【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、タンデム質量分析を含めた質量分析により、試料中のジヒドロテストステロン(DHT)の量を検出する方法を提供する。好ましくは、本発明の方法は、質量分析の前に試料中のDHTを誘導体化することを含まない。
【0007】
一態様では、体液試料中の非誘導体化ジヒドロテストステロン(DHT)の量を決定する方法が提供される。この態様の方法は、(a)体液試料中のDHTを固相抽出により精製するステップ、(b)体液試料からDHTをイオン化し、質量分析で検出可能な1種または複数のDHTイオンを生成するステップであって、生成イオンが、質量電荷比291.10±0.50のDHT前駆イオンと、255.20±0.50および79.20±0.50からなる群より選択される1種または複数のDHTフラグメントイオンとからなる群から選択されるステップ、ならびに(c)1種または複数のDHTイオンの量を質量分析により決定するステップを含む。1種または複数のDHTイオンの量を測定した後、DHTイオン(複数可)の量を用いて、試験試料中の非誘導体化DHTの量を計算する。幾つかの実施形態では、該質量分析はタンデム質量分析である。幾つかの実施形態では、固相抽出および質量分光分析が、オンライン方式で行われる。幾つかの実施形態では、固相抽出が、高乱流液体クロマトグラフィー(HTLC)として行われる。幾つかの実施形態では、該方法は、質量分析の前に、好ましくはオンライン処理による高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて、体液試料中のDHTを精製するステップを更に含む。幾つかの実施形態では、体液試料が血漿または血清である。幾つかの実施形態では、該方法は、5ng/dL以上200ng/dL以下の範囲内に定量限界を有する。幾つかの実施形態では、質量分析で検出した1種または複数のDHTイオン(複数可)の量を用いて、内部標準、好ましくは16,16,17−d
3ジヒドロテストステロンとの比較により、試験試料中の非誘導体化DHTの量を計算する。上記列挙した実施形態の特徴は、本発明の方法で使用するために、制限なしに組み合わせてもよい。
【0008】
第2の態様では、試験試料中の非誘導体化ジヒドロテストステロン(DHT)の量を質量分析により決定する方法が提供される。この態様の方法は、(a)試験試料中のDHTを高乱流液体クロマトグラフィー(HTLC)を用いて精製するステップ、(b)試験試料からDHTをイオン化し、質量分析で検出可能な1種または複数のDHTイオンを生成するステップ、および(c)1種または複数のDHTイオンの量を質量分析により検出するステップを含む。こうした方法では、測定したDHTイオン(複数可)の量を用いて、試験試料中のDHT量を計算する。幾つかの実施形態では、該質量分析はタンデム質量分析である。幾つかの実施形態では、試験試料中のDHTの精製は、好ましくはオンライン処理用に構成された、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた精製を含む。幾つかの実施形態では、試験試料が、体液試料、好ましくは血漿または血清である。幾つかの実施形態では、質量分析で検出可能なDHTイオンは、質量/電荷比291.10±0.50、255.20±0.50および79.20±0.50のイオンからなる群から選択される1種または複数のイオンを含む。幾つかの実施形態では、DHTをイオン化するステップは、質量/電荷比291.10±0.50の前駆イオンの生成と、質量/電荷比255.20±0.50および79.20±0.50のイオンからなる群より選択される1種または複数のフラグメントイオンの生成とを含む。幾つかの実施形態では、該方法は、5.0ng/dL以上200ng/dL以下の範囲内に定量限界を有する。幾つかの実施形態では、質量分析で検出した1種または複数のDHTイオン(複数可)の量を用いて、内部標準、好ましくは16,16,17−d
3ジヒドロテストステロンとの比較により、試験試料中の非誘導体化DHTの量を決定する。上記列挙した実施形態の特徴は、本発明の方法で使用するために、制限なしに組み合わせてもよい。
【0009】
第3の態様では、体液試料中の非誘導体化ジヒドロテストステロン(DHT)の量をタンデム質量分析により決定する方法が提供される。この態様の方法は、(a)体液試料からDHTを高乱流液体クロマトグラフィー(HTLC)により精製するステップ、(b)質量/電荷比291.10±0.50の前記DHTの前駆イオンを生成するステップ、(c)前駆イオンの1種または複数のフラグメントイオンを生成するステップであって、前記1種または複数のフラグメントイオンの少なくとも1種が、質量/電荷比255.20±0.50および79.20±0.50のフラグメントイオンの群から選択されるフラグメントイオンを含むステップ、ならびに(d)ステップ(b)もしくは(c)または両ステップで生成した前記イオンの1種または複数の量を検出するステップを含む。検出したイオンの量を用いて、体液試料中の非誘導体化DHTの量を計算する。幾つかの実施形態では、試験試料からのDHTの精製は、好ましくはオンライン処理用に構成された、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を更に含む。幾つかの実施形態では、体液試料が血漿または血清である。幾つかの実施形態では、該方法は、5.0ng/dL以上200ng/dL以下の範囲内に定量限界を有する。幾つかの実施形態では、質量分析で検出した1種または複数のDHTイオン(複数可)の量を用いて、内部標準、好ましくは16,16,17−d
3ジヒドロテストステロンとの比較により、試験試料中の非誘導体化DHTの量を計算する。上記列挙した実施形態の特徴は、本発明の方法で使用するために、制限なしに組み合わせてもよい。
【0010】
本発明の方法は、液体クロマトグラフィーと質量分析との組合せを含む。好ましい実施形態では、液体クロマトグラフィーはHPLCである。好ましい一実施形態は、HPLCを単独で、または試料中のDHTを精製するために、例えばHTLCおよび/またはタンパク質の沈殿とろ過などの1種または複数の精製法と組み合わせて利用する。好ましい別の実施形態では、質量分析はタンデム質量分析(MS/MS)てある。
【0011】
本明細書に開示される方法のある種の好ましい実施形態では、質量分析が正イオンモードで行われる。代替として、質量分析が負イオンモードで行われる。本発明の実施形態では、例えば大気圧化学イオン化(APCI)またはエレクトロスプレーイオン化(ESI)を含め、各種のイオン化源を使用し得る。ある種の好ましい実施形態では、DHTが、正イオンモードのAPCIを用いて測定される。
【0012】
好ましい実施形態では、質量分析計で検出可能なDHTイオンは、質量/電荷比(m/z)291.10±0.50、255.20±0.50および79.20±0.50の正イオンからなる群から選択される。特定の好ましい実施形態では、DHT前駆イオンは、m/z291.10±0.50を有し、1種または複数のフラグメントイオンは、m/z255.20±0.50および79.20±0.50のイオンからなる群から選択される。
【0013】
好ましい実施形態では、別個に検出可能な内部標準を試料中に加え、試料中のその量も測定する。これらの実施形態では、試料中に存在する内因性DHT、内部標準双方の全部または一部をイオン化して、質量分析計で検出可能な複数のイオンを生成し、各々から生成した1種または複数のイオンを質量分析により検出する。
【0014】
好ましい内部標準は、16,16,17−d
3ジヒドロテストステロン(16,16,17−d
3DHT)である。好ましい実施形態では、質量分析計で検出可能な内部標準イオンは、m/z294.10±0.50および258.20±0.50の正イオンからなる群から選択される。特定の好ましい実施形態では、内部標準前駆イオンは、m/z294.10±0.50を有し、内部標準フラグメントイオンは、m/z258.20±0.50を有する。
【0015】
好ましい実施形態では、DHTイオンの存在または量は、16,16,17−d
3ジヒドロテストステロンなどの基準物質との比較により、試験試料中のDHTの存在または量と関連づけられる。
【0016】
ある種の好ましい実施形態では、DHTの定量限界(LOQ)は、5.0ng/dL以上200ng/dL以下の範囲内、好ましくは5.0ng/dL以上100ng/dL以下の範囲内、好ましくは5.0ng/dL以上50ng/dL以下の範囲内、好ましくは5.0ng/dL以上25ng/dL以下の範囲内、好ましくは5.0ng/dL以上15ng/dL以下の範囲内、好ましくは5.0ng/dL以上10ng/dL以下の範囲内、好ましくは約5.0ng/dLである。
【0017】
本明細書で使用する場合、別途明記しない限り、単数形「a」、「an」および「the」は、複数への言及を包含する。したがって、例えば「あるタンパク質」への言及は、複数のタンパク質分子を包含する。
【0018】
本明細書で使用する場合、「誘導体化」とは、2つの分子を反応させて、新たな分子を形成することを意味する。DHT分子などのあるアンドロゲン分子の誘導体化は、当技術分野でよく知られる多数の誘導体化試薬を用いて実施し得る。例えば、Kashiwagi, B., et al., J Andrology 2005, 26: 586-91、およびDHTのフルオロ−1−メチルピリジニウム−p−トルエンスルホネートによる抽出前の誘導体化を報告しているKashiwagi, B., et al., Urology 2005, 66: 218-23を参照されたい。本明細書で使用する場合、「非誘導体化」とは、誘導体化されていないことを意味する。したがって、誘導体化について示されていないジヒドロテストステロン(DHT)は、非誘導体化DHTである。
【0019】
本明細書で使用する場合、用語「精製」または「精製する」とは、対象とする被検物質(複数可)以外の物質を全て試料から除くことを指す訳ではない。そうではなく、精製とは、対象とする被検物質の検出を妨害する恐れのある試料中の他の成分に対して、対象とする1種または複数の被検物質の量を濃縮する手順を指す。各種の手段による試料の精製により、1種または複数の妨害性物質、例えば、質量分析による選択されたDHTの親または娘イオンの検出を妨害するかもしれない1種または複数の物質を相対的に低減させることが可能となる。相対的低減は、この用語を使用する場合、精製すべき材料中に対象とする被検物質と共に存在する任意の物質を、精製によって完全に除去することを要求していない。
【0020】
本明細書で使用する場合、用語「試験試料」とは、DHTを含有し得る任意の試料を指す。本明細書で使用する場合、用語「体液」とは、個人の体から単離できる任意の液体を意味する。例えば、「体液」は、血液、血漿、血清、胆汁、唾液、尿、涙、汗などを包含し得る。
【0021】
本明細書で使用する場合、用語「クロマトグラフィー」とは、液体または固体の固定相の周りまたはその上を流れる際、各化学的構成要素が差別的に分布する結果、液体または気体に運ばれた化学的混合物をその各成分に分離する方法を指す。
【0022】
本明細書で使用する場合、用語「液体クロマトグラフィー」または「LC」とは、流動性溶液が、微細物質のカラムまたはキャピラリー通路の中を均一に浸透する際、その液体の1種または複数の成分を選択的に遅延させる方法を意味する。その遅延は、この液体が固定相(複数可)に対して移動する際に起こる、1つまたは複数の固定相およびバルク液体(即ち移動相)間の混合物成分の分布から生じる。「液体クロマトグラフィー」の例には、逆相液体クロマトグラフィー(RPLC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)および高乱流液体クロマトグラフィー(HTLC)が含まれる。
【0023】
本明細書で使用する場合、用語「高速液体クロマトグラフィー」または「HPLC」とは、固定相、通常は高密度充填カラムの中を圧力下に移動相を強制的に通すことにより、分離度を高める液体クロマトグラフィーを指す。
【0024】
本明細書で使用する場合、用語「高乱流液体クロマトグラフィー」または「HTLC」とは、分離を行う基礎として、アッセイ対象物質がカラム充填剤を通る際の乱流を利用する1種のクロマトグラフィーを指す。HTLCは、質量分析の前に、不特定の薬物2種を含有する試料を調製する際に適用されてきた。例えば、Zimmer et al., J Chromatogr A 854: 23-35 (1999)を参照されたい。HTLCが更に説明されている米国特許第5968367号、第5919368号、第5795469号および第5772874号も参照されたい。当業者は、「乱流」を理解している。液体が徐々に滑らかに流れるとき、その流れは「層流」と呼ばれる。例えば、低流速でHPLCカラムの中を移動する液体は、層流である。層流では、液体粒子の運動は規則的であり、一般に粒子は、直線となって移動する。速度が増すと、水の慣性が液体摩擦力に打ち勝ち、乱流が生じる。不規則な境界に接していない液体は、摩擦で減速した、または凹凸表面により逸れた液体より「速く流れる」。液体が乱流となって流れているとき、渦および渦流(または渦巻)となって流れ、層流のときより「抵抗」が大きい。液流が、何時層流または乱流であるかを決定する際の補助に、多くの参考文献が利用できる(例えば、Turbulent Flow Analysis: Measurement and Prediction, P. S. Bernard & J. M. Wallace, John Wiley & Sons, Inc., (2000; An Introduction to Turbulent Flow, Jean Mathieu & Julian Scott, Cambridge University Press (2001))。
【0025】
本明細書で使用する場合、用語「ガスクロマトグラフィー」または「GC」とは、試料混合物を蒸気化し、液体または粒子状固体からなる固定相を含んだカラムの中を移動するキャリアーガス(窒素またはヘリウムとして)の流れの中に注入し、固定相に対する各成分化合物の親和性に従って、その各化合物に分離するクロマトグラフィーを指す。
【0026】
本明細書で使用する場合、用語「大型粒子カラム」または「抽出カラム」とは、約50μmを超える平均粒子径を含んだクロマトグラフィーカラムを指す。これに関連して使用する場合、用語「約」とは±10%を意味する。
【0027】
本明細書で使用する場合、用語「分析用カラム」とは、被検物質の有無または量の決定を可能とするのに十分である、カラムから溶離する試料の物質間の分離が、行われるのに十分なクロマトグラフィー段数を有するクロマトグラフィーカラムを指す。このようなカラムは、保持された物質を保持されていない物質から分離または抽出して、更なる分析用に精製試料を得るという一般目的を有する「抽出カラム」とは、しばしば区別されている。これに関して使用する場合、用語「約」とは±10%を意味する。好ましい実施形態では、分析用カラムは直径が約4μmの粒子を含む。
【0028】
本明細書で使用する場合、用語「オンライン」または「インライン」とは、例えば「オンライン自動化方式」または「オンライン抽出」において使用する場合、操作者の介入を必要とせずに行われる手順を指す。対照的に、本明細書で使用する場合の用語「オフライン」とは、操作者の手操作の介入を必要とする手順を指す。したがって、試料が沈殿してしまった後、上清をオートサンプラー中に手操作で添加した場合、沈殿および添加のステップは、その後のステップからオフラインである。本法の各種実施形態では、1つまたは複数のステップは、オンライン自動化方式で行い得る。
【0029】
本明細書で使用する場合、用語「質量分析」または「MS」とは、質量により化合物を同定する分析法を指す。MSとは、質量電荷比または「m/z」に基づいてイオンを選別し、検出し、測定する方法を指す。MS技術には、一般に、(1)化合物をイオン化して、荷電化合物を形成するステップ、および(2)荷電化合物の分子量を検出し、質量電荷比を計算するステップが含まれる。該化合物は、適切な任意の手段によりイオン化し、検出し得る。「質量分析計」は、一般に、イオナイザーおよびイオン検出器を備えている。一般に、対象とする1種または複数の分子はイオン化され、続いてそのイオンは、質量分析装置の中に導入され、そこで磁界および電界が相俟って、イオンは、質量(「m」)および電荷(「z」)に依存した空間経路を辿る。例えば、「表面からの質量分析(Mass Spectrometry From Surfaces)」と題する米国特許第6204500号、「タンデム質量分析用の方法および装置(Methods and Apparatus for Tandem Mass Spectrometry)」と題する同第6107623号、「質量分析に基づくDNA診断(DNA Diagnostics Based On Mass Spectrometry)」と題する同第6268144号、「被検物質を脱離および検出するための表面強化した光不安定な結合および放出(Surface-Enhanced Photolabile Attachment And Release For Desorption And Detection Of Analytes)」と題する同第6124137号、Wright et al., Prostate Cancer and Prostatic Diseases 1999, 2: 264-76およびMerchant and Weinberger, Electrophoresis 2000, 21: 1164-67を参照されたい。
【0030】
本明細書で使用する場合、用語「負イオンモードで操作する」とは、負イオンを生成し、検出する質量分析法を指す。本明細書で使用する場合の用語「正イオンモードで操作する」とは、正イオンを生成し、検出する質量分析法を指す。
【0031】
本明細書で使用する場合、用語「イオン化」または「イオン化する」とは、1つまたは複数の電子単位に等しい正味電荷を有する、被検物質イオンを生成するプロセスを指す。負イオンは、1つまたは複数の電子単位の正味負電荷を有するものであるが、正イオンは、1つまたは複数の電子単位の正味正電荷を有するものである。
【0032】
本明細書で使用する場合、用語「電子イオン化」または「EI」とは、ガス相または気相の対象被検物質を、電子流と相互作用させる方法を指す。電子の被検物質との衝突で、被検物質イオンが生成し、次いでそれを質量分析法に掛け得る。
【0033】
本明細書で使用する場合、用語「化学イオン化」または「CI」とは、試薬ガス(例えばアンモニア)に電子衝撃を加え、試薬ガスイオンと被検物質分子との相互作用により、被検物質イオンを形成する方法を指す。
【0034】
本明細書で使用する場合、用語「高速原子衝撃」または「FAB」とは、高エネルギー原子(しばしばXeまたはAr)のビームを不揮発性試料に衝突させ、試料中に含まれる分子を脱離させ、イオン化する方法を指す。試験試料は、グリセロール、チオグリセロール、m−ニトロベンジルアルコール、18−クラウン−6クラウンエーテル、2−ニトロフェニルオクチルエーテル、スルホラン、ジエタノールアミンおよびトリエタノールアミンなどの粘性液体マトリックス中に溶解している。化合物または試料に適したマトリックスの選定は、経験によって行う。
【0035】
本明細書で使用する場合、用語「マトリックス支援レーザー脱離イオン化」または「MALDI」とは、不揮発性試料をレーザー照射に曝すことにより、試料中の被検物質を、光イオン化、プロトン化、脱プロトン化およびクラスター分解を含む各種イオン化経路によって、脱離させ、イオン化する方法を指す。MALDIの場合、試料は、被検物質分子の脱離を促進するエネルギー吸収性マトリックスと混合する。
【0036】
本明細書で使用する場合、用語「セルディ法(surface enhanced laser desorption ionization)」または「SELDI」とは、不揮発性試料をレーザー照射に曝すことにより、試料中の被検物質を、光イオン化、プロトン化、脱プロトン化およびクラスター分解を含む各種イオン化経路によって、脱離させ、イオン化する別の方法を指す。SELDIの場合、試料は、1種または複数の対象被検物質を選択的に保持する表面に、通常結合している。MALDIと同様に、このプロセスでも、エネルギー吸収性材料を用いてイオン化を促進し得る。
【0037】
本明細書で使用する場合、用語「エレクトロスプレーイオン化」または「ESI」とは、溶液を長さの短いキャピラリー管に沿って通過させ、管の末端に正または負の高い電位を印加する方法を指す。管の末端に到達する溶液は、溶媒蒸気中の微小液滴溶液のジェットまたはスプレーとなって蒸発する(霧化する)。この液滴ミストは、凝縮を防止し、溶媒を蒸発させるために少し加熱された蒸発室の中を流れる。液滴が小さくなるにつれ、表面電荷密度は増加し、遂には、類似の電荷同士間の自然反発のために、イオンならびに中性分子も放出される。
【0038】
本明細書で使用する場合、用語「大気圧化学イオン化」または「APCI」とは、ESIに類似の質量分析法を指すが、APCIでは、大気圧のプラズマ内で起こるイオン−分子間反応によりイオンを生成する。プラズマは、スプレーキャピラリーおよび対電極間の放電により維持される。次いで、イオンは、通常、差動排気された1組のスキマーステージの使用により、質量分析器の中へ抜き取られる。乾燥した予備加熱N
2ガスの逆流を用いて、溶媒の除去を改善してもよい。APCIにおける気相イオン化は、極性のより低い種の分析にとって、ESIより有効になり得る。
【0039】
本明細書で使用する場合の用語「大気圧光イオン化」または「APPI」とは、分子Mの光イオン化機構が、光吸収および電子放射による分子イオンM+の形成である質量分析の形態を指す。光子エネルギーは、通常イオン化ポテンシャルより僅かに高いので、分子イオンの解離が、よりし難くなる。多くの場合、クロマトグラフィーの必要性なしに試料の分析が可能になり得るので、相当程度に時間および経費が節約される。水蒸気またはプロトン性溶媒の存在下で、分子イオンは、Hを引き抜いてMH+を形成することができる。これは、Mが高いプロトン親和性を有する場合に、起こる傾向がある。M+およびMH+の和が一定であるので、これが定量正確度に影響することはない。プロトン性溶媒中の薬物化合物は、普通MH+として観察されるが、ナフタレンまたはテストステロンなどの非極性化合物は、普通M+を形成する。例えば、Robb et al., Anal. Chem. 2000, 72(15): 3653-3659を参照されたい。
【0040】
本明細書で使用する場合、用語「誘導結合プラズマ」または「ICP」とは、大部分の元素が原子化され、イオン化されるほどに十分高い温度で、試料が、部分イオン化ガスと相互作用する方法を指す。
【0041】
本明細書で使用する場合、用語「電界脱離」とは、不揮発性の試験試料をイオン化表面上に配置し、強力な電界を用いて、被検物質イオンを生成する方法を指す。
【0042】
本明細書で使用する場合、用語「脱離」とは、表面からの被検物質の除去および/または気相中への被検物質の進入を指す。レーザー脱離・熱脱離は、被検物質を含有する試料を、レーザーパルスにより気相中へ熱脱離させる技法である。レーザーは、金属基材の特製96ウェルプレートの背面に衝突する。レーザーパルスは基材を加熱し、その熱で、試料は気相中に移動する。次いで、気相試料は質量分析計の中へ抜き取られる。
【0043】
本明細書で使用する場合、用語「選択的イオンモニタリング」とは、比較的狭い質量範囲内、通常は約1質量単位のイオンだけを検出する、質量分析装置の検出方式である。
【0044】
本明細書で使用する場合、用語「多重反応方式」とは、時々「選択反応モニタリング」としても知られているが、前駆イオンおよび1つまたは複数のフラグメントイオンを選択的に検出する、質量分析装置の検出方式である。
【0045】
本明細書で使用する場合、用語「定量化限界」、「定量限界」または「LOQ」とは、測定値が定量的に意味をもつようになる点を指す。このLOQにおける被検物質の応答は、識別可能であり、個別的であり、再現性があり、相対標準偏差(RSD%)は20%であり、正確度は80%〜120%である。
【0046】
本明細書で使用する場合、用語「検出限界」または「LOD」とは、測定値が、それに伴う不確実性より大きい点である。LODは、ある値が、その測定に伴う不確実性を超えている点であり、ゼロ濃度における平均値のRSDの2倍と定義される。
【0047】
本明細書で使用する場合、体液試料中のDHTの「量」とは、ある容量の体液中で検出可能なDHTの質量を反映した絶対値を一般に指す。しかし、この量はまた、別のDHT量と比較した際の相対量も想定している。例えば、体液中のDHTのある量は、通常存在する対照または正常レベルのDHTより大きい量であってもよい。
【0048】
イオンの質量測定以外の定量的測定値に関して、本明細書で使用する場合の用語「約」とは、表示値プラスまたはマイナス10%を指す。質量分析装置は、所与の被検物質の質量を決定する際、わずかに変動しうる。イオンの質量またはイオンの質量/電荷比に関する場合、用語「約」とは、±0.50原子質量単位を指す。
【0049】
上記した本発明の概要は限定的なものではなく、本発明の他の特徴および利点は、本発明の以下の詳細な説明、および特許請求の範囲から明らかとなろう。