特許第6096510号(P6096510)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6096510圧電セラミック組成物、該組成物を製造する方法及び該組成物を含む電気的構成部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6096510
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】圧電セラミック組成物、該組成物を製造する方法及び該組成物を含む電気的構成部品
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/462 20060101AFI20170306BHJP
   C04B 35/49 20060101ALI20170306BHJP
   H01L 41/187 20060101ALI20170306BHJP
   H01L 41/22 20130101ALI20170306BHJP
【FI】
   C04B35/462
   C04B35/49
   H01L41/18 101B
   H01L41/22
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-522175(P2012-522175)
(86)(22)【出願日】2010年7月29日
(65)【公表番号】特表2013-500919(P2013-500919A)
(43)【公表日】2013年1月10日
(86)【国際出願番号】EP2010061053
(87)【国際公開番号】WO2011012682
(87)【国際公開日】20110203
【審査請求日】2013年4月5日
【審判番号】不服2015-5990(P2015-5990/J1)
【審判請求日】2015年4月1日
(31)【優先権主張番号】102009035425.5
(32)【優先日】2009年7月31日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】300002160
【氏名又は名称】エプコス アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】EPCOS AG
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100109449
【弁理士】
【氏名又は名称】毛受 隆典
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】ホフマン、クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】コウンガ ンジワ、アレン ブライス
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ユンリ
【合議体】
【審判長】 大橋 賢一
【審判官】 三崎 仁
【審判官】 永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−047745(JP,A)
【文献】 特開2005−047748(JP,A)
【文献】 特開2005−047746(JP,A)
【文献】 特開2008−098627(JP,A)
【文献】 特開2009−007182(JP,A)
【文献】 特開2009−007181(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B35/462, H01L41/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト構造を有する少なくとも三つのマトリックス成分を含むマトリックス材料を含むか、又は、当該マトリックス成分のみからなる圧電セラミック組成物であって、
第1のマトリックス成分は(Bi0.50.5)EOであり、
第2のマトリックス成分はBaEOであり、
第3のマトリックス成分はBi(Me0.50.5)Oであり、
Aがアルカリ金属又はアルカリ金属の混合物から選択されており、
Eがチタン、ジルコニウム及びチタンとジルコニウムの混合物から独立に選択されており、
Meが亜鉛、マグネシウム及び亜鉛とマグネシウムの混合物から選択されており、
マトリックス成分の含量が、電界により強誘電相に構造的に転移する、モルフォトロピック相境界近くの疑似立方晶系の非強誘電相の組成物を形成するよう選択されている、
圧電セラミック組成物。
【請求項2】
前記組成物が前記マトリックス材料及び添加剤を含むか、又は、該マトリックス材料と該添加剤のみから成り、該添加剤が金属酸化物である、請求項1に記載の圧電セラミック組成物。
【請求項3】
式:
k(Bi0.50.5)EO−lBaEO−mBi(Me0.50.5)O
(式中、
k≦0.96、
l≦0.96、
0.04≦m≦0.15及び
k+l+m=1)
で示されるマトリックス材料を含むか又は該マトリックス材料のみから成る、請求項1又は2に記載の圧電セラミック組成物。
【請求項4】
マトリックス材料及び添加剤を含むか又はマトリックス材料及び添加剤のみから成り、
前記組成物が次の式:
a[k(Bi0.50.5)EO−lBaEO−mBi(Me0.50.5)O]−bM
(式中、Mは一価の金属、二価の金属及び三価の金属ならびにこれらの混合物から選択されており、Mはその相応の金属酸化物MO、MO又はMを表わし、
a+b=1であり、さらに、セラミック組成物の0≦b≦3重量%及び97≦a≦100重量%である)で表される、請求項1から3のいずれか一項に記載の圧電セラミック組成物。
【請求項5】
前記添加剤が遷移金属酸化物から選択されている、請求項2又は4に記載の圧電セラミック組成物。
【請求項6】
前記組成物が350pm/Vより大きな有効圧電定数d33*を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の圧電セラミック組成物。
【請求項7】
A)セラミック組成物中の前記第1のマトリックス成分、前記第2のマトリックス成分及び前記第3のマトリックス成分又は任意の添加剤に含まれている金属の金属塩の粉末を用意し、該金属塩のアニオンが酸化物、か焼によって少なくとも部分的に酸化物に変換可能であるか又は変換されたアニオン、及びこれらの混合物から選択されており、さらに粗製粒子の含量を該当する成分又は該当する添加剤についての式の化学量論に従って選択し、
B)得られた混合物を成形及び焼結する、
ことによる請求項1から6のいずれか一項に記載の圧電セラミック組成物を製造する方法。
【請求項8】
工程A)とB)の間に次の工程:
C)工程A)で用意された粉末の混合物をか焼する工程、
を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記金属塩を酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、水和物及び類似の化合物から選択する、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記焼結を温度950〜1200℃で実施する、請求項7から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の圧電セラミック組成物を含む電気的構成部品。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
電気及び電子機器における特定の有害物質の使用制限(RoHS − Restriction of the use of hazardous substances)は、欧州連合(EU)の多数の法律及びガイドライン(例えばMarketing of Products Package, RoHs, EuP etc.)において、人間の健康の保護ならびに不要になった電気及び電子の機器の環境を汚染しない回収及び廃棄(WEEE − waste electrical and electronic equipment)に寄与するものとして真剣に考慮の対象とされた。RoHSに対する最後の提案(2008年12月)は、より広い適用のために、有害物質のより厳格な禁止を規定している。とりわけ医療装置ならびに監視及びコントロール機器においては2014年1月1日以降、電子セラミック部材中の鉛の使用(0.1重量%以上)はもはやこの禁止の例外ではない。しかしながら、これまで圧電形の高性能装置(センサ、アクチュエータ、共振器等)の多くが鉛含有のセラミック部材を有する。圧電組成物はジルコン酸チタン酸鉛(PZT)から成る固溶体を基礎とするのが通常であり、チタン酸鉛(PbTiO)とジルコン酸鉛(PbZrO)間のモルフォトロピック相境界(MPB)の近くに存在する。この有毒元素である、鉛(Pb)はこれら物質中で60重量%以上の含量を示し、したがって関連WEEEの製造時にも、後処理時にも重大な環境問題をもたらす。
【0002】
世界中で、PZTに対する環境を汚染しない代替物質を見いだすために、とりわけここ10年間多数の研究が実施されてきた。残念ながら、技術的成果ならびに製造コストに関してPZTに完全に代替することができる実際に無鉛の物質はこれまでに未だ開発されていない。最適化された組成/構造/技術によって、電気により生じる大きなひずみ(電気ひずみ(electro−strain))が本質的な問題ではない特別な適用に相応するいくつかの匹敵する圧電特性がもたらされた。しかしながら、報告されたアクチュエータへの適用を目的とする物質は、柔らかいPZTに比してより小さな電気により生じるひずみ(電気ひずみ応答(electrostrain response))を示すのが通常である。
【0003】
材料科学及び技術体系(Technikwesen)の進歩とともにここ20年間で、環境を汚染しない圧電セラミック材料の圧電特性は、組成、微細構造及び加工に関するパラメータの最適化によって著しく改善された。3つの重要なペロブスカイト族、つまりチタン酸バリウム(BaTiO−BT)、ニオブ酸カリウムナトリウム(K0.5Na0.5NbO−KNN)及びチタン酸ビスマスナトリウム(Bi0.5Na0.5TiO−BNT)は集中的に研究されている。
【0004】
チタン酸バリウムは最もよく知られた強誘電体の一つであり、その圧電性能の改善における成果の大部分は、強誘電/強弾性分域の配置が次のとおり調整することによって達成されている。
a)特別に配向されたセラミックス又は単結晶の製造によって本来そなわっている圧電特性の異方性効果が使用されることができる(最大d33値203pC/N)、
b)特別な単結晶上の分極処理によって又は進歩した焼結技術の使用によって非180°分域はサブミクロンスケールにまで精製されることができ、そしてピエゾ効果上のその限界の外部からの寄与が著しく改善されることができる(最大d33値500pC/N)、
c)「ランダムな」電界効果(例えば酸素空格子点と一組になったアクセプタ置換)の使用下に結晶又はセラミックスは電界を置いたり除いたりすることによって、完全に分極及び再度の減極されることができる。したがって完全に可逆的な分域切換が、電気により生じる超大なひずみの原因となる。しかしながら、比較的低いキュリー温度T(〜130℃)によって制限されて、この物質の族の使用は高性能アクチュエータからほぼ除外されている。
【0005】
ニオブ酸カリウムナトリウム(K0.5Na0.5NbO)はニオブ酸カリウムとニオブ酸ナトリウム間のMPB付近の組成であり、400℃を超える高いTを有するが、それにもかかわらずその適用は乏しい焼結性によって長い間著しく制限されていた。最近、KNN格子のa位へのLi及びb位へのTa及び/又はSbの挿入によって正方相と斜方相間の多形相境界を室温近くになるようずらすことができ、相応の焼結支援によって焼結能力が著しく改善されそして圧電特性が著しく高められることが明らかになった(ランダム配向もしくは配向されたセラミックスについて最大S33/E33値300ないしは750pm/V)(非特許文献1)。
【0006】
それどころか最適化された組成及び加工条件によってKNNをベースとするセラミックスのこの改善された圧電特性は典型的な柔らかいPZTの場合よりはるかに低く、そして温度変動に対するその安定性は、斜方相/正方相間の転移に基づいて悪化する。同時に、格子異方性を利用するためにテクスチャセラミックスのための加工手順が開発された。テクスチャセラミックスははるかに良好な圧電性能(柔らかいPZTに匹敵する)を有するが、しかし複雑化した加工手順及び増加したコストは実際にアクチュエータへのその使用を阻む。
【0007】
チタン酸ビスマスナトリウム−(Bi0.5Na0.5TiO−)セラミックスに関する研究は、他のペロブスカイト、例えばBaTiO、Bi0.50.5TiO、K0.5Na0.5NbO等とのMPB組成を見いだすことに焦点が当てられていた。改善された圧電特性が達成された(最大d33値328pC/N)が、それにもかかわらず電気により生じるひずみに対する最良の応答はなお依然として柔らかいPZTのそれのはるか下方である。
【0008】
そのうえBNTをベースとする材料は通常低い減極温度Tを有し、この減極温度を超えると分極及び/又は圧電気が強誘電/反強誘電相転移に基づいて消失する。通常Tは100〜250℃の範囲内であり、そして最新のアクチュエータへのBNTをベースとする強誘電セラミックスの使用を著しく制限する。テクスチャリング過程も研究されてきた、それにもかかわらずその改善は比較的高いコストを無視してもたいしたことはない(最大S33/E33値370pm/V)。
【0009】
最近、相応に変性されたBNT材料の場合にはTが室温を下回る値に変えられることができることが報告されている(非特許文献2)。この組成の場合には電界によって誘発される強誘電相転移に基づいて超大なひずみが達成されうる。有効圧電定数(Smax/Emax)はいくつかの柔らかいPZTセラミックスの場合に比してこれに匹敵しうる(最大S33/E33値690pm/Vのセラミックスの場合)かあるいはそれどころかこれよりはるかに高くもありうる(2000pm/Vを超える最大S33/E33値の単結晶の場合)。さらに減極温度はもはや事実上の限界ではない、というのもこの場合には圧電気が著しいひずみにとって不要だからである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Y. Saitoほか著、「Lead−Free Piezoceramics」、Nature誌、432[4]84−7(2004)
【非特許文献2】S.T. Zhangほか著、「Giant strain in lead−free piezoceramics Bi0.5Na0.5TiO3−BaTiO3−K0.5Na0.5NbO3(BNT−BT−KNN)−system」、Applied Physics Letters91,112906(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって本発明の課題は、電気により生じるひずみに対する高い応答を示す無鉛セラミック組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、アクチュエータへの適用にとって望ましい電気により生じる大きなひずみを提供することができる様々な無鉛のセラミック材料に関する。とりわけ、適当な外部の電界にさらされると、その結果として大きなひずみを示す一連の無鉛の組成物が提供される。電気により生じる大きなひずみは本質的に、電界によって誘発される相転移から生じるのが通常であり、そして有効圧電定数Smax/Emaxの大きさは商用圧電アクチュエータに使用されるいくつかの柔らかいPZTセラミックスに匹敵する。
【0013】
通常、無鉛の組成物はマトリックス材料97重量%以上及び場合によっては少量の添加剤3重量%未満を含有する。
【0014】
マトリックス材料は2もしくは3種のペロブスカイト成分の固溶体である。第1の成分は(Bi0.50.5)TiO(式中、Aは好ましくはKもしくはNa又はKとNaの混合物であり、その含量は特に0〜96モル%である)である。第2の成分はとりわけ0〜96モル%の含量を有するBaTiOである。第3の成分はBi(Me0.5Ti0.5)O(式中、Meは4〜15モル%、特に6〜15モル%、の含量を有する二価の金属元素、例えばMg、Zn又はその組合せ、である)として表わすことができる。特別な実施形態によれば前記成分の全てもしくはいくつかはTiの代わりにZrを含んでもよい。
【0015】
前記少量の添加剤は非ペロブスカイト酸化物、例えばMnO、CuO、ZnO又はこれらの組合せを含有する。これら添加剤は簡単な酸化物の形には限定されていない。これら酸化物は種々の酸化原子価を有してよく、相応の炭酸塩、硝酸塩及び水酸化物等から得ることができる。
【0016】
3つのマトリックス成分の含量は、強誘電相と擬似立方晶系の非強誘電相との間にモルフォトロピック相境界(MPB)が生じるよう調整される[図1(a)参照]。相境界近くの擬似立方晶系の組成は一定の電界により強誘電相に構造的に転移し、その電界が取り除かれると、反対に転移し擬似立方晶系相に戻る[図1(b)参照]。これに伴って生じるひずみによって電気により生じる大きなひずみがもたらされ、それは進歩したアクチュエータに使用される典型的な柔らかいPZTセラミックスのひずみに匹敵するかあるいはそれより高くさえある。800pm/Vを超える最大Smax/Emax値は、組成及び加工条件が最適化されそして相応の駆動信号が送られることによって得ることができる。
【0017】
添加剤は、焼結温度の降下又は圧縮が望ましい場合に、特に、添加される。添加剤の含量は好ましくは、マトリックス組成物の電気機械的な性質に大きな影響を与えずに焼結温度を下げ、かつ圧縮を促進するよう調整される。高い電荷を有する高品質な無鉛のセラミックスは、1000℃程度の焼結温度で達成することができる。
【0018】
一実施形態によれば主組成は、k(Bi0.50.5)EO−1BaEO−mBi(Me0.50.5)O(式中、Aは例えば元素Na及びKの一つもしくは二つを表わし、Meは例えば元素Mg及びZnの一つもしくは二つを表わし、EはTi又はZrを表わし、0≦k≦0.96、0≦l≦0.96及びk+l+m=1である)と示すことができる。焼結挙動に影響を及ぼすために、金属酸化物添加剤(≦3重量%)、例えばMnO、ZnO、CuOもしくはその相応の炭酸塩、硝酸塩、水和物又はこれらの組合せ、が含有されていてよい。
【0019】
上記セラミックスがEth1以上の一定の電界にさらされると、電気により生じる大きなひずみが達成されるのが通常である。ここで、Eth1は、大きなひずみをもたらす、構造的な相転移が起こる、閾値電界強度である。
【0020】
PZT及びその他の圧電セラミックスに比して本発明の材料は分極手順を通常必要とせずに使用されることができる。この性質によって工程が簡素化され、したがって製造コストが低くなり、さらに関連アクチュエータ装置にとっての製造関連の欠陥が少なくなる。
【0021】
さらには、現在使用されている材料にはその使用時の極性に制限はない。この材料はユニポーラ電圧で駆動されてもよいし、バイポーラ電圧で駆動されてもよいし、あるいは両方の任意の組合せで駆動されてもよい。したがって駆動条件は柔軟である。さらには、大きな負荷を得るために、残留分極は本発明で開示された材料には不要である。大きなひずみは大きな温度範囲にわたって保証されており、臨界温度、例えばキュリー温度又は減極温度、によって制限されない。ひずみが大きいその他の無鉛の材料に比して本発明で開示された組成物には通常、テクスチャ構造も特殊な焼結技術も必要ない。この組成物は全て容易に従来の固相反応方法の使用下に周囲圧力で中程度の温度、殊に1000〜1200℃、で製造することができる。したがって製造コストが著しく低減する。
【0022】
さらなる特徴、利点及び有効性は以下の実施例及び実施態様に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】強誘電相と非強誘電相の間のMPB(a)及びMPB近くの非強誘電組成についての電界誘起の相転移を原因とする、電気により生じる大きなひずみ(b)を示す。図(a)は、その際、(1−y)[(1−x)BNT−xBT]−yBMT系(式中、ここではxは0.20に固定されており、yは0から0.14までで変動する)の典型的な状態図を示す。図(b)は、本発明による典型的な電気機械的な性質を示し、この場合、x=0.20及びy=0.11である。
図2】(1−y)[0.80BNT−0.20BT]−yBMT系の組成のXRDパターン(a)及びMPBを横切る相応する格子定数(b)を示す。
図3】MPB近くの(1−y)[0,80BNT−0,20BT]−yBMT組成のP−E−(a)及びS−E−(b)曲線を示す。
図4】2つの特性的な閾値電界Eth1及びEth2が示されている0.89[0.80BNT−0.20BT]−0.11BMTの電気により生じるひずみ(a)及び電界に依存した有効圧電定数d33*(b)を示す。
図5】閾値電界Eth1及びEth2のバリエーション(a)ならびに(1−y)[0,80BNT−0,20BT]−yBMT系中のBMT含量の関数としての有効圧電定数d33*(b)を示す。
図6】(1−y)[0.95BNT−0.05BT]−yBMT系の組成のXRDパターン(a)及びMPB近くの擬似立方晶系の組成の電気により生じるひずみ(b)を示す。
図7】(1−y)[0.93BNT−0.07BT]−yBMT系の組成のXRDパターン(a)及びMPB近くの擬似立方晶系の組成の電気により生じるひずみ(b)を示す。
図8】(1−y)[0.80BNT−0.20BT]−yBMT系の組成のXRDパターン(a)及びMPB近くの擬似立方晶系の組成の電気ひずみ(b)を示す。
図9】(1−y)[0.80BNT−0.20BT]−yBMT系の組成のXRDパターン(a)及びMPB近くの擬似立方晶系の組成の電気により生じるひずみ(b)を示す。
図10】ドープされていない、及び酸化物がドーピングされたBNT−BT−BMTセラミックスの圧縮曲線を示す。
図11】CuO(a)、ZnO(b)及びMn(c)でドーピングされたBNT−BT−BMTセラミックスの電気により生じるひずみを示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
実施例1
この例では正方晶系の強誘電相と擬似立方晶系の非強誘電相との間の一連のMPBを(Bi0.5Na0.5)TiO、BaTiO及びBi(Mg0.5Ti0.5)O、即ち(BNT−BT−BMT)、によって形成された三成分系の範囲内で形成した。
【0025】
この典型的な組成は(1−y)[(1−x)BNT−xBT]−yBMT(式中、0.07<x<1及び0.04<y<0.14)として表わすことができる。この例における(ペロブスカイト−ABO式に対する)A/B比を全て単一として制御され、これには添加剤を添加しない。正方晶系の強誘電相をBNTとBT間の固溶体によって形成し、その正方性はBMT含量が増大するとともに徐々に減少し、そして最終的にMPB付近では消える。
【0026】
出発材料としてBi、NaCO、BaCO、TiO及びMgOの購入可能な高純度(>99.8%)の粉末を使用した。該当するセラミックスを製造するために、従来の固相反応の手順を用いた。この粗製粒子をペロブスカイト−ABO式の化学量論に従って秤量し、ついで混合し、さらにボールミルで粉砕し、その際、イットリウムにより安定化されたZrO球を粉砕媒体として、さらに無水エタノールを粉砕剤として使用した。粉砕された泥状物を次に炉内で60℃で乾燥させた。乾燥させた粉末を篩い分け、そして温度750℃〜900℃で2〜4時間均一なペロブスカイト構造の生成のために焼成した。焼成した粉末を粒度を微細化する(好ましくは約0.7μmにまで)ために、再びボールミルで粉砕した。この粉末を得られたまま相応量のPVB結合剤とともに乾燥させ、粒状化し、そして次に圧縮して直径15.6mm及び厚さ1.5mmを有するペレットにした。未焼結片を450℃で2時間脱バインダーし、次に1000〜1200℃の範囲内の高温で1〜2時間焼結した。平行板コンデンサを得るために、圧縮された圧搾加工物の両方の主側面を銀ペーストで被覆した。誘電特性を高精密なLCRブリッジで温度と周波数の関数として測定した。セラミックスの長さ変化を電界の関数として高電圧増幅器と線形可変差動変圧器(LVDT)とから成るコンピュータ制御されたシステムで測定した。三角波形及び0.1Hzの低周波数を駆動信号として使用し、その際、この駆動信号の振幅は1kV/mm〜7kV/mmで変動する。
【0027】
正方晶系の強誘電相と擬似立方晶系の非強誘電相との間のMPBを一義的に明確にするために、図2(a)及び(b)ではXRDパターン及び格子定数が(上記の典型的な組成の)y値の関数として示されており、その際、x(例えば)は0.2に固定されている。BMT含量の増大とともに強誘電相の正方性は低くなり、最終的にy>0.10で消失する。それゆえにMPBの位置を、正方晶系相及び擬似立方晶系相が共存する組成又は組成領域として測定した。
【0028】
著しく様々な誘電特性及び電気機械的な特性を有する。
【0029】
正方晶側、例えばy=0.09、ではセラミックスは、角形P−Eヒステリシスループ及び蝶形ひずみ−電界曲線によって示されているように、典型的な強誘電材料のように挙動する。高い圧電係数はベルリンコート式d33測定器構成を用いて直接測定することができる。これとは対照的に擬似立方晶側、例えばy=0.11、ではセラミックスは小さな電界の場合には常誘電特性を示し、そしてより強い電界の場合には強誘電相に変化する。外部の電界が除去されると、押しつぶされたP−Eループ及びS−E曲線で0の残留ひずみによって示されているように、セラミックスは非強誘電の状態に戻る。MPB組成については分極及びひずみの電界依存性は前記2つのケースの中間形態を示す。図3(a)及び(b)はMPB近くの組成の代表的なP−E−及びS−E−曲線を示す。
【0030】
MPB近くでは電界により誘発された相転移によって、大きなひずみを擬似立方晶系の組成のところに得ることができる。しかしながら、この転移は一次転移であり、連続的かつ偏ヒステリシス的には行なわれることができない。強誘電相転移を誘発するために、第1の閾値電界Eth1図4(a)参照]は超えられなければならない。同時に第2の閾値電界Eth2は、電界が取り除かれた場合に、非強誘電の状態を回復するために0より大きくななければならない。このような必要性は図4(a)及び(b)に見て取ることができ、この場合、EmaxがEth1より大きい場合に、最大ひずみ及び有効圧電定数d33*=Smax/Emaxが突然増大する。Emaxがさらに増大すると、ひずみ及び分極は通常飽和しそしてd33*は徐々に減少する。
【0031】
th1及びEth2の大きさは組成に次のとおり著しく依存する。図5(a)に示されているように、組成がMPBから離れるのが遠くなれば遠くなるほどEthの大きさが大きくなる。したがって図5(b)に示されているように、最大d33*の値は擬似立方晶側におけるBMTの含量とともに減少する。
【0032】
つまり、与えられたx値によって、1) Eth1>Eth5≧0となるようにBMT含量を調整することによって、2) Emax>Eth1である駆動電界の使用によって大きな電気ひずみを得ることができる。特に好ましくは、Eth2=0かつEmax=Eth1の場合、又は3) 1)と2)の組合せによって有効圧電定数d33*は最大値を示す。
【0033】
表1には大きな電気ひずみ挙動を示す種々のx値を有する組成が記載されている。強誘電体(1−x)BNT−xBTが正方晶系相と菱面体相間のMPB近くに存在する場合に、つまりx=0.07である場合に、最大有効d33*値が得られる。
【0034】
表1 (1−y)[(1−x)BNT−xBT]−yBMT系における組成及びその電気機械的な挙動
【表1】
【0035】
実施例2
この例では菱面体の強誘電相と擬似立方晶系の非強誘電相との間の一連のMPBを(Bi0.5Na0.5)TiO、BaTiO及びBi(Mg0.5Ti0.5)O、即ち(BNT−BT−BMT)、によって形成された三成分系の範囲内で形成した。
【0036】
菱面体の強誘電相をBNTとBT間の固溶体によって形成し、その強誘電ひずみはBMT含量が増大するとともに徐々に減少し、そして最終的にMPB付近では消える。
【0037】
この典型的な組成は(1−y)[(1−x)BNT−xBT]−yBMT(式中、0<x<0.05及び0.06<y<0.14)として表わすことができる。この例における(ペロブスカイト−ABO式に対する)A/B比を全て単一として制御され、これには添加剤を添加しない。
【0038】
これら組成の加工及び特性決定は、例1に示された加工及び特性決定と同様である。
【0039】
図6(a)に示されているように、菱面体相から擬似立方晶系相への構造的な変化はBMT含量の増大によって実現される。典型的な組成の電気機械的な挙動は図6(b)に示されている。
【0040】
実施例3
この例では強誘電MPB組成と擬似立方晶系の非強誘電相との間のMPBを(Bi0.5Na0.5)TiO、BaTiO及びBi(Mg0.5Ti0.5)O、即ち(BNT−BT−BMT)、によって形成された三成分系の範囲内で形成した。
【0041】
強誘電MPB組成は異なる対称性の2つの強誘電相、例えばBNT−BT系における正方晶系と菱面体の相、の間に存在する。強誘電ひずみはBMT含量が増大するとともに徐々に減少し、そして最終的に消える。
【0042】
この典型的な組成は(1−y)[(1−x)BNT−xBT]−yBMT(式中、x=0.07及び0.06<y<0.14)として表わすことができる。この例における(ペロブスカイト−ABO式に対する)A/B比を全て単一として制御され、これには添加剤を添加しない。
【0043】
これら組成の加工及び特性決定は、例1に示された加工及び特性決定と同様である。
【0044】
図7(a)に示されているように、強誘電性MPBから擬似立方晶系相への構造的な変化は増大するBMT含量によって実現される。典型的な組成の電気機械的な挙動は図7(b)に示されている。
【0045】
実施例4
この例では正方晶系の強誘電相と擬似立方晶系の非強誘電相との間のMPBを(Bi0.50.5)TiO、BaTiO及びBi(Mg0.5Ti0.5)O、即ち(BKT−BT−BMT)、によって形成された三成分系の範囲内で形成した。
【0046】
正方晶系の強誘電相をBKTとBT間の固溶体によって形成し、その強誘電ひずみはBMT含量が増大するとともに徐々に減少し、そして最終的にMPB付近では消える。
【0047】
この典型的な組成は(1−y)[(1−x)BKT−xBT]−yBMT(式中、x=0.20及び0.09<y<0.14)として表わすことができる。この例における(ペロブスカイト−ABO式に対する)A/B比を全て単一として制御され、これには添加剤を添加しない。
【0048】
これら組成の加工及び特性決定は、例1に示された加工及び特性決定と同様である。
【0049】
図8(a)に示されているように、正方晶系相から擬似立方晶系相への構造的な変化はBMT含量の増大によって実現される。典型的な組成の電気機械的な挙動は図8(b)に示されている。
【0050】
実施例5
この例では正方晶系の強誘電相と擬似立方晶系の非強誘電相との間のMPBを(Bi0.5Na0.5)TiO、BaTiO及びBi(Zn0.5Ti0.5)O、即ち(BNT−BT−BZT)、によって形成された三成分系の範囲内で形成した。
【0051】
正方晶系の強誘電相をBNTとBT間の固溶体によって形成し、その強誘電ひずみはBZT含量が増大するとともに徐々に減少し、そして最終的にMPB付近では消える。
【0052】
この典型的な組成は(1−y)[(1−x)BNT−xBT]−yBZT(式中、x=0.20及び0.10<y<0.14)として表わすことができる。この例における(ペロブスカイト−ABO式に対する)A/B比を全て単一として制御され、これには添加剤を添加しない。
【0053】
これら組成の加工及び特性決定は、例1に示された加工及び特性決定と同様である。
【0054】
図9(a)に示されているように、正方晶系相から擬似立方晶系相への構造的な変化はBZT含量の増大によって実現される。典型的な組成の電気機械的な挙動は図9(b)に示されている。
【0055】
実施例6
この例ではMPB組成のマトリックス材料を(Bi0.5Na0.5)TiO、BaTiO及びBi(Mg0.5Ti0.5)O、即ち(BNT−BT−BMT)から製造した。少量(0.5重量%)の非ペロブスカイト添加剤を焼結前に添加した。
【0056】
酸化物添加剤の含量を、加工特性が改善されるように、そして電気機械的な性質を悪化させないように選択した。図10は、種々の酸化物添加剤でドーピングされた無鉛の組成物の圧縮曲線を示す。圧縮温度はMnO及びZnOによって著しく下げることができる。低温焼成された組成物(1100°C)の電気機械的な性質は図11(a)、(b)ないしは(c)に示されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11