(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記一次粒子が0.01〜5μmの平均粒子径を有し、前記配向二次粒子が1〜100μmの平均粒子径を有し、前記配向二次粒子における前記一次粒子の(003)面の配向率が50%以上である、請求項1又は2に記載の方法。
前記正極活物質粉末が前記配向二次粒子と無配向二次粒子とを含み、前記配向二次粒子の体積基準D50平均粒径が前記無配向二次粒子の体積基準D50平均粒径よりも大きい、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
リチウム二次電池用正極の製造方法
本発明は、リチウム二次電池用正極の製造方法に関するものである。本明細書において、リチウム二次電池は、リチウムイオン二次電池、金属リチウム二次電池等の、リチウムイオンの挿入/脱離による充放電が可能な各種二次電池を包含する用語であるが、典型的にはリチウムイオン二次電池である。
【0012】
本発明の方法においては、まず、層状岩塩構造を有する正極活物質で構成される複数の一次粒子からなり、該複数の一次粒子が配向されてなる配向二次粒子を含む正極活物質粉末を用意する。このような正極活物質粉末の構成が
図1に概念的に示される。
図1に示されるように、正極活物質粉末10は、複数の一次粒子12から構成される配向二次粒子14を含んでなり、一次粒子12は層状岩塩構造を有する単結晶粒子である。一次粒子12には、層状岩塩構造に起因して、リチウムイオン及び電子が出入りしにくい結晶面である(003)面と、リチウムイオン及び電子が出入りしやすい面(すなわち(003)面以外の面)とが存在する。このため、
図1において矢印で示されるように、複数の一次粒子12が、それらのリチウムイオンが出入りしやすい面が略一軸方向に揃うように配向していることで、隣接する一次粒子12,12間でリチウムイオン及び電子が出入りしやすい面(すなわち(003)面以外の面)同士の接触を十分に確保して、リチウムイオン伝導性及び電子伝導性が良好に確保される構成となっている。このような配向二次粒子を含んでなる正極活物質は特許文献3に開示されるように公知の物質である。
【0013】
そして、この正極活物質粉末を含む正極合剤ペーストを集電体上に塗布して正極層を形成した後、正極層を集電体に向かってプレス加工する。正極合剤層をローラ等でプレスして高密度化することは、特許文献2にも記述されるように従来より行われている手法ではあるが、本発明者らの知るかぎり、正極活物質二次粒子が割れる又は潰れるほどに強くプレスすることは避けるべきと信じられてきた。これは、特許文献2にも明記されるように、正極活物質粒子を高密度化するために、正極合剤の圧延時に無理に高い圧力で正極合剤層を圧延しようとした場合には、正極活物質粒子に粒子割れが生じて導電性が低下してしまい、サイクル特性ないし出力特性が低下するとの懸念があったためである。これは、
図6に示されるような、無数の一次粒子22が無配向に凝集してなる二次粒子24(以下、無配向二次粒子と呼ぶことがある)からなる従来から広く使用される正極活物質粉末20に特に当てはまる。というのも、かかる無配向二次粒子24においては、隣接する一次粒子22,22間でリチウムイオン及び電子の出入りしやすい面が異なる方向を向いているため、接触点における電子伝導がもともと遅く、その上、その接触点を経由する電子伝導パスが、粒界クラックCによって分断されて電子伝導が阻害されるからである。
【0014】
これに対して、配向二次粒子という極めて特殊な形態の正極活物質粉末を用いる本発明の方法においては、プレス加工が、プレス加工後の正極層における正極活物質粉末の充填密度D
2の、正極活物質粉末のタップ密度D
1に対する比D
2/D
1が1.15以上になるように行われる。この比率は、配向二次粒子の少なくとも一部が割れる又は潰れる程度にまで敢えて強くプレス加工することを意味するものであり、そうすることで、高エネルギー密度と高出力特性を両立させた正極電極を製造することができる。すなわち、高エネルギー密度は、プレス工程で粒子が割れる又は潰れるほど圧密化することで、正極中に活物質を極めて高密度に充填できることにより実現される。特に、本発明の方法では、プレス工程で粒子を割る又は潰すことで正極活物質の比表面積を増大できるため、大粒径の正極活物質を使用でき、それにより高いエネルギー密度を特に実現しやすい。一方、高出力特性は、プレス工程で配向二次粒子が割れる又は潰れることによる比表面積の増大(すなわち電解液との反応面積の増大)と、プレスによる変形後であっても十分な電子伝導性が確保される配向二次粒子特有の性質とにより実現される。特に、後者は、配向二次粒子を正極活物質として用いたことによる予想外の特性であり、無配向二次粒子には見られない特性である。すなわち、
図1に示されるように、無数の一次粒子12が配向してなる二次粒子14からなる正極活物質10においては、隣接する一次粒子12,12間でリチウムイオン及び電子が出入りしやすい面が(好ましくは略一軸方向に)配向しているため、接触点における電子伝導がもともと速い。そして、接触点の一部が粒界クラックCによって分断されたとしても、もともと(好ましくは略一軸方向に)配向しているため、割れた又は潰れた後に残存する接触点及び/又は新たに隣接する一次粒子間で形成される接触点を介して十分な電子伝導性をもたらす電子伝導パスが確保されるためと考えられる。これは、層状岩塩構造を有する配向二次粒子におけるリチウムイオン及び電子が出入りしやすい面が、リチウムイオン及び電子が出入りしにくい面に対して電子伝導度が3桁も大きいという特異な性質を有するため、一次粒子同士の接触が十分でなくとも辛うじて確保さえされていれば十分な電子伝導性が実現できるためと考えられる。
【0015】
以下、本発明の方法の各工程について具体的に説明する。
【0016】
(1)正極活物質粉末の準備
層状岩塩構造を有する正極活物質で構成される複数の一次粒子からなり、該複数の一次粒子が配向されてなる配向二次粒子を含む正極活物質粉末を用意する。ここで、「層状岩塩構造」とは、リチウム以外の遷移金属層とリチウム層とが酸素原子の層を挟んで交互に積層された結晶構造、すなわち、リチウム以外の遷移金属のイオン層とリチウムイオン層とが酸化物イオンを挟んで交互に積層された結晶構造(典型的にはα−NaFeO
2型構造:立方晶岩塩型構造の[111]軸方向に遷移金属とリチウムとが規則配列した構造)をいう。
【0017】
層状岩塩構造を有するリチウム複合酸化物としては、典型的には、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)を用いることができる。もっとも、コバルトの他にニッケルやマンガン等を含有した固溶体を、正極活物質を構成するリチウム複合酸化物として用いることも可能である。具体的には、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル・マンガン酸リチウム、ニッケル・コバルト酸リチウム、コバルト・ニッケル・マンガン酸リチウム、コバルト・マンガン酸リチウム等を、正極活物質を構成するリチウム複合酸化物として用いることが可能である。さらに、これらの材料に、Mg,Al,Si,Ca,Ti,V,Cr,Fe,Cu,Zn,Ga,Ge,Sr,Y,Zr,Nb,Mo,Ag,Sn,Sb,Te,Ba,Bi等の元素が1種以上含まれていてもよい。
【0018】
好ましい正極活物質は、下記組成式(1):
Li
pMeO
2 (1)
(式中、0.9≦p≦1.3である。Meは、Mn、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Al、Mg、Zr、B、及びMoからなる群から選択される少なくとも1種類の金属元素である)又は下記組成式(2):
xLi
2MO
3−(1−x)Li
pMeO
2 (2)
(式中、0<x<1及び0.9≦p≦1.3であり、M及びMeは、それぞれ独立して、Mn、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Al、Mg、Zr、B、及びMoからなる群から選択される少なくとも1種類の金属元素である)で表される組成を有する。
【0019】
上記の組成式(1)及び(2)における“Me”は、平均酸化状態が“+3”である少なくとも1種類の金属元素であればよく、Mn、Ni、Co及びFeからなる群から選択された少なくとも1種類の金属元素であることが好ましい。また、上記の組成式(2)における“M”は、平均酸化状態が“+4”である少なくとも1種類の金属元素であればよく、Mn、Zr及びTiからなる群から選択された少なくとも1種類の金属元素であることが好ましい。
【0020】
特に好ましい正極活物質が、下記組成式(3):
Li
p(Ni
x,Co
y,Al
z)O
2 (3)
(式中、0.9≦p≦1.3、0.6<x≦0.9、0.05≦y≦0.25、0≦z≦0.2、及びx+y+z=1である)で表される組成を有するニッケル−コバルト−アルミニウム系のものである。
【0021】
上記一般式(3)中、pの好ましい範囲は0.9≦p≦1.3であり、より好ましい範囲は1.0≦p≦1.1であり、このような範囲内であると、高い放電容量を確保しながら、充電時の電池内部のガス発生を抑制することができる。xの好ましい範囲は0.6<x≦0.9であり、より好ましくは0.7〜0.85であり、このような範囲内であると、高い放電容量及び高い安定性を確保することができる。yの好ましい範囲は0.05≦y≦0.25であり、より好ましくは0.10〜0.20であり、このような範囲内であると、結晶構造が安定になるとともに、高い放電容量を確保できる。zの好ましい範囲は0≦z≦0.2であり、より好ましくは0.02〜0.1であり、このような範囲内であると高い放電容量を確保することができる。
【0022】
正極活物質粉末10に含まれる配向二次粒子14は、(003)面の高い一軸配向性を有しているのが好ましい。「(003)面の配向率」とは、二次粒子内の(003)面の配向割合を百分率で表示したものをいう。すなわち、二次粒子における(003)面の配向率が60%であるということは、当該二次粒子内に含まれる多数の(003)面(層状岩塩構造における(003)面)のうちの6割が互いに平行であることに相当する。よって、この値が高いほど、二次粒子における(003)面の配向度が高い(具体的には、当該二次粒子を構成する多数の単結晶の一次粒子が、それぞれの(003)面が可能な限り互いに平行になるように設けられている)ということができる。一方、この値が低いほど、二次粒子における(003)面の配向度が低い(具体的には、当該二次粒子を構成する多数の単結晶の一次粒子が、それぞれの(003)面が「ばらばら」な方向を向くように設けられている)ということができる。なお、二次粒子には、上述のように多数の一次粒子が含まれている。そして、一次粒子は、単結晶であるので、これ自体についての配向率は問題とならない。そこで、二次粒子内の多数の一次粒子の配向状態を、当該二次粒子全体としての(003)面の配向状態として捉える、という観点から、二次粒子における(003)面の配向率は、「二次粒子における一次粒子の(003)面の配向率」と言い換えることも可能である。(003)面の配向率は、例えば、二次粒子の板面あるいは断面(クロスセクションポリッシャや集束イオンビーム等により加工したもの)について、電子後方散乱回折像法(EBSD)や透過電子顕微鏡(TEM)等を用いて当該二次粒子内の各一次粒子における(003)面の方位を特定し、方位の揃った(±10度以内にある)一次粒子数の、全一次粒子数に対する割合を算出することで、求めることができる。
【0023】
配向二次粒子14においては、これを構成する多数の一次粒子12が、それぞれの(003)面の方位が互いに揃うように(それぞれの(003)面が可能な限り互いに平行になるように)設けられているのが好ましい。具体的には、(003)面の配向率が50%以上となるように(正極活物質粉末10中に含まれる複数の一次粒子12の全数に対して、(003)面の配向性が同一の一次粒子12の割合が、50%以上となるように)、正極活物質粒子10が形成されている。(003)面の配向率は、70%以上であることがより好ましく、90%であることが特に好ましい。配向率が高いほど、正極活物質粉末10内に含まれる多数の一次粒子12において、リチウムイオンの拡散、電子伝導が良好に行われる方向である(003)面の面内方向が互いに平行となる割合が高まるといえる。このため、配向率が高いほど、リチウムイオンの拡散、電子伝導距離が短縮されるとともに上述のようにリチウムイオンの拡散抵抗および電子抵抗が低減され、以てリチウム二次電池の充放電特性がより顕著に向上する。したがって、例えば、液体型のリチウム二次電池の正極材料として正極活物質粉末10を用いた場合であって、耐久性の向上及び高容量化、さらには安全性の向上を目的として、正極活物質粉末10の平均粒子径を大きくしたときであっても、配向率を高くすることによって高いレート特性を維持することが可能になる。
【0024】
一次粒子12の平均粒子径は、0.01μm以上5μm以下であるのが好ましく、0.01μm以上3μm以下であることがより好ましく、0.01μm以上1.5μm以下であることがさらに好ましい。ここで、「平均粒子径」は、粒子の直径の平均値である。かかる「直径」は、典型的には、当該粒子を同体積あるいは同断面積を有する球形と仮定した場合の、当該球形における直径である。なお、「平均値」は、個数基準で算出されたものが適している。一次粒子の平均粒子径は、例えば、二次粒子の表面あるいは断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察することで求めることが可能である。一次粒子12の平均粒子径を上記の範囲内とすることで、一次粒子12の結晶性が確保される。この点、一次粒子12の平均粒子径が0.1μm未満であると、一次粒子12の結晶性が低下し、リチウム二次電池の出力特性やレート特性が低下する場合がある。しかしながら、配向二次粒子14からなる正極活物質粉末10においては、一次粒子12の平均粒子径が0.1〜0.01μmであっても、出力特性やレート特性の大きな低下は見られない。
【0025】
配向二次粒子14の平均粒子径は、1μm以上100μm以下であり、2μm以上70μm以下であることが好ましく、3μm以上50μm以下であることがさらに好ましい。二次粒子の平均粒子径は、市販のレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて、水を分散媒として測定される体積基準D50平均粒子径(メディアン径)によって評価される。配向二次粒子14の平均粒子径をこの範囲内とすることで、電極内における正極活物質の充填性が確保される(充填率が向上する)。また、リチウム二次電池の出力特性やレート特性を維持しつつ、平坦な電極表面を形成することができる。一方、配向二次粒子14の平均粒子径が上記範囲内であると、正極活物質の充填率を高くすることができるとともに、リチウム二次電池の出力特性やレート特性の低下や電極表面の平坦性の低下を防止することができる。配向二次粒子14の平均粒子径の分布は、シャープであってもよく、ブロードであってもよく、ピークを複数有していてもよい。例えば、配向二次粒子14の平均粒子径の分布がシャープでない場合は、正極活物質層内の正極活物質の充填密度を高めたり、正極活物質層と正極集電体との密着力を高めたりすることができる。これにより、充放電特性をさらに改善することができる。
【0026】
配向二次粒子14のアスペクト比は、1.0以上3.0未満であるのが好ましく、より好ましくは1.0以上2.0未満であり、さらに好ましくは1.1以上1.5未満である。この範囲内のアスペクト比とすることで、正極層内の正極活物質の充填密度を高めた場合であっても、正極層内に含浸された電解液中のリチウムイオンが正極層の厚み方向に拡散する経路を確保することができる程度の適度な隙間を正極活物質粒子間に形成することが可能になる。これにより、リチウム二次電池の出力特性やレート特性をさらに向上させることができる。すなわち、この範囲内のアスペクト比であると、正極層の形成時に、正極活物質粒子が、正極集電体の板面方向と粒子の長軸方向とが平行になるように並んだ状態で充填されにくくなり、正極層内に含浸された電解液中のリチウムイオンの、正極層の厚み方向の拡散経路が長くなるのを回避できる。このため、リチウム二次電池の出力特性やレート特性の低下を抑制できる。また、単結晶一次粒子12のアスペクト比も、1.0以上2.0未満であることが好ましく、1.1以上1.5未満であることがさらに好ましい。一次粒子12のアスペクト比をこの範囲内とすることで、リチウムイオン伝導性及び電子伝導性が良好に確保される。
【0027】
配向二次粒子14が緻密に(すなわち多数の一次粒子12が隙間なく密集した状態で)形成されている場合、正極層内の正極活物質の充填密度を高めることができ高容量化に有利である。一方、緻密な配向二次粒子内に部分的に空隙を導入することで、かかる空隙内に電解液や導電材を内在させることができ、これにより、高容量を維持しつつ、レート特性を改善することができる。また、充放電時の応力を緩和することもでき、充放電の繰り返しによる容量劣化(サイクル特性)を改善することもできる。
【0028】
このような配向二次粒子からなる正極活物質粉末は公知の物質であって、特許文献3に記載される方法に基づいて作製可能なものである。例えば、(1)原料粉末を含む原料スラリーを用意する工程と、(2)原料スラリーを成形及び乾燥してシート状成形体を得る工程と、(3)シート状成形体を解砕して解砕粉末を得る工程と、(4)解砕粉末にリチウム化合物を混合してリチウム混合粉末を得る工程と、(5)リチウム混合粉末を焼成して解砕粉末をリチウム化合物と反応させる工程を行うことにより、正極活物質粉末を作製することができる。シート状に成形する方法の好ましい例としては、ドクターブレード法やドラムドライヤーを用いた手法が挙げられる。解砕方法の例としては、メッシュにヘラ等で押し付ける方法;ピンミル等の解砕力の弱い解砕機で解砕する方法;気流の中でシート片を互いに衝突させる方法(具体的には、気流分級機に投入する方法);旋回式ジェットミル;ポット解砕;バレル研磨;等が挙げられる。また、解砕物を球形化するための処理が行われてもよく、球形化処理の例としては、気流中で解砕物粒子同士を衝突させることで解砕物粒子の「角」を取る方法(気流分級やハイブリダイゼーション等);容器中で解砕物粒子同士を衝突させることで解砕物粒子の「角」を取る方法(ハイブリッドミキサーや高速攪拌機・混合機を用いた方法、バレル研磨、等);メカノケミカル法;熱風により解砕物粒子の表面を溶融する方法が挙げられる。球形化処理と解砕とは、別途行われてもよいが、同時にも行われ得る。すなわち、例えば、気流分級機を用いることで、解砕と球形化処理とが同時に行われ得る。なお、解砕や球形化処理を容易にするために、予め成形体を脱脂したり熱処理(焼成あるいは仮焼成)したりしてもよい。
【0029】
あるいは、配向二次粒子からなる正極活物質粉末の作製を水酸化物原料粉末の調製から始めてもよい。例えば、(1)所定の組成(例えば(Ni
0.844Co
0.156)(OH)
2)を有し、二次粒子がほぼ球状且つ一次粒子の一部が二次粒子の中心から外方向へ放射状に並んだニッケル・コバルト複合水酸化物原料粉末を作製する工程と、(2)得られた水酸化物原料粉末に対し、所定のモル比(例えばNi:Co:Al:Li=81:15:4:20)となるようにAl原料(例えばベーマイト)およびLi原料(例えばLiOH・H
2O粉末)を加えた後、分散媒(例えば純水)と共にビーズミルで軽く粉砕混合して、減圧下での撹拌(脱泡)及び純水の添加を経て所望の粘度(例えば0.5Pa・s)且つ所望の固形分濃度(例えば20質量%)のスラリーを調製する工程と、(3)得られたスラリーをドラムドライヤーで乾燥後、ピンミルで解砕して板状の二次粒造粒粉末を作製する工程と、(4)得られた粉末とLiOH・H
2O粉末とを所定のmol比率(例えばLi/(Ni
0.81Co
0.15Al
0.04)=1.04)で混合する工程と、(5)この混合粉末を高純度アルミナ製のるつぼ内に投入して、酸素雰囲気中(例えば0.1MPa)にて所定の昇温速度(例えば50℃/h)で昇温し、所定温度で所定時間(例えば765℃で24時間)加熱処理する焼成工程(リチウム導入工程)とを行うことにより、正極活物質粉末(例えばLi(Ni
0.81Co
0.15Al
0.04)O
2粉末)を作製することができる。なお、上記工程(1)におけるニッケル・コバルト複合水酸化物粉末は公知の技術に従って作製可能なものであり、例えば以下のようにして作製することができる。すなわち、純水20Lを入れた反応槽へ、モル比でNi:Co=84.4:15.6である濃度1mol/Lの硫酸ニッケルと硫酸コバルトの混合水溶液を投入速度50ml/minで、また濃度3mol/Lの硫酸アンモニウムを投入速度10ml/minで同時に連続投入する。一方、濃度10mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を、反応槽内のpHが自動的に11.0に維持されるように投入する。反応槽内の温度は50℃に維持し、攪拌機により常に攪拌する。生成したニッケル・コバルト複合水酸化物を、オーバーフロー管からオーバーフローさせて取り出し、水洗、脱水及び乾燥処理する。
【0030】
また、焼成後、もしくは解砕や分級工程を経た、正極活物質において、100〜400℃で後熱処理を行われても良い。かかる後熱処理工程を行うことで、一次粒子の表面層を改質することができ、以てレート特性及び出力特性が改善される。また、焼成後、もしくは解砕や分級工程を経た、正極活物質に水洗処理が行われてもよい。かかる水洗処理工程を行うことで、正極活物質粉末の表面に残留した未反応のリチウム原料、あるいは大気中の水分及び二酸化炭素が正極活物質粉末表面に吸着して生成する炭酸リチウムを除去することができ、それにより高温保存特性(特にガス発生抑制)が改善される。
【0031】
また、配向二次粒子内に空隙を形成する場合には、原料に添加剤としての空隙形成材を配合すればよい。このような空隙形成材としては、仮焼成工程において分解(蒸発あるいは炭化)される、粒子状又は繊維状物質が好適に用いられ得る。具体的には、テオブロミン、ナイロン、グラファイト、フェノール樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、発泡性樹脂等の有機合成樹脂の、粒子状又は繊維状物質が、好適に用いられ得る。勿論、このような空隙形成材を使用しなくても、原料粒子の粒径や、仮焼成(熱処理)工程における焼成温度等を適宜調整することによって、上述の所望の空隙を有する配向二次粒子を形成することが可能である。
【0032】
正極活物質の表面(気孔内壁も含む)に、活物質には含まれない金属元素を含む化合物、例えば、W、Mo、Nb、Ta、Re等の高価数をとりうる遷移金属を含有する化合物が存在していてもよい。そのような化合物は、W、Mo、Nb、Ta、Re等の高価数をとることができる遷移金属とLiとの化合物であってもよい。金属元素を含む化合物は、正極活物質内に固溶していてもよいし、第2相として存在していてもよい。こうすることにより、正極活物質と非水電解液との界面が改質され、電荷移動反応が促進されて、出力特性やレート特性が改善されるものと考えられる。
【0033】
正極活物質粉末は、配向二次粒子を、正極活物質粉末の合計量に対して10〜100質量%含むのが好ましく、より好ましくは15〜100質量%、さらに好ましくは20〜100質量%含む。すなわち、正極活物質粉末は配向二次粒子からなるものであってもよいし、配向二次粒子とそれ以外の粒子を含むものであってもよい。後者の場合、正極活物質粉末は配向二次粒子とそれよりも概ね粒径の小さい無配向二次粒子とからなる混合粉末であるのが好ましい。これは、正極層のプレス加工時に二次粒子径の大きいものに応力が集中して割れやすくなることから、大粒径の配向二次粒子と小粒径の無配向二次粒子が混在した正極活物質粉末において、プレス加工時に割れる又は潰れる二次粒子は主として配向二次粒子となるからである。すなわち、前述のとおり配向二次粒子は割れる又は潰れることで高エネルギー密度と高出力特性に寄与することから、上記混合粉末を用いることによっても高エネルギー密度と高出力特性を両立することができる。したがって、正極活物質粉末は、配向二次粒子と無配向二次粒子とを含み、配向二次粒子の体積基準D50平均粒径が無配向二次粒子の体積基準D50平均粒径よりも大きいのが好ましい。配向二次粒子の体積基準D50平均粒径は、無配向二次粒子の体積基準D50平均粒径の1.5倍以上であるのが好ましく、より好ましくは1.8倍以上であり、さらに好ましくは2.0倍以上である。このような混合粉末を用いる場合には、公知の手法により配向二次粒子よりも概ね小さくなるように無配向二次粒子を調製した後、配向二次粒子と混合すればよい。あるいは、リチウム化合物との混合工程及び焼成工程(リチウム導入工程)に付される前の配向二次粒子前駆体と無配向二次粒子前駆体を混合し、その後リチウム化合物との混合工程及び焼成工程(リチウム導入工程)に付してもよい。なお、無配向二次粒子の諸条件及び好適形態については、配向性が無いこと及び配向二次粒子よりも概して粒径が小さいこと以外は上述した配向二次粒子と同様であり、かかる前提の範囲内で配向二次粒子に関して言及される上述の記載はそのまま無配向二次粒子に適用可能である。
【0034】
(2)正極合剤ペーストの作製
正極活物質粉末は、導電助剤、バインダー及び溶媒と混合して正極合剤ペーストとされる。これらの成分の溶媒の種類、配合量及び混合手法としては特に限定されず、公知の正極の製造条件を適宜採用すればよい。
【0035】
好ましい導電助剤は炭素材料であり、より好ましくは黒鉛あるいは非黒鉛炭素材料である。黒鉛の例としては、天然黒鉛、人造黒鉛等の通常用いられている黒鉛が挙げられる。非黒鉛炭素材料の例としては、カーボンブラック、アセチレンブラック等が挙げられる。また、黒鉛化炭素繊維、カーボンナノチューブ等の繊維状炭素材料も使用可能である。
【0036】
好ましいバインダーは熱可塑性樹脂である。熱可塑性樹脂の例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVdFともいう)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂等が挙げられ、特に好ましくはポリフッ化ビニリデンである。
【0037】
好ましい溶剤の例としては、N,N―ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミン、N,N―ジメチルホルムアミド(以下、DMFともいう)等のアミン系溶剤、テトラヒドロフラン)等のエーテル系溶剤、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸メチル等のエステル系溶剤、ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPともいう)等のアミド系溶剤、ジメチルスルホキシド(以下、DMSO)等が挙げられる。比重が0.935〜1.200g/cm
3の範囲の溶剤が操作性の観点で好ましく、そのような溶剤の例としては、ジエチレントリアミン(bpは199−209℃、Fpは94℃、dは0.955である)、N,N−ジメチルホルムアミド(bpは153℃、Fpは57℃、dは0.944である)、ジメチルアセトアミド(bpは164.5−166℃、Fpは70℃、dは0.937である)、1−メチル−2−ピロリドン(bpは204℃、Fpは86℃、dは1.028である)、及びジメチルスルホキシド(bpは189℃、Fpは85℃、dは1.101である)等が挙げられる。ここで、bpは沸点、Fpは引火点、dは比重(g/cm
3)を表す。
【0038】
正極活物質粉末、導電助剤、及びバインダーの合計量100質量部に占める正極活物質の割合は、85〜98質量部と高くするのが好ましく、より好ましくは90〜96質量部である。これは後続のプレス工程で正極層が過度に圧密化されるため、導電助剤の量を減らしても十分な導電性及びそれによる高出力特性が得られるとともに、エネルギー密度も高められるためである。また、正極活物質粉末、導電助剤、及びバインダーの合計量100質量部に占める導電助剤の割合は1〜10質量部が好ましく、より好ましくは2〜5質量部であり、バインダーの割合は1〜10質量部が好ましく、より好ましくは2〜5質量部である。これらの成分を溶剤と共に任意の手法により混合及び混練することにより、正極合剤ペーストが得られる。
【0039】
(3)正極層の形成
正極合剤ペーストを集電体上に塗布して正極層を形成する。集電体の例としては、Al、Ni、ステンレス等の金属が挙げられるが、薄膜に加工しやすく安価な点でAlが好ましい。また、集電体は、板、箔、膜等のいかなる形態であってもよい。正極合剤を集電体に塗布する方法の例としては、ダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法、静電スプレー法等が挙げられる。正極層は後続のプレス加工前に乾燥されるのが望ましい。
【0040】
(4)プレス加工
正極層を集電体に向かってプレス加工してリチウム二次電池用正極を得る。このプレス加工は、プレス加工後の正極層における正極活物質粉末の充填密度D
2の、正極活物質粉末のタップ密度D
1に対する比D
2/D
1が1.15以上、好ましくは1.15〜1.35、より好ましくは1.15〜1.30になるように行われる。このようなプレス加工の圧力値は上記比を実現できるように適宜選択すればよく特に限定されないが、典型的には2000〜10000kgf/cm
2の範囲内の圧力であり、より典型的には3000〜8000kgf/cm
2である。プレス加工の手法は特に限定されないが、一軸プレス機による圧縮、ローラを用いた圧延等によるのが好ましい。
【0041】
正極活物質粉末のタップ密度D
1は、正極活物質粒子の粉末試料を入れたメスシリンダを市販のタップ密度測定装置を用いて200回タッピングした後、D
1=m/V(式中、mは粉末の重量、Vはタップ後の粉末の嵩体積)の式に基づいて算出することができる。この測定は、JIS R 1628(1997)に準拠して行うことができる。正極活物質粉末は2.4〜3.4g/ccのタップ密度を有するのが好ましく、より好ましくは2.6〜3.1g/ccである。
【0042】
正極層における正極活物質粉末の充填密度D
2は、正極層中に占める正極活物質粉末の密度であり、以下の式により算出されるものである。
D
2=[正極層の密度(g/cc)]×[正極活物質粉末の配合比(wt%)]/100
=[正極層の重量(g)]/[正極層の体積(cc)]
×[正極活物質粉末の配合比(wt%)]/100
なお、正極層とは正極における正極合剤が占める部分であるから、上記式は以下の式によっても表現できる。
D
2=([正極重量]−[集電体重量])/{正極面積×([正極厚]−[集電体厚])}
×[正極活物質粉末の配合比(wt%)]/100
【0043】
プレス加工後の正極層における正極活物質粉末の充填密度は、2.8〜4.6g/ccであるのが好ましく、より好ましくは3.0〜4.4g/ccである。
【実施例】
【0044】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0045】
例1、4及び9:配向二次粒子の単独使用例
(1)配向二次粒子の作製
(1a)原料粒子及びスラリーの調製
最初に、混合物における、Ni、Co及びAlのモル比が80:15:5となるように、Ni(OH)
2粉末(株式会社高純度化学研究所製)、Co(OH)
2粉末(株式会社高純度化学研究所製)、及びAl
2O
3・H
2O(SASOL社製)を秤量した。次に、かかる秤量物に対して、造孔材(球状、ベルパールR100、エアウォーター株式会社製)を添加した。造孔材は、添加後の粉末総重量に対する割合が2質量%となるように秤量した。そして、造孔材添加後の混合粉末をボールミルにより24時間粉砕及び混合することで、原料粒子の粉末を調製した。
【0046】
調製した原料粒子の粉末100質量部と、分散媒としての純水400質量部と、バインダー(ポリビニルアルコール、品番VP−18、日本酢ビ・ポバール株式会社製)1質量部と、分散剤(マリアリムKM−0521、日油株式会社製)1質量部と、消泡剤(1−オクタノール、和光純薬工業株式会社製)0.5質量部とを混合した。さらに、この混合物を、減圧下で撹拌することで脱泡するとともに、粘度を0.5Pa・s(ブルックフィールド社製LVT型粘度計を用いて測定)に調整することで、スラリーを調製した。
【0047】
(1b)原料粒子の成形及び加熱処理(仮焼成)
上述のようにして調製したスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルムの上に、乾燥後の厚さが25μmとなるようにシート状に成形した。乾燥後にPETフィルムから剥がしたシート状の成形体を、ジルコニア製セッターの中央に載置し、大気中にて200℃/hで昇温し、900℃、3時間加熱処理することで、シート状の(Ni
0.8Co
0.15Al
0.05)Oセラミックスシートを得た。
【0048】
(1c)成形体の解砕
加熱処理(仮焼成)によって得られた上述のセラミックスシートを、開口径30μmのふるい(メッシュ)に載せ、ヘラで軽く押し付けながらメッシュを通過させて解砕することで、略球形状の(Ni
0.8Co
0.15Al
0.05)O粉末を得た。
【0049】
(1d)解砕物の球形化処理及び分級
解砕によって得られた(Ni
0.8Co
0.15Al
0.05)O粉末を、気流分級機(ターボクラシファイアTC−15、日清エンジニアリング株式会社製、排風量:1.7m
3/min、分級ロータ回転数:10000rpm)に、20g/minの速度で投入し、得られた粉末のうちの粗粒側のものを回収した。かかる球形化処理(同時に微粉除去による分級も行われる)を、5回繰り返した。
【0050】
(1e)リチウム化合物との混合
微粉除去後の(Ni
0.8Co
0.15Al
0.05)O粉末と、LiOH・H
2O粉末(和光純薬工業株式会社製)とを、mol比率でLi/(Ni
0.8Co
0.15Al
0.05)=1.05となるように混合した。
【0051】
(1f)焼成工程(リチウム導入工程)
上述の混合粉末を、高純度アルミナ製のるつぼ内に投入し、酸素雰囲気中(0.1MPa)にて775℃で24時間加熱処理することで、Li(Ni
0.8Co
0.15Al
0.05)O
2粉末を正極活物質粉末として得た。
【0052】
(2)各種測定
得られた正極活物質粉末について各種特性を測定したところ、タップ密度は2.9g/ccであり、一次粒子は0.1μmの平均粒子径を有し、二次粒子は20μmの平均粒子径及び1.0以上1.5未満のアスペクト比を有し、二次粒子における一次粒子の(003)面の配向率が90%以上であった。これらの特性の測定方法は以下のとおりとした。
[タップ密度]
正極活物質粒子の粉末試料を入れたメスシリンダを市販のタップ密度測定装置を用いて200回タッピングした後、D
1=m/V(式中、mは粉末の重量、Vはタップ後の粉末の嵩体積)の式に基づいてタップ密度D
1を算出した。この測定は、JIS R 1628(1997)に準拠したものである。
[二次粒子径(μm)]
レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製 型番「LA−750」)を用いて、水を分散媒として、二次粒子のメディアン径(D50)を測定し、この値を二次粒子径とした。
[一次粒子径(μm)]
FE−SEM(電界放射型走査型電子顕微鏡:日本電子株式会社製 製品名「JSM−7000F」)を用いて、一次粒子が視野内に10個以上入る倍率を選択して、SEM画像を撮影した。このSEM画像において、10個の一次粒子のそれぞれについて、内接円を描いたときの当該内接円の直径を求めた。そして、得られた10個の直径の平均値を一次粒子径とした。
[アスペクト比]
上述のFE−SEMを用いて、二次粒子が視野内に10個以上入る倍率を選択して、SEM画像を撮影した。このSEM画像において、10個の二次粒子のそれぞれについて、長軸径及び短軸径を求めた後、長軸径を短軸径で除した値を求めた。そして、得られた10個の値の平均値をアスペクト比とした。一次粒子のアスペクト比についても同様に求めた。
[配向率(%)]
二次粒子同士ができるだけ重ならないように、ガラス基板上に二次粒子粉末を配置した。この粉末を粘着テープに写し取って合成樹脂に埋めたものを、二次粒子の板面あるいは断面研磨面が観察できるように研磨することで、観察用のサンプルを作製した。なお、板面観察の場合は、仕上げ研磨として、コロイダルシリカ(0.05μm)を研磨剤として振動型回転研磨機にて研磨を行った。一方、断面観察の場合は、クロスセクションポリッシャ(CP)により研磨を行った。このようにして作製したサンプルに対し、一個の二次粒子中に一次粒子が10個以上見られる視野において、EBSD(電子後方散乱回折像法:測定ソフト「OIM Data Collection」及び解析ソフト「OIM Analysis」は株式会社TSLソリューションズ製)を用いて、測定のピクセル分解能を0.1μmとして、各二次粒子の結晶方位解析を行った。これにより、各一次粒子の(003)面について、測定面(研磨面)に対する傾き角度を求めた。角度に対する粒子数のヒストグラム(角度分布)を出力し、一次粒子数が最大(ピーク値)となる角度を、この二次粒子の測定面に対する(003)面傾斜角θとした。この傾斜角θに対し、測定した二次粒子について(003)面がθ±10度以内にある一次粒子数を算出した。求めた一次粒子数を全一次粒子数で除することで、測定した二次粒子における(003)面の配向率を算出した。これを異なる10個の二次粒子について行い、その平均値を、(003)面の配向率とした。
【0053】
(3)電極及びコインセルの作製
上記工程により得られたタップ密度2.9g/ccのLiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2配向二次粒子粉末、アセチレンブラック(デンカブラックHS100、電気化学工業株式会社製)、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)(KFポリマー#1120、株式会社クレハ製)を、質量比で94:3:3となるように混合し、N−メチル−2−ピロリドン(和光純薬工業株式会社製)に分散させることで、正極活物質ペーストを作製した。このペーストを正極集電体としての厚さ20μmのアルミニウム箔上に均一な厚さ(乾燥後の厚さ90μm)となるように塗布して乾燥した。得られた乾燥後のシートから直径14mmの円板状に打ち抜いたものを、プレス加工後の正極層における正極活物質粉末の充填密度(以下、正極充填密度という)D
2の、前記正極活物質粉末のタップ密度D
1に対する比(以下、D
2/D
1比という)が1.15以上になるように一軸プレス機を用いて6600kgf/cm
2でプレスすることで正極を得た。なお、電極密度、正極充填密度D
2及びD
2/D
1比は表1に示されるとおりであった。
【0054】
こうして得た正極板を用いてコインセルを作製した。なお、電解液は、エチレンカーボネート(EC)及びジエチルカーボネート(DEC)を等体積比で混合した有機溶媒に、LiPF
6を1mol/Lの濃度となるように溶解することにより調製した。また、負極としては、金属リチウム箔を用いた。
【0055】
(4)電気化学測定
上述のように作製した特性評価用電池(コインセル)を用いて、以下のように充放電操作を行うことで、放電容量および内部抵抗の評価を行った。具体的には、0.1Cレートの電流値で電池電圧が4.3Vとなるまで定電流充電した。その後、電池電圧を4.3Vに維持する電流条件で、その電流値が1/20に低下するまで定電圧充電した。10分間休止した後、5Cレートの電流値で電池電圧が2.5Vになるまで定電流放電し、その後10分間休止した。これらの充放電操作を1サイクルとし、25℃の条件下で合計2サイクル繰り返し、得られた放電容量と合剤密度からエネルギー密度を算出した。また2サイクル目の放電容量を100%とした際の50%(SOC50%:SOCは「State Of Charge」の略であって、充電状態を意味する)まで充電を行い、そのときの開回路電圧(OCV:「Open−CircuitVoltage」の略であって、電流が流れないときの電池電圧を意味する)を読み取った。その後0.5C相当で放電させてから10秒後の電圧降下を読み取った。さらに、放電電流を1C、2C相当と変えて放電を行い、各放電電流における電圧降下を読み取った。これらの放電電流と電圧降下をプロットし、その傾きから算出した内部抵抗の数値を出力特性の指標とした。この数値が低いほど出力特性が高い。評価結果は表1に示されるとおりであり、得られた電池はエネルギー密度が高く、かつ、内部抵抗が低いものであった。
【0056】
(5)電極構造評価(断面観察)
上記の方法で得られた例1の電極について、クロスセクションポリッシャ(CP)により電極の断面研磨面が観察できるように研磨し、走査型子顕微鏡(日本電子製JSM−6390)を用いて、
図2に示される断面画像を得た。また、例4で得られた電極の断面を上記同様に走査型子顕微鏡(日本電子製JSM−6390)を用いて観察したところ、
図3及び4に示される断面画像を得た。
図4は
図3の拡大図である。
【0057】
例2、5〜7及び10〜12:配向二次粒子と小粒径無配向二次粒子の併用例
例1の(1a)と同様にして調製したスラリーをスプレードライヤー(大川原化工機株式会社製、型式「OC−16」、熱風入り口温度120℃、ツインジェットノズルにて0.15MPaにて噴霧)で乾燥・造粒することにより、略球状の(Ni
0.8Co
0.15Al
0.05)O粉末を小粒径無配向二次粒子として得た。略球状の小粒径無配向二次粒子の乾燥後のD50粒径は12μmであった。こうして得られた略球状の小粒径無配向二次粒子と、例1の(1d)で得られた配向二次粒子とを、表1に示される配合比で混合した後、例1の(1e)リチウム化合物との混合工程及び(1f)焼成工程(リチウム導入工程)と同様の工程を施して正極活物質を作製した。こうして得られた正極活物質は配向二次粒子及び小粒径無配向二次粒子の両方を含んでおり、例1(2)〜(4)と同様にして且つ表1に示される諸条件に従って各種測定を行ったところ、表1に示される結果が得られた。
【0058】
例3、8及び13:小粒径無配向二次粒子の単独使用例
例1の(1a)と同様にして調製したスラリーをスプレードライヤー(大川原化工機株式会社製、型式「OC−16」、熱風入り口温度120℃、ツインジェットノズルにて0.15MPaにて噴霧)で乾燥・造粒することにより、略球状の(Ni
0.8Co
0.15Al
0.05)O粉末を小粒径無配向二次粒子として得た。略球状の小粒径無配向二次粒子の乾燥後のD50粒径は12μmであった。こうして得られた略球状の小粒径無配向二次粒子に、例1の(1e)リチウム化合物との混合工程及び(1f)焼成工程(リチウム導入工程)と同様の工程を施して正極活物質を作製した。焼成工程後に得られた正極活物質粉末のD50粒径は9μm、タップ密度は2.4g/ccであった。こうして得られた正極活物質は小粒径無配向二次粒子を単独で含んでおり(すなわち配向二次粒子を含んでおらず)、例1(2)〜(4)と同様にして且つ表1に示される諸条件に従って各種測定を行ったところ、表1に示される結果が得られた。
【0059】
例14〜16:配合二次粒子と大粒径無配向二次粒子の併用例
例1の(1a)と同様にして調製したスラリーをスプレードライヤー(大川原化工機株式会社製、型式「FOC−16」、熱風入り口温度120℃、アトマイザ回転数20000rpm)で乾燥・造粒することにより、略球状の(Ni
0.8Co
0.15Al
0.05)O粉末を略球状の大粒径無配向二次粒子として得た。乾燥後のD50粒径は25μmであった。こうして得られた略球状の大粒径無配向二次粒子と、例1の(1d)で得られた配向二次粒子とを、表1に示される配合比で混合した後、例1の(1e)リチウム化合物との混合工程及び(1f)焼成工程(リチウム導入工程)と同様の工程を施して正極活物質を作製した。こうして得られた正極活物質は配向二次粒子及び大粒径無配向二次粒子の両方を含んでおり、例1(2)〜(4)と同様にして且つ表1に示される諸条件に従って各種測定を行ったところ、表1に示される結果が得られた。
【0060】
例17〜19:大粒径無配向二次粒子の単独使用例
例1の(1a)と同様にして調製したスラリーをスプレードライヤー(大川原化工機株式会社製、型式「FOC−16」、熱風入り口温度120℃、アトマイザ回転数20000rpm)で乾燥・造粒することにより、略球状の(Ni
0.8Co
0.15Al
0.05)O粉末を略球状の大粒径無配向二次粒子として得た。乾燥後のD50粒径は25μmであった。こうして得られた略球状の大粒径無配向二次粒子に、例1の(1e)リチウム化合物との混合工程及び(1f)焼成工程(リチウム導入工程)と同様の工程を施して正極活物質を作製した。焼成工程後に得られた粉末の粒径は20μm、タップ密度は2.9g/ccであった。こうして得られた正極活物質は大粒径無配向二次粒子を単独で含んでおり(すなわち配向二次粒子を含んでおらず)、例1(2)〜(4)と同様にして且つ表1に示される諸条件に従って各種測定を行ったところ、表1に示される結果が得られた。
【0061】
【表1】
【0062】
表1の結果から以下のことが分かる。例1〜3は二次粒子が割れない程度にプレス電極に関する比較例であり、粒径の小さい無配向二次粒子を配合してもエネルギー密度は上がらないものの抵抗が低いことが分かる。例4〜8は二次粒子が割れ始める程度にプレスした電極に関する例であり、配向二次粒子を混ぜた電極は抵抗値が悪化しにくいことが分かる。例9〜13は配向二次粒子を割って、さらに電極密度を高めた電極に関する例であり、配向二次粒子を混ぜた電極は抵抗値の悪化幅が小さいことが分かる。例14〜19は粒径が大きい無配向二次粒子を用いた電極に関する例であり、配向二次粒子よりも粒径が小さい無配向二次粒子でないと、配向二次粒子を入れたことによる効果が得られないことが分かる。
【0063】
また、
図5に例1〜19において測定された抵抗値と配向二次粒子の比率との関係を示すグラフを示す。
図5に示される結果から、正極活物質が配向二次粒子を(正極活物質粉末の合計量に対して)10〜100質量%含むことで抵抗率が有意に低減されることが分かる。