特許第6096677号(P6096677)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6096677
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】同種造血幹細胞移植の増強
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/17 20150101AFI20170306BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20170306BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
   A61K35/17ZMD
   A61P35/00
   A61P35/02
【請求項の数】15
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-549494(P2013-549494)
(86)(22)【出願日】2012年1月10日
(65)【公表番号】特表2014-502637(P2014-502637A)
(43)【公表日】2014年2月3日
(86)【国際出願番号】US2012020800
(87)【国際公開番号】WO2012096974
(87)【国際公開日】20120719
【審査請求日】2015年1月6日
(31)【優先権主張番号】61/460,981
(32)【優先日】2011年1月10日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503115205
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(72)【発明者】
【氏名】ストロベール,サミュエル
(72)【発明者】
【氏名】ダット,スパーナ
(72)【発明者】
【氏名】ロウスキー,ロバート
【審査官】 伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−537187(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/032526(WO,A1)
【文献】 DUTT S. et al,Memory Phenotype CD8+T Cells Are Superior to Naive CD8+T Cells in Separating Graft Anti-Tumor Activity From Gvhd After Bone Marrow Transplantation; Application to DLI,51st ASH ANNUAL MEETING AND EXPOSITION Online Program and Abstracts,2009年,Abstract No.2452
【文献】 SUZUKI H. et al,Are CD8+CD122+ cells regulatory T cells or memory T cells?,Hum Immunol,2008年,Vol.69, No.11,p.751-4
【文献】 TOUGH D.F.,Deciphering the relationship between central and effector memory CD8+ T cells,Trends Immunol,2003年,Vol.24, No.8,p.404-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト対象における同種造血細胞移植に使用する供与物であって、
前記供与物は、セントラル及びエフェクターメモリーT細胞を含むドナー由来メモリーCD8T細胞を含んでおり、該ドナー由来メモリーCD8T細胞はCD8CD45RA及びCD8CD45RO細胞から選択されており、前記供与物は、同種造血細胞移植後のがんの再発に先立って少なくとも2か月間にわたるホストヒト対象への投与のためのものであり、前記ドナー由来メモリーCD8T細胞は、少なくとも1×10の量であって、少なくとも80%の純度であり、前記供与物は、前記ホストヒト対象におけるがんの再発を防止するためのものであり、前記供与物は、移植片対宿主病無しに前記ホストヒト対象における残留するがん細胞の死滅を促進するのに有効であることを特徴とする供与物。
【請求項2】
前記ホストヒト対象ががん治療をなされていることを特徴とする請求項1に記載の供与物。
【請求項3】
前記供与物の投与は完全キメリズムを促進することを特徴とする請求項1に記載の供与物。
【請求項4】
前記ホストヒト対象は、化学療法剤で治療されていることを特徴とする請求項2に記載の供与物。
【請求項5】
前記ホストヒト対象は、少なくともがんから部分寛解であることを特徴とする請求項2に記載の供与物。
【請求項6】
前記ホストヒト対象は、前記供与物の投与に先立って、実質的に造血系を切断するために、化学療法剤又は放射線剤で治療されていることを特徴とする請求項1に記載の供与物。
【請求項7】
前記供与物は、同種造血細胞のドナーから得られることを特徴とする請求項1に記載の供与物。
【請求項8】
前記供与物は、直接的に使用されることを特徴とする請求項1に記載の供与物。
【請求項9】
前記供与物は、凍結されるか、又は特定の培養媒体内でビボ外に維持されることを特徴とする請求項1に記載の供与物。
【請求項10】
前記がんは、血液悪性腫瘍である請求項1に記載の供与物。
【請求項11】
前記ホストヒト対象は、小児患者である請求項1に記載の供与物。
【請求項12】
前記ホストヒト対象は、成人患者である請求項1に記載の供与物。
【請求項13】
前記がんは、リンパ腫である請求項1に記載の供与物。
【請求項14】
前記がんは、白血病である請求項1に記載の供与物。
【請求項15】
前記供与物は前記ホストヒト対象に投与され、前記ドナー由来メモリーCD8T細胞は、少なくとも1×108 の量であって、少なくとも80%の純度である請求項14に記載の供与物。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
悪性腫瘍の別名でも知られるがんは、制御されない細胞分裂、隣接する組織の浸潤と破壊、及び、時に体の他の部位への転移、を示す細胞の異常な増殖により特徴付けられる。がんには100を超える型があり、乳がん、皮膚がん、肺がん、結腸がん、前立腺がん及びリンパ腫などが含まれる。がんはアメリカにおいて死因の第二位であり、死全体のおよそ13%ががんによるものである。がんは胎児までもの全ての年齢の人々を冒し得るが、ほとんどの形態のがんの危険性は年齢と共に上昇する。がんはすべての動物を冒し得る。
【0002】
化学療法は多くのがんに対する治療の標準となっている。化学療法とは抗悪性腫瘍薬をがん治療に用いること又は細胞毒性の標準化された投与計画にこれらの薬を組み合わせることを指す。最も一般的には、化学療法は、速く分裂する細胞を殺すことによって効を奏す。急速な分裂はがん細胞の主な特徴の一つである。このことは、化学療法は正常な環境において早く分裂する細胞もまた害するということを意味する。骨髄、消化管、そして毛包中の細胞である。このことにより、化学療法で最も一般的な副作用が引き起こされる。骨髄抑制(血液細胞の生成減少)、粘膜炎(消化管の裏層の炎症)、そして脱毛(抜け毛)である。より新しい抗がん剤はがん細胞の異常タンパク質に対して直接働く。これは標的療法と名付けられている。
【0003】
同種造血細胞移植(HCT)は、白血病及びリンパ腫の患者にとって、特に患者が移植の時に完全寛解であるときは、根治的な治療となり得る。しかしながら、移植の時に患者が部分寛解であったり、骨髄非破壊的な移植前治療が行われた時に完全キメリズムよりもむしろ混合キメリズムが発生する場合、進行性疾患又は再発の危険性は相当に高くなる。
【0004】
これらの新しい薬及び改良された組み合わせにも関わらず、現在の治療は未だ多くの型のがん又は異なったステージのがんに有効でない。改良された投与計画と治療が、がん治療に大いに求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州特許第1123384号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一つの態様において、移植片対宿主病(GVHD)の主な合併症を引き起こすことなく腫瘍細胞を殺すことのできる、精製されたドナーのリンパ球サブセットを加える同種造血細胞移植の後に、がん(白血病、リンパ腫が含まれるがこれらに限定されない)の治療を増強するための組成と方法が開示される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
関連する態様において、同種造血細胞移植(HCT)の後、混合造血細胞キメリズムから完全ドナー細胞キメリズムへの変換を増強する方法と組成が開示される。このような移植はがん又は、その他の、造血系の再構成が必要な状態の治療に利用できる。例えば、貧血、地中海貧血症、自己免疫状態の治療などである。混合キメリズムは、同種HCTの後、完全ドナーキメリズムを果たした患者と比べてずっと高いがんの進行又は再発の割合と関連がある。ドナーリンパ球輸注(DLI)は慣習的に移植後の時点で行われるが、DLIは通常末梢血単核球でできており、末梢血単核球は血液中のすべてのT細胞サブセットを含んでいるので、重篤なGVHDを引き起こす主要な危険因子となる。
【0008】
本発明は、実質的に精製されたドナーのメモリーCD8T細胞をDLIとして同種HCTの後に利用することで従来のDLIを進歩させる。細胞はヒトの移植後適切なときに、例えば、腫瘍の再発を防ぐために約2か月から約6か月、又は腫瘍の再発時に再発を治療するために投与される。これらの方法はより完全なドナーキメリズムを提供し、腫瘍細胞を殺す更なる利点がある。メモリーCD8T細胞はセントラルメモリーT細胞とエフェフクターメモリーT細胞の一つもしくは両方を含み、通常両方を含む。ドナーのメモリーT細胞は通常精製され、単独で、又は当業者に知られるこのような細胞の他のマーカー(CD8CD44ポピュレーションを含むがこれらに限定されない)との組み合わせで、CD8に特異的な親和剤とともに選ばれても良い。T細胞は完全キメリズムを促進する、また適切な場合、腫瘍細胞の死滅を増強させるのに有効な用量で投与される。
【0009】
いくつかの態様において、がんは固形腫瘍である。本発明にかかる方法を用いて治療される固形腫瘍の例として、結腸直腸がん、肺がん、乳がん、膵臓がん、肝臓がん、前立腺がん、卵巣がんがあるがこれらに限定されるものではない。他の態様において、がんは白血病又はリンパ腫であり、急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病、(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、ホジキンリンパ腫及び非ホジキンリンパ腫などのリンパ腫等を含むがこれらに限定されない。いくつかの態様において、腫瘍細胞は原発又は転移腫瘍である。
【0010】
本発明の新規特徴は、添付の特許請求の範囲に具体的に記載される。後述の、本発明の原理を利用した具体的な態様を記載した詳細な説明と、付随する図面を参照することにより、本発明の利点と特徴をよりよく理解することができるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ドナーのC57BL/6 TCD BM細胞を、全T細胞又はT細胞サブセットと共に、又はこれら無しで移植されたBALB/cホストの生存率を示す図である。 A;致死的な放射線を浴びた(800cGy)ホストは、ドナーからの2×10のTCD BM細胞を、脾臓由来の、0.5×10の選別された全T細胞(N=10)又は全CD4T細胞(N=10)と共に、又はこれら無しで(N=12)与えられた。データは、独立した2回の実験より貯えられた。 B;連続的な体重測定がパネルAのマウスにおいて行われた。+は、体重測定がグループに二匹しかマウスが残らない時点で終了したことを示す。 C;ホストは、照射6時間後に500のBCLリンパ腫細胞を与えられた。致死的な放射線を浴びたホストは2×10のTCD BM細胞を、0.5×10の選別されたCD62LhiCD44lowナイーブ(N=10)又はCD44hiメモリー表現型CD4T細胞(N=10)と共に、又はこれら無し(N=8)で与えられた。コントロールの無処置のホストも腫瘍細胞を与えられた(N=8)。データは、独立した2回の実験より貯えられた。 DとF;TCD BMのみ、又はメモリーCD4T細胞と共に、又はメモリー全T細胞と共にそれぞれ移植を行った28日後の、CとEにおいて進行性の腫瘍増殖のあるレシピエントの末梢血液中のCD19対BCL-イディオタイプマーカーの代表的な二色フローサイトメトリー分析がそれぞれ示されている。
図2】ナイーブ及びメモリー表現型CD8T細胞の性質決定を示す図である。 A;C57BL/6脾細胞は抗CD8、抗CD44及び抗CD62L mAbで染色された。ゲートされたCD62LhiCD44lowとCD44hiCD8TはCCR9、αβ、CD122及びCXCR3の発現をみるため分析された。ゲートはアイソタイプ染色で決定された。それぞれのマーカーのヒストグラムプロットが重ねてある。CD44lowCD8T細胞(太線)、CD44hiCD8T(濃淡をつけた領域)。 B;それぞれの細胞の組み合わせに3個の複製ウェルを用いたMLR5日目における、C57BL/6応答ナイーブ又はメモリー表現型CD8T細胞(2×10)のBALB/c刺激細胞(8×10)に対するH−チミジン取り込み(平均±標準誤差)結果は少なくとも3回のMLR実験の代表的なものである。AlloとSynはそれぞれBALB/cとC57BL/6の刺激細胞を示す。+はH−チミジン取り込みが5,000cpm未満であった事を示す。 C;MLR60時間における、C57BL/6ドナーナイーブ又はメモリー表現型CD8T細胞(1×10)の、放射線照射されたBALB/c(5×10)刺激細胞に対するサイトカイン反応が示されている。左のパネルは、IL−2の平均±標準誤差の濃度を示す。右はIFN−γの平均±標準誤差の濃度を示す。#はサイトカインの濃度が<10pg/mlであった事を示す。結果は少なくとも3回のMLR培養の代表的なものである。 D;選別されたナイーブ又はメモリー細胞は、ルシフェラーゼ発現−BCL細胞に対する細胞毒性試験に用いられた。選別されたナイーブ又はメモリー表現型CD8T細胞は、放射線照射されたBALB/cの脾細胞で96時間刺激された。ルシフェラーゼを発現したBCLリンパ腫細胞は、様々なエフェクター:ターゲットの割合で、刺激されたナイーブ又はメモリー表現型細胞と混合された。ルシフェラーゼのシグナルは16時間後に測定された。そして%細胞毒性が、それぞれの時点でのエフェクター細胞なしの同じターゲット数と比べて決定された。
図3】選別された全、ナイーブ又はメモリー表現型CD8T細胞と共に、又はこれら無しでドナーC57BL/6のTCD BM細胞を移植された、BALB/cレシピエントの生存率と体重変化を示す図である。 AとC;致死的な放射線を浴び、1.0×10ナイーブCD8T細胞、1.0×10メモリーCD8T細胞、0.5×10ナイーブCD8T細胞、0.5×10メモリーCD8T細胞、又は0.5×10全CD8ドナーT細胞(N=8−11)と共に、又はこれら無しでドナーから2×10のTCD BM細胞を与えられたBALB/cホストの生存率が示されている。データは、独立した2回の実験より貯えられた。 BとD;AとCに示されている、選別されたナイーブCD8T細胞、メモリーCD8T細胞、又は全CD8T細胞と共に、又はこれら無しでTCD BMを与えられた、ホストマウスの開始時体重のパーセンテージ。括弧内は平均の標準誤差を示す。
図4】500のBCLリンパ腫細胞を与えられた後、選別されたナイーブCD8T細胞、メモリーCD8T細胞、又は全CD8T細胞と共に、又はこれら無しでC57BL/6ドナーのTCD BMを移植されたBALB/cホストの生存率、体重変化及び器官の病理学スコアを示す図である。 ホストは放射線照射6時間後に500のBCLリンパ腫細胞を与えられた。 A;0.5×10の選別されたナイーブCD8T(N=14)、メモリーCD8T細胞(N=12)、又は全CD8T細胞(N=10)と共に、又はこれら無しで(N=10)、2×10のC57BL/6ドナー由来TCD BM細胞を与えられた、照射されたホストの生存率。データは、独立した2から4回の実験より貯えられた。 B;Aにある通り選別されたナイーブCD8T細胞、メモリーCD8T細胞、又は全CD8T細胞と共に、又はこれら無しでC57BL/6ドナーのTCD BMを与えられたホストマウスの、開始時体重のパーセンテージ。括弧内は平均の標準誤差を示す。 C;ナイーブ、メモリー表現型又は全CD8T細胞及びTDC BMのみが引き起こした病理組織学的な変化。代表的な組織片はAのホストから得られた。ホストの肝臓及び大腸由来の病理組織学的な試料は移植100日後に得られ、パラフィンブロックに包埋される前にホルマリンで固定された。4−5mm厚の組織片はヘマトキシリンとエオシンで染色された。全ての画像について、顕微鏡画像はSPOT RTデジタルカメラ及びacquisition software (Diagnostic Instruments, Sterling Heights, MI)を備えたEclipse E1000M microscope (Nikon, Melville, NY)を用いて最終倍率300倍で得られた。全体の画像に対して、画像処理はPhotoshop CS (Adobe, San Jose, CA)で、明るさ、コントラスト及びカラーバランスの標準調節が行われた。TCD BMグループ21日目の病理組織診断(上の写真)。稀なアポトーシスを除いて(矢印、左の写真)、結腸にGVHDの証拠は無かったが、肝臓のリンパ腫(矢頭、右の写真)は明らかであった。ナイーブグループにおいて(2段目写真)、結腸にGVHDの証拠は無かった。肝臓の門脈管には顕著なリンパ球浸潤が見られグレード2のGVHDと一致した(アスタリスク、右の写真)。メモリーグループ(3段目写真)において、結腸にも肝臓にもGVHD又はリンパ腫の証拠は無かった。TCD BMと全CD8T細胞のグループにおいて、結腸の陰窩(矢印)にアポトーシスの増加と粘膜固有層の炎症(塗りつぶされていない矢頭、左の写真、4段目)が見られた。同じように、肝臓に門脈の炎症と胆管の損傷(アスタリスク)が見られ、GVHDと一致した。組織片はH&Eで染色された。それぞれの写真は試験された5−10のホストの代表的なものである。 D;4つのグループ(グループあたりN=6)由来の肝臓、小腸、及び結腸病理組織学的GVHDスコアの平均(±標準誤差)。NS=有意差なし(p>0.05)。
図5】選別されたナイーブ又はメモリーCD8T細胞と共に、又はこれら無でTCD BM移植された後の生存率、キメリズム及びBCL腫瘍細胞の除去を示す図である。 A;全身照射(TBI、800cGy)、BCL細胞、及び50万のナイーブ又はメモリー表現型CD8T細胞とともに、又はこれら無しの2×10TCD BM細胞の移植後28日のレシピエントの末梢血液中のCD19対BCL-イディオタイプマーカーの代表的な二色フローサイトメトリー分析。未処理のコントロールレシピエントはBCLのみ与えられた。箱にBCL-イディオタイプ陽性CD19細胞を封入し、箱中の細胞のパーセンテージが示されている。 B;ゲートされたTCRβ細胞中のドナー(H−2Kb+)細胞のパーセンテージを示す代表的な28日後の末梢血液の二色フローサイトメトリー分析。 CとD;0.5×10、0.1×10、0.05×10の選別されたナイーブ細胞(N=15;N=9;N=8)と共に、又はそれ無しで(N=8)C57BL/6ドナーから2×106のTCD BM細胞を与えられた、致死的な放射線を浴びたBALB/cホストの生存率。(C)メモリー表現型(D)CD8T細胞(N=12;N=9;N=8)データは独立した2回の実験より貯えられた。
図6】形質転換していないTCD BMの移植後の、ルシフェラーゼ形質転換ナイーブ又はメモリーCD8T細胞の輸送及び増殖の比較を示す図である。 BALB/cホストは致死的な放射線照射をされ、500のBCLリンパ腫細胞を与えられ、B6−L2G85(H−2)lucマウス由来のメモリー表現型CD8T細胞と共に2×10のC57BL/6(H−2)野生型TCD BM細胞を注入された。 A;移植後連続的な時点でのBLIイメージ。 B;継時的なBLIの光子放出定量分析。TCD BMグループのレシピエントは28日目までに死亡した。 C;移植後3日目以降及び5日目以降の、in vivoでのマウスのイメージング及びex vivoでの腸管(中間部位)、肝臓(左上部位)、脾臓(右下部位)及び肺(右上部位)のイメージング。 D;致死的な放射線を浴びたBALB/cレシピエントマウスは、CFSE標識された0.5×10の類遺伝子性C57BL/6(H−2、Thy1.1)の選別されたナイーブ又はメモリー表現型CD8T細胞のいずれかと共に、2×10のC57BL/6(H−2、Thy1.2)TCD BM細胞を注入された。3日目以降、脾臓中のナイーブ及びメモリー表現型細胞のThy1.1からのCFSEの染色強度が分析された。影付きのプロファイルは移植前の染色を示し、オープンになっているプロファイルは染色後を示す。
図7】全T細胞又はメモリーCD8T細胞を注入された、進行性の腫瘍増殖のあるレシピエントの生存率、体重変化、キメリズム及び血液由来のBCL細胞を示す図である。 A;実験スキームとして致死的な放射線を浴びたBALB/cレシピエントマウスは照射6時間後に100のBCL細胞を注入された。翌日(0日目)2×10のC57BL/6のTCD BM細胞が与えられた(N=10)。骨髄移植後16日目にいくつかのマウスは0.5×10の選別されたメモリー表現型CD8T細胞の静脈内注射を受けた(N=8)。 B;注入を受けたレシピエントと受けていないレシピエントの生存率。 C;AとDに示されている、TCD BMを与えられ、注入をされた、又はされなかったホストマウスの開始時体重のパーセンテージ。 D;上のパネルは、2×10のTCD BM髄細胞を移植され、注入を受けた(右のパネル)又は注入を受けなかった(左のパネル)レシピエントの末梢血液中の、移植後28日目のCD19対BCL-イディオタイプマーカーの代表的な二色フローサイトメトリー分析を示す。箱はBCLイディオタイプ陽性CD19細胞を封入している。下のパネルは、28日目における末梢血液のゲートされたTCRβ細胞中のドナー(H−2Kb+)細胞対TCRβ細胞が染色された代表的なフローサイトメトリー分析を示す。 E;注入を受けたマウス、受けなかったマウスにおけるリンパ腫増殖のBLIの代表的な例。全身照射の後、100BCL−ルシフェラーゼ+形質転換リンパ腫細胞がBALB/cホストに注入され、翌日2×10TCD BMが注入された(0日目)。骨髄移植から16日後、実験用マウスは0.5×10メモリー表現型CD8T細胞を与えられた。コントロールは注入を受けなかった。イメージングは骨髄移植後16日目及び30日目に行われた。5匹からなるグループそれぞれからの、2匹の代表的なマウスが示されている。 F;注入を受けた、又は受けなかった骨髄移植レシピエントの血液における、TCRβ及びMac1/Gr1細胞中のドナータイプ細胞のパーセンテージ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の理解を容易にするため、いくつかの用語が以下に定義される。
存在する有効な薬剤と方法が述べられる前に、このような方法、装置及び処方は当然変化する可能性があり、本発明は記載された特定の方法論、製品、装置及び要素に限定されないという事が理解されるべきである。また、本明細書で用いられる用語は特定の態様を説明するために用いられているにすぎず、本発明の範囲を限定するものではないという事も理解されるべきである。発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0013】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で用いられている単数形"a,"(1つ)、"and,"(及び)及び"the"(その)は、文中に明確にそうでないことを述べていない限り、複数の指示対象を含む事に留意しなければならない。例えば、"a drug candidate"(ある薬剤候補)は、一つ又はこのような候補の混合物を指し、"the method"(この方法)は、当業者に知られる同等の工程及び方法を指す、などである。
【0014】
他に定義されていない限り、本明細書で用いられる全ての技術及び科学用語は、本発明の属する分野の当業者に一般に理解される意味と同じ意味を有する。刊行物に記載され、ここで述べる発明に関連して用いられる可能性のある装置、処方及び方法論を記述及び開示する目的のために本明細書で述べられた全ての刊行物は、参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0015】
値の範囲が示されている箇所において、その範囲の間に存在する各々の値は、範囲の上限と下限の間、他に述べられた範囲とその述べられた範囲の間の値もまた、他に明確な記載がない限り下限の10分の1の単位まで、本発明の範囲に含まれる。これらのより小さい範囲での上限と下限が独立してより小さい範囲に含まれることがあり、これらも本発明の範囲に含まれるが、述べられた範囲で特に除かれる限度がある場合がある。述べられた範囲が一方もしくは両方の限界を含む場合、これら含まれる限界のいずれも除いた範囲もまた、本発明に含まれる。
【0016】
後述の説明において、本発明の十分な理解のために多くの特定の詳細が記載される。しかし、本発明が一つ又はそれ以上のこれら特定の詳細なしに実施できることは当業者にとって明らかとなるだろう。他の例では、当業者に良く知られる特徴及び手順については、本発明が不明瞭になるのを避けるために記載していない。
【0017】
通常、本発明ではタンパク質合成、組換え細胞培養とタンパク質単離、組換えDNA技術について当該技術分野における従来の方法が用いられる。このような技術は文献に十分な説明がある。例えば以下を参照のこと。Maniatis, Fritsch & Sambrook, Molecular Cloning: A Laboratory Manual (1982); Sambrook, Russell and Sambrook, Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2001); Harlow, Lane and Harlow, Using Antibodies: A Laboratory Manual: Portable Protocol No. I, Cold Spring Harbor Laboratory (1998); 及び Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory; (1988)。
【0018】
本明細書において"purified"(精製された)又は"to purify"(精製する)という用語は、サンプルから夾雑物を除くことを指す。例えば、潜在的にホストと反応する可能性があるエフェクター(非メモリー)T細胞は、細胞表面の表現型に基づいて除去される。望ましくない細胞を除くことでサンプル中の望ましい細胞のパーセンテージが上昇する。
【0019】
本明細書において"treat, "(治療する)、"treatment,"(治療)、"treating,"(治療)等の用語は、望ましい薬理学的及び/又は生理学的効果を得る事を指す。この効果は、完全に又は部分的に疾患又はその疾患の症状を防ぐという観点から予防的であり得、及び/又は、部分的又は完全に疾患とそれに起因する悪影響を治癒するという観点から治療的であり得る。本明細書において"Treatment,"(治療)という用語は、哺乳類、特にヒトにおける疾患の治療を包含し、以下のものを含んでいる。(a)ある疾患が起こりやすくなっているがまだ起きていると診断されていない対象に、疾患が起きるのを防ぐこと。(b)疾患の抑制、すなわち進行抑止、及び(c)疾患の緩和。例えば病気の退行や、完全に又は部分的に疾患の症状を除くこと。
【0020】
がんが緩和された、終結した、遅れた、又は防がれた場合に、がんは抑制されたという。本明細書において、がんの再発又は転移が減少、減速、遅延した、又は防がれた場合もまた、がんは抑制されたという。同様に、がんが緩和された、終結した、遅れた、又は防がれた場合、がんを患う人がその治療に対して“応答性である”という。本明細書において、がんの再発又は転移が減少、減速、遅延した、又は防がれた場合もまた、がんを患う人がその治療に対して“応答性である”という。
【0021】
メモリーT細胞
当該分野において、表現型的に明確に異なる多くのメモリーT細胞が説明され表現型的に特性づけられてきた。本発明の方法において関心の対象となるのはCD8細胞であり、これはセントラルメモリー細胞とエフェクターメモリー細胞との一方又は両方、通常両方を含む。セントラルメモリーT細胞はL−セレクチン及びCCR7陽性でありIL−2を分泌するがIFNγ又はIL−4を分泌しない。エフェクターメモリーT細胞はL−セレクチン及びCCR7の発現が欠けているが、IFNγとIL−4を含むエフェクターサイトカインを産生することが報告されている。
【0022】
このような細胞はドナーの末梢血単核球から単離することができ、典型的にCD8の発現のために選ばれる。これらの細胞は1又はそれ以上の、マウスのCD44陽性として任意に選ばれるCD56陰性、CD57陰性などであり、ヒトのCD45マーカー発現によりさらに細分化され得る。例えばCD45ROCD45RAである。例として以下を参照のこと。Cui et al. (2010) Immunol Rev. 236:151-66; Lefrancois et al. (2010) Immunol Rev. 235(1):206-18; Zanetti et al. (2010) Adv Exp Med Biol. 684:108-25; Suzuki et al. (2008) Hum Immunol. 69(11):751-4; Tough (2003) Trends Immunol. 24(8):404-7。これらは参照することにより明確に組み込まれる。
【0023】
メモリーT細胞はヒト末梢血液、骨髄、リンパ節、臍帯、in vitroの細胞培養など、適した源から得られる。このようなサンプルは、分析に先立って遠心分離、水簸、密度勾配遠心分離法、アフェレーシス(成分除去)、親和性選択、パニング法、FACS、Hypaque(ハイパック)を加えた遠心分離などで分離することができ、通常単核の画分(PBMC)が用いられる。サンプルが得られると、そのサンプルは直接使用するか、凍結又は短期間適切な培養液中で保持することもできる。細胞を保持するのに種々の培養液を用いることが出来る。サンプルは任意の都合の良い手順で得ることが出来る。例えば採血、アフェレーシス(成分除去)、静脈穿刺、バイオプシーなどである。細胞サンプルを分散又は懸濁するのに適切な溶液が用いられる。このような溶液は一般的には平衡塩類溶液、例えば生理食塩水、PBS、ハンクス平衡塩類溶液などである。これらは都合に応じて低濃度(通常5−25mM)を許容できる緩衝液とともに、ウシ胎仔血清又はその他の天然起源の要素を補充される。便利な緩衝液にはHEPES、リン酸緩衝液、乳酸緩衝液などがある。
【0024】
望ましいメモリーT細胞ポピュレーションの濃縮のための細胞の染色と選別には従来の方法が用いられる。精密な選別を提供する技術としては、蛍光活性化セルソーター、磁気選別、アフィニティーカラムなどがある。
【0025】
親和剤は前述した細胞表面の分子に対する特定の受容体又はリガンドであり得る。特に関心の対象となるのは抗体の親和剤としての使用である。好都合なことに、分離の際これらの抗体は標識と結合している。特性の細胞型を分離しやすくするための標識には、直接分離が出来る磁性ビーズ、アビジン又は担体に結合したストレプトアビジンで除くことが出来るビオチン、蛍光活性化セルソーターに用いることの出来る蛍光色素、などがある。 使用できる蛍光色素としてはフィコビリンタンパク質があり、例えばフィコエリトリン、アロフィコシアニン、フルオレセイン、テキサスレッドなどである。各マーカーを独立してソートするために、しばしば各抗体は異なる蛍光色素で標識される。
【0026】
抗体は細胞の懸濁液に加えられ、細胞表面の有効な抗原に結合するのに十分な時間インキュベートされる。インキュベーションは通常少なくとも約5分で通常約30分未満である。抗体の不足により分離の効率が制限されないよう、反応液中に十分な抗体濃度があることが望ましい。適切な濃度は滴定により決定される。細胞を分離する培養液は細胞の生存を維持出来るものであればどの培養液でも良い。好ましい培養液は0.1から0.5%のBSAを含むリン酸緩衝食塩水である。多様な培養液が市販されており、細胞の性質に従って使用することが出来る。このような培養液にはダルベッコ変法イーグル培地(dMEM)、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)、ダルベッコリン酸緩衝食塩水(dPBS)、RPMI、イスコフ培地、5mM EDTA-PBSなどがあり、しばしばウシ胎仔血清、BSA、HSAなどが補充される。
【0027】
前述の通り、細胞は表面のマーカーの発現のために選別される。通常、患者に提供される細胞は少なくとも約50%の選別された表現型であり、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも95%又はそれより多くの望ましい表現型である。
【0028】
細胞は、レシピエントの造血系からドナーの細胞遺伝子型への実質的に完全なキメリズムに有効な量投与される。更に、腫瘍細胞が存在する場合、用量はこれら腫瘍細胞を抑制する又は殺すのに十分であり得る。例として、ヒトの成人への細胞用量は少なくとも約10の細胞、少なくとも約10の細胞、少なくとも約10の細胞、又はそれ以上である。小児科の患者には、用量は適切に減らされる。例えば、少なくとも5×10、少なくとも10、少なくとも10、又はそれ以上である。
【0029】
細胞は同種造血細胞移植(HCT)の後適切な時期、例えば、腫瘍の再発を防ぐために約2か月から約6か月、又は腫瘍の再発時に再発を治療するために患者に投与される。このような移植はがん又はその他の造血系の再構成が必要な状態の治療に利用することが出来る。例えば、貧血、地中海貧血症、自己免疫状態の治療などである。
【0030】
本発明の一つの態様において、移植片対宿主病(GVHD)の主な合併症を引き起こすことなく腫瘍細胞を殺すことができる、精製されたドナーのリンパ球サブセットを加える同種造血細胞移植の後に、がん(白血病、リンパ腫が含まれるがこれらに限定されない)の治療を増強するための組成と方法が開示される。
【0031】
関連する態様において、同種造血細胞移植(HCT)の後、混合造血細胞キメリズムから完全ドナー細胞キメリズムへの変換を増強する方法と組成が開示される。このような移植はがん又はその他の造血系の再構成が必要な状態の治療に利用できる。例えば、貧血、地中海貧血症、自己免疫状態の治療などである。混合キメリズムは、同種HCTの後、完全ドナーキメリズムを果たした患者と比べてずっと高いがんの進行又は再発の割合と関連がある。ドナーリンパ球輸注(DLI)は慣習的に移植後の時点で行われるが、DLIは通常末梢血単核球でできており、末梢血単核球は血液中のすべてのT細胞サブセットを含んでいるので、重篤なGVHDを引き起こす主要な危険因子となる。
【0032】
いくつかの態様において、本発明はがんを治療する方法を提供する。当該方法は、化学療法剤又は放射線剤による患者の治療、続くレシピエントの造血系の切断、幹細胞を含む同種造血細胞移植の実施、そして移植の後、上述したドナー由来のメモリーCD8T細胞ポピュレーションの患者への注入、を含む。本発明の方法で治療されるがんの例として、リンパ腫、白血病、そして結腸直腸がん、肺がん、乳がん、膵臓がん、肝臓がん、前立腺がん、卵巣がんなどの固形腫瘍があるがこれらに限定されるものではない。腫瘍細胞は原発又は転移腫瘍である。
【0033】
マウスでの研究で、T細胞除去骨髄移植片がB細胞リンパ腫とともに、全身照射の前処理をされたレシピエントに与えられた。レシピエントは混合キメラとなり、腫瘍は進行的に増殖した。レシピエントは2−3週間後に、フローサイトメトリーにより精製された全T細胞又はメモリーCD8T細胞(CD8+CD44hi)のいずれかからなるDLIを与えられた。全T細胞DLIは致死的なGVHDを引き起こしたが、メモリーCD8DLIはGVHDを起こさずに腫瘍を根絶した。CD8T細胞はまた、完全なドナーキメリズムを促進した。マウスのメモリーCD8T細胞は増殖とIFN−γ分泌、少量のIL−2分泌により試験管内でアロ抗原に応答した。同様に、ヒトメモリーCD8T細胞(CD8CD45RO)は増殖とIFN−γ分泌、少量のIL−2分泌により試験管内でアロ抗原に応答した。
【0034】
刺激されていないドナーから単離されたばかりの、組み合わされたCD8セントラル及びエフェクターメモリー(CD8CD44hi)T細胞、又はドナーのCD8T細胞をホストの樹状細胞と共に培養した後に発生させたエフェクターメモリーCD8T細胞は、以前のMHCマッチしたマウスの研究においてGVHDを引き起こさなかった。
【0035】
骨髄移植は悪性疾患の治療において確立されている。血液悪性腫瘍に対して、またいくつかの固形腫瘍に対しても、造血幹細胞を支えながら高用量の化学療法が広く用いられている。最近の血液前駆細胞収集の進歩、特に、顆粒球結腸刺激因子で動員され白血球除去により集められた多くの血液幹細胞が使える事を考慮すると、HLAがマッチしない患者の組織適合性バリアを乗り越える事が可能である。他の最近の進歩として血液前駆細胞動員と前駆細胞及び免疫細胞の生体外拡張の新しい方法、臍帯血を幹細胞の代替源として使うこと、その他の分子技術があり、造血細胞、免疫細胞の同種移植を通したがんの効果的な治療を支えている。
【0036】
臨床効果
本発明の方法によるがんの治療中及びその後の腫瘍増殖と疾患の進行が監視された。臨床効果はこの分野に既知の任意の方法で測定出来る。いくつかの態様において、対象となる治療方法の臨床効果は臨床的有効率(CBR)で決定される。
【0037】
臨床的有効率は、完全寛解(CR)の患者、部分寛解(PR)の患者数、治療後少なくとも6月の時点で安定状態(SD)の患者数、のパーセンテージの合計で求められる。この式を簡略的に表すとCBR=CR+PR+SD月である。いくつかの態様において、対象となる治療法のCBRは少なくとも約50%である。他のいくつかの態様において、対象となる治療法のCBRは少なくとも約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、又はそれ以上である。
【0038】
本発明において、前臨床のデータは、同種造血細胞移植に続くドナー由来のメモリーCD8T細胞を注入する治療による腫瘍死滅の増加と移植片対宿主病の減少を示す。
【0039】
同種HCTの重要な限界は移植片対宿主病(GVHD)の発生である。GVHDはこの治療を受けたヒトの約30−50%に重症型で起きる。GVHDは本発明の方法を用いてメモリーT細胞の注入を行うことで実質的に減少する。
【0040】
本明細書において、"subject"(対象)という用語はヒトの他、他のほ乳類も含む。本明細書において"treating"(治療)という用語は治療上及び/又は予防的な利点を得る事を含む。治療上の利点とはがんの根絶と寛解を意味する。また、動物対象においてその動物が未だがんを患っているにもかかわらず好転が見られたように、治療上の利点は一つ又はそれ以上の、がんに伴う生理学的な症状の根絶と寛解でも得られる。
【0041】
本発明の方法で治療できるがんとしては以下のものが含まれるがこれらに限定されない。白血病、リンパ腫、副腎皮質がん、肛門がん、再生不良性貧血、胆管がん、膀胱がん、骨がん、骨転移、脳腫瘍、中枢神経系(CNS)がん、末梢神経系(PNS)がん、乳がん、子宮頸がん、小児非ホジキンリンパ腫、結腸及び直腸がん、子宮内膜がん、食道がん、ユーイング肉腫ファミリー腫瘍(例えばユーイング肉腫)、眼がん、胆嚢がん、消化管カルチノイド腫瘍、消化管間質腫瘍、妊娠性絨毛性疾患、有毛細胞白血病、ホジキンリンパ腫、カポジ肉腫、腎臓がん、喉頭及び咽頭がん、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、小児白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、肝臓がん、肺がん、肺カルチノイド腫瘍、男性乳がん、悪性中皮腫、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群、骨髄増殖性疾患、鼻腔及び鼻傍がん、上咽頭がん、神経芽細胞腫、口腔及び口腔咽頭がん、骨肉腫、卵巣がん、膵臓がん、陰茎がん、脳下垂体腫瘍、前立腺がん、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、唾液腺がん、肉腫、黒色腫皮膚がん、非黒色腫皮膚がん、胃がん、精巣がん、胸腺がん、甲状腺がん、子宮がん(例えば子宮肉腫)、移行上皮がん、膣がん、外陰がん、中皮腫、扁平細胞及び類表皮がん、気管支腺腫、絨毛がん、頭部及び頸部がん、奇形腫、ワルデンストローム・マクログロブリン血症。
【0042】
いくつかの態様において、本発明の方法は更に、抗腫瘍薬又はその薬剤的に許容できる塩若しくはプロドラッグをそれが必要な対象に投与することを含む。いくつかの態様において、抗腫瘍薬は抗腫瘍アルキル化剤、抗腫瘍代謝拮抗剤、抗腫瘍抗生物質、植物由来抗腫瘍剤、抗腫瘍有機白金化合物、抗腫瘍カンプトテシン誘導体、抗腫瘍チロシンキナーゼ阻害剤、モノクローナル抗体、インターフェロン、生物学的応答調節物質、及び抗腫瘍活性を持つ他の薬剤とそれらの薬剤的に許容できる塩が含まれるがこれらに限定されない。
【0043】
(実施例1)
CD8CD44hiメモリーT細胞はGVHDなく有力な移植抗リンパ腫活性を媒介するがCD4CD44hiメモリーT細胞は媒介しない。
【0044】
刺激されていないドナーから単離されたばかりの、ナイーブ、CD4、CD8,又は全T細胞、及び/又はメモリーCD4CD44hi、CD8CD44hi及び全T CD44hi細胞について、GVHDを引き起こす能力、完全キメリズム促進能力、MHCミスマッチのモデルにおける自然発生のB細胞リンパ腫(BCL)に対する抗腫瘍活性を媒介する能力が比較された。セントラル及びエフェクターメモリー細胞の両方を有するCD8CD44hiメモリーT細胞サブセットだけが、GVHDを引き起こすことなくリンパ腫細胞を根絶する能力を有していた。対照的に、CD4及びCD8ナイーブT細胞、メモリーCD44hiCD4T細胞、ナイーブ全T細胞及びメモリー全T CD44hi細胞はいずれも、致死的なGVHDを引き起こすか、有力な抗腫瘍活性を持たなかった。腫瘍を有するCD8CD44hiT細胞のレシピエントは、CD8ナイーブT細胞を与えられたレシピエントに対して有意な生存優位性を示した。これはCD8ナイーブT細胞を与えられたレシピエントが後者の細胞により致死的なGVHDが引き起こされたことによる。CD8CD44hiT細胞は骨髄移植後の進行性リンパ腫増殖の治療モデルにも用いられ、完全キメリズムを促進しGVHDなしに腫瘍を根絶することができた。
【0045】
材料と方法
動物
8から12週齢の野生型Thy1.2 C57BL/6 (H−2)雄マウスと8から12週齢のBALB/c(H−2)Thy1.2雄マウスはスタンフォード大学Department of Comparative Medicineのbreeding facility又はジャクソン研究室(Bar Harbor, ME, USA)から購入された。ルシフェラーゼ発現(luc)形質転換B6−L2G85(H−2、Thy1.1)マウスは以前報告がある通り用いられた。全てのマウスは特定の病原菌無しの施設に収容された。試験用の全ての動物の世話は原則通りで国立衛生研究所のガイドラインに従った。
【0046】
抗体とフローサイトメトリー分析(FACS)
結合されていない抗CD16/32(2.4G2)、抗CD8PE(53−6.7)、抗TCRβ APC (H57−597)、抗CD62L FITC (Mel−14)、抗CD44 PE (IM7)、抗LPAM−1 PE (αβインテグリン複合体) (DATK32)、抗H−2K FITC (AF6−88.5)、抗CD19 APC (1D3)、抗B220 パシフィックブルー(RA36B2) モノクローナル抗体 (mAbs)はBD Pharmingen(San Diego, CA)から購入された。抗CD8 Alexa 700 (53−6.7) 及び 抗Thy1.1 パシフィックブルー (OX−7)はBiolegend (San Diego, CA)から得られた。抗CCR9 PE (242503) 及び 抗CXCR3 PE (220803) はR&D systems(Minneapolis, MN)から購入された。抗イディオタイプBCL抗体はハイブリドーマ分泌ラットIgG2aから精製された。抗体はFACS染色のためAlexa- Fluor-488に結合された。染色とフローサイトメトリー分析については以前に詳細な記述がある。
【0047】
細胞の準備
脾臓の単細胞懸濁液のCD4、CD8又はTCRβ+全T細胞は、抗CD4及び抗CD8磁気マイクロビーズで、MidiMACS(登録商標)システム(Miltenyi Biotech, Auburn, CA)により濃縮された。細胞は抗CD8 PE、抗CD4、抗CD62L FITC及び抗CD44 APCで染色された後、Ariaフローサイトメーター(Becton-Dickinson, Mountain View, CA)によりCD62LhiCD44loナイーブ又は全 CD44hi(メモリー)ポピュレーションに選別された。選別されたナイーブ及びメモリー細胞を再分析して評価したところ純度≧98%であった。T細胞除去骨髄 (TCD BM) 細胞の準備は以前に報告がある。移植されたマウスの末梢血液中のBCL1腫瘍細胞とドナーキメリズムを監視するため、赤血球は溶解され濃縮された白血球がFACS染色に用いられた。
【0048】
混合白血球反応、サイトカインアッセイ、細胞毒性試験
既に記述したように、混合白血球反応(MLR)において、C57BL/6ドナーマウスから選別されたナイーブ又はメモリーCD8T細胞サブセットは応答細胞として用いられ、刺激細胞である照射(3000cGy)された同種BALB/c脾細胞と混合された。Hチミジンの取り込みは5日後に測定され、上清におけるサイトカインの分泌は60時間後に微粒子ビーズを用いたマルチプレックスアッセイシステムにより分析された。選別されたナイーブ又はメモリー表現型CD8T細胞は、1:2の割合で、放射線照射された(3000rads)BALB/c脾細胞により96時間刺激された。培養された細胞はエフェクター細胞として用いられ、ルシフェラーゼ発現BCLluc/gfpリンパ腫ターゲット細胞と混合された。細胞溶解は前述の通り生物発光画像法により評価された。
【0049】
GVHDモデル、GVHD重症度の病理組織学的スコアリング、BCL腫瘍モデル
前述の通り急性GVHDが引き起こされた。手短に述べると、BALB/cホストは200KvのX線源から800cGyの全身照射を受け、24時間以内に尾の静脈からドナー細胞を注入された。Kaplanらにより表された病理組織学的スコアリングシステムを用いて、肝臓、小腸、及び結腸の組織学的評価が盲検的に行われた。BCLはIgMγ表面Ig表現型を持つBALB/cマウス由来の自然発生したB細胞白血病/リンパ腫である。前述の通り、この細胞株はBALB/cにおける連続継代により維持された。BCL腫瘍細胞とluc−gfp遺伝子コンストラクトの使用に関しては以前に報告がある。
【0050】
生体内と生体外の生物発光画像法
生体内の生物発光画像法はEdingerらに従って行われた。簡潔に述べると、マウスは腹腔内にルシフェリン(10μg/g体重)を注入された。10分後、マウスはIVIS100電荷結合素子イメージングシステム(Xenogen, Alameda, CA)で5分間イメージングされた。画像データは分析されLiving Image Software (Xenogen)で定量化された。生体外の生物発光画像法はBeilhackらにより表された方法に従って行われた。
【0051】
生体内のFSE増殖試験
細胞の増殖分析のために、Thy1.1 C57BL/6ドナー由来の選別されたナイーブ又はメモリーCD8T細胞は、前述の通りVybrant CDDA SE (カルボキシフルオレセインジアセテート, スクシニミジルエステル)トレーサーキット(Invitrogen, Carlsbad, CA)にロードされた。Thy1.1 CFSE標識されたナイーブ及びメモリー細胞(0.5×10)と2×10TCD BM細胞(C57BL/6, Thy1.2)は致死的な放射線を浴びたBALB/cマウスに注入された。BMT後3日目に、注入された脾臓由来のThy1.1細胞のCFSE染色はFACSで分析され、Flowjoソフトウェアを用いて細胞分裂の数が比較された。
【0052】
統計分析
Prism (GraphPad Software, San Diego, CA)を用いてKaplan-Meierの生存率曲線が作られた。動物の生存率の統計的な違いはログランク検定により解析された。Hチミジン取り込み平均の違いと反復した試験管内アッセイのサイトカイン産生は両側student t 検定を用いて解析された。GVHDスコアの比較にマン・ホイットニーU検定が用いられた。全ての検定において、p£0.05が有意と判断された。
【0053】
結果
ドナーTサブセットのGVHDと抗リンパ腫活性
我々は、単離されたばかりのドナーT細胞で、重症のGVHDを引き起こすことなく移植抗リンパ腫活性を持つものを探した。最初に、致死的な放射線を浴びBALB/c(H−2)ホストは、一定数(0.5×10)の全T細胞(ナイーブとメモリー未分離)又はCD4+T細胞(ナイーブとメモリー未分離)とともに、2×10のC57BL/6(H−2)ドナーTCD BM細胞を移植された。TCD BMのみを移植されたホストは100日を超えて生存しそれらの体重は移植前のレベルに戻った(図1A)。TCD BMに加えられたCD8と全T細胞は移植後1週間以内に急性GVHDを誘発し、下痢、進行性の体重減少、移植後3週間までの全てのレシピエントの死を引き起こした(図1)。TCD BMのみを移植されたレシピエントと比較して体重と生存率は有意に減少した(それぞれ、p≦0.0001、p<0.001)(図1A及びB)。
【0054】
我々の研究を含む以前のいくつかの研究において、CD44hiメモリーCD4T細胞は致死的なGVHDを引き起こさないことが示されている。我々はC57BL/6CD44hiメモリーCD4T細胞、TCD BM及びBCL1リンパ腫細胞を与えられたBALB/c移植レシピエントの生存率と血液中の腫瘍細胞の出現を測定した。他のグループはメモリーCD4T細胞でなく、同用量のナイーブCD4T細胞、ナイーブ全T細胞、メモリー全T細胞を与えられた(図1C−F)。TCD BMのみを与えられたすべての動物は死亡し、28日後までに血液中にリンパ腫細胞が発生した(図1D)。GVHDの兆候はなかった。TCD BMと共にナイーブCD4T細胞又はナイーブ全T細胞を与えられた動物は致死的なGVHDと重症の下痢及び移植後10日以内の体重減少に屈した(図1C及びE)。メモリーCD4T細胞とTCD BMのレシピエントにGVHDの兆候はなかったが、リンパ腫の増殖を制御することはできず全てが末梢血液中のBCL1イディオタイプ陽性細胞の移植後30日以内に死亡した(図1D)。興味深いことに、メモリー全細胞を与えられたホストの40%が死亡時血液中にリンパ腫細胞を有していた(図1F)。残り60%のホストは血液中にリンパ腫を発生させておらず、GVHDの臨床的な兆候なく100日を超えて生存した(図1E)。
【0055】
未免疫のドナー由来のCD8ナイーブ及びメモリーT細胞はアロ反応性
続いて我々は、分離されたナイーブ及びメモリーCD8T細胞の試験管内でのアロ反応性とGVHD及びGVTに対する反応性を調べた。最初に、我々はゲートされた、未処置のC57BL/6マウス由来のナイーブCD8T細胞及びメモリーCD44hiCD8T細胞についてCCR9、αβ、CXCR3及びCD122の発現を分析した。ナイーブCD8T細胞はCCR9に対して強い染色を示し、αβに対して鈍い染色を示した一方で、メモリーCD8T細胞はネガティブ染色を示した(図2A)。メモリー表現型細胞はナイーブ細胞より高いレベルのCXCR3とCD122を示し(図2A)、前述の通りこれらがメモリーマーカーであることが確認された。
【0056】
細胞サブセットのアロ反応性を評価するため、選別されたナイーブ又はメモリーC57BL/6 CD8T細胞は、同種刺激細胞としての放射線照射されたBALB/c脾臓細胞と共にインキュベートされた。一定数の選別された応答細胞(1×10)が一定数の刺激細胞(4×10)と共にインキュベートされた。増殖は培養5日後に測定され、上清中のIL−2及びIFN−γサイトカイン分泌は培養60時間後に測定された。この培養システムを用いた我々の以前の研究では、ナイーブCD4T細胞はアロ反応性であるが、メモリーCD4T細胞はアロ反応性でないと判断されている。メモリーCD4+T細胞の増殖及びサイトカイン分泌はバックグラウンドと同程度であったためである。ナイーブCD8T細胞はメモリーCD8T細胞の7倍のHチミジンを取り込んだ(p=0.0004)(図2B)。両方のサブセットは、同系刺激細胞と比較して、有意に同種刺激細胞を持つHチミジンを多く取り込んだ。図2Cは、選別されたCD8T細胞が分泌したIL−2の平均濃度は同種刺激細胞と培養された後150−200pg/mlであったこと、同種と同系の培養は有意に異なることを示している(p<0.01)。対照的に、選別されたメモリーCD8T細胞により分泌されたIL−2の平均濃度は同種及び同系培養のどちらにおいても、50pg/mlよりも低かった(p=0.02、アロのためのメモリー対ナイーブ)(図2C)。図2Cは、選別されたメモリー細胞CD8T細胞との同種培養組織はIFN−γ(平均約1000pg/ml)を分泌し、これはナイーブCD8T細胞との同種培養組織と比較して(p=0.04)又は同系培養と比較して(p<0.005)有意に増加したことを示している。全ての培養液上清のIL−4、IL−10、及びTNFαも分析されたが、マルチプレックスサイトカインアッセイで検出されなかった。
【0057】
細胞が媒介するメモリー及びナイーブ表現型CD8T細胞の細胞毒性を調べるため、我々はルシフェラーゼ遺伝子コンストラクトで形質導入されたBCLリンパ腫ターゲット細胞を用いた。ナイーブ及びメモリーCD8Tは、放射線照射されたBALB/c刺激細胞との同種培養で96時間活性化された。これらの活性化された細胞は、エフェクター細胞として、BCLターゲット細胞に対して異なる割合で用いられた。ルシフェラーゼの酵素活性をBCL細胞の生存の物差しとして用いた。BCL細胞の細胞溶解のパーセンテージは、試験された全ての割合の細胞においてナイーブ及びメモリーCD8T細胞に類似していた(図2D)。よって両方のサブセットは類似の腫瘍細胞死滅能力を示した。
【0058】
メモリーT細胞ではないCD8ナイーブT細胞による致死的なGVHDの引き起こし
更なる実験において、放射線照射されたBALB/cホストは1.0×10又は0.5×10のナイーブ又はメモリーC57BL/6ドナーCD8T細胞及び/又は12×10のTCD BM細胞を与えられた。図3A及び3Cは、TCD BM細胞のみを与えられた、全ての放射線照射されたレシピエントは、100日生存したことを示す。照射後一週間に一時的な体重減少はあったものの、三週間目にベースラインに戻りその後安定した(図3B)。これらのマウスは、下痢、背中の湾曲、ひだ状の毛、脱毛、顔の肥大など、GVHDの典型的な臨床的特徴を示さなかった。対照的に、1×10のナイーブCD8T細胞を与えられたホストの約50%に40日目前後で下痢が発生し、移植後60−100日の死亡まで進行的な体重減少が見られた(図3A及び3B)。対照的に、メモリーCD8T細胞グループの全てのレシピエントは生存した(図3A)。ナイーブCD8T細胞とメモリーCD8T細胞の間で、生存率(p<0.05)及び体重減少(p<0.01)に有意な違いが見られた。ホストが0.5×10よりも低い用量のナイーブCD8T細胞を与えられた場合、約40%はGVHDの臨床的特徴に屈した(図3C)。0.5×10の全CD8T細胞を与えられたレシピエントの生存率は同じ用量のナイーブCD8T細胞を与えられたレシピエントの生存率と類似していた。全CD8T細胞とナイーブCD8T細胞は、メモリーCD8T細胞と比較して有意に生存率を下げた(p=0.04)(図3C)。検死解剖によりGVHDの病理組織学的な証拠が示された(図なし)。この用量のメモリー表現型CD8T細胞の全てのレシピエントは100日を超えて生存し、TCD BMのグループと類似した体重減少を示した(図3D)。ナイーブグループとメモリーグループの間の違いは有意であった(p<0.05)(図3D)。
【0059】
CD8メモリーT細胞は最小限のGVHDで抗リンパ腫活性を媒介
我々は致死的な放射線を浴びたBALB/cマウスにおけるドナー細胞の抗腫瘍活性を評価した。BALB/cマウスは500のBCLリンパ腫細胞(非形質導入)を与えられた後に、2×10のTCD BMを、0.5×10の全CD8T細胞、選別されたナイーブCD8T細胞、又は選別されたメモリーCD8T細胞有り又は無しで与えられた。TCD BMのみを与えられたマウスの殆どは移植後30日までに死亡した(図4A)。これは血液中のBCL−イディオタイプ陽性腫瘍細胞の存在と関係している(図5A)。TCD BMのみを与えられたホストと比較して、全CD8T細胞(p<0.0001)、ナイーブCD8T細胞(p<0.0001)、又はメモリーCD8T細胞(p<0.0001)のグループにおけるホストの生存率は有意に向上した(図4A)。全CD8T細胞及びナイーブCD8T細胞のグループにおいて、約25%のホストが60日後までに死亡し、このグループの全てのホストは血液中に検出できる腫瘍細胞を有していなかった(図4A及び図5A)。メモリーCD8T細胞を与えられた全てのマウスは血液中に腫瘍細胞なく100日を超えて生存した(図4A及び5A)。全CD8T細胞又はナイーブCD8T細胞を与えられたグループの生存率は、メモリーCD8T細胞を与えられたグループと比較して有意に減少した(それぞれp=0.03、p=0.04)体重減少にも有意に差があった(p=0.03、p=0.004)。BCL腫瘍細胞を与えられた未治療のマウスは全て50日後までに死亡した。
【0060】
図4Cは骨髄移植されたレシピエントの結腸及び肝臓の代表的な組織切片を示している。メモリーCD8T細胞有り又は無しでTCD BMを与えられたレシピエントの結腸が最小のリンパ球浸潤で陰窩及び杯細胞の保存を示しているのに対して、ナイーブCD8T細胞又は全CD8T細胞を与えられたレシピエントは陰窩の脱落と杯細胞の損失、かなりの浸潤が見られた。TCD BMを与えられたレシピエントの肝臓では血管を囲んで腫瘍細胞が見られた。一方ナイーブ又は全CD8T細胞のレシピエントでは門脈周囲のリンパ球浸潤が見られた。メモリーCD8T細胞のレシピエントにはどちらの異常も見られなかった。図4Dは肝臓、結腸、及び小腸におけるGVHD病変の病理組織学的なスコアを示している。メモリーCD8T細胞有り又は無しでTCD BMを与えられたレシピエントの間には有意な差がなかったが(p>0.05)、TCD BMとナイーブCD8T細胞又は全CD8T細胞を与えられたグループはTCD BMのみ与えられたグループに対して有意に高いスコアとなった(p=0.02−0.008)。メモリーグループに対するナイーブグループの肝臓中のGVHDスコアは有意に高かった(p=0.04)
【0061】
我々は28日後におけるレシピエントの3つのグループの末梢血液中のT細胞におけるドナー細胞のキメリズムを評価した(図5B)。TCRβT細胞中でのドナータイプ(H−2Kb+)細胞の代表的な染色に見られる通り、TCD BMを移植された全てのホストは混合キメラであった(図5B)。0.5×10のナイーブ又はメモリーCD8T細胞を与えられた全てのレシピエントはドナータイプの細胞が99%を超えており、100日後まで安定したドナーキメリズムを維持した(データは示されていない)。よって、ナイーブ又はメモリーCD8T細胞を加えることで混合キメリズムが完全キメリズムに変化したと言える。混合キメラにおいては血液中に腫瘍が発生したが、完全キメラでは発生しなかった(図5A)。
【0062】
我々は、TCD BM及びBCL細胞とともにより低い用量のナイーブ又はメモリーCD8T細胞を与えられたホストの生存率を測定した。0.5×10又は0.1×10のナイーブCD8T細胞を与えられたホストの約70%は100日を超えて生存し(図5C)、血液中にBCLリンパ腫はなかった(データは示されていない)。細胞の用量が0.05×10のとき、ホストの約30%が腫瘍細胞なしに100日を超えて生存し、70%が血液中に腫瘍細胞を有して死亡した。0.5×10又は0.1×10のメモリーCD8T細胞を与えられたホストは100%が血液中にリンパ腫の証拠なく100日を超えて生存することができたが、用量が0.05×10に減ると80%がリンパ腫で死亡した(図5D)。0.1×10のメモリーCD8T細胞を与えられたグループの生存率は、図1Eに示される0.5×10の全メモリーT細胞を与えられたグループと比較して有意に向上した(p<0.05)。
【0063】
メモリーT細胞ではないCD8ナイーブT細胞によるGVHDのターゲットの器官への急速な蓄積
ナイーブCD8T細胞とメモリーCD8T細胞間の、GVHDにおける重症度の違いの原因を確かめるために、我々はリンパ組織とGVHDのターゲット器官においてこれらの細胞の蓄積範囲と速度に違いがあるかを調べた。ナイーブ及びメモリーCD8T細胞の輸送と生存は0.5×10のナイーブ又はメモリーCD8T細胞をC57BL/6 −L2G85 lucマウスから、野生型C57BL/6ドナーからの2×10のTCD BMと一緒に、放射線照射され、500のBCL腫瘍を与えられたBALB/cレシピエントに細胞移植することにより評価された。ナイーブCD8T細胞は3日後までに脾臓と頸部リンパ節に帰巣し、5日後までには消化管と皮膚に強いシグナルが観察された(図6A)メモリーCD8T細胞を与えられたマウスの器官においてシグナルはずっと弱かった(図6A)。TCD BMのコントロールはシグナルが見られず、既に示されたように、これらのマウスは28日後までにリンパ腫で死亡した。ナイーブCD8T細胞由来のシグナルは、84日間の観察期間ずっと消化管領域にとどまり続けた。一方メモリーCD8T細胞由来のシグナルはこの期間、より弱かった。BLIによる光子放出の定量化により以下のことが示された。ナイーブCD8T細胞のシグナルは7日後まで急速に増加し、その後減少して70日後までにバックグラウンドに近づいた(図6B)。60日後まで、シグナル強度はメモリーCD8T細胞よりも高くあり続けた(p=0.002)(図5B)。我々はシグナルの器官分布を分析するため、BMT後3日目及び5日目に、準備されたばかりの肝臓、脾臓及び消化管のような臓器で生体外のBLIイメージングを行った。生体外のイメージにより、ナイーブCD8T細胞は3日以降までに、脾臓、腸間膜リンパ節及びパイエル板を含む二次リンパ組織に帰巣し、5日以降までに消化管に浸透するということが分かった(図6C)。メモリーCD8T細胞は類似のパターンを示したが、メモリーCD8T細胞のレシピエントの小腸及び大腸からのシグナルはナイーブCD8T細胞よりもずっと弱く遅いものであった(図6C、5日後)。
【0064】
脾臓におけるCD8ナイーブ対メモリーT細胞の細胞分裂の増強
BLI試験の観察から、我々はナイーブCD8T細胞とメモリーCD8T細胞の、BMT後の増殖の違いを調べることにした。移植後のこれら二つの細胞ポピュレーションの増殖を評価するため、我々は0.5×10のCFSE標識された、C57BL/6−L2G85 luc Thy1.1マウス由来の選別されたナイーブ又はメモリーCD8+T細胞を野生型C57BL/6 Thy1.2 TCD BMと共に、放射線照射されたBALB/cマウスに注入した。我々は、CFSEの染色の強度変化により、BMT後3日以降のホスト脾臓におけるナイーブ及びメモリーCD8T細胞の細胞分裂の速度を分析した(図6D)。代表的な増殖アッセイは、Flowjo softwareを用いた増殖分析での判定により、ナイーブCD8T細胞の約10%とその約5倍のメモリーCD8T細胞が2又はそれより少ない細胞分裂を起こしたことを示した。これらの結果は、アロ抗原刺激後メモリーCD8T細胞はナイーブCD8T細胞に対してHチミジンの取り込みが7倍少なかったというMLRデータと一致する(図2B)。
【0065】
CD8メモリーT細胞はBMT後の進行性リンパ腫に対して有効な治療
我々は16日後に注入されたメモリーCD8T細胞が、0日目にドナーTCD BM細胞の移植とともに注入されたBCL腫瘍細胞を根絶できるかどうかを調べた(図7A)。予備実験でその時期にlucの腫瘍細胞が既に移植レシピエントのリンパ組織に拡がっていたため、注入に16日後が選ばれた(図7E)が、血液中ではまだ検出されなかった。続く実験において、ホストは血液中の非形質導入BCL腫瘍とGVHDの兆候を連続的に監視された。注入されなかった全てのホストは35日後までに血液中に腫瘍を有して死亡した(図7B及びD)。0.5×10のメモリーCD8T細胞を注入された全てのホストは100日を超えて生存し(p<0.001)、腫瘍細胞は血液中に現れなかった(図7B及びD)。注入を受けたグループの生存したマウスは100日後の終わりに最初の体重の少なくとも90%まで体重が増加し、GVHDの臨床的兆候は見られなかった(図7C)。CD8メモリーT細胞でなく、等しい数の全T細胞を含む注入がなされた場合、全てのホストはGVHDの兆候を見せて40日後までに死亡した。CD8メモリーT細胞グループよりも体重は有意に減少した(p=0.004)(図7B及びC)。メモリーCD8T細胞を与えられたグループは全てのホストの99%より多くのドナーT細胞キメリズムを示した。一方注入治療を受けなかったコントロールグループは混合ドナーT細胞キメリズムを示した(図7D)。図7Fは、注入治療を受けたレシピエントの5/5がT細胞系統及び顆粒球/マクロファージ系統において完全キメラであった一方、注入のなかったグループはこれらの系統において全て混合キメラであったことを示している。B細胞の収率は低すぎてB220細胞の正確な測定は出来なかった。全T細胞を注入されたグループは致死的なGVHDを発症し99%より多くのT細胞キメリズムであった。また血液中にBCL腫瘍細胞は現れなかった。
【0066】
BCL−luc細胞を与えられたレシピエントの追加グループにおいて、BLIによりBCLリンパ腫の進行も評価された。図7Eは、メモリーCD8T細胞注入治療有り又は無しでTCD BM移植した後の、ホストにおけるルシフェラーゼ発現BCL細胞のリンパ腫の成長を示している。注入のなかったホストにおいて16日後に、容易に検出することが出来るリンパ腫の蓄積が見られ、30日後に腫瘍は強度を増加し他の組織へ拡がりながら成長した。対照的に、メモリーCD8T細胞を注入されたマウスは30日後において検出できるBLIの兆候はなかった。
【0067】
以前のマウス研究において、メモリーT細胞はナイーブT細胞よりも引き起こすGVHDが重篤でないということが示されている。それに基づいて、我々はドナーの全T細胞、CD4T細胞、及び、生成されたナイーブと致死的GVHDの誘導のためのメモリーサブセットに分離されていないCD8T細胞を比較した。我々はまた、ハプロタイプミスマッチ移植に最も関連がある、同じMHCミスマッチ移植モデル(C57BL/6→BALB/c)において、抗BCLリンパ腫活性を知るためにサブセットをアッセイした。全T細胞、ナイーブ全T細胞、CD4T細胞、及びCD8T細胞はTCD BMのみと比較して有意な致死的GVHDの増加を引き起こした。5分の1の量のメモリーCD8T細胞がメモリー全T細胞よりも高いパーセンテージのレシピエントで完全な腫瘍の寛解を引き起こしたので、メモリー全T細胞は強い抗腫瘍活性を持たないと言える。その結果、メモリーCD8T細胞が本研究の焦点となった。
【0068】
C57BL/6→BALB/c系の組み合わせにおいて、CD4全T細胞及びナイーブT細胞はCD8全T細胞及びCD8ナイーブT細胞よりも大幅に重症のGVHDを引き起こす。0.5×10CD4+全T細胞が30日後までに一様に致死的なGVHDを引き起こした一方、同じ数のCD8全T細胞は75日後までにレシピエントの約40%の死亡を引き起こした。我々はCD4全T細胞及びナイーブT細胞の移植片抗腫瘍活性について調べなかった。GVHDによる死が、血液中の腫瘍細胞の発現とそれに続く腫瘍による死よりも相当に急速であったからである。
【0069】
メモリーCD4T細胞は試験管内においても生体内においてもアロ反応性を持たなかったが、メモリーCD8T細胞は本研究において、増殖及びサイトカイン分泌から判断すると、同種刺激細胞に応答した。しかし、メモリー細胞の増殖とIL−2分泌はナイーブ細胞と比較して有意に減少した(約7倍)。しかしIFN−γ分泌は有意に増加した。両方のサブセットは、最初のアロ抗原の刺激後、同種ターゲット細胞を有効に殺すことを示した。我々の以前の研究においてメモリーCD4T細胞がアロ反応性でなかったのに対して、何故メモリーCD8T細胞がアロ反応性なのかは明らかでない。未処置のマウス由来のメモリーCD44hiCD8T細胞の大多数はセントラルメモリーT細胞であった。一方メモリーCD4CD44hiT細胞の大多数はエフェクターメモリーT細胞であった。
【0070】
CD8CD44hiメモリーT細胞は放射線照射されたホストにおいて致死的GVHDを引き起こさなかった。一方、同じ数の1×10又は0.5×10ナイーブCD8T細胞又は全CD8T細胞は、腫瘍細胞なしのレシピエントの約40から50%に致死的なGVHDを引き起こした。TCD BMとBCL腫瘍細胞を与えられたコントロールレシピエントは、全て進行性の腫瘍増殖により死亡した。後者のレシピエントが0.5×10のナイーブ又は全CD8T細胞を与えられたとき、腫瘍増殖による死亡はなかった。しかしながら、約25%がGVHDにより死亡し、ナイーブ細胞又は全CD8T細胞を与えられたこれらのレシピエントの肝臓、結腸、及び小腸におけるGVHDの病理組織的スコアはTCD BM細胞のみを与えられたレシピエントと比較して有意に増加した。対照的に、メモリーCD8CD44hiT細胞を与えられたレシピエントで100日の観察期間に死亡した個体はなく、GVHDスコアはTCD BMのみを与えられたレシピエントと有意な違いがなかった。ナイーブ細胞を与えられたホストにおける肝臓のGVHDスコアはCD8細胞と比較して有意に高かった。後者の結果はCD8CD44hi細胞がGVHDを起こさないとする以前の報告と一致するが、最近の研究による報告とは異なる。その最近の研究では、精製されたセントラルメモリーCD62LhiCD44hiCD8T細胞を致死的な放射線を浴びたMHCミスマッチの骨髄移植レシピエントに注入したところ、セントラルメモリーCD8T細胞はTCD BMのコントロールよりも有意に高いGVHDを引き起こした。この説明として、セントラル及びエフェクターメモリーCD8T細胞の組み合わせが今回のCD8CD44hi研究で用いられ、エフェクターメモリー細胞の添加がメモリー細胞のGVHD作用を弱めたということが考えられる。これまでエフェクターメモリーT細胞は、アロ抗原への曝露の後でさえ、GVHDを引き起こす程度が小さい、又は引き起こさないと報告されてきており、このサブセットによるGVHDの制御については研究されていなかった。最近の研究で、メモリー表現型を発現するCD8CD122hi細胞に有効な制御活性があることが示されている。
【0071】
ナイーブ及びメモリーCD8T細胞の両方は、メモリー細胞によるGVHDがないにも関わらず、完全キメリズムの達成を促進する能力及び腫瘍を根絶する能力を有した。生物発光画像法とCFSE染色により判断したところでは、リンパ系組織、肝臓、腸におけるナイーブ細胞のより素早い蓄積と拡散が、メモリー細胞と比較してナイーブ細胞のGVHD効力が強いことに関連していた。ナイーブT細胞のIL−2分泌の増加が初期の増殖増大に寄与している可能性があり、CCR9の発現増加とαβインテグリン腸ホーミング受容体がナイーブT細胞の初期の腸への輸送増加に寄与している可能性がある。
【0072】
メモリーCD8T細胞の腫瘍細胞を根絶する能力はアロ反応性に依存しているようである。BALB/cアロ抗原に対して耐性化したC57BL/6CD8T細胞はBCLリンパ腫に対する移植片抗腫瘍活性を失ったからである。メモリーCD8T細胞のアロ反応性は、臓器移植におけるアロ抗原に対する免疫反応を強めることが示されている環境下におけるウイルス抗原との交差反応性により説明できる。加えて、恒常的増殖の後、ナイーブT細胞TCRレパートリーを維持しながら、ナイーブCD8T細胞はメモリー表現型細胞に見せかけることが出来る。
【0073】
本研究は0日目にTCD BM細胞と腫瘍細胞を与えられたレシピエントにおける移植後の注入治療としてCD8CD44hiメモリーT細胞及び分離されていない全T細胞についても調べた。注入は生体発光画像法においてリンパ系組織の腫瘍の拡大が現れた時点である16日目に行われた。分離されていない全T細胞が注入に用いられた場合、全てのレシピエントにおいて急性の致死的GVHDが見られた。対照的に、精製されたCD8メモリーT細胞は100%のレシピエントを生存させ、生存したレシピエントは少なくとも100日間腫瘍なく残った。注入なしにTCD骨髄を与えられたコントロールは全て腫瘍増殖に屈した。結論として、セントラル及びエフェクター両方のメモリーサブセットを含むCD8メモリーT細胞は、TCD BM移植に加えられた場合、GVHDと抗リンパ腫活性を分けることが出来た。
【0074】
政府の権利
本発明は、国立衛生研究所により授与された助成金番号CA49605及び白血病とリンパ腫協会により授与された助成金番号6038−09のもとで、政府の支援を受けてなされた。政府は本発明において一定の権利を有する。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7