回路層であり、前記絶縁基板の前記第1金属皮膜および前記第2金属皮膜が形成された面と異なる面に、銅またはアルミニウムを主成分とする冷却板が形成されることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の積層体の製造方法は、セラミックス基材の表面に金属皮膜が形成された積層体の製造方法であって、前記セラミックス基材の表面に、金属または合金を主成分とする中間層を形成する中間層形成ステップと、前記中間層形成ステップによって形成された前記第1中間層の表面に、金属を含む粉体をガスと共に加速し、前記表面に固相状態のままで吹き付けて堆積させることによって、気孔率が5〜15%の第1金属皮膜を形成する第1金属皮膜形成ステップと、前記第1金属皮膜の表面に、前記第1金属皮膜を形成する金属と同一の金属を含む粉体をガスと共に加速し、前記表面に固相状態のままで吹き付けて堆積させることによって、気孔率が0〜0.5%の第2金属皮膜を形成する第2金属皮膜形成ステップと、を含むことを特徴とする。
【0020】
また、本発明にかかる積層体の製造方法は、上記発明において、前記中間層形成ステップは、前記セラミックス基材の表面に対して、ろう材を配設するろう材配置ステップと、前記ろう材配置ステップで前記ろう材が配設された前記セラミックス基材を熱処理することにより、前記第1中間層、および前記第1中間層と接触すると共に、前記第1中間層と接触する面と異なる面で前記セラミックス基材と結合して積層される第2中間層を有する中間層を形成する熱処理ステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明にかかる積層体、絶縁性冷却板、パワーモジュールおよび積層体の製造方法は、コールドスプレー法により、セラミックス基材側に気孔率の大きい第1金属皮膜を形成した後、該第1金属皮膜上に気孔率の小さい第2金属皮膜を形成することにより、第1金属皮膜がセラミックス基材との熱膨張差を緩和する緩衝層として機能すると共に、第2金属皮膜の高い熱伝導率により放熱効果に優れるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態を図面と共に詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により本発明が限定されるものではない。また、以下の説明において参照する各図は、本発明の内容を理解し得る程度に形状、大きさ、および位置関係を概略的に示してあるに過ぎない。すなわち、本発明は各図で例示された形状、大きさ、および位置関係のみに限定されるものではない。
【0024】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1にかかる積層体について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態1にかかる積層体である絶縁性冷却板を使用する電子回路基板の構成を示す模式図である。
図2は、
図1に示す絶縁性
冷却板の要部の構成を示す断面図である。
【0025】
電子回路基板1は、絶縁基板であるとともに冷却板としての機能を有するセラミックス基材10と、セラミックス基材10に積層された金属回路層20、金属回路層20上に積層され、半田C1によって固定されている半導体チップ30とを有する。
【0026】
セラミックス基材10は、絶縁性の部材からなり、半導体チップ30が実装される面と反対側の面に、放熱用の流体の流路が形成された放熱部を有する。実施の形態1では、セラミックス基材10としては、冷却板として機能させるべく、放熱性に優れたアルミナ、熱伝導性が高い窒化アルミニウムが使用されるが、これに限定されるものではない。本実施の形態1にかかる積層体は、後述する金属回路層20により熱サイクル下での熱応力を緩和できるので、耐熱衝撃性に劣るアルミナをセラミックス基材10の材料として使用した場合でも、熱応力による割れを防止することができる。
【0027】
金属回路層20は、セラミックス基材10に積層された第1金属皮膜である第1金属回路層21と、第1金属回路層21上に積層された第2金属皮膜である第2金属回路層22と、を有する。第1金属回路
層21および第2金属回路層22は、後述するコールドスプレー法により形成された金属皮膜層であり、例えば、銅、アルミニウム等の良好な電気伝導度を有する金属または合金からなる。第1金属回路
層21および第2金属回路層22には、半導体チップ30などに対して電気信号を伝達させるための回路パターンが形成されている。
【0028】
半導体チップ30は、ダイオード、トランジスタ、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)等の半導体素子によって実現される。なお、半導体チップ30は、使用の目的に合わせてセラミックス基材10上に複数個設けられてもよい。
【0029】
セラミックス基材10と第1金属回路層21との間は、
図2に示すような中間層50が形成されている。中間層50は、第1金属回路層21側に形成される第1中間層51と、セラミックス基材10側に形成される第2中間層52とを有する。
【0030】
第1中間層51は、アルミニウム、ニッケル、銅、銀、金のいずれかにより形成される。第1中間層51は、第2中間層52との接触面と異なる面で第1金属回路層21の材料である金属または合金と金属結合を形成する。
【0031】
第2中間層52は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ゲルマニウム、硼素、珪素、アルミニウム、クロム、インジウム、バナジウム、モリブデン、タングステン、マンガンのいずれか、またはこれらの酸化物、水素化物により形成される。第2中間層52は、第1中間層51との接触面と異なる面でセラミックス基材10の材料と共有結合を形成する。
【0032】
つづいて、電子回路基板1の中間層50の形成について、
図3および
図4を参照して説明する。
図3は、電子回路基板1における中間層の形成を模式的に示す断面図である。
図4は、金属回路層の形成に使用されるコールドスプレー装置の概要を示す模式図である。
【0033】
まず、
図3(A)に示すように、セラミックス基材10の一方の表面に対して、スクリーン印刷法によって中間層50として用いられるろう材50aを塗布する。ここで、ろう材50aは、第1中間層として用いられる金属または合金、および第2中間層として用いられる金属、または金属の酸化物、水素化物等を含み、有機溶剤および有機バインダーが混合されたペースト状をなす。有機溶剤としてはメチルセルソルブ、エチルセルソルブ、イソホロン、トルエン、酢酸エチル、テルピネオール、ジエチレングリコール・モノブチルエーテル、テキサノール等が使用可能であり、有機バインダーとしては、ポリイソブチルメタクリレートなどのアクリル樹脂や、エチルセルロース、メチルセルロース等の高分子化合物が使用可能である。有機溶剤および有機バインダーの混合割合は、3〜20質量%とすることが好ましく、好適には5〜15質量%である。
【0034】
ろう材50aの塗布後、800〜1000℃の真空中または大気中で1時間熱処理する。1時間熱処理した後、ろう材50aは、
図3(B)に示すように、第1中間層51と第2中間層52とに分離した状態の中間層50となる。
【0035】
ここで、真空中で熱処理する場合、第1中間層51は金、銀、銅、アルミニウム、またはニッケルから選択される少なくとも1種の材料から形成され、第2中間層52は
、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、もしくはゲルマニウム、またはこれらの金属の水素化物から選択される少なくとも1種の材料から形成される。
【0036】
また、大気中で熱処理する場合、第1中間層51は金、または銀から選択される少なくとも1種の材料から形成され、第2中間層52はチタン、ジルコニウム、ハフニウム、ゲルマニウム、硼素、珪素、アルミニウム、クロム、インジウム、バナジウム、モリブデン、タングステン、もしくはマンガン、またはこれらの金属の酸化物もしくは水素化物から選択される少なくとも1種の材料から形成される。第2中間層52は、活性成分層をなす。真空中または大気中で熱処理して中間層を形成する場合、真空中または大気中での熱処理に対応し、上記した材料からなる第1中間層51および第2中間層52を形成するろう材50aを適宜使用すればよい。
【0037】
なお、大気中で熱処理することにより形成される第1中間層51は、大気中で溶解しても酸化しない金属であれば、第1中間層51の材料として適用可能である。また、大気中で熱処理することにより形成される第2中間層52は、珪素、カルシウム、チタン、ジルコニウムの窒化物、炭素化物および水素化物を用いることもできる。上述した第1中間層51および第2中間層52の組み合わせであれば、いかなる組み合わせでも適用可能である。第1中間層および第2中間層は、列挙した金属、または金属の酸化物もしくは水素化物のうち、少なくとも1つを含む。また、列挙した金属のいずれかを主成分とする合金を用いることも可能である。
【0038】
ろう材50aを熱処理して、第1中間層51と第2中間層52とに分離した中間層50を形成し、第1中間層51が外部に露出した状態で、第1中間層51の露出側の表面にコールドスプレー法を用いて第1金属回路層21および第2金属回路層22を形成する。コールドスプレー法による皮膜形成は、
図4に示すコールドスプレー装置60によって行われる。
【0039】
コールドスプレー装置60は、圧縮ガスを加熱するガス加熱器61と、被溶射物に溶射する粉末材料を収容し、スプレーガン64に供給する粉末供給装置62と、スプレーガン64で加熱された圧縮ガスと混合された材料粉末を基材に噴射するガスノズル63とを備えている。
【0040】
圧縮ガスとしては、ヘリウム、窒素、空気などが使用される。供給された圧縮ガスは、バルブ65および66により、ガス加熱器61と粉末供給装置62にそれぞれ供給される。ガス加熱器61に供給された圧縮ガスは、例えば50〜1000℃に加熱された後、スプレーガン64に供給される。より好ましくは、セラミックス基材10に積層された第2中間層52および第1中間層51上に噴射される金属材料粉末の上限温度を、金属材料の融点以下に留めるように圧縮ガスを加熱する。粉末材料の加熱温度を金属材料の融点以下に留めることにより、金属材料の酸化を抑制できるためである。
【0041】
粉末供給装置62に供給された圧縮ガスは、粉末供給装置62内の、例えば、粒径が10〜100μm程度の材料粉末をスプレーガン64に所定の吐出量となるように供給する。材料粉末は、アトマイズ法、粉砕法等の機械的プロセス、または各種化学的プロセスにより製造されたいずれのものも使用可能である。加熱された圧縮ガスは先細末広形状をなすガスノズル63により超音速流(約340m/s以上)にされる。スプレーガン64に供給された粉末材料は、この圧縮ガスの超音速流の中への投入により加速され、固相状態のまま基材に高速で衝突して皮膜を形成する。なお、材料粉末を基材に固相状態で衝突させて皮膜を形成できる装置であれば、
図4のコールドスプレー装置60に限定されるものではない。
【0042】
第1中間層51上に積層される第1金属回路層21は、気孔率が5〜15%である。第1金属回路層21の気孔率は、第1金属回路層21の断面の電子写真について、気孔を黒、第1金属回路層21の金属部分を白とする二元化する画像処理を行い、第1金属回路層21に対する気孔の割合により算出した。気孔率が5〜15%である第1金属回路層21は、コールドスプレー法により第1金属回路層21を形成する際の圧縮ガスの温度および圧力を調整することにより形成することができる。第1金属回路層21を積層する際の圧縮ガスの温度は、例えば、第1金属回路層21および第2金属回路層22が銅粉末により形成される場合、200℃〜600℃であることが好ましく、300℃〜500℃が特に好ましい。また、第1金属回路層21を積層する際の圧縮ガスの圧力は、例えば、第1金属回路層21および第2金属回路層22が銅粉末により形成される場合、1.5MPa〜2.5MPaであることが好ましい。圧縮ガスの温度および圧力を上記範囲とすることにより、気孔率を5〜15%とすることができ、第1金属回路層21は、セラミックス基材10と第2金属回路層22との間の熱膨張差を緩衝することができる。
【0043】
第1金属回路層21上に積層される第2金属回路層22は、気孔率が0〜0.5%である。第2金属回路層22の気孔率は、0〜0.1%であることが特に好ましい。第2金属回路層22の気孔率は、第1金属回路層21と同様に、第2金属回路層22の断面の電子写真における気孔の面積の割合により算出すればよい。気孔率が0〜0.5%である第2金属回路層22は、コールドスプレー法により第2金属回路層22を形成する際の圧縮ガスの温度および圧力を調整することにより形成することができる。第2金属回路層22を積層する際の圧縮ガスの温度は、例えば、第1金属回路層21および第2金属回路層22が銅粉末により形成される場合、600℃〜1000℃であることが好ましく、700℃〜900℃が特に好ましい。また、第2金属回路層22を積層する際の圧縮ガスの圧力は、例えば、第1金属回路層21および第2金属回路層22が銅粉末により形成される場合、2.5MPa〜3.5MPaであることが好ましい。圧縮ガスの温度および圧力を上記範囲とすることにより、気孔率を0〜0.5%とすることができ、第2金属回路層22は、バルク金属と同程度の熱伝導度を示し、放熱性を向上することができる。また、第2金属回路層22は、気孔がほとんど形成されず緻密な表面を有するため、半田濡れ性がよく、半導体チップ30の接続不良を防止することができる。
【0044】
また、第2金属回路層22の表面の算
術平均粗さ(Ra)は、10μm以下であることが好ましい。10μm以下であることにより、半田濡れ性が向上するためである。第2金属回路層22の表面の算
術平均粗さ(Ra)は、5μm以下が更に好ましく、1μm以下が特に好ましい。第2金属回路層22の表面の算
術平均粗さ(Ra)を1μm以下とするためには、第2金属回路層22をコールドスプレー法により積層後、切削加工すればよい。本実施の形態において、第2金属回路層22の表面の算
術平均粗さ(Ra)が、10μm以下であれば半田付けにより半導体チップ30を実装可能であるが、第2金属回路層22表面を切削加工して算術平均荒さ(Ra)を1μm以下とすることにより、半導体チップ30の接続不良の発生をさらに低減することができる。また、表面の切削により、第2金属回路層22の酸化層を除去できるので、電気抵抗の上昇および熱伝導率の低下を防止することができる。
【0045】
実施の形態1にかかる
電子回路基板1は、上述したコールドスプレー装置60によって、
図1、2に示すような第1金属回路層21および第2金属回路層22が形成される。なお、実施の形態1において使用するろう材50aは、有機溶剤および有機バインダーが混合されたペースト状をなすものとして説明したが、第1中間層51を形成する金属または合金、および第2中間層52を形成する金属または金属の酸化物、水素化物等を含んでいれば、箔状をなすものであってもよい。
【0046】
上述した実施の形態1によれば、セラミックス基材と金属回路層との密着性を向上するとともに、セラミックス基材と金属回路層との熱膨張率差により発生する熱応力を、所定の割合で気孔を有する第1金属回路層により緩和しうるため、熱サイクル下においてもセラミックス基材の割れを防止することができる。また、実施の形態1では、半導体チップを実装する第2金属回路層の表面の粗さが小さいため、半田濡れ性がよく、実装不良等の発生も抑制できるという効果を奏する。
【0047】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2にかかる積層体について、図面を参照して詳細に説明する。
図5は、本発明の実施の形態2にかかる積層体を含むパワーモジュールの構成を示す模式図である。
図6は、
図5に示すパワーモジュールの要部の構成を示す断面図である。
【0048】
図5に示すパワーモジュール100は、絶縁基板であるセラミックス基材110と、セラミックス基材110の一方の面に形成された金属回路層120と、金属回路層120上に半田C2によって接合された半導体チップ130と、セラミックス基材110の金属回路層120とは反対側の面に設けられた冷却フィン140とを備える。
【0049】
実施の形態2において、セラミックス基材110は、絶縁性材料からなる略板状の部材であって、例えば、窒化アルミニウム、窒化珪素等の窒化物系セラミックスや、アルミナ、マグネシア、ジルコニア、ステアタイト、フォルステライト、ムライト、チタニア、シリカ、サイアロン等の酸化物系セラミックスが用いられる。
【0050】
金属回路層120は、コールドスプレー法によって形成された金属皮膜層であり、セラミックス基材110に積層された第1金属皮膜である第1金属回路層121と、第1金属回路層121上に積層された第2金属皮膜である第2金属回路層122と、を備える。第1金属回路層121および第2金属回路層122は、例えば銅等の良好な電気伝導度を有する金属または合金からなり、第1金属回路層121および第2金属回路層122は、半導体チップ130等に対して電気信号を伝達するための回路パターンを形成する。
【0051】
半導体チップ130は、実施
の形態1と同様に、ダイオード、トランジスタ、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)等の半導体素子によって実現される。なお、半導体チップ130は、使用の目的に合わせてセラミックス基材110上に複数個設けられても良い。
【0052】
冷却フィン140は、コールドスプレー法によって形成された金属皮膜層であり、セラミックス基材110に積層された第1金属皮膜141と、第1金属皮膜141上に積層された第2金属皮膜142と、を備える。第1金属皮膜141および第2金属皮膜142は、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、銀、銀合金等の良好な熱伝導性を有する金属または合金からなる。第1金属皮膜141および第2金属皮膜142からなる冷却フィン140を介して、半導体チップ130から発生した熱がセラミックス基材110を介して外部に放出される。
【0053】
図6に示すように、セラミックス基材110と第1金属回路層121との間、及びセラミックス基材110と第1金属皮膜141との間には、金属または合金を主成分とする中間層150が設けられている。中間層150は、第1金属回路層121および第1金属皮膜141側に形成される第1中間層151と、セラミックス基材110側に形成される第2中間層152とを有する。第1中間層151および第2中間層152は、実施の形態1の第1中間層51および第2中間層52と同様の構成を有し、セラミックス基材110の表面に対して、スクリーン印刷法によって中間層150として用いられるろう材を塗布し、800〜1000℃の真空中または大気中で1時間熱処理して形成したものである。
【0054】
あるいは、中間層150は、実施の形態
1と同様に、板状の金属または合金部材をセラミックス基材110にろう材によりろう付けすることにより形成されたものであっても良い。中間層150は、例えば、セラミックス基材110の表面にアルミニウム(Al)ろう材を介してアルミニウム(Al)箔を配置した後、所定温度で真空中または不活性ガス雰囲気中において熱処理することにより形成されたものであっても良い。
【0055】
中間層150を形成後、コールドスプレー法により第1中間層151(中間層150が板状の金属または合金部材がろう材によりセラミックス基材110にろう付けされた場合は中間層150)上に、第1金属回路層121および第1金属皮膜層141(金属回路層120及び冷却フィン140)を形成する。
【0056】
第1金属回路層121および第2金属回路層122は、それぞれ、実施の形態1の第1金属回路層21および第2金属回路層22と同様の気孔率を有し、実施の形態1の第1金属回路層21および第2金属回路層22と同様の圧縮ガス温度および圧力で積層形成される。
【0057】
また、第2金属回路層12
2の表面の算
術平均粗さ(Ra)は、実施の形態1の第2金属回路層22と同様に、10μm以下であることが好ましい。10μm以下であることにより、半田濡れ性が向上するためである。第2金属回路層122の表面の算
術平均粗さ(Ra)は、5μm以下が更に好ましく、1μm以下が特に好ましい。
【0058】
第1中間層151上に積層される第1金属皮膜141は、気孔率が5〜15%である。第1金属皮膜141の気孔率は、第1金属皮膜141の断面の電子写真における気孔の面積の割合により算出する。気孔率が5〜15%である第1金属皮膜141は、コールドスプレー法により第1金属皮膜141を形成する際の圧縮ガスの温度および圧力を所定の範囲に調整することにより形成することができる。第1金属皮膜141を積層する際の圧縮ガスの温度は、例えば、第1金属皮膜141および第2金属皮膜142が銅粉末により形成される場合、200℃〜600℃であることが好ましく、300℃〜500℃が特に好ましい。また、第1金属皮膜141を積層する際の圧縮ガスの圧力は、例えば、第1金属皮膜141および第2金属皮膜142が銅粉末により形成される場合、1.5MPa〜2.5MPaであることが好ましい。圧縮ガスの温度および圧力を上記範囲とすることにより、気孔率を5〜15%とすることができ、第1金属皮膜141は、セラミックス基材110と第2金属皮膜142との間の熱膨張差を緩衝することができる。
【0059】
第1金属皮膜141上に積層される第2金属皮膜142は、気孔率が0〜0.5%である。第2金属皮膜142の気孔率は、0〜0.1%以下であることが特に好ましい。第2金属皮膜142の気孔率は、第1金属皮膜14
1と同様に、第2金属皮膜142の断面の電子写真における気孔の面積の割合により算出すればよい。気孔率が0〜0.5%である第2金属皮膜142は、コールドスプレー法により第2金属皮膜142を形成する際の圧縮ガスの温度および圧力を調整することにより形成することができる。第2金属皮膜142を積層する際の圧縮ガスの温度は、例えば、第1金属皮膜141および第2金属皮膜142が銅粉末により形成される場合、600℃〜1000℃であることが好ましく、700℃〜900℃が特に好ましい。また、第2金属皮膜142を積層する際の圧縮ガスの圧力は、例えば、第1金属皮膜141および第2金属皮膜142が銅粉末により形成される場合、2.5MPa〜3.5MPaであることが好ましい。圧縮ガスの温度および圧力を上記範囲とすることにより、気孔率を0〜0.5%とすることができ、第2金属皮膜142は、バルク金属と同程度の熱伝導度を示し、放熱性を向上することができる。
【0060】
上述した実施の形態2によれば、セラミックス基材と金属回路層および冷却フィンとの密着性を向上するとともに、セラミックス基材と金属回路層および冷却フィンとの熱膨張率差により発生する熱応力を、所定の割合で気孔を有する第1金属回路層および第1金属皮膜により緩和しうるため、熱サイクル下においてもセラミックス基材の割れを防止することができる。また、実施の形態2では、半導体チップを実装する第2金属回路層の表面の粗さが小さいため、半田濡れ性がよく、実装不良等の発生も抑制できるという効果を奏する。
【0061】
実施の形態2では、金属回路層が2つの金属回路層(第1金属回路層および第2金属回路層)、冷却フィンが2つの金属皮膜層(第1金属皮膜および第2金属皮膜)からそれぞれ形成されるパワーモジュールについて説明したが、冷却フィンを1
つの金属皮膜から形成し、金属回路層を2つの金属回路層(第1金属回路層および第2金属回路層)から形成しても良く、あるいは、金属回路層を1つの金属回路層から形成し、冷却フィンを
2つの金属皮膜(第1金属皮膜および第2金属皮膜)から形成するものであっても、同様の効果を奏する。
【実施例】
【0062】
本実施の形態に係る積層体の製造方法により、アルミナ系セラミックスの基材上に銅(Cu)からなる第1皮膜および第2皮膜を形成した積層体のテストピースを作製し、基材と銅皮膜との間の密着性、耐熱性、および半田濡れ性について評価を行った。
【0063】
(実施例1)
実施例1として、アルミナ基材上に、ろう材を塗布した後、970℃の大気中で1時間保持することによって中間層を形成した。中間層は、第1中間層が銀、第2中間層が水素化チタンからなり、厚さは最も薄い部分で3
0μm、厚い部分で100μmである。コールドスプレー法により、第1中間層の表面に銅粉末により金属回路層を形成した。使用した銅粉末は、平均粒径が25μmで、水アトマイズ法により製造されたものである。なお、実施例1では、第1金属回路層は、圧縮ガスとして窒素ガス(N
2)を使用し、ガス温度は400℃、噴射圧力は2MPa、800μmの厚さで、気孔率は14%である。第2金属回路層は、圧縮ガスとして窒素ガス(N
2)を使用し、ガス温度は800℃、噴射圧力は3MPa、200μmの厚さで、気孔率は0.1%以下である。
【0064】
(比較例1)
比較例1として、実施例1と同様にして中間層を形成した後、第1中間層の表面にコールドスプレー法により銅粉末により金属回路層を形成した。使用した銅粉末は、平均粒径が25μmで、水アトマイズ法により製造されたものである。なお、比較例1では、第1金属回路層として、実施例1よりも気孔率の大きい第1金属回路層(気孔率19%)を形成するために、圧縮ガスとして窒素ガス(N
2)を使用し、ガス温度は400℃、噴射圧力は2MPaとし、800μmの厚さに積層したが、アルミナ基材との密着性が低く、剥離が生じた。
【0065】
(比較例2)
比較例2として、実施例1と同様にして中間層を形成した後、第1中間層の表面にコールドスプレー法により銅粉末により金属回路層を形成した。使用した銅粉末は、平均粒径が25μmで、水アトマイズ法により製造されたものである。なお、比較例2では、第1金属回路層は、圧縮ガスとして窒素ガス(N
2)を使用し、ガス温度は400℃、噴射圧力は3MPa、800μmの厚さで、気孔率は0.5%である。第2金属回路層は、圧縮ガスとして窒素ガス(N
2)を使用し、ガス温度は800℃、噴射圧力は3MPa、200μmの厚さで、気孔率は0.1%以下である。
【0066】
(比較例3)
比較例3として、実施例1と同様にして中間層を形成した後、第1中間層の表面にコールドスプレー法により銅粉末により金属回路層を形成した。使用した銅粉末は、平均粒径が25μmで、水アトマイズ法により製造されたものである。なお、比較例3では、第1金属回路層は、圧縮ガスとして窒素ガス(N
2)を使用し、ガス温度は800℃、噴射圧力は3MPa、800μmの厚さで、気孔率は0.1%以下である。第2金属回路層は、圧縮ガスとして窒素ガス(N
2)を使用し、ガス温度は400℃、噴射圧力は1MPa、200μmの厚さで、気孔率は14%である。
【0067】
(比較例4)
比較例4として、実施例1と同様にして中間層を形成した後、第1中間層の表面にコールドスプレー法により銅粉末により金属回路層を形成した。使用した銅粉末は、平均粒径が25μmで、水アトマイズ法により製造されたものである。なお、比較例4では、金属回路層を1層のみ形成した。比較例4の金属回路層は、圧縮ガスとして窒素ガス(N
2)を使用し、ガス温度は800℃、噴射圧力は3MPa、1000μmの厚さで、気孔率は0.1%以下である。
【0068】
実施例1、ならびに比較例1〜4の積層体について、第1金属回路層施工後のアルミナ基材と第1金属回路層との密着性、第2金属回路層施工後の第1金属回路層と第2金属回路層との密着性を目視で確認するとともに、金属回路層形成後の積層体について、300℃で5分保持し、積層体を室温まで放冷した後、さらに300℃で5分保持する耐熱試験を行い、アルミナ基材の割れの評価を行なった。
【0069】
表1に、実施例1、ならびに比較例1〜4の積層体の構造、および金属皮膜の密着性、耐熱試験の評価結果を示す。なお、実施例1および比較例3については、第2金属回路層の表面の算術平均粗さ(Ra)を測定するとともに、耐熱試験後の積層体の断面を電子写真により観察した。
図7は、本発明の実施例1にかかる積層体の断面を示す電子写真(40倍)であり、
図8は、比較例3にかかる積層体の断面を示す電子写真(40倍)である。
【0070】
【表1】
【0071】
気孔率が14%の第1金属回路層と、気孔率が0.1%以下の第2金属回路層を形成した実施例1の積層体は、各回路層施工後に回路層の剥離は認められず、
図7に示すように、耐熱試験後、アルミナ基材の割れは生じなかった。比較例2の積層体は、実施例1の積層体と第1金属回路層の気孔率のみ異なるが、第1金属回路層の気孔率が0.5%と小さいため、耐熱試験による熱応力の緩和が十分でなく、アルミナ基材に割れが生じた。同様に、熱応力を緩和しうる、気孔率が5〜15%の金属回路層を有しない比較例4は、耐熱試験によりアルミナ基材に割れが生じた。また、比較例3の積層体は、気孔率が0.1%以下の第1金属回路層と、気孔率が14%の第2金属回路層とを有するが、第1金属回路層は気孔率が小さいため、耐熱試験による熱応力の緩和が十分でなく、アルミナ基材に割れが生じた(
図8参照)。
【0072】
一方、実施例1の第2金属回路層の表面の算術平均粗さは8.4μmであり、半田濡れ性も良好であることが確認されたが、比較例3の第2金属回路層の表面の算術平均粗さは12.2μmと非常に大きいことが確認された。なお、実施例1の第1金属回路層の算術平均粗さは11.9μmであり、金属回路層を気孔率が5〜15%の第1金属回路層のみを形成した場合は、熱応力を緩和できるためセラミックス基材の割れは防止できるが、半田濡れ性が悪いため、実装不良を生じやすい。
【0073】
以上のように、本発明にかかる積層体、絶縁性冷却板、パワーモジュールおよびこの積層体の製造方法は、セラミックス基材と金属皮膜とを接合する場合に有用であり、特に耐熱性に劣るアルミナをセラミック基材として使用する場合に適している。