特許第6096661号(P6096661)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6096661DNA混入物質が少ない精製されたRNAを単離する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6096661
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】DNA混入物質が少ない精製されたRNAを単離する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20170306BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALN20170306BHJP
【FI】
   C12N15/00 A
   !C12Q1/68 Z
【請求項の数】20
【全頁数】50
(21)【出願番号】特願2013-526508(P2013-526508)
(86)(22)【出願日】2011年9月6日
(65)【公表番号】特表2013-539367(P2013-539367A)
(43)【公表日】2013年10月24日
(86)【国際出願番号】EP2011065374
(87)【国際公開番号】WO2012032034
(87)【国際公開日】20120315
【審査請求日】2014年9月8日
(31)【優先権主張番号】10009219.6
(32)【優先日】2010年9月6日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507214038
【氏名又は名称】キアゲン ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】クリストフェル, ガブリエル
【審査官】 厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】 Biosci Biotechnol Biochem.,2008 Jul,72(7),p.1951-3,Epub 2008 Jul 7
【文献】 Mol Biotechnol.,2001 Oct,19(2),p.201-3
【文献】 Journal of Plant Biology,2007 Feb,50(1),p.60-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 −15/90
C12Q 1/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
RNAとDNAとを含む試料から少なくともRNAを単離する方法であって、
a)カオトロピック剤とフェノールとを含む酸性変性組成物を該試料に添加する工程;
b)水不溶性の有機溶媒を添加し、得られる相を分離させ、これにより、水相および有機相を含む多相混合物を形成させる工程であって、ここで、該RNAは該水相中に濃縮され、DNAは該有機相中に濃縮される、工程;ならびに
c)該水相から該RNAを単離する工程
を含み、ここで、最終的に該相を分離させる前に、少なくとも1種類の陽イオン性界面活性剤が添加される、方法。
【請求項2】
前記多相混合物が中間相を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記DNAが前記有機相中および/または前記中間相中に濃縮される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1種類の陽イオン性界面活性剤が以下の特徴:
a)永久的に電荷をもつ四級アンモニウム陽イオンを含む;
b)臭化アンモニウムを含む;および/または
c)CTAB、TTAB、およびDTRBからなる群より選択される、
のうちの1つ以上を有している、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1種類の陽イオン性界面活性剤が溶液の形態で添加される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記溶液が以下の特徴:
a)少なくとも1種類の陽イオン性界面活性剤を、0.1%〜10%、0.1%〜5%、0.1%〜3%、および0.1%〜1%からなる群より選択される濃度で含む;
b)塩を含む;ならびに/あるいは
c)塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、酢酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、塩化リチウム、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸リチウム、硫酸カリウム、およびこれらの混合物からなる群より選択される塩を含む、
のうちの1つ以上を有している1つ以上のものを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程)において、前記多相混合物が、≦15℃の温度、≦10℃の温度、≦7℃の温度、≦5℃の温度、および≦4℃の温度からなる群より選択される低温で前記得られる相を遠心分離することにより形成される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記RNAが、前記水相に対して少なくとも1種類のアルコールを添加することにより該水相から単離される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記水相がアルコールと混合され、前記混合物が前記RNAを結合させるために核酸結合固相と接触させられる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記アルコールが、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、およびブタノールからなる群より選択され、そして/または、少なくとも20%v/v、少なくとも30%v/v、少なくとも40%v/v、少なくとも50%v/v、および少なくとも60%v/vからなる群より選択される濃度で添加される、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
カオトロピック剤とフェノールとを含む前記酸性変性組成物が以下の特徴:
a)該カオトロピック剤がカオトロピック塩である;
b)該カオトロピック剤が、塩酸グアニジン、チオシアン酸グアニジン、イソチオシアン酸グアニジン、チオシアン酸ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、トリクロロ酢酸ナトリウム、トリフルオロ酢酸ナトリウム、および尿素からなる群より選択される;
c)該カオトロピック剤が、0.1〜6M、0.5〜4M、および0.5〜3Mからなる群より選択される濃度で含まれる;
d)該フェノールが、10%v/v〜70%v/v、20%v/v〜60%v/v、および30%v/v〜50%v/vからなる群より選択される濃度で含まれる;
e)該酸性変性組成物が、該組成物を酸性pHで維持するのに十分な量の緩衝剤を含む;
f)該酸性変性組成物が、溶液中で該フェノールを維持するための可溶化剤を含む;
g)該酸性変性組成物が、チオシアン酸塩成分を含む;
h)該酸性変性組成物が、6未満のpH値を有する;ならびに/あるいは
i)該酸性変性組成物が、≦5のpH値を有する、
のうちの1つ以上を有している、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記水不溶性の有機溶媒がクロロホルムである、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
以下:
a)カオトロピック剤とフェノールとを含む酸性変性組成物;
b)少なくとも1種類の陽イオン性界面活性剤を含む、RNAを含む水相中のDNAの量を低減するための溶液、
を含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法において使用するための、キット。
【請求項14】
以下の特徴:
c)核酸結合相;および/または
d)洗浄バッファおよび溶離バッファ
のうちの1つ以上をさらに含む、請求項13に記載のキット。
【請求項15】
請求項13〜14のいずれか一項に記載のキットであって、前記酸性変性組成物が、以下の特徴:
a)前記カオトロピック剤がカオトロピック塩である;
b)前記カオトロピック剤が、塩酸グアニジン、チオシアン酸グアニジン、イソチオシアン酸グアニジン、チオシアン酸ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、トリクロロ酢酸ナトリウム、トリフルオロ酢酸ナトリウム、および尿素からなる群より選択される;
c)前記カオトロピック剤が、0.1〜6M、0.5〜4M、および0.5〜3Mからなる群より選択される濃度で含まれる;
d)前記フェノールが、10%v/v〜70%v/v、20%v/v〜60%v/v、および30%v/v〜50%v/vからなる群より選択される濃度で含まれる;
e)該酸性変性組成物が、組成物を酸性pHで維持するのに十分な量の緩衝剤を含む;
f)該酸性変性組成物が、溶液中で該フェノールを維持するための可溶化剤を含む;
g)該酸性変性組成物が、チオシアン酸塩成分を含む;
h)該酸性変性組成物が、6未満のpH値を有する;ならびに/あるいは
i)該酸性変性組成物が、≦5のpH値を有する、
のうちの1つ以上を有し;前記溶液が、以下の特徴:
a)少なくとも1種類の陽イオン性界面活性剤を、0.1%〜10%、0.1%〜5%、0.1%〜3%、および0.1%〜1%からなる群より選択される濃度で含む;
b)塩を含む;ならびに/あるいは
c)塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、酢酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、塩化リチウム、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸リチウム、硫酸カリウム、およびこれらの混合物からなる群より選択される塩を含む、
のうちの1つ以上を有する、キット。
【請求項16】
カオトロピック剤とフェノールとを含む酸性変性組成物の使用を含み、ここで、少なくとも1種類の陽イオン性界面活性剤が該酸性変性組成物中でホモジナイズされた試料に対して添加され、その後、水不溶性の有機溶媒の添加により得られた相が、水相および有機相とに分離される、核酸単離方法において形成された、RNAを含む水相中のDNAの量を低減するための方法。
【請求項17】
前記得られた相が、水層、中間相、および、有機相とに分離される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
以下の工程:
− カオトロピック剤とフェノールとを含む酸性変性組成物中で試料をホモジナイズする工程;
− 水不溶性の有機溶媒を添加して相を得る工程;ならびに
− 該得られる相を、水相および有機相とに分離させる工程、
により得られた、RNAを含む水相中のDNAの量を低減するための少なくとも1種類の陽イオン性界面活性剤の使用であって、
ここで、該陽イオン性界面活性剤が、最終的に相を分離させる前に添加される、使用。
【請求項19】
以下の工程:
− カオトロピック剤とフェノールとを含む酸性変性組成物中で試料をホモジナイズする工程;
− 水不溶性の有機溶媒を添加して相を得る工程;ならびに
− 該得られる相を、水相および有機相とに分離させる工程、
により得られた、RNAを含む水相中のDNAの量を減少させることにより中間相および/または有機相中のDNAの量を増加させるための、少なくとも1種類の陽イオン性界面活性剤の使用であって
ここで、該陽イオン性界面活性剤が、最終的に相を分離させる前に添加される、使用。
【請求項20】
前記得られる相が中間相を含む、請求項18または19に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製されたRNA中のDNA混入物質の量が少ない、RNAとDNAとを含む試料から精製されたRNAを単離するための方法に関する。さらに、本発明は上記目的のために有用な組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
純粋な、完全なRNAの単離は、分子生物学、臨床、およびバイオテクノロジーの適用において遺伝子発現の分析のための重要なステップである。この目的を達成するための多くの方法が先行技術において開発されてきた。最も頻繁に使用されるRNAの単離方法は、フェノール抽出、カオトロピック塩溶液を使用することによる沈殿、およびシリカに対する吸着に基づく。カオトロピック塩を使用するフェノール−クロロホルムによる方法は、例えば、特許文献1および特許文献2に記載されている。それぞれの方法により、純粋なRNAの単離、または同じ試料からのRNA、DNA、および必要に応じてタンパク質の単離のいずれかが可能である。それぞれの方法の原理は、フェノールとカオトロピック剤を含む変性組成物中で試料をホモジナイズすることである。このホモジネートが、クロロホルムのような水不溶性の有機溶媒を添加することにより相分離させられる。遠心分離後、混合物は、RNAを含む水相、中間相、およびDNAとタンパク質とを含む有機相に分離する。RNAを単離するために、水相が回収され、それからRNAが、例えば、上記水相にアルコールが添加されることによりRNAを沈殿させることによって単離される。
【0003】
それぞれの方法により、実質的に純粋な、分解していないRNAが得られる。しかし、それぞれのフェノール−クロロホルムによる方法にしたがって単離されたRNAには、例えば、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応アッセイ(RT−PCR)により検出することができる量の残留DNAが含まれる。これらの残留DNA混入物質は、精製されたRNAの下流での利用を混乱させる可能性がある。これは、混入しているDNAがDNAポリメラーゼの鋳型となり、これにより、さらなる増幅産物が生じる可能性があり、したがってRNA依存性RT−PCRの性能を歪めるために、1つの問題となっている。したがって、それぞれの方法を使用して単離されたRNAは、精製されたRNAにDNAが含まれないようにするためには、さらに精製されなければならない。
【0004】
したがって、精製されたRNA中のDNA混入物質の量を減らすことにより単離されたRNAの質を改善する試みが先行技術において行われてきた。混入しているDNAを取り除くための、1つの一般に行われていることは、DNaseでRNAを含む試料を処理することである。しかし、これがコストを高め、処理工程を増やすこと、およびDNaseに微量のRNaseが含まれ得、これによりRNAが分解のリスクに曝されることから、それぞれのDNase処理の実行には欠点がある。DNA混入物質を低減するためのさらなる試みには、水相からのさらなるDNAの沈殿工程が含まれる。RNAを含む水相からDNA混入物質を取り除くための改良されたアプローチではさらに、核酸結合固相(nucleic acid binding phase)と、上記固相にDNAを結合させるために適している結合条件が使用された。しかし、さらなる核酸結合固相の使用の必要性およびさらなる処理工程が原因でコストが増大するために、それぞれの方法にもまた欠点がある。DNA混入物質を低減するためのさらなるアプローチは、フェノール抽出の間にpH値を4未満に下げることに基づいた(例えば、特許文献2を参照されたい)。しかし、この方法によっても、単離されたRNA中のDNA混入物質の満足できる低減は得られていない。
【0005】
したがって、とりわけ、RNA、DNA、および必要に応じてタンパク質を含む試料からRNAを単離するための方法を提供することが本発明の1つの目的である。この方法は、純粋なRNAを与え、単離されたRNA中のDNA混入物質の量を低減する。
【0006】
さらに、特に、フェノール/クロロホルム抽出または同様の相生成方法の間に得られたRNAを含む水相中のDNAの量を低減することが本発明の1つの目的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4,843,155号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2008/057560号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、カオトロピック剤とフェノールとを含む酸性変性組成物の添加により処理される試料に対して少なくとも1種類の陽イオン性界面活性剤を添加することにより、単離されたRNA中のDNAの量がかなり減少するという研究結果に基づく。上記陽イオン性界面活性剤の添加は、目ざましいことに、例えば、クロロホルムのような水不溶性の有機溶媒が添加された場合に得られる、RNAを含む水相中のDNA残留量がかなり少なくなるという効果を有する。理論に束縛されずに、陽イオン性界面活性剤の添加には、RNAを含む水相からより多くのDNAが取り除かれ、したがって、より多くのDNAを相分離の間に形成される中間相および/または有機相に向かわせるという効果があると推定される。したがって、陽イオン性界面活性剤を添加することにより、DNAがRNAを含む水相から効率よく取り除かれ、生じる中間相および/または有機相中に濃縮される。これにより、上記水相から続いて単離されるRNA中のDNA混入物質の量がかなり減少する。したがって、本発明は先行技術を上回るかなりの利点を提供し、例えば、DNase処理または特定の核酸結合相もしくは旧式のさらなる精製工程の使用によるDNA混入物質の除去のような、DNA混入物質を取り除くためのRNAを含む水相のさらなる処理を行なう。
【0009】
本発明の第1の態様にしたがうと、RNAとDNAとを含む試料から少なくともRNAを単離する方法であって、以下の工程:
a)カオトロピック剤とフェノールとを含む酸性変性組成物を上記試料に添加する工程;
b)水不溶性の有機溶媒を添加し、得られる相を分離させ、これにより、水相、必要に応じて中間相および有機相を含む多相混合物を形成させる工程(ここでは、上記RNAは上記水相中に濃縮され、DNAは上記有機相中および/または上記中間相中に濃縮される);および
c)上記水相から上記RNAを単離する工程、
が含まれ、
ここで、少なくとも1種類の陽イオン性界面活性剤が、最終的に上記相を分離させる前に添加される、方法が提供される。
【0010】
上記で議論したように、個々の相を分離させる前の少なくとも1種類の陽イオン性界面活性剤の添加は、カオトロピック剤とフェノールとを含む酸性変性組成物が上記試料の調製のために使用される場合に、RNAを含む水相中のDNA混入物質がかなり低減されるという効果を有する。
【0011】
第2の態様にしたがうと、以下:
a)カオトロピック剤とフェノールとを含む酸性変性組成物;
b)少なくとも1種類の陽イオン性界面活性剤を含む、DNA混入物質を低減するための溶液;
c)必要に応じて、核酸結合固相;ならびに
d)必要に応じて、洗浄バッファおよび溶離バッファ、
を含む、本発明による方法で使用するためのキットが提供される。
【0012】
第3の態様にしたがうと、カオトロピック剤とフェノールとを含む酸性変性組成物の使用を含む、RNA単離方法において形成されたRNAを含む水相中のDNAの量を低減するための方法であって、ここで、水不溶性の有機溶媒の添加により得られた相が、水相、必要に応じて、中間相および有機相に分離される前に、少なくとも1種類の陽イオン性界面活性剤が、上記酸性変性組成物中でホモジナイズされた試料に添加される、方法が提供される。
【0013】
第4の態様にしたがうと、本発明は、以下:
− カオトロピック剤とフェノールとを含む酸性変性組成物中で試料をホモジナイズする工程;
− 水不溶性の有機溶媒を添加する工程;および
− この混合物を、水相、必要に応じて、中間相および有機相に分離させる工程、
により得られる、RNAを含む水相中のDNAの量を低減するための少なくとも1種類の陽イオン性界面活性剤の使用に関し、
ここで、上記陽イオン性界面活性剤が、最終的に相を分離させる前に添加される。
【0014】
第4の態様にしたがうと、本発明は、以下:
− カオトロピック剤とフェノールとを含む酸性変性組成物中で試料をホモジナイズする工程;
− 水不溶性の有機溶媒を添加する工程;ならびに
− この混合物を、水相、必要に応じて、中間相および有機相に分離させる工程、
により得られる、RNAを含む水相中のDNAの量を減少させることにより、必要に応じた中間相および/または有機相中のDNAの量を増加させるための少なくとも1種類の陽イオン性界面活性剤の使用に関し、
ここで、上記陽イオン性界面活性剤が、最終的に上記相を分離させる前に添加される。
【0015】
上記で議論したように、カオトロピック剤とフェノールとを含む酸性変性組成物中で試料を調製する場合には、上記相を分離させる前の上記陽イオン性界面活性剤の添加により、上記RNAを含む水相中のDNAの量がかなり低減する。これにより、例えば、DNA混入物質がより少ない純粋なRNAの単離が可能となる。
【0016】
本願は特定の実施形態において例えば以下の項目を提供する:
(項目1)
RNAとDNAとを含む試料から少なくともRNAを単離する方法であって、
a)カオトロピック剤とフェノールとを含む酸性変性組成物を該試料に添加する工程;
b)水不溶性の有機溶媒を添加し、得られる相を分離させ、これにより、水相、必要に応じて中間相および有機相を含む多相混合物を形成させる工程であって、ここで、該RNAは該水相中に濃縮され、DNAは該有機相中および/または該中間相中に濃縮される、工程;ならびに
c)該水相から該RNAを単離する工程
を含み、ここで、最終的に該相を分離させる前に、少なくとも1種類の陽イオン性界面活性剤が添加される、方法。
(項目2)
前記少なくとも1種類の陽イオン性界面活性剤が以下の特徴:
a)永久的に電荷をもつ四級アンモニウム陽イオンを含む;
b)臭化アンモニウムを含む;および/または
c)CTAB、TTAB、およびDTRBからなる群より選択される、
のうちの1つ以上を有している、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記少なくとも1種類の陽イオン性界面活性剤が溶液の形態で添加される、項目1または2に記載の方法。
(項目4)
前記溶液が以下の特徴:
a)少なくとも1種類の陽イオン性界面活性剤を、0.1%〜10%、0.1%〜5%、0.1%〜3%、および0.1%〜1%からなる群より選択される濃度で含む;ならびに/あるいは
b)好ましくは、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、酢酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、塩化リチウム、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸リチウム、硫酸カリウム、およびこれらの混合物からなる群より選択される塩を含む、
のうちの1つ以上を有している1つ以上のものを含む、項目3に記載の方法。
(項目5)
工程c)において、前記多相混合物が、≦15℃の温度、≦10℃の温度、≦7℃の温度、≦5℃の温度、および≦4℃の温度からなる群より選択される低温で該混合物を遠心分離することにより形成される、項目1〜4の1つ以上に記載の方法。
(項目6)
前記RNAが、前記水相に対して少なくとも1種類のアルコールを添加することにより該水相から単離される、項目1〜5の1つ以上に記載の方法。
(項目7)
前記水相がアルコールと混合され、前記混合物が前記RNAを結合させるために核酸結合固相と接触させられる、項目1〜6の1つ以上に記載の方法。
(項目8)
前記アルコールが、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、およびブタノールからなる群より選択され、そして/または、少なくとも20%、少なくとも30%v/v、少なくとも40%v/v、少なくとも50%v/v、および少なくとも60%v/vからなる群より選択される濃度で添加される、項目1〜7の1つ以上に記載の方法。
(項目9)
カオトロピック剤とフェノールとを含む前記酸性変性組成物が以下の特徴:
a)該カオトロピック剤がカオトロピック塩である;
b)該カオトロピック剤が、塩酸グアニジン、チオシアン酸グアニジン、イソチオシアン酸グアニジン、チオシアン酸ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、トリクロロ酢酸ナトリウム、トリフルオロ酢酸ナトリウム、および尿素からなる群より選択される;
c)該カオトロピック剤が、0.1〜6M、0.5〜4M、および0.5〜3Mからなる群より選択される濃度で含まれる;
d)該フェノールが、10%v/v〜70%v/v、20%v/v〜60%v/v、および30%v/v〜50%v/vからなる群より選択される濃度で含まれる;
e)該酸性変性組成物が、該組成物を酸性pHで維持するのに十分な量の緩衝剤を含む;
f)該酸性変性組成物が、溶液中で該フェノールを維持するための可溶化剤を含む;
g)該酸性変性組成物が、チオシアン酸塩成分を含む;ならびに/あるいは
h)該酸性変性組成物が、6未満のpH値を有し、好ましくは、該pHは≦5である、
のうちの1つ以上を有している、項目1〜8の1つ以上に記載の方法。
(項目10)
前記水不溶性の有機溶媒がクロロホルムである、項目1〜9の1つ以上に記載の方法。
(項目11)
以下:
a)カオトロピック剤とフェノールとを含む酸性変性組成物;
b)少なくとも1種類の陽イオン性界面活性剤を含む、RNAを含む水相中のDNAの量を低減するための溶液;
c)必要に応じて、核酸結合固相、および
d)必要に応じて、洗浄バッファおよび溶離バッファ、
を含む、項目1〜10の1つ以上に記載の方法において使用するための、キット。
(項目12)
項目9で定義された酸性変性組成物、および/または項目4で定義された特徴を有している特徴b)に記載の溶液を含む、項目11に記載のキット。
(項目13)
カオトロピック剤とフェノールとを含む酸性変性組成物の使用を含み、ここで、少なくとも1種類の陽イオン性界面活性剤が該酸性変性組成物中でホモジナイズされた試料に対して添加され、その後、水不溶性の有機溶媒の添加により得られた相が、水相、必要に応じて、中間相および有機相とに分離される、核酸単離方法において形成された、RNAを含む水相中のDNAの量を低減するための方法。
(項目14)
以下の工程:
− カオトロピック剤とフェノールとを含む酸性変性組成物中で試料をホモジナイズする工程;
− 水不溶性の有機溶媒を添加する工程;ならびに
− 該混合物を、水相、必要に応じて、中間相および有機相とに分離させる工程、
により得られた、RNAを含む水相中のDNAの量を低減するための少なくとも1種類の陽イオン性界面活性剤の使用であって、
ここで、該陽イオン性界面活性剤が、最終的に相を分離させる前に添加される、使用。
(項目15)
以下の工程:
− カオトロピック剤とフェノールとを含む酸性変性組成物中で試料をホモジナイズする工程;
− 水不溶性の有機溶媒を添加する工程;ならびに
− 該混合物を、水相、必要に応じて、中間相および有機相とに分離させる工程、
により得られた、RNAを含む水相中のDNAの量を減少させることにより中間相および/または有機相中のDNAの量を増加させるための、少なくとも1種類の陽イオン性界面活性剤の使用であって
ここでは、陽イオン性界面活性剤が、最終的に相を分離させる前に添加される、使用。
本出願の他の目的、特徴、利点、および態様は、以下の記載と添付の特許請求の範囲から当業者に明らかとなる。しかし、以下の記載、添付の特許請求の範囲、および具体的な実施例は、本出願の好ましい実施形態を示しているものの、例示する目的だけのために提供されると理解されるものとする。開示される本発明の趣旨および範囲内での様々な変更および改変は、以下を読むことにより当業者に容易に明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、陽イオン性界面活性剤を添加した、本発明により単離したRNAには、対照標準法よりもかなり少ない量のDNA混入物質しか含まれていないことを示す。
図2図2は、本発明による方法により、様々な組織試料から単離したRNA中のDNA混入物質の量がかなり低減されたことを示す。
図3図3は、NanoDrop(ThermoScientific)を使用して分光学的に決定されたRNA濃度を示す。
図4図4は、NanoDrop(ThermoScientific)を使用して分光学的に決定されたRNA濃度を示す。
図5図5は、実施例3の工程8において得られたCt値とΔCt値とを示す。
図6図6は、NanoDrop分光光度計(ThermoScientific)を使用して決定されたRNA濃度を示す。
図7図7は、qRT−PCRアッセイの結果を示す。
図8図8は、実施例5の工程8において得られたCt値とΔCt値とを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(発明の詳細な説明)
本発明は、フェノール、カオトロピック剤、および例えば、クロロホルムのような水不溶性の有機溶媒の使用に基づくRNAの単離方法に関する。それぞれの方法において、RNAを含む水相、必要に応じて中間相および有機相を含む多相混合物が形成される。DNAとタンパク質は(試料中に含まれる場合は)、中間相および/または有機相に含まれる。本発明は、少なくとも1種類の陽イオン性界面活性剤が最終的に上記相を分離させる前に添加される場合には、RNAを含む水相中のDNAの量をかなり低減することができるという研究結果に基づく。少なくとも1種類の陽イオン性界面活性剤の添加は、RNAを含む水相からより多くのDNAが取り除かれ、したがって、より多くのDNAが中間相および/または有機相中に濃縮されるという効果を有する。DNAがRNAを含む水相からより効率よく取り除かれるので、それぞれ、DNAが除去された水相から単離されたRNAには、DNA量はより少なく、したがってDNA混入物質の量は少ない。したがって、本発明により、有効であり、単純であり、そしてRNAの質を犠牲にすることのない、精製されたRNA中のDNA混入物質の残留の問題の解決方法が提供される。むしろ、上記RNAの質は、陽イオン性界面活性剤が添加されない方法よりもはるかに改善される場合が多い。さらに、本発明の方法は、例えば、DNA結合カラムまたはDNaseのような固相または酵素のようなさらなる材料の使用を必要としないために、極めてコスト効果が高い。したがって、本発明はかなりの利点を有する。
【0019】
本発明の第1の態様にしたがうと、RNAとDNAとを含む試料から少なくともRNAを単離する方法であって、以下の工程:
a)カオトロピック剤とフェノールとを含む酸性変性組成物を上記試料に添加する工程;
b)水不溶性の有機溶媒を添加し、得られる相を分離させ、これにより、水相、必要に応じて中間相および有機相を含む多相混合物を形成させる工程(ここで、上記RNAは上記水相中に濃縮され、DNAは上記有機相中および/または上記中間相中に濃縮される);および
c)上記水相から上記RNAを単離する工程、
が含まれ、
ここで、少なくとも1種類の陽イオン性界面活性剤が、最終的に上記相を分離させる前に添加される、方法が提供される。
【0020】
工程a)〜c)は、RNAを単離するための先行技術において公知の方法でも行われる工程である。工程a)では、上記試料が、カオトロピック剤とフェノールとを含む酸性変性組成物中で処理され、通常は、溶解させられるおよび/またはホモジナイズされる。得られる混合物が、工程b)においてクロロホルムのような水不溶性の有機溶媒を添加することにより、有機相、通常は(試料に応じて)中間相、および水相に分離される。上記相の形成は、遠心分離により促進することができる。工程c)では、上記RNAが水相から単離される。本発明の改善は、最終的に上記相を分離させる前に、少なくとも1種類の陽イオン性界面活性剤がこの混合物に添加されることによる。目ざましいことに、カオトロピック剤とフェノールとを含む酸性変性組成物が上記試料の調製のために使用される場合には、上記陽イオン性界面活性剤の添加により、RNAを含む水相中のDNAの量をかなり低減することが明らかになった。本発明による方法において使用される試薬のこの組み合わせ(具体的には、カオトロピック剤、フェノール、陽イオン性界面活性剤、および上記水不溶性の有機溶媒)が、本発明の利点を達成するために重要である。例えば、上記カオトロピック剤または上記陽イオン性界面活性剤だけが添加される場合には、これらの利点は得られない。したがって、本明細書中に記載されるような正確な組み合わせが明らかである。本発明により教示されるように、特定の工程の組み合わせにより達成される利点が、本明細書中に提供される実施例により実証される。
【0021】
1つの実施形態にしたがうと、以下の式:
YR1R2R3R4X
(式中、
Yは、窒素またはリンであり;
R1、R2、R3、およびR4は独立して、分岐鎖または非分岐鎖のC1〜C20アルキル残基、C3〜C6アルキレン残基、C3〜C6アルキニル残基、および/またはC6〜C26アラルキル残基より選択され、そして、ここで、R1、R2、R3、またはR4のうちの少なくとも1つがC6〜C20アルキル残基であることが好ましく、少なくとも1つのC10アルキル残基が存在することがなおさらに好ましく;
X−は、無機または有機の一塩基酸もしくは多塩基酸の陰イオンである)を有している少なくとも1種類の陽イオン性界面活性剤が使用される。
【0022】
陽イオン性界面活性剤の例として、四級アンモニウム塩、アミド結合を持つアミン、ポリオキシエチレンアルキル、および脂環式アミン、N,N,N’,N’テトラキスで置換されたエチレンジアミン、2−アルキル 1−ヒドロキシエチル 2 イミダゾリンエトキシル化アミン、およびアルキルアンモニウム塩が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0023】
1つの実施形態にしたがうと、永久的に電荷を持つ(permanently charged)四級アンモニウム陽イオンを極性頭部基として含む陽イオン性界面活性剤が使用される。上記陽イオン性界面活性剤が、アルキルトリメチルアンモニウム塩であることが好ましい。上記陽イオン性界面活性剤に臭化アンモニウムまたは塩化アンモニウムが含まれることが好ましい。最も好ましくは、上記陽イオン性界面活性剤は、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)、臭化テトラデシルトリメチルアンモニウム(TTAB)、および臭化ドデシルトリメチルアンモニウム(DTRB)、またはブロマイド(bromide)の代わりにクロライド(chloride)を含む対応する化合物からなる群より選択される。
【0024】
さらに、陽イオン性界面活性剤としては以下が挙げられるが、これらに限定されるわけではない:塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、臭化n−ドデシルトリメチルアンモニウム(DTAB)、臭化トリメチルテトラデシルアンモニウム、N,N’−ジメチルドデシルアミン−N−オキシドオクテニジン(ctenidine)二塩酸塩(N,N’dimethyldodecylamine−N−oxide ctenidine dihydrochloride);アルキルトリメチルアンモニウム、塩である臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化セチルピリジニウム(CPC)、ポリエトキシ化獣脂アミン(POEA)、塩化ベンザルコニウム(BAC)、塩化ベンゼトニウム(BZT)、5−ブロモ−5−ニトロ−1,3−ジオキサン、塩化ジメチルジオクタデシルアンモニウム、臭化ジオクタデシルジメチルアンモニウム(DODAB)、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(HTAB)、塩化セチルピリジニウム、臭化ジメチルジオクタデシルアンモニウム、ココヤシの塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム、ココヤシの塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム、塩化アルキルヒドロキシエチルジメチルアンモニウム、ジオレイン酸トリエタノールアミンエステルクアト(esterquat)、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、二獣脂酸トリエタノールアミン(ditallow acid triethanolamine)エステルクアト、トリエタノールアミンエステルクアト。
【0025】
1つの実施形態にしたがうと、少なくとも1種類の陽イオン性界面活性剤は、工程a)のホモジナイズされた試料中、および/または工程b)での上記水不溶性の有機溶媒の添加後に得られた混合物中の陽イオン性界面活性剤の濃度を、全容積に基づいて0.01%〜10%、0.03%〜7.5%、0.03%〜5%、0.04%〜2.5%、0.04%〜2%、および0.03%〜1.7%からなる群より選択される濃度にする濃度で添加される。陽イオン性界面活性剤または陽イオン性界面活性剤の混合物が、少なくとも0.03%、少なくとも0.04%、少なくとも0.05%、少なくとも0.06%、少なくとも0.08%、少なくとも0.09%、少なくとも0.1%、および少なくとも0.15%からなる群より選択される濃度で含まれることが好ましい。上記で議論されたように、陽イオン性界面活性剤の混合物(好ましくは、TTABと混合されたCTAB)もまた使用することができる。
【0026】
好ましい実施形態にしたがうと、少なくとも1種類の上記陽イオン性界面活性剤は溶液の形態で添加される。上記溶液中には、上記陽イオン性界面活性剤が、その溶液の全容積に基づいて、好ましくは、0.1%〜20%、0.5%〜10%、0.1%〜5%、0.5%〜5%、0.1%〜3%、0.5%〜3%からなる群より選択される濃度で、そして最も好ましくは、0.1%〜1%および0.5%〜1%の濃度で含まれる。陽イオン性界面活性剤の混合物が使用される場合にも同じものが適用される。
【0027】
少なくとも1種類の上記陽イオン性界面活性剤を含む上記溶液には、例えば、塩のようなさらなる成分を含めることができる。上記溶液に含まれることが好ましい塩は、アルカリ金属塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化リチウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、酢酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸リチウム、硫酸カリウム、およびこれらの混合物)からなる群より選択することができる。それぞれの塩の添加は、特に、上記陽イオン性界面活性剤が溶液中に残るという利点を有する。好ましくは、上記塩は、0〜10M、好ましくは0.5〜5M、より好ましくは0.5〜1.5Mからなる群より選択される濃度で上記溶液中に含まれる。
【0028】
上記相を分離させる前に上記陽イオン性界面活性剤を添加することができる方法についてはいくつかの選択肢がある。1つの実施形態にしたがうと、上記陽イオン性界面活性剤がそれぞれ、上記酸性変性組成物が上記試料に添加される前、その間、または添加後のいずれかで、工程a)の間に添加される。上記陽イオン性界面活性剤はまた、上記酸性変性組成物中にも含めることができる。さらに、上記水不溶性の有機溶媒が工程b)において添加される場合は、上記陽イオン性界面活性剤が一緒に、それぞれが同時に添加される場合もある。しかし、RNAを含む水相中のDNAの量を低減することに関して上記陽イオン性界面活性剤がその有用な効果を発揮できるように、陽イオン性界面活性剤が最後の相分離が行われる前に添加されることが重要である。上記最後の相分離が重要であるので、上記水相から上記有機相および/または上記中間相に上記陽イオン性界面活性剤と残留DNAを取り出すことができるように、最初の相分離を行うこと、その後、陽イオン性界面活性剤を水相に添加すること、そしてその後、最終的に上記相を分離させる(例えば、遠心分離により支援される)こともまた、本発明の範囲に含まれる。しかし、特に、処理(handling)工程を割愛するためには、上記水不溶性の有機溶媒が添加される前、またはそれと同時に、陽イオン性の剤が添加されることが好ましい。好ましい実施形態にしたがうと、上記陽イオン性界面活性剤は別に、そして、したがって、上記試料が上記酸性変性組成物と混合された後であり、上記水不溶性の有機溶媒が添加される前に、添加される。実施例に示すように、特に優れた結果は、工程a)の後、および、工程b)の前に少なくとも1種類の陽イオン性界面活性剤が添加される場合に達成される。
【0029】
相分離は沈降により達成することができる。1つの実施形態にしたがうと、上記多相混合物は、上記試料を遠心分離することにより形成される。ここでは、低温、したがって室温より低い温度で上記試料を遠心分離することが好ましい。好ましくは、上記温度は、≦15℃、≦10℃であり、≦7℃、≦5℃、および≦4℃のようなさらに低い温度が特に好ましい。低温での遠心分離が上記相分離を助け、さらに、陽イオン性界面活性剤が使用される場合には、RNAを含む水相中のDNAの低減を促すことが明らかになった。
【0030】
上記水相からRNAを単離するためには、水溶液からRNAを単離するための先行技術において公知の、基本的にはあらゆる方法を使用することができる。好ましくは、上記RNAは、上記水相に対して少なくとも1種類のアルコールを添加し、それにより上記RNAを沈殿させることにより単離される。1つの実施形態にしたがうと、それぞれ沈殿したRNAを、上記水相の遠心分離と上清の液体のデカントにより回収することができる。
【0031】
好ましくは、上記水相が少なくとも1種類のアルコールと混合され、次に、核酸の精製を助けるために、上記混合物が核酸結合固相と接触させられる。
【0032】
核酸結合固相としては、核酸を結合することができるあらゆる材料を使用することができ、したがってこれには、適切な条件下で核酸を結合することができる様々な材料が含まれる。本発明と組み合わせて使用することができる例示的な固相としては、シリカを含む化合物およびケイ酸質の(siliceous)固相が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。これには、シリカ粒子、二酸化ケイ素、珪藻土、ガラス、アルキルシリカ、ケイ酸アルミニウム、およびホウケイ酸塩;ニトロセルロース;ジアゾ化された紙(diazotized paper);ヒドロキシアパタイト(ヒドロキシルアパタイトとも呼ばれる);ナイロン;金属酸化物;ジルコニア;アルミナ;ポリマー支持体、ジエチルアミノエチル誘導体化支持体およびトリエチルアミノエチル誘導体化支持体、および疎水性クロマトグラフィー樹脂(例えば、フェニルセファロースまたはオクチルセファロース)などが含まれるが、これらに限定されるわけではない。固相という用語は、その形態またはデザインに関するいかなる限定をも暗に意図するように意図されるものではない。したがって、固相という用語には、多孔性であるかまたは非多孔性である;透過性であるかまたは不透過性である適切な材料が包含され、これには、メンブレン、フィルター、シート、粒子、磁性粒子、ビーズ、ゲル、粉末、および繊維などが含まれるが、これらに限定されるわけではない。1つの実施形態にしたがうと、上記固相の表面は修飾されておらず、例えば、官能基で修飾されていない。核酸結合メンブレン(nucleic acid binding membrane)が使用されることが好ましい。適切なメンブレンとしては、親水性メンブレン、疎水性メンブレン、およびイオン交換により核酸結合メンブレンが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。例として、シリカメンブレンおよびシリカを含む他のメンブレン、ナイロンメンブレン、セルロースメンブレン(例えば、ニトロセルロースメンブレン)が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。メンブレンは多孔性であることが好ましい。さらに、シリカを含むかまたはシリカからなるメンブレンを使用することが好ましい。
【0033】
アルコールとして、短鎖の分岐アルコールまたは非分岐アルコール(1〜5個の炭素原子を持つことが好ましい)を使用することが好ましい。例は、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、およびブタノールである。アルコールの混合物もまた使用することができる。アルコールは好ましくは、イソプロパノールおよびエタノールから選択される。なぜなら、上記アルコールがRNAを沈殿させるために特に有効であるからである。
【0034】
上記RNAを単離するために使用されるアルコールの濃度は、単離された全RNA中に低分子RNAが含まれることが意図されるかどうかに依存する。miRNAのような低分子RNAもまた精製するように意図される場合は、より高いアルコール濃度を使用することが推奨される。単離された全RNA中にそれぞれの低分子RNA種が含まれることが望ましくない場合は、より低いアルコール濃度が好ましい。上記水相と混合される場合は、アルコールの濃度は、得られる混合物中の10%v/v〜90%v/vの範囲にあり得る。低分子RNAを含む全RNAを単離するためには、≧40%v/v、好ましくは、≧50%v/vのアルコール濃度を使用することが有利である。低分子RNAが含まれることが望ましくない場合は、アルコールの濃度は、≦40%v/vが好ましい。したがって、上記水相と混合される場合は、上記濃度は、少なくとも20%、少なくとも30%v/v、少なくとも40%v/v、少なくとも50%v/v、および少なくとも60%v/vからなる群より選択され得る。上記アルコール濃度は、上記水相と混合される場合は、20%v/v〜90%v/v、または30%v/v〜85%の範囲にあることが好ましく、30%v/v〜70%v/vの範囲にあることが好ましい。
【0035】
用語「試料」は、本明細書中では広い意味で使用され、核酸を含む様々な供給源を含むように意図される。試料は生物学的試料であり得るが、この用語には、核酸を含む他の、例えば、人工的な試料も含まれる。例示的な試料としては、全血;血液生成物;赤血球;白血球;バフィーコート;スワブ(口腔スワブ、咽喉スワブ、膣スワブ、尿道スワブ、子宮頸スワブ、咽喉スワブ、直腸スワブ、病巣スワブ、膿瘍スワブ、および鼻咽頭スワブなどを含むがこれらに限定されるわけではない);尿;痰;唾液;精液;リンパ液;羊水;脳脊髄液;腹膜滲出液;胸水;嚢胞由来の流体;滑液;硝子体液;房水;滑液包の流体(bursa fluid);洗眼液;眼吸引液;血漿;血清;肺洗浄液;肺吸引液;組織(肝臓、脾臓、腎臓、肺、腸、脳、心臓、筋肉、膵臓を含むがこれらに限定されるわけではない)、細胞培養物、ならびに、上記試料から、または上記試料上もしくは上記試料中に存在する可能性がある任意の細胞および微生物およびウイルスから得られた溶解物、抽出物、あるいは材料などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。核酸を含む臨床状況または法医学の状況から得られた材料もまた、用語「試料」の意図される意味に含まれる。さらに、当業者は、上記の例示的な試料のいずれかから得られた溶解物、抽出物、または処理された材料もしくは一部もまた、用語「試料」の範囲に含まれることを理解する。上記試料は、ヒト、動物、植物、細菌、または真菌由来の生物学的試料であることが好ましい。上記試料は、細胞、組織、細菌、ウイルス、ならびに、体液、例えば、血液、血液生成物(例えば、バフィーコート、血漿、および血清)、尿、液(liquor)、痰、便、CSFおよび精子、上皮スワブ、生検、骨髄試料および組織試料(好ましくは、肺、腎臓、または肝臓のような臓器組織試料)からなる群より選択されることが好ましい。本発明による方法は、組織試料、特に、臓器組織試料からRNAを単離するのに特に適している。1つの実施形態にしたがうと、上記組織は血液ではない。1つの実施形態にしたがうと、上記試料は細菌試料でも細菌に由来する試料でもない。
【0036】
用語「低分子核酸(small nucleic acid)」および「低分子核酸(small nucleic acids)」は、具体的に、1000ヌクレオチド未満、500ヌクレオチド未満、400ヌクレオチド未満、300ヌクレオチド未満、100ヌクレオチド未満、または70ヌクレオチド未満の長さを有している核酸を意味し、これには、miRNA、siRNAおよび他の短い(short)干渉核酸、snoRNA、snRNA、tRNA、hnRNA、循環核酸、ゲノムDNAまたはRNAの断片、分解した核酸、リボザイム、ウイルスRNAまたはウイルスDNA、感染起源の(infectios origin)核酸、増幅産物、修飾された核酸、プラスミド核酸または細胞小器官の核酸、オリゴヌクレオチドのような人工的な核酸が含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0037】
カオトロピック剤とフェノールとを含む酸性変性組成物は、先行技術に(例えば、US4,843,155またはUS5,346,994に)記載されているような組成を有し得る。
【0038】
例えば、限定的ではないが、一次構造を完全な状態で残したまま、タンパク質または核酸の二次、三次、または四次構造を変化させることにより、タンパク質または核酸において無秩序(disorder)を引き起こす任意のカオトロピック剤を、上記酸性変性組成物中で使用することができる。好ましくは、上記カオトロピック剤は、塩酸グアニジン、チオシアン酸グアニジン、イソチオシアン酸グアニジン、チオシアン酸ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、トリクロロ酢酸ナトリウム、トリフルオロ酢酸ナトリウム、および尿素からなる群より選択される。カオトロピック塩が使用されることが好ましい。具体的には、塩酸グアニジンおよび/またはチオシアン酸グアニジンをカオトロピック剤として使用することができる。
【0039】
上記カオトロピック剤は、0.1Mから飽和限界まで、0.1〜6M、0.5〜4M、0.5〜3M、および0.5〜2Mからなる群より選択される濃度で上記酸性変性組成物中に含めることができる。
【0040】
フェノールは、上記酸性変性組成物の全容積に基づいて、10%v/v〜70%v/v、20%v/v〜60%v/v、および30%v/v〜50%v/vからなる群より選択される濃度で上記酸性変性組成物中に含まれることが好ましい。フェノールの濃度は35%v/v〜40%v/vの範囲にあることが好ましい。
【0041】
上記変性組成物のpH値は酸性であり、≦6、好ましくは、≦5であり得る。好ましくは、上記酸性変性組成物のpH値は3〜6の範囲にあることが好ましく、4〜5の範囲にあることがより好ましい。
【0042】
さらに、上記酸性変性組成物には、上記組成物を酸性のpHに維持するのに十分な量の緩衝剤が含まれ得る。上記緩衝剤は、酢酸塩、クエン酸塩、リン酸塩、フタル酸塩、酒石酸塩、または乳酸塩のうちの少なくとも1つの塩であり得、例えば、リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、およびクエン酸ナトリウムより選択することができる。酢酸ナトリウムが使用されることが好ましい。
【0043】
上記酸性変性組成物には、溶液中でフェノールを、特に、4℃で維持するため、およびこの溶媒を単相溶液とするか、または単相溶液として維持するために、可溶化剤を含めることができる。適切な可溶化剤はグリセロールである。1つの実施形態にしたがうと、上記可溶化剤は、約2〜10%、好ましくは約5%の濃度で含まれる。
【0044】
さらに、上記酸性変性組成物には、チオシアン酸塩成分(好ましくは、チオシアン酸アンモニウムまたはチオシアン酸ナトリウム)を含めることができる。このさらなるチオシアン酸塩成分は、上記生物学的試料からのRNAの抽出を促進すると考えられる。チオシアン酸塩成分は、0.1〜1M、好ましくは0.4Mの濃度で含めることができる。
【0045】
1つの実施形態にしたがうと、上記酸性変性組成物は以下の特徴を有する:
− 30%を上回る、好ましくは、35%を上回る、最も好ましくは、35%〜40%の濃度のフェノールを含む;
− 4.3〜6のpH、好ましくは、4.5〜5のpHを有する;
− 0.5〜4M、好ましくは、0.5〜3Mの濃度のカオトロピック塩を含む;および
− 緩衝剤、可溶化剤、およびチオシアン酸塩化合物からなる群より選択される少なくとも1種類のさらなる剤を含むことが好ましい;好ましい例と濃度は上に記載されている。
【0046】
上記酸性変性組成物が上記の好ましい特徴の全てを併せ持つことが好ましい。
【0047】
適切な水不溶性の有機溶媒としては、カプロラクトン、エチレングリコールジアセテート、二ポリエチレングリコールジベンゾエート、クロロホルム、四塩化炭素、ブロモクロロプロパン、ブロモナフタレン、ブロモアニソール、臭化シクロヘキシル、ジブロモプロパン、ジクロロ安息香酸、またはこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。上記水不溶性の有機溶媒がクロロホルムであることが好ましい。
【0048】
本発明による方法にはまた、1つ以上のさらなる工程が含まれる場合があり、いくつかの限定的ではない選択肢が続いて記載される。
【0049】
所望される場合は、タンパク質(上記試料中に含まれる場合)および/または上記DNAもまた、本発明による方法により上記有機相および/または上記中間相から回収することができる。例えば、タンパク質は、上記有機相に低級アルコールを添加することによって沈殿させることができ、沈降により上記タンパク質を回収することができる。上記DNAは、例えば、予め決定された量の溶媒溶液での洗浄、上記DNAの沈降、および上記DNAからの全てのフェノールおよび塩混入物質の除去により、上記中間相および/または上記有機相から回収することができる。中間相および/または有機相からDNAおよび/またはタンパク質を単離するための適切な方法は先行技術において公知であり、したがって、ここでさらに記載する必要はない。本発明による方法を実行することにはまた、上記DNAの単離に関しても、DNAが水相からより効率よく取り出され、したがって、上記中間相および/または有機相中に濃縮され、ここから上記DNAを単離することができるので、DNAの収量が増加するという有利な効果がある。
【0050】
さらに、上記水相から上記RNAが単離される場合は、1回以上の洗浄工程が行われ得る。好ましくは、固相が使用される場合は、上記洗浄工程が、上記RNAを上記核酸結合固相に結合させたまま行われる。この目的のためには、一般的な洗浄溶液を使用することができる。上記核酸結合固相からの上記RNAの遊離を生じない洗浄溶液を使用することが推奨される。さらに、結合相が使用されない場合は、上記RNAを含むペレットを洗浄することができる。1つの実施形態にしたがうと、洗浄に使用される溶液には、少なくとも1種類のカオトロピック剤、少なくとも1種類のアルコール、少なくとも1種類の界面活性剤、および/または少なくとも1種類の緩衝成分が含まれる。これには界面活性剤もまた含めることができる。洗浄溶液中で使用することができるカオトロピック剤としては、塩酸グアニジン、チオシアン酸グアニジン、イソチオシアン酸グアニジン、およびヨウ化ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。さらに、トリクロロ酢酸塩、過塩素酸塩、およびトリフルオロ酢酸塩からなる群より選択されるカオトロピックアニオンを含むカオトロピック塩を使用することができる。それぞれのカオトロピック塩の例は、過塩素酸ナトリウム、トリクロロ酢酸ナトリウム、およびトリフルオロ酢酸ナトリウムのようなアルカリ塩である。洗浄用のアルコールとしては、短鎖の分岐アルコールまたは非分岐アルコール(1〜5個の炭素原子を持つことが好ましい)を洗浄のために、上記洗浄溶液中でそれぞれ、使用することができる。例は、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、およびブタノールである。イソプロパノールおよび/またはエタノールが使用されることが好ましい。上記洗浄溶液に、少なくとも10%のアルコールと少なくとも900mMのカオトロピック塩、好ましくは、少なくとも2Mのカオトロピック塩が含まれることが好ましい。さらに、上記洗浄溶液に界面活性剤を含めることができる。
【0051】
本発明による方法での使用に適しているキットもまた提供される。上記キットには以下が含まれる:
a)カオトロピック剤とフェノールとを含む酸性変性組成物;
b)少なくとも1種類の陽イオン性界面活性剤と、好ましくは塩とを含む、水相中のDNAを低減するための溶液;
c)必要に応じて、核酸結合固相;および
d)必要に応じて、洗浄バッファおよび溶離バッファ。
【0052】
上記酸性変性組成物は、上に記載された特徴を有することが好ましい。これは上記開示に記載されたとおりである。さらに、DNAを低減するための溶液もまた、上に記載された特徴を有することが好ましい。これもまた、上記開示に記載されたとおりである。
【0053】
本発明のさらなる態様にしたがうと、カオトロピック剤とフェノールとを含む酸性変性組成物の使用を含むRNA単離方法において形成された、RNAを含む水相中のDNAの量を低減するための方法が、提供され、ここで、水不溶性の有機溶媒の添加により得られた相が、水相、必要に応じて、中間相および有機相に分離される前に、少なくとも1種類の陽イオン性界面活性剤が、上記酸性変性組成物中でホモジナイズされた試料に添加される。
【0054】
本発明はまた、以下の工程:
− カオトロピック剤とフェノールとを含む酸性変性組成物中で試料をホモジナイズする工程;
− 水不溶性の有機溶媒を添加する工程、および
− この混合物を、水相、必要に応じて、中間相および有機相に分離させる工程、
により得られる、RNAを含む水相中のDNAの量を低減するための、少なくとも1種類のイオン性界面活性剤の使用にも関し、
ここで、上記イオン性界面活性剤が、最終的に上記相を分離させる前に添加される。イオン性界面活性剤として、SDSのような陰イオン性界面活性剤、および好ましくは、陽イオン性界面活性剤が使用される。上記で議論したように、陽イオン性界面活性剤が、RNAを含む水溶液中のDNAの量を低減することに関して最良の結果をもたらすので、上記界面活性剤が陽イオン性界面活性剤であることが好ましい。上記酸性変性組成物、上記界面活性剤についてのさらなる詳細、および記載される使用についてのさらなる詳細は、本発明による方法と組み合わせて上記で議論されている。これは上記開示に記載されている。上記酸性変性組成物が上に記載される好ましい特徴の全てを併せ持つことが好ましい。
【0055】
本発明はまた、以下の工程:
− カオトロピック剤とフェノールとを含む酸性変性組成物中で試料をホモジナイズする工程;
− 水不溶性の有機溶媒を添加する工程;および
− この混合物を、水相、必要に応じて、中間相および有機相とに分離させる工程、
により得られた、RNAを含む水相中のDNAの量を減少させることにより中間相および/または有機相中のDNAの量を増加させるための少なくとも1種類の陽イオン性界面活性剤の使用にも関し、
ここで、上記陽イオン性界面活性剤が、最終的に上記相を分離させる前に添加される。
【0056】
上記酸性変性組成物および上記陽イオン性界面活性剤についての詳細と、関連する利点は上に詳細に記載されている。これはそれぞれの開示に記載されており、ここでも適用される。
【実施例】
【0057】
(実施例1)
ラットの肝臓からのRNAの単離の間のゲノムDNAの排除に対する様々な界面活性剤の効果を以下の方法により評価した:
1.RNAlaterにより安定化した270mgの肝臓組織を、TissueRuptorホモジナイザーを使用して、27mlの、Qiazol試薬、酸性フェノール、およびカオトロピック塩を含む試薬の中でホモジナイズした。
【0058】
2.1000μlの得られたホモジネートを2mlのエッペンドルフチューブにアリコートした。したがって、1つの試料について10mgの組織を使用した。
【0059】
3.8μl(5μg)のゲノムDNAを、相分離の前に上記Qiazol試薬に添加した。
【0060】
4.次の工程で、100μlの以下の界面活性剤をこのホモジネートに添加した(2連で):
− Triton X−100[100%]
− Tween20[20%]
− 臭化セチルトリメチルアンモニウム[1%]、CTAB
− 臭化テトラデシルトリメチルアンモニウム[1%]、TTAB。
【0061】
対照標準(referance)については界面活性剤を添加しなかった(「対照標準」)。
【0062】
続いて、200μlのクロロホルムを添加し、ボルテックスした。
【0063】
5.上記試料を、4℃にて、12,000×gで15分間遠心分離し、得られた水相を新しいエッペンドルフチューブに移した。
【0064】
6.1.5倍容積の無水エタノールをそれぞれの水相に添加し、混合した。
【0065】
7.この混合物をRNeasyミニカラム(Qiagen)に移し、8,200×gで15秒間遠心分離し、続いて、700μlのRWTバッファ(Qiagen)を用い、続いて8,200×gで15秒間遠心分離して洗浄した。
【0066】
8.このカラムを500μlのRPEバッファ(Qiagen)で2回洗浄し、それぞれ8,200×gで15秒間および2分間遠心分離し、続いて最大速度で1分間の最後の遠心分離工程を行った。
【0067】
9.結合したRNAを、8,200×gで1分間の遠心分離により、30μlのRNaseを含まない水に溶離させ、そのRNA濃度を、NanoDrop(ThermoScientific)を使用して分光学的に決定した。その結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
明らかであるように、プロトコールの全ての変形(variant)により良好なRNAの収量が得られる。しかし、使用した分光学的方法は、RNAとDNAを厳密に区別するものではなく、したがって、RNAと、さらにはDNAも「RNAの収量」として決定される。表3および対応する図1に続いて示すように、単離されたRNA中のDNAの量が、本発明による方法を使用する場合にはかなり減少するので、対照標準法、ならびに、非陽イオン性界面活性剤TritonおよびTweenを使用する方法と比較して、本発明による方法を使用する場合には純粋なRNAの収量が改善される。
【0069】
10.RNA完全性に対する試験した界面活性剤の影響を比較するために、RNA完全性を、Agilent BioAnalyzer 2100(登録商標)を使用して評価した。その結果を表2に示す。
【0070】
【表2】
表2は、最も高いRIN数が本発明による方法を用いた場合に得られたことを示している。したがって、本発明による方法を用いて単離したRNAのRNA完全性が、対照標準法を使用して単離したRNAのRNA完全性、または他の非陽イオン性界面活性剤を添加した場合のRNA完全性よりも優れている。
【0071】
11.RNA試料を、RNAseを含まない水で1:50に希釈し、その後、25μlの反応容積において、逆転写酵素を用いておよび逆転写酵素を用いることなく、それぞれQuantiTect RT−PCRキット(Qiagen)を使用して、10ピコモル(pmole)の遺伝子特異的プライマーおよびプローブ(PGK1プライマーミックス、PGK1プローブ)を用いて逆転写させた:
(1)30分間、50℃で
(2)15分間、95℃で
(3)15秒間、95℃で
(4)1分間、60℃で、工程(3)、(4)を40サイクル繰り返す。
【0072】
得られたCt値とΔCt値を、表3と図1a)(Ct値)および1b)(ΔCt値)に示す。
【0073】
【表3】
「−RT」反応においては、DNA混入物質だけが鋳型となることができ、したがって、上記PCRにおいて増幅される(RNAは「−RT」反応では逆転写されず、したがって鋳型となることができない)。したがって、少量のDNAを含む試料においては、より多いサイクルの後に閾値に到達し、したがって上記Ct値はより高い。このように、「−RT」反応において上記Ct値が高ければ高いほど鋳型の量が少なく、よって単離されたRNA中のDNA混入物質の量がより少ない。最も高いCt値は本発明による方法を用いた場合に得られる。より高いCt値の原因が核酸の全収量がより少ないことではないことを確認するために、「+RT」反応についてのCt値を決定した。ここでは、上記RNAが逆転写され、したがって上記PCRの鋳型となることができる。上記Ct値は全ての「+RT」反応においてより低い。なぜなら、ここでは、逆転写された上記RNA(および上記DNA混入物質)がPCRの鋳型となることができ、したがって、上記「−RT」反応においてより早い段階で閾値に到達するからである。結果から明らかであるように、得られた上記Ct値は全ての試験した試料においてほぼ等しい。
【0074】
ΔCt値(ΔCt=(上記「−RT」反応のCt)−(上記「+RT」反応)のCt)は、その2つの反応間の差を示しており、したがって、単離された上記RNA中のDNA混入物質の量を示す。上記ΔCt値が高ければ高いほど、単離された上記RNA中のDNA混入物質の量はより少ない。表3と図1a)およびb)は、陽イオン性界面活性剤を添加した、本発明により単離したRNAには、対照標準法よりもかなり少ない量のDNA混入物質しか含まれていないことを示している。したがって、DNA混入物質は本発明の教示により効率よく低減される。他の非陽イオン性界面活性剤はDNA混入物質の量を減らすことはできなかった。逆に、上記対照標準法のΔCt値よりもなおも低いΔCt値から明らかであるように、これらは、単離された上記RNA中のDNAの増加をさらに導く。
【0075】
(実施例2)
上記界面活性剤を上記ホモジネートに直接添加する一方で、上記Qiazol試薬を使用した様々な組織からのRNAの単離の間に共精製された(co−purified)ゲノムDNAの量を評価するために、以下の実験を行った:
1.200mgの、RNAlaterにより安定化した肺、腎臓、心臓、脾臓、および脳組織を、TissueRuptorホモジナイザーを使用して、8mlのQiazol試薬中でホモジナイズした。
2.それぞれ1000μlのホモジネート(1つの試料あたり25mgの組織に相当する)を2mlのエッペンドルフチューブにアリコートし、100μlの以下の界面活性剤ストック溶液をこれに添加した:
− 臭化セチルトリメチルアンモニウム[1%]、CTAB
− 臭化テトラデシルトリメチルアンモニウム[1%]、TTAB。
【0076】
対照標準については界面活性剤を添加しなかった(「対照標準」)。
【0077】
続いて、200μlのクロロホルムを添加し、ボルテックスした。
【0078】
3.上記試料を、4℃にて、12,000×gで15分間遠心分離し、得られた水相を新しいエッペンドルフチューブに移した。
【0079】
4.その上清を1.5倍容積の無水エタノールと混合し、水相をRNeasyミニカラム(Qiagen)に移し、8,200×gで15秒間遠心分離し、続いて700μlのRWTバッファ(Qiagen)を用い、その後、8,200×gで15秒間遠心分離して洗浄した。
【0080】
5.その後、このカラムを500μlのRPEバッファ(Qiagen)で2回、それぞれ8,200×gで15秒間および2分間洗浄し、続いて最大速度で1分間の最後の遠心分離工程を行った。
【0081】
6.結合したRNAを、8,200×gで1分間の遠心分離により30μlのRNaseを含まない水に溶離させ、RNA濃度を、NanoDrop(ThermoScientific)を使用して分光学的に決定した。その結果を表4に示す。
【0082】
【表4-1】
【0083】
【表4-2】
明らかであるように、いずれのプロトコールを用いた場合にもその収量は良好であったが、本発明による方法により単離したRNAにはDNAは極少量しか含まれておらず、したがって、多くの場合は、純粋なRNAの収量が、続いて表6においても明らかにするように、なおさらに多かった。
【0084】
7.RNA完全性を、Agilent BioAnalyzer 2100を使用して評価した。その結果を表5に示す。
【0085】
【表5】
先と同様に、上記RINは、本発明による方法を用いる場合には、対照標準法と等しいか、またはなおさらに優れているかのいずれかである。
【0086】
8.RNA試料を、以下のようにRNaseを含まない水で希釈した:肺1:80、腎臓1:100、心臓1:50、脾臓1:100、脳1:50。2μlのそれぞれの希釈物を、25μlの反応容積において、逆転写酵素を用いておよび逆転写酵素を用いることなく、QuantiTect RT−PCRキット(Qiagen)を使用して、10ピコモルの遺伝子特異的プライマーおよびプローブ(PGK1プライマーミックス、PGK1プローブ)を用いて逆転写させた:
(1)30分間、50℃で
(2)15分間、95℃で
(3)15秒間、95℃で
(4)1分間、60℃で、工程(3)、(4)を40サイクル繰り返す。
【0087】
得られたCt値とΔCt値を、表6と、対応する図2a)および2b)に示す。
【0088】
【表6】
より高いΔCt値(図2bもまた参照のこと)から導くことができるように、本発明による方法により、様々な組織試料から単離したRNA中のDNA混入物質の量がかなり低減された。したがって、本発明による方法は、様々な組織からの純粋なRNAの単離に特に適している。
【0089】
(実施例3)
RNAを、上記Qiazol試薬を使用して漸増量の組織から単離した。ここでは、以下の手順にしたがって上記陽イオン性界面活性剤をホモジネートに直接添加した。:
1.5mg、10mg、20mg、30mg、および50mgの、(a)RNAlaterにより安定化した肝臓または(b)凍結した肝臓を、TissueRuptorホモジナイザーを使用して1mlのQiazol試薬中でホモジナイズした。
【0090】
2.100μlの以下の界面活性剤ストック溶液を添加した:
− 臭化セチルトリメチルアンモニウム[1%]、CTAB
− 臭化テトラデシルトリメチルアンモニウム[1%]、TTAB。
【0091】
上記対照標準については界面活性剤を添加しなかった(「対照標準」)。
【0092】
続いて、200μlのクロロホルムを添加し、ボルテックスした。
【0093】
3.上記試料を、4℃にて、12,000×gで15分間遠心分離し、得られた水相を新しいエッペンドルフチューブに移した。
【0094】
4.その上清を1.5倍容積の無水エタノールと混合し、水相をRNeasyミニカラム(Qiagen)に移し、8,200×gで15秒間遠心分離し、続いて700μlのRWTバッファ(Qiagen)を用い、その後、8,200×gで15秒間遠心分離して洗浄した。
【0095】
5.このカラムを、500μlのRPEバッファ(Qiagen)で2回、それぞれ、8,200×gで15秒間および2分間洗浄し、続いて最大速度で1分間の最後の遠心分離工程を行った。
【0096】
6.結合したRNAを、8,200×gで1分間の遠心分離により30μlのRNaseを含まない水に溶離させ、上記RNA濃度を、NanoDrop(ThermoScientific)を使用して分光学的に決定する。その結果を表7および表8と、図3および図4に示す。
【0097】
【表7-1】
【0098】
【表7-2】
【0099】
【表8-1】
【0100】
【表8-2】
7.RNA完全性を、Agilent BioAnalyzer 2100を使用して評価した。その結果を表9および表10に示す。
【0101】
【表9】
【0102】
【表10】
明らかであるように、本発明による方法により単離したRNAについてのRIN値は優れている。
【0103】
8.RNA試料を、RNaseを含まない水で1:70に希釈した。その後、2μlのこの希釈液を、25μlの反応容積において、逆転写酵素を用いておよび逆転写酵素を用いることなく、それぞれQuantiTect RT−PCRキット(Qiagen)を使用して、10ピコモルの遺伝子特異的プライマーおよびプローブ(PGK1プライマーミックス、PGK1プローブ)を用いて逆転写させた:
(1)30分間、50℃で
(2)15分間、95℃で
(3)15秒間、95℃で
(4)1分間、60℃で、工程(3)、(4)を40サイクル繰り返す。
【0104】
得られたCt値とΔCt値を表11a)およびb)に列挙し、図5a)およびb)において棒グラフとしてプロットする。
【0105】
【表11-1】
【0106】
【表11-2】
(実施例4)
RNAの単離の間のゲノムDNAの共精製に対する効果を、1つの条件について4つの個別のRNA調製物を用いて以下の手順にしたがい上記ホモジネートに直接添加した、様々な量の陽イオン性界面活性剤を使用して評価した:
1.930mgの、RNAlaterにより安定化した肝臓を、TissueRuptorホモジナイザーを使用して31mlのQiazol試薬中でホモジナイズした。
【0107】
2.それぞれ1000μlのホモジネート(30mgの肝臓に相当する)を2mlのエッペンドルフチューブにアリコートし、この試料に対して、界面活性剤を添加しなかったか、または漸増量(50μl、100μl、150μl、200μl)の1%のCTABストック溶液を添加したかのいずれかを行い、続いて、200μlのクロロホルムを添加し、ボルテックスした。
【0108】
3.試料を4℃にて、12,000×gで15分間遠心分離し、得られた水相を新しいエッペンドルフチューブに移した。
【0109】
4.その上清を1.5倍容積の無水エタノールと混合し、水相をRNeasyミニカラム(Qiagen)に移し、8,200×gで15秒間遠心分離し、続いて700μlのRWTバッファ(Qiagen)を用い、その後、8,200×gで15秒間遠心分離して洗浄した。
【0110】
5.その後、このカラムを500μlのRPEバッファ(Qiagen)で2回、それぞれ8,200×gで15秒間および2分間洗浄し、続いて最大速度で1分間の最後の遠心分離工程を行った。
【0111】
6.結合したRNAを、8,200×gで1分間の遠心分離により30μlのRNaseを含まない水に溶離させ、上記RNA濃度をNanoDrop分光光度計(ThermoScientific)を使用して決定した。その結果を表12と図6に示す。
【0112】
【表12】
その結果はまた、図6にもまとめる。上記対照標準法と本発明による方法との間でのRNAの収量における推定される減少は、主に、単離されたRNA中のゲノムDNAの減少にその原因があり、RNAの減少に原因があるのではない。これは、とりわけqRT−PCRアッセイ(図7を参照のこと)および本明細書中に示す他の実施例によりサポートされる。
【0113】
7.RNA完全性をAgilent BioAnalyzer 2100を使用して評価した。その結果を表13に示す。
【0114】
【表13】
8.RNA試料をRNaseを含まない水で1:90に希釈し、25μlの反応容積において、逆転写酵素を用いておよび逆転写酵素を用いることなく、QuantiTect RT−PCRキット(Qiagen)を使用して、それぞれ10ピコモルの遺伝子特異的プライマーおよびプローブ(PGK1プライマーミックス、PGK1プローブ)を用いて逆転写させた:
(1)30分間、50℃で
(2)15分間、95℃で
(3)15秒間、95℃で
(4)1分間、60℃で、工程(3)、(4)を40サイクル繰り返す。
【0115】
得られたCt値とΔCt値を、表14と対応する図7に示す。
【0116】
【表14】
その結果はまた、図7によっても例証される。明らかであるように、CTABの量を増加させることにより、単離された上記RNA中のDNA混入物質の低減の増加がもたらされた。
【0117】
(実施例5)
組織からのRNAの単離の間のゲノムDNAの共精製に対する効果を比較するために、2種類の陽イオン性界面活性剤溶液(CTABとバッファ「BB」(Qiagen、1%のCTABと塩とを含む))を使用して、以下の実験を行った:
1.425mgのRNAlaterにより安定化した脾臓、および425mgの凍結した脾臓を、TissueRuptorホモジナイザーを使用して、それぞれ、31mlのQiazol試薬中でホモジナイズした。
【0118】
2.それぞれ1000μlのホモジネートを2mlのエッペンドルフチューブにアリコートし、100μlの以下のストック溶液をこのホモジネートに直接添加した:
− 臭化セチルトリメチルアンモニウム[1%]、CTAB
− QiagenバッファBB(NaCl中の1%のCTAB)。
【0119】
上記対照標準については界面活性剤を添加しなかった(「対照標準」)。
【0120】
続いて、200μlのクロロホルムを添加し、ボルテックスした。
【0121】
3.上記試料を、4℃にて、12,000×gで15分間遠心分離し、得られた水相を新しいエッペンドルフチューブに移した。
【0122】
4.その上清を1.5倍容積の無水エタノールと混合し、水相をRNeasyミニカラム(Qiagen)に移し、8,200×gで15秒間遠心分離し、続いて700μlのRWTバッファ(Qiagen)を用い、その後、8,200×gで15秒間遠心分離して洗浄した。
【0123】
5.その後、このカラムを500μlのRPEバッファ(Qiagen)で2回、それぞれ8,200×gで15秒間および2分間洗浄し、続いて最大速度で1分間の最後の遠心分離工程を行った。
【0124】
6.結合したRNAを、8,200×gで1分間の遠心分離により30μlのRNaseを含まない水に溶離させ、上記RNA濃度を、NanoDrop(ThermoScientific)を使用して分光学的に決定した。その結果を表15に示す。
【0125】
【表15-1】
【0126】
【表15-2】
7.RNA完全性を、Agilent BioAnalyzer 2100を使用して評価した。表16を参照のこと。
【0127】
【表16】
明らかであるように、上記RNA完全性は、本発明による方法を使用して上記組織からRNAを単離する場合に改善される。
【0128】
8.RNA試料をRNaseを含まない水で1:100に希釈し、25μlの反応容積において、逆転写酵素を用いておよび逆転写酵素を用いることなく、それぞれQuantiTect RT−PCRキット(Qiagen)を使用して、10μMの濃度の遺伝子特異的プライマー(PGK1プライマーミックスおよびPGK1プローブ)を用いて逆転写させた:
(1)30分間、50℃で
(2)15分間、95℃で
(3)15秒間、95℃で
(4)1分間、60℃で、工程(3)、(4)を40サイクル繰り返す。
【0129】
得られたCt値とΔCt値を、表17と、対応する図8に示す。
【0130】
【表17】
表17および図8から導くことができるように、本発明による方法は、DNA混入物質の量を減少させることにより、それぞれの組織から単離されたRNAの純度を改善する。これは、増大したΔCt値から導くことができる。
【0131】
(実施例6)
本明細書中では、RNAの単離を、QIAzol(フェノールとカオトロピック剤とを含むが、CTABは含まない)を使用する対照標準プロトコールにしたがって、本発明にしたがって(ここでは、CTABをそのホモジネートに添加する)、および先行技術(ここでは、フェノールとCTABだけが使用され、カオトロピック剤は使用されない(例えば、EP1219707を参照のこと))にしたがって行った。この実施例は、カオトロピック剤とフェノールとを含む酸性変性組成物の陽イオン性界面活性剤との組み合わせが、試料(特に、組織試料のような難しい試料)から、DNA混入物質の量を減らしながら、純粋なRNAを効率よく単離するために重要であることを示している。上記RNAを、2種類の方法(沈殿による方法、ならびにシリカメンブレンを含むRNAeasyミニカラム(Qiagen)を使用した精製による方法)を使用してRNAを含む水相から単離した。
【0132】
6.1.QIAzolを使用してRNAを単離するために、RNAを含む水相を以下のようにして得た:
1.この実験のために、2×100mgの、RNAlaterにより安定化した脾臓および肺組織をTissueRuptorを使用して9mlのQiazol試薬中でホモジナイズした。
【0133】
2.ホモジネートを、2mlのエッペンドルフチューブ上の900μlのアリコート、または1000μlのアリコート中のいずれかに分けた。
【0134】
3.100μlのQIAGENバッファBB(1%のCTABと塩とを含む)をそれぞれ、900μlの試料に添加した。QIAzolだけを使用する対照標準法については、界面活性剤は添加しなかった。180μlのクロロホルムを全ての試料に対して添加し、ボルテックスし、続いて、室温で2〜3分間インキュベートした。その後、その試料を、4℃にて12,000×gで15分間遠心分離し、得られた水相を新しいエッペンドルフチューブに移した。
【0135】
6.2.RNAを単離するためのRNAを含む水相を、EP1219707による方法を使用して以下のようにして得た:
1.2×100mgの、RNAlaterにより安定化した肺および脾臓組織を、8mlのフェノール(pH4.3)、2mlの10%のCTAB、500μlの2Mの酢酸ナトリウム(pH4.0)、9.48mlのRNaseを含まない水を含む、それぞれ9mlの溶液中でホモジナイズした。
【0136】
2.その後、ホモジネート(1000μl)を2mlのエッペンドルフチューブに移した。上記ホモジネートにおける組織の量は他の方法と同じとした。200μlのクロロホルムを添加し、続いてボルテックスし、室温で2〜3分間インキュベートした。その後、その試料を、4℃にて、12,000×gで15分間遠心分離した。
【0137】
3.水相を新しいエッペンドルフチューブに移し、さらなる処理まで、−20℃で一晩保存した。
【0138】
6.3.沈殿によるRNAを含む水相からのRNAの単離
6.1および6.2にしたがって得た水相を、以下の通りに同じようにさらに処理した:
1.500μlのイソプロパノールを添加し、混合し、室温で10分間インキュベーションし、続いて、4℃にて12,000×gで15分間の遠心分離工程を行うことにより、RNAを沈殿させた。
【0139】
2.その上清を廃棄し、RNAペレットを、1mlの75%のエタノールを添加し、ボルテックスし、続いて4℃にて7500×gで5分間遠心分離することにより1回洗浄した。
【0140】
3.その上清を廃棄し、ペレットを風乾させ、60℃で10分間、30μlのRNAseを含まない水に再度懸濁させた。
【0141】
4.得られたRNAをNanodrop(ThermoScientific)を使用して定量化した。表19を参照のこと。
【0142】
【表18-1】
【0143】
【表18-2】
その結果は、フェノールとCTABとを使用し、カオトロピック剤を使用しないEP1219707にしたがう方法が、組織試料からRNAを単離するためには適していないことを示している。
【0144】
6.4.RNeasyミニカラム(Qiagen)を使用することによるRNAを含む水相からのRNAの単離:
水相は、6.1および6.2において上に記載したとおりに得た。その後、この水相を以下のように処理した:
1.水相を1.5倍容積の無水エタノールと混合し、RNeasyミニカラム(Qiagen)上に移し、8,200×gで15秒間遠心分離した。続いてこれを700μlのRWTバッファ(Qiagen)を用い、その後、8,200×gで15秒間遠心分離して洗浄した。
【0145】
2.その後、そのカラムを、500μlのRPEバッファ(Qiagen)を用いて2回、それぞれ8200gで15秒間および2分間洗浄し、続いて最大速度で1分間の最後の遠心分離工程を行った。
【0146】
3.結合したRNAを、8,200gで1分間の遠心分離により30μlのRNaseを含まない水に溶離させた。上記RNA濃度を、NanoDrop(ThermoScientific)を使用して分光学的に決定した。表19を参照のこと。
【0147】
【表19】
6.5.単離されたRNA中のゲノムDNA含量の決定
6.3または6.4にしたがって単離したRNA中のゲノムDNA混入物質の含量を評価するために、以下の工程にしたがってqRT−PCRを行った:
1.脾臓由来のRNA試料をおよそ30ng/μlに希釈し、肺由来のRNA試料は約10ng/μlに希釈した。
【0148】
EP1219707にしたがってフェノール調合物を使用して調製したRNA試料は、その後のqRT−PCRのためには希釈しなかった。
【0149】
2.qRT−PCRを、2μlのRNA試料を鋳型として用い、20μlの反応容積中でそれぞれ10ピコモルのプライマーおよびプローブ(PGK1プライマーミックス、PGK1プローブ)を用いて「QuantiFastプローブRT PCRマスターミックス」を使用してRotoGene QリアルタイムPCR機器(Qiagen)で行った。数回の独立したqRT−PCR反応をそれぞれの試料について行った。サイクル条件は以下のとおりとした:
(1)10分間、50℃で
(2)5分間、95℃で
(3)10秒間、95℃で
(4)30秒間、60℃で、工程(3)、(4)を40回繰り返す。
【0150】
Ct値およびΔCt値の平均を表20に示す。
【0151】
【表20】
明らかであるように、単離された(純粋な)RNAの量を増やしつつ、単離されたRNA中のDNAの量のかなりの低減をもたらす最良の結果は、本発明による方法を用いて達成される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8