(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1記載のセラミックデバイスに於いて、前記検査手段は、前記検査電流供給源として、前記セラミック素子に定電流源又は定電圧源を接続して所定の検査電流を前記デンドライトに流して溶断可能とすることを特徴とするセラミックデバイス。
請求項1記載のセラミックデバイスに於いて、前記検査手段は、所定の検査周期毎に、前記セラミック素子の抵抗を測定し、当該測定抵抗がマイグレーションにより成長したデンドライトによる電極間短絡が想定される所定値以下となった場合に、前記検査電流供給源を前記セラミック素子に所定時間だけ接続することを特徴とするセラミックデバイス。
請求項1乃至5の何れかに記載のセラミックデバイスに於いて、前記デンドライトを溶断するために流す前記検査電流を100マイクロアンペア以上としたことを特徴とするセラミックデバイス。
誘電体セラミックの両側に電極を配置したセラミック素子を備え、前記セラミック素子に所定の動作電圧を印加することにより動作するセラミックデバイスの検査方法に於いて、
所定の検査周期毎に、前記動作電圧を印加していない所定のタイミングで、所定の検査電流を供給可能な検査電流供給源を前記セラミック素子に所定時間だけ接続して所定の検査電圧を印加し、絶縁状態が維持されていた場合は、前記検査電流が流れず、前記誘電体セラミックの割れ目を通ってマイグレーションにより成長したデンドライトが電極間を接続していた場合は、前記検査電流供給源から前記デンドライトに前記検査電流が流れて、当該デンドライトを自己発熱により溶断させることを特徴とするセラミックデバイスの検査方法。
請求項7記載のセラミックデバイスの検査方法に於いて、前記検査電流供給源として、前記セラミック素子に定電流源又は定電圧源を接続して所定の検査電流を前記デンドライトに流して溶断可能とすることを特徴とするセラミックデバイスの検査方法。
請求項7記載のセラミックデバイスの検査方法に於いて、所定の検査周期毎に、前記セラミック素子の抵抗を測定し、当該測定抵抗がマイグレーションにより成長したデンドライトによる電極間短絡が想定される所定値以下となった場合に、前記検査電流供給源を前記セラミック素子に所定時間だけ接続することを特徴とするセラミックデバイスの検査方法。
請求項7乃至11の何れかに記載のセラミックデバイスの検査方法に於いて、前記デンドライトを溶断するために流す前記検査電流を100マイクロアンペア以上としたことを特徴とするセラミックデバイスの検査方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、薄板の誘電体セラミックの両側に電極を配置した構造のセラミック素子は、強度が小さくなることから、場合によっては誘電体セラミックに小さなクラックを生じる事がある。このクラックが内在した状態でセラミック素子を使用すると、印加電圧と大気中の湿度の相乗作用によって銀等の電極金属からマイグレーション(イオンマイグレーション)が発生し、電流リーク(電流が漏洩する現象)による動作不良に至る場合がある。
【0006】
マイグレーションは、湿度雰囲気下での直流電圧の印加による電界の作用により、プラス側の電極金属となる例えば銀がイオン化し、マイナス電極側に移動していくことにより、マイナス電極で金属分子として堆積していき、次第に樹状にマイナス電極からプラス電極に向かって架橋が進む現象である。この樹状の架橋をデンドライトと呼ぶ。最終的にはプラス電極とマイナス電極はデンドライトにより接続され、絶縁抵抗が減少し、セラミック素子は機能不全に至る。
【0007】
本発明は、セラミック素子にマイグレーションによる電流リークが発生するまでの期間を延ばすことを可能とするセラミックデバイス及びその検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(装置)
本発明は、誘電体セラミックの両側に電極を配置したセラミック素子を備え、セラミック素子に所定の動作電圧を印加することにより動作するセラミックデバイスに於いて、
所定の検査周期毎に、動作電圧を印加していない所定のタイミングで、所定の検査電流を供給可能な検査電流供給源をセラミック素子に所定時間だけ接続し
て所定の検査電圧を印加し、絶縁状態が維持されていた場合は、検査電流が流れず、誘電体セラミックの割れ目(クラック)を通ってマイグレーションにより成長したデンドライトが電極間を接続していた場合
は、デンドライトに検査電流
が流れて、当該デンドライトを自己発熱により溶断させる検査手段を設けたことを特徴とする。
【0009】
(定電流源又は定電圧源)
検査手段は、検査電流供給源として、セラミック素子に定電流源又は定電圧源を接続して所定の検査電流をデンドライトに流して溶断可能とする。
【0010】
(センサとしての動作)
セラミック素子をセンサとして動作する場合、セラミック素子に、所定のセンサ周期毎に、所定のセンサ動作電圧を印加することにより所定のセンサ情報を検知するセンサ動作手段を設け、
検査手段は、センサ周期より長い前記検査周期毎に、センサ動作電圧を印加していない所定のタイミングで、検査電流供給源を前記セラミック素子に所定時間だけ接続する。
【0011】
(音響源としての動作)
セラミック素子を音響源として動作する場合、セラミック素子に音響駆動電圧を印加する音響駆動手段を設け、
検査手段は、所定の検査周期毎に、音響駆動電圧を印加していない所定のタイミングで、検査電流供給源をセラミック素子に所定時間だけ接続する。
【0012】
(抵抗測定)
検査手段は、所定の検査周期毎に、セラミック素子の抵抗を測定し、当該測定抵抗がマイグレーションにより成長したデンドライトによる電極間短絡が想定される所定値以下となった場合に、検査電流供給源をセラミック素子に所定時間だけ接続する。
【0013】
(検査電流の値)
セラミックデバイスに於いて、デンドライトを溶断するために流す検査電流を100マイクロアンペア以上とする。
【0014】
(方法)
本発明は、誘電体セラミックの両側に電極を配置したセラミック素子を備え、セラミック素子に所定の動作電圧を印加することにより動作するセラミックデバイスの検査方法に於いて、
所定の検査周期毎に、動作電圧を印加していない所定のタイミングで、所定の検査電流を供給可能な検査電流供給源をセラミック素子に所定時間だけ接続し
て所定の検査電圧を印加し、絶縁状態が維持されていた場合は、検査電流が流れず、記誘電体セラミックの割れ目を通ってマイグレーションにより成長したデンドライトが電極間を接続していた場合
は、検査電流供給源からデンドライトに検査電流
が流れて、当該デンドライトを自己発熱により溶断させることを特徴とする。
【0015】
なお、セラミックデバイスの検査方法における他の特徴は、前述したセラミックデバイスの場合と基本的に同じになる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、誘電体セラミックの両側に電極を配置したセラミック素子を備え、セラミック素子に所定の動作電圧を印加することによりセンサ又は音響源等として動作するセラミックデバイスに於いて、動作電圧を印加していない所定のタイミングで、所定の検査電流を供給可能な検査電流供給源をセラミック素子に所定時間だけ接続し、誘電体セラミックの割れ目を通ってマイグレーションにより成長したデンドライトが電極間を接続していた場合、デンドライトに検査電流を流して自己発熱により溶断させる検査手段を設けるようにしたため、マイグレーションにより電極間のショートを引き起こすまでデンドライトが成長した場合、検査電流によりデンドライトを自己加熱で溶断して電流リークを抑止し、セラミックデバイスの正常動作を保つことができる。
【0017】
また、検査電流によりデンドライトを溶断した後も、デンドライトは再び発生して成長し、検査電流による溶断と成長を繰り返すうちにデンドライトは検査電流により溶断不能となる程に太くなることがあり得るが、それまでの時間は検査電流を流さない場合よりも遙かに長く、電流リークにより機能不全となるまでの時間を実質的にセラミックデバイスの寿命に影響しない程に長くすることが可能となる。
【0018】
また、検査電圧の印加は、センサ又は音響源として動作するセラミック素子の動作タイミングとは別のタイミングで印加しており、センサとしての測定動作や音響源としての動作に影響を及ぼすことがない。
【0019】
また、マイグレーションによるデンドライトが電極間を短絡するに至るほど成長しておらず、セラミックデバイスの動作に影響をおよぼさない段階では、セラミック素子は絶縁状態を維持し、検査周期毎に検査電流を流すために検査電圧を間欠的に印加しても、検査電圧の印加による電流は発生せず、無駄な電力消費は起こらない。例えばセラミック素子は正常状態での抵抗値は100MΩ以上を示し、例えば検査電圧10Vの場合、セラミック素子での漏れ電流は0.1μA以下となり、検査電流を流すために間欠的に検査電圧を印加していても無駄な電力消費は起こらない。
【0020】
また、所定の検査周期毎に、セラミック素子の抵抗を測定し、当該測定抵抗がマイグレーションにより成長したデンドライトによる電極間短絡が想定される所定値以下となった場合に、検査電流供給手段をセラミック素子に所定時間だけ接続するようにしたため、電極間のショートを引き起こすまでデンドライトが成長を検知したタイミングで検査電流を流して確実にデンドライトを溶断し、電流リークを抑止してセラミックデバイスの正常動作を保つことができる。この場合、デンドライトによる電極間短絡が想定される抵抗値は例えば100MΩ以下を目安とすることで、電極間のショートを引き起こすまで成長したデンドライトを検知可能とする。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[センサ装置]
(センサ装置の概要)
図1はセンサ装置として動作するセラミックデバイスの機能構成の概略を示したブロック図である。
【0023】
図1に示すように、センサ装置10は、セラミック素子12、センサ動作手段として機能するセンサ動作部14、検査電流供給源16を備えた検査手段として機能する検査部15及び制御部18を備える。
【0024】
セラミック素子12は、誘電体セラミックの両側に電極を配置した構造であり、本実施形態にあっては、温度センサとして動作する。
【0025】
センサ動作部
14は、セラミック素子12の誘電率が周囲温度に応じて変化する特性を利用し、所定のセンサ周期毎に、セラミック素子12にセンサ動作電圧を印加し、誘電体セラミック20の温度変化に応じた誘電率変化を電気信号として制御部18へ出力する。
【0026】
検査部15は、センサ周期より長い所定の検査周期毎に、センサ動作部14からセンサ動作電圧を印加していない所定のタイミングで、所定の検査電流を供給可能な検査電流供給源16をセラミック素子12に所定時間だけ接続し、誘電体セラミックのクラック(割れ目)を通ってマイグレーションにより成長したデンドライトが電極間を接続していた場合、デンドライトに検査電流供給源16から検査電流を流して自己発熱により溶断させる。
【0027】
検査部15に設けた検査電流供給源16は、定電流源又は定電圧源であり、検査周期毎に、センサ動作部14からセンサ動作電圧を印加していない所定のタイミングで定電流源又は定電圧源をセラミック素子12に一定時間だけ接続して所定の検査電流をデンドライトに流して溶断可能とする。
【0028】
制御部18は、センサ動作部14から出力された誘電体セラミック20の温度変化に応じた誘電率変化を示す電気信号に基づき、例えば温度を検知して温度検知信号を外部に出力する。また、制御部18は、センサ周期より長い所定の検査周期毎に、センサ動作電圧を印加していない所定のタイミングで検査部15を制御して検査動作を行わせる。
【0029】
(セラミック素子の構造)
図2はセラミック素子の実施形態を示した説明図であり、
図2(A)は側面を示し、
図2(B)は平面を示す。
【0030】
図2に示すように、セラミック素子12は、誘電体セラミック20、プラス電極22、マイナス電極24、保護板26、リード線28,30を備えている。
【0031】
誘電体セラミック20は、外部から電圧が加わると、電気分極する物体であり、略円板状体として形成されており、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、又は亜鉛ニオブ酸鉛(PZN)とチタンジルコン酸鉛とを組み合わせたものを含むセラミック等の比較的高い誘電率、例えば比誘電率が2000程度を有する材料にて形成されている。また、誘電体セラミック
20は、例えば、熱応答性を高めるために、薄板状に形成されている。例えば、誘電体セラミック20の直径=30mmとした場合に、厚さ=50μm程度に設定される。
【0032】
プラス電極22及びマイナス電極24
を、
図1に示したセンサ動作部14の回路
とリード線28,30で電気的に接続することにより、誘電体セラミック20の温度変化に応じた誘電率変化を電気信号として外部へ取り出す。
【0033】
また、プラス電極22及びマイナス電極24は、例えば銀、白金、銅等の導電性材料にて形成された略円板状体であり、誘電体セラミック20における図示で上下となる面の一方と他方に設けられている。ここで、プラス電極22及びマイナス電極24の形成方法は任意であるが、例えば誘電体セラミック20の上下となる面に対してペースト状とした金属をスクリーン印刷することによって形成される方法が該当する。また、プラス電極22の平面形状は、誘電体セラミック20の平面形状よりも小さくし、またマイナス電極24の平面形状は、誘電体セラミック20の平面形状と略同一としている。
【0034】
マイナス電極24の外側の面には誘電体セラミック20を補強する保護板26を接着固定している。保護板26は、例えば、ニッケルと鉄とを組み合わせた合金や真鍮等の金属材料にて形成された略円板状体であり、マイナス電極24の全体を覆うように接着され、この場合、マイナス電極24の外側の面には、製造時の誤差等によって、多数の突起部分が存在するため、保護板26は間に接着層があっても、マイナス電極24の外側の面の突起部分が保護板26に多点接触することで、電気的に接続されている。
【0035】
マイナス電極24と保護板26とを固着する接着材としては、例えば、ウレタン系接着剤等の比較的低い誘電率、例えば、誘電体セラミック20の比誘電率が2000程度の場合に、比誘電率が5程度の非導電性接着剤を使用している。
【0036】
また、保護板26の厚さについては、その熱膨張係数がセラミックに近いものから材料選択し、強度確保の観点と熱応答の観点からバランスを考慮して決定する。
【0037】
プラス電極
22にはリード線28がハンダ28aにより接続され、また、保護板26にはリード線30がハンダ30aにより接続され、リード線30は保護板26を介してマイナス電極24と電気的に接続されている。
【0038】
(検査部の機能)
図3は、マイグレーションによるデンドライトの成長と検査電流によるデンドライドの溶断をセラミック素子の断面で示した説明図であり、
図3(A)はデンドライトの成長過程を示し、
図3(B)は電極間ショートを起こしたデンドライトの溶断を示し、
図3(C)は溶断した後のデンドライトの成長過程を示している。
【0039】
図2に示した構造のセラミック素子12に、
図1に示したセンサ動作部14からセンサ周期毎に、センサ動作電圧を印加し、誘電体セラミック20の温度変化に応じた誘電率変化を電気信号として制御部18へ出力するセンサ動作を行っている場合、
図3(A)に示すように、誘電体セラミック20に微小なクラック32が存在すると、プラス電極22とマイナス電極24の間に対するセンサ動作電圧Vaの印加に伴うマイグレーションにより、プラス電極22の電極金属となる例えば銀がイオン化して金属イオン34となり、金属イオン34がクラック32を通ってマイナス電極24側に移動していくことにより、マイナス電極24で金属分子として堆積してデンドライト36として成長を始め、次第に樹状にマイナス電極24からプラス電極
22に向かって架橋が進み、最終的にはプラス電極22とマイナス電極24はデンドライト36により接続され、絶縁抵抗が減少して電流リークを起こし、セラミック素子12は機能不全に陥る。
【0040】
これに対し
図2に示した検査部15は、センサ周期より長い所定の検査周期毎に、センサ動作電圧を印加していない所定のタイミングで、検査電流供給源16として例えば定電圧源を例えば1μsecといった短い所定時間だけセラミック素子12に接続し、センサ動作電圧より大きい所定の検査電圧Vbをセラミック素子12に所定時間だけ印加している。
【0041】
このとき
図3(B)に示すように、デンドライト36が成長して電極間をショートしていたとすると、検査電圧Vbの印加でデンドライト36に検査電流が流れ、デンドライト36はその抵抗による電力損失を受けて自己発熱し、このためデンドライト36が溶断38し、デンドライト36による電極間ショートが解消され、セラミック素子12が機能不全に陥ることを防止する。
【0042】
図3(
C)のように、プラス電極22とマイナス電極24の間に対するセンサ動作電圧Vaの印加に伴うマイグレーションにより、デンドライト36は再び成長を始め、成長したデンドライト36による電極間ショートが発生すると、
図3(B)のように、検査電流を流して溶断する動作を繰り返し、デンドライト36が太くなることで抵抗が低下し、所定の検査電流では溶断できなくなるまで、検査部15による電流リークの抑止が有効に機能する。
【0043】
ここで、デンドライト36が電極間ショートを起こすまでに成長する間、検査部15により間欠的にセラミック素子12に検査電圧Vbを印加していても、セラミック素子12は絶縁状態を維持しており、間欠的な検査電圧Vbにより発生する電流はごく僅かであり、無駄な電力損失は起きない。例えばセラミック素子12の正常状態での抵抗値は100MΩ以上を示し、検査電圧Vbを例えば10Vとした場合にセラミック素子12に流れる漏れ電流は0.1μA以下であり、電力損失は問題にならない。
【0044】
[検査電流によるデンドライトの溶断]
次に、マイクレーションにより電極間ショートを起こしたデンドライトの溶断に必要な検査電流について説明する。
【0045】
いまセラミック素子12の電極間ショートを起こしたデンドライトの形状を円柱と仮定すると、太さD、長さL、断面積S、体積V、質量VSとして次のようなモデル1を想定する。
太さ D=1(nm)=1.000E−09[m]
長さ L=1(μm)−1.000E−06[m]
断面積S=7.854E−01[nm2]=7.854E−19[m
2]
体積 V=7.854E−25[m
3]
質量 VS=8.239E−21[kg]
【0046】
また、電極を形成する銀の抵抗率ρ、沸点T、比熱Cp、比重γは次のようになる。
抵抗率ρ=2.080E−08 [(Ω・m)
沸点 T=2162[℃]
比熱Cp=235[J/kg・K]
比重 γ=10.49[g/cm
3]=10.49E3[kg/m
3]
これに基づきデンドライトの抵抗Rは、
R=ρL/s=26483.4[Ω]
となる。
【0047】
ここで、デンドライトに流れた検査電流は全て熱に変換され、且つ、デンドライトは熱絶縁されていると仮定し、
検査電流I=0.1[mA]=0.0001[A]
検査電流パルスt=1[μSec]−0.0000001[Sec]
とすると、
デンドライト両端電圧Va=2.6[V]
デンドライトの消費電力W=2.65E−04[w]
デンドライト発生エネルギーQ=2.648E−10[J]
が求まる。
【0048】
このためQ=2.648E−10[J]のエネルギーによるデンドライトの温度上昇ΔTは
ΔT=Q/(W・Cp)
=(16t・ρ・I
2)/(π
2・Cp・γ・D
4)=1.368E+08[K]
となる。
【0049】
このデンドライトの温度上昇ΔTは銀の融点T=2162℃に比べ十分に高く、デンドライトは溶断する。
【0050】
また、デンドライトのサイズを大きくしたその他の条件についてもモデル2〜6として検査電流に対する温度上昇を求めてみると次表のようになる。
【0052】
この表について、モデル1及びモデル2は、定電流0.1mA(=100μA)で1μsecのパルス駆動によりデンドライトの温度上昇ΔTが沸点T=2162℃以上になり、モデル3〜5は、定電流1mAで1μsecのパルス駆動によりデンドライトの温度上昇ΔTが沸点T=2162℃以上になり、更に、モデル6では、定電流1mAで10μsecのパルス駆動によりデンドライトの温度上昇ΔTが沸点T=2162℃以上になることを示している。
【0053】
セラミック素子のマイグレーションによる絶縁抵抗の低下は、モデル1のように、デンドライトの太さ1nmという極小の金属架橋の発生による電極間ショートの時点から始まるが、検査電流供給源から例えば一定の検査電流を流してデンドライトを瞬時に溶断し、セラミックを正常状態に保つ事ができる。また検査電流による溶断とマイグレーションによる成長を繰り返し次第に太くなるデンドライトであるが、モデル5のデンドライトは太さD=50nmであっても、定電流1mAで1μsecのパルス駆動により、溶断は可能であり、これを越えて成長するまで、正常動作を保つ事ができる。
【0054】
また
図2に示したセラミック素子12の誘電体セラミック20の厚さは50μm程度であり、これに相当する長さのデンドライトを検査電流を流して溶断する必要があり、これは前記表のモデル4に相当し、定電流1mAで1μsecのパルス駆動により流れる検査電流でデンドライトの温度上昇ΔTが沸点T=2162℃以上になり、瞬時に溶断することができる。
【0055】
ここで、デンドライトに検査電流供給源として定電流源を接続し、定電流駆動により一定の検査電流を流して溶断する場合を説明しているが、検査電流供給源として定電圧源を接続し、定電圧駆動により検査電流を流してデンドライトを溶断指定も良い。
【0056】
例えば、定電圧源から例えば10Vでの検査電圧を印加した場合、前記表のモデル1〜3,5の検査電圧Vbは10V以下であり、検査電圧10Vをセラミック素子12に印加した場合、デンドライトの抵抗Rにより流れる検査電流による発熱温度は十分に銀の沸点に達し、溶断することができる。
【0057】
またモデル4,6は、検査電圧10Vを印加した場合の検査電流Vbが0.757mA(=757μA)となり、この場合のデンドライトの温度上昇ΔTは、モデル4は7.84E+05、モデル6は7.84E+06となり、温度上昇ΔTが沸点T=2162℃以上になり、瞬時に溶断することができる。
【0058】
(センサ装置の実施形態)
図4は、センサ装置として動作するセラミックデバイスの実施形態を示した回路図である。
【0059】
図4に示すように、センサ装置10は、
図1の概略構成に示したように、セラミック素子12、センサ動作部14、検査部15及び制御部18を備える。
【0060】
センサ動作部14は、トランジスタ40と抵抗42をセラミック素子12に直列接続して充電回路を構成し、またセラミック素子12と並列に抵抗46とトランジスタ44の直列回路を接続して放電回路を構成する。
【0061】
また、セラミック素子12の両端電圧Vsはコンパレータ50のマイナス入力端子に入力され、コンパレータ50のプラス端子には抵抗52,54の分圧電圧が基準電圧Vthとして入力され、コンパレータ50はセラミック両端電圧Vsが基準電圧Vth未満の場合はLレベル出力を生じ、セラミック両端電圧Vsが基準電圧Vthに達するとHレベル出力を生ずる。
【0062】
検査部15は、検査電流供給源として定電圧源を備え、この定電圧源は、抵抗56とツェナーダイオード58を直列接続すると共にツェナーダイオード58にコンデンサ62を並列接続した定電圧回路を構成し、ツェナーダイオード58で決まる一定の検査電圧Vbを、例えばVb=10Vとしてコンデンサ62に充電し、トランジスタ60を介してセラミック素子12に検査電圧Vbを印加して検査電流を流すことを可能にしている。
【0063】
制御部18は、CPU、メモリ、各種入出力ポートを備えたコンピュータ回路等であり、所定のセンサ周期毎に、トランジスタ40のオンとトランジスタ44のオフによるセラミック素子12の充電と、トランジスタ44のオンとトランジスタ40のオフによるセラミック素子12の放電を繰り返す制御を行う。
【0064】
また、制御部18は、トランジスタ40,44の制御でセラミック素子12の充電と放電を行った場合、トランジスタ40,44の両方をオフするセンサ動作の休止期間を設け、これを繰り返す。
【0065】
また制御部18は、センサ周期より長い所定の検査周期毎に、センサ動作の休止期間のタイミングで、トランジスタ60をパルス的にオンして検査電圧をセラミック素子12に印加させる制御を検査部15に行わせる。
【0066】
次に
図4の実施形態の動作を説明する。制御部18は
センサ動作部14のトランジスタ40のベース端子に矩形パルスによる充電トリガ信号を与えてオンし、抵抗42を介してセラミック素子12に電流が流れ、セラミック素子12が充電される。このときトランジスタ44はオフしている。続いて、制御部
18は、センサ動作部
14のトランジスタ40をオフすると共にトランジスタ44のベース端子に矩形パルスの放電トリガ信号を与えてオンし、セラミック素子12の電荷を抵抗46及びトランジスタ44を介して放電する。
【0067】
トランジスタ40のオンによるセラミック素子12の充電により、コンパレータ50に入力するセラミック両端電圧Vsが上昇し、基準電圧Vthに達した場合に、コンパレータ50の出力がHレベルになる。
【0068】
制御部18は、セラミック素子12の充電開始からコンパレータ50の出力がHレベルになった時点までの経過時間を、セラミック素子12の充電時間として測定する。このセラミック素子12の充電時間は、セラミック素子12の誘電率にほぼ一意に対応しており、さらにこの誘電率はセラミック素子12の温度にほぼ一意に対応しているため、セラミック素子12の充電時間に基づいて温度を測定できる。
【0069】
検査部15は、制御部18からセンサ動作部14のトランジスタ40,44の両方をオフしたセンサ動作の休止期間のタイミングで、トランジスタ60のベース端子に検査トリガ信号を与えてパルス的にオンし、ツェナーダイオード58の両端に発生してコンデンサ62に充電している一定の検査電圧Vbをセラミック素子12に印加する。このとき
図3(B)に示したように、セラミック素子12でマイグレーションにより成長したデンドライトが電極間ショートを起こしていたとすると、検査電圧Vbの印加によりデンドライトに電流が流れ、自己発熱による溶断して電流リークを阻止する。
【0070】
なお、
図4の検査部15は、検査電流供給源として定電圧源を設けているが、定電流源としても良い。定電流源の場合には、セラミック素子12に印加する検査電圧を可変制御可能とし、セラミック素子12に流れる検査電流を一定電流に保つように検査電圧を可変させる定電流駆動制御を行う。このような定電流源は回路構成が複雑になることから、検査部15の検査電流旧急減としては、簡単な回路構成で済む定電圧源を使用することが望ましい。
【0071】
[音響装置]
(音響装置の概要)
図5は音響装置として動作するセラミックデバイスの機能構成の概略を示したブロック図である。
【0072】
図5に示すように、音響装置100は、セラミック素子102、音響駆動作手段として機能する音響駆動部104、検査電流供給源106を備えた検査手段として機能する検査部105及び制御部108を備える。
【0073】
セラミック素子102は、誘電体セラミックの両側に電極を配置した構造であり、
図2に示したと同じ構造となるが、保護板26については、その熱膨張係数がセラミックに近いものから材料選択し、強度確保の観点と音響特性の観点からバランスを考慮して決定する。
【0074】
音響駆動部104は、セラミック素子102を例えばスピーカとして使用する場合は、外部から入力した音響信号を増幅して駆動電圧を印加する。なお、セラミック素子102をブザーとして使用する場合は発振回路を設けて発振電圧を印加すれば良い。
【0075】
検査部
105は、所定の検査周期毎に、音響駆動部104から音響駆動電圧を印加していないタイミングで、所定の検査電流を供給可能な検査電流供給源106をセラミック素子102に所定時間だけ接続し、誘電体セラミックのクラック(割れ目)を通ってマイグレーションにより成長したデンドライトが電極間を接続していた場合、デンドライトに検査電流供給源106から検査電流を流して自己発熱により溶断させる。
【0076】
検査部105に設けた検査電流供給源106は、定電流源又は定電圧源であり、検査周期毎に、音響駆動部104から音響駆動電圧を印加していないタイミングで定電流源又は定電圧源をセラミック素子102に一定時間だけ接続して所定の検査電流をデンドライトに流して溶断可能とする。
【0077】
制御部108は、所定の検査周期毎に、音響駆動部104に外部から音響信号が供給されていないタイミングで検査部105を制御して検査動作を行わせる。
【0078】
(音響装置の実施形態)
図6は、音響装置として動作するセラミックデバイスの実施形態を示した回路図である。
【0079】
図6に示すように、音響装置100は、
図5の概略構成に示したように、セラミック素子102、音響駆動部104、検査部105及び制御部108を備える。
【0080】
音響駆動部104は、
音響増幅器110を備え、外部から入力した音響信号を増幅して音響駆動電圧をセラミック素子102に印加して音響出力を行わせる。
【0081】
検査部
105は、検査電流供給源として定電圧源を備え、この定電圧源は、抵抗112とツェナーダイオード114を直列接続すると共にツェナーダイオード114にコンデンサ116を並列接続した定電圧回路を構成し、ツェナーダイオード114で決まる一定の検査電圧Vbを、例えばVb=10Vとしてコンデンサ114に充電し、トランジスタ118を介してセラミック素子102に検査電圧Vbを印加して検査電流を流すことを可能にしている。
【0082】
制御部108は、CPU、メモリ、各種入出力ポートを備えたコンピュータ回路等であり、所定の検査周期毎に、音響駆動部104に外部からの音響信号の入力が停止しているタイミングで、トランジスタ118をパルス的にオンして検査電圧をセラミック素子102に印加させる制御を検査部105に行わせる。このときセラミック素子102でマイグレーションにより成長したデンドライトが電極間ショートを起こしていたとすると、検査電圧Vbの印加によりデンドライトに電流が流れ、自己発熱により溶断して電流リークを阻止し、セラミック素子102が機能不全に陥ることを防止する。
【0083】
[抵抗検出による検査動作の実施形態]
本発明によるセラミックデバイスの他の実施形態として、例えば
図1に示したセンサ装置10を例にとると、検査部15は、所定の検査周期毎に、セラミック素子12の抵抗Rを測定し、測定した抵抗Rがマイグレーションにより成長したデンドライトによる電極間短絡が想定される所定値以下、例えば100MΩ以下の所定値以下となった場合に、検査電圧Vbをセラミック素子12に所定時間だけ印加し、このときセラミック素子12でマイグレーションにより成長したデンドライトが電極間ショートを起こしていたとすると、検査電圧Vbの印加によりデンドライトに電流が流れ、自己発熱による溶断して電流リークを阻止し、セラミック素子12が機能不全に陥ることを防止する。
【0084】
この点は
図5に示した音響装置
100の場合も同様であり、検査部105は、所定の検査周期毎に、セラミック素子102の抵抗Rを測定し、測定した抵抗Rがマイグレーションにより成長したデンドライトによる電極間短絡が想定される所定値以下、例えば100MΩ以下の所定値以下となった場合に、検査電圧Vbをセラミック素子102に所定時間だけ印加し、このときセラミック素子102でマイグレーションにより成長したデンドライトが電極間ショートを起こしていたとすると、検査電圧Vbの印加によりデンドライトに電流が流れ、自己発熱による溶断して電流リークを阻止し、セラミック素子102が機能不全に陥ることを防止する。
【0085】
〔本発明の変形例〕
上記の実施形態は、センサ装置及び音響装置として動作するセラミックデバイスを例にとるものであったが、セラミック素子に構造が似ている電子デバイスにあっては、同様にマイグレーションによる絶縁不良がおきることがあり、本発明はそれらへの適用も可能である。
【0086】
例えば積層の誘電体セラミックを用いたセラミックコンデンサや圧電アクチュエータの駆動回路、セラミック素子を応用した焦電素子、セラミック素子の圧電性を応用した振動センサ、加速度センサ、圧力センサ等のセンサ素子及びMEMSセンサについて、同様に、検査部を設けて検査電流供給源を間欠的らセラミック素子に接続し、電極間をショートしたデンドライトに検査電流を流して溶断することで、マイグレーションによる絶縁不良を解消することができる。
【0087】
また、本発明は上記の実施形態に限定されず、その目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に上記の実施形態に示した数値による限定は受けない。