(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1または2に記載の製造方法において、前記マット剤は、前記塗工液中、バインダー樹脂100重量部に対して50重量部以上170重量部以下の量で含有されていることを特徴とする光学機器用遮光材の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
本実施形態に係る光学機器用遮光材は、カメラ(カメラ付き携帯電話を含む)やプロジェクタなどの光学機器の遮光部品に好適に使用しうるものであり、基材を有する。基材の少なくとも片面には、遮光膜が形成されている。本実施形態の遮光膜は、少なくともバインダー樹脂、黒色微粒子及びマット剤を含んで構成されている。
【0017】
遮光膜の厚みは、遮光材を適用する用途に応じて適宜変更可能であるが、通常は2μm〜15μmが好ましく、より好ましくは2μm〜12μm、さらに好ましくは2μm〜10μm程度である。近年、特に遮光膜の薄膜化(例えば6μm程度以下)が求められる傾向にあり、これに対処するものである。本実施形態では、後述するように特定のマット剤を含む塗布液を用いるので、基材上に形成される遮光膜の厚みを2μmとしても、低光沢度が得られやすくなるとともに、遮光膜にピンホール等が生ずるのを防止しやすく、必要十分な遮光性が得られやすい。15μm以下とすることにより、遮光膜の割れを防止しやすい。
【0018】
本実施形態の遮光膜は、特定のマット剤を含む塗工液を用いて形成されており、その結果、60度鏡面光沢度(G60)が1
%未満、好ましくは0.7
%未満、より好ましくは0.5
%未満、さらに好ましくは0.3
%未満とされている。また85度鏡面光沢度(G85)が15
%未満、好ましくは10
%未満、より好ましくは8
%未満、さらに好ましくは6
%未満とされている。なお、本実施形態の遮光膜は、G60、G85の他、20度鏡面光沢度(G20)も0.3
%未満とされている。
【0019】
鏡面光沢度は、遮光膜表面に入射した光の反射の程度を示すパラメータであり、この値が小さいほど低光沢度であるとされ、低光沢度であるほど艶消し効果があるものと判断される。60度鏡面光沢度とは、遮光膜表面の垂直方向を0度とし、ここから60度傾いた角度で入射した100の光が、反射側に60度傾いた受光部にどれだけ反射(受光部に入射)するかを示すパラメータである。85度鏡面光沢度、20度鏡面光沢度も同様の考えによる。
本実施形態では、特定のマット剤を含む塗工液を用いて遮光膜が形成されるので、遮光膜表面が特定形状に制御され、遮光膜には低光沢度領域の広い万全な艶消し効果が付与される。
【0020】
次に、上記構成を備えた光学機器用遮光材の製造方法の一例を説明する。
なお、本明細書における「平均粒径」とは、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、島津製作所社:SALD−7000など)で測定されるメディアン径(D50)を指す。
【0021】
また、本明細書で言うCV(coefficient of variation)値とは、塗布液の作成に用いる際の、粒度分布の変動係数(相対標準偏差とも言う)を意味する。この値は、粒径分布の拡がり(粒子径のばらつき)が平均値(算術平均径)に対してどの程度あるのかを表したものであり、通常は、CV値(単位
:%)=(標準偏差/平均値)
×100、で求められる。CV値は、これが小さいほど粒度分布は狭くなり(シャープ)、これが大きいほど粒度分布は広くなる(ブロード)。
【0022】
(1)まず、遮光膜形成用塗布液を準備する。
本実施形態で用いる遮光膜形成用塗布液は、少なくともバインダー樹脂、黒色微粒子、マット剤及び溶媒を含有する。
【0023】
バインダー樹脂としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリビニルブチラール樹脂、セルロース系樹脂、ポリスチレン/ポリブタジエン樹脂、ポリウレタン樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシエステル樹脂、エポキシ樹脂、アクリルポリオール樹脂、ポリエステルポリオール樹脂、ポリイソシアネート、エポキシアクリレート系樹脂、ウレタンアクリレート系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、ポリエーテルアクリレート系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、尿素系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂等の熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂が挙げられ、これらの1種又は2種以上の混合物が用いられる。耐熱用途に用いる場合には、熱硬化性樹脂が好適に用いられる。
【0024】
バインダー樹脂の含有率は、塗布液に含まれる不揮発分(固形分)中、好ましくは20重量%以上、より好ましくは30重量%以上、さらに好ましくは40重量%以上とする。20重量%以上とすることにより、基材に対する遮光膜の接着力が低下するのを防止しやすい。一方、バインダー樹脂の含有率は、塗布液の不揮発分中、好ましくは70重量%以下、より好ましくは65重量%以下、さらに好ましくは60重量%以下とする。70重量%以下とすることにより、遮光膜の必要物性(遮光性など)の低下を防止しやすい。
【0025】
黒色微粒子は、バインダー樹脂を黒色に着色させ、乾燥後塗膜(遮光膜)に遮光性を付与するために配合される。黒色微粒子としては、例えばカーボンブラック、チタンブラック、アニリンブラック、酸化鉄などが挙げられる。中でもカーボンブラックは、塗膜に遮光性と帯電防止性の両特性を同時に付与することができるため、特に好ましく用いられる。遮光性に加えて帯電防止性を要求するのは、遮光材製造後、これを所定形状に型抜きする際や、型抜き後の製品(遮光部材)を部品として光学機器内にセットする際の作業性を考慮したものである。
なお、黒色微粒子としてカーボンブラックを用いない場合には、黒色微粒子の他に、別途、導電剤や帯電防止剤を配合することも可能である。
塗膜に充分な遮光性を付与するために、黒色微粒子の平均粒径は細かいほど好ましい。本実施形態では、平均粒径が例えば1μm未満、好ましくは500nm以下のものを用いる。
【0026】
黒色微粒子の含有率は、塗布液に含まれる不揮発分(固形分)中、好ましくは5重量%〜20重量%とし、より好ましくは10重量%〜20重量%とする。5重量%以上とすることにより、遮光膜の必要物性としての遮光性の低下を防止しやすい。20重量%以下とすることにより、遮光膜の接着性や耐擦傷性が向上し、また塗膜強度の低下およびコスト高となるのを防止しやすい。
【0027】
次に、本実施形態で用いるマット剤の詳細を説明する。
本実施形態で用いるような遮光膜形成用塗布液中に配合されるマット剤は、一般に、乾燥後塗膜の表面に微細な凹凸を形成し、これによって塗膜表面での入射光の反射を少なくし塗膜の光沢度(鏡面光沢度)を低下させ、最終的には塗膜の艶消し性を高めるために配合される。この艶消し効果を得るために、特許文献1では、平均粒径のみが制御された有機フィラーを用いているが、上述したように、単に平均粒径を制御しただけでは、万全な艶消し性能を得ることができない。
【0028】
そこで本発明では、上述したように、遮光膜に艶消し効果を直接的に付与しうるマット剤の選定基準を工夫することで、万全な艶消し性を得ることができることを見出した。
【0029】
一般にマット剤には、有機系や無機系が存在するが、本実施形態では有機系の微粒子を用いることが好ましい。有機微粒子としては、例えば架橋アクリルビーズ(透明、着色の如何は不問)などが挙げられる。無機微粒子としては、例えばシリカ、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、酸化チタンなどが挙げられる。
本発明では無機微粒子を用いてもよいが、有機微粒子の方が塗膜強度を維持しつつ、万全な艶消し性能を付与させやすいので、本実施形態では有機微粒子が好ましく用いられる。
【0030】
なお、本実施形態において「有機微粒子を用いる」には、有機微粒子のみを用いる場合の他、有機微粒子とともに無機微粒子を併用する場合を含む。無機微粒子を併用する場合、全マット剤中、有機微粒子の含有量が、例えば90重量%以上、好ましくは95重量%以上となるようにすることができる。
【0031】
本実施形態では、ある粒径(一例として後述)において、そのCV値(粒度分布の変動係数)が特定値以上のものを用いる方式を採用した。具体的には、ある粒径におけるCV値が20
%以上、好ましくは25
%以上、より好ましくは30
%以上のマット剤(好ましくは有機微粒子)を用いる。こうしたマット剤を用いることで、遮光膜の膜面に対して鉛直方向にほど近い角度(例えば20度)や、60度はもとより、平面方向に近い角度(例えば85度)まで、あらゆる角度で入射してきた光に対して、その入射光に対する反射光を確実に抑えることができ、万全な艶消し性能が得られる。その結果、本実施形態で得られる遮光材を適用した光学機器内においてゴーストと呼ばれる不具合を生じることはない。
【0032】
本実施形態において、粒度分布の変動係数(CV値)がブロードのマット剤を用いた場合に、20度、60度だけではなく、85度から入射してきた光に対しても、これを確実に反射を抑えられることになった(つまりG20、G60、G85のすべてを低くできる)理由は定かではない。しかしながら、この現象は以下のように考えられる。まず、種々の入射角での入射光の反射光量を調べて見ると、遮光膜の膜面に対して鉛直方向にほど近い角度の反射光量を抑えるには、単に表面が粗れていれば低光沢になるが、G85のように水平方向に近い角度から入射した光の反射量を抑えるには、単に粗れているだけでは低光沢にならない場合があった。鋭意検討した結果、鉛直に近い方向からの入射光の反射を抑えるには、小さな凹凸で均一に粗らす手段でも有効であるが、水平に近い方向からの入射光の反射を抑えるには、小さな凹凸だけでは達成できず、小さな凹凸と大きな凹凸の両方が併存している必要があることが判った。
【0033】
ここで、マット剤の粒度分布に着目すると、シャープな分布とは粒子径が揃っているので、それを使用した塗布液からなる遮光膜の凹凸の大きさも揃ったものになりやすい。一方、粒度分布がブロードのマット剤の場合は、平均粒径をほぼ中心として、大小の粒子径のものが含まれており、それからなる遮光膜の凹凸は、大小のものが混在している。
【0034】
このような粒度分布がブロードのマット剤からなる遮光膜では、水平方向に近い角度から入射した光は、大きい凸部分で遮られ、反対方向へは到達し難く、遮られた光は、小さい凹凸で吸収されるか、乱反射されて減衰すると考えられる。従って、適度に大小のマット剤が存在し大小の凹凸があることにより、G20、G60のみならずG85も低光沢度になると推測される。
なお、ここで、大きな凹凸のみを存在させることによりG20、G60、G85のすべてを低くする手段も考えられるが、大きな凹凸のみで遮光膜を形成すると必然的に膜厚も大きくならざるを得ず、近年の薄膜化の情勢に逆行することになる。
【0035】
本実施形態では、上記CV値の基準となるマット剤の粒径として、以下の方式を採用することが好ましい。その方式は、光学機器での使用箇所に応じて遮光材の製品態様(特に遮光材全体の厚み、遮光膜の厚み)が異なってくることに鑑み、形成する遮光膜の膜厚Ttに対して、用いるマット剤の粒径を決定するものである。具体的には、形成する遮光膜の膜厚Ttに対して、そのTtの35%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは45%以上であり、またそのTtの110%以下、好ましくは105%以下、より好ましくは100%以下程度に相当する平均粒径を持つマット剤を用いることが望ましい。
【0036】
例えば、膜厚Ttに相当する乾燥後厚みが10μm以下の遮光膜を形成しようとする場合、平均粒径が3.5μm程度〜11μm程度のマット剤を用いることができる。遮光膜の乾燥後厚みを5μmにする場合、平均粒径が1.75μm程度〜5.5μm程度のマット剤を用いることができる。
このように、CV値の基準となるマット剤の粒径として上述した方式を採用することにより、万全な艶消し性能を得ることがより一層容易になる。
【0037】
本実施形態において、膜厚Ttとは、乾燥後の遮光膜を、ミリトロン1202−D(マール社製)膜厚計で、遮光膜の場所を変えて10点測定した算術平均値を意味している。
【0038】
本実施形態において、ブロードのマット剤を含む塗布液とシャープのマット剤を含む塗布液とをそれぞれ同じ付着量で塗布しても、形成される塗膜(遮光膜)の乾燥後膜厚Ttが異なる場合がある。ブロードのマット剤を含む塗布液を用いて形成した塗膜は、シャープのマット剤を含む塗布液を用いて形成した塗膜と比較して、平均粒径の値よりも大きい粒径を持つマット剤が含まれており、こうした大粒のマット剤が塗膜中に存在することによって実測膜厚を押し上げるものと考える。
【0039】
なお、従来技術の項で述べた特許文献1の技術によると、遮光膜の乾燥後厚みよりもかなり小さな粒径を持つ有機フィラーを用いてフィルム基材上に遮光膜を形成している(実施例参照。すべての実施例で平均粒径が3μmの有機フィラーを用い、遮光膜の乾燥後膜厚は実施例1〜3が10μm、実施例4が12μm)。しかしながら、こうした設計とした場合、遮光膜中に有機フィラーが埋没しやすく、遮光膜の表面付近に有機フィラーを存在させるよう制御することが難しい。その結果、遮光膜表面での入射光の反射を少なくし遮光膜の光沢度(鏡面光沢度)を低下させることができず、最終的には遮光膜の艶消し性を高めることが困難である。
仮に、遮光膜の表面付近に有機フィラーを存在させるよう制御できたとしても、特許文献1の技術では平均粒径のみが制御された有機フィラーを用いるため、艶消し性能を万全にすることができないことは上述したとおりである。
【0040】
マット剤の含有量は、バインダー樹脂100重量部に対して、50重量部以上、好ましくは60重量部以上、より好ましくは70重量部以上であって、170重量部以下、好ましくは140重量部以下、より好ましくは110重量部以下とすることができる。こうした範囲でマット剤を塗布液中に配合することで、最終的に得られる遮光材の摺動により遮光膜からマット剤が脱落することや、遮光材の摺動性の低下など、諸性能の低下防止に寄与しうる。
【0041】
溶媒としては、水や有機溶剤、水と有機溶剤との混合物等を用いることができる。
【0042】
本実施形態で製造される遮光材の加工品を各レンズ間に組み込まれる極薄スペーサ用途に使用する場合など、遮光膜に高い摺動性が求められない用途に使用する場合、従来、遮光膜に配合していた滑剤(ワックス)を塗布液中に配合することを要しない。ただし、こうした用途に使用する場合にでも、滑剤を配合してもよい。
【0043】
滑剤として粒子状のものを添加する場合は、有機系、無機系いずれのものも用いることができる。例えば、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス等の炭化水素系滑剤、ステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸等の脂肪酸系滑剤、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等のアミド系滑剤、ステアリン酸モノグリセリド等のエステル系滑剤、アルコール系滑剤、金属石鹸、滑石、二硫化モリブデン等の固体潤滑剤、シリコーン樹脂粒子、ポリテトラフッ化エチレンワックス等のフッ素樹脂粒子、架橋ポリメチルメタクリレート粒子、架橋ポリスチレン粒子等が挙げられる。粒子状滑剤を配合する場合には、特に有機系滑剤を使用することが好ましい。また、滑剤として常温で液状のものを添加する場合は、フッ素系化合物やシリコーンオイル等を用いることもできる。滑剤を配合する場合、常温で液状のものを用いることが好ましい。液状の滑剤であれば、マット剤による遮光膜表面の凹凸形状の形成に影響を与え難いからである。
【0044】
なお、遮光膜形成用塗布液には、本発明の機能を損なわない範囲であれば、必要に応じて、難燃剤、抗菌剤、防カビ剤、酸化防止剤、可塑剤、レベリング剤、流動調整剤、消泡剤、分散剤等の添加剤を配合することも可能である。
【0045】
(2)次に、準備した遮光膜形成用塗布液を基材上に、例えば膜厚Ttとなる量で塗布し、乾燥させた後、必要に応じて加熱・加圧等させる。
【0046】
基材としては、ポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム等の合成樹脂フィルムが挙げられる。中でもポリエステルフィルムが好適に用いられ、延伸加工、特に二軸延伸加工されたポリエステルフィルムが機械的強度、寸法安定性に優れる点で特に好ましい。また、耐熱用途への使用には、ポリイミドフィルムが好適に用いられる。
【0047】
基材として、透明なものはもちろん、発泡ポリエステルフィルムや、カーボンブラック等の黒色顔料や他の顔料を含有させた合成樹脂フィルムの他、基材自体に遮光性や強度のある、薄膜の金属板を使用することもできる。この場合、基材は、それぞれの用途により適切なものを選択することができる。例えば、遮光材として使用する際に、高い遮光性が必要な場合には、上述した黒色微粒子と同種の黒色微粒子含有の合成樹脂フィルムや薄膜の金属板を使用することができ、他の場合においては、透明若しくは発泡した合成樹脂フィルムを使用することができる。後述の方法で形成される遮光膜は、それ自体で遮光材としての充分な遮光性が得られることから、合成樹脂フィルムに黒色微粒子を含有させる場合には、合成樹脂フィルムが目視で黒色に見える程度、即ち光学透過濃度が2程度となるように含有させればよい。
【0048】
基材の厚みは、用いる用途により異なるが、軽量な遮光材としての強度や剛性等の観点から、一般的に6μm〜250μm程度とする。基材には、遮光膜との接着性を向上させる観点から、必要に応じアンカー処理、コロナ処理、プラズマ処理あるいはEB処理を行うこともできる。
【0049】
塗布液の塗布方法は、特に限定されず、従来から公知の方式(例えばディップコート、ロールコート、バーコート、ダイコート、ブレードコート、エアナイフコート等)により行うことができる。
【0050】
本実施形態で用いる塗布液は、その比重が凡そ0.9〜1.2程度であり、その固形分(NV)は通常5%以上、好ましくは10%以上であって、通常40%以下、好ましくは30%以下程度に調製される。塗布液は、通常6g/m
2以上、好ましくは8g/m
2以上、より好ましくは10g/m
2以上であって、通常100g/m
2以下、好ましくは80g/m
2以下、より好ましくは60g/m
2以下程度の付着量で、基材上に塗布される。
【0051】
以上の工程を経ることで、基材上に遮光膜が膜厚Ttで形成された遮光材が得られる。
【0052】
本実施形態によれば、変動係数が20
%以上のマット剤を含む塗工液を用いて、基材上に遮光膜が形成された遮光材を製造する。このため、低光沢度領域の広い万全な艶消し効果が付与された遮光膜を有する遮光材を得ることができる。塗工液中にはバインダー樹脂と黒色微粒子を配合してあるので、形成される遮光膜に対し、遮光性などの必要物性を保持させることもできる。
【0053】
本実施形態による方法で製造された光学機器用遮光材によれば、変動係数が20
%以上のマット剤を含む塗工液を用いて遮光膜を形成しているので、その遮光膜に、低光沢度領域の広い(G20、G60及びG85のいずれもが低い)、万全な艶消し効果を付与することが可能である。
【0054】
上述した万全の艶消し効果は、特に遮光膜の薄膜化(例えば6μm程度以下)が求められる用途に有効である。例えば、光学機器の一例としてのカメラ(撮像装置)において、撮影光学系のレンズ部分には複数枚のレンズが使用され、各レンズ間に極薄のスペーサが組み込まれるが、このスペーサや、前記撮影光学系の内壁などに、本発明方法で得られる遮光材を適用しようとする場合に特に有効である。従来から用いられている、シャッターや絞りなどの部品に適用可能なことは勿論である。
【0055】
本実施形態では、変動係数が20
%以上のマット剤を含む塗工液を用いるので、低光沢度領域の広い万全な艶消し効果が付与された遮光膜を種々の膜厚で形成することができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明を更に説明する。なお、「部」、「%」は特に示さない限り、重量基準とする。
【0057】
1.遮光材サンプルの作製
[実験例1−1〜8−3]
基材として、厚み25μmの黒色PETフィルム(ルミラーX30:東レ社)を使用し、その両面に、下記処方の塗布液a〜hをそれぞれバーコート法により塗布した。各塗布液のアクリルポリオール等の含有量(部、固形分換算)を表1に示す。各塗布液の固形分はいずれも20%に調製した。
【0058】
その後、乾燥を行って遮光膜A1〜H3を形成し、各実験例の遮光材サンプルを作製した。各塗布液の付着量は、後述の表2に示した。
【0059】
<遮光膜形成用塗布液a〜hの処方>
・アクリルポリオール(固形分50%) 153.8部
(アクリディックA807:DIC社)
・イソシアネート(固形分75%) 30.8部
(バーノックDN980:DIC社)
・カーボンブラック(平均粒径25nm) 24部
(トーカブラック#5500:東海カーボン社)
・表1記載のマット剤 (表1記載の部)
・メチルエチルケトン、トルエン 611.4〜1091.4部
【0060】
[表1]
【0061】
なお、表1中、マット剤X1,X2は、いずれも平均粒径が5μmの透明アクリルビーズであるが、各々粒度分布の変動係数(CV値)が異なる。CV値は、マット剤X1が31.4
%のブロード品、マット剤X2が8.45
%のシャープ品である。
【0062】
また、マット剤X3は平均粒径が3μmの黒色アクリルビーズ、マット剤X4,X5はいずれも平均粒径が3μmの透明アクリルビーズであるが、各々粒度分布のCV値が異なる。CV値は、マット剤X3が54.1
%のブロード品、マット剤X4が29.5
%のブロード品、マット剤X5が10.7
%のシャープ品である。
【0063】
以下、マット剤X1,X2をそれぞれ、透明5μmブロード、透明5μmシャープ、とも言うことがある。またマット剤X3,X4,X5をそれぞれ、黒色3μmブロード、透明3μmブロード、透明3μmシャープ、とも言うことがある。
【0064】
2.評価
各実験例で得られた遮光材サンプルについて、下記の方法で物性の評価をした。結果を表2に示す。なお、表2には、表1の塗布液の塗布量、形成した遮光膜の膜厚なども記載した。
ただし、下記(1)遮光性の評価については、厚み25μmの透明ポリエチレンテレフタレートフィルム(ルミラーT60:東レ社)の片面に、上記各実験例の処方の各塗布液を付着量14g/m
2 になるように塗布、乾燥して形成したサンプルを用いて行った。
【0065】
(1)遮光性の評価
各実験例のサンプルの光学透過濃度を、JIS−K7651:1988に基づき光学濃度計(TD−904:グレタグマクベス社)を用いて測定した。その結果、測定値が4.0を超えたものを「○」、4.0以下だったのものを「×」とした。なお、光学濃度の測定はUVフィルターを用いた。
【0066】
(2)導電性の評価
各実験例で得られた遮光材サンプルの表面抵抗率(Ω)を、JIS−K6911:1995に基づき測定した。測定値が1.0×10
6 Ω以下だったものを「○」、1.0×10
6 Ωを超えて1.0×10
10Ω以下だったものを「△」、1.0×10
10Ωを超えたものを「×」とした。
【0067】
(3)艶消し性の評価
各実験例で得られた遮光材サンプルに対し、その遮光膜表面の、20度、60度及び85度の各鏡面光沢度(G20、G60、G85)を、JIS−Z8741:1997に基づき光沢計(商品名:VG−2000、日本電色工業社)を用いて測定した(単位は%)。
【0068】
G20としては、その測定値が0.3
%未満だったものを「◎◎」、0.3
%以上0.5
%未満だったのものを「◎」、0.5
%以上0.7
%未満だったのものを「○」0.7
%以上だったものを「×」とした。G60に関しては、その測定値が0.5
%未満だったものを「◎◎」、0.5
%以上0.7
%未満だったのものを「◎」、0.7
%以上1
%未満だったのものを「○」、1
%以上だったものを「×」とした。G85に関しては、その測定値が8
%未満だったものを「◎◎」、8
%以上10
%未満だったのものを「◎」、10
%以上15
%未満だったものを「○」、15
%以上だったものを「×」とした。
【0069】
G20、G60及びG85の各数値が小さいほど光沢度が低く、光沢度が低いほど、艶消し性に優れることが認められる。
【0070】
【表2】
【0071】
3.考察
表2から以下のことが理解できる。
すべての実験例において、形成した遮光膜の遮光性、導電性は良好であった。しかしながら、マット剤としてシャープ品を使用したもの(実験例5−1〜実験例5−3、実験例8−1〜実験例8−3)は、艶消し性においてG85の評価が低かった。
【0072】
これに対し、マット剤としてブロード品を使用したもの(実験例1−1〜実験例4、実験例6−1〜7−3)については、艶消し性に関し、G20、G60とともに、G85についても優れた結果が得られた。特にCV値が30以上のブロード品を使用したもの(実験例1−1〜実験例4、実験例6−1〜6−3)は、CV値が20
%以上であるが30
%未満のブロード品を使用したもの(実験例7−1〜実験例7−3)と比較して、G85に関し、より一層優れた効果が得られることが確認できた。
【0073】
4.適正膜厚範囲の評価
透明5μmブロードのマット剤X1を使用した塗布液aを用い、付着量が、それぞれ14g/m
2 、28g/m
2 、46g/m
2 、81g/m
2 となる量で、PETフィルム上の片面に塗布した。その後、乾燥を行って遮光膜A1(5.5μm)、A2(8μm)、A3(10μm)、A4(15μm)を形成し、遮光材サンプルを作製した。
【0074】
透明5μmシャープのマット剤X2を使用した塗布液eを用い、付着量が、それぞれ14g/m
2 、28g/m
2 、46g/m
2 、81g/m
2 となる量で、PETフィルム上の片面に塗布した。その後、乾燥を行って遮光膜E1(5μm)、E2(7m)、E3(9μm)、E4(15μm)を形成し、遮光材サンプルを作製した。
【0075】
各サンプルに対し、上記(3)の評価を行った。その結果、塗布液aを使用したサンプルは、いずれも、G20、G60及びG85の各数値が小さく、その結果、光沢度が低いことが認められ、万全な艶消し効果が付与されていた。一方、塗布液eを使用したサンプルは、15μmの厚膜である遮光膜E4が形成されたサンプルのみ、G20、G60及びG85の各数値が小さいことが認められたが、その他の膜厚では、万全な艶消し効果が付与されていなかった。
【0076】
以上より、マット剤X1を使用することで、マット剤X2を使用する場合と比較して、万全な艶消し効果が付与される、遮光膜の膜厚範囲を広くすることができることが確認できた。
【0077】
[実験例9]
実験例1−1で使用した塗布液a中に、液状の滑剤としてのシリコーンオイルが3%となるように配合して塗布液iを調製した以外は、実験例1−1と同様の条件で、基材上に遮光膜Iを形成し、実験例9の遮光材サンプルを作製した。
その後、実験例1−1と同様の条件で艶消し性を評価したところ、実験例1−1の場合と同等の性能が得られたにもかかわらず、実験例1−1と比較して摺動性がより優れていることが確認できた。具体的には、静摩擦係数(μs)が0.35以下であって動摩擦係数(μk)が0.25以下であり、遮光膜の表面性状に影響を与えることなく、摺動性を向上することができた。
なお、本例でのμsとμkは、JIS−K7125:1999に基づき、加重:200g、速度:100mm/分の条件で測定した値である。