特許第6096175号(P6096175)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6096175排出物が低減された、ハロゲン化ブチルゴムの製造方法及び製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6096175
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】排出物が低減された、ハロゲン化ブチルゴムの製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   C08F 210/12 20060101AFI20170306BHJP
   C08F 8/20 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
   C08F210/12
   C08F8/20
【請求項の数】18
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-511692(P2014-511692)
(86)(22)【出願日】2012年5月18日
(65)【公表番号】特表2014-515410(P2014-515410A)
(43)【公表日】2014年6月30日
(86)【国際出願番号】CA2012000485
(87)【国際公開番号】WO2012159198
(87)【国際公開日】20121129
【審査請求日】2015年5月18日
(31)【優先権主張番号】11167595.5
(32)【優先日】2011年5月26日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513295847
【氏名又は名称】ランクセス・インターナショナル・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100093919
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 義道
(72)【発明者】
【氏名】トビアス・グレンピング
(72)【発明者】
【氏名】スベン・バッハ
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルナー・ベッカー
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ・チェン
(72)【発明者】
【氏名】ポール・ヌグエン
(72)【発明者】
【氏名】ケヴィン・アラン
(72)【発明者】
【氏名】ロバート・マイケル・ワイズ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・ムルダー
【審査官】 小出 直也
(56)【参考文献】
【文献】 ロシア国特許出願公開第02320672(RU,A)
【文献】 中国特許第101942054(CN,B)
【文献】 特表2011−528053(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0257342(US,A1)
【文献】 特公昭44−020990(JP,B1)
【文献】 特開平10−077376(JP,A)
【文献】 米国特許第05886106(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00−246/00
C08C19/00− 19/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化ブチルゴムの連続製造方法であって、前記方法は少なくとも
a.ブチルゴムと水とを含有するブチルゴムスラリーを密閉型容器中に準備する工程、
b.前記ブチルゴムスラリーの前記ブチルゴムを非ハロゲン化有機溶媒中、密閉型容器の密閉系溶解ゾーン内にある混合手段で攪拌して前記ブチルゴムを非ハロゲン化有機溶媒中に溶解させ、これにより水中にブチルゴムセメントを作る工程、
c.工程bと同じ前記密閉型容器の溶解ゾーンと横方向に隣接する密閉分離ゾーン中で前記ゴムセメントから前記水を相分離させて、前記分離ゾーン界面層を形成し、これにより水層を、界面層を夾んでセメント層から縦方向に離隔する工程であって、前記分離ゾーンは実質的に水平な流路を有し、前記水層と前記セメント層を別々に集めるのに十分な距離で縦方向に離隔された少なくとも2つの排出口を有している、工程、及び
d.前記ゴムセメントをハロゲン化して前記ハロゲン化ブチルゴムを製造する工程、
を含む、方法。
【請求項2】
工程aが連続的に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記容器を通過する流れが実質的に水平である、請求項又はに記載の方法。
【請求項4】
前記密閉系溶解ゾーンと前記密閉系分離ゾーンとが横方向に互いに隣接している、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記方法は、前記界面層を破壊するために、前記ゴムセメントの一部を前記密閉分離ゾーンに再循環させる工程を更に含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ゴムスラリー濃度が、水中に5重量%より多く20重量%までのブチルゴムを含有している、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ゴムセメントが5重量%より多く30重量%までのブチルゴムを含有している、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記非ハロゲン化有機溶媒が、1013hPaの圧力下で沸点が25〜100℃の範囲である、1種以上の非ハロゲン化脂肪族炭化水素を少なくとも80重量%含有し、残部は他の非ハロゲン化炭化水素である、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記非ハロゲン化有機溶媒が、1種以上の非ハロゲン化脂肪族炭化水素を少なくとも90重量%含有する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記非ハロゲン化有機溶媒が、1種以上の非ハロゲン化脂肪族炭化水素を少なくとも95重量%含有する、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記非ハロゲン化有機溶媒が、1種以上の非ハロゲン化脂肪族炭化水素を少なくとも99重量%含有する、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記非ハロゲン化有機溶媒が、n−ペンタン、イソペンタン、n−ヘキサン、2−メチルペンタン、3−メチルペンタン、2,3−ジメチルブタン、2,2−ジメチルブタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、メチルシクロペンタン、n−へプタン、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、2,2−ジメチルペンタン、2,3−ジメチルペンタン、2,4−ジメチルペンタン、3,3−ジメチルペンタン、3−エチルペンタン、及び、2,2,3−トリメチルブタンからなる群から選択される、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記ブチルゴムが、C〜Cのイソオレフィンモノマーと、C〜C11の共役脂肪族ジエンモノマーとを含有する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
記C〜Cのイソオレフィンモノマーがイソブチレンを含有し、前記C〜C11の共役脂肪族ジエンモノマーがイソプレンを含有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ブチルゴムが、1種以上の共重合可能なアルキル置換ビニル芳香族コモノマーを更に含有する、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
ブチルゴムスラリーからのブチルゴムセメントの製造のための装置であって、前記セメントは非ハロゲン化有機溶媒中にブチルゴムを含有し、スラリーは水中にブチルゴムを含有し、前記装置は密閉型容器で構成され、該密閉型容器は、
a)前記ブチルゴムスラリーと前記非ハロゲン化有機溶媒とを受け入れるように構成された密閉系溶解ゾーンであって、前記スラリーと前記溶媒とを撹拌するための混合手段を備え、前記ブチルゴムを前記溶媒に溶解させて水中に前記ブチルゴムセメントを作る溶解ゾーンと、
b)界面層を挟んでセメント層と縦方向に離隔した水層を形成することによって前記水からの前記ブチルゴムセメントの相分離を促進する、前記溶解ゾーンと横方向に隣接している密閉系分離ゾーンであって、実質的に水平な流路を有し、前記水層と前記セメント層を別々に集めるのに十分な距離で縦方向に離された少なくとも2つの排出口を有している密閉系分離ゾーンと、
を含む装置。
【請求項17】
前記分離ゾーンが、前記界面層を撹拌して破壊するための、前記界面層まで延びた混合手段を更に有している、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記混合手段がゴムセメントを前記界面層に導入するための液体導管を有している、請求項17に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化ブチルゴムの製造方法及び製造装置に関する。より詳しくは、本発明は、非ハロゲン化溶媒中へのゴムの溶解とゴムからの水の分離の両方のために密閉型容器を利用する、ハロゲン化ブチルゴムの製造方法に関する。溶媒の回収のため及び溶媒対ゴムを必要な比率に維持するための、閉ループシステムも提供される。
【背景技術】
【0002】
イソブチレン−イソプレン共重合体、すなわちIIRは、一般にブチルゴムの名で知られている合成エラストマーであり、1940年代からイソブチレンと少量のイソプレン(1〜2mol%)とをランダムカチオン共重合させることによって合成されてきた。その分子構造から、IIRは優れた空気不透過性、高損失弾性率、酸化安定性、及び耐伸張疲労性を有している。
【0003】
ブチルゴムは、イソオレフィンと、好ましくは共役している、1種以上のコモノマーとしてのマルチオレフィンとの共重合体であると理解される。市販のブチルは、大部分を成すイソオレフィンと、少量の、通常は2.5mol%以下の、共役マルチオレフィンとを含有している。ブチルゴムすなわちブチルポリマーは、一般的に、希釈剤として塩化メチル、重合開始剤の一部としてFriedel−Crafts触媒を用いたスラリー法で合成される。この方法は、詳しくは(特許文献1)及び(非特許文献1)に記載されている。
【0004】
このブチルゴムのハロゲン化を行うと、エラストマー中に反応性のハロゲン化アリル官能基が生成する。従来のブチルゴムのハロゲン化方法は、例えば(非特許文献2)及び/又は(非特許文献3)に記載されている。
【0005】
ハロゲン化ブチルゴムの製造において、1つの重要な工程は、水中のゴムクラムを出発物質とする、例えばヘキサンなどの非ハロゲン化有機溶媒に溶解させたゴム溶液の製造である(ゴムセメントと呼ばれる)。
【0006】
ゴムセメントの形成に関する現行技術には、バルク水を取り除くためにゴムスラリー(典型的には5〜20重量%のゴムと80〜95重量%の水を含有)を脱水スクリーンに通し、続いてロータリーバルブを介して予備溶解ドラムに移送してここでヘキサンと混合することを含む、複数の工程が含まれる。膨潤したゴムは、その後ハロゲン化の前に溶解ドラム及びサージドラムに移送される。
【0007】
このようなセメント形成工程はいくつかの欠点を有している。例えば、一般的に用いられているサージドラムは大気に開放されており、予備溶解ドラムの上のロータリーバルブはヘキサンの主要な排出源であり、脱水スクリーン及びロータリーバルブは方法的及び機械的な信頼性の問題を有する場合があり、また、更に重要なことには、現行のシステムは、過剰な排出量のため、イソペンタンやn−ペンタンなどのヘキサンより低い沸点を有する特定の非ハロゲン化有機溶媒を用いることに適していない。
【0008】
現行の方法の改良及び機械的信頼性の向上のための試みがこれまでに行われてきた。例えば、(特許文献2)による方法が知られており、(特許文献2)では、ブチルゴムの3〜5%水性分散液を炭化水素溶媒と混合し、20〜60℃でブチルゴムを溶解し、水層を分離し、10〜15%のブチルゴム溶液をゴムあたり8%の量の次亜塩素酸tert−ブチルと反応させることによって、塩化ブチルゴムが製造されている。この方法は10〜50℃で、1つ又は連続した反応器の中で行われ、引き続き、次亜塩素酸tert−ブチルが完全に分解されて水相のpHが2〜3になるまで、亜硫酸ナトリウム水溶液及び水酸化ナトリウム水溶液を用いて過剰の次亜塩素酸tert−ブチルが中和される。この方法には、更に相の分離、ゴム溶液の水洗、水酸化ナトリウム水溶液を用いた塩化ブチルゴム溶液のpH7〜8への追加的な処理、及びゴムの分離乾燥が含まれる。この方法によって、炭化水素相と水相との分離の改善、及び生成物中の無機物質含量の低減がなされる。しかし、開示されている方法にはいくつかの制限がある。第1に、扱うものが塩化ブチルゴムに限られている。第2に、商業的に実行不可能な範囲である3〜5%のブチルゴム水性分散液に関するものである。第3に、縦型混合容器及び縦型分離器の構成が開示されており、これは十分な界面領域が与えられないことで、及び/又は分離困難なエマルションが形成されることで、相分離に悪影響を及ぼす場合がある。更に、ゴムが相界面でマットを形成し、その結果分離器を詰まらせるおそれがある。
【0009】
結果的に、製造されるブチルゴム及びブチル類似ゴムに対する適用性並びに使用する有機溶媒に対する適用性を広げることを含む、方法の改良のための、そして方法の信頼性及び効率性を向上させるための、そして溶媒排出量を低減するための、代替方法の開発が未だ必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第2356128号明細書
【特許文献2】露国特許第2320672C1号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Ullmanns Encyclopedia of Industrial Chemistry,volume A 23,1993,pp.288−295
【非特許文献2】Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry(Fifth,Completely Revised Edition,Volume A231 Editors Elvers,et al.)
【非特許文献3】Rubber Technology(Third Edition)by Maurice Morton,Chapter 10(Van Nostrand Reinhold Company(著作権)1987),特にpp.297−300
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、現在のセメント形成工程に関連する問題を低減することを目的として、5重量%より多く20重量%までのゴムを有するゴムスラリーを、全ての水除去工程を必要とすることなしに、非ハロゲン化炭化水素溶媒と直接接触させることを可能にする方法及び装置に関する。本明細書に開示されている新規な方法では、水性ゴムスラリーと非ハロゲン化炭化水素溶媒とを直接混合して5〜30重量%のゴムセメント溶液を作ることができる。水層はその後部分的に溶解しているゴムセメントから分離され、セメント相は次の工程へ送られる。好ましい実施形態では、前記方法を実行するために用いられる装置は、少なくとも1つの混合槽と少なくとも1つの静置分離槽とからなる密閉型横型容器を含有している。連続する2つの混合槽の構成にすると、エマルション形成傾向を低減しつつより均一に混合することができ、これによって良好な相分離が促進される。
【0013】
本発明の一態様によれば、ハロゲン化ブチルゴムを連続製造するための方法であって、方法は、水中にブチルゴムを含有するブチルゴムスラリーを連続的に供給することと、非ハロゲン化炭化水素溶媒にブチルゴムスラリーを溶解させて水中にブチルゴムセメントを形成することと、密閉型分離器中でゴムセメントから水を相分離させて分離器中に界面層を形成することと、ゴムセメントをハロゲン化してハロゲン化ブチルゴムを製造すること、とを含有する方法が提供される。
【0014】
本発明の別の態様によれば、ブチルゴムスラリーからのブチルゴムセメントの製造のための装置であって、セメントは非ハロゲン化有機溶媒中にブチルゴムを含有し、スラリーは水中にブチルゴムを含有し、装置は、ブチルゴムスラリーと非ハロゲン化有機溶媒とを受け入れるように構成された密閉系溶解ゾーンであって、スラリーと溶媒とを撹拌するための混合手段を備え、ブチルゴムを溶媒に溶解させて水中にブチルゴムセメントを形成する溶解ゾーンと、界面層を挟んでセメント層と縦方向に離隔した水層を形成することによって水からのブチルゴムセメントの相分離を促進する、溶解ゾーンと横方向に隣接している密閉系分離ゾーンであって、実質的に水平な流路を有し、水層とセメント層を別々に集めるのに十分な距離で縦方向に離された少なくとも2つの排出口を有している分離ゾーンと、を含有している装置が提供される。
【0015】
以下、本発明を図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ラボバッチ式実験におけるセメント/水相分離に対する初期撹拌時間の影響を示す。
図2】ラボバッチ式実験における静置分離速度に対するスラリー温度の影響を示す。
図3】ラボバッチ式実験における静置分離速度に対するゴムクラムの大きさの影響を示す。
図4】ラボバッチ式実験における静置分離速度に対するステアリン酸カルシウム量の影響を示す。
図5】ラボバッチ式実験における静置分離プロファイルに対する溶媒の種類の影響を示す。
図6】ゴムセメント形成のための密閉型横型装置の正面図を示す。
図7】ゴムセメント形成のための別の密閉型横型装置の正面図を示す。
図8】ゴムセメント形成のための密閉型横型装置の設計の特徴を示すフローチャートである。
図9】ヘキサン及びイソペンタンへのブチルゴム溶解曲線である。
図10】ヘキサン及びイソペンタンへのブチルゴム溶解曲線である。
図11】パイロットスケールでの連続製造試験中に採取したゴムセメント試料のゴム及び水の含量を示す。
図12】パイロットスケール試験中に採取した水試料中のヘキサン含量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
ブチルゴムポリマーは、一般的に、少なくとも1種のイソオレフィンモノマーと、少なくとも1種のマルチオレフィンモノマーと、任意選択的な別の共重合可能なモノマーと、から得られる。1つの実施形態では、ブチルゴムはイソモノオレフィンモノマー及び共役ジエンモノマー由来の繰り返し単位を含有していてもよい。別の実施形態では、ブチルゴムはイソモノオレフィンモノマー及びスチレンモノマー由来の繰り返し単位を含有していてもよい。また別の実施形態では、ブチルゴムはイソモノオレフィンモノマー、共役ジエンモノマー、及びスチレンモノマー由来の繰り返し単位を含有していてもよい。
【0018】
ブチルゴムは特定のイソオレフィンに限定されない。例えば4〜16個の範囲内の炭素原子を有するイソオレフィンを含む、当業者に知られているいずれのイソオレフィンも本発明で意図される。本発明の1つの実施形態では、4〜7個の炭素原子を有するイソモノオレフィンが意図される。本発明で使用するためのイソモノオレフィンの例としては、イソブテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、及び混合物が挙げられる。好ましいイソモノオレフィンはイソブテン(イソブチレン)である。
【0019】
同様に、ブチルゴムは特定のマルチオレフィンに限定されない。当業者に知られている、イソオレフィンと共重合可能なマルチオレフィンは、本発明の実施に用いることができる。共役脂肪族ジエンを含有するマルチオレフィンモノマーが好ましい。このようなマルチオレフィンの例としては、例えば4〜14個の範囲の炭素原子、好ましくは5〜11個の炭素原子を有するものが挙げられる。好適なマルチオレフィンの例としては、イソプレン、ブタジエン、2−メチルブタジエン、2,4−ジメチルブタジエン、ピペリリン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、2,4−ヘキサジエン、2−ネオペンチルブタジエン、2−メチル−1,5−ヘキサジエン、2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエン、2−メチル−1,4−ペンタジエン、2−メチル−1,6−へプタジエン、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、1−ビニル−シクロヘキサジエン、及びこれらの混合物が挙げられる。好ましいマルチオレフィンにはイソプレンが含まれる。
【0020】
本発明に有用なブチルゴムとしては、アルキル置換ビニル芳香族コモノマーなどの、上述のマルチオレフィン以外のコモノマーを挙げることができ、C〜Cアルキル置換スチレンが挙げられるがこれに限定されない。このようなコモノマーの具体例としては、例えばα−メチルスチレン、p−メチルスチレン、クロロスチレン、シクロペンタジエン、及びメチルシクロペンタジエンが挙げられる。本発明のこの実施形態においては、ブチルゴムポリマーとしては、例えばイソブチレン、イソプレン、及びパラ−メチルスチレンのランダム共重合体を挙げることができる。
【0021】
好ましいブチルゴムは、少なくとも0.5mol%、好ましくは少なくとも0.75mol%、より好ましくは少なくとも1.0mol%、更に好ましくは1.5mol%、また更に好ましくは2.0mol%の、少なくとも1種のマルチオレフィンモノマー由来の繰り返し単位を含有する。
【0022】
ブチルゴムがモノマー混合物から形成された後、これは水性スラリー中のゴムクラムとして仕上げ工程に送られる。溶媒の過剰な排出を防ぐため、ゴムクラムを水から分離せず、代わりにスラリーを非ハロゲン化有機溶媒と共に激しく撹拌してゴムクラムを溶媒に溶解させる。その後、比重分離工程を行って水相と有機相を互いに分離させる。この比重分離工程では、「ラグ層」と呼ばれる中間層が相間に形成される場合がある。下流の装置の詰まりや汚染を防止するためには、この層を破壊させることが重要である。この層の破壊は、十分な分離が起こるのに要する時間を伸ばすことになる界面での相の乳化を防ぐため、望ましくは穏やかな方法で行われる。
【0023】
一実施形態では、中間層の破壊は有機相の一部を分離器へ再循環することによって達成される。再循環を行うと分離器を通過する総滞留時間が減り、それによって分離工程に悪影響が出ることから、再循環させる量は望ましくは少量に保たれる。再循環に必要とされる溶媒の量を最小限に抑えるために、再循環溶媒を中間層に直接入れて中間層を穏やかに破壊させ、それによって下流の装置の詰まりが防止されることが望ましい。
【0024】
一実施形態では、分離器に存在する全ゴムセメントに対する再循環有機溶媒の比率は、20体積%未満、好ましくは15体積%未満、より好ましくは10体積%未満である。別の実施形態では、中間層は0.001〜0.05W/l、好ましくは0.01〜0.04W/l、より好ましくは0.015〜0.03W/lの入力電力で混合される。
【0025】
混合ゾーンでの滞留時間は3〜120分、好ましくは4〜60分、より好ましくは5〜30分である。混合時間は、少なくとも混合温度と溶媒の選択に影響され得る。
【0026】
本方法は、室温又は室温より高い温度で行うことができる。混合工程と分離工程は異なる温度で行ってもよい。本方法は、好ましくは20〜85℃、好ましくは25〜75℃、より好ましくは30〜70℃、更に好ましくは50〜70℃の温度で行われる。
【0027】
本方法は、環境気圧、環境気圧未満、又は環境気圧より高い気圧で行うことができる。上述の温度では、圧力は環境気圧を大幅に上回る値でもよいが、典型的には2MPa未満である。
【0028】
効率的な分離を達成しつつ実用的な処理量にするために、受け入れる水性ゴムスラリーには、水中に5重量%より多く20重量%以下のブチルゴムが含まれていることが望ましい。好ましくは、ゴムスラリー濃度は、水中に6〜12重量%のブチルゴムを含むことが好ましい。分離器中に存在するゴムセメントは、好ましくは5重量%より多く30重量%までのブチルゴムを含有する。好ましくは、ゴムセメントは18〜22重量%のブチルゴムを含有する。
【0029】
一実施形態では、非ハロゲン化有機溶媒は、好ましくは非ハロゲン化脂肪族炭化水素からなる群から選択される。本発明の好ましい実施形態では、非ハロゲン化有機溶媒は、1013hPaの圧力下で沸点が25〜100℃の範囲である、1種以上の非ハロゲン化脂肪族炭化水素を少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも90重量%、より好ましくは少なくとも95重量%、更に好ましくは少なくとも99重量%含有し、残部は他の非ハロゲン化炭化水素である。1013hPaの圧力下で沸点が25〜100℃の範囲である非ハロゲン化脂肪族炭化水素としては、n−ペンタン、イソペンタン、シクロペンタン、2,2−ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタン、2−メチルペンタン、3−メチルペンタン、n−ヘキサン、メチルシクロペンタン、2,2,3−トリメチルブタン、n−へプタン、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、2,2−ジメチルペンタン、2,3−ジメチルペンタン、2,4−ジメチルペンタン、3,3−ジメチルペンタン、3−エチルペンタン、及び2,2−ジメチルペンタンが挙げられる。
【0030】
別の実施形態では、非ハロゲン化有機溶媒は、n−ペンタン、イソペンタン、シクロペンタン、2,2−ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタン、2−メチルペンタン、3−メチルペンタン、n−ヘキサン、メチルシクロペンタン、2,2,3−トリメチルブタン、n−へプタン、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、2,2−ジメチルペンタン、2,3−ジメチルペンタン、2,4−ジメチルペンタン、3,3−ジメチルペンタン、3−エチルペンタン、2,2−ジメチルペンタン、またはこれらの混合物からなる群から選択される。
【0031】
ブチルゴムセメントが形成された後、ブチルゴムは、本明細書ではハロブチルゴムとも呼ばれるハロゲン化ブチルゴムを形成するために、ハロゲン化処理を受けてもよい。臭素化又は塩素化は、当業者に公知の方法にしたがって行うことができる。公知の方法としては、例えば、Rubber Technology, 3rd Ed., Edited by Maurice Morton, Kluwer Academic Publishers,pp.297−300及びこの中で引用されている文献を挙げることができ、これら全ては参照により本明細書に包含される。
【0032】
一実施形態では、ハロゲン化ブチルゴムには、イソブチレンと、2.2mol%未満のイソプレンとを含有するハロゲン化ブチルゴムが含まれる。このようなハロゲン化ブチルゴムは、例えばLANXESS Deutschland GmbH社から購入することができ、商品名がBB2030(商標)である固体である。
【0033】
ゴムセメント製造工程を行うために使用される装置は、セメント製造工程を行うために設計された、少なくとも1つの混合ゾーン(又は溶解ゾーン)と、少なくとも1つの分離器ゾーン(又は静置分離ゾーン)とで構成されている密閉型の横型容器である。
【0034】
一実施形態では、ブチルゴムスラリーからのブチルゴムセメントの製造のための装置であって、セメントは非ハロゲン化有機溶媒中にブチルゴムを含有し、スラリーは水中にブチルゴムを含有し、装置は、ブチルゴムスラリーと非ハロゲン化有機溶媒とを受け入れるように構成された密閉系溶解ゾーンであって、スラリーと溶媒とを撹拌するための混合手段を備え、ブチルゴムを溶媒に溶解させて水中にブチルゴムセメントを形成する溶解ゾーンと、界面層を挟んでセメント層と縦方向に離隔した水層を形成することによって水からのブチルゴムセメントの相分離を促進する、溶解ゾーンと横方向に隣接している密閉系分離ゾーンであって、実質的に水平な流路を有し、水層とセメント層を別々に集めるのに十分な距離で縦方向に離された少なくとも2つの排出口を有している分離ゾーンと、を含有している装置が提供される。別の実施形態では、装置は界面層を撹拌して破壊するための界面層まで延びている混合手段を更に有している。別の実施形態では、混合手段はゴムセメントを界面層に導入するための液体導管を有している。
【0035】
本方法からの溶媒総排出量を低減するためには、溶解工程及び分離工程は密閉型容器中で行うことが望ましい。更には、静置分離効率に悪影響を及ぼす安定エマルションを生成させ得る容器間の配管を減らすために、両方の工程を同じ容器中で行うことが望ましい。容器は混合ゾーンと分離ゾーンとに分かれていてもよい。ゾーンは、好ましくは液体がゾーン間を自由に動くのを制限又は防止するような容器の内部構造によって互いに分離されている。
【0036】
混合ゾーンの大きさは、分離ゾーンの大きさと異なってもよい。混合ゾーンは分離ゾーンよりも大きい幅と短い長さを有していてもよい。混合ゾーンは好ましくは横方向に分離ゾーンと隣接している。分離器の液体排出口は、望ましくは分離器中の上部のフラクションと下部のフラクションとを互いに別々に取り出すのに十分な距離で縦方向に離されている。液体排出口は好ましくは混合ゾーンとは反対側の分離器端部に位置している。これによって滞留時間がより均一になり、反応器中での液体短絡流生成傾向が低減される。
【0037】
混合ゾーン及び分離ゾーンを通る流れは好ましくは水平である。これによって、分離度が向上し、水相と有機相の滞留時間がより制御される。水平方向に流れることで、分離器の上部フラクション及び下部フラクションそれぞれを必要な流速にすることができ、それによって各フラクションの滞留時間を制御すること、好ましくは各フラクションの滞留時間を一定に維持することができる。垂直方向に流れるパターンでは上部フラクションと下部フラクションの混合が促進されるため、分離器内で均一な滞留時間分布を維持するためにフラクション間の滞留時間を合わせることが困難である。そのため、一般的には、水平に流れるパターンが上部フラクションと下部フラクション全体の分離をより促進する。更に、縦型分離器は一般的に横型容器と比較してより小さい相分離界面領域しか有しておらず、縦型分離器は、特に界面層の撹拌を行わない場合、界面でのゴムの堆積によるマットの生成及び詰まりが起こりやすい傾向にある。
【0038】
図6は、連続撹拌槽型反応器である混合槽すなわち混合ゾーン020と、静置分離槽すなわち分離ゾーン030とで構成されている密閉型横型容器010の概略図を示している。
【0039】
図7は、2つの混合槽050及び060それぞれと、静置分離槽070とで構成されている、別の密閉型横型容器040の概略図を示している。
【0040】
下の実施例で示されるように、相分離速度は、混合時間及び混合物中に溶解しているゴムの量に依存する。したがって、2つ以上が直列に繋がれた連続撹拌槽型反応器(CSTR)によれば、より均一に混合され、それによってより良好に分離させることができると結論付けられる。
【0041】
図8は、ゴムセメント製造工程における密閉型横型容器080のフローチャートである。ゴムスラリーと溶媒は容器に入れられ、容器の静置分離槽110に入る前に、2つの混合槽090及び100を通過する。水相は処理されて混入溶媒を取り除かれ、排出口120を通ってプロセス水として再循環される。ゴム層は排出口130を通って下流工程へと送られる。容器は浸水条件で運転される。下流工程への連絡は、できるだけ短く直接的にされる(水平かわずかに下り坂)。混合ゾーンへの入口は側面から上端近傍である。
【0042】
混合ゾーンすなわち溶解ゾーンの大きさは、必要とされる滞留時間によって決定される。一実施形態では、比入力電力は1.0〜2.0kW/m3であり、好ましくは1.2〜1.5kW/m3である。溶解ゾーンは、例えば直径2500mm、ブレード角53°の2段Viscoprop(商標)などの多段ミキサーと、2つ以上のフラットバッフルとを備えた2つ以上の混合槽を有していてもよい。ステージの位置は、ミキサーが故障してもステージが水相にとどまるように選択される。これによって、撹拌装置が再スタートした際に、安定エマルション(局所的に不適当な相比率)が形成される可能性が低減される。入口部は、液体短絡流が最小限まで減らされるように選択される。スラリーと溶媒は予備混合することが望ましく、例えば任意選択的に静的混合部材を有していてもよい配管のT字部で2つを混ぜ合わせることが挙げられる。分離器の端部のリフトアップ式撹拌装置に関しては、上向流を得るために、例えばブレード角が45°のクロスバー撹拌装置を用いてもよい。比入力電力は例えば約0.1kW/m3である。
【0043】
一実施形態では、分離ゾーンは、蛇行流路を作り、均一な滞留時間分布とするために、一続きのオーバーフロー堰及びアンダーフロー堰を有している。分離器を通過する流路は、実質的に全部水平である。堰は、例えば平均流下速度が0.1〜0.5m/s、好ましくは最大流速が0.4m/sの矩形流路を形成するように設計される。これによって、浮力のために分散有機相が連続水相に対して上方へ動いても、分散有機相が静置分離槽壁に対して下に移動するようにされる。一実施形態では、静置分離槽は直径が1.5〜5m、好ましくは2.5〜4.0mであり、有効静置分離槽長さが3〜20m、好ましくは8〜15mになるように作られる。
【0044】
一実施形態では、混合槽は各槽での平均滞留時間が14分になるように設計される。この混合時間は、十分に相分離させるために、分離前に最小限のゴムしか溶解しないように選択される。2つ以上の混合槽が連続していてもよい。一実施形態では、第2の槽のミキサーが故障する異常事態でも装置を運転できるように、混合槽と分離器の閉じられた上部は同じ高さを有している。この場合、第2の混合槽を分離器の延長として用いることもができる。これは、槽の上部が同じ高さでない場合は難しい。
【実施例】
【0045】
本発明は、以下の非限定的な実施例を参照することによって実証することができる。
【0046】
最初に密閉型ガラス製反応装置を用いてラボバッチ式の実験を行い、プラント条件をシミュレーションした。セメント特性に関するいくつかの関連データが実験から得られ、ここで報告される。
【0047】
続くバッチ試験は、50Lの撹拌容器を用いてLANXESSのゴムプラントで行った。これらの試験によって、製造スケールのミキサー−静置分離装置設計のたたき台を得た。ミキサー−静置分離槽設計は、最大総処理体積フロー300m/hについての報告で示されており、これはゴムクラム16t/hに相当する。
【0048】
2つの撹拌混合槽及び1つの静置分離槽を備えた2920Lのパイロットプラントスケールの容器を、連続フロー条件下で設計を実証するために作った。
【0049】
実施例1−ラボバッチ式実験
密閉型ガラス製反応装置を用いてバッチ式実験を行い、プラント条件をシミュレーションした。セメント製造工程への影響を調べた主な可変条件は、撹拌時間、温度(23℃、40℃、及び65℃)、ブチルゴムのグレード(LANXESS クロロブチルCB1240、ブロモブチルBB2030、BB2040、及びBBX2であるベースゴム)、ゴム粒径(大クラム径:6.3〜19.9mm、小クラム径:0.5〜3.5mm)、ステアリン酸カルシウム量(1%及び3%)、及び溶媒の種類(ヘキサン、イソヘキサン、イソペンタン、n−ヘキサン)である。
【0050】
本実験で用いた材料
ブチルゴムクラム(クロロブチルCB1240及びブロモブチルBB2030、BB2040、及びBBX2であるベースゴム)は、LANXESS Inc.から供給されたものを使用した。
LANXESSブロモブチルBB2030は、臭素含量が1.8±0.2重量%でムーニー粘度(125℃でML 1+8)が32±4の臭素化されたイソブチレン−イソプレン共重合体である。
LANXESSクロロブチルCB1240は、塩素含量が1.25±0.1重量%でムーニー粘度(125℃でML 1+8)が38±4の塩素化されたイソブチレン−イソプレン共重合体である。
LANXESS BB2040は、臭素含量が1.8±0.2重量%でムーニー粘度(125℃でML 1+8)が39±4の臭素化されたイソブチレン−イソプレン共重合体である。
LANXESS BBX2は、臭素含量が1.8±0.2重量%でムーニー粘度(125℃でML 1+8)が46±4の臭素化されたイソブチレン−イソプレン共重合体である。
以下では溶媒は、ヘキサン(蒸留温度範囲65〜69℃)及びイソヘキサン(蒸留温度範囲57〜61℃)(Imperial Oil社より)、並びに、イソペンタン及びn−ペンタン(Sigma−Aldrich社より)を使用した。全ての実験で蒸留/脱イオン水を使用した。
【0051】
溶解及び相分離実験の一般的手順
溶解及び相分離実験は次の手順に従った。
1.4Lの円筒型反応フラスコ、三つ口リアクターヘッド、水冷コンデンサー、頭上撹拌装置を備えた密閉型ガラス製装置を準備する
2.水を水蒸気で75〜80℃に加熱し、反応フラスコへ必要量移送する(実験が室温で行われる場合にはこの工程は不要)
3.底部から水メニスカス水位までの高さを測定し、温度を記録する
4.必要量のウエットゴムクラムを量り、これをフラスコに入れる
5.底部から水メニスカス水位までの高さを測定し、温度を記録する
6.上部を組み立て、コンデンサーに冷水を通しつつ装置全体が漏れなく完全に密閉されているか確認する
7.撹拌装置の電源を入れて600rpmに設定する
8.フラスコ中のゴム水スラリーの温度が必要な温度に達しているか確認する(実験が室温で行われる場合にはこの工程は不要)
9.炭化水素溶媒を量り、別途用意した漏斗を用いてフラスコ中へ入れる
10.タイマーを始動して所望時間ゴムスラリー成分を撹拌する
11.撹拌を停止し、水相とゴムセメント相の高さを測定する
12.撹拌を再開し、1時間後に停止してゴムが炭化水素に完全に溶解しているか確認する
13.粘度、ゴム固形分量及び含水量測定のため、シリンジを用いてゴムセメント試料を取り出す
【0052】
溶液粘度測定
粘度測定はドラフトチャンバー中で、Brookfield(商標) LV−DV III Ultra Viscometerを用いて行った。装置は、25℃で、1000cP、5000cP、及び12,500cPのBrookfield標準シリコーンオイルを用いて較正した。全ての粘度測定において、少量サンプルアダプター及びスピンドルSC4−18を使用した。
【0053】
ゴム濃度及び含水量の測定
ゴム濃度や含水量などのセメント特性は、次の検査方法を用いて測定した。
【0054】
ドラフトチャンバーの中に用意されたクランプに空の遠心管を取り付ける。遠心管に90〜100mLのゴム溶液を入れる。セメントを約1000rpmで10分間遠心分離する。遠心分離機から試料を取り出し、水の体積(下層)及び総体積(ヘキサン及び水)を記録する。清浄/乾燥シリンジに約3mLの上層のヘキサン層を入れる。シリンジとセメントを小数第3位まで秤量する。重量を記録する。乾燥アルミニウム風袋を小数第3位まで秤量する。重量を記録する。シリンジで2〜3mLのゴム溶液を風袋に入れる。空のシリンジを小数第3位まで秤量する。重量を記録する。セメントが入った風袋をドラフトチャンバー内のホットプレートに置き、乾燥するまで放置する。乾燥後、風袋が冷えるまでデシケーターに置いておく。風袋プラスゴムを小数第3位まで秤量する。重量を記録する。
【0055】
計算
室温における水の密度を1g/mLとみなす
ヘキサン+ゴム溶液の密度は以下のように計算する
d、ヘキサン相の密度=(0.002071*S*100)+0.660
A=試料(ヘキサン+水)の総体積(mL)
B=水の体積(mL)
C=ヘキサン+ゴムの体積(mL、[A−B]と等しい)
D=シリンジ+セメントの重量
E=空のアルミニウム風袋の重量
F=セメントを風袋に移した後のシリンジ重量
G=アルミニウム風袋+乾燥ゴムの重量
S=得られた固形分
【数1】

%総固形分=(100−%水)*S
【0056】
結果
ラボバッチ式実験は、セメント製造中の溶解工程及び相分離工程に影響を与える重要なパラメーターを調べるために計画された。以下の表には、溶解工程及び相分離工程の重要なパラメーターを調べるために行われた対照実験が記載されている。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】
【0061】
【表5】
【0062】
【表6】
【0063】
ゴム溶液の特性
実験1〜18について、最初の水相の高さと実験終了時の最終的な水相の高さを基に、セメントの含水量を決定した(表7)。
【0064】
【表7】
【0065】
実験20〜31について、総固形分量、含水量、及び溶液粘度の測定を行うために、実験の終わりにセメント試料を採取した。
【0066】
全ての場合でゴムクラムは溶液に完全に溶解していた。結果は表8にまとめられている。
【0067】
【表8】
【0068】
(1)セメント/水相分離に対する初期撹拌時間、(2)静置分離速度に対するスラリー温度、(3)静置分離速度に対するゴムクラム径、(4)静置分離速度に対するステアリン酸カルシウム量、及び(5)静置分離プロファイルに対する種類、の影響がそれぞれ図1〜5に示されている。
【0069】
ラボバッチ式実験の結果から、以下のことが結論付けられる。
(1)ゴムセメント相と水相の分離は、試験した全ての炭化水素溶媒(ヘキサン、メチルペンタン、n−ペンタン、及びイソペンタン)で観察された。
(2)60〜65℃の開始スラリー温度では、相分離は15分以内に平衡に達するようである。
(3)相分離の初期速度はスラリー温度に依存する(高温ほど初期相分離速度が速い)。
(4)相分離速度は混合時間に依存する。
(5)相分離はクラム径分布には影響されないようである(クラム径6.3〜19.9mm対0.5〜3.5mm)。
(6)ゴムクラム中のステアリン酸カルシウム量は初期相分離速度に影響を与え得る。
(7)室温で行われた、イソペンタンやn−ペンタンなどの低沸点溶媒を含む実験では、高温で行われた他の実験よりも低い分離速度で、20〜30分以内にきれいな相分離がみられた。
【0070】
実施例2−バッチ試験
手順の概要
製造スケール容器の詳細な設計寸法を決定するために、LANXESSゴムプラントで、4つのフラットバッフルと3段Viscoprop撹拌装置を備えた50Lの容器を用いてバッチ試験を行った。
【0071】
クラムをゴムプラントから採取し、バルク水から分離した。試験1回分のクラムの量は実験室で秤量した。同様にプラントのゴムスラリーから直接抜き出した水を、手作業で計量して混合容器に入れ、その後、予め秤量した量のゴムクラムを混合容器に入れた。撹拌装置を始動し、容器を閉じた。加熱ジャケットを用いて混合容器を目標温度まで加熱した。重合反応をクエンチした後、溶媒を必要な量計量して密閉した容器に入れた。容器側面ののぞき窓から流れ及び静置分離の挙動を観察した。密閉型容器の有機相及び水相から試料を抜き出した。有機相用のサンプリングロッドはスクリーンを備えていたため、試料に入り込んだ非溶解ゴム粒子は見られなかった。
【0072】
試験1
試験1の目的は、バルク水存在下でのヘキサンへのゴム溶解挙動を調べることであった。充填体積は45lであった。スラリー中のゴム濃度は8重量%であった。有機相に対する乾燥ゴム濃度は最大19.4重量%であった(完全に溶解していた場合)。撹拌装置の比入力電力は1.2W/lであった。温度は50℃であった。容器へ入れる前にクラムの写真を撮影した。混合時間3、7、14、30、60、及び120分後に、撹拌装置を止めて有機相の試料を取り出した。その後ミキサーを再びスタートさせ、有機相を水相と混合した。混合時間3分及び7分後、分離及び明瞭な界面の出現には1分超を要する。混合時間14分後、相分離には約40秒要する。
【0073】
試験2
試験2の目的は、バルク水存在下でのイソペンタンへのゴム溶解挙動を調べることであった。充填体積は45lであった。スラリー中のゴム濃度は8%であった。有機相に対する乾燥ゴム濃度は最大19.4%であった(完全に溶解していた場合)。撹拌装置の比入力電力は1.2W/lであった。温度は50℃であった。クラムの写真を撮影した。混合時間3、7、14、30、60、及び120分後に、撹拌装置を止めて有機相の試料を取り出した。その後有機相を水相と再び混合した。混合時間3分及び7分後、分離及び明瞭な界面の出現には1分超を要した。混合時間14分後、相分離には約40秒要した。
【0074】
溶解曲線は図9に示されている。試験3、4、及び5の標準混合時間として23分を選択した。これはその時間後に約41%のゴムが溶解する時間であった。この溶液混合物は、静置分離に望ましい相分離を得ることができる。
【0075】
試験3
試験3の目的は、ヘキサン/水へのゴムの静置分離挙動及びバルク水除去後のヘキサンへのゴムの溶解挙動を調べることであった。充填体積は45lであった。スラリー中のゴム濃度は8%であった。有機相に対する乾燥ゴム濃度は最大19.4%であった(十分に溶解していた場合)。撹拌装置の比入力電力は1.2W/lであった。温度は50℃であった。
【0076】
混合時間23分後に撹拌装置を停止して、有機相と水相から静置直後に、そして撹拌なしで30分後(有機相のみ)に、試料を採取した。セメント中に溶解しているゴムの濃度は約6.3%(23分撹拌後)及び6.4%(混合停止後30分、撹拌なしの静置時間)であった。これはゴムのうち33%の部分が溶解していたことに相当する。静置分離時間は約45秒であった。混合停止2分後、更なる界面変化は観察されなかった。
【0077】
静置30分後、水相を抜き出して有機相を再び120分撹拌した。撹拌システムはCMU用に最適化されていたため、すなわちそれぞれのミキサー中で高い液面であったため、撹拌状態は不十分であった。混合時間30、60、及び120分後、有機相の試料を採取した。溶解曲線は図10に示されている。
【0078】
試験4
試験4の目的は、イソペンタン/水へのゴムの静置分離挙動及びバルク水除去後のイソペンタンへのゴムの溶解挙動を調べることであった。充填体積は45lであった。スラリー中のゴム濃度は8%であった。有機相に対する乾燥ゴム濃度は最大19.4%であった(完全に溶解していた場合)。撹拌装置の比入力電力は1.2W/lであった。温度は50℃であった。
【0079】
混合時間23分後に撹拌装置を停止して、有機相と水相から静置直後に、そして撹拌なしで30分後(有機相のみ)に、試料を採取した。セメント中に溶解したゴムの濃度は約6.4%(23分撹拌後)及び6.4%(混合停止後30分、撹拌なしの静置時間)であった。これはゴムのうち33%の部分が溶解していたことに相当する。このことから、静置分離槽(撹拌なし)でゴムは非常にゆっくり溶解すると結論付けられる。
【0080】
静置分離時間は約30秒であった。ミキサーを停止して2分後、更なる界面変化は観察されなかった。その後、水相を抜き出して有機相を再び120分撹拌した。撹拌システムはCMU用に最適化されていたため、撹拌状態は不十分であった。混合時間30、60、及び120分後、有機相の試料を採取した。溶解曲線は図10に示されている。
【0081】
試験5
試験5の目的は、より高い固形分濃度におけるイソペンタン/水へのゴムの静置分離挙動を調べることであった。充填体積は45lであった。スラリー中のゴム濃度は8%であった。有機相に対する乾燥ゴム濃度は最大21.7%であった(完全に溶解していた場合)。撹拌装置の比入力電力は1.2W/lであった。温度は50℃であった。
【0082】
混合時間23分後に撹拌装置を停止して、有機相と水相から試料を採取した。セメント中に溶解したゴムの濃度は約7.5%であった。これはゴムのうち34.6%の部分が溶解していたことに相当する。静置分離時間は約30秒であった。ミキサーを停止して2分後、更なる界面変化は観察されなかった。
【0083】
試験6
試験6の目的は、イソペンタン/水の相間界面でのゴムのマット生成挙動を調べることと、マット破壊に必要な電力を調べることであった。充填体積は30lであった。スラリー中のゴム濃度は8%であった。有機相に対する乾燥ゴム濃度は最大19.4%であった(完全に溶解していた場合)。撹拌装置の比入力電力は1.2W/lであった。温度は50℃であった。
【0084】
水、クラム、及び溶媒を撹拌しないで混合容器に入れた。30分後、撹拌装置のスイッチを入れ、マットが破壊されるまで回転速度を上げた。その後、混合物を更に7分、14分、及び30分(これらの混合時間後にミキサーを停止)撹拌して、低充填量(45lの代わりに30l)での有機相を目視で観察した。
【0085】
マットは低い入力電力(54rpm、0.02W/l)で破壊された。初期混合時間7分後では、明瞭なイソペンタン相がみられた(静置後)。初期混合時間14分後では、明瞭な有機相/溶媒相は見られず、有機相の成層は許容範囲であった。
【0086】
試験7
試験7の目的は、イソペンタン/水の中でのゴムのエマルション生成を調べることであった。充填体積は30lであった(のぞき窓で観察できる液位より低い液位)。スラリー中のゴム濃度は8%であった。有機相に対する乾燥ゴム濃度は最大19.4%であった(完全に溶解していた場合)。撹拌装置の比入力電力は1.2W/lであった。温度は50℃であった。
【0087】
23分の初期混合の後、撹拌装置を停止した。分離は1分以内に完了した。その後、混合物を再び1分撹拌し、次いで回転速度を落として配管中の流れをシミュレーションした。その後、回転速度を再び5〜7秒上げてポンプをシミュレーションした。その後、撹拌装置を停止した。界面は20mm低く、したがってエマルションが生成していた。これは、最初の分離後の初期状態と比較して有機相中に水が更に1.9l存在することに相当する。その後ミキサーのスイッチを再び入れた。初めの1分間の初期混合後、界面液位は変化しなかった。11分間の追加混合後、界面液位は元々の高さまで回復した。したがって、この種類のエマルションは長時間の撹拌によって破壊することができる。
【0088】
結果
試験1及び2で、ヘキサンとイソペンタンの溶解曲線が決定された(図9参照)。ゴム/溶媒/水系では、イソペンタンは同じ時間でヘキサンよりも多くのゴムを溶解させる。偏差は分析精度の範囲内であろう。
【0089】
化学工学の原理から、同じ混合時間では、連続した2つの混合容器にすると、1つの混合容器と比較してより均一に混合される。複数の径の異なる混合槽での混合段階後の非溶解ゴムの量を計算するために、ヘキサンの溶解曲線と2つの理想的なCSTR滞留時間分布が用いられた(表9参照)。
【0090】
【表9】
【0091】
試験3、4、及び5の結果に基づいて、バッチ試験の特異的静置分離時間として40秒が選択された。特異的静置分離時間は、設計された連続操業型静置分離槽中の滞留時間ではない。これは、ゴム/水/溶媒系のある種の特性データとして定義することができる。
【0092】
ゴム/溶媒系では、バルク水の除去後、イソペンタンはヘキサンと比較して同じ時間で若干少ない量のゴムしか溶解しない(図10参照)。しかし、不十分な撹拌条件のため、結果は典型的なものではない。精度の範囲内では、ヘキサンとイソペンタンの溶解挙動は同程度であると考えられる。
【0093】
試験6は、実験で観察されたゴムマットが低い入力電力(0.02W/l)で破壊可能であることを示している。
【0094】
試験7は、安定エマルションを生成することができ、かつこの種のエマルションを長時間撹拌することで破壊できることを示している。しかし、静置分離効率を高めるため、エマルションが生成し得る条件は避けるべきである。したがって、安定エマルションの生成を避けるために槽間の移送配管を最小限にする目的で、「一体型」のミキサー/静置分離槽が推奨される。
【0095】
実施例3−連続パイロットスケール試験
フルスケールの設計からスケールダウンしたパイロットミキサー/静置分離槽を作り、連続フロー条件下での混合効率及び静置分離効率を検証した。パイロットミキサー/静置分離槽は、2つの混合槽(それぞれ直径1200mm)と、直径508mmの静置分離槽で構成されている。混合部及び静置分離部の総体積は2920Lである。混合槽は撹拌装置を備えている。生成するゴムマットを破壊するために静置分離槽の端部に小さい撹拌装置が取り付けられている。ゴムスラリー及びプラントヘキサンは、メイン製造設備からパイロットユニットへ送られた。ミキサー静置分離槽から分離したセメント及び水は、製造ユニットに戻した。この試験は以下の条件で行われた。
− 製品グレード=BB2030ベースポリマー
− パイロット装置へのスラリー濃度=6重量%
− 目標セメント濃度=20重量%
− 混合撹拌速度(A8701及びA8702)は83%、すなわち141rpmに設定した
− ヘキサンのフローは連続的であり、スラリーのフローは断続的に入れた
− 静置分離槽界面は頻繁な視野確認を頼りに手動で制御した
− 出口水温によって示されるミキサー及び静置分離槽中の混合物温度は57〜59℃であった
− 試験された平均混合時間は36〜112分であった。
【0096】
ゴムセメント試料を静置分離槽部のセメント排出口から取り出し、セメントのゴム含量を測定した。水試料を静置分離槽部の水排出口から取り出し、GC分析を行って水相中の残留ヘキサン量を測定した。結果は図11及び12に示され得る。
【0097】
パイロットスケール試験から、以下のことが結論付けられる。
− 最初の2つの混合槽での混合と、水/溶媒交換はうまくいった。
− 相分離は計画通りに生じた。
− ゴムは計画通りに部分的に溶解し、溶解したゴムの量は滞留時間と温度に依存する。溶解したゴムの量は、バッチ試験から見込まれる量よりも連続実験の量の方が多い。
− 溶媒としてイソペンタン又はイソヘキサンが使用される場合、前述のバッチ試験及びラボ試験に基づくと、相分離挙動に相違は見られないと予想される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12