特許第6096583号(P6096583)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6096583樹脂処理顔料組成物の製造方法、及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6096583
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】樹脂処理顔料組成物の製造方法、及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C08F 293/00 20060101AFI20170306BHJP
   C09B 67/20 20060101ALI20170306BHJP
   C09B 67/46 20060101ALI20170306BHJP
   C09B 69/02 20060101ALI20170306BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
   C08F293/00
   C09B67/20 L
   C09B67/20 F
   C09B67/46 B
   C09B69/02
   C09D17/00
【請求項の数】3
【全頁数】48
(21)【出願番号】特願2013-91634(P2013-91634)
(22)【出願日】2013年4月24日
(65)【公開番号】特開2014-214207(P2014-214207A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2015年7月10日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度独立行政法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 産業技術力強化法第19条の適応を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100175787
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 龍也
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 博之
(72)【発明者】
【氏名】田儀 陽一
(72)【発明者】
【氏名】村上 賀一
(72)【発明者】
【氏名】青柳 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】荒井 一孝
(72)【発明者】
【氏名】吉川 幸男
【審査官】 大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/013651(WO,A1)
【文献】 特開2007−084659(JP,A)
【文献】 特開2013−203887(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 293/00
C09B 67/00
C09B 69/00
C09D 17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料100部に対し、下記のA−Bブロックコポリマーが10〜200部の範囲内で含有されてなる樹脂処理顔料組成物の製造方法であって、
スルホン酸基を有する界面活性剤にて分散された顔料を有する水系溶媒中で、
その分子中に、スルホン酸、スルホン酸アルカリ金属塩、スルホン酸アンモニウム塩およびスルホン酸アミン塩からなる群から選択される少なくとも1個以上の構造部分を有する有機色素と、
少なくともカルボキシ基を有するメタクリレートを構成成分としてなる(但し、構成成分としてアミノ基或いは第4級アンモニウム塩基を有するメタクリレートを含む場合を除く)Aのポリマーブロックと、下記一般式(2)で表される第4級アンモニウム塩のメタクリレートを構成成分としてなるCのポリマーブロックとからなるA−Cブロックコポリマーを
脱ハロゲン化水素又は脱ハロゲン化アルカリ金属塩又は脱ハロゲン化アンモニウム塩又は脱ハロゲン化アミン塩のいずれかの反応をさせて、
前記顔料を、
前記Aのポリマーブロックと、その構成単位として、メタクリレートからなる、下記一般式(1)で表される、4級アンモニウムの窒素カチオンの対イオンとして、1個以上のスルホン酸イオンが結合している色素からなるイオン結合部分を有してなるBのポリマーブロックとからなるA−Bブロックコポリマーにて処理され顔料にすることを特徴とする樹脂処理顔料組成物の製造方法。
[式(1)及び(2)中のXは有機基を表し、R1〜R3はそれぞれ独立に、C1〜C18のアルキル基及びベンジル基からなる群から選ばれるいずれかを表す。また、式(1)中のDは有機色素分子を表し、式(2)中のY-はハロゲンイオンを表す。]
【請求項2】
請求項に記載の樹脂処理顔料組成物の製造方法で得られた樹脂処理顔料組成物分散されてなることを特徴とする顔料分散体。
【請求項3】
請求項に記載の顔料分散体を、水、有機溶剤及び重合性モノマーからなる群から選択される少なくとも1種の分散媒体に分散させてなることを特徴とする顔料分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いずれか一方のポリマーブロックに色素骨格を存在させた新規なA−Bブロックコポリマー(以下、「色素ブロックコポリマー」又は「色素ポリマー」とも記す)およびその製造方法、その色素ブロックコポリマーにて処理された樹脂処理顔料組成物およびその製造方法、新規な着色剤として有用な、顔料と色素ブロックコポリマーとを含有してなる顔料分散体や顔料分散液に関する。
さらに詳しくは、本発明は、色素骨格を存在させたA−Bブロックコポリマーで処理した樹脂処理顔料とすることで、通常の顔料よりも、色相範囲の拡大、色濃度、発色性、透明性などの性能を向上させた顔料組成物であり、しかも、分散性、分散安定性、再溶解性、アルカリ溶解性などの、顔料を利用した着色剤に要求される特性に優れた樹脂処理顔料組成物を提供する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カラーフィルターに要求されている、高発色性、高透明性、高輝度を付与するために、顔料の微細化が進み、顔料は、非常に微粒子化されたものになってきているが、微細になり過ぎてその性質には限界が見られてきている。そこで、顔料と併用して高発色性、高透明性である染料が使用され、染料と顔料のハイブリッドを使用してなる顔料分散液が開発されている。一方、インクジェットインクにおいても、色表現範囲の拡大を目的として、顔料と併用して染料が使用されている
【0003】
しかしながら、カラーフィルター用とした場合、染料は分子として存在するために耐熱性に劣り、フィルターを形成する際の加熱によって、染料分子が揮発してしまう恐れがある。また油性のカラーフィルターの着色剤では、油性であるため、水溶性の染料を不溶化して塩を作成して溶媒に溶解させて使用したりしている。また、前記した耐熱性を上げるため、染料をポリマー骨格に導入して染料と顔料のハイブリッドとして使用している(特許文献1、2)。
【0004】
インクジェットインクにおいても、顔料に染料を併用すると、染料が選択的に紙に浸透してしまい希望する発色性が得られなかったり、特に水性のインクジェットでは水に可溶の染料を使用するため、乾燥後でも耐水性に劣り、水で濡らしてしまうと滲んだりしてしまう場合がある。そこで、その染料をポリマー骨格に導入して耐水性を上げたり、分散剤として使用する方法がとられている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−174100号公報
【特許文献2】特開2011−79895号公報
【特許文献3】国際公開第2007−089859号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、上記した従来技術における染料をポリマー骨格に導入して顔料と併用させた技術では、前記した染料をそのまま使用する際の問題に加えて、染料が導入されたポリマーは、着色剤としてのみ働くものであるので染料の導入量が限られて発色性等に問題があったり、また、その染料を導入したポリマーの溶解性に問題があるという場合もあった。また、染料が導入されたポリマーを使用してなる顔料分散液においては、顔料を分散させるための顔料分散剤が別途必要になる、という問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような現状下、本発明者らは鋭意研究を行った結果、新規なA−Bブロックコポリマー、及び該A−Bブロックコポリマーで処理された顔料である樹脂処理顔料組成物を開発して、上記の従来技術の課題を解決した。この樹脂処理顔料組成物は、特にカラーフィルター用やインクジェット用に好適な、色相の向上、耐熱性の向上、そのままで媒体中に分散でき且つ分散性に非常に優れた顔料であることを見出して、本発明を達成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の各発明を提供する。まず、下記の新規なA−Bブロックコポリマーを提供する。
(1)90質量%以上がメタクリレート系モノマーで構成されるA−Bブロックコポリマーであって、Aのポリマーブロックは、少なくともカルボキシ基を有するメタクリレートを構成成分としてなり(但し、構成成分としてアミノ基或いは第4級アンモニウム塩基を有するメタクリレートを含む場合を除く)、Bのポリマーブロックは、その構成単位として、メタクリレートからなる、下記一般式(1)で表される、4級アンモニウムの窒素カチオンの対イオンとして、1個以上のスルホン酸イオンが結合している色素からなるイオン結合部分を有してなることを特徴とするA−Bブロックコポリマー。
[式中のXは有機基を表し、R1〜R3はそれぞれ独立に、C1〜C18のアルキル基及びベンジル基からなる群から選ばれるいずれかを表す。また、式中のDは、有機色素分子を表す。]
【0009】
上記のA−Bブロックコポリマーの好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。
(2)前記一般式(1)で表される部分が、A−Bブロックコポリマー中に5〜40質量%の範囲で含有され、且つ、Bのポリマーブロック中に20〜80質量%の範囲で含有されてなる上記のA−Bブロックコポリマー。
【0010】
(3)前記Bのポリマーブロックが、前記Aのポリマーブロックと、下記一般式(2)で表される第4級アンモニウム塩のメタクリレートを構成成分としてなるCのポリマーブロックとからなるA−Cブロックコポリマーと、その分子中に、スルホン酸、スルホン酸アルカリ金属塩、スルホン酸アンモニウム塩及びスルホン酸アミン塩からなる群から選択される少なくとも1個以上の構造部分を有する有機色素を、脱ハロゲン化水素又は脱ハロゲン化アルカリ金属塩又は脱ハロゲン化アンモニウム塩又は脱ハロゲン化アミン塩のいずれかの反応をさせて得られたものである上記いずれかのA−Bブロックコポリマー。
[式中のXは有機基を表し、R1〜R3はそれぞれ独立に、C1〜C18のアルキル基及びベンジル基からなる群から選ばれるいずれかを表す。また、Y-は、ハロゲンイオンを表す。]
【0011】
(4)前記Aのポリマーブロックは、そのゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が3,000〜20,000で、その分子量の分布を示す分散度(重量平均分子量/数平均分子量)が1.5以下であり、且つ、その酸価が30〜250mgKOH/gである上記いずれかのA−Bブロックコポリマー。
【0012】
(5)重合開始化合物を使用するリビングラジカル重合を利用して得られたものである上記いずれかのA−Bブロックコポリマー。
(6)前記リビングラジカル重合において、前記重合開始化合物の使用量が、重合開始化合物1molに対し、Bを形成するモノマーの全モル数が10〜150molである上記(5)に記載のA−Bブロックコポリマー。
【0013】
本発明は、別の実施形態として、
(7)上記いずれかに記載のA−Bブロックコポリマーの製造方法であって、少なくとも、重合開始化合物と触媒との存在下、リビングラジカル重合する工程を有し、該工程で使用する重合開始化合物が、ヨウ素又はヨウ素化合物の少なくともいずれかであり、該工程で使用する触媒が、ハロゲン化リン、フォスファイト系化合物、フォスフィネート化合物、イミド系化合物、フェノール系化合物、ジフェニルメタン系化合物及びシクロペンタジエン系化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物であり、かつ、その重合温度が30〜50℃であることを特徴とするA−Bブロックコポリマーの製造方法を提供する。
【0014】
本発明は、別の実施形態として、
(8)顔料100部に対し、上記いずれかに記載のA−Bブロックコポリマーが10〜200部の範囲内で含有されてなることを特徴とする樹脂処理顔料組成物を提供する。
【0015】
さらに、本発明は、別の実施形態として上記樹脂処理顔料組成物の製造方法に関する下記の発明を提供する。
(9)上記の樹脂処理顔料組成物の製造方法であって、顔料の存在下、水系媒体にて、その分子中に、スルホン酸、スルホン酸アルカリ金属塩、スルホン酸アンモニウム塩およびスルホン酸アミン塩からなる群から選択される少なくとも1個以上の構造部分を有する有機色素と、少なくともカルボキシ基を有するメタクリレートを構成成分としてなる(但し、構成成分としてアミノ基或いは第4級アンモニウム塩基を有するメタクリレートを含む場合を除く)Aのポリマーブロックと、下記一般式(2)で表される第4級アンモニウム塩のメタクリレートを構成成分としてなるCのポリマーブロックとからなるA−Cブロックコポリマーを、脱ハロゲン化水素又は脱ハロゲン化アルカリ金属塩又は脱ハロゲン化アンモニウム塩又は脱ハロゲン化アミン塩のいずれかの反応をさせて、前記顔料を、前記Aのポリマーブロックと、その構成単位として、メタクリレートからなる、下記一般式(1)で表される、4級アンモニウムの窒素カチオンの対イオンとして、1個以上のスルホン酸イオンが結合している色素からなるイオン結合部分を有してなるBのポリマーブロックとからなるA−Bブロックコポリマーにて処理された顔料にすることを特徴とする樹脂処理顔料組成物の製造方法。
[式(1)及び(2)中のXは有機基を表し、R1〜R3はそれぞれ独立に、C1〜C18のアルキル基及びベンジル基からなる群から選ばれるいずれかを表す。また、式(1)中のDは有機色素分子を表し、式(2)中のY-はハロゲンイオンを表す。]
【0016】
さらに、その好ましい実施形態として以下の発明を提供する。
(10)スルホン酸基を有する界面活性剤にて分散された顔料を有する水系溶媒中で、前記有機色素と、前記A−Cブロックコポリマーを反応させて、A−Bブロックコポリマーにて処理される顔料にする上記の樹脂処理顔料組成物の製造方法。
【0017】
本発明は、別の実施形態として、下記の各発明を提供する。
(11)少なくとも、顔料と、上記のいずれかのA−Bブロックコポリマーとを含有してなることを特徴とする顔料分散体。
(12)上記のいずれかの樹脂処理顔料組成物の製造方法で得られた樹脂処理顔料組成物を分散してなることを特徴とする顔料分散体。
(13)上記(11)又は(12)に記載の顔料分散体を、水、有機溶剤及び重合性モノマーからなる群から選択される少なくとも1種の分散媒体に分散させてなることを特徴とする顔料分散液。
【発明の効果】
【0018】
以上の本発明によれば、本発明が提供する新規なA−Bブロックコポリマーにて処理された顔料を使用して得られる樹脂処理顔料組成物(着色剤)は、染料の発色性を兼ね備えた顔料及び顔料分散体とすることができ、水性の着色剤、特にインクジェットインク用の着色剤として使用した場合は、色相範囲の拡大、透明性やグロスの向上が期待でき、油性の着色剤、特にカラーフィルター用の着色剤に使用した場合は、高コントラスト性、高透明性、高耐熱性の付与が期待できる。また、本発明のA−Bブロックコポリマーで処理された顔料は、上記の色としての性能の向上だけでなく、Aのポリマーブロックが分散媒体に親和して相溶、溶解し、立体反発して、顔料の分散性を向上し、Bのポリマーブロックが顔料に著しく吸着しているので、分散剤であるA−Bブロックコポリマーが顔料から脱離することがないので、顔料の分散性と安定性が向上される。
【0019】
また、本発明で提供する樹脂処理顔料組成物(以下、樹脂処理顔料とも記す)は、少なくとも分散媒体に添加して分散するだけで、容易に微粒子状に微分散できる。水性のインクジェットインクに使用した場合は、Aのポリマーはカルボキシ基を多く有していて、アルカリで中和して水可溶化しているので、吐出ヘッドでインクが乾燥した場合に必要な、他の液媒体にて容易に分散する再分散性を付与できる。加えて、本発明のA−Bブロックコポリマーは、Aのポリマーブロックは水に溶解しているが、Bのポリマーブロックは水に溶解しないので、A−Bブロックコポリマーは水中で、Aのポリマーブロックの粒子を形成し、実質水に溶解していない、すなわち、液媒体に溶解しているポリマーがないので、粘性の変化がなく、吐出安定性に優れる有用なものになる。
【0020】
また、本発明で提供するA−Bブロックコポリマーで処理した樹脂処理顔料をカラーフィルター用の着色剤として使用した場合は、Aのポリマーブロックがカルホギシ基を有しているので、アルカリ現像の際のアルカリ水溶液で容易にアルカリ溶解し、現像時間の短縮や画素のシャープ化などに優れる有用なものになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例1の、A−Cブロックコポリマー−1とアシッドレッド−289より得られるA−BブロックコポリマーのIRチャート
図2】実施例4の、A−Cブロックコポリマー−2とダイレクトブルー−86より得られるA−BブロックコポリマーのIRチャート
図3】実施例5の、A−Cブロックコポリマー−3とダイレクトエロー−142より得られるA−BブロックコポリマーのIRチャート
図4】実施例6の処理ブルー顔料−1を得た時のろ紙スポット
図5】応用例6、7及び比較応用例3の塗膜スペクトル
図6-1】応用例6の耐熱性試験スペクトルデータ
図6-2】応用例7の耐熱性試験スペクトルデータ
図6-3】比較応用例3の耐熱性試験スペクトルデータ
図7】実施例11の処理シアン顔料−1を得た時のろ紙スポット
図8】実施例12の処理マゼンタ顔料−1を得た時のろ紙スポット
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明を実施するための好ましい形態を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の色素ブロックコポリマーは、一方のポリマーブロックにカルボキシ基を有し(以下、Aのポリマーブロックとする)、もう一方のポリマーブロックに有機色素骨格をイオン結合によって存在させた(以下、Bのポリマーブロックとする)構造を有することを特徴としたA−Bブロックコポリマーである。上記構造を有するため、Aのポリマーブロックは分散媒体に相溶する性質を有し、一方のBのポリマーブロックは色素骨格を有し、発色する。このような構造を有する本発明の色素ブロックコポリマーで顔料を処理すると、Bのポリマーブロックが顔料に、吸着、被覆、堆積、カプセル化する作用をし、この結果、得られる処理顔料は、Aのポリマーブロックが分散媒体に溶解、相溶し、Bのポリマーブロックが顔料に吸着等する作用をすることで、顔料を容易に分散させることができ、分散性と保存安定性が高いものになる。
【0023】
また、本発明の色素ブロックコポリマーで顔料を処理すると、Bのポリマーブロックに存在している有機色素骨格が著しく顔料に吸着する働きをし、前記した分散性と保存安定性を高める働きをし、さらに、顔料のみの発色性に色素ブロックコポリマーを構成している色素のもつ発色性を兼ね備えた新規の着色剤となる。すなわち、顔料の色相と色素の色相が加わることによって、インクジェットインクでは、色相範囲が広がり、カラーフィルター用着色剤では、透明性、コントラストが向上し、イオン成分を持つため、耐熱性も良好にすることができる。
【0024】
また、本発明の色素ブロックコポリマーは、既存の従来公知のスルホン酸基を有する色素と、カルボキシ基を有するAのポリマーブロックと、第4級アンモニウム塩を有するCのポリマーブロックを有するA−Cブロックコポリマーを混合するだけで、脱塩、イオン交換して、色素がBポリマーブロックにイオン結合してなる構造の、本発明のA−Bブロックコポリマーを容易に得ることができる。
【0025】
上記したように本発明の色素ブロックコポリマーの製造では、既存の従来公知のスルホン酸基を有する色素を使用できるので、本発明のA−Bブロックコポリマーを得るために、特別に、色素に官能基を導入したり、新しい構造の色素分子を設計、開発したりする必要がないが、このことも工業生産をする上での極めて大きな特徴である。
【0026】
また、本発明の色素ブロックコポリマーで処理された顔料は、そのAのポリマーブロックがカルボキシ基を有しているので、カルボキシ基をアルカリで中和することで、Aのポリマーブロックが水に溶解し、顔料を水中で分散することができる。加えて、この場合は、Aのポリマーブロックがアルカリで中和されているので、例えば、インクジェット用の着色剤にした場合は、この中和されたAのポリマーブロックが水溶解性を示すので、ヘッドで乾燥しても水系液媒体にて容易に再分散して、ヘッドの詰まりを防止することができる。
【0027】
また、Aのポリマーブロックは、カルボキシ基を有しており且つ有機溶媒にも溶解するので、油性の着色剤としても使用でき、例えば、油性の着色剤としてカラーフィルター用の着色剤として使用した場合、前記したように良好な分散性と保存安定性を示す。これに加えて、カラーフィルターの製造時のアルカリ現像において、本発明を構成するAのポリマーブロックが中和され水に溶解するので、アルカリ現像性が良好であり、現像時間の短縮、画素のシャープなエッジを得ることができる。
【0028】
また、本発明の色素ブロックコポリマーは、その一部にイオン結合によって存在させた色素の骨格を有するポリマーであるので、染料のように飛散性がなく、熱によって色素が揮発することがなく、塗膜などの表面に染料が浮き出てくるブリードアウトもない。
【0029】
また、本発明のA−Bブロックコポリマー、または、その中間体としてのA−Cブロックコポリマーを得る方法としては、リビングラジカル重合が適している。そのリビングラジカル重合は下記に挙げるように様々な方法があるが、下記の理由から、後述する重合開始化合物を使用するリビングラジカル重合を利用することが好ましい。例えば、ニトロキサイドを使用するNMP法、銅やルテニウムなどの金属錯体とハロゲン化物を利用する原子移動ラジカル重合法、ジチオカーバメートなどの硫黄化合物などを使用する可逆的付加解裂連鎖移動重合などがある。しかし、それぞれ問題がある。具体的には、NMP法は高温が必要であり、メタクリレート系モノマーの重合はうまくリビング重合できない、原子移動ラジカル重合は、その金属錯体を使用することと、その金属錯体はアミン化合物をリガンドとしているので、カルボキシル基を有するモノマーをそのまま重合できない、可逆的付加解裂型連鎖移動重合は、硫黄化合物を使用しているので臭気があるなどの問題がある。
【0030】
そこで、本発明で使用するブロックコポリマーの製造方法には、従来のラジカル重合において、重合開始化合物としてヨウ素化合物を使用し、必要に応じて触媒として活性なリン、窒素、酸素、炭素原子を持つ有機化合物を使用するリビングラジカル重合を適用する。その結果、容易に分子量分布(以下、PDIと記載する場合がある)が狭く、従来のラジカル重合で得られなかったブロックコポリマーを得ることができる。すなわち、分子量が均一なブロックコポリマーを得ることができる。このため、狭い分子量分布とブロックという構造の形成ができることから、得られるブロックコポリマーを、液媒体に溶解しやすいポリマー分子や、液媒体に溶解しづらいポリマー分子の混入がなく、性質が均一であり、且つ、明確に、カルボキシ基を有するポリマーブロックと色素骨格を有するポリマーブロックという構造に分離することができるので、本発明で使用するブロックコポリマーの製造に最適である。以下、本発明の色素ブロックコポリマーの構成を詳細に説明する。
【0031】
[A−Bブロックコポリマー]
本発明のA−Bブロックコポリマーは、90質量%以上がメタクリレート系モノマーで構成されてなるが、Aのポリマーブロックが、少なくともカルボキシ基を有するメタクリレートを構成成分としてなり(但し、構成成分としてアミノ基或いは第4級アンモニウム塩基を有するメタクリレートを含む場合を除く)、Bのポリマーブロックが、その構成単位として、メタクリレートからなる、下記一般式(1)で表される、4級アンモニウムの窒素カチオンの対イオンとして、1個以上のスルホン酸イオンが結合している色素からなるイオン結合部分(以下、「色素含有メタクリレート」或いは「色素モノマー単位」と記す場合がある)を有してなることを特徴とする。
【0032】
[式中のXは有機基を表し、R1〜R3はそれぞれ独立に、C1〜C18のアルキル基及びベンジル基からなる群から選ばれるいずれかを表す。また、式中のDは、有機色素分子を表す。]
【0033】
本発明のA−Bブロックコポリマーは、メタクリレート系モノマーに由来する構成単位を90質量%以上含むことを要し、好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは100質量%からなるものである。後述するが、本発明のA−Bブロックコポリマーの好適な製造方法(重合方法)では、モノマーとしてメタクリレート系モノマーを用いることが特に好ましい。これに対し、後述する製造方法において、スチレン等のビニル系モノマー、アクリレート系モノマー、及びビニルエーテル系モノマーなどを用いた場合は、重合末端に結合したヨウ素が安定化し過ぎてしまい、解離させるのに加温する必要がある、或いは解離しないなどの不都合が生ずる可能性があるので好ましくない。このため、メタクリレート系モノマー以外のモノマーを多量に用いた場合は、本発明において目的とする特有の構造にならない、或いは分子量分布が広がってしまうなどの不具合が生ずる可能性がある。ただし、メタクリレート系モノマー以外のモノマーであっても、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で用いてもよい。
【0034】
[Aのポリマーブロック]
その構成成分であるメタクリレート系モノマーとしては、Aのポリマーブロックには、少なくともカルボキシ基を有するメタクリレートを用いればよく、下記に挙げるような、カルボキシ基を有するメタクリレート系モノマーに由来する構成単位を含む。カルボキシ基が導入されたAのポリマーブロックは、アルカリで中和することでイオン化して水に溶解するようになる。このため、本発明のA−Bブロックコポリマーは、カラーフィルターの製造工程におけるアルカリ現像において好適に用いることができるし、水性分散において、Aのポリマーブロックが水に溶解して分散状態を取ることができるものになる。
【0035】
上記Aのポリマーブロックの形成に好適に用いることができるカルボキシ基含有メタクリレート系モノマーの具体例としては、下記のものが挙げられる。例えば、メタクリル酸;メタクリル酸2−ヒドロキシエチルやメタクリル酸2−ヒドロキシプロピルなどの水酸基含有メタクリレートにフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、マレイン酸、コハク酸、それらの酸無水物、酸クロライドなどの二塩基酸を反応して得られる二塩基酸やトリメリッ酸などの多カルボキシ化合物のハーフエステル型メタクリレート;グリシジルメタクリレートに前記した二塩基酸を反応させたエポキシエステル型メタクリレート;または、グリシジルメタクリレートのグリシジル基に1個のカルボキシル基を有する化合物、例えば酢酸、ラウリン酸などを反応させて得られる水酸基に、前記した二塩基酸を反応して得られるエポキシエステル型メタクリレートを使用することができる。さらには、A−Bブロックコポリマーとする過程において、Aのポリマーブロックにカルボキシ基を構成成分とせず、グリシジルメタクリレートを少なくとも構成成分として重合してブロックコポリマーを得た後、このグリシジル基にカルボキシ基を有する化合物、例えば、酢酸、アクリル酸やメタクリル酸を反応して得られる水酸基に前記した二塩基酸を反応させて、或いは、グリシジル基に2個以上のカルボキシ基を有する前記した二塩基酸などを反応させてカルボキシ基を生成して、上記に列挙したカルボキシ基含有メタクリレートで形成したと同様のAのポリマーブロックで構成されたA−Bブロックコポリマーとすることもでき、かかる形態のものも本発明に含まれる。
【0036】
Aのポリマーブロックの形成に用いるそれ以外のモノマー成分としては、従来公知のものを用いることができ、特に限定されない。具体例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2−メチルプロパンメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、テトラデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、ベへニルメタクリレート、イソステアリルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、t−ブチルシクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、トリメチルシクロヘキシルメタクリレート、シクロデシルメタクリレート、シクロデシルメチルメタクリレート、トリシクロデシルメタクリレート、ベンジルメタクリレートなどの(シクロ)アルキルメタクリレート;フェニルメタクリレート、ナフチルメタクリレートなどのアリールメタクリレート;アリルメタクリレートなどのアルケニルメタクリレート;(ポリ)エチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノエチルエーテルメタクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノラウリルエーテルメタクリレート、(ポリ)プロピレングリコ−ルモノメチルエーテルメタクリレートなどのグリコールモノアルキルエーテル系メタクリレート;
【0037】
(メタ)アクリロイロキシエチルイソシアネート、2−(2−イソシアナトエトキシ)エチルメタクリレートのイソシアネート基をε−カプロラクトン、MEKオキシム、及びピラゾールなどでブロックしたイソシアネート基含有メタクリレート;テトラヒドロフルフリルメタクリレート、などの環状メタクリレート;オクタフルオロオクチルメタクリレート、テトラフルオロエチルメタクリレートなどのハロゲン元素含有メタクリレート;2−(4−ベンゾキシ−3−ヒドロキシフェノキシ)エチルメタクリレート、2−(2’−ヒドロキシ−5−メタクリロイロキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールなどの紫外線を吸収するメタクリレート;トリメトキシシリル基やジメチルシリコーン鎖を持ったケイ素原子含有メタクリレートなどを挙げることができる。また、これらのモノマーを重合して得られるオリゴマーの片末端に(メタ)アクリル基を導入して得られるマクロモノマーなどを用いることができる。
【0038】
但し、本発明の色素ブロックコポリマーを構成するAのポリマーブロックを形成するメタクリレート系モノマーに、アミノ基や第4級アンモニウム塩基を有するメタクリレートを用いてはならない。本発明では、アミノ基や第4級アンモニウム塩基を有するメタクリレートは、Bのポリマーブロックの構成成分にのみ導入する。その理由は、Aのポリマーブロックの構成成分としてアミノ基や第4級アンモニウム塩基を有するメタクリレートを用いると、顔料分散時に、Aのポリマーブロック及びBのポリマーブロックの両方が顔料に吸着してしまい、顔料を安定に分散させることができなくなってしまうからである。
【0039】
本発明のA−BブロックコポリマーのAのポリマーブロックの酸価は、30〜250mgKOH/gであることが好ましい。さらに、50〜200mgKOH/gであることがより好ましい。Aのポリマーブロックの酸価が上記した数値範囲内であると、例えば、カラーフィルターの製造工程におけるアルカリ現像に好適な成分として用いることができるし、アルカリで中和して水に溶解して分散することができる。これに対し、Aのポリマーブロックの酸価が30mgKOH/g未満であると、アルカリで中和した場合であっても溶解しない或いは溶解速度が遅くなるので好ましくない。一方、Aのポリマーブロックの酸価が250mgKOH/gを超えると、アルカリ現像においては、露光硬化部分の親水性までもが向上してしまって耐水性が低下してしまい、形成される画素が乱雑になってしまう恐れがあるし、耐水性が劣る場合があるので好ましくない。
【0040】
本発明のA−BブロックコポリマーのAのポリマーブロックは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるポリスチレン換算の数平均分子量(以下、Mnと記載する場合がある)が3,000〜20,000であることが好ましい。4,000〜15,000であることがさらに好ましい。Aのポリマーブロックの数平均分子量が3,000未満であると、Aのポリマーブロックの立体的反発が作用せず、安定性に欠ける恐れがあり、また、溶媒可溶性のポリマーブロックであるので、分子量が小さ過ぎると溶解性や相溶性に乏しくなる恐れがあるので好ましくない。一方、Aのポリマーブロックの数平均分子量が20,000を超えると、分散媒体に溶解又は相溶する部分が多くなるので、粘度が過度に上昇したり、現像性が低下したりする恐れがあるので好ましくない。
【0041】
本発明のA−BブロックコポリマーのAのポリマーブロックの分子量分布(PDI=重量平均分子量/数平均分子量、以下PDIと記す場合がある)は、1.5以下であることが好ましいが、1.4以下であることがさらに好ましい。後述する、本発明のA−Bブロックコポリマーの製造方法によれば、上記したような狭い分子量分布のA−Bブロックコポリマーを、設計にしたがって適宜に製造することができる。このAのポリマーブロックのPDIが1.5を超えると、数平均分子量が3,000未満の成分や、20,000を超える成分を多く含むことにつながるので、その安定性が低下したり、アルカリ現像に対する現像性が低下したり、粘度が過度に上昇したりする恐れがあるので好ましくない。本発明においては、上記数平均分子量(Mn)及び分子量分布(PDI)を、ポリスチレンを標準物質とするGPC(Gel Permeation Chromatography)にて測定した。以上が本発明のA−BブロックコポリマーのAのポリマーブロックの構成である。
【0042】
[Bのポリマーブロック]
次に、Bのポリマーブロックについて説明する。Bのポリマーブロックは、その構成単位として、メタクリレートからなる、下記一般式(1)で表される、4級アンモニウムの窒素カチオンの対イオンとして、スルホン酸イオンが結合している色素からなるイオン結合部分を有してなる下記一般式(1)で表される部分を少なくとも含んでなる構成のものである。
[式中のXは有機基を表し、R1〜R3はそれぞれ独立に、C1〜C18のアルキル基及びベンジル基からなる群から選ばれるいずれかを表す。また、式中のDは、有機色素分子を表す。]
【0043】
一般式(1)中のXは任意の有機基であり、例えば、2価の炭素数1〜18のアルキレン基、アルケニレン基或いはアルキニレン基であり、または、水酸基、エステル基、ウレタン基、エーテル基などがそれらのアルキレン基、アルケニレン基或いはアルキニレン基基中に1個以上導入されている有機基、ポリアルキレン(炭素数2〜6)グリコール鎖である有機基であり、特に限定されない。一般式(1)中のR1、R2、R3は、同じでも異なっていてもよく、炭素数C1〜C18のアルキル基或いはベンジル基であり、第4級アンモニウム塩を構成する炭化水素系置換基である。
【0044】
一般式(1)中のDは有機色素分子であって、その第4級アンモニウムの窒素カチオンの対イオンであるスルホン酸イオンが1個以上結合している色素である。すなわち、本発明では、当該色素分子が、Bのポリマーブロック中にイオン結合によって存在している構造を有することを特徴としている。上記のDとしては、例えば、従来公知のスルホン酸基を有する酸性染料が該当するが、特に限定されず、アシッドレッド52、アシッドレッド92、アシッドレッド289、アシッドイエロー73等のキサンテン構造を有するもの、ソルベントグリーン7等のピラニン誘導体を有するもの、アシッドイエロー184等のクマリン誘導体を有するものが挙げられ、いずれも使用できる。これらに限定されず、その他、オキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、イミダゾロン誘導体、ピラゾロン誘導体、ベンジジン誘導体、フタロシアニン誘導体、キナクリドン誘導体、ジケトピロロピロール誘導体、アゾ系染料、ジスアゾ系染料及びジアミノスチルベンジスルホン酸誘導体等が挙げられ、様々なカラーインデックス番号のスルホン酸を有する染料、インクジェット用に開発されたスルホン酸基を有する染料などが挙げられる。
【0045】
上記したように、本発明を構成するBのポリマーブロックは、メタクリレートで形成され、且つ、有機色素分子Dをその構造中にイオン結合によって存在させてなる構造を有する。Bのポリマーブロックの一般式(1)で表される部分(色素モノマー単位)の含有量は、本発明のA−Bブロックコポリマー中に、少なくとも、5〜40質量%の範囲で含有され、且つ、Bのポリマーブロック中に20〜80質量%の範囲で含有されたものであることが好ましい。すなわち、A−Bブロックコポリマー中におけるこの色素モノマー単位の含有量が、A−Bブロックコポリマー中に5質量%未満であると、色素の発色性、顔料との吸着性が発揮され難く、40質量%を超えると、色素の性質が強く、場合によっては液媒体に溶解できなくなるので好ましくない。より好ましくは、10〜30質量%である。また、Bのポリマーブロック中における色素モノマー単位の含有量が20%未満であると、顔料との吸着が弱まり、分散媒体に溶解してしまい、必要とする吸着作用が得られなかったり、目的とする色の特性が得られなかったりする恐れがあるので好ましくない。一方、80質量%を超えると、その場合は、色素分子を有する部分が多すぎて、Bのポリマーブロックが非常に硬い性質となってしまい、顔料から脱離した時にブツの発生になってしまう可能性があるので好ましくない。Bのポリマーブロック中における色素モノマー単位の含有量は、より好ましくは、30〜70質量%である。
【0046】
Bのポリマーブロックを形成する場合は、必要に応じて、それ以外のモノマー成分を使用することができるが、その際のモノマーとしては従来公知のものを用いることができ、特に限定されない。具体的には、前記に挙げたようなメタクリレートが1種以上使用され、上記の色素モノマー単位の含有量が上記に述べた範囲になるように使用される。なお、本発明を構成するBのポリマーブロックを形成する場合には、カルボキシ基を含有するメタクリレートを構成成分としてもよい。前記したように、Aのポリマーブロックにこの色素含有メタクリレートが入ることは避けなければならないが、Bのポリマーブロックを形成する場合には、水への溶解性を出さない程度にカルボキシ基を有するメタクリレートが導入されていてもよい。使用する量としては、Bのポリマーブロックを形成するためのモノマー中に、0〜5質量%となる範囲内で使用することが好ましい。先に述べた理由から、いずれにしても、本発明では、明確に、Bのポリマーブロックにのみ、色素含有メタクリレートによって形成される色素モノマー単位が導入されていることを要する。
【0047】
[A−Bブロックコポリマーの調製]
以上のような構成成分からなる本発明のA−Bブロックコポリマーは、Aのポリマーブロックを形成した後、一般式(1)で表される色素含有メタクリレートを別途調整して添加して、Bのポリマーブロックを形成すればよいが、より好ましくは、下記のように、A−Cブロックコポリマーを調製後に、該A−Cブロックコポリマーとスルホン酸基を有する色素とを反応させて製造することが好ましい。好ましいとした理由は、先に挙げた製造方法では、予め色素含有メタクリレートを合成しなくてはならないことによる、煩雑さやコスト等の不具合があり、また、A−Cブロックコポリマーとした後、スルホン酸を有する色素を反応させた方が、複数の工程を経る必要がないためである。
【0048】
(A−Cブロックコポリマーの調製)
本発明のA−Bブロックコポリマーを得るために用いるA−Cブロックコポリマーは、前記したAのポリマーブロックと、一般式(2)で表される第4級アンモニウム塩のメタクリレートを構成成分としてなるCのポリマーブロックとから容易に得られる。
[式中のXは有機基を表し、R1〜R3はそれぞれ独立に、C1〜C18のアルキル基及びベンジル基からなる群から選ばれるいずれかを表す。また、Y-は、ハロゲンイオンを表す。]
【0049】
一般式(2)で表される第4級アンモニウム塩を有するメタクリレートは従来公知のものであって、一般式(2)中のX、R1〜R3は、先に一般式(1)についての説明でしたものと同様である。一般式(2)中のY-はハロゲンイオンであって、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンであり、これらのうちの少なくとも1種が使用される。
【0050】
上記した第4級アンモニウム塩基を有するメタクリレート系モノマーとしては、従来公知のものを挙げることができ、第3級アミノ基のハロゲン化物塩であり、具体的には、2−ジメチルアミノエチルメタクリレート、2−ジエチルアミノエチルメタクリレート、2−ジブチルアミノエチルメタクリレート、2−ジシクロヘキシルアミノエチルメタクリレートなどを挙げることができ、それらに、塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチル、ベンジルクロライド、ラウリルクロライドなどの従来公知の第4級アンモニウ形成材料にてアミノ基が4級化されている第4級アンモニウム塩基含有メタクリレートである。より具体的には、例えば、メタクリル酸ベンジルジメチルアンモニウムクロライドエチル、メタクリル酸トリメチルアンモニウムクロライドエチルなどが挙げられる。
【0051】
上記に加えて、第4級アンモニウム塩を有するメタクリレートによって形成される部分を有するCのポリマーブロックへの導入は、Aのポリマーブロックを形成した後、上記した第4級アンモニウム塩基を有するメタクリレートを重合してCのポリマーブロックを形成してもよいし、Aのポリマーブロックを形成した後、第3級のアミノ基を有するメタクリレート系モノマーを用いて、アミノ基を有するポリマーブロックを調製した後、このアミノ基に有機ハロゲン化物を反応させて第4級アンモニウム塩を生成させて、本発明のA−Cブロックコポリマーとしてもよい。または、Aのポリマーブロックを形成後、ハロゲン化アルキル基を有するメタクリレートを重合してポリマーブロックを形成した後、アミン化合物を反応させて、Cのポリマーブロックに含まれる第4級アンモニウム塩としてもよい。
【0052】
前記ハロゲン化アルキル基を有するメタクリレートとしては、例えば、2−クロロエチルメタクリレート、2−ブロモ−プロピルメタクリレート、1−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレートなどが挙げられるが、これらに特に限定されない。また、前記アミン化合物としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、ジメチルラウリルアミンなどが使用されるが、これらに特に限定されない。また、その反応は従来公知の方法を用いることができる。この含量は、前記したA−BブロックコポリマーのBのポリマーブロックに含まれる一般式の色素結合モノマーの含有量になるように調整される。
【0053】
このA−Cブロックコポリマーは、モノマー組成によって一概に言えないが、Aのポリマーブロックはカルボキシ基が中和されていないと水に不溶であるが、Cのポリマーブロックは第4級アンモニウム塩を含有するので、本発明で使用するA−Cブロックコポリマーは、水に添加すると、Aのポリマーブロックが微粒子となり、Bのポリマーが水に親和性が高いので溶解し、A−Cブロックコポリマーは、微粒子状に微分散、乳化する。
【0054】
このA−Cブロックコポリマーを使用して、前記したスルホン酸基を有する色素と、第4級アンモニウム塩との塩交換によって、一般式(1)で表される部分(色素モノマー単位)が導入され、A−Bブロックコポリマーとすることができる。その際に使用する色素は前記した通りであるが、スルホン酸基としては、1個以上含有していればよく、例えば、スルホン酸、又はスルホン酸アルカリ金属塩又はスルホン酸アンモニウム塩、スルホン酸アミン塩として結合している色素を使用し、A−Cブロックコポリマーと反応させると、脱ハロゲン化水素又は脱ハロゲン化アルカリ金属塩又は脱ハロゲン化アンモニウム塩又は脱ハロゲン化アミン塩のいずれかの反応が起こり、塩交換する。この反応は従来公知の方法がとられ、特に限定はなく、水、アルコール、グリコール系溶媒、アミド系溶媒など1種以上、染料を溶解する極性の高い溶媒が使用される。特に好ましくは、水であり、50質量%以上使用される。本発明のA−Cブロックコポリマーは、前記したように水に微粒子状に分散、乳化するので、染料の水溶液にA−Cブロックコポリマーの水溶液や水可溶性の溶媒溶液を添加して反応させることができる。また条件としては、室温での反応や加温して反応される。また、反応時の染料の濃度は特に限定はないが、好ましくは、10質量%以下の濃度にして反応させることが好ましい。
【0055】
また、このスルホン酸を有する色素と、A−Cブロックコポリマーに含まれる第4級アンモニウム塩の反応性比については、特に限定されない。色素のモル数を第4級塩よりも多くすることで、確実にBのポリマーブロックのアンモニウム塩に色素が反応するし、逆に第4級アンモニウム塩が過剰の場合は、第4級アンモニウム塩が残るが、使用された色素が確実に反応して導入されるし、当モルでも余る可能性もあるが、本発明を形成するBのポリマーブロックになるように反応させる。好ましくは、過剰の色素があった場合は、コストの問題、工程で出る廃液処理の観点から適切であるとは言い難いので、色素分子モル数に対する第4級塩のモル数が、等倍以上1.5倍以下となるようにするとよい。第4級塩が過剰に残ると、水性分散に使用した場合は、Bのポリマーブロックが水に溶解してしまう恐れがある。しかし、油性分散の場合は特に問題はない。加えて、本発明では、色素として、1個以上のスルホン酸基を有する色素を使用するが、2個以上の場合は、すべてのスルホン酸基とA−Cブロックコポリマーの第4級アンモニウム塩を反応させる必要はなく、その色素分子に含まれるスルホン酸1個が確実に第4級アンモニウム塩と反応すればよい。
【0056】
次に、A−Bブロックコポリマー及びA−Cブロックコポリマーの分子量について説明する。本発明のA−Bブロックコポリマーを構成するAのポリマーブロックの分子量は、前記した通りである。このAのポリマーブロックの好適な分子量については、A−Bブロックコポリマーを得るために経由するA−Cブロックコポリマーにおいても同様である。これらのブロックコポリマー全体の数平均分子量は、特に限定はないが、上記のBのポリマーブロックの含有量の範囲で得られる分子量である。本発明のA−Bブロックコポリマー及び、これを得るために使用するA−Cブロックコポリマーの数平均分子量は、従来公知のGPCでは正確に測定ができない。その理由は、両性のカルボキシ基と第4級アンモニウム塩、色素を有しているので、カルボキシ基が吸着しないカラムが装着されたGPCを使用した場合は、第4級アンモニウム塩が吸着されてしまって測定ができず、第4級アンモニウム塩が測定できるカラムで測定した場合は、カルボキシ基を有するポリマーが吸着してしまって測定ができず、いずれの場合も正確な分子量を得ることができない。A−Bブロックコポリマーとする前のAのポリマーブロックのみ測定が可能である。
【0057】
そこで、上記のように分子量による規定ができないため、Bの分子量を規定できるように以下の限定をする。本発明ではブロックコポリマーの製造にリビングラジカル重合方法を利用するが、このリビングラジカル重合とは、一般に、ラジカルとして解離しやすい基を有する重合開始化合物を使用する。例えば、この重合開始化合物をR−Xとすると、リビングラジカル重合は、一般式として以下の反応式(1)で表される。
【0058】
【0059】
上記のR−Xは、熱や光、触媒によって、Xが脱離し、Rのラジカルができ、そのRのラジカルにモノマーが1分子挿入される。仮に、例えば、この状態で通常のラジカル重合だったとすると、そのまま連鎖移動してモノマーが挿入され、最終的にはラジカルが停止反応で死んでしまい、また、ラジカルの寿命が短いためにその連鎖移動を制御できず、その場合に得られるポリマーは、分子量が小さいものから大きいものまででき、分子量の分布が広いものとなってしまう。これに対し、リビングラジカル重合では、前記の式において反応は左に偏っており、モノマーが挿入されるとXが直ぐに付加して安定化させるのでモノマーの挿入が停止し、停止反応が起こらない。次いで、再び、熱や光、触媒によってXが外れ、且つ、Xが脱離して末端にラジカルが生成し、モノマーが挿入され、再びXが結合して安定化する。そして、そのラジカルが生成するのは確立論的に均一であることから、分子量が揃う結果となる。加えて、その重合開始化合物が重合の開始点となり、そこから分子が伸びていくので、この重合開始化合物の量で分子量をコントロールすることができる。
【0060】
本発明では、このリビングラジカル重合を利用し、且つ、重合開始化合物と、重合に用いるモノマー類を構成しているラジカル重合性基であるメタクリレートを使用するが、Aのポリマーブロックは前記した分子量となるように、Aのポリマーブロックを構成するメタクリレート量を調整する。しかし、Bのポリマーブロックは、前記したように分子量か測定できないので、その開始化合物1molに対して、Bのポリマーブロックを形成するメタクリレートのモル量を規定する。すなわち、本発明では、重合開始化合物1molに対し、Bのポリマーブロックを形成するモノマーの全モル数が10〜150molである。この範囲でBのポリマーブロックの量が調整され、前記した色素含有モノマーのBのポリマーブロックに含まれる質量%と合わせて調整される。10molよりも少ないと、Bのポリマーブロックの分子量が小さくなり過ぎてしまい、顔料との親和性が発揮できず、150molより多いと分子量が大きくなり過ぎてしまい、顔料の多粒子間での吸着などが生じ、微分散できない可能性がある。好ましくは、Bの開始化合物1molに対し、20molから100molである。これは、前記したが、この分子量については、A−Bブロックコポリマーを得るために用いるA−Cブロックコポリマーについても同様である。
【0061】
また、本発明のブロックコポリマーは、リビングラジカル重合によって得られるが、特に好ましくは、以下の製造方法で得るとよい。この方法は、前記したA−Bブロックコポリマー或いはA−Cブロックコポリマーを得る方法であって、具体的には、重合開始化合物と触媒との存在下、リビングラジカル重合する工程を有し、該工程で使用する重合開始化合物が、ヨウ素又はヨウ素化合物の少なくともいずれかであり、該工程で使用する触媒が、ハロゲン化リン、フォスファイト系化合物、フォスフィネート化合物、イミド系化合物、フェノール系化合物、ジフェニルメタン系化合物及びシクロペンタジエン系化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物であり、且つ、その重合温度が30〜50℃であることを特徴とする。
【0062】
先にも述べたように、リビングラジカル重合としては、様々な方法が発明されており、アミンオキシドラジカルの解離と結合を利用するニトロキサイド法(Nitroxide mediated polymerization:NMP法)、銅、ルテニウム、ニッケル、鉄等の重金属と、これらの重金属と錯体を形成するリガンドとを使用し、ハロゲン化合物を開始化合物として用いて重合する原子移動ラジカル重合(Atom transfer radical polymerization:ATRP法)、ジチオカルボン酸エステルやザンテート化合物等を開始化合物として使用するとともに、付加重合性モノマーとラジカル開始剤を使用して重合する可逆的付加開裂型連鎖移動重合(Reversible addition- fragmentation chain transfer:RAFT法)及びMADIX法(Macromolecular Design via Interchange of Xanthate)、有機テルル、有機ビスマス、有機アンチモン、ハロゲン化アンチモン、有機ゲルマニウム、ハロゲン化ゲルマニウム等の重金属を用いる方法(Degenerative transfer:DT法)などが挙げられる。これらの方法も重合開始化合物を用いており、本発明に適応することができる。
【0063】
しかしながら、上記に挙げた方法はいずれも、下記に述べるように、本発明のA−Bブロックコポリマーを得るには最適とは言い難いと言う問題がある。例えば、NMP法では、テトラメチルピペリジンオキシドラジカルなどのアミンオキシドを使用するが、100℃以上の高温条件下で重合することが必要とされるし、メタクリレート系モノマーを用いた場合には、重合が進行しないといった問題もある。
【0064】
また、ATRP法では、重金属を使用する必要があるし、酸化還元を伴う重合方法なので、酸素の除去が必要であるし、アミン化合物をリガンドとして錯体を形成させて重合する方法では、重合系に酸性物質が存在すると錯体の形成が阻害されてしまうので、酸基を有する付加重合性モノマーをそのまま重合させることは困難である。保護基で酸基を保護したモノマーを重合し、重合後に保護基を脱離させる必要があるが、煩雑であり、酸基をポリマーブロックに導入することは容易なことではない。
【0065】
RAFT法及びMADIX法では、先ず、ジチオカルボン酸エステルやザンテート化合物などの特殊な化合物が必要であり、これらは硫黄系の化合物であるので、得られるポリマーには硫黄系の不快な臭気が残りやすく、着色されている場合もある。このため、得られたポリマーから臭気や着色を除去する必要がある。メタクリレート系モノマーの重合もうまくいかない場合がある。また、そのジチオカルボン酸エステルやザンテート化合物などの硫黄エステルはアミノ基で分解する可能性があり、ポリマーが低分子量化したり、硫黄臭が発生したりする。
【0066】
さらに、DT法では、ATRP法と同様に重金属を使用する必要がある。このため、得られたポリマーから重金属を除去する必要があるとともに、発生した重金属を含む排水を浄化しなければならないといった問題がある。
【0067】
そのような状況下で、本発明で使用される重合方法は、重金属化合物の使用が必須でなく、ポリマーの精製が必須でなく、特殊な化合物を合成する必要がなく、市場にある比較的安価な材料を用いるだけで容易に製造することができる。また、重合条件が穏和であり、従来のラジカル重合方法と同様の条件で重合することができる方法であり、特筆すべきは、カルボキシ基やリン酸基などを有するモノマーをそのままリビングラジカル重合できるところにある。
【0068】
具体的には、本発明のA−Bブロックコポリマーの製造方法では、重合開始化合物及び触媒の存在下、メタクリレート系モノマーを含有するモノマー成分をリビングラジカル重合する工程(重合工程)を含むことを特徴とする。そして、重合開始化合物が、ヨウ素とヨウ素化合物の少なくともいずれかである。本発明で採用するこのリビングラジカル重合では、様々な官能基が使用できる。
【0069】
重合工程では、ヨウ素とヨウ素化合物の少なくともいずれかを重合開始化合物として使用して、メタクリレート系モノマーを含有するモノマー成分をリビングラジカル重合によって重合する工程である。重合開始化合物として用いられるヨウ素やヨウ素化合物に熱や光を与えると、ヨウ素ラジカルが解離する。そして、ヨウ素ラジカルが解離した状態でモノマーが挿入された後、直ちにヨウ素ラジカルがポリマー末端ラジカルと再度結合して安定化し、停止反応を防止しながら重合反応が進行する。
【0070】
ヨウ素化合物の具体例としては、2−アイオド−1−フェニルエタン、1−アイオド−1−フェニルエタンなどのアルキルヨウ化物;2−シアノ−2−アイオドプロパン、2−シアノ−2−アイオドブタン、1−シアノ−1−アイオドシクロヘキサン、2−シアノ−2アイオド−2,4−ジメチルペンタン、2−シアノ−2−アイオド−4−メトキシ−2,4−ジメチルペンタンなどのシアノ基含有ヨウ化物などを挙げることができる。
【0071】
これらのヨウ素化合物は、市販品をそのまま使用してもよいが、従来公知の方法で調製したものを使用することもできる。例えば、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物とヨウ素とを反応させることで、ヨウ素化合物を得ることができる。また、上記のヨウ素化合物のヨウ素が臭素または塩素などのハロゲン原子に置換した有機ハロゲン化物に、第4級アンモニウムアイオダイドやヨウ化ナトリウムなどのヨウ化物塩を反応させ、ハロゲン交換させることでもヨウ素化合物を得ることができる。
【0072】
重合工程では、重合開始化合物とともに、重合開始化合物のヨウ素を引き抜くことができる触媒を使用する。触媒としては、ハロゲン化リン、フォスファイト系化合物、フォスフィネート化合物などのリン系化合物;イミド系化合物などの窒素系化合物;フェノール系化合物などの酸素系化合物;ジフェニルメタン系化合物、シクロペンタジエン系化合物などの炭化水素系化合物を用いることが好ましい。なお、これらの触媒は、一種単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0073】
リン系化合物の具体例としては、三ヨウ化リン、ジエチルフォスファイト、ジブチルフォスファイト、エトキシフェニルフォスフィネート、フェニルフェノキシフォスフィネートなどを挙げることができる。窒素系化合物の具体例としては、スクシンイミド、2,2−ジメチルスクシンイミド、マレイミド、フタルイミド、N−アイオドスクシンイミド、ヒダントインなどを挙げることができる。酸素系化合物の具体例としては、フェノール、ヒドロキノン、メトキシヒドロキノン、t−ブチルフェノール、カテコール、ジ−t−ブチルヒドロキシトルエンなどを挙げることができる。炭化水素系化合物の具体例としては、シクロヘキサジエン、ジフェニルメタンなどを挙げることができる。
【0074】
この触媒の使用量(モル数)は、重合開始化合物の使用量(モル数)未満とすることが好ましい。触媒の使用量(モル数)が多過ぎると、重合が制御され過ぎてしまい、重合が進行しにくくなる場合がある。また、リビングラジカル重合の際の温度(重合温度)は30〜100℃とすることが好ましい。重合温度が高過ぎると、重合末端のヨウ素が分解してしまい、末端が安定せずにリビング重合とならない場合がある。またこの重合方法では、末端はヨウ素が結合しており、このヨウ素をラジカルとして解離させてラジカルが発生して、その末端が安定であることが好ましい。ここで、アクリレートやビニル系などの場合、末端は2級のヨウ化物であり、比較的安定でヨウ素ラジカルとして外れず、重合が進行しない、または分布が広くなってしまうという可能性がある。温度を上げて解離することができるが、好ましは、上記温度範囲で温和に重合することが環境、エネルギーの点で好ましい。従ってラジカルが発生しやすく、比較的安定な3級のヨウ化物のほうが好ましく、本発明で使用するリビングラジカル重合においては、メタクリレート系のモノマーが適している。
【0075】
また、重合工程においては、通常、ラジカルを発生しうる重合開始剤を添加する。重合開始剤としては、従来公知のアゾ系開始剤や過酸化物系開始剤が使用される。なお、上記の重合温度の範囲で十分にラジカルが発生する重合開始剤を用いることが好ましい。具体的には、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、などのアゾ系開始剤を用いることが好ましい。当該重合開始剤の使用量は、モノマーに対して0.001〜0.1モル倍とすることが好ましく、0.002〜0.05モル倍とすることがさらに好ましい。重合開始剤の使用量が少な過ぎると重合反応が十分に進行しない場合がある。一方、重合開始剤の使用量が多過ぎると、リビングラジカル重合反応ではない通常のラジカル重合反応が副反応として進行してしまう場合がある。
【0076】
リビングラジカル重合は、有機溶剤を使用しないバルク重合であってもよいが、有機溶剤を使用する溶液重合とすることが好ましい。有機溶剤としては、重合開始化合物、触媒、モノマー成分、及び重合開始剤などの成分を溶解しうるものであることが好ましい。
【0077】
有機溶剤の具体例としては、ヘキサン、オクタン、デカン、イソデカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの炭化水素系溶剤;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノールなどのアルコール系溶剤;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、ジプロピリングリコールジメチルエーテル、ブチルカルビトール、ブチルトリエチレングリコール、メチルジプロピレングリコール、メチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのグリコール系溶剤;ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、メチルシクロプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソールなどのエーテル系溶剤;メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、アセトフェノンなどのケトン系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、カプロラクトン、乳酸メチル、乳酸エチル、琥珀酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、グルタル酸ジメチルなどのエステル系溶剤;クロロホルム、ジクロロエタンなどのハロゲン化溶剤;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ピロリドン、N−メチルピロリドン、カプロラクタムなどのアミド系溶剤の他、ジメチルスルホキシド、スルホラン、テトラメチル尿素、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、炭酸ジメチルなどを挙げることができる。なお、これらの有機溶剤は、一種単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0078】
また、これらの重合に使用した有機溶剤は、そのまま溶液としてそのまま使用できるし、必要に応じて、溶液からポリマーを取りしだして固形とすることができる。この方法としては特に限定はなく、例えば、貧溶剤に析出させてろ過、乾燥したり、溶液を乾燥してポリマーだけを取り出したりして、ポリマーの固形物として得ることもできる。得られた固体のポリマーは、そのまま使用してもよいし、溶剤を加えてポリマー溶液として使用してもよい。
【0079】
溶液重合する場合において、重合液の固形分濃度(モノマー濃度)は5〜80質量%とすることが好ましく、20〜60質量%とすることがさらに好ましい。重合液の固形分濃度が5質量%未満であると、モノマー濃度が低過ぎて重合が完結しない場合がある。一方、重合液の固形分濃度が80質量%超またはバルク重合であると、重合液の粘度が高過ぎてしまい、撹拌が困難になって重合収率が低下する傾向にある。リビングラジカル重合は、モノマーがなくなるまで行うことが好ましい。具体的には、重合時間は0.5〜48時間とすることが好ましく、実質的には1〜24時間とすることがさらに好ましい。また、重合雰囲気は特に限定されず、通常の範囲内で酸素が存在する雰囲気であっても、窒素気流雰囲気であってもよい。また、重合に使用する材料(モノマーなど)は、蒸留、活性炭処理、またはアルミナ処理などにより不純物を除去したものを用いてもよいし、市販品をそのまま用いてもよい。さらに、遮光下で重合を行ってもよいし、ガラスなどの透明容器中で重合を行ってもよい。
【0080】
前記したが、本発明のA−Bブロックコポリマー、該ポリマーを得るために作製するA−Cブロックコポリマーは、リビングラジカル重合する際のメタクリレート系モノマー類と、重合開始化合物の使用バランスをモル比で調整することによって、主鎖の分子量が制御されてなるものになる。具体的には、重合開始化合物のモル数に対して、モノマーのモル数を適切に設定することで、その主鎖が、任意の分子量であるポリマーを得ることができる。例えば、重合開始化合物を1モル使用し、分子量100のモノマーを500モル使用して重合した場合、「1×100×500=50000」の理論分子量を有するポリマーを得ることができる。すなわち、主鎖のポリマーの理論分子量を下記式(3)で算出することができる。なお、上記の「分子量」は、数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)のいずれをも含む概念である。
「主鎖のポリマーの理論分子量」=「重合開始化合物1モル」×「モノマー分子量」×「モノマーのモル数/重合開始化合物のモル数」 ・・・(3)
重合開始化合物の量は前記した通りである。
【0081】
なお、重合工程においては、2分子停止や不均化の副反応を伴う場合があるので、上記の理論分子量を有する主鎖のポリマーが得られない場合がある。これらの副反応が起こらずに得られたものであることが好ましい。また、重合率は100%でなくてもよい。さらに、重合を一旦終了した後、重合開始化合物や触媒を添加して残存するモノマーを消費させて重合を完結させてもよい。すなわち、本発明では、先に述べたような製造方法で、特定の構造のA−Bブロックコポリマー、A−Cブロックコポリマーが生成して、これを主成分として含んでいればよい。好ましくは、製造されたコポリマーの80%以上が、本発明の特定のブロックコポリマーであれば、その効果が十分に得られる。
【0082】
また、本発明のA−Bブロックコポリマーのブロック化のポリマー重合の順序としては、カルボキシ基を有するメタクリレートを重合してAのポリマーブロックを得た後、前記した色素モノマー単位を形成するための一般式(1)の色素含有メタクリレート又は第4級アンモニウム塩を有するメタクリレートを重合して、B又はCのポリマーブロックを形成させてもよいし、逆に、Bのポリマーブロックを形成した後、カルボキシ基を有するメタクリレートを重合してAのポリマーブロックを形成させてもよい。しかし、好ましくは、カルボキシ基を有するメタクリレートを重合してAのポリマーブロックを得た後、前記した一般式(1)の色素含有メタクリレート又は第4級アンモニウム塩を有するメタクリレートを重合して、B又はCのポリマーブロックを形成させたほうがよい。その理由は、色素含有メタクリレートまたは第4級アンモニウム塩を有するメタクリレートを先に重合した後、すべてのそれらのモノマーが重合すればよいが、それらのモノマーが残ってしまった場合、Aのポリマーブロックにも、それらのモノマーが導入されることとなり、本発明のA−Bブロックコポリマーとして機能しなくなる恐れがあるからである。
【0083】
上記のようにして得られたA−Bブロックコポリマー又はA−Cブロックコポリマーは、重合開始化合物に由来するヨウ素原子が結合した状態のままであってもよいが、ヨウ素原子を脱離させることが好ましい。ヨウ素原子をA−Bブロックコポリマーから脱離させる方法としては、従来公知の方法であれば特に限定されない。具体的には、A−Bブロックコポリマーを加熱したり、酸やアルカリで処理したりすればよい。また、A−Bブロックコポリマーをチオ硫酸ナトリウムなどで処理してもよい。脱離したヨウ素は、活性炭やアルミナなどのヨウ素吸着剤で処理して除去するとよい。
【0084】
上記のようにして得られたA−Bブロックコポリマーは、色素分子Dを有することから、そのまま着色剤として使用することもできるが、好ましくは、顔料分散剤として使用する。その場合は、顔料と本発明のA−Bブロックコポリマーとを添加し、分散媒体にて分散して顔料分散体とすればよい。また、顔料と、スルホン酸を有する色素と、A−Bブロックコポリマーを得るための前記したA−Cブロックコポリマーとを添加して、塩交換反応と同時に分散媒体に分散させて、顔料分散体を得ることもできる。
【0085】
しかし、本発明者らの検討によれば、この場合、Bのポリマーブロックは、その構造中に色素骨格を有すること、イオン結合が多いことから、溶媒に難溶性であり、このことによって、液媒体中で、顔料を本発明のA−Bブロックコポリマーを分散剤として分散させることが難しい場合がある。その理由は、Bのポリマーブロックが不溶であるため、顔料に吸着することができず、分散が困難となるためと考えられる。
【0086】
<樹脂処理顔料組成物>
そこで、本発明では、より好ましい、新規にA−Bブロックコポリマーが顔料の表面に吸着している樹脂処理顔料組成物(以下、樹脂処理顔料とも記す)を提供する。これは、予め、顔料がA−Bブロックコポリマーで処理されている処理顔料であって、Bのポリマーブロックが溶媒に難溶性であること、顔料との親和性が高ことから、Bのポリマーブロックが顔料に対して著しく吸着した状態を施すことができ、上記した顔料分散剤としての使用形態よりも確実に顔料にA−Bブロックコポリマーが吸着している状態にすることで、良好な分散性を示す樹脂処理顔料したものである。この樹脂処理顔料を液媒体中に分散すると、Bのポリマーブロックが顔料へ吸着、カプセル化しており、且つ、Aのポリマーブロックが液媒体、分散媒体に溶解、相溶して、立体障害と立体反発により、顔料を微粒子に分散でき、また、その保存安定性が高く、顔料同士の凝集がなく、分散液の増粘等もなく、非常に良好な顔料分散体を得ることができる。また、少なくとも得られた樹脂処理顔料と分散媒体である液媒体を混合して分散するだけで、容易に微分散された顔料分散体を得ることができることも大きな特徴である。さらに、顔料の色の性能に加えて、A−Bブロックコポリマーの色素の色の性能が加わり、今までにない色性能を発揮する
【0087】
上記した優れた性能を有する本発明の樹脂処理顔料について説明する。この樹脂処理顔料は、顔料100部に対し、前記したA−Bブロックコポリマーが10〜200部で構成してなることを特徴とする。これに対して、A−Bブロックコポリマーの量が10部未満であると、分散した時の分散剤としての機能が足りず、顔料を微分散できなかったり、その保存安定性が悪かったりする。また、200部よりも多いと、相対的に顔料の含有量が少なくなって、顔料の性能が発揮できない場合がある。より好ましくは、30〜100部である。
【0088】
上記において使用する顔料は、特に限定はなく、カラーフィルターやインクジェットインクに使用される、RGBのレッド、グリーン、ブルー、その補色としてのエロー、バイオレットの顔料、YCMBkの、エロー、シアン、マゼンタ、ブラック色を示す顔料などが使用される。
【0089】
具体的には、インクジェットインクで使用される顔料としては、カラーインデックスナンバー(C.I.)ピグメントブルー−15:3、15:4、C.I.ピグメントレッド−122、269、C.I.ピグメントバイオレット−19、C.I.ピグメントイエロ−74、155、180、183、C.I.ピグメントグリーン−7、36、58、C.I.ピグメントオレンジ−43、C.I.ピグメントブラック−7、C.I.ピグメントホワイト−6である。その平均一次粒子径は350nm未満である。より好ましくは、C.I.ピグメントブルー−15:3、15:4、C.I.ピグメントレッド−122、269、C.I.ピグメントバイオレット−19、C.I.ピグメントイエロ−74、155、180、183、C.I.ピグメントグリーン−7、36、58、C.I.ピグメントオレンジ−43、C.I.ピグメントブラック−7については、その平均粒子径は150nm未満であり、C.I.ピグメントホワイト−6については、300nm未満がよい。インクジェット記録装置のヘッドのつまりや画像の鮮鋭性に対しては、粒子径は小さい方がより好ましい。上記で使用する顔料は、カップリング剤や界面活性剤などの表面処理剤や、樹脂にて表面処理やカプセル化などがされている処理顔料でもよい。
【0090】
カラーフィルター用の顔料としては、有機顔料やブラックマトリックス用無機顔料を用いることが好ましい。赤色顔料としては、カラーインデックス(以下、C.I.)ピグメントレッド(PR)56、58、122、166、168、176、177、178、224、242、254、255を挙げることができる。緑色顔料としては、C.I.ピグメントグリーン(PG)7、36、58、ポリ(14〜16)ブロム銅フタロシアニン、ポリ(12〜15)ブロム化−ポリ(4〜1)クロル化銅フタロシアニンを挙げることができる。青色顔料としては、C.I.ピグメントブルー15:1、15:3、15:6、60、80などを挙げることができる。
【0091】
また、上記のカラーフィルター用の顔料に対する補色顔料または多色型の画素用顔料としては、以下のものを挙げることができる。黄色顔料としては、C.I.ピグメントイエロー(PY)12、13、14、17、24、55、60、74、83、90、93、126、128、138、139、150、154、155、180、185、216、219、C.I.ピグメントバイオレット(PV)19、23を挙げることができる。また、ブラックマトリックス用の黒色顔料としては、C.I.ピグメントブラック(PBK)6、7、11、26、銅・マンガン・鉄系複合酸化物を挙げることができる。これらの顔料は表面をシナジストと呼ばれる顔料表面改質剤で処理されていていてもよいし、界面活性剤などで処理されていてもよい。
【0092】
そのシナジストとしては、特に限定はなく、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、アミノ基などの酸、アルカリ性基を有する色素骨格化合物が使用される。特にスルホン酸を有するシナジストを使用すると、前記した本発明の製造方法で行うA−Cブロックコポリマーの第4級アンモニウム塩と塩交換して、著しく吸着する作用をするので好ましい。界面活性剤も特に限定されない。上記したと同様に、スルホン酸基を有する界面活性剤、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムやラウリル硫酸ナトリウムなどのスルホン酸基を有する界面活性剤を使用すると、A−Cブロックコポリマーの第4級アンモニウム塩と反応して、著しく吸着するので好ましい。
【0093】
顔料の分散後の数平均粒子径は特に限定はないが、カーボンブラックや有機顔料に対しては、10〜200nmであり、好ましくは20〜150nmである。酸化チタンなどの無機顔料に対しては、50〜300nm、より好ましくは100〜250nmが好ましい。尚、顔料の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察して求めることができる。このように微粒子化された顔料を、本発明のA−Bブロックコポリマーによって処理された顔料は、高発色性、高画質、高グロス、高印画性などを与える着色剤として有用である。
【0094】
以下、上記した樹脂処理顔料を得る製造方法について説明する。顔料と本発明のA−Bブロックコポリマーまたはその溶媒溶液を混合して得ることができるが、前記したように、Bのポリマーブロックが液媒体に難溶であるため、単なる混合物となってしまう恐れがある。そこで、以下の方法で、安定して得ることができる。
【0095】
すなわち、顔料の存在下、水系媒体にて、前記した1個以上のスルホン酸、スルホン酸アルカリ金属塩、スルホン酸アンモニウム塩およびスルホン酸アミン塩からなる群から選択される少なくとも1個以上の構造部分を有する有機色素と、A−Cブロックコポリマーを脱ハロゲン化水素又は脱ハロゲン化アルカリ金属塩又は脱ハロゲン化アンモニウム塩又は脱ハロゲン化アミン塩のいずれかの反応をさせて、A−Bブロックコポリマーにて処理された樹脂処理顔料とすればよい。
【0096】
より詳しくは、下記の手順で行う。水媒体、又は必要に応じて水に溶解する有機溶剤を添加した水系媒体に、顔料を添加する。この顔料として、粉末の顔料でもよいが、好ましくは、下記に述べるように、顔料の乾燥前の水ペーストを使用するとよい。顔料は、合成した後、そのままでは大きい結晶なので、整粒化、微細化、顔料化され、微細な一次粒子径の顔料粒子とする。そして乾燥して粉砕して顔料粉末を得るものであるが、この乾燥によって、一次粒子の顔料が凝集して二次粒子となり、粗大な顔料粒子となってしまう。このため、これを機械的メディアで分散して微分散して顔料分散液としているが、上記した乾燥前の一次粒子のペーストであれば、上記の二次粒子を形成することなく、微細な粒子として存在することになり、本発明で使用するA−Cブロックコポリマーと染料で処理する際に、顔料を微粒子状態で処理することができるので好適である。
【0097】
より具体的には、この顔料の乾燥前の水ペーストを使用して、顔料固形分濃度0.5〜30%の水スラリーとすることが好ましい。このスラリーを従来公知の方法にて解膠する。その方法は特に限定はなく、ディスパー、ホモジナイザー、必要に応じて、縦型ビーズミルや横型ビーズミル、高圧ホモジナイザーなどの分散機、ニーダー、フラッシャー、二本ロール、三本ロールなどの混練機などを使用して行えばよい。この条件は従来公知であり、特に限定されない。また、この際、必要に応じて、前記した顔料表面の改質剤や界面活性剤を加えることができる。この界面活性剤を添加することについては、後述する。
【0098】
次いで、本発明を特徴づける、その構造中に、1個以上のスルホン酸、又はスルホン酸アルカリ金属塩、又はスルホン酸アンモニウム塩、又はスルホン酸アミン塩を有する有機色素を加えて、均一化させる。この際、色素が溶解しにくい場合は、有機溶剤、好ましくは、水溶性の有機溶剤に溶解させて添加させてもよい。この撹拌、その条件に限定はない。
【0099】
次いで、本発明で使用する前記したA−Cブロックコポリマーを添加する。重合で得られたA−Cブロックコポリマーを重合溶剤の溶液でそのまま添加してもよいし、重合で得られたA−Cブロックコポリマーを固体として取り出し、固体として添加してもよいし、固体で取り出しものを他の液媒体に溶解して添加してもよい。重合溶剤の溶液で添加する場合は、その重合溶剤は、水に溶解する有機溶剤、アルコール系、グリコール系、アミド系などの溶剤であることが好ましく、より好ましくは、A−Cブロックコポリマーを重合する際の溶剤として、前記したアルコール系、グリコール系、アミド系の水可溶性の溶媒をすることがポリマーの生成などの工程が必要なく、適している。
【0100】
この際に使用する溶剤としては、好ましくは、アルキレン(炭素数:C2〜C6)ジオール;アルキレン(炭素数:C3〜C10)トリオール;そのモノまたはジアルキル(炭素数:C1〜C4)エーテル;(ポリn=2〜5)アルキレン(炭素数:C2〜4)グリコールモノまたはジアルキル(炭素数:C1〜C4)エーテル;モノまたはポリ(n=2〜5)エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート;アミド系溶剤が挙げられる。具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−3−ヒドロキシ−1−ブタノールなどのアルキレン(炭素数:C2〜C6)ジオール;グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,4−ブタントリオールなどのアルキレン(炭素数:C3〜C10)トリオール;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールなどの前記したアルキレン(炭素数:C2〜C6)ジオールのモノ、ジアルキルエーテル;ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピングリコールモノメチルエーテルなどの(ポリn=2〜5)アルキレン(炭素数:C2〜4)グリコールモノまたはジアルキル(炭素数:C1〜C4)エーテル;ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのモノまたはポリ(n=2〜5)エチレングリコールグリコールモノアルキルエーテルアセテート;2−ピロリドン、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶剤が好ましく使用できる。
【0101】
次に、A−Cブロックコポリマーを添加すると、顔料濃度にもよるが、増粘が起こる現象がみられる場合がある。これは、A−Cブロックコポリマーと色素のスルホン酸が脱離し、A−Bブロックコポリマーとなって水に不溶化し、その際に顔料に著しく吸着することで、ポリマーのAのポリマーブロックの疎水性から、顔料表面が疎水性となり、流動性が弱まるためと考えられる。この場合の染料と顔料のスラリーをろ紙にスポットすると、顔料と染料に分かれ、染料がブリードしていることが確認できるが、A−Cブロックコポリマーを添加すると、染料が不溶化して、ブリードがなくなり、顔料が本発明のA−Bブロックコポリマーで処理されたことがわかる。このA−Cブロックコポリマーの添加方法は、一度に添加してもよいし、徐々に添加してもよい。室温または加熱して添加してもよい。撹拌時間も特に限定はなく、条件は任意である。次いで、ろ過、洗浄、乾燥、粉砕して本発明の樹脂処理顔料を得ることができる。水性分散に使用する場合は、乾燥しなくても、水ペーストの状態にして使用することができる。
【0102】
また、この水ペーストを使用する際に、スルホン酸基を有する界面活性剤を使用することができる。これは、上記したように水ペーストでも問題はないが、より微細な粒子径の顔料を処理することができる方法である。二次粒子となっていない顔料の乾燥前の水ペーストといえども、保管時の圧や一部乾燥、疎水性同士なので緩い二次凝集となっており、そのままの粒子径で処理されると粗大粒子が存在する可能性がある。そこで、予め、スルホン酸基を有する界面活性剤にて、顔料を水中で微分散して使用することが好ましい。この分散については、従来公知の方法がとられ特に限定はないが、顔料濃度10〜40質量%、スルホン酸基を有する界面活性剤を顔料に対して1〜10%使用して、必要に応じて、消泡剤などの添加剤を使用して、ビーズ分散、超音波分散などの従来公知の分散方法にて分散される。その際に用いる分散機としては、例えば、ニーダー、二本ロール、三本ロール、ミラクルKCK(浅田鉄鋼株式会社、商品名)といった混練機や、超音波分散機や、高圧ホモジナイザーであるマイクロフルイダイザー(商品名、みずほ工業株式会社)、ナノマイザー(商品名、吉田機械興業株式会社)、スターバースト(商品名、スギノマシン株式会社)、G−スマッシャー(商品名、リックス株式会社)等が挙げられる。また、ガラスやジルコンなどのビーズメディアを使用したものでは、ボールミル、サンドミルや横型メディアミル分散機、コロイドミルなどが使用できる。その分散処方は特に限定されない。必要に応じて、品質に影響のない程度に他の添加剤を使用することも好ましい形態である。この場合に使用する添加剤としては、特に限定されず、例えば、消泡剤、レベリング剤、光安定剤、紫外線吸収剤、表面調整剤、染料などの着色剤、膜特性の改良や接着性を改良するためのポリマー成分、撥水剤、撥油剤、化学結合を伴う架橋剤、マット化剤、シランカップリング剤、界面活性剤などの各種添加剤を1種以上任意に添加できる。
【0103】
このスルホン酸基を有する界面活性剤にて分散された顔料分散液を使用して、前記したように、スルホン酸を有する色素を添加し、混合、撹拌、必要に応じて分散し、A−Cブロックコポリマーを添加して、樹脂処理顔料を得ることができる。微粒子に分散された状態で処理されるので、微粒子状顔料が処理された樹脂処理顔料を得ることができる。
【0104】
本発明の顔料分散体は、少なくとも、顔料と、本発明のA−Bブロックコポリマーとを含有してなるが、より好ましくは、上記したようにして得た顔料とA−Bブロックコポリマーの樹脂処理顔料を使用して分散することが好ましい。必要に応じて別途顔料分散剤を添加することができるが、上記のようにして得た樹脂処理顔料を使用した場合は、基本的には、顔料分散剤は必要ない。本発明の樹脂処理顔料を使用すると、A−Bブロックコポリマーが顔料分散剤として働き、すなわち、Bのポリマーブロックは顔料に吸着して、液媒体に不溶なので顔料から離れず、Aのポリマーブロックは分散媒体に溶解して、分散状態とすることができるからである。
【0105】
この際に使用する分散媒体としては、液媒体、固体媒体が使用できるが、好ましくは、液媒体であり、具体的な液媒体としては、水、前記した有機溶剤、UVインクや重合トナーなどに使用される重合性モノマーが挙げられる。すなわち、本発明の顔料分散体は、水性の着色剤としても油性の着色剤としても使用できるのが特徴である。
【0106】
上記で使用する重合性モノマーについて説明すると、例えば、前記したメタクリレート;アクリル酸系モノマー及びオリゴマーが好適である。モノマーの具体例としては、ブチルアクリレート、2−メチルプロパンアクリレート、t−ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、イソデシルアクリレート、ラウリルアクリレート、テトラデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、ベへニルアクリレート、イソステアリルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、t−ブチルシクロヘキシルアクリレート、イソボルニルアクリレート、トリメチルシクロヘキシルアクリレート、シクロデシルアクリレート、シクロデシルメチルアクリレート、トリシクロデシルアクリレート、ベンジルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェニルアクリレート、ナフチルアクリレート、ベンジルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノメチルエーテルアクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノラウリルエーテルアクリレート、(ポリ)プロピレングリコ−ルモノメチルエーテルアクリレート、オクタフルオロオクチルアクリレート、テトラフルオロエチルアクリレート、ノニルフェノールのエチレンオキサイド付加物のアクリレート、アクリロイロキシエチルリン酸エステル、アクリロイロキシフタル酸などが挙げられる。また、前記したメタクリレート系モノマーも使用できる。加えて、スチレンなどのビニル系モノマーも使用できる。
【0107】
また、ラジカル重合性のオリゴマーは、1分子中に2個以上の重合性基を有する化合物であり、その具体例としては、エチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ノナンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ブテンジオール、ブチンジオールネオペンチルグリコールなどのアルキル、アルケニル、シクロアルキルジオールのジアクリル酸エステル化物;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物などのポリ(n=2以上)グリコールエーテルのジアクリル酸エステル化物;ポリ(ヘキサンジオールアジペート)やポリブタンジオール琥珀酸、ポリカプロラクトンなどのポリエステルジオールのジアクリレート化物;ポリヘキサメチレンカーボネートなどのカーボネートジオールのジアクリレート;トルエンジイソシアネートなどのジイソシアネートとジオール、トリオール、ジアミンなどで得られるウレタンポリオールのポリアクリレート化物;ビスフェノールAグリシジルエーテルの付加物などのエポキシ樹脂のポリアクリレート化物;ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトールなどの多価水酸基含有化合物及びそれらアルキレンオキサイド付加物のポリアクリレート化物などが挙げられる。
【0108】
カチオン重合性化合物としては、前記したアクリレートや、ラジカル重合性としても寄与できるが、ビニルエーテル系が使用できる。ビニルエーテル系の具体例としては、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテルなどの1官能ビニルエーテル;(ポリ)エチレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテルなどの多官能ビニルエーテルなどが使用できる。更には、エポキシ化合物やオキセタン化合物なども使用できる。
【0109】
また、分散媒体は前記したように固体媒体でもよく、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂に適用できる。このように、本発明の顔料分散体は、プラスチック成型物、フィルム、トナーなどの着色にも使用される。
【0110】
特に、液媒体の分散体として、その油性での分散体を例示すると、カラーフィルター用着色剤が挙げられる。その使用として、具体的には、先に説明したようにして得られた樹脂処理顔料を、有機溶剤に顔料分として、5〜40質量%となるように配合し、必要に応じて、アルカリ現像性を付与するバインダーを添加して、前記した分散方法で分散して、着色剤として得られる。
【0111】
顔料については、前記したが顔料が使用されるが、好ましくは以下のものを使用するとよい。その平均粒子径が10〜150nmのものであることが好ましく、平均粒子径が20〜80nmの顔料を用いることがより好ましい。また、特に、本発明の樹脂処理顔料をカラーフィルター用の着色剤とする場合は、その構成に、一次平均粒子径が10〜50nmの顔料を用いることが好ましい。このように微粒子化された顔料を分散させて得られる本発明の顔料分散体は、高透明性及び高コントラスト性を有するカラーフィルターを製造しうる着色剤として特に好適である。平均粒子径が10nm未満では、顔料が1次粒子以下となり、耐光性、耐熱性など諸物性が悪化してしまう恐れがある。一方、150nmを超えると、透明性、コントラスト性が悪化してしまう恐れがある。尚、顔料の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察して求めることができる。また、本発明の樹脂処理顔料には、微粒子化された顔料を安定的して高度に微分散させることが可能な顔料分散剤が含有されている。このため、本発明の樹脂処理顔料を使用した本発明の顔料分散体は、上記のような極めて微細な顔料が良好な状態で分散されており、しかも長期保存安定性にも優れたものである。
【0112】
また、必要に応じて、本発明の顔料分散体の分散工程にて、色素誘導体を加えることができる。酸性官能基、塩基性官能基を有する色素誘導体が挙げられ、顔料と同一又は類似の骨格、該顔料の原料となる化合物と同一又は類似の骨格が好ましい。色素骨格の具体例としては、アゾ系色素骨格、フタロシアニン系色素骨格、アントラキノン系色素骨格、トリアジン系色素骨格、アクリジン系色素骨格、ペリレン系色素骨格などを挙げることができる。
【0113】
本発明の樹脂処理顔料は、Aのポリマーブロックにカルボキシ基を有しているので、そのままでアルカリ現像できることが特徴である。必要に応じて、アルカリ現像性ポリマーを樹脂処理顔料に添加することができる。このアルカリ現像性ポリマーは、その構造中にカルボキシル基などの酸基を有し、アルカリ水溶液で酸基が中和されて水に可溶性となって現像できるものである。
【0114】
アルカリ現像性ポリマーとしては、不飽和結合基などの感光性基を有する感光性樹脂や、非感光性樹脂を用いることができる。感光性樹脂の具体例としては、感光性環化ゴム系樹脂、感光性フェノール系樹脂、感光性ポリアクリレート系樹脂、感光性ポリアミド系樹脂、感光性ポリイミド系樹脂、及び不飽和ポリエステル系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、ポリエポキシアクリレート系樹脂、ポリウレタンアクリレート系樹脂、ポリエーテルアクリレート系樹脂、ポリオールアクリレート系樹脂などを挙げることができる。非感光性樹脂の具体例としては、セルロースアセテート系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、スチレン系(共)重合体、ポリビニルブチラール系樹脂、アミノアルキッド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アミノ樹脂変性ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリルポリオールウレタン系樹脂、可溶性ポリアミド系樹脂、可溶性ポリイミド系樹脂、可溶性ポリアミドイミド系樹脂、可溶性ポリエステルイミド系樹脂、ヒドロキシエチルセルロース、スチレン−マレイン酸エステル系共重合体、(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体などを挙げることができる。これらのアルカリ現像性ポリマーは、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。尚、樹脂処理顔料中のアルカリ現像性バインダーの含有量は、顔料100質量部に対して5〜300質量部であることが好ましく、10〜100質量部であることがより好ましい。
【0115】
また、本発明の樹脂処理顔料に、さらに、グリシジル基又はイソシアネート基を有する(メタ)アクリレートを反応して得られる不飽和結合基含有ブロックコポリマーを含有させることも好ましい態様である。この不飽和結合基含有ブロックコポリマーは、光硬化して膜を形成しうる成分である。このため、カラーフィルターの画素の強度(耐性)を向上させることができる。また、画素のエッジをシャープに形成できるとともに、形成される画素の溶剤耐性を向上させることができる。なお、不飽和結合基含有ブロックコポリマー中の不飽和結合基は、アクリル基又はメタクリル基が好適である。これらの不飽和結合基は、従来公知の方法で不飽和結合基含有ブロックコポリマー中に導入される。
【0116】
油性の顔料分散液である本発明の顔料分散体を構成する液媒体には、前記した有機溶剤が使用でき、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。特に好ましくは、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのグリコールエステル系の溶剤である。
【0117】
本発明の顔料分散体には、さらに、従来公知の添加剤を添加してもよい。添加剤の具体例としては、紫外線吸収剤、レベリング剤、消泡剤、光重合開始剤などを挙げることができる。また、反応性希釈剤として、メタクリレートやアクリレートなどの不飽和結合を有するモノマーを添加してもよい。
【0118】
本発明の顔料分散体を製造するに際しては、各成分を一度に配合してもよく、また、個別に配合してもよい。樹脂処理顔料と液媒体やアルカリ現像性ポリマーなどの成分を添加して分散させる。なお、必要に応じて他の顔料分散剤を添加してもよい。
【0119】
顔料を分散させる方法は前記した従来公知の方法であればよく、特に限定されない。得られた顔料分散液は、そのままでもよいが、遠心分離機にかけたり、任意のフィルターを通したりして、粗大粒子を除去することが好ましい。得られる顔料分散液の粘度は特に限定されないが、5〜30mPa・s、より好ましくは、6〜20mPa・sである。
【0120】
また、液媒体に顔料を分散してなる顔料分散体のうちの、水性媒体での顔料分散体の使用例としては、水性インクジェット用着色剤(インク)が挙げられる。その使用として、具体的には、先に説明したようにして得られた樹脂処理顔料を、アルカリを溶解させた水溶液に、顔料分として、5〜40質量%となるように配合し、必要に応じて、水溶性の有機溶剤を添加し、さらには、被膜成分となる樹脂成分を添加して、前記した分散方法で分散して、着色剤として得られる。
【0121】
まず、上記におけるアルカリ水溶液中では、アルカリが、本発明のA−BブロックコポリマーのAのポリマーブロックのカルボキシ基をイオン化して、Aのポリマーブロックを水に溶解させる働きをする。この際に使用するアルカリの量としては、Aのポリマーブロックに含有されるカルボキシ基の0.5〜1.5倍モル等量程度で使用すればよく、このアルカリによってAのポリマーブロックのカルボキシ基を中和して溶解させる。この際に使用するアルカリとしては、従来公知のものが挙げられるが、例えば、アンモニア、有機アミン、水酸化ナトリウムなどの水酸化物が挙げられる。ここで好ましくは、アンモニア或いは有機アミンを使用するとよい。その理由は、例えば、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物は強塩基であるため、Bのポリマーブロックを構成する、前記した一般式(1)の色素のスルホン酸塩との第4級アンモニウム塩が、水酸化物と反応して、スルホン酸がアルカリ金属塩となり、第4級アンモニウム塩が水酸化物塩となってしまい、色素がポリマーから脱離する恐れがあるからである。
【0122】
上記において、必要に応じて添加する水溶性の有機溶剤としては、例えば、前記したアルコール系溶剤、グリコール系溶剤、アミド系溶剤、グリセリンなどが挙げられ、インクの乾燥防止や、紙への浸透促進、表面張力の調整などの用途に用いられる。その配合量は任意であるが、系内に0〜50質量%の範囲内で使用される。
【0123】
また、上記において使用される被膜成分としての樹脂成分としては、アクリル系、アクリルスチレン系、エーテルウレタン系、カーボネートウレタン系、シリコーン系などの水溶性ポリマー、分散液、エマルジョンが使用され、特に限定されない。その添加量は、分散液中0〜20質量%の範囲内で使用され、メディアに対する密着性、耐擦過性、印刷物の耐久性の向上に効果を発揮する。
【0124】
本発明において、顔料は前記したものが使用され、望ましい顔料の分散粒子径は、前記した通りであり、光学濃度及び彩度というインクの発色性と印字品質或いはインク中の顔料の沈降を考慮すると、有機顔料で平均粒子径150nm以下、無機顔料で300nm以下である。所望の粒度分布を有する顔料の分散体を得るために、分散機の粉砕メディアのサイズを小さくする、粉砕メディアの充填率を大きくする、また、処理時間を長くする、吐出速度を遅くする、粉砕後フィルターや遠心分離機などで分級するなどの手法が用いられる。または、それらの手法の組み合わせが挙げられる。さらには使用する顔料の一次粒子径を従来公知の方法、例えば、ソルトミリング法により事前に細かく調整した顔料を使用する手法を用いることができる。分散後は、遠心分離機やフィルターで粗大粒子を除去することが好ましい。
【0125】
また、これらの着色剤に、必要に応じて添加剤を添加してインク化する。他の添加剤として、界面活性剤、顔料誘導体、染料、レベリング剤、消泡剤、紫外線吸収剤などの添加剤を使用することができ、特に限定されない。その表面張力を20mN/m以上40mN/m以下の範囲とすることが好ましい。インクジェットで印字するドット径を最適な幅に広げるという観点から、少なくとも界面活性剤を添加してもよい。その界面活性剤は従来公知のものを使用することができる。その添加量は、多いと顔料の分散安定性を損なうことがあるため、0.01〜5質量%の範囲内であり、好ましくは0.1〜2質量%の範囲内である。
【0126】
得られる分散液の粘度は特に限定されないが、染料、有機顔料のインクジェットインクでは、2〜10mPa・s、無機顔料のインクジェットインクでは、5〜30mPa・sである。以上のようにして、本発明の顔料分散体を得ることができる。
【実施例】
【0127】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、文中「部」または「%」とあるのは質量基準である。
【0128】
<合成例1:A−Cブロックコポリマー−1の合成>
還流管、窒素ガス導入装置、温度計、及び撹拌装置を取り付けた1Lセパラブルフラスコに、有機溶剤としてジエチレングリコールモノブチルエーテル(以下、BDGと表記)を368.7部、ヨウ素を3.2部、メタクリル酸メチル(以下、MMAと表記)を44.0部、メタクリル酸ブチル(以下、BMAと表記)44.0部、メタクリル酸2−エチルヘキシル(以下、2−EHMAと表記)を22.0部、ポリ(n=2〜4)エチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(日油社製、以下、PME200と表記)を34.0部、メタクリル酸(以下、MAAと表記)を15.0部、触媒としてジフェニルメタン(以下、DPMと表記)を0.3部、重合開始剤として2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製、以下、V−70と表記)を13.5部仕込み、窒素を流しながら40℃で5.5時間重合し、Aのポリマーブロックを形成した。得られたポリマー溶液の固形分を測定したところ、32.3%であり、換算した重合転化率はほぼ100%であった。また、テトラヒドロフラン(以下、THFと表記)を展開溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCと表記)測定を行ったところ、数平均分子量が5700、PDIが1.26であった。このポリマー溶液の一部を水に添加したところ、樹脂が析出した。このことは、得られたポリマーは水に不溶であることを示している。
【0129】
また、エタノール/トルエンを溶媒とした0.1NのKOHエタノール溶液を用いて、フェノールフタレインを指示薬として滴定にて測定したAのポリマーブロックの樹脂酸価は54.0mgKOH/gであり、ほぼ理論値どおりであった。以下、酸価については上記と同様の方法で測定し、その値を示した。
【0130】
次いで、下記のようにして、上記で得たAのポリマーブロックにCのポリマーブロックを導入した。まず、上記で得たポリマー溶液に、一般式(2)の構造を有するメタクリル酸ベンジルジメチルアンモニウムクロライドエチル(以下、DMQ−1と表記)を30.1部、メタクリル酸ベンジル(以下、BzMAと表記)を88.1部、BDG70.2部をあらかじめ混合均一化させた溶液を添加した。そして、さらにV−70を2.4部添加し、同じ温度で4時間重合して、Cのポリマーブロックを形成させた。得られたポリマー溶液の固形分は40.3%であり、換算した重合率はほぼ100%であった。GPC測定を行ったところ、ピークが小さく不明瞭であった。これは第4級アンモニウム塩のTHFへの溶解性が悪いことと、カラムに吸着したことによるためと考えられる。
【0131】
上記で得られたポリマー溶液の一部を水に添加したところ、ほぼ透明に溶解した。これは、Cのポリマーブロックの構成成分である第4級アンモニウム塩は、水に溶解する性質を有しているため、この第4級アンモニウム塩が導入されたことにより、Cのポリマーブロックの部分が水に溶解し、水に不溶のAのポリマーブロック部分が微細な粒子となって分散したためと考えられる。このことから、得られたポリマーは、AのポリマーブロックにCのポリマーブロックが導入されたA−Cブロックコポリマーであることが示唆された。これをA−Cブロックコポリマー−1と称す。
【0132】
<合成例2:A−Cブロックコポリマー−2の合成>
合成例1で用いたと同様の装置を使用し、有機溶剤としてBDGを382.8部、ヨウ素3.2部、MMAを44.0部、BMAを44.0部、2−EHMAを22.0部、PME200を34.0部、MAAを15.0部、触媒としてDPMを0.3部、V−70を13.5部使用した以外は、合成例1と同様に重合し、Aのポリマーブロックを形成した。得られたポリマー溶液の固形分を測定したところ、31.5%であり、換算した重合転化率はほぼ100%であった。GPC測定による数平均分子量は5700、PDIは1.26であった。また、Aのポリマーブロックの樹脂酸価は54.5mgKOH/gであった。
【0133】
次いで、上記で得たポリマー溶液に、DMQ−1を19.9部、BzMAを88.1部、BDGを46.4部、を予め混合均一化させた溶液を添加し、さらにV−70を2.2部添加した以外は、合成例1と同様にして重合し、Cのポリマーブロックを形成した。得られたポリマー溶液の固形分は40.5%であり、換算した重合率はほぼ100%であった。
【0134】
合成例1の場合と同様にGPC測定を行ったが、ピークが小さく不明瞭でうまく測定できなかった。また、得られた樹脂溶液の一部を水に添加したところ、若干白濁して溶解した。これは、合成例1の場合と比べて第4級アンモニウム塩の量が少ないため、水への溶解性が低下したためと考えられる。しかし、Aのポリマーブロックが水に不溶であったのと比べて、得られたポリマー溶液は水への溶解性を示したことから、目的とするA−Cブロックコポリマーが得られたものと考えられる。これをA−Cブロックコポリマー−2と称す。
【0135】
<合成例3:A−Cブロックコポリマー−3の合成>
合成例1で用いたと同様の装置を使用し、有機溶剤としてBDGを365.0部、ヨウ素を3.2部、MMAを44.0部、BMAを44.0部、2−EHMAを22.0部、PME200を34.0部、MAAを15.0部、触媒としてDPMを0.3部、V−70を13.5部使用した以外は、合成例1と同様に重合し、Aのポリマーブロックを形成した。得られたポリマー溶液の固形分は32.5%であり、換算した重合率はほぼ100%であった。GPC測定したところ数平均分子量は5600、PDIは1.26であった。また、Aのポリマーブロックの樹脂酸価は54.3mgKOH/gであった。
【0136】
次いで、上記で得たポリマー溶液に、DMQ−1を42.0部、BzMAを88.1部、BDGを98.0部、を予め混合均一化させた溶液を添加し、さらにV−70を2.6部添加した以外は、合成例1と同様に重合し、Cのポリマーブロックを形成した。得られたポリマー溶液の固形分は40.0%であり、換算した重合率はほぼ100%であった。
【0137】
合成例1の場合と同様にGPC測定を行ったが、ピークが小さく不明瞭でうまく測定できなかった。また、得られた樹脂溶液の一部を水に添加したところ、ほぼ透明に溶解したことからA−Cブロックコポリマーが得られたものと考えられる。これをA−Cブロックコポリマー−3と称す。
【0138】
上記の合成例1〜3について、重合開始化合物1molに対するAモノマーのmol数、重合開始化合物1molに対するCモノマーのモル数、AのポリマーブロックとCのポリマーブロックの質量比、A−Cブロックコポリマー1g中に含まれる第4級アンモニウム塩のモル数をまとめた。これを表1に示した。
【0139】
【0140】
<比較合成例1:ランダム共重合による比較ポリマーの合成>
合成例1で用いたと同様の装置を使用し、BDGを438.9部、ヨウ素を3.2部、MMAを44.0部、BMAを44.0部、2−EHMAを22.0部、PME200を34.0部、MAAを15.0部、DMQ−1を30.1部、BzMAを88.1部、触媒としてDPMを0.3部、V−70を13.5部仕込み、窒素を流しながら40℃で6時間重合した。得られたポリマーの固形分は40.2%であり、換算した重合率はほぼ100%であった。これは、合成例1のA−Cブロックコポリマーと同一の組成で、ランダム共重合した比較ポリマーである。
【0141】
<実施例1:色素ポリマーR−1の合成>
3Lビーカーにアシッドレッド289(以下、AR−289と表記、分子量676.7)を15部、水を985部を仕込んで、撹拌して均一化させた。この一部をろ紙にスポットしたところ、染料が裏抜けし、染料が溶解していることを確認した。次いで、合成例1で得たA−Cブロックコポリマー−1を154.0部とイオン交換水を154.0部の混合溶液を染料溶液に徐々に添加したところ増粘が見られた。そのまま1時間撹拌し、得られた溶液の一部をろ紙にスポットしたところ、樹脂の析出が確認され、染料のブリードはほとんど見られなかった。これは、A−Cブロックコポリマーの第4級アンモニウム塩クロライドの塩化物イオンと、AR−289のナトリウムイオンとが塩化ナトリウムとして脱離する一方で、第4級アンモニウム塩とAR−289のスルホナートイオンが塩を形成することにより、ブロックコポリマーは不溶化したと考えられる。すなわち、A−Cブロックコポリマーに色素が導入され、本発明で規定する構造のA−Bブロックコポリマーが得られたと考えられる。
【0142】
この溶液をろ過したところ、ろ液は透明であり、さらにイオン交換水で洗浄しても、ろ液が透明であったことから、色素はポリマーと結合していることが示唆された。その後、80℃の乾燥機で乾燥し、粉砕して本発明のA−Bブロックコポリマーを得た。これを色素ポリマーR−1と称す。この色素が導入されたA−BブロックコポリマーR−1中に占める色素モノマー単位の含有量は、A−Bブロックコポリマー中に26.4%であり、Bブロック中に49.5%含有されていた。このポリマーを赤外分光光度計(IR)にて測定を行った。その結果を図1に示したが、A−Cブロックコポリマー由来のピークとAR−289由来のピークが確認できた。
【0143】
<実施例2、3:色素ポリマーR−2、3の合成>
実施例1に使用した合成例1のA−Cブロックコポリマー−1に変えて、合成例2で得たA−Cブロックコポリマー−2及び合成例3で得たA−Cブロックコポリマー−3をそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様にして本発明のA−Bブロックコポリマーを合成した。具体的には、実施例2としてA−Cブロックコポリマー−2を228.0部、実施例3としてA−Cブロックコポリマー−3を115.4部、それぞれ使用した以外は実施例1と同様にしてA−Bブロックコポリマーを合成した。なお、ポリマーの使用量は、いずれの実施例も、AR−289の有するスルホン酸に対して、A−Cブロックコポリマーの第4級アンモニウム塩がほぼ等モルで反応する量となるようにした。
【0144】
得られたA−Bブロックコポリマーは、いずれも実施例1と同様の現象がみられ、A−Bブロックコポリマーとなっていることが確認された。実施例2のA−Bブロックコポリマーを色素ポリマーR−2、実施例3のA−Bブロックコポリマーを色素ポリマーR−3と称す。色素ブロックコポリマーR−2の色素モノマー単位の含有量はA−Bブロックコポリマー中に18.8%であり、Bブロック中に39.4%含有されていた。また、色素ブロックコポリマーR−3の色素モノマー単位の含有量はA−Bブロックコポリマー中に33.4%であり、Bブロック中に58.0%含有されていた。
【0145】
<実施例4:色素ポリマーB−1の合成>
3Lビーカーにダイレクトブルー86(以下、DB−86と表記、分子量780.2)を15部、水985部を仕込んで、撹拌して均一化させた。ろ紙へのスポットは裏抜けし、染料が溶解していることを確認した。次いで、合成例2で得たA−Cブロックコポリマー−2を196.2部とイオン交換水を196.2部の混合溶液を染料溶液に徐々に添加したところ、実施例1と同様に増粘が確認された。1時間撹拌した後、ろ紙にスポットしたところ、樹脂の析出が確認できた。ブリードはほとんどなく、ほとんどの色素が反応したと考えられる。すなわち、Cのポリマーブロックに、DB−86の色素分子が導入され、本発明で規定する構造のA−Bブロックコポリマーになったと考えられる。これを色素ポリマーB−1と称す。この色素ブロックコポリマーの色素モノマー単位の含有量はA−Bブロックコポリマー中に20.7%であり、Bブロック中に42.3%で含有されていた。このポリマーの赤外分光光度計(IR)にて測定を行った。その結果を図2に示した。A−Cブロックコポリマー由来のピークとDR−86由来のピークが確認できた。
【0146】
<実施例5:色素ポリマーY−1の合成>
3Lビーカーにダイレクトイエロー142(以下、DY−142と表記、分子量794.7)を15部、水を985部仕込んで、撹拌して均一化させた。ろ紙へのスポットは裏抜けし、染料が溶解していることを確認した。次いで、合成例3で得たA−Cブロックコポリマー−3を98.6部とイオン交換水を98.6部の混合溶液を染料溶液に徐々に添加したところ、実施例1と同様に増粘が確認された。1時間撹拌した後、ろ紙にスポットしたところ、樹脂の析出が確認できた。ブリードはほとんどなく、ほとんどの色素が反応したと考えられる。すなわち、CのポリマーブロックにDY−142の色素分子が導入され、本発明で規定する構造のA−Bブロックコポリマーになったと考えられる。これを色素ポリマーY−1と称す。このポリマーの赤外分光光度計(IR)にて測定を行った。その結果を図3に示す。この色素ブロックコポリマーの色素モノマー単位の含有量はA−Bブロックコポリマー中に36.1%であり、Bブロック中に60.8%で含有されていた。その結果を図3に示した。A−Cブロックコポリマー由来のピークとDY−142由来のピークが確認できた。
【0147】
実施例1〜5で得た各色素ポリマーについて、表2にまとめて示した。
【0148】
<合成例4:A−Cブロックコポリマー−4の合成>
合成例1と同様の装置を使用し、有機溶剤としてトリエチレングリコールモノブチルエーテル(以下、BTG)を355.4部、BzMAを99部、MAAを22.7部、N−アイオドコハク酸イミドを0.22部、ヨウ素を1.5部、V−70を6.5部仕込んで、合成例1と同様に5時間重合を行い、Aのポリマーブロックを形成させた。固形分を測定したところ、26.3%であり、換算した重合転化率はほぼ100%であった。また、数平均分子量は6800、PDIは1.23であった。同様にして酸価を測定したところ、121.7mgKOH/gであった。また、このポリマー溶液を水に添加したところ、析出したことが確認され、水に不溶であることを確認した。
【0149】
次いで、DMQ−1を25.4部、BTGを59.54部、BzMAを79.2部仕込んで、4時間重合し、Cのポリマーブロックを形成させた。固形分は40.0%であり換算した重合率はほぼ100%であった。分子量は不明瞭であり、確実なる分子量測定はできなかった。また、この溶液を水に添加したところ、半透明の微粒子分散することが確認された。Aのポリマーが水に不溶微粒子を形成し、Cのポリマーブロックが水に溶解したためと考えられる。これをA−Cブロックコポリマー−4と称す。
【0150】
<合成例5:A−Cブロックコポリマー−5の合成>
合成例4と同様にして、Aのポリマーブロックを形成するモノマーとしてMAAを使用するが、その量を半減させた以外は、合成例4と同様にして重合を行い、Aのポリマーブロックを形成した。重合転化率はほぼ100%であり、得られたポリマーの数平均分子量は5600、PDIは1.19であった。酸価は61.0mgKOH/gであった。
【0151】
次いで、合成例4と同様の組成で重合を行い、Cのポリマーブロックを形成した。固形分は40.2%であり、ほぼ100%重合していることを確認した。分子量は不明瞭であった。また、この溶液を水に添加したところ、半透明の微粒子分散することが確認された。これをA−Cブロックコポリマー−5と称す。
【0152】
<合成例6:A−Cブロックコポリマー−6の合成>
合成例4と同様に、Aのポリマーブロックを形成するモノマーとしてMAAを使用するが、その量を倍増させた以外は、合成例4と同様にして重合を行い、Aのポリマーブロックを形成した。重合転化率はほぼ100%であり、得られたポリマーの数平均分子量は7800、PDIは1.35であった。酸価は205.0mgKOH/gであった。
【0153】
次いで、合成例4と同様の組成で重合を行い、Cのポリマーブロックを形成した。固形分は40.2%であり、ほぼ100%重合していることを確認した。分子量は不明瞭であった。また、この溶液を水に添加したところ、半透明の微粒子分散することが確認された。これをA−Cブロックコポリマー−6と称す。
【0154】
上記合成例4〜6について、Aのポリマーブロックの酸価、重合開始化合物1molに対するAモノマーのmol数、重合開始化合物1molに対するCモノマーのモル数、AのポリマーブロックとCのポリマーブロックの質量比、A−Cブロックコポリマー1g中に含まれる第4級アンモニウム塩のモル数をまとめた。これを表3に示した。
【0155】
【0156】
<実施例6:処理ブルー顔料−1の調製>
5リッターフラスコに、微細化されたPB−15:6(A−037、大日精化工業社製、固形分28.8%、平均一次粒子径30nm)の水ペーストを347.2部(顔料分が100部)、銅フタロシアニンモノスルホン酸を5.0部(分子量656.1、顔料のシナジストとして作用しながら、本発明を特徴づけるスルホン酸を有する色素として働く。以下、MSと記す)を仕込んで、顔料濃度5%になるように水にて希釈した。ホモジナイザーで撹拌しながら、AR−289を15.0部添加し、5000rpmで1時間撹拌し解膠した。その一部を採り、ろ紙にスポットした。
【0157】
次いで、合成例1で得たA−Cブロックコポリマー−1を205.5部と、イオン交換水205.5部との混合溶液を、上記で調製した顔料を含有した染料溶液に徐々に添加した。ある時点で増粘し、その後、減粘することが確認できた。この増粘は、第4級アンモニウム塩を有することにより水に溶解していたA−Cブロックコポリマーが、AR−289及びMSの有するスルホン酸塩と塩交換することにより、CのポリマーブロックがBのポリマーブロックとなって、顔料表面に析出し、顔料表面がA−Bブロックコポリマー由来の疎水性となったことにより流動性が出なくなったためと考えられる。次いで、そのまま1時間撹拌し、再び一部を採り、ろ紙にスポットした。その結果を、解膠時のものと合わせて図4に示した。
【0158】
図4の左側が解膠時にスポットしたものであるが、中央が顔料で、その周りに染料のAR−289がブリードしていることがわかる。図4の右側は、A−Cブロックコポリマーを添加した後で、明らかにAR−289のブリードが見られなかった。これらのことから、A−CブロックコポリマーとAR−289とが塩交換して染料が不溶化して、本発明で規定するA−Bブロックコポリマーとなって顔料を処理したものになったと考えられる。
【0159】
次いで、この溶液をろ過、洗浄した。ろ過が速く、ろ液や洗浄液の着色がなかった。このことからも、A−Bブロックコポリマーとなっていることが推測される。次いで、80℃で24時間乾燥し、ミルにて粉砕した。
【0160】
この粉砕物は、使用した顔料100部に対し、後述するように理論的に約100.0%で、色素としてのMSとAR−289が、A−Cブロックコポリマーに反応して脱塩化ナトリウムしてなるA−Bブロックコポリマーにて処理された顔料である。また、上記の例では、MSとAR−289のスルホン酸基に対しA−Cブロックコポリマーの第4級アンモニウム塩をほぼ等モルで反応させた。これを処理ブルー顔料−1と称す。
【0161】
上記で得た処理ブルー顔料−1において、本発明を特徴づける一般式(1)で表される色素モノマー単位は、A−Bブロックコポリマー中に26.5%、Bのポリマーブロック中に49.7%で含有され、また、顔料100部に対する処理に使用したA−Bブロックコポリマーの比率は101.2%であり、得られた樹脂処理顔料中に含有される顔料分は49.7%である。これらの含有量については、すべて理論計算値である。この点について、以下に簡単に説明する。
【0162】
使用したMSの5g(以下の説明においては、部数を「g」として扱う。)は7.6mmolであり、同様に、AR−289は22.2mmol(15g)使用されるので、全スルホン酸基は29.8mmolとなる。一方、A−Cブロックコポリマーは、ポリマー分で82.8g使用したため、ポリマー中に含有されている第4級アンモニウム塩は、29.8mmolとなり、MSとAR−289の全スルホン酸基と等モルとなる。これを反応させることで、MS由来の脱塩化水素は7.6mmol(0.28g)、AR−289由来の脱塩化ナトリウムは22.2mol(1.30g)であり、トータルで1.58g減量する。よって、A−Bブロックコポリマーの量は、5+15+82.8−0.28−1.30=101.2gとなり、すなわち、顔料100部は、約101.2部のA−Bブロックコポリマーで処理されることとなる。この結果、処理顔料中に含まれる顔料の割合は、49.7%となる。
【0163】
一方、反応して得られるA−Bブロックコポリマー中の一般式(1)で表される色素モノマー単位に関しては、MSを反応させて得られるメタクリレート(以下、MSのメタクリレートと記す)の分子量は903.4であり、一方、AR−289を反応させて得られるメタクリレート(以下、AR−289のメタクリレートと記す)の分子量は902.1である。実施例6において、MS及びAR−289は、すべてA−Cブロックコポリマーと反応するため、得られるA−Bブロックコポリマーには、使用したMSとAR−289のモル数が導入されることとなる。すなわち、A−Bブロックコポリマー中に、MSのメタクリレートが6.9g、AR−289のメタクリレートが20.0g導入されて、色素含有メタクリレートは、総量で26.9gとなる。上述したように得られたA−Bブロックコポリマーは101.2gであるので、A−Bブロックコポリマー中に含まれる色素含有メタクリレート(色素モノマー単位)は、26.5%となる。
【0164】
また、実施例6において、使用したA−Cブロックコポリマー(固形分40.3%)のAのポリマーブロックとCのポリマーブロックの比率は57:43であることから、使用したA−Cブロックポリマー(205.5g)中に含まれるAのポリマーブロックは47.2gとなる。A−BブロックコポリマーにおけるAのポリマーブロックの含有量は、A−Cブロックポリマーと変わらず、47.2gのままであり、よって、生成したA−Bブロックコポリマー101.2g中におけるBのポリマーブロックの含有量は54.0gとなる。上記した色素含有メタクリレートは26.9gなので、26.9÷54.0×100=49.8%となる。以下、同様にして計算して算出した。
【0165】
<実施例7:処理ブルー顔料−2の調製>
実施例6と同様にして、合成例1で得られたA−Cブロックコポリマー−1の代わりに、合成例2で得られたA−Cブロックコポリマー−2(固形分40.5%)を306.6部使用した以外は、実施例6と同様にして樹脂処理顔料の調製を行って粉砕物を得た。その結果、実施例6と同様の現象が見られ、顔料がA−Bブロックコポリマーで処理されたことが確認できた。
【0166】
実施例6と同様の理論計算値によれば、得られた樹脂処理顔料は、顔料100部に対し、A−Bブロックコポリマーにて理論的に約142.6%で処理された顔料である。また、上記の例でも、MSとAR−289のスルホン酸基に対しA−Cブロックコポリマーの第4級アンモニウム塩をほぼ等モルで反応させた。これを処理ブルー顔料−2と称す。
【0167】
<実施例8〜10:処理ブルー顔料−3〜5の調製>
実施例6と同様にして、合成例1で得られたA−Cブロックコポリマー−1の代わりに、合成例3で得られたA−Cブロックコポリマー−3(固形分40.0%)を、それぞれ下記の量で使用した以外は、いずれも実施例6と同様にして実施例8〜10の樹脂処理顔料(粉砕物)の調製を行った。具体的には、合成例3で得られたA−Cブロックコポリマー−3を、実施例8では155.2部の量で使用し、実施例9では194.0部の量で使用し、実施例10では232.8部の量で使用した。いずれにおいても実施例6と同様の現象が見られ、顔料がA−Bブロックコポリマーで処理されたことが確認できた。
【0168】
実施例6と同様の理論計算値によれば、実施例8で得られた樹脂処理顔料は、顔料100部に対し、A−Bブロックコポリマーにて理論的に約80.5部(80.5%)で処理された顔料である。また、この例でも、MSとAR−289のスルホン酸基に対しA−Cブロックコポリマーの第4級アンモニウム塩をほぼ等モルで反応させた。これを処理ブルー顔料−3と称す。
【0169】
実施例6と同様の理論計算値によれば、実施例9で得られた樹脂処理顔料は、顔料100部に対し、A−Bブロックコポリマーにて理論的に約96.0部(96.0%)で処理された顔料である。この例は、AR−289のスルホン酸基に対しA−Cブロックコポリマーの第4級アンモニウム塩が1.25モル倍過剰な条件で反応させたもので、第4級アンモニウム塩が残っているものである。これを処理ブルー顔料−4と称す。
【0170】
実施例6と同様の理論計算値によれば、実施例10で得られた樹脂処理顔料は、顔料100部に対し、A−Bブロックコポリマーにて理論的に約111.6部(111.6%)で処理された顔料である。この例は、AR−289のスルホン酸基に対しA−Cブロックコポリマーの第4級アンモニウム塩が1.5モル倍過剰な条件で反応させたもので、第4級アンモニウム塩が残っているものである。これを処理ブルー顔料−5と称す。
【0171】
<比較例1:比較処理ブルーの調製>
比較合成例1で得られた、合成例1と同組成のランダムブロックコポリマー溶液を使用した以外は、実施例6と同様にして、比較例の樹脂処理顔料を作成した。実施例6と同様の現象が見られ、ランダムコポリマーでも顔料の樹脂処理が可能であり、このことから、脱塩する反応自体の作用は、ランダムコポリマーでも同様にして起こり、顔料の処理は可能であることが確認された。これを比較処理ブルー顔料と称す。
【0172】
上記で得た実施例6〜10及び比較例1について、本発明を特徴づける一般式(1)で表される色素含有メタクリレート(色素モノマー単位)の、A−Bブロックコポリマー中における含有量及びBのポリマーブロック中における含有量、並びに、顔料に対するA−Bブロックコポリマー(色素ポリマー)の比率、樹脂処理顔料中に含まれる顔料由来成分の割合を、表4にまとめて示した。なお、比較例1については、ランダムコポリマーにおける比率である。
【0173】
【0174】
<応用例:カラーフィルター用着色剤>
実施例6〜10及び比較例1で得た樹脂処理顔料を、表5に示す量(部)で配合し、ディゾルバーで2時間攪拌した。顔料の塊がなくなったことを確認した後、横型メディア分散機「ダイノミル0.6リットルECM型」(商品名、シンマルエンタープライゼス社製、ジルコニア製ビーズ 径0.65mm)を使用し、周速10m/sで分散処理して顔料分散液を調製した。これらを、それぞれ応用例1〜5、比較応用例1とした。また、従来公知の着色剤の通常の分散を模した例として、銅フタロシアニンモノスルホン酸5%で処理されているPB−15:6(以下、比較ブルー顔料と称す)を、市販の顔料分散剤を用いて従来と同様にして分散して、これを比較応用例2とした。表5に、顔料分散液の配合をまとめて示した。
【0175】
【0176】
上記で得られたそれぞれの顔料分散液において、顔料分散液中に含まれる顔料の数平均粒子径の測定結果、顔料分散液の初期の粘度、及び45℃で10日間放置した後(保存後)の粘度の測定結果を表6に示した。なお、平均粒子径は粒度測定器「NICOMP 380ZLS−S」(商品名、インターナショナル・ビジネス社製)にて測定した。以下、同様にして行った。
【0177】
【0178】
表6に示したように、本発明の樹脂処理顔料を用いた顔料分散液は、良好な分散性と保存安定性を示した。一方、比較例1の樹脂処理顔料は、ランダム構造であるため、樹脂処理は可能であるものの、本発明の実施例で得たと同様の効果を発揮することはできないことが確認された。これは、ランダム構造であるため、ポリマー分子が多粒子間顔料に吸着したり、逆に顔料を凝集したりしてしまうためと考えられる。また、本発明の色素ブロックコポリマーにより顔料を処理した樹脂処理顔料を用いてなる顔料分散液は、表6に示したように、通常の着色剤に使用される、すなわち、応用比較例2の、通常の顔料分散剤で顔料を分散処理した顔料分散液の場合と同様の分散性と保存安定性を達成できることが確認された。また、本発明の実施例の樹脂処理顔料を使用した場合は、分散樹脂としてのアクリル樹脂溶液を添加せずとも、顔料を微細に分散させることができ、且つ、その安定性を保つことができることを確認した。また、応用例3〜5の結果から、第4級アンモニウム塩が多く残留することで、粘度が高めに出る傾向があることがわかった。しかし、保存安定性は良好であり、問題はない。
【0179】
また、本発明の実施例の樹脂処理顔料を使用した応用例の顔料分散液に含まれる顔料の平均粒子径は、いずれも約50nm以下であり、微細化された顔料は十分に微分散されていることが確認された。また、いずれの応用例の顔料分散液も初期の粘度は10mPa・s前後であり、初期の粘度と保存後の粘度とを比較すると、粘度変化は小さいことが明らかである。この結果、応用例の顔料分散液は十分な安定性を有することが確認された。
【0180】
(応用例6、7、比較応用例3:疑似カラーフィルター用顔料着色剤の調製)
次に、上記の応用例1、2及び比較応用例2で得た顔料分散液をそれぞれ使用して、表7に示す量(部)で配合し、混合機で十分混合して、ブルーの疑似カラーフィルター用顔料着色剤(疑似カラーレジスト)を得た。
【0181】
【0182】
なお、表7中の「感光性アクリル樹脂ワニス」は、BzMA/MAA共重合物にメタクリル酸グリシジルを反応させて得られたアクリル樹脂を含むワニスを用いた。このアクリル樹脂のMnは6000であり、PDIは2.38であり、酸価は110mgKOH/gであった。また、「TMPTA」は、トリメチロールプロパントリアクリレートを示し、「HEMPA」は2−ヒドロキシエチル−2−メチルプロピオン酸を示し、「DEAP」は2,2−ジエトキシアセトフェノンを示す。
【0183】
次いで、シランカップリング剤で処理したガラス基板をスピンコーターにセットした。そして、応用例6、7及び比較応用例3で作製した疑似カラーフィルター用顔料着色剤を300rpmで5秒間の条件で、それぞれガラス基板上にスピンコートした。そして、120℃で10分間プリベイクを行った後、超高圧水銀灯を用いて100mJ/cm2の光量で露光し、それぞれの青色ガラス基板を製造した。
【0184】
得られたそれぞれのガラス基板(以下、カラーガラス基板と記載)は、いずれも優れた分光カーブ特性を有した。図5に、比較応用例2の比較ブルー顔料を用いた比較応用例3の塗膜と、本発明の樹脂処理顔料をそれぞれに用いた応用例6と7の塗膜について、それぞれの分光カーブを示した。その結果、図5に示した通り、本発明の色素ブロックコポリマー由来の吸収が確認された。
【0185】
また、この露光前のガラス基板を、250℃で一時間放置し、その透過率の変化を調べて、結果を図6に示した。その結果、本発明の樹脂処理顔料を用いた応用例6、7の疑似カラーフィルター用顔料着色剤の場合は、熱による透過率の減少が少ないが、一方、比較応用例3の場合は、透過率が減少していることがわかる。これは、顔料粒子の表面が本発明のA−Bブロックコポリマー(色素ブロックコポリマー)によって処理されることによって、特に、イオン性を有するBのポリマーブロックによって処理されたことで、その耐熱性が良好になったものと考えられる。また、本発明の色素ブロックコポリマーでは染料がポリマー化しているので、熱による染料の揮散がないことも確認された。
【0186】
次に、下記のようにしてアルカリ現像性試験を行った。すなわち、応用例6、7、比較応用例3の各疑似カラーフィルター用顔料着色剤を用いてスピンコートしてプリベイクを行ったカラーガラス基板に、0.1Nのテトラメチルアンモニウムハイドロキサイド水溶液を5秒ごとにスポットし、「何秒後に塗膜の露光部が溶解するか」といった現像試験を行った。その結果を表8に示した。
【0187】
【0188】
表8に示したように、本発明の樹脂処理顔料を用いた応用例6、7の着色剤を使用した場合は、従来の比較応用例3の着色剤を使用した場合と比較して現像時間が短い結果が得られた。また、その溶解挙動も膜状のカスが出ず、さらに、溶解せずに残存した塗膜の端部(エッジ)を顕微鏡で観察したところ、シャープであることがそれぞれ確認できた。これは、樹脂処理顔料の有するAのポリマーブロックがアルカリにて中和され、且つBのポリマーが顔料に吸着しているため、水に溶解して現像性が良好になったものと考えられる。一方、比較応用例3の着色剤を使用した場合は、溶解時間が若干かかり、溶解挙動も小片の膜となって脱離しているだけでなく、エッジが若干残っていることが確認された。これらは、比較応用例3の着色剤では顔料分散剤がアルカリ現像できないものであるためと考えられる。すなわち、本発明の樹脂処理顔料を用いた着色剤を用いることで、現像時間を短縮することができ、生産性を向上させることが可能になること期待される。
【0189】
(比較応用例4)
次に、ジオキサジン系バイオレット顔料PV−23の微細化品、及び銅フタロシアニンモノスルホン酸を顔料に対して5%処理した顔料(以下、「比較バイオレット顔料」と記す)を使用して、比較応用例2と同様にして、市販の顔料分散剤にて分散し、比較バイオレット顔料分散液を調製した。これは、従来公知の着色剤の分散を模した比較用の顔料分散液である。この比較用の顔料分散液を用いて、表5に示した比較応用例2で使用したPB−15:6を、PB−15:6とPV−23との比が85:15になるように配合したこと以外は、比較応用例2と同様にして顔料分散液を調製した。得られた顔料分散液を用いて比較応用例3と同様にしてブルーの疑似カラーフィルター用顔料着色剤(疑似カラーレジスト)を得、これを、比較応用例4とした。
【0190】
得られた比較応用例4の着色剤を用い、先に述べたと同様にガラス基板上にスピンコートした。そして、90℃で2分間プリベイクを行った後、230℃で30分ポストベイクを行い、超高圧水銀灯を用いて100mJ/cm2の光量で露光し、青色ガラス基板を製造した。
【0191】
上記ブリベイク及びポストベイクの際における、コントラスト(CR)及び透明性の指標であるY値を測定した。具体的には、コントラスト測定機(コントラストテスター CT−1 壺坂電機社製)にて、y=0.074として、コントラスト(CR)、透明性の指標であるY値の測定を行った。その結果を表9に示した。なお、測定結果は、比較応用例4の着色剤を用いた場合のプリベイクのCR、Y値を100%とし、相対的に示した。応用例6及び7の着色剤を用いた場合における各値についても、併せて表9に示した。
【0192】
【0193】
表9に示されているように、通常の顔料分散液を用いた比較応用例4の着色剤に比べて、本発明の樹脂処理顔料を用いた応用例6、7の着色剤の場合は、色素由来の発色、透明性において、高コントラスト性、高透明性を得ることができた。また、耐熱性が良好で、高温であっても、物性値の低下はほとんどみられなかった。
【0194】
次に、応用例6、7及び比較応用例4でそれぞれ得た青色ガラス基板を用い、スーパーUV試験機にて、耐光性試験を行った。60mW/cm2で30時間照射し、照射前と照射後の色差を測定した。比較応用例4で得た従来の着色剤を用いた青色ガラス基板の色差ΔEは0.2であり、顔料由来の耐光性が確認できた。一方で、本発明の樹脂処理顔料を含む着色剤を用いた青色ガラス基板の色差ΔEは、応用例6では0.4、応用例7では0.4であり、比較応用例4に比べて耐光性が劣る結果ではあったものの、十分に耐光性が高く、使用に適する範囲であり、特に問題はなかった。
【0195】
以上のように、本発明の実施例の樹脂処理顔料を用いてなる着色剤は、分散性、保存安定性、光学特性、耐熱性、アルカリ現像性、耐光性に優れていることが分かり、特に、カラーフィルター用の着色剤として非常に有用であることが示された。
【0196】
<実施例11:処理シアン顔料−1の調製>
5リッターフラスコに、PB−15:3(A−220JC、大日精化工業社製)の水ペースト(固形分29.6%)を337.8部仕込み、さらに、スルホン酸基を有する界面活性剤であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(分子量348.5、以下、「SDS」とも記載)を1.5部、イオン交換水を59.2部添加した後、ディスパーで撹拌して、ミルベースを作成した。次いで、前記した横型メディア分散機を使用し、同様にしてミルベース中に顔料を十分に分散させ、顔料分散液を得た。
【0197】
上記で得られた顔料分散液を、顔料濃度5%になるように水にて希釈した。ホモジナイザーで撹拌しながら、ダイレクトブルー199(Sirius Turcoise S−FBL、ダイスタージャパン社製、以下DB−199、理論分子量909.4、平均分子内に1個のスルホン酸ナトリウム基を有する)を15部仕込んだ。5000rpmで1時間撹拌し、顔料と染料を解膠した後、一部を採り、ろ紙にスポットした。次いで、合成例1で得られたA−Cブロックコポリマー−1の溶液を144.4部とイオン交換水を144.4部混合して均一化した水溶液を徐々に添加しところ、ある時点で増粘することが確認できた。次いで、そのまま1時間撹拌した。その後、溶液の一部をスポットし、その結果を前記したスポットと合わせて図7に示した。
【0198】
図7はスポットしたものの表面の状態であり、左側のものが、顔料と染料を解膠した時点でのスポットである。中心の顔料と、ブリードしている染料が確認できる。また、右側のものは、A−Cブロックコポリマーを添加し、増粘した後にスポットしたものであるが、染料のブリードは確認できない。このことから、A−Cブロックコポリマーの有する塩化物イオンと染料の有するナトリウムイオンとが脱塩反応を起こして、A−Bブロックコポリマーとなり、不溶化、析出して、顔料が処理されたことが確認できた。図7の結果は、A−Bブロックコポリマーで顔料が処理されたことが推測される。
【0199】
次いで、ろ過して水でよく洗浄したところ、ろ過性は非常に良好であり、透明で染料が流れていないことを確認できた。このことからも、本発明で規定する色素ポリマーのA−Bブロックコポリマーが形成され、顔料が処理されたと考えられる。このようにして樹脂処理顔料を得、その水ペーストの固形分は35.5%であった。上記で調製した樹脂処理顔料は、予めスルホン酸基を有する界面活性剤であるSDSにて微細に分散された顔料を有する水系溶媒中で調製を行うことで、処理された顔料も微細な状態で処理されることを意図したものである。この場合は、分散剤として使用したドデシルベンゼンスルホン酸(SDS)も、一部のA−Cブロックコポリマーと塩交換して、吸着に寄与すると考えられる。このため、SDSが導入されたものは色素として扱わないが、塩交換反応されたモノマーを含むのでA−Bブロックコポリマーであるとして扱う。
【0200】
上記で得られた樹脂処理顔料は、先に説明した実施例6と同様の理論計算値によれば、顔料100部に対し、A−Bブロックコポリマーにて理論的に約73.1%で処理された顔料である。なお、上記したようにSDSが導入されたものは色素として扱わないが、A−Bブロックコポリマーであるとした。また、SDSとDB−199のスルホン酸基に対し、A−Cブロックコポリマーの第4級塩をほぼ等モルで反応させたものである。これを処理シアン顔料−1と称す。この処理シアン顔料−1は、本発明で規定する色素含有メタクリレート(色素モノマー単位)のA−Bブロックコポリマー中における含有量は32.3%であり、Bのポリマーブロック中の含有量は46.5%であり、さらに、顔料100部に対するA−Bブロックコポリマーは73.1部であり、処理顔料に含有される顔料分は57.8%である。
【0201】
(応用例8:シアン水性顔料分散液の調製)
上記で得た処理シアン顔料−1の水ペーストを487.3部、BDGを20部、ジエタノールアミンを5部、イオン交換水43.3部を混合した後、ディスパーで撹拌してミルベースを作成した。最初は流動性のない状態であったが、撹拌するにしたがって流動性が出てきた。十分混合した後、次いで、前記した横型メディア分散機を使用し、周速10m/sで分散処理し、ミルベース中に顔料を十分に分散させた。得られたミルベースを10μmのメンブレンフィルターでろ過し、次いで5μmのメンブレンフィルターでろ過した。この際、フィルターの詰まりはまったく観察されなかった。顔料分を15質量%になるようにイオン交換水を加えて調整し、本発明で規定するシアン水性顔料分散液を得た。得られたシアン水性顔料分散液に含まれる顔料の数平均粒子径は103nmであり微分散されていた。また、粘度は、E型粘度計を用いて測定したところ、25℃、60rpmで3.30mPa・sであり、顔料に対して処理されている樹脂分が高いにもかかわらず、低粘度を示した。その理由は、溶解しているポリマー成分がないためと考えられる。
【0202】
(比較応用例5:比較シアン水性顔料分散液の調製)
上記で得たシアン水性顔料分散液と比較するため、前記したPB−15:3の顔料を、従来公知の分散剤を用いて分散し、比較シアン水性顔料分散液を調整した。詳しくは、分散剤として、ランダムポリマー型の分散剤である、スチレンマレイン酸共重合体(酸価200mgKOH/g、数平均分子量5000、PDI2.3、ジエタノールアミン中和水溶液、固形分25%)を使用して、顔料100部に対して、分散剤を固形分で30部使用した以外は、応用例8と同様にして分散し、比較シアン水性顔料分散液を得た。得られた比較シアン水性顔料分散液に含まれる顔料の数平均粒子径は99nmであり微分散されていた。また、E型粘度計を用いて測定したところ、粘度は、25℃、60rpmで3.69mPa・sであった。
【0203】
応用例8得られたシアン水性顔料分散液と比較応用例5で得た比較シアン水性顔料分散液の保存安定性試験を、以下の方法で行った。ガラス瓶に入れ、70℃に設定された恒温槽に、それぞれの分散液を入れ、1週間放置した後の粘度と平均粒子径の変化について試験した。その結果、本発明の樹脂処理顔料を用いたシアン水性顔料分散液の平均粒子径は103nmであり、粘度は3.21mPa・sであり、保存による物性の変化は見られず、高度な分散安定性を保持していることが確認できた。これは、本発明のA−Bブロックコポリマーが、顔料に著しく吸着して保存安定性を高めることによるものと考えられる。一方、比較シアン水性顔料分散液では、平均粒子径135nm、粘度5.6mPa・sであり、顔料が凝集しており、増粘も見られ、保存安定性が悪いという結果であった。
【0204】
次いで、両方の顔料分散液を使用して、シアン顔料分3%、BDG1.8%、1,2−ヘキサンジオール5%、グリセリン15%、サーフィノール465を1%となるように残量を水で調整してインクを作成した。そして、それぞれのインク中の顔料の平均粒子径、粘度及び保存安定性試験を、前記した方法で行った。結果を表10に示した。
【0205】
【0206】
上記の結果より、本発明の処理顔料を使用したインクは、顔料分散液の場合と同様に、長期保存安定性に優れていることが確認された。
【0207】
次いで、上記で作製した各インクをカートリッジに装填し、プリンタにてベタ印刷し、印刷適性を評価した。その際、プリンタは、セイコーエプソン株式会社製のインクジェットプリンタEM930Cを用いて、専用写真用光沢紙(PGPP)、米国ゼロックス社製ゼロックス紙4024、専用フォトマット紙に、それぞれフォト720dpiでの印刷モードでベタ印刷を行った。この結果、応用例8の本発明のシアン水性顔料分散液を使用したインクは、長期に印刷を続けてもスジやヨレ、ドットの抜けなどが確認されなかった。また、イングシェットのノズルから問題なく吐出可能であることが確認された。一方で、比較シアン水性顔料分散液を使用したインクでは、10枚を過ぎた時に、スジが発生することが確認された。これは、溶解している分散剤がランダムポリマーの分散剤であるため、粘性に不良があったためと考えられる。以上の結果から、本発明の樹脂処理顔料を使用した応用例のインクは吐出安定性が良好であることを確認できた。
【0208】
また、フォトマット紙に変えて、普通紙にて印画を行った。両方のインクとも同様の画質が得られ、水滴を落としても変化が見られなかった。すなわち、染料のような水に溶解する色素をインクジェットインク(以下、IJインクと記す)として使用した場合、水滴で染料が溶解し滲みが生じるが、本発明の色素ポリマーを用いた場合では、染料である色素はポリマーと結合しているため、水で滲みなどが生じなかったと考えられる。以上の結果から、本発明の応用例のインクは耐水性が良好であることが確認できた。
【0209】
また、上記した各インクの印刷試験後、それぞれのインクジェットインクヘッドを45℃で24時間乾燥することにより、ヘッドでインクを乾燥させて吐出不可能にし、その後、プリンタのヘッドクリーニング操作を1回行い、再吐出性について評価した。応用例8の本発明のシアン水性顔料分散液を使用したインクは、問題なく吐出することができた。すなわち、本発明の顔料分散液は、いったん乾燥しても乾燥物は再度溶解、分散し、再溶解性、再分散性が良好であるとことが明らかである。これは、Aのポリマーブロックがカルボキシル基を含みイオン中和されてイオンを形成しており、乾燥しても水などの液媒体に容易に溶解するためと考えられる。このことから、本発明のA−Bブロックコポリマーで処理された顔料は、Aのポリマーブロックの効果により、再溶解性が良好であることが確認された。
【0210】
また、上記で得られた各フォトマット紙の印刷物の色相を、光学濃度(「マクベスRD−914」商品名、マクベス社製)により測定し、評価した。その結果、比較応用例5の顔料分散液を用いたインクによって形成した印刷物に比べて、本発明の顔料分散液を使用したインクによって形成した印刷物は、発色性に優れ、色彩範囲も拡大していることが分かった。
【0211】
<実施例12:処理マゼンタ顔料−1の調製>
5リッターフラスコに、PR−122(CFR−130P、大日精化工業社製)の水ペースト(固形分30.0%)を333.3部仕込み、顔料濃度が5%になるように水にて希釈した。次いで、ホモジナイザーで撹拌しながら、AR−289を12部仕込んだ。5000rpmで1時間撹拌し、顔料と染料を解膠した後、一部を採り、ろ紙にスポットした。次いで、合成例4で得られたA−Cブロックコポリマー−4の溶液を110.8部とイオン交換水110.8部を混合して均一化した水溶液を徐々に添加したところ、ある時点で増粘することが確認できた。次いで、そのまま1時間撹拌した。その後、溶液の一部を採り、ろ紙にスポットし、その結果を前記したスポットと合わせて図8に示した。
【0212】
図8に示したように、図7に示した実施例11の場合と同様の結果を示しており、左側のものが、顔料と染料を解膠した時点でのスポットであるが、中心の顔料及びブリードしている染料が確認できる。また、右側のものは、A−Cブロックコポリマーを添加して増粘した後にスポットしたものである。染料のブリードは確認できないことから、A−Cブロックコポリマーの有する塩化物イオンと染料の有するナトリウムイオンとが脱塩反応を起こして、A−Bブロックコポリマーとなり、不溶化、析出して、顔料を処理したことが確認できた。
【0213】
次いで、ろ過して水でよく洗浄した。ろ過性は非常に良好であり、透明で染料が流れていないことを確認できた。このことからも、本発明で規定する色素ポリマーのA−Bブロックコポリマーが形成され、顔料が処理されたと考えられる。このようにして樹脂処理顔料を得、この水ペーストの固形分は33.3%であった。これを処理マゼンタ顔料−1と称す。
【0214】
上記で得られた樹脂処理顔料は、先に説明した実施例6と同様の理論計算値によれば、顔料100部に対し、AR−289がA−Cブロックコポリマーに反応して得られるA−Bブロックコポリマーにて理論的に約55.3%で処理された顔料である。樹脂処理顔料中に含まれる顔料分は64.4%である。また、AR−289のスルホン酸に対しA−Cブロックコポリマーの第4級塩をほぼ等モルで反応させたものである。また、本発明の色素含有メタクリレートのA−Bブロックコポリマー中の含有量は28.9%であり、Bのポリマーブロック中の含有量は49.2%である。
【0215】
<実施例13、14>
実施例12で使用した、合成例4で得られたA−Cブロックコポリマー−4の代わりに、実施例13では、合成例5で得られたA−Cブロックコポリマー−5を105.0部用い、実施例14では、合成例6で得られたA−Cブロックコポリマー−6を122.3部用いた以外は、いずれも実施例12と同様にして、樹脂処理マゼンタ顔料をそれぞれ調製した。いずれの場合も実施例12と同様の現象が見られ、A−Bブロックコポリマーで顔料が処理されたことが確認でき、本発明で規定する樹脂処理顔料を得ることができた。実施例13で得たものを処理マゼンタ顔料−2、実施例14で得たものを処理マゼンタ顔料−3と称す。また、顔料100部に対するA−Bブロックコポリマーの割合、樹脂処理顔料に含まれる顔料分、A−Bブロックコポリマー中の色素含有メタクリレート(色素モノマー単位)の含有量、Bのブロックコポリマー中の色素含有メタクリレートの含有量をそれぞれ、実施例12と合わせて表11に示した。
【0216】
【0217】
(応用例9:マゼンタ顔料分散液及びそれを用いたインクの調製)
応用例8と同様にして、実施例12〜14で得られた処理マゼンタ顔料−1、処理マゼンタ顔料−2或いは処理マゼンタ顔料−3を使用して、それぞれの顔料分散液を作成し、さらに、これを用いて応用例8と同様にして各インクを作成した。これらのすべての顔料分散液及びインクは、応用例8の、本発明の樹脂処理顔料を使用したシアン水性顔料分散液及びそれを用いたインクの場合と同様に、分散性、保存安定性、耐水性、印刷特性である吐出安定性、再溶解性において、いずれも良好な性能を示すことを確認した。このことから、Aのポリマーブロックが様々な酸価を有する場合でも、本発明のA−Bブロックコポリマーは、同様に優れた効果を示し、本発明の樹脂処理顔料の有用性が確認された。
【0218】
(比較応用例6:比較マゼンタ顔料分散液及びそれを用いた比較インクの調製)
上記のマゼンタ顔料分散液との比較のため、比較マゼンタ顔料分散液を調製した。具体的には、比較応用例5で使用したPB−15:3の代わりに、マゼンタ顔料であるPR−122を使用した以外は、比較応用例5と同様にして比較マゼンタ顔料分散液を得た。そして、同様にして比較マゼンタインクを作成した。
【0219】
応用例9で得た処理マゼンタ顔料−1を用いて作製したインク、及び、応用比較例6で得た比較マゼンタインクを用いて、応用例8と同様にしてインクジェットプリンターにて印画し、その印画物をフォトマット紙の印刷物の色相、光学濃度(「マクベスRD−914」商品名、マクベス社製)の測定を行った。その結果、本発明の顔料分散液を用いた場合は、比較例に比べて、発色性に優れ、色彩範囲も拡大していることが分かった。
【0220】
(応用例14:紫外線硬化性IJインク用着色剤への応用)
紫外線硬化性IJインク用着色剤への応用を検討した。前記で得た処理シアン顔料−1を40部(顔料分20部)、イソボルニルアクリレート60部、添加混合して、ディゾルバーで2時間撹拌した。顔料の塊がなくなったことを確認した後、前記した横型メディア分散機を使用して分散処理して顔料分散液を調製した。得られた顔料分散液を10μmのフィルター及び5μmのフィルターを通した。この際、フィルターの詰まりはまったくなかった。得られたシアン色顔料分散液に含まれる顔料の平均粒子径は100nmであり、粘度は19.2mPa・sであった。このように、モノマーと樹脂処理顔料を分散するだけで、良好な顔料分散液が得られた。
【0221】
上記で得た顔料分散液を70℃で1週間放置した後の平均粒子径と、粘度(保存後の粘度)とを測定した。その結果、平均粒子径は98nm、粘度は19.0mPa・sであった。先に記載したように、試験前の顔料分散液に含まれる顔料の平均粒子径は100nm前後と微細であり、さらに、初期の粘度が低くかったが、保存安定性試験でも、平均粒子径と粘度の変化はほとんどなく、非常に安定していた。
【0222】
また、先にも述べたように、本発明の樹脂処理顔料は、予め顔料分散剤として機能するA−Bブロックコポリマーで処理されたものであるため、溶媒であるモノマーに添加して分散するだけで、高度に分散され、高安定性を保持することが確認された。
【0223】
次いで、上記で得た顔料分散液を使用して以下の配合で、紫外線硬化性IJインクを調製した。
上記の顔料分散液 12.5部
イソボロニルアクリレート 44.5部
1,6−ヘキサンジオールジアクリレート 25部
トリメチロールプロパントリアクリレート 7部
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 3部
ルシリンTPO(光重合開始剤 BASF社製) 3部
イルガキュア819(光重合開始剤 BASF社製) 2部
イルガキュア127(光重合開始剤 BASF社製) 3部
インクを十分撹拌した後、ポアサイズ10μmのメンブランフィルターで、次いで5μmのメンブランフィルターでろ過を行い、IJインクを得た。
【0224】
上記で調製したインク中の顔料粒子径を測定したところ、98nmで、インクの粘度は3.7mPa・sであった。褐色サンプル瓶にインクを装てんし、前記した保存安定性の試験を行なったところ、上澄み、沈降がまったく見られず、保存後のインク中の顔料の平均粒子径は99nmで、粘度は3.6mPa・sであった。本発明の樹脂処理顔料を用いることで、その顔料吸着部が顔料から脱離することなく吸着することが達成され、インクの保存安定性が良好になることがわかった。
【0225】
次いで、上記で得た紫外線硬化性IJインクをカートリッジに装填し、コニカミノルタ社製EB100インクジェットプリンターを使用し、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムにベタ印刷を1時間連続して行って印画した。この結果、ヘッドの詰まりがなくスムースに印画でき、その画像であるベタ印刷に筋やよれなどがまったく見られず、また、長時間印刷を行っても、良好な吐出安定性を示した。
以上の如く、本発明で規定した樹脂処理顔料を使用したインクは、多くのモノマーを含有した紫外線硬化性のインクのような場合であっても、良好な吐出安定性、筋やよれのない印画物を与えることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0226】
本発明によれば、本発明で規定する、その構造中にイオン結合を介して色素分子を有する特有のA−Bブロックコポリマーを使用して顔料を処理することによって、容易に有用な樹脂処理顔料が得られ、この樹脂処理顔料は、分散することで、高微粒子分散性、高長期保存安定性を示し、その性能に加えて、カラーフィルター用着色剤として使用した場合は、高透明性、高コントラスト性、良好なアルカリ現像性を与え、さらに、水性のインクジェットインクとして使用した場合は、再溶解性、吐出安定性が付与されるという、多様な使用方法に適用できる特性を有するものであることが確認され、その広範な利用が期待される。加えて、本発明のA−Bブロックコポリマーは、その構造中にイオン結合を介して色素分子を有するので、これを用いて顔料を処理してなる樹脂処理顔料は、分散させる顔料の発色性に加えて、ポリマー中に存在する色素の発色性が加わり、さらなる色性能が向上し、従来の着色剤では達成し得なかった色相を表現できる可能性があり、この点からも期待される。また、その構造中にイオン結合を介して色素分子を有するA−Bブロックコポリマーであるので、樹脂処理顔料は、耐熱性、耐光性が向上したものとなる。さらに、本発明が提供する樹脂処理顔料は、水性、油性のどちらでも使用可能で、塗料、インク、文具用の着色剤、特にカラーフィルター用着色剤、UV−IJ用着色剤、高速印刷対応のインクジェット印刷システムに適するインクジェットインクを提供でき、多様な分野での使用が期待される。
図1
図2
図3
図5
図6-1】
図6-2】
図6-3】
図4
図7
図8