(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。また、本明細書において車両を加速させるトルクを正方向のトルクとし、車両を減速させるトルクを負方向のトルクとする。
【0015】
[実施の形態1]
図1は、実施の形態1に従う車両の全体ブロック図である。
図1を参照して、車両1は、エンジン(E/G)100と、第1モータジェネレータ(以下「第1MG」という)200と、動力分割装置300と、第2モータジェネレータ(以下「第2MG」という)400と、自動変速機(A/T)500と、電力制御装置(Power Control Unit、以下「PCU」という)600と、バッテリ700と、摩擦ブレーキ800と、電子制御装置(Electronic Control Unit、以下「ECU」という)1000とを含む。
【0016】
エンジン100は、ECU1000からの制御信号CSEに基づいて、駆動輪82を回転させるためのパワーを発生する。エンジン100が発生したパワーは動力分割装置300に入力される。
【0017】
動力分割装置300は、エンジン100から入力されたパワーを、自動変速機500を介して駆動輪82に伝達されるパワーと、第1MG200に伝達されるパワーとに分割する。動力分割装置300は、サンギヤ(S)310、リングギヤ(R)320、キャリア(C)330、およびピニオンギヤ(P)340を含む遊星歯車機構(差動機構)である。サンギヤ(S)310は、第1MG200のロータに連結される。リングギヤ(R)320は、自動変速機500を介して駆動輪82に連結される。ピニオンギヤ(P)340は、サンギヤ(S)310とリングギヤ(R)320とに噛合する。キャリア(C)330は、ピニオンギヤ(P)340を自転かつ公転自在に保持する。キャリア(C)330は、エンジン100のクランクシャフトに連結される。
【0018】
第1MG200および第2MG400は、交流の回転電機であって、モータとしてもジェネレータとしても機能する。第2MG400は、動力分割装置300と自動変速機500との間に設けられる。より具体的には、動力分割装置300のリングギヤ(R)320と自動変速機500の入力軸とを連結する回転軸350に第2MG400のロータが接続される。
【0019】
自動変速機500は、回転軸350と駆動軸560との間に設けられる。自動変速機500は、複数の油圧式の摩擦係合要素(クラッチおよびブレーキなど)を含むギヤユニットと、ECU1000からの制御信号CSAに応じた油圧を各摩擦係合要素に供給する油圧回路とを備える。複数の摩擦係合要素の係合状態が変更されることによって、自動変速機500は、係合状態、スリップ状態および解放状態のいずれかの状態に切り替えられる。係合状態では、自動変速機500の入力軸の回転パワーの全部が自動変速機500の出力軸に伝達される。スリップ状態では、自動変速機500の入力軸の回転パワーの一部が自動変速機500の出力軸に伝達される。解放状態では、自動変速機500の入力軸と出力軸との間の動力伝達が遮断される。
【0020】
また、自動変速機500は、ECU1000からの制御信号CSAに基づいて、係合状態における変速比(出力軸回転速度に対する入力軸回転速度の比)を予め定められた複数の変速段(変速比)のうちのいずれかに切替可能に形成される。なお、自動変速機500は、通常は係合状態に制御されるが、変速中は一時的にスリップ状態または解放状態となり、変速終了後に再び係合状態に戻される。
【0021】
PCU600は、ECU1000からの制御信号CSPに基づいて、バッテリ700から供給される直流電力を交流電力に変換して第1MG200および/または第2MG400に出力する。これにより、第1MG200および/または第2MG400が駆動される。また、PCU600は、第1MG200および/または第2MG400によって発電される交流電力を直流電力に変換してバッテリ700へ出力する。これにより、バッテリ700が充電される。
【0022】
バッテリ700は、第1MG200および/または第2MG400を駆動するための高電圧(たとえば200V程度)の直流電力を蓄える。バッテリ700は、代表的にはニッケル水素やリチウムイオンを含んで構成される。なお、バッテリ700に代えて、大容量のキャパシタも採用可能である。
【0023】
ここで、第2MG400は、車両1の減速時に電力回生を行うことによって回生ブレーキとしても機能することができる。第2MG400は、車両1の運動エネルギを電気エネルギに変換することによって制動力を発生する。第2MG400が発生した制動力は、自動変速機500を介して駆動軸560へ伝達される。このとき、第2MG400は、ECU1000からの制御信号CSPに基づいて制動力が制御される。
【0024】
摩擦ブレーキ800は、駆動輪82を制動するためのブレーキである。摩擦ブレーキ800は、摩擦によって車両1の運動エネルギを熱エネルギに変換して制動力を発生する。摩擦ブレーキ800は、たとえば、ディスクブレーキやドラムブレーキを含んで構成される。摩擦ブレーキ800は、ECU1000からの制御信号CSBに基づいて制動力が制御される。このように、車両1は、回生ブレーキとしての第2MG400による制動力と、摩擦ブレーキ800による制動力とのうちの少なくとも一方を用いて減速することができる。
【0025】
車両1は、エンジン回転速度センサ10と、車速センサ15と、レゾルバ21,22と、ブレーキペダルストロークセンサ31と、監視センサ32とをさらに含む。エンジン回転速度センサ10は、エンジン100の回転速度(以下「エンジン回転速度ωe」という)を検出する。車速センサ15は、駆動軸560の回転速度を車速Vとして検出する。レゾルバ21は、第1MG200の回転速度(以下「第1MG回転速度ωg」という)を検出する。レゾルバ22は、第2MG400の回転速度(以下「第2MG回転速度ωm」という)を検出する。ブレーキペダルストロークセンサ31は、ユーザによるブレーキペダル30の操作量(以下「ブレーキ操作量Bp」という)を検出する。監視センサ32は、バッテリ700の状態(バッテリ電圧Vb、バッテリ電流Ib、バッテリ温度Tbなど)を検出する。これらの各センサは、検出結果をECU1000に出力する。
【0026】
ECU1000は、図示しないCPU(Central Processing Unit)およびメモリを内蔵し、当該メモリに記憶された情報や各センサからの情報に基づいて所定の演算処理を実行する。ECU1000は、演算処理の結果に基づいて車両1に搭載される各機器を制御する。
【0027】
ECU1000は、ブレーキ操作量Bpに基づいて要求制動トルクBrqを算出する。ECU1000は、要求制動トルクBrqを満足するように第2MG400で発生する回生制動トルクTmと摩擦ブレーキ800で発生する摩擦制動トルクTbkを算出する。ECU1000は、第2MG400が実際に発生する制動力が回生制動トルクTmとなるように第2MG400を制御する。また、ECU1000は、摩擦ブレーキ800が実際に発生する制動力が摩擦制動トルクTbkとなるように摩擦ブレーキ800を制御する。
【0028】
ECU1000は、監視センサ32の検出結果に基づいてバッテリ700の残存容量(State Of Charge、以下「SOC」ともいう)を算出する。ECU1000は、SOCおよびバッテリ温度Tbなどに基づいて、バッテリ出力可能電力WOUTおよびバッテリ受入可能電力WIN(単位はいずれもワット)を設定する。ECU1000は、バッテリ700の実出力電力Pboutがバッテリ出力可能電力WOUTを超えないようにPCU600を制御する。また、ECU1000は、バッテリ700の実受入電力Pbinがバッテリ受入可能電力WINを超えないようにPCU600を制御する。このとき、第1MG200および第2MG400の損失を考慮してもよい。
【0029】
ECU1000は、予め定められた変速マップを参照して駆動力および車速Vに対応する目標変速段を決定し、実際の変速段が目標変速段となるように自動変速機500を制御する。なお、上述したように、自動変速機500は、通常は係合状態に制御されるが、変速中(アップシフト中またはダウンシフト中)は一時的にスリップ状態または解放状態となり、変速終了後に再び係合状態に戻される。
【0030】
図2は、
図1に示す動力分割装置300の共線図を示す図である。
図2に示すように、サンギヤ(S)310の回転速度(すなわち第1MG回転速度ωg)、キャリア(C)330の回転速度(すなわちエンジン回転速度ωe)、リングギヤ(R)320の回転速度(すなわち第2MG回転速度ωm)は、動力分割装置300の共線図上で直線で結ばれる関係(いずれか2つの回転速度が決まれば残りの回転速度も決まる関係)になる。リングギヤ(R)320と駆動軸560との間に自動変速機(A/T)500が設けられている。そのため、第2MG回転速度ωmと車速Vとの比は、自動変速機500で形成される変速段(変速比)によって決まる。なお、
図2には、自動変速機500が1速〜4速のいずれかの前進変速段を形成可能な場合が例示されている。
【0031】
図3は、自動変速機500での変速時の回転変化の様子を模式的に共線図上に示した図である。
図3に示すように、変速時(ダウンシフト時あるいはアップシフト時)には、車速Vはほとんど変化せず固定される。そのため、ダウンシフト時(変速比を上げる時)には、一点鎖線に示すように、自動変速機500の入力軸回転速度(すなわち第2MG回転速度ωm)を上昇させる必要がある。逆に、アップシフト時(変速比を下げる時)には、二点鎖線に示すように、自動変速機500の入力軸回転速度を低下させる必要がある。
【0032】
以上のような構成において、通常の制動時においては、減速時にエネルギを最大限回収することができるように、回生制動トルクTmと摩擦制動トルクTbkとの配分が決定される。これにより、車両1の運転効率を高めて航続距離を延ばすことができる。
【0033】
具体的には、まず、要求制動トルクBrqに対して回生制動トルクTmが決定される。このとき、第2MG400が回生可能トルクが算出される。回生可能トルクは、第2MG400の最大回生トルクおよびバッテリ受入可能電力WINに基づいて算出される。具体的には、回生可能トルクは、第2MG400の最大回生トルク内において、実受入電力Pbinがバッテリ受入可能電力WINを超えないように算出される。
【0034】
そして、要求制動トルクBrqを回生ブレーキのみによって発生することができる場合には、要求制動トルクBrqが回生制動トルクTmとして決定される。一方、要求制動トルクBrqを回生ブレーキのみによって発生することができない場合には、回生可能トルクが回生制動トルクTmとして決定される。
【0035】
次に、要求制動トルクBrqと回生制動トルクTmとの差分が摩擦制動トルクTbkとして決定される。これにより、第2MG400によって発生することができない制動力の部分を摩擦ブレーキ800の制動力によって補うことができる。このように、第2MG400と摩擦ブレーキ800とが協調して動作することによって、要求制動トルクBrqを満足する制動が実現される。
【0036】
ここで、制動中に変速動作が実行されると、自動変速機500の変速ショックを抑制するために回生制動トルクTmが調整される。自動変速機500の変速過渡期は、自動変速機500内のクラッチやブレーキのトルク分担が変化するトルク相と、トルク相に続いて回転変化が生じるイナーシャ相とに大別される。
【0037】
トルク相では、自動変速機500の入力軸の回転数Ninが保たれたまま変速比が変化する。このとき、自動変速機500の出力軸に作用する変速機出力制動トルクTpの変動を抑制するように自動変速機500の入力軸に入力される入力トルクを調整するトルク相補償制御が実行される。なお、上記入力トルクは、第2MG400のトルクおよび動力分割装置300を介してエンジン100から伝達されるエンジン直達トルクTeの合計である。
【0038】
一方、イナーシャ相では、自動変速機500の変速比が保たれたまま自動変速機500の入力軸の回転数Ninが変化する。このとき、回転速度Ninの変化による変速機出力制動トルクTpの変動を抑制するために自動変速機500の入力軸に入力される入力トルクを調整するイナーシャ相補償制御が実行される。ここで、イナーシャ相補償制御のために調整された分の入力トルクは、自動変速機500の出力軸に作用しない。
【0039】
このため、制動中にダウンシフトが実行されると、特に、イナーシャ相においては、第2MG400の回生制動トルクTmに基づいて計算される変速機出力制動トルクが、実際の変速機出力制動トルクTpに一致しない場合がある。そのため、要求制動トルクBrqを満足するためには、変速動作を考慮して摩擦制動トルクTbkを決定する必要がある。
【0040】
そこで、本実施の形態においては、変速動作の非実行中には、回生制動トルクTmに基づいて摩擦制動トルクTbkが決定される一方、変速動作の実行中には、変速機出力制動トルクTpに基づいて摩擦制動トルクTbkが決定される。このため、変速動作の非実行中には、第2MG400が出力している回生制動トルクTmを用いることによって、簡易かつ正確に摩擦制動トルクTbkを算出することができる。一方、変速動作の実行中には、変速機出力制動トルクTpを用いることによって、変速ショック低減のための回生制動トルクTmの調整の影響を抑制することができる。以下、この制動処理の内容について詳しく説明する。
【0041】
図4は、
図1に示すECU1000が実行する制動制御に関する機能ブロック図である。
図4の機能ブロック図に記載された各機能ブロックは、ECU1000によるハードウェア的あるいはソフトウェア的な処理によって実現される。
【0042】
図4とともに
図1を参照して、ECU1000は、変速制御部1001と、回生制御部1002と、ブレーキ制御部1003とを含む。
【0043】
変速制御部1001は、予め定められた変速マップを参照して駆動力および車速Vに対応する目標変速段を決定し、実際の変速段が目標変速段となるように自動変速機500を制御する。変速制御部1001は、変速比を変更するための変速動作を実行する。変速制御部1001は、変速動作の実行中に、駆動軸560に作用する変速機出力制動トルクTpの変動を抑制するように回生制動トルクTmを補正するための補正量Tcを算出する。
【0044】
変速制御部1001は、自動変速機500を制御するための制御信号CSAを自動変速機500へ出力する。変速制御部1001は、補正量Tcを回生制御部1002へ出力する。変速制御部1001は、変速動作の実行中であることを示す信号CHGをブレーキ制御部1003へ出力する。
【0045】
回生制御部1002は、ブレーキ制御部1003から受ける要求制動トルクBrqに応じて、第2MG400の回生制動トルクTmを制御する。まず、回生制御部1002は、第2MG400の回生可能トルクを算出する。回生可能トルクは、第2MG400の最大回生トルクおよびバッテリ受入可能電力WINに基づいて算出される。具体的には、回生可能トルクは、第2MG400の最大回生トルク内において、実受入電力Pbinがバッテリ受入可能電力WINを超えないように算出される。
【0046】
なお、回生制御部1002は、モータ温度、インバータ素子の温度などに基づいて第2MG400の最大回生トルクを制限してもよい。これにより、モータおよびインバータを故障から保護することができる。
【0047】
回生制御部1002は、要求制動トルクBrqを回生ブレーキのみによって発生することができる場合には、要求制動トルクBrqを回生制動トルクTmとして決定する。一方、回生制御部1002は、要求制動トルクBrqを回生ブレーキのみによって発生することができない場合には、回生可能トルクを回生制動トルクTmとして決定する。
【0048】
回生制御部1002は、変速制御部1001から受けた補正量Tcを回生制動トルクTmに付加する。回生制御部1002は、第2MG400が実際に発生するトルクが回生制動トルクTmとなるように第2MG400を制御する。回生制御部1002は、PCU600を制御するための制御信号CSPをPCU600へ出力する。
【0049】
回生制御部1002は、回生可能トルクに基づいて駆動軸560に作用する変速機出力制動トルクTpを算出する。回生制御部1002は、回生可能トルクおよびエンジン直達トルクTeの合計に変速比を乗算した値と、要求制動トルクBrqとのうちの大きい方を変速機出力制動トルクTpとして決定する。回生制御部1002は、回生制動トルクTmを示す信号、および変速機出力制動トルクTpを示す信号をブレーキ制御部1003へ出力する。
【0050】
ブレーキ制御部1003は、ブレーキペダルストロークセンサ31からブレーキ操作量Bpを受ける。ブレーキ制御部1003は、ブレーキ操作量Bpに基づいて要求制動トルクBrqを算出する。ブレーキ制御部1003は、要求制動トルクBrqを回生制御部1002へ出力する。
【0051】
ブレーキ制御部1003は、変速動作の非実行中には、回生制動トルクTmに基づいて摩擦制動トルクTbkを決定する。具体的には、ブレーキ制御部1003は、回生制動トルクTmおよびエンジン直達トルクTeの合計に変速比を乗算した値を要求制動トルクBrqから差し引いた値を、摩擦制動トルクTbkとして決定する。
【0052】
一方、ブレーキ制御部1003は、変速動作の実行中には、変速機出力制動トルクTpに基づいて摩擦制動トルクTbkを決定する、具体的には、ブレーキ制御部1003は、変速機出力制動トルクTpを要求制動トルクBrqから差し引いた値を、摩擦制動トルクTbkとして決定する。ブレーキ制御部1003は、摩擦ブレーキ800が実際に発生する制動力が摩擦制動トルクTbkとなるように摩擦ブレーキ800を制御する。ブレーキ制御部1003は、摩擦ブレーキ800を制御するための制御信号CSBを摩擦ブレーキ800へ出力する。
【0053】
図5は、
図1に示すECU1000が実行する制動制御の制御構造を示すフローチャートである。
図5に示すフローチャートは、ECU1000に予め格納されたプログラムを所定周期で実行することによって実現される。あるいは、一部のステップについては、専用のハードウェア(電子回路)を構築して処理を実現することも可能である。
【0054】
図5とともに
図1を参照して、ECU1000は、ステップ(以下、ステップをSと略す。)10にて、ブレーキ中であるか否かを判定する。具体的には、ECU1000は、ユーザによってブレーキペダル30が操作されているときにブレーキ中であると判定する。ブレーキ中でないと判定された場合は(S10にてNO)、以降の処理はスキップされて処理がメインルーチンに戻される。
【0055】
ブレーキ中であると判定された場合は(S10にてYES)、ECU1000は、ブレーキ操作量Bpに基づいて要求制動トルクBrqを算出する(S12)。
【0056】
続いてS14にて、ECU1000は、要求制動トルクBrqに応じて第2MG400の回生制動トルクTmを算出する。具体的には、ECU1000は、要求制動トルクBrqを回生ブレーキのみによって発生することができる場合には、要求制動トルクBrqを回生制動トルクTmとして決定する。一方、ECU1000は、要求制動トルクBrqを回生ブレーキのみによって発生することができない場合には、回生可能トルクを回生制動トルクTmとして決定する。
【0057】
続いてS16にて、自動変速機500が変速中であるか否かを判定する。自動変速機500が変速中であると判定された場合は(S16にてYES)、ECU1000は、変速機出力制動トルクTpを算出する(S18)。
【0058】
続いてS20にて、ECU1000は、変速機出力制動トルクTpに基づいて摩擦制動トルクTbkを算出する。ここで、ECU1000は、変速機出力制動トルクTpを要求制動トルクBrqから差し引いた値を、摩擦制動トルクTbkとして決定する。
【0059】
続いてS22にて、ECU1000は、変速ショックを抑制するために回生制動トルクTmを補正する。具体的には、ECU1000は、変速ショックを抑制するための補正量Tcを、S14で算出された回生制動トルクTmに付加する。これにより、変速機出力制動トルクTpの変動が抑制される。
【0060】
一方、S16にて変速中でないと判定された場合は(S16にてNO)、ECU1000は、回生制動トルクTmに基づいて摩擦制動トルクTbkを算出する(S24)。このとき、回生制動トルクTmの変動量が摩擦制動トルクTbkで補われて、要求制動トルクBeqが満足される。
【0061】
なお、上記において、ECU1000は、回生可能トルクから所定のトルクを差し引いた値を回生制動トルクTmとしてもよい。所定のトルクは、エンジンブレーキに相当するトルクである。これにより、回生可能トルクがエンジンブレーキに相当するトルク分と、回生制動のためのトルク分とを含むことを考慮して、回生制動トルクTmを算出することができる。
【0062】
図6は、
図1に示すECU1000が実行する制動制御の一例を示すタイムチャートである。
図6を参照して、時刻t1においてブレーキ中にダウンシフトが開始されると、トルク相において変速比が変化する。変速比の変化に応じて第2MG400の回生制動トルクTmを調整するトルク相補償制御の実行によって自動変速機500の出力軸に換算された回生制動トルクが維持される。
【0063】
時刻t2において、変速動作がトルク相からイナーシャ相へ遷移する。イナーシャ相においては、変速比が維持されたままで、自動変速機500の入力軸の回転数Ninが変化する。回転速度Ninの変化による変速機出力制動トルクTpの変動を抑制するために自動変速機500の入力軸に入力される入力トルクを調整するイナーシャ相補償制御が実行される。このとき、変速機出力制動トルクTpに基づいて摩擦制動トルクTbkが決定される。このため、変速ショック低減のための回生制動トルクTmの調整の影響を抑制することができる。なお、この例においては、第1MG200のトルクTgおよび第2MG400のトルクTmを用いてイナーシャ相補償制御が実行される場合が示される。
【0064】
時刻t3において、ダウンシフトが終了すると、回生制動トルクTmに基づいて摩擦制動トルクTbkが決定される。
【0065】
以上のように、この実施の形態1においては、変速動作の非実行中には、回生制動トルクTmに基づいて摩擦制動トルクTbkが決定される一方、変速動作の実行中には、変速機出力制動トルクTpに基づいて摩擦制動トルクTbkが決定される。このため、変速動作の非実行中には、第2MG400が出力している回生制動トルクTmを用いることによって、簡易かつ正確に摩擦制動トルクTbkを算出することができる。一方、変速動作の実行中には、変速機出力制動トルクTpを用いることによって、変速ショック低減のための回生制動トルクTmの調整の影響を抑制することができる。したがって、この実施の形態1によれば、回生制動および摩擦制動を実行可能な車両において、自動変速機の変速動作を考慮して適切な制動を実現できる。
【0066】
[実施の形態2]
実施の形態1では、車両がエンジン100を搭載したハイブリッド車両である場合を説明した。実施の形態2では、車両がエンジン100を搭載しない電気自動車である場合を説明する。
【0067】
図7は、実施の形態2に従う車両の全体ブロック図である。
図7を参照して、車両1Aは、エンジン100、第1MG200、第2MG400、動力分割装置300、およびECU1000に代えて、モータジェネレータ(以下「MG」という)400A、およびECU1000Aを含む。
【0068】
MG400Aは、交流の回転電機であって、モータとしてもジェネレータとしても機能する。MG400Aは、自動変速機500を介して駆動軸560へ接続される。制動時においては、自動変速機500の入力軸へは、MG400Aの回生制動トルクTmのみが作用する。
【0069】
図8は、
図7に示すECU1000Aが実行する制動制御の一例を示すタイムチャートである。
図8を参照して、時刻t1においてブレーキ中にダウンシフトが開始されると、トルク相において変速比が変化する。変速比の変化に応じて第2MG400の回生制動トルクTmを調整するトルク相補償制御の実行によって自動変速機500の出力軸に換算された回生制動トルクが維持される。
【0070】
時刻t2において、変速動作がトルク相からイナーシャ相へ遷移する。イナーシャ相においては、変速比が維持されたままで、自動変速機500の入力軸の回転数Ninが変化する。回転速度Ninの変化による変速機出力制動トルクTpの変動を抑制するために自動変速機500の入力軸に入力される入力トルクを調整するイナーシャ相補償制御が実行される。このとき、変速機出力制動トルクTpに基づいて摩擦制動トルクTbkが決定される。このため、回生制動トルクTmが変化しても、制動トルクを維持することができる。
【0071】
時刻t3において、ダウンシフトが終了すると、回生制動トルクTmに基づいて摩擦制動トルクTbkが決定される。ここで、本実施の形態においては、回生制動トルクTmに変速比を乗算した値を要求制動トルクBrqから差し引いた値を、摩擦制動トルクTbkとして決定する。
【0072】
時刻t4において、バッテリ受入可能電力WINが制限されると、要求制動トルクBrqに対する回生制動トルクTmによる制動力の割合が低下する。このとき、制動力の低下を補うために、摩擦制動トルクTbkの割合を増加することによって、要求制動トルクBrqが満足される。
【0073】
以上のように、この実施の形態2においても、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0074】
なお、上記の実施の形態では、自動変速機500がオートマチックトランスミッションである場合について説明したが、自動変速機500は、セミオートマチックトランスミッションやデュアルクラッチトランスミッションなどの変速比を段階的に変更する有段変速機であってもよい。
【0075】
なお、上記において、第2MG400は、減速機を介して動力分割装置300と自動変速機500との間に連結されてもよい。
【0076】
なお、上記において、第2MG400,MG400Aは、この発明における「回転電機」の一実施例に対応し、バッテリ700は、この発明における「蓄電装置」の一実施例に対応する。
【0077】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。