特許第6096523号(P6096523)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6096523
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】半導体装置とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/338 20060101AFI20170306BHJP
   H01L 29/778 20060101ALI20170306BHJP
   H01L 29/812 20060101ALI20170306BHJP
   H01L 21/337 20060101ALI20170306BHJP
   H01L 27/098 20060101ALI20170306BHJP
   H01L 29/808 20060101ALI20170306BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20170306BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20170306BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
   H01L29/80 H
   H01L29/80 C
   H01L29/78 301B
   H01L29/78 618B
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-18260(P2013-18260)
(22)【出願日】2013年2月1日
(62)【分割の表示】特願2010-50058(P2010-50058)の分割
【原出願日】2004年7月20日
(65)【公開番号】特開2013-123074(P2013-123074A)
(43)【公開日】2013年6月20日
【審査請求日】2013年3月1日
【審判番号】不服2015-8033(P2015-8033/J1)
【審判請求日】2015年4月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉本 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】加地 徹
(72)【発明者】
【氏名】中野 由崇
(72)【発明者】
【氏名】上杉 勉
(72)【発明者】
【氏名】上田 博之
(72)【発明者】
【氏名】副島 成雅
【合議体】
【審判長】 鈴木 匡明
【審判官】 河口 雅英
【審判官】 飯田 清司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−273486号公報(JP,A)
【文献】 特開昭59−022367号公報(JP,A)
【文献】 特開平4−15929号公報(JP,A)
【文献】 特開2000−68498号公報(JP,A)
【文献】 特開2003−59946号公報(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/337-21/338
H01L27/095-27/098
H01L29/775-29/778
H01L29/80-29/812
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1層と第2層と表面層がこの順に積層され、表面層の表面側にゲート電極が形成されているノーマリオフで動作する半導体装置であり、
第1層は、p型又は真性窒化ガリウムで構成されており、
第2層は、n型窒化アルミニウムガリウムで構成されており、
表面層は、p型のGaN系化合物半導体で構成されており、
ゲート電極に電圧が印加されていない場合、第2層及び表面層が空乏化され、第2層の伝導体の下限がフェルミ準位よりも上側に存在し、ゲート電極に正電圧が印加されると第1層と第2層との接合界面近傍にポテンシャル井戸が発生するとともに、その電位レベルがフェルミ準位よりも下側に存在して、ポテンシャル井戸に2DEG(2 Dimensional Electron Gas:2次元電子ガス)が発生することで、ノーマリオフで動作するようにしたことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
表面層は、p型窒化アルミニウムガリウムで構成されている請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
第1層と第2層と表面層がこの順に積層され、表面層の表面側にゲート電極が形成されているとともに、ゲート電極に電圧が印加されていない場合、第2層及び表面層が空乏化され、第2層の伝導体の下限がフェルミ準位よりも上側に存在し、ゲート電極に正電圧が印加されると第1層と第2層との接合界面近傍にポテンシャル井戸が発生するとともに、その電位レベルがフェルミ準位よりも下側に存在して、ポテンシャル井戸に2DEG(2 Dimensional Electron Gas:2次元電子ガス)が発生することで、ノーマリオフで動作するようにした半導体装置の製造方法であり、
p型又は真性窒化ガリウムからなる第1層上に、n型窒化アルミニウムガリウムからなる第2層をエピタキシャル成長させる第2層成長工程と、
その第2層上に、p型のGaN系化合物半導体からなる表面層をエピタキシャル成長させる表面層成長工程と、
その表面層の表面側にゲート電極を形成するゲート電極形成工程を有することを特徴とする製造方法。
【請求項4】
表面層成長工程では、p型窒化アルミニウムガリウムからなる表面層をエピタキシャル成長させる請求項3に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III-V族化合物半導体を利用するノーマリオフ動作の半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
III-V族化合物半導体は、絶縁破壊電界および飽和電子密度等が大きいことから、高耐圧で大電流を制御できるものと期待されている。なかでも窒化ガリウム(GaN)を利用する半導体装置の研究が進んでおり、n−AlGaN/p−GaNのヘテロ構造を利用したHEMT(High Electron Mobility Transistor)が知られており、その半導体装置の一例が特許文献1に記載されている。
【0003】
この種のHEMTは、p−GaN層と、そのp−GaN層上に積層されているn−AlGaN層からなるヘテロ構造を備えている。AlGaN層は、その半導体結晶内にAlを含有しており、GaN層よりもバンドギャップが大きい。n−AlGaN層の表面側に、ドレイン電極とゲート電極とソース電極が形成されている。ドレイン電極とソース電極は、ゲート電極を挟んだ位置に形成されている。
【0004】
この種のHEMTでは、ゲート電極にゲート電圧を印加しなければ、n−AlGaN層とp−GaN層で形成されるポテンシャル井戸がフェルミ準位より上側に存在するため、そのポテンシャル井戸内に2DEG(2 Dimensional Electron Gas:2次元電子ガス)が発生しない。したがって、ノーマリオフ動作が実現される。一方、ゲート電極に所定のオン電圧を印加すると、ポテンシャル井戸内に2DEGが発生する。このポテンシャル井戸内を電子が移動することために、HEMTはオン状態となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−59946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら上記の半導体装置では、2DEGの電子がp型のGaN層に沿って移動することから、移動する電子が不純物によって散乱され、オン抵抗が大きいという問題がある。オン抵抗を小さくするためにp−GaN層の不純物濃度を下げる必要があるが、p−GaN層の不純物濃度を下げると、2DEGのポテンシャルがフェルミ準位に近づき、オフの状態であっても2DEGが発生し易くなり、ノーマリオフ動作が不安定となってしまう。即ち、上記の構成からなる半導体装置では、オン抵抗を低下させることと安定的なノーマリオフ動作を保証することがトレードオフの関係となっている。
本発明の目的は、このトレードオフの関係を打破することにある。即ち、安定的なノーマリオフ動作を保証することができ、しかもオン抵抗を低減することができる半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明を具現化した一つのノーマリオフで動作する半導体装置は、第1層と第2層と表面層がこの順に積層され、表面層の表面側にゲート電極が形成されている。
第1層は、p型又は真性窒化ガリウムで構成されている。第2層は、n型窒化アルミニウムガリウムで構成されている。表面層は、p型のGaN系化合物半導体で構成されている。表面層は、p型窒化アルミニウムガリウムで構成されているのが好ましいこの半導体装置では、ゲート電極に電圧が印加されていない場合、第2層及び表面層が空乏化され、第2層の伝導体の下限がフェルミ準位よりも上側に存在し、ゲート電極に正電圧が印加されると第1層と第2層との接合界面近傍にポテンシャル井戸が発生するとともに、その電位レベルがフェルミ準位よりも下側に存在して、ポテンシャル井戸に2DEG(2 Dimensional Electron Gas:2次元電子ガス)が発生することで、ノーマリオフで動作する。
ここで、表面層の表面側に形成されているゲート電極は、表面層の表面側に直接的(典型的にはショットキー接続)、又は間接的(典型的には絶縁材を介在させて対向させる)に形成することができる。
【0015】
上記の半導体装置によると、電極にオン電圧が印加されない状態では、第2導電型の第2層と第1導電型の表面層の接合界面から第2層に向けて空乏層が伸びる。これにより第2層と表面層が実質的に空乏化され、第1層と第2層で形成されるポテンシャル井戸に第2層や表面層からキャリアが供給されないので、安定的なノーマリオフ動作が実現され易い。ノーマリオフ動作を安定させるために第1層の不純物濃度を高く保つ必要がなく、安定したノーマリオフ動作と低いオン抵抗をともに得ることができる。
【0020】
本発明を具現化した一つの製造方法では、第1層と第2層と表面層がこの順に積層され、表面層の表面側にゲート電極が形成されており、ゲート電極に電圧が印加されていない場合、第2層及び表面層が空乏化され、第2層の伝導体の下限がフェルミ準位よりも上側に存在し、ゲート電極に正電圧が印加されると第1層と第2層との接合界面近傍にポテンシャル井戸が発生するとともに、その電位レベルがフェルミ準位よりも下側に存在して、ポテンシャル井戸に2DEG(2 Dimensional Electron Gas:2次元電子ガス)が発生することで、ノーマリオフで動作するようにした半導体装置を製造する。この製造方法は、p型又は真性窒化ガリウムからなる第1層上に、n型窒化アルミニウムガリウムからなる第2層をエピタキシャル成長させる第2層成長工程と、第2層上にp型のGaN系化合物半導体からなる表面層をエピタキシャル成長させる表面層成長工程を備えている。表面層成長工程では、p型窒化アルミニウムガリウムからなる表面層をエピタキシャル成長させるのが好ましい。
上記の製造方法を採用すると、表面層から第2層に空乏層が伸びることでノーマリオフが実現され易い半導体装置を得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、安定的なノーマリオフ動作を確保するためにIII-V族化合物半導体のキャリア移動領域の不純物濃度を高く保つ必要がなくなり、安定したノーマリオフ動作と低いオン抵抗をともに得ることができる半導体装置を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1実施例の半導体装置の要部断面図を示す。
図2】(a)第1実施例の半導体装置のオフのときのエネルギーバンド図を示す。(b)第1実施例の半導体装置のオンのときのエネルギーバンド図を示す。
図3】第2実施例の半導体装置の要部断面図を示す。
図4】(a)第2実施例の半導体装置のオフのときのエネルギーバンド図を示す。(b)第2実施例の半導体装置のオンのときのエネルギーバンド図を示す。
図5】第3実施例の半導体装置の要部断面図を示す。
図6】(a)第3実施例の半導体装置のオフのときのエネルギーバンド図を示す。(b)第3実施例の半導体装置のオンのときのエネルギーバンド図を示す。
図7】第3実施例の変形例の要部断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
最初に実施例の主要な特徴を記す。
III-V族化合物半導体は、窒化ガリウム(GaN)系化合物であるのが好ましい。窒化ガリウム系化合物は、そのバンドギャップが大きいために、高温動作可能な高周波デバイスを実現し得る。窒化ガリウム系化合物は、III-V族化合物半導体であることから、大出力で高耐圧である特性を備えている。
【実施例】
【0024】
図面を参照して以下に各実施例を詳細に説明する。
(第1実施例) 図1に第1実施例の半導体装置の要部断面図を模式的に示す。
サファイア(Al)からなる基板22上に、窒化ガリウム(GaN)からなるバッファ層24が形成されている。基板22には、サファイアに代えて炭化シリコン(SiC)や窒化ガリウム(GaN)を利用してもよい。バッファ層24上に、p−GaN層32(第1層の一例)と、SI(Semi Insulated)−GaN層62(中間層の一例)と、AlGaN層34(第2層の一例)が積層されている。
SI(Semi Insulated)−GaN層62は、p−GaN層32とAlGaN層34との間に介在している。p−GaN層32には、マグネシウム(Mg)がドーピングされている。AlGaN層34は、その半導体結晶にアルミニウム(Al)を含有しており、p−GaN層32やSI−GaN層62よりもバンドギャップが大きい。
ニッケル(Ni)と金(Au)の積層構造からなるゲート電極44が、AlGaN層34の表面側の紙面中央に直接的にショットキー接触して形成されている。ゲート電極44を挟んだ紙面左右の位置関係に、チタン(Ti)とアルミニウム(Al)の積層構造からなるドレイン電極42とソース電極46が、AlGaN層34に対してオーミック接触して形成されている。SI−GaN層62は実質的に真性半導体の層で形成されている。
【0025】
次に、この半導体装置の動作をエネルギーバンド図を参照して説明する。図2に、図1の要部断面図のII-II線に対応するエネルギーバンド図を示す。このエネルギーバンド図中に示される番号は、図1に示す要部断面図の各層の番号に対応している。
図2(a)は、ゲート電極44に電圧が印加されていない状態であり、図2(b)は、ゲート電極44に正電圧が印加されている状態である。
図2(a)に示すように、AlGaN層34のバンドギャップがp−GaN層32やSI−GaN層62よりも大きいことから、そのバンドギャップ差に基づいて、AlGaN層34とSI−GaN層62の接合界面のうちのSI−GaN層62側に、ポテンシャル井戸52が形成されている。このポテンシャル井戸52の電位レベルは、ゲート電極44が0Vのときはフェルミ準位(E)よりも上側に存在しており、2DEGが発生していない。したがって、ゲート電極44が0Vのときは、この半導体装置のドレイン電極42とソース電極46間に電流が流れない。即ち、ノーマリオフとして作動する。
【0026】
一方、図2(b)に示すように、ゲート電極44に正電圧が印加されると、ポテンシャル井戸52が、フェルミ準位よりも下側に存在することになり、したがってこのポテンシャル井戸52内に2DEGが発生する。この2DEGはポテンシャル井戸52内に沿って2次元的に移動して、ドレイン電極42とソース電極46間を流れる。これにより、この半導体装置はオンとなる。
このとき、2DEGの電子は、不純物濃度が少ないSI−GaN層62に沿って移動する。したがって、電子が不純物によって散乱される確率は小さく、電子の移動度の大きい状態が実現される。
【0027】
なお、上記の半導体装置において、AlGaN層34とゲート電極44との間に、例えば酸化シリコン(SiO)からなる絶縁膜を介在させてもよい。絶縁膜を介在させると、ゲート電極44に正電圧が印加された場合に、ゲート電極44からAlGaN層34に向けて電流が流れる現象を禁止することができ、安定的な動作を実現することができる。
AlGaN層34には、n型不純物としてシリコン(Si)をドーピングしておくことが好ましい。AlGaN層34がn型であると、電子供給層として機能することから、オン抵抗をさらに低減させることができる。もっとも、AlGaN層34はp型でなければよく、SI(Semi Insulated)であってもよい。
【0028】
次に、図1を参照して、この半導体装置の製造方法を説明する。
まずサファイア基板22を準備する。このサファイア基板22上に、低温下で有機金属気相エピタキシャル(MOCVD)法を用いて、バッファ層24を約50nmの膜厚で形成する。このとき、ガリウム原料としてトリメチルガリウム(TMGa)、窒素原料としてアンモニアガス(NH)を好適に利用することができる。
次に、このバッファ層24上に有機金属気相エピタキシャル法を用いて、p−GaN層32を約0.5μmの膜厚で形成する。このとき、ガリウム原料としてトリメチルガリウム(TMGa)、窒素原料としてアンモニアガス(NH)、ドーパント材料としてシクロペンタジエニルマグネシウム(CP2Mg)を好適に利用することができる。
次に、p−GaN層32上に有機金属気相エピタキシャル法を用いて、SI−GaN層62を約10nm(好ましくは5〜15nm)の膜厚で形成する。このとき、ガリウム原料としてトリメチルガリウム(TMGa)、窒素原料としてアンモニアガス(NH)を好適に利用することができる。また、このSI−GaN層62の不純物濃度が1×1017cm-3以下となるように形成するのが好ましい。このSI−GaN層62の膜厚は、形成されるポテンシャル井戸の範囲を充足していれば十分である。ポテンシャル井戸の幅は、利用される材料などによって変動するが、SI−GaN層62の膜厚は5〜15nmの範囲内であるのが好ましい。
次に、このSI−GaN層62上に有機金属気相エピタキシャル法を用いて、AlGaN層34を約25nmの膜厚で形成する。このとき、アルミニウム原料としてトリメチルアルミニウム(TMAl)、ガリウム原料としてトリメチルガリウム(TMGa)、窒素原料としてアンモニアガス(NH)を好適に利用することができる。なお、このAlGaN層34の成膜過程で、n型不純物としてモノシラン(SiH)を同時に利用し、AlGaN層34にn型不純物をドーピングしてもよい。
【0029】
次に、AlGaN層34の表面側に各種の電極を形成する工程を説明する。
まず、AlGaN層34上にチタン(Ti)とアルミニウム(Al)を順に蒸着する。その後に、フォト工程とエッチング技術を利用してドレイン電極42とソース電極46をパターニングする。パターニングした後に、RTA(Rapid Thermal Anneal)法によって550℃で30秒の熱処理を実施する。これにより、AlGaN層34に対するドレイン電極42とソース電極46の接触抵抗が低減され、オーミック接触が実現される。
次に、リフトオフ法を利用してゲート電極44を形成する。即ち、ゲート電極44を形成したい場所以外にレジスト膜を成膜した後に、ニッケル(Ni)と金(Au)を順に蒸着する。その後に、レジスト膜とともにそのレジスト膜上に形成されているニッケル(Ni)と金(Au)を剥離する。これにより、所望の位置関係にゲート電極44が形成される。
上記の工程を経て、第1実施例の半導体装置を形成することができる。
【0030】
上記の製造方法によると、バッファ層24上に形成されるp−GaN層32とSI−GaN層62にバンドギャップがないために、その層内に格子不整合などによる歪みが発生しない。なかでもSI−GaN層62が綺麗な結晶構造で形成されることから、このSI−GaN層62に沿って移動する2DEGの電子の移動度が大きくなる。したがってオン抵抗の小さい半導体装置を実現し易い。
【0031】
(第2実施例) 図3に、第2実施例の半導体装置の要部断面図を模式的に示す。
サファイア(Al)の基板122上に、窒化ガリウム(GaN)からなるバッファ層124が形成されている。基板122には、サファイアに代えて炭化シリコン(SiC)や窒化ガリウム(GaN)を利用してもよい。バッファ層124上に、p−GaN層132(第1層の一例)と、n−AlGaN層34(第2層の一例)が積層されている。
n−AlGaN層134にはシリコン(Si)がドーピングされている。なお、このn−AlGaN層134は、その半導体結晶にアルミニウム(Al)を含有しており、p−GaN層132よりもバンドギャップが大きい。
ニッケル(Ni)と金(Au)の積層構造からなるゲート電極144が、n−AlGaN層34の表面側の紙面中央に直接的にショットキー接触して形成されている。このゲート電極144を挟んだ紙面左右の位置関係に、チタン(Ti)とアルミニウム(Al)の積層構造からなるドレイン電極142とソース電極146が、オーミック接触して形成されている。
【0032】
この半導体装置のn−AlGaN層134がp−GaN層132と接合する界面におけるp−GaN層132の極性はN面(V族の面)となっている。したがって、p−GaN層132上に形成されているn−AlGaN層134は、その接合界面の極性がGa面(III族の面)となっている。これにより、n−AlGaN層134の自発分極電界は、GaN層132との接合界面から離反する方向(この例では紙面上方向)に発生している。
一方、よく知られているように、n−AlGaN層134は、GaN層132よりも小さな格子定数であることから、格子不整合によりn−AlGaN層134には引張り歪みが生じている。この引張り歪みに基づいて、n−AlGaN層134内には成長方向と逆方向にピエゾ分極電界が発生している。即ち、n−AlGaN層134のピエゾ分極電界は、GaN層132との接合界面に向かう方向(この例では紙面下方向)に発生している。第2実施例では、ピエゾ分極電界と自発分極電界の向きが逆向きで構成されている。
【0033】
自発分極電界とピエゾ分極電界の強さは、n−AlGaN層134に含有されているアルミニウム(Al)の組成比などによって変動するが、通常は自発分極電界の方がピエゾ分極電界よりも大きい。
したがって、本実施例のように、自発分極電界がピエゾ分極電界と逆方向となるように構成されている場合、この両者を重畳した分極電界の方向は自発分極電界の方向と一致する。即ち、n−AlGaN層134内の分極電界の方向は、GaN層132との接合界面から離れる方向(この例では紙面上方向)に発生している。
【0034】
従来から知られるこの種の半導体装置では、n−AlGaN層134に相当する半導体層の自発分極電界は、その下方に形成されているGaN層132との接合界面の方向に向かって発生していた。即ち、自発分極電界とピエゾ分極電界の両者の分極方向が同じであり、いずれもGaN層132との接合界面の方向に向かって発生していた。そのため、自発分極電界とピエゾ分極電界を重畳した分極電界の方向は、当然にGaN層132との接合界面の方向に向かって発生していた。なお、従来のこの種の半導体装置において、自発分極電界がGaN層132との接合界面の方向に向かって発生していたのは、次の理由からである。
まず第1に、従来のこの種の半導体装置では、GaN層132を形成する場合に有機金属気相エピタキシャル(MOCVD)法を用いて形成していた。有機金属気相エピタキシャル(MOCVD)法を用いてGaN層132を形成すると、その成長は必ずGa面で終了する。したがって、その上方に形成されるn−AlGaN層134は、N面から成長が始まるので、必然的に自発分極電界はGaN層132との接合界面の方向に向かって発生していた。
第2に従来の技術思想では、自発分極電界とピエゾ分極電界の方向を揃え、ともにGaN層132との接合界面の方向に向かって発生させることで、その界面近傍に形成されるポテンシャル井戸を深くし、2DEGの密度を向上させようとする傾向にあった。これらの理由から、従来のこの種の半導体装置では、自発分極電界がGaN層132との接合界面の方向に向かって発生していたのである。
しかしながら、この構成を採用すると、半導体装置をノーマリオフとして機能させる場合にその動作が不安定になるという問題がある。本実施例では、従来採用していた自発分極電界とピエゾ分極電界の配置関係とは異なる配置関係を敢えて採用することによって、安定的なノーマリオフ動作をする半導体装置の実現に成功している。
【0035】
次に、第2実施例の半導体装置の動作をエネルギーバンド図を参照して説明する。図4に、図3の要部断面図のIV-IV線に対応するエネルギーバンド図を示す。このエネルギーバンド図中に示される番号は、図3に示す要部断面図の各層の番号に対応している。
図4(a)は、ゲート電極144に電圧が印加されていない状態であり、図4(b)は、ゲート電極144に正電圧が印加されている状態である。
図4(a)に示すように、n−AlGaN層134のバンドギャップがp−GaN層132よりも大きいことから、この両層間の接合界面では、フェルミ準位を合わせるようにエネルギーバンドが曲げられる。本実施例では、n−AlGaN層134内のエネルギーバンドが、ゲート電極144側からGaN層132との接合界面に向かって上方向に傾斜して形成されていることが分かる。これは、n−AlGaN層134内の分極電界の方向がGaN層132との接合界面から離れる方向に発生していることに起因している。これにより、n−AlGaN層134内からGaN層132との接合界面近傍に向けて電子キャリアが供給される現象の発生が抑制される。したがって、この接合界面近傍に2DEGが発生することができないために、ゲート電極144が0Vのときは、ドレイン電極142とソース電極146間に電流が流れない。即ち、ノーマリオフとして作動する。
【0036】
一方、図4(b)に示すように、ゲート電極144に正電圧が印加されると、ポテンシャル井戸152が発生するとともに、その電位レベルがフェルミ準位よりも下側に存在することになる。したがってこのポテンシャル井戸152内に2DEGが発生する。2DEGの電子は、ポテンシャル井戸152内に沿って2次元的に移動して、ドレイン電極142とソース電極146間を流れる。これにより、この半導体装置はオンとなる。
【0037】
上記の構成に代えて、n−AlGaN層134が実質的に不純物を含有していない真性半導体の層で形成されていてもよい。
同様に、p−GaN層132が実質的に不純物を含有していない真性半導体の層で形成されていてもよい。オン抵抗の小さい半導体装置を実現することができる。
【0038】
第2実施例の製造方法は、その大部分において第1実施例の製造技術を利用することができる。ただし、GaN層132を形成する場合は、有機金属気相エピタキシャル(MOCVD)法に代えて、例えば分子線エピタキシャル(MBE)法を利用するのが好ましい。有機金属気相エピタキシャル(MOCVD)法では、上記したように、その結晶成長がGa面で終了してしまう。一方、分子線エピタキシャル(MBE)法を利用すると、その製造条件などを適宜調整することで、結晶成長をN面で終了させることができる。これにより、第2実施例の半導体装置を製造することが可能となる。
【0039】
(第3実施例) 図5に、第3実施例の半導体装置の要部断面図を模式的に示す。
サファイア(Al)の基板222上に、窒化ガリウム(GaN)からなるバッファ層224が形成されている。基板222には、サファイアに代えて炭化シリコン(SiC)や窒化ガリウム(GaN)を利用してもよい。バッファ層24上に、p−GaN層32(第1層の一例)と、n−AlGaN層34(第2層の一例)と、p−AlGaN層235(表面層の一例)が積層されている。
p−GaN層232とp−AlGaN層235には、マグネシウム(Mg)がドーピングされている。p−AlGaN層235とn−AlGaN層233は、その半導体結晶にアルミニウム(Al)を含有しており、p−GaN層232よりもバンドギャップが大きい。
ニッケル(Ni)と金(Au)の積層構造からなるゲート電極244が、p−AlGaN層235の表面側の紙面中央に直接的にショットキー接触して形成されている。このゲート電極244を挟んだ紙面左右の位置関係に、チタン(Ti)とアルミニウム(Al)の積層構造からなるドレイン電極242とソース電極246が、オーミック接触して形成されている。
なお、p−GaN層232は、実質的に不純物を含有していない真性半導体の層で形成されていてもよい。この場合、この層に沿って移動する2DEGに対する不純物散乱が抑制されることから、2DEGの移動度を大きくすることができる。
【0040】
次に、第3実施例の半導体装置の動作をエネルギーバンド図を参照して説明する。図6に、図5の要部断面図のVI-VI線に対応するエネルギーバンド図を示す。このエネルギーバンド図中に示される番号は、図5に示す要部断面図の各層の番号に対応している。
図6(a)は、ゲート電極244に電圧が印加されていない状態であり、図5(b)は、ゲート電極244に正電圧が印加されている状態である。
図6(a)に示すように、ゲート電極244に電圧が印加されていない場合、n−AlGaN層233内に対して、p−GaN層232とp−AlGaN層235の両方から空乏層が伸びて形成される。そのため、図6(a)中のn−AlGaN層233内のエネルギーバンドに示されるように、そのエネルギーバンドは傾斜するとともに、伝導体の下限はフェルミ準位よりも上側に存在することになる。したがって、p−GaN層232との接合界面近傍に2DEGが発生することができないために、ゲート電極244が0Vのときは、この半導体装置のドレイン電極242とソース電極246間に電流が流れない。即ち、ノーマリオフとして作動する。
【0041】
一方、図6(b)に示すように、ゲート電極244に正電圧が印加されると、ポテンシャル井戸252が発生するとともに、その電位レベルがフェルミ準位よりも下側に存在することになる。したがってこのポテンシャル井戸252内に2DEGが発生する。2DEGの電子はポテンシャル井戸252内に沿って2次元的に移動して、ドレイン電極242とソース電極246間を流れる。これにより、この半導体装置はオンとなる。
【0042】
本実施例の半導体装置では、n−AlGaN層233とp−AlGaN層235を接合することにより、n−AlGaN層233とp−AlGaN層235が空乏化される。これにより、p−GaN層232とn−AlGaN層233とで形成されるポテンシャル井戸がフェルミ準位よりも上側に存在することになり、極めて安定的なノーマリオフ動作が実現される。
なお、このn−AlGaN層233が実質的に完全空乏化されるためには、次の関係式を満たすようにn−AlGaN層233とp−AlGaN層235が設定されているのが好ましい。
Xd<(2εNdVd/(qNa(Na+Nd)))1/2 ・・・・(1)
Xa<(2εNaVd/(qNd(Na+Nd)))1/2 ・・・・(2)
ここで、Xdはn−AlGaN層233の膜厚であり、Ndはn−AlGaN層233のドナー密度であり、Xaはp−AlGaN層235の膜厚であり、Naはp−AlGaN層235のアクセプタ密度であり、Vdはn−AlGaN層233とp−AlGaN層235で形成される拡散電位であり、εはGaN半導体結晶の誘電率であり、qは電子電荷の絶対値である。
【0043】
次に、第3実施例の半導体装置の変形例の一例を示す。図7に、その変形例の半導体装置の要部断面図を模式的に示す。なお、第3実施例と略同一の構成要素に関しては同一番号を付してその説明を省略する。
図5の半導体装置と対比すると、本変形例の特徴が明瞭に理解できる。本変形例では、第3実施例のn−AlGaN層233(第2層の一例)とp−AlGaN層235(表面層)に相当するn−AlGaN層236、238(第2層の一例)とp−AlGaN層237、239(上部層)の繰返しが積層して形成されている。具体的には、第1のn−AlGaN層236上に第1のp−AlGaN層237が形成され、さらにその上に第2のn−AlGaN層238と第2のp−AlGaN層239が積層して形成されている。
【0044】
本変形例のように、積層構造を採用することで、電子供給層に相当する第1のn−AlGaN層236や第2のn−AlGaN層238が実質的に空乏化されることを促進することができる。したがって、安定的なノーマリオフ動作を実現し易い。
また、ノーマリオフを実現する範囲内で、積層構造内の第2層の不純物濃度を比較的高く構成することが可能となるので、電子供給能力が増大し、オン抵抗を低減し得る。
また、積層構造を採用することで、ゲート電極244に正電圧を印加した場合でも、積層構造内のpn接合が逆バイアスされて、ゲート電極244からの電流の流入を防止することができる。半導体装置の安定的な動作を実現し易い。
【0045】
第3実施例の半導体装置の製造方法は、その大部分において第1実施例の製造技術を利用して具現化することができる。
【0046】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0047】
22:基板
24:バッファ層
32:p−GaN層(第1層の一例)
34:AlGaN層(第2層の一例)
42:ドレイン電極
44:ゲート電極
46:ソース電極
62:SI−GaN層(中間層の一例)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7