特許第6096427号(P6096427)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6096427多周波の容量検出を伴うマルチタッチのタッチセンサー式装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6096427
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】多周波の容量検出を伴うマルチタッチのタッチセンサー式装置
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/044 20060101AFI20170306BHJP
   G06F 3/041 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
   G06F3/044 120
   G06F3/041 512
   G06F3/044 130
   G06F3/041 590
【請求項の数】5
【外国語出願】
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-135897(P2012-135897)
(22)【出願日】2012年6月15日
(65)【公開番号】特開2013-4102(P2013-4102A)
(43)【公開日】2013年1月7日
【審査請求日】2015年5月8日
(31)【優先権主張番号】1101860
(32)【優先日】2011年6月17日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505157485
【氏名又は名称】テールズ
(74)【代理人】
【識別番号】100071054
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 高久
(72)【発明者】
【氏名】コニ、フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ソンタグ、イヴ
【審査官】 加内 慎也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−325852(JP,A)
【文献】 特開2010−055260(JP,A)
【文献】 特開2010−140465(JP,A)
【文献】 特表2010−515193(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0060589(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0158180(US,A1)
【文献】 米国特許第05886687(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/044
G06F 3/041
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の導電性の行(11)と導電性の列(12)を含む、マトリックス形のタッチパッド(10)を備えた、投影型容量検出を用いるタッチスクリーン装置(1)であって、前記パッドが:
各導電性の行と列に対して放出電圧(VIN)を発生させる電子制御手段(20)と、
各導電性の行と列からの受電電圧(VOUT)を受け取り、電子的に解析する手段(50)とに接続され、
―前記電子制御手段が、各導電性の行と列に対して、動作周波数と称される第一の周波数において放出される第一の周期的放出電圧と、前記第一の周波数とは異なる、識別周波数と称される第二の周波数において放出される第二の周期的放出電圧とを発生させ、
―前記受電及び電子的解析手段(50)が各行と各列に対して:
前記動作周波数における第一の受電電圧の値、及び前記識別周波数における第二の受電電圧の値との偏差(ΔVOUT)を示す値に応じて、前記2つの受電電圧の値が前記タッチパッド上のタッチ、及び関係する行及び列の上での、このタッチの位置を表わすかどうか
を決定するように構成され
前記動作周波数の値が、インピーダンスの抵抗部分で変化するこの動作周波数で、前記受電電圧の非常に小さい変化を生じさせるために十分低く、そして前記識別周波数の値が、インピーダンスの抵抗部分で変化するこの識別周波数で、前記受電電圧の著しい変化を生じさせるために十分高く、
この抵抗部分のこれらの変化は、少なくともタッチの位置を表しており、
単純なタッチの際、その行と列の位置は、最大偏差の行信号と列信号の周りの重み付けされた重心に基づいて前記電子的解析手段(50)によって計算され、点の対はタッチの座標を与え、
2つの位置合わせされたタッチの場合、共通の行又は列は前記電子的解析手段(50)によって計算され、点の三つ組は2つのタッチの座標を与え、
2つの位置合わせされないタッチの場合、点の四つ組が前記動作周波数において、次に前記識別周波数において測定され、周波数の変化に続く信号の変化が、前記電子的解析手段(50)によって、ゴーストの除去および異なるタッチの座標を与える点の四つ組を決定するために用いられることを特徴とする、タッチスクリーン装置。
【請求項2】
前記動作周波数の値が、この動作周波数において前記受電電圧のインピーダンスの抵抗部分の、非常に小さい変化を生じさせるために十分低く、そして前記識別周波数の値が、この識別周波数において前記受電電圧の前記インピーダンスの抵抗部分の、著しい変化を生じさせるために十分高いことを特徴とする、請求項1に記載のタッチスクリーン装置。
【請求項3】
前記受電電圧を受け取り電子的に解析する前記手段が2つの同期復調器(53)を備え、第一の復調器が前記動作周波数で動作し、第二の復調器が前記識別周波数で動作することを特徴とする、請求項1または2に記載のタッチスクリーン装置。
【請求項4】
前記受電及び電子的解析手段が:
―何のタッチもないときの、各行と各列の前記動作周波数における前記受電電圧の格納値の表と、
―測定された偏差が、関係する行又は列の上でのタッチを表わすかどうかを決定するように、前記受電電圧の測定値と前記受電電圧の前記格納値との間の偏差を、各行と各列に対して確立する比較手段と
を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のタッチスクリーン装置。
【請求項5】
前記動作周波数が100kHz〜500kHzの間であり、そして前記識別周波数が500kHz〜5MHzの間であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のタッチスクリーン装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、容量検出を伴うタッチセンサー式表面又は「タッチスクリーン」に関し、とりわけ、2つ同時のタッチの検出を可能にする、いわゆる「マルチタッチ」のタッチセンサー式表面に関する。この機能は、例えば画像の「拡大表示」又は回転を作り出すために必須である。本発明は様々な用途に適用され得るが、特に航空分野及び航空機の計器パネルの制約に良く適している。
【背景技術】
【0002】
いわゆる「投影型」容量検出は、ユーザーの指の近傍又は他のあらゆる導電性の指示物体によって導入される、静電容量の局部的変化を検出するように構成された、検出マトリックスを作ることにある。いわゆる投影型容量性技術は:
―マトリックスのキー配列の行と、次に列を読むことにある「自己容量」検出と、
―マトリックスのキー配列の各交点を読むことにある、いわゆる「相互容量」検出とである、2つの主な異なったものを有する。
【0003】
「相互容量」技術は、パッド全体を読むことを必要とする。従ってマトリックスがN行とM列を有する場合、N×Mの捕捉が行なわれねばならず、それは高解像度及び短い応答時間を伴う、大寸法のパッドの製作を問題のあるものにする。さらに、「相互容量」モードにおいて測定されるべき静電容量は、「自己容量」モードにおいて得られるものよりも小さく、それはユーザーによる(データ)グローブの使用を問題のあるものにする。
【0004】
「自己容量」検出の利点は、上記パッドに対して、マトリックスの読み取りを実行するために、システムがN+Mの捕捉しか必要としないことである。「自己容量」技術の主な欠点は、実在しないタッチ又は「ゴースト」(“ghosts”)の問題を解決するための、単純な解決策が何もないことである。図1はこの問題を例証している。それは導電性の行と列のマトリックスMLCの部分的視図を表わす。この図及びそれに続く複数の図において、複数のタッチは2つの指により表わされている。2つの同時のタッチが(X,Y)及び(X,Y)において生じるとき、システムは作用を受けた2つの列(X,X)及び2つの行(Y,Y)を検出する。これらの2行及びこれらの2列は、本当のタッチに対応するが、また(X,Y)及び(X,Y)に位置する実在しないタッチGにも対応し、システムはどちらが正しいタッチかを先験的に決定出来ない。
【0005】
このゴーストの問題を解決するため、対策が既に開発されている。第一の解決策は、パッドの捕捉速度が非常に速い場合に、同時のタッチの発生確率が低いことに基づき、時間的識別を実行することにある。しかしながら、例えばタッチセンサー式表面の上で画像回転を行なう2つの指のアプローチに相当する、完全に同時のタッチは処理されない。用語「マルチタッチ」装置は、従って真に適用されることは出来ない。
【0006】
米国特許出願公開第2010/0177059号明細書は、タッチの近傍における行/列の結合静電容量を測定することにより、疑いを取り除く方法を提案している。この結合はゴーストの場合には存在しないため、そのとき本当のタッチの位置を決定することは容易である。しかしながら、そのような測定は上記に挙げた場合において各々の行/列の対に対して7個という、多数のアナログスイッチを必要とする。かなりの余分な費用に加えて、スイッチの追加は、それらが行あるいは列にわたって切り替えるとき、アースと比較して結合静電容量を増加させる。実際、それらはあたかも多数の指がパッド上に置かれたかのように動作する。
【0007】
一例として、1つの指が1pFのオーダーの静電容量を持つ一方で、JFET(Junction Field Effect Transistor)[接合型電界効果トランジスタ]技術における優れたスイッチは、10pFの結合静電容量を持つ。4つのスイッチが使用される場合、1つのスイッチで10pFの代わりに、40pFの値に対して1pFの変化が測定される必要がある。この結果は比率4の感度ロスである。ユーザーが(データ)グローブを着用しているか、又は電磁ノイズの存在下で信号対雑音比(SN比)が低下するとき、この感度ロスは問題である。
【0008】
静電容量の測定は別の問題を提起する。静電容量を測定するには主として3つの方法がある。
【0009】
最も古いものは容量分圧器ブリッジであり、その1つのアームは基準静電容量から成り、その他の静電容量が測定される。第二の方法は、その周波数が測定されるべき静電容量の値に依存する、緩和発振器を用いる。これら2つの方法は、特に航空機上では日常的な無線周波数妨害の場合に、読取りノイズに対して敏感であることが知られている。
【0010】
タッチパネルに対する容量性保護のために、消費財製品において近頃最も広く使われている第三の方法は、電荷移動による測定である。良好なSN比を与える、様々な変形が存在する。この方法は、測定されるべき静電容量が基準値まで充電されるまで、矩形パルスのインパルスもしくは「バースト」により、前者に給電することにある。基準電荷を得るために必要なパルス数は、測定されるべき静電容量を表わす。
【0011】
しかしながら、この測定は電荷の移動及びバーストの発生に必要な複数のスイッチを要する。これらのスイッチの標遊容量は、信号のダイナミックレンジを制限し、SN比を低下させる。
【0012】
この方法に伴う別の欠点は、バーストの周波数におおよそ等しい周波数において放出される電磁妨害に対する堅牢性の弱さである。実際、複数の行と列はそのときアンテナとして挙動し、電磁波を拾う。それらは測定バーストに加えて標遊電流を誘発し、誤った測定値を生じさせるであろう。
【0013】
最後に、容量測定法は測定を実施するために比較的高い周波数の交番信号を用いる。航空機のコックピットのような一定の環境において、装置の電磁放射のレベルは、センサー又はアンテナのような一定の感度の高い機器を妨害しないように、かなり低くなければならない。電荷移動測定法は矩形波を使用する。これらの信号は、広い周波数帯域にわたって、基準により許容されるしきい値よりも遥かに大きな障害を作り出す、高調波を発生させる。
【0014】
結論として、投影型容量性タッチスクリーンは現在、航空機のコックピット内又はあらゆる決定的に重要な環境において、それらを用いることを困難にする多くの欠点を有する。実際に、既に見られたように、タッチの検出は実在しないタッチ又は外部の電磁妨害により偽られ得る。さらに、その測定原理は電磁環境を中断し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/0177059号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明によるタッチセンサー式装置は、これらの欠点を持たない。その物理的原理は、2つの異なる周波数における放出電圧の使用に依存する。複数の行と列における出力信号は、周波数に応じて、1つの行と列におけるタッチの存在だけでなく、その行と列の位置も表わす、異なるインピーダンスを有することが実証されている。
【0017】
この装置はゴーストのない「デュアルタッチ」式であり、それは読取りノイズ及び外部の電磁妨害に対して鈍感であり、最後に、それは航空分野において規定されているような電磁放射規格に適合する。さらに、ユーザーはこのタッチセンサー式表面を、(データ)グローブを着用した手を用いて、同じ性能レベルで使用できる。
【課題を解決するための手段】
【0018】
より具体的には、本発明の主題は、複数の導電性の行と導電性の列を含む、マトリックス形のタッチパッドを備えた、投影型容量検出を用いるタッチスクリーン装置であり、前記パッドが:
各導電性の行と列に対して放出電圧を発生させる電子制御手段と、
各導電性の行と列からの受電電圧を受け取り、電子的に解析する手段とに接続され、
―電子制御手段が、各導電性の行と列に対して、動作周波数と称される第一の周波数において放出される第一の周期的放出電圧と、第一の周波数とは異なる、識別周波数と称される第二の周波数において放出される第二の周期的放出電圧とを発生させ、
―受電及び電子的解析手段が各行と各列に対して:
○動作周波数における第一の受電電圧の値、及び識別周波数における第二の受電電圧の値と、
○所定の値に応じて、2つの受電電圧の値がタッチパッド上のタッチ、及び関係する行及び列の上での、このタッチの位置を表わすかどうか
を決定するように構成されることを特徴とする。
【0019】
有利なことに、動作周波数の値は、この動作周波数において受電電圧のインピーダンスの抵抗部分の、非常に小さい変化を生じさせるために十分低く、そして識別周波数の値は、この識別周波数において受電電圧のインピーダンスの抵抗部分の、著しい変化を生じさせるために十分高い。
【0020】
有利なことに、受電電圧を受け取り電子的に解析する手段は2つの同期復調器を備え、第一の復調器は動作周波数で動作し、第二の復調器は識別周波数で動作する。
【0021】
有利なことに、受電及び電子的解析手段は:
―何のタッチもないときの、各行と各列の動作周波数における受電電圧の格納値の表と、
―測定された偏差が、関係する行又は列の上でのタッチを表わすかどうかを決定するように、受電電圧の測定値と受電電圧の格納値との間の偏差を、各行と各列に対して確立する比較手段と
を含む。
【0022】
動作周波数は100kHz〜500kHzの間であり、そして識別周波数は500kHz〜5MHzの間であることが望ましい。
【0023】
本発明は制限されない例として与えられている以下の記述を読むことにより、そして添付図のおかげでより良く理解され、その他の利点が明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】既にコメントされているが、先行技術による投影型容量性タッチセンサー式装置における、実在しないタッチの問題を表わす。
図2】タッチパッドの行と列の間の交点周囲の、静電容量と電気抵抗の電気回路図を表わす。
図3】本発明による装置における、適用される周波数に応じた、3つの異なるタッチ位置に対する1つの行又は1つの列の出力信号の変化を表わす。
図4】本発明による装置における、タッチの位置に応じた1つの行又は1つの列の出力信号の変化を、2つの異なる周波数に対して表わす。
図5】本発明による、投影型容量性タッチセンサー式装置のブロック線図を表わす。
【発明を実施するための形態】
【0025】
導電性の行と列から成る電極のマトリックスを含む、容量性タッチセンサー式装置を電気的に説明している、単純化されたモデルが存在する。それは、オペレータの指の表面をパッド上に投影することにより、当該オペレータの指がマトリックスと容量的に結合されたタッチの表現から成る。この表面は第一番目が行、第二番目が列における少なくとも2つの電極をカバーする。オペレータはそのときアースと、少なくとも関係する行又は列との間に、静電容量Cを加えると考えられる。しかしながら、このモデルは局部的に留まり、測定の環境を考慮に入れていない。
【0026】
図2は、容量性マトリックス装置のより洗練されたモデルを表わす。各行は実際にアナログスイッチを通じて、測定装置及び/又は電源装置に接続されている。これらのスイッチはアースに比べて結合静電容量Cを加え、測定された信号の減衰を引き起こす電気抵抗Rを示す。
【0027】
さらに、各行は給電点と指の接触点との間に一定の抵抗を有する、ITO(Indium Tin Oxide)[インジウムスズ酸化物]タイプの透明な材料から成るため、この抵抗は指が接続点から遠くなる程大きくなる。Rがタッチ及び次へのその接続の抵抗であるとき、列n上のタッチとマトリックスの縁との間の抵抗はn.Rである。
【0028】
また、行と列の配列は相互に結合されている。実際に、各トラックの交点において静電容量Cが存在し、各行はn列により横切られ、また、行又は列はそれらの近隣と結合されている。この結合は静電容量ClCにより図2において表わされている。
【0029】
最後に、タッチパッドとの間にはまた結合静電容量が存在し、その接続及び機械部分は装置と、同様に行と列を電子測定装置につないでいる様々なトラック同士の間の相互結合とを形成する。
【0030】
その結果、容量性のタッチパッドの捕捉は、オペレータによって投影される単純な静電容量の捕捉へと縮小されることは出来ない。それは、共に相互接続された抵抗と静電容量の組合せから成る、複雑な多極の構成部品上への、この投影の結果である。
【0031】
本発明による装置は、この複雑さを利用する。図2に見られるように、マトリックスの近傍に何の物体もないとき、各行Lは、注入静電容量Cを経由する交流電圧電源と、アースに対する標遊結合静電容量C及び入力抵抗Rから成る入力インピーダンスを持つ、読取りバッファとに接続されている。この行Lは単位長さあたりの抵抗を有し、各列の交点において容量結合されている。
【0032】
指が行Lの正確な点の上に置かれるとき、それは静電容量を関係する行の部分へ投影する。先行技術によるタッチセンサー式装置は、この投影された静電容量のみを測定する。この単純な測定は行の上のタッチ位置について、何の知識も提供せず、この情報は投影された静電容量の値によって届けられない。
【0033】
本発明の核心は、加えられた静電容量を単に考慮するのではなく、行全体によって形成される複合モデルに対するその影響も考慮する。特に、長さlの行Lの抵抗Rilを考える場合、その行の一端と接触点との間には抵抗Riaが存在する。抵抗Riaは抵抗Rilよりも小さい。この抵抗値は出力信号VOUTを変更する。この信号VOUTは:
OUT=Z.VINの値を持つ。ここで、VINは周波数Fの周期的入力信号であり、そしてZは:
Z=A+Bjの値を持つ行のインピーダンスである。項A及びBは、静電容量C、C及びCと、抵抗R及びRiaの関数である。
【0034】
本モデルのトポロジーは、静電容量Cと関連する抵抗Riaが一次の低域フィルターを構成する、RCネットワークに一次的に類似し得る。図3は適用された周波数に応じた、3つの異なるタッチ位置に対する1つの行の出力信号の変化を表わし、タッチに対する第一の曲線C1は行の縁に位置し、第二の曲線C2は行の中央に位置し、第三の曲線C3は行の端に位置する。図3の尺度は両方の軸に対して対数である。そのとき、図3に見られるように、タッチの位置にかかわらずRiaの変化がVOUTの最小変化を引き起こすように、周波数FMINが存在する。逆に、タッチの位置に応じてRiaの変化がVOUTの大きな減衰を引き起こすように、周波数FMAXが存在する。従って、この周波数FMAXにおいて、この減衰を測定することにより、抵抗Riaの値を知ることが容易であり、その結果として、その行の接触点の位置を決定することが容易である。
【0035】
図4はタッチの位置に応じた、導電性の列に沿う周波数FMIN及びFMAXに対する出力信号VOUTの変化を表わす。この図4は2つのグラフを含む。上のグラフは行の始めにおける変化を表わす。下のグラフは行の終わりにおける出力信号VOUTの変化を表わす。図4において、実線のカーブは周波数FMAXにおける信号VOUTの変化を表わし、破線のカーブは周波数FMINにおける信号VOUTの変化を表わす。VOUTを両方の周波数FMIN及びFMAX及において測定することにより、測定された行の抵抗Riaに関する情報が得られ、それはその行の接触点の位置決定を可能にする。この測定は必ずしも非常に正確である必要はない。しかしながら、それで十分である。実際に、既に見られたように、「自己容量」タイプの検出の主な問題はゴーストの出現である。2つの異なる周波数における二重の測定により、例え近似的であってもタッチの位置を知ると、本当のタッチの対と「ゴースト」タッチの対との間の不確定性は取り除かれる。
【0036】
本発明による装置は、この二重周波数の容量測定原理を実行できるようにする手段を含む。制限されない一例として、図5は本発明による投影型容量検出を用いた、タッチパッド装置1を表わす。それは基本的に:
―互いに平行な導電性の行11の第一組を含む第一の基板と、互いに平行な導電性の列12の第二組を含む第二の基板とを備えたタッチパッド10と、
―タッチセンサー式装置の動作に必要な、様々な送信信号及び受信信号を制御し、解析する手段20と、
―デジタル−アナログ変換器“DAC”31、増幅器32、及び注入静電容量33を経由して、交流電圧VINでタッチパッドに給電する、可変周波数の正弦波高周波数発生器30であって、一般にその周波数が数百kHz〜数MHzの間である周波数発生器と、
―マルチプレクサ40であって、それが入力電圧VINを連続的にタッチパッド10の各列12と、次に各行11に加え、各々の対応する出力信号VOUTを、電子処理装置50に加えられる電圧VINに差し向けるマルチプレクサと、
―「バッファ」メモリ51、アナログ−デジタル変換器もしくはADC52、周波数発生器30につながれた同期復調器53、及びフィルタリングされた信号が解析手段20に送られる、電子フィルタリング手段54とを含む、電子処理装置50と、
―解析手段20により処理された信号を、それが一般的にタッチパッドと結合されて、制御され、修正され、又は検証されるべき情報を表示する表示装置である、外部へと再送信することを確実にする、送受信手段60又は“Universal
Asynchronous Receiver Transmitter”(「万能非同期送受信機」)を表わす“UART”とを備える。
【0037】
本装置は次のように動作する。公称モードにおいて、パッドの行と列は、第一の動作周波数FMIN及び第二のいわゆる識別周波数FMAXにおいて、入力電圧VINにより永続的及び連続的に走査される。この電圧は手段30、31、32、及び33から成る電子組立品により生成される。
【0038】
図5において指によって象徴的に表わされているタッチの際、及びこのタッチの位置に従って、一定の静電容量が接触点とアースとの間に作り出され、この静電容量は主として行と列の抵抗により、マルチプレクサ40につながれる。
【0039】
この抵抗成分及び容量分は、システムの全体インピーダンスZの変化を引き起こし、既に述べたように、Z=A+BjにおいてZ.VINの値を有する、出力信号VOUTに作用するであろう。出力信号VOUTは次に同期復調器53を用いて、そこからZ=A+Bj及びj=sin(2π.F.t)において、有効値VOUT=Z.VINを差し引くために、電子装置50によって復調される。同期復調は、無差別の受動フィルタリング段階の使用を回避する、高い性能指数を有する帯域通過フィルターとして作用することにより、電磁妨害“EMI”をフィルタリングするために用いられる。
【0040】
少なくとも2つの測定がなされ、1つは動作周波数FMINにおいて、もう1つは識別周波数FMAXにおいてである。大寸法のパッドに関しては、多数の識別周波数FMAXを用いることが可能である。有利なことに、周波数FMIN及びFMAXは2つの同期復調器53を用いて別個に変調及び復調され、それは単一の測定において、タッチの位置を表わす静電容量C及び抵抗Rの値を得ることを可能にする。
【0041】
最後に、復調器53からのフィルタリングされた連続的信号は、フィルタリング手段54によって濾過される。
【0042】
手の接近がない場合、タッチ・コントローラは周波数FMINにおいてパッドの画像を永続的に実行し、休止状態におけるインピーダンスの表は、そこからスライディング平均により推定される。この画像は、そこから各交点にその状態を割り当てることが可能な偏差の表を形成するために、インピーダンスの瞬時値の表から差し引かれる。この方法は“Process for operating a capacitive tactile keyboard”(「容量性のタッチ式キーボードの動作用プロセス」)と題される、欧州特許第0567364号明細書に部分的に記述されている。
【0043】
単純なタッチの際、その行と列の位置は、最大偏差の行信号と列信号の周りの重み付けされた重心に基づいて計算され、点の対はタッチの座標を与える。
【0044】
複数の位置合わせされたタッチの場合、共通の行又は列は同じ方法で計算され、点の三つ組は2つのタッチの座標を与える。
【0045】
複数の位置合わせされないタッチの場合、点の四つ組が周波数FMINにおいて、次に周波数FMAXにおいて測定される。周波数の変化に続く信号の変化がゴーストの除去を決定するために用いられ、点の四つ組は異なるタッチの座標を与えることを可能にする。
【0046】
以上のように、本発明によるタッチセンサー式装置において実施される電子手段は単純であり、投影型容量検出に伴う主要な課題、言い換えれば実在しないタッチの検出、同期検出による外部の電磁妨害に対する不感受性、純粋で高調波の無い正弦波信号の使用を通じた電子的環境から来る、妨害の無いことを効果的に解決する。
【符号の説明】
【0047】
LC マトリックス
G 実在しないタッチ




IN 入力電圧
OUT 出力信号
結合静電容量
注入静電容量
静電容量
lC 静電容量
静電容量
入力抵抗
ia 抵抗
il 抵抗
抵抗

C1 第一の曲線
C2 第二の曲線
C3 第三の曲線
F 周波数
Z インピーダンス
1 タッチパッド装置
10 タッチパッド
11 導電性の行
12 導電性の列
20 電子制御手段
30 周波数発生器
31 デジタル−アナログ変換器
32 増幅器
33 注入静電容量
40 マルチプレクサ
50 電子処理装置
51 バッファメモリ
52 アナログ−デジタル変換器
53 同期復調器
54 電子フィルタリング手段
60 送受信手段
図1
図2
図3
図4
図5