(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0032】
<全体構成>
以下、実施形態に係るシートベルト用リトラクタ10について説明する。
図1はシートベルト用リトラクタ10の全体構成を示す斜視図であり、
図2はシートベルト用リトラクタ10を機能単位で分解した斜視図であり、
図3及び
図4はシートベルト用リトラクタ10をさらに細かく分解した斜視図である。
図3は主として巻取ドラム30及びその一端側に組付けられる部品を示しており、
図4は主として巻取ドラム30の他端側に組付けられる部品を示している。
【0033】
このシートベルト用リトラクタ10は、車両等の座席に備えられるシートベルト装置に適用されるものである。このシートベルト用リトラクタ10は、車両のセンターピラー下部等に組込まれており、通常状態では、シートベルトとしてのウエビング12を引出及び巻取可能に収容している。このシートベルト用リトラクタ10は、車両の加速時(減速時等を含む)の非通常状態時には、乗員を効果的に拘束するため、ウエビング12の引出を規制する。特に、車両の衝突時或は急激な減速時等の緊急時には、シートベルト用リトラクタ10は、弛みを除去するようにウエビング12を巻取り、その後、乗員に加わる衝撃を緩和するようにウエビング12を徐々に繰出すように構成されている。
【0034】
すなわち、シートベルト用リトラクタ10は、ハウジング20と、巻取ドラム30と、プリテンショナー機構40と、巻取機構100と、ロック機構60とを備えている。巻取ドラム30とロック機構60との間に引出荷重発生機構が設けられている。ここでは、引出荷重発生機構は、ワイヤー式引出荷重発生機構80とトーションバー式引出荷重発生機構90とを備える。巻取ドラム30は、ハウジング20内に収容されており、巻取ドラム30の一端側(
図1の右側)にプリテンショナー機構40が組込まれ、巻取ドラム30の他端側(
図1の左側)に巻取機構100及びロック機構60が組込まれている。そして、巻取機構100が巻取ドラム30をウエビング12の巻取方向に付勢するように構成されている。そして、通常状態においては、巻取機構100の付勢力によって巻取ドラム30がウエビング12の巻取方向に付勢されており、前記巻取機構100の付勢力に抗してウエビング12を引出すことができ、また、ウエビング12の引出力を解除すると、巻取機構100の付勢力によってウエビング12が巻取ドラム30に巻取られる。また、ロック機構60が車両の減速時等の非通常状態時(車両の衝突時或は急激な減速時等の緊急時を含む)に、ウエビング12の引出方向への巻取ドラム30の回転を規制するように構成される。さらに、プリテンショナー機構40は、車両緊急時等に、ウエビング12の巻取方向に巻取ドラム30を回転させるように構成されている。ロック機構60の作動後、かつ、プリテンショナー機構40が車両緊急時等にウエビング12の巻取方向に巻取ドラム30を回転させた後、上記引出荷重発生機構は、ウエビング12を繰出すように巻取ドラム30の回転を許容すると共に、ウエビング12の引出す際に抵抗となる引出荷重を発生させ、もって、急な減速によって車両前方に移動しようとする乗員の衝撃を緩和しつつ受止める役割を果す。
【0035】
<ハウジング及び巻取ドラム>
ハウジング20は、金属板等によって形成された部材であり、相対向して設けられた一対の側板部21、22と、当該側板部21、22の縁部同士を連結する複数の連結板部23、24とを備えている。側板部21、22には、巻取ドラム30の端部を外部に臨ませる開口21h、22hが形成されている。また、連結板部23は、側板部21、22の他の縁部(
図1では上側の縁部)間の位置に延出する部分23aを有しており、この部分23aにウエビング12を外部に引出すための開口23ahが形成されている。ここでは、開口23ahには、ウエビング12を挿通可能なスリット状の開口が形成された樹脂製のガイド部材23bが装着されている。また、連結板部23の前記部分23aには、本シートベルト用リトラクタ10を車体等に取付けるためのねじ穴が形成されたねじ固定片23cが形成されている。
【0036】
そして、一対の側板部21、22間に巻取ドラム30を配設した状態で、一方の側板部21の外面にプリテンショナー機構40が取付けられると共に、他方の側板部22の外面にロック機構60が取付けられる。
【0037】
巻取ドラム30は、ウエビング12が巻回された状態でハウジング20内に回転可能に配設される部材である。具体的には、巻取ドラム30は、アルミニウム等により形成されており、円柱状の巻取ドラム本体部31と、その巻取ドラム本体部31の軸芯方向両端部に径方向に張出すように形成されたフランジ部32、34を有している。ウエビング12は、両フランジ部32、34間で巻取ドラム本体部31に巻取られる。
【0038】
また、巻取ドラム30には、その中心軸に沿って軸孔部36が形成されている。軸孔部36は、巻取ドラム30の一端部側では非貫通であり、巻取ドラム30の他端部側では開口している。この軸孔部36には、トーションバー38が挿入されている。トーションバー38の一端部38aは、巻取ドラム30の他端側におけるフランジ部34から外部に突出しており、ロック機構60のラチェットギヤ61(後述する)と相対回転不能に結合される。また、トーションバー38の他端部38bは、軸孔部36内部において、後に詳述する拘束機構92を介して巻取ドラム30に連結されている。
【0039】
<プリテンショナー機構>
図5はシートベルト用リトラクタ10からプリテンショナー機構40を分解した状態を示す斜視図であり、
図6はプリテンショナー機構40の内部構造を示す説明図である。
図1〜
図3、
図5及び
図6に示すように、プリテンショナー機構40は、車両の衝突時等の緊急時に、ウエビング12の巻取方向に巻取ドラム30を回転させることによって、ウエビング12の弛みを除去するための機構である。このように車両の衝突時等の緊急時において、ウエビング12の弛みを除去することによって、乗員をしっかりと座席に拘束することができる。
【0040】
より具体的には、プリテンショナー機構40は、ガス発生部材41と、パイプシリンダ42と、ピストン43と、ピニオンギヤ45と、クラッチ機構50とを備えている。
【0041】
ガス発生部材41は、火薬等のガス発生剤を有しており、衝撃検知センサ等の出力に応じて前記ガス発生剤を着火させてガスを発生させる構成とされている。
【0042】
パイプシリンダ42は、直線状のピストン案内筒部42aの一端部にガス導入部42bが連設されたL字状の筒部材に形成されている。このガス導入部42bに上記ガス発生部材41が装着されている。従って、ガス発生部材41により発生されたガスは、パイプシリンダ42のガス導入部42b側(
図6等で下側)からピストン案内筒部42a内にガスが導入される。また、ピストン案内筒部42aの一側部における長手方向中間部には、開口部42ahが形成されている。この開口部42ahに、後述するピニオンギヤ45のピニオンギヤ歯45aの一部分が配設される。
【0043】
このパイプシリンダ42は、側板部21側のベースプレート48aと外側のカバープレート48bとによって挟持されると共に、これらの間でベースブロック49とカバープレート48bとによって挟持された状態で、タッピングネジPIN1等を用いて側板部21の外面に取付固定される。
【0044】
なお、ピストン案内筒部42aの上端部には、プリテンショナー機構40をハウジング20に取付けるとともに、ピストン43の抜止及び、パイプシリンダ42の抜止、回転止として機能するストッパーピンPIN2を挿通可能な貫通孔42cが形成されている。
【0045】
ピストン43は、スチール材等で形成された部材であり、全体として長尺状の形状を有している。ピストン43の一側部には、ピニオンギヤ45のピニオンギヤ歯45aに噛合うラック歯43aが形成されている。また、ピストン43の一端面(
図6等で下端面)は、ピストン案内筒部42aの断面形状に応じた円形端面に形成されている。この円形端面に、ゴム等のエラストマーによって形成されたシールプレート42sが取付けられている。
【0046】
このピストン43は、プリテンショナー機構40動作前の待機状態では、ラック歯43aがピニオンギヤ歯45aに非噛合い状態となる位置まで、ピストン案内筒部42aの奥側に挿入配置される。
【0047】
ピニオンギヤ45は、スチール材等で形成された円柱状部材であり、その外周部にはラック歯43aに噛合い可能なピニオンギヤ歯45aが形成されている。また、ピニオンギヤ歯45aより外方に延出するようにして円筒状の支持部45bが形成されている。この支持部45bが側板部21の外面側に取付けられるカバープレート48bに形成された支持孔48hに回転可能に嵌め込まれる。このように支持部45bが支持孔48hに嵌め込まれた状態では、ピニオンギヤ歯45aの一部が、開口部42ahを通じてピストン案内筒部42aの開口部42ah内に配設される。そして、ピストン43が上記待機状態より上方に移動すると、ラック歯43aがピニオンギヤ歯45aに噛合って、ピニオンギヤ45が回転する。
【0048】
このピニオンギヤ45の回転は、クラッチ機構50を介して巻取ドラム30に伝達される(
図3参照)。
【0049】
すなわち、上記ピニオンギヤ45の軸心方向の側板部21側の端部には、当該軸芯方向に沿って突出するボス部45dが形成されている。ボス部45dは、断面非円形状(ここでは、複数の突条部分を有するスプライン形状)に形成されている。このボス部45dは、ベースプレート48aに形成された開口を通って巻取ドラム側に突出配置される。
【0050】
また、クラッチ機構50は、通常時においてピニオンギヤ45に対して巻取ドラム30を自由回転させる状態(両者間の回転伝達経路を絶った状態)と、プリテンショナー機構40の作動時においてピニオンギヤ45の回転を巻取ドラム30に伝達する状態(両者間の回転伝達経路を確立した状態)とで切替え可能に構成されている。
【0051】
すなわち、クラッチ機構50は、スチール材等で形成されたパウルベース51と、スチール材等で形成された複数(ここでは3つ)のクラッチパウル52と、樹脂等で形成されたパウルガイド53とを備えている。
【0052】
パウルベース51の中央部には、上記ボス部45dが嵌め込まれる嵌合孔51hが形成されており、ボス部45dが本嵌合孔51hに嵌め込まれることによって、パウルベース51がピニオンギヤ45に対して相対回転不能に取付けられる。つまり、ピニオンギヤ45とパウルベース51とは一体回転する関係にある。また、このように、ボス部45dが嵌合孔51hに嵌め込まれた状態で、ボス部45dにベアリング54が嵌め入れられる。なお、ベアリング54には、巻取ドラム30の他方側面中央に形成された軸部32bが挿入される。
【0053】
このパウルベース51に、各クラッチパウル52が収容姿勢と係止姿勢との間で姿勢変更可能に支持されている。収容姿勢は、クラッチパウル52の全体をパウルベース51の外周縁部内に納めた姿勢であり、係止姿勢はクラッチパウル52の先端部をパウルベース51の外周縁部外方に突出させた姿勢である。
【0054】
パウルガイド53は、円環状の部材であり、上記パウルベース51に対して各クラッチパウル52を挟んで対向する位置に配設されている。このパウルガイド53の外側の側面には位置決突起(図示省略)が突設されており、この位置決突起がベースプレート48aの位置決孔48eに嵌め入れられることにより、待機状態において、パウルガイド53が回転不能な状態でベースプレート48aに取付固定される。また、パウルガイド53のうちパウルベース51側の面には、各クラッチパウル52に対応して姿勢変更用突起部53aが突設されている。そして、プリテンショナー機構40の動作によってパウルベース51とパウルガイド53とが相対回転すると、各クラッチパウル52が姿勢変更用突起部53aに当接して、収容姿勢から係止姿勢に姿勢変更されるようになっている。
【0055】
また、各クラッチパウル52が係止姿勢に姿勢変更すると、巻取ドラム30に係合するようになる。より具体的には、巻取ドラム30の一方側面には、クラッチ機構50を配設可能な環状凹部32hが形成されている(
図5参照)。この環状凹部32hの周壁には、クラッチギヤ32aが形成されており、クラッチパウル52の先端部は当該クラッチギヤ32aに対して係合可能とされている。そして、上記のようにクラッチパウル52が係止姿勢に姿勢変更すると、クラッチパウル52の先端部がクラッチギヤ32aに係合し、これにより、パウルベース51が巻取ドラム30を回転させるようになる。なお、クラッチパウル52とクラッチギヤ32aとの係合は、巻取ドラム30をウエビング12の巻取方向へ回転させる、一方向のみへの係合構造である。
【0056】
このプリテンショナー機構40の動作について説明する。
【0057】
すなわち、待機状態において(
図6参照)、ガス発生部材41からガスが発生すると、発生したガスの圧力によってピストン43が押される。これにより、ピストン43がピストン案内筒部42aの上方に向けて移動すると共に、ラック歯43aと噛合ったピニオンギヤ歯45aを有するピニオンギヤ45が回転する(
図6では左回転)。
【0058】
すると、ピニオンギヤ45と一緒にパウルベース51が回転する。この際、パウルガイド53に対してパウルベース51が相対回転することになるので、パウルガイド53に形成された姿勢変更用突起部53aがクラッチパウル52に当接して、クラッチパウル52を係止姿勢に姿勢変更させる。これにより、クラッチパウル52は巻取ドラム30のクラッチギヤ32aに係合する。これにより、ピストン43が上方に移動しようとする力が、ピニオンギヤ45、パウルベース51、クラッチパウル52及びクラッチギヤ32aを介して巻取ドラム30に伝達され、巻取ドラム30がウエビング12の巻取方向に回転駆動され、ウエビング12が巻取ドラム30に巻取られる。
【0059】
なお、パウルガイド53に形成された姿勢変更用突起部53aはクラッチパウル52に当接した状態が維持されているため、パウルガイド53に対しても回転させようとする力が加わる。そして、この力によってパウルガイド53に形成された位置決突起が破壊されると、パウルガイド53はパウルベース51と共に回転することになる。
【0060】
そして、ピストン43がストッパーピンPIN2に当接するまで移動すると、ウエビング12の巻取動作が終了する。
【0061】
ガス発生部材41からガス発生が停止し、そのガスがガス抜き孔42h等を介して抜かれると、ピストンは反対方向に移動可能となる。従って、衝撃による乗員の移動によってウエビング12が引出方向に引かれ、巻取ドラム30がウエビング12の引出方向に回転されると、ピニオンギヤ45は、プリテンショナー機構40が作動する際とは逆の方向に、クラッチ機構50を介して回転され、ピストン43は作動方向とは逆方向に押し戻される。そして、ピストン43のラック歯43aと、ピニオンギヤ45のピニオンギヤ歯45aとの噛合いが外れる位置までピストン43が押し戻されると、ピニオンギヤ45はピストン43から外れるので、巻取ドラム30はピストン43に対して自由回転できるようになる。上記のようにして、プリテンショナー機構40は、その作動後においては、ウエビング12の引出方向への回転をなるべく抑制しない状態となる。
【0062】
なお、プリテンショナー機構の構成は上記構成に限定されない。ガス発生剤で発生するガス圧によって、ワイヤー等を引っぱって巻取ドラムを回転させる構成であってもよいし、モータ等の駆動によって巻取ドラムを回転させる構成であってもよい。要するに、プリテンショナー機構は、車両衝突等の緊急状態が検知されたタイミングで巻取ドラムを回転させることが可能な構成であればよい。
【0063】
<ロック機構>
ロック機構60は、主として、
図2〜
図4、
図7〜
図9に示すように、通常状態ではトーションバー38の一端部38aの回転を許容し、非通常状態ではウエビング12の引出方向へのトーションバー38の一端部38aの回転を規制するように構成されている。
【0064】
本実施形態では、ロック機構60は、ウエビング12の急な引出時と、車両の急な加速時又は減速時にトーションバー38の一端部38aの回転を規制するように構成されている。
【0065】
すなわち、ロック機構60は、ラチェットギヤ61と、ロックパウル64と、ロック側クラッチ66と、ロックカバー68と、ウエビング感応部70と、加速感応部74とを備えている(
図3及び
図4参照)。そして、ウエビング感応部70又は加速感応部74の感応動作に応じてロック側クラッチ66がロックパウル64を動かしてラチェットギヤ61に係合させ、もって、ラチェットギヤ61及び巻取ドラム30の回転を規制する。
【0066】
すなわち、上記トーションバー38の一端部38aに、ラチェットギヤ61が取付けられている。このラチェットギヤ61は、巻取ドラム30の他方側面に隣接して配設されており、通常状態では、巻取ドラム30と連動して回転し、車両緊急時等にはロック機構60によって回転停止される。つまり、ラチェットギヤ61は、ロック機構60の動作に応じて、巻取ドラム30の回転軸と同軸上で回転可能な状態と、ウエビング12の引出方向への回転を規制された状態とで切替えられる回転規制部材である。
【0067】
より具体的には、ラチェットギヤ61は、スチール材等で形成された部材であり、円板状のラチェットギヤ本体部61aと、ラチェットギヤ本体部61aの一方主面側より突出した軸部61cとを備えている。ラチェットギヤ本体部61aの外周部にはロックパウル64が係合可能なラチェットギヤ歯61bが形成されている。このラチェットギヤ本体部61aは、側板部22に形成された開口22hよりも(僅かに)小さく形成され、当該開口22h内に回転可能に配設される。軸部61cは後述するロック回転部材71に嵌め込まれる。
【0068】
また、ラチェットギヤ本体部61aの他方主面の中央部には、トーションバー38の一端部38aを嵌め込み可能な嵌合穴62aが形成されている(
図10参照)。ここでは、ラチェットギヤ本体部61aの他方主面の中央部に、筒部62が突設され、その筒部62の内周部がトーションバー38の一端部38aに対応する断面非円形形状(ここでは歯車形状)に形成された嵌合穴62aに形成されている(
図10参照)。そして、トーションバー38の一端部38aが嵌合穴62aに嵌込まれることで、トーションバー38の一端部38aとラチェットギヤ61とが相対回転不能に相互取付けされる。
【0069】
なお、このラチェットギヤ本体部61aの他方主面には、ワイヤー式引出荷重発生機構80を組込むための部分が形成されているが、これについては後述する。
【0070】
図7及び
図8はロックパウル64の動作を示す説明図である。
図2、
図4、
図7及び
図8に示すように、ロックパウル64は、スチール材等で形成された部材である。ロックパウル64は、細長部材(ここでは、長円状部材)に形成され、その一端側部に上記ラチェットギヤ歯61bに係合可能な係合歯64aが形成されている。このロックパウル64は、側板部22に対してハウジング20に取付けられる巻取ドラム30の外周位置で、ピン部材64cを介して係合姿勢と非係合姿勢との間で姿勢変更可能に取付けられる。係合姿勢は、係合歯64aを上記ラチェットギヤ歯61bに係合させる位置であり、非係合姿勢は係合歯64aをラチェットギヤ歯61bから離間させた位置である。また、ロックパウル64の一端部外向き面には、連結ピン64bが突設されており、この連結ピン64bは開口22hの周縁部の一部を切り欠くようにして形成された凹部22haを通って側板部22の外面側に突出している。
【0071】
また、ロックパウル64には、当該ロックパウル64を非係合位置に付勢する付勢部材としてリターンスプリング(図示せず)が装着されている。リターンスプリングの一端部はハウジング20等に固定され、リターンスプリングの他端部はロックパウル64の一端部に固定されており、リターンスプリングの付勢力によってロックパウル64を非係合位置に付勢している。
【0072】
そして、通常状態では、リターンスプリングの付勢力によってロックパウル64は非係合姿勢に維持されている(
図7参照)。そして、後述するロック側クラッチ66によってロックパウル64が係合姿勢に姿勢変更されると、ロックパウル64の係合歯64aがラチェットギヤ61のラチェットギヤ歯61bに係合して、ラチェットギヤ61及び巻取ドラム30の回転を規制する(
図8参照)。また、ロックパウル64を係合姿勢に姿勢変更する力が解除されると、リターンスプリングの付勢力によってロックパウル64が非係合姿勢に姿勢変更され、ラチェットギヤ61及び巻取ドラム30はウエビング12を引出及び巻取動作できるようになる。
【0073】
ロック側クラッチ66及びロックカバー68は樹脂等で形成された部材である。
【0074】
ロックカバー68は、クラッチ収容部68aと加速感応部収容部68bとを有している。クラッチ収容部68aは、ロック側クラッチ66を一定範囲内で回転可能に収容可能で、かつ、側板部22側に開口する収容空間を有するケース形状に形成されている。加速感応部収容部68bは、加速感応部74を収容可能で、かつ、クラッチ収容部68a内空間と連通する空間を有するケース形状に形成されている。そして、クラッチ収容部68aを巻取ドラム30の他方側のフランジ部34の外面に対応する位置に配設すると共に、その下方に加速感応部収容部68bを配設した状態で、ロックカバー68が側板部22の外面に取付けられる。ロックカバー68の取付は、ロックカバー68に形成した突起を側板部22に嵌め込むこと、その他ピン止、ねじ止等によって行うとよい。
【0075】
ロック側クラッチ66は、円板状の板部66pと、板部66pの一主面に形成された内側周壁部66a(
図9参照)及び外側周壁部67(
図4参照)とを備えている。
【0076】
板部66pの中央部には、後述する軸突部71pを挿通可能な挿通孔66ahが形成されており、ロック側クラッチ66はロックカバー68のクラッチ収容部68a内で一定の(ここでは僅かな一定の)回転範囲内で回転可能に収容される。
【0077】
上記内側周壁部66aは、挿通孔66ahを取囲む位置に形成されており、この内周面には後述する慣性アーム73の先端係合部73aが係止可能な内歯66bが形成されている(
図9参照)。
【0078】
外側周壁部67は、内側周壁部66aを、間隔を介して取囲むように形成されている。この外側周壁部67の一部分には、上記ロックパウル64の連結ピン64bを嵌め込み可能な連結孔67hが形成されている。そして、このロック側クラッチ66が上記一定の回転範囲内で正逆両方向に回転することで、ロックパウル64が上記係合姿勢と非係合姿勢との間で姿勢変更される。なお、ロックパウル64はリターンスプリングの付勢力によって非係合姿勢に向けて付勢されているので、この付勢力によってロック側クラッチ66は、ロックパウル64の非係合姿勢に対応した回転姿勢に付勢されている。
【0079】
また、外側周壁部67の他の一部分には、後述するロックアーム78を姿勢変更可能に支持するロックアーム支軸部67bが設けられている(
図4参照)。ここで、ロックアーム78は、ロック回転部材71の外歯71bに係合可能な係合部78aを有する長尺部材である(
図4参照)。このロックアーム78の基端部が上記ロックアーム支軸部67bによって係合姿勢と非係合姿勢との間で姿勢変更可能に軸支されている。ロックアーム78の係合姿勢は、係合部78aを内周側に移動させてロック回転部材71の外歯71bに係合させた姿勢であり(
図9で示される位置参照)、その非係合姿勢は係合部78aを外周側に移動させて前記外歯71bから退避させた姿勢である。
【0080】
図9はウエビング感応部70を概略的に示す説明図である。
図4及び
図9に示すように、ウエビング感応部70は、ウエビング12の急激な引出時に巻取ドラム30の回転を規制するための部分であり、ロック回転部材71と、付勢部材としてのコイルバネ72と、慣性アーム73とを備えている。
【0081】
ロック回転部材71は、樹脂等で形成された部材であり、円板部分の一主面に周壁部71aが形成された円状部材に形成されている。周壁部71aは、上記内側周壁部66aと外側周壁部67との間に配設可能な径寸法に設定されており、当該周壁部71aを内側周壁部66aと外側周壁部67との間に配設した状態で、回転可能とされている。この周壁部71aの外周部には、ロックアーム78の係合部78aを係合可能な外歯71bが形成されている。
【0082】
また、ロック回転部材71の中央部には、ラチェットギヤ61の軸部61cを嵌め込み可能な嵌合穴(図示省略)が形成されている。そして、軸部61cが嵌合孔に嵌め込まれる。また、ロック回転部材71の中央部であって前記嵌合穴の開口の反対側には軸突部71pが突設されている。嵌合穴は、軸突部71p内に達する程度の深さに形成されており、従って、後述するように、嵌合穴内に嵌め込まれた軸部61cは軸突部71pを補強する役割を果す。
【0083】
この嵌め込み状態において、ロック回転部材71のうちラチェットギヤ61側に設けられた突起部分(図示省略)が、ラチェットギヤ61に形成された回転止凹部61hに嵌め込まれる。これにより、ラチェットギヤ61とロック回転部材71とが相対回転不能な状態となっている。
【0084】
慣性アーム73は、樹脂等で形成された部材であり、ロック回転部材71の外周縁部の内側に沿った弧状形状に形成されている。慣性アーム73の一端部は、上記内側周壁部66aの内歯66bに係合可能な先端係合部73aに形成されている。この慣性アーム73は、ロック回転部材71の中心から外れた位置で、支軸部71cを介して回転可能に支持されており、先端係合部73aを内周よりの位置に移動させた非係止姿勢(
図9の実線参照)と先端係合部73aを外周よりの位置に移動させた係合姿勢(
図9の点線参照)との間で姿勢変更可能とされている。また、慣性アーム73の他端部とロック回転部材71の止片71fとの間に、慣性アーム73を非係合姿勢に付勢する付勢部材としてのコイルバネ72が圧縮状態で介在されている。そして、通常状態では、コイルバネ72の付勢力によって慣性アーム73が退避姿勢に向けて付勢されている。この状態で、ウエビング12が引出されて巻取ドラム30が回転し、これに伴いロック回転部材71が回転すると(ウエビング12の引出方向の回転)、慣性力によって慣性アーム73を係止姿勢に姿勢変更させる力が作用する。この際、ウエビング12の引出が急であると、前記慣性力が大きくなり、コイルバネ72の付勢力に抗して慣性アーム73が係合姿勢に姿勢変更する。これにより、慣性アーム73の先端係合部73aが内歯66bに係合して、ロック側クラッチ66を回転させるようになる。
【0085】
また、この状態で、ウエビング12を引張る力が解除されると、巻取ドラム30及びロック回転部材71が僅かに巻戻され、先端係合部73aと内歯66bとの係合が解除される。これにより、ロック側クラッチ66が元の回転位置に復帰回転するようになる。
【0086】
図4に示すように、加速感応部74は、車両の急激な加速時に巻取ドラム30の回転を規制するための部分であり、球体75と、中継伝達レバー76と、ロックアーム78とを備えている。なお、車両の急激な加速時は、加速度が“マイナス”である場合、即ち、減速時を含み、勿論、車両の衝突によって急激に減速する場合を含む。
【0087】
球体75は、金属球等であり、球体支持部75bによって載置状に支持されている。球体支持部75bは、球体75の下半分よりも小さい部分のみを支える部分を有している。従って、球体75に大きな慣性力が作用すると、球体75は、球体支持部75b内から脱しようとして上方に変位する。
【0088】
中継伝達レバー76は、球体75の上側部分に被さる皿状部76aを有しており、球体支持部75bに突設された支持柱部75cによって、球体75の上方で姿勢変更可能に支持されている。そして、球体75が球体支持部75b内に収っている場合には、中継伝達レバー76は当該球体75の上部に載置されている。この状態から、球体75が球体支持部75bから脱しようとして上方に変位すると、中継伝達レバー76も上方に持上げられる。
【0089】
これらの球体75、球体支持部75b及び中継伝達レバー76は、ロックカバー68の加速感応部収容部68b内に収容される。また、この状態で、加速感応部収容部68bの側板部22側開口は、蓋部77によって塞がれている。
【0090】
この状態で、中継伝達レバー76は、加速感応部収容部68bと蓋部77との上方間部分を通ってロックアーム78と接触可能な位置に配設されている。そして、中継伝達レバー76が上方に持上げられると、ロックアーム78の係合部78aが中継伝達レバー76によって上方に持上げられ、ロックアーム78が係合姿勢に姿勢変更されるようになっている。なお、ロック側クラッチ66の回転範囲はここでは僅かであるので、当該回転範囲内において中継伝達レバー76がロックアーム78を持上げている状態を維持できるようにすることができる。
【0091】
そして、通常状態では、球体75は、球体支持部75bの所定位置に収っており、ロックアーム78も自重によって非係合姿勢に維持されている。この状態で、車両が急激に加速(減速)されると、球体75が球体支持部75bの所定位置から外れて上方に変位する。すると、中継伝達レバー76が上方に持上げられ、さらに、ロックアーム78も係合位置に姿勢変更する。すると、ロックアーム78の係合部78aがロック回転部材71の周壁部71aの外歯71bに係合する。すると、ロック回転部材71の回転力がロックアーム78を介してロック側クラッチ66に伝達され、ロック側クラッチ66を回転させる。なお、ロックパウル64がラチェットギヤ歯61bに係合するまでロック側クラッチ66を回転させた後は、中継伝達レバー76がロックアーム78を持上げている状態は維持されてもよいし解除されてもよい。
【0092】
また、上記状態で、車両が安定状態(停止又は一定速度状態)になると、球体75が球体支持部75bの所定位置に収り、中継伝達レバー76及びロックアーム78は、下方の元位置に復帰移動できるようになる。
【0093】
ロック機構60の動作について説明する。
【0094】
まず、ウエビング12が急に引出された場合、慣性力によって慣性アーム73が係止姿勢に姿勢変更し、その先端係合部73aが内歯66bに係合して、ロック側クラッチ66を回転させる。すると、ロックパウル64が係合姿勢に姿勢変更され、ロックパウル64の係合歯64aがラチェットギヤ61のラチェットギヤ歯61bに係合して、ラチェットギヤ61及び巻取ドラム30の回転を規制する。これにより、トーションバー38の一端部38aの回転が規制され、ウエビング12の引出が規制される。
【0095】
この状態で、ウエビング12を引出す力が解除され、巻取ドラム30が僅かに巻戻されると、リターンスプリングの付勢力によってロックパウル64が非係合姿勢に姿勢変更されると共に、同リターンスプリングの付勢力を利用してロック側クラッチ66も元の回転姿勢に復帰する。また、コイルバネ72の付勢力によって慣性アーム73も非係止姿勢に姿勢変更する。これにより、トーションバー38の一端部38aの回転規制が解除され、ラチェットギヤ61及び巻取ドラム30は通常状態に戻ってウエビング12を引出及び巻取動作できるようになる。つまり、トーションバー38は、所定荷重よりも小さいウエビング12の引出方向への荷重の状態では、巻取ドラム30と回転規制部材としてのラチェットギヤ61を相対回転不能に結合する衝撃吸収部材として用いられている。ここで、所定荷重とは、本シートベルト用リトラクタ10の通常の使用状態よって生じる荷重範囲(即ち、人手によるウエビング12の引出し、及び、通常走行上想定される減速によるウエビング12の引出しによって生じる荷重)と、車両の衝突等の緊急状態によって生じる荷重範囲との間の値である。
【0096】
また、車両の衝突或は急減速時等で、車両が急に加速された場合、球体75が球体支持部75bの所定位置から外れて上方に変位する。すると、中継伝達レバー76が上方に持上げられ、中継伝達レバー76によりロックアーム78も係合位置に姿勢変更される。これにより、ロックアーム78の係合部78aがロック回転部材71の周壁部71aの外歯71bに係合して、ロック回転部材71の回転力がロックアーム78を介してロック側クラッチ66に伝達されるようになり、ロック側クラッチ66が回転する。
【0097】
すると、上記と同様に、ロックパウル64が係合姿勢に姿勢変更され、ロックパウル64の係合歯64aがラチェットギヤ61のラチェットギヤ歯61bに係合して、ラチェットギヤ61及び巻取ドラム30の回転を規制する。これにより、トーションバー38の一端部38aの回転が規制され、ウエビング12の引出が規制される。
【0098】
この状態で、車両が安定状態(停止又は一定速度状態)になると、球体75が球体支持部75bの所定位置に収り、中継伝達レバー76及びロックアーム78は、下方の元位置に復帰移動できるようになる。同時にウエビング12を引出す力が解除され、巻取ドラム30が僅かに巻戻されると、リターンスプリングの付勢力によってロックパウル64が非係合姿勢に姿勢変更されると共に、同リターンスプリングの付勢力を利用してロック側クラッチ66も元の回転姿勢に復帰する。同時に、中継伝達レバー76及びロックアーム78は、自重によって下方の元位置に復帰移動する。これにより、ラチェットギヤ61及び巻取ドラム30は通常状態に戻ってウエビング12を引出及び巻取動作できるようになる。
【0099】
このロック機構60によって、少なくとも緊急状態ではラチェットギヤ61の回転を規制して、次に説明する引出荷重発生機構の動作を開始可能な状態にすることができる。
【0100】
なお、ここでは、ロック機構60が、ウエビング12の急な引出時及び車両の急な加速時にトーションバー38の一端部38aの回転を規制(停止)させる例で説明したが、これらはいずれか一方のみ採用されてもよいし、また、他の機構によってトーションバー38の一端部38aの回転を規制する構成であってもよい。即ち、ロック機構60としては、少なくとも、ウエビング12を引出つつ衝撃吸収すべき緊急状態において、トーションバー38の一端部38aの回転を規制する構成であればよい。
【0101】
<巻取機構>
巻取機構100は、
図4に示すように、巻取ドラム30を、常時、巻取方向に付勢するように構成されている。ここでは、巻取機構100は、上記ロック機構60の外側に設けられており、渦巻バネ102と、ストッパ104とバネカバー106とを有している。
【0102】
ストッパ104は、上記ロック機構60の外側に突出する軸突部71pの先端部に回り止状態で固定されると共に、渦巻バネ102の最内周端部に固定されている。渦巻バネ102は、ロック機構60の外側に配設された状態で、ロック機構60の外面に取付けられたバネカバー106内に収容されている。バネカバー106内で渦巻バネ102の外側端部は、当該バネカバー106内の一定位置に固定される。
【0103】
そして、渦巻バネ102の一方向の回転付勢力が、ロック回転部材71、ラチェットギヤ61及びトーションバー38を介して巻取ドラム30に対して、巻取ドラム30を常時巻取方向に付勢する力として作用するようになっている。
【0104】
<引出荷重発生機構>
図10及び
図11はシートベルト用リトラクタ10における引出荷重発生機構部分を示す分解斜視図であり、
図12は引出荷重発生機構部分の軸方向に沿った部分断面図である。
【0105】
このシートベルト用リトラクタ10は、上記ロック機構60の動作開始後において、ウエビング12が引出される際に、ウエビング12に対して抵抗となる引出荷重を発生させる引出荷重発生機構を備える。引出荷重発生機構は、引出荷重によってウエビング12から乗員に加わる衝撃を吸収する機構であると捉えることもできる。ここでは、引出荷重発生機構は、ワイヤー式引出荷重発生機構80とトーションバー式引出荷重発生機構90とを備える。
【0106】
ワイヤー式引出荷重発生機構80は、ワイヤー86の引出抵抗によって、ウエビング12の引出荷重を発生させる機構である。また、トーションバー式引出荷重発生機構90は、トーションバー38のねじれ変形によってウエビング12の引出荷重を発生させる機構である。
【0107】
<ワイヤー式引出荷重発生機構>
図3、
図10及び
図11に示すように、ワイヤー式引出荷重発生機構80は、待機状態(通常状態)では、巻取ドラム30と、回転規制部材としてのラチェットギヤ61とを相対回転不能に連結しており、巻取ドラム30に衝撃によるウエビング12の引出方向への力が加わると、ウエビング12に引出荷重を発生させつつ、巻取ドラム30とラチェットギヤ61との相対回転を許容する衝撃吸収機構であり、ワイヤー86は衝撃吸収部材である。ここでは、ワイヤー式引出荷重発生機構80は、巻取ドラム30とラチェットギヤ61との相対回転によって、ワイヤー86を変形させつつ引出すことによって、ウエビング12の引出荷重を発生させる構成とされている。
【0108】
より具体的には、巻取ドラム30の他端部側の側面には、軸孔部36の開口を取囲むようにして筒部37が突設されている。上記ラチェットギヤ61の筒部62は、本筒部37内に相対回転可能に挿入された状態で、トーションバー38の一端部38aに対して相対回転不能に結合されている。筒部37の周方向の一部には凹部37aが形成されており、ワイヤー86の一端部が折曲げられて、筒部37の外周側から該凹部37aに嵌め込まれることで、ワイヤー86の一端部が巻取ドラム30に対して相対回転不能に取付けられる。
【0109】
また、ラチェットギヤ61のうち巻取ドラム30に向く側の面の外周部には、円板状部63が形成されている。円板状部63のうち巻取ドラム30側の面における外周部には、筒部62を間隔をあけて囲むようにして外周壁部63wが形成されている。
【0110】
また、円板状部63のうち巻取ドラム30側の面には、ワイヤー86を、抵抗を付与しつつ引出可能とするための引出路63pが形成されている。ここでは、引出路63pは、外周壁部63wの内周側に、当該外周壁部63wに沿って突設された複数の突部分63a、63b、63c、63d、63eの隙間によって形成されている(
図13参照)。より具体的には、突部分63a、63c、63eが、外周壁部63wの内周側でその周方向に沿って間隔をあけて形成されている。これら突部分63a、63c、63eには、円板状部63の外周側に向けて凸となる湾曲面が形成されている。また、突部分63b、63dが、外周壁部63wの内周側であって突部分63a、63c、63eの外周側の位置において、外周壁部63wの周方向に沿って63a、63c、63e間に位置するように設けられている。突部分63b、63dには、円板状部63の内周側に向けて凸となる湾曲面が形成されている。そして、上記突部分63a、63c、63eと突部分63b、63dとの間に、円板状部63の外周側に向けて2箇所(突部分63a、63cに接触する2箇所)で凸となり、その間の1箇所(突部分63bに接触する箇所)で内周側に凸となる引出路63pが形成される。そして、ワイヤー86が本引出路63pを通過する際には、上記引出路63pのうち凸となる各部分で屈曲変形されることになり、これにより、ワイヤー86に対して引出抵抗が付与される。
【0111】
また、突部分63b、63dと外周壁部63wとの間にはワイヤー86を配設可能な隙間が形成されている。さらに、円板状部63のうち巻取ドラム30側の面であって外周壁部63wの内周側には、ワイヤー86を円弧状の経路に沿って案内すべく、複数の案内突起部63fが形成されている。そして、ワイヤー86が、上記引出路63pを通って外周壁部63wの内周側を通過するように案内されるようになっている。
【0112】
勿論、引出路63pの形状は上記例に限られず、屈曲部分を設け、或は、狭隘な部分を設ける等して、ワイヤー86に抵抗を付与しつつ引出すことができる形状であればよい。
【0113】
ワイヤー86の一端部は、上記のように、巻取ドラム30の筒部37に相対回転不能に取付けられており、ワイヤー86の長手方向中間部及びそれよりも他端側部分は、上記引出路63pを通過可能な状態でラチェットギヤ61に組込まれている。そして、巻取ドラム30とラチェットギヤ61とが相対回転することで、ワイヤー86が引出路63pを通過して引出抵抗が付与され、これにより、ウエビング12の引出荷重を発生させるようになっている。
【0114】
より具体的には、ワイヤー86は、スチール材等で形成された線状部材であり、その一端部が曲げられて上記巻取ドラム30の筒部37に嵌め込み固定されている。また、ワイヤー86の長手方向中間部は、上記引出路63pに沿って配設可能なように曲げられた状態で当該引出路63pに配設されている。ワイヤー86のうち上記一端部と上記長手方向中間部との間の部分は、環状に曲げられて、筒部37の外周に1周程度巻付けられている。また、ワイヤー86のうち上記長手方向中間部よりも他端側部分は、渦巻状に曲げられており、上記複数の案内突起部63f間に形成される弧状の経路、外周壁部63wと突部分63b、63d又は案内突起部63fの間に形成される弧状の経路を通って、外周壁部63wの内周側に沿って、1回以上(ここでは1回半程度)の円を描くように、配設される。そして、巻取ドラム30の筒部37をラチェットギヤ61の筒部62に嵌め込むようにして、巻取ドラム30とラチェットギヤ61とを合体させることで、ワイヤー86の一端側が巻取ドラム30に相対回転不能に固定されると共に、その長手方向中間部が引出路63pに配設された状態で、ワイヤー86が巻取ドラム30の一方側面とラチェットギヤ61の円板状部63との間に配設される。
【0115】
なお、巻取ドラム側に、一定範囲内で回転可能な中間部材が取付けられ、ワイヤーの一端部が当該中間部材に取付けられていてもよい。これにより、ワイヤーの引出開始タイミングを遅らせることができる。また、巻取ドラム側にワイヤーに対して引出抵抗を付与する経路が形成され、ワイヤーがラチェットギヤ側に相対回転不能に連結されていてもよい。この場合には、ラチェットギヤ側に上記中間部材が取付けられていてもよい。
【0116】
このワイヤー式引出荷重発生機構80の引出荷重発生動作について説明する。
【0117】
まず、待機状態では、
図13に示すように、ワイヤー86の一端部が巻取ドラム30に対して相対回転不能に取付けられ、ワイヤー86の長手方向中間部及び他端部が、筒部37の周りで渦巻き状に配設されている。ワイヤー86の長手方向中間部は、引出路63pに沿って波打つように曲った状態で配設されている。
【0118】
車両の衝突等によって急激な加速(減速)が生じた場合、上記プリテンショナー機構40によってウエビング12の巻取方向へ巻取ドラム30が回転すると共に、ロック機構60によってウエビング12の引出方向へのラチェットギヤ61の回転が規制される。
【0119】
車両衝突等が生じた場合には、慣性力によって乗員が車両に対して相対的に前に移動しようとするので、ウエビング12には大きな引出力が作用する。
【0120】
ウエビング12の引出力によって、ラチェットギヤ61に対して、巻取ドラム30がウエビング12の引出方向に相対回転すると、ワイヤー86の長手方向中間部が引出路63pに沿って引出されることになる。すると、ワイヤー86の長手方向中間部及び他端部が引出路63pにおいて引出抵抗を付与されつつ引出される。これにより、ウエビング12の引出荷重が発生する。そして、ワイヤー86が引出路63pから完全に引出されると、ワイヤー86による引出荷重の生成動作が終了し、筒部37に巻付けられた状態となる(
図14参照)。
【0121】
なお、ワイヤー86の断面形状(長手方向に対して直交する面における断面形状)は、筒部37に複数回巻付けられやすいように、巻付けられた際にワイヤー86同士が面接触する偏平な形状であることが好ましい。例えば、ワイヤー86としては、細帯状のものを用いるとよい。
【0122】
なお、ワイヤー86の引出抵抗によるウエビング12の引出荷重の発生期間は、ワイヤー86の長さに依存する。すなわち、引出路63pに沿って移動可能なワイヤー86の長さ寸法を長くすれば、ワイヤー86の引出抵抗によるウエビング12の引出荷重の発生期間を長くできる。ここでは、ラチェットギヤ61に対して巻取ドラム30が2周弱程度回転する期間中、ワイヤー86の引出抵抗によってウエビング12の引出荷重を発生させている。ワイヤー86の長さ寸法は、好ましいとされる引出荷重の発生態様に合わせて適宜調整すればよい。
【0123】
なお、ワイヤー式引出荷重発生機構80は、省略されてもよい。また、トーションバー式引出荷重発生機構90とは別に設けられる衝撃吸収機構としては、上記ワイヤー86を用いたワイヤー式引出荷重発生機構80とは別の構成を採用してもよい。
【0124】
<トーションバー式荷重発生機構>
図15はトーションバー38及び拘束機構92を示す斜視図であり、
図16はトーションバー38及び拘束機構92を示す断面図であり、
図17は拘束機構92を示す分解断面図である。
【0125】
図3、
図10〜
図12、
図15〜
図17に示すように、トーションバー式引出荷重発生機構90は、巻取ドラム30とラチェットギヤ61との相対回転によりトーションバー38をねじれ変形させ、そのねじれ変形に要する力によってウエビング12の引出荷重を発生させる機構である。ここでは、巻取ドラム30とトーションバー38との間に、拘束機構92を設けることによって、巻取ドラム30とラチェットギヤ61との相対回転の開始より遅れて、トーションバー38をねじれ変形を開始するようにしている。
【0126】
より具体的には、中継部材としてのトーションバー38は、ねじれ変形可能な金属材料等で形成された部材であり、巻取ドラム30の軸孔部36内に配設可能な棒状形状、ここでは、軸孔部36の内径よりも小さい外形の丸棒状に形成されている。また、トーションバー38の長さ寸法は、軸孔部36の長さ寸法よりも小さい。
【0127】
トーションバー38の一端部38aは、ラチェットギヤ61に相対回転不能に取付けられている。ここでは、トーションバー38の一端部38aを、その軸方向に対して直交する面における横断面が非円形形状を呈する形状(ここではスプライン形状)に形成し、この他端部38bが、ラチェットギヤ61に形成された上記嵌合穴62aに相対回転不能な態様で嵌め込まれている。
【0128】
トーションバー38の他端部38bには、拘束機構92が取付けられている。ここでは、トーションバー38の他端部38bに、その軸方向に直交する面における横断面が非円形状を呈する嵌合穴38bhを形成し、この嵌合穴38bhを利用して次述するように拘束機構92が取付けられている。
【0129】
拘束機構92は、巻取ドラム30とトーションバー38の他端部38bとの間に設けられ、巻取ドラム30とトーションバー38とが所定量相対回転する前の状態では巻取ドラム30とトーションバー38との相対回転を許容すると共に、巻取ドラム30とトーションバー38とが所定量相対回転した後に、巻取ドラム30とトーションバー38とを相対回転不能に拘束するように構成されている。
【0130】
すなわち、拘束機構92は、軸部材94と、リング部材96とを備える。
【0131】
軸部材94は上記トーションバー38の他端部38bに相対回転不能に設けられている。リング部材96は、軸部材94に外嵌め可能に構成されており、巻取ドラム30に相対回転不能に設けられている。また、リング部材96は、可動部として、巻取ドラム30の回転軸方向に沿って移動可能とされている。そして、軸部材94とリング部材96とが相対回転すると、その相対回転運動が、リング部材96を前記回転軸方向に沿って移動させる運動に変換され、これにより、リング部材96が前記回転軸方向に移動する。このリング部材96の前記回転軸方向の移動量が所定量を超えると、規制部94bを含む軸部材94によって当該移動が規制され、もって、軸部材94とリング部材96との相対回転が規制され、巻取ドラム30とトーションバー38とが相対回転不能に結合される。
【0132】
より具体的には、軸部材94は、丸棒状に形成されている。軸部材94の一端部94aは、その軸方向に直交する面における横断面が非円形状を呈する形状に形成され、上記トーションバー38の他端部の嵌合穴38bhに相対回転不能な状態で嵌め込まれている。また、軸部材94の長手方向中間部は、その両端部よりも外径が大きい規制部94bに形成されている。この規制部94bは、後述するように、軸部材94とリング部材96との相対回転が所定量を超えると、軸部材94とリング部材96との巻取ドラム30の回転軸方向に沿った相対移動を規制する役割を果す。さらに、軸部材94の他端部は、雄ねじ部分94cに形成されている。
【0133】
また、リング部材96は、上記軸部材94の雄ねじ部分94cに外嵌め可能なリング状に形成されている。リング部材96の外周形状は、その軸方向に対して直交する面における横断面形状が非円形状(ここでは、複数の突条部分を有するスプライン形状)に形成されている。また、巻取ドラム30の軸孔部36の奥部には、上記リング部材96を相対回転不能かつその軸方向に沿って移動可能な状態で嵌め込み可能なように、上記リング部材96の外周形状に対応した形状を有する嵌込凹部36aが形成されている(
図12参照)。そして、リング部材96が、巻取ドラム30の軸孔部36の奥側の嵌込凹部36aに対して相対回転不能かつその軸方向に沿って移動可能に嵌め込まれる。
【0134】
このリング部材96の内周部は、上記雄ねじ部分94cを螺合可能な雌ねじ部分96aに形成されている。従って、リング部材96の雌ねじ部分96a内に、軸部材94の雄ねじ部分94cを螺合させた状態で、両者を相対回転させると、軸部材94とリング部材96とがその軸方向に沿って接近方向又は離れる方向に相対移動するようになる。ここでは、トーションバー38に対して、巻取ドラム30をウエビング12の引出方向に相対回転させることによって、トーションバー38側の軸部材94に対して巻取ドラム30側のリング部材96が相対回転し、これによって軸部材94に対してリング部材96が接近移動するようになっている。
【0135】
なお、軸部材が巻取ドラム側に相対回転不能に設けられ、リング部材がトーションバーに相対回転不能に設けられていてもよい。また、軸部材とリング部材との相対回転によって、軸部材が移動する構成であってもよく、また、リング部材と軸部材の双方が移動する構成であってもよい。また、軸部材とリング部材との少なくとも一方の前記回転軸方向の移動を規制する規制部は、軸部材及びリング部材の少なくとも一方に組込まれていてもよいし、他の部分に組込まれていてもよい。例えば、リング部材が軸部材から遠ざかる方向に移動し、リング部材が巻取ドラムの軸孔部の底に当接することによってその移動が規制されてもよい。この場合の規制部は巻取ドラムの軸孔部の底ということになる(後述する第4変形例参照)。
【0136】
また、ここでは、軸部材94とリング部材96とが相対回転する際、軸部材94とリング部材96との少なくとも一方が塑性変形しつつ、軸部材94とリング部材96とが前記回転軸方向に沿って相対移動するようになっている。
【0137】
より具体的には、軸部材94の雄ねじ部分94cのねじ山のピッチP1と、リング部材96の雌ねじ部分96aのねじ溝のピッチP2とが異なっている(
図16及び
図17参照)。ここでは、ねじ山のピッチP1に対して、ねじ溝のピッチP2が小さく設定されている。このため、軸部材94の雄ねじ部分94cとリング部材96の雌ねじ部分96aのねじ溝とを螺合させる際には、少なくとも一方を塑性変形させる必要がある。そして、その塑性変形に要する力が、軸部材94の雄ねじ部分94cとリング部材96の雌ねじ部分96aとを相対回転させるのに要する力、即ち、トーションバー38に対して巻取ドラム30を相対回転させるのに要する力となる。この力は、ウエビング12を引出す際に抵抗となって作用する力、即ち、ウエビング12の引出荷重の一部として作用する。
【0138】
なお、軸部材94とリング部材96とが相対回転する際、軸部材94とリング部材96との少なくとも一方を塑性変形させるためには、上記のようにねじ溝のピッチとねじ山のピッチを変える構成の他、ねじ山の高さ及び幅の一方をねじ溝の深さ及び幅の一方よりも大きくする構成等を採用してもよい。もっとも、軸部材94とリング部材96とが相対回転する際、軸部材94とリング部材96との少なくとも一方を塑性変形させることは必須ではない。
【0139】
待機状態においては、軸部材94の規制部94bと、リング部材96のうち軸部材94側の端部との間に隙間が設けられている。隙間は、軸部材94に対してリング部材96が1回転することによってリング部材96が回転軸方向に沿って移動する1ピッチ分の距離以上(例えば、3回転する程度の距離)であることが好ましい。これにより、トーションバー38に対して巻取ドラム30が1回以上相対回転することで、巻取ドラム30とトーションバー38とが拘束機構92を介して相対回転不能に連結されることになる。もっとも、前記隙間が、このように設定されていることは必須ではない。
【0140】
<動作>
本シートベルト用リトラクタ10の動作について、引出荷重発生機構の動作を中心に説明する。
【0141】
まず、待機状態では、ワイヤー式引出荷重発生機構80は、ワイヤー86の一端部が巻取ドラム30に対して相対回転不能に取付けられ、ワイヤー86の長手方向中間部及び他端部が筒部37の周りで渦巻き状に配設されている。また、ワイヤー86の長手方向中間部は、引出路63pに沿って配設されている。
【0142】
また、同待機状態では、トーションバー式引出荷重発生機構90は、上記したように、軸部材94の規制部94bと、リング部材96のうち軸部材94側の端部との間に隙間が設けられた状態となっている(
図12参照)。この状態では、好ましくは、リング部材96は、軸孔部36の嵌込凹部36aの底に接している。
【0143】
この待機状態では、ワイヤー86の上記配設構造によって、巻取ドラム30とラチェットギヤ61とは相対回転不能な状態となっている。
【0144】
上記待機状態において、車両の衝突等によって急激な加速(減速)が生じた場合、上記プリテンショナー機構40によってウエビング12の巻取方向へ巻取ドラム30が回転すると共に、ロック機構60によってウエビング12の引出方向へのラチェットギヤ61の回転が規制される。
【0145】
車両衝突等が生じた場合には、慣性力によって乗員が車両に対して相対的に前に移動しようとするので、ウエビング12には大きな引出力が作用する。
【0146】
すると、ワイヤー86の長手方向中間部及び他端部が引出路63pにおいて引出抵抗を付与されつつ引出され、これに伴い、ラチェットギヤ61に対して巻取ドラム30が回転し、ウエビング12が徐々に引出される。この際のワイヤー86の引出抵抗によって、ウエビング12を引出す際に抵抗となる引出荷重が発生し、衝撃エネルギーが吸収される。つまり、初期段階では、ワイヤー86の引出抵抗によって生じる引出荷重によって衝撃エネルギーが吸収される。ワイヤー86の引出抵抗によるウエビング12の引出荷重は、ワイヤー86の中間部及び他端部が引出路63pを通過し終えて完全に引出されてしまう迄、継続して発生する。
【0147】
ここで、トーションバー38及び軸部材94は、ラチェットギヤ61に相対回転不能とされており、リング部材96は巻取ドラム30に対して相対回転不能とされている。このため、ラチェットギヤ61に対して巻取ドラム30が回転すると、軸部材94に対してリング部材96が相対回転する。軸部材94に対してリング部材96が相対回転すると、リング部材96が軸部材94側に向けて近接移動し、リング部材96が軸部材94の規制部94bに当接する。これにより、軸部材94に対するリング部材96の前記回転軸方向における移動が規制され、軸部材94とリング部材96との相対回転も規制され、巻取ドラム30とトーションバー38とが相対回転不能に拘束される。すると、トーションバー38のうちラチェットギヤ61側の一端部38aと、巻取ドラム30側の他端部38bとの間で、トーションバー38がねじれる。このトーションバー38のねじれによって、ウエビング12を引出す際に抵抗となる引出荷重が発生し、衝撃エネルギーが吸収される。
【0148】
なお、初期段階において、軸部材94に対してリング部材96が相対回転する際、軸部材94の雄ねじ部分94cとリング部材96の雌ねじ部分96aの少なくとも一方が塑性変形するので、軸部材94とリング部材96とを相対回転させるのに要する力も、初期段階においてウエビング12の引出荷重として作用する。
【0149】
上記トーションバー38による引出荷重の発生開始タイミングは、上記ワイヤー86による引出荷重発生中であることが好ましい。すなわち、ワイヤー86が引出路63pから完全に引出されてしまう迄に、軸部材94の規制部94bとリング部材96とが当接し、トーションバー38のねじれが開始することが好ましい。本実施形態においても、上記のように設定されているという前提で説明する。これにより、上記初期段階経過後においては、トーションバー38のねじれ変形によって生じる引出荷重とワイヤー86の引出抵抗による引出荷重とが合さって、ウエビング12の引出荷重が発生し、衝撃エネルギーが吸収される。
【0150】
上記タイミングの調整は、ワイヤー86の長さ(例えば、ワイヤー86の長さを十分に長くする)、待機状態における軸部材94の規制部94bとリング部材96との隙間の大きさ、それらのねじピッチ等を適宜設定することで、行うことができる。
【0151】
もっとも、ワイヤー86による引出荷重発生終了タイミングとトーションバー38による引出荷重の発生開始タイミングとが同時であってもよい。
【0152】
図18は引出荷重発生特性例を示す図である。上段のグラフは、引出荷重発生機構全体による引出荷重発生特性を示しており、中段のグラフは、ワイヤー式引出荷重発生機構80による引出荷重発生特性を示しており、下段のグラフは、トーションバー式引出荷重発生機構90及び拘束機構92による引出荷重発生特性を示している。各グラフの横軸はウエビング12の引出量を示しており、縦軸は引出荷重を示している。
【0153】
ワイヤー式引出荷重発生機構80は、ウエビング12の引出開始後、比較的早期の段階からある程度の引出荷重F1を発生させる。このワイヤー式引出荷重発生機構80による引出荷重F1は、ある程度継続して発生する(
図18の中段のグラフ参照)。
【0154】
また、ウエビング12の引出開始後、比較的早期の段階では、拘束機構92の軸部材94とリング部材96とが塑性変形しつつ相対移動することによっても引出荷重F2が発生する(
図18の下段のグラフ参照)。
【0155】
このため、ウエビング12の引出開始後、比較的早期の段階では、ワイヤー式引出荷重発生機構80による引出荷重F1に、拘束機構92による引出荷重F2が加重された引出加重(F1+F2)がウエビング12に作用する。
【0156】
そして、ウエビング12がある程度引出され、軸部材94の規制部94bとリング部材96とが、ウエビング引出量Lとなった時点で、当接すると、拘束機構92による引出加重F2が無くなり、代って、トーションバー38のねじれによる引出荷重F3が発生する。
【0157】
従って、ウエビング12の引出開始後、ウエビング12がある程度引出された段階では、ワイヤー式引出荷重発生機構80による引出荷重F1に、トーションバー38のねじれによる引出荷重F3が加重された引出荷重(F1+F3)がウエビング12に作用する。
【0158】
なお、ワイヤー86が引出路63pから抜出てしまうと、トーションバー38のねじれ変形のみによって衝撃吸収用の荷重が発生している状態になる。
【0159】
上記のように、トーションバー38のねじれ変形を遅らせることによって、初期段階では引出加重を比較的小さく、途中で引出加重を大きくするように、引出荷重を段階的に大きく設定することができる。
【0160】
どの段階でトーションバー38のねじれ変形を生じさせるかについては、衝撃エネルギーを効果的に吸収できるように、実験的経験的に決定される。
【0161】
以上のように構成されたシートベルト用リトラクタ10によると、拘束機構92は、巻取ドラム30とトーションバー38の他端部38bとの間に設けられ、それらが所定量相対回転する前の状態では巻取ドラム30とトーションバー38との相対回転を許容すると共に、それらが所定量相対回転した後には、巻取ドラム30とトーションバー38とを相対回転不能に拘束する構成とされている。このため、巻取ドラム30とトーションバー38とが所定量相対回転した後に、トーションバー38がねじれ変形する。このため、トーションバー38のねじれ変形によるウエビング12の引出荷重の発生動作の開始タイミングを遅らせて、ウエビング12の引出荷重発生動作のタイミングの自由度を向上させることができる。
【0162】
この点を、特許文献1との関係で説明すると、次のようになる。すなわち、特許文献1に開示の技術では、トーションバーの一端部がボビンに相対回転不能に連結され、トーションバーの他端部がロッキングデバイスに相対回転不能に連結された構成であるため、ロッキングデバイスに対するボビンの相対回転と同時にトーションバーによる衝撃エネルギー吸収動作がなされる。このため、トーションバーによるウエビング引出荷重発生動作のタイミングの設定自由度が低いという問題がある。
【0163】
これに対して、本シートベルト用リトラクタ10では、上記のように、トーションバー38のねじれ変形によるウエビング12の引出荷重の発生動作の開始タイミングを遅らせて、ウエビング12の引出荷重発生動作のタイミングの自由度を向上させることができる。
【0164】
かかる観点からすると、拘束機構92は、必ずしも上記軸部材94とリング部材96とを備えた構成である必要は無い。例えば、トーションバーの他端部がスプライン形状等の非円形断面形状に形成され、巻取ドラムの軸孔部の奥の凹部が、前記トーションバーの他端部を所定の回転範囲内でのみ回転を許容する非円形断面形状に形成された構成であってもよい。この場合、巻取ドラムとトーションバーとが1回相対回転する迄の間で、トーションバーのねじれ変形を遅らせることが可能となる。同様の構造が、トーションバーとラチェットギヤとの結合部分に適用されてもよい。
【0165】
もっとも、本実施形態に係るシートベルト用リトラクタ10では、拘束機構92は、巻取ドラム30とトーションバー38との相対回転に応じて巻取ドラム30の回転軸方向に沿って移動可能な可動部としてのリング部材96と、リング部材96の所定量以上の移動を規制する規制部94bとを含む。そして、規制部94bがリング部材96の移動を規制することで、巻取ドラム30とトーションバー38との所定量を超える相対回転を規制している。
【0166】
より具体的には、拘束機構92は、軸部材94と、軸部材94に外嵌め可能なリング部材96とを含み、軸部材94がトーションバー38に相対回転不能に設けられ、リング部材96が巻取ドラム30に相対回転不能に設けられ、リング部材96が可動部として巻取ドラム30の回転軸方向に沿って移動可能とされている。また、軸部材94とリング部材96とが相対回転すると、軸部材94とリング部材96とが前記回転軸方向に沿って相対移動可能とされている。そして、軸部材94とリング部材96との相対回転が所定量を超えると、規制部94bが軸部材94とリング部材96との前記回転軸方向に沿った相対移動を規制する。
【0167】
このため、巻取ドラム30とトーションバー38とが1回以上相対回転した後に、拘束機構92によってトーションバー38と巻取ドラム30とを相対回転不能に拘束して、トーションバー38によるウエビング12の引出荷重を発生させることができ、ウエビング12の引出荷重のタイミングの自由度をより向上させることができる。
【0168】
この点を、特許文献1〜3との関係で説明すると、次のようになる。すなわち、特許文献1に開示の技術では、抵抗部材とロッキングデバイス及びボビンの少なくとも一方の係合状態において設けられたあそびの範囲内でのみ、第2のエネルギー吸収機構によるエネルギー吸収の開始を遅らせることができるに過ぎない。また、特許文献2に開示の技術では、スプライン部とスプライン溝部との相互間に、空走回転領域を設けることにより、ロッキングベースに対して巻取ドラムが相対回転可能とされているため、第2のエネルギー吸収部材によるエネルギー吸収動作を大きく遅らせることはできない。また、特許文献3に開示の技術では、巻取ドラムと回転規制部材の他方に対して中間回転部材が所定量回転すると、巻取ドラムと回転規制部材の他方に対する中間回転部材の回転が規制され、第2衝撃吸収部材のエネルギー吸収動作を大きく遅らせることはできない。このように、特許文献1〜3では、巻取ドラムが1回転する範囲内で、ウエビング引出荷重発生動作のタイミングを遅らせることができるに過ぎず、ウエビング引出荷重発生動作のタイミングの自由度が低いという問題がある。
【0169】
そこで、上記のように、拘束機構92は、巻取ドラム30とトーションバー38との相対回転に応じて巻取ドラム30の回転軸方向に沿って移動可能な可動部としてのリング部材96と、リング部材96の所定量以上の移動を規制する規制部94bとを含み、規制部94bがリング部材96の移動を規制することで、巻取ドラム30とトーションバー38との所定量を超える相対回転を規制する構成とすることで、巻取ドラム30とトーションバー38とが1回以上相対回転した後に、拘束機構92によってトーションバー38と巻取ドラム30とを相対回転不能に拘束して、トーションバー38によるウエビング12の引出荷重を発生させることができ、ウエビング12の引出荷重のタイミングの自由度をより向上させることができる。
【0170】
かかる観点からすると、拘束機構92によって引出荷重の発生が遅らされる対象は、必ずしもトーションバー38である必要は無い。拘束機構は、ワイヤーによる衝撃吸収部材等、各種衝撃吸収部材としての中継部材と巻取ドラム又は回転規制部材との間に介在して、前記衝撃吸収部材による衝撃吸収動作を1回転分以上遅らせる構成として採用することができる。そして、この場合において、巻取ドラムから中継部材を経由して回転規制部材に至る部分のいずれかの部分に、上記のような拘束機構が設けられていればよい。
【0171】
また、拘束機構92の軸部材94は雄ねじ部分94cを含み、リング部材96は雄ねじ部分94cを螺合可能な雌ねじ部分96aを含むため、雄ねじ部分94cと雌ねじ部分96aとの螺合によって、軸部材94とリング部材96との相対回転によってそれらをより確実に前記回転軸方向に移動させることができる。
【0172】
また、上記実施形態においては、トーションバー38とは別体に形成された軸部材94がトーションバー38に取付けられている。このため、トーションバー38と軸部材94とを、それぞれの目的に適した材料で形成できる。例えば、軸部材94については、拘束機構92として巻取ドラム30とトーションバー38との相対回転を抑制する機能に適するように比較的硬い材料で形成し、トーションバー38については、適度なねじれ変形を生じさせることができるように、比較的柔らかい材料で形成することができる。
【0173】
また、軸部材94とリング部材96とが相対回転することで、それらの少なくとも一方が塑性変形しつつ、軸部材94とリング部材96とが前記回転軸方向に沿って相対移動するため、軸部材94とリング部材96との相対回転によってもウエビング12の引出荷重を発生させることができる。
【0174】
また、このシートベルト用リトラクタ10は、待機状態では巻取ドラム30とトーションバー38とを相対回転不能に連結し、巻取ドラム30に衝撃によるウエビング12の引出方向への力が加わると、引出加重を発生させつつ、巻取ドラム30とラチェットギヤ61との相対回転を許容する、衝撃吸収部材としてのワイヤー式引出荷重発生機構80を備えているため、より多様なウエビング引出荷重を発生させることができる。
【0175】
なお、ワイヤー式引出荷重発生機構80は必ずしも必要ではない。この場合であっても、例えば、ウエビング12の引出開始後、比較的早期の段階では、拘束機構92の軸部材94とリング部材96とが塑性変形しつつ相対移動することによる引出荷重を発生させ、ウエビング12の引出開始からある程度の期間経過した後は、トーションバー38のねじれ変形による引出荷重を発生させることで、引出荷重が段階的に大きくなる引出荷重特性を生じさせることができる。
【0176】
また、ワイヤー式引出荷重発生機構80によるウエビング12の引出荷重発生中に、トーションバー38によるウエビング12の引出荷重の発生が開始するように設定されているため、ワイヤー式引出荷重発生機構80による引出荷重に、トーションバー38による引出荷重を加重して、段階的にウエビング12の引出荷重を大きくすることができる。
【0177】
また、ワイヤー式引出荷重発生機構80は、巻取ドラム30とラチェットギヤ61との相対回転によって、変形しつつ引出されるワイヤー86を含むため、ワイヤー86の変形によってウエビング12の引出荷重を発生させることができる。特に、ワイヤー86を長く設定することによって、比較的長期間にわたって安定した引出荷重を発生させることができる。
【0178】
{変形例}
上記実施形態を前提として、各種変形例について説明する。
【0179】
まず、上記実施形態では、軸部材94とトーションバー38とが別体に形成された例で説明した。
【0180】
しかしながら、
図19に示す第1変形例のように、軸部材94に対応する軸部材部分194と、トーションバー38に対応するトーションバー部分138とが、棒状部材を適宜プレス、切削加工等することによって、一体形成されていてもよい。これにより、軸部材部分194とトーションバー部分138とを容易に製作することができることになる。
【0181】
もちろん、軸部材とリング部材との位置関係が逆である場合には、リング部材がトーションバーに一体形成されていてもよい。
【0182】
また、上記実施形態では、軸部材94に雄ねじ部分94cが形成され、リング部材96に雌ねじ部分96aが形成された例で説明したが、必ずしもこのような構成である必要は無い。
【0183】
例えば、
図20及び
図21に示す第2変形例のように、リング部材96に対応するリング部材296に、雌ねじ部分96aを形成する代りに、その内周周りの一部に、雄ねじ部分94cのねじ溝にその溝の延在方向に沿って移動可能な突部296cを形成してもよい。この場合、リング部材296と軸部材94とが相対回転すると、突部296cが雄ねじ部分94cのねじ溝に沿って移動する。これにより、リング部材296と軸部材94とがその軸方向に沿って相対移動して、リング部材296が規制部94bに当接し、リング部材296と軸部材94との軸方向における相対移動が規制される。これにより、リング部材296と軸部材94との相対回転が不能となり、巻取ドラム30とトーションバー38とが相対回転不能に拘束される。そして、トーションバー38のねじれ変形が開始するようになる。
【0184】
すなわち、巻取ドラム30とトーションバー38との相対回転に応じて、何らかの可動部を回転軸方向に沿って移動させるための構成としては、一方の部材に螺旋状の突起又は凹溝が形成され、他方の部材に前記突起を嵌め込み可能なガイド部又は前記凹溝に嵌め込み可能なガイド突起が形成され、一方の部材と他方の部材との相対回転によって、前記ガイド部又はガイド突起が螺旋状に移動することで、一方の部材と他方の部材とを回転軸方向に沿って移動させる構成を採用することができる。
【0185】
また、上記実施形態では、拘束機構92がトーションバー38と巻取ドラム30との間に介在する例で説明したが、必ずしも素の必要は無い。例えば、
図22に示す第3変形例のように、拘束機構92は、トーションバー38に対応するトーションバー338と、ラチェットギヤ61に対応するラチェットギヤ361との間に介在していてもよい。
【0186】
すなわち、この変形例では、トーションバー338の一端(
図22では左端)が巻取ドラム30の軸部材94の奥部に相対回転不能に連結されている。また、トーションバー338の他端(
図22では右端)に、拘束機構92が設けられている。ここでは、拘束機構92として、上記実施形態で説明したものと同様構成のものが用いられている。
【0187】
拘束機構92の軸部材94は、トーションバー338の他端に相対回転不能に連結されている。また、ラチェットギヤ361の巻取ドラム30側の中央部の筒部362の内周部は、リング部材296を相対回転不能かつ回転軸方向に沿って移動可能に嵌め込み可能な凹形状に形成されている。そして、リング部材96が当該筒部362内に相対回転不能かつ回転軸方向に沿って移動可能に嵌め込まれている。
【0188】
この第3変形例によると、巻取ドラム30とラチェットギヤ361とが相対回転すると、上記実施形態と同様に、軸部材94とリング部材96とが相対回転し、軸部材94とリング部材96とが回転軸方向に沿って移動する。そして、リング部材96がリング部材96の規制部94bに当接することで、軸部材94とリング部材96との相対回転が規制され、トーションバー38のねじれ変形が開始するようになる。
【0189】
本変形例においても、軸部材94とリング部材96との位置が入替えられてもよい。
【0190】
また、上記実施形態及び第3変形例では、拘束機構92の軸部材94及びリング部材96のうち巻取ドラム30又はラチェットギヤ361側に設けられた部材であるリング部材96を回転軸方向に沿って移動させる例で説明したが、必ずしもそのような構成である必要は無い。
【0191】
例えば、
図23〜
図25に示す第4変形例では、トーションバー38に対応するトーションバー438の一端部は、巻取ドラム30の軸孔部36の奥部に相対回転不能かつ回転軸方向に沿って移動可能に連結されている。また、トーションバー438の他端部には、軸部材94に対応する軸部材494が一体形成されている。軸部材494には、雄ねじ部分494cが形成されている。なお、トーションバー438と軸部材494とは別体に形成され、後から結合されたものであってもよい。
【0192】
また、ラチェットギヤ61に対応するラチェットギヤ461のうち巻取ドラム30側の中央部には、筒部62に代えて、リング部材96に対応するリング部材496が一体形成されている。リング部材496の内周部には、雄ねじ部分494cを螺合可能な雌ねじ部分496aが形成されている。
【0193】
この変形例では、待機状態においては、トーションバー438の一端部と巻取ドラム30の軸孔部36の奥側底面との間に隙間が設けられている。そして、巻取ドラム30側のトーションバー438とラチェットギヤ461側のリング部材496との相対回転によって、軸部材494とリング部材496とが相対回転すると、軸部材494及び当該軸部材494に一体形成されたトーションバー438とが、回転軸方向に沿ってリング部材496から離れる方向に移動する。そして、トーションバー438の一端部が巻取ドラム30の軸孔部36の奥側の底面に当接すると、軸部材494及びトーションバー438のそれ以上の移動を規制する。すなわち、本変形例では、トーションバー438の軸孔部36の奥側の底面が、軸部材494及びトーションバー438の回転軸方向の移動を規制する規制部494bとして機能する。従って、軸部材又はリング部材の移動を規制する部材は、軸部材又はリング部材に直接当接してそれらの移動を規制する必要は無く、それらと共に移動する部材に当接することによって、軸部材又はリング部材の移動を規制する構成であってもよい。
【0194】
軸部材494及びトーションバー438の移動が規制されると、軸部材494とリング部材496との相対回転が規制される。これにより、トーションバー438の一端部が巻取ドラム30に相対回転不能に連結され、トーションバー438の他端部が拘束機構492を介してラチェットギヤ461に相対回転不能に連結された状態となり、ラチェットギヤ461に対する巻取ドラム30の相対回転によってトーションバー438がねじれ変形する。これにより、上記実施形態と同様に、ラチェットギヤ461に対する巻取ドラム30の相対回転開始から遅れたタイミングで、ウエビング12の引出荷重を発生させることができる。
【0195】
もちろん、本変形例においても、軸部材494とリング部材496とは、逆の位置関係で設けられていてもよい。また、拘束機構がトーションバーと巻取ドラムとの間に設けられた場合であっても、本変形例と同様に、軸部材とリング部材との相対回転によって、それら離れる方向に移動させて、トーションバーをラチェットギヤ側に当接させて、それらの相対回転を規制するようにしてもよい。
【0196】
また、軸部材494とリング部材496とが相対回転すると、軸部材494及び当該軸部材494に一体形成されたトーションバー438とが、回転軸方向に沿ってリング部材496に近接する方向に移動してもよい。この場合、軸部材494が、リング部材496が設けられたラチェットギヤ461に当接すると、軸部材494及びトーションバー438のそれ以上の移動が規制され、トーションバー438とラチェットギヤ461との相対回転が規制される。
【0197】
なお、上記実施形態及び各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組合わせることができる。
【0198】
以上のようにこの発明は詳細に説明されたが、上記した説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。